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特許7110290船舶の低速推進を制御するための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】船舶の低速推進を制御するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/42 20060101AFI20220725BHJP
   B63B 79/20 20200101ALI20220725BHJP
   B63H 5/08 20060101ALI20220725BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20220725BHJP
   B63H 25/02 20060101ALI20220725BHJP
   B63B 79/10 20200101ALI20220725BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
B63H25/42 A
B63B79/20
B63H5/08
B63H21/21
B63H25/02 A
B63B79/10
G05B11/36 G
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020151307
(22)【出願日】2020-09-09
(62)【分割の表示】P 2019190603の分割
【原出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021006451
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】16/178,261
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519374287
【氏名又は名称】ブランズウィック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マシュー エリック デルジネル
(72)【発明者】
【氏名】アーロン ジェイ.ワード
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィス シー.マルーフ
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09039468(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0032305(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0172858(US,A1)
【文献】米国特許第06234100(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0089660(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0153125(US,A1)
【文献】米国特許第10048690(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/42
B63B 79/20
B63H 5/08
B63H 21/21
B63H 25/02
B63B 79/10
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の推進デバイスを含む船舶推進システムによって動かされる船舶の低速推進を制御するための方法であって、
前記船舶に関する船舶力学の近似値を表す船舶力学モデルを生成することと、
3自由度における所望の船舶運動を示すために動かすことができる水平面に対して可動かつ垂直軸に対して回転可能なジョイスティックの位置を示す信号を受信することと、
前記ジョイスティックの前記位置を、前記水平面に対する前記ジョイスティックの位置に基づく目標サージ速度および目標スウェイ速度、並びに前記ジョイスティックの回転位置に基づく目標ヨー速度の1または複数を含む前記船舶の所望の慣性速度と関連付けることと、
前記所望の慣性速度に基づいて前記複数の推進デバイスの各々に関する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドを決定することと、
前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドに基づいて前記推進システムを自動的に制御することと、
前記船舶の実際の速度を測定することと、
前記所望の慣性速度と前記実際の速度との差を決定し、後続する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドの決定において前記差をフィードバックとして用いることと、前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドの決定において、前記所望の慣性速度に基づいてサージコマンド、スウェイコマンド、およびヨーコマンドの少なくとも1つを求めるために前記船舶力学モデルを用いることと、
を備える方法。
【請求項2】
前記所望の慣性速度は、前記ジョイスティックの位置を、前記ジョイスティックの各々の位置のサージ速度値、スウェイ速度値、およびヨー速度値の少なくとも一つを含む慣性速度値に相関付けするマップに基づいて決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マップは、前記推進システムの応答性を前記ジョイスティックの動きに調整するためにユーザによって調節可能である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ジョイスティックのニュートラル位置は、ゼロである所望の慣性速度に関連付けられ、
前記ジョイスティックの前記位置が前記ニュートラル位置に等しい場合、前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドは、前記船舶を現在のGPS位置および現在の船首方位に維持するように決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記現在のGPS位置は、前記ジョイスティックが前記ニュートラル位置に到達したときにGPSから受信した位置であり、前記現在の船首方位は、前記ジョイスティックが前記ニュートラル位置に到達したときに慣性測定ユニットから受信した船舶の方位であること特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記船舶力学モデルは、少なくとも前記船舶の長さ、幅、および重量に基づく逆プラントモデルである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
船舶長さ、船舶幅、および船舶重量に関する係数を有する汎用低速船舶モデルを提供することを更に備え、
前記船舶力学モデルを生成することは、前記船舶の長さ、幅、および重量に基づいて前記汎用低速船舶モデルをスケーリングすることを含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記目標サージ速度、前記目標スウェイ速度、および前記目標ヨー速度、前記船舶における推進デバイスの数、および前記船舶の回転の中心に対する前記複数の推進デバイスの各々の位置に基づいて、各推進デバイスに関する前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドを決定することを更に備える、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記回転の中心に対する前記複数の推進デバイスの各々の前記位置に基づいて、各推進デバイスに関する2次元単位法線ベクトルを決定することと、
前記目標サージ速度、前記目標スウェイ速度、および前記目標ヨー速度、ならびに前記それぞれの推進デバイスに関する前記単位法線ベクトルに基づいて、前記複数の推進デバイスの各々に関する合計Xスラストコマンドおよび合計Yスラストコマンドを計算することと、を更に備え、
前記操舵位置コマンド、前記エンジンコマンド、およびシフト位置コマンドは、前記それぞれの推進デバイスに関する前記合計Xスラストコマンドおよび前記合計Yスラストコマンドに基づいて、前記複数の推進デバイスの各々に関して決定される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
船舶の低速推進を制御するための船舶推進システムであって、
第1、第2、および第3の垂直軸に対して前記船舶を推進させるために操舵可能な複数の推進デバイスと、
3自由度における前記船舶の所望の船舶運動を示すためにユーザによって動かすことができるジョイスティックであって、水平面に対して可動かつ垂直軸に対して回転可能な前記ジョイスティックと、
前記ジョイスティックの位置を示す信号を受信し、前記位置は前記水平面内の水平面位置と前記垂直軸回りの回転位置を含み、
前記ジョイスティックの前記位置を所望の慣性速度に関連付け、前記所望の慣性速度は前記ジョイスティックの前記水平面位置に基づく目標サージ速度および目標スウェイ速度、並びに前記ジョイスティックの前記回転位置に基づく目標ヨー速度の1または複数を含み、
前記所望の慣性速度に基づいて、前記複数の推進デバイスの各々に関する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドを決定し、
前記それぞれの推進デバイスに関する前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドに基づいて、前記複数の推進デバイスの各々を自動的に制御する
ように構成されたコントローラと
を備えるシステム。
【請求項11】
グローバルポジショニングシステム(GPS)および慣性測定ユニット(IMU)の少なくとも1つを更に備え、
前記コントローラは更に、
前記GPSまたは前記IMUによって前記船舶の実際の速度を測定し、
前記所望の慣性速度と前記実際の速度との差を決定し、後続する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドの決定のために前記差をフィードバックとして用いる
ように構成される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コントローラは更に、前記ジョイスティックの位置を慣性速度値に相関付けするマップを格納する、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記マップでは、各々の水平面位置をサージ速度値、およびスウェイ速度値、の少なくとも1つと相関付け、各々の回転位置をヨー速度値と相関付ける、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記マップは、前記推進システムの応答性を前記ジョイスティックの動きに調整するためにユーザによって調節可能である、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記ジョイスティックのニュートラル位置は、ゼロである所望の慣性速度に関連付けられ、
前記ジョイスティックの前記位置が前記ニュートラル位置に等しい場合、前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドは、前記船舶を現在のGPS位置および現在の船首方位に維持するように決定される、請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
前記現在のGPS位置は、前記ジョイスティックが前記ニュートラル位置に到達したときにGPSから受信した位置であり、前記現在の船首方位は、前記ジョイスティックが前記ニュートラル位置に到達したときに慣性測定ユニットから受信した船舶の方位である請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
コントローラによりアクセス可能なメモリに格納され、前記船舶に関する船舶力学の近似値を表す船舶力学モデルをさらに備え、
前記操舵位置コマンドおよび前記エンジンコマンドの決定において、前記所望の慣性速度に基づいてサージコマンド、スウェイコマンド、およびヨーコマンドの少なくとも1つを求めるために前記船舶力学モデルを用いる、請求項10に記載のシステム。
【請求項18】
前記船舶力学モデルは、少なくとも前記船舶の長さ、幅、および重量に基づく逆プラントモデルである、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記船舶力学モデルは、船舶長さ、船舶幅、および船舶重量に関する係数を有する汎用低速船舶モデルである、請求項17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水域における船舶の運動を制御するための方法およびシステムに関し、より具体的には、たとえばジョイスティックなどの手動操作可能な入力デバイスによって船舶の低速推進を制御するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の米国特許および特許出願は、背景情報を提供するものであり、参照によって全体が本願に組み込まれるものである。
【0003】
米国特許第6,273,771号は、船舶に取り付けられ、シリアル通信バスおよびコントローラとの信号通信状態に接続され得る船舶推進システムを組み込む船舶に関する制御システムを開示する。複数の入力デバイスおよび出力デバイスもまた通信バスとの信号通信状態に接続され、たとえばCAN Kingdomネットワークなどのバスアクセスマネージャは、バスとの信号通信状態にある複数のデバイスへの追加のデバイスの統合を調整するためにコントローラとの信号通信状態に接続され、それによってコントローラは、通信バスにおいて複数のデバイスの各々との信号通信状態に接続される。入力および出力デバイスの各々は、他のデバイスによる受信のためにシリアル通信バスへメッセージを送信することができる。
【0004】
米国特許第7,267,068号は、たとえばジョイスティックなどの手動操作可能な制御デバイスから受信したコマンドに応答して、第1および第2の船舶推進デバイスをそれぞれの操舵軸の周囲で個別に回転させることによって操縦される船舶を開示する。船舶推進デバイスは、船舶の中心線上の点において、また回転運動が命令されていない場合、船舶の重心において交差する自身のスラストベクトルと位置合わせされる。船舶推進デバイスを駆動するために内燃エンジンが提供される。2つの船舶推進デバイスの操舵軸は、略垂直かつ互いに平行である。2つの操舵軸は、船舶の船体の底面を通って伸長する。
【0005】
米国特許第7,305,928号は、船舶のオペレータによって選択された所望の位置および船首方位に従って船舶が自身のグローバル位置および船首方位を維持するように船舶を操縦する船舶位置決めシステムを開示する。ジョイスティックとともに用いられる場合、船舶のオペレータは、システムを位置保持有効モードにすることができ、システムはその後、ジョイスティックにおけるアクティブモードから非アクティブモードへの初期変更時に得られた所望の位置を維持する。このように、オペレータは、選択的に船舶を手動で操縦することができ、ジョイスティックが手離されると、船舶は、オペレータがジョイスティックによる船舶の操縦を停止した瞬間にあった位置を維持する。
【0006】
米国特許出願公開第2017/0253314号は、船舶のグローバル位置および船首方位を決定するグローバルポジショニングシステムおよび船舶付近の物体に対する船舶の相対位置および方角を決定する近接センサを含む、水域内の船舶を選択された位置および配向に維持するためのシステムを開示する。位置保持モードで動作可能なコントローラは、GPSおよび近接センサと信号通信状態にある。コントローラは、船舶が選択された位置および配向から動いたかを決定するために、GPSからのグローバル位置および船首方位データを用いるか近接センサからの相対位置および方角データを用いるかを選択する。コントローラは、船舶を選択された位置および配向に戻すために必要なスラストコマンドを計算し、スラストコマンドを用いて船舶を配置し直す船舶推進システムへスラストコマンドを出力する。
【発明の概要】
【0007】
以下の概要は、発明を実施するための形態において詳しく後述される選抜の概念を紹介するために提供される。この概要は、特許請求の範囲に記載の主題事項の重要特徴または必須特徴を識別することは意図されず、または特許請求の範囲に記載の主題事項の範囲の限定を促すものとして用いられることも意図されない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
複数の推進デバイスを含む船舶推進システムによって動かされる船舶の低速推進を制御するための方法の1つの実施形態は、3自由度における所望の船舶運動を示すために動かすことができる手動操作可能な入力デバイスの位置を示す信号を受信することと、手動操作可能な入力デバイスの位置を船舶の所望の慣性速度と関連付けることとを含む。その後、所望の慣性速度に基づいて、複数の推進デバイスの各々に関して操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドが決定され、それに従って推進システムが制御される。船舶の実際の速度が測定され、所望の慣性速度と実際の速度との差が決定され、この差は、後続する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドの決定においてフィードバックとして用いられる。
【0009】
複数の推進デバイスを有する船舶推進システムによって動かされる船舶の低速推進を制御するための方法のもう1つの実施形態は、船舶に関する船舶力学の近似値を表す船舶力学モデルをコントローラのメモリに格納することと、コントローラによって、3自由度における所望の船舶運動を示すために動かすことができる手動操作可能な入力デバイスの位置を示す信号を受信することと、手動操作可能な入力デバイスの位置に基づいて船舶の所望の慣性速度を決定することとを含む。船舶力学モデルは、所望の慣性速度に基づいてサージコマンド、スウェイコマンド、および/またはヨーコマンドを計算するために用いられる。サージコマンド、スウェイコマンド、および/またはヨーコマンドに基づいて、複数の推進デバイスの各々に関して操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドが決定され、複数の推進デバイスの各々は、それぞれの推進デバイスに関する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドに基づいて自動的に制御される。
【0010】
本発明の他の様々な特徴、目的、および利点は、図面とともに以下の説明によって明らかにされる。
【0011】
本開示は、以下の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】船舶における船舶推進システムの図式表現である。
図2】本開示の船舶とともに用いられる典型例の側面図である。
図3】ジョイスティックの上面図である。
図4】船舶の前進中のスラストベクトルの配置を示す。
図5】船舶を回転の中心に対して回転させるために用いられるスラストベクトルの典型的な配置を示す。
図6】船舶を回転の中心に対して回転させるために用いられるスラストベクトルの典型的な配置を示す。
図7】ジョイスティック入力に基づいて船舶の低速推進を制御するための典型的な方法を示すブロック図である。
図8】本開示に係る船舶の低速推進を制御する方法またはその一部を例示するフローチャートである。
図9】本開示に係る船舶の低速推進を制御する方法またはその一部を例示するフローチャートである。
図10】船舶に関する典型的なサージ、スウェイ、およびヨーコマンド、およびその結果生じる、2つの推進デバイスの各々に関して計算されたスラストベクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
たとえばジョイスティック制御を用いるシステムなど、船舶の低速推進を制御するための現在のユーザ入力制御システムは、たとえばジョイスティックを介したユーザ入力がエンジンコマンドの校正セットを生成する、「フィードフォワード」のみのソフトウェア制御方策を用いる。このエンジンコマンドのセットは、それがインストールされた船舶に固有の船舶応答を生成するために面倒なプロセスを介して展開および構成される。この船舶固有の校正は、船舶の物理的測定、その船舶に関する水上試験およびデータ収集、および試験後分析の組み合わせを通して、専門家によって展開される必要がある。この校正は一般に、ジョイスティック位置に対するマップ相関エンジンおよび操舵コマンドとして実現され、そのようなマップは、たとえば特定の組み合わせの船体設計および寸法、エンジンサイズ、エンジンの数、エンジン配置、およびプロペラ型式など、特定の船舶構成に合わせられたソフトウェア負担の一部として配布される。
【0014】
このカスタマイズされたジョイスティック構成プロセスは、所望の操作特性を有するジョイスティック制御システムをもたらすが、本発明者は、各船舶構成に関する校正プロセスは過度に労働集約的であることを認識している。また本発明者は、船舶構成固有の校正を伴う現在のシステムが、何百もの独自構成を追跡および維持することを必要とし、負担かつ費用が掛かることを認識している。加えて本発明者は、校正プロセスは、専門の技術者によって行われた場合でも、専門家の人間要素および個人的嗜好が校正の作成および微調整に作用し始めるため、船舶隊の構成にわたる最終製品における性能のばらつきをもたらすことを認識している。
【0015】
関連分野における上記問題および難点を認識し、本発明者は、船舶構成固有の校正の必要性を排除し、船団にわたる統一制御スキームの提供を可能にする本開示のシステムを開発した。このシステムおよび方法は、ジョイスティックコマンドを船舶の慣性速度値と相関付けし、そのような慣性速度値は、広く様々な構成を有する船舶のために用いられ得る。1つの実施形態において、制御システムは、モデルベースのシステムである。コマンドモデルは、ジョイスティック位置に基づいて所望の慣性速度を計算し、同じコマンドモデルが複数の異なる船舶構成のために用いられ得る。コマンドモデルは、たとえばジョイスティック位置などのユーザ入力を、たとえば所望のサージ速度、所望のスウェイ速度、および/または所望のヨー速度などの所望の慣性速度値にマッピングする。所望の慣性速度はその後、複数の推進デバイスの各々に関する操舵位置およびエンジンコマンドを決定するために用いられる。
【0016】
1つの実施形態において、特定の船舶に関する船舶力学を概算するために第2のモデルが用いられ、たとえば船舶力学モデルは、たとえば船舶の長さ、幅、および重量などの船舶の特性に基づいて船舶力学を概算するコントローラにおいて生成および格納され得る。船舶力学モデルは、特定の船舶に関する所望の慣性速度を実現するサージコマンド、スウェイコマンド、および/またはヨーコマンドを求めるために用いられる。
【0017】
このモデルベースの制御アーキテクチャを用いることによって、所望の操作特性およびユーザ直観的な船舶応答を提供する高精度の制御システムを保ちながら、水上試験および船舶個体形成の必要性は排除される。開示されるシステムおよび方法の特定の船舶構成へのカスタマイズは、たとえばエンジン位置および船体のいくつかのサイズ特徴など、船舶の物理的特徴のみを必要とする。これらは、船舶の既知の特徴であるので、モデルのカスタマイズはオフラインで行うことができ、最小限の専門的技術および時間しか必要としない。
【0018】
特定の実施形態において、船舶力学モデルは、船舶力学モデルの出力、すなわちサージコマンド、スウェイコマンド、および/またはヨーコマンドが1または複数の慣性および/または航法センサからの制御フィードバックと比較される閉ループシステムに組み込まれてよく、操舵位置およびエンジンコマンドは、船舶力学モデルの出力ならびにセンサからのフィードバックに基づいて計算される。その結果、たとえば加速度計、ジャイロ、磁力計、およびグローバルポジショニングシステム(GPS)などのセンサの組み合わせを用いて計算される船舶並進移動およびヨー速度に対し閉ループ制御が実施される。他の実施形態において、モデルベースの制御は、複数の推進デバイスの各々に関する操舵位置コマンドおよびエンジンコマンドを決定するために船舶力学モデルからの出力が用いられるフィードフォワード制御方策において実現され得る。また、フィードフォワード方策は、フィードバックセンサの1または複数が故障した場合のバックアップ制御方策として用いられることによって、ユーザにとって非常に運転性が高く安全な状態を保つデフォルト制御状態を提供し得る。船舶力学モデルの出力に基づいて生成されたエンジンおよび操舵コマンドは、所望の慣性速度に非常に近い実際の船舶速度をもたらし、フィードバックは、モデルにおける不確定性や風および潮流を補正するためだけに用いられる。
【0019】
図1は、本開示の1つの実施形態に従って構成された推進システム20を備える船舶10を示す。船舶10は、以下で説明するように、様々なモードの中でも特にたとえばジョイスティックモードで動作することが可能である。船舶10は、以下でより詳しく説明するように、船舶10を推進させる第1および第2のスラストT1、T2を生成する第1および第2の推進デバイス12a、12bを有する。図示するように、第1および第2の推進デバイス12a、12bは船外モータであるが、代替として船内モータ、船尾ドライブ、ジェットドライブ、またはポッドドライブであってもよい。各推進デバイスには、トランスミッション16a、16bに動作可能に接続され、その結果プロペラ18a、18bに動作可能に接続されたエンジン14a、14bが設けられる。
【0020】
また船舶10は、船舶推進システム20の一部を備える様々な制御要素も含む。船舶推進システム20は、たとえば米国特許第6,273,771号において説明されたようなCANバスを介して、たとえばコマンド制御モジュール(CCM)などのコントローラ24、およびそれぞれの推進デバイス12a、12bに関連付けられた推進制御モジュール(PCM)26a、26bと信号通信状態にある操作卓22を備える。コントローラ24およびPCM26a、26bの各々は、メモリ25aおよびプログラム可能プロセッサ25bを含んでよい。従来と同様、プロセッサ25bは、コンピュータ可読コードが格納された揮発性または不揮発性メモリを含むコンピュータ可読媒体を備えるメモリ25aに通信可能に接続される。プロセッサ25bは、コンピュータ可読コードにアクセスすることができ、コードを実行すると、以下で説明するような機能を行う。
【0021】
船舶推進システム20の他の例において、CCMおよび個別のPCMを有するのではなく、1つの制御モジュールのみがシステムに提供される。他の例において、各推進デバイスに1つのCCMが提供され、および/または推進デバイスの操舵およびトリムとは別にエンジン速度および機能を制御するために追加の制御モジュールが提供される。たとえばPCM26a、26bは、推進デバイス12a、12bのエンジン14a、14bおよびトランスミッション16a、16bを制御してよく、追加のスラストベクトルモジュール(TVM)がそれらの配向を制御してよい。船舶推進システム20の他の例において、船舶制御要素は、連続的に配線されたCANバスによってではなく、無線通信を介して接続される。留意すべき点として、図1に示す破線は、様々な制御要素が互いに通信可能であることのみを示すことが意図され、制御要素を接続する実際の配線を表すものではなく、あるいは要素間の唯一の通信経路を表すものでもない。
【0022】
操作卓22は、たとえばキーパッド28、ジョイスティック30、操舵輪32、および1または複数のスロットル/シフトレバー34などの複数のユーザ入力デバイスを含む。これらのデバイスの各々は、コントローラ24へコマンドを入力する。するとコントローラ24は、PCM26a、26bと通信することによって第1および第2の推進デバイス12a、12bと通信する。コントローラ24は、慣性測定ユニット(IMU)36からの情報も受け取る。IMU36は、図示した例において、船舶10のグローバル位置に関連する情報を提供する、船舶10の事前選択された固定位置に位置するGPS受信器40も備えるグローバルポジショニングシステム(GPS)38の一部を備えてよい。他の実施形態において、IMU36は、慣性航法システム(INS)の一部も備えてよい。GPS受信器40(またはINS)および/またはIMU36からの信号は、コントローラ24へ提供される。1つの例において、IMU36は、MEMSジャイロスコープ、または磁北に対する船舶の速度および船首方位を計算するために併用されるMEMS角速度センサ、MEMS加速度計、磁力計から成る慣性航法システム(INS)である。他の実施形態において、運動および(ピッチおよびロールを含む)角位置は、異なるINS構成、またはジャイロ式測定値、加速度計データ、および磁力計データを統合することによって船舶10の3D配向を提供する姿勢方位基準システム(AHRS)によって感知され得る。GPS受信器40および/またはIMU(またはINS)36からの信号は、コントローラ24へ提供される。
【0023】
操舵輪32およびスロットル/シフトレバー34は、たとえば操舵輪32の回転が、船舶10の所望の方向に関する信号をコントローラ24へ提供するトランスデューサを作動させるような従来の方式で機能する。するとコントローラ24はPCM26a、26b(および/または提供される場合、TVMまたは追加のモジュール)へ信号を送信し、信号は、推進デバイス12a、12bの所望の配向を実現するために操舵アクチュエータを作動させる。推進デバイス12a、12bは、それらの操舵軸に対し独立して操向可能である。スロットル/シフトレバー34は、トランスミッション16a、16bの所望のギア(前進、後進、またはニュートラル)および推進デバイス12a、12bのエンジン14a、14bの所望の回転速度に関する信号をコントローラ24へ送信する。するとコントローラ24は、PCM26a、26bへ信号を送信し、続いて信号は、シフトおよびスロットルに関するトランスミッション16a、16bおよびエンジン14a、14bにおける電気機械式アクチュエータをそれぞれ作動させる。
【0024】
たとえばジョイスティック30などの手動操作可能な入力デバイスもまた、コントローラ24へ信号を提供するために用いられ得る。ジョイスティック30は、後述するように、船舶10のオペレータが、たとえば船舶10の並進または回転を実現するために船舶10を手動操縦することを可能にするために用いられ得る。理解すべき点として、代替例において、様々な構成要素28、30、32、34は、PCM26a、26bと直接通信してよく、あるいは1または複数の中央制御モジュールと通信してよい。図2および図3を参照すると、ジョイスティック30の操作が説明される。図2は、オペレータによって選択された、船舶10の3自由度における所望の運動を表す信号を提供するために用いられ得る手動操作可能な入力デバイスを提供するジョイスティック30の簡略図式表現である。図2の例は、ユーザによって動かすことができる基部42およびハンドル44を示す。典型的な応用において、ハンドル44は、矢印46によって表すように水平に動かすことができ、軸48の周囲を回転可能でもある。理解すべき点として、ジョイスティックハンドル44は、基部42における接続点の周囲でそれを傾けることによって実質的に任意の方向へ動かすことができる。図2において矢印46は平面に描かれるが、同様の種類の動きが、図の平面に平行ではない他の方向へも可能である。
【0025】
ジョイスティックモードにおいて、ユーザは、図2および図3に関して上述した回転および/または並進運動を命令するためにジョイスティック30を操作してよい。ジョイスティックモードは、様々な作動および動作要件を有してよく、一般に、船舶の低速推進動作を制御するように構成される。たとえばコントローラ24(たとえばCCM)は、ジョイスティックモードの作動を許可する前に最大速度閾値要件を実装してよい。たとえばジョイスティックモードは、船舶速度が15mph未満または10mph未満である場合のみ、作動可能であってよい。代替または追加として、ジョイスティックモードの作動は、スロットル/シフトレバー34および/または操舵輪32の位置(複数も可)に依存し、および/またはエンジン速度に基づいてよい。1つの例において、ジョイスティックモードは、スロットル/シフトレバー34がニュートラルデテント位置にあり、エンジン速度がアイドルである場合のみ、作動してよい。理解すべき点として、ジョイスティックモードは、たとえば船首/船尾および左/右ボタンを有するキーパッドなど、船首/船尾および側方並進要求を提供するために他の種類の入力デバイスが用いられる実施形態にも対応することが意図される。
【0026】
図3は、ジョイスティック30の上面図である。ハンドル44は、図2における矢印46によって示すように、矢印50、51、52、および53によって一般に表された水平面に対して様々な方向へ動くことができる。ただし理解すべき点として、ハンドル44は、その軸48に対して任意の方向へ動くことができ、矢印50、51、52、および53によって表す2直線の動きに限定されない。実際、ハンドル44の動きは、基部42における接続点に対して傾けられると実質的に無限の数の可能な経路を有する。ハンドル44は、矢印54によって表すように、軸48の周囲を回転可能でもある。ジョイスティックの動きは、水平面に対するジョイスティックの動きおよび縦軸に関するジョイスティックの回転運動を感知し、それに応じてジョイスティックの位置を示すための信号を生成する、たとえば3軸ジョイスティックセンサモジュールなどの1または複数のセンサによって検出される。ただし、ハンドル44の動きを通して船舶のオペレータによって表されるような船舶10の所望の動きを表す信号を提供するために用いられ得る多数の様々な種類のジョイスティックデバイスが存在する。たとえば、4つ以上の方向への入力を可能にする、キーパッド、トラックボール、および/または他の同様の入力デバイスが用いられ得る。
【0027】
続けて図3を参照すると、オペレータは、矢印52によって表すような左舷方向または矢印53によって表すような右舷方向への純粋な直線運動、矢印50によって表すような前方または矢印51によって表すような後方への純粋な直線運動、またはこれらの方向の任意の2つの組み合わせを要求してよい。すなわち、ハンドル44を破線56に沿って動かすことによって、右側および前方または左側および後方へ向かう直線運動が命令され得る。同様に、直線58に沿った直線運動が命令され得る。理解すべき点として、船舶のオペレータは、矢印54によって表すような回転と組み合わせて、側方または前方/後方への直線運動の組み合わせを要求することもできる。これらの可能性は全て、コントローラ24および最終的にPCM26a、26bと通信するジョイスティック30の使用によって果たされ得る。ハンドル44の位置によって表される運動の大きさまたは強度もまた、ジョイスティック30からの出力として提供される。すなわち、ハンドル44が(一般に基部42に対して中央かつ垂直に直立した位置である)ニュートラル位置からわずかにどちらかの側へ動かされる場合、命令されたその方向へのスラストは、ハンドル44がそのニュートラル位置からより大きく動かされた場合よりも小さい。また、矢印54によって表すような、軸48に対するハンドル44の回転は、所望の動きの強度を表す信号を提供する。軸48に対するハンドル44のわずかな回転は、船舶10における事前選択された点に関するわずかな回転スラストのコマンドを表す。軸48に対するハンドル44のより大きな回転は、より大きな回転スラストのコマンドを表す。
【0028】
図4において、船舶10は、船舶10における校正後の事前選択された点であり得る回転の中心(COR)60とともに模式的に示される。他の例において、点60は、瞬間的な重心であってもよい。COR60は、船舶10が水中を動く際の速度、水に対する船体速度の方位角、船舶10内に収容された積荷の重量分布、および船舶10が水線より下に位置する度合を含むいくつかの要因の関数である。COR60の位置は、様々な条件セットに関して経験的に決定され得る。以下の説明のために、点60はCORと称されるが、当業者が理解するように、同様の計算が重心を用いて実行されてよい。
【0029】
第1および第2の推進デバイス12a、12bに関して、第1および第2の操舵軸13aおよび13bが示される。第1および第2の推進デバイス12a、12bは、それぞれ第1および第2の操舵軸13aおよび13bの周囲を回転可能である。第1および第2の推進デバイス12a、12bの回転の範囲は、船舶10の中央線62に対して対称であってよい。本開示の位置決め方法は、第1および第2の推進デバイス12a、12bをそれぞれの操舵軸13a、13bに対して回転させ、前進または後進ギアにおけるそれらの動作を調整し、船舶10の迅速かつ正確な操縦を可能にする効率的な方法で、(たとえばエンジン速度および/またはプロペラピッチまたはトランスミッション滑りを調整することによって)それらのスラストT1、T2の大きさを調整する。1つの推進デバイス12aの回転、ギア、およびスラストの大きさは、もう1つの推進デバイス12bの回転、ギア、およびスラストの大きさとは無関係に変化し得る。
【0030】
図4は、船舶10が、右または左方向いずれかへの運動およびCOR60に対する回転を伴わず、矢印61によって表される前進方向へ動くことが望まれる場合に用いられるスラスト配向を示す。これは、第1および第2の推進デバイス12a、12bを、それらのスラストベクトルT1およびT2が互いに平行である整列位置に回転させることによって行われる。図4に示すように、第1および第2のスラストベクトルT1およびT2は、大きさが等しく、同じ前進方向に向けられる。それによって、COR60に対する回転および左または右方向いずれかへの運動が結果として生じない。矢印61によって表される方向への運動は、第1および第2のスラストベクトルT1、T2の(以下で詳しく説明される)ベクトル成分の全てが矢印61に平行な方向へ分解された結果、生じる。その結果生じる矢印61に平行なスラスト成分は付加的であり、共に矢印61の方向への前向きの正味スラストを船舶10に提供する。
【0031】
図5および図6に示すように、直線運動とともに船舶10の回転が望まれる場合、第1および第2の推進デバイス12a、12bは、中央線62に対して操舵角θまでそれぞれの第1および第2の操舵軸13a、13bに対して回転され、それによってそれらのスラスラストベクトルは、中央線62上の点で交差する。明確性のためにスラストベクトルT1は図5に示されないが(その大きさおよび方向に関しては図6を参照)、それに関連する動作直線68は、点64においてスラストベクトルT2の動作直線66と交差することが示される。点64はCOR60と一致しないので、第1の推進デバイス12aによって生成されるスラストT1に対して効果的なモーメントアームM1が存在する。COR60に関するモーメントは、寸法M1で乗算されたスラストベクトルT1の大きさに等しい。モーメントアームM1は、第1のスラストベクトルT1が位置合わせされた破線68に対し垂直である。よって、これは、斜辺Hも備える直角三角形の一辺である。理解すべき点として、図5における他の直角三角形は、辺L、W/2、および斜辺Hを備える。推進デバイス12a、12bがそれぞれの操舵軸13a、13bに対して同じ角度θだけ回転される限り、モーメントアームM1に等しい大きさのモーメントアームM2(明確性のために不図示)が、直線66に沿って向けられた第2のスラストベクトルT2に関して存在する。
【0032】
続けて図5を参照すると、当業者が認識するように、モーメントアームM1の長さは、操舵角θ、角度Φ、角度π、図5においてWと等しい第1および第2の操舵軸13aおよび13bの間の距離、およびCOR60と第1および第2の操舵軸13a、13bの間に伸長する直線との間の垂直距離Lの関数として決定され得る。第1の操舵軸13aとCOR60との間に伸長する直線の長さは、直角三角形の斜辺Hであり、既知であり制御モジュールのメモリ内に保存された所与のLおよびWに関し、ピタゴラスの定理を用いて容易に決定され得る。θの大きさは、式1~4に関して以下で説明するように計算される。角度Ωの大きさは90―θである。角度Φの大きさは、W/2として識別される第1の操舵軸13aと船舶の中央線62との間の距離に対する長さLの比のアークタンジェントに等しい。モーメントアームM1の長さは、直線Hの長さおよび(Ω-Φである)角度πの大きさを用いてコントローラ24によって数学的に決定され得る。
【0033】
スラストベクトルT1、T2の各々は、前方/後方および左/右方向の両方へのベクトル成分に分解する。ベクトル成分は、互いに絶対大きさが等しい場合、互いに相殺するか、付加的であり得る。絶対大きさが等しくない場合、それらは、互いに部分的にオフセットするか付加的であり得るが、何らかの直線方向において、その結果生じる力が存在する。説明のために、図5は第2のスラストベクトルT2のベクトル成分を示す。図示するように、第2のスラストベクトルT2は、中央線62に対して操舵角θにある直線66に沿って配向される。第2のスラストベクトルT2は、操舵角θの関数として計算される、中央線62に平行および垂直な成分に分解され得る。たとえば第2のスラストベクトルT2は、第2のスラストベクトルT2をそれぞれθの余弦およびθの正弦で乗算することによって逆方向の力F2Yおよび側方向の力F2Xに分解され得る。第1のスラストT1のベクトル成分もまた、同様の方法で前方/後方および側方向の成分に分解され得る。これらの関係性を用いて、船舶推進システム20によって生成された正味トラストのベクトル成分FX、FYは、TIおよびT2のそれぞれの前方/後方および左/右ベクトル成分を加算することによって計算され得る。
FX=T1(sin(θ))+T2(sin(θ)) (1)
FY=T1(cos(θ))-T2(cos(θ)) (2)
ただし、図5および図6の例において、T1は、XおよびY方向の両方において正のベクトル成分を有するが、T2は、C方向における正のベクトル成分およびY方向における負のベクトル成分を有し、よってこれは、T1のY方向のベクトル成分から差し引かれる。船舶10に作用する正味スラストは、FXおよびFYのベクトル加算によって決定され得る。
【0034】
図6を参照すると、(矢印70によって表される)モーメントもまた船舶10に付与されてよく、船舶をそのCOR60に対して回転させ、すなわちヨー速度をもたらす。モーメント70は、時計回り(CW)または反時計回り(CCW)のどちらの回転方向にも付与され得る。モーメント70によって生じる回転力は、船舶10における直線力とともに、あるいは単独で適用され得る。モーメント70を直線力と結合するために、第1および第2のスラストベクトルT1、T2は、図6に示す点64において交差するそれらの動作直線68、66と略反対方向に位置合わせされる。図6には作図線は示されないが、第1および第2のスラストベクトルT1、T2およびCOR60に対して効果的なモーメントアームM1、M2が存在する。その結果、矢印70によって表されるように船舶10にモーメントが付与される。スラストベクトルT1、T2の大きさが互いに等しく、それぞれ直線68および66に沿って付与され、中央線62に関して反対方向に対称である場合、中央線62に平行な正味分力は互いに等しいので、船舶10に付与される前方/後方への直線力は存在しない。ただし、第1および第2のスラストベクトルT1、T2は、この例において付加的である中央線62に垂直な力にも分解する。その結果、図6における船舶10は、モーメント70に応じて時計回りに回転すると、右へ動く。
【0035】
一方、モーメント70が船舶10に対する唯一の力であり、前方/後方または左/右方向への側方運動を伴わないことが望まれる場合、図6におけるT1’およびT2’によって表される別の第1および第2のスラストベクトルは、中央線62に平行な破線68’および66’に沿って互いに平行に位置合わせされる。第1および第2のスラストベクトルT1’、T2’は、等しい大きさかつ反対方向である。その結果、船舶10に前方/後方への正味力は付与されない。スラストベクトルT1’およびT2’の両方に関する角度θは0度であり、その結果生じる、船舶10に付与される中央線62に垂直な方向への力は存在しない。その結果、船舶10のCOR60に対する回転は、前方/後方または左/右方向のいずれかへの直線運動を伴わず実現される。
【0036】
図2~6を参照すると、3自由度、すなわちサージ、スウェイ、およびヨーにおける船舶10の実質的に任意の種類の所望の運動を表すために、ジョイスティックハンドル44の動きが船舶10のオペレータによって用いられ得ることが示される。ジョイスティック30からの信号の受信に応答して、アルゴリズムは、オペレータによって(モーメント70によって示される)COR60に対する回転が要求されたか否かを決定する。回転を伴わない前方並進が要求された場合、第1および第2の推進デバイス12a、12bは、図4に示すようにそれらのスラストベクトルが前方並列配向に揃うように配向され、T1の大きさおよび方向がT2のそれと等しい限り、船舶10は前方へ移動する。一方、ジョイスティック30からの信号が、COR60に対する回転が要求されたことを示す場合、第1および第2のスラストベクトルT1、T2は、COR60において交差せずに中央線62に沿った他の点64において交差する直線68および66に沿って向けられる。図5および図6に示すように、交差点64は、COR60より前方であってよい。図6に示すスラストT1およびT2は、船舶10の(モーメント70によって示される)時計回りの回転をもたらす。あるいは、第1および第2の推進デバイス12a、12bが、それらがCOR60より後方の中央線62に沿った点で交差するように回転される場合、その他の全てが等しい逆の効果が実現され得る。認識すべき点として、COR60より前方の交差点64の場合、第1および第2のスラストベクトルT1、T2の方向は逆になり、船舶10の反時計回り方向への回転をもたらし得る。
【0037】
留意すべき点として、推進デバイス12a、12bの操舵角は同じである必要はない。たとえば第1の推進デバイス12aは、中央線62に対して角度θまで操舵され得るが、第2の推進デバイス12bは角度θまで操舵され得る。ジョイスティック30への入力が行われると、コントローラ24は、船舶推進システム20に望まれる正味スラストおよび正味モーメントを決定する。したがって、示されるように、T1、T2、θ、およびθは、その後、以下の式に従って、上述した幾何関係を用いてコントローラ24によって計算され得る。
FX=T1(sin(θ))+T2(sin(θ)) (1)
FY=T1(cos(θ))-T2(cos(θ)) (2)
MCW=(W/2)(T1(cos(θ)))+(W/2)(T2(cos(θ))) (3)
MCCW=L(T1(sin(θ1))) + L(T2(sin(θ2))) (4)
MT=MCW-MCCW (5)
式中、FXおよびFYは既知の目標直線スラストのベクトル成分であり、MTは事前選択された点に対する既知の(時計回りのモーメントMCWおよび反時計回りのモーメントMCCWを含む)合計目標モーメントであり、LおよびW/2もまた上述したように既知である。コントローラ24はその後、4つの式を用いて4つの未知数(T1、T2、θおよびθ)を求め、それによって船舶10の所望の運動を実現する各推進デバイス12a、12bの操舵角、シフト位置、およびスラストの大きさを決定する。ただし、式1~5は図5および図6に示すスラスト構成に特有であり、様々な方向への所与のスラストに関して様々なベクトル成分が時計回りまたは反時計回りおよび前方/後方または左/右への並進に寄与する。
【0038】
側方運動、回転運動、または両者の組み合わせを実現するためのスラストベクトルT1、T2のX成分およびY成分への分解に関する上記原理は、本方法の操縦アルゴリズムの根幹である。この操縦アルゴリズムは、ジョイスティックモードの間、ジョイスティック30からのコマンドに応答して用いられる。
【0039】
現在のシステムにおいて、ジョイスティック30の位置入力は、ジョイスティック位置を目標スラストおよび目標モーメントと関連付けるメモリ内に格納されたマップに基づいて、事前選択された点に関する目標直線スラストおよび目標モーメントに関連付けられる。上述したように、この船舶固有マップの生成は、膨大な校正手順が専門家によって行われることを必要とし、これは労働およびリソース集約的プロセスである。また、このシステムは、何百または何千もの船舶固有マップの追跡およびメンテナンスを必要とする。
【0040】
開示されるシステムおよび方法は、そのような問題および難点を緩和するものである。開示されるシステムおよび方法は、たとえば感知されたジョイスティック位置などのユーザ入力を、船舶の所望の慣性速度に関連付ける。所望の慣性速度は、全てのまたは多数の船舶構成にわたり均一であり得るので、所望の慣性速度にジョイスティック位置を関連付ける1つのマップまたはマップセットが、様々な船舶構成にわたりインストールされ得る。開示されるモデルベースの制御方策は、発明者によって行われた膨大な船舶力学および操作品質調査に基づいており、所望の慣性速度に基づいて広範囲の船舶構成に容易に適用され得る方法でフィードフォワードコマンドを計算するために発明者によって開発および試験された汎用船舶モデルを利用する。
【0041】
図7は、たとえばジョイスティックモードにおいて、船舶の低速推進を制御するための制御方法の1つの実施形態を模式的に示すフローチャートである。示された実施形態において、制御方策は、たとえば風および潮流などの海洋環境における状況要因およびモデルにおけるあらゆる不正確性または不確定性を考慮する正確な制御を提供するために、フィードフォワードコマンドの計算および所望の慣性速度と船舶の実際の測定速度とを比較するフィードバックコントローラの設計の両方のために船舶力学モデルを用いる閉ループアルゴリズムである。アフィン制御混合方策は、サージ(船首/船尾)速度コマンドおよびヨー速度コマンドを、エンジンコマンド値(たとえばエンジン速度またはスロットル制御値)および操舵コマンド(たとえば角操舵位置)を含む、推進デバイスを制御するために用いられ得る値に変換するために用いられる。この制御方策の各態様の典型的な実施形態が次に説明される。
【0042】
ジョイスティック30からの信号(たとえば軸方向の各々におけるパーセント偏向+/-100%)は、ジョイスティック位置に基づいて所望の慣性速度を計算するコマンドモデル72へ提供される。慣性速度は、並進速度値および/またはヨー速度値を含んでよい。コマンドモジュール72は、生のジョイスティック位置情報を用い、船舶のたとえば所望のサージ、スウェイ、およびヨー応答などの所望の慣性速度を生成する。このアーキテクチャは、ユーザ入力に応答して船舶がどれほど早く並進および/または回転するかの容易な設定および構成を可能にする。特定の実施形態において、コマンドモデルは、推進システム20がどの程度積極的にユーザ入力に応答するかを調整するために、ユーザによって調節可能であってよい。たとえば、操作卓22において、たとえばボタン入力またはキーパッド28またはジョイスティック30における入力などの2次入力が提供され、たとえばジョイスティック位置に関連する所望の慣性速度値を増減するためおよび/またはユーザ入力値に関連する格納されたプロファイルまたはマップを所望の速度値に選択するために船舶がどの程度ジョイスティック入力に応答するかに関する嗜好をユーザが入力することを可能にする。たとえばユーザ入力は、ユーザが、速度応答の積極性における増減を指示すること、および/またはフルジョイスティック位置(たとえばジョイスティックを最大外側位置まで押すこと)がもたらす最高速度を増減することを可能にし得る。
【0043】
たとえば、コマンドモデル72は、たとえばジョイスティックの可能な各位置を目標サージ速度、目標スウェイ速度、および/または目標ヨー速度に関連付けるなど、ジョイスティックの位置を慣性速度値にマッピングしてよい。たとえば、ジョイスティックにおけるニュートラル、すなわち中央位置は、ゼロ慣性速度に関連付けられる。制御システムが閉ループシステムである特定の例において、フィードバック制御は、位置保持機能と同様、船舶をその現在位置に維持するために用いられ得る。したがって、ジョイスティックの位置が、ニュートラル、すなわち中央位置と等しい場合、操舵コマンドおよびエンジンコマンドは、船舶の推進力および/またはあらゆる風または潮流の影響に逆らうことを含み、船舶をその現在位置に維持するように決定される。よって、ジョイスティックモード中、船舶10は、ジョイスティックを介したユーザ入力に応答し、それに従ってのみ動く。
【0044】
たとえば所望のサージ、スウェイ、およびヨー速度などのコマンドモデル72からの出力は、速度制限器74を通過する。これは、ユーザの快適性および安全のために、船舶の最大加速度を守らせ、たとえばエンジンまたは操舵システムの故障に起因する推進または操舵コマンドにおける限界など、故障モードを考慮するものである。
【0045】
速度制限器74の出力は、図示された実施形態では逆プラントモデルである船舶力学モデル76に提供される。同じプラントモデルが、フィードバック利得を求めるようにフィードバックコントローラを設計するために用いられ得る。プラントモデルは、水上試験ベースのパラメータ識別および計算流体力学の組み合わせから導出される。これに基づいて、船舶力学に影響を及ぼす船体特性および要素の範囲をカバーする無次元モデルである汎用低速船舶モデルが開発される。たとえばモデルは、制御システムが実装される船体寸法の範囲をカバーする広範囲の船体におけるパラメトリック研究データを分析するために計算流体力学を用いることによって開発され得る。プラントモデリング技術はその後、船体の範囲に関する低速での船体力学の数学的モデル、汎用低速船舶モデルを生成するために用いられ得る。たとえばモデルは、パラメトリック研究データと比較して10パーセントの精度要件範囲内でのジョイスティック中に実現可能な速度の範囲で動作する船体の典型的なセットの各々に関する船舶力学を表してよい。モデルは、船体サイズおよび重量特性が、モデルによってカバーされる範囲内の任意の船体に関する船体力学モデルを作成するために入力され得る係数のセットとして表される、汎用低速船舶モデルを作成するために無次元化され得る。たとえば、船体に関する係数のセットは、船舶長さ、船舶幅、および船舶重量を含んでよい。また、この汎用低速船舶モデルは、たとえば推進デバイスのサイズ、種類、および位置が(船体サイズおよび重量特性に加えて)船舶に関する船舶力学モデル76の生成の一部として入力され得るように構成された推進データを含んでよい。
【0046】
1つの例において、汎用低速船舶モデルは、船体に関する係数を受信し、運動のサージ、スウェイ、およびヨー軸の各々に関する船舶速度、船舶加速度、およびジョイスティック要求を比較する、その船舶構成に関する3つの式、
Added_Mass_Deriv*acceleration=Damping_Deriv*velocity+Control_Power_Deriv*joystick_pct
を生み出す。これらの式は、たとえば所望の慣性速度をもたらす船舶のためのジョイスティックパーセントコマンドなどのコマンドを求めるために、たとえば逆プラントモデルである船舶力学モデル76として反転され使用される。たとえば逆プラントモデル76は、(速度制限器74によってフィルタされた)コマンドモデル72によって提供された所望の慣性速度値に基づいてサージコマンド、スウェイコマンド、およびヨーコマンドを生成してよい。上述の論理に基づいて、船体力学モデル76は、以下の
Joystick_pct=(Added_Mass_Deriv*acceleration-Damping_Deriv*velocity)/Control_Power_Deriv
に従って所望の慣性速度を実現するために必要なジョイスティックパーセント(すなわちコマンドパーセント)を計算するように構成されてよく、式中、速度は、コマンドモデル72によって出力された値であり、加速度は、コマンドモデル出力の導関数である。
【0047】
フィードフォワードコマンド制度において、船体力学モデル76の出力は、推進デバイスを制御するために用いられ、すなわち、エンジンおよび操舵コマンドを生成するためにアフィン制御ミクサ86に入力され得る。したがって、コマンドモデル72、速度制限器74、船体力学モデル(たとえば逆プラントモデル)76、およびアフィン制御ミクサ86は、ジョイスティックモードにおける船舶10の推進を制御するために、図7に示すシステムのフィードバック部分なしで用いられ得る。極めて運転性が高く安全な推進システム20をもたらすこの制御方策は、制御方策として独自に実装され、あるいは閉ループ制御システムのフィードバック部分が(たとえば航法システムまたはセンサの故障によって)操作不可能である場合、デフォルト状態として実装され得る。
【0048】
図示された閉ループ制御方策において、フィードバック制御は、船舶における1または複数のセンサおよび/または航法システムから実際の船舶速度に関する情報を受信するフィードバックコントローラ78によって提供される。たとえばフィードバックコントローラ78は、たとえばIMU36などの1または複数のセンサ39から船舶の慣性運動に関する情報を受信してよい。1または複数のセンサ39の出力は、たとえばGPS38または慣性航法システムなどの航法システム41によって解釈される。航法システム41は、フィードバックコントローラ78においてコマンドモデル72の出力と比較され得る実際の慣性速度(たとえば並進速度およびヨー速度)を提供し、そのような情報は、逆プラントモデルにおける不正確性および環境における攪乱(たとえば風および波)を考慮することによって所望の慣性速度をより正確に実施するために、コマンド値を精密化するために用いられ得る。フィードバックコントローラ78は、特定の船舶構成の力学に基づいて適当なフィードバック利得を提供するために、船舶力学モデルを用いて設計され得る。
【0049】
フィードバックコントローラ78および逆プラントモデル76の出力は、加算点80において結合される。所望の慣性速度に基づいてジョイスティックパーセントを計算する、上述した逆プラントモデルを参照すると、フィードバックコントローラ78は、同様にジョイスティックパーセントに関する出力も提供し、そのような出力は、船舶力学モデル76によって出力されたジョイスティックパーセント値に加算される。合計出力はその後、加算点81においてジョイスティック位置情報と(たとえばパーセント偏向値と)比較される。合計出力は再び、フィードバックコントローラの権限を制限し故障モードを考慮するためにフィードバック権限を制限する制限器82にかけられる。制限器82の出力は、加算点83においてジョイスティック値と加算される。その合計値は、各推進デバイスに関する合計X方向コマンドおよび合計Y方向コマンド、たとえば合計スラストのXおよびY成分を生成するアフィン制御ミクサ86へ提供される。そこから、推進デバイスに関するエンジン、操舵、およびシフトコマンドが生成される。
【0050】
混合モジュール86において実装されたアフィン混合方策は、サージ、スウェイ、およびヨーコマンドのブレンディングおよび平滑化を果たす。アフィン混合の典型的な実施形態は以下で更に詳しく説明され、これは、設置された推進デバイスの数、それらの推進デバイスの物理的位置、およびそれらの物理的位置から船舶10の推定COR60までの距離を用いる。アフィン混合方策は、合計X方向スラストおよび合計Y方向スラストを含む合計スラストコマンドを生成し、そこから、推進システム20における各推進デバイス12に関してエンジンコマンド、操舵位置コマンド、およびシフトコマンドが生成され得る(たとえば図8および以下の説明を参照)。
【0051】
各推進デバイスに関して、推進デバイス12a、12bの位置とCOR60との間の2次元(X、Y)単位法線ベクトルがある。単位法線ベクトルは、図10においてR1xyおよびR2xyとして表される。単位法線ベクトルはその後、合計X方向コマンドおよび合計Y方向コマンドを計算するために、加算点83の結果生じるサージ、スウェイ、およびヨーコマンドに適用される変換マトリックスを生成するために用いられる。たとえばサージ、スウェイ、およびヨーコマンドは、その後各推進デバイス12a、12bに関する合計Xスラストコマンドおよび合計Yスラストコマンドに変換されるスラストまたはジョイスティックパーセントコマンドであってよい。そこから、エンジンコマンド(たとえばスロットルまたはエンジンRPM制御値(複数も可))、操舵位置コマンド、およびシフトコマンドが各推進デバイスに関して生成され、したがって(たとえばPCM26a、26b)、XおよびYコマンドの幾何学に基づいて、それぞれのコントローラへ提供される。
【0052】
アフィン混合方策は、以下の式のセット
【数1】
【数2】
Engine=norm(XcmdYcmd) (8)
Shift=sign(Xcmd) (9)
Steer=sign(Xcmd)×atan2(XcmdYcmd) (10)
に従って遂行されてよく、式中、Runormは、式6によって求められた各推進デバイス12a、12bに関する単位法線ベクトルであり、各推進デバイスに関する合計Xスラストコマンドおよび合計Yスラストコマンドは式7によって求められ、エンジン、シフト、および操舵コマンドは、式8~10に従って各推進デバイスに関して計算される。式7に従って各推進デバイスに関して計算された合計X方向およびY方向コマンドは、サージ、スウェイ、およびヨーコマンドで乗算された単位法線ベクトルに基づく変換マトリックスを用いる。これは、図10において模式的に示され、典型的なサージ、スウェイ、およびヨーコマンドを表す矢印は、合計X方向スラストコマンドおよび合計Y方向スラストコマンドに変換され、そこから、各推進デバイス12a、12bに関するスラストベクトルT1xyおよびT2xyがそれぞれ計算される。式8によると、各推進デバイス12a、12bに関するエンジンコマンドは、推進デバイスに関する合計XおよびYコマンドの法線として計算される。シフトコマンド(すなわち前方または後方)は、合計Xコマンドの符号(すなわち正または負)に基づいて決定される。各推進デバイスに関する操舵位置コマンドは、式10に従ってY方向スラストコマンドおよびX方向スラストコマンドの第2の引数のアークタンジェントから決定される。
【0053】
図8および図9は、本開示の典型的な実施形態に係る、推進を制御するための方法100またはその一部を表すフローチャートである。図8は、上述したように、たとえば船体の範囲に関する低速での船舶力学の無次元化プラントモデルなど、ステップ102において提供された汎用低速船舶モデルから船舶力学モデルを生成するための典型的な方法ステップを示す。汎用低速船舶モデルは、たとえば船舶長さ、船舶幅、および船舶重量などの船体パラメータに関する係数のセットを含む。そのような特定の船舶の値は、ステップ104において、係数のために入力される。たとえば複数の推進デバイス12a、12bの各々のサイズ、種類、および位置などの推進デバイスに関するパラメータは、ステップ106において入力される。推進データはその後、ステップ108において特定の船舶に関する船舶力学モデルを生成するために、ステップ104において挿入されたパラメータに基づいて船体モデルに添付され得る。船舶力学モデルは、所望の慣性速度に基づいてサージ、スウェイ、およびヨー速度コマンドを生成するために用いられ得るように、コントローラ24がアクセス可能なメモリ(たとえばCCMのメモリ25a)に格納される。たとえばモデルは、所望の慣性速度をもたらす速度コマンドを求めるために慣性速度入力が用いられるように反転され格納され得る。
【0054】
図9は、船舶力学モデルを用いて船舶の推進を制御するための方法100の1つの実施形態を示す。ジョイスティック位置を示す信号がステップ112において受信される。ステップ114は、ジョイスティック位置を目標サージ、目標スウェイ、および目標ヨー速度と関連付けるために実行される。たとえばそのような関連付けは、上述したコマンドモデル72を用いて生成され得る。船舶力学モデルはその後、ステップ116において速度コマンドを生成するために用いられる。すなわち、目標サージ速度、目標スウェイ速度、および/または目標ヨー速度は、入力された目標慣性速度をもたらすサージコマンド、スウェイコマンド、およびヨーコマンドを生成するために、船舶力学モデルへの入力として用いられる。実際の船舶位置は、たとえばIMUおよび/またはGPSシステムによって測定され、サージ、スウェイ、およびヨーコマンドを修正するためにステップ118においてフィードバックとして用いられる。合計X方向スラストおよび合計Y方向スラストコマンドは、その後ステップ120において、たとえば上述したアフィン制御混合方策を用いて、各推進デバイスに関して決定される。操舵コマンドおよびエンジンコマンドは、その後ステップ122において、XスラストおよびYスラストコマンドに基づいて決定される。
【0055】
上述した説明は、最適モードを含む本発明を開示するため、および任意の当業者が本発明を製作および使用することを可能にするために例を用いる。簡略性、明確性、および理解のために特定の用語が用いられている。そのような用語は説明のためだけに用いられ、幅広く解釈されることが意図されるため、そこから従来技術の要件を超えて不必要な限定が推測されることはない。本発明の特許性を有する範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者に想起される他の例を含んでよい。そのような他の例は、特許請求の範囲の文字通りの言葉と異ならない特徴または構造的要素を有する場合、あるいは特許請求の範囲の文字通りの言葉と非実質的な差しかない同等の特徴または構造的要素を含む場合、特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10