(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】シュウ酸バリウムチタニルの製造方法及びチタン酸バリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/41 20060101AFI20220725BHJP
C07C 55/06 20060101ALI20220725BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20220725BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C07C51/41
C07C55/06
C04B35/468
C01G23/00 C
(21)【出願番号】P 2020192358
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹野 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】国枝 武久
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-151516(JP,A)
【文献】特開2013-063867(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017752(WO,A1)
【文献】特開平06-254384(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137628(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/41
C07C 55/06
C01G 23/00
C04B 35/468
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸を含有する溶液(A液)と、チタン源及びバリウム源を含有する
溶液(B液)とを混合して、反応させることにより、シュウ酸バリウムチタニルを製造するシュウ酸バリウムチタニルの製造方法であり、
反応液流路の一端側に、該A液と該B液とを別々に供給し、該反応液流路の一端側で、該A液と該B液とを混合し、反応液に渦流を発生させながら、該反応液を該反応液流路の他端側に移動させ、該反応液流路の他端側から、該反応液を排出し、次いで、該反応液の固液分離を行うこと、
該A液の溶媒が有機溶媒であり且つ該B液の溶媒が水であること、
を特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項2】
前記反応液流路内での前記反応液の滞留時間が60秒以内であることを特徴とする請求項1記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項3】
前記渦流が、テイラー渦流であることを特徴とする請求項1又は2記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項4】
前記A液の溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、N,N-ジメチルホルムアミド及びアセトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項
1~3いずれか1項記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項5】
前記B液中の前記チタン化合物が四塩化チタンであり、前記バリウム化合物が塩化バリウムであることを特徴とする請求項1~
4いずれか1項記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項6】
前記A液と前記B液の混合温度が75℃以下であることを特徴とする請求項1~
5いずれか1項記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項7】
生成されるシュウ酸バリウムチタニルの平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項1~
6いずれか1項記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項8】
請求項1~
7いずれか1項記載の製造方法で得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成することを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体、圧電体、オプトエレクトロニクス材、半導体、センサー等の機能性セラミックの原料として有用なシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン酸バリウムは、固相法、水熱合成法、アルコキシド法、シュウ酸塩法等により製造されている。
【0003】
固相法では、構成原料粉末等を混合し、該混合物を高温で加熱する乾式方法により製造するため、得られた粉末は不規則な形状を呈する凝集体を成し、また、所望の特性を達成するために高温焼成が必要である。また、水熱合成法は、粉体の特性が良好との長所にもかかわらず合成工程が複雑で、オートクレーブを用いるため生産性が劣り、製造粉末の値段が高く工業的に有利でない。また、アルコキシド法も同様、出発物質の取り扱いが難しく、値段が高く工業的に有利でない。
【0004】
シュウ酸塩法で得られるチタン酸バリウムは、水熱合成法やアルコキシド法に比べ、組成が均一なものを安価に製造することができ、また、固相法で製造したチタン酸バリウムに比べ、組成が均一であるという特徴を有する。従来のシュウ酸塩法としては、四塩化チタン等のチタン源、塩化バリウム等のバリウム源及びシュウ酸とを水等の溶媒中で反応させてシュウ酸バリウムチタニルを得た後、該シュウ酸バリウムチタニルを焼成する方法が一般的である(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-500239号公報
【文献】特開2010-202610号公報
【文献】特開2013-63867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献で得られるシュウ酸バリウムチタニルは、焼成温度が700℃以上でチタン酸バリウムを生成するものであるため、チタン酸バリウムの生成時点で、結晶化度が低いが、ある程度の粒成長を起こしている。このようなシュウ酸バリウムチタニルを高温で焼成すると、高結晶であっても大粒子となってしまい、機能性セラミックの原料としての特性を満たすことができないという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、粒径が小さく且つ高結晶のチタン酸バリウムが得られるシュウ酸バリウムチタニルを製造するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、反応液流路の一端側に、シュウ酸を含有する溶液(A液)とチタン化合物及びバリウム化合物を含有する溶液(B液)とを別々に供給し、反応流路内で、渦流を発生させながら、A液とB液を混合し、反応液流路の他端側から、反応液を排出することで、A液及びB液中の反応原料を速やかに接触させることができるので、微細なシュウ酸バリウムチタニルが得られること、このような微細なシュウ酸バリウムチタニルを焼成すると、熱分解の際に炭酸ガスが抜けやすくなり、チタン酸バリウムが生成する温度を下げることができること、そして、低温でチタン酸バリウムを生成させることにより、従来よりも低温でチタン酸バリウムを高結晶化できることから、チタン酸バリウムの粒成長を抑えることができるため、従来に比べ、微粒且つ高結晶なチタン酸バリウムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明(1)は、シュウ酸を含有する溶液(A液)と、チタン源及びバリウム源を含有する溶液(B液)とを混合して、反応させることにより、シュウ酸バリウムチタニルを製造するシュウ酸バリウムチタニルの製造方法であり、
反応液流路の一端側に、該A液と該B液とを別々に供給し、該反応液流路の一端側で、該A液と該B液とを混合し、反応液に渦流を発生させながら、該反応液を該反応液流路の他端側に移動させ、該反応液流路の他端側から、該反応液を排出し、次いで、該反応液の固液分離を行うこと、
該A液の溶媒が有機溶媒であり且つ該B液の溶媒が水であること、
を特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、前記反応液流路内での前記反応液の滞留時間が60秒以内であることを特徴とする(1)のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、前記渦流が、テイラー渦流であることを特徴とする(1)又は(2)のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、前記A液の溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、N,N-ジメチルホルムアミド及びアセトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする(1)~(3)いずれかのシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記B液中の前記チタン化合物が四塩化チタンであり、前記バリウム化合物が塩化バリウムであることを特徴とする(1)~(4)いずれかのシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、前記A液と前記B液の混合温度が75℃以下であることを特徴とする(1)~(5)いずれかのシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、生成されるシュウ酸バリウムチタニルの平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とする(1)~(6)いずれかのシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、(1)~(7)いずれかの製造方法で得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成することを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、同じ温度で焼成した場合に、従来のシュウ酸バリウムチタニルに比べ、粒径が小さく且つ高結晶のチタン酸バリウムが得られるシュウ酸バリウムチタニルを製造するための製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1及び比較例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルの熱重量分析の測定結果である。
【
図2】実施例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルのSEM写真である。
【
図3】実施例1で得られたチタン酸バリウムのSEM写真である。
【
図4】比較例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルのSEM写真である。
【
図5】比較例1で得られた焼成物のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、シュウ酸を含有する溶液(A液)と、チタン源及びバリウム源を含有する(B液)とを混合して、反応させることにより、シュウ酸バリウムチタニルを製造するシュウ酸バリウムチタニルの製造方法であり、
反応液流路の一端側に、該A液と該B液とを別々に供給し、該反応液流路の一端側で、該A液と該B液とを混合し、反応液に渦流を発生させながら、該反応液を該反応液流路の他端側に移動させ、該反応液流路の他端側から、該反応液を排出し、次いで、該反応液の固液分離を行うこと、
を特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法である。
【0022】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るA液は、シュウ酸を含有する溶液である。A液中のシュウ酸イオンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1~7.0mol/L、特に好ましくは0.6~5.0mol/Lである。
【0023】
A液の溶媒は、水溶媒、有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、微粒のシュウ酸バリウムチタニルを得る観点から、有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、親水性であり原料に対して不活性なものであれば特に制限されず、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、N,N-ジメチルホルムアミド及びアセトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒、複数の有機溶媒の混合溶媒の場合、これらの混合比は適宜選択される。
【0024】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るB液は、チタン化合物及びバリウム化合物を含有する溶液である。B液中のチタンイオンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.04~4.0mol/L、特に好ましくは0.2~3.0mol/Lである。また、B液中のバリウムイオンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.08~6.5mol/L、特に好ましくは0.4~3.0mol/Lである。
【0025】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るチタン化合物としては、特に制限されず、四塩化チタン、乳酸チタン等が挙げられる。チタン化合物は、1種であっても、2種以上の併用であってもよい。チタン源としては、四塩化チタンが好ましい。
【0026】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るバリウム化合物としては、特に制限されず、塩化バリウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム等が挙げられる。バリウム化合物は、1種であっても、2種以上の併用であってもよい。バリウム化合物としては、塩化バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、塩化バリウムが特に好ましい。
【0027】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、反応液流路の一端側に、A液とB液とを別々に供給し、次いで、該反応液流路の一端側で、A液とB液を混合して得られる反応液(A液とB液の混合液)に渦流を発生させながら、反応液を反応液流路の他端側に移動させることにより、反応液流路内で、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行い、次いで、反応液流路の他端側から、反応液を排出する。
【0028】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、反応液流路内のA液とB液の混合液に渦流を発生させながら、A液とB液中の反応原料を反応させることにより、A液及びB液中の反応原料を速やかに接触させることできる。そのため、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A液とB液の混合後に、得られる反応液(混合液)中に多数のシュウ酸バリウムチタニルの核を発生させることができるので、粒径が大きいシュウ酸バリウムチタニルが生成し難く、粒径が小さいシュウ酸バリウムチタニルが生成する。更に、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、得られる反応液(混合液)中の反応原料を速やかに接触させることができるので、反応時間(滞留時間)を短くすることができるため、反応効率を高くすることができる。
【0029】
反応液流路内に発生させる渦流としては、例えば、テイラー渦流が挙げられる。テイラー渦流とは、内円筒及び外円筒からなる二重円筒の隙間に流体が満たされた状態において、内円筒を回転させたときに生じるドーナツ状の渦流を指す。
【0030】
流路の一端側から供給液を供給し、流路内でテイラー渦流を発生させながら、流路の他端側から排出液を排出する装置としては、例えば、特開2011-83768号公報、特開2016-10774号公報、特開2017-209660号公報等に開示されている装置が挙げられ、また、例えば、チップトン社製のTVF、徳寿社製の小型リアクタライザー晶多等のテイラー渦型撹拌装置が挙げられる。
【0031】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、反応液流路の一端側に、A液とB液を供給しつつ、反応液流路の他端側から、生成する反応液を排出する。この供給と排出の反応液流路間に、反応液が後述する滞留時間内であれば、例えば上記特開2011-83768号公報に記載のように、テイラー渦流等の渦流を発生させる反応装置を複数組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、反応液流路内での反応液の滞留時間が、好ましくは60秒以内、より好ましくは20秒以内、特に好ましくは0.1~10秒である。反応液流路内での反応液の滞留時間が上記範囲にあることにより、微粒のシュウ酸バリウムチタニルを得易くなる。なお、反応液流路内での反応液の滞留時間とは、反応液流路の一端側に供給されたA液及びB液の混合物(A液とB液の混合により生成する反応液)が、反応液流路の一端側から反応液流路の他端側に達するまでの時間を指す。
【0033】
A液とB液の混合温度、即ち、反応液流路内の反応液の温度は、好ましくは75℃以下、特に好ましくは5~50℃である。
【0034】
A液とB液の混合比は、A液中のシュウ酸のモル数に対するB液中のチタン及びバリウムの原子換算のモル数の比が、好ましくは0.01~20.0、特に好ましくは0.10~10.0となる混合比である。
【0035】
次いで、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、反応液流路から排出された反応液の固液分離をする。
【0036】
また、固液分離を行った後は、固形分を水洗する。水洗方法としては、特に制限されないが、リパルプ等で洗浄を行うことが、洗浄効率が高い点で好ましい。洗浄後、固形分を乾燥し、必要に応じて粉砕してシュウ酸バリウムチタニルを得る。
【0037】
このようにして、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、熱重量分析において、1000℃の重量減少率に対する重量減少率が99%に達する温度が600~700℃、好ましくは610~690℃、特に好ましくは615~685℃であることを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルである。なお、熱重量分析における1000℃の重量減少率とは、熱重量分析での分析温度が1000℃の時点での重量減少率を指す。また、熱重量分析における1000℃の重量減少率に対する重量減少率が99%に達する温度とは、分析開始時に対する重量減少率が、分析温度が1000℃の時点での重量減少率の99%に達するときの温度を指す。
【0038】
熱重量分析において、1000℃の重量減少率に対する重量減少率が99%に達する温度は、シュウ酸バリウムチタニルの熱分解が起こり、チタン酸バリウムへの変化が終了する温度、つまり、シュウ酸バリウムチタニルからチタン酸バリウムの生成する温度を指す。シュウ酸バリウムチタニルの熱重量分析により測定される重量減少については、測定対象試料を室温から10℃/分で昇温していくと、いくつかの重量減少が確認された後、700℃近傍で重量減少が確認されなくなり、最終的にチタン酸バリウムまで熱分解されたことが確認できる。従来のシュウ酸バリウムチタニルは、700~720℃で重量減少がなくなり、この温度範囲でチタン酸バリウムが得られていることが確認できる。しかし、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、600~700℃、好ましくは610~690℃、特に好ましくは615~685℃で重量減少が確認できなくなるため、従来技術よりも低温でシュウ酸バリウムチタニルからチタン酸バリウムが得られるものである。この理由としては、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、その平均粒子径が好ましくは1.0μm以下、特に好ましくは0.01~0.5μmと微粒なため、熱分解での炭酸ガスが抜け易く、従来技術よりも低温でチタン酸バリウムに変化しているためと本発明者らは考えている。
【0039】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、熱重量分析において、1000℃の重量減少率に対する重量減少率が99%に達する温度が600~700℃、好ましくは610~690℃、特に好ましくは615~685℃であることにより、チタン酸バリウムを、600~700℃、好ましくは610~690℃、特に好ましくは615~685℃の温度範囲で生成させることができる。そのため、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、低温でチタン酸バリウムを生成させることができるので、従来よりも低温でチタン酸バリウムを高結晶化できる。そして、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルでは、従来よりも低温でチタン酸バリウムを高結晶化できることから、チタン酸バリウムの粒成長を抑えることができるので、従来に比べ、微粒且つ高結晶なチタン酸バリウムが得られる。そのため、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、同じ温度で焼成したときに、従来のシュウ酸バリウムチタニルに比べ、微細且つ高結晶のチタン酸バリウムを得ることができる。一方、1000℃の重量減少率に対する重量減少率が99%に達する温度が700℃を超えると、シュウ酸バリウムチタニルからチタン酸バリウムを生成する温度が高くなるので、その後の高結晶化のための加熱温度も高くなってしまい、その結果、チタン酸バリウムの粒径が大きくなってしまう。
【0040】
シュウ酸バリウムチタニルの熱重量分析に用いる熱重量分析装置は、特に制限されず、例えば、メトラー・トレド株式会社製のTGA/DSC 1が挙げられる。
【0041】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、大気中700±10℃、2時間の加熱試験により、比表面積が15~20m2/g、且つ、c/aが1.0030~1.0055のチタン酸バリウムに変換されるシュウ酸バリウムチタニルであることが好ましい。本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルを、大気中700±10℃、2時間加熱試験して得られるチタン酸バリウムの比表面積は、特に好ましくは16~19m2/gである。また、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルを、大気中700±10℃、2時間加熱試験して得られるチタン酸バリウムのc/aは、特に好ましくは1.0035~1.0050である。大気中700±10℃、2時間の加熱試験により生じるチタン酸バリウムの比表面積が上記範囲にあり且つc/aが上記範囲にあることにより、焼成過程において、チタン酸バリウムが生成した後の高結晶化のための加熱で粒成長が起きても、従来のシュウ酸バリウムチタニルに比べ、微細且つ高結晶のチタン酸バリウムを得ることができる。シュウ酸バリウムチタニルの加熱試験については、700±10℃に温度調節された加熱装置中に、測定対象試料を2時間保持して加熱試験を行い、冷却後、加熱試験後の測定対象試料をBET法による比表面積分析及びX線回折分析を行い、加熱試験後の測定対象試料の比表面積及びc/aを求める。
【0042】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルの平均粒子径は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.005~1.0μm、特に好ましくは0.01~0.5μmである。シュウ酸バリウムチタニルの平均粒子径が上記範囲にあることにより、低温でチタン酸バリウムを生成させることができる。なお、本発明においてシュウ酸バリウムチタニルの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真により、任意に200個の粒子を測定し、その平均値を平均粒子径とする。
【0043】
また、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、600~700℃、好ましくは610~690℃、特に好ましくは615~685℃の温度範囲で加熱したときに、チタン酸バリウムを生成することができるシュウ酸バリウムチタニルである。
【0044】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法により得られるシュウ酸バリウムチタニルは、誘電体セラミック材料のチタン酸バリウム系セラミックの製造原料として好適に用いられる。本発明のチタン酸バリウムの製造方法は以下の通りである。
【0045】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法により得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成することを特徴とするものである。
【0046】
最終製品に含まれるシュウ酸由来の有機物は、材料の誘電体特性を損なうとともに、セラミック化のための熱工程における挙動の不安定要因となるので好ましくない。従って、本発明では焼成によりシュウ酸バリウムチタニルを熱分解して目的とするチタン酸バリウムを得ると共に、シュウ酸由来の有機物を十分除去する必要がある。焼成条件は、焼成温度が好ましくは600~1200℃、更に好ましくは620~1100℃である。焼成温度が600℃未満では、チタン酸バリウムが一部しか生成していない、或いは、単一相のチタン酸バリウムが得られにくい。一方、焼成温度が1200℃を超えると、粒径のバラツキが大きくなる。焼成時間は好ましくは0.5~30時間、更に好ましくは1~20時間である。また、焼成雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下、酸化性ガス雰囲気下、大気中のいずれであってもよく、或いは水蒸気を導入しながら前記雰囲気中で焼成を行ってもよい。
【0047】
焼成は所望により何度行ってもよい。或いは、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再焼成を行ってもよい。
【0048】
焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕してチタン酸バリウムの粉末を得る。必要に応じて行われる粉砕は、焼成して得られるチタン酸バリウムがもろくブロック状のものである場合等に適宜行うが、チタン酸バリウムの粒子自体は下記特定の平均粒径、BET比表面積を有するものである。即ち、前記で得られるチタン酸バリウムの粉末は、走査型電子顕微鏡写真(SEM)から求められる平均粒径が好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.02~0.5μmである。BET比表面積は、好ましくは2~100m2/g、更に好ましくは2.5~50m2/gである。更に、本発明の製造方法で得られるチタン酸バリウムの組成は、BaとTiのモル比(Ba/Ti)が0.998~1.004、特に0.999~1.003であることが好ましい。また、結晶性の指標となるc軸/a軸比は、チタン酸バリウムの比表面積が15m2/g以上の範囲では、1.0030~1.0055が好ましく、1.0035~1.0050が特に好ましい。焼成温度が高くなると粒成長が生じるため、比表面積が15m2/g未満の範囲となるが、その範囲では、c軸/a軸比は、1.0055超が好ましくは、1.0070以上が更に好ましく、1.0075以上が特に好ましい。
【0049】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムには、必要により誘電特性や温度特性を調整する目的で、副成分元素含有化合物を本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムに添加して、副成分元素を含有させることができる。用いることができる副成分元素含有化合物としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類元素、Ba、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Si、Ca、Sr、Co、Ni、Cr、Fe、Mg、Ti、V、Nb、Mo、W及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物が挙げられる。
【0050】
副成分元素含有化合物は、無機物又は有機物のいずれであってもよい。例えば、前記の元素を含む酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩及びアルコキシド等が挙げられる。副成分元素含有化合物がSi元素を含有する化合物である場合は、酸化物等に加えて、シリカゾルや珪酸ナトリウム等も用いることができる。副成分元素含有化合物は1種又は2種以上適宜組み合わせて用いることができる。その添加量や添加化合物の組み合わせは、常法に従って行えばよい。
【0051】
チタン酸バリウムに副成分元素を含有させるには、例えば、チタン酸バリウムと副成分元素含有化合物を均一混合後、焼成を行えばよい。或いは、シュウ酸バリウムチタニルと副成分元素含有化合物を均一混合後、焼成を行ってもよい。
【0052】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られたチタン酸バリウムを用いて、例えば積層セラミックコンデンサを製造する場合には、先ず、チタン酸バリウムの粉末を、副成分元素を含め従来公知の添加剤、有機系バインダ、可塑剤、分散剤等の配合剤と共に適当な溶媒中に混合分散させてスラリー化し、シート成形を行う。これにより、積層セラミックコンデンサの製造に用いられるセラミックシートを得る。該セラミックシートから積層セラミックコンデンサを作製するには、先ず、該セラミックシートの一面に内部電極形成用導電ペーストを印刷する。乾燥後、複数枚の前記セラミックシートを積層し、厚み方向に圧着することにより積層体とする。次に、この積層体を加熱処理して脱バインダ処理を行い、焼成して焼成体を得る。さらに、該焼成体にNiペースト、Agペースト、ニッケル合金ペースト、銅ペースト、銅合金ペースト等を塗布し焼き付けて、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0053】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られたチタン酸バリウムの粉末を、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂に配合して、樹脂シート、樹脂フィルム、接着剤等とすると、プリント配線板や多層プリント配線板等の材料として用いることができる他、内部電極と誘電体層との収縮差を抑制するための共材、電極セラミック回路基板、ガラスセラミックス回路基板、回路周辺材料及び無機EL用の誘電体材料としても用いることができる。
【0054】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られたチタン酸バリウムは、排ガス除去、化学合成等の反応時に使用される触媒や、帯電防止、クリーニング効果を付与する印刷トナーの表面改質材として好適に用いられる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(1)シュウ酸バリウムチタニルの熱重量分析
メトラー・トレド株式会社製熱重量測定装置TGA/DSC 1を用いて、30mgの試料を50mL/minの空気気流中、30℃から1200℃まで昇温速度10℃/minで測定した。
(2)シュウ酸バリウムチタニル及びチタン酸バリウムの平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)写真により、任意に200個の粒子を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
(3)チタン酸バリウムの比表面積
BET法により求めた。
(4)チタン酸バリウムのc/a値
線源としてCu-Kα線を用いてX線回折装置(Bruker社製、D8 ADVANCE)により、c軸とa軸の比c/aを測定した。
【0057】
(実施例1)
シュウ酸2水和物25.0gをエチレングリコール100gに溶解させ、シュウ酸が2.21mol/Lであるシュウ酸成分を含む溶液(A液)120mLを調製した。これとは別に、四塩化チタン64.4g及び塩化バリウム32.0gを純水210gに溶解させ、四塩化チタンが0.59mol/L、塩化バリウムが0.63mol/Lであるチタン成分及びバリウム成分を含む溶液(B液)270mLを調製した。
次いで、テイラー渦型撹拌装置(チップトン社製、TVF-01)に、A液を4.3L/時間、B液を9.6L/時間の速度で供給し、反応液をテイラー渦型撹拌装置から排出させた。このとき、反応液のテイラー渦型撹拌装置内の滞留時間は5秒とした。テイラー渦型撹拌装置へのBa元素及びTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比はモル比で1.91であった。
テイラー渦型撹拌装置から排出させた反応液を、固液分離して沈殿物を得た。この沈殿物を洗浄後、乾燥してシュウ酸バリウムチタニルを得た。得られたシュウ酸バリウムチタニルの物性値は表1の通りであった。また、得られたシュウ酸バリウムチタニルの熱分析の重量減少率を測定した結果を
図1に示す。この結果、680℃の重量減少率は48.53%であり、1000℃の重量減少率48.82%に対しては99.40%であった。
得られたシュウ酸バリウムチタニルを700℃で2時間焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値は表1の通りであった。
【0058】
(実施例2~4)
実施例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルを表1に示す温度で焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値を表1示す。
【0059】
(比較例1)
塩化バリウム2水塩35.0gとシュウ酸2水塩35.0gを純水120gに溶解させ、バリウム濃度が1.10mol/L、シュウ酸濃度が2.20mol/Lであるバリウム成分及びシュウ酸成分を含む溶液(a液)120mLを調製した。これとは別に、四塩化チタン54.0gを純水に溶解させ、チタン濃度が0.40mol/Lであるチタン成分を含む溶液(b液)260mLを調製した。
次いで、a液を撹拌しながらb液を90秒で添加し、その後、1時間保持した後、固液分離して沈殿物を得た。この沈殿物を洗浄後、乾燥してシュウ酸バリウムチタニルを得た。得られたシュウ酸バリウムチタニルの物性値は表1の通りであった。また、得られたシュウ酸バリウムチタニルの熱分析の重量減少率を測定した結果を
図1に示す。この結果、680℃の重量減少率は37.71%であり、1000℃の重量減少率44.81%に対しては84.15%であった。
得られたシュウ酸バリウムチタニルを700℃で2時間焼成した。しかし、熱重量分析の重量減少率の測定結果からチタン酸バリウムは得られていないことが分かった。
【0060】
(比較例2~4)
比較例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルを表1で示す温度で焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムの物性値を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示す通り、同じ温度で焼成したときの平均粒径、BET比表面積及びc/aの数値の比較から、比較例で得られたチタン酸バリウムと比べて、実施例で得られたチタン酸バリウムは微粒且つ高結晶であることが判る。また、
図1に示す通り、実施例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルは、熱重量分析により700℃においてチタン酸バリウムが得られたが、比較例1で得られたシュウ酸バリウムチタニルは、700℃でもチタン酸バリウムが得られなかったことが判る。