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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ディジタル印刷システム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220725BHJP
   B41J 13/00 20060101ALI20220725BHJP
   B65H 23/32 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
B41J2/01 101
B41J2/01 103
B41J2/01 305
B41J13/00
B65H23/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020195408
(22)【出願日】2020-11-25
(62)【分割の表示】P 2018237595の分割
【原出願日】2014-09-05
(65)【公開番号】P2021049781
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】1316203.7
(32)【優先日】2013-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514210005
【氏名又は名称】ランダ コーポレイション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アーロン シュマイザー
(72)【発明者】
【氏名】ベンジオン ランダ
(72)【発明者】
【氏名】サギ モスコヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ニール ザルミ
(72)【発明者】
【氏名】ヤウダ ソロモン
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-229276(JP,A)
【文献】特開2003-057967(JP,A)
【文献】特開2010-260204(JP,A)
【文献】特開2010-030300(JP,A)
【文献】特開2011-064850(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0300604(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に印刷するための印刷システムであって、
柔軟性を有し実質的に非伸張性の薄肉ベルトの形態の可動中間移送部材であって、前記薄肉ベルトにおける圧縮可能な層は最大400μmの厚さを有し、前記薄肉ベルトは閉鎖パスによってガイドされる、可動中間移送部材と、
液体インクの液滴を前記薄肉ベルトの外面に付着させてインクイメージを形成するように構成されたイメージ形成ステーションと、
前記薄肉ベルト上の前記インクイメージを乾燥させて前記薄肉ベルトの前記外面上にインク残留フィルムを残留させるように構成された乾燥ステーションと、
前記薄肉ベルトの移動方向で互いに離間した第1および第2の印刷ステーションであって、各々の印刷ステーションは、前記担体を支持して搬送するための印刷シリンダ、および前記印刷シリンダ上に支持された前記担体に対し前記薄肉ベルトを押圧するための圧縮可能な厚肉のブランケットを担持する押圧シリンダを有し、前記圧縮可能な厚肉のブランケットの厚さは少なくとも1mmである、第1および第2の印刷ステーションと、
前記担体を前記第1の印刷ステーションから前記第2の印刷ステーションへ搬送するための搬送システムであって、各々の印刷ステーションにおいて、前記圧縮可能な厚肉のブランケットは前記押圧シリンダの周囲に部分的にのみ延在して前記圧縮可能な厚肉のブランケットの両端の間にギャップを形成するように構成され、前記押圧シリンダは第1の位置または第2の位置から回動可能であり、前記第1の位置では前記圧縮可能な厚肉のブランケットが前記印刷シリンダに位置合わせされかつ前記印刷シリンダに向かって押圧され、前記第2の位置では前記圧縮可能な厚肉のブランケットの両端の間の前記ギャップが前記印刷シリンダに位置合わせされる、搬送システム
を備える、印刷システム。
【請求項2】
各々の印刷ステーションにおいて、前記押圧シリンダ上の前記圧縮可能な厚肉のブランケットは連続的である場合に、前記押圧シリンダを第1の位置に下降させ、かつ前記押圧シリンダを第2の位置に上昇させるように構成された昇降機構を備える、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記圧縮可能な厚肉のブランケットの周長は前記可動中間移送部材の上に形成されるインクイメージの最大長と同等かそれより長い寸法を有することを特徴とする、請求項に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記搬送システムは、前記2つの印刷ステーションの間を搬送する期間中に、前記担体を選択的に反転させるように構成された両面刷りシステムを備える、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項5】
前記担体はウェブの形態として存在し、かつ前記両面刷りシステムは前記印刷ステーションの間を搬送して前記ウェブを反転させるように構成させる、請求項に記載の印刷システム。
【請求項6】
少なくとも前記第1の印刷ステーションの前記押圧シリンダは、第1の位置と第2の位置の間を移動可能であり、前記第1の位置においては前記薄肉ベルトが前記印刷シリンダに押圧され、前記薄肉ベルトの前記外面上の前記インク残留フィルムが前記印刷シリンダ上で支持される前記担体の表側面に移送され、前記第2の位置においては前記薄肉ベルトが前記印刷シリンダから離間して、前記薄肉ベルト上の前記インクイメージが前記第1の印刷ステーションを通過して前記第2の印刷ステーションにそのまま到達し、第2の印刷シリンダ上に支持される前記担体の裏側面に移送されるように構成される、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項7】
前記圧縮可能な厚肉のブランケットの前記厚さは最大6mmである、請求項1に記載の印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ディジタル印刷システムに関し,特に,中間移送部材として機能するベルトを有する間接式印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータから直に指令を受け取り,印刷プレートが準備不要であるプリンタを実現するためのディジタル印刷技術が開発されている。これには,ゼログラフィープロセスを使用するカラーレーザープリンタが含まれる。乾式トナーを使用するカラーレーザープリンタは,特定の用途には適しているが,雑誌等の刊行物として容認できる写真品質のイメージを生成し得るものではない。
【0003】
短時間稼働での高品質ディジタル印刷に一層適したプロセスが,HP‐Indigo型プリンタにおいて使用されている。このプロセスでは,レーザー露光により静電イメージが帯電状態のイメージ担体シリンダ上に形成される。静電荷が油性インクを引き付け,イメージ担体シリンダ上にカラーインクイメージを形成する。そのインクイメージは,ブランケットシリンダにより紙又は他の任意の担体上に移送される。
【0004】
インクジェット式及びバブルジェット(登録商標)式のプロセスは,家庭用及びオフィス用プリンタで慣用されている。これらのプロセスでは,インクの液滴が最終担体上にイメージパターンとして噴射される。一般的に,このようなプロセスの解像度は,紙担体中へのインクの吸い上げにより制限される。従って,担体は,使用する特定のインクジェットプリンタに固有の特性に適合するよう選択され,又は調製される。一般的に,繊維質の担体(例えば紙)は,液体インクを制御された態様で吸収するか,あるいは担体の表面下への液体インクの浸透を防止するように設計された特殊なコーティングを必要とする。しかしながら,特殊コーティングが施された担体の使用は,ある種の印刷用途,例えば商業的印刷には不適当なコスト高のオプションである。更に,コーティングが施された担体は,それ自体の問題を惹き起す。即ち,担体表面が湿潤状態を維持しているので,例えば積み重ねやロールへの巻き上げのために取り扱っている担体の事後的なこすれ汚れを防止する観点から,インクを乾燥させるためのコスト高で時間のかかるステップが必要となる。加えて,担体の過湿潤は担体表面の荒れ(いわゆる「コックリング」)を生じさせ,担体の両側面への印刷(「両面刷り」や「ニ重印刷」とも称する。)を,不可能ではないとしても著しく困難とする。
【0005】
更に,気孔性用紙又は繊維質用紙への直接的なインクジェット印刷では,印刷ヘッドと担体表面との間隔の変動により十分な画質が得られない。
【0006】
間接的な,又はオフセット式の印刷技術によれば,担体への直接的なインクジェット印刷に付随する多くの問題が解消される。この印刷技術では,インクを担体に移送するに先立って中間的なイメージ移送部材上で乾燥可能とする間,中間的なイメージ移送部材の表面とインクジェット印刷ヘッドとの間隔が一定に保たれる。従って,担体上における最終的な画質は,担体の物理的性質の影響を受けにくい。
【0007】
インクジェット装置又はバブルジェット(登録商標)装置からのインク液滴を受け止めてインクイメ
ージを形成し,そのイメージを最終的な担体に移送する移送部材の使用に関しては,特許文献に記載されている。既知の各種システムは,水性キャリア液又は非水性キャリア液を含入する液体インクや,キャリア液体を全く含有しないインク(固体インク)を使用する。
【0008】
水性インクの使用は,多くの顕著な利点を有する。非水性液体インクと対比して,キャリア液体には毒性がなく,イメージが乾燥する際の液体の蒸発に付随する問題が生じない。また,固体インクと対比して,印刷されたイメージ上における材料の残留量が制御可能であり,より薄い印刷イメージと,より鮮明な色彩とを実現することが可能である。
【0009】
一般的に,イメージを最終担体に移送するに先立ち,液体の相当量又は全量を中間移送部材上のイメージから蒸発させることにより,イメージが最終担体の組織中に浸み込むのを防止している。液体を除去するための各種方法が文献に記載されている。これには,イメージを加熱し,イメージ粒子を移送部材上で凝集させた後,加熱により,又は空気ナイフ等の手段により液体を除去することが含まれている。
【0010】
一般的に,シリコーンコーティングを施した移送部材が好まれており,これは乾燥したイメージの移送が容易だからである。しかしながら,シリコーンは疎水性であるため,インクの液滴が移送部材上で球状化を生じる。その結果,インクの水分を除去するのが困難となり,また,液滴とブランケットとの接触面積が小さくなるために高速移動の間にインクイメージが不安定となる。
【0011】
インク液滴の表面張力を低下させて球状化を可能な限り抑制するため,界面活性剤及び塩が使用されている。これは上述した問題の一部を緩和する手法ではあるが,全面的な解決を可能とするものではない。
【発明の概要】
【0012】
本発明は,担体の表側面と裏側面に印刷することが可能な印刷システムを提供するものである。このシステムは:閉鎖パスに沿ってガイドされる,実質的に非伸長性のベルトよりなる可動中間移送部材と;液体インクの液滴をベルトの表面に付着させてインクイメージを形成するためのイメージ形成ステーションと;ベルト上のインクイメージを乾燥させてベルトの表面上にインク残留フィルムを残留させる乾燥ステーションと;ベルトの移動方向で互いに離間した第1及び第2印刷ステーションと;担体を第1印刷ステーションから第2印刷ステーションまで搬送するための搬送手段とを備える。各印刷ステーションは,担体を支持して搬送するための印刷シリンダと,ベルトを印刷シリンダにより支持された担体に対して押圧するための,圧縮可能なブランケットを担持する押圧シリンダとを備える。少なくとも第1印刷ステーションにおける押圧シリンダが,第1位置及び第2位置の間で移動可能である。第1位置においては,ベルトが印刷シリンダに向けて押圧され,ベルト外面上の残留フィルムが印刷シリンダ上に支持された担体の表側面に移送される。第2位置においては,ベルトが押圧シリンダから離間し,ベルト上のインクイメージが,第1印刷ステーションを通過してそのまま第2印刷ステーションに到達し,かつ,第2印刷シリンダ上に支持された担体の裏側面に移送される。
【0013】
本発明の印刷システムによれば,異なるイメージを連続的に担体の同一面上に,又は両面に印刷することが可能である。異なるイメージを連続的に担体の同一面上に印刷する場合には,異なる印刷位置で異なる色分解を印刷することにより印刷システムの高速化が達成される。担体の同一面上に第2のイメージを印刷する手法は,第1イメージワニスコーティングを施すために適用可能である。
【0014】
本発明の実施例では,薄肉ベルトを使用することができる。これは,担体に対するベルト外面の適合性が,押圧シリンダにより担持される厚肉のブランケットにより達成されるからである。薄肉ベルトは,担体表面の凹凸(トポグラフィー)に対するある程度の適合性を有することにより担体の表面粗さを補償することができ,僅かな固有圧縮性を有する層を含むことができる。例えば,ブランケットにおける圧縮可能な層の厚さが1~6mmの範囲内,典型的には2.5mm前後であるのと対比して,薄肉ベルトにおける圧縮可能な層の厚さは100~400μmの範囲内,典型的には125μm前後とすることができる。
【0015】
本発明において,「実質的に非伸張性」とは,ベルトが,その長手方向寸法において(即ち,印刷方向において)十分な引張強度を有し,当該方向において寸法的に安定であることを意味するものである。本明細書で開示される印刷システムは,ベルトの長さ変化を検出するための制御手段を備えることができるが,好適には,システム稼働時におけるその周長変化は2%以下,又は1%以下,又は0.5%以下である。
【0016】
各印刷ステーションにおいて,圧縮可能なブランケットは連続的であるが,押圧シリンダの全周に亘って延在するものでない場合にブランケットの周長は,少なくとも,担体上に印刷すべき各イメージの最大長に等しいものとする必要がある。
【0017】
本発明の一実施形態においては,圧縮可能なブランケットが,押圧シリンダを全周ではないが大部分に亘って包囲することによりその両端の間にギャップを形成する。これにより,そのギャップが印刷シリンダと対向するときに,押圧シリンダを印刷シリンダから分離することができる。
【0018】
第1印刷ステーションにおける押圧シリンダが連続的なものである場合,押圧シリンダを第1モードでの作動のために下降させると共に押圧ローラを第2モードにおける作動のために上昇させるための昇降機構が設けられた構成とすることができる。
【0019】
昇降機構は,押圧シリンダの軸の両端を支持するための偏心部材と,該偏心部材を回動させて押圧シリンダを昇降させるためのモータとを備える構成とすることができる。
【0020】
代替的に,昇降機構は,リニアアクチュエータで構成することができる。
【0021】
代替的な実施形態において,ブランケットは,押圧シリンダの半周長に満たない範囲に亘って延在する構成とすることができる。この場合には,押圧シリンダの軸を変位させる操作が不要である。これは,押圧シリンダがその軸周りで回動する際に押圧シリンダの作動が自動的に第1モードと第2モードとの間で切り替わるからである。
【0022】
印刷シリンダの間隔は,印刷シリンダの周長を,一時に印刷シリンダで搬送可能なシートの枚数で除した値の整数倍とすることができる。しかしながら,この関係は,本発明の幾つかの実施形態には適用されない。
【0023】
シート状の担体に印刷するよう構成された印刷システムにおいて,印刷シリンダは,各担体シートの前縁部を把持するための,一組又は複数組のグリッパを備えることができる。担体搬送手段は相当の慣性を有するため,通常は一定速度で走行し,シート間において制動又は加速することができない。この理由から,担体シート上に印刷すべきインクイメージはベルトに沿って規則的に位置決めする必要があり,その際のインクイメージの間隔は,隣接するグリッパ相互間の弧長の整数倍に対応させ,又は,印刷シリンダが一時に1枚の担体シートしか支持できない場合には印刷シリンダの周長に対応させる。
【0024】
更に,担体シートの裏側面上に印刷すべきインクイメージは,担体シートの表側面上に印刷すべきインクイメージを補間する必要がある。また,ベルト表面を最大限に活用するため,これらのイメージは,担体シートの表側面上に印刷すべきインクイメージ相互間の少なくともほぼ中間に配置すべきである。
【0025】
表側面及び裏側面のインクイメージを正確に整列させるため,担体シートが両面刷り手段を通過した後に第2印刷ステーションに到達したときに,担体シートが適正位置を占めて二つの印刷ステーションの間の直線に追従するインクイメージを受け止める構成とすることが肝要である。このような関係を成立させるため,第1印刷ステーションにおける担体の後縁部(即ち,第2印刷ステーションにおける担体の前縁部)による全移動距離は,担体シートの表側面上に印刷すべきインクイメージ相互間のベルト上における間隔の整数倍に,担体シートの裏側面上に印刷すべきインクイメージと,担体シートの表側面上に印刷すべきインクイメージとの間のオフセット量を加えた値と同じにすべきである。この間隔は,両面刷り手段における各シリンダの,直径及びグリッパの相対位相に基づいて決定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】印刷システムを示す線図である。
図2図1の印刷システムの一部拡大図である。
図3】作動サイクル中の一時点における二つの印刷ステーションを示す線図である。
図4】作動サイクル中の他の時点における二つの印刷ステーションを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下,添付図面を参照しつつ本発明を例示的に詳述する。
【0028】
本発明は,類似形態を有する任意の間接式印刷システムに適用可能であるが,以下においては液体インクを,使用されるインクに対する撥水性を有する無端ベルトの外面上に液滴として付着させるプロセスに関連して説明する。以下の実施形態は,特に,典型的には着色剤(例えば,顔料や染料)とポリマー樹脂とを含む水性キャリアを含有する液体インクを,ベルトの撥水性を有する疎水性表面上に噴射した後に乾燥させて得られるインクフィルムの移送に関連するものである。しかしながら,本発明はそのような特定の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は印刷システム100を線図的に示すものであり,この印刷システムは,疎水性の外表面を有すると共にベルト移送システム122における各ローラでガイドされて無端ループ状に移動されるベルトからなる中間移送部材102を備える。ベルト102は,ループに沿って周回する間に,各ステーションを通過する。
【0030】
イメージ形成ステーション104では,印刷バー106がインクの液滴をベルト102の疎水性外表面上に付着させてインクイメージを形成する。異なるバー106のインクは通常は色彩が異なっており,透明インクや顔料を含有しないワニスを除けば,何れのインクも水性キャリア内に樹脂及び着色材の粒子を含有している。
【0031】
図1に示すイメージ形成ステーション104は8本の印刷バー106を備えているが,イメージ形成ステーションは,より少数の印刷バー又はより多数の印刷バーを備える構成とすることができる。例えば,イメージ形成ステーションは,シアンインク(C),マゼンタインク(M)及びイエローインク(Y)を噴射するための3本の印刷バーを備えるか,あるいはブラックインク(B)を追加して4本の印刷バーを備える構成とすることができる。
【0032】
イメージ形成ステーション104内では,ヘッドユニット130によりガス(例えば空気)が印刷バー106の間のベルト102の表面上に吹き付けられる。これは,インク液滴を安定化させることにより,インク液滴をベルト102上に固着させると共に浸み込みを防止することを目的とするものである。
【0033】
次に,ベルト102は乾燥ステーション108を通過する。乾燥ステーションではインク液滴を乾燥させ,インク液滴が印刷ステーション110,110’に到達する前に粘着性を発現させる。印刷ステーションでは,インク液滴を担体シート112上に移送する。各印刷ステーション110,110’は,印刷シリンダ110a,110a’及び押圧シリンダ110b,110b’を含むと共に,これらの間にニップを有し,そのニップ内ではベルト102が担体に対して押圧される。図示の実施形態において,担体は,担体搬送手段118により入力側のスタックから出力側のスタックまで搬送されるシート112で構成されている。担体搬送手段118は,後述する両面印刷又は二重印刷を可能とする両面刷り手段を備える。二つの印刷ステーション110,110’は,担体の両面への印刷,又は担体の同一面への2回印刷を可能とするために設けられるものであり,一方の印刷ステーションは搬送手段の上流側に,また他方の印刷ステーションは搬送手段118の下流側に配置されている。
【0034】
本明細書では二つの印刷ステーションのみが例示的に説明されているが,ディジタル印刷の技術分野に属する当業者であれば本発明を三つ以上の印刷ステーションに適用できることは言うまでもない。例えば,より高速の印刷を容易とするために四つ以上の印刷ステーションを備える印刷システムを使用することができる。三つ以上の印刷ステーションを使用すれば,顔料を含有する伝統的なインクに加えて特殊インクによる印刷が容易となり得る。
【0035】
本発明は,シート状ではなく,ウェブ状の担体に印刷するよう構成された印刷システムにも等しく適用することが可能である。このような場合,担体搬送手段は,担体を入力側ローラから搬出側ローラまで搬送するように適合させる。
【0036】
図1において,ベルト102は,印刷ステーション110,110’を通過した後,イメージ形成ステーション104に復帰する前に光学的なクリーニングステーション及び/又は調整ステーション120を通過する。このステーション120の目的は,ベルト102に残留付着しているインクを除去し,及び/又は調整剤を付与することにより,ベルト102の外面に対してインク液滴を容易に固定可能とすることである。特定のシリコーン系外面を有するベルトに対しては,ポリエチレンイミン(PEI)を調整剤として使用することができる。ベルト102の外面は疎水性とされているので,粘着性を有するインクイメージを印刷ステーション110において清浄に移送するのが容易である。また,調整ステーション120は,イメージ形成ステーション104に復帰する前のベルト102を冷却する機能も保有させることができる。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態において,ベルト102は,非伸張性のベース層を備え,外面に疎水性の分離層を有する薄肉ベルトで構成されている。好適には,ベース層は,引き延ばされて幅方向に張力が付与された織物を備える。この織物は,ガイドチャンネル内に係合するようにベルト側縁部に設けられた係合部によってガイドされる。ベルト102の側縁部における係合部を係合させ得るガイドチャンネルが幅方向の張力を付与する。その張力は,もっぱら,ベルト102がイメージ形成ステーション104における印刷バー106の下方を通過する際にベルト102を平坦に維持するに十分な値とすることのみが要件とされる。薄肉ベルト102は,厚さが100~400μmの適合層を備えることができるが,代替的又は追加的に,担体表面の凹凸に対する適合性を分離層自体の配合により発現させることもできる。各印刷ステーション110,110’における押圧シリンダ110b,110b’は,典型的には,厚さを1~6mm,好適には2.5mmとすることのできる,圧縮性を有する厚肉ブランケット(図示せず)を支持する。このブランケットは,オフセット・リソグラフィーにおけるブランケットと同様の態様でシリンダ上に装着することができ,あるいは,シリンダの全周に亘って巻き付け又は接着することもできる。押圧シリンダ上におけるブランケットの目的は,印刷ステーションにおけるベルトの支持クッションとして作用することにより,ベルトに必要とされる担体に対する総合的な適合性を発現させることである。薄肉ベルト及び圧縮性ブランケットは何れも複数の層から構成し,これにより他の所要の特性,例えばそのような多層構造の機械的,摩擦的,熱的及び電気的特性を変更可能とすることができる。
【0038】
従前は,ベルト102をブランケットと組み合わせてなる厚肉ベルトを有するプリンタが提案されていたが,このような構造では,ベルトが摩耗した場合には随時,寿命がより長いブランケットでも交換が必要となる。ブランケットをベルトから切り離して押圧シリンダ上に配置すれば,ベルト102をより安価に交換することが可能である。
【0039】
薄肉ベルト102を圧縮性ブランケットから切り離すことで得られる他の重要な利点は,周回ベルトの重量を軽減できることである。この軽量化により,ベルト102を駆動するために必要とされる動力を減少させて印刷システムのエネルギ効率を向上することができる。それ故,圧縮性の層を備えず,圧縮性を欠く薄肉ベルトを軽量ベルトとも称する。
【0040】
軽量ベルト102を使用すれば,中間移送部材の熱慣性を低下させることができる。熱慣性とは,質量と比熱の積を意味する。ベルト102は,各種ステーションを通過する間に加熱され,かつ冷却される。特に,ベルト102は,乾燥ステーション108におけるヒータと,インクフィルムの粘着性を高めるために印刷ステーション110の直前に任意的に配置される2個のヒータを通過する間に加熱される。しかしながら,イメージ形成ステーション104に導入される際のベルトは,高温であってはならない。高温であれば,インク液滴が衝突に際して沸騰しかねない。従って,処理ステーション120には,ベルト102が印刷ステーション110に到達する前にベルト102を冷却する機能を持たせることができる。熱慣性の減少により,印刷システムのエネルギ消費量を削減することができる。これは,インクイメージを加熱する際に,ベルトにはより少ない熱エネルギしか蓄積されず,従って,処理ステーション120では,より少量のエネルギのみを除去・消費すれば足りるからである。
【0041】
図2における担体搬送手段は,担体シート112をスタック114(既に図1に示されているが,図2には示されていない。)から,各シート112の表側面上にイメージを印刷する第1印刷ステーションにおける印刷シリンダ110aまで搬送するための供給シリンダ212を備える。二つの搬送シリンダ214,216はグリッパを備え,これらのグリッパは,各シートをその前縁部で把持すると共に,各シートを図3,4に示す態様で前進させて両面刷りシリンダ218を通過させるものである。搬送シリンダ216上のシート112の前縁部が図3に示す位置に到達すると,その後縁部が搬送シリンダ216から分離され,かつ,両面刷りシリンダ218上のグリッパにより捕捉される。すると,その時点までシート112の前縁部であった部位が搬送シリンダ216上のグリッパから解放され,シートは裏側面を上向きに反転させた状態で第2印刷ステーションにおける印刷シリンダ110a’のグリッパに供給される。各担体シートの反転のみならず,両面刷りシリンダ218はページ配列も逆転させる。この点は,インクイメージをベルト102上に形成する段階で留意する必要がある。上述した各シリンダは,2枚以上の担体シートを2組以上のグリッパによりそれぞれの周縁部で把持可能とすることができるが,明瞭性のため,印刷シリンダ110a,110a’においては1組のグリッパ314,314’のみが図示されている。
【0042】
下流側における印刷ステーションのグリッパを両面刷りされる担体の後縁部と一致させるため,二つの印刷シリンダの相対位相は担体の長さの関数として調整することが可能である。
【0043】
インクイメージを第2印刷ステーション110’に到達させるためには,インクイメージがそのまま第1印刷ステーションを通過可能である必要がある。この理由から,少なくとも第1印刷ステーション110は二つの作動モード間で切り換える必要がある。第1モードでは,ベルト102を担体に対して押圧してイメージを移送させる。第2モードでは,ベルトと第1印刷シリンダとの間にギャップを残し,第2印刷ステーションで印刷すべきインクイメージを無傷で通過させるものである。
【0044】
幾つかの実施形態において,作動モードは,押圧シリンダ110bの軸を持ち上げることにより切り換える。切換えを行うためには,押圧シリンダの軸を支持する二つの偏心部材(各端に1個ずつ)と,これらの偏心部材を回動させて押圧シリンダを昇降させるモータとを設けることができる。相対的に,押圧シリンダの軸をスライドブロック内で支承し,これらのスライドブロックをリニアアクチュエータにより移動させることもできる。このようなアプローチは,押圧シリンダ上の圧縮性ブランケットが印刷シリンダ110bの周面の全部又は大部分を包括する場合に適用可能である。
【0045】
代替的な実施形態においては,押圧シリンダ110bの直径を増大させると共にブランケットを半周未満に亘って重ねる。この場合,印刷シリンダの軸は固定状態に維持することができる。これは,押圧シリンダ110bと印刷シリンダ110aとの係合が,押圧シリンダ上のブランケットが印刷シリンダと対向するときのみに生じるからである。押圧シリンダのいかなるサイクルにおいても,第1及び第2作動モードの間で印刷段階が入れ替わる。
【0046】
図3及び図4において,担体シートの表側面上に印刷すべきインクイメージは点線で示され,担体シートの裏側面上に印刷すべきインクイメージは破線で示されている。図3は,第1印刷ステーションにおける押圧シリンダ110bと印刷シリンダ110aとの間のニップが閉じられた時点を示す。印刷シリンダ上の担体シート112aは点線で示すイメージ310を受け取れる状態にあり,破線で示すイメージ312はニップが未だ開いていた間に印刷ステーションを通過済みである。これと同時に,シート112bが表側面を下向きとして搬送シリンダ214上に支持され,更なるシート112cが搬送シリンダ216から両面刷りシリンダ218への搬送途上にある。このシート112cは,後縁部が両面刷りシリンダ218により捕捉され,前縁部が搬送シリンダ216のグリッパから解放された時点で示されている。
【0047】
各シリンダを図示の矢印方向に回動させ続ければ,図4に示す状態に至る。この場合,第1印刷ステーションのニップが開いて新たなイメージを通過可能とする。シート112aは,表側面を上向きとして搬送シリンダ214まで搬送されており,搬送シリンダ上に移送される。その間に,シート112bは搬送シリンダ216まで搬送されており,また,両面刷りシリンダ218により反転されたシート112cは,今度は第2印刷シリンダ110a’により支持される。その時点で第2印刷シリンダ110a’は,第2印刷ステーションにおける閉じたニップを通過してイメージ312を裏側面上に受け取れる状態である。
【0048】
図3は第2印刷ステーションをニップが開いた状態で示すものである。これにより,担体シートが存在しないときにベルトの表面が印刷シリンダ110a’に対して押圧される事態を回避することができる。このような構成は,ベルトの摩耗を回避すると共にインクが残留している場合に印刷シリンダの汚染を防止するうえで好適ではあるが,本質的なものではない。
【0049】
二つの印刷ステーションの間隔は,担体の表側面及び裏側面上のイメージの正確な整列のために重要な事項ではない。搬送手段を通しての担体シートの経路長は,ベルト102上における表側のイメージと裏側のイメージとの間隔と一致させるだけでよい。これは,各シリンダ214,216,218の寸法と,それらのグリッパの相対位相を適正に定めることにより達成されるものである。
【0050】
本発明を担体シート上への印刷に関連して上述したが,本発明が連続ウェブ上への印刷を行う印刷システムに等しく適用可能であることは,言うまでもない。そのためには,両面刷りシリンダの代わりにウェブ反転機構を使用することができる。この場合にも,二つの印刷ステーション間におけるウェブの長さを,例えばローラによって,ベルト102上における表側のイメージと裏側のイメージとの間隔と対応させるだけでよい。
【0051】
本願の明細書及び特許請求の範囲において,「備える」,「含む」,「有する」等の動詞及びその活用形は,その動詞の目的語で表される客体が,その動詞の主語で表される主体に属する部材,部品,素子又は部分が完全に列挙されていることを必ずしも意味しない。また,単数形での不定冠詞(“a”, “an”)や定冠詞(“the”)は,特に明示しない限り,複数への言及も含意している。例えば,単数形での「印刷ステーション」との表記は,複数の印刷ステーションも含意するものである。
図1
図2
図3
図4