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特許7110311電場によって転移性疾患の患者における複数の腫瘍を処置するための装置および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】電場によって転移性疾患の患者における複数の腫瘍を処置するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/04 20060101AFI20220725BHJP
【FI】
A61N1/04
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020201521
(22)【出願日】2020-12-04
(62)【分割の表示】P 2016574185の分割
【原出願日】2015-07-10
(65)【公開番号】P2021049366
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】62/028,996
(32)【優先日】2014-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516378600
【氏名又は名称】ロイヤリティ ベースト イノベーションズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】トラヴァース ピーター エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ワトキンス ケン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンダーメイ ティモシー
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-514288(JP,A)
【文献】特開平07-313609(JP,A)
【文献】特開2007-319358(JP,A)
【文献】特開平01-056061(JP,A)
【文献】特表2001-517998(JP,A)
【文献】特表2003-530920(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072135(WO,A2)
【文献】特表2005-523085(JP,A)
【文献】特表2009-506838(JP,A)
【文献】特表2010-505465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0246002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/04
A61N 1/40
A61N 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の腫瘍治療電磁場を送達するための絶縁電極システムであって、
患者の身体に対する近接配置のための電極エレメントのアレイであって、アレイのフェーズAとして動作する第1のサブアレイと、アレイのフェーズBとして動作する第2のサブアレイとに選択的に分割される、アレイを備え、各電極エレメントは絶縁層を有し、各前記電極エレメントは独立に電気的にアクセス可能であり、他のサブアレイに割り当てられる少なくとも1つの他の前記電極エレメントに関して電磁場を発するように第1のサブアレイと第2のサブアレイとの間で動的に割り当てられるように構成され、各アレイエレメントは電力サブアレイAまたはBのいずれかに向け直すことができる、絶縁電極システム。
【請求項2】
前記複数の電極エレメントの各々は、
第1のLEDライトと、
第2のLEDライトとを含み、前記第1のLEDライトは、前記電極エレメントが前記第1のサブアレイに割り当てられるときに照明するように構成され、前記第2のLEDライトは、前記電極エレメントが前記第2のサブアレイに割り当てられるときに照明するように構成される、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項3】
前記電極エレメントの各々は、
第1の作動可能スイッチと、
第2の作動可能スイッチと、
前記腫瘍治療電磁場を送達するために前記電極エレメントの各々の動的割り当てを実行するために前記第1の作動可能スイッチおよび前記第2の作動可能スイッチと通信する、一意のアドレスを有する集積回路とを含む、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項4】
前記第1の作動可能スイッチおよび前記第2の作動可能スイッチは、フィードスルーワイヤによって互いに通信する、請求項3に記載の絶縁電極システム。
【請求項5】
前記電極エレメントの各々は、前記集積回路と通信するための通信インタフェースを付加的に含む、請求項3に記載の絶縁電極システム。
【請求項6】
前記電極エレメントの選択された組に向けられる前記電磁場を生成するための電場発生器と、
前記電極エレメントの組を選択するための信号を送るように構成されたワイヤレス信号発生器とをさらに備える、請求項5に記載の絶縁電極システム。
【請求項7】
各前記電極エレメントは、前記ワイヤレス信号発生器からのコマンド信号を受信するために前記集積回路に結合されたアンテナおよびワイヤレス通信インタフェースをさらに含む、請求項6に記載の絶縁電極システム。
【請求項8】
作動可能スイッチの組をさらに備え、前記作動可能スイッチの少なくとも1つは前記電極エレメントの各々に対応して割り当てられ、前記作動可能スイッチの組は前記電場発生器に近接して電気的に結合される、請求項6に記載の絶縁電極システム。
【請求項9】
前記複数の電極エレメントの各々は、腫瘍治療電場を実施するときに前記複数の電極エレメントの各々を動的に割り当てるための、第1の作動可能スイッチおよび第2の作動可能スイッチと通信するマイクロプロセッサを含み、前記マイクロプロセッサは各前記マイクロプロセッサにプレロードされる始動構成および順序を規定するためにプログラムされる、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項10】
前記複数の電極エレメントの各々は、
前記電極エレメントに結合された作動可能スイッチと、
前記作動可能スイッチと通信するマイクロプロセッサとを含み、前記作動可能スイッチは前記第1のサブアレイおよび前記第2のサブアレイの一方の専用にされる、請求項2に記載の絶縁電極システム。
【請求項11】
前記複数の電極エレメントの上流に電気的に位置決めされるマスタ電流センサをさらに備え、前記マスタ電流センサは前記システムの電力変動をモニタして、前記アレイの停止を引き起こすように構成される、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項12】
前記複数の電極エレメントの各々に対する周波数範囲、始動構成および始動順序を動的にプログラムするための制御デバイスと、
前記制御デバイスの制御下にある電場発生器とをさらに備え、前記電場発生器は、患者の体内に電磁場を生じさせるために前記電極エレメントにおいて用いるための電磁信号を生成する、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項13】
前記アレイは複数の電流モニタリングセンサを含み、各前記電流モニタリングセンサは、少なくとも1つの電極エレメントにおいて予め定められた電流変動が検出された場合に前記制御デバイスに停止信号を送るように構成され、前記電流モニタリングセンサの各々は前記複数の電極エレメントの対応する1つの上に位置決めされる、請求項12に記載の絶縁電極システム。
【請求項14】
前記制御デバイスは、それに対する前記停止信号が受信された前記少なくとも1つの電極エレメントの使用を止めるように構成される、請求項13に記載の絶縁電極システム。
【請求項15】
前記複数の電極エレメントの各々は、前記第1のサブアレイおよび前記第2のサブアレイの一方に各々割り当てられた2つの導電性セクションの間に分離範囲または絶縁体を含む、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項16】
各前記電極エレメントはさらに、
熱伝導性エポキシ層と、
それに結合されたキノコ形オス拡張部と、
熱伝導性キャップとを含み、前記熱伝導性エポキシは前記電極エレメントを封入し、前記キノコ形オス拡張部は、前記キノコ形オス拡張部を被覆する衣類物品の一部を受取るために前記電極エレメントから外向きに突出し、前記熱伝導性キャップは前記衣類物品の上にはまって前記キノコオス拡張部によって保持される、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項17】
前記アレイは、大型電極エレメントおよび小型電極エレメントの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の絶縁電極システム。
【請求項18】
複数の腫瘍治療電磁場を送達するための絶縁電極アレイであって、
各々が絶縁層を有する複数の電極エレメントを含む、第1のサブアレイおよび第2のサブアレイに選択的に分割されたアレイを備え、各前記電極エレメントは独立にプログラム可能であり、前記第1のサブアレイの少なくとも1つに、次いで前記第2のサブアレイに動的に割り当て可能であり、前記絶縁電極アレイはさらに、
前記電極エレメントを組み込んだ複数のエンドツーエンドエレメントモジュールを有するモジュラシステムと、
前記複数の電極エレメントに対する周波数範囲、始動構成および始動順序を動的にプログラムするように構成された制御デバイスと、
前記周波数範囲内の電気信号を生成するように構成された電場発生器と、を備え、
前記アレイは、前記電場発生器および前記モジュラシステムと電気的に通信する絶縁電極アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍および癌細胞の処置に関し、より特定的には電磁場の印加を伴う処置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電場療法は腫瘍治療電場(TTF’s:Tumor Treating Fields)とも呼ばれ、低強度の電磁場を用いることによる癌処置療法の一種として使用され得る。これらの低強度の電場は1秒当り何千回も、迅速に方向を変える。TTFは電場なので、筋肉の攣縮も、他の電気的に活性化される組織に対する重篤で有害な副作用も引き起こさない。転移性疾患の増殖速度は、典型的に正常な健康細胞の増殖速度よりも大きい。交流電場療法は、この高い増殖速度の特徴を利用するものである。TTFは、細胞の分極可能な細胞内構成要素、すなわち核内の遺伝子材料を2つの姉妹細胞に引き入れる有糸分裂紡錘体を形成するチューブリンを操作することによって、癌細胞の有糸分裂プロセスおよび細胞質分裂を乱す作用をする。TTFは有糸分裂紡錘体微小管の凝集を妨げることによって、細胞分裂を防ぐ。TTFを用いて処置された転移性疾患細胞は、通常4時間から5時間以内にプログラム細胞死に至る。その結果として、腫瘍サイズが有意に低減し、固形腫瘍が完全に消失する可能性がある。TTFは、特定の癌細胞を処置するように調整されるため、正常な細胞を損傷しない。TTF療法は単独の処置法として使用されてもよいし、従来の薬物送達機構と組み合わされてもよい。
【0003】
TTFは、医療用接着剤、衣料物品などの使用を含むさまざまな方法によって皮膚に付着させた絶縁電極を用いて、患者に適用される。絶縁電極には複数の構成があるが、すべてその一方側に高誘電率を有する絶縁材料を有し、他方側に通常は銀である薄い金属コーティングを有する。TTFを生成するために用いられる絶縁電極は常に、両側が類似であるが必ずしも同じではない対で使用される。
【0004】
ここで図1を参照すると、TTFの実施に用いられる典型的な絶縁電極アレイ10が示される。絶縁電極アレイ10は一対のアレイ10Aおよび10Bを含み、これらのアレイはより小型の絶縁電極サブエレメント12からできている。絶縁電極10は典型的に対で働くため、一般的にはサブアレイAおよびサブアレイB、それぞれ10Aおよび10Bが存在する。各々の小型絶縁電極12は絶縁材料14を有し、これは典型的には患者に付着されるセラミックである。リード16は小型絶縁電極12を主リード線18に相互接続し、主リード線18は発生器(図示せず)につながっている。
【0005】
先行技術において、絶縁電極という用語が「Isolect」または単なる「電極(Electrode)」という用語と交換されるときに、混乱が生じる。これらの用語はときとして、「アレイのエレメント」またはアレイ全体の組を記載するために用いられる。先行技術においてはしばしば、上記の用語のいずれかが正確に何を意味するものかが開示されていない。絶縁電極、または絶縁電極の代わりに用いられる用語は、一般的に、図1に示されるような小型の専用絶縁電極サブエレメント12の固定アレイか、または図2に示されるような大型の固体絶縁電極20のいずれかを示すことが当業者に認識されるべきである。
【0006】
TTFを生成するときに、個別に用いられる小型絶縁電極12が機能しない理由は多数ある。その非網羅的なリストは以下を含む。
1.個別に用いられる小型エレメントは、ヒトの胴体を通過する電場を形成するために十分なエネルギーを得ない。たとえば、肺の癌腫瘍を処置するために十分に強力な有効TT電場を生成するためには、約1平方フィートの面積にわたり4アンペア(amp)が必要であり得る。個別に用いられる小型エレメントは、必要なエネルギーを得られない。言い換えると、有効となるために必要とされる最小電流密度(amp/面積)および最小面積が存在する。単一の小型絶縁電極はこれらの要求を満たせない。小型電極をともに近付けたアレイにして置いて、それらが1つの絶縁電極として作用するように同時に通電することによって、この問題が解決される。
2.小型エレメントが肺を通過するために十分なエネルギー(例、4amp/平方フィート)を運搬するように設計される場合、その結果として小面積にそれだけ多くのエネルギーが集中することにより、一般的に患者の皮膚に刺痛が生じて、処置療法を耐えられないものにする。
3.TTFを生成するために小型エレメントが個別に用いられる場合、たとえば胸膜全体に広がる癌などの大面積を処置するときに、それらの小型エレメントの物理的サイズおよび形状によって非能率が生じることになろう。胸腔の内側の胸膜は、一般的に鎖骨範囲のすぐ下から下側の肋骨まで延在する。小型の別個の絶縁電極を使用することで、電場適用範囲の隙間の可能性が増加し、それによって癌細胞を残すおそれがある。
【0007】
図2に示される大型絶縁電極20は適切な電場を生成するが、それらはたとえば、曲げたり座ったりする際に患者の皮膚が伸びるときに拡張できないことなどの、多くの不利益を有する。加えて、大型絶縁電極20はその中心により多くのエネルギーを得る傾向があり、それによって過剰に電力供給された小型絶縁電極と類似の刺痛を引き起こす。これに対し、小型絶縁電極サブエレメントのアレイを備える絶縁電極は、より拡散した態様でエネルギーを届けることができ、かつより容易にヒトの身体に適合できる。
【0008】
一般的に、先行技術文献において、グループの絶縁電極を選択するプロセスとは、より大きいグループからより小さいグループのエレメントを選択することを示す。典型的に図面に示され、実際に行われていることは、より小さいグループを固定された専用アレイにともに配線する目的のために、より大きいグループからより少数の電極を選択することである。TTFを複数の部位から処置範囲に向けてターゲティングする先行技術のプロセスにおいて、それは複数の固定された専用アレイまたは複数の大型電極をターゲティングすることを示している。先行技術文献が、異なる角度から腫瘍をターゲティングするために電極を通じて掃引することに言及するとき、それは異なる固定専用アレイに逐次的態様で通電することを示している。一般的に、先行技術がTTFを操作することを考察するとき、先行技術は固定専用アレイまたは大型電極を示すものと理解される。さらに、先行技術文献は、絶縁電極サブエレメントが単一のアレイおよび単一電力サブアレイAまたはBにおける使用の専用にされることを開示している。これはアレイエレメントがどのように配線されるかによるものである(図1を参照)。これは、転移性疾患の患者を処置するときに深刻な不利益を生じる。
【0009】
ここで図3および図4を集合的に参照すると、転移性乳癌の患者に対する典型的な先行技術のTTF処置構成が示される。黒色の点30として示される転移性癌は、左肺の周りの胸膜全体に広がっていることが示される(図3)。これらの癌細胞は胸膜腔内の流体中を文字どおり自由に浮遊し、多くの新たな小さい腫瘍を形成している。加えて、肝臓にも小さな腫瘍が位置している。
【0010】
図4は、左肺に対する絶縁電極アレイ40および肝臓に対する絶縁電極アレイ42を示し、その各々がそれぞれの対、すなわちサブアレイAおよびBを含む。左肺絶縁電極アレイ40は、そのサブアレイAアレイ40AをそのサブアレイBアレイ40Bとともに始動し、肝臓絶縁電極42は、そのそれぞれのサブアレイAアレイ42Aを42Bとともに始動する。典型的に、癌を異なる角度からターゲティングするために、アレイの交差照射(cross firing)がプログラムされる。交差照射の場合、肝臓絶縁電極アレイ42の前側Aアレイ42Aは、左肺絶縁電極アレイ40Aの後部サブアレイBアレイ40Bとともに始動し、肺絶縁電極アレイ40の前部サブアレイAアレイ40Aは、肝臓後部サブアレイBアレイ42Bとともに始動する。しかし、上記のシナリオにおいては、肺および肝臓の絶縁電極40Aおよび40Bのサイズが顕著に異なるために、交差照射ができないかもしれない。もちろん、多くのその他の交差照射の組み合わせをプログラムできる。先行技術の顕著な制限は、アレイ40または42のいずれの各サブエレメント12も、もっぱらそれぞれのホーム絶縁電極アレイおよびホームサブアレイAまたはBアレイの専用になることである。言い換えると、特定のサブエレメント12はその特定の絶縁電極アレイおよび側部にもっぱら接続されて専用にされており、そのホームアレイの機能以外に用いることはできない。
【0011】
図5は、胸膜および肝臓の癌細胞30が実際に縮小し始めているが、左肺の絶縁電極アレイ40および肝臓の絶縁電極アレイ42の間の臍より上の上側腹膜腔に新たな癌細胞30が現れている様子を描写している。同様に、下側腹膜腔の近くに新たな癌細胞30が現れている。
【0012】
図6に示されるとおり、絶縁電極40および42の間の新たな癌性増殖と戦うためには、領域45に上側腹膜腔の腫瘍を中心とする新たな絶縁電極アレイ44が必要となる。アレイ44はアレイ40および42と重なり合うため、それはエレメント12の頂部にエレメント12を置くことを必要とし、それは適切な電場形成のために必要な皮膚接触を拒むため、これは不可能である。この先行技術の制限が処置の妥協をもたらし、新たな腫瘍を原因疾患として処置できないことによって患者を危険にさらす。2つの絶縁電極40および42のサイズが顕著に異なるため、ここでは肝臓と肺との間の同一平面上の電場は望ましくない。
【0013】
ここで図7を参照すると、TT電場の実例が示されており、ここで領域46Aは有効TTF範囲であり、領域46Bは無効TTF範囲である。この図面は、腫瘍増殖の各範囲を主要な問題としてターゲティングできることの重要性を描写している。TTFはその形状全体にわたって強度が変化しており、それによって電場のかなりの範囲が有効強度より低くなるおそれがある。領域46Bによって示されるとおり、強度が細胞分裂を防ぐためには不十分であるために実際には何ら有益な効果を有さない電場によって腫瘍が覆われる可能性がある。加えて、組織のタイプの極端な変化、および体内の空気ポケットによっても、限られた方向から処置を試みたときに電場形成ができないポケットが生成され得る。
【0014】
図8に示されるとおり、図4~6に示される転移性乳癌の例を続けると、下側腹膜腔の新たな腫瘍増殖に対処するために、新たな絶縁電極アレイ48が追加される。絶縁電極アレイ48は、水平方向に左から右へ、同一平面(co-planner)電場(半月)を発生するように設計される。同一平面電場を形成するために、アレイ48の対、すなわちサブアレイAを表す48AおよびサブアレイBを表す48Bは、患者の同じ前面にともにある。TTFの最良の実施においては、腫瘍を異なる角度から狙うことが腫瘍低減の有効性を増すことが公知である。しかし、専用のアレイエレメントによる先行技術の処置は、この例における患者の処置を損なっている。
【0015】
専用のアレイエレメントによる先行技術の処置は、複数の疾患の場所に適切に対処するために十分な多様性を有さない。鉛直方向の電場を生成するために、肝臓絶縁電極アレイ42および下側腹膜腔絶縁電極アレイ48を用いて第2の同一平面電場を生成することは、右側ではできない。なぜなら、どちらのアレイもAサブアレイの専用にされているからである。さらに、患者の前側に置かれた4つのうち3つのサブアレイ(40A、42Aおよび48A)はもっぱらサブアレイAの専用であるため、多方向の対形成はできない。結合および電場形成を確立するためにはA側およびB側が必要である。加えて、肝臓絶縁電極アレイ42および下側腹膜腔絶縁電極アレイ48のサイズの相違は、所望の電場を形成するには異なり過ぎる。望ましくない電場の集中が生じる(アレイ42の24個のエレメント12に対し、アレイ48の15個のエレメント12)。加えて、前部腹膜腔から後部の肝臓および肺アレイまでの距離は、有効な電場を生じるには遠すぎる。
【0016】
この例において、先行技術は、上側腹膜腔内の癌を未処置のままにし、下側腹膜腔内の癌を処置下に置く。先行技術におけるこうした欠点は、腫瘍消散の欠如、患者の不必要な疼痛および苦痛、さらには死をもたらし得る。先行技術は、転移性疾患の患者における変化に対処するために必要な新たなカスタム専用アレイを常時設計して物理的に構築することにおいて非効率的である。先行技術におけるTTF処置は図4~6および図8に示される患者において失敗し、この患者はおそらくは多量の化学療法に戻り、そのために数週間ではなくとも数日間の入院および最終的には死がもたらされるおそれがある。これを書いている時点では、再発および非反応性になったステージ4の患者に最終的に失敗しない化学療法は存在しない。2014年の時点で、米国癌学会によると、たとえばステージ4の乳癌に対する5年生存率は22%しかない。転移性疾患を処置するために、新たなTTFシステムを適用する必要がある。
【0017】
一般的に、先行技術のアレイ形状を用いたTTF処置は、それらが構築される前に定められる。次いで効率の理由から、これらの最小化されたアレイサイズが物理的に構築される。しかし、転移性疾患を処置するときには、癌が広がるにつれて処置範囲が絶えず変化するため、これは非効率的である。アレイを頻繁に再構成する必要がある。当該技術分野において必要とされるのは、アレイの構成を素早く変更できることである。
【0018】
患者がTTFアレイを着用しているときに重要なのは、エレメントのあらゆる過熱が起こったときの適切な警告を確実にすることである。先行技術のアプローチは一般的に、過熱が起こったときにTTFデバイスを停止する温度センサによってこの問題に対処している。同等に問題となるのは、皮膚への電流漏洩である。疾患の消散を望む一部の患者は、実際には電流漏洩である温点を我慢する傾向があり得る。これらの漏洩は、迅速に対処しなければ水疱形成を引き起こし得る。TTFデバイスにおけるエレメント当りの電流レベルはかなり低いため、電流漏洩は温かい加熱パッドと同様に感じられ得る。もちろん、漏洩を防ぐようにエレメントを適切に構築することが、この問題の防御の第一線である。しかし、TTFアレイは高価であり、場合によっては節約のために一度に数ヵ月間着用され得る。電極エレメントは、毎日の活動の際にさまざまな未知のタイプのストレスを経験し得る。絶縁電極アレイが落とされたりし得ることが予想される。先行技術のシステムは、電流モニタリングシステムを欠いている。
【0019】
アレイの移動および絶縁電極全体の温感は、TTF処置の際に問題となり得る。転移性疾患の患者に対して行うとき、TTFを実施するために全身アレイが着用されると考えられる。睡眠中およびその他の長期間にわたって全身TTFアレイが着用されるとき、それらが最適でない位置に移動することを防ぐことが課題である。たとえば、睡眠中の寝返りおよび回転は、この問題を悪化させ得る。加えて、エレメントからの温感が場合によっては発汗を引き起こすことがあり、それがさらに身体が動いたときにアレイを滑らせる。先行技術は、さまざまなシャツ、医療用接着剤などを含む、皮膚にアレイエレメントを固定する多くの方法を有する。これらの方法は、全身アレイに使用されるときにはあまり成功しない。
【0020】
転移性疾患は、患者の身体全体にわたって文字どおり数十もの腫瘍群を有し得る。たとえば、転移性乳癌は肺、肝臓、腹膜腔、および膵臓に、すべて同時に広がり得る。たとえば肝臓などの大きな臓器は、非常に遠く離れた腫瘍群を有し得る。肺の周りの胸膜および腹膜腔における転移性疾患は、腹部の大きい面積を増殖する癌細胞で攻撃し得る。転移性疾患に対して電場を用いることにより、有効な腫瘍治療電場(TTF)の適用および発生に対する顕著な改善が求められるようになった。
【0021】
当該技術分野において必要とされているのは、必要とされる任意のアレイを定め、かつサブアレイAまたはBのいずれからも電場を印加するために、アレイエレメントの動的再割り当てを可能にするTTFシステムである。
【0022】
当該技術分野において必要とされているのは、アレイエレメントの追加および除去のためのモジュラシステムである。
【0023】
当該技術分野において必要とされているのは、皮膚への電流漏洩または電極の脱離によってもたらされ得る電流の変動が検出されたときに、制御デバイスに停止信号を送る電流モニタリングセンサである。
【0024】
当該技術分野において必要とされているのは、アレイエレメントの温度を低下させながらアレイエレメントを材料に付着させる方法である。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、改善された癌および腫瘍処置療法を提供する。
【0026】
本発明の1つの形態は、患者の身体に対する近接配置のための電極エレメントのアレイを含む、複数の腫瘍治療電磁場を送達するための絶縁電極システムに向けられる。各電極エレメントは絶縁層を有する。各電極エレメントは独立に電気的にアクセス可能であり、かつ少なくとも1つの他の前記電極エレメントに関して電磁場を発するように動的に割り当てられるように構成される。
【0027】
本発明の別の形態は、各々が絶縁層を有する複数の電極エレメントのアレイを含む、複数の腫瘍治療電磁場を送達するための絶縁電極アレイに向けられる。各電極エレメントは独立にプログラム可能であり、第1のサブアレイに、次いで第2のサブアレイに動的に割り当て可能である。モジュラシステムは、電極エレメントを組み込んだ複数のエンドツーエンドエレメントモジュールを有する。制御デバイスは、電極エレメントの各々に対する周波数範囲、始動構成および始動順序を動的にプログラムするように構成される。電場発生器は、周波数範囲内の電気信号を生成するように構成される。電場発生器およびモジュラシステムの両方と電気的に通信するフレックス回路が存在する。
【0028】
本発明のさらに別の形態は、患者に腫瘍治療電場を送達する方法に向けられる。この方法は、患者の上に絶縁電極エレメントアレイを配置するステップと、各電極エレメントに対する周波数範囲、始動構成および始動順序をプログラムするステップと、電極エレメントの少なくともいくつかを第1のサブアレイに割り当て、電極エレメントの少なくとも1つを第2のサブアレイに割り当てるステップと、第1のサブアレイの電極エレメントの少なくとも1つを第2のサブアレイに動的に割り当て、第2のサブアレイの電極エレメントの少なくとも1つを第1のサブアレイに動的に割り当てるステップとを含む。
【0029】
本発明の利点は、本発明のデバイスの各アレイエレメントを、電力サブアレイAまたはBのいずれか、および所望の任意のアレイの組み合わせ、および所望の任意の周波数に向け直すことができることである。
【0030】
本発明の別の利点は、体組成および転移性疾患の広がりに適合し得る汎用システムを可能にすることである。
【0031】
添付の図面とともに本発明の実施形態の以下の説明を参照することによって、本発明の上記およびその他の特徴および利点、ならびにそれらを達成する態様がより明確になり、本発明がよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】固定されたエレメントを有する先行技術の絶縁電極アレイの図である。
図2】先行技術において用いられる大型固体絶縁電極を示す図である。
図3】患者における腫瘍の場所を示す図である。
図4】患者への先行技術の電極アレイの配置を示す図である。
図5】胸膜および肝臓の癌細胞が縮小し始めているが、左肺および肝臓の間の臍より上の上側腹膜腔、ならびに下側腹膜腔に新たな癌細胞が現れている様子を描写する図である。
図6】上側腹膜腔の腫瘍を中心とする新たな絶縁電極アレイの必要性、および先行技術を適応させることの困難さを示す図である。
図7】先行技術のシステムにおいて、処置の有効領域と無効領域とが存在するTT電場を示す図である。
図8】水平方向の左から右に、同一平面電場の半月電場を発生する絶縁電極アレイを示す図である。
図9】絶縁電極アレイの形の本発明の実施形態を示す図であって、これによって各サブエレメントは任意のアレイ構成で通電するようにプログラム可能であり、かつAサブアレイまたはBサブアレイにプログラム可能である。
図10】電極エレメントが通信インタフェースをさらに含む、本発明の第2の実施形態を示す図である。
図11】各電極エレメントが柔軟なワイヤレスアンテナを含む、本発明の第3の実施形態を示す図である。
図12】集積回路およびリレーが電場発生器と同じケース内にある、第4の実施形態を示す図である。
図13】各電極エレメントがマイクロプロセッサを含む、本発明に従う第5の実施形態を示す図である。
図14】各電極エレメントが単一のリレーを含む、本発明の第6の実施形態を示す図である。
図15】各実施形態が追加の安全対策として自動電流センサを含み得る様子を示す図である。
図16】簡略化した電極アレイエレメントを示す図である。
図17図3~8において用いた転移性乳癌の患者例に対する本発明の適用を示す図である。
図18】アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTF 6ステップ処置順序の第1のステップを示す図である。
図19】アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTF 6ステップ処置順序の第2のステップを示す図である。
図20】アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTF 6ステップ処置順序の第3のステップを示す図である。
図21】アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTF 6ステップ処置順序の第4のステップを示す図である。
図22】アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTF 6ステップ処置順序の第5のステップを示す図である。
図23】アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTF 6ステップ処置順序の第6のステップを示す図である。
図24】モジュラシステムの形の、本発明に係る別の実施形態を示す図である。
図25】各電極エレメントに電流モニタリングセンサが含まれ得る、本発明に係る第8の実施形態を示す図である。
図26】アレイの移動を防ぎ、かつ全体の温感を最小化する、本発明に係る第9の実施形態を示す図である。
図27】大型の単一電極エレメントを組み込んだ、本発明に係る第10の実施形態を示す図である。
図28】患者の変則的な体形に適応させるために用いられる、本発明に係る絶縁電極アレイを示す図である。
図29】本発明に係る動的再割り当てを用いたTTF処置の一意かつ向上した能力を示すフローチャートである。
【0033】
いくつかの図にわたって、対応する参照文字は対応する部分を示す。本明細書に示される例証は本発明の実施形態を示しており、こうした例証はいかなる態様でも本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ここで図9を参照すると、絶縁電極アレイ50の形の本発明の実施形態が示されている。(例示の目的のために前部にある)サブアレイ50Aおよび(後部に示される)サブアレイ50Bを有するアレイ対の形の絶縁電極アレイ50は、多層フレックス回路54によって制御デバイス56および電場発生器58に相互接続された複数の絶縁電極エレメント52を含む。この特定の実施形態における多層フレックス回路54は、リードAと、リードBと、通信ワイヤと、接地ワイヤ(明瞭にするために図示しない)とを含む。しかし、多層フレックス回路54はこの構成に限定されない。図9は絶縁電極アレイ50を示しており、ここで制御デバイス56は、アレイエレメント52の各々に動的な態様で個別に送られる(周波数範囲を含む)信号を電場発生器58に送るようにプログラムされ、さらにアレイエレメント52は特定の構成および順序で使用される。TTFを実施するときにアレイエレメントの動的再割り当てを達成するための多数のやり方があることが認識され得る。
【0035】
各絶縁電極エレメント52は、2つの作動可能スイッチに取り付けられた集積回路60を含み、これらのスイッチは、2つのリレー62A(本明細書においてはフェーズAと呼ばれる)および62B(本明細書においてはフェーズBと呼ばれる)の形態であってもよい。リレー62Aおよび62Bを相互接続するために、フィードスルー64が用いられる。各集積回路60は一意のアドレスを有する。さらに、各エレメント52は2つの小型低輝度LEDを有する。すなわち、フェーズAが使用されているときに点灯するように構成された第1のLED66Aと、フェーズBが使用されているときに点灯するように構成された第2のLED66Bとである。アレイエレメント52の所望の構成および始動順序が制御デバイス56に入力される。制御デバイス56は、コンピュータインタフェース(図示せず)を含んでもよい。制御デバイス56は、各絶縁電極エレメント52をオンまたはオフにするよう指示し、かつそれが所与のアレイのフェーズAまたはフェーズBで使用されるように指示する。各絶縁電極エレメント52は、動的に再割り当てされ得る。
【0036】
ここで付加的に図10を参照すると、本発明の第2の実施形態が示されており、絶縁電極アレイ70はサブアレイ70A(前)および70B(後)によって形成されている。この実施形態において、通信ワイヤは使用されていないか、または多層フレックス回路54から取り除かれており、ここで各エレメント52は集積回路60とともに通信インタフェース72を含む。各エレメント52に所望のコマンドを向けるために、TTFとは異なる周波数で多層フレックス回路54のAおよびBリードワイヤに信号が送られる。加えて、電場発生器58は集積回路60に信号伝達するためのコマンド発生器74を含む。
【0037】
ここで図11を参照すると、本発明の第3の実施形態が示されており、絶縁電極アレイ80はサブアレイ80A(前)および80B(後)によって形成されている。この実施形態において、各個別エレメント52は、TTF電場発生器58内のワイヤレス信号発生器86からのコマンドの受信を可能にする、柔軟なワイヤレスアンテナ82とワイヤレス通信インタフェース84とを含む。
【0038】
ここで図12を参照すると、絶縁電極アレイ90、前部サブアレイ90Aおよび後部サブアレイ90Bの形態の、第4の実施形態が示される。この実施形態において、薄いアレイエレメント92に対応する各集積回路60およびリレー対62A、62Bは、TTF発生器96と同じケース94内に位置決めされる。これによって、TTF発生器96は組み込み動的再割り当てを有する。電場発生器96からのすべてのワイヤは、多層フレックス回路54または任意のその他の好適なキャリアを通って、各々の薄いアレイエレメント92に向かって延びる。各々の薄いアレイエレメント92は、自身の電力および通信ワイヤ(図示せず)を有する。薄いアレイエレメント92は、集積回路60およびリレー62A、62Bを収容しない結果として、電極エレメント52よりもかなり薄くなる。よって、薄いアレイエレメント92は皮膚からの突起が少ないことを必要とする一部の患者に適応する。たとえば、薄いアレイエレメント92は肥満の個人が眠るときの不快感を少なくする。
【0039】
ここで図13を参照すると、前部サブアレイ100Aおよび後部サブアレイ100Bを対にした絶縁電極アレイ100の形態の、第5の実施形態が示される。この特定の実施形態において、集積回路60は小型マイクロプロセッサ102に置き換えられている。この実施形態は、予めプログラムされた始動状態(アレイ構成および始動順序)を各アレイエレメント52にプレロードすることを可能にする。これは、より高速のスイッチングのためにすべてのアレイエレメント52に同時にブロードキャスト通信することを可能にする。各始動状態には1桁または2桁のIDが与えられる。この始動IDコード(または状態ID)は、一度にすべてのアレイエレメント52に適切にブロードキャストされる。集積回路のみを用いて、おそらくは何百もの始動状態の行を達成するために、1つのメッセージが送られる。
【0040】
ここで図14を参照すると、第6の実施形態、絶縁電極アレイ110、サブアレイ110A(前)および110B(後)が示される。この実施形態は、アレイエレメント52当り単一のリレー112を用いる。リレー112を操作するために、図14に示されるとおりのマイクロプロセッサ102または集積回路60が用いられてもよい。各アレイエレメント52に電力を供給するために、リレー112にフィードスルー114が結合される。リレー112を用いることは、アレイ構成に対する動的再割り当てを保つ効果を有するが、それはアレイエレメント52をAまたはBフェーズ(そのいずれか一方が前または後にあってもよい)のいずれかの専用にする。同一平面電場が必要とされないと考えられるとき、これは有用である。
【0041】
ここで付加的に図15を参照すると、前述の実施形態のいずれかにおいて、マスタ電流センサ116が用いられてもよい。マスタ電流センサ116は、所与の絶縁電極アレイのヘッドまたは所与の電場発生器内に位置決めされる。言い換えると、マスタ電流センサ116は電極アレイエレメント52の前の上流に位置決めされる。マスタ電流センサ116は、損なわれたアレイエレメント52が電流を患者の皮膚に直接流したことを示し得る異常な電力の変動をモニタする。こうしたことが発生すると、マスタ電流センサ116はシステム全体を自動的に停止する。身体に直接流れる電流は非常に小さいアンペア数でしかない(ほとんどの構成においては最大0.13amp)。しかし、これはなおも望ましくないため、自動停止が正当化される。
【0042】
当然のことながら、TTFを実施するときにアレイエレメント52の動的再割り当てを達成する上記方法は、多層フレックス回路54なしでも、代わりに各アレイエレメント52に対する通常の配線および小型硬質印刷回路基板(図示せず)を使用することによって達成され得る。将来の実施形態は、フレックス材料に直接スイッチング回路を印刷することによって達成されるかもしれない。アレイエレメント52との通信と、各アレイエレメント52の実際の通電との間に起こり得る干渉を避けるために、上の実施形態の各々は間欠メッセージ通信を用いてもよい。すべての構成は、さまざまな形状およびサイズのエレメント52によって達成され得る。所与のアレイにおけるエレメント52の数は、少なくて2から最大500またはそれ以上であってもよい。加えて図16に示されるとおり、本発明の別の簡略化した実施形態は、通常は銀コーティングである絶縁体の上にある伝導性範囲122を、AおよびB専用セクションであるそれぞれ122Aおよび122Bに分離する、特別に設計されたアレイエレメント120を使用してもよい。ゾーンセパレータ124は、この区別を視覚化することを助ける。加えて、リードAはんだ点126AおよびリードBはんだ点126Bはそれぞれ、122A、122Bセクションの専用であることを描写している。この実施形態はアレイの選択肢が少なくなるが、同じエレメント120の側部を横切る複数の使用を可能にする。
【0043】
図17も、前の例(図3~8)で用いられた転移性乳癌の患者を示す。各々の小型絶縁電極エレメント52は、この特定の患者の癌に特定的に対処する動的アレイへの動的再割り当ての準備ができている。言い換えると、すべてのエレメント52はともにフェーズAおよびフェーズBと直列に配線されており、任意のアレイ構成をフェーズAまたはBのいずれかに動的に再割り当てするために利用可能である。アレイエレメントの動的再割り当てを用いたTTFの配置は、特に転移性疾患に対する多くの処置の問題を解決する。他のシナリオの中でも特に、動的割り当ては、電極エレメント52のいくつかに対して平面状処置療法を使用し、次いでそれらの同じエレメントを再割り当てして身体の一方側から他方側への電場を確立し得ることを可能にする。
【0044】
図18から図23は、アレイエレメント52の動的再割り当てを用いたTTF処置順序を示す。この特定の順序は、3秒間のうちに行われる6ステップ始動順序(始動当り0.5秒)を用いる。(平行アレイを用いて)腹部を通じて肝臓、肺および上側腹膜腔を処置するために、電磁気アレイが形成される。半月電場(同一平面アレイ)によって下側腹膜腔を処置するために、アレイが形成される。いくつかのエレメントは異なるアレイに対して複数回用いられ、いくつかはAおよびBフェーズの両方に対して用いられる。黒一色はAフェーズを示し、灰一色はBフェーズを示す。図18はステップ1から処置順序を開始しており、肝臓を処置している。図19はステップ2を示し、左肺を前から後に処置している。図20はステップ3を示し、上側腹膜腔を処置している。なお、上側腹膜腔に対する電磁気アレイを形成するために使用されているのと同じエレメント52の多くは、1.5秒よりわずかに前には左肺および肝臓アレイに使用されていたものである。動的再割り当ては、患者に対してこのタイプの向上した処置を可能にする。図21はステップ4を示し、水平方向の同一平面電場によって下側腹膜腔を処置している。図22はステップ5を示し、鉛直方向の同一平面電場によって下側および上側腹膜腔を処置している。TTFの研究においては、異なる角度から固形腫瘍をターゲティングすることが処置の有効性を高めることが周知である。前述のとおり、先行技術のエレメントは典型的に単一のアレイおよびただ1つの電力側の専用にされていたため、先行技術は処置ステップ5を含ませることができなかった。上の順序は、1.5秒よりわずかに前に異なるアレイおよび電力側に用いられていたエレメント52を組み込んでいる。図23はステップ6を示し、腹部を通る斜めの電場によって下側腹膜腔を処置している。
【0045】
多くの異なる角度から左肺、肝臓および腹膜腔をターゲティングするために、ここで上記プロセス順序を繰り返すか、または修正してもよい。これが可能なのは、アレイエレメント52を任意のアレイ構成およびいずれかの電力側に動的に再割り当てするためである。先行技術は、この種の柔軟性を有さない。先行技術が用いる各エレメントは単一アレイおよび単一電力側の専用にされるため、先行技術は制限される。
【0046】
ここで図24を参照すると、多層フレックスコネクタ132を用いたカスタムモジュラシステム130が示される。多層フレックスコネクタ132は、より大量の電流および低い通信信号を通すことができるため、アレイエレメント52を追加および除去するためのモジュラシステムを可能にする。多層フレックスコネクタ132は、それぞれのオスおよびメスコネクタ134A、134Bを介して、エンドツーエンドエレメントモジュール136を相互接続する。よって、これらのプラグインエレメントモジュール136は随意に追加または減少され得る。図24は4エレメントモジュール136を示すが、本発明に従って、エンドツーエンドで連結されるエレメント52の数は変更され得る。
【0047】
図25に示されるとおり、電流漏洩に対処するために、顕著な電流の変動が検出されたときに制御デバイス56に停止信号を送る複数の電流モニタリングセンサ140が含まれる。電流モニタリングセンサ140は、通信リード(図示せず)を含み、各エレメント52上に位置する。本発明に従うと、電流モニタリングセンサ140は、有線接続であっても、および/またはワイヤレス通信してもよい。加えて、電流モニタリングセンサ140は各エレメント52の代わりに主要接合部に置かれてもよい。センサ140によって検知される電流が予め定められた量を超えるとき、本発明は特定の電極エレメント52の使用を停止してもよい。次いで本発明は、残りの電極エレメント52を用いて患者の処置を達成するための修正療法を計画することによって、たとえ特定の電極エレメント52がオフラインにされても処置を完了できるようにする。
【0048】
ここで図26を参照すると、アレイエレメント52の温度および滑りを低減させるための方法および実施形態が示される。絶縁電極エレメント52の電子機器は、キノコ形のオス拡張部154とともに熱伝導性エポキシ152に封入される。アレイエレメント52は、医療用接着剤(図示せず)を用いて患者の皮膚に取り付けられる。次いで、シャツ156の形の、軽いがぴったりした弾性衣類物品が絶縁電極アレイ全体の上にかぶせられる。複数のキノコ形拡張部154は、弾性シャツ156にぴったり包まれてエレメント52から外向きに突出する。次いで、伝導性キャップ158が各エレメント52に対するシャツ156およびキノコオス拡張部154の上にはめられる。熱伝導性キャップ158は熱を伝導し、かつ電極エレメント52をより静止した位置に保持することを助ける。
【0049】
ここで図27を参照すると、同様に動的に再割り当て可能にされた大型の単一エレメント172を有する絶縁電極アレイ170が示される。絶縁電極アレイ170はさらに多層フレックス回路54と、集積回路60と、リレー62Aおよび62Bと、フィードスルーワイヤとを含み、付加的に電流モニタリングセンサ140が含まれてもよい。この実施形態には2つの大型電極エレメント172が存在するが、付加的な大型エレメント172および/または小型エレメント52がさらに組み込まれてもよい。上記で考察した理由から、TTF処置の実行においては、一般的により小さい絶縁電極エレメント52で構成されたアレイが好ましいが、特定の処置法においては動的再割り当てを伴う大型固体絶縁電極も有用であり得る。
【0050】
動的再割り当てを用いるときのTTFを実施するための始動構成および順序を定めるためのプロセスは、体組成および処置範囲の両方におけるアレイの最適化に集中する。患者の身体に絶縁電極アレイを置くことは、各個別の患者に対する一意のプロセスである。個人の体組成を与えられると、アレイエレメント52を均一に適用することはほとんどできない。
【0051】
アレイエレメント52の動的再割り当ての本TTF処置発明は、キャンバシング波またはその他のカスタム構成による全身処置への門戸を開くものである。これは、たとえば患者の肺、胸膜、肝臓および膵臓に同時に広がった乳癌などの転移性疾患の患者にとって最も有益で救命になることである。しかし、こうした処置を実行するために必要とされる全身アレイは、一様なやり方で患者の身体に適合することはめったにない。各人物の身体の体形、骨の構成または肥満症による変則的な性質は、アレイエレメント52を補償角度で置くことを必要とする。これらの角度は、特殊な電場設計(例、同一平面電場)によって補償される必要がある。本発明の動的再割り当てを用いてTTFを実施することによって、変則的な体形により効果的に(affectively)適応できるだけでなく、癌再発の可能性を最小化するために患者全体にわたる全身掃引を行うことができる。
【0052】
ここで図28を参照すると、人物の変則的な体形に適応するためのTTF絶縁電極アレイ180の不均一な適用の例が示される。絶縁電極アレイ180は、患者の脂肪層を通る特殊な同一平面電場始動順序を生じさせるために、同一平面フェーズAおよびフェーズB、それぞれ182Aおよび182Bを用いる。加えて、絶縁電極アレイ180によって生成される鉛直方向の同一平面電場184の一般的な形状が示されている。
【0053】
本発明の実施形態の理解においては、アレイエレメントの動的再割り当てがアレイエレメント52の行または列を割り当てることによって達成され得ることが認識されるべきである。これは、マイクロプロセッサおよびリレー対を、各ディスクエレメント52に関連付ける代わりに行および/または列に関連付けるようにして戦略的に配置することによって行われ得る。いくつかの構成において、このアプローチはアレイのコストを低減させ得る。
【0054】
加えて、各アレイエレメント52のリレー対と直列にプログラマブル減衰器を置くことによって、各アレイエレメント52の電力レベルを必要に応じて調整できるようにしてもよいことが予期される。異なる体幅にアレイエレメントを共有させるとき、これは有用な特徴である。たとえば、身体の一方側から他方側(ほとんどの患者において胴体の最も広い部分)に電場を生成することが意図されたプログラム側部アレイは、その端縁におけるアレイエレメントを、肝臓の上に前から後への電場を生成するためのプログラムアレイと共有してもよい。有効となるために十分なセンチメートル当りのボルト数を有する電場を生成するための電力要求は、前から後への電場よりも側部から側部への電場の方が多くなり得る。調整可能な電力の特徴によって、これらのタイプのカスタムTTF要求を必要とする腫瘍をより良好に処置するために、電力を動的な態様で調整することが可能になる。
【0055】
体形の角度を補償するための特殊な電場設計を生成する現象は、動的再割り当てを用いたTTF処置に対して人物を適合させる一意のプロセスを必要とする。図29のフローチャートは、任意のアレイフェーズAまたはBへのアレイエレメントの動的再割り当ての本発明の方法200を用いたTTF処置の、一意の追加の能力の概略を示すものである。
【0056】
ステップ202において、本発明の1つの電極アレイが、変則的な体形の調整を行う患者の上に置かれる。ステップ204において、最も癌に冒されている範囲に対して電場始動設計が最適化される。所望の電場の形状は、癌細胞の形状、場所および広がりによって示唆される。この最適化によって、その他の可能な変数の中でも特に、電力レベルの選択、動的アレイで働く電極の選択、電極の割り当ての持続時間、信号の周波数、信号の持続時間、および信号の繰り返しがもたらされる。
【0057】
ステップ206において、たとえば脂肪層などの変則的な体形に適応するように、電場設計が調整される。この結果、癌範囲の最適化された電場適用範囲が得られる。ステップ208において、最も活動している癌範囲に焦点を合わせて始動順序が行われ、有効電磁場の存在によって癌細胞の複製が妨げられるように規定された持続時間だけ継続される。次いでステップ210において、周辺範囲に焦点を合わせたより広い始動順序が行われる。本発明の動的再割り当て能力のために、ステップ208および210は交互にされてもよいし、処置当り複数回繰り返されてもよいし、順次行われてもよい。処置後、ステップ212において有効性が評価されて、以後の処置に対して電場の特徴をどのように変更するかに関する洞察が提供される。ステップ214において、患者の処置を続ける必要があるかどうかを結論付ける判定が行われ、もしそうであれば次の処置は、電極アレイが取り外されているときにはステップ202から始まり、電極アレイが患者に残されているときにはステップ204から始まる。
【0058】
本明細書における「アレイ」という用語の使用は、状況によって異なる意味を有する。身体上の電極のグループ化について述べているときの1つの意味では、それは電極の物理的な行および列を広く示すか、または行列になっているか否かに関わらず、少なくともそれらの配置を示す。電磁場の形成において用いられるアレイは、所望の電場を生成できるように動的に選択されており、これは隣接していてもいなくてもよい電極の部分集合が選択されて用いられることを意味する。
【0059】
少なくとも1つの実施形態に関して本発明を説明したが、本発明はこの開示の趣旨および範囲内でさらに修正され得る。したがって本出願は、その一般的原理を用いた本発明の任意の変形、使用、または適合を包含することが意図されている。さらに本出願は、本発明が属する技術分野における公知または通例の実施の範囲内であり、かつ請求項に記載されているような本開示からの逸脱を包含することが意図されている。
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