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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】凍結乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20220725BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20220725BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20220725BHJP
   A61J 1/20 20060101ALI20220725BHJP
   B65D 30/22 20060101ALI20220725BHJP
   B65D 33/01 20060101ALI20220725BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C12N1/04
A01N1/02
A61J1/10 333A
A61J1/20 314B
B65D30/22 F
B65D33/01
C12M1/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020540696
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 US2018054943
(87)【国際公開番号】W WO2019074886
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】62/569,858
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/571,087
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506313866
【氏名又は名称】テルモ ビーシーティー バイオテクノロジーズ,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Terumo BCT Biotechnologies, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】ワイマー、カーク エル.
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、ネイト ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィンカ、デニス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】パラキニンカス、ケスタス ピー.
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-517335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0158652(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
A61J1/00-3/10
B65D30/00-33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面部と、背面部と、ポート領域を有し、凍結乾燥される液体、固体、気体、又はそれらの組み合わせを収容した非通気性セクションと、通気性膜を有し、気体のみを収容する通気性セクションと、前記非通気性セクションと前記通気性セクションとの間に配置され、前記非通気性セクションと前記通気性セクションとの間で前記液体、前記固体又は前記気体の移動を阻止するために一時的又は永久的なシールを形成するように構成された閉塞ゾーンと、を有する、マルチパート凍結乾燥容器を用いた流体の凍結乾燥方法であって、該方法は、
前記閉塞ゾーンに前記非通気性セクションを前記通気性セクションから分離する一時的なシールを形成するステップと、
液体を前記非通気性セクションに投入するステップと、
前記液体を凍結するステップと、
前記一時的なシールを開放して、前記非通気性セクションと前記通気性セクションとの間の蒸気移動を可能にするステップと、
前記凍結させた液体に、真空下で熱エネルギーを加えるステップと、
を有し、
前記通気性セクションは、気体のみを収容するように構成された、
凍結乾燥方法。
【請求項2】
請求項記載の凍結乾燥方法において、さらに、気体を前記非通気性セクションに投入して、前記投入した液体の上側に蒸気空間を形成するステップを有する、
凍結乾燥方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の凍結乾燥方法において、該方法はさらに、pH調整ガスを前記非通気性セクションに投入してpHを調節するステップを有する、
凍結乾燥方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の凍結乾燥方法において、さらに、凍結乾燥装置の前記マルチパート凍結乾燥容器を収容する凍結乾燥容器チャンバを大気圧の分圧までガス充填するステップを有する、
凍結乾燥方法。
【請求項5】
請求項記載の凍結乾燥方法において、前記凍結乾燥容器チャンバを大気圧の分圧までガス充填する前記ステップは、pH調整ガスを用いて行われる、
凍結乾燥方法。
【請求項6】
請求項記載の凍結乾燥方法において、さらに、前記閉塞ゾーンにおいて前記マルチパート凍結乾燥容器を閉塞するステップを有する、
凍結乾燥方法。
【請求項7】
請求項記載の凍結乾燥方法において、さらに、前記非通気性セクションの内部が大気圧の分圧の状態で前記マルチパート凍結乾燥容器の前記通気性セクションに恒久的なシームを形成するステップを有する、
凍結乾燥方法。
【請求項8】
請求項記載の凍結乾燥方法において、さらに、前記マルチパート凍結乾燥容器の前記通気性セクションを除去するステップを有する、
凍結乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年10月9日に米国特許商標局に出願された米国仮特許出願第62/569,858号(タイトル:凍結乾燥血液製剤用凍結乾燥貯蔵容器)、及び2017年10月11日に米国特許商標局に出願された米国仮特許出願第62/571,087号(タイトル:凍結乾燥血液製剤用凍結乾燥貯蔵容器)の優先権を主張するものであり、該米国特許仮出願の全体は、ここでの開示により明確に本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、米国国防総省から授与された許可番号H92222-16-C-0081に基づく米国政府の支援を受けて行われた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本出願は、流体を凍結乾燥(フリーズドライ)及び保存する装置及びそれに関連する方法を説明する。該装置は、充填、凍結乾燥、保管、再構成、注入のステップ全体にわたって変化していく、継続的に変化する多区画タイプの凍結乾燥容器である。該方法によって、凍結乾燥プロセス全体を通じて、該装置は操作される。本出願の実施形態では、流体の凍結乾燥は、多区画凍結乾燥容器内において、その場で行われる。
【0004】
ヒト及び動物の血液並びに血漿のような関連する血液製剤を含む任意の適切な流体は、本開示に記載される装置及び技術を使用して、凍結乾燥及び保存される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
凍結乾燥の利点、及び凍結乾燥製剤の保管と輸送の関連する利点は、長年にわたって知られている。しかしながら、凍結乾燥が血液及び血液関連分野でより広く採用されるには、いくつかの技術的な課題に取り組む必要がある。そのような課題の1つとして、多くの方法において、大きくて壊れやすいガラス容器が使用されることがある。この点については、柔軟性のあるポーチは改善となるであろう。さらに、現在の方法では、凍結乾燥機の凝縮器への蒸気の透過が制限されているため、乾燥時間が長くなるという問題がある。他の課題としては、現在の凍結乾燥技術には、血液と技術者の両方が汚染を受ける可能性がある経路が存在することがある。また、通気性膜を含む可撓性容器を利用する技術に固有の問題として、凍結乾燥プロセス全体を通じて起きる通気性膜の湿潤と付着汚染(fouling)(つまり、閉塞)によって引き起こされる蒸気流の制限であり、これによって、凍結乾燥時間が相対的に遅くなる。さらに、現在の装置は、通気性要素と非通気性要素が配置されており、十分な総通気表面積を提供できず、性能が低下する。
【0006】
現在の技術に関連するこれら及び他の問題のために、血液及び血液製剤を凍結し、凍結した血液及び血液製剤を保存及び輸送する従来のアプローチは、依然として最も一般的に展開されているアプローチである。問題として、血液や血液製剤の従来の凍結、保管、輸送では、タンパク質の完全性を維持するために、血液を通常-20℃以下の温度に維持する必要がある。そのため、コールドチェーン管理が必要になり、従来の方法に関連するコスト及びロジスティクス上のハードルが大幅に増加する。例えば、コールドチェーン管理では、注文を効率的に処理し、輸血前に解凍する必要がある冷凍製剤の信頼性の高い輸送と配送を提供できるシステムとプロトコルの実装が必要となる。これらの要件は、リソースの不足、及び今説明したコールドチェーンロジスティクスの複雑な要件に対応できるインフラストラクチャの不足に苦しんでいる開発途上地域では、大きな課題となる。多くの場合、そのような課題の結果、途上地域においては、輸血を切実に必要とする患者が存在することになる。従って、それらの優勢にもかかわらず、従来の方法は、特に血液が長期間の貯蔵を必要とする又は長距離にわたる温度制御された輸送を必要とする場合に関連して、不利な点が存在する。
【0007】
従って、血液や血液製剤を凍結、保存、輸送する従来の方法に代わるものとして、凍結乾燥に強い関心が存在する。血漿等の凍結乾燥血液製剤は、従来の製剤よりも質量がはるかに小さく、保存可能期間が長く、大規模なコールドチェーン管理や長時間の解凍手順を必要としない。さらに、凍結乾燥血液製剤は、その使用時に簡単且つ迅速に再構成できるため、戦場環境、緊急対応時、及び様々な臨床応用において、凍結乾燥血液製剤は好ましい。これら及び他の理由により、血液及び血液製剤に関連して現在の凍結乾燥装置及び技術を改善する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の特定の実施形態は、これら及び他の事項を考慮して提供されるが、本明細書で論じられる特定の問題は、本開示の実施形態の適用性を決して限定するものとして解釈されるべきではない。
【0009】
この節は、本出願のいくつかの実施形態の態様を簡略化した形で紹介するために提供されており、請求される発明の全ての重要又は必須の要素の網羅的なリストを含むものではなく、請求項の範囲を限定するものでもない。
【0011】
本発明の一態様は、前面部と、背面部と、ポート領域を有し、凍結乾燥される液体、固体、気体、又はそれらの組み合わせを収容した非通気性セクションと、通気性膜を有し、気体のみを収容する通気性セクションと、前記非通気性セクションと前記通気性セクションとの間に配置され、前記非通気性セクションと前記通気性セクションとの間で前記液体、前記固体又は前記気体の移動を阻止するために一時的又は永久的なシールを形成するように構成された閉塞ゾーンと、を有する、マルチパート凍結乾燥容器を用いた流体の凍結乾燥方法を提供する。該方法は、前記閉塞ゾーンに前記非通気性セクションを前記通気性セクションから分離する一時的なシールを形成するステップと、液体を前記非通気性セクションに投入するステップと、前記液体を凍結するステップと、前記一時的なシールを開放して、前記非通気性セクションと前記通気性セクションとの間の蒸気移動を可能にするステップと、前記凍結させた液体に、真空下で熱エネルギーを加えるステップと、を有し、前記通気性セクションは、気体のみを収容するように構成される。
【0012】
本出願の他の実施形態は、流体を凍結乾燥するための追加の方法及び装置及びシステムを含む。流体は、ヒト又動物の血漿を含む任意の適切な液体である。
【0013】
非制限的且つ非包括的な実施形態は、添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の平面図である。
図1B図1Bは、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の斜視図である。
図2A図2Aは、本出願の実施形態による他の凍結乾燥容器の平面図である。
図2B図2Bは、本出願の実施形態による他の凍結乾燥容器の斜視図である。
図3A図3Aは、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の非通気性セクションの平面図である。
図3B図3Bは、図3Aの凍結乾燥容器の非通気性セクションのポート領域の拡大図である。
図4図4は、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の通気性セクションの平面図である。
図5図5は、図4の凍結乾燥容器の通気性セクションのホールドオープン装置(HOD)の断面図である。
図6図6は、図4の凍結乾燥容器の通気性セクションのHOD取付空間の拡大図である。
図7図7は、本出願の実施形態による閉塞ゾーンの他の構成の側面断面図である。
図8図8は、本出願の実施形態による凍結乾燥容器において断続的に行われる閉塞を説明するワークフロー概略図である。
図9図9は、本出願の他の実施形態による、凍結乾燥容器において断続的に行われる閉塞を説明するワークフローの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願に記載されている原理は、以下の詳細な説明及び添付の図面に描かれている実施形態を参照することによってさらに理解することができる。特定の特徴が、特定の実施形態に関して以下に示され、説明されるが、本出願は、提供される特定の特徴又は実施形態に限定されない。さらに、以下の実施形態は、ヒト又は動物の血液又は血液成分を凍結乾燥及び保存することに関して説明される。しかしながら、そのような記述は単なる例示である。当業者であれば、本開示の実施形態が、任意の適切な液体の凍結乾燥に関連して使用され得ることを理解するであろう。
【0016】
本出願の実施形態は、流体を凍結乾燥及び保管し、従ってクリーンルームの必要性をなくすための、無菌流体経路を含む、閉鎖系の無菌容器を指す。さらに、本出願に記載されている実施形態は、Millrock TechnologyによるEPIC Small Production Lyophilizer等の多くの従来の市販されている凍結乾燥機と組み合わせて実装されてもよい。従って、本出願で説明される装置及び技術は、既存の装置及び技術よりも広く販売され、広くアクセス可能であり得る。列挙された様々な実施形態のさらなる利点は、本開示全体にわたって示される。
【0017】
「マルチパート容器」、「容器」、「凍結乾燥容器」、「マルチパート凍結乾燥容器」等の用語は、本開示全体を通して互換に使用される。同様に、材料及び膜に関して「通気性」という用語は、「半透性」という用語と交換可能に使用される場合がある。「非通気性」という用語は、「非透過性」という用語と交換可能に使用される場合がある。
【0018】
図1A及び1Bは、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の平面図及び斜視図である。
【0019】
図1Aを参照すると、凍結乾燥容器100は、ポート領域104を含む非通気性セクション102と、通気性膜108及び内側膜溶着部110を含む通気性セクション106と、外周溶着部112と、閉塞ゾーン114と、を有する。
【0020】
図1A及び図1Bに示すように、凍結乾燥容器100は基本的に長方形であり、閉塞ゾーン114で接合された2つの主要セクション、すなわち、非通気性セクション102及び通気性セクション106から構成される。非通気性セクション102及び通気性セクション106は、自然状態又は通常の状態で互いに連通し、共同で容器の空洞を構成している。ポート領域104は、非通気性セクション102内において、1又は複数の流体ポートを組み込むように構成された領域を定義する。通気性膜108は、無菌シールである内側膜溶着部110によって通気性セクション106に組み込まれる。外周溶着部112も無菌シールであり、ポート領域104を含む凍結乾燥容器100の外周を規定する。
【0021】
非通気性セクション102及び通気性セクション106の両方を含む、「L」として示される凍結乾燥容器100の全長は、約50cmである。実施形態では、Lは、棚型凍結乾燥機又は他の凍結乾燥機への容器の配置に適した任意の寸法、又は蒸気の流れ抵抗を増減するのに必要な任意の寸法、又は冷凍された液体の厚さを増減するのに任意の寸法であってよい(例えば、30cm~70cm、より好ましくは40cm~60cm)。「W」と表記されたコンテナの幅は約15cmである。実施形態では、Wは、10cm~20cm、又はより好ましくは13cm~17cmのように、任意の適切な寸法であってよい。図示の例では、閉塞ゾーンの中点から測定された非通気性セクション106の長さは、約28cmである。実施形態では、非通気性セクション106の長さは、20cm~40cm、又はより好ましくは24cm~32cm等、任意の適切な寸法であってよい。閉塞ゾーンの中点から測定された通気性セクション102の長さは、約22cmである。実施形態では、通気性セクション106の長さは、10cm~30cm、又はより好ましくは18cm~26cm等、任意の適切な寸法であってよい。上記の15cm×50cmの例示的な寸法は、約300mlの液体血漿を凍結乾燥するのに適している。より大きな又はより小さな容量の凍結乾燥においては、異なる好ましい寸法となるであろう。
【0022】
図1A及び図1Bは、基本的に長方形の容器を示しているが、いくつかの実施形態は、長方形の形状から逸脱する形状を含み得る。例えば、閉塞ゾーン114の幅だけを、示されている実施形態の幅Wよりも狭くしてもよい。そのような調整は、長方形の形状を有する容器とは対照的に、基本的に砂時計形状の容器をもたらす。
【0023】
閉塞ゾーン114の寸法におけるこのタイプの調整は、凍結乾燥プロセス中の閉塞ゾーンの一時的なシールをより容易にすることができる。
【0024】
示された凍結乾燥容器100の「表面部」又は「前面部」は、容器100の「裏面部」又は「背面部」と基本的に同一である。すなわち、容器の表面部及び裏面部のそれぞれは、非通気性セクションの非通気性材料及び通気性セクションの通気性膜を含む。他の実施形態では、通気性膜は、通気性膜が表面又は前面の一部と裏面又は背面の一部とを橋渡しするように等斜褶曲部(すなわちヘアピン状部分)を含む連続したシートである。さらに他の実施形態では、通気性セクションは、容器の表面部のみに、又は容器の裏面部のみに通気性膜を含んでもよい。動作中、凍結乾燥容器100は、典型的には、容器の裏面部又は背面部が凍結乾燥機の棚板に面するように、凍結乾燥機の棚板上に配置される。すなわち、凍結乾燥中、非通気性セクション102及び(通気性膜を含む)通気性セクション106のそれぞれの一部は、凍結乾燥機の棚板に面する。非通気性セクション102は、伝導性及び/又は放射性の熱伝達を促進するために、凍結乾燥機の棚と十分に直接的又は間接的に熱的に連通しているべきである。さらに他の実施形態では、非通気性セクションのみが棚板と接触し、通気性セクションは棚板から離れていてもよい。他の実施形態では、凍結乾燥容器は、凍結乾燥チャンバ内において、垂直に配置されてもよい。
【0025】
動作中、凍結乾燥容器100は、非通気性セクション102のポート領域104に配置されたポートを介して流体を交換する。流体交換は、容器に液体血漿を最初に充填するとき、並びに、再構成及び患者への輸血のために凍結乾燥後に滅菌水で容器を充填するときにのみ行われる。凍結乾燥中における凍結流体の昇華及び蒸気の除去の前後において、非通気性セクション102と通気性セクション106との移行部分を包含する閉塞ゾーン114において容器の閉塞を形成することによって、非通気性セクション102と通気性セクション106とは互いに隔離される。この点において、閉塞ゾーン114における閉塞の位置は、非通気性セクション102と通気性セクション106との間の境界を規定する。
【0026】
外周溶着部112は、容器の外周部を画定し、非通気性セクション102のポート領域104を含む。外周溶着部112の平均幅は、約7mmである。実施形態では、しかしながら、外周溶着部112は、2mm~12mmのように、任意の適切な幅であってよく、さらに、長さに沿って最大3mmで変化してもよい。
【0027】
内側膜溶着部110は、通気性セクション106内の通気性膜108を取り囲む。内側膜溶着部110の平均幅も、約7mmである。しかしながら、実施形態では、内側膜溶着部110は、2mm~12mmのように、任意の適切な幅であってよく、長さに沿って最大3mmで変化してもよい。
【0028】
ポート領域104は、凍結乾燥容器と他の流体容器との間に無菌流体経路を形成可能な1又は複数の流体ポートを含むように構成された、非通気性セクション102の外周溶着部112の部分である。ポート領域104はまた、患者への輸血を容易にするように構成される。
【0029】
非通気性セクション102と通気性セクション106との間の境界を包含することに加えて、閉塞ゾーン114は、そのライフサイクル全体を通して容器が変化(evolution)し易いように構成されている。閉塞ゾーン114における容器100の閉塞は、一時的な不透過性又は実質な不透過性のシールを形成し、非通気性セクション102と通気性セクション106との間の流体連通を閉塞する。動作中、最初の閉塞では、ポート領域104のポートを介して流体を導入する前に、非通気性セクション102を通気性セクション106から隔離する。凍結した氷構造(すなわち、凍結乾燥される凍結流体構造)が形成されると閉塞が除去又は開放され、容器はその自然状態にもどり、従って元の容器の空洞が回復する。回復した状態では、容器は非通気性セクション102と通気性セクション106の間の蒸気の流れに対して開放された開放経路を提供する。容器は形状及び機能において継続的に変化することができるので、対象の液体が非通気性セクション106のみで隔離及び凍結されること、並びに昇華及び脱離からの蒸気の流れのみが通気性セクション106と接触することが許容されることにより、対象流体と通気性セクション106との間で接触が起こらないことが保証される。すなわち、本出願の実施形態は、対象の液体と通気性セクション106との間に連続して物理的分離が形成されるように構成される。従って、非通気性セクション102は、固体、液体、又は気体のいずれかを収容するように構成され、一方、通気性セクション106は、気体のみを収容するように構成される(すなわち、ガスのみのセクション)。
【0030】
閉塞ゾーン114は短辺寸法が約3cmである。しかしながら、ある実施形態では、閉塞ゾーンは、短辺寸法2cm~4cmのように、短辺寸法1cm~5cmであってよい。閉塞ゾーンの最も近い縁部は、好ましくは、通気性セクション106の通気性膜108から5cm以内に配置されるが、通気性膜108から0.2cm~10cm(例えば3cm~7cm)に配置されてもよい。閉塞ゾーン114は、容器材料の効率的な使用を確実にし且つ蒸気が容器から出るために流れなければならない距離を最小にする程度に、通気性膜108に十分に近接しているべきであるが、さらに、凍結乾燥後に閉塞箇所と通気性膜との間の非通気性材料に恒久的な縫い目又は継ぎ目(seam)を形成できる程度に、通気性膜108から十分に離れているべきである。凍結乾燥後に閉塞箇所と通気性膜材料との間の非通気性材料に恒久的な縫い目を形成することで、永続的なシールが形成され、容器セクション同士が永続的に分離され、通気性セクション106の除去と廃棄が可能になる。通気性セクション106の除去は、容器の漸次的な変化における最後のステップである。通気性セクション106を取り除くことにより、最終製剤の体積と質量が最小限に抑えられ、輸送と保管の両方にとって望ましい。さらに、通気性セクション106の除去によって、非通気性セクション102を、患者への輸液に適した、より従来的な容器にすることができる。
【0031】
ある実施形態では、視覚的表示によって、閉塞ゾーン114の境界線を定めてもよい。例えば、閉塞ゾーン114は、線や配色、又はその他の視覚的表示の従来の手段によって示される。ある実施形態において、材料又は表面の質感や手触り(texture)を選択することによって、閉塞ゾーン114の位置を示すことができる。例えば、ある特定の質感やある特定の手触り感を有するように加工が施された表面(textured surface)は、閉塞ゾーン114の位置及び境界を示すように設計された視覚的な位置表示を提供することができる。例示的な実施形態では、閉塞ゾーン114の容器材料の内面及び外面の一方又は両方に対して特定の材料又は表面の質感を選択することで、シール特性を改善すること(例えば、滑らかな材料)や、材料が互いに引き離れる能力又は材料が対象流体の凍結中に形成される氷から引き離れる能力を向上させること(例えば、ざらつきのある材料(textured material))、を行える。特に、閉塞ゾーン114のために選択された材料は、ざらつかせたり或いは滑らかにしたりしてもよく、また互いに同じように或いは相異するようにしてもよい。閉塞ゾーン114の材料及び設計の選択においては、閉塞ゾーン114において断続的に行われる閉塞や閉塞除去によって、一時的不透過性シールが形成されたり解除されたりすることが確実に行われなければならないことを考慮すべきである。但し、状況によっては、閉塞は、完全に不浸透性の又は気密性のバリアやシールではない場合もある。つまり、特定の状況では、閉塞箇所を横切るわずかな漏れが許容される場合もある。
【0032】
閉塞ゾーン114における容器の閉塞の形成は、手動の締め付け、又は様々な自動化又は半自動化手段等の任意の既知の手段によって行うことができる。例示的な手動クランプとしては、一般的に使用されているねじクランプ又はバッグクリップが挙げられるが、これらに限定されない。様々な自動化又は半自動化された閉塞手段としては、例えば、凍結乾燥機の棚、又は凍結乾燥機の棚システムに組み込まれた機械的圧縮圧搾手段が挙げられる。全ての場合において、閉塞を形成するために選択される手段は、ポート領域104を介して非通気性セクション102に投入される流体がいかなる時点でも通気性セクション106の通気性膜108に接触しないことを保証しなければならない。
【0033】
この開示全体を通して説明される実施形態では、様々な追加の特徴が非通気性セクション102に含まれてもよい。例えば、比較的透明な容器材料のセクションを非通気性セクション102に組み込んで、凍結乾燥の前、最中、又は後に対象の流体の目視検査を可能にすることができる。
【0034】
図1に示す実施形態では、非通気性材料は、エチレンビニルアセテート(EVA)である。EVAは、その相対強度、低温での相対弾性と弾力性、相対クラック耐性、製造の容易さ等、いくつかの有利な特性を示す。EVAは、比較的良好な熱伝達特性も示す。しかしながら、実施形態では、非通気性材料の材料の選択は限定されず、熱可塑性エラストマー(TPE)等の好ましい特性を示す様々な非通気性材料を用いてよい。TPEは比較的柔らかく、柔軟性があり、いくつかのヘルスケア用途にメリットがある。例えば、TPEはオートクレーブ、ガンマ線照射、又はエチレンオキシドを使用して滅菌できる。さらに、TPEは、生体適合性をもち、高純度であり、溶出性物質が低レベルになるように設計できる。TPEもリサイクル可能であり、極低温保管に比較的好ましい材料である。
【0035】
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)もまた、非通気性材料として望ましい。LLDPEは、その優れた耐穿刺性と耐衝撃性及び高い引張強度により、他の特定の材料よりも好ましい。例えば、LDPEと比較して、LLDPEは優れた柔軟性と耐クラック性を示すため、特定の薄膜アプリケーションに対して、より適している。
【0036】
非通気性材料用に選択された材料は、凍結乾燥に必要なように、低温(例えば、-40°C~-60°C)で強度が維持される必要がある。低表面エネルギー及び超疎水性を示す材料が、非通気性セクションの内側面にさらに組み込まれてよく、この場合、凍結後及び乾燥前の容器の内側面からの氷構造の取り離しが改善されるようになる。
【0037】
実施形態では、様々な追加の又は代替のプラスチック膜を、非通気性セクション102に、又は特定の目的又は用途のための非通気性材料を含む容器の全ての領域に組み込むことができる。例えば、材料は、不透過性の向上、ヒートシール特性の向上、又は機械的強度の向上のいずれかのために実装される。
【0038】
図2A及び図2Bは、本出願の実施形態による他の凍結乾燥容器の平面図及び斜視図である。
【0039】
図2A及び2Bを参照すると、凍結乾燥容器200は、ポート領域204を含む非通気性セクション202と、ホールドオープン装置(開放保持装置)(Hold Open Device:HOD)208と通気性膜210とを含む通気性セクション206と、内側膜溶着部212と、外周溶着部214と、閉塞ゾーン216と、を含む。
【0040】
図2A及び図2Bに示すように、凍結乾燥容器200は、図1A及び図1Bの凍結乾燥容器と基本的に同じであるが、ホールドオープン装置(HOD)208をさらに含んでいる。図示の実施形態では、HOD208は、凍結乾燥容器200内に取り付けられた、半剛性の凹凸のない面で構成された楕円形の部材(fixture)である。HOD208は、自然状態では開放状態であり、非通気性セクション202と通気性セクション206の間の蒸気の流れの経路を容易に形成するために、容器キャビティ内に周方向に配置される。HOD208は、通気性セクション206内に全体が配置され、通気性膜210の一部と非通気性材料の一部とを橋渡しする。特に、実施形態では、HOD208の形状は限定されず、変形された長方形又は容器セクション間の蒸気の流れを促進することができる他の形状等、様々な他のHOD208の設計を行うことができる。
【0041】
様々な実施形態では、HOD208は、凍結乾燥容器200の通気性セクション内に取り付けられるか、又はその外側に固定される剛性又は半剛性の部材である。HOD208の正確な位置は様々である。例えば、HOD208は、完全に非通気性セクション内に、又は通気性セクションの非通気性材料の領域内に配置されてもよい。或いは、HOD208は、非通気性材料及び通気性材料の両方の部分に延在してもよい。さらに他の実施形態では、HOD208は、バッグセクション間の一時的なシールの形成を補助するように配置及び構成されてもよい。好ましくは、HOD208は、HOD208と閉塞ゾーン216における閉塞の位置との間の距離を最小化するために閉塞ゾーンに近接して配置される。図示の例では、HOD208の最も近い縁は、閉塞ゾーン216の最も近い縁から約2.5cmに配置される。しかしながら、HOD208の配置は、容器200の構成又は閉塞ゾーン216の構成に従って、さらに最適化されてもよい。
【0042】
図3Aは、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の非通気性セクションの平面図である。
【0043】
図3Aを参照すると、非通気性セクション300は、非通気性材料302と、流体ポート308を組み込んだポート領域306を含む外周溶着部304と、閉塞ゾーン310の一部と、を含む。
【0044】
非通気性セクション300は、上述の非通気性材料で構成される。非通気性セクション300の境界は、ポート領域306を含む外周溶着部304、及び閉塞ゾーンの中点(すなわち、閉塞の推定位置)を含む。すなわち、容器が閉塞ゾーン310で閉塞されている場合、非通気性セクション300は、その閉塞に対して非通気性である側の容器のセクションとして定義される。図3Aに示すように、閉塞ゾーン310に閉塞が存在しない場合、非通気性セクションの境界は、閉塞ゾーンの中点であるとみなされる。
【0045】
図3Bは、図3Aの凍結乾燥容器の非通気性セクションのポート領域の拡大図である。
【0046】
図3Bを参照すると、ポート領域306は、3つのポート308を含む。ポート308は、凍結乾燥容器が他の容器と流体を交換する方法を規定する。ポート308は、破損、汚染、又は誤接続の可能性を排除する安全な無菌接続を提供する必要があり、充填、凍結乾燥、保管、再構成、及び凍結乾燥血漿の場合は注入を含む、使用状態における全ての段階にわたって機能する必要がある。実施形態では、ポート308の構成及び数は、特定の用途に応じて異なる。例えば、実施形態は、3つのポートのように、1~5個のポートを含む。ポート308は、再シール可能な又は再シール不可能ないずれかの接続をさらに含んでよい。
【0047】
図3Bに示されるポート308は、様々なポートを含むように構成される。例えば、ポート308は、スパイクポート、ドッキングポート及び再構成ポートのいずれかを含んでよい。スパイクポートを含めることによって、再構成された血液製剤の患者への再注入を容易にすることができる。例示的なスパイクポートは、凍結乾燥容器での使用に適合する、当技術分野で知られている任意の溶着可能なスパイクポートであってよい。スパイクポートでの使用に適した材料の例としては、ポリ塩化ビニル(PVC)及びエチレンビニルアセテート(EVA)(例えば、デンマークのカルモによって製造されているもの等)が挙げられる。他の実施形態では、ポリプロピレン(PP)スパイクポートが望ましい場合もある。
【0048】
ドッキングポートを含めることによって、凍結乾燥容器を、血液プール容器又はプール容器セット等の別の流体容器と接続することができる。ドッキングポートをさらに使用して、空気又は他の気体を凍結乾燥容器に導入することができる。空気又は他の気体を、例えば、導入することによって、対象の液体の上方に蒸気空間を作り出したり又はpHを調整したりすることができる。例示的なドッキングポートとしては、PVCチューブが挙げられる。しかしながら、実施形態では、ドッキングポートは、当技術分野で知られている任意の適切なドッキング固定具又はチューブを含むことができる。
【0049】
再構成ポートを含めることによって、凍結乾燥容器への再構成流体の流入を受け入れることができる。例示的な再構成ポート308は、偶発的な誤接続を防止するために、オス又はメスのルアーロックタイプの接続を含んでよい。そのような接続の1つの例としては、アフェレーシスアプリケーションで使用される標準化された接続システムである、Correct Connect(登録商標)システムが挙げられる。実施形態では、様々な一方向弁及びエラー防止接続を提供可能な他の手段も、再構成ポート308での使用に適している。特に、再構成に使用される接続のタイプは特に重要である。すなわち、再構成流体の取り扱いは、患者への再構成流体の直接輸血の潜在的なリスクを伴う。それらは、深刻で即時の健康被害を引き起こす。このため、偶発的な誤接続が発生しないようにするには、再構成ポートと関連する接続部とをはっきりと認識できるようにし、他のポートと非互換となるようにすることが重要である。
【0050】
図4は、本出願の実施形態による凍結乾燥容器の通気性セクションの平面図である。
【0051】
図4を参照すると、通気性セクション400は、ホールドオープン装置(HOD)取付空間404を含む外周溶着部402と、HOD406と、通気性膜408と、内側膜溶着部410と、閉塞ゾーン412の一部と、を含む。
【0052】
通気性セクション400の境界は、外周溶着部402と、閉塞ゾーン412の中点(すなわち、閉塞の推定位置)とを含む。すなわち、容器が閉塞ゾーン412において閉塞されている場合、通気性セクション400は、容器のうち、閉塞に対して通気性のある側のセクションである。図4に示すように、閉塞ゾーン412に閉塞が存在しない場合、通気性セクション400の境界は、閉塞ゾーンの中点とされる。
【0053】
通気性セクション400は、非通気性材料内に埋め込まれた通気性膜408を含む。内側膜溶着部410は、通気性膜と非通気性材料との間の境界を規定する無菌シールである。外周溶着部402は、通気性セクション400の外周を規定する無菌シールである。外周溶着部402は、容器においてHOD406を取り付けるためのHOD取付空間404を含む。
【0054】
ある実施形態では、通気性膜408は、1つの材料のみを含む。他の実施形態では、通気性膜408は、2つ以上の材料を含んでもよく、例えば、通気性膜は、通気性膜と基材からなる膜積層体を含んでもよい。積層体を含む実施形態では、膜材料は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むことができる。PTFE膜は、いくつかの理由で、他の膜よりも好ましい。例えば、延伸PTFEは、精密に制御できる微細構造を提供し、これにより、所望の細孔径分布を得ることができる。さらに、延伸PTFEは基本的に不活性であり、広い温度範囲で動作可能で、過酷な環境に耐えることができる。少なくともこれらの理由により、延伸PTFEは他の材料と比較して好ましい特性を提供する。
【0055】
延伸PTFE膜の理想的な細孔サイズは、0.1ミクロン(μm)~0.5μm(例えば、0.15μm~0.45μm、0.2μm~0.3μm等)である。この範囲の細孔サイズを持つPTFE膜は、汚染物質の侵入を排除できる無菌バリアを維持しながら、比較的効率的な蒸気透過特性を示す。
【0056】
補強材料は、通気性膜406の機能を損なうことなく、通気性セクション400を非通気性セクションに結合するように設計される。補強材料の追加は、容器の構造的一体性を向上させる。すなわち、補強材料は、通気性膜と結合しなければならず、非通気性材料と結合しなければならず、さらに、凍結乾燥中に通気性膜を通過する蒸気の透過を妨げない孔サイズを有さなければならない。例示的な補強材料は、好ましくは、50:50のポリプロピレン/ポリエチレンブレンドである。しかしながら、実施形態では、好ましいブレンド比は様々な比であってよく、40:60~60:40の間のポリプロピレン:ポリエチレン比である。ポリプロピレン基材は、とりわけ、-40°Cのような凍結乾燥温度での凍結中における材料の劣化を回避するのに十分に低いガラス転移点に対して有利である。
【0057】
積層体を含む実施形態では、様々な追加又は代替のプラスチック膜を通気性膜又は基材に組み込んで、望ましいヒートシール特性、改善された透過性、又は全体の機械的強度のような所望の特性を付与することができる。
【0058】
図5は、図4に示す実施形態のホールドオープン装置(HOD)の断面図である。
【0059】
図5を参照すると、HOD500は、尖った端部と凹凸のない面とを組み込んだ基本的に卵形又は楕円形の形状を有する半剛性の部材である。示されている実施形態では、HOD500は、閉塞ゾーン近傍の通気性セクションに取り付けられる。他の実施形態では、HOD500は、容器の外側に結合されてもよい。一般に、HOD500は、容器の通気性セクション内又はその外側に存在するように設計され、容器のライフサイクルを通じて対象の液体から物理的に分離されるが、様々なさらなる実施形態では、非通気性セクションにHOD500を含むこともできる。
【0060】
楕円形のHOD500を組み込むと、薄く均一な氷の構造の上側に広い開放領域が形成される。好ましくは、容器の有効性及び効率を最大にするため、薄く均一な氷構造は、6mm~13mmの厚さを有する(例えば10mm)。HOD500を組み込むと、非通気性セクションと通気性セクションとの間に十分な蒸気経路を確保するのに役立ち、昇華時の容器内の全体の蒸気圧が低下する。HOD500はまた、閉塞ゾーンにおける閉塞(すなわち、一時的な不透過性シール又は実質的な不透過性シール)を一時的に形成することを補完する。例えば、HOD500は、緊張(硬直)状態を容器材料に付与し、閉塞の信頼性又は質を改善する。HOD500は、同様に、閉塞の除去において閉塞ゾーン表面同士を引き離すことをアシストし、それにより、容器セクション間の蒸気経路の再形成を容易にする。閉塞ゾーン表面同士の引き離しは、凍結ステップの前に対象流体が閉塞ゾーン材料を不注意に濡らした結果として閉塞箇所に、又は閉塞箇所に直接隣接して形成された氷の存在によって困難になる可能性がある。そのような不注意による湿潤は、充填工程の間に、又は容器の動きによって引き起こされる可能性がある。この点において、HODは、材料及び関連する質感の選択を含む、本明細書で説明される閉塞ゾーン表面の引き離しに関連する問題に対処するために使用される他の手段の一つとなる。
【0061】
示される実施形態では、HOD500は、半剛性シリコーンを含む。しかしながら、実施形態では、いくつかの他の剛性又は半剛性材料が実装されてもよい。例えば、PVC又は特定の他の合成プラスチックポリマーは、好ましいHOD500材料である。ある実施形態では、半剛性材料は、閉塞ゾーンの閉塞に応答して曲がる能力のために組み込まれてもよい。そのような実施形態では、HODは、閉塞ゾーンの閉塞時にある程度圧縮され、閉塞の解除時に元の形状に向かって戻る。そのような形状記憶挙動は、対象の液体又は氷の上側に開放領域を維持すること、及び容器セクション間に広い蒸気経路を形成することをアシストすることができる。これは、半剛性HODと他の柔軟性のある容器材料を組み合わせた実施形態において特に顕著になる。
【0062】
図5に示すHOD500の外部の高さは2.8cmである。しかしながら、実施形態では、外部の高さは、1.5cm~4cmである。内部の高さは約2.2mmである。しかしながら、実施形態では、内部の高さは、HODのそのものの構成及びサイズに応じて、1cm~3cmの間をとる。HODの幅は、凍結乾燥容器の略幅である。HOD500の奥行きは約3.5cmである。しかしながら、実施形態では、HOD奥行きは、0.5cm~4cmである。HOD500の全体的なサイズ及び形状は限定されず、従って、実施形態の所望の構成に応じて変化してよい。
【0063】
図6は、図4の凍結乾燥容器の通気性セクションのホールドオープン装置(HOD)取付空間の拡大図である。
【0064】
図6を参照すると、HOD取付空間600は、空隙空間602、側壁604、及び外周溶着部606を有する。
【0065】
HOD取付空間600は、基本的に、HODが確実に取り付けられる外周溶着部606におけるくぼみ又は空隙である。示されるように、空隙空間602は、HODを収容するためにHODの幅よりわずかに大きい幅を有する。側壁604は、外周溶着部の長手方向軸に対して約45度の角度が付けられている。空隙空間602の奥行きは約4mmである。
【0066】
実施形態では、HOD取付空間600の各パラメータは最適化される。例えば、HOD空隙空間602の幅は、容器構成によって異なり、HODの幅よりも20パーセント程度大きくてもよい。同様に、HOD空隙空間602の奥行は種々の値をとってよい。例えば、HOD空隙空間602の奥行は、1mm~6mmである(例えば、2mm~4mm)。
【0067】
実施形態では、HOD取付空間600の設計もそれぞれで異なる。例えば、側壁604の角度は、45度より小さくても大きくてもよい。場合によっては、側壁604は、外周溶着部606の長手方向軸に垂直であってもよい。さらに他の実施形態では、側壁604の角度は、異なっていてもよい。同様に、HOD空隙空間602の奥行は、その長さに沿って変化してもよい。すなわち、実施形態では、HOD取付空間600は、非対称又は不規則であってもよい。
【0068】
図7は、本出願の一実施形態による閉塞ゾーンの他の構成の側面断面図である。
【0069】
図7を参照すると、閉塞ゾーン700は上部材料702と、ダム704と、液体706と、を含む。
【0070】
図7に示す実施形態では、閉塞ゾーン700は、凍結乾燥機の棚に水平に配置された凍結乾燥容器に組み込まれる。閉塞ゾーン700の上部材料702は、非通気性材料を含み、ダム704から容器キャビティの反対側に配置される。ダム704は、非通気性セクションへ投入された液体706の分離を維持できる剛性又は半剛性の容器機能である。凍結乾燥機の棚から測定したダム704の高さは、非通気性セクションに入る液体の高さを超える任意の高さである。この点で、ダム704は、図7に示されるように、非通気性セクションから通気性セクションへの流体の流れを禁止する。
【0071】
図7に示されるダム704は、ドーム形状を備える。しかしながら、実施形態では、他のダム設計が望ましい場合もある。例えば、フラットトップを含むダム設計、又は特定の閉塞装置又は部材(図示せず)と協働するように構成されたダム設計が望ましい場合もある。同様に、表面の質感が加工された材料をダムの設計に含めることで、閉塞する場合に一時的な不透過性シールの形成をアシストすることができる。さらに他の実施形態では、ダムの特徴を、垂直に吊るすように設計された凍結乾燥容器に組み込むことができる。実施形態では、非通気性セクションへ投入された流体の分離を維持するために、閉塞ゾーンの片側又は両側にダムを含めることができる。
【0072】
述べたように、本明細書に記載の凍結乾燥容器の実施形態は、凍結乾燥プロセスがそのサイクルを進むにつれて、変化していくように構成されている。以下に含まれる例示的なワークフローは、容器の変化を実現するために容器の実施形態が操作される方法を説明する。
【0073】
図8は、本出願の実施形態による、凍結乾燥容器において断続的に行われる閉塞を説明するワークフロー概略図である。
【0074】
図8を参照すると、ステップ802で、閉塞ゾーンにおいて閉塞が形成される。ステップ804において、対象流体(例えば、血漿)は、ポート領域のポート(例えば、ドッキングポート)を通して非通気性セクションに投入される。ステップ806では、容器内の液体が凍結され、非通気性部分に薄い均一厚さを有する氷の構造が形成される。ステップ808では、閉塞が閉塞ゾーンから除去される(すなわち、一時的なシールが開かれる)。ステップ810において、昇華及び脱離を達成するために真空及び熱エネルギーが適用され、固相から直接気相への氷構造の相変化を引き起こす。氷構造から放出された蒸気は、閉塞されていない閉塞ゾーンを経由して容器の空洞を通って流れ、通気性セクションを通って逃げていく。その結果、非通気性セクションには、凍結乾燥された血漿ケーキ(すなわち、凍結乾燥の結果として脱水された氷構造)が残る。ステップ812において、容器は、閉塞ゾーンで再び閉塞され、空気からの水分及び酸素による凍結乾燥物の汚染を防止する。ステップ814では、閉塞とHODとの間の通気性セクションの非通気性材料に恒久的なシーム(閉じ目)(seam)が形成される。ステップ816では、容器が恒久的なシームで分割され、通気性セクションが廃棄され、非通気性セクションに凍結乾燥物が残る。これが医療用輸液バッグとして最終形態に変化したものである。
【0075】
ステップ804において、流体の導入は、プレローディングと呼ばれることがある。プレローディング中、250ml~500mlの流体(例えば、血漿)がマルチパート凍結乾燥容器の非通気性セクションに投入される。次に、容器を、「前面」又は「上面」を上に向けて、凍結乾燥機の棚に水平に置く。
【0076】
ステップ810において、昇華及び脱離は、熱エネルギー及び真空の適用を含む。好ましい乾燥温度は、-20°C~-40°Cの範囲である(例えば-25°C)。容器セクション同士の間の十分に広い蒸気経路と通気性セクションの通気性膜の広い表面積により、氷構造からの蒸気は容器から比較的自由に逃げていく。これにより、凍結乾燥中の温度がより低くなり、最終的な乾燥製品の品質が向上する。さらに、従来の凍結乾燥技術と比較して昇華時間の短縮が実現される。さらに、実施形態は、通気性セクション内の蒸気圧の低減及び通気性セクションを通る物質移動の増加をもたらし、これにより、単一の乾燥段階だけで、氷構造の十分な乾燥が可能になる。すなわち、実施形態によって、従来の二段乾燥方法の二次乾燥段階(すなわち、脱離段階)の必要性がなくなる。
【0077】
ステップ812では、容器の閉塞ゾーンで閉塞が行われ、通気性セクションと非通気性セクションとの間に一時的なシールが形成される。
【0078】
ステップ814では、恒久的なシームが形成され、非通気性セクションに凍結乾燥ケーキが分離される。示されている概略図では、恒久シーム形成ステップ814は独立したステップである。すなわち、付属の機器を使用して、恒久的なシーム(閉じ目)やシールが形成される。さらなる例では、恒久シーム形成ステップ814は、閉塞ステップ812に統合されてもよい。そのような実施形態では、閉塞手段(例えば、クランプ)は、永久シール手段を含んでもよい。
【0079】
ステップ816において、通気性セクションの完全な除去は、容器の最終的な変化である。通気性セクションを取り除くことで、水分及び酸素が乾燥した製品に侵入する可能性がなくなり、保存可能期間と血漿安定性が向上する。さらに、最終的な凍結乾燥容器のサイズが小さくなるため、輸送、保管、再構成、注入のそれぞれにおいて、より利便性が高くなる。
【0080】
さらなる例示的なワークフローにおいて、図8に記載されたワークフローにステップが追加されてもよい。例えば、追加のステップは、凍結乾燥容器へのガスの導入を含む。これにより、pHの調節又は調整を行ったり、対象の流体又は氷構造の上方に蒸気空間を形成したりすることができる。さらなる例では、追加のステップは、容器の圧力を調整するために、凍結乾燥容器を不活性ガスで充填することを含んでもよい。
【0081】
図9は、本出願の他の実施形態による、凍結乾燥容器において断続的に行われる閉塞を説明するワークフロー概略図である。
【0082】
図9を参照すると、ステップ902で、閉塞ゾーンに閉塞が形成される。ステップ904において、対象流体(例えば、血漿)が、ポート領域のポート(例えば、ドッキングポート)を介して非通気性セクションに投入される。ステップ906では、空気、不活性ガス、又はpH調整ガス(例えば、CO2)が、ポート領域のポート(例えば、ドッキングポート)を通して非通気性セクションに投入される。ステップ908では、容器内の液体が凍結され、非通気性セクションに薄く均一厚さの氷の構造が形成される。ステップ910では、閉塞が閉塞ゾーンから除去される。ステップ912において、昇華及び脱離を達成するために真空及び熱エネルギーが適用され、氷構造において固相から直接気相への相変化を引き起こす。氷構造から放出された蒸気は、閉塞されていない閉塞ゾーンを介して容器の空洞を通って流れ、通気性セクションを通って逃げていき、非通気性セクションには凍結乾燥血漿ケーキが残る。ステップ914では、容器が不活性ガスで充填され、容器の圧力を、大気圧の分圧(partial atmospheric pressure)まで上げる。ステップ916では、凍結乾燥物の汚染を防ぐために、容器が閉塞ゾーンで閉塞される。ステップ918では、閉塞とHODとの間の通気性セクションの非通気性材料に恒久的なシームが形成される。ステップ920では、容器が恒久的なシームで分割され、通気性セクションが廃棄され、非通気性セクションに凍結乾燥最終製品が残る。
【0083】
図9は、基本的に、ステップ906及び914の追加されている点で、図8のワークフローと異なっている。ステップ906において、空気(又は窒素又は他の不活性乾燥ガス)、又はpH調整ガス(例えば、CO2)が凍結乾燥容器に導入される。空気を導入して、容器材料とプレロードされた流体との間に十分な物理的分離、すなわち蒸気空間を形成することができる。例示的な実施形態では、蒸気空間の導入により、容器圧力が、0.3ポンド/平方インチ(Psi)~1.0Psiの値(例えば、0.5Psi(約26mmHG))に到達する。好適には、容器内に蒸気空間を形成することにより、凍結工程中及びその後の容器材料への氷の「付着」の量が減少する。また、pH調整ガスを凍結乾燥容器に導入して、pHを調整することができる。他の実施形態では、pH調整ガスは、以下に記載されるステップ914中に導入される場合もある。
【0084】
ステップ914において、凍結乾燥容器は、pH調整ガス(例えば、CO2)で、大気圧の分圧まで充填される。例示的な実施形態では、充填圧力は、65Torr(又は65mmHG)の絶対圧力である。実施形態では、充填圧力は、40mmHG~90mmHGの範囲である(例えば、60mmHG~70mmHG)。大気圧の分圧になると、容器は閉塞され、次にステップ916及び918でそれぞれ恒久的にシールされる。大気圧より低い圧力での容器の閉塞及び/又はシールは、容器が大気圧に曝されたときに、容器はしぼみ、その体積を減少させる。このプロセスは、非通気性部分にpH調整ガスを確保し、酸素と水分が容器に侵入するのを防ぐ。得られた容器は、大気圧よりも低い圧力で閉塞及び/又はシールされており、凍結乾燥機の真空が解除されると、最終的な容器の体積は減少した状態になるので、最終的な凍結乾燥製品を、より簡単に保管及び輸送できる。このようにして充填することは、可撓性の材料又は構成要素を有する容器の実施形態に特に適用可能である。そのような容器容量の減少は、堅固で柔軟性のない凍結乾燥容器では不可能だからである。
【0085】
上記のワークフローでは、閉塞を形成する手段は限定されない。例えば、閉塞手段は、可撓性容器に統合されてもよく、或いは容器に外付けする再利用可能な機器や道具であってもよい。全ての実施形態において、閉塞手段は、変化するマルチパート凍結乾燥容器の非通気性セクションと通気性セクションとの間に一時的な不透過性シール又は実質的に不透過性のシールを形成できることが必要である。
【0086】
上記のワークフローに従って非通気性セクションの流体を通気性セクションから分離するための物理的バリア(例えば、クランプ)の使用により、流体が通気性セクションの通気性材料の細孔と接触したり、通気性材料の細孔に付着したりする可能性がなくなる。付着は、凍結乾燥の昇華と脱離を中断させる可能性があり、それにより、総凍結乾燥時間が増加し、生存能力のある凍結乾燥物を得る能力が低下する。従って、付着の可能性を排除すると、蒸気流が相対的に増加し、結果として、昇華冷却効果の増加とタンパク質と凝固因子の保持の増加により、一次乾燥において、凍結乾燥が速くなり、氷の温度が低くなる。
【0087】
さらに、凍結乾燥容器は、無菌の流体経路を含む閉鎖された無菌システムであるため、実施形態は、非無菌環境及び遠隔地の両方で凍結乾燥を行うことを可能にする。この点で、例えば、実施形態により、従来のクリーンルーム施設とは対照的に、通常の血液センターの現場で凍結乾燥を行うことができる。容器の実施形態はまた、オペレータが一般的な血液バンク環境で見られるような標準的な冷凍庫で血漿の冷凍在庫を凍結及び維持できるようなフレキシビリティーを提供できる。その後で、この凍結された血漿は、昇華と脱離のため特化した凍結乾燥装置に移動することができる。このようなワークフローのフレキシビリティーにより、血液や製剤の物流管理と血液バンク内のワークフローが改善される。
【0088】
本明細書に記載の実施形態のさらなる利点は、凍結乾燥後に凍結乾燥容器の非通気性セクションを取り外すことができることである。凍結乾燥後の通気性セクションの分離と除去により、結果として、最終的な凍結乾燥物を封入する、より小さくて軽い無菌容器が作製される。結果として得られる容器は、柔軟性と高い携帯性の両方を備える。さらに、通気性セクションは水分と酸素の侵入に対して最も脆弱であるため、その除去により、凍結乾燥物の保存安定性が向上すると考えられる。本明細書に記載される一時的閉塞の使用は、この利点を可能にする。すなわち、ガラス容器を利用する従来のシステムでは、容器への水分及び酸素の進入を防ぐために、凍結乾燥機を開く前に、ガラス凍結乾燥容器にストッパーが機械的に適用される。対照的に、本実施形態は、一時的な閉塞を利用することで、容器の前側と後側の非通気性材料部分の間に恒久的なシールができるまで、容器の非通気性部分への水分と酸素の進入を防ぐ。
【0089】
本明細書の実施形態における、容器の構成は変化していくが、容器のライフサイクルの各段階を通じて閉鎖された無菌システムが維持される能力は、他に存在しないものであり、凍結乾燥空間において有利である。すなわち、本実施形態は変化していくことで、充填、凍結乾燥、輸送、保管、再構成及び注入のそれぞれの段階において、従来の装置及び方法を超える重要な利点を達成する。従って、本明細書に記載される属性及び利点の多くは、変化せずに且つクリーンルーム環境を必要とする従来の装置及び手法を使用することでは不可能である。この点で重要なのは、ここで説明された変化するマルチパート容器は、容器の構成要素の種類と配置によって容器がそのライフサイクル全体で様々な機能を実行できる限り、変化するマルチ機能容器とみなされてよい。
【0090】
この開示に列挙された様々な特定の実施形態にもかかわらず、当業者は、特定の用途のために様々な変形例及び最適化を実施できることを理解するであろう。さらに、本出願は、血液又は血液製剤の凍結乾燥に限定されない。すなわち、本出願の原理は、多くの流体の凍結乾燥に適用可能である。従って、本出願の方法及びシステムの構成、動作、及び詳細において、様々な変形や変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9