(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】厚み変更可能なスライス方法、3Dプリント方法及び3Dプリント製品
(51)【国際特許分類】
B22F 10/80 20210101AFI20220725BHJP
B22F 12/50 20210101ALI20220725BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20220725BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220725BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220725BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220725BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20220725BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20220725BHJP
B29C 64/343 20170101ALI20220725BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20220725BHJP
【FI】
B22F10/80
B22F12/50
B33Y50/00
B33Y50/02
B33Y80/00
B33Y30/00
B29C64/386
B29C64/393
B29C64/343
B33Y40/10
(21)【出願番号】P 2020565982
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 CN2019088402
(87)【国際公開番号】W WO2019228278
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】201810546163.8
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519035045
【氏名又は名称】コーセル インテリジェント マシーナリ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KOCEL INTELLIGENT MACHINERY LIMITED
【住所又は居所原語表記】298# Ningshuo Street Yinchuan,Ningxia 750021(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】特許業務法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペン,ファン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,イ
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,ジージュン
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-277369(JP,A)
【文献】特開2007-093996(JP,A)
【文献】特開2002-067171(JP,A)
【文献】特開2016-124230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/80
B22F 12/50
B33Y 50/00
B33Y 50/02
B33Y 80/00
B33Y 30/00
B29C 64/386
B29C 64/393
B29C 64/343
B33Y 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリント製品の三次元モデルのスライスに適用する厚み変更可能なスライス方法であって、
スライス方向に対する前記三次元モデルの内外輪郭の各スライス位置の傾斜角αを分析識別し、同一のスライス位置における前記傾斜角α各々の最小値α
minを取得するステップと、
前記内外輪郭の各部分に対応する前記傾斜角αの前記最小値α
minとスライス層の厚みδとの関数を一次関数として設定するステップと、
製品全体の前記三次元モデルの各部分に対応する各スライス層の厚みを算出するステップと、
を含むことを特徴とする厚み変更可能なスライス方法。
【請求項2】
前記傾斜角αの前記最小値α
minとスライス層の厚みδとの関数は、δ=k×sinα
minと設定され、
ただし、前記kの範囲は、0.1~1であり、プリント品質に対する要求が高ければ高いほど、前記kを小さく設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の厚み変更可能なスライス方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の厚み変更可能なスライス方法、及びスライスファイルを3Dプリンタに入力して層ごとにプリントする制御プロセスを含むことを特徴とする層厚みが変更可能な3Dプリント方法。
【請求項4】
前記層ごとにプリントする制御プロセスは、
前記スライスファイルを3Dプリンタのプリント制御部に入力するステップと、
前記プリント制御部は、前記スライスファイルにおける各層のスライスデータに基づいて、ワークステージ面の昇降距離、材料敷き装置の材料敷き量及びインクジェット装置の成形剤の使用量を調整して、製品全体が完成するまで、層ごとにプリントするステップと、を含む
ことを
特徴とする請求項3に記載の層厚みが変更可能な3Dプリント方法。
【請求項5】
前記材料敷き装置の材料敷き量の調整は、前記材料敷き装置の走行速度、前記材料敷き装置の振動周波数、前記材料敷き装置の振幅及び/又は前記材料敷き装置の材料出口の口径の調整により実現されることを
特徴とする請求項4に記載の層厚みが変更可能な3Dプリント方法。
【請求項6】
前記インクジェット装置の成形剤の使用量の調整は、前記インクジェット装置の走行速度、噴射周波数、噴射電圧及び鮮明さの調整により実現されることを
特徴とする請求項4に記載の層厚みが変更可能な3Dプリント方法。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項に記載の層厚みが変更可能な3Dプリント方法を実現する制御部品を有することを特徴とする層厚みが変更可能なプリントを実現する3Dプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、付加製造技術分野に関し、特に、厚み変更可能なスライス方法及びその3Dプリント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリントは、19世紀末にアメリカで発祥し、三次元プリント又はラピッドプロトタイピングとも称され、当時、技術発展の度合いにより制約を受け、20世紀の80年代から発展しつつ、広く適用される。この数十年の発展及び改良により、3Dプリント技術は、既に、最初の光造形から、ラピッドプロトタイピング製品を製造する熱溶解積層(FDM)、レーザー焼結(SLS)及び三次元造形(3DP)等に進化した。そのうち、レーザー焼結及び熱溶解積層を利用する3Dプリント技術は、機械加工や金型が必要とせず、コンピュータに記憶されたパターンデータにより各種の部品を直接に製造することができるので、生産コストを低減し、研究期間を短縮し、生産効率を大幅に向上させることができる。このため、機械部品、ジュエリー金型、特注製品及び器官等の複数の分野で幅広く適用される。
【0003】
上記の各種の3Dプリント方法は、その共通点として、いずれも、デジタル三次元モデルに基づいて、三次元モデルを所定の厚みで複数の薄層にスライスし、三次元物体を、プリント用の複数層の二次元薄層を堆積してなるものに変換し、さらに粉末状金属又はプラスチック等の接着材を用いて、逐次にプリントして物体を製造する技術である。スライス層の厚みは、3Dプリントとして非常に重要なパラメータであり、プリント効率、精度及び表面品質等を大きく影響する。3Dプリントの本質は、複数の一定の厚みの薄層を堆積して製造するものであるので、各層の間の境界で「段差」が発生してしまう。従来技術におけるスライスは、通常、
図1に示すように、各層の厚みが一定である。理論上、スライス層の厚みδが薄くなればなるほど、造形した物体がより精細になり、精度がより高くなるが、効率が低くなるので、コスト的ではない。高効率及び低コストのためスライスの厚みを増加することが考えられるが、同一の厚みの層にスライスされると、外輪郭の傾斜が大きい箇所において、「段差」が顕著になり、表面品質及び精度が著しく劣る。従来の各種の3Dプリント技術及び装置で物体を造形する際に、上記の要因を考慮し、最適的な、一定の層厚みでスライスしてプリントするので、装置の効率及び精度を十分利用することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願は、上記の層厚みが変更可能な3Dプリント方法を実現する制御部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
層厚みが変更可能な三次元モデルのスライス方法は、
スライス方向に対する三次元モデルの内外輪郭の各スライス位置の傾斜角αを分析識別し、同一のスライス位置における各傾斜角αの最小値αminを取得するステップと、
内外輪郭の各部分に対応する傾斜角αの最小値αminとスライス層の厚みδとの関数を一次関数のように設定するステップと、
製品全体の三次元モデルの各部分に対応する各スライス層の厚みを算出するステップとを含む。
【0006】
本出願の層厚みが変更可能な三次元モデルのスライス方法は、三次元モデルをスライスする場合、非鉛直面からなる輪郭部分に対するスライスに起因する「段差」を軽減するため、スライス方向に対する外輪郭の傾斜角によって、スライス層の厚みを設定する。つまり、三次元モデルの鉛直面からなる輪郭の部分に対して、厚いスライス厚みを設定することで、品質、精度を保証するとともに効率を向上させ、三次元モデルの傾斜面又は曲面からなる内外輪郭の部分に対して、スライス厚みを減少させることで、良好な表面品質及び精度を保証する。本出願は、三次元物体に対して複数のスライス厚みを変更可能に設定してスライスする方法によって、3Dプリント時の効率及び品質を共に保証することができるので、装置のプリント効率を向上させ、プリントコストを低減し、3Dプリントの各分野の産業上への適用に寄与できる。
【0007】
傾斜角とスライス層の厚みとの関数を正確に設定し、つまり、前記傾斜角の最小値αminとスライス層の厚みδとの関数をδ=k×sinαminに設定する。ただし、kの範囲は、0.1~1であり、プリント品質に対する要求が高ければ高いほど、kを小さく設定する。
【0008】
上記スライス方法によって層厚みが変更可能な3Dプリントを実施する方法は、上記の厚み変更可能なスライス方法、及びスライスファイルを3Dプリンタに入力して層ごとにプリントする制御プロセスを含む。
【0009】
本出願の上記プリント方法の層ごとにプリントする制御プロセスは、
スライスファイルを3Dプリンタのプリント制御部に入力するステップと、
プリント制御部は、スライスファイルにおける各層のスライスデータに基づいて、ワークステージ面の昇降距離、材料敷き装置の材料敷き量及びインクジェット装置の成形剤の使用量を調整して、製品全体が完成するまで、層ごとにプリントするステップと、を含む。
【0010】
材料敷き量の調整を容易にするために、前記材料敷き装置の材料敷き量の調整は、材料敷き装置の走行速度、材料敷き装置の振動周波数、材料敷き装置の振幅及び/又は材料敷き装置の材料出口の口径の調整により実現される。
【0011】
インクジェット量の調整を容易にするために、前記インクジェット装置の成形剤の使用量の調整は、インクジェット装置の走行速度、噴射周波数、噴射電圧及び鮮明さ等の調整により実現される。
【0012】
本出願は、上記の層厚みが変更可能な3Dプリント方法でプリントされた3Dプリント製品を提供し、該製品は、上記の厚み変更可能なスライス方法でスライスした後、層厚みに基づいて厚み変更可能な3Dプリントで造形されるものである。これによって、製品の表面品質が精細になり、段差が肉眼で見えないようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来技術の一定の層厚みでスライス処理を行ったモデルの断面模式図である。
【
図2】スライス方向と垂直の断面の輪郭模式図である。
【
図3】本出願の層厚みが変更可能な三次元モデルのスライス方法でスライス処理を行ったモデルの断面模式図である。
【
図4】本出願の層厚みが変更可能な3Dプリント方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施例1
本実施例の層厚みが変更可能な三次元モデルのスライス方法は、製品を3Dプリントするための三次元モデルのスライス作業に適用し、具体的に、以下の流れで行われる。
【0015】
まず、製品の三次元モデルを三次元スライスソフトウェアに入力し、三次元スライスソフトウェアで、スライス方向に対する三次元モデルの内外輪郭の各スライス位置の傾斜角を分析識別し、同一のスライス位置における各傾斜角αのうちの最小値αminを、当該部分のスライス層の厚みを算出するためのものとする。
【0016】
図2は、スライス方向と垂直の三次元モデルの1つの断面の外輪郭を示す。該三次元モデルのスライス方向は、水平方向である。図に示す外輪郭において、輪郭A及び輪郭Bは、スライス方向に対する傾斜角がそれぞれα1及びα2であり、該断面方向における最小傾斜角がα1となる。さらに、三次元モデルの当該部分のスライス方向と垂直のその他の断面における最小傾斜角αi及びα1に基づいて、最小値α
minが27°であると算出し、つまり、輪郭A及び輪郭Bに対応する部分のスライス層の厚みを算出するための最小傾斜角α
minが27°である。
【0017】
また、輪郭Cが位置するスライス対象部分の断面が円弧形状に形成され、該円弧形状の断面では、スライス対象部分の厚みの範囲内において、最小傾斜角αnが45°~90°の範囲内に漸減するので、各スライス層の位置を設定するための最小傾斜角αminは、輪郭の各位置の最小傾斜角によって設定される。
【0018】
さらに、各輪郭に対応する最小傾斜角αmin及び式δ=k×sinαminによって各スライス層の厚みを算出する。kを0.5に設定する場合、式δ=0.5×sin27°によってδが0.23mmとなる。そして、0.23mmを輪郭A及び輪郭Bに対応する三次元モデルの部分のスライス層の厚みとしてスライスする。他の傾斜角が90°である部分に対して、δが0.5mmである層厚みでスライスする。
【0019】
また、輪郭Cに対応する三次元モデルのスライス対象部分の高さ範囲内において、スライス層の厚みは、円弧形状の輪郭の上エッジから傾斜角が90°である中心まで、δ=0.5×sin45°=0.35mmから0.5mmへ漸増し、さらに、中心から下エッジスまで、0.5mmから0.35mmへ漸減する。これによって、三次元モデルの各スライス位置のスライス層の厚みを算出する。最後、
図3に示すように、上記で設定された各スライス位置のスライス層の厚みに基づいて三次元モデルをスライスする。さらに、スライス層の厚みが異なるスライスデータが、「.cli」の拡張子のスライスファイルに記憶され、そして「.cli」の拡張子のスライスファイルが「.bmp」の拡張子のスライスファイルに変換される。
【0020】
本出願の層厚みが変更可能な三次元モデルのスライス方法は、三次元モデルをスライスする場合、非鉛直面からなる輪郭部分に対するスライスに起因する「段差」を軽減するため、スライス方向に対する外輪郭の傾斜角によって、スライス層の厚みを設定する。つまり、三次元モデルの鉛直面からなる輪郭の部分に対して、厚いスライス厚みを設定することで、品質、精度を保証するとともに効率を向上させ、三次元モデルの傾斜面又は曲面からなる内外輪郭の部分に対して、スライス厚みを減少させることで、良好な表面品質及び精度を保証する。本出願は、三次元物体に対して複数のスライス厚みを変更可能に設定してスライスする方法によって、3Dプリント時の効率及び品質を共に保証することができるので、装置のプリント効率を向上させ、プリントコストを低減し、3Dプリントの各分野の産業上への適用に寄与できる。
【0021】
実施例2
本実施例は、実施例1に基づいて層厚みが変更可能な3Dプリントを行う方法である。
図4に示すように、実施例1で得られた「.bmp」の拡張子のスライスファイルを3Dプリンタに入力してプリントを制御するプロセスは、以下の通りである。
【0022】
第1ステップにおいて、実施例で得られた「.bmp」の拡張子のスライスファイルを3Dプリンタのプリント制御部に入力する。
【0023】
第2ステップにおいて、プリント制御部は、スライスファイルにおける各層のスライスデータに基づいて、ワークステージ面の昇降距離、材料敷き装置の材料敷き量及びインクジェット装置の成形剤の使用量を調整しながら、製品全体が完成するまで層ごとにプリントする。
【0024】
第2ステップにおいて、材料敷き量の調整を容易にするために、材料敷き装置の材料敷き量の調整は、材料敷き装置の走行速度、材料敷き装置の振動周波数、材料敷き装置の振幅及び/又は材料敷き装置の材料出口の口径の調整により実現される。さらに、インクジェット量の調整を容易にするために、インクジェット装置の成形剤の使用量の調整は、インクジェット装置の走行速度、噴射周波数、噴射電圧及び鮮明さ(プリンタされたマークの鮮明さ)等の調整により実現される。
【0025】
本実施例の3Dプリント方法によってプリントした製品は、その表面の品質が精細になり、段差が肉眼で見えないようになる。
【0026】
本出願の層厚みが変更可能な三次元モデルのスライス方法及びプリント方法は、各種の工業製品の3DP粉末敷きプリント、FDM熱溶解積層プリント、焼結技術及びSLSレーザー焼結のスライス制御技術に適用することが可能である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0028】
A,B,C…輪郭。