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特許7110418水素を含む筋肉疲労等の予防・改善剤及び飲食品組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】水素を含む筋肉疲労等の予防・改善剤及び飲食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220725BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220725BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20220725BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20220725BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/54
A61K33/00
A61P21/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021009385
(22)【出願日】2021-01-25
(62)【分割の表示】P 2017138035の分割
【原出願日】2017-07-14
(65)【公開番号】P2021065237
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(74)【代理人】
【識別番号】230103089
【弁護士】
【氏名又は名称】遠山 友寛
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】馬場 吉武
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
(72)【発明者】
【氏名】越智 貴之
(72)【発明者】
【氏名】瀧原 孝宣
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】水素水と肩こり,水素水サーバー いい水アシスト,2016年06月27日,p.1-4,https://solarassist.co.jp/e-mizu/suisosui/effects/stiff-shoulder/hydrogen-water-and-a-stiff-neck/,
【文献】報道発表資料 容器入り及び生成器で作る、飲む「水素水」,独立行政法人国民生活センター, 2016年,p.1-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
A23L 2/52
A23L 2/54
A61K 33/00
A61P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を有効成分として含む、肩こりの予防・改善のための医薬組成物であって、
医薬組成物が飲料の形態であり、飲料における水素の濃度が0.3~1.6ppmであり
被験者に一日1回、0.270mg以上の水素を含む医薬組成物が水素水として14日以上投与される、
医薬組成物。
【請求項2】
水素の含有量が0.16~1.20mgである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
肩こりの程度がVisual Analogue Scale(VAS)検査によって決定される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
アルミパウチに密封充填されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分として水素を含む、筋肉疲労等の予防・改善剤及び飲食品組成物、
特に飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
運動後などに生じる筋肉疲労の解消手段としては、通常、自然回復を待つのが一般的で
ある。症状が重い場合には、市販の抗炎症剤や鎮痛剤などを患部に塗布するか、筋肉疲労
回復のために抗炎症性の医薬を経口摂取する等の処置が行われている。しかし、経口摂取
されているものの多くは、ビタミン、ミネラルなど、広く疲労全般からの回復に有効とさ
れた成分が配合されているに過ぎず、筋肉疲労に特化した成分を含むものではなかった。
【0003】
健康志向の高まりを受け、サプリメントや健康食品の市場は尚も広がりを見せているが
、中でも、抗疲労関連市場は伸長を続ける期待の市場である。従って、疲労、特に筋肉の
疲労を気軽に且つ簡便に回復できる有効成分の探索が望まれている。
【0004】
近年市場を賑わせている飲料として、水素を高濃度で水に溶解した「水素水」がある。
水素は無味、無臭、無色で体に無害な気体であり、抗酸化作用などの種々の健康増進作用
が知られている。機能性を付与する観点から、水素水に更に機能性原料を配合した水素含
有飲料(特許文献1)や、また風味を改善する観点から、水素を添加した乳含有飲料(特
許文献2)等も知られているが、水素自体が特定の疲労に直接的に作用するといった知見
については現在まで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-169153号報
【文献】特開2016-123358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な筋肉疲労等の予防・改善剤及び飲食品組成物を提供することを目的と
する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、水素に筋肉疲労や肩こりを回復させる効果があること
を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]水素を有効成分として含む、筋肉疲労の予防・改善剤。
[2]水素の含有量が0.06mg~1.60mgである、[1]に記載の筋肉疲労の予
防・改善剤。
[3]水素の濃度が0.3~1.6ppmである、[1]又は[2]に記載の筋肉疲労予
防・改善剤。
[4]疲労の程度がVisual Analogue Scale(VAS)検査によっ
て決定される、[1]~[3]のいずれかに記載の筋肉疲労の予防・改善剤。
[5]被験者に一日1回以上、一週間以上投与される、[1]~[4]のいずれかに記載
の筋肉疲労の予防・改善剤。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の筋肉疲労の予防・改善剤を含む、筋肉疲労予防
・改善のための飲食品組成物。
[7]飲料の形態である、[6]に記載の組成物。
[8]水素を有効成分として含む、肩こりの予防・改善剤。
[9]水素の含有量が0.06mg~1.60mgである、[8]に記載の肩こりの予防
・改善剤。
[10]水素の濃度が0.3~1.6ppmである、[8]又は[9]に記載の肩こりの
予防・改善剤。
[11]肩こりの程度がVAS検査によって決定される、[8]~[10]のいずれかに
記載の肩こりの予防・改善剤。
[12]被験者に一日1回以上、一週間以上投与される、[8]~[11]のいずれかに
記載の肩こりの予防・改善剤。
[13][8]~[12]のいずれかに記載の肩こりの予防・改善剤を含む、肩こりの予
防・改善のための飲食品組成物。
[14]飲料の形態である、[13]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
無味、無臭、無色で体に無害な気体である水素を有効成分とすることにより、従来、抗
炎症剤の摂取に抵抗があった消費者でも気軽で簡便に筋肉痛や肩こりを予防・回復するこ
とが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、イオン交換水に水素を約1.32ppm含有させた水(飲料2)による筋肉痛軽減効果をVAS検査により評価したグラフである。筋肉痛評価は運動前を0.0(無い)として、運動直後と休憩後に評価した。結果は被験者10名の平均である。なお、コントロールとしてイオン交換水を用いた(飲料1)。
図2図2は、イオン交換水に水素を約1.35ppm含有させた水(飲料2)による肩凝り軽減効果をVAS検査により評価したグラフである。肩凝りの評価は肩こりが全く無い状態を0.0(無い)として、起床時と就寝前に評価した。結果は被験者10名の平均である。なお、コントロールとしてイオン交換水を用いた(飲料1)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(予防・改善剤)
本発明に係る予防・改善剤は、有効成分として水素を含む。本明細書で使用する場合、
「疲労」とは、主に肉体的活動により生じた独特の不快感と休養を求める欲求を伴う身体
機能の減弱状態、例えば筋肉の疲労又は損傷、特に筋肉痛をいう。好ましくは、筋肉疲労
は運動直後の疲労感に起因するものではない。また、「肩こり」とは、首すじ、首のつけ
根から、肩又は背中にかけて知覚される不快感、例えば張った、凝った、痛いなどの感じ
を意味し、頭痛や吐き気を伴うこともある。
【0012】
また、本明細書で使用する場合、「予防・改善」とは、疲労や肩こり、例えば筋肉の疲
労又は損傷を防ぐか、あるいはそれらの症状を疲労等の不快感を感じる前の状態にまで回
復させること、特に筋肉痛の改善の場合、痛みを緩和させ、パフォーマンスを疲労前の状
態まで実質的に回復させることを意味する。疲労や痛み、あるいはそれらからの予防や改
善は主観的な感覚ではあるが、可能な限り客観的に評価することが好ましい。例えば、V
isual Analogue Scale(VAS)法などの主観的な感覚を数値化し
て評価する方法によれば、疲労等の症状とその回復の程度をパラメーターとして評価する
ことが可能になる。より具体的には、VASに基づき筋肉の疲労度を評価する場合、0~
100mmのスケールにおいて(通常、長さ100mmの線の上で)、運動前の筋肉の痛
み(つまり、痛みがない状態)を「0」mm、過去に経験した最も強い痛みを「100」
mmとし、特定の時点(運動前、運動直後、休憩後)で被験者自らが感じる痛みが0(な
い)~100(痛い)の範囲内で評点される。痛みの改善もVAS法で評価することがで
き、例えば、運動後に感じた痛みの数値が有意に減少した場合に筋肉痛や肩こりが改善し
たと評価してもよい。
【0013】
本発明をコントロールとの比較で評価する場合、評点(通常は平均値)の差異が有意な
差異であるか否かについて、有意確率(p)を算出することにより評価することができる
。なお有意確率pの算出は、統計学上で既知の方法、例えばSPSS14.0を使用した
t検定により行ってもよい。一般的に有意差はp<0.05(5%)であるとされるが、
有意差を示唆する数値としてp≦0.1を基準として評価を行うこともできる。
【0014】
予防・改善剤に水素を含有させる方法は特に限定されないが、例えば、標準大気圧以上
の水素ガス若しくは水素ガスを含有する気体を細かい気泡の状態で溶媒中に吹き込む方法
(所謂バブリング)、または、気体透過膜を介して、液体溶媒中に水素を注入する方法等
が挙げられる。これら以外の方法であっても、水素を所定の濃度以上に含有させることが
可能な方法であれば溶解方法は問わない。
【0015】
水素を含有させる溶媒は水が好ましいが、本発明の効果が奏され、尚且つ飲料に適した
ものであれば特に限定されない。水は、飲用に適しているものであれば、硬水、軟水の種
類やその他の性質は問われない。
【0016】
水素は、溶媒に含有されてから最終製品としての予防・改善剤が使用されるまでの間、
最終製品としての予防・改善剤において溶解した状態で存在していることが好ましい。予
防・改善剤における水素の濃度は0.3ppm以上が好ましい。一日あたりの水素の摂取
量は症状に応じて変動し得るが、例えば、0.3ppmの濃度の水素水200mlを一日
一本以上摂取するのが好ましい(すなわち0.06mg以上)。摂取量の上限は、例えば
、1.60mg程度であると想定される(1.6ppm(飽和濃度)×1000ml)。
一日あたりの水素の摂取量は好ましくは0.16~1.20mg、より好ましくは0.2
4~1.20mgである。
【0017】
予防・改善剤は水素を高濃度で含有している水素水、つまり高濃度水素水そのものであ
ってもよい。高濃度水素水は、溶媒である水に、1~数ppmといった水素の飽和溶解量
と比較して高い濃度に水素を溶解または視認できない程度の微細気泡の状態で含有させた
水をいう。
【0018】
本発明において水素水は、水素分子を溶解又は分散させたもの指す。なお、大気中にお
いても微量の水素は存在しており、大気圧下でも当該微量水素は水に溶けるが、本願にお
いては特に別途水素を添加していないイオン交換水、蒸留水等は水素水に含まれないもの
とした。水素を含有させる方法としては、例えば、特許5746411号に開示した方法
を採用してもよいが、その他公知の方法を選択してもよい。なお、出願人が販売する水素
水の水素濃度は、工場出荷時から賞味期限までの間、未開封の場合0.3ppm以上を維
持している。
【0019】
予防・改善剤の投与回数又はその頻度は、疲労の症状に応じて適宜判断される。例えば
、カルボーネン法の計算式にもとづき、運動強度が60%程度となるよう目標心拍数を設
定し50分程度運動した場合、被験者に対して運動後に一日1回以上、好ましくは3回以
上、一週間以上投与することが想定される。投与のタイミングは、肉体疲労をもたらす活
動の後又はその最中のみならず、疲労等の症候を予防する観点から活動前であってもよい
。例えば、筋肉疲労を発生し得る運動の前に、被験者は予め筋肉疲労予防・改善剤を摂取
することもできる。
【0020】
予防・改善剤の形態は、水素を含有させることができるかぎり特に制限はないが、水素
を保持する観点から液体の形態であることが好ましい。予防・改善剤には水素以外にも、
筋肉疲労等の症候の予防・改善効果を奏することが知られている成分を有効成分として含
めることができる。有効成分以外にも、健康食品、健康補助食品等の食品組成物又は飲料
組成物、更には医薬に含まれる任意の成分を含めてもよい。
【0021】
(飲食品組成物)
本発明に係る筋肉疲労や肩こりの予防・改善のための飲食品組成物は、有効成分として
上予防・改善剤を含む。組成物中の水素は予防・改善効果を奏する限り特に限定されない
が、その有効量は予防・改善剤と実質的に同じである。
【0022】
本明細書で使用する場合、「組成物」とは混ぜ物を意味するものであって、その形態は
主に液体状であることが想定される。固体として存在することを排除するものではないが
、水素の物理的な性質を考慮すると、本発明に係る組成物は固体よりも液体であることが
好ましい。
【0023】
用途面から見た場合、組成物は、医薬組成物;医薬部外品組成物;薬理効果を備えたい
わゆる健康食品、健康補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性食品等の食品組
成物;飲料や食品に添加するための配合用組成物(食品添加物);該配合用組成物を添加
して飲料とした飲料組成物等に区分することができる。
【0024】
本発明の組成物を、疲労に関連性のある疾病・障害を予防・治療するための医薬用途に
用いる場合には、常法に従って薬学的に許容される担体とともに種々の剤型の医薬組成物
とすることができる。
【0025】
組成物が液体の製剤である場合は、本発明の組成物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭
剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる
。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリ
ウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の組成物は、健康食品、健康補助食品等の食品組成物あるいは飲料組成物
として用いることも可能である。ここで好ましい食品組成物、飲料組成物としては、栄養
ドリンク、スポーツドリンク、果実飲料、野菜飲料、炭酸飲料、茶飲料、コーヒー飲料、
スープ飲料等が例示することができ、特に種々の生理効果を有し、健康に寄与する飲料と
して、スポーツドリンクやエナジードリンクとするならば、呈味がよく、抗疲労効果も期
待されるため好ましい。
【0027】
本発明の実施態様が、スポーツドリンク、エナジードリンクなどの飲料(液状)である
場合には、500mLまたは500g入り容器、好ましくは350mLまたは350g入
り容器、さらに好ましくは200mL容器または200g入り容器に1回当たりの摂取量
を添加すると、短時間で効率的な摂取が可能となる。
【0028】
これら飲食品組成物の製造方法は常法に従えばよく、適切なタイミングで水素を含有さ
せることにより調製すればよい。また、飲食品組成物の製造に際しては、その他の食品素
材、すなわち各種糖質や乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、香料、アミノ酸、果汁等を適
宜添加することができる。具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パ
ラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリト
ール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖
アルコール類、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース等の
高甘味度甘味料、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤
、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増
粘(安定)剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリ
ー系果汁等の果汁類等が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミン
C、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネ
ラル類等を添加することが可能である。
【0029】
(容器)
本発明に係る予防・改善剤及び飲食品組成物は、容器に充填されて提供される。かかる
容器としては、缶(アルミニウム、スチール)、レトルトパウチ、瓶(ガラス)、PET
ボトル、紙容器等が挙げられる。ここで、飲料としての水素水においては、水素のバリア
性が要求されるため、金属缶、金属積層フィルムを用いた所謂パウチ形態の容器、ガラス
瓶を用いることが好ましい。
【0030】
以下、具体例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これによ
り限定されるものではない。
【実施例
【0031】
(実施例1:水素含有飲料による運動後の筋肉疲労軽減作用)
水素含有飲料の摂取による筋肉疲労軽減作用を検討した。疲労負荷にはエルゴメーター
(エアロバイクai、コンビ株式会社)を用い、筋肉疲労の軽減作用の評価には自己評価
尺度であるVisual Analog Scale(VAS)を用いた。
【0032】
(被験者)
無作為に選択された健常な成人男性5名(36.2±7.6歳)、成人女性5名(33
.2±14歳)を被験者とし、これら全員に飲料1(プラセボ飲料:イオン交換水)を摂
取する試験と飲料2(イオン交換水に水素ガスを給気し水素を含有させた水(水素水))
を摂取する試験の合計2回の試験を実施した(クロスオーバー試験)。水素水(1本30
0ml)における溶存水素濃度は約1.32ppm(0.396mg/回)であり、被験
者は300mlの飲料2を1日3本、自由なタイミングで摂取した(水素摂取量:1.1
88mg/日)。飲料2における水素濃度の調節は、特許第5746411号に記載の方法に従
い、中空糸モジュールを用いて脱気水に水素を吹き込むことで行った。溶存水素濃度は、
ユニセンス社溶存水素計を用いて測定した(検出限界:0.005ppm)飲料はいずれ
も飲み口付きアルミパウチに密封充填されており、飲用時に開栓し、飲み口から直接摂取
した。
【0033】
エアロバイクの運動強度は60%に設定した。この条件は有酸素運動と無酸素運動の境
界域であるAT(Anaerobic Threshold :嫌気性代謝閾値)付近の運動を想定したもので
ある。よって、軽度の運動のみならず日常生活の労作も評価の対象とした条件である。な
お、試験はカルボーネン法により運動強度60%となるよう目標心拍数を設定し心拍数一
定条件で実施した。より具体的には、目標心拍数={(220-年齢)-安静時心拍数}
×運動強度(0.6)+安静時心拍数の計算式において運動強度が60%となる目標心拍
数を設定した。
【0034】
疲労軽減作用の確認試験は次のようなスケジュールで実施した。
(1)摂取前の運動負荷試験
(1-1)運動前の筋肉の疲労度調査(VAS)
(1-2)強度60%の運動を50分間実施
(1-3)運動直後の筋肉の疲労度調査(VAS)
(1-4)試験飲料を300ml摂取したのち30分休憩
(1-5)休憩後の筋肉の疲労度調査(VAS)
(2)試験飲料(プラセボ又は水素水)を1週間摂取(300ml/1回、試験飲料を1
日3回自由摂取した。各回の摂取タイミングは起床~就寝まで任意の間で被験者の任意と
した。)。なお、被験者の半分はプラセボ、残り半分は水素水を摂取し、(4)の工程で
プラセボと水素水を入れ替えて、(1)~(3)と同様の試験を行った。
(3)摂取期間後の運動負荷試験
(3-1)運動前の筋肉の疲労度調査(VAS)
(3-2)強度60%の運動を50分間実施
(3-3)運動直後の筋肉の疲労度調査(VAS)
(3-4)試験飲料を300ml摂取したのち30分休憩
(3-5)休憩後の筋肉の疲労度調査(VAS)
(4)プラセボと水素水の摂取被験者を入れ替え、(1)~(3)の試験を実施(クロス
オーバー試験)。なお、被験者を入れ替える際には、インターバル期間(1週間)を設け
、その後(1)の摂取期間前の検証を実施した。
【0035】
なお、最初にプラセボ又は水素水を摂取する前の1週間、及び摂取対象飲料の入れ替え
時の1週間のインターバル期間は夫々以下に示す摂取前の運動負荷試験期間に該当する。
【0036】
本実施例におけるVAS検査は、被験者が、特定の時点(運動前、運動直後、休憩後)
で「筋肉痛はありますか?」という問いに対して運動前の状態を0.0(ない)として、
0.0cm(ない)~10.0cm(痛い)の線分上を自身の状態を記入することで行っ
た。10.0は、筋肉痛以外の痛みを含めて過去に被験者自身が感じたことのある最大の
痛みを指す。なお、被験者が記入した線分上の位置を定規により測定し、小数点第一まで
計測した数値を採用した。
【0037】
(評価方法)
プラセボを摂取した場合と水素水を摂取した場合のそれぞれについて、運動後30分経
過した後(休憩後)のVAS法評価結果の数値を全被験者分合計し、その合計値を被験者
数で割ることにより平均値を算出した。プラセボ及び水素水における上記平均値の差異が
有意な差異であるか否かについて、有意確率(p)を算出することにより評価した。なお
、有意確率pは、SPSS14.0を使用しt検定を行うことで算出した。本実施例にお
いては、有意差を示唆する数値としてp≦0.1を基準として評価を行った。
【0038】
(結果・考察)
運動前のVAS評価を0.0とし、上記の条件で運動を行い、30分休憩した後に再度
VAS評価をプラセボ及び水素水の両方で実施した。運動前と休憩後の疲労がプラセボと
水素水でどのように変化するかを測定した結果、被験者10人の差異の平均は1.0であ
った(プラセボが0.8、水素水が-0.2)。測定値の標準偏差等のデータを加味し、
有意確率を算出したところP=0.10となったため、有意差を示唆する結果が得られた
と判断した。
【0039】
詳細な要因は明確ではないが、蓄積疲労の回復過程において水素水が筋肉疲労の回復を
補助する機能を有することが示唆された。
【0040】
(実施例2:水素含有飲料による肩こりの軽減作用)
日常生活の労作で生じる肩こりの軽減作用について検討した。評価部位は肩とし、肩の
筋肉の疲れ、すなわち肩こりについて実施例1と同様にVAS検査で評価した。
【0041】
(被験者)
肩こりの状態とは無関係に無作為に選択された健常な日勤の男性15名(36.1±7
.3歳)及び女性12名(38.3±7.2歳)を被験者とし、実施例1と同様のプラセ
ボ(イオン交換水)及び水素水を用いてクロスオーバー試験を実施した。実施例1と同様
の方法で、被験者毎にプラセボ及び水素水における評価差異を算出し、有意確率pの算出
を行った。なお、実施例2においては、摂取期間は2週間とし、試験飲料の摂取量は1日
1回200mlとした。水素水(1本200ml)における溶存水素濃度は約1.35p
pm(0.270mg/回)であり、被験者は200mlの飲料2を1日1本摂取した(
水素摂取量:0.270mg/日)。溶存水素濃度は、ユニセンス社溶存水素計を用いて
測定した(検出限界:0.005ppm)。摂取タイミングは、実施例1と同様に起床~
就寝まで任意の間で被験者の任意とした。飲料はいずれも飲み口付きアルミパウチに密封
充填されており、飲用時に開栓し、飲み口から直接摂取した。
【0042】
VAS検査は、実施例1と同様に被験者が、特定の時点(起床時及び就寝前)で「肩こ
りはありますか?」という問いに対して肩こりが全く無い状態を0.0(ない)として、
0.0(ない)~10.0(こっている)の線分上を自身の状態を記入することで行った
。10.0は、過去に被験者自身が感じたことのある最悪の肩こりの状態を指す。なお、
被験者が記入した線分上の位置を定規により測定し、小数点第一まで計測した数値を採用
した。
【0043】
肩こり軽減作用の確認試験は次のようなスケジュールで実施した。
(1)摂取期間前の検証(1週間)
摂取開始前日の起床時及び就寝前に、肩こりの状態を被験者に確認し、VAS法に従
い評点した。
(2)試験飲料の摂取と試験飲料摂取中の検証
(1)の検証の後、試験飲料の摂取を開始した。摂取期間は2週間とした。7日目、
14日目の起床時及び就寝前に、(1)と同様に、肩こりの状態を被験者に確認し、VA
S法に従い評点した。
(3)(1)~(2)終了後のクロスオーバー試験
飲料を入れ替えて再度上記(1)から(4)までのサイクルを実施(クロスオーバー
試験)した。なお、試験飲料を入れ替える際には、インターバル期間(1週間)を設け、
当該インターバル期間に上記(1)の摂取期間前の検証を実施した。
【0044】
(評価方法)
(i)起床時と就寝前におけるVAS法評価結果の差異の算出
摂取前及び摂取後における、起床時と就寝前の肩こりの状態のVAS評価結果を比較し
差異を算出した。
(ii)平均値の算出
同一日における(i)の結果を全被験者について合計した後、被験者数で割ることで当
該日におけるVAS評価結果の差異の平均値を求めた。
(iii)有意差の判定
プラセボ、水素水それぞれにつき、摂取開始前後で、(ii)の結果を比較し、その差
異が有意なものであるか否かについて、有意確率(p)を算出することにより評価した。
実施例1と同様、有意確率pは、SPSS14.0を使用しt検定を行うことで算出し
た。本実施例においては、有意差を示唆する数値としてp≦0.1を基準として評価を行
った。
【0045】
(結果・考察)
図2は、全被験者のVAS法での評価値の平均値を、摂取開始から同一の経過日数であ
るプラセボ及び水素水摂取におけるデータを比較した棒グラフである。試験飲料の摂取期
間において、摂取開始から7日目まで有意差はない(p=0.14)ものの差が得られ始
めており、14日目(p=0.02)において顕著な有意差が確認された。このことから
、一日あたりの分子状水素摂取量が0.27mgとなるよう水素水を継続的に摂取した場
合、日常生活における肩こりが軽減される傾向が示唆された。肩こりは、筋肉疲労による
循環障害が要因であると考えられることから、実施例1と同様、就寝時や、日常のインタ
ーバル時間等に筋肉疲労が軽減されることで肩こりの軽減に繋がっているものと考えられ
る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、従来型の抗炎症剤による筋肉痛や肩こりの治療に抵抗があった消費者
でも気軽で簡便にこれらの症状を予防・改善することが可能になる。
図1
図2