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特許7110484ジルコニア粉末、ジルコニア粉末の製造方法、ジルコニア焼結体の製造方法、及び、ジルコニア焼結体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ジルコニア粉末、ジルコニア粉末の製造方法、ジルコニア焼結体の製造方法、及び、ジルコニア焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20220725BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20220725BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C04B35/486
C04B35/488
C01G25/00
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021509525
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013409
(87)【国際公開番号】W WO2020196650
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2019057083
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國貞 泰一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-212546(JP,A)
【文献】特開2004-075425(JP,A)
【文献】特開昭59-182270(JP,A)
【文献】国際公開第17/170565(WO,A1)
【文献】特開2018-172263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/56- 35/599
C01G 25/00- 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリアを2.5mol%以上3.5mol%以下含み、
比表面積が5m/g以上15/g以下であり、
平均粒子径が0.3~0.8μm(ただし、0.42μm未満を除く)であり、
結晶相に含まれる単斜晶相率が20%以上40%以下であり、正方晶相率が60%以上80%以下であり、
成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下となることを特徴とするジルコニア粉末。
【請求項2】
成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上となることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1300MPa以上となることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1400MPa以上となることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
着色剤として、Feを0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、TiOを0.5~0.9質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項7】
着色剤として、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、MnOを0.8~1.4質量%を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項8】
着色剤として、ZnOを0.15~0.35質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項9】
着色剤として、Crを0.02~0.1質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項10】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
着色剤として、MnOを0.03~0.06質量%を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項11】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
着色剤として、MnOを0.02~0.05質量%を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項12】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
着色剤として、MnOを0.2~0.5質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項13】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
着色剤として、Feを0.12~0.40質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項14】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
着色剤として、Feを0.12~0.23質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項15】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
着色剤として、CoOを0.3~1.0質量%含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1に記載のジルコニア粉末の製造方法であって、
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とを混合する工程Aと、
前記工程Aの後、塩基を混合する工程Bとを有することを特徴とするジルコニア粉末の製造方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1に記載のジルコニア粉末を、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1300℃以上1500℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yとを有することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項18】
得られるジルコニア焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上となることを特徴とする請求項17に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項19】
結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上2.5%以下、正方晶相率が77%以上90.8%以下、立方晶相率が5%以上20%以下であり、
Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項20】
Feを0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、TiOを0.5~0.9質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が4以上8以下であり、a*が-2以上2以下であり、b*が-3以上1以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項21】
CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、MnOを0.8~1.4質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が6以上12以下であり、a*が-4以上0以下であり、b*が-3以上1以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項22】
ZnOを0.15~0.35質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が85以上91以下であり、a*が-2以上2以下であり、b*が-1以上3以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項23】
Crを0.02~0.1質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が35以上47以下であり、a*が0以上6以下であり、b*が5以上15以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項24】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
MnOを0.03~0.06質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が33以上39以下であり、a*が2以上8以下であり、b*が-3以上3以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項25】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
MnOを0.02~0.05質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が36以上42以下であり、a*が1以上7以下であり、b*が-4以上2以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項26】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
MnOを0.2~0.5質量%を含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が6以上18以下であり、a*が0以上6以下であり、b*が-5以上1以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項27】
アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下であり、
Feを0.12~0.40質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が49以上70以下であり、a*が3以上12以下であり、b*が23以上35以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項28】
アルミナの含有量が0.005質量%未満であり、
Feを0.12~0.23質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が46以上56以下であり、a*が7以上13以下であり、b*が23以上33以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【請求項29】
アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下であり、
CoOを0.3~1.0質量%含み、
L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上39以下であり、a*が-5以上2以下であり、b*が-45以上-33以下であることを特徴とする請求項19に記載のジルコニア焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア粉末、ジルコニア粉末の製造方法、ジルコニア焼結体の製造方法、及び、ジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア(酸化ジルコニウム)の用途は非常に多岐にわたる。このようなジルコニアとしては、乾式で製造された粉末、あるいは、湿式で製造された粉末等が代表例であるが、最近では、その多機能性から湿式で製造されるジルコニア粉末(以下、「湿式ジルコニア粉末」ともいう)の研究開発が活発に行われている。例えば、加水分解法などの湿式精製法で製造された湿式ジルコニア粉末は電子材料、自動車排ガス浄化用助触媒、酸素センサー、ファインセラミックス、反射防止膜、固体酸化物型燃料電池の電解質などに使用されている。
【0003】
上記湿式ジルコニア粉末は、粉末ベースで使用することもあるが、焼結体として使用して、その機能を発揮させる場合が多い。ジルコニア焼結体は、ジルコニア粉末を成型した後、この成型体を焼結することで製造される。この場合、ジルコニア粉末にはあらかじめ、ジルコニア結晶の高温安定相である正方晶系あるいは立方晶系の結晶構造を常温まで維持させるべく、安定化処理が行われる。ジルコニア結晶の安定化処理は、通常、ジルコニアにカルシア、マグネシア、イットリア等の酸化物類を固溶させることにより行われる。立方晶系の結晶構造のみで形成されるジルコニアからなる焼結体は、いわゆる完全安定化ジルコニア(通常「安定化ジルコニア」と言う。)焼結体として広く利用されている。また、正方晶系の結晶構造のジルコニアを含有する焼結体は、部分安定化ジルコニア焼結体として広く利用されている。
【0004】
ジルコニア焼結体の高強度化の検討は従来からなされてきた。ジルコニア焼結体における、高強度機構は焼結体中に含まれる正方晶相ジルコニアが応力によって単斜晶相にマルテンサイト型相転移することに由来する。一般的なジルコニア焼結体の製造方法である常圧焼結では、焼結体中に粗大な気孔が残存し、焼結体の破壊強度はそれら粗大気孔の大きさに影響し、粗大気孔が残存する常圧焼結体の3点曲げ強度は1000~1100MPa程度である。
【0005】
特許文献1には、部分安定化ジルコニア焼結体よりなり、該焼結体が立方晶系の結晶構造をもつジルコニアを実質的に含まず、しかも正方晶系の結晶構造をもつジルコニアを95.5モル%以上99%以下含む歯列矯正用ブラケットが開示されている。特許文献1にはその効果として、初期の強度、靭性が高く、審美性が優れているだけでなく、実際の矯正治療において長期に実用に供した時の機械的性質の安定性も高いので、すぐれた治療効果と治療中の審美性とを両立できることが開示されている。
【0006】
特許文献2には、2~4mol%のイットリアを含むジルコニアからなり、3点曲げ強度1700MPa以上で、かつ厚さ0.5mmでの全光線透過率が43%以上である高強度イットリア含有ジルコニア焼結体であり、平均3点曲げ強度1900MPa以上で、かつ厚さ0.5mmでの全光線透過率が45%以上である高強度イットリア含有ジルコニア焼結体が開示されている。また、特許文献2には、イットリアを含有するジルコニア粉末を成型し、無加圧下で焼結した後、熱間静水圧プレス(HIP)により高温高圧処理することが開示されている。
【0007】
特許文献3には、安定化剤として2~4mol%のイットリアを含み、添加剤としてアルミナを0.1~0.2wt%含む透光性ジルコニア焼結体用粉末から得られた透光性ジルコニア焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上であることが開示されている。また、特許文献3には、ジルコニア顆粒をCIP(圧力2t/cm)でプレス成型し1450℃の条件で焼結させたことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平08-117248号公報
【文献】特開2008-50247号公報
【文献】特開2014-88319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、ジルコニア粉末については、様々な組成や特性を有するジルコニア粉末が開示されている(例えば、特許文献1~3)。ジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を得る際の成型には、一般的に、コストや工程の負荷が高いHIP焼結等が用いられるか、又は、HIP焼結が不要とされるジルコニア粉末であっても、成型圧力として2t/cm程度を必要とし、いずれにしても工程負荷が高い。しかしながら、ジルコニア焼結体を得る際の成型圧力の低減について詳細に検討した例はない。
【0010】
一方、本発明者は、鋭意検討の結果、低い成型圧力で高強度を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができれば工程負荷が低く、有用であると考えるに至った。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低い成型圧力で高強度を有するジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とするジルコニア粉末を提供することにある。また、当該ジルコニア粉末の製造方法を提供することにある。また、当該ジルコニア粉末を用いたジルコニア焼結体の製造方法を提供することにある。また、高強度を有するジルコニア焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ジルコニア粉末について鋭意検討を行った。その結果、下記構成を採用することにより、低い成型圧力で高強度を有するジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とするジルコニア粉末を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るジルコニア粉末は、
イットリアを2.5mol%以上3.5mol%以下含み、
比表面積が5m/g以上20m/g以下であり、
結晶相に含まれる単斜晶相率が20%以上40%以下であり、正方晶相率が60%以上80%以下であり、
成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下となることを特徴とする。
【0014】
イットリアの分散状態を、上記を満たすような特定状態となるようにして、結晶相を制御することにより、成型圧力が低くても、得られるジルコニア焼結体の強度を従来品と同等の高強度とすることができるジルコニア粉末を提供することができる。このことは実施例からも明らかである。また、成型圧力が低くてもよいため、当該ジルコニア粉末を用いれば、ジルコニア焼結体の量産が容易となる。
【0015】
前記構成においては、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上となることが好ましい。
【0016】
前記構成においては、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1300MPa以上となることが好ましい。
【0017】
前記構成においては、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1400MPa以上となることが好ましい。
【0018】
前記構成においては、Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでも構わない。
【0019】
Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むと、焼結体を着色することができる。なお、着色する場合、元素の組み合わせと、前記組み合わせに適した添加量があり、後述する。
【0020】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、着色剤として、Feを0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、TiOを0.5~0.9質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0021】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を異なる系統の黒系に着色する場合、着色剤として、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、MnOを0.8~1.4質量%を含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0022】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を白系に着色する場合、着色剤として、ZnOを0.15~0.35質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0023】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、着色剤として、Crを0.02~0.1質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0024】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、着色剤として、MnOを0.03~0.06質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0025】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、着色剤として、MnOを0.02~0.05質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0026】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を黒色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、着色剤として、MnOを0.2~0.5質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0027】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、着色剤として、Feを0.12~0.40質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0028】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、着色剤として、Feを0.12~0.23質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0029】
前記構成において、焼結することにより得られるジルコニア焼結体を青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、着色剤として、CoOを0.3~1.0質量%含むことが好ましい。前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0030】
また、本発明に係るジルコニア粉末の製造方法は、
前記ジルコニア粉末の製造方法であって、
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とを混合する工程Aと、
前記工程Aの後、塩基を混合する工程Bとを有することを特徴とする。
【0031】
イットリアの原料としてイットリアゾルを用いることにより、ジルコニアへのイットリアの分散性を所望の状態に制御することが容易となる。
【0032】
また、本発明に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
請求項1~4のいずれか1に記載のジルコニア粉末を、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1300℃以上1500℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yとを有することを特徴とする。
【0033】
前記構成によれば、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型するという低圧での成型であるにも関わらず、高強度を有するジルコニア焼結体を得ることができる。
【0034】
前記構成においては、得られるジルコニア焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上となることが好ましい。
【0035】
また、本発明に係るジルコニア焼結体は、
結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下であることを特徴とする。
【0036】
前記構成によれば、結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下であるため、高強度である。このことは、実施例からも明らかである。
前記ジルコニア焼結体は、前記のジルコニア焼結体の製造方法により製造されたことが好ましい。
【0037】
前記構成においては、Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでも構わない。
【0038】
Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むと、好適に着色することができる。
【0039】
前記構成において、ジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、Feを0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、TiOを0.5~0.9質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が4以上8以下であり、a*が-2以上2以下であり、b*が-3以上1以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0040】
前記構成において、ジルコニア焼結体を異なる系統の黒系に着色する場合、CoOを00.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、MnOを0.8~1.4質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が6以上12以下であり、a*が-4以上0以下であり、b*が-3以上1以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0041】
前記構成において、ジルコニア焼結体を白系に着色する場合、ZnOを0.15~0.35質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が85以上91以下であり、a*が-2以上2以下であり、b*が-1以上3以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0042】
前記構成において、ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、Crを0.02~0.1質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が35以上47以下であり、a*が0以上6以下であり、b*が5以上15以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0043】
前記構成において、ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、MnOを0.03~0.06質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が33以上39以下であり、a*が2以上8以下であり、b*が-3以上3以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0044】
前記構成において、ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、MnOを0.02~0.05質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が36以上42以下であり、a*が1以上7以下であり、b*が-4以上2以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0045】
前記構成において、ジルコニア焼結体を黒色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、MnOを0.2~0.5質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が6以上18以下であり、a*が0以上6以下であり、b*が-5以上1以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0046】
前記構成において、ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Feを0.12~0.40質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が49以上70以下であり、a*が3以上12以下であり、b*が23以上35以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0047】
前記構成において、ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、Feを0.12~0.23質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が46以上56以下であり、a*が7以上13以下であり、b*が23以上33以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0048】
前記構成において、ジルコニア焼結体を青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、CoOを0.3~1.0質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上39以下であり、a*が-5以上2以下であり、b*が-45以上-33以下であることが好ましい。前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、低い成型圧力で高強度を有するジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とするジルコニア粉末を提供することができる。また、当該ジルコニア粉末の製造方法を提供することができる。また、当該ジルコニア粉末を用いたジルコニア焼結体の製造方法を提供することができる。また、高強度を有するジルコニア焼結体を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0051】
[ジルコニア粉末]
本実施形態に係るジルコニア粉末は、
イットリアを2.5mol%以上3.5mol%以下含み、
比表面積が5m/g以上20m/g以下であり、
結晶相に含まれる単斜晶相率が20%以上40%以下であり、正方晶相率が60%以上80%以下であり、
成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下となる。
【0052】
イットリアの分散状態を、上記を満たすような特定状態となるようにして、結晶相を制御することにより、成型圧力が低くても、得られるジルコニア焼結体の強度を従来品と同等の高強度とすることができるジルコニア粉末を提供することができる。このことは実施例からも明らかである。また、成型圧力が低くてもよいため、当該ジルコニア粉末を用いれば、ジルコニア焼結体の量産が容易となる。例えば、プレス成型、射出成型、鋳込み成型、シート成型等の各種成型方法を用いてジルコニア焼結体の量産が容易となる。
【0053】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア粉末を100質量%としたとき、好ましく90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0054】
前記ジルコニア粉末は、主成分であるジルコニア以外に、前記ジルコニア粉末の全mol量に対して2.5mol%以上3.5mol%以下のイットリアを含む。イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在し得る。イットリアの含有割合が2.5mol%以上であるため、ジルコニア粉末の焼結体中に単斜晶相の割合が過剰になるのを抑制することができる。すなわち、正方晶相から単斜晶相への相転移による大きな体積膨張に起因する亀裂の伝播を抑制することにより、ジルコニア焼結体の破壊靭性の低下を抑制できる。イットリア含有量が2.5mol%未満では高強度が得られることは既知であるが、水熱劣化特性や光学特性が得られにくい。
【0055】
前記イットリアの含有割合は、2.5mol%以上3.5mol%以下であり、2.6mol%以上3.4mol%以下であることが好ましく、2.7mol%以上3.3mol%以下であることがより好ましく、2.8mol%以上3.2mol%以下であることがさらに好ましい。イットリアの含有量を上記数値範囲内とし、且つ、イットリア分散性を制御し結晶相を制御すれば、低い成型圧力であっても、高強度を有するジルコニア焼結体を得ることができる。イットリア分散性の制御方法としては、特に限定されないが、例えば、下記に示す製造方法等に制御することができる。
【0056】
前記ジルコニア粉末は、必要に応じて酸化アルミニウム(アルミナ)を含有することができる。前記アルミナの含有量は、特に制限されないが、例えば、ジルコニア粉末の全質量に対して0.005質量%~2質量%とすることができる。ジルコニア粉末がアルミナを含有する場合、ジルコニア粉末の焼結性が向上し、結晶構造が均一化しやすくなる。また、ジルコニア粉末がアルミナを含有することで、ジルコニア焼結体の破壊靭性の低下を抑制しやすい。さらに、アルミナの含有量を調節すれば、ジルコニア焼結体の透光性を向上させることができる。
前記アルミナの含有量は、より好ましくは、0.05質量%以上0.15質量%以下、又は、0.20質量%以上0.30質量%以下である。
前記アルミナの含有量を0.05質量%以上0.15質量%以下とする場合、好ましくは0.07質量%以上、より好ましくは0.09質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。前記アルミナの含有量を0.05質量%以上0.15質量%以下とする場合、好ましくは0.13質量%以下、より好ましくは0.11質量%以下、さらに好ましくは0.105質量%以下である。
前記アルミナの含有量を0.20質量%以上0.30質量%以下とする場合、好ましくは0.22質量%以上、より好ましくは0.24質量%以上、さらに好ましくは0.25質量%以上である。前記アルミナの含有量を0.20質量%以上0.30質量%以下とする場合、好ましくは0.28質量%以下、より好ましくは0.26質量%以下、さらに好ましくは0.255質量%以下である。
【0057】
前記アルミナの含有量は、ジルコニア粉末の全質量に対して0.01~1質量%であることがより好ましく、0.02~0.5質量%であることがさらに好ましく、0.1~0.4質量%であることが特に好ましく、0.2~0.3質量%であることが特別に好ましい。
【0058】
アルミナの形態は、特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時のハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、アルミナ粉末が好ましい。
【0059】
アルミナの形態が粉末である場合、アルミナの一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、例えば0.02~0.4μmとすることができ、好ましくは0.05~0.3μm、さらに好ましくは0.07~0.2μmである。
アルミナの一次粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2000」島津製作所社製))に投入し測定した値である。
【0060】
前記ジルコニア粉末は、イットリアの一部の代替として他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、カルシア、マグネシアなどのアルカリ土類金属酸化物や、セリアなどの希土類酸化物が例示される。前記ジルコニア粉末は、イットリア成分を必須とする。
【0061】
前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、特に限定されない。例えば、前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、0.3~0.8μmとすることができる。ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であれば、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。また、ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であれば、粉砕工程の粉砕時間を長くする必要もない。ジルコニア粉末の平均粒子径が0.8μm以下であれば、粉末中の単斜晶相が多くなり過ぎないので、高い焼結密度を有する焼結体が得られやすい。前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、好ましくは0.35~0.75μm、さらに好ましくは0.4~0.7μmとすることができる。
ジルコニア粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。より詳細には、実施例に記載の方法による。
【0062】
前記ジルコニア粉末の比表面積は、5m/g以上20m/g以下である。前記ジルコニア粉末の比表面積が5m/g以上20m/g以下であるため、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。前記ジルコニア粉末の比表面積は、好ましくは6~18m/g、より好ましくは6.5~15m/g、さらに好ましくは7~13m/gである。
本明細書において、ジルコニア粉末の比表面積は、BET比表面積のことを指し、比表面積計「フローソーブ-II」(マイクロメリティクス社製)を用いて測定した値である。
【0063】
前記ジルコニア粉末は、結晶相に含まれる単斜晶相率が20%以上40%以下であり、正方晶相率が60%以上80%以下である。前記単斜晶相率は、20%以上40%以下であり、25%以上35%以下が好ましく、27%以上35%以下がより好ましい。前記正方晶相率は、60%以上80%以下であり、65%以上75%以下が好ましく、65%以上73%以下がより好ましい。
【0064】
安定化剤としてのイットリアを含むジルコニアは通常、単斜晶相、正方晶相、立方晶相のいずれか、もしくは共存する。
【0065】
本明細書において、前記ジルコニア粉末に含まれる結晶相の各相率は、以下の計算式で求める。
単斜晶相率(%)=(Im(111)+Im(11-1))/(Im(111)+Im(11-1)+It(101)+Ic(111))×100
正方晶相率(%)=(100%-単斜晶相(%))×((It(004)+It(220)/(It(004)+It(220)+Ic(004))×100
立方晶相率(%)=(100%-単斜晶相(%))×((Ic(004)/(It(004)+It(220)+Ic(004))×100
ここで、Im(111)は単斜晶相の(111)の回折強度、Im(11-1)は単斜晶相の(11-1)の回折強度である。
It(101)は正方晶相の(101)の回折強度、It(220)は正方晶相の(220)の回折強度、It(004)は正方晶相の(004)の回折強度である。
Ic(004)は立方晶相の(004)の回折強度、Ic(111)は立方晶相の(111)の回折強度である。
ジルコニアの単斜晶相と、正方晶相及び立方晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=26~36°付近で行う。正方晶相と立方晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=72~76°付近で行う。立方晶相は安定化剤の添加量や製法によって歪むことがあり、ピーク位置がシフトする場合があるが、本明細書では正方晶相の(004)と(220)の間のピークを立方晶相のピークと捉え算出する。
X線回折装置、及び、XRD測定条件の詳細は、実施例に記載の通りである。
【0066】
前記ジルコニア粉末は、Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよい。Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を着色元素として含むと、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体を着色することができる。
【0067】
前記着色元素の形態は特に限定されず、酸化物、塩化物などの形態で添加することができる。前記着色元素を含む着色剤としては、具体的には、例えば、Fe、V、Er、MnO、CoO、Cr、Tb、ZnO、TiO等が挙げられる。前記着色剤は、前記ジルコニア粉末に混合物として添加されていることが好ましい。
【0068】
<第1の黒系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、着色剤として、Feを0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、TiOを0.5~0.9質量%含むことが好ましい。
前記Feの含有量は、0.5~0.9質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Crの含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記TiOの含有量は、0.55~0.85質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0069】
<第2の黒系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を、第1の黒系とは異なる系統の黒系に着色する場合、着色剤として、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、MnOを0.8~1.4質量%を含むことが好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Crの含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記MnOの含有量は、0.9~1.3質量%がより好ましく、1.0~1.2質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0070】
<第3の黒系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を、第1、2の黒系とは異なる系統の黒系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、着色剤として、MnOを0.2~0.5質量%を含ませることが好ましい。
前記MnOの含有量は、0.25~0.45質量%がより好ましく、0.3~0.4質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0071】
<白系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を白系に着色する場合、着色剤として、ZnOを0.15~0.35質量%含むことが好ましい。
前記ZnOの含有量は、0.2~0.3質量%がより好ましく、0.22~0.28質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0072】
<第1の灰色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、着色剤として、MnOを0.03~0.06質量%含むことが好ましい。
前記MnOの含有量は、0.035~0.055質量%がより好ましく、0.04~0.05質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0073】
<第2の灰色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、着色剤として、MnOを0.02~0.05質量%含むことが好ましい。
前記MnOの含有量は、0.025~0.045質量%がより好ましく、0.03~0.04質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0074】
<第3の灰色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、Crを0.02~0.1質量%含むことが好ましい。
前記Crの含有量は、0.04~0.08質量%がより好ましく、0.05~0.07質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0075】
<第1の茶色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、着色剤として、Feを0.12~0.23質量%含むことが好ましい。
前記Feの含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0076】
<第2の茶色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、着色剤として、Feを0.12~0.23質量%含むことが好ましい。
前記Feの含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0077】
<第3の茶色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を第1の茶色よりも深い色合いの茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Feを0.23~0.40質量%含ませるとよい。
前記Feの含有量は、0.25~0.35質量%がより好ましく、0.28~0.32質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0078】
<青色系>
焼結することにより得られるジルコニア焼結体を青色系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下において、CoOを0.3~1.0質量%を含ませるとよい。
前記CoOの含有量は、0.4~0.8質量%がより好ましく、0.5~0.7質量%がさらに好ましい。
前記着色剤を前記範囲内で含むと、好ましい発色となる。
【0079】
前記ジルコニア粉末は、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下となることが好ましい。前記単斜晶相率は、1%以上3%以下であり、1.1%以上2.5%以下が好ましく、1.2%以上2%以下がより好ましい。前記正方晶相率は、77%以上94%以下であり、79.5%以上91.9%以下が好ましく、82%以上90.8%以下がより好ましい。前記立方晶相率は、5%以上20%以下であり、7%以上18%以下が好ましく、8%以上16%以下がより好ましい。
前記ジルコニア粉末は、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下となるため、イットリアの分散状態が特定の状態となっており、低圧で成型体を形成したとしても、得られる焼結体は高強度となる。
前記焼結体に含まれる結晶相の各相率は、前記ジルコニア粉末に含まれる結晶相の各相率と同様にして求められる値である。
【0080】
前記ジルコニア粉末は、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上であることが好ましく、1300MPa以上であることがより好ましく、1350MPa以上であることがさらに好ましく、1400MPa以上であることが特に好ましい。また、前記3点曲げ強度は、大きいほど好ましいが、例えば、1500MPa以下、1450MPa以下、1410MPa以下等とすることができる。前記3点曲げ強度が1200MPa以上であると、当該ジルコニア粉末を用いて製造される焼結体は、低圧で成型されたとしても高強度なものとなる。
前記3点曲げ強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
なお、「成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結」との条件は、低圧成型後に焼結されるという製造条件を想定して、ジルコニア粉末の物性を評価するための成型、焼結条件であり、当該ジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を製造する場合に、この条件で成型、焼結することを意味するものではない。
【0081】
前記ジルコニア粉末は、成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の相対焼結密度が99.5%以上であることが好ましく、99.6%以上であることがより好ましく99.7%以上であることがさらに好ましい。前記相対焼結密度が上記範囲内であれば、当該ジルコニア粉末を用いて製造される焼結体は、性能が特に優れる。
【0082】
前記相対焼結密度は、下記式(1)で表される相対焼結密度のことをいう。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+225.81X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、X及びYはそれぞれ、イットリア濃度(mol%)及びアルミナ濃度(質量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば、6.112g/cm、3mol%であれば、6.092g/cm、5.5mol%であれば、6.045g/cmである。なお、前記理論焼結密度は、アルミナ濃度が0.25質量%である場合の値である。焼結密度については、アルキメデス法にて計測することができる。より詳細には実施例に記載の方法による。着色剤を添加した場合は、アルミナ添加と同様に計算する。
【0083】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0084】
[ジルコニア粉末の製造方法]
以下、ジルコニア粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0085】
本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法は、
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とを混合する工程Aと、
前記工程Aの後、塩基を混合する工程Bとを有する。
【0086】
<工程A>
本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法においては、まず、塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とを混合する(工程A)。
【0087】
塩基性硫酸ジルコニウムとしては、特に制限されず、例えばZrOSO・ZrO、5ZrO・3SO、7ZrO・3SO等で示される化合物の水和物が挙げられる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。
【0088】
一般に、これらの塩基性塩は、溶解度の小さい、光学的測定による粒径が数十オングストロームの微粒子の凝集体として0.1~十数μmの粒径を有する凝集粒子として得られるものであり、公知の製法で得られたもの又は市販品を用いることができる。例えば、「Gmelin Handbuch,TEIL 42;Zirkonium(ISBN3-540-93242-9,334-353,1958)」等に記載されたものも使用できる。
【0089】
イットリアの原料としては、本実施形態のように、イットリアゾルが好適である。イットリアゾルとしては、公知の製法で得られたもの又は市販品を用いることができる。
【0090】
イットリアゾルの平均粒子径としては、10~150nmが好ましく、15~120nmがより好ましく、20~100nmがさらに好ましく、30~80nmが特に好ましい。イットリアゾルの平均粒子径が10nm以上であると、イットリアのジルコニアへの分散の程度が好適となる。イットリアゾルの平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)により求めた値である。
【0091】
前記イットリアゾル溶液の濃度は、特に限定されないが、1~30質量%が好ましく、3~25質量%がよりに好ましい。イットリアゾルの製法としては、例えば、特許4518844号などが挙げられる。
【0092】
ジルコニア粉末に対するイットリアゾル添加量は、イットリア換算で2.5~3.5mol%であることが好ましく、2.6~3.4mol%であることがより好ましく、2.7~3.3mol%であることがさらに好ましく、2.8~3.2mol%が特に好ましい。
【0093】
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とを混合する際の溶媒としては、塩基性硫酸ジルコニウムやイットリアゾルを分散できるものであれば特に制限されないが、通常は極性溶媒である水(イオン交換水など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)等が使用できる。コスト低減の観点から、溶媒は水が最も好ましい。塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液とを混合した後の混合液の濃度は、複合酸化物の組成比率等によって適宜変更できるが、通常1~25質量%程度、好ましくは10~20質量%とすれば良い。
【0094】
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液との配合割合は、前記の組成比率となるように、溶液の濃度等を適宜調節して決定することができる。
【0095】
前記混合液の温度は、通常80℃以下、好ましくは20~50℃とすれば良い。
【0096】
塩基性硫酸ジルコニウムとイットリアゾル溶液との混合は、塩基性硫酸ジルコニウムに対して少しずつイットリアゾル溶液を滴下することが好ましい。前記滴下時間は、比較的長時間とすることが好ましい。前記滴下時間は、具体的には、好ましくは1時間~10時間、より好ましくは2時間~5時間、さらに好ましくは2.5時間~4時間である。なお、前記滴下時間とは、滴下を開始してから滴下が終了するまでの期間をいう。前記混合は、滴下に加えて、さらに攪拌を行うことが好ましい。滴下時間を1時間以上とすれば、イットリアの偏析をより抑制することができる。また、滴下時間を10時間以下とすれば、製造コストを抑制することができる。
【0097】
イットリアの原料の選択や、工程Aにおける各種条件を調整し、ジルコニアへのイットリアの分散性を制御することより、所望のジルコニアの安定化相を得ることができる。
【0098】
<工程B>
前記工程Aの後、前記混合液に塩基を混合する(工程B)。これにより、沈殿物(水酸化ジルコニウム)が生成される。
【0099】
前記塩基としては、特に制限されず、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア等の公知のアルカリ剤を用いることができる。前記塩基としては、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリを用いることが好ましい。また、前記塩基は、水溶液として混合することが好ましい。この場合、水溶液の濃度は、pH調整が可能な限り特に限定されないが、通常5~50質量%程度、好ましくは20~25質量%とすれば良い。
【0100】
塩基を混合した後、必要に応じて、固液分離し、得られた水酸化ジルコニウムを水洗しても良い。固液分離の方法は、遠心分離等の一般的な方法に従えば良い。水洗処理した水酸化ジルコニウムを水等の分散媒に再分散し、水酸化ジルコニウムスラリーとすることができる。
【0101】
その後、前記水酸化ジルコニウムを1000℃~1200℃の温度雰囲気(焼成温度)で加熱する。この熱処理によって水酸化ジルコニウムが焼成され、ジルコニアが形成される。必要に応じて、その後、粉砕処理、分級処理等を実施しても良い。焼成温度が上記範囲であることで、粉砕、成型及び焼結の制御が容易となる。
【0102】
前記焼成温度は、好ましくは1040~1180℃である。焼成時の雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。
【0103】
常温(25℃)から焼成温度までの昇温速度は、特に制限はないが、50~200℃/時間とすることができ、100~150℃/時間がより好ましい。
【0104】
前記粉砕処理における粉砕方法については、特に限定されず、例えば、遊星ミル、ボールミル、ジェットミル等の市販の粉砕機で粉砕する方法が挙げられる。
【0105】
ジルコニア粉末を製造するにあたっては、アルミニウムを含む原料を添加することができる。この場合、得られるジルコニア粉末はアルミナを含み得る。
【0106】
前記アルミニウムを含む原料としては、例えば、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の少なくとも1種が例示される。前記アルミニウムを含む原料としては、アルミナゾル、アルミナ粉末なども例示される。
【0107】
前記アルミニウムを含む原料の純度は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。前記アルミニウムを含む原料は、コスト、ハンドリング性や不純物残存の観点から、アルミナ粉末が好ましい。
【0108】
前記アルミニウムを含む原料は、アルミニウムを含む原料の種類に応じて、上記の各工程を実施する際に、適宜、添加することができる。例えば、アルミナ粉末であれば、焼成前の水酸化ジルコニウムスラリーに添加してもよく、水酸化ジルコニウムスラリーを焼成した後の焼成物に添加してもよい。
【0109】
前記アルミニウムを含む原料の使用量は、得られるジルコニア粉末において、アルミナの含有割合が所望の含有量となるように調整すればよい。
【0110】
上述したように、本実施形態の製造方法では、必要に応じて、得られたジルコニア粉末を粉砕してスラリー化してもよい。その際、成型性を向上させるためにバインダーを添加することができる。スラリー化しない場合は、バインダーとジルコニア粉末とを混練機で均一に混合してもよい。
【0111】
前記バインダーは、有機バインダーが好ましい。有機バインダーは、酸化雰囲気の加熱炉にて成型体から除去しやすく、脱脂体を得ることができるので、最終的に焼結体中に不純物が残存しにくくなる。
【0112】
前記有機バインダーとしては、アルコールが挙げられる。また、前記有機バインダーとしては、アルコール、水、脂肪族ケトン及び芳香族炭化水素からなる群より選ばれる2種以上の混合液に対して溶解するものが挙げられる。具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、グリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル及びプロピオン酸ビニルからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。前記有機バインダーは、アルコール、又は、前記混合液に対して不溶な1種以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0113】
前記アルミニウムを含む原料、前記有機バインダー等を混合した後、公知の方法を適用して乾燥、粉砕等の処理をすることにより、目的とするジルコニア粉末を得ることができる。
【0114】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法について説明した。
【0115】
[ジルコニア焼結体の製造方法]
以下、ジルコニア焼結体の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア焼結体の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0116】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1350℃以上1550℃以下、1時間以上10時間以下の条件で焼結する工程Yとを有する。
【0117】
<工程X>
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法においては、まず、前記ジルコニア粉末を、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下で成型し、成型体を得る(工程X)。前記成型圧は、0.75t/cm以上0.9t/cm以下が好ましく、0.75t/cm以上0.85t/cm以下がより好ましい。
【0118】
ジルコニア粉末を成型するにあたっては、市販の金型成型機や冷間等方圧加圧法(CIP)を採用できる。また、一旦、ジルコニア粉末を金型成型機で仮成型した後、CIP等のプレス成型で本成型してもよい。従来、ジルコニア粉末の成型体を作製する場合、高圧条件で行われていたが、本実施形態では、成型圧0.7t/cm以上0.9t/cm以下という比較的低い成型圧で成型体を作製する。本実施形態では、前記ジルコニア粉末を用いることにより、このような低い成型圧で成型体を作製しても、高強度を有する焼結体を得ることができる。
【0119】
<工程Y>
前記工程Xの後、前記成型体を1300℃以上1500℃以下1時間以上5時間以下の条件で焼結する(工程Y)。これにより、本実施形態に係るジルコニア焼結体が得られる。
【0120】
前記焼結時の焼結温度は、1300℃以上1500℃以下が好ましく、1400℃以上1490℃以下がより好ましく、1420℃以上1480℃以下がさらに好ましい。
前記焼結時の保持時間は、1時間以上5時間以下が好ましく、2時間以上4時間以下がより好ましく、2時間以上3時間以下がさらに好ましい。焼結時の雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。
【0121】
常温(25℃)から焼結温度までの昇温速度は、特に制限はないが、50~200℃/時間とすることができ、100~150℃/時間がより好ましい。
【0122】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【0123】
[ジルコニア焼結体]
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、前記ジルコニア焼結体の製造方法により、好適に製造することができる。
【0124】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下である。前記単斜晶相率は、1%以上3%以下であり、1.1%以上2.5%以下が好ましく、1.2%以上2%以下がより好ましい。前記正方晶相率は、77%以上94%以下であり、79.5%以上91.9%以下が好ましく、82%以上90.8%以下がより好ましい。前記立方晶相率は、5%以上20%以下であり、7%以上18%以下が好ましく、8%以上16%以下がより好ましい。
前記ジルコニア焼結体は、結晶相に含まれる単斜晶相率が1%以上3%以下、正方晶相率が77%以上94%以下、立方晶相率が5%以上20%以下となるため、イットリアの分散状態が特定状態となっており、高強度である。
前記ジルコニア焼結体に含まれる結晶相の各相率は、前記ジルコニア粉末に含まれる結晶相の各相率と同様にして求められる値である。
【0125】
前記ジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が1200MPa以上であることが好ましく、1300MPa以上であることがより好ましく、1350MPa以上であることがさらに好ましく、1400MPa以上であることが特に好ましい。また、前記3点曲げ強度は、大きいほど好ましいが、例えば、1500MPa以下、1450MPa以下、1410MPa以下等とすることができる。前記3点曲げ強度が1200MPa以上であると、高強度であるといえる。
前記3点曲げ強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
【0126】
前記ジルコニア焼結体は、Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよい。Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を着色元素として含むと、好適に着色することができる。
【0127】
前記着色元素の形態は特に限定されず、酸化物、塩化物などの形態で添加することができる。前記着色元素を含む着色剤としては、具体的には、例えば、Fe、V、Er、MnO、CoO、Cr、Tb、ZnO、TiO等が挙げられる。
【0128】
<第1の黒系>
ジルコニア焼結体を黒系に着色する場合、Feを0.4~1.0質量%、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、TiOを0.5~0.9質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が4以上8以下であり、a*が-2以上2以下であり、b*が-3以上1以下であることが好ましい。
前記Feの含有量は、0.5~0.9質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Crの含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記TiOの含有量は、0.55~0.85質量%がより好ましく、0.6~0.8質量%がさらに好ましい。
前記L*は、4.5以上7以下がより好ましく、5以上6.5以下がさらに好ましい。
前記a*は、-1.5以上1以下がより好ましく、-1以上0以下がさらに好ましい。
前記b*は、-2以上0以下がより好ましく、-1.5以上-0.5以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0129】
<第2の黒系>
ジルコニア焼結体を異なる系統の黒系に着色する場合、CoOを0.9~1.5質量%、Crを1.0~1.6質量%、MnOを0.8~1.4質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が6以上12以下であり、a*が-4以上0以下であり、b*が-3以上1以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、1.0~1.4質量%がより好ましく、1.1~1.3質量%がさらに好ましい。
前記Crの含有量は、1.1~1.5質量%がより好ましく、1.2~1.4質量%がさらに好ましい。
前記MnOの含有量は、0.9~1.3質量%がより好ましく、1.0~1.2質量%がさらに好ましい。
前記L*は、7以上11以下がより好ましく、8以上9以下がさらに好ましい。
前記a*は、-3.5以上-0.5以下がより好ましく、-2以上-1以下がさらに好ましい。
前記b*は、-2以上0以下がより好ましく、-1.5以上-0.5以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0130】
<第3の黒系>
ジルコニア焼結体を異なる系統の黒系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、MnOを0.2~0.5質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が6以上18以下であり、a*が0以上6以下であり、b*が-5以上1以下であることが好ましい。
前記MnOの含有量は、0.25~0.45質量%がより好ましく、0.3~0.4質量%がさらに好ましい。
前記L*は、8以上16以下がより好ましく、10以上14以下がさらに好ましい。
前記a*は、1以上5以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
前記b*は、-4以上0以下がより好ましく、-3以上-1以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0131】
<白系>
ジルコニア焼結体を白系に着色する場合、ZnOを0.15~0.35質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が85以上91以下であり、a*が-2以上2以下であり、b*が-1以上3以下であることが好ましい。
前記ZnOの含有量は、0.2~0.3質量%がより好ましく、0.22~0.28質量%がさらに好ましい。
前記L*は、86以上90以下がより好ましく、87以上89以下がさらに好ましい。
前記a*は、-1.5以上1以下がより好ましく、-1以上0以下がさらに好ましい。
前記b*は、0以上2.5以下がより好ましく、1以上2以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0132】
<第1の灰色系>
ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、MnOを0.03~0.06質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が33以上39以下であり、a*が2以上8以下であり、b*が-3以上3以下であることが好ましい。
前記MnOの含有量は、0.035~0.055質量%がより好ましく、0.04~0.05質量%がさらに好ましい。
前記L*は、34以上38以下がより好ましく、35以上37以下がさらに好ましい。
前記a*は、3以上7以下がより好ましく、4以上6以下がさらに好ましい。
前記b*は、-2以上2以下がより好ましく、-1以上1以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0133】
<第2の灰色系>
ジルコニア焼結体を灰色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、MnOを0.02~0.05質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が36以上42以下であり、a*が1以上7以下であり、b*が-4以上2以下であることが好ましい。
前記MnOの含有量は、0.025~0.045質量%がより好ましく、0.03~0.04質量%がさらに好ましい。
前記L*は、37以上41以下がより好ましく、38以上40以下がさらに好ましい。
前記a*は、2以上6以下がより好ましく、3以上5以下がさらに好ましい。
前記b*は、-3以上1以下がより好ましく、-2以上0以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0134】
<第3の灰色系>
ジルコニア焼結体を異なる系統の灰色系に着色する場合、Crを0.02~0.1質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が35以上47以下であり、a*が0以上6以下であり、b*が5以上15以下であることが好ましい。
前記Crの含有量は、0.04~0.08質量%がより好ましく、0.05~0.07質量%がさらに好ましい。
前記L*は、37以上45以下がより好ましく、39以上43以下がさらに好ましい。
前記a*は、1以上5以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
前記b*は、7以上13以下がより好ましく、9以上12以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0135】
<第1の茶色系>
ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Feを0.12~0.23質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が60以上70以下であり、a*が3以上9以下であり、b*が23以上33以下であることが好ましい。
前記Feの含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記L*は、62以上68以下がより好ましく、63以上67以下がさらに好ましい。
前記a*は、4以上8以下がより好ましく、5以上7以下がさらに好ましい。
前記b*は、25以上31以下がより好ましく、26以上30以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0136】
<第2の茶色系>
ジルコニア焼結体を茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%未満の条件下(アルミナを実質的に含有しない条件下)では、Feを0.12~0.23質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が46以上56以下であり、a*が7以上13以下であり、b*が23以上33以下であることが好ましい。
前記Feの含有量は、0.14~0.21質量%がより好ましく、0.16~0.2質量%がさらに好ましい。
前記L*は、47以上55以下がより好ましく、49以上53以下がさらに好ましい。
前記a*は、8以上12以下がより好ましく、9以上11.5以下がさらに好ましい。
前記b*は、25以上31以下がより好ましく、27以上30以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0137】
<第3の茶色系>
ジルコニア焼結体を第1の茶色よりも深い色合いの茶色系に着色する場合、アルミナの含有量が0.005質量%以上2質量%以下の条件下では、Feを0.23~0.40質量%含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が49以上59以下であり、a*が6以上12以下であり、b*が25以上35以下であることが好ましい。
前記Feの含有量は、0.25~0.35質量%がより好ましく、0.28~0.32質量%がさらに好ましい。
前記L*は、51以上57以下がより好ましく、52以上56以下がさらに好ましい。
前記a*は、7以上11以下がより好ましく、8以上10.5以下がさらに好ましい。
前記b*は、27以上33以下がより好ましく、28以上32以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0138】
<青色系>
ジルコニア焼結体を異なる系統の青系に着色する場合、アルミナの含有量が1質量%以上3質量%以下の条件下では、CoOを0.3~1.0質量%を含み、L*a*b*表色系で規定されるL*が27以上39以下であり、a*が-5以上2以下であり、b*が-45以上-33以下であることが好ましい。
前記CoOの含有量は、0.4~0.8質量%がより好ましく、0.5~0.7質量%がさらに好ましい。
前記L*は、29以上37以下がより好ましく、31以上36以下がさらに好ましい。
前記a*は、-4以上1以下がより好ましく、-3以上0以下がさらに好ましい。
前記b*は、-42以上-35以下がより好ましく、-41以上-37以下がさらに好ましい。
前記酸化物を前記範囲内で含むと、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*を前記数値範囲内とし易く、好ましい発色となる。
【0139】
なお、L*a*b*表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L*a*b*)表色系と称される色空間のことを意味している。また、L*a*b*表色系は、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。
【0140】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体について説明した。
【実施例
【0141】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において得られたジルコニア粉末中には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0142】
[ジルコニア粉末の作製]
(実施例1)
塩基性硫酸ジルコニウム(酸化ジルコニウムとして100g含有)を水1000g中に分散し、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーとした。また、濃度5%のイットリアゾル溶液(第一稀元素化学工業株式会社製、イットリアゾルの平均粒子径:30nm)をジルコニアに対して3mol%となるように計り取った。なお、イットリアゾルの平均粒子径は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)により求めた値である。具体的には、下記の通りである。
機種:ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)
測定濃度:金属酸化物換算で30%
測定温度:25℃
散乱角度:173°
【0143】
塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを撹拌しながら、計り取ったイットリアゾル溶液を3時間かけて滴下し、混合した。これにより混合液を得た。
【0144】
次に、混合液に、25重量%水酸化ナトリウム水溶液をpHが13.5となるまで添加して沈殿物を得た。
【0145】
次に、生成した沈殿物を固液分離し、水洗して回収した。
【0146】
次に、回収した固形分を大気中1100℃で2時間焼成し、ジルコニウム酸化物を得た。昇温速度は、100℃/時とした。
【0147】
得られたジルコニウム酸化物に一次粒子の平均粒子径0.1μmのアルミナ粉末をジルコニウム酸化物に対して0.25質量%加え、水を分散媒とした湿式ボールミルにて30時間粉砕混合した。得られたスラリーを120℃にて恒量となるまで乾燥し、実施例1に係るジルコニア粉末を得た。
【0148】
(実施例2)
焼成温度を1200℃に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例2に係るジルコニア粉末を得た。
【0149】
(実施例3)
焼成温度を1170℃に変更し、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例3に係るジルコニア粉末を得た。
【0150】
(実施例4)
アルミナ粉末添加量を0.1質量%に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例4に係るジルコニア粉末を得た。
【0151】
(実施例5)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して2.6mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてFe粉末を0.7質量%、CoO粉末を1.2質量%、Cr粉末を1.3質量%、TiO粉末を0.7質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るジルコニア粉末を得た。
【0152】
(実施例6)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して2.6mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加量を0.70質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてCoO粉末を1.2質量%、Cr粉末を1.3質量%、MnO粉末を1.1質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係るジルコニア粉末を得た。
【0153】
(実施例7)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して2.6mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてZnO粉末を0.25質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るジルコニア粉末を得た。
【0154】
(実施例8)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、アルミナ粉末添加量を0.1質量%に変更したこと、さらに、着色剤としてCr粉末を0.05質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係るジルコニア粉末を得た。
【0155】
(実施例9)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、及び、アルミナ粉末を添加しない代わりに、着色剤としてMnO粉末を0.045質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係るジルコニア粉末を得た。
【0156】
(実施例10)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加量を0.10質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてMnO粉末を0.035質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係るジルコニア粉末を得た。
【0157】
(実施例11)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加量を0.10質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてMnO粉末を0.32質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係るジルコニア粉末を得た。
【0158】
(実施例12)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、及び、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてFe粉末を0.18質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例12に係るジルコニア粉末を得た。
【0159】
(実施例13)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加量を0.10質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてFe粉末を0.18質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例13に係るジルコニア粉末を得た。
【0160】
(実施例14)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、及び、アルミナ粉末を添加しない代わりに、着色剤としてFe粉末を0.18質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例14に係るジルコニア粉末を得た。
【0161】
(実施例15)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して3.2mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加の際に、さらに、着色剤としてFe粉末を0.3質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例15に係るジルコニア粉末を得た。
【0162】
(実施例16)
イットリアゾル溶液の添加量をジルコニアに対して2.6mol%に変更したこと、アルミナ粉末の添加量を1.85質量%に変更したこと、さらに、着色剤としてCoO粉末を0.6質量%加えたこと、焼成温度を1170℃に変更したこと、及び、ボールミル粉砕時間を40時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例16に係るジルコニア粉末を得た。
【0163】
(比較例1)
イットリアゾル溶液の滴下時間を1分間に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で比較例1に係るジルコニア粉末を得た。
【0164】
(比較例2)
イットリアゾル溶液の代わりに、同濃度の塩化イットリウム溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で比較例2に係るジルコニア粉末を得た。
【0165】
(比較例3)
イットリアゾル溶液の代わりに、イットリア量として同量のイットリア粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で比較例3に係るジルコニア粉末を得た。
【0166】
(比較例4)
イットリアゾル溶液を平均粒径が3nmのイットリアゾル溶液に変更したこと以外は実施例4と同様の方法で比較例4に係るジルコニア粉末を得た。
【0167】
[ジルコニア粉末の組成測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。表1に示す。
【0168】
[結晶相の同定]
実施例、比較例のジルコニア粉末について、X線回折装置(「RINT2500」リガク製)を用い、X線回折スペクトルを得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:X線回折装置(リガク製、RINT2500)
線源:CuKα線源
管電圧:50kV
管電流:300mA
走査速度:2θ=26~36°:4°/分
2θ=72~76°:1°/分
【0169】
その後、X線回折スペクトルから、結晶相の同定を行った。ジルコニア系多孔質体に含まれる結晶相の各相率は、以下の計算式で求めた。
単斜晶相率(%)=(Im(111)+Im(11-1))/(Im(111)+Im(11-1)+It(101)+Ic(111))×100
正方晶相率(%)=(100%-単斜晶相(%))×((It(004)+It(220)/(It(004)+It(220)+Ic(004))×100
立方晶相率(%)=(100%-単斜晶相(%))×((Ic(004)/(It(004)+It(220)+Ic(004))×100
ここで、Im(111)は単斜晶相の(111)の回折強度、Im(11-1)は単斜晶相の(11-1)の回折強度である。
It(101)は正方晶相の(101)の回折強度、It(220)は正方晶相の(220)の回折強度、It(004)は正方晶相の(004)の回折強度である。
Ic(004)は立方晶相の(004)の回折強度、Ic(111)は立方晶相の(111)の回折強度である。
ジルコニアの単斜晶相と、正方晶相及び立方晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=26~36°付近で行った。正方晶相と立方晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=72~76°付近で行った。立方晶相は安定化剤の添加量や製法によって歪むことがあり、ピーク位置がシフトする場合があるが、本実施例では正方晶相の(004)と(220)の間のピークを立方晶相のピークと捉え算出した。結果を表1に示す。
【0170】
[平均粒子径]
実施例、比較例のジルコニア粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2000」島津製作所社製))に投入して測定した。結果を表1に示す。
【0171】
[比表面積の測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表1に示す。
【0172】
[成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の結晶相比率]
実施例、比較例のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、常圧(1気圧)下、1450℃2時間の条件で焼結した。得られた焼結体の結晶相比率を、上記「結晶相の同定」と同様にして求めた。結果を表1に示す。
【0173】
[成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度]
実施例、比較例のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、常圧(1気圧)下、1450℃2時間の条件で焼結した。得られた焼結体の3点曲げ強度を、JIS R 1601の3点曲げ強さに準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0174】
[成型圧0.8t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結した焼結体の相対焼結密度]
実施例、比較例のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、常圧(1気圧)下、1450℃2時間の条件で焼結した。その後、得られた焼結体の相対焼結密度を下記式(1)に従って求めた。
【0175】
前記相対焼結密度は、下記式(1)で表される相対焼結密度のことをいう。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+225.81X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、X及びYはそれぞれ、イットリア濃度(mol%)及びアルミナ濃度(質量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。本実施例では、3mol%であるので6.092g/cmである。なお、この理論焼結密度は、アルミナ量0.25%を加味している。焼結密度は、アルキメデス法にて計測した。
着色剤を添加した場合は、アルミナ添加と同様に計算した。
【0176】
[焼結体の色調]
実施例5~13のジルコニア粉末を、成型圧0.8t/cmで成型した。その後、常圧(1気圧)下、1450℃2時間の条件で焼結した。得られた焼結体の色調を、色彩色差計(商品名:CM-3500d、コニカミノルタ社製)を用いて測定した。なお、実施例5~13以外の実施例、比較例は、着色剤を添加していないため、色調を測定していない。結果を表1に示す。
【0177】
(参考例1)
実施例1のジルコニア粉末を、成型圧0.5t/cmで成型した後、1450℃2時間の条件で焼結し、参考例1の焼結体を得た。
参考例1の焼結体の結晶相を同定した。また、3点曲げ強度、相対焼結密度を測定した。
結晶相の同定方法、3点曲げ強度の測定方法、相対焼結密度の求め方については、上記と同様とした。結果を表1に示す。
【0178】
【表1】