(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】コロイダルシリカ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/141 20060101AFI20220725BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220725BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
C01B33/141
C09K3/14 550D
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2021577184
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047846
【審査請求日】2022-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 智陽
(72)【発明者】
【氏名】千葉 年輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠真
(72)【発明者】
【氏名】田島 誉大
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012174(WO,A1)
【文献】特開昭63-074911(JP,A)
【文献】特開2005-162533(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151145(WO,A1)
【文献】特開2015-189637(JP,A)
【文献】特開2017-117894(JP,A)
【文献】井上雅博,パルスNMR法を用いたコロイド中の粒子分散性評価,第26回エレクトロニクスにおけるマイクロ接合・実装技術シンポジウム論文集,2020年01月28日,pp.125-128
【文献】MACKAY, R. et al.,Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects,2004年12月10日,Vol.250,pp.343-348,<DOI:10.1016/j.colsurfa.2004.06.043>
【文献】COOPER, C. L. et al.,Langmuir,2012年11月08日,Vol.28,pp.16588-16595,<DOI:10.1021/la303864h>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
B24B 37/00
C09K 3/14
H01L 21/304
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びシリカ粒子を含み、
シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度が0.60以上であり、
前記シリカ粒子表面のpH2~5の範囲におけるゼータ電位が-10~10mvであ
り、
動的光散乱法により測定した前記シリカ粒子の平均粒子径が25nm以下であることを特徴とする、コロイダルシリカ。
【請求項2】
金属不純物含有量が1ppm以下である、請求項
1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項3】
塩酸を添加することによりpH4.6に調整し、25℃の条件下で48時間保存した際の平均粒子径の増大率が10%以下である、請求項1
又は2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項4】
請求項1~
3の何れか1項に記載のコロイダルシリカを含む、研磨用組成物。
【請求項5】
有機溶媒、アルカリ触媒及び水を含む母液に、下記(1)~(4)の反応条件にてアルコキシシランを注入する工程を含む、請求項1~
3の何れか1項に記載のコロイダルシリカの製造方法。
(1)反応温度:21~50℃
(2)母液中のアルカリ触媒含有量:母液にアルコキシシランを注入して得られる反応液1Lあたり0.10~
0.45mol
(3)母液中の水含有量:アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上
(4)アルコキシシランの注入速度:前記反応液1Lあたり3.00mL/min以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体線幅の微細化に伴い、化学機械研磨工程における高平坦性、低欠陥性及び低金属汚染性の重要度が高まっている。そこで、粒子径が小さく、分散安定性が良好で、金属不純物濃度が低いシリカ粒子が求められている。
【0003】
特許文献1及び2には、シリカ粒子の粒子径が小さく、なお且つ粒子の分散安定性に優れたシリカゾル粒子が記載されている。
【0004】
シリカ粒子は一般的に、塩基性条件下では良好な分散安定性を示すが、酸性条件下ではゼータ電位が0mVに近づくため分散安定性を維持するのが困難となり、粒子が凝集しやすくなる。
【0005】
しかしながら、化学機械研磨工程で用いられる研磨用組成物は、用途によってはpHを酸性に調整して使用する必要があるところ、特許文献1及び2に開示されるシリカ粒子は、酸性条件下での分散安定性が十分ではない。このように、酸性条件下でも優れた分散安定性を有するシリカ粒子が求められている。
【0006】
シリカ粒子の酸性条件下での優れた分散安定性を獲得する方法として、特許文献3及び4には変性剤によりシリカ粒子表面を変性させる方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、文献3及び4に記載の方法では、酸性領域において粒子が強い正電荷又は強い負電荷を有するため、同符号の電荷を有する研磨対象物との間では強い静電気的反発力が生じ、異符号の電荷を有する研磨対象物との間では強い静電気的引力が生じる。強い静電気的反発力が生じる条件下では、非特許文献1に記載の通り、粒子が研磨対象物に接近し難くなり、結果として研磨除去速度が低下する。強い静電気的引力が生じる条件下では、粒子の研磨対象物への付着が促進されるが、付着が過度に促進されると研磨対象物から粒子を除去し難くなるという問題が生じる。特に、非特許文献2に記載の通り、半導体線幅の微細化が進むほど粒子の研磨対象物への付着が問題となる傾向がある。そのため、付着力が高すぎる粒子を微細化が進む先端の半導体製造プロセスに適用するのは困難となる。このため、かかるシリカ粒子では、研磨対象が限られてしまう。
【0008】
このように、酸性条件下でも優れた分散安定性を有し、且つ、幅広い研磨対象に対して使用可能なシリカ粒子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特許4011566号公報
【文献】日本国特開2004-315300号公報
【文献】日本国特開2010-269985号公報
【文献】日本国特開2005-162533号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】先端加工学会誌 第29巻 第1号, 2011.1「CMPにおける材料除去能率向上に向けた研磨抵抗の要因解析」
【文献】Aerosol Science and Technology (1987) Vol. 7, pp161-176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、変性剤を使用することなく、酸性条件下でも優れた分散安定性を有するコロイダルシリカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、コロイダルシリカにおける比緩和速度を所定以上とすることにより、酸性条件下での分散安定性を向上できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下のコロイダルシリカ及びその製造方法を提供する。
項1.
水及びシリカ粒子を含み、
シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度が0.60以上であり、
前記シリカ粒子表面のpH2~5の範囲におけるゼータ電位が-10~10mvであることを特徴とする、コロイダルシリカ。
項2.
動的光散乱法により測定した前記シリカ粒子の平均粒子径が30nm以下である、項1に記載のコロイダルシリカ。
項3.
金属不純物含有量が1ppm以下である、項1又は2に記載のコロイダルシリカ。
項4.
塩酸を添加することによりpH4.6に調整し、25℃の条件下で48時間保存した際の平均粒子径の増大率が10%以下である、項1~3の何れかに記載のコロイダルシリカ。
項5.
項1~4の何れかに記載のコロイダルシリカを含む、研磨用組成物。
項6.
有機溶媒、アルカリ触媒及び水を含む母液に、下記(1)~(4)の反応条件にてアルコキシシランを注入する工程を含む、項1~4の何れかに記載のコロイダルシリカの製造方法。
(1)反応温度:21~50℃
(2)母液中のアルカリ触媒含有量:前記母液に前記アルコキシシランを注入して得られる反応液1Lあたり0.10~1.00mol
(3)母液中の水含有量:アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上
(4)アルコキシシランの注入速度:前記反応液1Lあたり3.00mL/min以下
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本発明に係るコロイダルシリカは、変性剤を使用していないにも関わらず、酸性条件下での優れた分散安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例及び比較例のゼータ電位測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1.コロイダルシリカ)
本発明のコロイダルシリカは、水及びシリカ粒子を含んで構成される。本発明のコロイダルシリカは、水及びシリカ粒子以外の物質を、その効果及び目的を損なわない範囲で含んでもよいが、水及びシリカ粒子のみからなる態様であることも好ましい。
【0017】
また、本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度が0.60以上であり、0.65以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらに好ましい。シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度が0.60に満たない場合、酸性条件下での分散安定性が悪くなってしまう。
【0018】
本発明のコロイダルシリカにおける、シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度の上限値については特に限定はなく、例えば、10.00である。
【0019】
本明細書において、シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度は、下記の通りに測定・算出するものと定義される。
【0020】
まず、コロイダルシリカに超純水を添加し、シリカ粒子濃度を3質量%に調整し、測定サンプルとする。得られた測定サンプルを、パルスNMR粒子界面特性評価装置(例えば、Xigo nanotool 社製Acorn Area等)を使用し、スピンエコー法によりパルスの位相を変えて信号を収集するCPMG法を用い、90°パルス印加から180°パルス印加にかかるまでの時間間隔を0.5msとし、減衰の速さを示す横緩和時間T2(下記式では、「コロイダルシリカのT2」と表記。)を測定する。さらに、超純水を測定サンプルとして同様の操作を実施して横緩和時間T2(下記式では、「超純水のT2」と表記。)を得る。得られたT2の値から、下記の式を用いて比緩和速度を算出する。
比緩和速度={(1/コロイダルシリカのT2)/(1/超純水のT2)}-1
【0021】
コロイダルシリカに含まれるシリカ粒子表面のpH2~5の範囲におけるゼータ電位は、-10mV以上であり、-9mV以上であることが好ましく、-8mV以上であることがより好ましい。同様に、シリカ粒子表面のゼータ電位は、10mV以下であり、9mV以下であることが好ましく、8mV以下であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、同符号の電荷を有する研磨対象物との間での静電気的反発が抑制され、研磨除去速度が向上する。また、異符号の電荷を有する研磨対象物との間に生じる静電気的引力が緩和され、粒子の研磨対象物への付着が抑制される。
【0022】
本明細書において、シリカ粒子のゼータ電位は、下記の通りに測定するものと定義される。
コロイダルシリカを10mM塩化ナトリウム水溶液を用いてシリカ粒子濃度が1質量%となるように調整した希釈液を測定サンプルとする。得られた測定サンプルについて、0.1M水酸化ナトリウム水溶液と0.1M塩酸を用いてpHを調整し、pH9、8、7、6、5、4、3、2の各pHにおけるゼータ電位を大塚電子株式会社製ELS-Zを用いて測定する。
【0023】
コロイダルシリカに含まれるシリカ粒子の平均粒子径は、より高い研磨レートを得るために、3nm以上とすることが好ましく、5nm以上とすることがより好ましく、7nm以上とすることがさらに好ましい。また、研磨対象表面のキズの発生リスクを低減するために、シリカ粒子の平均粒子径は、30nm以下とすることが好ましく、27nm以下とすることがより好ましく、25nm以下とすることがさらに好ましい。
【0024】
シリカ粒子の平均粒子径は定法により測定・算出することが可能であり、特に限定はない。例えば、動的光散乱法により測定することができる。
【0025】
コロイダルシリカに含まれるシリカ粒子のBET比表面積は、100m2/g以上とすることが好ましく、115m2/g以上とすることがより好ましく、130m2/g以上とすることがさらに好ましい。また、シリカ粒子のBET比表面積は、1000m2/g以下とすることが好ましく、600m2/g以下とすることがより好ましく、400m2/g以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
尚、本明細書において、シリカ粒子のBET比表面積は、コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理したサンプルを用いて測定するものと定義される。
【0027】
本発明のコロイダルシリカは、上記したとおり水及びシリカ粒子を含んで構成される。しかしながら、シリカ粒子の分散媒として、水以外に有機溶媒を含むことも好ましい。
【0028】
有機溶媒は、通常、親水性の有機溶媒であり、その例としては、アルコール(例:メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例:酢酸エチル)が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量は、研磨用組成物の原料として用いる際に添加剤の配合量を調整しやすくなるという理由から3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
(2.研磨用組成物)
本発明は、上記したコロイダルシリカを含む研磨用組成物に係る発明を包含する。当該研磨用組成物は、化学機械研磨用として好適に使用することができる。
【0031】
本発明の研磨用組成物は、上記した本発明のコロイダルシリカを含む限り、特に制限されず、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、希釈剤、酸化剤、pH調整剤、防食剤、安定化剤、界面活性剤などが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0032】
研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量は、例えば0.01~20質量%とすることが好ましく、0.05~10質量%とすることがより好ましく、0.1~5質量%とすることがさらに好ましい。
【0033】
(3.コロイダルシリカの製造方法)
本発明は、上記したコロイダルシリカの製造方法に係る発明を包含する。
【0034】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、有機溶媒、アルカリ触媒及び水を含む母液に、アルコキシシランを注入する工程(以下、「工程1」とも言う。)を含む。
【0035】
(3.1.工程1)
工程1は、下記(1)~(4)の反応条件にて実施する。
(1)反応温度:21~50℃
(2)母液中のアルカリ触媒含有量:母液にアルコキシシランを注入して得られる反応液1Lあたり0.10~1.00mol
(3)母液中の水含有量:アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上
(4)アルコキシシランの注入速度:前記反応液1Lあたり3.00mL/min以下
【0036】
有機溶媒は、通常、親水性の有機溶媒であり、その例としては、アルコール(例:メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例:酢酸エチル)が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
アルカリ触媒の種類は、特に限定されない。アルカリ触媒としては、金属不純物の混入を回避する点で、金属成分を含まない有機塩基触媒が好ましく、中でも窒素を含有する有機塩基触媒が好ましい。このような有機系塩基触媒としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラメチルグアニジン、3-エトキシプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。触媒作用に優れるとともに、揮発性が高く後工程で容易に除去することができる点からは、アンモニアが好ましい。シリカ粒子の真比重を高くする観点からは、反応温度を高くしても揮発しにくいように、沸点が90℃以上の有機系塩基触媒を選択することが好ましく、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び3-エトキシプロピルアミンから選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0038】
母液中のアルカリ触媒の含有量は、母液にアルコキシシランを注入して得られる反応液1Lあたり、0.10mol以上であり、0.12mol以上とすることが好ましく、0.14mol以上とすることがより好ましい。アルカリ触媒の含有量を上記反応液1Lあたり、0.10molに満たない場合、合成される粒子が凝集体となり、ナノ粒子の分散液を得ることができない。
【0039】
また、母液中のアルカリ触媒の含有量は、上記反応液1Lあたり、1.00mol以下であり、0.80mol以下とすることが好ましく、0.60mol以下とすることがより好ましい。アルカリ触媒の含有量を上記反応液1Lあたり1.00molを超えると、核粒子の縮合が促進され、粒子径が増大し、結果としてナノ粒子の分散液を得ることができない。
【0040】
母液中の水の含有量は、アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上であり、5mol以上とすることが好ましく、6mol以上とすることがより好ましい。母液中の水の含有量が、アルコキシシランの注入量1molあたり4molに満たない場合、アルコキシシランの加水分解が十分に進行せず、球状の粒子が得られない。
【0041】
母液中の水の含有量の上限については特に制限されないが、アルコキシシランの注入量1molあたり30molとすることが好ましい。
【0042】
アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのテトラC1-8アルコキシシランが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、テトラC1-4アルコキシシランが好ましく、テトラメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランがさらに好ましい。
【0043】
工程1におけるアルコキシシランの注入速度は、反応液1Lあたり3.00mL/min以下であり、2.97mL/min以下とすることが好ましく、2.95mL/min以下とすることがより好ましい。アルコキシシランの注入速度が、反応液1Lあたり3.00mL/minを超えると、合成される粒子が凝集体となり、ナノ粒子の分散液を得ることができない。
【0044】
工程1におけるアルコキシシランの注入速度の下限については特に制限されないが、例えば、反応液1Lあたり0.01mL/min以上とすることが好ましい。
【0045】
アルコキシシランは、適宜の溶媒に溶解させて注入することが好ましい。アルコキシシランの溶媒としては、上記した母液に使用する有機溶媒同様に、親水性の有機溶媒であり、その例としては、アルコール(例:メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例:酢酸エチル)が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。但し、母液に使用する有機溶媒と同一の有機溶媒を使用してもよいし、異なる有機溶媒を使用してもよい。
【0046】
アルコキシシラン溶液中のアルコキシシラン濃度については、1mol/L以上とすることが好ましく、2mol/L以上とすることがより好ましい。同様に、当該アルコキシシラン濃度については、6mol/L以下とすることが好ましく、5mol/L以下とすることがより好ましい。アルコキシシラン濃度を2mol/L以上とすることでシリカ粒子の生産性が向上する。アルコキシシラン濃度を5mol/L以下とすることで凝集粒子の発生が抑制される。
【0047】
工程1における反応温度は、21℃以上であり、22℃以上とすることが好ましく、23以上とすることがより好ましい。反応温度が21℃に満たない場合、合成される粒子の形状が異形となり、粒子の分散安定性が低下する。
【0048】
また、工程1における反応温度は50℃以下であり、45℃以下とすることが好ましく、40℃以下とすることがより好ましい。反応温度を50℃より高温に設定すると、合成される粒子の比緩和速度が低下し、粒子の分散安定性が低下する。
【0049】
(3.2.工程2)
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、さらに工程1で得られた反応液中の液体成分を水に置換する工程(単に「工程2」ともいう。)を含むことも好ましい。
【0050】
当該工程2は、当該技術分野において採用される公知の置換方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。例えば、工程1で得られた反応液を留去した後に、水を添加する方法を挙げることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
メタノール100質量部、超純水41質量部、及び28質量%アンモニア水6質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、メタノール15質量部及びテトラメトキシシラン28質量部を混合して原料溶液を作製した。母液の温度を35℃に維持しつつ、原料溶液を母液中に300分かけて定速注入し、反応液を得た。母液のアンモニア含有量は反応液1Lあたり0.45molであった。母液の水含有量は注入したテトラメトキシシラン1molあたり14molであった。テトラメトキシシラン純分としての母液への注入速度は反応液1Lあたり0.41mL/minであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0054】
(実施例2)
メタノール100質量部、超純水16質量部、及び28質量%アンモニア水3質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、メタノール6質量部及びテトラメトキシシラン23質量部を混合して原料溶液を作製した。母液の温度を22℃に維持しつつ、原料溶液を母液中に43分かけて定速注入し、反応液を得た。母液のアンモニア含有量は反応液1Lあたり0.25molであった。母液の水含有量は注入したテトラメトキシシラン1molあたり7molであった。テトラメトキシシラン純分としての母液への注入速度は反応液1Lあたり2.91mL/minであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0055】
(比較例1)
メタノール100質量部、超純水5質量部、及び28質量%アンモニア水1質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、メタノール6質量部、テトラメトキシシラン12質量部を混合して原料溶液を作製した。母液の温度を60℃に維持しつつ、原料溶液を母液中に127分かけて定速注入し、反応液を得た。母液のアンモニア含有量は反応液1Lあたり0.11molであった。母液の水含有量は注入したテトラメトキシシラン1molあたり4molであった。テトラメトキシシラン純分としての母液への注入速度は反応液1Lあたり0.62mL/minであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0056】
(比較例2)
メタノール100質量部、超純水16質量部、及び28質量%アンモニア水3質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、メタノール3質量部、テトラメトキシシラン12質量部を混合して原料溶液を作製した。母液の温度を20℃に維持しつつ、原料溶液を母液中に30分かけて定速注入し、反応液を得た。母液のアンモニア含有量は反応液1Lあたり0.26molであった。母液の水含有量は注入したテトラメトキシシラン1molあたり12molであった。テトラメトキシシラン純分としての母液への注入速度は反応液1Lあたり2.50mL/minであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0057】
(比較例3)
メタノール100質量部、超純水6質量部、及び26質量%アンモニア水6質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、メタノール3質量部、テトラメトキシシラン12質量部を混合して原料溶液を作製した。母液の温度を35℃に維持しつつ、原料溶液を母液中に55分かけて定速注入し、反応液を得た。母液のアンモニア含有量は反応液1Lあたり0.67molであった。母液の水含有量は注入したテトラメトキシシラン1molあたり8molであった。テトラメトキシシラン純分としての母液への注入速度は反応液1Lあたり1.34mL/minであった。得られた反応液全量を常圧下で加熱濃縮し、35質量部の濃縮液を得た。この濃縮液に3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを0.046質量部添加し、沸点で1時間還流して熱熟成を行った。その後、加熱して溶媒を留去させながら超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を水に置換し、pHが8以下となった時点で水への置換を終了した。水置換後の液を室温まで冷却後、30%過酸化水素水を0.483質量部添加し、8時間加熱還流してスルホ基変性コロイダルシリカを得た。
【0058】
(比較例4)
メタノール100質量部、超純水6質量部、及び26質量%アンモニア水6質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、メタノール3質量部、テトラメトキシシラン12質量部を混合して原料溶液を作製した。母液の温度を35℃に維持しつつ、原料溶液を母液中に55分かけて定速注入し、反応液を得た。母液のアンモニア含有量は反応液1Lあたり0.67molであった。母液の水含有量は注入したテトラメトキシシラン1molあたり8molであった。テトラメトキシシラン純分としての母液への注入速度は反応液1Lあたり1.34mL/minであった。得られた反応液全量を常圧下で加熱濃縮し、22質量部の濃縮液を得た。その後、加熱して溶媒を留去させながら超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を水に置換し、pHが8以下となった時点で水への置換を終了した。3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.012質量部とメタノール0.231質量部を混合した液を水置換後の液7質量部に10分かけて注入し、常圧下で2時間加熱還流した。その後、加熱して溶媒を留去させながら超純水をフィードすることで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を水に置換し、留出してくる液体の温度が100℃に達した時点で水への置換を終了し、アミノ基変性コロイダルシリカを得た。
【0059】
比緩和速度測定
パルスNMR粒子界面特性評価装置(Xigo nanotool社製Acorn Area)を用いてコロイダルシリカ、およびその分散媒の緩和時間を測定した。コロイダルシリカには超純水を加えて、シリカ濃度3質量%に調整し、測定用サンプルとした。スピンエコー法においてパルスの位相を変えて信号を収集するCPMG法を用い、90°パルス印加から180°印加にかかるまでの時間間隔を0.5msとし、減衰の速さを示す横緩和時間T2を測定した。得られたT2の値から、下記の式を用いて比緩和速度を算出した。
比緩和速度={(1/コロイダルシリカのT2)/(1/超純水のT2)}-1
【0060】
平均粒子径測定
コロイダルシリカに0.3質量%クエン酸水溶液を加えて、シリカ濃度として0.3質量%となるように希釈した。希釈液を測定用サンプルとした。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により平均粒子径を測定した。
【0061】
金属不純物含有量測定
誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いてコロイダルシリカの金属不純物含有量を測定した。
【0062】
ゼータ電位測定
実施例1、実施例2、比較例3及び比較例4のコロイダルシリカを、10mM塩化ナトリウム水溶液を用いてシリカ粒子濃度が1質量%となるように調整した希釈液を準備し、これを測定サンプルとした。得られた測定サンプルについて、0.1M水酸化ナトリウム水溶液と0.1M塩酸を用いてpHを調整し、pH9、8、7、6、5、4、3、2の各pHにおけるゼータ電位を大塚電子株式会社製ELS-Zを用いて測定した。
【0063】
酸性条件下での分散安定性評価試験
各実施例及び比較例のコロイダルシリカに、超純水及び1mol/Lの塩酸を加えることにより、シリカ濃度3質量%、pH4.6に調整した。得られた検体をフッ素樹脂製の容器に入れて密閉し、25℃で48時間保管した。保管前後での平均粒子径を測定し、下記の式により平均粒子径の増大率を算出した。尚、平均粒子径の増大率が高値を示す場合、シリカ粒子の凝集が進行し、分散安定性が悪いと判断される。逆に平均粒子径の増大率が低値を示す場合、当該シリカ粒子の分散安定性は良いと判断される。
平均粒子径の増大率 [%]=(保管後の平均粒子径-保管前の平均粒子径)×100/(保管前の平均粒子径)
【0064】
下記表1に示すとおり、各比較例は48時間の前後の対比において、平均粒子径の相違が確認されたのに対し、各実施例は48時間の保管を経ても平均粒子径の変動が殆ど確認されなかった。
【0065】
【要約】
水及びシリカ粒子を含み、
シリカ粒子濃度を3質量%とした時のパルスNMRで測定した比緩和速度が0.60以上であり、
前記シリカ粒子表面のpH2~5の範囲におけるゼータ電位が-10~10mvであることを特徴とする、コロイダルシリカ。