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特許7110516透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス
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  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図1
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図2
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  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図4A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-22
(45)【発行日】2022-08-01
(54)【発明の名称】透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20220725BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20220725BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220725BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20220725BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
H01L31/04 266
H01L31/04 130
H05B33/14 A
H05B33/26 Z
H05B33/10
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022513414
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025097
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/008485
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107393979(CN,A)
【文献】特開2015-115180(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105925947(CN,A)
【文献】特開2020-52077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/0224
H01L 51/44
H01L 51/50
H05B 33/26
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の銀含有層、および第1の導電性の酸化物層が、この順で積層された積層構造を具備する透明電極であって、
前記透明電極の、波長800nmおよび600nmにおける透過率をそれぞれT800およびT600とした場合の全透過率の比T800/T600が0.85以上であり、
かつ前記透明電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記銀含有層が連続的であり、
前記第1の導電性の酸化物層が不均一部を有し、前記不均一部に硫黄含有銀化合物層を具備する、透明電極。
【請求項2】
前記銀含有層が、銀または銀合金からなる、請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
前記酸化物が、インジウムドープスズ酸化物、フッ素ドープ酸化スズ、またはアルミニウムドープ亜鉛酸化物である、請求項1または2に記載の透明電極。
【請求項4】
前記銀含有層の全面が、前記酸化物層または前記硫黄含有銀化合物層で被覆されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項5】
前記第1の導電性の酸化物層の上に、グラフェン層、ポリスチレン層、または別の酸化物層をさらに具備する、請求項1~4のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項6】
透明基材をさらに具備し、前記透明基材の上に、前記銀含有層、および前記第1の導電性の酸化物層が、この順で積層された積層構造を具備する、請求項1~5のいずれか1項に記載の透明電極
【請求項7】
前記透明基材と、前記銀含有層の間に、第2の導電性の酸化物層をさらに具備する、請求項に記載の透明電極。
【請求項8】
導電性の銀含有層、および第1の導電性の酸化物層が、この順で積層された積層構造を具備する透明電極であって、
前記透明電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記銀含有層が連続的であり、
前記第1の導電性の酸化物層が硫黄含有銀化合物を具備する、透明電極。
【請求項9】
導電性の銀含有層および第1の導電性の酸化物層が、この順で積層された積層膜を具備する透明電極の作製方法であって、前記積層膜に硫黄または硫黄化合物を接触させる工程(b)を含む、透明電極の作製方法。
【請求項10】
前記工程(b)が、
(b1)前記積層膜に硫黄蒸気ガスを接触させること、
(b2)前記積層膜に硫化水素ガスを接触させること、
(b3)前記積層膜に硫化水素、硫化ナトリウム、または硫化アンモニウムの水溶液を接触させること、または
(b4)前記積層膜にチオアミドまたはチオ尿素の溶液を接触させること
を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(b4)が、チオアミドまたはチオ尿素のアルコール溶液を前記積層膜に塗布し、加熱することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(b)において、前記ガス中、前記水溶液中、または溶液中の硫黄濃度を観測し、観測された濃度に応じて接触条件を調整する、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(b)の前または後に、(c)グラフェン層またはポリスチレン層を積層する工程をさらに含む、請求項9~12のいずれが1項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(b)の前または後に、(d)第3の無機酸化物層を積層する工程をさらに含む、請求項9~13のいずれが1項に記載の方法。
【請求項15】
前記積層膜が、透明基材の上に、前記銀含有層を形成し、前記銀含有層の上に前記第1の導電性の酸化物層を形成することによって形成される、請求項9~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(b1)または(b2)が、前記硫黄蒸気ガスまたは前記硫化水素ガスのいずれかのガスの雰囲気中に前記積層膜を連続的に通過させることを含み、かつ前記雰囲気における水分含有量または酸素含有量が増加しないように制御する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか1項に記載の透明電極と、活性層と、対向電極とを具備する、電子デバイス。
【請求項18】
前記活性層が光電変換層である、請求項17に記載の電子デバイス。
【請求項19】
前記活性層がハロゲンイオンを含有する、請求項17または18に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、透明電極、それを用いた素子、および素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年エネルギーの消費量が増加してきており、地球温暖化対策として従来の化石エネルギーに代わる代替エネルギーの需要が高まっている。このような代替エネルギーのソースとして太陽電池に着目が集まっており、その開発が進められている。太陽電池は、種々の用途への応用が検討されているが、多様な設置場所に対応するために太陽電池のフレキシブル化と耐久性が特に重要となっている。最も基本的な単結晶シリコン系太陽電池はコストが高くフレキシブル化が困難であり、昨今注目されている有機太陽電池や有機無機ハイブリッド太陽電池は耐久性の点で改良の余地がある。
【0003】
このような太陽電池の他、有機EL素子、光センサーといった光電変換素子について、フレキシブル化および耐久性改良を目的とした検討が行われている。このような素子には透明陽電極としては通常インジウムドープスズ酸化物膜(ITO膜)が用いられている。ITO膜は通常スパッタ等で製膜されるが、高い導電性を得るためには、一般的に高温でのスパッタやスパッタ後の高温アニールが必要であり、有機材料には適用できないことが多い。
【0004】
また、透明電極として、低抵抗、かつ高透明性であるITO/銀合金/ITOが用いられることがある。しかし、このような銀合金を含む電極において、銀イオンはマイグレーションしやすい傾向にある。このため、銀合金を含む電極を具備した電子デバイスにおいては、デバイス内部の素子活性部にマイグレーションした銀イオンが到達すると素子活性自体が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2002-540459公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、上記のような課題に鑑みて、銀イオンのマイグレーションが起こりにくく、耐久性の高い透明電極およびその作製方法と上記透明電極を用いた電子デバイス(光電変換素子等)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による透明電極は、第一の導電性の銀含有層、および導電性の酸化物層が、この順で積層された積層構造を具備するものであって、
前記透明電極の、波長800nmおよび600nmにおける透過率をそれぞれT800およびT600とした場合の全透過率の比T800/T600が0.85以上であり、
かつ前記透明電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記銀含有層が連続的であるものである。
【0008】
また、他の実施形態よる透明電極は、導電性の銀含有層、および第1の導電性の酸化物層が、この順で積層された積層構造を具備する透明電極であって、
前記透明電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記銀含有層が連続的であり、
前記第1の導電性の酸化物層が硫黄含有銀化合物を具備するものである。
【0009】
実施形態による透明電極の作成方法は、導電性の銀含有層および第一の導電性の酸化物層がこの順で積層された積層膜を準備する透明電極の作製方法であって、前記積層膜に硫黄または硫黄化合物を接触させる工程(b)を含むものである。
【0010】
実施形態による電子デバイスは、前記の透明電極と、活性層と、対向電極とを具備するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態による透明電極の構造を示す概念図。
図2】実施形態による他の透明電極の構造を示す概念図。
図3】実施形態によるさらに他の透明電極の構造を示す概念図。
図4A】実施形態による透明電極の製造方法を示す概念図。
図4B】実施形態による透明電極の製造方法を実施できる、透明電極製造装置の概念図。
図5】実施形態による光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
図6】実施形態による光電変換素子(有機EL素子)の構造を示す概念図。
図7】実施例1および比較例1における透明電極の断面SEM画像(80,000倍)。
図8】実施例5の光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下実施形態を図を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[実施形態1-1]
まず、図1を用いて、第1の実施形態に係る透明電極の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る透明電極100の構成概略図である。
【0014】
この透明電極は透明基材101の上に、銀含有層102、第一の導電性の酸化物層103の積層構造を有する。透明基材は必須ではなく、他の基材の上に銀含有層と第一の導電性酸化物層とを有していてもよい。これらの層はいずれも導電性であり、いずれも光透過性である。この透明電極は、波長800nmおよび600nmにおける全透過率をそれぞれT800およびT600とした場合の透過率の比T800/T600が0.85以上であり、かつ前記透明電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、前記銀含有層が連続的であるという特徴を有している、ここで全透過率は直線透過光と後方散乱光を含む透過率であり、積分球を用いて測定される。
【0015】
基材101の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリエチレンナフタレート(以下、PENという)などの樹脂材料が挙げられる。基材は平坦化処理したものが好ましい。また透明基材単体の550nmにおける全透過率は85%以上が好ましい。
【0016】
銀含有層は、銀を含むことが必要であるが、銀であっても、銀を含む銀合金であってもよい。なお、一般的に銀合金は銀の含有率が低いと比T800/T600が低くなる傾向にあるので、銀の含有率が高いことが好ましく、銀含有層が銀からなることが最も好ましい。
【0017】
銀含有層102の膜厚は、透明性や導電性に応じて適切に調整されるが、膜厚は4~20nmであることが好ましい。4nmより小さいと抵抗が大きくなる傾向があり、20nmより大きいと透明性が低下する傾向がある。銀含有層の膜厚は、より好ましくは5~15nm、さらに好ましくは6~10nmである。銀含有層101は、例えばスパッタまたは蒸着で作製できるが、スパッタにより作成することが好ましい。
【0018】
第1の導電性の酸化物層(以下、第一の酸化物層または酸化物層ということがある)103を構成する酸化物はとしては、一般的に知られている任意のものから、透明性や導電性が適切なものを選択することができる。具体的には、インジウムドープスズ酸化物(Indium doped tin oxide、以下、ITOという)、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine doped tin oxide、以下FTOという)、アルミニウムドープ亜鉛酸化物(Aluminium doped zinc oxide、以下、AZOという)等が挙げられる。これらのうち、ITOが平坦性が高い層を形成しやすく、中性pHでゼータ電位が0に近く陽イオンや陰イオンとの相互作用が小さいため好ましい。
【0019】
これらの酸化物は一般にアモルファス構造を含有する場合が多い。アモルファス構造を有すると連続的で均一、平坦な膜を形成しやすいので好ましい。また、酸化物層の厚さは30~200nmであることが好ましい。酸化物層の膜厚が30nmより小さいと抵抗が大きくなる傾向があり200nmより大きいと透明性が低下し、作製に時間がかかる。酸化物層の膜厚は、より好ましくは35~100nm、さらに好ましくは40~70nmである。
【0020】
酸化物層103は、例えば低温でのスパッタにより作製することができる。アモルファス酸化膜をアニールによってアモルファス酸化物を部分的に結晶化して混合体(アモルファス含有酸化物層)とすることができる。
【0021】
図2は実施形態による他の透明電極の概念図である。この透明電極は、基材101と銀含有層102の間に、第2の導電性の酸化物層(以下、第2の酸化物層ということがある)104がさらに設けられている。第2の酸化物層104を構成する酸化物は、上記した第一の酸化物層103において説明した酸化物から選択することができる。第一の酸化物層103と第2の酸化物層104は同じ組成であってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
透明性と導電性の観点からは、第1の酸化物層103および第2の酸化物層104がITOからなることが好ましい。すなわち、実施形態による透明電極はITO/銀含有層/ITOの積層構造を有することが好ましい。
【0023】
図3は実施形態によるさらに他の透明電極の概念図である。酸化物層103は、微少な不均一部105を有している場合がある。このような不均一部は、銀のマイグレーションの原因となりやすいため、硫黄含有銀化合物106などによって塞がれていることが好ましい。不均一部は図3で示すような空隙や開口のみならず、周囲よりも密度が低くなった領域も該当する。不均一部は例えば走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡を用いても観測することができる。これらの電子顕微鏡によれば、空隙や開口のほか、酸化物の密度が小さい領域は電子散乱が少ないため周囲よりも暗く観測される。具体的には、電界放射型走査電子顕微鏡としてCarl Zeiss製 ULTRA55型顕微鏡(観察電圧:2.0kV、倍率80,000倍)や透過電子顕微鏡として日立ハイテクノロジー社製H-9500型顕微鏡(倍率200万倍)を用いることができる。
【0024】
なお、銀含有層と第1の酸化物層、ならびに必要に応じて設けられる、第2の酸化物層および硫黄含有銀化合物106の組み合わせを、便宜的に導電性層ということがある。
【0025】
実施形態による透明電極は波長800nmの全透過率をT800、波長600nmの全透過率をT600とすると、比T800/T600(以下、Rということがある)は、0.85以上である。銀含有透明電極の銀は純銀に近いと長波長での光透過性の減少を少なくすることができる。Rが0.85以上であると、長波長側の光を通過させ、太陽電池のエネルギー変換効率を高くすることができる。より好ましくはRは0.88以上であり、さらに好ましくは0.9以上である。比Rが0.85より小さいとマイグレーション耐性は増す傾向にあるが、透明電極全体の光透過率が低下する傾向もあるため好ましくない。またRが小さいと電気抵抗も大きくなる傾向がある。
【0026】
を高くするためには、銀含有層の銀含有率を高くすることが有効である。したがって、銀含有層は純銀からなることが好ましい。一方で、銀含有層の銀含有率が高いとマイグレーションが起こりやすくなり、劣化しやすくなる。このような観点から、銀含有層における銀の含有率は、銀含有層の原子数を基準として、90~100atom%であることが好ましく、96~99atom%であることがより好ましい。
【0027】
なお、従来も、銀含有層と酸化物層との積層構造を有する透明電極が知られていた。そしてその、銀含有層の銀含有率が高いものがあったかもしれない。しかしながら、そのような透明電極では、銀イオンのマイグレーションを制御できておらず、結果的に透明電極やそれを含む電子デバイスの耐久性が不十分となることが多かった。
【0028】
実施形態による透明電極は、銀含有層として連続的な銀含有層を採用することによって、銀イオンのマイグレーションの抑制を実現している。銀含有層が連続的であると太陽電池などの電子デバイスを長期間の駆動した場合であっても銀のマイグレーションが起きにくく、寿命が長い傾向がある。
【0029】
このような銀含有層の連続性は、走査型電子顕微鏡(以下、SEMということがある)を用いて、透明電極の断面を観察することによって評価することができる。SEMによって試料を観察すると、試料に電子線が照射される。銀含有層に電子線が照射された場合、試料表面に電子が滞留しやすいため、電界が生じる。この電界は、銀のマイグレーションを引き起こす傾向にある。そして、銀のマイグレーションが起きると、銀含有層に不連続領域が形成される。実施形態においては、このようにSEMによって不連続領域が確認されない銀含有層を連続的であるという。このようなSEM観察は、透明電極または電子デバイス中における銀のマイグレーションを加速して観察していると考えることもできるので、その透明電極または電子デバイスの寿命の予測にも応用できる。
【0030】
なお、実施形態において、銀含有層が連続的であるとは、透明電極の無作為に選択された5か所の断面を、倍率80,000倍でSEM観察したとき、1.4μmの長さの銀含有層の中に不連続領域が2つ以下であることをいう。実施形態においては、不連続領域がまったく観測されないことが好ましい。なお、不連続領域は、SEM画像では長径が15nm以上の黒い影として観察される。
【0031】
本発明者らの検討によれば、このような不連続領域は、銀含有層の上に形成される酸化物層に不均一部があるときに形成されやすい。一般に、酸化物層はスパッタなどにより形成されるが、不均一部のない緻密な酸化物層を形成することは困難である。このため、一般的な透明電極では酸化物層に微少な不均一部が含まれる場合が多い。その場合、銀含有層の一部が均一で緻密な酸化物層によって十分に被覆されていない不均一部において銀のマイグレーションが容易になり、銀含有層に不連続領域が形成されるものと考えられる。
【0032】
このように不均一部がある酸化物層を具備する透明電極において、銀含有層の連続性を保つために、不均一部を塞ぐことが好ましい。具体的には、酸化物層、特に酸化物層の不均一部の下部にある銀含有層を安定性の高い化合物に変性させたり、安定性の高い化合物層を設けることができる。このような安定性の高い化合物として、硫黄含有銀化合物が挙げられる。このような硫黄含有銀化合物の典型的な例は硫化銀であるが、銀以外の金属や、硫黄以外のカルコゲンを含む化合物であってもよい。また、銀などの金属にアルキルチオールなどを反応させた化合物であってもよい。このように、実施形態による透明電極において、酸化物層は硫黄含有銀化合物を具備している。
【0033】
酸化物層の不均一部を塞ぐためには、不均一部の下部にある銀または銀合金に、硫黄または硫黄化合物を接触させ、硫黄含有銀化合物を形成させることが簡便である(詳細後述)。このような方法によって酸化物層に硫黄含有銀化合物を具備させることができる。通常、硫黄または硫黄化合物は不均一部の下部全体に接触しやすいので、下部全体が硫黄含有銀化合物に被覆されやすい。このような方法であれば、銀含有層の全面が、均一で緻密な酸化物層または安定な硫黄含有銀化合物の層のいずれかで被覆されて、銀または銀合金層から銀イオンのマイグレーションが抑制される。
【0034】
実施形態において、酸化物層の上にグラフェン層またはポリスチレン層を有することが好ましい。
【0035】
実施形態において、グラフェン層は、シート形状を有するグラフェンが1層~数層積層した構造を有している。積層されているグラフェン層の数は特に限定されないが、十分な、透明性、導電性、またはイオンの遮蔽効果を得ることができるように1~6層であることが好ましく、2~4層であることがより好ましい。
【0036】
そして、そのグラフェンは、グラフェン骨格に例えば下式に示されるようなポリアルキレンイミン、特にポリエチレンイミン鎖が結合した構造を有していることが好ましい。また、グラフェン骨格の炭素は一部窒素によって置換されていることも好ましい。
【化1】
【0037】
上式中、ポリアルキレンイミン鎖として、ポリエチレンイミン鎖を例示している。アルキレンイミン単位に含まれる炭素数は、2から8が好ましく、炭素数2の単位を含むポリエチレンイミンが特に好ましい。また直鎖状ポリアルキレンイミンだけではなく、分岐鎖や環状構造を有するポリアルキレンイミンを用いることもできる。ここで、n(繰り返し単位数)は10~1000が好ましく、100~300がより好ましい。
【0038】
グラフェンは無置換または窒素ドープが好ましい。窒素ドープグラフェンは透明電極を陰極に用いる場合に好ましい。ドープ量(N/C原子比)はX線光電子スペクトル(XPS)で測定することができ、0.1~30atom%であることが好ましく、1~10atom%であることがより好ましい。グラフェン層は遮蔽効果が高く、酸やハロゲンイオンの拡散を防ぐことにより金属酸化物や金属の劣化を防ぎ、外部からの不純物の光電変換層への侵入をふせぐことができる。さらに窒素置換されたグラフェン層(N-グラフェン層)は窒素原子を含んでいることから酸に対するトラップ能も高いので、遮蔽効果はより高いものとなっている。
【0039】
また、実施形態においてポリスチレン層は、モノマーとしてスチレン重合単位を含むホモポリマーまたはコポリマーで構成される。コポリマーを用いる場合には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のモノマー、例えばアクリル酸やメタクリル酸などを含んでもよいが、スチレンの含有量が多いことが好ましい。具体的には、スチレンの配合比がコポリマーに含まれる重合単位の90モル%以上であることが好ましい。典型的にはポリスチレンとしてスチレンホモポリマーが用いられる。ポリスチレン層の厚さは、0.5~2nmが好ましく、0.7~1.5nmがより好ましい。ポリスチレン層の厚さが過度に薄いと均一膜が得られにくく、また、過度に厚いと電気抵抗が大きくなる傾向がある。
【0040】
また、実施形態において、第1の酸化物層の上、グラフェン層、またはポリスチレン層の上に、第3の無機酸化物層をさらに有することが好ましい。第3の無機酸化物としてはTiO、SnO、WO、NiO、MoO、ZnO、Vなどがある。導電性酸化物をさらに積層してもよい。これらの第3の無機酸化物膜は、透明基板または電子デバイスにおいて、バリア層、絶縁層、バッファ層などとして機能する。第3の無機酸化物の金属と酸素の比率は必ずしも化学量論比ではなくてもよい。
【0041】
[実施形態1-2]
第1の実施形態に係る透明電極の他の実施形態1-2について説明する。そのような透明電極も、図1に示すような構造を有している。
【0042】
この透明電極は、導電性の銀含有層、および第1の導電性の酸化物層が、この順で積層された積層構造を具備している。また、透明電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察したときに、銀含有層が連続的である。これらの点において、実施形態1-1の透明電極と同じである。
【0043】
そして、この透明電極は、第1の導電性の酸化物層が不均一部を有し、前記不均一部に硫黄含有銀化合物層を具備する。このような構成によって高い耐久性を実現することができる。ここで、実施形態1-2による透明電極は、光の透過率によって制限されるものではない。したがって、透過率の比T800/T600が0.85未満であってもよいが、その比が0.85以上であると、選りすぐれた特性を実現できる。
【0044】
[実施形態2]
図4Aに、実施形態に係る透明電極の作製方法の概念図を示す。この作製方法は、導電性の銀含有層と、第1の導電性の酸化物層とが積層された積層膜に硫黄または硫黄化合物を接触させる工程(b)を含む。
【0045】
まず、工程(b)に先だって積層膜を準備する。この積層膜は、導電性の銀含有層102と、第1の導電性の酸化物層103とが積層されたものであるが、この積層膜を基材上に形成することで取り扱いが容易になる。このため透明基材101上に積層膜を形成させたものを準備することが好ましい。このような積層膜を作製するために、まず透明基材101を準備する。透明基材101は、平滑なものであることが好ましく、銀含有層の形成に先立って、研磨などによって平滑性処理を施したり、コロナ処理などを施すことができる。そして、その透明基材上に、導電性の銀含有層102を形成させる(図4A(a-1))。銀含有層の形成方法は従来知られている任意の方法により形成できるが、例えば銀または銀合金をスパッタ法または蒸着法により形成させることができる。特にスパッタ法が均一は銀含有層を容易に形成させることができるので好ましい。もしくは銀ナノ粒子や銀ナノワイヤの分散液を塗布、加熱して作製することもできる。
【0046】
次に、銀含有層102の上に導電性の酸化物層103を形成させて積層膜を形成させる(図4A(a-2))。酸化物層103は、例えば低温でのスパッタにより形成することができる。低温スパッタによってアモルファス酸化物層を形成し、さらにアニールによってアモルファス酸化物を部分的に結晶化して混合体(アモルファス酸化物層)とすることができる。アニールは高温雰囲気やレーザーアニールが好ましい。もしくは酸化物のナノ粒子の分散液を塗布、加熱により作製することができる。この酸化物層103は、銀含有層102上に均一に、すなわちパターン化されていない一様な膜として形成される。しかし、一般的な方法により酸化物層を形成した場合、表面には不均一部105が不可避的に形成されるのが普通である。このような工程(a)によって積層膜を作製することができるが、実施形態においては、このような積層膜を作製した後に連続して次の工程(b)に付してもよいし、積層膜を別途作製しておき、それを工程(b)に付してもよい。
【0047】
次いで、準備された積層膜に、工程(b)において硫黄または硫黄化合物を接触させる。この結果、酸化物層が硫黄含有銀化合物を具備する。具体的には、不均一部105の下部にある銀または銀合金が、硫黄または硫黄化合物と反応して、硫黄含有銀化合物106が形成されて、硫黄含有銀化合物層が形成される(図4A(b))。なお、銀含有層が硫黄含有銀化合物層によって被覆されるということもあり得るが、実際には銀含有層の銀の一部が硫黄化合物と反応して硫黄含有銀化合物が形成されるため、図3に示されるように、銀含有層の一部が硫黄含有銀化合物層となり、また反応にともなって、硫黄含有銀化合物層は、反応前の銀含有層の一部よりも体積が増加する。
【0048】
積層膜に硫黄または硫黄化合物を接触させる方法は特に限定されないが、硫黄または硫黄化合物を含むガスや液体を接触させる方法が用いられる。より具体的には
(b1)積層膜に硫黄蒸気ガスに接触させること、
(b2)積層膜に硫化水素ガスに接触させること、
(b3)積層膜に硫化水素、硫化ナトリウム、または硫化アンモニウムの水溶液に接触させること、または
(b4)積層膜にチオアミドまたはチオ尿素の溶液を接触させること
などの方法が採用される。
【0049】
(b1)の方法は、硫黄粉末を加熱して、硫黄原子のクラスターを含む硫黄蒸気ガスを発生させ、そのガスを積層膜に吹き付けたり、そのガスの雰囲気下に積層膜を配置する方法である。このガスと、不均一部の底部に露出している銀または銀合金とが反応して、安定な硫化銀を生成する。硫黄粉末を加熱する温度としては50℃~300℃が好ましい。硫黄蒸気ガスは乾燥空気または乾燥窒素中で発生させるのが好ましい。
【0050】
また、硫黄粉末をトルエンや二硫化炭素等に溶解させて積層膜に噴霧もしくは塗布したものを加熱乾燥させる方法も可能である。この方法においては、未反応の硫黄が積層膜上に残ることがあるので、洗浄などの後処理が必要となることがある。
【0051】
透明電極表面に吸着した、未反応の硫黄を除去するために窒素ブローや溶媒洗浄をする工程をさらに有してもよい。
【0052】
(b2)の方法は硫化水素ガスを積層膜に吹き付けたり、そのガスの雰囲気下に積層膜を配置する方法である。硫化水素は任意の方法で調製することができるが、プラントから排出される排気ガスから回収した硫化水素ガスを利用したり、メタンと硫黄とを触媒存在下に反応させることで生成させることができる。
【0053】
(b3)の方法は、硫化水素、硫化ナトリウム、または硫化アンモニウムなどの硫黄化合物の水溶液に積層膜を浸漬したり、その水溶液を積層膜に噴霧または塗布する方法である。水溶液を用いると銀含有層が酸化を受けやすいので、水溶液接触後は、酸素含有率が低い雰囲気で乾燥させることが好ましい。乾燥後、未反応の硫化ナトリウムや硫化アンモニウムは水などで洗浄除去することが好ましい。
【0054】
(b4)の方法はチオアミドまたはチオ尿素の溶液に積層膜を浸漬したり、その溶液を積層膜に噴霧したり塗布する方法である。チオアミドまたはチオ尿素は水やアルコールに溶解するのが好ましい。溶液を前記積層膜に塗布する場合はアルコール溶液が濡れ性の観点から好ましく、エタノールやメタノールが好ましい。接触後、加熱して溶媒とチオアミドまたはチオ尿素を除去することが好ましい。加熱過程において蒸発や昇華もしくは分解等により固体残渣がなくなることが好ましい。このような観点から、チオアミドまたはチオ尿素は、沸点、昇華点、または分解温度が低いものが好ましく、具体的には130℃以下の温度で蒸発などにより除去されるものが好ましい。
【0055】
(b4)で用いられるチオアミドは、一般式(I)で表されるものである。
【化2】
(式中、
11は水素、またはC~Cのアルキル基であり、
12およびR13は、それぞれ独立に水素、またはC~Cアルキル基である)
【0056】
これらのうち、
11がメチル基、R12およびR13が水素であるチオアセトアミド、
がメチル基、R12がメチル基、R13が水素であるN-メチルチオアセトアミド、R11がメチル基、R12およびR13がメチル基であるN,N-ジメチルチオアセトアミド、
11がエチル基、R12およびR13が水素であるチオプロポキシアミド、または
11が水素、R12およびR13がメチル基であるN,N-ジメチルチオホルムアミドが、溶解性や反応性が優れており、また固体残渣が残りにくいこと等から好ましい。特にチオアセトアミドが好ましい。
【0057】
(b4)で用いられるチオ尿素は、一般式(II)で表されるものである。
【化3】
(式中、
21~R24は、それぞれ独立に水素またはC~Cアルキル基である)
これらのうち、
21がメチル基、R22,R23およびR24が水素であるN-メチルチオ尿素、
21、R23がメチル基、R22およびR24が水素であるN,N‘-ジメチルチオ尿素、または
21、R22がメチル基、R22およびR23が水素であるN,N-ジメチルチオ尿素が溶解性や反応性から好ましい。
【0058】
チオ尿素は水やアルコールに溶解するのが好ましい。溶液を前記積層膜に塗布する場合はアルコール溶液が溶解性や濡れ性の観点から好ましく、用いる溶媒はエタノールやメタノールが好ましい。接触後、加熱して乾燥させることが好ましい。加熱過程において蒸発や昇華もしくは分解等により固体残渣がなくなることが好ましい。
【0059】
工程(b)において、ガス中、水溶液中、または溶液中における硫黄含有化合物の含有量を調整することで、適切な、硫黄含有銀化合物層を形成させることができる。さらにガス中または水溶液中の硫黄濃度を観測し、観測された濃度に応じて接触条件を調整することが好ましい。硫黄濃度を観測しながら反応時間や温度を制御することによって、製造安定性を高めることができる。
【0060】
以上、図4Aを用いて、実施形態による透明電極の製造方法を説明したが、他の方法を採用することもできる、図4Bに、連続的に透明電極を製造することができる装置(ロールツーロール硫黄蒸気処理装置)400の概念図を示す。
【0061】
この装置において、送り側ロール402には積層膜401(または積層膜が形成された透明基材)が巻かれている。このロールから引き出された積層膜は、加熱炉内404内を通過し、その後、巻き取り側ロール403に巻き取られる。加熱炉404内には、硫黄粉末、硫黄化合物含有化合物溶液などの硫黄源407が配置され、加熱により硫黄蒸気または硫化水素などの硫黄化合物ガスが積層膜に接触するようになっている。このような装置によれば、連続的に透明電極を製造することが可能となる。送り側ロール又は巻き取り側ロールを加熱炉内(または、それに連続する空間)に収容し、全体を密閉することもできる。ただし、その場合には装置が巨大になるため、図4Bに示すような、硫黄蒸気等による処理をする空間を限定することが好ましい。
【0062】
図4Bでは、送り側ロールに積層膜、または積層膜が形成された透明基材が巻き付けられているが、送り側ロールに透明基材を巻き付けておき、送り側ロールと加熱炉との間に、銀含有層形成装置、第一の酸化物層の形成装置を配置して、積層膜形成させ、引き続いて積層膜に硫黄蒸気等に接触させて、透明電極を製造することもできる。
【0063】
なお、このように硫黄蒸気ガスまたは前記硫化水素ガスのいずれかのガスの雰囲気中に前記積層膜を連続的に通過させる場合、雰囲気における水分含有量または酸素含有量が増加しないように制御することが好ましい。例えば加熱炉内に流入する大気を全く制御しないと、硫黄蒸気等による処理が不均一となって、積層膜表面の抵抗値などにばらつきが発生することがある。これは、大気中の酸素や水蒸気、あるいは透明基材等によって加熱炉内に持ち込まれた水蒸気と、硫黄蒸気等とが反応して、亜硫酸などが発生して、積層膜に悪影響を及ぼすものと推測される。
このため、加熱炉内に不活性ガス、例えば窒素を導入したり、加熱炉内を減圧したりすることが好ましい。また、より簡便には、図4Bに示すような外部大気流入防止器405および406を設けることができる。この外部大気流入防止器は、積層膜(または積層膜が形成された透明基材)の導入口または排出口の開口を狭く制限するだけのものであっても効果を得ることができる。また、エアーカーテンや、スクイーザーなどであってもよい。
また、加熱炉内の水分含有量または酸素含有量が増加しないように制御することが好ましいが、具体的には、加熱炉内の酸素含有量が21体積%以下であることが好ましく、水蒸気含有率が0.3体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以下であることがより好ましい。
【0064】
実施形態による作成方法においては、さらに他の層を形成させる工程を含んでいてもよい。このような他の層の一例は、上記した第2の酸化物層である。すなわち、透明基材上に積層膜を形成するのに先だって、第2の導電性の酸化物層を形成させることができる。
【0065】
また、実施形態による作製方法は、工程(b)の前または後に、上記したグラフェン層またはポリスチレン層を積層する工程(c)をさらに含んでいてもよい。
【0066】
グラフェン層を積層する工程は任意の方法でおこなうことができる。例えば、グラフェン膜を別の支持体上に形成させ、それを酸化物膜の上に転写する方法を採用することができる。具体的には、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして銅箔を下地触媒層としたCVD法により無置換単層グラフェン膜を形成させ、その膜を酸化物膜に圧着した後、銅を溶解して、単層グラフェンを積層膜上に転写することができる。同様の操作を繰り返すことに複数の単層グラフェンを積層膜上に積層することができる。このとき、2~4層のグラフェン層を作製することが好ましい。無置換のグラフェンの代わりに、一部の炭素がホウ素で置換されたグラフェンを用いてもよい。ホウ素置換グラフェンはBH、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして同様に作製できる。
また、ポリスチレン層を積層する工程は任意の方法でおこなうことができる。例えば、ポリスチレンを有機溶媒、例えばトルエンに溶解して、積層膜の上に塗布または噴霧し、その後有機溶媒を蒸発除去する方法などを採用することができる。
【0067】
また、実施形態による作製方法は、工程(b)の前または後に、第3の無機酸化物層を積層する工程(d)をさらに有することができる。工程(d)は工程(c)の前または後に行ってもよい。無機酸化物としてはTiO、SnO、WO、NiO、MoO、ZnO、Vなどがある。これらの無機酸化物膜は、スパッタ法や蒸着法やゾルゲル法などにより形成されることが一般的である。これらの無機酸化物の金属と酸素の比率は必ずしも化学量論比ではなくてもよい。
【0068】
[実施形態3-1]
図5を用いて、第3の電子デバイスの実施形態の一つに係る光電変換素子の構成について説明する。図3は、本実施形態に係る太陽電池セル500(光電変換素子)の構成概略図である。太陽電池セル500は、このセルに入射してきた太陽光L等の光エネルギーを電力に変換する太陽電池としての機能を有する素子である。太陽電池セル500は、基材501上の導電性層502の表面に設けられた光電変換層503と、光電変換層503の導電性層502の反対側面に設けられた対向電極504とを具備している。ここで導電性層502は実施形態1で示されたものと同様である。
【0069】
光電変換層503は、入射してきた光の光エネルギーを電力に変換して電流を発生させる半導体層である。光電変換層503は、一般に、p型の半導体層とn型の半導体層とを具備している。光電変換層としてはp型ポリマーとn型材料との積層体、ペロブスカイトRNHPbX(Rはアルキル基等であり、Hは他の置換基によって置換されていてもよく、Xはハロゲンイオンであって2種類以上の組み合わせであってもよい。また、アンモニウムイオンは他のカチオンで一部置換されていてもよく、Pbも他の金属イオンで一部置換されていてもよい)、シリコン半導体、InGaAsやGaAsやカルコパイライト系やCdTe系やInP系やSiGe系、CuO系などの無機化合物半導体、量子ドット含有型、さらには色素増感型の透明半導体を用いてもよい。いずれの場合も効率が高く、より出力の劣化を小さくできる。
【0070】
光電変換層503と導電性層502の間には電荷注入を促進またはブロックするためにバッファ層が挿入されていてもよい。
【0071】
対向電極504は通常は不透明な金属電極や炭素電極であるが、実施形態による透明電極を用いてもよい。対向電極504と光電変換層503の間には別の電荷バッファ層や電荷輸送層が挿入されていてもよい。
【0072】
陽極用バッファ層や電荷輸送層としては例えばバナジウム酸化物、PEDOT/PSS、p型ポリマー、2,2’,7,7’-Tetrakis[N,N-di(4-methoxyphenyl)amino]-9,9’- spirobifluorene(以下、Spiro-OMeTADという)、酸化ニッケル(NiO)、三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)等からなる層を用いることができる。無機酸化物の金属と酸素の比率は必ずしも化学量論比ではなくてもよい。
【0073】
一方、陰極となる透明電極用のバッファ層や電荷輸送層としてはフッ化リチウム(LiF)、カルシウム(Ca)、6,6’-フェニル-C61-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C61-butyric acid methyl ester、C60-PCBM)、6,6’-フェニル-C71-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C71-butyric acid methyl ester、以下C70-PCBMという)、インデン-C60ビス付加体(Indene-C60 bisadduct、以下、ICBAという)、炭酸セシウム(CsCO)、二酸化チタン(TiO)、poly[(9,9-bis(3’-(N,N-dimethylamino)propyl)-2,7-fluorene)-alt-2,7-(9,9-dioctyl- fluorene)](以下、PFNという)、バソクプロイン(Bathocuproine、以下BCPという)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、ポリエチレンイミン等からなる層を用いることができる。無機酸化物の金属と酸素の比率は必ずしも化学量論比ではなくてもよい。
【0074】
なお、光電変換層と透明電極層の間に、ブルッカイト型酸化チタン層を設けることができる。酸化チタンには、ルチル型、アナターゼ型、およびブルッカイト型の3種類の結晶構造があることが知られている。実施形態においては、このうちブルッカイト型酸化チタンを含む層を用いることが好ましい。このブルッカイト型酸化チタン層は、光電変換層から導電性層へのハロゲンの移動、および導電性層から光電変換層への金属イオンの移動を抑制する効果を奏する。このため、電極や電子デバイスの長寿命化が可能となる。このようなブルッカイト型酸化チタン層は、ブルッカイト型酸化チタンのナノ粒子、具体的には平均粒子径が5~30nmの粒子からなるものが好ましい。ここで、平均粒子径は粒度分布測定装置により測定した。このようなブルッカイト型ナノ粒子は、例えば高純度化学研究所などから市販されている。
【0075】
対向電極504して、導電性層502と同様の構造を有する電極を用いてもよい。また、対向電極504として、無置換の平面状の単層グラフェンを含有していてもよい。無置換の単層グラフェンは、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして銅箔を下地触媒層としたCVD法により作製することができる。たとえば熱転写フィルムと単層グラフェンを圧着した後、銅を溶解して、単層グラフェンを熱転写フィルム上に転写する。同様の操作を繰り返すことに複数の単層グラフェンを熱転写フィルム上に積層することができ、2~4層のグラフェン層を作製する。この膜に銀ペースト等を用いて集電用の金属配線を印刷することで対向電極とすることができる。無置換のグラフェンの代わりに、一部の炭素がホウ素で置換されたグラフェンを用いてもよい。ホウ素置換グラフェンはBH、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして同様に作製できる。これらのグラフェンは熱転写フィルムからPET等の適当な基板上に転写することもできる。
【0076】
またこれらの単層または多層グラフェンに電子ドナー分子として3級アミンをドーピングしてもよい。このようなグラフェン膜からなる電極も透明電極として機能する。
対向電極上に正孔注入層として例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)・ポリ(スチレンスルホン酸)複合体(PEDOT・PSS)膜を形成してもよい。この膜は、例えば50nmの厚さとすることができる。
【0077】
実施形態による太陽電池セルは、両面を透明電極に挟まれた構造とすることができる。このような構造を有する太陽電池は、両面からの光を効率よく利用することができる。エネルギー変換効率は一般に5%以上であり、長期間安定でフレキシブルであるという特徴を有する。
【0078】
また、対向電極504としてグラフェン膜の代わりに、ITOガラス透明電極を用いることができる。この場合には、太陽電池のフレキシビリティは犠牲になるが高効率で光エネルギーを利用することができる。また、金属電極としてステンレスや銅、チタン、ニッケル、クロム、タングステン、金、銀、モリブデン、すず、亜鉛等を用いてもよい。この場合には、透明性が低下する傾向にある。
【0079】
太陽電池セルには紫外線カット層、ガスバリア層を有することができる。紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ第3ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;フェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート等のサリチル酸エステル系化合物が挙げられる。これらは400nm以下の紫外線をカットすることが望ましい。
【0080】
ガスバリア層としては特に水蒸気と酸素を遮断するものが好ましく、特に水蒸気を通しにくいものが好ましい。例えば、SiN、SiO、SiC、SiO、TiO、Alの無機物からなる層、超薄板ガラス等を好適に利用することができる。ガスバリア層の厚みは特に制限されないが、0.01~3000μmの範囲であることが好ましく、0.1~100μmの範囲であることがより好ましい。0.01μm未満では十分なガスバリア性が得られない傾向にあり、他方、前記3000μmを超えると重厚化しフレキシブル性や柔軟性等の特長が消失する傾向にある。ガスバリア層の水蒸気透過量(透湿度)としては、100g/m・d~10-6g/m・dが好ましく、より好ましくは10g/m・d~10-5g/m・dであり、さらに好ましくは1g/m・d~10-4g/m・dである。尚、透湿度はJIS Z0208等に基づいて測定することができる。ガスバリア層を形成するには、乾式法が好適である。乾式法によりガスバリア性のガスバリア層を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、誘導加熱蒸着、及びこれらにプラズマやイオンビームによるアシスト法などの真空蒸着法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン)スパッタリング法などのスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法(PVD法)、熱や光、プラズマなどを利用した化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。中でも、真空下で蒸着法により膜形成する真空蒸着法が好ましい。
【0081】
実施形態による透明電極が基板を具備する場合には、目的に応じて基板の種類が選択される。例えば、透明基板としては、ガラスなどの無機材料、PET、PEN、ポリカーボネート、PMMAなどの有機材料が用いられる。特に、柔軟性のある有機材料を用いると、実施形態による透明電極が柔軟性に富むものになるので好ましい。
【0082】
なお、本実施形態の太陽電池セルは光センサーとしても使用できる。
【0083】
[実施形態3―2]
図6を用いて、第3の別の実施形態に係る光電変換素子の構成について説明する。図6は、本実施形態に係る有機EL素子600(光電変換素子)の構成概略図である。有機EL素子600は、この素子に入力された電気エネルギーを光Lに変換する発光素子としての機能を有する素子である。有機EL素子600は、基材601上の導電性層602の表面に設けられた光電変換層(発光層)603と、光電変換層603の導電性層602の反対側面に設けられた対向電極604とを具備している。
【0084】
ここで導電性層602は実施形態1で示されたものと同様である。光電変換層603は、導電性層602から注入された電荷と対向電極604から注入された電荷を再結合させ電気エネルギーを光に変換させる有機薄膜層である。光電変換層603は通常p型の半導体層とn型の半導体層からなっている。光電変換層603と対向電極604の間には電荷注入を促進またはブロックするためバッファ層が設けられ、光電変換層603と導電性層602の間にも別のバッファ層が設けられていてもよい。対向電極604は、通常は金属電極であるが透明電極を用いてもよい。
【0085】
(実施例1)
図2に対応する構造を有する透明電極700Aを作成する。厚さ100μmのPETフィルム701A上にアモルファス含有ITO層(以下、a-ITO層という)704A(45~52nm)/銀含有層702A(5~8nm)/a-ITO層703A(45~52nm)の積層構造を有する導電性層を有する透明電極700Aをスパッタ法で作成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これを乾燥空気中で硫黄粉末と共に80℃で10分間ガラス容器中で放置する。表面抵抗や透過スペクトルは変化しない。得られる透明電極の断面SEMを測定する。具体的には、測定にはFE-SEM(電界放射型走査電子顕微鏡、Carl Zeiss製 ULTRA55型)を用いて、観察電圧:2.0kV、倍率80,000倍で観察することができる。得られる断面画像は図7(A)に示すとおりである。図7(A)において、銀含有層702Aは連続的である。705AはSEM測定のための金属コート層である。比Rは0.92である。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が10%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0086】
(比較例1)
硫黄蒸気で処理しないことを除いては実施例1と同様にして、PETフィルム701B上にアモルファスITO層704B/銀含有層702B/a-ITO層703Bの積層構造を有する導電性層を有する透明電極700Bを作製して評価する。得られる断面画像は図7(B)に示すとおりである。断面SEM写真には銀含有層702Bに多数の不連続領域706Bが見られる。また0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗は300Ω/□以上に増加し、イオンマイグレーションに対して耐性が弱い。
【0087】
(実施例2)
図2に示す構造の透明電極200を作成する。厚さ100μmのPETフィルム上にa-ITO層(45~52nm)/銀、Pd合金を含む銀含有層(5~8nm)/a-ITO層(45~52nm)の積層構造を有する導電性層をスパッタ法で作成する。表面抵抗は9~10Ω/□である。これを1%の硫化水素を含む乾燥空気中、30℃で10分間ガラス容器中で放置する。得られる透明電極の断面SEMを測定する。銀含有層には不連続が見られず均一である。表面抵抗および透過スペクトルは硫黄処理前と変化していない。比Rは0.85である。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が1%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0088】
(比較例2)
実施例2と比べてPdの量を増加させ、比Rは0.83である透明電極を作製する。。この場合は550nmでの光透過率が実施例2と比べ、5%低下し太陽電池用の透明電極としては光透過性が不足する。
【0089】
(実施例3)
実施例1と同様に、a-ITO/銀含有層/a-ITOの積層構造を有する導電性層スパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これを乾燥空気中で硫黄粉末と共に80℃で10分間ガラス容器中で放置する。その上に平面状の、炭素原子の一部が窒素原子に置換された、平均4層のN-グラフェン膜が積層された遮蔽層を形成する。
【0090】
遮蔽層は以下の通り作成する。まず、Cu箔の表面をレーザー照射によって加熱処理し、アニールにより結晶粒を大きくする。このCu箔を下地触媒層とし、アンモニア、メタン、水素、アルゴン(15:60:65:200ccm)を混合反応ガスとして1000℃、5分間の条件下、CVD法により平面状の単層N-グラフェン膜を製造する。この時、ほとんどは単層のグラフェン膜が形成されるが、条件により一部に2層以上のN-グラフェン膜も生成する。さらにアンモニア、アルゴン混合気流下1000℃で5分処理した後、アルゴン気流下で冷却する。熱転写フィルム(150μm厚)と単層N-グラフェンを圧着した後、Cuを溶解するため、アンモニアアルカリ性の塩化第二銅エッチャントに漬けて、単層N-グラフェン膜を熱転写フィルム上に転写する。同様の操作を繰り返すことに単層グラフェン膜を熱転写フィルム上に4層積層して多層N-グラフェン膜を得る。
【0091】
熱転写フィルムを硫黄蒸気で処理したa-ITO層/銀含有層/a-ITO層/PETフィルムの上にラミネートした後、加熱してN-グラフェン膜をa-ITO/銀/a-ITO/PETフィルム上に転写して遮蔽層を作製する。
【0092】
XPSで測定された窒素の含有量は、この条件では1~2atom%である。XPSから測定したカーボン材料の炭素原子と酸素原子の比率は100~200である。
【0093】
得られる透明電極の断面SEMを測定する。銀含有層には不連続が見られず均一である。比(R)は0.93である。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が5%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0094】
(実施例4)
実施例1と同様に、a-ITO層/銀含有層/a-ITO層の積層構造を有する導電性層をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これを1%の硫化水素を含む乾燥空気中、30℃で10分間ガラス容器中で放置する。
【0095】
チタン(IV)イソプロポキシドに対して5wt%のニオブ(V)ブトキシドを含有するイソプロパノール溶液をバーコーターで塗布する。窒素中室温で乾燥後、湿度20%の大気中で130℃のホットプレート上で乾燥してNbがドープされた酸化チタン層を作製する。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が2%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0096】
(実施例5)
図8に示す太陽電池セル800を作成する。
【0097】
基材801上に実施例1と同様の方法で導電性層802を形成させる。その上に電子注入層803としてフッ化リチウムの水溶液を塗布し、次にC60-PCBMのトルエン溶液をバーコーターで塗布して乾燥させ、電子輸送層804を形成させる。ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)とC60-PCBMとを含むクロルベンゼン溶液をバーコーターで塗布し、100℃で20分乾燥することにより光電変換層805を作製する。
【0098】
絶縁性セラミックス膜が反対面に形成されたステンレス箔806の表面を、希塩酸で処理して表面酸化膜を除去してから酸化グラフェンの水溶液をバーコーターで塗布して酸化グラフェン膜を形成させる。次いで、90℃で20分乾燥した後、110℃で水和ヒドラジン蒸気で1時間処理して酸化グラフェンの炭素原子の一部が窒素原子に置換された2層N-グラフェン膜からなる遮蔽層807に変化させる。
【0099】
N-グラフェン膜806の上に、ソルビトールを含有したPEDOT・PSSの水溶液をバーコーターで塗布し、100℃で30分乾燥してPEDOT・PSSを含む接着層808(50nm厚)を形成させる。
【0100】
光電変換層804の上に上記接着層808面が接合するように90℃で貼り合わせる。導電性層とは逆側のPET表面に2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン含有の紫外線カットインクをスクリーン印刷して紫外線カット層809を作製する。紫外線カット層の上に真空蒸着法でシリカ膜を製膜しガスバリア層810を作製し太陽電池セル800を作製する。
【0101】
得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して5%以上のエネルギー変換効率を示し、室外で一か月放置しても効率の劣化は3%未満である。
【0102】
(実施例6)
有機EL素子を作成する。実施例2で作製される透明電極上に電子輸送層としてフッ化リチウムの水溶液を塗布し、n型の半導体としても機能し、発光層でもあるトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)(40nm)を蒸着して光電変換層を作製する。その上にN,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(以下、NPDという)を30nmの厚さで蒸着しホール輸送層83を作製する。その上に金電極をスパッタ法により製膜する。さらに周りを封止することにより有機EL素子を作製する。得られる有機EL素子は出力光の劣化が少なく、1000時間連続運転しても出力の低下は4%以下である。
【0103】
(実施例7)
実施例1と同様に、a-ITO層/銀含有層/a-ITO層の積層構造を有する導電性層をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これに5wt%のチオアセトアミドのエタノール溶液を塗布した後、80℃で加熱しとエタノールと余剰のチオアセトアミドを乾燥、除去させる。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が8%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0104】
(実施例8)
実施例1と同様に、a-ITO層/銀含有層/a-ITO層の積層構造を有する導電性層をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これに5wt%のN-メチルチオアセトアミドのエタノール溶液を塗布した後、90℃で加熱し、エタノールと余剰のN-メチルチオアセトアミドを乾燥、除去させる。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が10%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0105】
(実施例9)
実施例1と同様に、a-ITO層/銀含有層/a-ITO層の積層構造を有する導電性層をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これに5wt%のN-メチルチオ尿素のエタノール溶液を塗布した後、100℃で加熱し、エタノールと余剰のN-メチルチオアセトアミドを乾燥、除去させる。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が10%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0106】
(実施例10)
厚さ100μm、幅20cm、長さ40mのPETフィルム上にa-ITO層704A(45~52nm)/銀含有層702A(5~8nm)/a-ITO層703A(45~52nm)の積層構造を有する導電性層を有する透明電極700Aをロールツーロールスパッタ装置で作成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これを図4Bで示す装置で硫黄蒸気処理を行う。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が10%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0107】
(実施例11)
実施例1と同様に、a-ITO層/銀含有層/a-ITO層の積層構造を有する導電性層をスパッタ法で100μmのPETフィルム上に形成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。
【0108】
チタン(IV)イソプロポキシドに対して5wt%のニオブ(V)ブトキシドを含有するイソプロパノール溶液をバーコーターで塗布する。窒素中室温で乾燥後、湿度20%の大気中で130℃のホットプレート上で乾燥してNbがドープされた酸化チタン層を作製する。これを乾燥空気中で硫黄粉末と共に80℃で10分間ガラス容器中で放置する。
0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が2%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【0109】
(実施例12)
厚さ100μm、幅20cm、長さ40mのPETフィルム上にa-ITO層704A(45~52nm)/銀含有層702A(5~8nm)/a-ITO層703A(45~52nm)の積層構造を有する導電性層を有する透明電極700Aをロールツーロールスパッタ装置で作成する。表面抵抗は7~9Ω/□である。これに5wt%のチオアセトアミドのエタノール溶液をロールツーロール塗布装置で塗布した後、ロールツーロール乾燥炉で加熱して、エタノールと余剰のチオアセトアミドを乾燥、除去させる。次にポリスチレンのトルエン溶液をロールツーロール塗布装置で塗布した後、ロールツーロール乾燥炉でトルエンを蒸発させる。0.03wt%中の塩水中で-0.5~0.8V(対銀―塩化銀電極)で5分間サイクリックボタンメトリーによって応答電力の測定を行った場合、表面抵抗の増加が1%以下であり、イオンマイグレーションに対して耐性がある。
【符号の説明】
【0110】
100、200、300…透明電極
101…基材
102…銀含有層
103…酸化物層
104…第2の酸化物層
105…不均一部
106…硫黄含有銀化合物
400…ロールツーロール硫黄蒸気処理装置
401…積層膜
402…送り側ロール
403…巻き取り側ロール
404…加熱炉
405、406…外部大気流入防止器
407…硫黄源
500…太陽電池セル
501…透明基材
502…導電性層
503…光電変換層
504…対向電極
600…有機EL素子
601…透明基材
602…導電性層
603…光電変換層
604…対向電極
700A、700B…透明電極
701A、701B…PETフィルム
702A、702B…銀含有層
703A、703B…アモルファス含有ITO層
704A、704B…アモルファス含有ITO層
705A、705B…金属コート層
706B…不連続領域
800…太陽電池セル
801…透明基材
802…導電性層
803…電子注入層
804…電子輸送層
805…光電変換層
806…ステンレス箔
807…遮蔽層
808…接着層
809…紫外線カット層
810…ガスバリア層
【要約】
[課題]銀のマイグレーションが起こりにくく、耐性の高い透明電極およびその作製方法、ならびにその透明電極を用いた電子デバイスを提供する。
[解決手段]実施形態による透明電極は、透明基材(101)、導電性の銀含有層(102)、および導電性の酸化物層(103)が、この順で積層された積層構造を具備するものであって、
前記透明電極の、波長800nmおよび600nmにおける全透過率をそれぞれT800およびT600とした場合の透過率の比T800/T600が0.85以上であり、
かつ前記銀含有層(102)が連続的である。この電極は、導電性の銀含有層(102)と、導電性の酸化物層(103)とが積層された積層膜に硫黄または硫黄化合物を接触させて、硫黄含有銀化合物層を形成させることで作製できる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8