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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】非水電解質及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20220726BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220726BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220726BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220726BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220726BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220726BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220726BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220726BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20220726BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20220726BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/13
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01G11/30
H01G11/60
H01G11/62
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017171908
(22)【出願日】2017-09-07
(65)【公開番号】P2019046759
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】中島 要
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/133899(WO,A1)
【文献】特開2014-041811(JP,A)
【文献】特開2017-111927(JP,A)
【文献】特開2015-230850(JP,A)
【文献】特開2001-093572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩、
4以上のエーテル結合を有するポリエーテル化合物、及び
フッ素化エーテル
を含有し、
上記ポリエーテル化合物に対する上記リチウム塩のモル比が1以上であり、
上記リチウム塩に対する上記フッ素化エーテルのモル比が8以上であり、
上記ポリエーテル化合物が、下記式(1)で表される化合物又は下記式(1’)で表されるクラウンエーテルであり、
上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が2mPa・s未満である、蓄電素子用の非水電解質。
-(OCHCH-OR ・・・(1)
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1から3のアルキル基である。xは、3から5の整数である。
(-CH-CH-O-) ・・・(1’)
式(1’)中、nは、4から6の整数である。
【請求項2】
上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が、1mPa・s未満である請求項1の非水電解質。
【請求項3】
硫黄を含む正極、及び
非水電解質
を備え、
上記正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が、2mg/cm以上5mg/cm以下であり、
上記非水電解質が、
リチウム塩、
4以上のエーテル結合を有するポリエーテル化合物、及び
フッ素化エーテル
を含有し、
上記ポリエーテル化合物に対する上記リチウム塩のモル比が1以上であり、
上記リチウム塩に対する上記フッ素化エーテルのモル比が5より大きく、
上記ポリエーテル化合物が、下記式(1)で表される化合物又は下記式(1’)で表されるクラウンエーテルであり、
上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が1mPa・s未満である、非水電解質蓄電素子。
-(OCHCH-OR ・・・(1)
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1から3のアルキル基である。xは、3から5の整数である。
(-CH-CH-O-) ・・・(1’)
式(1’)中、nは、4から6の整数である。
【請求項4】
硫黄を含む正極、及び
水電解質
を備え、
上記正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が、2mg/cm以上5mg/cm以下であり、
上記非水電解質が、
リチウム塩、
4以上のエーテル結合を有するポリエーテル化合物、及び
フッ素化エーテル
を含有し、
上記ポリエーテル化合物に対する上記リチウム塩のモル比が1以上であり、
上記リチウム塩に対する上記フッ素化エーテルのモル比が5より大きく、
上記ポリエーテル化合物が、下記式(1)で表される化合物又は下記式(1’)で表されるクラウンエーテルであり、
上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が1mPa・s未満であり、
上記リチウム塩がリチウムイミド塩である、非水電解質蓄電素子。
-(OCH CH -OR ・・・(1)
式(1)中、R 及びR は、それぞれ独立して、炭素数1から3のアルキル基である。xは、3から5の整数である。
(-CH -CH -O-) ・・・(1’)
式(1’)中、nは、4から6の整数である。
【請求項5】
硫黄を含む正極、及び
請求項2の非水電解質
を備え、
上記正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が、2mg/cm以上5mg/cm以下である非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子として、Li-S電池等、正極活物質に硫黄が用いられた非水電解質蓄電素子が知られている。硫黄は、理論容量が大きいという利点を有する。しかし、硫黄が用いられた非水電解質蓄電素子においては、いわゆる多硫化物シャトルと称される現象が生じることが知られている。多硫化物シャトルとは、充放電に伴い多硫化物イオンが溶出し、この多硫化物イオンが正負極間で酸化還元反応を引き起こす現象である。この多硫化物シャトルは、充放電サイクル性能を低下させる要因の一つとなっている。
【0004】
非特許文献1には、このような多硫化物シャトルを抑制し、充放電サイクル性能を向上させる技術として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とテトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)と1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(HFE)とを1:1:4のモル比で混合した非水電解質を用いたLi-S電池が記載されている。また、特許文献1には、LiTFSIとG4と1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロプロピルエーテル(TFEE)とを1:1:5のモル比で混合した非水電解質を用いたLi-S電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-41811号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kaoru Dokko他、「Solvate Ionic Liquid Electrolyte for Li-S Batteries」、Journal of The Electrochemical Society、2013年、第160巻、第8号、A1304-A1310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記非特許文献1及び特許文献1の非水電解質を用いたLi-S電池においては、容量密度が十分に高いと言えるものではない。理論容量の高い硫黄を十分に利用した、容量密度の高い非水電解質蓄電素子の開発が期待されている。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、所定量の硫黄を含む正極と組み合わせて用いることにより、その硫黄の利用率を高め、この結果、非水電解質蓄電素子の容量密度を高めることができる非水電解質、及び硫黄を含む正極を有し、容量密度の高い非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る非水電解質は、リチウム塩、4以上のエーテル結合を有するポリエーテル化合物、及びフッ素化エーテルを含有し、上記ポリエーテル化合物に対する上記リチウム塩のモル比が1以上であり、上記リチウム塩に対する上記フッ素化エーテルのモル比が5より大きい蓄電素子用の非水電解質である。
【0010】
本発明の他の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、硫黄を含む正極、及び当該非水電解質を備え、上記正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が、2mg/cm以上5mg/cm以下であり、上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が、1mPa・s未満である非水電解質蓄電素子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所定量の硫黄を含む正極と組み合わせて用いることにより、その硫黄の利用率を高め、この結果、非水電解質蓄電素子の容量密度を高めることができる非水電解質、及び硫黄を含む正極を有し、容量密度の高い非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の非水電解質蓄電素子の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の非水電解質蓄電素子の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、リチウム塩、4以上のエーテル結合を有するポリエーテル化合物、及びフッ素化エーテルを含有し、上記ポリエーテル化合物に対する上記リチウム塩のモル比が1以上であり、上記リチウム塩に対する上記フッ素化エーテルのモル比が5より大きい蓄電素子用の非水電解質である。
【0014】
当該非水電解質は、所定量の硫黄を含む正極と組み合わせて用いることにより、その硫黄の利用率を高め、この結果、非水電解質蓄電素子の容量密度を高めることができる。このような効果が生じる理由としては定かでは無いが、以下が推測される。フッ素化エーテルをリチウム塩に対して5倍超のモル比で用いることで、非水電解質が十分に低粘度化する。このため、硫黄を含む正極中における厚み方向のリチウムイオンの伝導性が高まり、硫黄の利用率が高まることによると推測される。すなわち、当該非水電解質によれば、低粘度化により、正極内部に存在する硫黄にまで、リチウムイオンが到達しやすくなっているものと推測される。
【0015】
なお、このようにフッ素化エーテルで5倍超に希釈すると、低粘度化すると共にリチウムイオン濃度も大きく低下する。従って、このように希釈した場合、一般的な測定方法によるイオン伝導度自体は、それほど向上しない、あるいは逆に低下する傾向にある。しかしながら、当該非水電解質においては、測定されるイオン伝導度よりも低粘度化を特に重視することで、硫黄を含む正極における厚み方向のイオンの伝導性又は拡散性を高め、硫黄の利用率を高めている。このようにイオン伝導度自体は改善されなくても効果が生じる理由は、硫黄を含む正極中におけるリチウムイオンの伝導性又は拡散性は、イオン伝導度の測定が行われる環境下とは異なり、イオン濃度よりも粘度の低さが伝導性又は拡散性に大きく影響を与えていることによるためと推測される。
【0016】
また、当該非水電解質においては、フッ素化エーテルを用いて希釈しているため、リチウム多硫化物の溶出によるシャトル現象が抑制され、良好な充放電性能が発揮される。さらに、当該非水電解質においては、ポリエーテル化合物に対するリチウム塩のモル比が1以上であり、ポリエーテル化合物がリチウムイオンに配位することとで溶媒和イオン液体が形成されている。これによっても、リチウム多硫化物の溶出によるシャトル現象が抑制される。
【0017】
上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が、1mPa・s未満であることが好ましい。一般的に、高容量密度化を図るべく、正極における硫黄の含有量を増やすと、この硫黄を含む層が厚くなる。この場合、従来の非水電解質であれば、リチウムイオンの伝導性・拡散性が低いため、深い位置に存在する硫黄が利用され難くなり、硫黄の利用率が低下する。これに対し、25℃における粘度が1mPa・s未満といった低粘度のフッ素化エーテルを用いることで、当該非水電解質は特に十分に低粘度化する。従って、このような低粘度のフッ素化エーテルを用いることで、正極における硫黄の含有量を大きくした場合の硫黄の利用率を高め、その結果、容量密度を顕著に高めることができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、硫黄を含む正極、及び当該非水電解質を備え、上記正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が、2mg/cm以上5mg/cm以下であり、上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が、1mPa・s未満である非水電解質蓄電素子である。
【0019】
当該非水電解質蓄電素子は、正極における硫黄の含有量が高い。さらに、当該非水電解質蓄電素子においては、上述のように十分に低粘度化された、リチウムイオン拡散性の高い非水電解質が用いられているため、硫黄の利用率が高い。従って、当該非水電解質蓄電素子は、硫黄の含有量の多さとその硫黄の利用率の高さとの相乗効果によって、高い容量密度を有する。
【0020】
なお、「正極における単位面積当たりの硫黄の含有量」は、正極中の硫黄の含有量(mg)を、正極表面において硫黄が存在する領域の面積(cm)で除した値である。例えば、硫黄をシート状の正極基材の片面全面に塗工した場合、硫黄の全塗工量を正極基材の片面の面積で除した値が、「正極における単位面積当たりの硫黄の含有量」である。一方、硫黄をシート状の正極基材の両面全面に塗工した場合、硫黄の全塗工量を正極基材の両面の面積で除した値が、「正極における単位面積当たりの硫黄の含有量」である。「正極における単位面積当たりの硫黄の含有量」は、単位面積あたりの硫黄の塗工量、積層量などと換言することができ、この値が大きいほど、硫黄が厚く積層された状態であることを表す。
【0021】
<非水電解質>
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、リチウム塩、4以上のエーテル結合を有するポリエーテル化合物、及びフッ素化エーテルを含有する。
【0022】
(リチウム塩)
上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO等の無機リチウム塩、リチウムイミド塩等の有機リチウム塩を挙げることができる。リチウム塩は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
リチウム塩としては、有機リチウム塩が好ましく、リチウムイミド塩がより好ましい。リチウムイミド塩を用いることで、より良好な溶媒和イオン液体を形成することなどができる。なお、リチウムイミド塩とは、窒素原子に2つのカルボニル基が結合された構造を有するリチウムイミド塩のみならず、窒素原子に2つのスルホニル基が結合された構造を有するものや、窒素原子に2つのホスホニル基が結合された構造を有するものも含む意味である。
【0024】
上記リチウムイミド塩としては、
LiN(SOF)(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI)、LiN(SOCF(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:LiTFSI)、LiN(SO(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド:LiBETI)、LiN(SO(リチウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド)、CF-SO-N-SO-N-SOCFLi、FSO-N-SO-CLi、CF-SO-N-SO-CF-SO-N-SO-CFLi、CF-SO-N-SO-CF-SOLi、CF-SO-N-SO-CF-SO-C(-SOCFLi等のリチウムスルホニルイミド塩;
LiN(POF(リチウムビス(ジフルオロホスホニル)イミド:LiDFPI)等のリチウムホスホニルイミド塩等を挙げることができる。
【0025】
リチウムイミド塩は、フッ素原子を有することが好ましく、具体的には例えばフルオロスルホニル基、ジフルオロホスホニル基、フルオロアルキル基等を有することが好ましい。リチウムイミド塩の中でも、リチウムスルホニルイミド塩が好ましく、LiTFSI及びLiFSIがより好ましく、LiTFSIがさらに好ましい。
【0026】
(ポリエーテル化合物)
上記ポリエーテル化合物は、4以上のエーテル結合(-O-)を有する化合物である。このエーテル結合の数の下限は、5が好ましい。一方、エーテル結合の数の上限は、例えば20であり、12が好ましく、6がより好ましい。上記ポリエーテル化合物は、リチウム塩を溶解する非水溶媒であり、リチウムイオンに配位する。リチウムイオンとポリエーテル化合物とは、溶媒和イオン液体を形成する。ポリエーテル化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
上記ポリエーテル化合物は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
-(OCHCH-OR ・・・(1)
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基である。xは、3~5の整数である。
【0028】
式(1)中のR及びRにおける上記炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基及びi-プロピル基を挙げることができる。R及びRとしては、それぞれメチル基が好ましい。式(1)中のxとしては、4が好ましい。
【0029】
上記ポリエーテル化合物は、クラウンエーテルであることも好ましい。クラウンエーテルとしては、例えば(-CH-CH-O-)(nは、4~6の整数である。)で表される化合物を挙げることができる。
【0030】
上記ポリエーテル化合物としては、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、クラウンエーテル又はこれらの組み合わせが好ましく、テトラエチレングリコールジメチルエーテルがより好ましい。このようなポリエーテル化合物を用いることで、形成されるリチウムイオンとの錯体(溶媒和イオン液体)が特に安定な状態となる。
【0031】
上記ポリエーテル化合物に対する上記リチウム塩のモル比は1以上である。なお、このモル比の「1」において、有効数字は1桁であり、小数点第1位を四捨五入して1になる0.5や0.9も含まれることを意味する(以下同様に、他の整数で表した数値について、小数点第1位を四捨五入して表した数値である。)。上記モル比の下限は、0.8が好ましく、0.9がより好ましく、1.0がさらに好ましい。一方、このモル比の上限としては、例えば3であり、2が好ましく、1.2がさらに好ましく、1.1がよりさらに好ましい。このモル比が上記下限以上又は上記上限以下であることで、より良好な溶媒和イオン液体が形成される。
【0032】
(フッ素化エーテル)
上記フッ素化エーテルは、エーテルが有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された化合物である。なお、このフッ素化エーテルは、4以上のエーテル結合を有する化合物は含まないものとする。上記フッ素化エーテルは、1又は2のエーテル結合を有し、1のみのエーテル結合を有することが好ましい。上記フッ素化エーテルも、非水溶媒として含有されている。フッ素化エーテルは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0033】
上記フッ素化エーテルとしては、例えば下記式(2)で表される化合物を挙げることができる。
-O-R ・・・(2)
式(2)中、Rは、炭素数1~8のフッ素化炭化水素基である。Rは、炭素数1~8の炭化水素基又は炭素数1~8のフッ素化炭化水素基である。
【0034】
上記Rとしては、フッ素化アルキル基が好ましい。Rの炭素数の上限は、5が好ましく、3がより好ましく、2がさらに好ましい。Rの炭素数の下限は、2が好ましい。
【0035】
上記Rとしては、フッ素化炭化水素基が好ましく、フッ素化アルキル基がより好ましい。Rの炭素数の上限は、5が好ましく、3がより好ましく、2がさらに好ましい。Rの炭素数の下限は、2が好ましい。
【0036】
また、上記RとRとの合計炭素数の上限としては、6が好ましく、5がより好ましく、4がさらに好ましい。一方、この合計炭素数の下限としては、3が好ましく、4がより好ましい。このような炭素数のフッ素化エーテルを用いることで、粘度やイオン伝導度が好適なものとなり、当該非水電解質の効果をより高めることができる。
【0037】
具体的なフッ素化エーテルとしては、例えばCFOCH、CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、CF(CF)CHO(CF)CF、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、F(CFOC、F(CFOCH、CFCHOCH、CFCHOCHF、CFCFCHOCH、CFCFCHOCHF、CFCFCHO(CFH、CFCFCHO(CFF、HCFCHOCH、(CF)(CF)CHO(CFH、H(CFOCHCH、H(CFOCHCF(略称:TFEE)、H(CFCHOCHF、H(CFCHO(CFH(略称:HFE)、H(CFCHO(CFH、H(CFCHO(CFH、H(CHF)CHO(CFH、(CFCHOCH、(CFCHCFOCH、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCHCH、CFCHFCFCHOCHF、CFCHFCFOCH(CFF、CFCHFCFOCHCFCFH、H(CFCHO(CFH、CHCHO(CFF、F(CFCHO(CFH、H(CFCHOCFCHFCF、F(CFCHOCFCHFCF、H(CFCHO(CF)H、CFOCH(CFF、CFCHFCFOCH(CFF、CHCFOCH(CFF、CHCFOCH(CFF、CHO(CFF、F(CFCHOCH(CFF、F(CFCHOCH(CFF、H(CFCHOCH(CFH、CHCFOCH(CFH等を挙げることができる。
【0038】
上記フッ素化エーテルの25℃における粘度としては、例えば2mPa・s未満であってよいが、1mPa・s未満であることが好ましい。この粘度の上限は、0.8mPa・sがより好ましく、0.7mPa・sがさらに好ましい。上記上限以下の粘度を有するフッ素化エーテルを用いることで、正極における硫黄の含有量を大きくした場合(例えば正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が2mg/cm以上5mg/cm以下であるとき)の硫黄の利用率をより高め、容量密度をより顕著に高めることができる。なお、この粘度の下限としては、例えば0.2mPa・sであり、0.4mPa・sであってもよく、0.6mPa・sであってもよい。
【0039】
このような低粘度のフッ素化エーテルとしては、
1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロプロピルエーテル(TFEE:25℃における粘度0.65mPa・s)、
エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(23℃における粘度0.486mPa・s)、
ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(23℃における粘度0.498mPa・s)等を挙げることができる。これらの中でも、TFEEが好ましい。TFEEは粘度が低いと共に、良好なイオン導電性を有する。
【0040】
なお、上記フッ素化エーテルとしては、25℃における粘度が、1mPa・s以上であるものを用いることもできる。この場合、正極における硫黄の含有量が小さいとき(例えば、正極における単位面積あたりの硫黄の含有量が2mg/cm未満であるとき)の硫黄の利用率を高めることができる。
【0041】
上記フッ素化エーテルの含有量は、上記リチウム塩に対してモル比で5より大きい。このリチウム塩に対するフッ素化エーテルのモル比の下限は、5.5が好ましく、8がより好ましく、12がさらに好ましく、15がよりさらに好ましい場合がある。このモル比を上記下限以上とすることで、より十分な希釈が生じ、当該非水電解質の粘度が低下する。従って、硫黄の利用率を高め、非水電解質蓄電素子の容量密度を高めることができる。一方、リチウム塩に対するフッ素化エーテルのモル比の上限としては、例えば40であり、30が好ましく、25がより好ましい。このモル比を上記上限以下とすることで、十分な濃度のリチウム塩を存在させることができ、充放電性能をより良好なものとすることができる。
【0042】
(他の成分)
当該非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記リチウム塩、ポリエーテル化合物及びフッ素化エーテル以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、リチウム塩以外の他の電解質塩、ポリエーテル化合物及びフッ素化エーテル以外の他の非水溶媒、並びにその他一般的な蓄電素子用非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。
【0043】
他の電解質塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができる。但し、全電解質塩に占めるリチウム塩以外の他の電解質塩の含有量の上限としては、10モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、0.1モル%がさらに好ましい。
【0044】
他の非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。但し、全非水溶媒に占める上記ポリエーテル化合物及びフッ素化エーテル以外の他の非水溶媒の含有量の上限としては、10モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、0.1モル%がさらに好ましい。非水溶媒がポリエーテル化合物及びフッ素化エーテルのみから実質的に構成されていることで、多硫化物イオンの溶出が抑制されること、粘度がより好適な状態になることなどにより、容量密度をより高めることなどができる。
【0045】
また、当該非水電解質における上記リチウム塩、ポリエーテル化合物及びフッ素化エーテル以外の他の成分の含有量の上限としては、5質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましいこともある。他の成分の含有量を抑えることで、容量密度をより高めることなどができる。
【0046】
当該非水電解質の25℃における粘度の上限としては、4mPa・sが好ましく、3mPa・sがより好ましく、2mPa・sがさらに好ましい。当該非水電解質の粘度を上記上限以下とすることで、硫黄を含む正極における厚み方向のイオン拡散性が高まり、硫黄の利用率をより高めることができる。一方、この粘度の下限としては、例えば0.5mPa・sであってよく、0.8mPa・sであってもよい。
【0047】
当該非水電解質の25℃におけるイオン伝導度の下限としては、0.1mS/cmが好ましく、0.5mS/cmがより好ましく、0.8mS/cmがさらに好ましい。当該非水電解質のイオン伝導度を上記下限以上とすることで、十分なイオン導電性を確保でき、充放電性能をより高めることができる。一方、このイオン伝導度の上限としては、例えば10mS/cmが好ましく、5mS/cmがより好ましく、2mS/cmがさらに好ましく、1.5mS/cmがよりさらに好ましい。当該非水電解質においては、このようなイオン伝導度であっても、十分な低粘度化が図れているため、容量密度を高めることができる。
【0048】
なお、イオン伝導度は、以下の方法により測定した値とする。非水電解質を含むポリエチレンセパレータ(厚み25μm、多孔度45%、透気度310秒/100ml)と、両極としてステンレス鋼板とを用いた二極式対称セルを作製する。これに対し、印加電圧振幅5mV、周波数領域1MHz~100mHz、温度25℃の条件で、交流インピーダンス測定する。この測定値をイオン伝導度とする。なお、距離はセパレータの厚み、面積は電極面積(cm)をセパレータの多孔度(%)で除したものとする。
【0049】
当該非水電解質は、リチウム塩、ポリエーテル化合物、フッ素化エーテル、及び必要に応じてその他の成分を所定比で混合することにより調製することができる。
【0050】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は電池容器に収納され、この電池容器内に非水電解質が充填される。非水電解質は、正極と負極との間に介在する。上記電池容器としては、非水電解質二次電池の電池容器として通常用いられる公知の金属電池容器、樹脂電池容器等を用いることができる。
【0051】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。なお、正極活物質層の一部又は全部は、正極基材や中間層に含浸していてもよい。
【0052】
上記正極基材は、導電性を有する。上記正極基材は、シート状のものを好適に採用することができる。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金、炭素等が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム、アルミニウム合金、及び炭素が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。また、上記正極基材は、カーボンペーパー等、多孔質材料も好適に用いられる。
【0053】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0054】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0055】
上記正極は、正極活物質として硫黄を含む。すなわち、正極活物質層は、硫黄を含む。この正極活物質としての硫黄は、硫黄単体であってもよく、硫黄化合物であってもよい。上記硫黄化合物としては、硫化リチウム等の金属硫化物、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物等の有機硫黄化合物などを挙げることができる。硫黄は理論容量が高く、また、低コストであるなどといった利点がある。
【0056】
硫黄と導電剤(硫黄よりも導電性の高い材料)等との複合体を用いることも好ましい。この複合体は、担体としての導電剤等に硫黄が担持された形態のものを挙げることができ、具体的には、硫黄と多孔性カーボンとの複合体(硫黄-多孔性カーボン複合体:SPC)等を挙げることができる。このSPCにおける硫黄の含有量の下限は、50質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限は、90質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。SPCにおける硫黄の含有量を上記範囲とすることで、大きい電気容量と良好な導電性との両立を図ることなどができる。
【0057】
上記正極活物質層中の硫黄(硫黄元素)の含有量の下限としては、40質量%が好ましく、50質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。SPCを用いる場合、上記正極活物質層中のSPCの含有量の下限としては、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。硫黄又はSPCの含有量を上記範囲とすることで、大きい電気容量と良好な導電性との両立を図り、容量密度をより高めることなどができる。
【0058】
上記正極における単位面積当たりの硫黄(硫黄元素)の含有量の下限は、2mg/cmであり、3mg/cmが好ましく、4mg/cmがより好ましい。正極における単位面積当たりの硫黄の含有量を上記下限以上とし、かつ当該非水電解質を用いることで、硫黄の利用率を高め、容量密度を高めることができる。一方、上記正極における単位面積当たりの硫黄の含有量の上限は、5mg/cmであり、4.5mg/cmが好ましい。
【0059】
上記正極活物質としては、硫黄以外の他の正極活物質が含有されていてもよい。但し、全正極活物質中の硫黄の含有率の下限としては、50質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。
【0060】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛;ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0061】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアクリル酸等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0062】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0063】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0064】
上記正極は、例えば、正極基材又は中間層が設けられた正極基材に、正極合材のスラリーを塗工し、乾燥させることなどにより得ることができる。
【0065】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0066】
上記負極基材は、導電性を有する。負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0067】
上記負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0068】
上記負極活物質としては、例えばリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属;リチウム合金、ナトリウム合金、リチウム複合酸化物等のアルカリ金属を含む化合物;黒鉛、非黒鉛質炭素等の炭素材料;Sn、Ge、Si等のアルカリ金属以外の金属又は半金属;Sn酸化物、Ge酸化物等のアルカリ金属以外の金属の酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属又はアルカリ金属を含む化合物が好ましく、リチウム又はリチウムを含む化合物が好ましい。負極活物質は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。なお、アルカリ金属を含まない負極活物質を用いる場合、正極活物質が、硫黄に加え、アルカリ金属を含む化合物を含むことが好ましい。
【0069】
さらに、上記負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0070】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。さらに、多孔質樹脂フィルムに無機多孔質層が積層された複層のセパレータであってもよい。
【0071】
(非水電解質)
当該二次電池に用いられる非水電解質は、上述した本発明の一実施形態に係る非水電解質であって、上記フッ素化エーテルの25℃における粘度が1mPa・s未満である非水電解質である。この非水電解質の詳細は、上述したとおりである。
【0072】
当該二次電池の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を組み合わせて行うことができる。当該二次電池の製造方法は、例えば、正極及び負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を電池容器に収容する工程、並びに上記電池容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより二次電池を得ることができる。
【0073】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池の形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0074】
また、正極において、硫黄が含まれる明確な正極活物質層が形成されていなくてもよい。例えば、正極基材の表面や、多孔質状の正極基材の内部に、硫黄が散点的に担持されていてもよい。
【0075】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、電池容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0076】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型蓄電素子、角型蓄電素子(矩形状の蓄電素子)、扁平型蓄電素子等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<非水電解質の調製>
[比較例1]
リチウム塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とテトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)と1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロプロピルエーテル(TFEE:25℃における粘度0.65mPa・s)とを1.0:1.0:4.0のモル比で混合し、比較例1の非水電解質を得た。
【0079】
[比較例2、実施例1~4]
使用した各成分の種類及びモル比を表1の通りとしたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2及び実施例1~4の各非水電解質を得た。なお、表中、HFEは、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(25℃における粘度1.60mPa・s)を表す。
【0080】
[イオン伝導度の測定]
得られた各非水電解質をポリエチレンセパレータに含浸させ、これと正極及び負極としてのステンレス鋼板とを用い、二極式対称セルを作成した。この二極式対称セルに対して交流インピーダンス測定を行い、イオン伝導度を測定した。測定条件は、印加電圧振幅:5mV、周波数領域:1MHz~100mHz、温度25℃とした。測定結果を表1に示す。
【0081】
[粘度の測定]
得られた各非水電解質について、Anton Paar社製落球式粘度計Lovis 2000 MEを用いて25℃における粘度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示されるように、実施例1~4の非水電解質は、比較例1、2の非水電解質に比べて、粘度が低い。特に、同じフッ素化エーテルを用いた比較例1と実施例1、2との比較、及び比較例2と実施例3、4との比較から、希釈倍率を5倍超とすることで、粘度が大きく低下していることがわかる。一方、イオン伝導度に関しては、実施例1~4の非水電解質は、比較例1、2の非水電解質と比べて、同程度か、やや低下していることがわかる。また、TFEEとHFEとを比べると、TFEEを用いた方がより低粘度化し、また、イオン伝導度が高いことがわかる。
【0084】
<二次電池の作製>
[比較例3]
クエン酸マグネシウムを、空気雰囲気中900℃1時間の加熱により炭化処理した。得られた炭化物を1MHSO水溶液中に浸漬することによって、酸化マグネシウムを溶出させた。その後、炭化物を洗浄及び乾燥することで、多孔性カーボンを得た。この多孔性カーボンと硫黄とを質量比で30:70で混合した。この混合物をアルゴン雰囲気下で密閉容器に封入し、150℃5時間、放冷、及び300℃2時間の熱処理を行うことで、硫黄-多孔性カーボン複合体(SPC)を得た。なお、各熱処理の際の昇温速度は5℃/分とした。
【0085】
SPC、導電剤としてのアセチレンブラック(AB)、及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比85:5:10で秤量し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒として用いて混合し、正極合材のスラリーを得た。この正極合材スラリーを正極基材としてのカーボンペーパーに塗工し、乾燥させた。これにより、単位面積あたりの硫黄の含有量が0.78mg/cmの正極活物質層が形成されたシート状の正極を得た。なお、正極において上記正極合材スラリーを塗工した面積(正極面積)は、1.13cmであった。
【0086】
一方、負極として、シート状の金属リチウムを用意した。また、セパレータとして、ポリエチレン製微多孔膜を用意した。得られた正極、負極、セパレータ及び比較例1の非水電解質を用いて、比較例3の非水電解質蓄電素子としての二次電池を得た。
【0087】
[比較例4~6、実施例5~7、参考例1~9]
用いた非水電解質、及び正極における単位面積あたりの硫黄の含有量を表2に示すとおりにしたこと以外は、比較例3と同様にして、比較例4~6、実施例5~7、及び参考例1~9の各二次電池を得た。硫黄の含有量の調整は、上記SPCを含む正極合材スラリーの塗工量を調整することにより行った。また、表2には、各二次電池における硫黄の含有量及び硫黄の理論容量に基づく理論容量密度をあわせて示す。理論容量密度は、硫黄の理論容量を1675mAh/gとして算出した。
【0088】
[評価]
得られた各二次電池について、25℃に設定した恒温槽内で充放電試験を行った。充電は定電流(CC)充電とし、放電は定電流(CC)放電とした。充電及び放電の定電流値は、0.1Cで行った。充電上限電圧及び放電終止電圧はそれぞれ3.0V及び1.0Vとした。各二次電池における放電容量の測定値を「実容量」として表2に示す。また、実容量及び正極面積から求めた正極の単位面積あたりの放電容量を「実測容量密度」として求め、「理論容量密度」に対する「実測容量密度」の比を「硫黄利用率」として求めた。「実測容量密度」及び「硫黄利用率」を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2の結果から、実施例1~4の非水電解質は、所定量の硫黄を含む正極と組み合わせて用いることにより、その硫黄の利用率を高め、二次電池の容量密度(実測容量密度)を高めることができることがわかる。また、実施例5~7の二次電池は、3mAh/cmを超える高い容量密度を有することがわかる。具体的には、各比較例、実施例及び参考例から、以下のことがわかる。
【0091】
まず、比較例3~6に示されるように、フッ素化エーテルの希釈量が4倍である場合、二次電池の実測容量密度は、約0.9mAh/cm以下と低い。さらに、比較例3と比較例4との対比、及び比較例5と比較例6との対比からわかるように、正極における硫黄の含有量を増やす、すなわち硫黄を厚塗りすると硫黄の利用率が大きく低下し、その結果、実測容量密度及び実容量が逆に低下している。
【0092】
これに対し、比較例4及び実施例5、6の対比からわかるように、低粘度のTFEEによる希釈量を5倍超に増やしていくと、正極における硫黄の含有量が多いにもかかわらず、硫黄の利用率が高まっている。また、実施例7等から、TFEEで5倍超に希釈した非水電解質を用いた場合、硫黄の含有量を4mg/cm超にまで厚塗りしても、高い硫黄利用率が維持されることが示されている。このため、実施例5~7の各二次電池は、硫黄の含有量の多さと利用率の高さとの相乗効果により、実測容量密度及び実容量が顕著に増加している。なお、比較例3及び参考例1、2の対比からわかるように、正極の硫黄の含有量が少ない場合、TFEEによる希釈量を5倍超に増やしても、硫黄の利用率は頭打ちである。粘度の低いTFEEにより5倍超に希釈した非水電解質を用いた場合、正極における単位面積あたりの硫黄の含有量を2mg/cm以上5mg/cm以下とすることで、高い容量密度が発揮されることがわかる(実施例5~7)。
【0093】
一方、比較例5及び参考例4、5の対比からわかるように、比較的粘度の高いHFEによって希釈量を5倍超に増やしていくと、硫黄の含有量が少ない正極を用いた場合に、硫黄の利用率が高まることがわかる。なお、比較例6及び参考例7、8の対比からわかるように、正極の硫黄の含有量が多い場合、HFEによる希釈量を5倍超に増やしていっても、硫黄の利用率は改善されないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子に適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 非水電解質二次電池
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2