(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/20 20060101AFI20220726BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20220726BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220726BHJP
C01G 55/00 20060101ALI20220726BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H01B1/20 C
C03C8/16
H05K1/09 A
C01G55/00
H05K1/16 C
(21)【出願番号】P 2018066146
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-007199(JP,A)
【文献】特開平07-022202(JP,A)
【文献】特開2007-227114(JP,A)
【文献】特開昭50-103499(JP,A)
【文献】特開昭63-124501(JP,A)
【文献】特開平11-157845(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176696(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00-1/24
C01G 49/10-99/00
C01G 25/00-47/00
C03C 8/16
H05K 1/16
H05K 1/09
H01C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末と、鉛成分を含まないガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物であって、
前記酸化ルテニウム粉末は、X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が25nm以上80nm以下であり、
比表面積から算出した比表面積径D2が25nm以上114nm以下であり、
かつ前記結晶子径D1(nm)と前記比表面積径D2(nm)との比が、下記の式(1)を満たし、
0.70≦D1/D2≦1.00 ・・・(1)
前記ガラスは、SiO
2とB
2O
3とRO(RはCa、Sr、及びBaから選択された1種類以上の元素)とを含み、SiO
2とB
2O
3とROとの合計を100質量部とした場合にSiO
2を10質量部以上50質量部以下、B
2O
3を8質量部以上30質量部以下、ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含有する厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記酸化ルテニウム粉末と前記ガラスとのうち、前記酸化ルテニウム粉末の割合が5質量%以上50質量%以下である請求項1に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
前記ガラスは、50%体積累計粒度が5μm以下である請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを含む厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物を含む厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、セラミック基板に厚膜抵抗体用ペーストを印刷して焼成することによって形成されている。厚膜抵抗体用の組成物は、導電粒子として酸化ルテニウムを代表とするルテニウム系導電粒子とガラスを主な成分としたものが広く用いられている。
【0003】
ルテニウム系導電粒子とガラスが厚膜抵抗体に用いられる理由は、空気中での焼成ができ、抵抗温度係数(TCR)を0に近づけることが可能であることに加え、広い領域の抵抗値の抵抗体が形成可能であることなどが挙げられる。
【0004】
ここで、抵抗温度係数は、25℃の抵抗値に対して-55℃と125℃での抵抗値により求められる温度係数で、次式で求められる。-55℃と25℃の抵抗値から求められる抵抗温度係数を低温側TCR(COLD-TCR)といい、25℃と125℃の抵抗値から求められる抵抗温度係数を高温側TCR(HOT-TCR)という。
【0005】
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×106
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×106
厚膜抵抗体では、COLD-TCRとHOT―TCRとの両者を0に近づけることが求められている。
【0006】
従来より厚膜抵抗体に最も使用されているルテニウム系導電粒子としては、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO2)、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)が挙げられる。これらはいずれも金属的な導電を示す酸化物である。
【0007】
厚膜抵抗体のガラスには、一般的に厚膜抵抗体用ペーストの焼成温度よりも低い軟化点のガラスが用いられており、従来より酸化鉛(PbO)を含むガラスが用いられていた。その理由としては、酸化鉛(PbO)はガラスの軟化点を下げる効果があり含有率を変えることによって広範囲にわたって軟化点を変えられることや、比較的化学的な耐久性が高いガラスが作れること、絶縁性が高く耐圧に優れていることが挙げられる。
【0008】
ルテニウム系導電粒子とガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物では、低抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粒子を多く、ガラスを少なく配合し、高い抵抗値が望まれる場合にはルテニウム系導電粒子を少なく、ガラスを多く配合して抵抗値を調整している。ルテニウム系導電粒子を多く配合する低抵抗値領域では抵抗温度係数がプラスに大きくなり易く、ルテニウム系導電粒子の配合が少ない高抵抗値領域では抵抗温度係数がマイナスになり易い特徴がある。
【0009】
抵抗温度係数は上述のように温度変化による抵抗値の変化を表したもので、厚膜抵抗体の重要な特性の一つである。抵抗温度係数は主に金属酸化物である添加剤を厚膜抵抗体用組成物に加えることで調整が可能である。抵抗温度係数をマイナスに調整することは比較的容易であり、添加剤としてはマンガン酸化物、ニオブ酸化物、チタン酸化物等が挙げられる。しかし、抵抗温度係数をプラスに調整することは困難であり、マイナスの抵抗温度係数を有する厚膜抵抗体の抵抗温度係数を0付近に調整することは実質上行えない。従って、抵抗温度係数がマイナスになりやすい抵抗値が高い領域では、抵抗温度係数がプラスに大きくなる導電粒子とガラスの組み合わせが望ましい。
【0010】
ルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)は酸化ルテニウム(RuO2)よりも比抵抗が高く、厚膜抵抗体の抵抗温度係数が高くなる特徴がある。このため抵抗値の高い領域では導電粒子としてルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)が使用されてきた。
【0011】
このように従来の厚膜抵抗体用組成物には、導電粒子およびガラスの両方に鉛成分を含有している。しかしながら、鉛成分は人体への影響および公害の点から望ましくなく、鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物の開発が強く求められている。
【0012】
そこで従来から、鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物が提案されている(特許文献1~5)。
【0013】
特許文献1には、少なくとも実質的に鉛を含まないガラス組成物及び実質的に鉛を含まない所定の平均粒径の導電材料を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストが開示されている。そして、導電材料としてルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、ルテニウム酸バリウムが挙げられている。
【0014】
特許文献1によれば、使用する導電材料の粒径を所定の範囲とし、反応相を除いた導電材料の実質的な粒径を確保することで所望の効果を得るとしている。しかし、特許文献1に開示された技術では、抵抗温度係数の改善ができているとはいえなかった。また、粒径の大きい導電粒子を用いると形成された抵抗体の電流ノイズが大きく、良好な負荷特性が得られないという問題があった。
【0015】
特許文献2では、ガラス組成物に、導電性を与えるための金属元素を含む第1の導電性材料をあらかじめ溶解させてガラス材料を得る工程と、前記ガラス材料と、前記金属元素を含む第2の導電性材料と、ビヒクルとを混練する工程とを備えており、前記ガラス組成物及び前記第1及び第2の導電性材料は鉛を含まないことを特徴とする抵抗体ペーストの製造方法が提案されている。そして、第1、第2の導電性材料としてRu2O等が挙げられている。しかし、ガラス中に溶解する酸化ルテニウムの量は製造条件によって変動が大きく、抵抗値が安定しないという問題があった。
【0016】
特許文献3では、(a)ルテニウム系導電性材料と(b)所定の組成の鉛およびカドミウムを含まないガラス組成物とのベース固形物を含有し、(a)および(b)の全てが有機媒体中に分散されていることを特徴とする厚膜ペースト組成物が提案されている。そして、ルテニウム系導電性材料としてルテニウム酸ビスマスが挙げられている。しかし、この組成物では抵抗温度係数がマイナスに大きくなり、抵抗温度係数を0に近づけることはできない。
【0017】
特許文献4では、鉛成分を含まないルテニウム系導電性成分と、ガラスの塩基度(Po値)が0.4~0.9である鉛成分を含まないガラスと、有機ビヒクルとを含む抵抗体組成物であって、これを高温で焼成して得られる厚膜抵抗体中にMSi2Al2O8結晶(M:Ba及び/又はSr)が存在することを特徴とする抵抗体組成物が提案されている。
特許文献4によれば、ガラスの塩基度がルテニウム複合酸化物の塩基度に近いことで、ルテニウム複合酸化物の分解抑制効果が大きいとされている。また、ガラス中に所定の結晶相を析出させることによって導電ネットワークを形成できるとされている。
【0018】
しかし、特許文献4では、導電粒子としてルテニウム複合酸化物を用いることを前提としており、ルテニウム複合酸化物よりも工業的に簡便に得られる酸化ルテニウムについては具体的には検討されていなかった。また、抵抗体の抵抗温度係数に及ぼすガラス組成の影響については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2005-129806号公報
【文献】特開2003-7517号公報
【文献】特開平8-253342号公報
【文献】特開2007-103594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体を形成できる、鉛成分を含有しない抵抗体用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため本発明は、
鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末と、鉛を含まないガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物であって、
前記酸化ルテニウム粉末は、X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が25nm以上80nm以下であり、
比表面積から算出した比表面積径D2が25nm以上114nm以下であり、
かつ前記結晶子径D1(nm)と前記比表面積径D2(nm)との比が、下記の式(1)を満たし、
0.70≦D1/D2≦1.00 ・・・(1)
前記ガラスは、SiO2とB2O3とRO(RはCa、Sr、及びBaから選択された1種類以上元素)とを含み、SiO2とB2O3とROとの合計を100質量部とした場合にSiO2を10質量部以上50質量部以下、B2O3を8質量部以上30質量部以下、ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含有する厚膜抵抗体用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面によれば、抵抗温度係数に優れた厚膜抵抗体を形成できる、鉛成分を含有しない抵抗体用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
[厚膜抵抗体用組成物]
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末と、鉛成分を含まないガラスとを含むことができる。
【0024】
そして、酸化ルテニウム粉末は、X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が25nm以上80nm以下、比表面積から算出した比表面積径D2が25nm以上114nm以下であることが好ましい。
【0025】
また、結晶子径D1(nm)と比表面積径D2(nm)との比が、下記の式(1)を満たすことが好ましい。
【0026】
0.70≦D1/D2≦1.00 ・・・(1)
一方、ガラスは、SiO2とB2O3とRO(RはCa、Sr、及びBaから選択された1種類以上の元素)とを含むことができる。そして、SiO2とB2O3とROとの合計を100質量部とした場合にSiO2を10質量部以上50質量部以下、B2O3を8質量部以上30質量部以下、ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含有することができる。
【0027】
本発明の発明者は結晶子径と比表面積径の比を所定の範囲とした酸化ルテニウム粉末と、所定の成分を含有するガラスとを含む抵抗体用組成物とすることで、該抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数を0に近づけることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物によれば、従来、酸化ルテニウムでは抵抗温度係数がマイナスになってしまう抵抗値領域においても抵抗温度係数が0に近い抵抗体が提供できる。
【0028】
以下、本実施形態に含まれる各成分について説明する。
(酸化ルテニウム粉末)
鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物では、抵抗温度係数がプラスに大きい導電粒子であるルテニウム酸鉛(Pb2Ru2O6.5)を用いることができないため、抵抗温度係数がプラスになりやすい導電粉末とガラスの組み合わせが重要となる。
【0029】
既述の様に、添加剤を用いても抵抗温度係数をプラスに調整することは困難である。このため、抵抗温度係数がマイナスになり過ぎてしまうと0付近、例えば±100ppm/℃に調整することが困難である。しかし、抵抗温度係数がプラスであればその値が高くても調整剤等の添加剤で抵抗温度係数を0付近に調整することが可能である。
【0030】
鉛を含有しない厚膜抵抗体用組成物の導電物としては、厚膜抵抗体用組成物を焼成して得られる厚膜抵抗体の抵抗値が安定な酸化ルテニウム粉末が適している。しかし、本発明の発明者らの検討によれば、酸化ルテニウム粉末の結晶子径や、比表面積径によっては抵抗温度係数がマイナスになり過ぎてしまう。
【0031】
そして、酸化ルテニウム粉末とガラスとを主成分として含有する厚膜抵抗体の導電機構は、抵抗温度係数がプラスである酸化ルテニウム粉末の金属的な導電と、抵抗温度係数がマイナスである、酸化ルテニウム粉末とガラスとの反応相による半導体的な導電の組み合わせによると考えられている。このため、酸化ルテニウム粉末の割合が多い低抵抗値領域では抵抗温度係数がプラスになり易く、酸化ルテニウム粉末の割合が少ない高抵抗値領域では抵抗温度係数がマイナスになり易い。従って、高抵抗値領域では、抵抗温度係数を0に近づけることは困難であった。
【0032】
そこで、本発明の発明者は酸化ルテニウム粉末と、ガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体についてさらに検討を行った。そして、酸化ルテニウム粉末とガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を作製した場合、用いる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径が異なれば、厚膜抵抗体用組成物の組成が同一であっても、得られる厚膜抵抗体の面積抵抗値や抵抗温度係数が異なることを見出した。
【0033】
上記知見に基づき、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれる酸化ルテニウム粉末は、上述の結晶子径D1、比表面積径D2、及び結晶子径と比表面積径との比D1/D2を所定の範囲とすることができる。係る酸化ルテニウム粉末用いることで、厚膜抵抗体とした場合に、抵抗温度係数がマイナスになりにくくすることができる。
【0034】
通常、厚膜抵抗体に用いられる酸化ルテニウム粉末の一次粒子の粒径は小さいので、結晶子も小さくなり、完全にBraggの条件を満たす結晶格子が減り、X線を照射した際の回折線プロファイルが広がる。格子歪が無いとみなした場合、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、(110)面での回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとすると以下の式(2)として示したScherrerの式から結晶子径を測定、算出できる。なお、(110)面での回折線プロファイルの広がりβを算出するに当っては、例えばKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正し、Kα1による回折ピークの半価幅を用いることができる。
【0035】
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(2)
式(2)中、KはScherrer定数であり、0.9を用いることができる。
【0036】
酸化ルテニウム(RuO2)粉末は、一次粒子をほぼ単結晶とみなすことができる場合、X線回折法によって測定された結晶子径が一次粒子の粒径とほぼ等しくなる。このため、結晶子径D1は、一次粒子の粒径ということもできる。ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO2)では、回折ピークのうち、結晶構造の(110)、(101)、(211)、(301)、(321)面の回折ピークが比較的大きいが、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いる酸化ルテニウム粉末については、相対強度が最も高く、測定に適した(110)面のピークから算出した結晶子径を、既述の様に25nm以上80nm以下とすることができる。
【0037】
一方、酸化ルテニウム粉末の粒径が細かくなると、比表面積は大きくなる。そして、酸化ルテニウム粉末の粒径をD2(nm)、密度をρ(g/cm3)、比表面積をS(m2/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(3)に示す関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径を比表面積径とする。
【0038】
D2(nm)=6×103/(ρ・S) ・・・(3)
本実施形態では、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cm3として、式(3)によって算出した比表面積径を25nm以上114nm以下とすることができる
酸化ルテニウム粉末の結晶子径D1を25nm以上とすることで、厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを抑制できる。また、酸化ルテニウム粉末の結晶子径D1を80nm以下とすることで耐電圧特性を高めることが可能になる。
【0039】
また、比表面積径D2を25nm以上とすることによって、酸化ルテニウム粉末を用いて厚膜抵抗体を製造するために酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを含有する厚膜抵抗体用ペースト焼成する際、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応が過度に進行することを抑制できる。既述のように、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応相は、抵抗温度係数がマイナスとなる。このため、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応が過度に進行し、係る反応相の割合が増えることを抑制することで、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを抑制できる。
【0040】
ただし、酸化ルテニウム粉末の比表面積径が過度に大きくなりすぎると、導電粒子である酸化ルテニウムの粒子同士の接触点が少なくなることから、導電経路が少なくなってノイズ等の電気的特性について十分な特性を得られない恐れがある。このため、比表面積径D2は114nm以下であることが好ましい。
【0041】
結晶子径D1と比表面積径D2の比D1/D2を0.70以上とすることで酸化ルテニウムの結晶性を高めることができる。ただし、D1/D2が1.00を超える場合は粗大粒子と微細な粒子が混在する。D1/D2を0.70以上1.00以下とすることで、係る酸化ルテニウムを含む厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを抑制できる。
【0042】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いられる酸化ルテニウム粉末としては、鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末を用いる。鉛成分を含まない酸化ルテニウム粉末とは、鉛を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
【0043】
次に、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いられる酸化ルテニウム粉末の製造方法の一構成例について説明する。
【0044】
なお、以下の酸化ルテニウム粉末の製造方法により、既述の酸化ルテニウム粉末を製造することができるため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0045】
酸化ルテニウム粉末の製造方法は特に限定されるものではなく、既述の酸化ルテニウム粉末を製造できる方法であれば良い。
【0046】
酸化ルテニウム粉末の製造方法としては、例えば湿式で合成された酸化ルテニウム水和物を熱処理することによって製造する方法が望ましい。係る製造方法では、その合成方法や熱処理の条件等によって比表面積径や結晶子径を変化させることができる。
【0047】
すなわち、酸化ルテニウム粉末の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
湿式法により酸化ルテニウム水和物を合成する酸化ルテニウム水和物生成工程。
溶液中の、酸化ルテニウム水和物を分離回収する酸化ルテニウム水和物回収工程。
酸化ルテニウム水和物を乾燥する乾燥工程。
酸化ルテニウム水和物を熱処理する熱処理工程。
【0048】
なお、従来一般的に用いられていた粒径の大きい酸化ルテニウムを製造した後、該酸化ルテニウムを粉砕する酸化ルテニウム粉末の製造方法は、粒径が小さくなりにくく、粒径のばらつきも大きいため本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いる酸化ルテニウム粉末の製造方法には適していない。
【0049】
酸化ルテニウム水和物生成工程において、酸化ルテニウム水和物を合成する方法は特に限定されないが、例えばルテニウム含有水溶液において、酸化ルテニウム水和物を析出、沈殿させる方法が挙げられる。具体的には、例えばK2RuO4水溶液にエタノールを加えて酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法や、RuCl3水溶液をKOH等で中和して酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法等が挙げられる。
【0050】
そして、上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程と、乾燥工程とで、酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、必要に応じて洗浄した後、乾燥することで酸化ルテニウム水和物の粉末を得ることができる。
【0051】
熱処理工程の条件は特に限定されないが、例えば酸化ルテニウム水和物粉末は、酸化雰囲気下で400℃以上の温度で熱処理することで結晶水がとれ、結晶性の高い酸化ルテニウム粉末とすることができる。ここで酸化雰囲気とは、酸素を10容積%以上含む気体であり、例えば空気を使用することができる。
【0052】
酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する際の温度は、上述のように400℃以上とすることで、特に結晶性に優れた酸化ルテニウム(RuO2)粉末を得ることができ好ましい。熱処理温度の上限値は特に限定されないが、過度に高温にすると得られる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径が大きくなり過ぎたり、ルテニウムが6価や8価の酸化物(RuO3やRuO4)となって揮発する割合が高くなる場合がある。このため、例えば1000℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0053】
特に、酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する温度は、500℃以上1000℃以下であることがより好ましい。
【0054】
既述のように、酸化ルテニウム水和物を製造する際の合成条件や、熱処理の条件等により、得られる酸化ルテニウム粉末の比表面積径や、結晶性を変化させることができる。このため、例えば予備試験等を行っておき、所望の結晶子径、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末が得られるように条件を選択することが好ましい。
【0055】
酸化ルテニウム粉末の製造方法は、上述の工程以外にも任意の工程を有することもできる。
【0056】
上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程で酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、乾燥工程で乾燥した後、熱処理工程の前に、得られた酸化ルテニウム水和物を機械的に解砕して、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を得ることもできる(解砕工程)。
【0057】
そして、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を、熱処理工程に供し、酸化雰囲気下、400℃以上の温度で熱処理されることで、上述の通り結晶水がとれ、酸化ルテニウム粉末の結晶性を高めることができる。上述のように解砕工程を実施することで、熱処理工程に供する酸化ルテニウム水和物粉末について、凝集の程度を抑制、低減することができる。そして、解砕した酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理することで熱処理による粗大粒子や連結粒子の生成を抑制することができる。このため、解砕工程での条件を選択することでも、所望の結晶子径や、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末を得ることができる。
【0058】
なお、解砕工程での解砕条件は特に限定されるものではなく、目的とする酸化ルテニウム粉末が得られるように、予備試験等を行い任意に選択できる。
【0059】
また、酸化ルテニウム粉末の製造方法は、熱処理工程後に、得られた酸化ルテニウム粉末を、分級することもできる(分級工程)。このように分級工程を実施することで、所望の比表面積径の酸化ルテニウム粉末を選択的に回収することができる。
(ガラス)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、鉛成分を含まないガラス(ガラス粉末)を含有することができる。なお、鉛成分を含まないガラスとは、鉛を意図して添加していないことを意味し、鉛の含有量が0であることを意味する。ただし、製造工程等で不純物成分、不可避成分として混入することを排除するものではない。
【0060】
鉛成分を含有しない抵抗体用組成物のガラスでは、骨格となるSiO2以外の金属酸化物を配合することによって焼成時の流動性を調整することができる。SiO2以外の金属酸化物としては、B2O3やRO(RはCa、Sr、Baから選択された1種類以上のアルカリ土類元素を示す)などが用いられる。
【0061】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有するガラスでは、ガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合にSiO2を10質量部以上50質量部以下、B2O3を8質量部以上30質量部以下、ROを40質量部以上65質量部以下の割合で含むことが好ましい。本発明の発明者の検討によれば、係る割合で各成分を含有するガラスを用いることで、厚膜抵抗体とした場合に抵抗温度係数をマイナスになりにくくすることができる。
【0062】
ガラス組成におけるSiO2、B2O3、ROの合計を100質量部とした場合に、SiO2の含有割合を50質量部以下とすることで流動性を十分に高めることができる。ただし、SiO2の含有割合が10質量部より小さいとガラスになり難くなる場合があるため、SiO2を10質量部以上50質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0063】
また、B2O3を8質量部以上とすることで、流動性を十分に高めることができ、30質量部以下とすることで耐候性を高めることができる。
【0064】
ROの含有割合を40質量部以上とすることで、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数がマイナスになることを十分に抑制できる。またROの含有割合を65質量部以下とすることで、結晶化を抑制し、ガラスを形成し易くすることができる。
【0065】
本発明の発明者の検討によれば、抵抗温度係数がマイナスになりにくい酸化ルテニウム粉末、あるいは抵抗温度係数がマイナスになりにくいガラスの単独では、抵抗温度係数が0に近い厚膜抵抗体を作ることが困難である。しかし、両者を組み合わせることによって、抵抗温度係数が0に近い厚膜抵抗体を作ることが可能となる。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物では、該厚膜抵抗体用組成物を用いた厚膜抵抗体について、従来は困難であった面積抵抗値が80kΩより高い抵抗域においても、抵抗温度係数を0に近くすることが可能であり、特に高い効果を発揮できる。
【0066】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれるガラスの組成は、既述のSiO2とB2O3とROに加えて、ガラスの耐候性や焼成時の流動性を調整する目的で他の成分を含有することもできる。任意の添加成分の例としては、Al2O3、ZrO2、TiO2、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等が挙げられ、これらの化合物から選択された1種類以上をガラスに添加することもできる。
【0067】
Al2O3はガラスの分相を抑制しやすく、ZrO2、TiO2はガラスの耐候性を向上させる働きがある。また、SnO2、ZnO、Li2O、Na2O、K2O等はガラスの流動性を高める働きがある。
【0068】
ガラスの焼成時の流動性に影響する尺度として軟化点がある。一般に、厚膜抵抗体を製造する際の、厚膜抵抗体用組成物を焼成する温度は800℃以上900℃以下である。
【0069】
このように、厚膜抵抗体を製造する際の厚膜抵抗体用組成物の焼成温度が800℃以上900℃以下の場合、本実施形態に係る厚膜抵抗体用組成物に用いるガラスの軟化点は、600℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。
【0070】
ここで、軟化点は、ガラスを示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で、10℃/minで昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度である。
【0071】
ガラスは、一般的に、所定の成分またはそれらの前駆体を目的とする配合にあわせて混合し、得られた混合物を溶融し急冷することによって製造できる。溶融温度は特に限定されるものではないが例えば1400℃前後とすることができる。また、急冷の方法についても特に限定されないが、溶融物を冷水中に入れるか冷ベルト上に流すことにより行うことができる。
【0072】
ガラスの粉砕にはボールミル、遊星ミル、ビーズミルなど用いることができるが、粒度をシャープにするには湿式粉砕が望ましい。
【0073】
ガラスの粒径も限定されないが、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定したガラスの50%体積累計粒度は5μm以下が好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。ガラスの粒度が大きすぎると厚膜抵抗体の抵抗値ばらつきの増大や負荷特性が低下する原因となる。一方、ガラスの粒度を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがあることから、ガラスの50%体積累計粒度は0.1μm以上が好ましい。
(厚膜抵抗体用組成物の組成について)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に含まれる酸化ルテニウム粉末と、ガラスとの混合比は特に限定されるものではない。例えば所望する抵抗値等によって、酸化ルテニウム粉末とガラスの混合比率を変更できる。酸化ルテニウム粉末の質量:ガラスの質量は、例えば5:95以上50:50以下とすることができる。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラスとのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0074】
これは、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末とガラスとの合計を100質量%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の割合を5質量%未満にすると、得られる厚膜抵抗体の抵抗値が高くなり過ぎて不安定となるおそれがあるからである。
【0075】
また、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する酸化ルテニウム粉末とガラスとの合計を100質量%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の割合を50質量%以下とすることで、得られる厚膜抵抗体の強度を十分に高くすることができ、脆くなることを特に確実に防ぐことができるからである。
【0076】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物中の酸化ルテニウム粉末と、ガラスとの混合割合は、酸化ルテニウム粉末の質量:ガラスの質量=5:95以上40:60以下の範囲であることがより好ましい。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラスとのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。
【0077】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラスとを主成分として含むことが好ましく、酸化ルテニウム粉末と、ガラスとのみから構成することもできる。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の酸化ルテニウム粉末とガラスとの混合粉末を、例えば80量%以上100質量%以下の割合で含有することが好ましく、85質量%以上100質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
【0078】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、必要に応じて任意の成分をさらに含有することもできる。
【0079】
本実施形態の抵抗体用組成物には、抵抗体の抵抗値や抵抗温度係数や負荷特性、トリミング性の改善、調整を目的として一般に使用される添加剤を加えても良い。代表的な添加剤としてはNb2O5、Ta2O5、TiO2、CuO、MnO2、ZrO2、Al2O3、SiO2、ZrSiO4等が挙げられる。これらの添加剤を加えることでより優れた特性を有する抵抗体を作成することができる。添加する量は目的によって調整されるが、酸化ルテニウム粉末とガラスの合計100質量部に対して20質量部以下とすることが好ましい。
【0080】
なお、これらの成分は添加しないこともできる。すなわち本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末と、ガラスとから構成することもできる。このため、酸化ルテニウム粉末とガラスの合計100質量部に対して、これらの添加剤は0以上となるように添加できる。
[厚膜抵抗体用ペースト]
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストの一構成例について説明する。
【0081】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルとを含むことができる。本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散した構成を有することが好ましい。
【0082】
上述のように、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、有機ビヒクルと呼ばれる樹脂成分を溶解した溶剤中に、既述の厚膜抵抗体用組成物を分散することで厚膜抵抗体用ペーストとすることができる。
【0083】
有機ビヒクルの樹脂や溶剤の種類、配合については特に限定されるものではない。有機ビヒクルの樹脂成分としては、例えばエチルセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン、マレイン酸エステル等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0084】
また、溶剤としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種類以上を用いることができる。なお、厚膜抵抗体用ペーストの乾燥を遅らせる目的で、沸点が高い溶剤を加えることもできる。また、必要に応じて、分散剤や可塑剤など加えることもできる。
【0085】
樹脂成分や、溶剤の配合比は、得られる厚膜抵抗体用ペーストに要求される粘度等に応じて調整することができる。厚膜抵抗体用組成物に対する有機ビヒクルの割合は、特に限定されないが、厚膜抵抗体用組成物を100質量部とした場合に、有機ビヒクルの割合を例えば20質量部以上200質量部以下とすることができる。
【0086】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストを製造する方法は特に限定されないが、例えばスリーロールミル(3本ロールミル)、遊星ミル、ビーズミル等から選択される1種類以上を用いて、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散させることもできる。また、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物をボールミルや擂潰(らいかい)機で混合してから、有機ビヒクル中に分散させることもできる。
【0087】
厚膜抵抗体用ペーストでは、無機原料粉末の凝集を解し、樹脂成分を溶解した溶剤、すなわち有機ビヒクル中に分散することが望ましい。一般に、粉末の粒径が小さくなると凝集が強くなり、二次粒子を形成し易くなる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストでは、二次粒子を解し、一次粒子に分散させることを容易にするために、脂肪酸等を分散剤として添加することもできる。
[厚膜抵抗体]
本実施形態の厚膜抵抗体の一構成例について説明する。
【0088】
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造することができる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物を含むことができ、既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラス成分とを含むことができる。
【0089】
なお、既述のように、厚膜抵抗体用組成物では、酸化ルテニウム粉末とガラスとのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。そして、本実施形態の厚膜抵抗体は、該厚膜抵抗体用組成物を用いて製造でき、得られる厚膜抵抗体内のガラス成分は、厚膜抵抗体用組成物のガラスに由来する。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は厚膜抵抗体用組成物と同様に、酸化ルテニウム粉末と、ガラス成分とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0090】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成して形成することができる。また、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成することもできる。
【実施例】
【0091】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実施例、比較例において、用いた酸化ルテニウム粉末の評価方法について説明する。
1.酸化ルテニウム粉末の評価
酸化ルテニウム粉末の形状・物性を評価するために、X線回折法による結晶子径の算出、およびBET法による比表面積径の算出を行った。
(1)結晶子径
結晶子径はX線回折パターンのピークの広がりより算出できる。ここではX線回折によって得られたルチル型構造のピークをKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正したKα1のピークの広がりとして半価幅を測定し、Scherrerの式より算出した。
【0092】
具体的には、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとした場合に、以下の式(2)として示したScherrerの式から結晶子径を算出した。
【0093】
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(2)
なお、式(2)中、KはScherrer定数であり、0.9を用いることができる。
(2)比表面積径
比表面積径は比表面積と密度より算出できる。比表面積は測定が簡単にできるBET1点法を用いた。比表面積径をD2(nm)、密度をρ(g/cm3)、比表面積をS(m2/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(3)に示す関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径を比表面積径とする。
【0094】
D2(nm)=6×103/(ρ・S) ・・・(3)
本実施形態では、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cm3とした。
2.ガラスの評価
ガラス粉末A~Hを用意し、後述する実施例、比較例において厚膜抵抗体用組成物等の作成を行った。
(50%体積累計粒度)
ガラス粉末はすべて50%体積累計粒度が1.3μm以上1.5μm以下となるようにボールミルにて粉砕した。ここで、50%体積累計粒度は、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定した。
(軟化点)
ガラス粉末の軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG-DTA)にて大気中で毎分10℃昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度とした。
3.厚膜抵抗体の評価
得られた厚膜抵抗体について、膜厚、面積抵抗値、25℃から-55℃までの抵抗温度係数(COLD-TCR)、25℃から125℃までの抵抗温度係数(HOT-TCR)を評価した。なお、表1中ではCOLD-TCRをC-TCR、HOT-TCRをH-TCRと記載している。
(1)膜厚
膜厚は、各実施例、比較例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、触針の厚さ粗さ計(東京精密社製 型番:サーフコム480B)により膜厚を測定し、測定した値を平均することで算出した。
(2)面積抵抗値
また、面積抵抗値は、各実施例、比較例において同様にして作製した25個の厚膜抵抗
体の抵抗値をデジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)で測定した値を平均することで、算出した。
(3)抵抗温度係数
抵抗温度係数の測定に当たっては、各実施例、比較例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、-55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してからそれぞれ抵抗値を測定し、-55℃での抵抗値をR-55、25℃での抵抗値をR25、125℃での抵抗値をR125とした。そして、以下の式(4)、式(5)によって、各厚膜抵抗体について、各温度域での抵抗温度係数を計算した。次いで、算出した各温度域での抵抗温度係数の5個の厚膜抵抗体の平均を計算し、各実施例、比較例で得られた厚膜抵抗体の各温度域での抵抗温度係数(COLD-TCR、HOT-TCR)とした。いずれも単位はppm/℃になる。抵抗温度係数は0に近いことが望ましく、抵抗温度係数≦±100ppm/℃であることが優れた抵抗体の目安とされている。
【0095】
COLD-TCR=(R-55-R25)/R25/(-80)×106 ・・・(4)
HOT-TCR=(R125-R25)/R25/(100)×106 ・・・(5)
[実施例1]
表1に示すように、酸化ルテニウム粉末aを18質量部と、ガラス粉末Aを82質量部とを混合し、厚膜抵抗体用組成物を調製した。なお、酸化ルテニウム粒子とガラス粉末との比率は得られる厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ100kΩとなるように調整した。また、酸化ルテニウム粉末aの特性、及びガラス粉末Aが含有する各成分については表2、表3にそれぞれ示す。
【0096】
そして、厚膜抵抗体用組成物100質量部と、有機ビヒクル43質量部とを、スリーロールミルにより混練し、有機ビヒクル中に厚膜抵抗体用組成物を分散させて厚膜抵抗体用ペーストを作製した。
【0097】
予めアルミナ基板に焼成して形成された、1質量%のPdと、99質量%のAgとを含む電極上に、作製した厚膜抵抗体用ペーストを印刷した。次いで、150℃で5分間乾燥させた後、ピーク温度850℃で9分間、昇温時間と降温時間を含めたトータル30分で焼成し厚膜抵抗体を形成した。なお、厚膜抵抗体のサイズは抵抗体幅が1.0mm、抵抗体長さ(電極間)が1.0mmとなるようにした。
【0098】
得られた厚膜抵抗体について評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例2~実施例12]
酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とについて表1に示したものを用い、表1に示した割合で混合して厚膜抵抗体用組成物を調製した点以外は実施例1と同様にして、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製した。
【0099】
なお、各酸化ルテニウム粉末の特性と、ガラス粉末が含有する各成分については表2、表3にそれぞれ示している。
【0100】
また、実施例11、12では、厚膜抵抗体用組成物を調製する際に、表1に示すように酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末以外にTiO2や、Nb2O5を添加している。
【0101】
得られた厚膜抵抗体の評価結果を表1に示す。
[比較例1~比較例9]
酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とについて表1に示したものを用い、表1に示した割合で混合して厚膜抵抗体用組成物を調製した点以外は実施例1と同様にして、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体を作製した。
【0102】
なお、各酸化ルテニウム粉末の特性と、ガラス粉末が含有する各成分については表2、表3にそれぞれ示している。
【0103】
得られた厚膜抵抗体の評価結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
【表3】
表1に示した結果によると、実施例2~実施例12は、抵抗温度係数が±100ppm/℃以内となっており、優れた抵抗体を得られることが確認できた。
【0107】
実施例1は抵抗温度係数のうち、H-TCRが100ppm/℃を超えているが、添加剤により抵抗温度係数をマイナスに調整することは容易である。例えば実施例11、12に示すように、実施例1の厚膜抵抗体用組成物にそれぞれTiO2、Nb2O5を添加することによって、抵抗温度係数が±100ppm/℃以内に調整できることを確認できた。
【0108】
一方、比較例1~比較例9では、抵抗温度係数が-100ppm/℃よりマイナスになることが確認できた。このため、TiO2、Nb2O5等の添加剤を添加しても±100ppm/℃には調整できない。
【0109】
以上の実施例、比較例から判るように、従来困難であった、鉛成分を含有しない酸化ルテニウム粉末とガラスとを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて、厚膜抵抗体の抵抗温度係数を±100ppm/℃以内に容易に調整でき、優れた厚膜抵抗体を形成できることを確認できた。