IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

特許7110728ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ
<>
  • 特許-ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ 図1
  • 特許-ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ 図2
  • 特許-ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ 図3
  • 特許-ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ 図4
  • 特許-ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20220726BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018100731
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019203590
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 俊郎
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第201521614(CN,U)
【文献】特開2016-094985(JP,A)
【文献】特開2006-226314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋状のねじ溝が形成されるナットに、該ねじ溝に接続されるボール戻し通路を有する循環こまを設置するボールねじ用ナットの製造方法であって、
前記ボール戻し通路が設けられる位置に形成される、径方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔の外径側に形成されたザグリ孔と、を有する前記ナットを準備する工程と、
前記貫通孔が開口する前記ナットの内周面に位置決め冶具を配置する工程と、
前記位置決め治具に前記循環こまを当接させ、前記貫通孔に挿入された前記循環こまを前記ナットに対して位置決めする工程と、
前記ザグリ孔および前記循環こまの外面に形成された凹溝に接着剤、又は硬化性樹脂を流し込んで硬化させて、前記循環こまを前記ナットに固着する工程と、
前記位置決め冶具を前記ナットから取り外す工程と、
を備えることを特徴とするボールねじ用ナットの製造方法。
【請求項2】
前記位置決め治具は、前記ナットのねじ溝の形状が写し取られたねじ溝嵌合部を、前記ねじ溝に嵌合させて、前記ナットの内周面に配置することを特徴とする請求項1に記載のボールねじ用ナットの製造方法。
【請求項3】
前記循環こまは、前記ボール戻し通路を、前記位置決め治具に形成された、前記ボール戻し通路の形状が写し取られたボール戻し通路嵌合部に嵌合させて、前記循環こまを位置決めすることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ用ナットの製造方法。
【請求項4】
前記ザグリ孔は、内側面に固定溝を備え、該固定溝内には、前記接着剤、又は硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のボールねじ用ナットの製造方法。
【請求項5】
前記硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、又は2液性のエポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のボールねじ用ナットの製造方法。
【請求項6】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、
対向する両ねじ溝により形成される転走路内に収容される複数のボールと、
前記ナットに取り付けられ、前記転走路の一端から他端へと循環させるためのボール戻し通路と、外面に形成された凹溝とを有する循環こまと、
を備えるボールねじであって、
前記ナットは、前記循環こまが配置される、径方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔の外径側に形成されたザグリ孔と、を有し、
前記循環こまは、前記ザグリ孔および前記循環こまの凹溝内の接着剤、又は硬化性樹脂により前記ナットに固着されることを特徴とするボールねじ。
【請求項7】
前記ザグリ孔は、内側面に固定溝を備え、該固定溝内には、前記接着剤、又は硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする請求項に記載のボールねじ。
【請求項8】
前記硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、又は2液性のエポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項6又は7に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内部に形成される無限循環路内を複数のボールが循環することで、回転運動を直線運動に変換する装置であり、工作機械、射出成形機、半導体製造装置などに広く用いられている。ボールねじのボールの循環方式としては、例えば、こま式、エンドキャップ方式、エンドデフレクタ方式などが挙げられる。
【0003】
こま式のボールねじでは、ボールがねじ軸の外径を乗り越えながら循環する。また、ボールねじのナットは、一般的に、金属や樹脂などを用いて製作され、ボール戻し通路を有するこまを、ナットに組み付けて接着剤などで固定してボールを循環させており、構造上、ナットの外径をコンパクトにできる。
【0004】
一方、こま式のボールねじでは、こまのボール戻し通路とナットのボール溝との境界部の段差が大きくなる場合があり、該段差をボールが通過するときに振動が発生したり、トルクが局所的に上昇するなどの問題が懸念されている。また、こまが接着材などで固定されるため、段差の調整や、こまの再組み付けなども困難である課題があった。
【0005】
特許文献1に記載の駒式ボールねじでは、ナットのねじ溝に接合する駒部材の両端部に別体の弾性部材からなる緩衝部材を装着し、ナットのねじ溝と駒部材のボール循環溝との接合部の段差をボールが通過することによって発生する騒音および振動を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-138179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているボールねじは、駒部材のボール循環溝とナットのボール溝との間に緩衝部材を挿入することで段差による悪影響の低減を図っているが、部品点数の増加に加えて、駒部材のボール循環溝とナットのボール溝との間の段差を根本的に解消できていない。また、緩衝部材の組み込みスペースが必要となり、ナット外径が大径化する可能性があり、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ボールがナットとこまとの間の境界部を通過する際に発生する振動や騒音を抑制することができる、ボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に螺旋状のねじ溝が形成されるナットに、該ねじ溝に接続されるボール戻し通路を有する循環こまを設置するボールねじ用ナットの製造方法であって、
前記ボール戻し通路が設けられる位置に形成される、径方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔の外径側に形成されたザグリ孔と、を有する前記ナットを準備する工程と、
前記貫通孔が開口する前記ナットの内周面に位置決め冶具を配置する工程と、
前記位置決め治具に前記循環こまを当接させ、前記貫通孔に挿入された前記循環こまを前記ナットに対して位置決めする工程と、
前記ザグリ孔に接着剤、又は硬化性樹脂を流し込んで硬化させて、前記循環こまを前記ナットに固着する工程と、
前記位置決め冶具を前記ナットから取り外す工程と、
を備えることを特徴とするボールねじ用ナットの製造方法。
(2) 前記位置決め治具は、前記ナットのねじ溝の形状が写し取られたねじ溝嵌合部を、前記ねじ溝に嵌合させて、前記ナットの内周面に配置することを特徴とする(1)に記載のボールねじ用ナットの製造方法。
(3) 前記循環こまは、前記ボール戻し通路を、前記位置決め治具に形成された、前記ボール戻し通路の形状が写し取られたボール戻し通路嵌合部に嵌合させて、前記循環こまを位置決めすることを特徴とする(1)又は(2)に記載のボールねじ用ナットの製造方法。
(4) 前記循環こまは、外面に凹溝を備え、該凹溝内には、前記接着剤、又は硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のボールねじ用ナットの製造方法。
(5) 前記ザグリ孔は、内側面に固定溝を備え、該固定溝内には、前記接着剤、又は硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のボールねじ用ナットの製造方法。
(6) 前記硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、又は2液性のエポキシ系樹脂であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のボールねじ用ナットの製造方法。
(7) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に螺旋状のねじ溝が形成されたナットと、
対向する両ねじ溝により形成される転走路内に収容される複数のボールと、
前記ナットに取り付けられ、前記転走路の一端から他端へと循環させるためのボール戻し通路を有する循環こまと、
を備えるボールねじであって、
前記ナットは、前記循環こまが配置される、径方向に貫通する貫通孔と、該貫通孔の外径側に形成されたザグリ孔と、を有し、
前記循環こまは、前記ザグリ孔内の接着剤、又は硬化性樹脂により前記ナットに固着されることを特徴とするボールねじ。
(8) 前記循環こまは、外面に凹溝を備え、該凹溝内には、前記接着剤、又は硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする(7)に記載のボールねじ。
(9) 前記ザグリ孔は、内側面に固定溝を備え、該固定溝内には、前記接着剤、又は硬化性樹脂が充填されていることを特徴とする(7)又は(8)に記載のボールねじ。
(10) 前記硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、又は2液性のエポキシ系樹脂であることを特徴とする(7)~(9)のいずれかに記載のボールねじ。
【発明の効果】
【0010】
本発明のボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじによれば、ナットは、ナットのボール戻し通路が設けられる位置に、径方向に貫通する貫通孔とザグリ孔とを形成し、ナットの内周面に配置した位置決め冶具に循環こまを当接させて貫通孔に挿入された循環こまをナットに対して位置決めし、ザグリ孔に接着剤、又は硬化性樹脂を流し込んで硬化させて循環こまをナットに固着した後、位置決め冶具をナットから取り外して製作される。したがって、ナットのねじ溝と循環こまのボール戻し通路との間の境界部を段差なく形成することができ、これによりボールがナットと循環こまとの間の境界部を通過する際に発生する振動や騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係るボールねじの斜視図である。
図2図1のボールねじの製造手順を示す説明図である。
図3】第2実施形態のボールねじのナットの斜視図である。
図4】(a)は第1変形例のボールねじのナットの斜視図、(b)は第2変形例のボールねじのナットの斜視図である。
図5】(a)は第3変形例のボールねじのナットの斜視図、(b)は第4変形例のボールねじのナットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る各実施形態のボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじを図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態の内部循環方式のボールねじ1は、工作機械や産業機械等の搬送や精密位置決めに用いられるものであり、特に、金型加工などの高精度の加工に用いられる高精度工作機械に好適に用いられる。
【0014】
このボールねじ1は、ねじ軸10と、ナット20と、複数のボール30と、複数の循環こま40と、を備えて構成されている。ねじ軸10は、中心軸CLを中心とした円筒形状に形成され、その外周面に所定のリードを有する螺旋状の第1ねじ溝11が形成されている。
【0015】
ナット20は、略円筒状をなし、その内径はねじ軸10の外径よりも大きく形成されており、ねじ軸10に所定の隙間をもって外嵌している。ナット20の一端部には、案内対象と結合するためのフランジ25が設けられている。ナット20の内周面には、ねじ軸10の第1ねじ溝11と等しいリードを有し、第1ねじ溝11と対向する第2ねじ溝21が形成されている。そして、ねじ軸10の第1ねじ溝11とナット20の第2ねじ溝21とによって断面略円形状の不図示の転動路が形成されている。この転動路内に複数のボール30が転動可能に充填配置されている。
【0016】
また、ナット20の内周面には、ボール30を手前の転動路に戻すための複数の循環こま40が装着されている。各循環こま40は、最大外径が後述する円形の貫通孔23の内径に対応するように、略円柱状に形成されている。各循環こま40の内面には、転動路の一端と一巻き手前の転動路の他端とを連結する略S字型のボール戻し通路42が形成されている。このボール戻し通路42により、各循環こま40に向かって転動路を転がってくるボール30をねじ軸10の径方向にすくい上げ、さらに、ねじ軸10のねじ山12を乗り越えさせ、一巻き手前(一リード手前)の転動路に戻すことでボール30を循環可能にしている。
【0017】
そして、このボール戻し通路42及び転動路によってねじ軸10の外側に略円環状の不図示の無限循環路が形成される。これにより、ナット20に対するねじ軸10の相対的な回転に伴って、複数のボール30が無限循環路内を無限循環することによって、ナット20とねじ軸10とがねじ軸10の軸方向に相対的に直線運動することが可能となる。
【0018】
次に、第2ねじ溝21とボール戻し通路42を備えるナット20の製造方法について、図2を参照して説明する。本実施形態のナット20の製造方法は、ボール戻し通路42が形成された循環こま40を、位置決め冶具50を用いてナット20に位置決めした後、循環こま40を接着剤や硬化性樹脂61でナット20に固着して、第2ねじ溝21とボール戻し通路42との境界部が段差なくつながるように、ナット20に設置する方法である。
【0019】
図2(a)に示すように、まず、位置決め冶具50をナット20の内側に挿入する。ナット20には、上述したように、フランジ25を有するナット20の内周面に第2ねじ溝21が形成され、また、ボール戻し通路42が形成される位置に径方向に貫通する貫通孔23と、該貫通孔23の外径側に形成されたザグリ孔24とが形成されている。図2(a)に示す実施形態では、貫通孔23は丸孔であり、ザグリ孔24は、貫通孔23の外径以上の幅を持った対向面を有し、貫通孔23より大きな長円形孔である。
【0020】
位置決め冶具50は、ナット20の第2ねじ溝21に対して循環こま40のボール戻し通路42を位置決めするための半円柱状の位置決め部51と、位置決め冶具50を操作するために該位置決め部51から延設された把持部54とを備えて軸状に形成される。
【0021】
位置決め部51には、第2ねじ溝21の形状が写し取られた形状のねじ溝嵌合部52と、循環こま40のボール戻し通路42の形状が写し取られた形状のボール戻し通路嵌合部53と、が設けられている。
また、ボール戻し通路嵌合部53以外の貫通孔23に対応する円形の周辺部分55は、循環こま40のボール戻し通路42以外の内面に対応して形成されている。
【0022】
位置決め冶具50の位置決め部51は、貫通孔23周辺の内周面形状に対応して形成されており、ナット20の第2ねじ溝21の内径より小さい。これにより、位置決め部51は、ナット20に形成された第2ねじ溝21の内径側で軸方向及び径方向に移動可能である。なお、本実施形態の位置決め部51の形状は、貫通孔23周辺の内周面形状が対応するものであれば、これに限らず、半円柱状よりも小さくても良いし、或いは、円柱状であってもよい。
【0023】
次いで、略S字型のボール戻し通路42を有する略円柱状の循環こま40を、ナット20の貫通孔23に嵌合する。循環こま40は、貫通孔23内をナット20の径方向に移動可能で、また、その外面には、環状の凹溝43が形成されている。凹溝43は、循環こま40を貫通孔23に嵌合させたとき、凹溝43がザグリ孔24内に露出する位置に形成されることが望ましい。
【0024】
そして、位置決め冶具50の位置決め部51をナット20の第2ねじ溝21の内側に挿入し、さらに径方向に移動させて、位置決め部51のねじ溝嵌合部52を第2ねじ溝21に嵌合させると共に、位置決め部51のボール戻し通路嵌合部53に循環こま40のボール戻し通路42を嵌合させて循環こま40を位置決めする。
【0025】
このように、位置決め冶具50のねじ溝嵌合部52及びボール戻し通路嵌合部53を、それぞれナット20の第2ねじ溝21及び循環こま40のボール戻し通路42に密着させて嵌合することで、ナット20の第2ねじ溝21と循環こま40のボール戻し通路42との間の境界部が段差なく滑らかに接続される。このとき、循環こま40の凹溝43は、貫通孔23からザグリ孔24内に突出する。
【0026】
次いで、図2(b)に示すように、予め容器60内に準備した接着剤、或いは硬化性樹脂61をザグリ孔24内に流し込み、硬化させる。そして、接着剤、或いは硬化性樹脂61が十分に硬化した後、ナット20から位置決め冶具50を取り外すことで、第2ねじ溝21とボール戻し通路42との境界部に段差のない、滑らかに接続された転動路を有するナット20が製作される。
【0027】
接着剤、或いは硬化性樹脂61は、循環こま40の凹溝43にも充填されて硬化するので、循環こま40が、接着力による固着だけでなく、機械的にもナット20に強固に固着できる。これにより、循環こま40は、合成樹脂製以外に、金属製の循環こま40や、接着が困難であるポリアセタール製の循環こま40であっても、ナット20に確実に固着することが可能となる。
【0028】
なお、硬化性樹脂61としては、強度や成形性の観点からエポキシ樹脂や2液性のエポキシ樹脂とするのが好ましい。
【0029】
以上説明したように、本実施形態のボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじによれば、ナット20は、ナット20のボール戻し通路42が設けられる位置に、径方向に貫通する貫通孔23とザグリ孔24とを形成し、ナット20の内周面に配置した位置決め冶具50に循環こま40を当接させて、貫通孔23に挿入された循環こま40をナット20に対して位置決めし、ザグリ孔24に接着剤、又は硬化性樹脂61を流し込んで硬化させて循環こま40をナット20に固着した後、位置決め冶具50をナット20から取り外して製作される。したがって、ナット20のねじ溝21と循環こま40のボール戻し通路42との間の境界部を段差なく滑らかに接続することができ、これによりボール30がナット20と循環こま40との間の境界部を通過する際に発生する振動、騒音、トルクの局所的な上昇を抑制することができる。
【0030】
また、位置決め治具50は、ナット20の第2ねじ溝21の形状が写し取られたねじ溝嵌合部52を第2ねじ溝21に嵌合させて、ナット20の内周面に配置するので、ナット20に対する位置決め治具50の位置精度が向上する。
【0031】
また、循環こま40は、ボール戻し通路42を、位置決め治具50に形成されたボール戻し通路嵌合部53に嵌合させて位置決めするので、ナット20に対して循環こま40の位置を精度よく位置決めできる。
【0032】
また、循環こま40は、外面に凹溝43を備え、凹溝43内に接着剤、又は硬化性樹脂61が充填されているので、循環こま40を強固にナット20に固着できる。
【0033】
さらに、硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、又は2液性のエポキシ系樹脂であるので、循環こま40をより強固にナット20に固着できる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法及びボールねじについて、図3を参照して説明する。第2実施形態では、ザグリ孔24の内側面に固定溝26が形成されている点において第1実施形態のナット20と異なる。その他の部分については、位置決め冶具50も含めて、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0035】
第2実施形態では、固定溝26がザグリ孔24の対向する平坦な両側面に長手方向に沿って一対(図では、一方のみ図示)形成されている。そして、本実施形態の製造方法においても、凹溝43が貫通孔23から突出した状態で、循環こま40の周囲のザグリ孔24内に接着剤、或いは硬化性樹脂61を流し込んで硬化させる。接着剤、或いは硬化性樹脂61は、循環こま40の凹溝43、及びザグリ孔24の固定溝26に充填されて硬化するので、循環こま40がより強固にナット20に固着されて、貫通孔23からのこま外れを防止できる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態と同様である。
【0036】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、ザグリ孔24を長円形としているが、図4(a)に示す変形例のように、ザグリ孔24Aは、貫通孔23と同軸で、貫通孔23より大きな円形であってもよい。また、図4(b)に示す変形例のように、円形のザグリ孔24Aの場合にも、ザグリ孔24Aの側面に、周方向に沿って、180度位相間隔で一対の固定溝26(図では、一方のみ図示)が形成されてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、貫通孔23を円形、ザグリ孔24を長円形としているが、図5(a)に示す変形例のように、貫通孔23Aが、ナット20の中心軸CLに対して傾斜する、換言すれば、ボール戻し通路42の軸方向に長軸を有する長孔とし、ザグリ孔24Aを円形としてもよい。また、この場合も、図5(b)に示す変形例のように、ザグリ孔24Aの側面に一対の固定溝26が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 ボールねじ
10 ねじ軸
11 第1ねじ溝(ねじ溝)
20 ナット(ボールねじ用ナット)
21 第2ねじ溝(ねじ溝)
23,23A 貫通孔
24,24A ザグリ孔
30 ボール
40 循環こま
42 ボール戻し通路
43 凹溝
50 位置決め冶具
52 ねじ溝嵌合部
53 ボール戻し通路嵌合部
61 硬化性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5