(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】熱伝導性グリース
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20220726BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20220726BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
H01L23/36 M
H01L23/36 D
(21)【出願番号】P 2018120891
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 智
(72)【発明者】
【氏名】木部 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】菅本 憲明
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280516(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175001(WO,A1)
【文献】特開2008-222776(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168868(WO,A1)
【文献】特表2012-520923(JP,A)
【文献】特開平03-084096(JP,A)
【文献】特開2004-269789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 50/10
C09K 5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機粉末充填剤 85質量%以上97質量%以下、
(B)基油 2質量%以上14質量%以下、
(C)分散剤 0.001質量%以上1質量%以下、及び
(D)
前記(A)無機粉末充填剤とは異なる層状粘土鉱物、を含有し、
前記層状粘土鉱物はベントナイトであり、
前記(D)
層状粘土鉱物は、前記(B)基油100質量%に対して5質量%以上55質量%以下であり、
ISO22007-3に基づいて測定された熱伝導率が5.0W/mK以上であり、
せん断速度が6(1/sec)のときの
室温時でのせん断粘度が350Pa・s以上650Pa・s以下である
熱伝導性グリース。
【請求項2】
(E)消泡剤をさらに含有し、
前記(E)消泡剤は、前記(B)基油100質量%に対して0.001質量%以上0.1質量%以下である、
請求項1に記載の熱伝導性グリース。
【請求項3】
前記(A)無機粉末充填剤は、銅、アルミニウム、銀、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、
請求項1又は2に記載の熱伝導性グリース。
【請求項4】
前記(B)基油は、鉱油、合成炭化水素油、ジエステル、ポリオールエステル、芳香族系エステル及びフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、
請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導性グリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有する熱伝導性グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPUやインバーター、コンバーター等の電源制御用のパワー半導体のように、使用中に発熱を伴う部品が存在する。これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるために、発生した熱をヒートシンク等の放熱部品や冷却装置等へ伝導させ放熱する方法が用いられている。
【0003】
このような方法において、熱伝導性グリースは、半導体部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され、半導体部品から発生した熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。近年、これら半導体部品を用いる電子機器の性能向上や小型化・高密度実装化に伴い、発熱密度及び発熱量が増大しており、放熱対策に用いられる熱伝導性グリースにはより高い熱伝導性が求められている。
【0004】
熱伝導性グリースは、液状炭化水素やシリコーンオイルやフッ素油等の基油に、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物や、アルミニウムや銅等の金属粉末等、熱伝導率の高い充填剤が多量に分散されたグリース状組成物である。例えば、特許文献1には特定の表面改質剤を配合したものが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、グリースにおいては、液体の潤滑油(基油又はベースオイル)に増ちょう剤と呼ばれる微細な固体を分散させることにより、該グリースを半固体状にして、ちょう度を向上させ、グリースの塗布性を向上させることが知られている。
【0007】
また、熱伝導性グリースの熱伝導率は、一般に、熱伝導性グリースに含有される充填剤の量が多いほど高くなる。ところが、熱伝導性グリースに含有される充填剤の量が多すぎるとちょう度が低下し、十分な塗布性が得られなくなる。
【0008】
本発明は、このような状況を鑑み、高い熱伝導性と優れた塗布性を有する熱伝導性グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、増ちょう剤として層状化合物を用いて、且つ熱伝導性グリースにおける無機粉末充填剤と層状化合物との含有割合を特定の範囲とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第1の発明は、(A)無機粉末充填剤85質量%以上97質量%以下、(B)基油2質量%以上14質量%以下、(C)分散剤0.001質量%以上1質量%以下、及び(D)層状化合物、を含有し、前記(D)層状化合物は、前記(B)基油100質量%に対して5質量%以上55質量%以下であり、ISO22007-3に基づいて測定された熱伝導率が5.0W/mK以上であり、せん断速度が6(1/sec)のときのせん断粘度が350Pa・s以上650Pa・s以下である、熱伝導性グリースである。
【0011】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、(E)消泡剤をさらに含有し、前記(E)消泡剤は、前記(B)基油100質量%に対して0.001質量%以上0.1質量%以下である、熱伝導性グリースである。
【0012】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記(A)無機粉末充填剤は、銅、アルミニウム、銀、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、熱伝導性グリースである。
【0013】
本発明の第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、前記(B)基油が、鉱油、合成炭化水素油、ジエステル、ポリオールエステル、芳香族系エステル及びフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、熱伝導性グリースである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い熱伝導性と優れた塗布性を有する熱伝導性グリースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「~」との表記は、「以上」「以下」を意味し、「X:Y~A:B」との表記は「X:Y」及び「A:B」そのものを含み、「X:Y」と「A:B」との間の範囲を意味する。
【0016】
≪1.熱伝導性グリース≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリース(以下、単に「グリース」ともいう)は、無機粉末充填剤を85質量%以上97質量%以下、基油を2質量%以上14質量%以下、分散剤を0.001質量%以上1質量%以下、そして層状化合物、を含有する。
【0017】
この熱伝導性グリースにおいて、層状化合物は、基油100質量%に対して5質量%以上55質量%以下の割合で含有されており、ISO22007-3に基づいて測定された熱伝導率が5.0W/mK以上であり、せん断速度が6(1/sec)のときのせん断粘度が350Pa・s以上650Pa・s以下である。
【0018】
[各成分について]
(A)無機粉末充填剤
無機粉末充填剤は、グリースに含有されることにより、そのグリースに高い熱伝導性を付与する。本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤と、後述する層状化合物との含有割合を特定の範囲とすることで、高い熱伝導性と優れた塗布性を有する熱伝導性グリースとなる。
【0019】
無機粉末充填剤は、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されず、例えば、金属酸化物、無機窒化物、金属(合金も含む)、ケイ素化合物、カーボン材料などの粉末が挙げられる。無機粉末充填剤の種類は、1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
より具体的に、金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を挙げることができる。無機窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等を挙げることができる。金属としては、銅、アルミニウム、銀等を挙げることができる。ケイ素化合物としては炭化ケイ素、シリカ等を挙げることができる。カーボン材料としては、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を挙げることができる。
【0021】
無機粉末充填剤としては、電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンドなどの、半導体やセラミックなどの非導電性物質の粉末が好ましく、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムの粉末が特に好ましい。
【0022】
上記の無機粉末充填剤のなかでも高い熱伝導性を有するという観点から、銅、アルミニウム、銀、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び炭化ケイ素からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。また、金属粉末や炭素材料粉末を上記の非導電性物質の粉末と組み合わせて用いることもできる。
【0023】
また、無機粉末充填剤としては、細粒のみを用いる場合は平均粒径0.15μm以上3μm以下の無機粉末を用いることが好ましい。平均粒径を0.15μm以上とすることで、無機粉末充填剤の表面積に対する液体成分(基油等)の割合のバランスがよく、より高いちょう度を得ることができる。一方、(A)無機粉末充填剤の平均粒径を3μm以下とすることで、最密充填をしやすくなり、より高い熱伝導率とすることができ、また基油の離油をより効果的に抑制することができる。
【0024】
ここで、細粒とは、平均粒径が3μm未満の粉末を意味し、後述する粗粒とは、平均粒径が3μm以上の粉末を意味する。
【0025】
また、細粒と粗粒を組み合わせる場合には、上記の細粒と、平均粒径5μm以上50μm以下の粗粒の無機粉末を組み合わせることができる。この場合には、粗粒の平均粒径を50μm以下とすることで塗膜を薄くし、実装時の放熱性能を一層高めることができる。一方、粗粒の平均粒径は5μm以上とすることでより高い熱伝導率を得やすくできる。
【0026】
細粒と粗粒の組み合わせとする場合、粗粒としては、平均粒径の異なる2種類以上の粉末の組み合わせとすることもできる。この場合にも、熱伝導性グリースの実装時における熱伝導率の観点から、それぞれの粗粒の平均粒径は5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0027】
細粒と粗粒を組み合わせる場合、その質量比(細粒:粗粒)は、20:80~85:15の範囲で混合するのが好ましい。また、粗粒を2種類以上組み合わせる場合には、粗粒同士の質量比は特に限定されないが、この場合にも細粒の質量比を、無機粉末充填剤のうち20%以上85%以下の範囲とすることが好ましい。細粒と粗粒の質量比を上記範囲とすることで、無機粉末充填剤の表面積と液体成分(基油等)の量のバランスから、高いちょう度を得ることができる。また、粗粒と細粒のバランスが最密充填に適しており、基油の離油をより効果的に抑制することができる。
【0028】
無機粉末充填剤のグリース中における含有量は、グリース100質量%に対して85質量%以上97質量%以下である。無機粉末充填剤の含有割合が大きいほど、熱伝導性に優れ、グリース100質量%に対して90質量%以上96質量%以下であることがより好ましい。含有割合が85質量%未満では、熱伝導性グリースの熱伝導性が低くなり、また離油を生じて基油が滲み出す可能性がある。一方、無機粉末充填剤の含有量が98質量%を超えると、熱伝導性グリースのちょう度が低くなり十分な塗布性を保てなくなり、熱伝導性グリースを調製できなくなることがある。
【0029】
(B)基油
基油は、グリースに含有されることにより、熱伝導性グリースに潤滑性を付与する。
【0030】
基油としては、種々の基油が使用でき、例えば鉱油、合成炭化水素油、ジエステル、ポリオールエステル、芳香族系エステル、フェニルエーテル等などが挙げられる。
【0031】
鉱油としては、例えば、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化などの精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油などを用いることができる。基油に用いられる鉱油は、高度に水素化精製された高粘度指数基油が好ましい。
【0032】
合成炭化水素油としては、例えば、エチレンやプロピレン、ブテン、及びこれらの誘導体などを原料として製造されたアルファオレフィンを、単独又は2種以上混合して重合したものが挙げられる。アルファオレフィンとしては、炭素数6以上14以下のものが好ましく挙げられる。
【0033】
合成炭化水素油の具体例としては、1-デセンや1-ドデセンのオリゴマーであるポリアルファオレフィン(PAO)や、1-ブテンやイソブチレンのオリゴマーであるポリブテン、エチレンやプロピレンとアルファオレフィンのコオリゴマー等が挙げられる。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0034】
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4以上36以下の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4以上26以下の一価アルコール残基が好ましい。
【0035】
ポリオールエステルとしては、従来から高温用潤滑油の基油として用いられてきたものを用いることができる。特に、ポリオールエステルのアルコール成分がジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン又はネオペンチルグリコールであるものが好適に用いられる。
【0036】
ポリオールエステルの酸成分は、特に限定されないが、潤滑油の粘度が所望の範囲になるように適宜選択できる。酸成分としては、炭素数7以上10以下の直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸などが使用でき、分岐鎖状の脂肪酸がより好適に用いられる。具体的には、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2-エチルペンタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチル-2-メチルブタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2,2-ジメチルへキサン酸、2-エチル-2-メチルヘプタン酸、2-メチルオクタン酸、2,2-ジメチルヘプタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸等を挙げることができる。特に、3,5,5-トリメチルヘキサン酸が耐熱性に優れているため好ましい。
【0037】
芳香族系エステルについては、その芳香族カルボン酸成分として、フタル酸、4-t-ブチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、4,4’-チオビス安息香酸などの芳香族カルボン酸、又はその無水物及びその芳香族カルボン酸とメタノール、エタノール等の炭素数1以上4以下の低級アルコールエステルが例示される。これらの芳香族カルボン酸成分の中では、特に、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸が推奨される。また、チェーン用潤滑油として非常に厳しい高温条件で使用される場合には、高粘度で蒸発損失の少ないエステルを提供するトリメリット酸、トリメシン酸、又はピロメリット酸を用いることが好ましい。
【0038】
芳香族系エステルを構成するアルコール成分としては、炭素数4以上18以下の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を有する脂肪族一価アルコールが好ましい。具体的には、3,5,5-トリメチルヘキサノール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、n-ヘキサノール、イソヘキサノール、n-ヘプタノール、イソヘプタノール、n-オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、n-ノナノール、イソノナノール、n-デカノール、イソデカノール、n-ウンデカノール、イソウンデカノール、n-ドデカノール、イソドデカノール、n-トリデカノール、イソトリデカノール、n-テトラデカノール、イソテトラデカノール、n-ペンタデカノール、イソペンタデカノール,n-デキサデカノール、イソヘキサデカノール、n-オクタデカノール、イソオクタデカノール等が例示させる。また、これらのアルコールの代わりに、その酢酸エステル等の低級アルキルエステルを用いることも可能である。これらの一価アルコールの中では、特に2-エチルヘキサノール及び3,5,5-トリメチルヘキサノールを用いることが好ましい。
【0039】
好ましい芳香族エステルとしては、フタル酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、イソフタル酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、トリメシン酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、イソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)、トリメシン酸トリ(2-エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ(2-エチルヘキシル)があり、この中でも特にトリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)及びトリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)が好ましい。
【0040】
フェニルエーテルとしては、モノアルキル化ジフェニルエーテル、ジアルキル化ジフェニルエーテルなどのアルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテルなどのアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキル化ペンタフェニルエーテル、ジアルキル化ペンタフェニルエーテルなどのアルキル化ペンタフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
基油のグリース中における含有量は、熱伝導性グリース100質量%に対して2質量%以上14質量%以下である。熱伝導性グリース100質量%に対して2質量%未満であると熱伝導性グリースに潤滑性を付与することが困難となることがある。熱伝導性グリース100質量%に対して14質量%超であると、相対的に無機粉末充填剤の含有量が低下し、熱伝導性グリースの熱伝導性が低下することがある。
【0042】
上記の基油の中でも固化し難く、蒸発損失が小さく、高温安定性に優れることから、ポリオールエステルと芳香族系エステルを用いることが好ましい。基油としてポリオールエステルと芳香族系エステルを用いる場合には、基油中におけるポリオールエステル及び芳香族系エステルの含有量は、基油100質量%に対してポリオールエステルは69質量%以上85質量%以下が好ましく、芳香族系エステルは5質量%以上20質量%以下が好ましい。ポリオールエステルの含有量が69質量%より少ないとスラッジ量が増加し、85質量%を超えると芳香族系エステルを十分に組み合わせることができなくなることがある。また、芳香族系エステルの含有量が5質量%よりも少ない場合、望ましい初期耐蒸発性が得られなくなることがある。また、芳香族系エステルの含有量が20質量%よりも多くなると、スラッジ量が多くなることがある。
【0043】
(C)分散剤
分散剤は、熱伝導性グリース内の固体成分(例えば、無機粉末充填剤や層状化合物)を分散させるための成分である。
【0044】
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、熱伝導性グリース100質量%に対して分散剤を0.001質量%以上1質量%以下の割合で含有する。分散剤の含有量が0.001質量%未満であると、良好な分散安定性を得ることが困難になりグリース化できないことがある。一方、分散剤の含有量が1質量%を超えても、分散効果としては飽和し含有量に見合った効果が得られない。また、分散剤の含有量が1質量%を超えると、熱伝導性グリースのちょう度が低下するおそれがある。
【0045】
分散剤としては、上述した無機充填剤粉末と後述の層状化合物とを基油中に分散させることが可能なものであれば特に限定されず、例えば高分子系分散剤が挙げられる。このような高分子系分散剤としては、塩基性高分子系分散剤、酸性高分子系分散剤、中性高分子系分散剤等が挙げられる。また、高分子系分散剤を構成する高分子化合物の主骨格として、アクリル系、ポリリン酸エステル系、ポリエステル系(但し、ポリリン酸エステル系を除く。以下同じ。)、ポリエーテル系、ウレタン系、シリコーン系等の構造を有するものを使用することができる。
【0046】
具体的に、高分子系分散剤としては、Disperbyk(登録商標)-101、102、103、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190(以上、ビックケミー社製);EFKA(登録商標)4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4400、4401、4402、4403、4406、4408、4300、4330、4340、4015、4800、5010、5065、5066、5070、7500、7554(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);SOLSPERSE(登録商標)-3000、9000、13000、16000、17000、18000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、32500、32550、33500、35100、35200、36000、36600、38500、41000、41090、20000(以上、ルーブリゾール社製);アジスパー(登録商標)PA-111、PB711、PB821、PB822、PB824(味の素ファインテクノ社製)等が市販されており、好適に用いることができる。
【0047】
分散剤のグリース中における含有量としては、上述したとおり、熱伝導性グリース100質量%に対して0.001質量%以上1質量%以下とし、0.005質量%以上0.8質量%以下であることが好ましく、0.011質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
(D)層状化合物
層状化合物とは、主に層状粘土鉱物である板状結晶又は板状形態の化合物である。本発明者らの研究により無機粉末充填剤と層状化合物との含有割合を特定の範囲とした熱伝導性グリースであれば、高い熱伝導性と優れた塗布性を有する熱伝導性グリースであることが見出された。
【0049】
具体的に、層状化合物としては、ベントナイト、マイカ、カオリン等の層状粘土鉱物を例示することができる。その中でも特に、ベントナイトを用いることが好ましい。特にベントナイトは、グリースのちょう度を向上させる増ちょう剤として作用して熱伝導性グリースの塗布性を向上させることができるとともに、熱伝導性をより向上させることができる。
【0050】
また、層状化合物としては、基油に混合させ分散させることから、有機処理されたものであることが好ましい。有機修飾させるための化合物としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等のアミン塩が挙げられる。
【0051】
層状化合物の含有量は、基油100質量%に対して5質量%以上55質量%以下である。層状化合物の含有量が5質量%以上であることにより、熱伝導率を高めることができるとともに、ちょう度を適切に調整でき塗布性を向上させることができる。
【0052】
また、層状化合物の含有量は、基油100質量%に対して10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、層状化合物の含有量は、基油100質量%に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
(E)消泡剤
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、さらに消泡剤を含有させることができる。消泡剤とは、グリースの製造過程中に混入した気泡を除去するための成分である。熱伝導性グリースにおいて、消泡剤を含有させることにより、熱伝導性をより効果的に向上させることができる。
【0054】
具体的に、消泡剤としては、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンオイルを挙げることができる。
【0055】
また、消泡剤の含有量は、基油100質量%に対して0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましい。消泡剤物の含有量が0.001質量%以上であることにより、気泡をより効果的に除去することができ、熱伝導性を向上させることができる。なお、消泡剤の含有量の上限値は、特に制限はないが、基油への溶解の観点から基油100質量%に対して1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
(F)その他の成分
本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、必要に応じて、上記の(A)~(E)の各成分の他の成分(その他の成分)を含有してもよい。その他の成分としては、防錆剤、腐食防止剤、増粘剤、極圧剤等を挙げることができる。
【0057】
防錆剤としては、スルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩等の化合物を用いることができる。腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール及びその誘導体等の化合物、チアジアゾール系化合物を用いることができる。増粘剤としては、ポリブテン、ポリメタクリレート、石油ワックス、ポリエチレンワックス、等が挙げられる。
【0058】
極圧剤としては、リン系極圧剤やホウ素含有極圧剤を挙げることができる。リン系極圧剤としては、アミンC11以上14以下の側鎖アルキル、モノヘキシル及びジヘキシルフォスフェート混合物などを挙げることができる。ホウ素含有極圧剤としては、ホウ素含有アミン、4ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、遷移金属の安定ホウ酸塩、ホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。ホウ素含有極圧剤は、ホウ素元素を含有してなる。
【0059】
その中でも、本実施の形態に係る熱伝導性グリースにおいては、ホウ素含有極圧剤を含有させることにより、熱伝導性グリースを長期間使用しても流動性を維持することができ、塗布性をより一層に高めることができる。グリース中の基油は、長期間使用することによって酸化し、あるいは重合することにより重合物等の不純物が発生することがある。そして、基油に由来するその不純物同士が凝集することでグリースが増粘し、流動性が低下する。このとき、ホウ素含有極圧剤を含有する熱伝導性グリースであれば、基油に由来する不純物をグリース中に分散させ可溶化させることが可能となり、グリースの増粘を抑制することができる。
【0060】
ホウ素含有極圧剤のグリース中における含有量は、グリース100質量%に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。また、グリース100質量%に対して5.5質量%以下であることが好ましく、5.2質量%以下であることがより好ましく5.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0061】
ホウ素含有極圧剤の含有量に関して、無機粉末充填剤100質量%に対する含有量としては、0.02質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。また、無機粉末充填剤100質量%に対して、0.30質量%以下であることが好ましく、0.29質量%以下であることがより好ましく、0.26質量%以下であることが特に好ましい。ホウ素含有極圧剤の含有量が、無機粉末充填剤100質量%に対して0.02質量%以上0.30質量%以下であることにより、熱伝導性グリースの流動性をより効果的に維持することができる。
【0062】
なお、ホウ素含有極圧剤は、酸化防止剤と併用してもよい。熱伝導性及びちょう度を高く維持しながら、熱安定性を高めることができる。また、耐湿性を高め、高湿環境における劣化を抑制することもできる。
【0063】
[グリースの性状について]
本実施の形態に係る熱伝導性グリースのちょう度としては特に限定されないが、通常の環境における使用の観点から、200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましく、300以上であることが更に好ましく、330以上であることが特に好ましい。熱伝導性グリースのちょう度は、熱伝導性グリースの塗布性、拡がり性、付着性、離油を抑制する等の観点から250以上400以下であることがより好ましく、300以上400以下であることがさらに好ましく、330以上400以下であることが特に好ましい。
【0064】
特に、本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、増ちょう剤として層状化合物を用い、且つグリース中において特定の割合で無機粉末充填剤と層状化合物とが含有されている。これにより、熱伝導性グリースの熱伝導率が5.0W/mK以上となり、更にせん断速度が6(1/sec)のときのせん断粘度が350Pa・s以上650Pa・s以下になることを可能にした。
【0065】
これは、層状化合物は、グリースの塗布性を向上させる増ちょう剤としての機能を有すると同時に無機粉末充填剤と同様にグリースに高い熱伝導性を付与するためであると考えられる。無機粉末充填剤と層状化合物との含有割合を特定の範囲とすることにより、熱伝導性グリースに高い熱伝導性と優れた塗布性を同時に付与することができる。
【0066】
≪2.熱伝導性グリースの製造方法≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、各成分を混合することにより製造する。製造方法としては、均一に成分を混合できれば特に限定されず、一般的なグリースの製造方法を採用することができる。
【0067】
具体的に、製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、グリース状にした後、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法を用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
≪実施例1、2及び比較例1、2≫
[試薬]
実施例及び比較例に用いた各成分について以下に示す。
(A)無機粉末充填剤
酸化亜鉛:平均粒径0.6μm(表1中「酸化亜鉛1」と表記。)
酸化亜鉛:平均粒径11μm(表1中「酸化亜鉛2」と表記。)
なお、各無機粉末充填剤の平均粒径は、粒子径分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)を用いてレーザー回折散乱法にて測定した。
(B)基油
ジペンタエリスリトールイソノナン酸エステル(表1中「基油1」と表記。)
トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)エステル(表1中「基油2」と表記。)
トリメリット酸トリ(3,5,5-トリメチルヘキシル)エステル(表1中「基油3」と表記。)
(C)分散剤
高級脂肪酸エステル
(D1)層状化合物
有機処理ベントナイト
(D2)増ちょう剤
ステアリン酸Li
(E)消泡剤
シリコーンオイル
(F)酸化防止剤
p,p’-ジオクチルジフェニルアミン(表1中「アミン系」と表記)
(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸n-ノニル(表1中「フェノール系」と表記)
ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド(表1中「チオエーテル系」と表記)
【0070】
[熱伝導性グリースの調製]
下記表に示す含有割合となるように、(B)基油に、(C)分散剤と、(F)酸化防止剤と、(D)層状化合物と、(E)消泡剤とを溶解した後、(A)無機粉末充填剤とともに自公転ミキサーで撹拌し、実施例、比較例の熱伝導性グリースを調製した。
【0071】
[評価]
実施例及び比較例の熱伝導性グリースについて、以下の手順にしたがい、グリース化の可否、粘度、熱伝導率を評価した。
(グリース化の可否)
グリース化の可否は、上記により製造した熱伝導性グリースを目視で確認をし、グリース化の可否を確認した。グリース化できた場合を「可」とし、グリース化できなかった場合を「不可」とした。
【0072】
(せん断粘度)
上記により製造した熱伝導性グリース(グリース)を粘度計(Anton Parr社製 Physixa MCR501)を用いて室温にてせん断速度が6(1/sec)ときのせん断粘度を測定した。
【0073】
(熱伝導率)
上記により製造した熱伝導性グリース(グリース)を京都電子工業社製迅速熱伝導率計QTM-500を用いて室温にて測定した。
【0074】
[結果]
下記表1に、各実施例及び比較例の熱伝導性グリースの組成と評価結果を示す。
【0075】
【表1】
(表1中の成分(A)~(F)の成分量は、熱伝導性グリース(グリース)100質量%に対する「質量%」を意味する。)
【0076】
表より、層状化合物であるベントナイトを含有させ、その層状化合物と無機粉末充填剤とを所定の割合で含有させた実施例1及び2のグリースでは、高い熱伝導性を有するとともに、せん断粘度も維持されて優れた塗布性を有するものであった。
【0077】
一方、層状化合物の代わりにステアリン酸Liを含有させた比較例1、層状化合物や増ちょう剤を含まない比較例2のグリースでは、熱伝導率については実施例の熱伝導性グリースとほぼ同等であったものの、せん断粘度が高くなってしまい、塗布性が損なわれた。