(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】動吸振装置、構造体および構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220726BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220726BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/02 S
E04H9/02 351
E04B1/98 K
(21)【出願番号】P 2018147785
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100168321
【氏名又は名称】山本 敦
(72)【発明者】
【氏名】永松 英夫
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-044153(JP,U)
【文献】特開平05-156613(JP,A)
【文献】特開2016-191298(JP,A)
【文献】特開2017-125519(JP,A)
【文献】特開2018-003449(JP,A)
【文献】特開2001-234972(JP,A)
【文献】特開2008-064129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02-15/08
E04H 9/02
E04B 1/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動吸振装置であって、
被拘束部と、前記被拘束部から厚み方向と直交する面方向に延びる変形部と、を有する板と、
前記板の前記被拘束部を厚み方向に挟むことによって前記変形部が厚み方向に弾性変形可能となるように前記被拘束部を厚み方向に拘束する拘束機構と、を備え、
前記拘束機構は、
前記被拘束部を挟持する挟持面をそれぞれ有し、前記板に固定される第1の固定部および第2の固定部と、
前記第1の固定部に前記厚み方向の外側から接した状態で、前記第1の固定部に対して前記面方向への移動を規制
し、かつ着脱可能に係合する
第1の係合部と、
前記第2の固定部に、前記第1の係合部の反対側の前記厚み方向の外側から接した状態で、前記第2の固定部に対して前記面方向への移動を規制し、かつ着脱可能に係合する第2の係合部と、
前記
第1の係合部から前記面方向に延びて前記変形部の厚み方向の変位を許容するスペースを空けた状態で前記変形部を厚み方向に覆う第1の被覆壁と、
前記第2の係合部から前記面方向に延びて前記変形部の厚み方向の変位を許容するスペースを空けた状態で前記変形部を前記第1の被覆壁の反対側から前記厚み方向に覆う第2の被覆壁と、
前記第1の被覆壁と前記第2の被覆壁とを連結するとともに、前記板に対して前記面方向にスペースを空けた状態で前記板を取り囲む周壁と、を有
し、
前記第1の被覆壁は、前記周壁に対して着脱可能である、動吸振装置。
【請求項2】
前記動吸振装置は、前記厚み方向に並んで設けられた複数の前記板を有し、
前記拘束機構は、前記複数の板のそれぞれの前記変形部の厚み方向への変位を許容するスペースを空けて前記複数の板の間に設けられる少なくとも一つの補助固定部を、さらに有し、
前記補助固定部は、前記第1の固定部、前記第2の固定部または他の前記補助固定部との間で前記板の前記被拘束部を厚み方向に挟持する、請求項1に記載の動吸振装置。
【請求項3】
前記第1の被覆壁は、前記第1の固定部を前記厚み方向に押さえつけた状態で前記周壁に取り付けられている、前記請求項1または2に記載の動吸振装置。
【請求項4】
前記変形部は、金属板と、前記金属板の厚さ方向に向く面のうち少なくとも一方に設けられた粘弾性部材と、を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の動吸振装置。
【請求項5】
構造体であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の動吸振装置と、
前記動吸振装置が埋設されたコンクリートと、を備える構造体。
【請求項6】
構造体の製造方法であって、
所定の形状の型枠を準備する工程と、
前記型枠の内部に、請求項1~4のいずれか1項に記載の動吸振装置が仮止めされた配筋を配置する工程と、
前記配筋が配置された型枠の内部にコンクリートを流し込む工程と、を有する、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振装置、ならびに動吸振装置を備える構造体および構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル、マンションまたは住宅等の建造物において、床、ダクト等の構造物で発生した振動を抑える目的で、構造物の外面に動吸振装置(ダイナミックダンパー)を取り付けることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、空調ダクト内を流通する流体に起因する空調ダクトの振動を低減する制振ユニットが開示されている。特許文献1に記載の制振ユニットは、箱状のハウジングと、ハウジングに収容されている円盤状の鉄板からなるマスと、マスの周縁近傍においてマスとハウジングとの間に介在するゴム製の弾性部材を備える。
【0004】
制振ユニットは、マスと弾性部材とがハウジングに収容されているため容易にダクトの外面に取り付けることができ、取り付けられたダクトの振動に応じて弾性部材に支持されたマスが振動することにより、特定の振動数のダクトの振動を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の制振ユニットでは、低減可能な振動数を調整するために、マスの厚さ方向に垂直な面方向の大きさを変化させることが考えられる。
【0007】
しかし、例えば低振動数の振動を低減するためマスの大きさを面方向に一定以上大きくした場合には、マスの振動時にマス自体が厚み方向に撓む等の変形を生じることがある。この場合、マスの大きさのみならずマスの撓み等にも起因して低減可能な振動数が変動するため、低減可能な振動数の調整が困難となる。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、構造物に容易に取り付けることができるとともに、低減可能な振動数を容易に調整することができる動吸振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
【0010】
本発明の一局面に係る動吸振装置は、被拘束部と、前記被拘束部から厚み方向と直交する面方向に延びる変形部と、を有する板と、前記板の前記被拘束部を厚み方向に挟むことによって前記変形部が厚み方向に弾性変形可能となるように前記被拘束部を厚み方向に拘束する拘束機構と、を備え、前記拘束機構は、前記被拘束部を挟持する挟持面をそれぞれ有し、前記板に固定される第1の固定部および第2の固定部と、前記第1の固定部に前記厚み方向の外側から接した状態で、前記第1の固定部に対して前記面方向への移動を規制し、かつ着脱可能に係合する第1の係合部と、前記第2の固定部に、前記第1の係合部の反対側の前記厚み方向の外側から接した状態で、前記第2の固定部に対して前記面方向への移動を規制し、かつ着脱可能に係合する第2の係合部と、前記第1の係合部から前記面方向に延びて前記変形部の厚み方向の変位を許容するスペースを空けた状態で前記変形部を厚み方向に覆う第1の被覆壁と、前記第2の係合部から前記面方向に延びて前記変形部の厚み方向の変位を許容するスペースを空けた状態で前記変形部を前記第1の被覆壁の反対側から前記厚み方向に覆う第2の被覆壁と、前記第1の被覆壁と前記第2の被覆壁とを連結するとともに、前記板に対して前記面方向にスペースを空けた状態で前記板を取り囲む周壁と、を有し、前記第1の被覆壁は、前記周壁に対して着脱可能である。
【0011】
上記の動吸振装置では、拘束機構が板を覆っており、構造物と拘束機構とが接した状態で、構造物に拘束機構を取り付ける。このように取り付けられた状態で、振動低減の対象である構造物で発生した振動が拘束機構を介して板に伝達され、板の変形部が構造物と異なる位相で振動することにより、構造物の振動が低減される。上記の動吸振装置では、第1の被覆壁、第2の被覆壁および周壁が、スペースを空けた状態で板を覆い、または取り囲んでおり、第1,第2の被覆壁の少なくとも一方を振動低減の対象である構造物に取り付ければ構造物の振動を低減することができるため、容易に構造物に取り付けることができる。
【0012】
また、変形部は、厚み方向への弾性変形を動作の前提としており、低減可能な振動数は変形部の面方向の大きさのみに起因して変動する。そのため、変形部の面方向の大きさを調整することにより、低減可能な振動数を容易に調整することができる。
【0013】
また、第1の固定部は、第1の被覆壁および周壁を介して第2の被覆壁とつながっており、第2の固定部は、第2の被覆壁および周壁を介して第1の被覆壁とつながっている。そのため、例えば第1の被覆壁を構造物に接するように動吸振装置を配置した場合には、構造物の振動は、第1の被覆壁から第1の固定部を介して板に伝達するだけでなく、第1の被覆壁から周壁、第2の被覆壁および第2の固定部を介しても板に伝達する。第2の被覆壁を構造物に接するように動吸振装置を配置した場合も同様に、第2の固定部からだけでなく、第1の固定部からも構造物の振動が板に伝達する。そのため、効率よく構造物の振動を低減することができる。
【0014】
第1の係合部は、第1の固定部に厚み方向の外側から接した状態で、第1の固定部に対して面方向への移動を規制するため、構造物の厚み方向の振動は、第1の固定部を介して板に効率よく伝達する。
【0015】
上記の動吸振装置は、第2の被覆壁と周壁とで構成される空間に、第2の固定部と板と拘束部材とを収容し、その後、第1の係合部および第1の被覆壁を取り付けるという、比較的単純な工程で作製することができる。
【0016】
上記の動吸振装置は、前記厚み方向に並んで設けられた複数の前記板を有し、前記拘束機構は、前記複数の板のそれぞれの前記変形部の厚み方向への変位を許容するスペースを空けて前記複数の板の間に設けられる少なくとも一つの補助固定部を、さらに有し、前記補助固定部は、前記第1の固定部、前記第2の固定部または他の前記補助固定部との間で前記板の前記被拘束部を厚み方向に挟持してもよい。
【0019】
上記の動吸振装置において、前記第1の被覆壁は、前記第1の固定部を前記厚み方向に押さえつけた状態で前記周壁に取り付けられていてもよい。
【0020】
この態様では、押さえつける力が板にも及ぶため、構造物の振動は板により効率よく伝達する。
【0021】
上記の動吸振装置において、前記変形部は、金属板と、前記金属板の厚さ方向に向く面のうち少なくとも一方に設けられた粘弾性部材と、を有していてもよい。
【0022】
この態様では、金属板が構造物と異なる位相で振動するとともに、粘弾性部材で発生するせん断応力によりこの振動が減衰する。そのため、より効率よく構造物の振動を低減することができる。
【0023】
本発明の他の局面に係る構造体は、上記の動吸振装置と、前記動吸振装置が埋設されたコンクリートと、を備える。
【0024】
上記の構造体では、動吸振装置が埋設されているため、振動の低減のために構造体に改めて動吸振装置を設ける必要がなく、構造体を用いて構成される建造物の空間を有効に利用できるとともに、動吸振装置を備える構造体の製造工程を簡素化することができる。
【0025】
本発明の他の局面に係る構造体の製造方法は、上記の動吸振装置が仮止めされた配筋を配置する工程と、前記配筋が配置された型枠の内部にコンクリートを流し込む工程と、を有する。
【0026】
上記の構造体の製造方法では、配筋に動吸振装置が仮止めされているため、配筋によって構造体の強度を向上させることができるだけでなく、所定の位置に動吸振装置が配置された構造体を容易に得ることができ、所望の振動低減効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、構造物に容易に取り付けることができるとともに、低減可能な振動数を容易に調整することができる動吸振装置を提供することができる。また、この動吸振装置を備える構造体、およびこの構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る動吸振装置の蓋体を外した状態の平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る動吸振装置の
図1のII-II線での概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る動吸振装置の
図1のIII-III線での断面図である。
【
図4】
図4は、箱体から取り出された状態の第1および第2制振材、拘束部材ならびに補助拘束部材の斜視図である。
【
図5】
図5は、第1および第2制振材、拘束部材ならびに補助拘束部材の分解斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の別の実施形態に係る動吸振装置の構造を示す断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の別の実施形態に係る動吸振装置の構造を示す断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の別の実施形態に係る動吸振装置の構造を示す断面図である。
【
図10】
図10(a)は、本発明の一実施形態に係る構造体の平面図および底面図であり、
図10(b)はその側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る動吸振装置について図面に基づいて説明する。
【0030】
[動吸振装置の構成]
図1は、本実施形態に係る動吸振装置の蓋体を外した状態の平面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る動吸振装置の
図1のII-II線に沿った断面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る動吸振装置の
図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4は、箱体から取り出された状態の第1および第2制振材、拘束部材ならびに補助拘束部材の斜視図である。
図5は、第1および第2制振材、拘束部材ならびに補助拘束部材の分解斜視図である。
図6は、制振板の分解斜視図である。
【0031】
以下の説明では、
図1の右方向を+X方向、左方向を-X方向、上方向を+Y方向、下方向を-Y方向とし、
図1の紙面と直交する方向で、紙面手前方向を+Z方向、紙面奥行き方向を-Z方向として説明する。また、+X方向および-X方向を総称してX方向、+Y方向および-Y方向を総称してY方向、+Z方向および-Z方向を総称してZ方向という。X方向とY方向とZ方向とはそれぞれ直交する。
【0032】
動吸振装置1は、建造物を構成する壁、床、ダクト等の構造物に設けられ、当該構造物で発生した振動を低減するためのものである。
【0033】
動吸振装置1は、長方形状の板材からなる第1および第2制振板(板)20,21と、第1および第2制振板20,21を収容するとともに第1および第2制振板20,21の一部を拘束する拘束機構40とを有する。
【0034】
拘束機構40は、拘束部材(第1,第2の固定部)51,53と、第1および第2ボルト41,42と、締付部材3と、箱体80と、補助拘束部材52と、を有する。
【0035】
締付部材3は、第1および第2ボルト41,42の+Z方向側に配置される第1ナット3Aおよび第1ワッシャー3Bと、-Z方向側に配置される第2ナット3Cおよび第2ワッシャー3Dと、を有する。
【0036】
動吸振装置1は、制振力向上のために第1および第2制振板20,21による二重構造を採用したダイナミックダンパーである。
【0037】
図5に示すように、第1制振板20は、拘束部材51と補助拘束部材52とにより挟まれた第1支点領域(被拘束部)25と、第1支点領域25を支点として厚み方向に弾性変形可能な第1変形部(変形部)22と、を有している。第1支点領域25は、第1制振板20のX方向略中央において一端部23から他端部24までY方向に沿って設けられている。第1変形部22は、拘束部材51と補助拘束部材52とから面方向(X方向)に延びた部分であり、第1支点領域25の両側に設けられている。
【0038】
第1支点領域25は、第1ボルト41が固定される第1支持部位25Aと、第2ボルト42が固定される第2支持部位25Bと、を含む。第2支持部位25Bは、Y方向において第1支持部位25Aから離れた位置に設けられている。
【0039】
第2制振板21は、拘束部材53と補助拘束部材52とにより挟まれた第2支点領域(被拘束部)26と、第2支点領域26を支点として厚み方向に弾性変形可能な第2変形部(変形部)27と、を有している。第2支点領域26は、第1支点領域25の下側(-Z方向側)に位置し、第2制振板21の略中央においてY方向に沿って設けられている。第2変形部27は、拘束部材53(第2の固定部)と補助拘束部材52とから面方向に延びた部分であり、第2支点領域26の両側に設けられている。
【0040】
第2支点領域26は、第1支持部位26Aと、第2支持部位26Bと、を含む。第1支持部位26Aは、第1ボルト41が固定される部分であり、第1支持部位25Aの下側に位置している。第2支持部位26Bは、第2ボルト42が固定される部分であり、第2支持部位25Bの下側に位置している。第2支持部位26Bは、Y方向において第1支持部位26Aから離れた位置に設けられている。
【0041】
図6に示すように、第1制振板20は、長方形状を有する金属板31と、金属板31と略同じ大きさの長方形状を有し、金属板31上に配置された粘弾性部材32と、を有している。金属板31は、板バネ用鋼板からなり、厚み方向の一方側(+Z方向側)を向く第1面31Aと、厚み方向の他方側(-Z方向側)を向く第2面31Bと、を含む。金属板31には、複数(2つ)の貫通穴31CがY方向に間隔を空けて形成されている。これらの貫通穴31Cは、第1および第2ボルト41,42を挿入可能な直径を有し、第1および第2支持部位25A,25B(
図5)において形成されている。
【0042】
粘弾性部材32は、好ましい材料としては、例えば粘弾性を有する樹脂と高比重材料の混合物などが挙げられる。上記粘弾性を有する樹脂としては、例えばウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂、アスファルトなどの石油由来材料、ゴムなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。また上記高比重材料としては、鉄粉、タングステン粉等の金属粉、スラグ、砂などが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0043】
特に好ましい材料としては、例えば、アスファルトと鉄粉とを混合したアスファルト制振材が挙げられる。粘弾性部材32には、動吸振装置1の重りの役割を行えるように、比重の重いリサイクル鉄粉が用いられる。粘弾性部材32は、金属板31の第1面31A上に配置され、その厚みが金属板31よりも大きくなっている。
【0044】
粘弾性部材32には、厚み方向に貫通する複数(2つ)の穴部32AがY方向に間隔を空けて形成されている。これらの穴部32Aは、金属板31の貫通穴31Cと厚み方向に重なる位置に形成されている。穴部32Aの直径は、貫通穴31Cの直径よりも大きくなっている。このため、第1面31Aには、貫通穴31Cと穴部32Aとの直径差により露出部分33が形成されている。粘弾性部材32は、第1面31Aの露出部分33以外の全体に設けられている。
【0045】
第1制振板20は、スペーサ61,63をさらに有する。
図6に示すように、スペーサ61,63は、穴部32Aと略同径の円筒形状を有し、穴部32A内に配置されている。スペーサ61,63は、クリープの小さい鉄などの金属板からなる。スペーサ61,63の厚みは、粘弾性部材32の厚みと同等でもよく、それよりも厚くてもよい。以下ではスペーサ61,63の厚みと、粘弾性部材32の厚みとが同等である場合について説明する。
【0046】
スペーサ61,63は、厚み方向の一端面(-Z方向側の端面)である第1スペーサ面61B,63Bと、厚み方向の他端面(+Z方向側の端面)である第2スペーサ面61C,63Cと、を含む。スペーサ61,63は、穴部32A内に配置された状態で、第1スペーサ面61B,63Bにおいて第1面31Aの露出部分33に接触する。スペーサ61,63の中心には、第1および第2ボルト41,42を挿入可能な貫通穴61A,63Aが形成されている。
【0047】
第2制振板21は、第1制振板20と同様に、金属板71上に粘弾性部材72が配置された構成を有し、さらにスペーサ62,64を有しており、その詳細な構造の説明は省略する。
【0048】
次に、拘束機構40について説明する。
【0049】
拘束機構40は、第1および第2制振板20,21の第1および第2支点領域25,26を厚み方向に挟むことによって、第1および第2変形部22,27が厚み方向(Z方向)に弾性変形可能となるように、第1および第2支点領域25,26を厚み方向に拘束する。
【0050】
第1,第2の固定部を構成する拘束部材51,53は、第1および第2支点領域25,26の間に補助拘束部材52を介在させた状態で、第1および第2支点領域25,26を挟持し、第1および第2制振板20,21に固定される。拘束部材51,53は、スペーサ61,63と同様に、クリープの小さい鉄などの金属板からなる。
【0051】
拘束部材51は、Y方向に延びる第1平板部51Aと、第1平板部51Aの-X方向側の端部から+Z方向に延びる第2平板部51Bと、第1平板部51Aの+X方向側の端部から+Z方向に延びる第3平板部51Cと、を有する。拘束部材53は、Y方向に延びる第1平板部53Aと、第1平板部53Aの-X方向側の端部から-Z方向に延びる第2平板部53Bと、第1平板部53Aの+X方向側の端部から-Z方向に延びる第3平板部53Cと、を有する。第1平板部51A,53Aには、それぞれ第1および第2ボルト41,42を挿入可能な複数(2つ)の挿入穴51D,53Dが形成されている。
【0052】
拘束部材51は、粘弾性部材32側において第1支点領域25における第2スペーサ面61C,63Cおよび粘弾性部材32に接触する。また、拘束部材53は、金属板71側において第2支点領域26における金属板71の第2面に接触する。拘束部材51,53は、第1平板部51Aの-Z方向側の面(挟持面)および第1平板部53Aの+Z方向側の面(挟持面)で、それぞれ補助拘束部材52を介して第1および第2支点領域25,26を厚み方向に挟持する。
【0053】
補助拘束部材52は、第1および第2変形部22,27の互いの変形を許容するスペースを空けて第1および第2制振板20,21の間に設けられる。補助拘束部材52は、Y方向に延びる中実の四角柱形状を有し、鉄などの金属板からなる。補助拘束部材52には、第1および第2ボルト41,42を挿入可能な挿入穴52Aが形成されている。
【0054】
補助拘束部材52は金属板31側において第1支点領域25における金属板31の第2面に接触し、粘弾性部材72側において第2支点領域26におけるスペーサ62,64の-Z方向側の端面62C,64Cおよび粘弾性部材72に接触する。補助拘束部材52は、拘束部材51との間で第1支点領域25を挟持し、拘束部材53との間で第2支点領域26を挟持する。
【0055】
Z方向から見て、第1および第2制振板20,21の、拘束部材51,53および補助拘束部材52の外側に位置する部分が第1および第2変形部22,27である。補助拘束部材52は、拘束部材51側から伝わった外部の振動を第2制振板21に伝え、拘束部材53側から伝わった外部の振動を第1制振板20に伝える。
【0056】
拘束部材51,53と補助拘束部材52とは、拘束部材51の挿入穴51Dと、スペーサ61,63の貫通穴61A,63Aと、補助拘束部材52の挿入穴52Aと、スペーサ62,64の貫通穴62A,64Aと、拘束部材53の挿入穴53DとがZ方向に重なるように位置決めされている。
【0057】
拘束部材51,53と補助拘束部材52とは、いずれもX方向およびY方向において同等の長さを有する。拘束部材51,53および補助拘束部材52のY方向の長さは、第1および第2制振板20,21のY方向の長さよりも長い。拘束部材51,52,53のY方向側の両端部は、いずれも第1および第2制振板20,21の外縁の外側に位置し、Y方向の位置を揃えて配置される。
【0058】
図3に示すように、拘束部材51,53は、補助拘束部材52を介し、第1ボルト41、第1ナット3A、第1ワッシャー3B、第2ナット3Cおよび第2ワッシャー3Dにより、ならびに第2ボルト42、第1ナット3A、第1ワッシャー3B、第2ナット3Cおよび第2ワッシャー3Dにより、第1および第2制振板20,21を挟持する。
【0059】
第1ボルト41は、拘束部材51から拘束部材53まで、スペーサ61、金属板31、補助拘束部材52、スペーサ62、および金属板71を通じてZ方向に延びている。また、第2ボルト42は、拘束部材51から拘束部材53まで、スペーサ63、金属板31、補助拘束部材52、スペーサ64、および金属板71を通じてZ方向に延びている。
【0060】
第1および第2ボルト41,42の両端部には、ネジ部が形成されており、拘束部材51の、第1平板部51Aから上方に突出する端部には、それぞれ第1ナット3Aおよび第1ワッシャー3B、ならびに第1ナット3Aおよび第1ワッシャー3Bが締結され、拘束部材53の第1平板部53Aから下方に突出する端部には第2ナット3Cおよび第2ワッシャー3D、ならびに第2ナット3Cおよび第2ワッシャー3Dが締結されている。
【0061】
第1ナット3Aおよび第2ナット3Cによる締付力は、拘束部材51、スペーサ61,63、金属板31、補助拘束部材52、スペーサ62,64、金属板71、拘束部材53に生じる。この締付力が生じた状態で拘束部材51,53が補助拘束部材52を介して第1および第2支点領域25,26を厚み方向に挟むことによって、第1および第2変形部22,27が厚み方向に弾性変形可能となるように、第1および第2支点領域25,26が厚み方向に拘束される。このとき、スペーサ61,63の面方向側の部分である粘弾性部材32、およびスペーサ62,64の面方向側の部分である粘弾性部材72には、締付力が伝わらない。
【0062】
箱体80は、第1および第2ボルト41,42ならびに締付部材3によって締結された、第1および第2制振板20,21、拘束部材51,53ならびに補助拘束部材52を収容する。以下では箱体80にこれらを収容した状態について説明する。
【0063】
箱体80は、拘束部材51,53からそれぞれX方向に延びて第1および第2変形部22,27の厚み方向の変位を許容するスペースを空けた状態で第1および第2制振板20,21を厚み方向(Z方向)に覆う天板(第1の被覆壁)85および底板(第2の被覆壁)83を有する。さらに、箱体80は、天板85と底板83とを連結するとともに、第1および第2制振板20,21に対して面方向(X方向およびY方向)にスペースを空けた状態で第1および第2制振板20,21を取り囲む周壁84を有する。箱体80は、鉄などの金属板からなる。
【0064】
具体的には、箱体80は、底板83と周壁84とを有し、+Z方向に開口を有する箱本体81と、天板85と嵌合部86とを有し、箱本体81に対して開口を塞ぐように配置される蓋体82との2つの部材を備える。
【0065】
周壁84は、底板83の外周縁に設けられ、X方向に垂直な面を有する右側壁84aおよび左側壁84bと、Y方向に垂直な面を有する前側壁(係合部)84cおよび後側壁(係合部)84dと、を有する。前側壁84cと後側壁84dとの間隔は、拘束部材51,53および補助拘束部材52のY方向の長さと略同一である。そのため、箱体80に収容された拘束部材51,53および補助拘束部材52と、前側壁84cおよび後側壁84dと、が係合(接触)する。
【0066】
嵌合部86は、天板85の外周縁に設けられ、箱本体81の周壁84のZ方向側の端部に嵌合する。嵌合部86と周壁84には複数箇所にねじ穴が設けられており、このねじ穴にボルト80aを螺合することにより、箱本体81と蓋体82とを固定することができる。
【0067】
箱本体81と蓋体82とが固定された状態では、天板85と底板83とは周壁84で連結された状態となる。このとき、蓋体82は、箱体80の内部に収容される拘束部材51を厚み方向(-Z方向)に押さえつけた状態で周壁84に取り付けられる。
【0068】
底板83および天板85は、それぞれX方向の中央近傍において内面にZ方向に突出しY方向に延びる一対の突出部(係合部)88,89を有する。突出部88,89は、それぞれ間に拘束部材53,51が入り込むことができるX方向の間隔を空けて設けられている。突出部88,89のX方向の間隔は、それぞれ拘束部材53,51のX方向の幅と略同一であり、突出部88,89にはそれぞれ拘束部材53,51が係合する。突出部88,89は、箱体80と同じ金属板からなるものとすることができ、溶接等によってそれぞれ天板85および底板83に接続される。
【0069】
動吸振装置1では、突出部89、前側壁84cおよび後側壁84dと、拘束部材51とが接触する。また、突出部88、前側壁84cおよび後側壁84dと、拘束部材53とが接触する。さらに、前側壁84cおよび後側壁84dと補助拘束部材52とが接触する。そのため、第1および第2制振板20,21、拘束部材51,53ならびに補助拘束部材52のX方向およびY方向への移動が規制される。
【0070】
また、動吸振装置1では、拘束部材51の第2平板部51Bおよび第3平板部51Cの+Z方向側の端部が箱体80の天板(係合部)85の内面に押さえつけられた状態で接触し、拘束部材53の第2平板部53Bおよび第3平板部53Cの-Z方向側の端部が箱体80の底板(係合部)83の内面に接触する。そのため、第1および第2制振板20,21ならびに拘束部材51,53および補助拘束部材52のZ方向への移動が規制される。また、天板85または底板83に接する構造物において発生した振動、特にZ方向の振動が、天板85または底板83から拘束部材51,53等を介して第1および第2制振板20,21に伝達される。
【0071】
次に、構造物で発生した振動を動吸振装置1により低減する仕組みについて説明する。ここでは、動吸振装置1の箱体80の天板85が構造物に接して配置された場合について説明する。
【0072】
構造物において振動が発生すると、当該振動は天板85等を含む拘束機構40を介して第1および第2制振板20,21に伝達される。これにより、第1および第2変形部22,27が厚み方向に弾性変形し、構造物と異なる位相で振動する。この弾性変形に起因して、粘弾性部材32,72において金属板31,71との間に面内方向に作用するせん断応力が発生し、これにより振動が減衰する。このように、第1および第2変形部22,27を金属板31,71と粘弾性部材32,72とを有するものとすることにより、動吸振装置1により構造物で発生した振動が効率よく低減される。
【0073】
上記動吸振装置1では、構造物の振動は、天板85および拘束部材51を介して第1制振板20に伝達し、さらに第2制振板21に伝達するだけでなく、天板85、周壁84、底板83および拘束部材53を介しても第2制振板21に伝達し、さらに第1制振板20に伝達する。そのため、第1および第2制振板20,21のいずれにも構造物の振動が十分に伝達され、構造物の振動と異なる位相で振動し、構造物で発生した振動をさらに効率よく低減することができる。
【0074】
このような本実施形態の動吸振装置1は、以下の工程を採用することにより、比較的単純な工程で作製することができる。最初に、拘束部材51、第1制振板20、補助拘束部材52、第2制振板21および拘束部材53を第1および第2ボルト41,42ならびに締付部材3で固定する。これを箱本体81内に配置し、突出部88と拘束部材53とを係合させる。さらに、箱本体81の開口を塞ぐように蓋体82を配置して、拘束部材51と突出部89、前側壁84c、後側壁84dおよび天板85とを接触させ、天板85で拘束部材51を厚み方向(-Z方向)に押さえつけた状態で、ボルト80aで蓋体82を箱本体81に固定することにより、動吸振装置1が完成する。
【0075】
天板85および底板83は、第1および第2変形部22,27の厚み方向への変位を許容するスペースを空けた状態で、第1および第2制振板20,21を厚み方向に覆い、周壁84は、第1および第2制振板20,21に対して面方向にスペースを空けた状態で、第1および第2制振板20,21を取り囲む。これにより、天板85および底板85の少なくとも一方を振動低減の対象である構造物に取り付ければ構造物の振動を低減することができるため、容易に構造物に取り付けることができる。
【0076】
また、第1変形部22および第2変形部27の面方向(X方向)の大きさを調整することにより、低減可能な振動数を容易に調整することができる。
【0077】
[動吸振装置の別の実施形態]
本発明の別の実施形態に係る動吸振装置について
図7~
図9を用いて説明する。
図7~
図9では、
図1~
図6に記載の構成要素と実質的に同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0078】
図7は、本発明の別の実施形態に係る動吸振装置のY方向に垂直な方向の断面図である。
図7に示す動吸振装置1では、天板85および底板83の一部を-Y方向または+Y方向に略垂直に突出させ、突出部分を突出部88,89とする。これにより、金属板をプレス加工して嵌合部86を有する蓋体82および周壁84を有する箱本体81を作製する際に、同時に突出部88,89も設けることができ、効率的に箱体80を作製することができる。
【0079】
図8は、本発明の別の実施形態に係る動吸振装置のY方向に垂直な方向の断面図である。
図8に示す動吸振装置1では、拘束部材51,53を補助拘束部材52と同様に中実の板材とする。さらに、-Z方向側から順に、底板83と拘束部材53、拘束部材53と金属板71、金属板71とスペーサ62,64、スペーサ62,64と補助拘束部材52、補助拘束部材52と金属板31、金属板32とスペーサ61,63、スペーサ61,63と拘束部材51とを溶接により接続する。拘束部材53と金属板71との溶接、補助拘束部材52と金属板31との溶接は、それぞれ金属板71,31のy方向側の両端部で行う。さらに、天板85を、拘束部材51を厚み方向に押さえつけた状態で周壁84に溶接する。この場合、ねじ止めする必要がなく、蓋体82に嵌合部86を設ける必要もない。
【0080】
以上の実施形態では、天板(第1の被覆壁)85と拘束部材(第1の固定部)51とを別の部材とし、底板(第2の被覆壁)83と拘束部材(第2の固定部)53とを別の部材とする場合について説明したが、次に説明するように第1の被覆壁と第1の固定部、および第2の被覆壁と第2の固定部を、それぞれ一つの部材によって構成することもできる。
【0081】
図9は、本発明の別の実施形態に係る動吸振装置のY方向に垂直な方向の断面図である。
図9に示す動吸振装置1では、蓋体82は、
図5に示す第1支点領域25を挟持する挟持面を有し、第1制振板20に固定される凸部(第1の固定部)54と、凸部54と一体であり、凸部54からX方向両側に延びる天板(第1の被覆壁)85と、天板85の外周縁に設けられた嵌合部86を有する。また、箱本体81は、
図5に示す第2支点領域26を挟持する挟持面を有し、第2制振板21に固定される凸部(第2の固定部)55と、凸部55と一体であり、凸部55からX方向両側に延びる底板(第2の被覆壁)83と、底板83の外周縁および凸部55のY方向側の両端部に設けられた周壁84とを有する。
【0082】
凸部54,55は、それぞれY方向に延びる第1平板部54A,55Aと、第1平板部54A,55Aの-X方向側の端部から-Z方向または+Z方向に延びる第2平板部54B,55Bと、第1平板部54A,55Aの+X方向側の端部から-Z方向または+Z方向に延びる第3平板部54C,55Cとを有する。また、第1平板部54A,55Aには、それぞれ第1および第2ボルト41,42を挿入可能な複数(2つ)の挿入穴が形成されている。
図8では、第1ボルト41は示していない。
【0083】
天板85は、第2平板部54Bの+Z方向の端部から-X方向に、第3平板部54C+Z方向の端部から+X方向にそれぞれ延びる。また、底板83は、第2平板部55Bの-Z方向の端部から-X方向に、第3平板部55Cの-Z方向の端部から+X方向にそれぞれ延びる。
【0084】
本実施形態では、天板85と凸部54、および底板83と凸部55が、それぞれ一つの部材によって構成される。そのため、動吸振装置1を構成する部材数を低減することができる。さらに、第1および第2ボルト41,42ならびに第1ナット3A、第1ワッシャー3B、第2ナット3Cおよび第2ワッシャー3Dによって、箱本体81と蓋体82とが固定されるため、周壁84と嵌合部86のねじ穴および当該ねじ穴に螺合されるボルトを省略することができる。
【0085】
また、上記実施形態では、ダイナミックダンパーを二重構造としたが、二重のダンパー構造に限定されず、第1制振板20のみを有する一重構造としてもよいし、三重以上のダンパー構造であってもよい。一重とすれば、拘束部材51,53によって第1制振板20を挟持するため、第2制振板21および補助拘束部材52が不要となり、よりシンプルな構造としてコスト低減を図ることができる。三重以上とすれば、各制振板の変形部の面方向の大きさを調整することにより、低減できる振動の振動数を増加させることができる。三重以上とする場合、第2制振板21を追加すればよい。このとき、追加する第2制振板21の数に応じて、第2制振板21同士の間に設ける補助拘束部材52を追加する。
【0086】
[構造体の構成]
次に、上記実施形態に係る動吸振装置が埋設された、本発明の一実施形態に係るALCパネルについて説明する。
【0087】
図10(a)は、本実施形態に係るALCパネルの平面図および底面図であり、
図10(b)は、本実施形態に係るALCパネルの側面図である。
【0088】
ALCパネル(構造体)2は、X1方向に延びる角柱体であり、X1に垂直な方向に幅および厚みを有する。以下の説明では、ALCパネル2の幅方向をY1方向、厚み方向をZ1方向といい、
図10(a)の左方向を-X1方向、右方向を+X1方向、上方向を+Y1方向、下方向を-Y1方向とする。また、
図10(b)の左方向を-Y1方向、右方向を+Y1方向、上方向を+Z1方向、下方向を-Z1方向とする。
図10(a)の右側は平面図、左側は底面図である。
【0089】
ALCパネル2は、動吸振装置1と、配筋91と、ALC(Autoclaved Lightweight Aerated Concrete;オートクレーブ養生した軽量気泡コンクリート)からなるパネル本体92と、を備える。動吸振装置1と、配筋91とは、パネル本体92に埋設されている。
【0090】
配筋91は、X方向に延び、Z1方向に上下2段に配置された複数の主筋91aと、U字状であり、Y方向に延びる複数の副筋91bとを備える。主筋91aは、+Z1方向側(上段)では、ALCパネル2の幅方向の端部近傍に1本ずつ配置され、-Z1方向側(下段)では、上段の主筋91aと幅方向に同じ領域に、複数(
図10(b)では7本)等間隔に配置されている。
【0091】
副筋91bは、X1方向に並んで配置され、両端部では密に、中間部では疎に配置されている。副筋91bは、それぞれ主筋91aの上段と下段との間に配置され、主筋91aに溶接等により固定され、折れ曲がり部分がALCパネル2の幅方向の一方の端部(-Y1方向側)に配置されている。
【0092】
動吸振装置1は、副筋91bが疎に配置された部分の副筋91b間において、下段の主筋91aに+Z1方向で接するように配置されている。動吸振装置1の第1および第2制振板20,21の向きは、ALCパネル2内に収まる限り、特に第1および第2制振板20,21の向きは問わない。第1および第2制振板20,21の向きは、ALCパネル2が使用される際に想定される振動の方向に応じて定めればよい。
【0093】
ALCパネル2内に配置される動吸振装置1は、1個に限られず、ALCパネル2の大きさや必要に応じて複数配置してもよい。
【0094】
本実施形態に係るALCパネル2を建物の床面や壁面に用いることにより、建物の施工時または施工後において動吸振装置を個別に設ける必要がなくなる。また、動吸振装置を設置する余地がなかった部位においても振動の低減を図ることができる。
【0095】
ALCは軽量なコンクリートであるため、ALCパネル2は容易に運搬できる。ALCパネル2をあらかじめ作製し、準備しておくことにより、ALCパネル2を用いて構成される建造物の建造現場ではコンクリートを流し込む必要もなく、また、動吸振装置を改めて設ける必要もないため、建造工程をより簡素化することができる。
【0096】
上記実施形態に係るALCパネル2の製造方法について説明する。
【0097】
まず、作成するALCパネルに応じた寸法、形状の型枠および配筋91を準備する。動吸振装置1がALCパネル2内で所定の位置となるように、動吸振装置1を配筋91に溶接等により固定する。
【0098】
動吸振装置1を固定した配筋91を型枠内に配置する。このとき、1つの型枠内に、配筋91を1組だけ配置してもよく、複数組配置してもよい。
【0099】
配筋91を配置した型枠内に、ALCの原料である珪石、アルミニウム粉末、石灰、セメント等を水と所定の割合で混合、攪拌した原液を注入し、発泡、凝固させる。
【0100】
凝固したものを型枠から取り出す。型枠内に配筋を1組配置した場合には、取り出したものをそのまま未養生パネルとする。型枠内に配筋を複数組配置した場合には、各組の配筋ごとに切断し、未養生パネルとする。
【0101】
未養生パネルを、オートクレーブ窯内に配置し、高温(180℃)、高圧(10気圧)の蒸気によって約10時間にわたって養生を行う。このオートクレーブ養生により、トバモライト結晶が生成し、強度および耐久性に優れたALCパネルが得られる。
【0102】
得られたALCパネルは、必要に応じてさらに表面加工等の仕上げが施される。
【0103】
本実施形態に係るALCパネルの製造方法では、配筋に動吸振装置が仮止めされているため、配筋によって構造体の強度を向上させることができるだけでなく、所定の位置に動吸振装置が配置されたALCパネルを容易に得ることができる。そのため、このALCパネルでは、所望の振動低減効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 動吸振装置
2 ALCパネル(構造体)
20 第1制振板(板)
21 第2制振板(板)
22 第1変形部(変形部)
25 第1支点領域(被拘束部)
26 第2支点領域(被拘束部)
27 第2変形部(変形部)
31 金属板
32 粘弾性部材
40 拘束機構
51,53 拘束部材(第1,第2の固定部)
54,55 凸部(第1,第2の固定部)
71 金属板
72 粘弾性部材
83 底板(第2の被覆壁、係合部)
84 周壁
84c 前側壁(係合部)
84d 後側壁(係合部)
85 天板(第1の被覆壁、係合部)
88,89 突出部(係合部)
91 配筋
92 パネル本体(コンクリート)