(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/533 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
A61F13/533 100
(21)【出願番号】P 2018172506
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】田代 和泉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英聡
(72)【発明者】
【氏名】木村 笙子
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-47189(JP,A)
【文献】特開2018-82927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収体と、前記吸収体の肌対向面側の表面に配置される液透過性のトップシートとを有する積層体を備え、
前記積層体の前記肌対向面側には、溝状の凹部が格子状に延設され、
前記凹部が、前記積層体の長手方向に対して45°±10°の角度で傾斜する複数の第一傾斜部と、前記長手方向に対して-45°±10°の角度で傾斜するとともに前記第一傾斜部と交差する複数の第二傾斜部とを有し、
前記第一傾斜部及び前記第二傾斜部の各幅が、1.5mm以上、5mm以下であり、
前記第一傾斜部及び前記第二傾斜部の各深さが、1.5mm以上、15mm以下であり、
着用者の肛門が対向する肛門対向部を中心とするように規定された直径100mmの円形領域に含まれる前記凹部の容積が、
5cm
3以上、1
0cm
3以下であり、
前記長手方向に延びるともに前記肛門対向部を含む断面において、前記凹部の総断面積が、
40mm
2以上、
100mm
2以下であり、
前記積層体の幅方向に延びるとともに前記肛門対向部を含む断面において、前記凹部の総断面積が、
30mm
2以上、
40mm
2以下であ
り、
前記円形領域には、長さが40mm以上であって80mm以下である、少なくとも一つの前記第一傾斜部と少なくとも一つの前記第二傾斜部とが設けられている、
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
吸収体と、前記吸収体の肌対向面側の表面に配置される液透過性のトップシートとを有する積層体を備え、
前記積層体の前記肌対向面側には、溝状の凹部が格子状に延設され、
前記凹部が、前記積層体の長手方向に対して45°±10°の角度で傾斜する複数の第一傾斜部と、前記長手方向に対して-45°±10°の角度で傾斜するとともに前記第一傾斜部と交差する複数の第二傾斜部とを有し、
前記第一傾斜部及び前記第二傾斜部の各幅が、1.5mm以上、5mm以下であり、
前記第一傾斜部及び前記第二傾斜部の各深さが、1.5mm以上、15mm以下であり、
着用者の肛門が対向する肛門対向部を中心とするように規定された直径100mmの円形領域に含まれる前記凹部の容積が、1
0cm
3以上、15cm
3以下であり、
前記長手方向に延びるともに前記肛門対向部を含む断面において、前記凹部の総断面積が、30mm
2以上、
40mm
2以下であり、
前記積層体の幅方向に延びるとともに前記肛門対向部を含む断面において、前記凹部の総断面積が、
30mm
2以上、
40mm
2以下であ
り、
前記第一傾斜部の間隔及び前記第二傾斜部の間隔がいずれも、10mm以上、40mm以下である、
ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項3】
前記凹部が、前記積層体のうちの前記吸収体が存在する領域に設けられ、
前記吸収体における前記凹部の前記幅方向の外側には、前記凹部よりも前記肌対向面側に隆起した土手部が設けられている、
請求項1
又は2に記載の吸収性物品
。
【請求項4】
前記凹部で形成される格子の一つが、前記肛門対向部を囲むように設けられている、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記凹部は、前記積層体が厚み方向に圧搾された圧搾部である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載された吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙おむつに好適な吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙おむつ、尿パッドや生理用ナプキンといった吸収性物品が知られている。吸収性物品には、液透過性をもつとともに肌面と接触するトップシートと、パルプやレーヨンなどの繊維材料及び高吸収性ポリマーを有する吸収体とが設けられている。着用者から排泄される尿や経血といった液体の水分は、トップシートを透過して、吸収体によって吸収されて保持される。
【0003】
吸収性物品の着用時のフィット性、並びに排泄物の吸収及び保持性能を高めるために、様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、吸収体を厚み方向に圧縮した圧搾部(凹部)が形成された吸収性物品が開示されている。特許文献1の吸収性物品では、長手方向に直線状の凹部が2本設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件は、吸収性物品の肌対向面側に設けられた凹部により、軟便の拡散を安定して抑えることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用及び効果であって、従来の技術では得られない作用及び効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示する吸収性物品は、吸収体と、前記吸収体の肌対向面側の表面に配置される液透過性のトップシートとを有する積層体を備え、前記積層体の前記肌対向面側には、溝状の凹部が格子状に延設され、前記凹部が、前記積層体の長手方向に対して45°±10°の角度で傾斜する複数の第一傾斜部と、前記長手方向に対して-45°±10°の角度で傾斜するとともに前記第一傾斜部と交差する複数の第二傾斜部とを有し、前記第一傾斜部及び前記第二傾斜部の各幅が、1.5mm以上、5mm以下であり、前記第一傾斜部及び前記第二傾斜部の各深さが、1.5mm以上、15mm以下であり、着用者の肛門が対向する肛門対向部を中心とするように規定された直径100mmの円形領域に含まれる前記凹部の容積が、1.5cm3以上、15cm3以下であり、前記長手方向に延びるともに前記肛門対向部を含む断面において、前記凹部の総断面積が、30mm2以上、300mm2以下であり、前記積層体の幅方向に延びるとともに前記肛門対向部を含む断面において、前記凹部の総断面積が、5mm2以上、65mm2以下である。
【発明の効果】
【0007】
本件で示す吸収性物品によれば、軟便の拡散を安定して抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態及び実施例に関する紙おむつの平面視展開図である。
【
図4】
図1の紙おむつに適用された積層体の平面図である。
【
図5】
図4の積層体に設けられた凹部の横断面図である。
【
図6】実施例に関する紙おむつの平面視展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本件を実施するための形態を説明する。下記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、
必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることもできる。
【0010】
実施形態で述べる吸収性物品は、着用者に装着され、着用者から排泄される尿や便等の排泄物の水分(以下、「排泄水分」という)を吸収し保持する衛生用品である。この吸収性物品には、テープ型やパンツ型の紙おむつ(いわゆる「使い捨ておむつ」)のように、着用者へ直接的に装着されるもののほか、尿パッド、生理用ナプキン、パンティーライナーのように、着用者の下着等へ装着されるものも含まれる。
【0011】
以下の実施形態では、吸収性物品としての紙おむつにおいて、着用者の腹部に対向して配置される前身頃と着用者の背部に対向して配置される後身頃とを、紙おむつの延在面上で結ぶ方向を長手方向とする。紙おむつの延在面において、これらの前身頃(長手方向の一側)と後身頃(長手方向の他側)との間(長手方向の中央)には、着用者の股下に配置(股間に対向して配置)される股下部が位置する。また、紙おむつが着用者に装着された状態(以下、「装着状態」と略称する)において、着用者の肌に向かう側(装着された状態で内側)を肌対向面側とし、肌対向面側の反対側(外側)を肌非対向面側とする。さらに、肌対向面側と肌非対向面側とを結ぶ方向を厚み方向とし、長手方向と厚み方向のいずれにも直交する方向を幅方向とする。その他、厚み方向の肌対向面側から視ることを平面視とする。そして、平面視での幅方向を左右方向ともいう。
【0012】
紙おむつにおける各構成の向きについては、例えば長手方向に沿うと表現する場合に、長手方向と平行なことだけでなく、長手方向とほぼ平行なことも含むものとする。具体的には、長手方向に対する傾斜角度が45°未満で延在することを長手方向に沿うものとする。同様に、幅方向や厚み方向といった各方向に沿うと表現する場合についても、各方向に対する傾斜角度が45°未満で延在することを意味する。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0013】
本実施形態では、吸収性物品としてテープ型の紙おむつを例示する。テープ型の紙おむつは、着用者の腰回りが周状に連続して構成されたパンツ型の紙おむつとは異なり、腰回りの前後に分離した前身頃及び後身頃をもつ。このテープ型の紙おむつは、乳幼児のほか、成人の要介護者といった様々な着用者に装着される。以下、「テープ型の紙おむつ」を単に「紙おむつ」と略称する。
【0014】
[1.構成]
[1-1.基本構成]
図1~
図3を参照して、紙おむつ100の基本的な構成を説明する。なお、
図3の断面図では、各構成を把握しやすくするために、各シート類の厚みを誇張して示している。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る紙おむつ100は、幅方向の中心線Cを基準として対称(中心線Cについて左右対称)に形成されている。紙おむつ100は、長手方向に沿って、前身頃2、股下部3、後身頃4の三つの領域に大別される。前身頃2は、着用状態で着用者の下腹部側に位置する領域である。後身頃4は、着用状態で着用者の臀部側に位置する領域である。股下部3は、前身頃2と後身頃4との間に位置し、着用状態で着用者の股下に位置する領域である。
【0016】
紙おむつ100は、前身頃2において股下部3よりも幅方向の外方に延出する左右一対の前方サイドフラップ5と、後身頃4において股下部3よりも幅方向の外方に延出する左右一対の後方サイドフラップ6とを有している。また、紙おむつ100は、紙おむつ100を装着状態に保持するためのファスニング機構を有している。本実施形態では、各後方サイドフラップ6から幅方向の外方に突出して設けられた左右一対のファスニングテープ(以下、「テープ」と略称する)60と、前身頃2に設けられてテープ60が止着されるパッチ38とで構成されたファスニング機構を例示する。なお、これに代えて、テープ60が前方サイドフラップ5から幅方向の外方に突出して設けられ、パッチ38が後身頃4に設けられてもよい。また、テープ60は、左右2対以上設けられてもよい。
以下、紙おむつ100の各構成要素について説明する。
【0017】
〔積層体〕
紙おむつ100は、少なくとも股下部3に積層体10を備える。本実施形態の積層体10は、前身頃2、股下部3、後身頃4に亘って設けられている。積層体10は、平面視でほぼ矩形状であり、その長手方向及び幅方向が、紙おむつ100の長手方向及び幅方向とそれぞれ一致する向きで設けられる。
図2及び
図3に示すように、積層体10は、吸収体20と、吸収体20の肌対向面側に積層されるトップシート31と、吸収体20の肌非対向面側に積層されるバックシート32とを備える。すなわち、積層体10は、吸収体20の両主面側にトップシート31とバックシート32とがそれぞれ配置された積層構造体である。
【0018】
積層体10は、肌対向面側からの排泄水分をトップシート31に透過させて、透過した排泄水分を吸収体20によって吸収保持するとともに、バックシート32によって肌非対向面側から外部への漏出を阻止する。なお、トップシート31及びバックシート32と吸収体20とは、ホットメルト接着剤等の公知の接着剤によって固定することができる。
【0019】
<吸収体>
吸収体20は、排泄水分を吸収して保持する吸液性をもつマット状(あるいはパッド状)の部材である。
図1に示すように、本実施形態では、前身頃2と後身頃4との間に亘って設けられた砂時計形状の吸収体20を例示する。すなわち、吸収体20は、前身頃2及び後身頃4に配置された長手方向の両端部に対し、股下部3に配置された長手方向の中間部が、幅方向の寸法を絞られた形状とされている。また、吸収体20は、後身頃4側で幅方向の寸法が大きい部分の長手方向の寸法が、前身頃2側で幅方向寸法が大きい部分の長手方向の寸法よりも大きい、非対称な形状となっている。ただし、吸収体20の平面視形状は、上記したような形状に限られず、矩形(すなわち幅方向寸法が一定)であってもよいし、長手方向の両端部がいずれも円形とされたダンベル形状であってもよい。
【0020】
図3に示すように、吸収体20は、吸収性コア21とコアラップシート(以下、「ラップシート」と略称する)24とを有している。吸収体20は、吸収性コア21がラップシート24によって被包(ラップ)されることで形成されている。すなわち、吸収体20は、吸収性コア21をラップシート24に内蔵させたものである。
【0021】
(吸収性コア)
吸収性コア21は、液体を吸収して保持するマット状の部材である。吸収性コア21は、高吸収性ポリマー(SAP;Superabsorbent polymer、高吸水性高分子あるいは高吸水性樹脂とも称される)22と、繊維材料23とを含んでいる。吸収性コア21は、繊維材料23に高吸収性ポリマー22が混合されることにより形成されている。繊維材料23は、親水性を有する極細の繊維が絡まり合って形成されている。高吸収性ポリマー22は、繊維材料23に混合されることにより、通常、繊維材料23に埋没保持されている。高吸収性ポリマー22は、繊維材料23によって拡散された液体を吸収し保持することができる。
【0022】
高吸収性ポリマー22としては、使い捨ておむつや尿パッドのような吸収性物品における吸収体の材料として用いられている各種公知のものを用いることができる。例えば、デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、デンプン-アクリロニトリル共重合体のケン化物、デンプン-アクリル酸エチルグラフト共重合体のケン化物等のデンプン系;ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物等のセルロース系;ポリアクリル酸(塩)、アクリル酸で架橋されたポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール-無水マレイン酸反応物の架橋物等の合成ポリマー系のものを高吸収性ポリマー22として用いることができる。これらの中でも、吸収性の観点から、ポリアクリル酸(塩)が好ましく、ポリアクリル酸ナトリウムがより好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。高吸収性ポリマー22の形状は特に限定されないが、例えば、粒状、粉体状、ペレット状、ゾル状、フィルム状、繊維状等のものを用いることができる。
【0023】
繊維材料23としては、例えば、パルプ繊維、レーヨン繊維、コットン繊維等のセルロース系の繊維や;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成繊維に親水化処理を施したものが挙げられる。中でも、吸収性の観点から、繊維又は合成繊維を粉砕あるいは解繊したフラッフパルプを用いることが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(ラップシート)
ラップシート24は、吸収性コア21を被覆するシート状の部材である。ラップシート24は、吸収性コア21の肌対向面側と肌非対向面側とを含めて、吸収性コア21の全体を被覆している。ラップシート24によって吸収性コア21が被包されることで、吸収性コア21の定形性が確保される。
ラップシート24は、吸収性物品に用いられている公知の材料で形成することができる。ラップシート24を構成する材料としては、例えばティッシュペーパーのような紙;スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアースルー不織布、SMS(Spunbond Meltblown Spunbond)不織布等を用いることができる。
【0025】
<トップシート>
トップシート31は、積層体10において最も肌対向面側に配置されるシート状の部材である。トップシート31は、吸収体20よりも幅方向寸法が大きく、肌対向面側から吸収体20の全面を被覆する。また、トップシート31は、装着状態で着用者の肌に接触し、排泄水分を透過させて吸収体20に吸収させる。このため、トップシート31は、少なくとも一部が液透過性をもつ材料で構成される。また、トップシート31は、着用者に対するフィット性を確保するために、高い柔軟性をもつ材料で構成されることが好ましい。また、装着状態での蒸れを抑えるために、通気性を併せもつ材料で構成されることが好ましい。
【0026】
トップシート31を構成する材料としては、例えば、織布、不織布、多孔性フィルム等を用いることができる。または、トップシート31としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂の繊維に親水化処理を施して不織布にしたものを用いてもよい。トップシート31を構成する不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアースルー不織布、メルトブローン不織布、SMS不織布等を用いることができる。
【0027】
<バックシート>
バックシート32は、積層体10で最も肌非対向面側に配置されるシート状の部材である。バックシート32は、吸収体20及びトップシート31よりも幅方向寸法が大きく、肌非対向面側から吸収体20及びトップシート31の全面を被覆する。また、バックシート32は、吸収体20から肌非対向面側に排泄物が漏れるのを防ぐ。このため、バックシート32は、液不透過性をもつ材料で構成される。また、バックシート32は、装着状態での蒸れを抑えるために、透湿性を併せもつ材料で構成されることが好ましい。
【0028】
バックシート32を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂シートを用いることができる。中でも、バックシート32としては、0.1~0.4μmの微細な孔が複数形成された微多孔性の熱可塑性樹脂シートを用いることが好ましい。このようなシートとしては、例えば、熱可塑性樹樹脂中に無機充填剤を混練してシートを成形した後に、延伸することにより得られるシートを用いることができる。
【0029】
〔他のシート〕
紙おむつ100は、積層体10に対して積層されるサイドシート33及びカバーシート35をさらに備えている。サイドシート33及びカバーシート35と積層体10とは、ホットメルト接着剤等の公知の接着剤によって固定することができる。
【0030】
<サイドシート>
サイドシート33は、積層体10の両側部に後述する立体ギャザー42を形成するために、積層体10の幅方向の両側に設けられる左右一対の部材である。サイドシート33は、積層体10の幅方向の外方から肌対向面側に亘って配置される。
図2に示すように、サイドシート33は、前身頃2において股下部3よりも幅方向外方に延出する前フラップ部34Aと、後身頃4において股下部3よりも幅方向外方に延出する後フラップ部34Bとを有している。
【0031】
図3に示すように、サイドシート33は、トップシート31及びバックシート32よりも幅方向の外方に突出して設けられている。より具体的には、サイドシート33は、トップシート31及びバックシート32の幅方向の外方から側部にかけて、肌対向面側に積層される。サイドシート33は、立体ギャザー42の収縮により、着用者の肌に当接する方向(肌対向面側)に向かって起立する。
【0032】
サイドシート33は、幅方向の外方への液漏れを防ぐために、非液透過性をもつ材料で構成されることが好ましい。サイドシート33としては、スパンボンド不織布を用いることができる。また、サイドシート33の一部は、紙おむつ100において最も肌対向面側に配置される(このことから、サイドシート33はトップシート31と同様に「トップシート」とも称される)。このように着用者に対して接触しうるサイドシート33としては、SMS不織布やSMMS(Spunbond Meltblown Meltblown Spunbond)不織布のようにメルトブローン層を含ませることにより、柔軟性を高めたスパンボンド不織布を用いることが好ましい。あるいは、スパンボンド不織布をなす繊維の繊度や目付量が抑えられることにより、柔軟性を向上させたスパンボンド不織布を用いることが好ましい。
【0033】
なお、「繊度」とは、繊維の繊維径(太さ)や断面積に対応するパラメータであり、所定の長さ当たりの重量で表される。例えば、一本の繊維について10000mあたりのグラム数(デシテックス)が「繊度」として用いられる。また、「目付量」とは、シートの厚みあるいは積層度合いに対応するパラメータであり、単位面積あたりの重量で表される。例えば、一平米あたりのグラム数が「目付量」として用いられる。
【0034】
<カバーシート>
カバーシート35は、積層体10を肌非対向面側から被覆するシート状の部材である。カバーシート35は、紙おむつ100でパッチ38を除いて最も肌非対向面側に配置されることで、バックシート32を補強し、バックシート32の手触り(触感)を良好なものとするために用いられる。カバーシート35は、吸収体20、トップシート31、バックシート32よりも幅方向寸法が大きく設定され、装着状態で着用者の股下、臀部、腰、腹等のまわりに配置される。
図2に示すように、カバーシート35は、前身頃2において股下部3よりも幅方向の外方に延出する左右一対の前フラップ部36Aと、後身頃4において股下部3よりも幅方向の外方に延出する左右一対の後フラップ部36Bとを有している。
【0035】
カバーシート35を構成する材料としては、例えば、織布、不織布等を挙げることができる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなる不織布、湿式不織布を用いることが好ましい。特には、触感(手触り)を確保するために、柔軟性の観点から、カバーシート35としてはスパンボンド不織布を好適に用いることができる。
【0036】
上述のように構成された紙おむつ100では、肌対向面側から肌非対向面側へ向けて、サイドシート33、トップシート31、吸収体20、バックシート32、カバーシート35の順に各部材が積層されている。サイドシート33とカバーシート35とは、ホットメルト接着剤等の公知の接着剤によって貼り合わされる。そして、サイドシート33及びカバーシート35の各前フラップ部34A、36Aにより前方サイドフラップ5が形成される。また、サイドシート33及びカバーシート35の各後フラップ部34B、36Bにより後方サイドフラップ6が形成される。
【0037】
〔ファスニング機構〕
ファスニング機構は、前身頃2と後身頃4との止め着け機能を実現するものである。ファスニング機構としては、例えば、フック部材(雄部材)とループ部材(雌部材)とによって機械的に結合する面状ファスナ(メカニカルファスナ)を用いることができる。ここでいうフック部材は、表面に鉤状、きのこ状、錨状等の突起が多数形成されているシート状の部材である。また、ここでいうループ部材は、表面にループ状の繊維が配置された、又は短繊維で構成された不織布からなるシート状の部材である。また、ファスニング機構としては、粘着剤や粘着テープを用いることができる。中でも、フック部材とループ部材とを強固に固着させることができるとともに、これらを剥離して繰り返しの使用ができることから、面状ファスナが好ましい。本実施形態では、テープ60がフック部材として機能し、パッチ38がループ部材として機能する場合を例示する。
【0038】
<パッチ>
本実施形態のパッチ38は、カバーシート35における前身頃2の外表面(紙おむつ100における最も肌非対向面側)に取り付けられている。パッチ38としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂の繊維からなる不織布が用いられる。
【0039】
<テープ>
テープ60は、パッチ38に貼着可能であって、股下部3を中心として前身頃2と後身頃4とが対向するようにして肌対向面側に紙おむつ100が折り曲げられた際に、幅方向の外方に引っ張られてパッチ38に止め着けられる。紙おむつ100は、このようにテープ60がパッチ38に止め着けられることで着用者に装着される。
【0040】
図1及び
図2に示すように、テープ60は、後方サイドフラップ6に固定されるとともに後方サイドフラップ6から外方に突出して設けられたシート状の止着部61を有している。また、止着部61の肌対向面側に、前身頃2と後身頃4とを固定するためのフック部材である係止部材64が設けられている。止着部61は、係止部材64及びパッチ38を介して、前身頃2と後身頃4とを止め着ける。
【0041】
止着部61は、幅方向内側の基部62と、基部62から幅方向外方に突出する突出部63とを有している。基部62は、サイドシート33及びカバーシート35の後フラップ部34B、36B間に狭装されることで、後方サイドフラップ6に固定されている。突出部63は、サイドシート33及びカバーシート35よりも幅方向の外方に突出して、外部に露出した状態で設けられている。そして、突出部63の肌対向面側に、係止部材64が設けられている。
【0042】
テープ60の止着部61を構成する材料としては、例えば、織布、不織布、樹脂フィルム、紙等を用いることができる。織布、不織布、又は樹脂フィルムを構成する素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0043】
〔ギャザー〕
紙おむつ100には、装着状態における着用者への追従性を高めるために、ギャザー41~43が設けられている。ギャザー41~43は、ゴムやポリウレタンや伸縮フィルムといった伸縮性をもつ部材(伸縮性部材)を伸張状態で不織布などのシートの間に挟み、ホットメルト、ヒートシール、超音波溶着等で固定することによって伸縮性をもたせたシート複合体から構成される。このシート複合体は、伸縮性部材が伸張状態から元の状態(自然長の状態)に戻ろうとする力(復元力、弾性力)でシートに細かな皺が寄った状態となる。ここでは、伸縮性部材として糸状のゴム部材(以下、「糸ゴム」と略称する)51~53を例示する。
【0044】
本実施形態では、ギャザー41~43として、三種の糸ゴム51~53により伸縮性がそれぞれ付与された三種を例示する。一つは、バックシート32及びカバーシート35の幅方向の各端部と、サイドシート33の幅方向の外端部とが第一糸ゴム51で皺寄せされたレッグギャザー41である。他の一つは、サイドシート33の幅方向の内端部が第二糸ゴム52で皺寄せられた立体ギャザー42である。残りの一つは、トップシート31、バックシート32、サイドシート33、カバーシート35の長手方向における背側の各端部が第三糸ゴム53で皺寄せられたウェストギャザー43である。
【0045】
レッグギャザー41は、着用者の脚部に対する追従性を高める(着用者の脚部と紙おむつ100との隙間を抑える)ために設けられる。
図1に示すように、レッグギャザー41は、装着状態において着用者の脚部を包囲する箇所に設けられる。なお、
図2及び
図3に示すように、第一糸ゴム51は、バックシート32の幅方向の端部における肌対向面側に設けられ、バックシート32とサイドシート33との間に介装される。
【0046】
立体ギャザー42は、排泄箇所の側方で着用者に対する追従性を高めるために設けられる。立体ギャザー42は、排泄物の幅方向の外方への漏れを防止する機能をもつ。
図1に示すように、立体ギャザー42は、サイドシート33の幅方向の内側に配備される。なお、
図2及び
図3に示すように、第二糸ゴム52は、サイドシート33の幅方向の内端部に設けられ、この内端部が肌非対向面部側へ折り曲げられることで二重に重ねられた重合部33A、33B間に介装される。
【0047】
ウェストギャザー43は、着用者の臀部や下腹部に対する追従性を高めるために設けられる。
図1に示すように、ウェストギャザー43は、左右の後方サイドフラップ6の間に亘って配備される。
図2に示すように、本実施形態のウェストギャザー43は、幅方向に延設された伸張状態の複数の第三糸ゴム53が一組の非伸縮性の基材シートに狭装されてなる伸縮シート54により構成されている。伸縮シート54は、トップシート31とバックシート32やカバーシート35との間に介装されている。
【0048】
[1-2.詳細構成]
次に、紙おむつ100の詳細な構成を述べる。
【0049】
図4は積層体10の平面図である。
図4に示すように、積層体10の肌対向面側には、溝状の凹部70が格子状に延設されている。凹部70は、積層体10において、その積層構造体の一部が厚み方向に対して周囲よりも低く落ちこんでいる部位をいう。凹部70は、積層体10のうち、吸収体20の存在する領域に設けられ、積層体10の平面視で線状に延設される。
【0050】
凹部70は、互いに交差する第一傾斜部71(一部のみに符号を付す)と第二傾斜部72(一部のみに符号を付す)とを有している。すなわち、第一傾斜部71及び第二傾斜部72は、平面視で格子形状(グリッドパターン)をなす。第一傾斜部71は、長手方向に対して、幅方向の一方(例えば右方)に45°±10°の角度で傾斜する直線状の部位である。これに対し、第二傾斜部72は、長手方向に対して、幅方向の他方(例えば左方)に45°±10°の角度で傾斜する直線状の部位である。
【0051】
ここで、長手方向に対する傾斜角度θを、第一傾斜部71が長手方向に対して傾斜する角度を正として規定すると、第一傾斜部71の傾斜角度θが45°±10°であり、第二傾斜部72の傾斜角度θが-45°±10°である。このように、第一傾斜部71及び第二傾斜部72のそれぞれが、長手方向及び幅方向のいずれに対しても交差する方向に延びていることで、軟便が長手方向と幅方向とのいずれの方向に拡がる場合も第一傾斜部71及び第二傾斜部72の少なくとも一方を通過する(横切る)こととなる。このため、長手方向及び幅方向のいずれに対しても軟便が拡がりにくくなる。なお、本実施形態では、長手方向に対し、第一傾斜部71の傾斜角度θが45°であり、第二傾斜部72の傾斜角度θが-45°である場合を例示する。
【0052】
積層体10には、複数の第一傾斜部71が互いに平行に設けられているとともに、複数の第二傾斜部72も互いに平行に設けられている。第一傾斜部71の間隔M1及び第二傾斜部72の間隔M2はいずれも、通常10mm以上、好ましくは15mm以上、より好ましくは20mm以上であり、通常40mm以下、好ましくは35mm以下、より好ましくは30mm以下である。間隔M1、M2が上記の下限値を下回ると、積層体10に設けられる単位面積当たりの第一傾斜部71及び第二傾斜部72の数が増加するため、積層体10において凹部70の占める面積がそれ以外の面積に対して増加する傾向にある。この場合、軟便が凹部70の内部を伝わって拡がりやすく、軟便の拡散が抑制され難くなりやすい。また、この場合、積層体10の硬さが増し(柔軟性が低下し)、装着時の着け心地やフィット性が損なわれやすい。また、間隔M1、M2が上記の上限値を上回ると、積層体10に設けられる単位面積当たりの第一傾斜部71及び第二傾斜部72の数が減少するため、積層体10において凹部70の占める面積がそれ以外の面積に対して減少する傾向にある。この場合、凹部70による軟便の拡散の抑制作用を得づらくなりやすい。また、この場合、通気性が低下し、装着状態での蒸れを防ぎにくい。これに対して、間隔M1、M2が上記範囲内であると、軟便の自由な拡散が良好に抑制されるため、軟便の拡がり方によらず、その拡散面積が安定して抑えられやすいうえに、積層体10の柔軟性及び通気性が確保されやすい。なお、本実施形態では、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の間隔M1、M2が互いに等しい(M1=M2である)場合を例示する。
【0053】
ここで、積層体10の肌対向面側において着用者の肛門が対向する部位11を「肛門対向部11」という。肛門対向部11は、着用者の身体に対する積層体10のサイズ及び位置関係等によって位置が変わるが、通常、積層体10の幅方向における中央であって、積層体10の長手方向において股下部3の中央よりも背側寄りの部位である。
【0054】
本実施形態では、凹部70で形成される格子の一つが、肛門対向部11を囲むように設けられている。すなわち、第一傾斜部71及び第二傾斜部72はいずれも、肛門対向部11と重ならないように設けられている。これにより、軟便が肛門対向部11から如何なる方向に拡がっても、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の少なくとも一方を通過することとなるため、軟便の拡散が抑えられやすくなる。なお、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の少なくとも一方が肛門対向部11上に設けられる場合には、軟便が第一傾斜部71又は第二傾斜部72を伝って拡がる虞はあるものの、軟便が凹部70内に保持されることによる拡散抑制作用を得ることができる。
【0055】
図4中に二点鎖線で示すように、積層体10においては、肛門対向部11を中心とするように、直径100mmの円形領域10Aが規定されている。円形領域10Aは、積層体10において軟便が付着しやすい領域である。円形領域10Aで軟便の拡がりが抑制されれば、紙おむつ100からの軟便の漏れが効果的に抑制されうる。以下、凹部70が周囲よりも低く落ち込むことで形成された空間の体積を「凹部70の容積」という。また、積層体10を厚み方向に切断した場合に、その断面に現れる前記空間の面積を「凹部70の断面積」という。
【0056】
本実施形態の円形領域10Aには、長さLが40mm以上である、少なくとも一つの第一傾斜部71と少なくとも一つの第二傾斜部72とが設けられている。言い換えると、円形領域10Aに設けられた第一傾斜部71及び第二傾斜部72の最大の長さLmaxは40mm以上である。このように、長さLが40mm以上の第一傾斜部71及び第二傾斜部72が円形領域10Aに少なくとも一つずつ設けられている場合、円形領域10Aにおける凹部70の容積(後述する「円内容積」)Vaが確保されやすくなるため、軟便の拡散を抑制しやすくなる。また、この場合、円形領域10Aが第一傾斜部71及び第二傾斜部72により折れ曲がり易くなるため、積層体10の硬さやごわつきが適度に抑えられ(柔軟性が確保され)、装着時の着け心地やフィット性が低下しにくくなる。
【0057】
図3に示すように、本実施形態では、トップシート31、ラップシート24、吸収性コア21が凹設されることで凹部70が形成されている。吸収体20における凹部70の幅方向の外側には、凹部70よりも肌対向面側に隆起した土手部21Aが設けられる。言い換えると、凹部70は、吸収体20の幅方向の両端部を避けて設けられている。土手部21Aは、凹部70に対して厚み方向の寸法が大きい部位であって、凹部70内に入り込んだ軟便が幅方向の外側へ拡がるのを抑える機能をもつ。すなわち、凹部70の幅方向の外側に土手部21Aが設けられることにより、凹部70から幅方向の外側への軟便の拡がりが抑えられやすくなる。このため、着用者の脚部周辺への軟便の漏れ(横漏れ)が防止されやすくなる。
【0058】
図5に示すように、第一傾斜部71及び第二傾斜部72のそれぞれは、幅W及び深さDが所定の範囲内の寸法となるように形成されている。ここでいう幅Wとは、第一傾斜部71及び第二傾斜部72のそれぞれにおいて、その延在方向及び積層体10の厚み方向のいずれにも直交する方向の寸法である。幅Wは、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各開口部(積層体10の表面に位置する部分)を基準にして定めるものとする。また、ここでいう深さDとは、第一傾斜部71及び第二傾斜部72のそれぞれにおいて、開口部から最も深い位置(底面部)までの長さである。なお、ここでいう開口部とは、積層体10の表面において、第一傾斜部71及び第二傾斜部72と、これら以外のほぼ平坦な部分との境界線で囲まれる部分をいう。
【0059】
第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅W及び各深さDは、平面状に広げられた積層体10に外力が加わっていない状態を基準として定める。幅W及び深さDの測定方法は特に限定されないが、例えば、第一傾斜部71及び第二傾斜部72を横断するように積層体10を厚み方向に切断し、その切断面に現れた第一傾斜部71及び第二傾斜部72について測定する方法を用いることができる。このとき、必要に応じて切断面を顕微鏡により観察して測定を行ってもよい。
【0060】
第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wは、1.5mm以上、好ましくは2mm以上、より好ましくは2.5mm以上、さらに好ましくは3mm以上であり、5mm以下、好ましくは4.5mm以下、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3.5mm以下である。第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wが上記の下限値を下回ると、軟便が凹部70に流れ込まずに凹部70を通り越して積層体10上を拡がりやすく、軟便の拡散が抑制され難くなりやすい。また、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wが上記の上限値を上回ると、軟便が凹部70の内部を伝わって拡がりやすく、軟便の拡散が抑制され難くなりやすい。これに対して、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wが上記範囲内であると、軟便の自由な拡散が抑制されやすい。なお、上記の幅Wは、凹部70による軟便の拡散の抑制作用を均一に生じさせるために、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の延在方向においてほぼ同一であることが好ましい。また、各第一傾斜部71及び各第二傾斜部72において、幅Wは、ほぼ同一であることが好ましい。
【0061】
第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各深さDは、1.5mm以上、好ましくは3mm以上、より好ましくは4mm以上、さらに好ましくは5mm以上であり、15mm以下、好ましくは12mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは8mm以下である。第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各深さDが上記の下限値を下回ると、軟便が凹部70の内部に流れ込む際に、軟便の拡散を抑制する程度に十分な容積を有さず、軟便の拡散が抑制され難くなりやすい。また、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各深さDが上記の上限値を上回ると、凹部70の形状を維持することが困難となり、凹部70が屈曲変形することで、内部への軟便の取り込みが妨げられやすい。これに対して、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各深さDが上記範囲内であると、軟便の自由な拡散が抑制されやすい。
【0062】
凹部70は、その延在方向と直交する方向に切断された場合の断面積(以下、「横断面積」という)Aが所定の範囲内の値となるように形成される。凹部70の横断面積Aは、凹部70の幅Wと深さDとの積(W×D)により、凹部70の断面を矩形状に近似した場合の面積として規定することができる。凹部70の横断面積Aは、通常2.25mm2以上、好ましくは6mm2以上、より好ましくは10mm2以上、さらに好ましくは15mm2以上であり、通常75mm2以下、好ましくは54mm2以下、より好ましくは40mm2以下、さらに好ましくは28mm2以下である。凹部70の横断面積Aが上記範囲内であると、軟便が凹部70に流れ込む際に、軟便の拡がりを止めうるだけの十分な容積を確保しやすくなる。このため、軟便の自由な拡散が抑制されやすくなり、軟便の拡散が安定して抑えられやすい。なお、本実施形態では凹部70の横断面形状が矩形状である場合を例示するが、凹部70の横断面形状は特に限定されず、例えば、三角形状や半円形状やU字状であってもよい。
【0063】
円形領域10Aに含まれる凹部70の容積(以下、「円内容積」という)Vaは、1.5cm3以上、好ましくは1.8cm3以上、より好ましくは2cm3以上であり、15cm3以下、好ましくは13cm3以下、より好ましくは11cm3以下である。円内容積Vaが上記の下限値以上であると、肛門対向部11から拡がる軟便を円形領域10A内の凹部70により保持しやすくなり、円形領域10A外への軟便の拡散が抑制されやすくなる。また、円内容積Vaが上記の上限値以下であると、円形領域10A内に凹部70以外の部分も確保されるため、排泄水分も円形領域10A内で保持しやすくなり、円形領域10A外への排泄水分の拡散も抑制されやすくなる。このように、円内容積Vaが上記範囲内であれば、円形領域10Aにおける凹部70と他の部分とのバランスをとることができ、軟便の拡散抑制作用と排泄水分の拡散抑制作用とを両立させやすくなる。
【0064】
ここで、
図4に示すように、積層体10の長手方向に延びるともに肛門対向部11を含む直線YLで、積層体10を厚み方向に切断した場合の断面を「長手断面」という。また、積層体10の幅方向に延びるともに肛門対向部11を含む直線XLで、積層体10を厚み方向に切断した場合の断面を「幅断面」という。
【0065】
長手断面に含まれる凹部70の総断面積(以下、長手面積という)Ayは、30mm2以上、好ましくは40mm2以上、より好ましくは45mm2以上であり、300mm2以下、好ましくは270mm2以下、より好ましくは250mm2以下である。ここで、長手面積Ayは、長手断面に含まれる各々の凹部70の断面積を合計した値である。長手面積Ayが上記の下限値以上であると、軟便が肛門対向部11から長手方向に拡がる場合に、凹部70に入り込む軟便の量が確保されやすくなる。このため、軟便の長手方向への拡散が抑えられ、背側からの漏れ(背漏れ)及び腹側からの漏れ(腹漏れ)が防止されやすくなる。また、長手面積Ayが上記の上限値以下であると、長手断面に凹部70以外の部分も確保される。このため、排泄水分の長手方向への拡がりが抑制されやすくなる。このように、長手面積Ayが上記範囲内であれば、長手断面における凹部70と他の部分とのバランスをとることができ、軟便の拡散抑制作用と排泄水分の拡散抑制作用とを両立させやすくなる。
【0066】
幅断面に含まれる凹部70の総断面積(以下、「幅面積」という)Axは、5mm2以上、好ましくは7mm2以上、より好ましくは8mm2以上であり、65mm2以下、好ましくは50mm2以下、より好ましくは40mm2以下である。ここで、幅面積Axは、幅断面に含まれる各々の凹部70の断面積を合計した値である。幅面積Axが上記の下限値以上であると、軟便が肛門対向部11から幅方向に拡がる場合に、凹部70に入り込む軟便の量が確保されやすくなる。このため、軟便の幅方向への拡散が抑えられて、横漏れが防止されやすくなる。また、幅面積Axが上記の上限値以下であると、幅断面に凹部70以外の部分も確保される。このため、排泄水分の幅方向への拡がりが抑制されやすくなる。このように、幅面積Axが上記範囲内であれば、幅断面における凹部70と他の部分とのバランスをとることができ、軟便の拡散抑制作用と排泄水分の拡散抑制作用とを両立させやすくなる。
【0067】
なお、本実施形態では凹部70が正方形状の格子をなす場合を例示するが、凹部70がなす格子の形状はこれに限定されない。例えば、凹部70は、幅方向よりも長手方向に短いひし形の格子をなしてもよい。具体的には、長手方向に対し、第一傾斜部71の傾斜角度θを45°よりも大きい角度(45°<θ)とし、第二傾斜部72の傾斜角度θを-45°よりも小さい角度(θ<-45°)とすればよい。この場合、長手面積Ayを増加させやすくなることから、肛門対向部11から長手方向への軟便の拡散を抑えやすくすることができる。また、これとは反対に、凹部70は、長手方向よりも幅方向に短いひし形の格子をなしてもよい。具体的には、長手方向に対し、第一傾斜部71の傾斜角度θを45°よりも小さい角度(θ<45°)とし、第二傾斜部72の傾斜角度θを-45°よりも大きい角度(-45°<θ)とすればよい。この場合、幅面積Axを増加させやすくなることから、肛門対向部11から幅方向への軟便の拡散を抑えやすくすることができる。
【0068】
上述した凹部70によれば、凹部70の延在箇所で吸収体20やこれに加えてトップシート31及びバックシート32、延いては紙おむつ100が折れ曲がりやすくなり、着用者に対する紙おむつ100のフィット性が確保される。また、凹部70を通じて空気が流通することで、通気性が確保される。また、凹部70に沿って排泄水分を拡散させることで、吸収体20及び吸収性コア21の吸収箇所を全体に分散させることにより、吸収体20及び吸収性コア21の吸収力及び保持力を高めることができる。
【0069】
積層体10及び凹部70の形成方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法を適用しうる。まず、高吸収性ポリマー22及び繊維材料23を含む吸収性材料を堆積してマット状の吸収性コア21を作成する。次に、この吸収性コア21をラップシート24で被覆することで、吸収体20を得る。続いて、この吸収体20に、トップシート31及びバックシート32を積層することで、積層体10を得る。さらに、積層体10を厚み方向へ圧搾することにより凹部70(圧搾部、圧搾溝)を形成する。
【0070】
この場合、凹部70は、積層体10を厚み方向(積層方向)にプレス成形することで設けることができる。具体的には、積層された吸収体20とトップシート31とを所定の形状(パターン)の凸型で、肌対向面側からプレス(圧縮)する。これにより、吸収体20及びトップシート31に加えて、積層体10のプレス箇所における含有空気が圧搾される。そして、吸収性コア21とラップシート24とトップシート31とが噛み合って固着した凹部70が成形(外挿)される。
【0071】
凹部70の形状(パターン)は、積層体10をプレスする凸型の形状によって、所望の位置、形状、深さの条件となるように形成することができる。このとき、凸型を外周に有する成形ロールを用いて、積層体10を搬送させながら、搬送速度に応じた速度で成形ロールを回転させて積層体10をプレスしてもよい。これにより、凹部70を連続的に形成することができる。また、このように積層体10を厚み方向に圧搾することで形成された圧搾部を凹部70とすれば、凹部70を比較的容易に形成することができるとともに、上述したような凹部70の各寸法の設定を精度よく実現することができる。
【0072】
なお、上記のように凸型を用いる方法に代えて、以下の方法を適用してもよい。まず、高吸収性ポリマー22及び繊維材料23を含む吸収性材料を、凹部70の位置に少なく(薄く)堆積するとともに、その他の部分に多く(厚く)堆積して、マット状の吸収性コア21を作成する。次に、この吸収性コア21をラップシート24で被覆することで吸収体20を得る。そして、この吸収体20にトップシート31及びバックシート32を積層すれば、凹部70が設けられた積層体10を形成することができる。
【0073】
凹部70の形状を維持するために、トップシート31、ラップシート24、吸収性コア21における凹部70の位置に、接着部が形成されてもよい。接着部では、積層体10に含まれるラップシート24、肌対向面側及び肌非対向面側のトップシート31、バックシート32から選ばれる少なくとも2以上のシートが接着される。接着部は、例えば、ホットメルト接着剤、ヒートシール、超音波溶着等の公知の手法により形成することができる。なお、上記の説明では、凹部70が積層体10の肌対向面側に設けられている場合を例に挙げて説明したが、凹部70の構成はこれに限定されず、肌対向面側及び肌非対向面側の両面に設けられていてもよい。
【0074】
[2.作用及び効果]
本実施形態の紙おむつ100は、上述したように構成されるため、下記のような作用及び効果を得ることができる。
【0075】
通常、軟便は、吸収体に吸収され難いため、積層体の肌対向面側に付着すると積層体の表面を拡がる。そして、軟便が積層体の外側まで拡がって紙おむつから漏れ出すことがあった。これに対して、積層体の肌対向面側に凸部と凹部とを有するエンボス形状を形成し、この凹部を利用して軟便の拡がりを抑える技術が提案されている。この技術によれば、積層体の表面がフラットな状態と比べて、軟便の拡散を抑えられるとされている。
【0076】
しかしながら、この技術を適用した紙おむつでは、軟便の様々な拡がり方に対応できないことがあった。すなわち、軟便の拡がり方は、着用者の姿勢や動作、身体の形状やサイズといった種々の要素によって変わるのに対し、従来の紙おむつを用いた場合、軟便の拡がり方によって、軟便の拡散を良好に抑制できる場合とそうでない場合との差が大きかった。言い換えると、従来の紙おむつでは、使用状態によって軟便の拡散面積に大きなばらつきが生じていた。このため、軟便の拡散面積が大きくなると、軟便の漏れを防止できなかった。
【0077】
これに対し、紙おむつ100では、積層体10の肌対向面側に溝状の凹部70が格子状に設けられており、凹部70の円内容積Vaと長手面積Ayと幅面積Axとが、それぞれ所定の範囲内に設定されている。これにより、軟便が肛門対向部11から如何なる拡がり方をする場合であっても、軟便の拡散を抑制することができる。このため、使用状態によらず、軟便の拡散面積を小さく抑えることができる。よって、軟便の漏れを安定して抑えることができる。
【0078】
具体的には、軟便は、肛門対向部11から外側へ拡がるときに、凹部70に入り込むことで凹部70内に保持される。言い換えると、軟便は、凹部70を通過する際にその進行が一旦止められる。このため、軟便は、凹部70を通過するごとに拡散が抑制される。紙おむつ100では、円内容積Vaが上記範囲内であるため、肛門対向部11から外側への軟便の拡がりを、まず円形領域10Aにて良好に抑えることができる。これに加え、長手面積Ayが上記範囲内であることにより、肛門対向部11から長手方向への軟便の拡散も良好に抑えられるとともに、幅面積Axが上記範囲内であることにより、肛門対向部11から幅方向への軟便の拡散も良好に抑えられる。
【0079】
したがって、紙おむつ100によれば、軟便が肛門対向部11から如何なる拡がり方をする場合であっても、軟便の拡散面積を小さく抑えることができる。このため、使用状態によらず、軟便の漏れを安定して防止しやすくすることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
==軟便の拡散抑制性能==
〔実施例1~9〕
図1に示す紙おむつ100を実施例1~9とした。実施例1~9の紙おむつ100の主要な部位、構成の各寸法は下記の通りである。
・前身頃2及び後身頃4の幅方向の長さ: 110mm
・股下部3の幅方向の長さ : 80mm
・積層体10の長手方向の長さ : 390mm
・積層体10の幅方向の長さ : 180mm
・吸収体20の長手方向の長さ : 330mm
【0082】
実施例1~9の紙おむつ100では、長手方向に対する各第一傾斜部71の傾斜角度θが45°であり、長手方向に対する各第二傾斜部72の傾斜角度θが-45°である。すなわち、凹部70は、第一傾斜部71と第二傾斜部72とが90°で交差する(互いに直交する)ことで格子状に設けられている。このように、実施例1~9では、長手方向に対する第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各傾斜角度θが上記範囲内の値である。なお、凹部70は上述したように凸型を用いて形成された圧搾部である。
【0083】
実施例1~9の紙おむつ100において、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wは2mmであり、各深さDは6mmである。このように、実施例1~9では、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wと各深さDとが、それぞれ上記範囲内の値である。
【0084】
また、実施例1~9の紙おむつ100において、凹部70に関する各種パラメータは下記の表1に示す通りである。表1に示すように、実施例1~9では、円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axが、いずれも上記範囲内の値である。
【0085】
〔実施例10~15〕
図6に示す紙おむつ200を実施例10~15とした。実施例10~15の紙おむつ200は、実施例1~9の紙おむつ100と基本的には同一の構造であるが、実施例1~9の紙おむつ100と比べて全体的に大きく形成されており、凹部70の構造が異なっている。実施例10~15の紙おむつ200の主要な部位、構成の各寸法は下記の通りである。
・前身頃2及び後身頃4の幅方向の長さ: 115mm
・股下部3の幅方向の長さ : 90mm
・積層体10の長手方向の長さ : 430mm
・積層体10の幅方向の長さ : 190mm
・吸収体20の長手方向の長さ : 360mm
【0086】
実施例1~9と同様に、実施例10~15の紙おむつ200でも、長手方向に対する各第一傾斜部71の傾斜角度θは45°であり、長手方向に対する各第二傾斜部72の傾斜角度θは-45°であり、凹部70は凸型を用いて形成された圧搾部である。すなわち、実施例2でも、長手方向に対する第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各傾斜角度θは上記範囲内の値である。
【0087】
実施例10~15の紙おむつ200において、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wは3mmであり、各深さDは6mmである。このように、実施例10~15でも、第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各幅Wと各深さDとは、それぞれ上記範囲内の値である。
【0088】
また、実施例10~15の紙おむつ200において、凹部70に関する各種パラメータは下記の表1に示す通りである。表1に示すように、実施例10~15でも、円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、いずれも上記範囲内の値である。
【0089】
〔比較例1~26〕
実施例1の紙おむつ100に対し、凹部70に関する各種パラメータを下記の表1に示す通りに変更したものを比較例1~26とした。すなわち、比較例1~26の紙おむつは、実施例1の紙おむつ100に対して、円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axの少なくともいずれかが上記範囲外の値となるように、第一傾斜部及び第二傾斜部に関する各種パラメータ(傾斜角度θ、幅W、深さD等)を変更したものである。
【0090】
〔比較例27~35〕
実施例10の紙おむつ200に対し、凹部70に関する各種パラメータを下記の表1に示す通りに変更したものを比較例27~35とした。すなわち、比較例27~35の紙おむつは、実施例10の紙おむつ200に対して、円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axの少なくともいずれかが上記範囲外の値となるように、第一傾斜部及び第二傾斜部に関する各種パラメータ(傾斜角度θ、幅W、深さD等)を変更したものである。
【0091】
〔評価手法〕
上記の実施例1~15及び比較例1~35の各紙おむつについて、下記の試験及び判定を行い、軟便の拡散抑制性能の評価を行った。
【0092】
<試験>
ベントナイト〔和光純薬工業(株)社製、《製品名・型番ベントナイト》〕60gと水440mlとを混合して、軟便サンプルを作成した。各実施例、比較例の紙おむつを広げ、積層体の肌対向面側を露出させて平板に貼り付け、評価用サンプルとした。軟便サンプル20gを肛門対向部上に配置し、その上に透明樹脂フィルムを敷いた。さらに、2kgのローラーを用いて、透明樹脂フィルムの上から軟便サンプルを背側の端部へ向けて押し広げるように手動で1回押圧して軟便サンプルを伸ばした。そして、軟便サンプルが拡散した面積を測定した。
各実施例、比較例の評価用サンプルについて、上記の試験を7回行った。
【0093】
<判定>
各実施例、比較例について、7回の上記試験で得られた7つの拡散面積から、その平均値x及び標準偏差σ(拡散面積のばらつき)を算出し、算出した平均値x及び標準偏差σから変動係数CV(CV=σ/x)を算出した。そして、算出された平均値x及び変動係数CVに基づいて、軟便の拡散抑制性能を判定した。具体的には、拡散面積の平均値xが小さいほど、また、変動係数CVが小さいほど、軟便の拡散抑制性能が優れているものと判定した。
【0094】
〔評価結果〕
上述した評価手法による軟便の拡散抑制性能の評価結果を、各実施例、比較例の各種パラメータ(円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Ax)と共に下記の表1に示す。
【0095】
【0096】
表1から明らかなように、実施例1~15の紙おむつは、比較例1~35の紙おむつと比べて、拡散面積の平均値x及び変動係数CVが共に小さく、軟便の拡散抑制性能に優れていた。具体的には、実施例1~15の紙おむつでは、拡散面積の平均値xが最大でも188mm2(実施例6)に抑えられ、変動係数CVが最大でも0.203(実施例5)に抑えられた。これに対し、比較例1~35では、比較例2を除き、変動係数CVがいずれも0.205以上であった。なお、比較例2は、変動係数CVが0.200と小さいものの、拡散面積の平均値xが210mm2であり、実施例1~15のいずれよりも大きかった。この結果から、実施例1~15の紙おむつは、比較例1~35の紙おむつと比べて、軟便の拡散面積が抑えられるとともに、そのばらつきも抑えられ、軟便の漏れを安定して抑えられるものであることが分かる。
【0097】
==硬さ==
〔実施例16、17〕
実施例1の紙おむつ100に対し、凹部70に関する各種パラメータを下記の表2に示す通りに変更したものを実施例16とした。また、実施例10の紙おむつ200に対し、凹部70に関する各種パラメータを下記の表2に示す通りに変更したものを実施例17とした。表2に示すように、実施例16、17では、円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axがいずれも上記範囲内の値であるとともに、上述した円形領域10Aにおける第一傾斜部及び第二傾斜部の最大の長さLmaxが40mm(上記規定の下限値)である。なお、実施例16、17において、長手方向に対する第一傾斜部及び第二傾斜部の各傾斜角度θと、上述した幅W及び深さDとは、それぞれ上記範囲内の値である。
【0098】
〔実施例18~21〕
実施例16、17に対し、最大の長さLmaxを上記規定に沿う60mmとしたものを、それぞれ実施例18、19とした。また、実施例16、17に対し、最大の長さLmaxを上記規定に沿う80mmとしたものを、それぞれ実施例20、21とした。なお、表2に示すように、実施例18、20の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例16のそれらとそれぞれ同一であり、実施例19、21の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例17のそれらとそれぞれ同一である。また、実施例18~21においても、長手方向に対する第一傾斜部及び第二傾斜部の各傾斜角度θと、上述した幅W及び深さDとは、それぞれ上記範囲内の値である。
【0099】
〔比較例36~39〕
実施例16、17に対し、最大の長さLmaxを上記規定外の10mmとしたものを、それぞれ比較例36、37とした。また、実施例16、17に対し、最大の長さLmaxを上記規定外の30mmとしたものを、それぞれ比較例38、39とした。なお、表2に示すように、比較例36、38の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例16のそれらとそれぞれ同一であり、比較例37、39の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例17のそれらとそれぞれ同一である。
【0100】
〔評価手法〕
上記の実施例16~21及び比較例36~39の各紙おむつについて、下記の試験及び判定を行い、硬さの評価を行った。
【0101】
<試験>
10名の被験者が下記の2種類の官能試験(試験1、2)を行った。
試験1: 各実施例、比較例の紙おむつの肌対向面側を触診し、高吸収性ポリマーの存在(つぶつぶ感)を感じるか否かを評価した。
試験2: 各実施例、比較例の紙おむつと、これらの紙おむつから凹部をなくした比較用サンプルとの各肌対向面側を触診し、各実施例、比較例の紙おむつが比較用サンプルと比較して硬いと感じるか否かを評価した。
【0102】
<判定>
試験1において「高吸収性ポリマーの存在を感じる」と回答した被験者の人数Npに基づき、各実施例、比較例の紙おむつの硬さ(硬さ1)を下記の通り3段階(○、△、×)で判定した。
○(良) : Np≦1
△(可) : 2≦Np≦5
×(不可): 6≦Np
【0103】
同様に、試験2において「比較用サンプルよりも硬いと感じる」と回答した被験者の人数Nsに基づき、各実施例、比較例の紙おむつの硬さ(硬さ2)を下記の通り3段階(○、△、×)で判定した。
○(良) : Ns≦1
△(可) : 2≦Ns≦5
×(不可): 6≦Ns
【0104】
〔評価結果〕
上述した評価手法による硬さ1、2の評価結果を、各実施例、比較例の各種パラメータ(円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Ax、最大の長さLmax)と共に下記の表2に示す。
【0105】
【0106】
表2から明らかなように、実施例16~21の紙おむつは、比較例36~39の紙おむつと比べて、2種類の官能試験(試験1、2)のいずれにおいても、硬さに関する評価が高かった。この結果から、実施例16~21の紙おむつは、比較例36~39の紙おむつと比べて、触感が柔らかく、良好な着け心地及びフィット性を得られることが分かる。
【0107】
==硬さ、通気性==
〔実施例22、23〕
実施例1の紙おむつ100に対し、凹部70に関する各種パラメータを下記の表3に示す通りに変更したものを実施例22とした。また、実施例10の紙おむつ200に対し、凹部70に関する各種パラメータを下記の表3に示す通りに変更したものを実施例23とした。なお、表3に示すように、実施例22、23では、円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axがいずれも上記範囲内の値であるとともに、第一傾斜部71の間隔M1及び第二傾斜部72の間隔M2がいずれも10mm(上記範囲の下限値)である。なお、実施例22、23において、長手方向に対する第一傾斜部71及び第二傾斜部72の各傾斜角度θと、上述した幅W及び深さDとは、それぞれ上記範囲内の値である。
【0108】
〔実施例24~27〕
実施例22、23に対し、間隔M1、M2を上記範囲内の値である30mmとしたものを、それぞれ実施例24、25とした。また、実施例22、23に対し、間隔M1、M2を上記範囲の上限値である40mmとしたものを、それぞれ実施例26、27とした。なお、表3に示すように、実施例24、26の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例22のそれらとそれぞれ同一であり、実施例25、27の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例23のそれらとそれぞれ同一である。また、実施例24~27においても、長手方向に対する第一傾斜部及び第二傾斜部の各傾斜角度θと、上述した幅W及び深さDとは、それぞれ上記範囲内の値である。
【0109】
〔比較例40~43〕
実施例22、23に対し、間隔M1、M2を、上記範囲を下回る5mmとしたものを、それぞれ比較例40、41とした。また、実施例22、23に対し、間隔M1、M2を、上記範囲を上回る50mmとしたものを、それぞれ比較例42、43とした。なお、表3に示すように、比較例40、42の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例22のそれらとそれぞれ同一であり、比較例41、43の円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Axは、実施例23のそれらとそれぞれ同一である。
【0110】
〔評価手法〕
上記の実施例22~27及び比較例40~43の各紙おむつについて、硬さの評価を上述した評価手法により行った。また、上記の実施例22~27及び比較例40~43の各紙おむつについて、下記の試験及び判定を行い、通気性の評価を行った。
【0111】
<試験>
各実施例、比較例の紙おむつを広げ、積層体の肌対向面側を露出させて画板に固定し、評価用サンプルとした。そして、評価用サンプルに設けられた格子状の凹部の交点に対し、毎分8リットルの空気を当てながら、この交点の圧力(通気抵抗)Pを圧力ゲージで測定した。
【0112】
<判定>
圧力ゲージで測定された圧力Pに基づき、各実施例、比較例の紙おむつの通気性の可否(○、×)を下記のように判定した。
○(可) : P<400Pa
×(不可): 400Pa≦P
【0113】
〔評価結果〕
上述した評価手法による硬さ及び通気性の各評価結果を、各実施例、比較例のパラメータ(円内容積Va、長手面積Ay、幅面積Ax、間隔M1、M2)と共に下記の表3に示す。
【0114】
【0115】
表3から明らかなように、実施例22~27の紙おむつは、硬さ1、2の評価と通気性の評価とがいずれも優れていた。一方、間隔M1、M2が上記範囲を下回る比較例40、41の紙おむつは、硬さ1、2の評価が共に「×」であり、間隔M1、M2が上記範囲を上回る比較例42、43の紙おむつは、通気性の評価が「×」であった。この結果から、間隔M1、M2が上記範囲を下回ると紙おむつが硬く感じられ、間隔M1、M2が上記範囲を上回ると紙おむつの通気性が低下するが、間隔M1、M2が上記範囲内であれば、紙おむつにおいて良好な触感及び通気性を実現でき、優れた着け心地やフィット性を得られるとともに、装着状態での蒸れを抑えられることが分かる。
【0116】
なお、上述した通気性の試験において、実施例22~27の紙おむつで測定された圧力P(いずれも400Pa未満)は、実施例22~27から凹部をなくした紙おむつ(比較用サンプル)で測定された圧力Pと比べて、半分以下の値であった。この結果から、実施例22~27の紙おむつは、凹部を有することにより通気性が格段に高められ、装着状態での蒸れの抑制効果を良好に得られるものといえる。
【符号の説明】
【0117】
2 前身頃
3 股下部
4 後身頃
5 前方サイドフラップ
6 後方サイドフラップ
10 積層体
10A 円形領域
11 肛門対向部
20 吸収体
21 吸収性コア
21A 土手部
24 ラップシート
31 トップシート
32 バックシート
33 サイドシート
35 カバーシート
38 パッチ(フロントパッチ)
41~43 ギャザー
51~53 糸ゴム(伸縮性部材)
60 テープ(ファスニングテープ)
70 凹部
71 第一傾斜部
72 第二傾斜部
100、200 紙おむつ
A 横断面積
Ax 幅面積
Ay 長手面積
CV 変動係数
D 深さ
L 長さ
Lmax 最大の長さ
M1、M2 間隔
S 空間
Va 円内容積
W 幅
x 平均値
XL、YL 直線
σ 標準偏差