(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサの検査方法及び積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 13/00 20130101AFI20220726BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220726BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H01G13/00 361D
H01G13/00 361A
H01G13/00 361Z
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2018195842
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2020-04-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 知之
(72)【発明者】
【氏名】西岡 良直
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕雄
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-152455(JP,A)
【文献】特開2000-228338(JP,A)
【文献】特開2005-223253(JP,A)
【文献】特開2008-180546(JP,A)
【文献】特開平08-227826(JP,A)
【文献】特開2003-107118(JP,A)
【文献】特開2009-295606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層セラミックコンデンサに電圧を印加しながら、前記積層セラミックコンデンサに流れる電流値を測定する測定工程と、
前記測定工程において異常電流が検出された積層セラミックコンデンサを異常と判定する判定工程と、
を備え、
前記測定工程において、前記積層セラミックコンデンサに印加する電圧を、前記積層セラミックコンデンサの定格電圧よりも高い電圧まで上昇させた後に、当該電圧で保持し、その後、前記積層セラミックコンデンサの定格電圧以下の電圧まで低下させ、
前記判定工程では、前記測定工程前には構造欠陥が存在しない前記積層セラミックコンデンサに対して、前記積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように前記積層セラミックコンデンサに電圧を印加して、電圧印加を開始する時間から電圧印加が終了する時間までの全区間において前記積層セラミックコンデンサに流れる電流が前記予め定められた電流値を下回り、かつ、電圧印加中に前記異常電流が1μsec以上、300μsec以下の時間発生した場合には新たなクラックが発生したと判定する、積層セラミックコンデンサの検査方法。
【請求項2】
前記測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に前記積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように、前記積層セラミックコンデンサに印加する電圧を、前記積層セラミックコンデンサの定格電圧よりも高い電圧まで漸増させる、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサの検査方法。
【請求項3】
前記測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に前記積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように、前記積層セラミックコンデンサに印加する電圧を、前記積層セラミックコンデンサの定格電圧よりも高い電圧から定格電圧以下まで漸減させる、請求項1または2に記載の積層セラミックコンデンサの検査方法。
【請求項4】
前記測定工程において、前記積層セラミックコンデンサに正電圧及び負電圧の一方を印加した後に正電圧及び負電圧の他方を印加するサイクルを少なくとも一回行う、請求項1~
3のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサの検査方法及び積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の電子装置に、積層セラミックコンデンサが用いられている。積層セラミックコンデンサは、通常、セラミック素体と、セラミック素体内に配されており、セラミック部を介して対向している第1及び第2の内部電極を有する。積層セラミックコンデンサでは、セラミック素体にデラミネーションなどの構造欠陥が存在すると、電圧印加時に絶縁不良が発生する場合がある。このため、製造された積層セラミックコンデンサに対して、出荷前に、構造欠陥の有無を検査することが行われている。特許文献1では、検査方法の一例として、第1及び第2の内部電極間に高電圧を印加することにより、絶縁不良の原因となり得る構造欠陥の有無を検査する方法が提案されている。第1及び第2の内部電極間に高電圧を印加すると、構造欠陥を有する積層セラミックコンデンサは、絶縁破壊される。このため、積層セラミックコンデンサの電気抵抗が低下し、積層セラミックコンデンサを流れる電流が増大する。よって、第1及び第2の内部電極間に高電圧を印加した後に、第1及び第2の内部電極間に流れる電流をモニタリングすることにより積層セラミックコンデンサの構造欠陥を検査し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、構造欠陥を検査する際に積層セラミックコンデンサに高電圧を印加すると、電歪と呼ばれるセラミックの歪みが顕著となる。このため、積層セラミックコンデンサに新たにクラックが生じることがある。この新たに生じたクラックは、構造欠陥の検査中に生じるものであり、クラックが生じても検査中に絶縁破壊されない場合がある。しかしながら、クラックが存在すると、積層セラミックコンデンサの使用時において、クラックが進展し、絶縁不良が生じるおそれがある。従って、検査工程において生じたクラックも検出する必要がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の検査方法では、構造欠陥を検査するために高電圧を印加したときに生じたクラックを検出することはできない。
【0006】
本発明の主な目的は、構造欠陥の検査中に生じた新たなクラックも高い確実性で検出し得る積層セラミックコンデンサの検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの検査方法では、積層セラミックコンデンサに電圧を印加しながら、積層セラミックコンデンサに流れる電流値を測定する測定工程を行う。測定工程において異常電流が検出された積層セラミックコンデンサを異常と判定する判定工程を行う。測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように積層セラミックコンデンサに電圧を印加する。
【0008】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの検査方法のある特定の局面では、測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように、積層セラミックコンデンサに印加する電圧を、積層セラミックコンデンサの定格電圧よりも高い電圧まで漸増させる。
【0009】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの検査方法の別の特定の局面では、測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように、積層セラミックコンデンサに印加する電圧を、積層セラミックコンデンサの定格電圧よりも高い電圧から定格電圧以下まで漸減させる。
【0010】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの検査方法の他の特定の局面では、測定工程において、積層セラミックコンデンサに印加する電圧を、積層セラミックコンデンサの定格電圧よりも高い電圧まで上昇させた後に、当該電圧で保持し、その後、積層セラミックコンデンサの定格電圧以下の電圧まで低下させる。
【0011】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの検査方法のさらに他の特定の局面では、測定工程において、積層セラミックコンデンサに正電圧及び負電圧の一方を印加した後に正電圧及び負電圧の他方を印加するサイクルを少なくとも一回行う。
【0012】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法では、積層セラミックコンデンサを作製する。積層セラミックコンデンサに電圧を印加しながら、積層セラミックコンデンサに流れる電流値を測定する測定工程を行う。測定工程において異常電流が検出された積層セラミックコンデンサを異常と判定する判定工程を行う。測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサを流れる電流が予め定められた電流値を下回るように積層セラミックコンデンサに電圧を印加する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、構造欠陥の検査中に、新たに生じたクラックも高い確実性で検出し得る積層セラミックコンデンサの検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態における積層セラミックコンデンサの略図的斜視図である。
【
図2】
図1の線II-IIにおける略図的断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)と、積層セラミックコンデンサが良品であった場合に測定される電流(実線)とを表すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)と、積層セラミックコンデンサに短絡不良が発生した場合に測定される電流(実線)とを表すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)と、積層セラミックコンデンサにクラックが発生した場合に測定される電流(実線)とを表すグラフである。
【
図6】第1の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【
図7】第2の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【
図8】第4の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【
図9】第5の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【
図10】第7の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【
図11】第8の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【
図12】第9の変形例における測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧(一点鎖線)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0016】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものである。図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0017】
図1は、本実施形態における積層セラミックコンデンサの略図的斜視図である。
図2は、
図1の線II-IIにおける略図的断面図である。まず、
図1及び
図2を参照しながら、検査対象となる積層セラミックコンデンサの一例について説明する。本発明において、積層セラミックコンデンサは、以下に説明する積層セラミックコンデンサ1に特に限定されない。本発明において、積層セラミックコンデンサは、セラミック素体を有するものである限りにおいて特に限定されない。
【0018】
(積層セラミックコンデンサ1の構成)
図1及び
図2に示されるように、積層セラミックコンデンサ1は、セラミック素体10を備えている。セラミック素体10は、略直方体状である。セラミック素体10は、第1及び第2の主面10a,10bと、第1及び第2の側面10c,10dと、第1及び第2の端面10e,10f(
図2を参照)とを有する。第1及び第2の主面10a,10bは、それぞれ、長さ方向L及び幅方向Wに沿って延びている。第1の主面10aと第2の主面10bとは、互いに平行である。第1及び第2の側面10c,10dは、それぞれ、長さ方向L及び厚み方向Tに沿って延びている。第1の側面10cと第2の側面10dとは、互いに平行である。第1及び第2の端面10e,10fは、それぞれ、幅方向W及び厚み方向Tに沿って延びている。第1の端面10eと第2の端面10fとは互いに平行である。
【0019】
セラミック素体10は、例えば、誘電体セラミックを主成分とする材料により構成することができる。誘電体セラミックの具体例としては、例えば、BaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、CaZrO3などが挙げられる。セラミック素体10には、例えば、Mn化合物、Mg化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、希土類化合物などの副成分を適宜添加してもよい。
【0020】
なお、「略直方体」には、角部や稜線部が面取りされた直方体や、角部や稜線部が丸められた直方体が含まれるものとする。
【0021】
図2に示されるように、セラミック素体10の内部には、複数の内部電極11,12が設けられている。複数の内部電極11,12は、厚み方向Tに沿って積層されている。各内部電極11,12は、長さ方向L及び幅方向Wに平行に設けられている。セラミック素体10の内部において、内部電極11と内部電極12とは、厚み方向Tに沿って交互に設けられている。厚み方向Tにおいて隣り合う内部電極11,12間には、セラミック部15が配されている。すなわち、厚み方向Tにおいて隣り合う内部電極11,12は、セラミック部15を介して対向している。
【0022】
内部電極11は、第1の端面10eに引き出されている。第1の端面10eの上には、外部電極13が設けられている。外部電極13は、内部電極11と電気的に接続されている。
【0023】
内部電極12は、第2の端面10fに引き出されている。第2の端面10fの上には、外部電極14が設けられている。外部電極14は、内部電極12と電気的に接続されている。
【0024】
内部電極11,12及び外部電極13,14は、例えば、Ni,Cu,Ag,Pd,Au,Ag-Pd合金などの適宜の導電材料により構成することができる。
【0025】
(積層セラミックコンデンサ1の製造方法)
積層セラミックコンデンサ1の製造に際しては、まず、積層セラミックコンデンサ1を作製する。その後、下記の検査方法による検査を行う。その検査結果を踏まえ、良品と不良品とに選別する。このようにすることにより、絶縁不良品や検査中に新たに生じたクラックを有する積層セラミックコンデンサの割合が低い、複数の積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0026】
(積層セラミックコンデンサ1の検査方法)
本実施形態における積層セラミックコンデンサ1の検査方法では、検査前に生じていた構造欠陥を有する積層セラミックコンデンサの判別だけでなく、検査中に新たに生じたクラックも高い確実性で検出することができる。
【0027】
具体的には、積層セラミックコンデンサ1に電圧を印加しながら、積層セラミックコンデンサ1に流れる電流値を測定する(測定工程)。測定工程において、異常電流が検出された積層セラミックコンデンサ1を異常(不良品)と判断する(判定工程)。測定工程において、積層セラミックコンデンサ1に構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサ1を流れる電流が予め定められた電流値(制限電流値)を下回るように積層セラミックコンデンサ1に電圧を印加する。予め定められた電流値は、例えば、10mA、30mA、50mAなどの値である。予め定められた電流値は、検査に用いられる電源や回路上に設けられた過電流を防止する機構により設定された電流の制限値であることが好ましい。
【0028】
例えば、積層セラミックコンデンサに印加する電圧を一気に上昇させた場合は、積層セラミックコンデンサに大電流が流れる。このため、積層セラミックコンデンサ1に流れる電流が制限電流値に達する場合がある。一方、本実施形態では、積層セラミックコンデンサ1に印加する電圧を、積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも低い電圧(例えば、0V)から、積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも高い電圧(V1)まで漸増させる。また、積層セラミックコンデンサ1に印加する電圧を、積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも高い電圧(V1)から積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも低い電圧(例えば、0V)まで漸減させる。より具体的には、本実施形態では、積層セラミックコンデンサ1に印加する電圧を、積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも低い電圧(例えば、0V)から、積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも高い電圧(V1)まで漸増させる。その後、積層セラミックコンデンサ1に印加する電圧をV1で所定の時間保持し、その後、積層セラミックコンデンサ1に印加する電圧を、積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも高い電圧(V1)から積層セラミックコンデンサ1の定格電圧よりも低い電圧(例えば、0V)まで漸減させる。このため、積層セラミックコンデンサ1に構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサ1を流れる電流が予め定められた電流値(制限電流値)を下回る。
【0029】
上記のような電圧の印加を行った場合、積層セラミックコンデンサ1に構造欠陥がなければ、積層セラミックコンデンサ1を流れる電流は、
図3の実線で示すグラフのようになる。すなわち、まず、積層セラミックコンデンサ1に対して電圧の印加が開始されると、積層セラミックコンデンサ1への充電が開始する。このため、積層セラミックコンデンサ1を流れる電流値が増大する。
図3においては、電圧を直線的に漸増させている。その後、積層セラミックコンデンサ1のDCバイアス特性に従って電流が漸減する。印加電圧が一定の状態では、積層セラミックコンデンサ1の充電がさらに進み、電流はさらに漸減する。一方、電圧が漸減すると、放電が起こるため、正逆が反対方向の電流が流れる。
図3においては、電圧を直線的に漸減させている。
【0030】
図4に、測定工程において積層セラミックコンデンサに印加される電圧と、積層セラミックコンデンサに短絡不良が発生した場合に測定される電流とを表すグラフを示す。例えば、測定工程の途中で積層セラミックコンデンサ1に短絡不良が発生すると、積層セラミックコンデンサ1を流れる電流値が制限電流値に達し、積層セラミックコンデンサ1への電圧印加が終了するまで、制限電流値の電流が流れる。
図4に示す例では、時間t1において短絡不良が発生したため、時間t1までは、
図3に示す場合と同様に電流値が変化するが、時間t1から積層セラミックコンデンサ1への電圧印加が終了する時間t2までは、積層セラミックコンデンサ1に制限電流値の電流が流れ続ける。仮に、測定工程の実施前から積層セラミックコンデンサ1に短絡不良が発生している場合は、測定工程の全期間において積層セラミックコンデンサ1に制限電流値の電流が流れ続ける。
【0031】
このため、測定工程において、測定された電流値が、制限電流値に達した場合は、測定対象である積層セラミックコンデンサ1に短絡不良があるものと判断することができる。
【0032】
図5に、測定工程において積層セラミックコンデンサに印加する電圧と、積層セラミックコンデンサに短絡不良は発生しなかったものの、クラックが発生した場合に測定される電流とを表すグラフを示す。
図5に示される例では、時間t3において、
図3に示される良品の場合とは異なり、積層セラミックコンデンサ1を流れる電流値の一時的な増大が生じている。すなわち、異常電流が検出されている。本発明者らが鋭意研究した結果、このような異常電流が検出された積層セラミックコンデンサ1には、クラックが発生していることが見いだされた。よって、積層セラミックコンデンサ1を流れる電流が制限電流値に至らないものの、
図5に示されるような異常電流が発生した場合は、測定対象である積層セラミックコンデンサ1にクラックが発生したものと判断することができる。なお、このような異常電流が生じている区間において、積層セラミックコンデンサを流れる電流が制限電流値に達することはあり得る。
【0033】
本実施形態のように、測定工程において、構造欠陥が存在しない場合に積層セラミックコンデンサ1を流れる電流が予め定められた電流値(例えば、制限電流値)を下回るように積層セラミックコンデンサ1に電圧を印加することにより、
図5に示されるような異常電流を正確に検出することが可能となる。従って、絶縁不良が発生していないものの、クラックが発生した積層セラミックコンデンサ1を判別することが可能となる。よって、検査前に生じていた構造欠陥だけでなく、検査中に新たに生じたクラックも高い確実性で検出し得る。また、クラックの検出に、超音波探傷等の他の工程を必要としないため、積層セラミックコンデンサ1の測定工程に要する工数及び時間を低減することができる。
【0034】
一方、測定工程において、例えば電圧を一気に昇圧した場合は、積層セラミックコンデンサに流れる電流が制限電流値に達するため、その時点でクラックが生じたとしても、
図5において観測されるような異常電流のピークは観測されない。電圧印加が開始する時間から電圧印加が終了する時間までの全区間において、積層セラミックコンデンサに流れる電流が制限電流値を下回ることが好ましい。
【0035】
なお、積層セラミックコンデンサ1にクラックが発生した場合に異常電流が流れる理由としては、定かではないが、クラックが発生した瞬間に積層セラミックコンデンサ1の性状が変化するためであると考えられる。
【0036】
本発明において、「異常電流」とは、測定工程において、良品である積層セラミックコンデンサに流れる電流の変化とは異なり、一時的な増大を示す電流のことである。「異常電流」は、例えば、積層セラミックコンデンサが良品である場合には検出されない電流のピーク(正電圧の場合は極大ピーク、負電圧の場合は極小ピーク)である。通常、「異常電流」は急峻なピークとして観測され、電流の増大が観測される時間は1~300μsec程度である。この時間は、測定する積層セラミックコンデンサの静電容量などによって60μsec程度、150μsec程度、200μsec程度などと変化する。
【0037】
本実施形態では、積層セラミックコンデンサ1に印加する電圧を漸増させた後ないし漸減させる前に、一定の電圧で保持する時間を設ける例について説明したが、
図6に示されるように、電圧を漸増させた後に、直ちに電圧を漸減させてもよい。
【0038】
本実施形態では、電圧を漸増する速度、電圧を漸減する速度が、それぞれ一定である例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、
図7及び
図8に示されるように、電圧を漸増する速度、電圧を漸減する速度を、それぞれ変化させてもよい。
図7及び
図8に示す例では、電圧を漸増する速度を、時間と共に低くしている。
図7に示す例では、電圧を漸減する速度を、時間と共に高くしている。
図8に示す例では、電圧を漸減する速度を、時間と共に低くしている。
【0039】
本実施形態では、電圧を漸増させた後に漸減させる例について説明したが、
図9に示されるように、電圧を漸増させた後に、電圧を一気に低下させてもよい。また、電圧を一気に上昇させた後に、電圧を漸減してもよい。好ましくは、電圧を漸増させた後に漸減させる。
【0040】
図10に示されるように、定格電圧以下の電圧まで一気に昇圧した後に、電圧を漸増させ、その後、定格電圧以下の電圧まで漸減した後に、一気に電圧を低下させてもよい。このようにすることにより、クラックが発生する可能性の低い低電圧領域にかかる時間を縮め、測定工程の実施に要する時間を短縮することができる。
【0041】
図11や
図12に示されるように、測定工程において、積層セラミックコンデンサ1に正電圧及び負電圧の一方を印加した後に、正電圧及び負電圧の他方を印加するサイクルを少なくとも一回行ってもよい。例えば、正弦波状の電圧を積層セラミックコンデンサ1に印加してもよい。そうすることにより、積層セラミックコンデンサ1の検査中に新たに生じたクラックをさらに確実に検出することが可能となる。
【0042】
なお、積層セラミックコンデンサ1に流れる電流を測定する電流測定部と、異常電流を検出する異常電流検出部との間に、DCカットフィルタ(ハイパスフィルタ)を配してもよい。そうすることにより、周波数の低い電流変化をカットすることができるため、異常電流の検出が容易となる。
【符号の説明】
【0043】
1…積層セラミックコンデンサ
10…セラミック素体
10a…第1の主面
10b…第2の主面
10c…第1の側面
10d…第2の側面
10e…第1の端面
10f…第2の端面
11,12…内部電極
13,14…外部電極
15…セラミック部