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特許7110988記録部のメンテナンス方法及びインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】記録部のメンテナンス方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20220726BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220726BHJP
   B41J 2/195 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B41J2/165 205
B41J2/01 401
B41J2/195
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018557607
(86)(22)【出願日】2017-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2017040678
(87)【国際公開番号】W WO2018116691
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2016245035
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋田 宏
(72)【発明者】
【氏名】三觜 拓
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129956(JP,A)
【文献】特開2016-155278(JP,A)
【文献】特開2015-155165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0246823(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/165
B41J 2/01
B41J 2/195
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、インクを送液する送液ポンプと、前記送液ポンプと前記所定数の記録部との間を繋ぐインク流路と、前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、を備えるインクジェット記録装置における記録部のメンテナンス方法であって、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定める送液量設定ステップ、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせる送液対象切替ステップ、
前記選択された記録部に対し、前記基準範囲内のインク圧力を前記基準時間維持するのに必要な継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させる加圧実行ステップ
を含み、
前記送液量設定ステップは、前記選択された記録部の数及び送液させるインクの粘度に係る情報に基づいて前記送液量を定める
記録部のメンテナンス方法。
【請求項2】
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、インクを送液する送液ポンプと、前記送液ポンプと前記所定数の記録部との間を繋ぐインク流路と、前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、を備えるインクジェット記録装置における記録部のメンテナンス方法であって、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定める送液量設定ステップ、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせる送液対象切替ステップ、
前記選択された記録部に対し、前記基準範囲内のインク圧力を前記基準時間維持するのに必要な継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させる加圧実行ステップ
を含み、
前記送液量設定ステップは、前記選択された記録部の数及び送液させるインクの温度に基づいて前記送液量を定める
記録部のメンテナンス方法。
【請求項3】
送液の対象として設定された前記記録部の数が所定の上限数より多い場合には、当該設定された記録部をそれぞれ前記上限数以下の複数の組に分割して当該複数の組の数に応じた回数の選択を行う送液対象選択ステップ
を含む請求項1又は2記載の記録部のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記送液対象選択ステップは、
前記設定された記録部を前記複数の組に分割して選択を行う場合には、当該複数の組に分割した場合の各々で送液開始からインク圧力が前記基準範囲内に達するまでの圧力遷移時間の合計が最小となるように分割を行う
請求項記載の記録部のメンテナンス方法。
【請求項5】
前記送液対象選択ステップは、
前記設定された記録部を前記複数の組に分割して選択を行う場合には、当該複数の組で各々選択される記録部の数が何れも所定の下限数以上となるように分割を行う
請求項記載の記録部のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記加圧実行ステップは、インク圧力を計測する圧力センサーの計測値に基づいて前記継続時間の経過タイミングを定める請求項1~の何れか一項に記載の記録部のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記加圧実行ステップは、前記圧力センサーの計測値が前記所定の基準範囲内で前記基準時間維持されたタイミングで前記送液を終了する請求項記載の記録部のメンテナンス方法。
【請求項8】
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、
インクを送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプと前記所定数の記録部とを繋ぐインク流路と、
前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、
前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定め、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせ、
前記基準範囲内のインク圧力が前記基準時間維持される継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させ、
前記選択された記録部の数及び送液させるインクの粘度に係る情報に基づいて前記送液量を定める
インクジェット記録装置。
【請求項9】
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、
インクを送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプと前記所定数の記録部とを繋ぐインク流路と、
前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、
前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定め、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせ、
前記基準範囲内のインク圧力が前記基準時間維持される継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させ、
前記選択された記録部の数及び送液させるインクの温度に基づいて前記送液量を定める
インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、記録部のメンテナンス方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のノズルからインクを吐出させて記録媒体上に着弾させて画像を記録するインクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置では、画像記録の高速化や高精度化の要求に従って、多くのノズルが配列されたものがある。インクジェット記録装置においてノズルの数を増やす場合には、所定数のノズルが配列されたインクジェットヘッド(記録部)を複数個配列する技術が広く用いられている。
【0003】
このインクジェット記録装置では、ノズルの開口部から適切なタイミングで適正な速度及び量のインクを吐出させる必要がある。このために、ノズル付近でのインクの圧力などに応じて、インクを貯留するインクタンクからノズルや背圧を生成するタンクなどに対して適切な量のインクをポンプにより送液させる技術が知られている(特許文献1)。また、このとき、インクの温度に従って送液量(送液速度)を変化させて、粘度に応じた送液量の変化を低減させる技術がある(特許文献2)。
【0004】
一方、インクジェット記録装置では、ノズルやインク流路に詰まりが生じたり空気が混入したりすると、インクが適正に吐出されずに記録画像の画質が悪化することになる。これに対し、従来、定期的に、所定の条件で、及びユーザーによる操作に基づく命令などに従ってノズルからインクを吐出させたり、記録部から更にインクをインクタンクに戻す流路を設けてインクを循環させたりすることで、増粘したインクや混入した異物、空気などを押し流すメンテナンス技術が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-87983号公報
【文献】特開2011-178060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ノズルから空気や異物を押し流す場合には、押し流し動作に適切な圧力がインクに印加される必要がある。一方で、常に全てのノズルの開口部から加圧したインクを外部に流出させると、インクの漏出量が増加して無駄が多いという課題がある。
【0007】
この発明の目的は、不要なインクの漏出による無駄を低減させながら対象の記録部内で効果的にインクを加圧することの出来る記録部のメンテナンス方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、インクを送液する送液ポンプと、前記送液ポンプと前記所定数の記録部との間を繋ぐインク流路と、前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、を備えるインクジェット記録装置における記録部のメンテナンス方法であって、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定める送液量設定ステップ、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせる送液対象切替ステップ、
前記選択された記録部に対し、前記基準範囲内のインク圧力を前記基準時間維持するのに必要な継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させる加圧実行ステップ
を含み、
前記送液量設定ステップは、前記選択された記録部の数及び送液させるインクの粘度に係る情報に基づいて前記送液量を定める。
また、請求項2記載の発明は、
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、インクを送液する送液ポンプと、前記送液ポンプと前記所定数の記録部との間を繋ぐインク流路と、前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、を備えるインクジェット記録装置における記録部のメンテナンス方法であって、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定める送液量設定ステップ、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせる送液対象切替ステップ、
前記選択された記録部に対し、前記基準範囲内のインク圧力を前記基準時間維持するのに必要な継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させる加圧実行ステップ
を含み、
前記送液量設定ステップは、前記選択された記録部の数及び送液させるインクの温度に基づいて前記送液量を定める。
【0010】
また、請求項記載の発明は、請求項1又は2記載の記録部のメンテナンス方法において、
送液の対象として設定された前記記録部の数が所定の上限数より多い場合には、当該設定された記録部をそれぞれ前記上限数以下の複数の組に分割して当該複数の組の数に応じた回数の選択を行う送液対象選択ステップ
を含む。
【0011】
また、請求項記載の発明は、請求項記載の記録部のメンテナンス方法において、
前記送液対象選択ステップは、
前記設定された記録部を前記複数の組に分割して選択を行う場合には、当該複数の組に分割した場合の各々で送液開始からインク圧力が前記基準範囲内に達するまでの圧力遷移時間の合計が最小となるように分割を行う。
【0012】
また、請求項記載の発明は、請求項記載の記録部のメンテナンス方法において、
前記送液対象選択ステップは、
前記設定された記録部を前記複数の組に分割して選択を行う場合には、当該複数の組で各々選択される記録部の数が何れも所定の下限数以上となるように分割を行う。
【0015】
また、請求項記載の発明は、請求項1~の何れか一項に記載の記録部のメンテナンス方法において、
前記加圧実行ステップは、インク圧力を計測する圧力センサーの計測値に基づいて前記継続時間の経過タイミングを定める。
【0016】
また、請求項記載の発明は、請求項記載の記録部のメンテナンス方法において、
前記加圧実行ステップは、前記圧力センサーの計測値が前記所定の基準範囲内で前記基準時間維持されたタイミングで前記送液を終了する。
【0017】
また、請求項記載の発明は、
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、
インクを送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプと前記所定数の記録部とを繋ぐインク流路と、
前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、
前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定め、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせ、
前記基準範囲内のインク圧力が前記基準時間維持される継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させ、
前記選択された記録部の数及び送液させるインクの粘度に係る情報に基づいて前記送液量を定める
インクジェット記録装置である。
また、請求項9記載の発明は、
インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数の記録部と、
インクを送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプと前記所定数の記録部とを繋ぐインク流路と、
前記インク流路において前記所定数の記録部の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える前記所定数の切替部と、
前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記所定数の記録部のうち選択された記録部におけるインク圧力が所定の加圧状態の基準範囲内に上昇した後、当該基準範囲内で基準時間維持されるように、前記送液ポンプによる単位時間当たりの送液量を定め、
前記所定数の記録部の選択有無に応じて前記所定数の切替部によるインク供給可否を切り替えさせ、
前記基準範囲内のインク圧力が前記基準時間維持される継続時間に亘り定められた前記送液量で前記送液ポンプにより送液させ、
前記選択された記録部の数及び送液させるインクの温度に基づいて前記送液量を定める
インクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うと、インクジェット記録装置において不要なインクの漏出による無駄を低減させながら対象の記録部内で効果的にインクを加圧することが出来るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の全体斜視図である。
図2】インクジェット記録装置におけるインク流路に係る構成を説明する図である。
図3】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
図4A】加圧メンテナンス処理におけるインクジェットヘッド内のインク圧力の変化を説明する図である。
図4B】加圧メンテナンス処理におけるインクジェットヘッド内のインク圧力の変化を説明する図である。
図5A】加圧メンテナンス処理において加圧対象のインクジェットヘッドにおける圧力上昇に係る設定について説明する図表である。
図5B】加圧メンテナンス処理において加圧対象のインクジェットヘッドにおける圧力上昇に係る設定について説明する図表である。
図6】本実施形態のインクジェット記録装置で実行されるヘッド異常検出処理の制御手順を示すフローチャートである。
図7】ヘッド異常検出処理で呼び出される個別メンテナンス処理の制御手順を示すフローチャートである。
図8】個別メンテナンス処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態のインクジェット記録装置100の全体斜視図である。
【0021】
このインクジェット記録装置100は、複数のラインヘッドを有し、ワンパス方式で画像の記録を行うものであって、搬送部10と、画像形成部20と、インク貯留部30などを備える。
【0022】
搬送部10は、駆動ローラー11と、搬送モーター12と、搬送ベルト14などを備える。搬送モーター12は、駆動ローラー11を所定の速度で回転動作させる。駆動ローラー11には、図示略の従動ローラーと共に無端状の搬送ベルト14が巻回されて、当該駆動ローラー11の回転により搬送ベルト14が周回移動する。この搬送ベルト14の外側面を搬送面として当該搬送面上に記録媒体が載置されて、記録媒体は、搬送ベルト14の周回移動に伴って搬送方向に搬送される。
【0023】
画像形成部20は、キャリッジ22と、キャリッジ昇降部23と、読取部24などを備える。キャリッジ22とキャリッジ昇降部23との組み合わせは、インクの色数に応じた組数(ここでは8組)設けられている。キャリッジ22は、それぞれ、搬送部10による記録媒体の搬送方向(x方向)と交差する向き、ここでは直交する幅方向(y方向)に延在して、搬送部10による記録媒体の搬送面の上方(z方向)に配置され、搬送される記録媒体の全幅に亘ってノズルの開口部からインクの液滴を吐出可能に複数のインクジェットヘッド211(図2参照)が固定されてラインヘッド構造をなしている。各インクジェットヘッド211が有するノズルの数は、記録解像度やインクジェットヘッド211のサイズなどに応じて適宜定められる。複数のキャリッジ22は、搬送方向に互いに異なる位置に設けられている。キャリッジ22は、キャリッジ昇降部23により搬送面から上方への距離が変更可能に設けられ、キャリッジ22の移動に伴ってインクジェットヘッド211も搬送面からの距離が変更される。
【0024】
キャリッジ昇降部23は、キャリッジ22の搬送面からの距離を変更させる。キャリッジ昇降部23は、昇降モーター232と、電磁ブレーキ233と、梁部材234と、支持部235などを備える。
梁部材234は、搬送ベルト14の上部(記録媒体の搬送面側)において搬送方向と交差する向き(ここでは直交する向き、即ち幅方向)で略平行に二本設けられ、当該梁部材234の両端にそれぞれ支持部235が固定される。支持部235には、昇降モーター232、電磁ブレーキ233及びキャリッジ22が取り付けられている。
キャリッジ22は、制御部40(図3参照)からの制御信号に基づいて駆動される昇降モーター232及び電磁ブレーキ233の動作に応じて上下されて位置が定められる。
【0025】
昇降モーター232は、所定の昇降速度でキャリッジ22を移動させる。昇降モーター232としては、例えば、サーボモーターやステッピングモーターが用いられる。
【0026】
電磁ブレーキ233は、キャリッジ22の固定状態を維持するものであり、駆動信号に応じてこの固定状態が解除されることで、昇降モーター232によるキャリッジ22の移動を一時的に可能とする。即ち、電源切断時を含めた通常の状態では、電磁ブレーキ233は、キャリッジ22を固定する。電磁ブレーキ233としては、例えば、ディスクブレーキが用いられる。
【0027】
読取部24は、記録媒体上に記録された画像の読み取りを行う。読取部24は、記録媒体の記録可能幅に亘って記録媒体表面を撮像可能に配列された撮像素子を有するラインセンサーを備える。ラインセンサーとしては、CCDセンサーやCMOSセンサーなどの周知のものが用いられる。記録媒体を搬送方向に搬送させながらラインセンサーにより幅方向に順次撮像していくことで、記録媒体上を二次元撮像することが可能になっており、撮像データは、順次制御部40に送られて、記録画像の検査などに用いられる。
【0028】
インク貯留部30は、画像記録に用いられる各色のインクを貯え、インクジェットヘッド211に供給する。インク貯留部30の各構成は、ここでは、専用のラック35などに配置されて、チューブなどの配管を介して画像形成部20と接続されている。
【0029】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置100におけるインク貯留部30から画像形成部20にかけてのインク流路に係る構成について説明する。
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置100におけるインク流路に係る構成を説明する図である。
【0030】
インク貯留部30は、メインタンク31と、供給ポンプ32などを備える。
メインタンク31は、インク色ごとに各々設けられて、ラック35に配列されている。メインタンク31のインクは、供給ポンプ32により画像形成部20に送液される。メインタンク31は、その全体を交換可能となっており、供給ポンプ32の動作状態に拘わらず供給ポンプ32へのインク流路と着脱可能に形成されている。即ち、供給ポンプ32を動作状態としたままメインタンク31が取り付けられることで、即座にインクの画像形成部20への送液が再開される。
供給ポンプ32としては、特に限られないが、例えば、ダイヤフラムポンプやチューブポンプなどが用いられ得る。
【0031】
画像形成部20では、供給ポンプ32によりメインタンク31から送液されたインクがサブタンク251(貯留部)に貯留される。このサブタンク251に対し、当該サブタンク251から送出されたインクがインクジェットヘッド211に到達した後、再びサブタンク251に戻るインク流路が設けられている。
【0032】
サブタンク251からインクジェットヘッド211までのインク流路には、流量計252と、送液ポンプ253(送液部)と、フィルター254と、脱気モジュール255と、送液共通流路256とが設けられている。送液共通流路256からは、複数の個別流路257が分岐しており、各々個別供給バルブ258(切替部)と、ダンパー259とを通ってインクがインクジェットヘッド211に送られる。各ダンパー259には、各々2つずつインクジェットヘッド211が接続されており、同一のダンパー259に接続された2つのインクジェットヘッド211によりヘッドユニット21(記録部)が構成される。送液共通流路256には、インク圧センサー256a(圧力センサー)が設けられており、インクの液圧を計測して計測値に応じた信号を制御部40(図3参照)に出力する。インク圧センサーは、送液共通流路256に限られず、後述の個別メンテナンス処理の際に送液ポンプ253からインクジェットヘッド211(個別供給バルブ258の開放時)までの間でインクの圧力が計測可能な位置に設けられていれば良い。
【0033】
脱気モジュール255と送液共通流路256との間では、インク流路は、中間タンク流路260とメンテナンス流路265とに分岐している。中間タンク流路260には、中間タンク流通バルブ261と、中間タンク262と、共通供給バルブ263などが設けられている。
メンテナンス流路265には、メンテナンス流路流通バルブ266が設けられている。
【0034】
インクジェットヘッド211の回収口(アウトレット)からサブタンク251までの回収流路27では、先ず、ダンパー259でそれぞれ分岐した2つのインクジェットヘッド211から排出されたインクの流路が合流した後に、逆止弁271を経て回収共通流路272に合流する。そして、回収共通流路272から回収バルブ273と循環バルブ274とを経てサブタンク251にインクが戻される。また、循環バルブ274に対して並列に回収ポンプ275が設けられている。
【0035】
送液共通流路256におけるインク流入側端部とは反対側の端部は、バイパスバルブ270を介して回収バルブ273の下流側に直接接続されている。
また、送液ポンプ253とフィルター254との間、メンテナンス流路265のメンテナンス流路流通バルブ266より下流側、及び中間タンク流路260の中間タンク流通バルブ261より下流側には、各々逆止弁281、282、283を経てサブタンク251へインクを戻す解放流路が設けられている。送液ポンプ253によりサブタンク251から送られたインクがフィルター254、脱気モジュール255、中間タンク262や送液共通流路256などの不具合によりインクジェットヘッド211へ流れない場合や流せない場合などに送液流路の途中で滞留するインクが増加してインクの圧力が上昇した際に、このインクの圧力が所定の圧力閾値を超えると、これらリリーフ弁としての逆止弁281~283が開放されてインクをサブタンク251に戻すことが出来る。
【0036】
サブタンク251の容量は、特には限られないが、ここでは、メインタンク31の容量よりも小さい。サブタンク251には、インク貯留量を検出するための液量センサー251aと、貯留されているインクの温度を計測する温度センサー251bとが設けられている。
【0037】
ここでは、液量センサー251aは、メインタンク31からサブタンク251への供給ポンプ32によるインクの供給有無を決定するための標準貯留量のインクが貯留されているか否かを検出する。液量センサー251aは、これに限られず、標準貯留量を挟んで上限貯留量及び下限貯留量を各々検出する2つのセンサーであっても良いし、一つのセンサーが貯留量を検出して出力するものであっても良い。
【0038】
温度センサー251bは、インクの温度を計測して制御部40(図3参照)に出力する。或いは、インクの温度とサブタンク251の温度とで大きな差が生じない場合には、温度センサー251bは、サブタンク251の壁面温度などを計測しても良い。
本実施形態のインクジェット記録装置100では、サブタンク251は、大気開放されており、インクにかかる圧力は、通常ではほぼ大気圧に保たれる。
【0039】
流量計252は、サブタンク251から送液ポンプ253によりインクジェットヘッド211側に送液される送液量を検出して出力する。この流量計252の計測値は、ここでは、操作表示部42(図3参照)によるステータス表示や履歴情報の保持の際に用いられるものであって、異常検出などには用いられないが、送液異常の検出などに用いることとしても良い。
【0040】
送液ポンプ253は、サブタンク251の内部のインクを所定の送液速度(単位時間当たりの送液量)でフィルター254やその下流側、即ち、インクジェットヘッド211の側へ送出(送液)する。ここでは、送液ポンプ253は、サブタンク251に対して一つ設けられて全てのインクジェットヘッド211にインクを供給している。或いは、インクジェットヘッド211(ヘッドユニット21)を所定数ごとに複数のブロックに区分けして各々別個の送液ポンプ253によりサブタンク251からインクが供給されることとしても良い。送液ポンプ253の送液能力は、画像記録動作に伴う全インクジェットヘッド211による単位時間当たり最大のインク吐出量を十分に供給可能であり、更に、所定の上限数(特には限られないが、ここでは8個)のヘッドユニット21(16個のインクジェットヘッド)におけるインクを通常の圧力より高い基準範囲の圧力に上昇させて加圧状態とさせることが可能となっている。送液ポンプ253には、供給ポンプ32と等しいものが用いられても良い。送液ポンプ253の送液速度は、所定の電源電圧Vccからの入力を用いて制御信号に基づいてDAC253aから送液ポンプ253に入力される駆動電圧に応じて変更可能であり、制御部40(図3参照)の制御信号に基づいてこの駆動電圧が制御される。
【0041】
フィルター254は、インク中のゴミや塵などの異物、夾雑物、及び大きな気泡などを取り除く。上述のようにサブタンク251が大気開放されており、これらの異物、夾雑物や気泡が混入し得る。従って、フィルター254によりこれらがインクジェットヘッド211へ送られるのを防ぐ。なお、このフィルター254などには、通常のインク送液状態では構造上空気が残留するエリアが生じやすい。
【0042】
脱気モジュール255は、インク中に含まれる空気(気体)を取り除く。脱気モジュール255としては、例えば、脱気膜を介してインクと真空領域とを接触させることで、インク中の空気を真空領域側に選択的に吸引させる構造が用いられる。脱気膜としては、インクとの接触面積を効率良く増加させてより均等にインクと接触させるために、例えば、内部が真空状態とされた多数の中空状の微細糸構造とすることが出来る。
ここでは、真空ポンプ293により脱気モジュール255の真空領域側の空気が吸引されている。ここでいう真空領域は、必ずしも超高真空である必要はなく、大気圧より十分に低い所定の気圧が予め設定される。圧力センサー294が真空領域側の気圧を計測し、当該圧力センサー294の計測値に応じて真空ポンプ293の動作が制御される。
【0043】
脱気モジュール255の真空領域側は、逆止弁291を介してチャンバー292に繋がっている。脱気膜を僅かに透過したり、或いは脱気膜が破れた場合などに一気に真空領域側に漏出したりしたインクは、チャンバー292の底部に流入して貯留される。このチャンバー292の底部に溜まったインクの量が液量センサー292aにより検出されることで、異常量の漏出有無が判断され、異常検出時には、真空ポンプ293や各部の動作が停止されたり、真空領域が大気連通されたりする。このように、チャンバー292が漏出インクのトラップとして用いられ、当該漏出インクを真空ポンプ293に到達させないことで、真空ポンプ293の故障や破損を防止している。
【0044】
液量センサー292aとしては、直接液量を計測するものの他、チャンバー292の重量変化を計測したり、当該重量変化に応じて変化する部材、例えば、チャンバー292の重量に応じた荷重により変形するアクチュエーターから当該変形に応じて出力される信号を光学的、電気的又は磁気的に計測したりするものなどが用いられ得る。
【0045】
なお、チャンバー292、液量センサー292a、圧力センサー294、及び真空ポンプ293からなる吸引部29は、各色のインクに対して各々設けられるインク流路中の脱気モジュール255に対して共通に設けられ、逆止弁291の下流(チャンバー292の側)で合流する構造となっている。即ち、ある色のインクが脱気モジュール255から漏出した場合、逆止弁291により、当該ある色のインクが他の色のインクに係るインク流路の脱気モジュール255における真空領域側に流入するのが防止される。
【0046】
個別供給バルブ258は、送液共通流路256から所定数(ここでは2つ)のインクジェットヘッド211に各々連通する個別流路257への送液共通流路256からのインク供給可否、即ち、各個別流路257とヘッドユニット21(インクジェットヘッド211)との間でのインクの流通状態及び非流通状態の切り替えを行う。通常の画像記録動作時にはこれら個別供給バルブ258が全て開放される一方、中間タンク262や送液共通流路256内のインクを外部に出さずにサブタンク251に戻して回収する場合には、これら個別供給バルブ258が閉止されるとともに、バイパスバルブ270が開放される。また、一部のインクジェットヘッド211の検査やクリーニング、メンテナンスなどで選択的に当該一部のヘッドユニット21にインクが供給される場合には、この一部のヘッドユニット21に連通する個別流路257に設けられた個別供給バルブ258のみが開放され、その他の個別供給バルブ258が閉止される。
ここでは、一例として、個別流路257、個別供給バルブ258及びヘッドユニット21が4個ずつ示されている(インクジェットヘッド211が8個)が、この数は、インクジェットヘッド211へのインクの供給やノズルからの吐出動作に問題を生じない範囲において互いに対応する数(ラインヘッドでは、通常複数個;2以上の所定数)ずつ適宜設定され得る。
【0047】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置100の機能構成について説明する。
図3は、インクジェット記録装置100の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置100は、上述の供給ポンプ32、送液ポンプ253、回収ポンプ275、真空ポンプ293、液量センサー251a、温度センサー251b、DAC253a、インク圧センサー256a、圧力センサー294、液量センサー292a、中間タンク流通バルブ261、メンテナンス流路流通バルブ266、共通供給バルブ263、個別供給バルブ258、回収バルブ273、循環バルブ274、電磁ブレーキ233、昇降モーター232、及び読取部24に加えて、制御部40と、通信部41と、操作表示部42と、搬送モーター12と、ヘッド駆動部221と、モータードライバー231と、報知動作部43などを備える。
【0048】
制御部40は、インクジェット記録装置100の全体動作を統括し、各部の動作を制御する。制御部40は、CPU401(Central Processing Unit)と、RAM402(Random Access Memory)と、ROM403(Read Only Memory)と、メモリー404などを備える。
【0049】
CPU401は、各種演算処理を行い、インクジェット記録装置100における記録媒体の搬送、インクの供給、インクの吐出やメンテナンス動作などの制御を行う。また、CPU401は、ROM403から読み出されたプログラムに従って画像データ、各部のステータス信号やクロック信号などに基づく画像記録に係る種々の処理を行う。
【0050】
RAM402は、CPU401に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。
ROM403は、制御プログラムや初期設定データなどを記憶する。制御プログラムには、インクの供給制御やインクジェット記録装置100のメンテナンス動作に係るプログラムが含まれる。
【0051】
また、ROM403には、上書き更新可能な不揮発性メモリーなどを含み、温度センサー251bの計測値と送液ポンプ253の送液速度とを予め設定されたインク種別及び後述の加圧メンテナンスの対象として選択されるインクジェットヘッド211の数ごとに対応付けた送液調整テーブル403aが記憶されている。メモリー404には、記録対象の画像データを一時記憶するRAMが含まれる。
【0052】
ヘッド駆動部221は、各インクジェットヘッド211においてノズルからインクを適正に吐出させるために圧力室(圧電素子)を変形動作させる駆動電圧信号を生成して出力する。ヘッド駆動部221は、制御部40からの制御信号に基づいて予め記憶された電圧波形パターンを選択して電力増幅した駆動電圧信号を生成するとともに、メモリー404から入力された画像データに応じて各圧電素子に対する駆動電圧信号の出力可否をそれぞれ切り替える。
ヘッド駆動部221に係る配線は、インクジェットヘッド211内でインク流路とまとめて形成され、また、部分的に別個に形成される。
【0053】
モータードライバー231は、制御部40からの制御信号に応じて電磁ブレーキ233及び昇降モーター232に駆動信号を出力し、電磁ブレーキ233を緩めるとともに昇降モーター232を動作させてキャリッジを所望の位置に移動させたり、昇降モーター232を停止させるとともに電磁ブレーキ233でキャリッジを固定させたりする。
【0054】
通信部41は、外部機器との間での通信動作を制御する通信インターフェイスである。通信インターフェイスとしては、例えば、LANボードやLANカードなど、各種通信プロトコルに対応したものが一又は複数含まれる。通信部41は、制御部40の制御に基づいて外部機器から記録対象の画像データや画像記録に係る設定データ(ジョブデータ)を取得(受信)し、また、外部機器に対してステータス情報などを出力(送信)することが出来る。
【0055】
操作表示部42は、制御部40からの制御信号に応じてインクジェット記録装置100のステータスや操作メニューなどの表示を行うと共に、ユーザーの操作を受け付けて制御部40に出力する。操作表示部42は、例えば、操作受付手段としてのタッチセンサーが表示手段としての表示画面と重ねて設けられた液晶表示部を備える。制御部40は、液晶表示部にステータスやタッチセンサーによる命令受け付け用の各種メニューなどを表示させ、当該表示させたメニューの内容や位置の情報、及び、タッチセンサーにより検出されたユーザーのタッチ操作に応じた処理をインクジェット記録装置100の各部に行わせる制御動作を行う。
【0056】
報知動作部43は、制御部40の制御信号に応じて所定の報知動作を行う。報知動作を行う構成としては、例えば、所定色の光を発するLEDランプ及び/又はビープ音を発生するビープ音発生部などが挙げられる。
これらに加えて、インクジェット記録装置100は、供給された記録媒体が正常に搬送面に載置されていないことを検出する載置異常検出センサーなどを備えていても良い。
【0057】
バス49は、上記の各構成間を電気的に接続して信号のやり取りを行う経路である。
【0058】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置100におけるインクジェットヘッド211のメンテナンス動作について説明する。
本実施形態のインクジェット記録装置100では、画像形成部20による形成画像の画質に問題が生じた場合や、通常のノズル吐出検査で問題のあるノズルが検出された場合、例えば、インクジェットヘッド211のノズルに詰まりが生じた場合や、気泡などが混入して正常にインクの吐出が出来なくなった場合などに、画質の低下や吐出不良ノズルが生じたインクジェットヘッド211に対して当該インクジェットヘッド211内のインクが加圧されるように送液することで詰まり、気泡などを押し流す加圧メンテナンス処理(メンテナンス方法)を行う。
【0059】
図4A及び図4Bは、加圧メンテナンス処理におけるインクジェットヘッド211内のインク圧力の変化を説明する図である。
【0060】
図4Aに示すように、加圧メンテナンス処理では、各ノズル(インクジェットヘッド211、ヘッドユニット21)において適切な範囲(基準範囲)のインク圧力(下限値PL以上上限値PH以下)での加圧状態が所定時間ΔTK(基準時間)に亘り継続(維持)される。インク圧力が適切な圧力(下限値PL)未満であったり適切な圧力での加圧時間が所定時間ΔTKよりも不足したりすると、詰まりや気泡などが十分に解消されない場合が生じる。反対に、インク圧力が高過ぎたり(例えば、上限値PH以上など)、加圧時間が所定時間ΔTKよりも長過ぎたりすると、詰まりや気泡の排除に必要な量よりも多くのインクがノズルから漏出、浪費されることになる。
【0061】
加圧メンテナンス処理は、加圧対象となるノズルを有するインクジェットヘッド211を含むヘッドユニット21への個別供給バルブ258が開放され、その他のヘッドユニット21への個別供給バルブ258及び回収バルブ273が閉止されて行われる。この状態における送液ポンプ253による送液量とノズルからの漏出量との差がインク流路及びインクジェットヘッド211におけるインク量の増加分となり、即ち、圧力の増加となる。ノズルからの漏出量(流出インク速度)は、主にインクジェットヘッド211内におけるインク圧力からノズルにおける管路抵抗による圧力損失の影響を差し引いた大きさと、外気圧(大気圧)との差に基づいて定まる。即ち、インク圧力が高いほど漏出量が増加し、また、管路抵抗が小さいほど漏出量が増加する。
【0062】
従って、送液速度(インクジェットヘッド211へのインク流入量)が固定されている場合、インクジェットヘッド211内のインク圧力が低く漏出量が少ない間には徐々にインク圧力が上昇していくが、インク圧力が所定のレベルまで上昇すると、最終的にインクジェットヘッド211からのインク漏出量がインク流入量と均衡して、インク圧力が上昇しなくなる(飽和する)。また、同一の圧力が加圧対象のインクジェットヘッド211に印加される場合、当該加圧対象のインクジェットヘッド211の数、即ち、漏出するノズル開口部の数に比例して漏出量が多くなる。従って、固定された送液速度に対して加圧対象のインクジェットヘッド211の数を増加させると、インク圧力の飽和値が低下する。
【0063】
そこで、本実施形態のインクジェット記録装置100では、この加圧対象のインクジェットヘッド211の数(即ち、ヘッドユニット21の数)に応じてインク圧力の飽和値が上述の基準範囲(下限値PL以上上限値PH以下)となるように送液速度を変化させる。加圧対象のヘッドユニット21の数、インク種別及びインク温度の組み合わせと、送液速度(即ち、DAC253aから送液ポンプ253に出力される駆動電圧)との対応関係は、送液調整テーブル403aから読み出される。
【0064】
通常、送液ポンプ253は、インク吐出動作に係るインクの消費量が供給可能であれば十分である。従って、コストやサイズの観点から、全てのインクジェットヘッド211に対して一度に加圧メンテナンス処理を実行する場合に対応する送液速度でインクを送液可能な送液ポンプ253を設けることはなされない。その結果、加圧対象のインクジェットヘッド211が多くなると(ここでは、上述のように上限数である8個より多くなると)、インク圧力の飽和値を基準範囲内に定めるために必要な送液速度が送液ポンプ253の最大送液能力を超えてしまう場合があり得る。このような場合には、加圧対象のインクジェットヘッド211(ヘッドユニット21)を複数のグループに分割し、各々別個に加圧メンテナンス処理を行わせる。
【0065】
このとき、上述のように、フィルター254などに空気の層などが存在していることなどにより、加圧対象とするインクジェットヘッド211の圧力を上昇させるのに必要なインクの量が存在する。また、インクジェットヘッド211及び個別流路257の容積に比して送液共通流路256などの容積が大きいと、インクジェットヘッド211におけるインク圧力を所定幅上昇させるのに必要なインク量が加圧対象のインクジェットヘッド211の数に依らずに多くなる。
【0066】
この影響により、一度に加圧対象となるインクジェットヘッド211の数が少なく、インクの送液速度が低い場合には、加圧対象のインクジェットヘッド211におけるインク圧力が基準圧力(下限値PL)に上昇するまでに必要なインク量が供給されるまでに長い昇圧時間ΔTR1(図4A)を要することになる。反対に、加圧対象のインクジェットヘッド211の数が多く、これに伴ってインクの送液速度が大きく定められる場合には、図4Bに示すように、インクジェットヘッド211におけるインク圧力が基準圧力(下限値PL)に上昇するまでの昇圧時間ΔTR2が短くなる。即ち、この加圧メンテナンス処理では、インクジェットヘッド211の数が少ないほど基準圧力に達するまでに要する時間が長くなる。
【0067】
図5A及び図5Bは、加圧メンテナンス処理において加圧対象のインクジェットヘッド211における圧力上昇に係る設定について説明する図表である。
【0068】
図5Aに示すように、加圧対象のヘッドユニット21が1個(インクジェットヘッド211が2個)の場合には、当該インクジェットヘッド211内のインク圧力を基準範囲内に上昇させて所定時間ΔTK維持するのに要する時間(昇圧時間ΔTRn+所定時間ΔTK;nは加圧対象のインクジェットヘッド211の数)が30秒であり、加圧対象のヘッドユニット21が1個ずつ増加していくに従って、20秒、15秒、12秒、10秒と短くなっていく。加圧対象のヘッドユニット21の数が5個(下限数)以上の場合には、昇圧時間ΔTRnと所定時間ΔTKとの和は、10秒でほぼ一定となる。
【0069】
上述のように、加圧対象として設定されたヘッドユニット21が8個より多い場合には、当該加圧対象のヘッドユニット21を複数のグループ(組)に分割して各グループのヘッドユニット21を別個に選択し、分割された複数の組の数に応じた回数加圧メンテナンス処理を行う。分割されるグループ数が必要以上に多いとその分余計に加圧メンテナンスの時間が長くなるので、グループ数は各グループのヘッドユニット21の数をそれぞれ上限数以下にするために必要な最小限とされる。また、このとき、分割された何れかのグループにおけるヘッドユニット21の数が4個以下の場合には、数が少ないほど当該グループの加圧メンテナンス処理における昇圧時間ΔTRn(圧力遷移時間)が長くなり、5個以上では増やしても昇圧時間ΔTRnが短くならないので、各グループのヘッドユニット21の数をなるべく何れも5個以上とし、また、5個に達しないグループが生じる場合にはなるべく数が多くなるように分割されるのが好ましい。図5Bに示すように、加圧対象のヘッドユニット21の数が17個の場合、最低3グループに分割する必要があり、分割のパターンは8通り存在する(順不同)。これらのうち、3グループにおけるヘッドユニット21の数を7、5、5又は6、6、5とすることで、昇圧時間ΔTRnの合計時間が最短(最小)の30秒に抑えられる。従って、加圧メンテナンス処理では、このように昇圧時間ΔTRnの合計時間が最小になる組み合わせを選択するのが良い。
【0070】
図6は、本実施形態のインクジェット記録装置100で実行されるヘッド異常検出処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。
【0071】
このヘッド異常検出処理は、インクジェット記録装置100の電源を立ち上げた後の初期動作時や、所定枚数の記録媒体Pに対して画像を記録するごとに定期的に、及びユーザーによる操作表示部42への所定の入力操作に応じて実行命令が受け付けられた場合などに開始される。
【0072】
ヘッド異常検出処理が開始されると、制御部40は、ヘッド駆動部221に制御信号を出力し、搬送される記録媒体Pの所定の位置、例えば、通常の記録対象画像の余白に各ノズルの吐出異常を検出するためのテスト画像を形成させる(ステップS401)。制御部40は、読取部24を動作させて、記録媒体上に形成されたテスト画像を撮像させる(ステップS402)。制御部40は、取得されたテスト画像の撮像データに基づいて異常を検出し、当該異常が発生したインクジェットヘッド211を特定する(ステップS403)。
【0073】
制御部40は、異常が検出されたか否かを判別し(ステップS404)、検出されていないと判別された場合には(ステップS404で“NO”)、ヘッド異常検出処理を終了する。異常が検出されたと判別された場合には(ステップS404で“YES”)、制御部40は、個別メンテナンス処理の対象とすべきものとして選択された全てのインクジェットヘッド211の中から個別メンテナンス処理を行わせるインクジェットヘッド211を上述の上限数以下で決定(選択)する(ステップS405)。制御部40は、個別メンテナンス処理を呼び出して決定されたインクジェットヘッド211を含むヘッドユニット21に対して個別メンテナンス処理を実施する(ステップS406)。制御部40は、個別メンテナンス処理の対象とすべき全てのインクジェットヘッド211の個別メンテナンス処理が終了したか否かを判別する(ステップS407)。終了していないと判別された場合には(ステップS407で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS405に戻り、残りのインクジェットヘッド211が対象として決定(選択)される。終了したと判別された場合には(ステップS407で“YES”)、制御部40は、ヘッド異常検出処理を終了する。
これらの各処理のうち、ステップS405、S407の処理により送液対象選択ステップが構成される。
【0074】
なお、テスト画像からの異常検出は、ユーザーにより目視で行われても良い。この場合、ステップS402の処理及びステップS403の処理における制御部40による異常検出の処理は省略され、ユーザーにより操作表示部42に入力されたインクジェットヘッド211の情報に応じて異常の発生したインクジェットヘッド211を特定する。或いは、制御部40は、個別メンテナンス処理の対象とすべきと判断したインクジェットヘッド211を操作表示部42に表示させ、ユーザーに承認又は追加や削除などの操作入力を行わせて最終的に個別メンテナンス処理の対象を決定(設定)しても良い。
【0075】
また、ステップS406の処理の終了後、制御部40は、処理をステップS401に戻し、異常が解消されたか再度検出を行い、異常が解消されないインクジェットヘッド211を含むヘッドユニット21に対する個別メンテナンス処理を繰り返して行わせることとしても良い。
【0076】
図7は、ヘッド異常検出処理で呼び出される個別メンテナンス処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。
【0077】
個別メンテナンス処理が呼び出されると、制御部40は、共通供給バルブ263及び中間タンク流通バルブ261を閉止させ、また、メンテナンス流路流通バルブ266を開放させる(ステップS101)。制御部40は、決定された個別メンテナンスの対象の選択有無に応じて、対象外となる(選択されていない)ヘッドユニット21の個別流路257に設けられた個別供給バルブ258を閉止させる(ステップS102;送液対象切替ステップ)。
【0078】
制御部40は、送液調整テーブル403aを参照して、個別メンテナンスの対象となるヘッドユニット21の数に応じたインクの送液速度を決定する(ステップS103;送液量設定ステップ)。制御部40は、DAC253aに制御信号を出力して決定された送液速度に応じた駆動電圧を出力させ、当該決定された送液速度で送液ポンプ253による送液動作を行わせる(ステップS104)。
【0079】
制御部40は、インク圧センサー256aの計測するインク圧力を取得し、当該インク圧力が下限値PL以上であるか否かを判別する(ステップS105)。下限値PL以上ではないと判別された場合には(ステップS105で“NO”)、制御部40は、ステップS105の処理を繰り返す。このステップS105の処理の実行間隔は、下限値PL以上のインク圧力の検出が大きく(例えば0.5秒以上など)遅れない範囲で適宜定められて良い。
【0080】
インク圧力が下限値PL以上であると判別された場合には(ステップS105で“YES”)、制御部40は、当該判別されたタイミングからの経過時間を計数する。そして、制御部40は、下限値PL以上のインク圧力が検出されたタイミングから所定時間ΔTK以上が経過したか否かを判別する(ステップS106)。この所定時間ΔTKは、各インクジェットヘッド211のインク流路やノズルから気泡や詰まりを排出させるのに通常必要な時間として予め定められており、例えば、5秒であるが、変更可能とされていても良い。
【0081】
下限値PL以上のインク圧力が検出されたタイミングから所定時間ΔTK以上が経過していないと判別された場合には(ステップS106で“NO”)、制御部40は、ステップS106の処理を繰り返す。このステップS106の処理の実行間隔は、上述の所定時間ΔTKに比して十分短い(例えば、所定時間ΔTKの1/10以下など)範囲で適宜定められ得る。所定時間ΔTK以上が経過した(即ち、上述の実行間隔程度の誤差で所定時間ΔTKが経過したタイミング(経過タイミング)である)と判別された場合には(ステップS106で“YES”)、制御部40は、DAC253aに制御信号を出力して送液ポンプ253による送液動作を停止させ、送液を終了させる(ステップS107)。
【0082】
制御部40は、バイパスバルブ270及び循環バルブ274を開放させる(ステップS108)。制御部40は、中間タンク流通バルブ261と共通供給バルブ263を開放させ、メンテナンス流路流通バルブ266を閉止させる(ステップS109)。また、制御部40は、全ての個別供給バルブ258を閉止させる(ステップS110)。制御部40は、回収ポンプ275を動作させて送液共通流路256内などのインクを吸引し、中間タンク262の内部のインク量を適切な量に調整する(ステップS111)。
【0083】
制御部40は、バイパスバルブ270及び循環バルブ274を閉止させ、個別供給バルブ258を全て開放させる(ステップS112)。そして、制御部40は、個別メンテナンス処理を終了し、処理をヘッド異常検出処理に戻す。
ステップS104~S107の処理により、加圧実行ステップが構成される。
【0084】
なお、上記実施形態において、ステップS105の判別処理で圧力が下限値PL以上となるまでの経過時間と、本来試験結果などに基づいて想定される経過時間とのずれや、圧力が下限値PL以上となった後に当該下限値PLを下回ったり上限値PHを上回ったりした場合の状況などをROM403の不揮発性メモリーに記憶保持しておき、経年変化などにより長期的なずれの傾向が生じた場合には、当該ずれを反映させて送液調整テーブル403aを補正して用いるようにしても良い。
【0085】
[変形例]
次に、インクジェット記録装置100で実行される個別メンテナンス処理の変形例について説明する。
【0086】
上述のように、インク圧力の飽和値は、インクの管路抵抗に依存する。この、インクの管路抵抗は、ノズル開口部(加圧対象のインクジェットヘッド211)の数だけではなく、インクの材料(即ち、インクの種別)やインクの粘性に応じて変化する。同一種類のインクの粘性は、主に、インクの温度に依存して変化するので、例えば、温度が上昇すると粘度が低下するインクを吐出するインクジェットヘッド211では、インクの温度が予め定められた基準温度よりも高い場合には、インク圧力の飽和値が低下し、基準温度よりも低い場合には、インク圧力の飽和値が上昇する。この個別メンテナンス処理の変形例では、インク種別及びインク温度(ここでは、温度センサー251bにより計測された温度;粘度に係る情報)に応じて送液速度を変化させる。
【0087】
図8は、上記実施形態のインクジェット記録装置100における個別メンテナンス処理の変形例を示すフローチャートである。
この個別メンテナンス処理の変形例は、上述の個別メンテナンス処理のステップS103の処理の代わりにステップS103a、S103bの処理が行われ、ステップS105の処理が削除され、また、ステップS106の処理の代わりにステップS106aの処理が行われる。これら以外の処理は同一であり、同一の処理内容には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0088】
ステップS102の処理に続いて、制御部40は、インク種別及びインク温度の情報を取得する(ステップS103a)。制御部40は、送液調整テーブル403aを参照して、加圧対象のヘッドユニット21の数、インク種別及びインク温度に基づいて適切な送液速度及び送液継続時間(継続時間、即ち、想定される昇圧時間ΔTRnと所定時間ΔTKの和)を決定する(ステップS103b)。制御部40は、決定された送液速度で送液ポンプ253の送液動作を開始させる(ステップS104)。
【0089】
制御部40は、送液開始から決定された送液継続時間が経過したか否かを判別する(ステップS106a)。経過していないと判別された場合には(ステップS106aで“NO”)、制御部40は、ステップS106aの処理を繰り返す。経過したと判別された場合には(ステップS106aで“YES”)、制御部40の処理は、ステップS107に移行する。
【0090】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置100における記録部(インクジェットヘッド211)のメンテナンス方法は、インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数のヘッドユニット21と、インクを送液する送液ポンプ253と、送液ポンプ253と所定数のヘッドユニット21との間を繋ぐインク流路(メンテナンス流路265、送液共通流路256、個別流路257など)と、インク流路において所定数のヘッドユニット21の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える当該所定数の個別供給バルブ258と、を備えるインクジェット記録装置100におけるインクジェットヘッド211のメンテナンス方法であって、所定数のヘッドユニット21のうち選択されたヘッドユニット21におけるインク圧力が所定の基準範囲内(下限値PL以上上限値PH以下)で所定時間ΔTK維持されるように送液ポンプ253による単位時間当たりの送液量(送液速度)を定める送液量設定ステップ、所定数のヘッドユニット21の選択有無に応じて所定数の個別供給バルブ258によるインク供給可否を切り替えさせる送液対象切替ステップ、選択されたヘッドユニット21に対し、上述の基準範囲内のインク圧力を所定時間ΔTK維持するのに必要な継続時間に亘り定められた送液速度で送液ポンプ253により送液させる加圧実行ステップを含む。
これにより、個別メンテナンスの対象となるインクジェットヘッド211(ヘッドユニット21)の数が個別メンテナンスの実行ごとに異なっても、当該対象のインクジェットヘッド211に対して毎回必要なインク圧力で必要な継続時間インクを送液させることが出来る。従って、不要なインクの漏出による無駄を低減させながら、対象のインクジェットヘッド211内で適正なインク圧力を適切な継続時間維持させることが出来、これにより、効果的にノズルの加圧メンテナンスを行うことが出来る。
【0091】
また、送液量設定ステップでは、選択されたヘッドユニット21の数に基づいて送液速度を定める。通常は、各インクジェットヘッド211の構造は同一であり、また、各ヘッドユニット21を構成するインクジェットヘッド211の数は同一であるので、対象となるヘッドユニット21の数と送液速度とを対応付けておけば、容易に適切な送液速度を決定して効果的に加圧メンテナンスを行うことが出来る。
【0092】
また、本実施形態のインクジェットヘッド211のメンテナンス方法は、送液の対象として設定されたヘッドユニット21の数が所定の上限数(8個)より多い場合には、当該設定されたヘッドユニット21をそれぞれ上限数以下の複数の組に分割して当該複数回の選択を行う送液対象選択ステップを含む。
即ち、全てのヘッドユニット21に対して加圧メンテナンスを同時に行うことが出来るほど強力な送液ポンプ253を備える必要はなく、適宜分割して行うことで製造、製品のコスト上昇を抑えることが出来る。
【0093】
また、送液対象選択ステップでは、加圧メンテナンスの対象として設定されたヘッドユニット21を複数の組に分割して選択を行う場合には、当該複数の組に分割した場合の各々における昇圧時間ΔTRnの合計が最小となるように分割を行う。
これにより、各組の加圧メンテナンスを行うための準備時間を最短として、合計のメンテナンス時間を不要に長引かせない。また、昇圧時間ΔTRnにおけるインク漏れ量は当該昇圧時間ΔTRnが長いほど多くなるので、昇圧時間ΔTRnの合計時間を短くすることで、不要なインク漏れ量も少なく抑えることが出来る。
【0094】
また、送液対象選択ステップでは、加圧メンテナンスの対象として設定されたヘッドユニット21を複数の組に分割して選択を行う場合には、当該複数の組で各々選択されるヘッドユニット21の数が何れも所定の下限数(5個)以上となるように分割を行う。
上述のように、ヘッドユニット21の数が所定数(5個)より少ない組では、昇圧時間ΔTRnが極端に長くなるので、昇圧時間ΔTRnが大きく変化しない最低限の数以上となるように各組のヘッドユニット21の数を定めることで、効果的に加圧メンテナンス時間を短縮し、また、インク漏出量を低減させることが出来る。
【0095】
また、送液量設定ステップでは、送液させるインクの粘度に係る情報に基づいて送液速度を定める。上述のように、ノズルにおけるインクの管路抵抗は粘度によるので、粘度によっては基準となる状態からインク圧力の飽和値が上下して、インクに十分な圧力がかからなかったり必要以上に圧力がかかって漏出量が増えたりする。従って、粘度を考慮に入れて送液速度を定めることで、より適切な圧力で安定した加圧メンテナンスを行うことが可能になる。
【0096】
また、送液量設定ステップでは、送液させるインクの温度に基づいて送液速度を定める。
上述の粘度を実際に計測するのは手間がかかり、また、専用の装置などが必要になり、コストや時間の上昇に繋がるので、通常、粘度と大きな相関がある温度の計測値に応じて送液速度を調整することで、容易に適切な圧力で安定した加圧メンテナンスを行うことが可能となる。
【0097】
また、加圧実行ステップでは、インク圧力を計測するインク圧センサー256aの計測値に基づいて所定時間ΔTKの経過タイミングを定める。即ち、実際にインク圧センサー256aの計測値を用いて所定時間ΔTKに亘り下限値PL以上上限値PH以下の範囲の圧力が印加されたことを確認するので、送液ポンプ253の送液速度に動作ムラや経年変化などにより設定値から多少変化してインク圧力が下限値PLに達するまでの昇圧時間ΔTRnにずれが生じた場合でも確実にインクジェットヘッド211において必要な所定時間ΔTKの間インクが加圧される。また、インク圧力が下限値PLに到達しなくなった場合などを検出可能となるので、より確実に安定した加圧メンテナンスを行うことが出来る。
【0098】
また、加圧実行ステップでは、インク圧センサー256aの計測値が下限値PL以上上限値PH以下の範囲内で所定時間ΔTK維持されたタイミングで送液ポンプ253による送液を終了させる。ここでいう所定時間ΔTK維持されたタイミングとは、厳密にそのタイミングに限るものではなく、制御部40のよる当該タイミングの検出動作間隔に応じた遅延を伴う程度のずれを含む。従って、上述のような送液ポンプ253の動作ムラやインク流路の状況変化などに対応して常に適切な所定時間ΔTKの間インクを下限値PL以上上限値PHの範囲内で加圧することが出来る。
【0099】
また、本実施形態のインクジェット記録装置100は、インクを吐出するノズルを有する2以上の所定数のヘッドユニット21と、インクを送液する送液ポンプ253と、送液ポンプ253と所定数のヘッドユニット21とを繋ぐ中間タンク流路260、メンテナンス流路265、送液共通流路256や個別流路257などのインク流路と、インク流路において所定数のヘッドユニット21の各々へのインク供給可否をそれぞれ切り替える所定数の個別供給バルブ258と、送液ポンプ253による単位時間当たりの送液量(送液速度)を制御する制御部40と、を備える。制御部40は、所定数のヘッドユニット21のうち選択されたヘッドユニット21(インクジェットヘッド211)におけるインク圧力が下限値PL以上上限値PH以下の範囲内で所定時間ΔTK維持されるように送液ポンプ253による送液速度を定める。制御部40は、所定数のヘッドユニット21の選択有無に応じて所定数の個別供給バルブ258によるインク供給可否を切り替えさせる。そして、制御部40は、下限値PL以上上限値PH以下の範囲内のインク圧力が所定時間ΔTK維持される継続時間に亘り定められた送液速度で送液ポンプ253により送液させる。
このように加圧メンテナンス時の送液速度を制御することで、インクジェット記録装置100では、個別メンテナンスの対象となるインクジェットヘッド211(ヘッドユニット21)の数が個別メンテナンスを実行するごとに異なっても、当該対象のインクジェットヘッド211に対して毎回必要なインク圧力が必要な継続時間維持されるようにインクを送液させることが出来る。従って、不要なインクの漏出による無駄を低減させながら、対象のインクジェットヘッド211内で適正なインク圧力を適切な継続時間維持させることが出来、これにより、効果的にノズルの加圧メンテナンスを行うことが出来る。
【0100】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、2つのインクジェットヘッド211がペアになって一つの個別供給バルブ258によりまとめて送液可否が定められたが、これに限られない。各インクジェットヘッド211に対して各々個別供給バルブ258が設けられても良い。
【0101】
また、上記実施の形態では、全てのインクジェットヘッド211が同一の構成であるとしたが、設けられたノズルの数や配置の異なるインクジェットヘッド211が混在する場合を除外するものではない。この場合には、選択されたインクジェットヘッド211のノズル数に基づいて送液速度も変更される。
【0102】
また、上記実施の形態では、制御部が個別供給バルブ258の開閉を電磁的に制御することとしたが、ユーザーや管理者などが手や器具などを用いて開閉操作可能なバルブや開閉機構が手動で切り替えられても良い。
【0103】
また、上記実施の形態では、下限値PL以上の圧力が検出されてから所定時間ΔTKが経過したタイミング、又は送液開始からの経過時間が当該タイミングに対応する送液継続時間経過したタイミングで送液を中止することとしたが、変形例のように実際にインク圧力の計測値に基づいて制御しない場合には、送液ポンプ253の動作のムラや経年変化などを考慮して送液継続時間が検査などで予め得られた値よりも若干長めに設定されても良い。但し、上述のように、長過ぎるとその分動作に要する電力消費が増加し、また、インク漏れ量が増えるだけであるので、送液ポンプ253の動作精度(通常想定されるムラや劣化)に比してあまり大きく余裕をとらないことが望ましい。
【0104】
また、上記実施の形態では、加圧対象のインクジェットヘッド211の数が上限値を超えた場合に、制御部40が適宜分割パターンを定めることとしたが、予め分割パターンをROM403の不揮発性メモリーに記憶させておいても良い。
【0105】
また、上記実施の形態では、一つの送液ポンプ253とこの送液ポンプ253によりインクが供給されるインクジェットヘッド211とについてのみ説明を行ったが、異なる送液ポンプ253により送液が行われるインクジェットヘッド211、例えば、他の色のインクが供給されるインクジェットヘッド211及び送液ポンプ253についての同様の処理が行われる場合、これらが同時に行われても良いし、個別に順番に行われても良い。
【0106】
また、上記実施の形態では、インクジェットヘッド211に供給されて吐出されなかったインクをサブタンク251に戻す回収流路27を有するインクジェット記録装置100について説明したが、回収流路27を有しないものであっても良い。この場合、加圧メンテナンス後には、送液ポンプ253を逆回転させて一部のインクを回収しても良いし、全てインクジェットヘッド211から廃液されて通常の圧力に戻るまで待機しても良い。或いは、送液共通流路256の下流側端部に廃液バルブが設けられて余剰なインクが廃液されても良い。
【0107】
また、インクジェット記録装置100は、ラインヘッドを用いたワンパス方式のものとして説明したが、インクジェットヘッド211を記録媒体Pに対して操作させるものなど、他の方式で画像を記録するものであっても良い。また、中間タンク262を用いずにインクジェットヘッド211内のインク圧力を調整可能なインクジェット記録装置100であっても良い。
その他、上記実施の形態で示した構成、配置、制御内容やその順番などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
この発明は、記録部のメンテナンス方法及びインクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
10 搬送部
11 駆動ローラー
12 搬送モーター
14 搬送ベルト
20 画像形成部
21 ヘッドユニット
211 インクジェットヘッド
22 キャリッジ
221 ヘッド駆動部
23 キャリッジ昇降部
231 モータードライバー
232 昇降モーター
233 電磁ブレーキ
234 梁部材
235 支持部
24 読取部
27 回収流路
29 吸引部
292 チャンバー
292a 液量センサー
293 真空ポンプ
294 圧力センサー
30 インク貯留部
31 メインタンク
32 供給ポンプ
35 ラック
40 制御部
401 CPU
402 RAM
403 ROM
403a 送液調整テーブル
404 メモリー
41 通信部
42 操作表示部
43 報知動作部
49 バス
100 インクジェット記録装置
251 サブタンク
251a 液量センサー
251b 温度センサー
252 流量計
253 送液ポンプ
253a DAC
254 フィルター
255 脱気モジュール
256 送液共通流路
256a インク圧センサー
257 個別流路
258 個別供給バルブ
259 ダンパー
260 中間タンク流路
261 中間タンク流通バルブ
262 中間タンク
263 共通供給バルブ
265 メンテナンス流路
266 メンテナンス流路流通バルブ
270 バイパスバルブ
271 逆止弁
272 回収共通流路
273 回収バルブ
274 循環バルブ
275 回収ポンプ
281~283、291 逆止弁
P 記録媒体
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8