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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】電子部品、アンテナ及びRFタグ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 7/06 20060101AFI20220726BHJP
   C04B 35/30 20060101ALI20220726BHJP
   G06K 19/02 20060101ALI20220726BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H01Q7/06
C04B35/30
G06K19/02
G06K19/077 264
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018565522
(86)(22)【出願日】2018-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2018002660
(87)【国際公開番号】W WO2018143114
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017015132
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 吏志
(72)【発明者】
【氏名】香嶋 純
(72)【発明者】
【氏名】西尾 靖士
(72)【発明者】
【氏名】中務 愛仁
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰彦
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-340759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/30
G06K 19/00- 19/10
H01Q 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトコアとコイルとで構成される電子部品であって、該フェライトコアを構成するフェライトは、スピネル構造であって構成金属元素としてFe、Ni、Zn、Cu及びCoを含有し、ZnとNiのモル比(Zn/Ni)が0.58~1.0であり、構成金属元素それぞれを、Fe2O3、NiO、ZnO、CuO及びCoOに換算したときに、Fe2O3、NiO、ZnO、CuO及びCoOの合計を基準として、Fe2O3を46~50mol%、NiOを20~27mol%、ZnOを15~22mol%、CuOを9~11mol%、及びCoOを0.01~1.0mol%含有することを特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記フェライトコアを構成するフェライトが含有するNiとCuのモル比(Ni/Cu)が2.00~2.50である請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子部品からなるアンテナ。
【請求項4】
前記フェライトコアを構成するフェライトの13.56MHzにおける複素透磁率の虚数部μ’’に対する実数部μ’の比であるフェライトコアのQ(μ’/μ’’)が、50~170である請求項に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記フェライトコアを構成するフェライトの13.56MHzにおけるμQ積が、9000以上である請求項又はに記載のアンテナ。
【請求項6】
請求項のいずれか一項に記載のアンテナにICを実装したRFタグ。
【請求項7】
樹脂によって被覆された請求項に記載のRFタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波化の進む電子部品に関するものであり、また、磁界成分を利用して情報を交信するためのアンテナに関するものであり、該アンテナは、小型化と交信感度の向上を両立させたアンテナである。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用及び産業用等の電子機器の小型・軽量化が進んでおり、それに伴い、前述の各種電子機器に用いられる電子部品の小型化、高効率化、高周波数化のニーズが高まっている。
【0003】
例えば、RFIDをはじめとする無線通信技術の発展により、省スペースで優れた交信特性を持つアンテナの需要が伸びている。平面ループアンテナは、その薄さから、非接触ICカード等に用いられている。ところが、このような平面状のアンテナは、配置に大きな面積が必要となるうえ、金属物が接近すると、金属物にイメージができて、アンテナと逆位相になるために、アンテナの感度が失われるという問題が生じる。
【0004】
磁性体を使用し電磁波を送受信するアンテナは、磁性体で形成したコアに導線を巻回してコイルを形成し、外部から飛来する磁界成分を磁性体に貫通させコイルに誘導させて電圧(または電流)に変換するアンテナであり、小型ラジオやTVには広く利用されてきた。また、近年、普及してきたRFタグと呼ばれる非接触型の物体識別装置にも利用されている。
【0005】
磁性体を使用するアンテナとして、磁性層を中心として磁性層に導電材料がコイル状に形成され、コイル状の導電材料を形成した一方又は両方の外側面に絶縁層を形成し、前記絶縁層の一方又は両方の外側面に導電層を設けた磁性体アンテナが知られている(特許文献1)。該磁性体アンテナは、金属物に接触した場合であっても、アンテナとしての機能が維持されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-19891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、RFタグとして用いられるアンテナは、その用途の広がりから、さらなる小型化が求められているが、アンテナは一般に小型化すると交信感度が低下してしまう。そのため、前記特許文献1記載の方法のみでは、さらに長い交信距離を必要とされる場合に、小型化と交信感度の両立が不十分であった。
【0008】
そこで、本発明は、アンテナのコアを所定の組成を持つフェライトコアとすることで、アンテナの交信感度が向上し、更なる小型化を実現したアンテナを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0010】
すなわち、本発明は、フェライトコアとコイルとで構成される電子部品であって、該フェライトコアを構成するフェライトは、スピネル構造であって構成金属元素としてFe、Ni、Zn、Cu及びCoを含有し、構成金属元素それぞれを、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOに換算したときに、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOの合計を基準として、Feを46~50mol%、NiOを20~27mol%、ZnOを15~22mol%、CuOを9~11mol%、及びCoOを0.01~1.0mol%含有することを特徴とする電子部品である(本発明1)。
【0011】
また、本発明は、前記フェライトコアを構成するフェライトが含有するZnとNiのモル比(Zn/Ni)が0.58~1.0である本発明1に記載の電子部品である(本発明2)。
【0012】
また、本発明は、前記フェライトコアを構成するフェライトが含有するNiとCuのモル比(Ni/Cu)が2.00~2.50である本発明1又は2に記載の電子部品である(本発明3)。
【0013】
また、本発明は、本発明1~3のいずれかに記載の電子部品からなるアンテナである(本発明4)。
【0014】
また、本発明は、前記フェライトコアを構成するフェライトの13.56MHzにおける複素透磁率の虚数部μ’’に対する実数部μ’の比であるフェライトコアのQ(μ’/μ’’)が、50~170である本発明4に記載のアンテナである(本発明5)。
【0015】
また、本発明は、前記フェライトコアを構成するフェライトの13.56MHzにおけるμQ積が、9000以上である本発明4又は5に記載のアンテナである(本発明6)。
【0016】
また、本発明は、本発明4~6のいずれかに記載のアンテナにICを実装したRFタグである(本発明7)。
【0017】
また、本発明は、樹脂によって被覆された本発明7に記載のRFタグである(本発明8)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電子部品は、高周波領域で優れた特性を示す。特に13.56MHz帯で使用するアンテナとして好適である。
【0019】
本発明におけるアンテナは、より交信感度が向上したアンテナであるために、アンテナが専有する面積、体積に対して相対的に長い距離での交信が可能である。また、アンテナをより小型にしても充分な交信距離を持つために、13.56MHzのRFID用途などのアンテナとして好適である。
【0020】
本発明におけるアンテナは、小型であっても、高い交信感度を有するので、アンテナの近傍に金属があって交信感度が低下する状況であっても充分な交信距離を持たせることができ、各種携帯機器、容器、金属部品、基板、金属製工具、金型等の各種用途にも利用スペースの制限なく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る電子部品のコイル部分の構成図である。
図2】本発明に係る電子部品の積層構造を示す概念図である。
図3】本発明に係る電子部品の積層構造の別の態様を示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る電子部品について述べる。
【0023】
本発明に係る電子部品は、フェライトコアとコイルとで構成されることを基本構造とする。
【0024】
前記フェライトコアを構成するフェライトは、スピネル構造を有し、構成金属元素としてFe、Ni、Zn、Cu及びCoを含有し、構成金属元素それぞれを、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOに換算したときに、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOの合計(100%)を基準として、Feを46~50mol%、NiOを20~27mol%、ZnOを15~22mol%、CuOを9~11mol%、及びCoOを0.01~1.0mol%含有する磁性体である。本発明において構成金属元素としてCoを含むことが特徴であるが、これはFe、Ni、Zn、Cu及びCo一体から成るフェライトであり、通常使用されるFe、Ni、Zn及びCuから成るフェライトにCoO等のCo成分を混合させたものではなく除かれる。なお、フェライトの結晶構造はX線回折で確認できる。
【0025】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトのFeの含有量は、Fe換算で46~50mol%である。Feの含有量が46mol%未満の場合、μ’が小さくなり、50mol%を超える場合は、焼結できなくなる。Feの含有量は好ましくは、46.5~49.5mol%、より好ましくは47.0~49.0mol%である。
【0026】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトのNiの含有量は、NiO換算で20~27mol%である。Niの含有量が20mol%未満の場合、μ’’が大きくなり、27mol%を超える場合は、μ’が小さくなる。Niの含有量は好ましくは、20.5~26.5mol%、より好ましくは21.0~26.0mol%である。
【0027】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトのZnの含有量は、ZnO換算で15~22mol%である。Znの含有量が15mol%未満の場合、μ’が小さくなり、22mol%を超える場合は、μ’’が大きくなる。Znの含有量は好ましくは、15.5~21.5mol%、より好ましくは15.8~21.0mol%である。
【0028】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトのCuの含有量は、CuO換算で9~11mol%である。Cuの含有量が9mol%未満の場合、焼結性が低下し、低温で焼結体を製造することが困難になる。Cuの含有量が11mol%を超える場合は、μ’が小さくなる。Cuの含有量は好ましくは、9.5~10.9mol%、より好ましくは10.0~10.8mol%、さらにより好ましくは10.2~10.7mol%である。
【0029】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトのCoの含有量は、CoO換算で0.01~1.0mol%である。本発明においては、フェライトがCoを含有することによって、スネークの限界線が高周波数側にシフトするため、高周波数域(例えば13.56MHz)における複素透磁率の虚数部μ’’に対する実数部μ’の比であるフェライトコアのQ(μ’/μ’’)を向上させる事が出来る。ただし、Coの含有量が、CoO換算で1.0mol%を超えると、透磁率が低下し、フェライトコアのQも低下する傾向がある。Coの含有量は、CoO換算で0.05~0.95mol%であることが好ましく、0.10~0.90mol%であることがより好ましい。
【0030】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトは、その特性に影響を及ぼさない範囲で前記元素のほかに種々の元素を含んでいてもよい。一般的に、Biを添加することはフェライトの焼結温度の低温化の効果があると知られている。しかし、本発明における低温化や結晶組織の制御についてはZnとNiのモル比(Zn/Ni)とCuの含有量により調整しているため、添加によって焼結温度のさらなる低温化の効果が期待できるが、結晶組織の微細化もさらに促進され、μ’の低下あるいは、μQ積の低下が起こる可能性が高く、積極的なBi添加は好ましくない(Biを含まないことが好ましい)。構成金属元素としてはFe、Ni、Zn、Cu及びCoのみから成ることが好ましいが、この場合、不可避的に含まれる金属元素があってもよい。
【0031】
フェライトコアには、使用する周波数帯で材料としての透磁率が高く、磁性損失が低くなるようなフェライト組成を選択すると良い。ただし、必要以上に高い透磁率の材料にすると磁性損失が増えるのでアンテナに適さなくなる。
【0032】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトが含有するZnとNiのモル比(Zn/Ni)は、0.58~1.0であることが好ましい。ZnとNiのモル比をこの範囲に調整することにより、フェライトコアの透磁率を適切な範囲に管理でき、磁性損失を低減することができる。より好ましくはZnとNiのモル比が0.59~0.95、さらにより好ましくは0.60~0.90である。
【0033】
本発明におけるフェライトコアを構成するフェライトが含有するNiとCuのモル比(Ni/Cu)は、2.00~2.50であることが好ましい。NiとCuのモル比をこの範囲に調整することにより、低温におけるフェライトコアの良好な焼結性を維持したまま、透磁率を適切な範囲に管理できる。より好ましくはNiとCuのモル比が2.05~2.45、さらにより好ましくは2.10~2.40である。
【0034】
本発明に係る電子部品からなるアンテナは、例えば、RFIDタグ用途に用いられ、フェライトコアの13.56MHzにおける複素透磁率の実数部μ’が、80以上であることが好ましい。80を下回ると、所望のQ及びμQ積が得られず、アンテナにおいて優れた交信特性が得られない。より好ましくは100以上であり、さらにより好ましくは110以上である。
【0035】
また本発明におけるアンテナは、フェライトコアの13.56MHzにおける複素透磁率の虚数部μ’’が、2以下である事が望ましい。2を超える場合では、僅かな周波数のずれによりμ’’が急激に増加するため、Qが低下し、アンテナにおいて優れた交信特性が得られない。より好ましくは1.5以下であり、さらにより好ましくは1.0以下である。
【0036】
本発明におけるアンテナは、フェライトコアの13.56MHzにおける複素透磁率の虚数部μ’’に対する実数部μ’の比であるフェライトコアのQ(μ’/μ’’)が50~170であることが好ましい。フェライトコアのQ(μ’/μ’’)が50を下回る場合、アンテナの交信距離が短くなり、アンテナに適さなくなる。フェライトコアの13.56MHzにおけるQ(μ’/μ’’)は、より好ましくは70~165であり、さらにより好ましくは80~160である。
【0037】
本発明におけるアンテナは、フェライトコアの13.56MHzにおける複素透磁率の実数部μ’とフェライトコアのQの積であるμQ積が、9000以上であることが好ましい。9000未満では、優れた交信特性を得られない。μQ積はより好ましくは10000以上であり、さらにより好ましくは12000以上である。
【0038】
本発明に係る電子部品は、フェライトコアの外側に、フェライトコアを巻回する導体からなるコイルを備えている。該コイルは、インダクタンスなどの電気特性のバラつきを抑えるため、あるいは生産性の観点からフェライトコアとなるフェライト基材とコイルとなる導電材料とが一体焼成されて導体がフェライトコアの外側に密着していることが好ましい。すなわち、本発明に係る電子部品はフェライトコアとコイルとを有する焼結体からなることが好ましい。
【0039】
コイルを構成する導体は、AgまたはAg系合金、銅または銅系合金等の金属を用いることができ、AgまたはAg系合金であることが好ましい。
【0040】
本発明に係る電子部品は、フェライトコアの外側に導体からなるコイルを備えている一方又は両方の外側面に絶縁層を備えていることが好ましい。絶縁層を設けることによってコイルが保護されて安定に動作する品質の均質な電子部品が得られる。
【0041】
本発明に係る電子部品は、絶縁層として、Zn系フェライトなどの非磁性フェライト、ホウケイ酸系ガラス、亜鉛系ガラス又は鉛系ガラス等のガラス系セラミック、あるいは非磁性フェライトとガラス系セラミックを適量混合したものなどを用いることができる。
【0042】
絶縁層に非磁性フェライトとして使用するフェライトには、焼結体の体積固有抵抗が10Ωcm以上になるようなZn系フェライト組成を選択するとよい。例えば、Feが45.0~49.5mol%、ZnOが17.0~45.0mol%、CuOが4.5~15.0mol%である組成が好ましい。
【0043】
絶縁層がガラス系セラミックである場合、使用するガラス系セラミックには、線膨張係数が使用する磁性体の線膨張係数と大きく異ならない組成を選択するとよい。具体的には磁性体として用いる磁性フェライトの線膨張係数との差が±5ppm/℃以内の組成である。
【0044】
本発明に係る電子部品は、フェライトコア上のコイルの外側に絶縁層を介して導電層を備えていてもよい。導電層を設けることによってアンテナに金属物が近づいてもアンテナの共振周波数の変化が小さくなり、安定に動作する品質の均質なアンテナが得られる。
【0045】
本発明に係る電子部品は、導電層として、金属層を設けることができ、抵抗の低いAgまたはAg系合金による金属の薄層であることが好ましい。
【0046】
本発明に係る電子部品は、前記の絶縁層や導電層が、フェライトコアとなるフェライト基材と導体となる導電材料と共に一体焼成されてフェライトコアに密着した焼結体であることが好ましい。
【0047】
本発明によって得られるような、小型で高感度のアンテナは、ウェアラブル機器への適用が望まれており、その場合、アンテナのサイズは20mm角以下であって、高さ20mm以下が望ましく、より好ましくは10mm角以下且つ高さ10mm以下、さらに好ましくは8mm角以下であって、高さ8mm以下である。
【0048】
本発明におけるRFタグは、前記アンテナにICチップを接続したものである。本発明におけるRFタグは、樹脂によって被覆されていても特性を損なうことなく、アンテナ及び接続されたICチップが保護されて、安定に動作する品質のRFタグが得られる。
【0049】
本発明に係る電子部品の製造方法について述べる。
【0050】
本発明に係る電子部品は、フェライトコアを巻回するようにコイルを設けることができる種々の方法によって製造することができる。ここでは、シート状のフェライト基材と導電材料とを所望の構成となるように積層した後に一体焼成して作る、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics、低温共焼成セラミックス)技術によるアンテナの製造方法について説明する。
【0051】
図1及び図2に示すようなアンテナの積層構成を例に説明する。
【0052】
まず、磁性粉末及びバインダーを混合した混合物をシート状にしたフェライト基材を形成する。
【0053】
磁性粉末としては、構成金属元素としてFe、Ni、Zn、Cu及びCoを含有し、構成金属元素それぞれを、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOに換算したときに、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOの合計を基準として、Feを46~50mol%、NiOを20~27mol%、ZnOを15~22mol%、CuOを9~11mol%、及びCoOを0.01~1.0mol%含有するフェライト仮焼粉を用いることができる。
【0054】
次に、フェライト基材からなる磁性層(5)を全体の厚みが所望の厚さとなるように積層する。図1に示すように、磁性層(5)の積層体に所望の数のスルーホール(1)を開ける。前記スルーホール(1)のそれぞれに導電材料を流し込む。また、磁性層(5)の積層体のスルーホール(1)と直角になる両面に、スルーホール(1)と接続してコイル状(巻き線状)となるように電極層(2)を形成する。スルーホール(1)に流し込んだ導電材料と電極層(2)によって、磁性層(5)の積層体が直方体のコアとなるようにコイル(4)を形成する。このとき、コイル(4)を形成する磁性層の両端が磁性回路上開放となる構成となる。
【0055】
スルーホール(1)に流し込む、又は電極層(2)を形成する導電材料としては、金属系導電性ペーストを使用することができ、AgペーストやAg系合金ペーストが適している。
【0056】
得られたシート状の積層体を、所望の形状となるように、スルーホール(1)を含む面とコイル開放端面(4-2)で切断して一体焼成する、又は一体焼成後にスルーホール(1)を含む面とコイル開放端面(4-2)で切断することによってフェライトコア(3)とコイル(4)とを有する焼結体からなる本発明のアンテナを製造することができる。
【0057】
前記積層体の焼成温度は800℃~1000℃であり、好ましくは850℃~920℃である。前述の範囲より温度が低い場合は、μ’やQなどにおいて望ましい特性が得られにくくなり、また高い温度の場合は、一体焼成が困難になる。
【0058】
また、本発明においては電極層(2)を形成した磁性層(5)の上下面に絶縁層(6)を形成することができる。絶縁層(6)を形成したアンテナの概略図を図2に示す。
【0059】
また、本発明におけるアンテナは、絶縁層(6)の表面に導電材料でコイルリード端子とICチップ接続端子を形成し、ICを実装してもよい。
【0060】
前記ICチップ接続端子を形成したアンテナは、電極層(2)を形成した磁性層(5)の少なくとも一方の面に形成された絶縁層(6)にスルーホールを設け、このスルーホールに導電材料を流し込み、コイル(4)の両端と接続し、該絶縁層(6)の表面に導電材料でコイルリード端子とICチップ接続端子を並列若しくは直列に接続できるよう形成して一体焼成して得ることができる。
【0061】
また、本発明におけるアンテナは、図3に示すように絶縁層(6)の外側に導電層(7)を設けてもよい。アンテナがコイル(4)を形成する磁性層(5)に絶縁層(6)を介して導電層(7)を備えることによって、金属面に貼り付けても共振周波数の変化が少なく、コイルが直接金属面に触れないことによって、安定に動作する品質の均質なアンテナが得られる。
【0062】
また、本発明におけるアンテナは、図3に示すように導電層(7)の外側面にさらに絶縁層(6)を設けてもよい。さらに、当該絶縁層(6)の外側面に、磁性層(5)又は磁性層(5)とその外側面に絶縁層(6)を設けてもよい。これによって、アンテナに金属物が近づいてもアンテナの特性変化がより小さくなり、共振周波数の変化をより小さくすることができる。
【0063】
導電層(7)はどのような手段で形成されても良いが、例えば、ペースト状の導電材料によって絶縁層(6)上に印刷、刷毛塗り等の通常の方法で形成することが好ましい。あるいは、金属板を絶縁層(6)の外側に貼り付けて同様の効果を付与することも出来る。
【0064】
導電層(7)を形成するペースト状の導電材料としては、金属系導電性ペーストを使用することができ、AgペーストやAg系合金ペーストが適している。
【0065】
導電層(7)を絶縁層の外側に形成する場合、導電層(7)の膜厚は焼成後の膜厚で0.001~0.1mmが製造上好ましい。
【0066】
また、本発明におけるアンテナは、コイル(4)の上下面を挟み込んだ絶縁層(6)の一方あるいは両方の外側面にコンデンサー電極を配置してもよい。
【0067】
なお、アンテナは、絶縁層(6)の上面に形成するコンデンサーを、平行電極若しくはくし型電極を印刷してコンデンサーとしてもよく、更に、該コンデンサーとコイルリード端子とを並列もしくは直列に接続してもよい。
【0068】
また、本発明におけるアンテナは、絶縁層(6)上面に可変コンデンサーを設ける端子を形成し、コイルリード端子とコイルリード端子とを並列若しくは直列に接続してもよい。
【0069】
また、絶縁層(6)上面にコンデンサー電極を配置した外側面にさらに絶縁層(6)を設け、該絶縁層(6)の外側面にICチップ接続端子を兼ねる電極層を形成して該絶縁層(6)を挟みこむようにコンデンサーを形成し、ICチップ接続端子と並列もしくは直列に接続してもよい。
【0070】
本発明におけるアンテナは、コイル(4)の下面の絶縁層(6)にスルーホール(1)を設け、そのスルーホールに導電材料を流し込み、コイル(4)の両端と接続し、その下表面に導電材料で基板接続端子を形成して一体焼成してもよい。その場合、セラミック、樹脂等の基板に容易に接合することができる。
【0071】
ICチップは、絶縁層上にICチップ接続端子を形成して接続しても良いし、アンテナの下面の基板接続端子に接続するように基板内に配線を形成して、基板内配線を介して接続しても良い。ICチップを接続することで、本発明におけるアンテナをRFタグとして利用することができる。
【0072】
また、本発明におけるRFタグは、ポリスチレン、アクリルニトリルスチレン、アクリルニトリルブタジェンスチレン、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、塩化ビニール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂によって被覆されていても良い。
【0073】
<作用>
本発明におけるアンテナは、フェライトコアがFe、Ni、Zn、Cu及びCoを、それぞれ、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOに換算したときに、Fe、NiO、ZnO、CuO及びCoOの合計を基準として、Feを46~50mol%、NiOを20~27mol%、ZnOを15~22mol%、CuOを9~11mol%、及びCoOを0.01~1.0mol%、を含有する磁性体であって、フェライトコアのQ(μ’/μ’’)が50~170を有するフェライトから構成されるため、アンテナの交信感度を向上させる事ができる。
【0074】
本発明にかかるアンテナは、フェライトコアとなる磁性粉末の組成を調整したことによりフェライトを低温で焼結させて焼結体を得ることができるため、LTCC技術を利用してコアと導電材料とを一体焼成できる。
【0075】
また、フェライトコアと導電材料で形成したコイルからなる積層体を一体焼成したアンテナは、高いμQ積が得られるため、小型であっても交信感度を向上させることが可能となる。
【実施例
【0076】
以下に図2を参照しながら、発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0077】
[実施例1]
Ni-Zn-Cuフェライト仮焼粉(Feを48.59mol%、NiOを24.82mol%、ZnOを15.95mol%、CuOを10.37mol%、及びCoOを0.27mol%)100重量部、ブチラール樹脂8重量部、可塑剤5重量部、溶剤80重量部をボールミルで混合しスラリーを製造した。出来たスラリーをドクターブレードでPETフィルム上に150mm角で、焼結時の厚みが0.1mmになるようにシート成型して、磁性層(5)用グリーンシートとした。このグリーンシートを用い、焼成温度900℃で焼結して得られるフェライトコアの磁気特性については表1に記載した。
【0078】
また、Zn-Cuフェライト仮焼粉(Fe 46.5mol%、ZnO 42.0mol%、CuO 11.5mol%)100重量部、ブチラール樹脂8重量部、可塑剤5重量部、溶剤80重量部をボールミルで混合しスラリーを製造した。出来たスラリーをドクターブレードでPETフィルム上に磁性層(5)用グリーンシートと同様のサイズと厚みでシート成型して、絶縁層(6)用グリーンシートとした。
【0079】
次に、磁性層(5)用グリーンシート10枚の所定の位置にスルーホール(1)を開けその中にAgペーストを充填し、電極層(2)を設ける面にはAgペーストを用いて電極のパターンを印刷した。これら10枚のグリーンシートを積層し、導電材料が積層されたグリーンシートの外側にコイル状に形成された積層体を形成した。積層体の電極層となる導電材料が印刷された面の上に絶縁層(6)用グリーンシートを積層した。
【0080】
積層したグリーンシートをまとめて加圧接着させ、スルーホール(1)を分割する面とコイル開放端面(4-2)とで切断し、900℃で2時間一体焼成して、横10mm×縦3mm×高さ2mmのサイズのコイル巻き数23ターンの、フェライトコアとコイルとを有する焼結体からなるアンテナを作成した。(図2ではコイル巻き数は図の簡略化のため、7ターンで表示している。また、磁性層(5)の積層枚数は図の簡略化のため3層で表している。以下の他の図についても同様である。)
【0081】
[フェライト組成の測定]
上述のフェライトコア用のフェライト仮焼粉の組成は、多元素同時蛍光X線分析装置 Simultix 14((株)リガク)を用いて測定した。
【0082】
[フェライトコアの磁気特性の測定]
上述のフェライトコア用のフェライト仮焼粉15g及び6.5%希釈したPVA水溶液1.5mLを混合した粉末を、外径20mmφ、内径10mmφの金型に投入し、プレス機にて、1ton/cmで圧縮し、アンテナを製造する場合と同様の条件である900℃で2時間焼成する事で、初透磁率、Q、μQ積を測定するためのフェライトのリングコアを得た。
【0083】
リングコアの初透磁率、Q、μQ積は、インピーダンス/マテリアルアナライザーE4991A(アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて13.56MHzの周波数において測定した。
【0084】
[実施例2]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.31mol%、NiOを21.93mol%、ZnOを19.18mol%、CuOを10.29mol%、及びCoOを0.29mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0085】
[実施例3]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.65mol%、NiOを24.76mol%、ZnOを16.10mol%、CuOを10.35mol%、及びCoOを0.14mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0086】
[実施例4]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.66mol%、NiOを24.80mol%、ZnOを16.08mol%、CuOを10.37mol%、及びCoOを0.09mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0087】
[実施例5]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.23mol%、NiOを24.73mol%、ZnOを15.91mol%、CuOを10.52mol%、及びCoOを0.61mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0088】
[実施例6]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.30mol%、NiOを24.64mol%、ZnOを15.88mol%、CuOを10.35mol%、及びCoOを0.83mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0089】
[比較例1]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.22mol%、NiOを26.54mol%、ZnOを14.73mol%、CuOを10.51mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0090】
[比較例2]
磁性層に用いるNi-Zn-Cuフェライト仮焼粉の組成を、Feを48.61mol%、NiOを27.39mol%、ZnOを13.57mol%、CuOを10.43mol%とした以外は、実施例1と同様にしてアンテナを製造した。
【0091】
【表1】
【0092】
[アンテナの共振周波数及びQの測定]
該アンテナの共振周波数及びQは、アジレント・テクノロジー株式会社製インピーダンスアナライザー4991A及び同軸プローブを用いて測定した。該アンテナのコイル両端にプローブを接続してアンテナの共振周波数及びQを測定した。アンテナのQは、ωL/R(ω:角周波数、L:コイルの自己インダクタンス、R:コイルの損失抵抗)で求められる。測定結果は表2に示す。
【0093】
[交信距離の測定]
該アンテナのコイル両端にRFタグ用ICを接続してさらにICと並列にコンデンサーを接続して、交信距離が最大となるように共振周波数を調整してRFタグを作製し、出力100mWのリーダ/ライタ(株式会社タカヤ製、製品名TR3-A201/TR3-D002A)のアンテナを水平に固定し、RFタグのアンテナのコイルの中心軸がリーダ/ライタのアンテナの中心上に垂直に向くように位置させて、交信が可能な限り高い位置の時のリーダ/ライタのアンテナとRFタグの間の距離を最長交信距離とした。
【0094】
比較例1で製造したアンテナの最長交信距離を基準に、他の例のアンテナの最長交信距離の相対値を百分率で計算し、表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
本発明の実施例及び比較例において、同じ大きさと構造を持つアンテナのフェライトコアの組成を種々変更した結果、本発明において規定する組成のとき、交信感度の向上が見られた。
【0097】
本発明におけるアンテナはフェライトコアに使用するフェライトコアのQ(μ’/μ’’)が高く、小型化と交信感度の向上を両立させたアンテナであることが確認された。
【符号の説明】
【0098】
1 スルーホール
2 電極層(コイル電極)
3 コア(磁性体)
4 コイル
5 磁性層
6 絶縁層
7 導電層
図1
図2
図3