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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】金属材および接続端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20220726BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019007134
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020117741
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】坂 喜文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 暁博
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-137417(JP,A)
【文献】特開2009-249648(JP,A)
【文献】特開平04-329224(JP,A)
【文献】特開昭63-221517(JP,A)
【文献】特開平04-160199(JP,A)
【文献】特開2015-167099(JP,A)
【文献】特開2015-139776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地材と、
前記下地材の表面上に形成され、最表面に露出した表面層と、を有し、
前記表面層は、AgおよびAuの少なくとも一方を含む貴金属元素と、Inとを含み、
前記表面層は、前記貴金属元素を主成分とする貴金属部と、前記貴金属部よりも高濃度のInを含有する高濃度In部と、を含んでおり、前記貴金属部と前記高濃度In部がともに最表面に露出しており、
前記表面層の動摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする金属材。
【請求項2】
前記下地材は、基材上に形成された中間層を有し、
前記中間層は、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuより選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の金属材。
【請求項3】
前記表面層に含有されるInの少なくとも一部は、前記貴金属元素との合金となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属材。
【請求項4】
前記貴金属元素は、Agを含んでおり、
前記表面層は、AgIn,AgIn,AgInのうち少なくとも1種の金属間化合物を含有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の金属材。
【請求項5】
前記表面層の接触抵抗が1.4mΩ以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属材。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の金属材よりなり、前記表面層は、少なくとも、相手方導電部材と電気的に接触する接点部において、前記下地材の表面上に形成されていることを特徴とする接続端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材および接続端子に関し、さらに詳しくは、貴金属元素とInを含有する表面層を有する金属材、およびそのような表面層を接点部に有する接続端子に関する。
【背景技術】
【0002】
接続端子等の電気接続部材において、表面に、AgやAuや白金族元素等よりなる貴金属層を設ける場合がある。それら貴金属は、高い電気伝導性を有するうえ、酸化を受けにくい。そのため、貴金属層を表面に有する金属材を用いて、接続端子等の電気接続部材を構成することで、接触抵抗が低く、安定した電気接続特性を有する電気接続部材とすることができる。低接触抵抗特性は、高温でも維持され、自動車等において、高温環境での使用や、大電流の印加が想定される接続端子の構成材料として、貴金属層を表面に有する金属材を、好適に使用することができる。
【0003】
接続端子等の電気接続部材においては、表面が、安定した電気接続特性を有することに加え、良好な摩擦特性、つまり低い摩擦係数を示すことが望まれる。表面の摩擦係数を低くすることで、電気接続部材の表面に、相手方接続端子等、他の部材を接触させた際の摺動を、滑らかに行うことができる。例えば、接続端子を構成する場合に、接続端子の挿抜に必要な力を、小さく抑えることができる。
【0004】
例えば、特許文献1に示されるように、Ag層の下層に、硬質の金属層を設けることで、Ag層表面の摩擦係数を低減することが試みられている。特許文献1では、硬質の金属層として、Ag-Sn合金層が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-231228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、金属材において、貴金属層の下層に、他種の金属元素を含有する金属層を設けることで、低接触抵抗特性等、貴金属層が有する特性を維持しながら、下層の金属層によって、摩擦係数の低減等、貴金属層の表面特性の改良を図ることができる。しかし、下層の金属層が、上層の貴金属層の表面特性の改良に、ある程度の効果を示す場合でも、下層の金属層は、貴金属層に表面を被覆されており、相手方の金属材と接触する訳ではない。よって、下層の金属層は、電気的特性や摩擦特性等、金属材の表面の特性に、直接的に影響するものとはならない。つまり、上述の金属材では、例えば摩擦係数や接触抵抗の低減等の表面特性の改良として不十分である。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、貴金属元素を含む表面層を有し、低接触抵抗と低摩擦係数を両立することができる金属材および接続端子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる金属材は、下地材と、前記下地材の表面上に形成され、最表面に露出した表面層と、を有し、前記表面層は、Ag,Au,白金族元素より選択される少なくとも1種よりなる貴金属元素と、Inとを含んでいる。
【0009】
ここで、前記下地材は、基材上に形成された中間層を有し、前記中間層は、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuより選択される少なくとも1種を含有するとよい。
【0010】
また、前記表面層に含有されるInの少なくとも一部は、前記貴金属元素との合金となっているとよい。前記表面層は、前記貴金属元素を主成分とする貴金属部と、前記貴金属部よりも高濃度のInを含有する高濃度In部と、を含んでおり、前記貴金属部と前記高濃度In部がともに最表面に露出しているとよい。
【0011】
前記貴金属元素は、AgおよびAuの少なくとも一方を含むとよい。また、前記貴金属元素は、Agを含んでおり、前記表面層は、AgIn,AgIn,AgInのうち少なくとも1種の金属間化合物を含有するとよい。
【0012】
本発明にかかる接続端子は、上記のような金属材よりなり、前記表面層は、少なくとも、相手方導電部材と電気的に接触する接点部において、前記下地材の表面上に形成されている。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかる金属材においては、表面層に、Ag,Au,白金族元素より選択される少なくとも1種よりなる貴金属元素と、Inとを含んでいる。貴金属元素は、高い電気伝導性を有することにより、表面層の接触抵抗を低く抑えるものとなる。一方、Inは軟らかい金属であり、固体潤滑作用を示すため、金属材の表面の摩擦係数を低く抑えることができる。また、Inは、酸化を受けても、形成された酸化膜を、荷重の印加等によって、容易に破壊することができる。このように、金属材の最表面に露出した表面層が、貴金属元素とともに、Inを含むことにより、表面層全体として、貴金属元素による低接触抵抗特性を損なうことなく、摩擦係数を低く抑えやすい。
【0014】
ここで、下地材が、基材上に形成された中間層を有し、中間層が、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuより選択される少なくとも1種を含有する場合には、中間層の存在により、基材と表面層の間で、構成元素の相互拡散を抑制することができるので、金属材が加熱を受けた際に、基材の構成元素が、表面層に拡散して、表面層の組成や特性に影響を与えることが、起こりにくくなる。
【0015】
また、表面層に含有されるInの少なくとも一部が、貴金属元素との合金となっている場合には、Inを貴金属元素とともに表面層内に分布させた構造を、安定に形成しやすい。貴金属元素とInの合金は、Inの寄与により、表面層の摩擦係数を低減するのに高い効果を示し、また、酸化皮膜の易破壊性によって、接触抵抗の上昇を抑制するのに寄与する。
【0016】
表面層が、貴金属元素を主成分とする貴金属部と、貴金属部よりも高濃度のInを含有する高濃度In部と、を含んでおり、貴金属部と高濃度In部がともに最表面に露出している場合には、貴金属元素が有する耐熱性や低接触抵抗等の特性が、貴金属部によって発揮されるとともに、Inの添加によって得られる摩擦係数低減等の効果が、高濃度In部によって発揮される。そのため、表面層全体として、低接触抵抗と低摩擦係数を、高度に両立しやすい。
【0017】
貴金属元素が、AgおよびAuの少なくとも一方を含む場合には、AgやAuは、貴金属元素の中でも、特に高い電気伝導性を有するとともに、酸化を受けにくいため、表面層において、特に低い接触抵抗を得ることができる。一方、AgやAuは、高い凝着性を示し、それらのみで用いる場合には、表面の摩擦係数が高くなりやすいが、表面層にInが含有されることにより、表面層の摩擦係数を低く抑えることができる。
【0018】
また、貴金属元素が、Agを含んでおり、表面層が、AgIn,AgIn,AgInのうち少なくとも1種の金属間化合物を含有する場合には、AgとInの含有により、接触抵抗が低く、かつ摩擦係数が低い表面層を、安定に形成し、保持しやすい。
【0019】
上記発明にかかる接続端子は、少なくとも接点部に、上記のような表面層が形成されているため、接点部において、低摩擦係数と低接触抵抗を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態にかかる金属材における積層構造を模式的に示す断面図である。(a)は断面全体の構成を示し、(b)は表面層の状態の例を拡大して示している。
図2】本発明の一実施形態にかかる接続端子の概略を示す断面図である。
図3】各実施例および比較例について、摺動中の摩擦係数の変化を示す図であり、(a)は貴金属元素がAgである場合、(b)は貴金属元素がAuである場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、各元素の含有量(濃度)は、特記しない限り、原子%等、原子数比を単位として示すものとする。また、単体金属や、貴金属元素のみよりなる金属には、不可避的不純物を含有する場合も含むものとする。合金には、特記しないかぎり、固溶体である場合も、金属間化合物を構成する場合も、含むものとする。
【0022】
[金属材]
本発明の一実施形態にかかる金属材は、金属材料を積層したものよりなる。本発明の一実施形態にかかる金属材は、いかなる金属部材を構成するものであってもよいが、接続端子等、電気接続部材を構成する材料として、好適に利用することができる。
【0023】
(金属材の構成)
図1(a)に、本発明の一実施形態にかかる金属材1の積層構造を示す。金属材1は、下地材10と、下地材10の表面上に形成され、最表面に露出した表面層11と、を有している。後に説明するように、表面層11は、貴金属元素とInを含んでいる。表面層11の特性を損なわない範囲において、金属材1の最表面に露出した表面層11の上に、有機層等の薄膜(不図示)を設けてもよい。ただし、表面層11の表面には、他種の金属層は設けられない。
【0024】
下地材10は、単一の金属材料より構成されてもよいが、基材10aと中間層10bとからなることが好ましい。中間層10bは、基材10aよりも薄い金属層よりなり、基材10aの表面に形成されている。
【0025】
基材10aは、板状等、任意の形状の金属材料より構成することができる。基材10aを構成する材料は、特に限定されるものではないが、金属材1が、接続端子等、電気接続部材を構成するものである場合には、基材10aを構成する材料として、CuまたはCu合金、AlまたはAl合金、FeまたはFe合金等を、好適に用いることができる。中でも、電気伝導性に優れたCuまたはCu合金を、好適に用いることができる。
【0026】
基材10aの表面に接触して、中間層10bを設けることで、基材10aと表面層11の間の密着性を向上させる効果や、基材10aと表面層11の間で、構成元素の相互拡散を抑制する効果等を得ることができる。中間層10bを構成する材料としては、第四周期の遷移金属元素、つまりCr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuより選択される少なくとも1種よりなる第四周期元素を含有する金属材料を、例示することができる。中間層10bを構成する材料は、上記第四周期元素より選択される1種よりなる単体金属であっても、上記第四周期元素より選択される1種または2種以上の金属元素を含有する合金であってもよい。合金よりなる場合、上記第四周期元素に加え、それ以外の金属元素を含むものであってもよいが、上記第四周期元素を主成分とするものであることが好ましい。また、中間層10bは、1層のみよりなっても、2種以上の層が積層されたものよりなってもよい。下地材10が、中間層10bを有さず、単一の金属材料よりなる場合にも、その単一の金属材料の少なくとも表面が、上記第四周期元素を含有する金属よりなればよい。
【0027】
特に、基材10aがCuまたはCu合金よりなる場合に、中間層10bを、上記第四周期元素を含有する金属、特に上記第四周期元素を主成分とする金属より構成することにより、基材10aから表面層11へとCuが拡散すること、さらに、拡散したCuとの合金化に起因するInの消費等、表面層11の成分組成や特性に影響が生じることを、高温になる条件でも、効果的に抑制できる。中でも、中間層10bを、Ni、またはNiを主成分とする合金より構成する場合に、表面層11へのCuの拡散抑制を、効果的に達成することができる。
【0028】
中間層10bの厚さは、特に限定されるものではないが、基材10aと表面層11の間の拡散抑制等を効果的に達成する観点から、0.1μm以上とすることが好ましい。一方、過度に厚い中間層10bを形成するのを避ける観点から、その厚さは、3.0μm以下とすることが好ましい。中間層10bにおいて、基材10a側の一部は、基材10aの構成元素と合金を形成していてもよく、表面層11側の一部は、表面層11の構成元素と合金を形成していてもよい。
【0029】
表面層11は、貴金属元素と、Inとを含有する金属層として構成される。ここで、貴金属元素とは、AgおよびAu、ならびに白金族元素、つまりAg,Au,Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Ptより選択される少なくとも1種よりなるものである。
【0030】
表面層11は、貴金属元素とIn以外の元素を含有してもよいが、下に説明するような、貴金属元素およびInによって付与される特性を損なわないように、貴金属元素とInを主成分とするもの、つまり貴金属元素とInの合計で、50原子%以上を占めるものであることが好ましい。特に、不可避的不純物の含有や、表面近傍での酸化、炭化、窒化等の変性を除いて、表面層11が、貴金属元素とInのみよりなる形態が好ましい。貴金属元素としては、1種のみを含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。
【0031】
表面層11においては、最表面に、貴金属原子とIn原子の両方が存在していれば、貴金属元素とInが、表面層11内で、どのように分布していてもかまわない。また、貴金属元素およびInは、それぞれ、単体金属の状態にあっても、合金を形成していてもかまわない。単体金属となっている部分と、合金となっている部分が共存していてもよい。
【0032】
Inは、貴金属元素と合金を形成する金属であり、表面層11の状態を安定に維持する観点から、表面層11に含有されるInの少なくとも一部が、貴金属元素との合金(NM-In合金)を構成していることが好ましい。NM-In合金は、固溶体となっていても、金属間化合物となっていてもよい。
【0033】
表面層11は、全体が均質なNM-In合金よりなってもよい。しかし、表面層11において、貴金属元素によって付与される特性と、Inによって付与される特性のそれぞれを、顕著に発揮させる観点から、例えば図1(b)に示すように、貴金属元素の濃度が比較的高い貴金属部11aと、Inの濃度が比較的高い高濃度In部11bの2種の相を、共存させて有する方が好ましい。
【0034】
ここで、貴金属部11aは、貴金属を主成分とする相であり、貴金属元素のみ、あるいは貴金属元素よりも少量のInを含んだNM-In合金よりなる形態を例示することができる。貴金属元素が有する特性を十分に発揮させる観点からは、貴金属部11aは、貴金属元素のみよりなることが好ましい。
【0035】
高濃度In部11bは、貴金属部11aよりも、高濃度のInを含有している。具体的には、In単体よりなる形態(Inと不可避的不純物よりなる形態)、あるいは、貴金属部11aよりもIn濃度(貴金属元素に対するInの原子数比)の高いNM-In合金よりなる形態を例示することができる。
【0036】
貴金属部11aと高濃度In部11bは、ともにNM-In合金よりなってもよいが、この場合には、高濃度In部11bが、貴金属部11aよりも、貴金属元素に対するInの原子数比の高い合金組成を有する。例えば、表面層11が、貴金属元素をNMとして、NMInとNMIn(b/a<d/c)なる2種の組成の金属間化合物を含有する場合に、NMInよりなる部分を、貴金属部11aとみなし、NMInよりなる部分を、高濃度In部11bとみなすことができる。また、貴金属部11aおよび高濃度In部11bは、それぞれ、組成の異なる2種以上の部分を含有してもよく、例えば、単体金属と合金の両方を含有する形態、また、成分組成の異なる2種以上の合金を含有する形態を挙げることができる。
【0037】
表面層11が貴金属部11aと高濃度In部11bを有する場合に、貴金属原子とIn原子の両方が最表面に存在していれば、貴金属部11aおよび高濃度In部11bは、どのように分布していてもよい。一例として、層状の貴金属部11aが下地材10の表面上に形成され、その表面に、NM-In合金よりなる高濃度In部11bが設けられた構造とすることができる。
【0038】
しかし、表面層11において、貴金属部11aと高濃度In部11bのそれぞれの特性を、表面層11全体の特性として有効に利用する観点から、図1(b)に示すように、貴金属部11aと高濃度In部11bが、層状に分離せずに、表面層11内で混在していることが好ましい。この場合に、貴金属部11aの中に分散されるようにして、高濃度In部11bが混在した形態をとるとよい。さらに、貴金属部11aと高濃度In部11bのそれぞれの特性を、金属材1の表面における特性として、有効に利用する観点から、貴金属部11aと高濃度In部11bが、ともに最表面に露出していることが好ましい。
【0039】
貴金属部11aと高濃度In部11bが、表面層11の深さ方向全域において、混在して分布していれば、それぞれの特性を安定して発揮することができ、好ましい。しかし、少なくとも、表面層11の最表面およびその近傍(表面部)に、両者が混在して分布していればよい。この場合に、表面部で、高濃度In部11bが貴金属部11aと共存していれば、表面層11の内部においては、高濃度In部11bが占める割合が、表面部よりも小さくてもよく、あるいは、貴金属部11aのみが占めていてもよい。
【0040】
表面層11におけるInと貴金属元素の含有量の比は、所望される表面層11の特性に応じて、適宜設定すればよいが、後に詳述するように、表面の摩擦係数の低減等、Inによって付与される特性を、効果的に発揮させる観点から、Inの含有量は、表面層11全体として(貴金属部11aと高濃度In部11bの合計として)、貴金属元素に対する原子数比(In[at%]/NM[at%])で、5%以上であることが好ましい。
【0041】
一方、表面層11全体としてのInの含有量は、表面の接触抵抗の低減等、貴金属によって付与される特性を効果的に発揮させる観点から、貴金属元素よりも少量となっていることが好ましい。さらに、貴金属元素に対する原子数比で、25%以下であることが好ましい。Inの含有量を、それらの値以下に抑えておくことで、貴金属部11aを、貴金属元素のみよりなる形態をはじめとして、貴金属元素の濃度の高い成分組成で、形成しやすい。
【0042】
表面層11の深さ方向の全域において、上記のように、貴金属に対する原子数比で5%以上また25%以下のInが含有されることが、表面層11全体として、安定した構造および特性を獲得し、維持する観点から好ましい。しかし、少なくとも、最表面において、貴金属に対する原子数比で5%以上また25%以下のInが含有されることが、好ましい。さらには、最表面から50nm程度の深さまでの領域において、そのような濃度のInが含有されることが、好ましい。
【0043】
表面層11全体の厚さは、特に限定されるものではなく、貴金属元素およびInによって付与される特性を十分に発揮させることができればよい。例えば、0.05μm以上とすることが好ましい。一方、過度に厚い表面層11を形成するのを避ける観点から、その厚さは、0.5μm以下とすればよい。
【0044】
上記のように、表面層11に含有される貴金属元素は、Ag,Au,各種白金族元素より選択される少なくとも1種であれば、特に限定されるものではない。しかし、それらの中でも、安定した表面層11を形成できるうえ、酸化を受けにくく、表面層11の接触抵抗を低く維持しやすいという点で、Ag,Au,Rh,Pd,Ir,Ptから選択される貴金属元素を用いることが好ましい。中でも、特に酸化を受けにくく、接触抵抗を低減する効果に特に優れるという点で、貴金属元素が、AgおよびAuの少なくとも一方を含むことが好ましい。さらには、貴金属元素が、AgおよびAuの少なくとも一方のみよりなることが好ましい。特に、Agは、Auよりも低価格の材料であるうえ、後述するように、とりわけ高い凝着性を示し、In添加による効果が顕著に現れることから、貴金属元素は、少なくともAgを含むことが好ましい。
【0045】
AgやAuは、室温でもInと容易に合金を形成する金属であり、後述するように、Ag層やAu層とIn層を積層して表面層11を形成する場合等において、Inは、Ag-In合金やAu-In合金を形成しやすい。貴金属元素がAgを含む場合に、表面層11に形成されうるAg-In金属間化合物の組成としては、AgIn,AgIn,AgInを挙げることができる。表面層11に含有されるAg-In合金は、これら3種の金属間化合物より選択される1種または2種以上を含むとよい。例えば、後の実施例において示すように、X線回折法(XRD)によってInを含む相として検出される全量が、不可避的不純物を除いて、それら金属間化合物となっていることが好ましい。さらに、Inによって発揮される特性を十分に示す表面層11を形成する観点から、表面層11は、上記3種のうち、Agに対するInの原子数比が比較的高い、AgInおよびAgInの少なくとも一方を含むものであることが好ましい。
【0046】
一方、貴金属元素がAuを含む場合に、表面層11において、Au-In合金は、固溶体の状態をとりやすい。特に、Inの含有量が少ない場合には、Auの格子中にInが固溶した、固溶体となりやすい。Inの含有量が増加すると、金属間化合物が形成されるようになる。表面層11に形成されうるAu-In金属間化合物の組成としては、AuIn,AuIn,AuIn,AuIn,AuIn,AuInを挙げることができる。
【0047】
さらに、貴金属元素がAgよりなる場合に、貴金属部(Ag部)11aが、軟質銀よりなることが好ましい。軟質銀とは、硬さが概ね80Hv以下であり、硬度を上昇させる作用のあるSb等の不純物元素の含有量が低く抑えられている。貴金属部11aにおいて、さらには、表面層11全体として、Sbをはじめ、不純物元素の濃度(Inを除く)は、1.0原子%以下、さらには0.1原子%以下であることが好ましい。
【0048】
(金属材の表面特性)
本実施形態にかかる金属材1においては、上記のように、表面層11が貴金属元素とInの両方を含んでおり、表面層11の最表面に貴金属元素とInの両方が存在している。そのため、貴金属元素によって付与される特性と、Inによって付与される特性の両方を、金属材1の表面の特性として利用することができる。
【0049】
具体的には、表面層11に貴金属元素が含有されることにより、貴金属元素によって付与される高い電気伝導性を利用することができる。そのため、表面層11の表面を、接触抵抗の低い状態とすることができる。また、表面層11が加熱を受けても、電気伝導性の高い状態を維持しやすく、低い接触抵抗を保ちやすい。貴金属元素の中でも、Ag,Au,Rh,Pd,Ir,Ptは、酸化を受けにくいため、接触抵抗を低く保つ効果に特に優れる。それらの中でも、AgおよびAuは、電気伝導性および難酸化性の両方において優れており、接触抵抗を低く保つ効果が、非常に高くなる。
【0050】
一方、Inは、比較的軟らかい金属であり、優れた固体潤滑性を示す。また、表面に形成される酸化膜も比較的軟らかく、荷重の印加等によって、容易に破壊することができる。Inの固体潤滑性および酸化膜の易破壊性は、NM-In合金となっても、発揮される。よって、表面層11にInが含まれることで、表面層11の表面において、固体潤滑作用によって、摩擦係数低減の効果が得られるとともに、酸化による接触抵抗の大幅な上昇を、避けやすくなる。このように、表面層11に、貴金属元素とともにInが含有され、金属材1の最表面に露出されていることにより、金属材1が、低い摩擦係数と、低い接触抵抗とを兼ね備えたものとなる。
【0051】
貴金属元素の中で、AgおよびAu、特にAgは、高い凝着性を示すため、表面層11の最表面に露出することで、表面層11の摩擦係数を上昇させる可能性がある。しかし、表面層11に、それら貴金属元素ともに、Inを含有させることで、Inが示す摩擦係数低減の効果により、表面層11全体としての摩擦係数を、低く抑えることができる。このように、貴金属元素がAgやAuである場合には、白金族元素である場合よりも、Inの添加による摩擦係数低減の効果が、特に顕著になる。
【0052】
上記のように、表面層11において、貴金属原子およびIn原子は、ともに最表面に存在していれば、どのように分布していてもよいが、表面層11において、貴金属部11aと高濃度In部11bが混在し、それらがともに最表面に露出している場合には、貴金属部11aにおいて、低接触抵等、貴金属元素による表面特性を強く発揮させやすく、同時に、高濃度In部11bにおいて、低摩擦係数等、Inによる表面特性を強く発揮させやすい。よって、貴金属部11aと高濃度In部11bを混在させることで、表面層11全体として、低接触抵抗と低摩擦係数の両方を、効果的に達成することができる。
【0053】
上記のように、Inは貴金属元素との間に合金を形成することができ、表面層11に高濃度In部11b等として含有されるInは、少なくとも一部が、NM-In合金を形成していることが好ましい。それによって、貴金属部11aと高濃度In部11bが共存した状態等、表面層11の状態を、安定に維持しやすくなる。
【0054】
また、表面層11において、NM-In合金が形成される場合に、合金組成は特に限定されるものではないが、貴金属元素がAgである場合のAgInやAgInのように、貴金属元素に対するInの原子数比の大きい金属間化合物を含んでいれば、Inによる摩擦係数低減の効果を、表面層11の特性として、有効に発現しやすい。NM-In合金の組成は、表面層11を形成する原料として使用する貴金属元素とInの量の比、また表面層11の形成条件等によって、制御することができる。
【0055】
表面層11において、少なくとも、最表面およびその近傍で、Inの含有量を、貴金属元素に対する原子数比で、5%以上としておけば、Inによる摩擦係数低減特性を、さらに効果的に得ることができる。一方、InやNM-In合金の表面は、酸化膜の易破壊性により、酸化を受けても、接触抵抗の低い状態を維持しやすいものではあるが、貴金属元素のみよりなる場合よりは、接触抵抗が高くなりやすい。そこで、表面層11におけるInの含有量を、貴金属元素よりも少なく抑えておけば、さらには、貴金属元素に対する原子数比で、25%以下としておけば、貴金属元素による接触抵抗低減の効果を、表面層11全体の特性として、有効に利用することができる。
【0056】
本実施形態にかかる金属材1は、以上のように、表面において、低い接触抵抗を有するとともに、低い摩擦係数を示す。よって、金属材1は、電気部品、特に、接続端子等、表面層11の表面において相手方の導電性部材と接触する、電気接続部材としての用途に、好適に利用することができる。
【0057】
(金属材の製造方法)
本実施形態にかかる金属材1は、基材10aの表面に、適宜、めっき法等によって、中間層10bを形成したうえで、表面層11を形成することにより、製造することができる。
【0058】
表面層11は、蒸着法やめっき法、浸漬法等、いかなる方法で形成してもよいが、めっき法によって、好適に形成することができる。この際、貴金属元素とInの共析によって、貴金属元素とInを含有する表面層11を形成してもよいが、簡便性の観点から、貴金属層とIn層を積層して形成してから、適宜合金化を経て、表面層11を形成することもできる。
【0059】
貴金属層とIn層を積層した後、適宜加熱を行って、貴金属元素とInの間で合金化を起こさせることで、NM-In合金を含んだ表面層11を形成することができる。貴金属元素がAgやAuである場合には、Inとの合金化は、室温でも容易に進行するため、貴金属層とIn層を室温で形成した後、特段の加熱を行わなくても、NM-In合金を含む表面層11を形成することができる。貴金属層とIn層の積層順は、特に限定されるものではないが、貴金属層を下層に形成し、その表面にIn層を形成することで、合金化を経て、高濃度In部11bが貴金属部11aとともに最表面に露出した表面層11を、形成しやすい。貴金属層とIn層のそれぞれの厚さ、および両者の間の厚さの比は、所望される表面層11の厚さや成分組成等に応じて、適宜選択すればよいが、貴金属層の厚さを0.5~10μm、In層の厚さを0.05~0.5μmとする形態を、好適なものとして例示することができる。
【0060】
[接続端子]
本発明の一実施形態にかかる接続端子は、上記実施形態にかかる金属材1よりなっており、少なくとも、相手方導電部材と電気的に接触する接点部において、下地材10の表面に、貴金属元素とInを含んだ表面層11が形成されている。接続端子の具体的な形状や種類は、特に限定されるものではない。
【0061】
図2に、本発明の一実施形態にかかる接続端子の例として、メス型コネクタ端子20を示す。メス型コネクタ端子20は、公知の嵌合型のメス型コネクタ端子と同様の形状を有する。すなわち、前方が開口した角筒状に挟圧部23が形成され、挟圧部23の底面の内側に、内側後方へ折り返された形状の弾性接触片21を有する。メス型コネクタ端子20の挟圧部23内に、相手方導電部材として、平板型タブ状のオス型コネクタ端子30が挿入されると、メス型コネクタ端子20の弾性接触片21は、挟圧部23の内側へ膨出したエンボス部21aにおいて、オス型コネクタ端子30と接触し、オス型コネクタ端子30に上向きの力を加える。弾性接触片21と相対する挟圧部23の天井部の表面が内部対向接触面22とされ、オス型コネクタ端子30が弾性接触片21によって内部対向接触面22に押し付けられることにより、オス型コネクタ端子30が、挟圧部23内において挟圧保持される。
【0062】
メス型コネクタ端子20は、全体が、上記実施形態にかかる表面層11を有する金属材1より構成されている。ここで、金属材1の表面層11が形成された面は、挟圧部23の内側に向けられ、弾性接触片21および内部対向接触面22の相互に対向する面を構成するように、配置されている。これにより、オス型コネクタ端子30をメス型コネクタ端子20の挟圧部23に挿入して摺動させた際に、メス型コネクタ端子20とオス型コネクタ端子30の間の接触部において、低摩擦係数と低接触抵抗が両立される。
【0063】
なお、ここでは、メス型コネクタ端子20の全体が、表面層11(および中間層10b)を有する上記実施形態にかかる金属材1より構成された形態について説明したが、表面層11(および中間層10b)は、少なくとも、相手方導電部材と接触する接点部の表面、つまり弾性接触片21のエンボス部21aと内部対向接触面22の表面に形成されていれば、いかなる範囲に形成されていてもよい。オス型コネクタ端子30等、相手方導電部材は、いかなる材料より構成してもよいが、メス型コネクタ端子20と同様に、表面層11を有する上記実施形態にかかる金属材1より構成する形態や、表面層11に含まれているのと同じ貴金属元素よりなる金属層が最表面に形成された金属材より構成する形態を、好適なものとして例示することができる。また、本発明の実施形態にかかる接続端子は、上記のような嵌合型のメス型コネクタ端子、あるいはオス型コネクタ端子の他に、プリント基板に形成されたスルーホールに圧入接続されるプレスフィット端子等、種々の形態とすることができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。以下、特記しない限り、試料の作製および評価は、大気中、室温にて行っている。
【0065】
[試験方法]
(試料の作製)
・実施例1~3および比較例1
清浄なCu基板の表面に、表1に示すように、所定の厚さの原料層を積層した。具体的には、最初に、電解めっき法により、厚さ1.0μmのNi中間層を形成した(実施例3を除く)。さらに、その表面に、Ag層(軟質銀)およびIn層を、それぞれ電解めっき法によって形成した。
【0066】
実施例1~3においては、Ag層とIn層を、この順に、1層ずつ積層した。Ag層の厚さは、いずれの実施例についても、1.0μmとした。In層の厚さは、0.05μm(実施例1)または0.20μm(実施例2,3)とした。比較例1は、Ag層のみを形成した試料とした。
【0067】
・実施例4および比較例1
上記実施例1,2に用いたのと同様の、厚さ1.0μmのNi中間層を形成したCu基板の表面に、表3に示すように、所定の厚さの原料層を、電解めっき法によって形成した。具体的には、実施例4では、厚さ0.4μmのAu層と、厚さ0.05μmのIn層を、この順に積層した。比較例2は、Au層のみを形成した試料とした。
【0068】
(表面層の状態の評価)
実施例1~3の試料に対して、2θ法によるX線回折(XRD)測定を行い、表面層に生成している相の組成および量を評価した。この際、AgおよびInを含有する各相に対して、参照強度比(RIR)法に基づいて、定量分析を行い、各相の存在比を見積もった。実施例4の試料に対しても、同様に、XRD測定を行い、AuおよびInを含有する相の状態を確認した。
【0069】
また、実施例1~3の試料に対して、Arスパッタリングを用いた深さ分析X線光電子分光(XPS)測定を行い、表面層から深さ200nmまでの領域における、各元素の分布を調べた。実施例4の試料に対しては、Arスパッタリングを用いた深さ分析オージェ電子分光(AES)測定を行い、表面層から深さ30nmまでの領域における、各元素の分布を調べた。
【0070】
さらに、実施例1~3の試料については、走査電子顕微鏡(SEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDX)により、各試料の表面における構成元素の分布を確認した。加速電圧は6kVとした。この際、検出深さは、50nm以下であった。得られた結果より、表面層におけるInの含有量を、Agに対する原子数比(In[at%]/Ag[at%])として、評価した。
【0071】
(摩擦係数の測定)
各試料に対して、摩擦係数の測定を行った。測定には、貴金属元素としてAgを用いている実施例1~3および比較例1については、Agめっき層(軟質銀)を1μmの厚さで形成した材料よりなる、半径1mm(R=1mm)のエンボスを用いた。貴金属元素としてAuを用いている実施例4および比較例2については、Auめっき層を1μmの厚さで形成した材料よりなるR=1mmのエンボスを用いた。各実施例および比較例にかかる板状の試料の表面にエンボスの頂部を接触させ、3Nの接触荷重を印加した状態で、10mm/minの速度で、5mmにわたって摺動させた。摺動中に、ロードセルを用いて、接点間に働く動摩擦力を測定した。そして、動摩擦力を荷重で割った値を(動)摩擦係数とした。
【0072】
(接触抵抗の評価)
各試料に対して、接触抵抗の測定を行った。この際、いずれの実施例および比較例についても、Auめっきを施したR=1mmのエンボスを、板状の試料の表面に接触させ、5Nの接触荷重を印加しながら、接触抵抗の測定を行った。測定は四端子法によって行った。開放電圧は20mV、通電電流は10mAとした。
【0073】
[試験結果]
(表面層の状態)
表1に、貴金属元素をAgとした実施例1~3および比較例1について、各原料層の厚さと、XRDによって得られた生成相の種類および存在比(質量%)、EDXによって得られたIn含有量をまとめる。なお、XRDでは、Agおよび/またはInを含む相として、表1に記載したもの以外は、検出されなかった。また、EDXで得られたInおよびAgの空間分布は、Ag濃度の高い領域(Ag部)とIn濃度の高い領域(高濃度In部)が、混在して、最表面に露出していることを示していた。
【0074】
実施例1~3に対する深さ分析XPS測定の結果としては、AgとInの両方が最表面に分布し、最表面から内側に向かうにつれ、Agに対するInの割合が、徐々に減少しているのが、検出された。また、InおよびAg以外の不純物金属元素が、検出限界(0.1~1.0原子%)以上の濃度で分布していないことが、確認された。
【0075】
【表1】
【0076】
表1の生成相の解析結果および上記XPSの結果から、実施例1~3においては、いずれも、Ag原子とIn原子の両方を含む表面層が形成され、Ag原子とIn原子の両方が、最表面に分布していることが分かる。XRDによって観測されるInを含む相は、全てAg-In合金となっている。
【0077】
実施例1→3→2の順に、生成相として、Ag→AgIn→AgInと、Agに対するInの原子数比が大きい金属間化合物の相が生成されるようになり、その割合が大きくなっている。実施例1,3においては、Ag単体よりなるAg部が、Ag-In合金よりなる高濃度In部と共存しているのに対し、実施例2においては、少なくともAg単体よりなるAg部は形成されておらず、Ag部とみなせる相として、比較的Inの含有量の少ないAg-In合金であるAgInが形成されている。
【0078】
表1によると、In含有量も、実施例1→3→2の順に増加している。このことより、表面層のInの含有量が増加するほど、Agに対するInの原子数比が大きい金属間化合物の相が多く生成することが分かる。なお、実施例2と実施例3では、原料層としてのIn層の厚さは同じになっているが、Ni中間層を設けている実施例2の方で、Ni中間層を設けていない実施例3よりも、In含有量が多くなっている。これは、Ni中間層を設けることで、Cuの拡散、およびそれに伴うCuとの合金形成に起因するInの消費を抑制できるためであると考えられる。
【0079】
貴金属元素をAuとした実施例4に対する深さ分析AES測定の結果としては、上記実施例1~3の場合と同様に、AuとInの両方が最表面に分布し、最表面から内側に向かうにつれ、Auに対するInの割合が、徐々に減少しているのが、検出された。また、InおよびAu以外の不純物金属元素が、検出限界(0.1~1.0原子%)以上の濃度で分布していないことが、確認された。
【0080】
実施例4のXRD測定においては、上記実施例1~3の場合とは異なり、Au-In金属間化合物は検出されなかった。代わりに、Auの格子定数が、Au単体の値から変化していることが分かった。このことは、Au-In合金として、InがAuの格子中に固溶した固溶体が形成されていることを示している。
【0081】
(表面層の特性)
下の表2に、貴金属元素をAgとした実施例1~3および比較例2について、また表3に、貴金属元素をAuとした実施例4および比較例2について、各原料層の厚さと、摩擦係数および接触抵抗の計測結果を示す。さらに、それぞれ図3(a)および図3(b)に、摺動中の摩擦係数の変化を示す。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
まず、表2の貴金属元素をAgとした場合について、摩擦係数に着目すると、表面層がAgのみよりなる比較例1の場合には、Agの凝着性により、摩擦係数が高くなっている。摺動中の値の変動も、大きくなっている。これに対し、AgとInを含有する表面層を形成した実施例1~3においては、いずれも、比較例1の半分以下の低い摩擦係数が得られている。摺動に伴う値の変動も、小さくなっている。つまり、実施例1~3においては、Agに比べて少量のInしか添加していないにもかかわらず、Inによって発揮される固体潤滑性の効果により、Agの凝着性による摩擦係数の上昇を、大幅に抑制することができている。
【0085】
表3の貴金属元素をAuとした場合についても、表面層がAuよりなる比較例2の場合に比べて、AuとInを含有する表面層を形成した実施例4においては、摩擦係数が半分近くまで低減されている。このように、貴金属としてAuを用いた場合にも、Agを用いた場合と同様に、Inによって発揮される固体潤滑性の効果により、摩擦係数の上昇を、大幅に抑制することができる。AgとAuでは、Agの方が凝着を起こしやすいため、Ag層を設けた比較例1の方が、Au層を設けた比較例2よりも、摩擦係数が高く、摺動に伴う値の変動も大きいが、Inの添加により、Agを用いた実施例1~3の場合と、Auを用いた実施例4の場合とで、摩擦係数が、同程度の値にまで低減されている。
【0086】
次に、接触抵抗の測定結果を見ると、表面層がAgのみよりなる比較例1においては、Agの電気伝導性の高さを反映して、非常に低い接触抵抗が得られている。これに対し、AgとInを含む表面層を形成した実施例1~3のいずれの試料においても、比較例1の場合に比べ、わずかに高い程度の接触抵抗に抑えられている。これは、Inの酸化膜の易破壊性によるものであると解釈できる。
【0087】
表面層がAuのみよりなる比較例2においては、Auの電気伝導性の高さを反映して、非常に低い接触抵抗が得られている。そして、AuとInを含む表面層を形成した実施例4においては、接触抵抗がさらに低くなっている。貴金属としてAgを用いた場合には、わずかではあるが、Inの添加によって接触抵抗が上昇していたのに対し、貴金属としてAuを用いた場合に、Inの添加によって接触抵抗が低くなるのは、InがAuの格子中に固溶した固溶体が形成され、Auの特性が比較的強く反映されたためであると考えられる。
【0088】
以上より、貴金属元素に加え、Inを含有する表面層を、金属材の表面に形成することで、低い接触抵抗を与える貴金属元素の特性を維持しながら、In添加の効果として、表面の摩擦係数を低減できることが、明らかになった。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 金属材
10 下地材
10a 基材
10b 中間層
11 表面層
11a 貴金属部
11b 高濃度In部
20 メス型コネクタ端子
21 弾性接触片
21a エンボス部
22 内部対向接触面
23 挟圧部
図1
図2
図3