(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】反応装置及び反応方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/26 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
B01J19/26
(21)【出願番号】P 2019048608
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松野 優樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳二
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-510488(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134746(WO,A1)
【文献】特開平05-208512(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082069(WO,A1)
【文献】特開2016-129886(JP,A)
【文献】特許第6460300(JP,B1)
【文献】特開2008-241508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/26
G01N 35/00-35/10
B01F 23/00-23/80
B01J 4/00- 4/04
B01L 3/02
B05B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの吐出口及びその周囲の当該ノズルの外面
である先端面と、反応槽内の反応場とを一定のギャップで対向させ
てあり、
前記吐出口の中心軸を含む一断面において、前記反応場の外径の3分の2以上に亘り前記一定のギャップを保持可能とされ、前記ノズルによる液体の吐出又は/及び吸引を実行することで前記反応槽内の液体を攪拌して前記反応場で物質を反応させることが可能にされた反応装置。
【請求項2】
前記一断面において、前記ギャップを、前記ノズルの先端面の外径以下に保持可能とされた請求項
1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記一断面において、前記反応場の外径が5mm以下とされた請求項
1又は請求項
2に記載の反応装置。
【請求項4】
ノズルの吐出口及びその周囲の当該ノズルの外面
である先端面と、反応槽内の反応場とを一定のギャップで対向させ、
前記吐出口の中心軸を含む一断面において、前記反応場の外径の3分の2以上に亘り前記一定のギャップを保持した状態で、前記ノズルによる液体の吐出又は/及び吸引を実行することで前記反応槽内の液体を攪拌して前記反応場で物質を反応させる反応方法。
【請求項5】
前記一断面において、前記ギャップを、前記ノズルの先端面の外径以下とする請求項
4に記載の反応方法。
【請求項6】
前記一断面において、前記反応場の外径が5mm以下である請求項
4又は請求項
5に記載の反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応装置及び反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの微量の被検出物質を高感度かつ定量的に検出するために、被検出物質が含まれる液体、標識液などの微量な液体を操作して攪拌することが行われる。
従来、モーターによって回転する撹拌羽根を混合液に浸漬させることによる2液の撹拌、混合方法が知られているが、1~100マイクロリットル程度の微量液体の撹拌では複雑な機構によるコスト増加や、技術的に作製が不可能であるとの問題が生じる。
そこでピペットチップなどの先細なノズルによる混合液の吐出・吸引を行うことで、微量な2液の混合を行う方法が一般的である。特に反応槽の内面が混合液体との反応場を有する場合に、特許文献1ではピペットチップによる液の撹拌を行うと同時に、反応槽内面の反応場での反応を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1~100マイクロリットル程度の微量液体を撹拌混合するのみであれば、ピペットチップなどの先細ノズルによる吐出・吸引での撹拌で可能である。
しかし、反応槽内面に液体との反応場があり、その反応効率が反応場上での液体流量と正に相関していて、注入された液体単体、あるいは反応槽にあらかじめ存在していた液体と混合された液体を反応場に流して2物質以上を化学反応させる系において、挿入されたノズルによる液の吐出あるいは吸引を行う際に、従来のピペットチップのような先細ノズルでは、ノズル直下の反応場でのみ液体流量が集中的に増加してしまい、反応場での化学反応にムラが出来てしまう問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、ノズルによる吐出又は吸引によって送液される液体を、反応場に、より均一に多くの流量で流すことで、撹拌しつつ反応場全体での均一かつ効率的な反応を促進することができる反応装置及び反応方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の反応装置は、ノズルの吐出口及びその周囲の当該ノズルの外面である先端面と、反応槽内の反応場とを一定のギャップで対向させてあり、前記吐出口の中心軸を含む一断面において、前記反応場の外径の3分の2以上に亘り前記一定のギャップを保持可能とされ、前記ノズルによる液体の吐出又は/及び吸引を実行することで前記反応槽内の液体を攪拌して前記反応場で物質を反応させることが可能にされている。
【0008】
また、本発明の一形態の反応方法は、ノズルの吐出口及びその周囲の当該ノズルの外面である先端面と、反応槽内の反応場とを一定のギャップで対向させ、前記吐出口の中心軸を含む一断面において、前記反応場の外径の3分の2以上に亘り前記一定のギャップを保持した状態で、前記ノズルによる液体の吐出又は/及び吸引を実行することで前記反応槽内の液体を攪拌して前記反応場で物質を反応させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ノズルの吐出口及びその周囲の当該ノズルの外面(先端面)と、反応場とを一定のギャップで対向させ、当該ギャップを反応場上の長い範囲に亘って保持することができるので、このギャップにより形成された流路に強制的に液体を流すことによって、反応場に流れる液体を反応場の面内で均一にし、かつ流量を積極的に増加させることができ、従って反応場全体での均一かつ効率的な反応を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態の反応装置を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の反応装置を示す断面模式図であり、液吐出時の様子を示す。
【
図3】本発明の第1実施形態の反応装置を示す断面模式図であり、液吸引時の様子を示す。
【
図4】ノズル先端径の変化に対する反応場の外周縁の通過流量和の変化を示すグラフである。
【
図5】反応場中心からの距離に応じた通過流量和の分布を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2実施形態の反応装置を示す断面模式図である。
【
図7】本発明の第2実施形態の反応装置を示す断面模式図であり、液吐出時の様子を示す。
【
図8】本発明の第2実施形態の反応装置を示す断面模式図であり、液吸引時の様子を示す。
【
図9】本発明の第3実施形態の反応装置を示す断面模式図である。
【
図10】本発明の第3実施形態の反応装置を示す断面模式図であり、液吐出時の様子を示す。
【
図11】本発明の第3実施形態の反応装置を示す断面模式図であり、液吸引時の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態に係る送液ノズル、反応装置及び反応方法につき
図1から
図3を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る反応装置1Aは、液体の吐出及び吸引が可能なポンプなどの送液手段2と、送液手段2に接続され液体を吐出及び吸引する送液ノズル3Aと、反応容器4Aとを備える。
【0013】
反応容器4Aは、底面に反応場41が設置された反応槽42を形成する。
送液ノズル3Aは、内部に収容した液体L1を吐出する吐出口31を有した先端面32が吐出口31の中心軸31cに垂直な平面に形成されている。
さらに送液ノズル3Aは、中心軸31cを含む一断面(
図1)において先端面32の外径d2が吐出口31の内径d1の2倍を超えている。この条件は、中心軸31c回りの360度のいずれの断面でも成り立つことが好ましい。
吐出口31及び先端面32が中心軸31cに垂直な平面上に配置されており、これに一定ギャップで対向できるように反応場41も平面で形成されている。
【0014】
反応装置1Aは、送液ノズル3Aの吐出口31及びその周囲の当該ノズルの外面である先端面32と、反応槽42内の反応場41とを一定のギャップgで対向させたとき、中心軸31cを含む一断面(
図1)において、反応場41の外径d3の3分の2以上に亘りギャップgを保持可能とされている。ここでも、この条件は中心軸31c回りの360度のいずれの断面でも成り立つことが好ましい。なお、反応槽42の内径は、反応場41の外径d3と等しいか、大きくされる。図示例に拘わらず、反応場41が反応槽42の底面の一部に形成されているものでもよい。
【0015】
反応装置1Aを用いた反応方法としては、次の通りである。
図1~
図3に示すように、送液ノズル3Aの吐出口31及び先端面32と、反応場41とを一定のギャップgで対向させ、中心軸31cを含む一断面において、反応場41の外径d3の3分の2以上に亘りギャップgを保持した状態で、送液ノズル3Aによる液体の吐出又は/及び吸引を実行する。これにより、反応槽42内の液体L2を攪拌して反応場41で物質を反応させる。液体L2に含まれる物質と反応場41に固定されている物質とを反応させる。
吐出時には
図2に示す吐出流f1、吸引時には
図3に示す吸引流f2が、ギャップgを保持した流路空間に流れる。このようにギャップgを保持した流路空間に液体を強制的に流動させることで、反応場41に流れる液体を反応場41の面内で均一にし、かつ流量を積極的に増加させることができる。従って反応場41全体での均一かつ効率的な反応を促進することができる。
【0016】
図4に、反応装置1Aについて、g、d1、d3を一定にし、d2を変化させたときの反応場41の外周縁の通過流量和を示す。
g=0.2mm、d1=0.6mm、d3=2.4mm、反応槽42の内径を3.6mmをとした。
d2を、1.2mm~2.4mmの範囲で変化させた。吐出口31及び先端面32が円形である送液ノズル3Aを用いた。
反応場41から0.2mmの高さにある吐出口31より16マイクロリットルの水を0.5秒かけて吸引・吐出した際に、反応場41の中心から直径2.4mmの円周で反応場上0.1mmまでの高さを流れた流量の360度の総和を、コンピューター・シミュレーションにより算出した。異なるd2ごとにそれぞれ算出し、その結果は
図4に示した通りである。なお、反応場41の中心は、吐出口31の中心軸31cと反応場41との交点に相当する。
【0017】
図4より、d2が1.2mmから2.4mmまで拡大するにつれ、より多くの流量を反応場上に流せることが分かる。d2=1.6mmのとき、d2がd3の3分の2である。d2がd3の3分の2以上であることにより、反応場41上の流量を、反応場41の外周縁までに亘り大きく維持することができる。
また、
図5に、
図4と同条件の下、d2=1.0mmとd2=2.4mmとしたときの反応場中心からの各距離での通過流量和を示した。
図5からわかるように、d2がd1の2倍未満であるd2=1.0mmの場合に比較して、d2=2.4mmとしたd2が大きい送液ノズル3Aで、反応場41の端部まで多くの流量を維持し、反応場面内で、より均一で多くの流体を流すことができる。
【0018】
なお、先端面32の外径d2が吐出口31の内径d1の6倍以下であることが好ましい。d2がd1に対して大きすぎると、反応場上の流量も不均一化しやすい。d2の上限をd1を基準に制限することで、反応場上の均一な流れを確保できる。
また、先端面32の外径d2が5mm以下とされていることが好ましい。液体の流れる範囲を微少な領域に制限することで、反応場41での反応の均一性及び効率をより高めることができる。
また、反応場41の外径d3が5mm以下とされている。反応に寄与する範囲を微少な領域に制限することで、反応の均一性及び効率をより高めることができる。
また、ギャップgを先端面32の外径d2以下とすることが好ましい。ギャップgを狭くすることで、より多くの流量を反応場41の全体に流すことができる。
【0019】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る送液ノズル、反応装置及び反応方法につき
図6から
図8を参照して説明する。
本実施形態に係る反応装置1Bは、送液ノズル3B及び反応容器4Bの形状が上記第1実施形態と異なり、その他は同様である。反応方法も上記第1実施形態と同様に実施される。
【0020】
送液ノズル3Bは、先端面32Bをテーパー状にしたものである。
反応容器4Bは、反応槽42の底面及びそこに設置される反応場41Bを、反応場41が先端面32Bと対向して一定のギャップgを形成できるように凹なテーパー状にしたものである。
g、d1、d2、d3の相対条件は上記第1実施形態と同様に実施する。
【0021】
本実施形態のように、先端面32B及び反応場41Bを平面にせず、ギャップgを形成する流路空間を平板状にしなくとも、上記第1実施形態と同様に、反応場41Bに流れる液体を反応場41Bの面内で均一にし、かつ流量を積極的に増加させることができる。従って反応場41B全体での均一かつ効率的な反応を促進することができる。
【0022】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る送液ノズル、反応装置及び反応方法につき
図9から
図11を参照して説明する。
本実施形態に係る反応装置1Cは、送液ノズル3Cの形状が上記第1実施形態と異なり、その他は同様である。反応方法も上記第1実施形態と同様に実施される。
【0023】
送液ノズル3Cは、一断面(
図9)においてそのノズル外径が、中心軸31cに沿って先端面32より基端側の位置において先端面32の外径d2より小径(d4)となるノズル外形形状とされたものである。ここでも、この条件は中心軸31c回りの360度のいずれの断面でも成り立つことが好ましい。
また送液ノズル3Cのノズル外形形状は、先端面32の外径d2と等しい外径から前記小径d4に至る部位に、円錐の周面形状33を有する。ここで、円錐の周面形状33は中心軸31c回りの360度の全範囲に亘っていることが好ましい。
g、d1、d2、d3の相対条件は上記第1実施形態と同様に実施する。
【0024】
本実施形態の反応装置1Cによっても、上記第1実施形態と同様に、反応場41に流れる液体を反応場41の面内で均一にし、かつ流量を積極的に増加させることができる。従って反応場41全体での均一かつ効率的な反応を促進することができる。
【0025】
反応装置1Cにあっては、上記第1、2実施形態と同様に先端面32が大きくされる一方、上記第1、2実施形態とは異なり、径d4の小径部分を基端側に有する。
図9に示すように先端面32と反応場41とがギャップgを保持して対向するとき、径d4の小径部分の先端側の一部が反応槽42内に挿入され、円錐の周面形状33は反応槽42内に配置される。
したがって、径d4の小径部分と反応槽42の内壁との間、円錐の周面形状33と反応槽42の内壁との間に、液の受容空間42aを形成することができる。
したがって、先端面32を大面積にしても、吐出・吸引する液体容量を上記第1、2実施形態に比較して増加させることができる。
また、
図10に示すように送液ノズル3Cから液を吐出するとき、受容空間42aに流出する液流f3が渦を形成して攪拌するので、攪拌効率が向上する。
このような効果を得るためには、d2より内径が小径の受容空間42aを形成可能にする。したがって、送液ノズル3Cの先端面32より基端側のd2より小径な部位(例えば円錐の周面形状33の先端側の一部)を反応槽42内に配置可能にし、反応方法を実施する際には同配置にする。
【0026】
以上説明した第1~3実施形態において、吐出口31、先端面32及び反応場41の形状は、円形のほか、任意の形状で実施することができる。また、吐出口31と先端面32とが相似形である必要もない。先端面32と反応場41とが相似形である必要もない。吐出口31、先端面32及び反応場41の形状の例としては、円形、楕円形、円形の一部が欠けた形状、多角形、多角形の角を丸めたもの、星(十字星、五芒星、六芒星・・・)形、L字形、D字形、十字形、ハート形、雲形、以上のうち2つ以上を重ねたり繋げたりしてできる形状などを挙げることができるが、これらの例に限られない。
【符号の説明】
【0027】
1A 反応装置
1B 反応装置
1C 反応装置
2 送液手段
3A 送液ノズル
3B 送液ノズル
3C 送液ノズル
4A 反応容器
4B 反応容器
31 吐出口
31c 吐出口の中心軸
32 先端面
32B 先端面
41 反応場
41B 反応場
42 反応槽
L1 液体
L2 液体
d1 吐出口の内径
d2 先端面の外径
d3 反応場の外径
g ギャップ