(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】水系インクおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/326 20140101AFI20220726BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220726BHJP
C09J 175/00 20060101ALI20220726BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220726BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220726BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D11/54
C09J175/00
B32B27/30 A
B41J2/01 501
B41J2/01 123
B41J2/01 121
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 134
B41M5/00 132
(21)【出願番号】P 2019521310
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021021
(87)【国際公開番号】W WO2018221674
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017109130
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 恒
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171223(JP,A)
【文献】特表2011-508797(JP,A)
【文献】特開2005-023284(JP,A)
【文献】特開2016-128554(JP,A)
【文献】特開2009-167303(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047592(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41J 2/00
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、
分散剤と、を含有し、
前記分散剤は、酸性官能基を側鎖に有する構造単位と、1級アミン
を側鎖に有する構造単位と、疎水性の構造単位と、を含み、かつ、前記分散剤の全質量に対するポリアルキレングリコール鎖の量が5質量%以下であるアクリル系の共重合体であって、酸価が60mg/KOH以上200mg/KOH以下であり、かつ、水酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOH以上30mg/KOH以下である、
水系インク。
【請求項2】
請求項1
に記載の水系インクの液滴をインクジェットヘッドのノズルから吐出して基材に着弾させる工程と、
前記水系インクの液滴が着弾した前記基材に、オーバーコート液を付与する工程と、
前記オーバーコート液が付与された基材と、ラミネート層とを接合させる工程と、
を含む画像形成方法。
【請求項3】
前記オーバーコート液は、ラミネート接着剤である、請求項
2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記オーバーコート液は、イソシアネート化合物を含有する、請求項
2または3に記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記水系インクの液滴を吐出する前に、
顔料凝集剤を含むプレコート液を前記基材に付与する工程を含む、請求項
2~4のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクおよび画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は簡便かつ安価に画像を作製できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷を含む様々な印刷分野に応用されてきている。特に、インクジェット法は、版を用いずデジタル印刷が可能であるため、多様な画像を少量ずつ形成するような用途に特に好適である。
【0003】
インクジェット法で用いられるインクジェットインクには、水と少量の有機溶剤からなる水系インク、有機溶剤を含むが実質的に水を含まない非水系インク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後に活性光線を照射されることにより硬化する活性光線硬化性インク等、複数の種類があり、これらのインクは用途に応じて使い分けられている。この中で、水系インクは一般に臭気が少なく安全性が高い点から家庭用プリンタなどに広く用いられる。
【0004】
色材として顔料を含有する水系インクでは、分散剤とよばれる、顔料に吸着可能な疎水性の官能基または構造を有する構造単位と、親水性の構造を有する構造単位と、を有する樹脂によって顔料の分散性を高めている。分散剤としては、上記疎水性の官能基または構造として、芳香族および中鎖または長鎖のアルキル基などを有し、上記親水性の構造としてカルボン酸基およびポリエチレンオキサイド鎖などを有する樹脂が多く用いられる。
【0005】
インクジェットインクでは、フレキソ印刷およびオフセット印刷などに用いるインクとは異なり、インクの粘度をより低くすることが望まれ、顔料もより小さい粒子径で安定して分散することが要求される。そのため、インクジェットインクに用いる分散剤には、上記親水性の構造をより多く有する樹脂が多く用いられる。たとえば、特許文献1には、酸価を40mgKOH/g以上110mgKOH/g以下としたアクリル共重合体は、水への親和性が高いため、分散剤としたときに顔料の分散安定性をより高めることができると記載されている。また、特許文献2には、アクリル酸などのモノマーから合成できる、酸価を55mgKOH/g以上400mgKOH/g以下とした分散剤が記載されている。
【0006】
ところで、フレキソ印刷およびオフセット印刷などに用いられるインクでは、ウレタン樹脂、ウレタン-アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、および酢酸ビニル樹脂などのバインダー樹脂をインクに添加し、バインダー樹脂を基材上で成膜させて、画像の耐擦過性および耐水性などを高めている。しかし、インクの粘度をより低くすることが望まれるため、インクジェットインクにはより少量のバインダー樹脂しか添加できず、これにより、インクジェットインクを用いて形成した画像は、耐擦過性および耐水性などが高まりにくいという問題がある。
【0007】
バインダー樹脂によって画像の耐擦過性および耐水性を高めつつ、インクの粘度を過剰に高めない方法として、上記バインダー樹脂としても用いられる樹脂をエマルジョン化してインクジェット用の水系インク中に添加する方法が知られている。しかし、これらのエマルジョン化した樹脂は、インクジェットヘッドのノズルに残存したインクジェットインクが乾燥したときに、ノズル近傍に固形物として析出して、ノズル詰まりを引き起こすことがある。
【0008】
一方で、特許文献3および特許文献4に記載のように、樹脂を添加した水系インクと、上記樹脂を架橋させる架橋剤と、を別個に基材上に塗布して、水系インクが含む樹脂を基材上で架橋させて成膜させる方法も検討されている。この方法によれば、水系インクに添加する樹脂は、架橋前の、より分子量が低く粘度を高めにくい樹脂でもよいため、ノズル詰まりが抑制されると期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-342294号公報
【文献】特開2002-212479号公報
【文献】国際公開第2003/43825号
【文献】特開2015-045003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および特許文献2などに記載の分散剤を含有する水系インクにおいて、画像の耐擦過性および耐水性をより高めるために、バインダー樹脂を添加すると、ノズル詰まりが生じやすくなる。これに対し、特許文献3および特許文献4に記載の方法を適用しても、従来はノズル詰まりを完全に抑制できてはいなかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ノズル詰まりを抑制しつつ、画像の耐擦過性および耐水性を高め得る水系インク、およびそのような水系インクを用いた画像形成方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は以下の手段により解決される。
[1]顔料と、酸性官能基を側鎖に有する構造単位と、1級アミン、2級アミンおよび3級アミンならびに水酸基のいずれかを側鎖に有する構造単位と、疎水性の構造単位と、を含み、かつ、前記分散剤の全質量に対するポリアルキレングリコール鎖の量が5質量%以下であるアクリル系の共重合体であって、酸価が60mg/KOH以上200mg/KOH以下であり、かつ、水酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOH以上30mg/KOH以下である、分散剤と、を含有する水系インク。
[2]前記分散剤は、1級アミンを側鎖に有する構造単位を有する、[1]に記載の水系インク。
[3][1]または[2]に記載の水系インクの液滴をインクジェットヘッドのノズルから吐出して基材に着弾させる工程と、前記水系インクの液滴が着弾した前記基材に、オーバーコート液を付与する工程と、前記オーバーコート液が付与された基材と、ラミネート層とを接合させる工程と、を含む画像形成方法。
[4]前記オーバーコート液は、ラミネート接着剤である、[3]に記載の画像形成方法。
[5]前記オーバーコート液は、イソシアネート化合物を含有する、[3]または[4]に記載の画像形成方法。
[6]前記水系インクの液滴を吐出する前に、顔料凝集剤を含むプレコート液を前記基材に付与する工程を含む、[3]~[5]のいずれかに記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ノズル詰まりを抑制しつつ、画像の耐擦過性および耐水性を高め得る水系インク、およびそのような水系インクを用いた画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態は、以下に示す分散剤を含有する水系インクに関する。
【0015】
本実施形態では、アクリル系樹脂を分散剤として用いる。アクリル系樹脂を分散剤として用いるときは、水系インクのpHを調整するため、中和剤として水酸化ナトリウムやアミンなどを水系インク中に添加する。これにより、アクリル系樹脂は、ノズルの近傍で固化して析出しても、再度水系インクを吐出するときに、次の水系インクに含有されるアンモニウムイオンなどによって水系インク中に再溶解することができる。そのため、アクリル系樹脂は、析出してもノズルの近傍には長く止まりにくく、ノズルを詰まらせにくいと考えられる。
【0016】
また、本実施形態では、アクリル系樹脂の酸価を60mg/KOH以上とすることで、ノズル詰まりを生じにくくすることができる。これは、上記酸価を有するアクリル系樹脂は、電荷反発が適度に強いため、水系インク中でより微小な粒子として顔料を分散させ得るためと考えられる。水系インク中での顔料の粒子径が小さくなることで、ノズルで水系インクが乾燥しにくくなる。また、水系インク中での顔料の粒子径が小さくなることで、ノズルで水系インクが乾燥してインク中の固形分濃度が高くなっても、顔料が安定して分散でき、固形分が析出しにくくなる。
【0017】
一方で、本実施形態では、水と接触したときにカルボン酸が解離することによる画像の耐水性の低下を抑制し、かつ、分散剤中のカルボン酸が水素結合により結晶化して、後述する架橋剤がインク中に染み込みにくくなり、架橋が不十分になることによる画像の耐擦性および耐水性の低下を抑制する観点から、分散剤は、酸価が200mg/KOH以下であるアクリル樹脂とする。
【0018】
なお、上記アクリル系樹脂は、水酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOH以上である。このような、水酸基またはアミン基を有するアクリル系樹脂は、たとえば架橋剤としてイソシアネートを用いたときに、上記水酸基またはアミン基とイソシアネートとの反応により、それぞれウレタン系樹脂およびウレア系樹脂となる。このウレタン系樹脂およびウレア系樹脂は、それ自体が画像の耐擦過性および耐水性を高めるほか、画像にラミネート処理を施すときには、接着剤としてラミネート層の接着強度を高めるため、ラミネートの剥離を抑制することも可能とする。
【0019】
一方で、本実施形態では、親水性である水酸基およびアミン基による画像の耐水性の低下を抑制し、かつ、膜表面で水酸基およびアミン基が架橋剤と優先的に反応してインク内部の架橋率が下がることによる画像の耐擦過性および耐水性の低下を抑制する観点から、上記アクリル系樹脂は、水酸基価およびアミン価の合計を30mg/KOH以下とする。
【0020】
以下に、例示的な実施形態によって本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
1.水系インク
水系インクは、顔料および分散剤を含有する。
【0022】
1-1.顔料
顔料は、水系インクに含有させて分散させて用いることができる顔料であればよい。
【0023】
上記顔料の例には、C.I.Pigment Yellow(以下、単に「PY」ともいう。)1、PY2、PY3、PY12、PY13、PY14、PY16、PY17、PY34、PY35、PY37、PY55、PY73、PY74、PY75、PY81、PY83、PY87、PY93、PY95、PY97、PY98、PY108、PY109、PY110、PY114、PY120、PY128、PY129、PY137、PY138、PY139、PY150、PY151、PY153、PY154、PY155、PY157、PY166、PY167、PY168、PY180、PY185、PY193およびPY213、C.I.Pigment Red(以下、単に「PR」ともいう。)、PR5、PR7、PR12、PR19、PR22、PR31、PR38、PR43、PR48:1、PR48:2、PR58:4、PR48:4、PR48:5、PR49:1、PR53:1、PR57:1、PR57:2、PR63:1、PR81、PR81:1、PR81:2、PR81:3、PR81:4、PR88、PR101、PR104、PR108、PR112、PR122、PR123、PR144、PR146、PR149、PR166、PR168、PR169、PR170、PR177、PR178、PR179、PR184、PR185、PR202、PR208、PR216、PR226およびPR257、C.I.Pigment Violet(以下、単に「PV」ともいう。)19およびPV23、C.I.Pigment Blue(以下、単に「PB」ともいう。)1、PB2、PB3、PB15、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:6、PB16、PB17:1、PB18、PB22、PB27、PB28、PB29、PB36およびPB60、C.I.Pigment Orange
(以下、「C.I.Pigment Orange」を単に「PO」ともいう。)16、PO34、PO36、PO38、PO43、PO64およびPO71、C.I.Pigment Green(以下、単に「PG」ともいう。) 7、PG26、PG36およびPG50、C.I.Pigment White(以下、単に「PW」ともいう。)6、PW18およびPW21、ならびに、C.I.Pigment Black(以下、単に「PBk」ともいう。)7、PBk28およびPBk26が含まれる。
【0024】
水系インクは、水系インクの全質量に対して0.1質量%以上20質量%以下の顔料を含有することが好ましく、0.4質量%以上10質量%以下の顔料を含有することがより好ましい。
【0025】
1-2.分散剤
分散剤は、酸性官能基を側鎖に有する構造単位と、1級アミン、2級アミンおよび3級アミンならびに水酸基のいずれかを側鎖に有する構造単位と、疎水性の構造単位と、を含むモノマーの共重合体である。分散剤は、酸価が60mg/KOH以上200mg/KOH以下であり、水酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOH以上30mg/KOH以下である。
【0026】
上述したように、アクリル系の分散剤は、ノズル詰まりを生じにくい。
【0027】
上記酸性官能基を有する構造単位は、カルボン酸基およびスルホン酸基などの酸性官能基を側鎖に有する構造単位であればよい。これらのうち、上記酸性官能基を有する構造単位は、分散剤の製造の容易さから、カルボン酸基を側鎖に有する構造単位であることが好ましい。
【0028】
上記酸性官能基を有する構造単位は、上記酸性官能基を有するモノマーを(共)重合して得られる。上記酸性官能基を有するモノマーの例には、(メタ)アクリル酸、フマル酸およびマレイン酸が含まれる。これらのうち、上記酸性官能基を有するモノマーは、分散剤の製造の容易さから、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0029】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を意味する。
【0030】
上記1級アミン、2級アミンおよび3級アミンならびに水酸基のいずれかを側鎖に有する構造単位は、アミン基を有するモノマーまたは水酸基を有するモノマーを(共)重合して得られる。
【0031】
上記アミン基を有するモノマーの例には、アミン(メタ)アクリレートの例には、(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0032】
また、1級アミン、2級アミンおよび3級アミンのいずれかを含む構造単位は、エポキシ環を有するビニルモノマーを(共)重合し、重合後に公知の方法でアミノ基を付加して得てもよい。
【0033】
イソシアネートと反応してウレア結合を生成しやすくする観点からは、分散剤は、これらのうち1級アミンを側鎖に有する構造単位を含むことが好ましい。
【0034】
上記水酸基を有するモノマーの例には、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2-ヒドロキシプロピルアクリレート(2-HPA)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(2-HPMA)、3-ヒドロキシプロピルアクリレート(3-HPA)、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート(3-HPMA)、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、および3,4-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート(4-HBA)などを含むヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ならびに、1,3-ジアクリロイルグリセリン、1,3-ジメタクリロイルグリセリン、トリメチロールプロパンモノアクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレートおよびトリメチロールプロパンジメタクリレートなどが含まれる。
【0035】
上記疎水性の構造単位は、水系インクに用いる顔料への吸着性を付与できる構造を有する構造単位であればよい。上記疎水性の構造単位は、以下に例示するモノマーを(共重合)して得られる。
【0036】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、3-イソプロピルヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、5-メチルウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-メチルドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、5-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、5-イソプロピルヘプタデシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルオクタデシル(メタ)アクリレート、5-エチルオクタデシル(メタ)アクリレート、3-イソプロピルオクタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、セチルエイコシル(メタ)アクリレート、ステアリルエイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、およびエイコシルテトラトリアコンチル(メタ)アクリレートなどを含む直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート、
シクロペンチル(メタ)アクリレート、3-ビニルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートおよびフェニル(メタ)アクリレートなどを含む環状(または芳香族)アルキル基を有する(メタ)アクリレート、
2-プロピニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、およびオレイル(メタ)アクリレートなどを含む不飽和アルコール由来の(メタ)アクリレート、
1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートおよびエトキシ化ビスフェノールAのジメタクリレートなどを含む2つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート、
グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリン(メタ)トリアクリレート、ジトリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタア(メタ)クリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、などを含む3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート、ならびに
メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、およびエトキシブチル(メタ)アクリレートなどを含むアルコキシ基を有する(メタ)アクリレート。
【0037】
なお、上記疎水性の構造単位は、N-ビニルピロリドン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾールなどを含む窒素を含有するモノマー、ならびにスチレンおよびα-メチルスチレンなどのモノマー、に由来する構造単位を一部に含んでいてもよい。
【0038】
これらのうち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、およびラウリル(メタ)アクリレートなどを含む炭素数1以上20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、ベンジルアクリレート、アルキルアクリレート、スチレン、ならびにN-ビニルピロリドンなどから、顔料との親和性を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0039】
分散剤は、酸価が60mg/KOH以上200mg/KOH以下となり、水酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOH以上30mg/KOH以下となる割合で、上記各モノマーに由来する構造単位を有すればよい。
【0040】
分散剤の酸価および水酸基価は、JIS K 0070(1992年)に記載の電位差滴定法に準じて測定することができる。分散剤のアミン価は、JIS K 7237(1995年)に記載の電位差滴定法と同様にして測定することができる。
【0041】
また、分散剤を構成する構成単位の有無は、赤外分光法(IR)、核磁気共鳴法(NMR)および熱分解ガスクロマトグラフ-質量分析法(Py-GC-MS)などの公知の方向で測定することができる。
【0042】
なお、ノズルで水系インクが乾燥したときの粘度上昇を抑制して、ノズル詰まりをより生じにくくする観点からは、分散剤は、ポリアルキレングリコール鎖を有するモノマーに由来する構成単位の割合が、分散剤の全質量に対して5質量%となるように、上記各モノマーに由来する構造単位を有することが好ましく、ポリエチレングリコール鎖を有するモノマーに由来する構成単位の割合が、分散剤の全質量に対して5質量%となるように、上記各モノマーに由来する構造単位を有することが好ましい。ポリアルキレングリコール鎖を有するモノマーの例には、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0043】
分散剤の重量平均分子量は、4000以上20000以下であることが好ましく、6000以上15000以下であることがより好ましい。分散剤の重量平均分子量は、GPCにて測定されたスチレン換算分子量とすることができる。
【0044】
分散剤は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、イソシアネートとの架橋位置をより分散させて、画像の耐擦過性および耐水性、ならびにラミネート層の接着強度を高める観点からは、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0045】
分散剤は、水系インク中では、顔料の表面に吸着して顔料を含む分散体として存在し得る。たとえば、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミルおよび高圧ホモジナイザーなどにより顔料と分散剤とを溶媒中で処理して、分散体を製造することができる。
【0046】
水系インク中での顔料を長期間安定して分散させる観点からは、上記分散体の平均粒子径は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましく、10nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
上記平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により測定することが出来る。また、透過型電子顕微鏡による粒子像撮影を少なくとも100粒子以上に対して行い、この像をImage-Pro(メディアサイバネティクス製)等の画像解析ソフトを用いて統計的処理を行うことによっても、上記平均粒子径を求めることができる。
【0048】
ノズル詰まりを抑制する観点から、水系インクは、顔料の全質量に対して10質量%以上150質量%以下の分散剤を含有することが好ましい。
【0049】
1-3.中和剤
水系インクは、上記アクリル系樹脂である分散剤が有する酸性基を中和して水系インクのpHを調整するための中和剤を含有してもよい。
【0050】
中和剤の例には、アミンおよび無機アルカリ塩が含まれる。
【0051】
これらのうち、アミンは、水系インクが基材に着弾した後、基材を乾燥する際に揮発して中和されていないカルボン酸基のみをインク塗膜中に残すため、架橋剤とカルボン酸基とをより反応しやすくして画像の耐水性を高めるため好ましい。上記揮発可能なアミンの例には、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、メチルアミノエタノール、およびジメチルアミノエタノールなどが含まれる。これらのうち、揮発の速さおよび使用の容易さなどの観点から、アンモニアが好ましい。
【0052】
一方で、ノズル近傍での揮発による分散剤の析出を抑制して、射出安定性およびノズルのメンテナンス性をより高める観点からは、無機アルカリ塩が好ましい。上記無機アルカリ塩の例には、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムが含まれる。
【0053】
なお、上記画像の耐水性と射出安定性とを両立させる観点からは、水系インクは、アミンおよび無機アルカリ塩をいずれも含有することが好ましい。
【0054】
1-4.有機溶剤
水系インクは、粘度を調整するなどの目的から、有機溶剤を含んでもよい。
【0055】
水との相溶性を高める観点からは、有機溶剤は、水溶性であることが好ましい。水溶性の有機溶剤の例には、アルコール類、多価アルコール類、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類および炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類などが含まれる。これらの有機溶剤は、1種類のみが含有されてもよく、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。
【0056】
上記アルコール類の例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノールおよびターシャリーブタノールなどが含まれる。
【0057】
上記多価アルコール類の例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレンオキサイド基の数が5以上のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロピレンオキサイド基の数が4以上のポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオールおよびチオジグリコールなどが含まれる。
【0058】
上記アミン類の例には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミンおよびテトラメチルプロピレンジアミンなどが含まれる。
【0059】
上記アミド類の例には、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどが含まれる。
【0060】
上記グリコールエーテル類の例には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびトリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが含まれる。
【0061】
上記炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類の例には、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオールおよび1,2-ヘプタンジオールなどが含まれる。
【0062】
これらのうち、有機溶剤が多価アルコール類であると、高速プリント時の滲みを好適に抑制することができる。好ましい多価アルコール類の例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコールなどが含まれる。
【0063】
水系インクが2種類以上の有機溶剤を含有するとき、有機溶剤全体の質量に対する前記多価アルコール類の質量比率を他の有機溶剤の質量比率よりも高くすることで、形成した画像の滲みをより生じにくくすることができる。好ましくは、有機溶剤全体の質量に対する多価アルコール類の質量比率は50%以上である。なお、多価アルコール類を2種以上含むときは、すべての多価アルコール類の質量比率の合計が、他のいずれの種類の有機溶剤の質量比率よりも高ければよく、たとえば有機溶剤全体の質量に対する多価アルコール類の質量比率が50%以上であればよい。
【0064】
水系インクにおける有機溶剤の含有量は、たとえば、5質量%以上60質量%以下の範囲とすることができる。
【0065】
1-5.その他の成分
水系インクは、本発明の効果が奏される限りにおいて、樹脂、界面活性剤、pH調整剤、油滴微粒子、紫外線吸収剤、退色防止剤、蛍光増白剤、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防ばい剤、防錆剤などを含有してもよい。これらの成分は、1種類のみが含有されてもよく、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。
【0066】
上記樹脂の例には、顔料に基材への定着性を与えるための定着樹脂、およびインクの粘度を調整するための増粘剤としての樹脂、その他の樹脂が含まれる。これらの樹脂は、1種類のみが含有されてもよく、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。
【0067】
これらの樹脂は水系インクに溶解していてもよく、エマルジョン状態で分散されていても構わない。エマルジョン状態で分散させる場合、インクジェットによる射出性を損なわないという観点から、300nm以下の粒径であることが好ましい。溶解性ポリマーの場合、組成や分子量は特に限定は無いが、重合度の高いポリマーほど射出性が悪化する傾向があるため、ポリマーの組成にもよるが好ましい分子量50000以下であることが好ましい。
【0068】
上記界面活性剤は、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性のいずれでもよい。
【0069】
陽イオン性界面活性剤の例には、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、およびイミダゾリニウム塩などが含まれる。
【0070】
陰イオン性界面活性剤の例には、脂肪酸石鹸、N-アシル-N-メチルグリシン塩、N-アシル-N-メチル-β-アラニン塩、N-アシルグルタミン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩などが含まれる。
【0071】
両性界面活性剤の例には、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、およびイミダゾリニウムベタインなどが含まれる。
【0072】
非イオン性界面活性剤の例には、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、およびアセチレンアルコールなどが含まれる。
【0073】
水性インクの表面張力化を低くする観点からは、これらの界面活性剤の一部はフッ素原子あるいは珪素原子で置換されていることが好ましい。
【0074】
1-6.物性
インクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性を高める観点からは、水系インクの粘度は1cP以上100cP未満であることが好ましい。上記吐出安定性をより高める観点からは、水系インクの粘度は、1cP以上50cP以下であることが好ましく、1cP以上15cP以下であることがさらに好ましい。
【0075】
インクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性を高める観点からは、水系インクの表面張力は20mN/m以上50mN/m以下であることが好ましい。基材に対する濡れ性を高めて、形成される画像をより高精細にする観点からは、水系インクの表面張力は20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。水系インクの表面張力は、前記界面活性剤および有機溶媒の種類または量を変更することで、上記範囲に調整することができる。
【0076】
2.画像形成方法
上記水系インクは、インクジェットヘッドのノズルから吐出して、基材に着弾させて、画像を形成することができる。
【0077】
このとき、基材にはプレコート液が付与されていてもよい。また、上記水系インクを基材に付与した後、オーバーコート液を付与してもよい。また、上記オーバーコート液を付与した画像は、さらにラミネート層を接合させてもよい。
【0078】
2-1.水系インクの液滴を着弾させる工程
本工程では、インクジェットヘッドから水系インクの液滴を吐出して、基材上の領域に着弾させる。
【0079】
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0080】
これらのうち、使用できるインクの種類をより多くし、かつ、画質をより精細にする観点からは、インクジェットヘッドは、30μm以下のノズル径を有するピエゾ型インクジェットヘッドであることが好ましい。
【0081】
高速で画像の記録を行う観点から、インクジェット記録方式は、ワンパス型であることが好ましい。ワンパス型のインクジェット記録方式とは、基材が一つのインクジェットヘッドユニットの下を通過した際に、一度の通過でドットの形成されるべきすべての画素に水系インクの液滴を吐出して着弾させる方式を意味する。
【0082】
ワンパス型のインクジェット記録方式で画像を記録する観点からは、インクジェットヘッドはラインヘッド型であることが好ましい。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとは、基材の搬送方向と直交する方向に、印刷範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドを意味する。ラインヘッド型のインクジェットヘッドは、上記印刷範囲の幅以上の長さを有する一つのヘッドからなるものでもよいし、複数のヘッドを組み合わせて上記印刷範囲の幅以上の長さとなるよう構成されたものでもよい。形成される画像をより高精細にする観点からは、上記複数のヘッドは、基材の搬送方向とは直交する方向に複数の列を形成して、それぞれの列のヘッドは、基材に対するノズルの出射位置が異なるように配置されることが好ましい。
【0083】
2-2.オーバーコート液を付与する工程
本工程では、水系インクの液滴が着弾した基材に、オーバーコート液を付与する。
【0084】
オーバーコート液は、公知のオーバーコート液とすることができるが、上記分散剤を架橋させるための化合物を含有することが好ましい。
【0085】
上記架橋させるための化合物の例には、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、シリル化合物、ヒドラジン化合物およびオキサゾリン化合物などが含まれる。これらの化合物は、1種類のみが含有されてもよく、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。
【0086】
これらの化合物のうち、反応性が十分に高いため短時間で十分に画像の耐擦過性および耐水性を高めやすく、かつ安価であることから、イソシアネート化合物が好ましい。また、イソシアネート化合物は、上記分散剤が多く有するカルボン酸基と反応しないため、深さ方向にも十分に浸透して分散剤を架橋させるため、画像の耐擦過性および耐水性をより高めることができる。また、イソシアネート化合物は、上記分散剤が有する水酸基と反応して、ラミネート接着剤として広く用いられ、かつ、安全性の高いポリウレタンポリオールを生成する。そのため、イソシアネート化合物は、ラミネート層を接合する際に用いる接着剤の量をより少量とするか、または不要とする。
【0087】
上記イソシアネート化合物の例には、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートおよびそれらのアダクト体などを含む、ポリイソシアネートが含まれる。
【0088】
画像の耐擦過性および耐水性をより高める観点から、オーバーコート液は、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリエステル、およびポリオレフィンなどの樹脂を含有することが好ましい。これらのうち、オーバーコート液は、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオールまたはポリウレタンを含有することがより好ましい。
【0089】
オーバーコート液は、ラミネート処理を行う際のラミネート接着剤としても作用し得る液体であることが好ましい。オーバーコート液がラミネート接着剤として作用すると、ラミネート処理する際に、追加の塗布工程および乾燥工程が不要となり、また、安全性が従来から確認されている材料を用いてのラミネート処理も可能となる。
【0090】
ラミネート接着剤として公知の液体の例には、二液系接着剤の主液であるタケラックシリーズと架橋剤液であるタケネートAシリーズ(いずれも三井化学株式会社製)との組み合わせ、二液系接着剤であるポリドントシリーズ(三洋化成株式会社製)、一液系接着剤であるユーノフレックスシリーズ(三洋化成株式会社製)、ならびに、一液系接着剤であるポリボンドシリーズ(三洋化学社製)などが含まれる。ただし、二液系接着剤を用いる場合、推奨される配合よりも多めのイソシアネートを接着剤の調合の際に使用することが好ましい。
【0091】
オーバーコート液は、バーコーター、アニロックスローラーなどを用いるロールコーター、スリットコーター、ダイコーターなどによる塗布、スプレーなどによる吹き付け、オフセット印刷、カーテン塗布、グラビア塗布ならびに上述したインクジェット法などの公知の方法で付与され得る。
【0092】
オーバーコート液の付与後には、水系インクおよびオーバーコート液が付与された基材を乾燥させることが好ましい。乾燥は、赤外線ランプ乾燥、熱風乾燥、バックヒート乾燥、および減圧乾燥などの公知の方法で行うことができる。乾燥の効率をより高める観点からは、これらの乾燥方法のうち2種以上を組み合わせて基材を乾燥させることが好ましい。
【0093】
乾燥は、水系インクの付与後およびオーバーコート液の付与後の双方に行ってもよいが、上述したイソシアネートなどの架橋させるための化合物をよりインク中に拡散させてアクリル樹脂をより十分に架橋させ、画像の耐擦過性および耐水性をより高める観点からは、水系インクの付与後には乾燥を行わず、または不十分(水分が残存する程度)に乾燥させ、オーバーコート液を付与した後に完全に乾燥させることが好ましい。
【0094】
2-3.ラミネート層を接合させる工程
本工程では、上記オーバーコート液が付与された基材と、ラミネート層とを接合させる。
【0095】
ラミネート層は、画像の耐擦過性、耐水性および耐熱性をより高めることができる。
【0096】
ラミネート層は、フィルム状の樹脂を用いることができる。上記樹脂の例には、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、およびトリアセチルセルロースなどが含まれる。
【0097】
ラミネート層の接合前には、公知の接着剤を基材に付与してもよい。ただし、本実施形態では、上記オーバーコート液の付与によって接着剤として作用するウレタン樹脂またはウレア樹脂が生成するので、接着剤の付与は必ずしも必要ではない。
【0098】
ラミネート層の接合は、ドライラミネート、押出ラミネート、およびホットメルトラミネートなどを含む公知の方法で行うことができる。ラミネート層を接合させた後は、80℃以上150℃以下で0.5秒以上2秒以下の間、熱圧ローラーにより加熱を行って、ラミネート層を貼り合わせることが好ましい。また、接着強度を高めるため、その後、1日以上3日以下ほど養生することが好ましい。
【0099】
上述したイソシアネートなどの架橋させるための化合物を養生期間中などに拡散させて、ラミネート層の接合強度をより高める観点からは、本工程において、接合面に上記オーバーコート液を事前に付与しておいたラミネート層を接合させてもよい。
【0100】
2-4.プレコート液を付与する工程
本工程では、水系インクを吐出する前の基材に、プレコート液を付与する。
【0101】
特に基材がプラスチック製の基材であるときは、プレコート液の付与によって水系インクの基材への濡れ性を調整することが好ましい。
【0102】
プレコート液は、樹脂および顔料凝集剤を含有することが好ましい。なお、プレコート液は、界面活性剤などの公知の物質をさらに含んでもよい。
【0103】
上記樹脂は、上述したイソシアネートなどの架橋させるための化合物と反応して架橋し得る架橋基を有することが好ましい。上記架橋基の例には、アミン基、ウレタン結合、ウレア結合、隣接する炭素分子が水酸基を有するポリオール、およびカルボキシル基などが含まれる。
【0104】
水系インクとの相溶性を高め、形成される画像の耐擦過性をより高める観点からは、上記樹脂は水溶性または水分散性の樹脂であることが好ましい。また、形成される画像の耐水性をより高める観点からは、上記樹脂は水分散性のラテックス樹脂であることが好ましい。ラテックス樹脂は、顔料凝集剤との相溶性が高いため、基材上に顔料凝集剤が付与されるときには、画像の滲みをより抑制しやすくすることができる。
【0105】
上記ラテックス樹脂は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれであっても構わないが、顔料分散剤の保持性および分散性をより高める観点からは、カチオン性およびノニオン性の樹脂が好ましい。特に、顔料分散剤が後述する酸または多価金属塩を含むときは、カチオン性またはノニオン性の、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、およびポリビニルアルコールが好ましい。
【0106】
上記樹脂がラテックス樹脂であるとき、ラテックス樹脂はハイブリッド樹脂でもよい。ハイブリッド樹脂の例には、コア部に疎水性部分を有し、シェル部に親水性部分を有するコアシェル型の構造をとるラテックス樹脂が含まれる。このようなコアシェル型の構造を有するラテックス樹脂は、基材上で架橋した後に疎水性となり得るため、形成された画像の耐水性を高めつつ、耐擦過性をより高めることができる。
【0107】
上記疎水性部分および親水性部分は、ハイブリッド樹脂を構成する公知の構造を有すればよい。上記疎水性部分は、たとえばウレタン、アクリル、スチレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、尿素樹脂、ポリオール、およびこれらの共重合樹脂などとすることができる。上記親水性部分は、たとえばウレタン、アクリル、尿素樹脂、ポリオール、およびこれらの共重合樹脂などとすることができる。
【0108】
上記樹脂は、樹脂微粒子であることが好ましい。上記樹脂微粒子の平均粒子径は、10nm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ、上記粒子径領域を精度よく測定できる。
【0109】
基材に付与される上記樹脂の量(付量)は、形成される画像の耐擦過性および耐水性をより高める観点からは、形成される画像の質量に対し、上記樹脂の樹脂固形分が50質量%以上となる量であることが好ましい。
【0110】
上記顔料凝集剤は、上述した顔料を凝集させ得る化合物であればよい。上記顔料凝集剤の例には、酸、酸性ポリマー、多価金属塩、およびカチオン性ポリマーなどが含まれる。たとえば、顔料がアニオン性の分散顔料であるとき、顔料凝集剤は、酸またはカチオン性化合物とすることができる。これらの顔料凝集剤は、1種類のみが含有されてもよく、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。特に、水系インク中へより拡散しやすくして顔料をより凝集させやすくする観点、安全性をより高める観点、および、プレコート液中の他の成分との相溶性をより高める観点からは、上記顔料凝集剤は、酸または多価金属塩であることが好ましい。
【0111】
酸は、pH変動によって上記アニオン性の分散顔料を凝集することができる。このような酸の例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体、スルホン酸誘導体、ならびに、リン酸およびその誘導体などが含まれる。酸は、有機酸であることが好ましい。有機酸は、第1の処理液に含まれる他の成分(架橋剤など)との相溶性が高く、かつ、第1の処理液が基材上で乾燥しても塩になりにくいため基材上での透明性に優れ、形成された画像を変色させにくい。
【0112】
カチオン性化合物は、塩析によって上記アニオン性の分散顔料を凝集することができる。カチオン性化合物として、例えば、多価金属塩やカチオン性界面活性剤またはカチオン性樹脂等を挙げることができる。多価金属塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等の水溶性の塩を好ましく挙げることができる。カチオン性界面活性剤(陽イオン性界面活性剤ともいう)としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等を好ましく挙げることができる。カチオン性樹脂としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド等を挙げることができる。
【0113】
これらのうち、低分子量であり水系インクに拡散しやすく、顔料をより高速に凝集させることから、多価金属塩および酸が好ましい。さらには、安全性がより高く、かつ架橋樹脂との相溶性が高いことから、酸がより好ましい。
【0114】
顔料凝集剤は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0115】
基材に付与される顔料凝集剤の含有量(付量)の範囲は限定されず、水系インクの付量、顔料の種類、顔料凝集剤の種類などに応じて適宜設定することができる。たとえば、形成される画像の質量に対し、顔料凝集剤の質量が3質量%以上50質量%以下となることが好ましい。
【0116】
なお、酸を用いる場合、酸の付量は、水系インクに含まれるアニオン成分の中和当量以下に処理液のpHを調整する量であることが好ましい。また、上記アニオン成分がアクリル酸基である場合、画像の滲みをより生じにくくする観点からは、上記酸の第一解離定数は3.5以下であることが好ましい。
【0117】
2-5.基材
基材は特に限定されず、吸水性の高い紙基材でもよいし、グラビアまたはオフセット印刷用のコート紙など吸水性の低い基材でもよいし、フィルム、プラスチックボード(軟質塩化ビニル、硬質塩化ビニル、アクリル板、ポリオレフィン系など)、ガラス、タイルおよびゴムなどの非吸水性の基材であってもよい。これらのうち、吸水性の低い基材および非吸水性の基材、特に好ましくはフィルム、は未反応の架橋剤を洗浄によって取り除くことが難しいが、このような基材において、本発明は、ベタツキが少なくなり指紋の付着性が低下するという効果を顕著に奏する。
【0118】
上記フィルムの例には、公知のプラスチックフィルムが含まれる。上記プラスチックフィルムの具体例には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、高密度ポリエチレンフィルムおよび低密度ポリエチレンフィルムなどを含むポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンなどのポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、およびポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。ガスバリヤー性、防湿性、および保香性などを付与するために、フィルムの片面または両面にポリ塩化ビニリデンがコートされていてもよいし、金属酸化物が蒸着されていてもよい。また、フィルムには防曇加工が施されていてもよい。また、フィルムにはコロナ放電およびオゾン処理などが施されていてもよい。
【0119】
上記フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0120】
上記フィルムは、紙などの吸収性の基材の表面にPVAコートなどの層を設けて、記録をすべき領域を非吸収性とした、多層性の基材でもよい。
【0121】
上記フィルムの厚みは、0.25mm未満であることが好ましい。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
1.分散剤の作製
350質量部の水、2質量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、および2質量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを容器に投入して70℃で撹拌し懸濁させて懸濁液を得た。表1に記載の樹脂1に記載の各成分(単位は質量部)の混合液を作製し、上記懸濁液に上記100質量部の混合液を1.5時間かけて滴下した後、70℃で撹拌したまま放置した。
【0124】
4時間に加熱を停止して濾過し、固体状のポリマーを得た。得られたポリマーを小さく切断し、水と、ポリマーの中和当量のジメチルアミノエタノール(DMAE)とを加えて十分に撹拌し、ポリマーを溶解させてポリマー溶液を得た。上記ポリマー溶液に水を加えて、固形分濃度が25%である樹脂1の溶液を得た。
【0125】
混合液に含まれる各成分の種類および量を表1に記載のように変更した以外は同様にして、樹脂1~樹脂11の溶液を得た。表1の各数値は、それぞれの各成分の質量%を示す。また、各樹脂の作製に用いたモノマーのモル比を表2に示す。
【0126】
表2に記載の数値から計算される、各樹脂の重量平均分子量、酸価、水酸基価およびアミン価を、表3に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
2.水系インクの調製
40.35質量部の水に、21.6質量部の樹脂1の溶液、20質量部のエチレングリコールおよび0.05質量部の界面活性剤(日信化学工業株式会社、オルフィンE1010、「オルフィン」は同社の登録商標)を混合したのち、18質量部のフタロシアニン顔料を加えて、120質量部のジルコニアビーズにより2時間程度のビーズミル分散を行って分散液を得た。
【0131】
得られた分散液からビーズを取り除き、79.95質量部の水、20質量部のエチレングリコール、および0.05%の界面活性剤(日信化学工業株式会社、オルフィンE1010)を混合したレットダウン液により、顔料の濃度が3%になるまで希釈し、インク1を得た。
【0132】
樹脂1の溶液をそれぞれ樹脂2の溶液~樹脂11の溶液に変更した以外は同様にして、インク2~インク11を得た。
【0133】
56.55質量部の水に、5.4質量部のノニオン型活性剤型分散剤(ルーブリゾール社製、ソルスパース27000)、20質量部のエチレングリコールおよび0.05質量部の界面活性剤(日信化学工業株式会社、オルフィンE1010)を加えて混合したのち、18質量部のフタロシアニン顔料を加えて、120質量部のジルコニアビーズにより2時間程度のビーズミル分散を行って分散液を得た。
【0134】
得られた分散液からビーズを取り除き、79.95質量部の水、20質量部のエチレングリコール、および0.05%の界面活性剤(日信化学工業株式会社、オルフィンE1010)を混合したレットダウン液により、顔料の濃度が3%になるまで希釈し、インクAを得た。
【0135】
56.55質量部の水に、5.4質量部のナフタレンホルマリン縮合物(花王株式会社製、デモールN、「デモール」は同社の登録商標)、20質量部のエチレングリコールおよび0.05質量部の界面活性剤(日信化学工業株式会社、オルフィンE1010)を加えて混合したのち、18質量部のフタロシアニン顔料を加えて、120質量部のジルコニアビーズにより2時間程度のビーズミル分散を行って分散液を得た。
【0136】
得られた分散液からビーズを取り除き、79.95質量部の水、20質量部のエチレングリコール、および0.05%の界面活性剤(日信化学工業株式会社、オルフィンE1010)を混合したレットダウン液により、顔料の濃度が3%になるまで希釈し、インクBを得た。
【0137】
3.プレコート液の調製
53.8質量部の樹脂(第一工業化学株式会社製、スーパーフレックス650、「スーパーフレックス」は同社の登録商標)を45.5質量部の水で希釈し、その後0.7質量部の酢酸カルシウム(顔料凝集剤)を溶解させて、プレコート液を得た。
【0138】
4.オーバーコート液の調製
54質量部のポリオール(三井化学株式会社製、タケラック525s、「タケラック」は同社の登録商標)および6質量部のイソシアネート(三井化学株式会社製、タケネートA50、「タケネート」は同社の登録商標)を混合し、バー塗布を行いやすくするために40質量部の酢酸エチルで希釈して、オーバーコート液1を調製した。
【0139】
54質量部のポリオール(三井化学株式会社製、タケラック525s、「タケラック」は同社の登録商標)および1質量部の両末端イソシアネート型ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル株式会社製、カルボジライト V05、「カルボジライト」は同社の登録商標)を混合し、バー塗布を行いやすくするために40質量部の酢酸エチルで希釈して、オーバーコート液2を調製した。
【0140】
5.画像形成
基材としてポリエチレンフィルム太閤FE#50-FE2001(フタムラ化学株式会社製)を用いた。上記基材のコロナ処理面上に、プレコート液を#3のワイヤーバーで塗布して乾燥したのち、コニカミノルタ社製ピエゾ型インクジェットヘッド(360dpi、吐出量14pL)の独立駆動ヘッドを用いて、インク付量が11.2cc/m2である720dpi×720dpiのベタ画像が形成されるように、インク1の液滴を吐出した。この時、射出性を評価するため、インクジェットヘッドのメンテナンス後すぐインクの吐出を行ったものと、メンテナンス後にノズルを開放放置(10分)した後にインクの吐出を行ったものと、の二通りの方法で画像を形成した。吐出後、120℃のホットプレート上で各基材に着弾したインクを3分程度ほど乾燥させて、画像を得た。
【0141】
その後、オーバーコート液1を#3のワイヤーバーで前記基材の画像が形成された面に塗布し、ドライヤー(株式会社日立製作所製、TURBO1200)で1分間オーバーコート液1を乾燥させた。さらにその上に、ラミネート層(ユニチカ株式会社製、ナイロンフィルムON)を貼り合わせて、卓上ラミネーター(株式会社明光商会製、THS-330)により90℃でローラー加熱を行なって、画像1を得た。
【0142】
インク1をインク2~インク11、インクAおよびインクBに変更した以外は同様にして、画像2~画像11、画像Aおよび画像Bを得た。
【0143】
インク3を用い、オーバーコート液1をオーバーコート液2に変更した以外は同様にして、画像Cを得た。
【0144】
6.評価
6-1.射出性
上記メンテナンス後にノズルを開放放置(10分)した後にインクの吐出を行って得られた画像を目視で確認し、各インクの射出性を以下の基準で評価した。
○ 綺麗なベタ画像が形成されている
△ ベタ画像の書き始めのラインがギザギザしている
× ベタ画像の書き始めが1mm以上うすくなっている
【0145】
6-2.耐水性
画像1~画像11を45℃で3日保管したのち、ベタ部分が切断端面となるようにして10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を圧力鍋で30分煮沸し、煮沸後の試験片の切断端面を目視で確認し、各インクによる画像の耐水性を以下の基準で評価した。
○ 切断端面に剥がれはない
△ 切断端面を指で軽くはじく(めくる)と部分的に剥がれることがある
× 切断端面に剥がれが発生した
【0146】
画像1~画像11、画像A、画像Bおよび画像Cの評価結果を、表4に示す。
【0147】
【0148】
分散剤として、酸性官能基を側鎖に有する構造単位と、1級アミン、2級アミンおよび3級アミンならびに水酸基のいずれかを側鎖に有する構造単位と、疎水性の構造単位と、を含み、酸価が60mg/KOH以上200mg/KOH以下であり、かつ、水酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOH以上30mg/KOH以下である、アクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像3、5、6、8および9は、ノズル詰まりが生じにくく、かつ形成した画像の耐擦過性および耐水性も高かった。
【0149】
また、分散剤として、ポリアルキレングリコール鎖を有さない上記アクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像3、5、6、8および9は、ノズル詰まりがより生じにくく、かつ形成した画像の耐擦過性および耐水性もより高かった。
【0150】
また、分散剤として、1級アミンを側鎖に有する構造単位を有する上記アクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像5は、3級アミンを側鎖に有する構造単位を有する上記アクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像6よりも、形成した画像の耐擦過性および耐水性もより高かった。
【0151】
これに対し、分散剤として、酸価が200mg/KOHより高いアクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像1および2は、形成した画像の耐擦過性および耐水性がより低かった。
【0152】
また、分散剤として、酸価が60mg/KOHより低いアクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像4は、ノズル詰まりが多く生じていた。
【0153】
また、分散剤として、酸基価およびアミン価の合計が30mg/KOHより高いアクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像7は、形成した画像の耐擦過性および耐水性がより低かった。
【0154】
また、分散剤として、酸基価およびアミン価の合計が5mg/KOHより低いアクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像10は、ノズル詰まりが多く生じていた。
【0155】
また、分散剤として、アクリル系以外の共重合体を含有する水系インクを用いて形成した画像Aおよび画像Bは、ノズル詰まりが多く生じており、また、イソシアネートを含むオーバーコート液の付与およびラミネート層の接合を経て形成した画像の耐擦過性および耐水性がより低かった。
【0156】
また、上記アクリル系の共重合体を含有する水系インクを用いたとしても、ラミネート接着剤を含まないオーバーコート液を用いて形成した画像Cは、耐擦過性および耐水性がより低かった。
【0157】
本出願は、2017年6月1日出願の日本国出願番号2017-109130号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の特許請求の範囲および明細書に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の水系インクによれば、ノズル詰まりを抑制しつつ、形成される画像の耐擦過性および耐水性を高めることができる。そのため、本発明は、インクジェット法による水性インクの適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。