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  • 特許-ジアルキルカーボネートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ジアルキルカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/00 20200101AFI20220726BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20220726BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
C07C68/00 C
C07C69/96 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019538074
(86)(22)【出願日】2018-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2018030038
(87)【国際公開番号】W WO2019039317
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017158713
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】下川 敬輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
(72)【発明者】
【氏名】磯部 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】劉 紅玉
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-259164(JP,A)
【文献】特表2007-534674(JP,A)
【文献】特表2014-518553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素及びアルキルカーバメートの少なくとも1種と脂肪族アルコールとを触媒の存在下で反応させてジアルキルカーボネートを製造する方法において、
上記反応において発生するアンモニアを追い出すためのガスを、上記反応を行う反応器に導入するガス導入工程と、
前記反応器内で発生したアンモニア及び前記導入したガスを同時に排出させる排出工程と、を含み、
前記ガス導入工程が、下記式(1)を満たすように反応を行う、ジアルキルカーボネートの製造方法。
52.0<((A+B)×22400+L×M/17.03×22400)/L<91.0 ・・・(1)
(但し、式(1)において、A、B、L及びMは以下の通りである。
A:単位時間当たりの尿素の減少量[mol/min]
B:単位時間当たりのジアルキルカーボネートの増加量[mol/min]
L:単位時間当たりに冷却管で凝縮され反応器に還流する液に含まれる脂肪族アルコールの量[g/min]
M:反応を実施する際の冷却管温度、圧力条件における脂肪族アルコール(ROH)に対するアンモニアの溶解度[NH3-g/ROH-g])
【請求項2】
前記ジアルキルカーボネートのアルキル基が炭素数1~6のアルキル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ガスが、酸素を21%以下含むものである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ガスが、不活性ガスである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガスが、窒素またはアルゴンである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応器として、2以上の反応器を直列に配列した多段反応器を用い、それぞれの反応器に前記ガスを導入し、発生したアンモニア及び前記導入したガスを同時に排出させる、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキルカーボネートの製造方法に関する。更に詳細には、本発明は尿素またはアルキルカーバメートとアルコールとを触媒の存在下反応させ、ジアルキルカーボネートを製造する方法に関する。ジアルキルカーボネートはジアリールカーボネート、特にジフェニルカーボネートの原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
尿素とアルコールを反応させてジアルキルカーボネートを製造する方法は、特許文献1に、アルキルカーバメートとアルコールを反応させてジアルキルカーボネートを製造する方法は、特許文献2および特許文献3に記述がある。また、この反応の触媒に関しては、特許文献4などに記述がある。
【0003】
特許文献5には、ブチルカーバメートとブタノールを原料とするジブチルカーボネートを製造した例が記されている。この方法によれば、9~10バールの加圧条件で反応させているが、7時間後のカーバメートの転化率は40%にとどまっている。更に、イソブタノールを用いた場合は反応を完結させるのに40時間を要しており、実用的な反応速度は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭55-102542号
【文献】特開昭55-102543号
【文献】特開昭57-26645号
【文献】特開昭57-175147号
【文献】特開昭57-26645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ジアルキルカーボネートを効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の本発明によって上記課題を解決することができることを見出した。
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 尿素及びアルキルカーバメートの少なくとも1種と脂肪族アルコールとを触媒の存在下で反応させてジアルキルカーボネートを製造する方法において、
上記反応において発生するアンモニアを追い出すためのガスを、上記反応を行う反応器に導入するガス導入工程と、
前記反応器内で発生したアンモニア及び前記導入したガスを同時に排出させる排出工程と、を含み、
前記ガス導入工程が、下記式(1)を満たすように反応を行う、ジアルキルカーボネートの製造方法である。
52.0<((A+B)×22400+L×M/17.03×22400)/L<91.0 ・・・(1)
(但し、式(1)において、A、B、L及びMは以下の通りである。
A:単位時間当たりの尿素の減少量[mol/min]
B:単位時間当たりのジアルキルカーボネートの増加量[mol/min]
L:単位時間当たりに冷却管で凝縮され反応器に還流する液に含まれる脂肪族アルコールの量[g/min]
M:反応を実施する際の冷却管温度、圧力条件における脂肪族アルコール(ROH)に対するアンモニアの溶解度[NH3-g/ROH-g])
<2> 前記ジアルキルカーボネートのアルキル基が炭素数1~6のアルキル基である、上記<1>に記載の製造方法である。
<3> 前記ガスが、酸素を21%以下含むものである、上記<1>または<2>に記載の製造方法である。
<4> 前記ガスが、不活性ガスである、上記<1>または<2>に記載の製造方法である。
<5> 前記不活性ガスが、窒素またはアルゴンである、上記<4>に記載の製造方法である。
<6> 前記反応器として、2以上の反応器を直列に配列した多段反応器を用い、それぞれの反応器に前記ガスを導入し、発生したアンモニア及び前記導入したガスを同時に排出させる、上記<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジアルキルカーボネートを効率よく製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明で好ましく用いられるジアルキルカーボネートの連続反応装置の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を詳しく説明する。
本発明は、尿素及びアルキルカーバメートの少なくとも1種と脂肪族アルコールとを触媒の存在下で反応させてジアルキルカーボネートを製造する方法において、上記反応において発生するアンモニアを追い出すためのガスを、上記反応を行う反応器に導入するガス導入工程と、前記反応器内で発生したアンモニア及び前記導入したガスを同時に排出させる排出工程と、を含む。
本発明で製造されるジアルキルカーボネートのアルキル基は、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数2~4のアルキル基であることがより好ましい。
【0010】
本発明において使用される脂肪族アルコールは特に制限はないが、通常、炭素数1~8の脂肪族アルコールが使用される。これらの脂肪族アルコールの例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどが挙げられる(それぞれの例には各異性体も含まれる)。これらの脂肪族アルコールの中でも、炭素数2~6の脂肪族アルコールを用いた場合には反応速度向上の効果が著しいため好ましく、炭素数3~6の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数3~5の脂肪族アルコールが特に好ましい。更には、炭素数3または4の脂肪族アルコールが好ましい。
【0011】
本発明において使用されるアルキルカーバメートとは、尿素と上記脂肪族アルコールとの反応で得られるアルキルカーバメートであって、本発明の製造方法の中間生成物である。本発明においては、同一の反応器内で尿素からアルキルカーバメート、アルキルカーバメートからジアルキルカーボネートの反応が連続して起こるため、特に中間体として取り出す必要はない。逆に、アルキルカーバメートを原料として用いても一向に差し支えない。従って、本発明においては、分離工程において回収されたアルキルカーバメートを原料として再使用することも可能である。
【0012】
本発明において使用される触媒は公知のものが使用可能である。この反応の触媒としては、特開昭55-102542、特開昭55-102543、特開昭57-26645、特開昭57-175147等に既に多くの触媒が記されているが、いずれの触媒も本発明において使用することができる。その中でも特に、亜鉛、鉛、銅、すず、チタン、ガリウム、インジウムから選ばれた1種以上の金属の、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、無機塩、有機酸塩、アルコキシド、アルキルオキシド、アルキルアルコキシド、が好適に使用される。具体的には、酸化亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、ジブチルすずオキシド、ジオクチルすずオキシド、ジブチルジブトキシすず、テトラブトキシチタン、ガリウムトリブトキシド等を挙げることができる。
【0013】
反応は大気圧下で行ってもよいが、絶対圧で0.001~1.0MPa程度の減圧もしくは加圧の状態で行うことが好ましく、絶対圧で0.001~0.5MPaがより好ましい。大気圧以外の圧力で行う場合には、反応中に発生するアンモニアを系外に出す必要があるため、還流冷却器の先に圧力調整装置が必要であるなど、やや複雑な装置となる。
【0014】
本発明におけるガス導入工程において使用されるガスは、反応において発生するアンモニアを追い出すことができるガスであれば特に制限はないが、防爆の観点から酸素を21%以下含むものであることが好ましく、更には、酸素を10%以下、5%以下、1%以下、あるいは0.1%以下含むものであることが好ましく、特に好ましくは酸素を0.01%以下含むものである。前記ガスは、より好ましくは不活性ガスであり、なかでも窒素およびアルゴンが特に好ましい。
ガスの導入量は、反応基質(尿素+アルキルカーバメート)の物質量1mol当たり、0.01~300mL/minが好ましく、0.01~50mL/minがより好ましく、1~50mL/minが更に好ましく、10~50mL/minが特に好ましい。この範囲であると、反応において発生するアンモニアを効率よく追い出すことができる。
【0015】
本発明は、前記ガス導入工程が、下記式(1)を満たすように反応を行うことを特徴とする。
52.0<((A+B)×22400+L×M/17.03×22400)/L<91.0 ・・・(1)
(但し、式(1)において、A、B、L及びMは以下の通りである。
A:単位時間当たりの尿素の減少量[mol/min]
B:単位時間当たりのジアルキルカーボネートの増加量[mol/min]
L:単位時間当たりに冷却管で凝縮され反応器に還流する液に含まれる脂肪族アルコールの量[g/min]
M:反応を実施する際の冷却管温度、圧力条件における脂肪族アルコール(ROH)に対するアンモニアの溶解度[NH3-g/ROH-g])
前記ガス導入工程が、上記式(1)を満たすように反応を行うことにより、ジアルキルカーボネートを効率よく製造することができる。
好ましくは、前記ガス導入工程を54.0<((A+B)×22400+L×M/17.03×22400)/L<86.0を満たすように反応を行い、より好ましくは56.0<((A+B)×22400+L×M/17.03×22400)/L<83.0を満たすように反応を行い、特に好ましくは56.0<((A+B)×22400+L×M/17.03×22400)/L<60.0を満たすように反応を行う。
【0016】
本発明はまた、反応器内で発生したアンモニア及び前記導入したガスを同時に排出させる排出工程を有することを特徴とする。
生成するアンモニアの排出を容易にするため、反応は反応液が還流する状態で行うことが好ましい。即ち、好ましい反応温度は反応液の沸点である。反応が進行すると、脂肪族アルコールが消費されることにより反応液の沸点が上昇してくる。最初に適当量の脂肪族アルコールを仕込んで液温は成り行きに任せて反応を行ってもよいし、適宜脂肪族アルコールを追加して反応液の沸点を適当な温度に維持しながら反応を継続してもよい。反応温度は140~260℃程度が適当であり、好ましくは160~240℃であり、より好ましくは200~220℃である。反応の滞留時間は1~20時間が適当であり、通常は2~10時間である。尚、中間体のアルキルカーバメートは回収して原料として使用できるため、必ずしも反応を完結させる必要はない。
【0017】
脂肪族アルコールの添加量は、各反応器に添加した量の合計として、尿素1モルに対して1~3モルが適当である。原料にアルキルカーバメートが含まれる場合は、カーバメート1モルに対して0.5~1.5モルの脂肪族アルコールを更に加えることが好ましい。脂肪族アルコールの全量を第1反応器に導入してもよいが、脂肪族アルコールは反応物の中で最も沸点が低いため、最初から脂肪族アルコールを大量に入れておくと反応液全体の沸点が低下する。即ち反応温度が低くなり反応速度が低下する。従って、脂肪族アルコールは各反応槽に反応の進行に応じて加えてもよい。本発明においては、反応工程が煩雑にならないことから、脂肪族アルコールの全量を第1反応器に導入することが好ましい。
【0018】
触媒の量は用いる触媒によって異なるが、通常尿素1モルに対して0.001~0.5モル程度が適当である。
【0019】
本発明は、回分式(バッチ式)で行うことも可能であるが、より好ましくはジアルキルカーボネートの連続製造方法である。ジアルキルカーボネートの製造は回分式(バッチ式)反応、より好ましくは脂肪族アルコールを反応の程度に応じて追加する半回分式反応によっても行うことができるが、極めて大きな反応器を必要とし、実用的でない場合がある。一方、多段の反応器を用いた場合は、転化率が上がった反応液と未反応の原料との混合を避けられるため、比較的小さな反応器を組み合わせることにより効率的にジアルキルカーボネートを製造することができる。
【0020】
本発明においては高沸点溶媒を使用してもよい。
反応液は最下段の反応器から連続的に抜き出され、分離操作が行なわれる。分離法は通常蒸留が用いられる。反応液は生成物であるジアルキルカーボネートの他に原料の脂肪族アルコール、中間体であるアルキルカーバメート、触媒を含んでいるが、ジアルキルカーボネートを分離した後の液は、反応系に循環される。即ち、触媒は再使用され、脂肪族アルコール及びアルキルカーバメートは原料として使用される。
【0021】
本発明に用いられる反応器としては、連続多段反応器が好ましく用いられるが、一般的には槽型または塔型の反応器が使用され、反応器段数は2段以上が必要であり、反応器段数は3段以上が好適である。槽型の反応器を用いる場合には反応器上部に還流冷却器または蒸留塔を付け、脂肪族アルコールとアンモニアを分離する必要がある。なお、本発明を回分式(バッチ式)で行う場合には、バッチ式の反応器を用いることができる。
【0022】
次に、図1に本発明で好ましく用いられるジアルキルカーボネートの連続反応装置の一例を示し、脂肪族アルコールと尿素からジアルキルカーボネートの製造について説明する。
【0023】
図1には、4個の反応器が直列に設置されている。図中、1,2,3,4は攪拌槽型反応器であり、5,6,7,8は還流冷却器である。尿素を尿素導入管9より連続的に導入し、脂肪族アルコール及び触媒はアルコール及び触媒導入管10より必要に応じて反応器1に導入する。この際、脂肪族アルコール及び触媒を予備混合槽27で均一にした後に、アルコール及び触媒導入管10を通って攪拌槽型反応器1へ連続的に送液してもよい。ガス導入工程において、反応器1において発生するアンモニアを追い出すためのガスをガス導入弁15より反応器1に導入する。排出工程において、反応器1内で発生したアンモニア及び前記導入したガスを留出管19を通って背圧弁23より同時に排出させる。
各反応器では、反応液を還流させながら反応させる。各反応器からはアンモニアと脂肪族アルコールの混合蒸気が発生するが、還流冷却器5により、脂肪族アルコールは反応器1に戻され、アンモニアは還流冷却器5を通過し、還流冷却管5の後ろに配置された背圧弁23とそれに続くアンモニア及びガス抜き出し管23より排出される。反応器1の反応液は反応液抜き出し管11を経由して連続的に反応器2に供給される。供給方法はオーバーフロー形式でもよいしポンプによる送液でも構わないが、オーバーフロー形式の場合、導入管を液面以下に挿入するなど、反応器2で発生した蒸気が反応器1に戻らない工夫が必要である。反応器2においても反応液を還流させながら反応させる。この際必要であれば脂肪族アルコールを追加供給してもよい。反応器2の反応液は反応液抜き出し管12を経由して連続的に反応器3に供給される。反応器3においても反応液を還流させながら反応させる。この際必要であれば脂肪族アルコールを追加供給してもよい。反応器4の反応液は反応液抜き出し管14を経て連続的に抜き出され、分離工程へ送られる。
【0024】
反応槽は必ずしも攪拌器が付いている必要はなく、外部循環などによって攪拌される形式のものでもよい。反応器それぞれの容積も一定である必要はない。還流冷却器は蒸留塔に置き換えることも可能である。発生蒸気を1つの還流冷却器で処理する方法、例えば、反応器2および反応器3の発生蒸気を全て還流冷却器5で凝縮して反応器1に戻す方法も可能であるが、各反応器の脂肪族アルコール濃度が維持されなくなるため好ましくない。但し、集めた蒸気をそれぞれの反応器に適当に分配できる装置があれば好ましい。
【0025】
尚、本反応においては微量ではあるが、シアン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの副生成物が生成し、長時間の運転においては配管を閉塞させる可能性がある。これらの化合物の解離温度は常圧では約60℃であるため、付着の可能性のある配管は解離温度以上に保温しておくことが好ましい。また、還流冷却器はこれらの塩の解離圧以上(常圧においては60℃以上)、用いる脂肪族アルコールの沸点以下の温度で運転することが好ましい。
【0026】
塔型の反応器としては、通常の多段蒸留塔をそのまま反応器として用いることができる。蒸留塔の形式には特に制限はないが、滞留時間を必要とするため、棚段塔形式の蒸留塔が好ましい。具体的には泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイなどを用いた棚段塔が好適である。塔型の反応器を用いた場合は、尿素、脂肪族アルコール及び触媒を棚段塔の上部ないし中央部に連続的に供給し、蒸留塔上部からアンモニアをガス状で連続的に抜き出すとともに、塔下部から反応液を連続的に抜き出すことにより反応を行うことができる。更に、この場合は、尿素及び触媒の混合物を棚段塔の上部ないし中央部に連続的に供給し、脂肪族アルコールは上記混合物の供給段およびそれより下段の任意の複数の段から供給することが好ましい。
【実施例
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
<実施例1-A>
攪拌機、上部に還流冷却管5を有するステンレス製攪拌槽型反応器1を用いて実験を行った。アルコールはn-ブタノール、触媒はジブチルスズオキシドを用いた。尿素18.2gに対して、n-ブタノールを260.5g、ブチルカーバメートを373.3g、ジブチルカーボネートを192.1g、触媒を18.9g含む液をスチームジャケット付きの予備混合槽27で均一にした後に、863.0g/hの速度で攪拌槽型反応器1へ連続的に送液した。攪拌槽型反応器1の温度は209.2℃に設定した。還流冷却器5には80℃の温水を流した。系内にガス導入弁15から窒素を50mL/minで導入しつつ留出管19を通って背圧弁23から排出した。攪拌層型反応器1から発生するアンモニアは還流冷却器5によりブタノールと分離した後、還流冷却管5の後ろに配置された背圧弁23とそれに続くアンモニア及びガス抜き出し管23から系外に排出した。
【0029】
<比較例1>
原料液の組成を尿素24.5gに対して、n-ブタノールを267.8g、ブチルカーバメートを368.9g、ジブチルカーボネートを190.4g、触媒を18.9gとし、870.5g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を208.8℃に設定したこと、および系内に窒素を導入しなかったこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0030】
<実施例2-A>
原料液の組成をブチルカーバメート129.2gに対して、n-ブタノールを146.8g、ジブチルカーボネートを49.5g、触媒を4.7gとし、327.0g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を212.3℃に設定したこと、および系内に窒素を150mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0031】
<実施例2-B>
原料液の組成をブチルカーバメート123.1gに対して、n-ブタノールを148.4g、ジブチルカーボネートを50.9g、触媒を4.7gとし、330.1g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を213.2℃に設定したこと、および系内に窒素を50mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0032】
<実施例2-C>
原料液の組成をブチルカーバメート118.2gに対して、n-ブタノールを151.6g、ジブチルカーボネートを49.3g、触媒を4.7gとし、323.7g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を212.0℃に設定したこと、および系内に窒素を10mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0033】
<比較例2>
原料液の組成をブチルカーバメート119.8gに対して、n-ブタノールを153.3g、ジブチルカーボネートを47.0g、触媒を4.7gとし、324.8g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を210.8℃に設定したこと、および系内に窒素を導入しなかったこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0034】
<実施例3-A>
原料液の組成をブチルカーバメート84.9gに対して、n-ブタノールを121.8g、ジブチルカーボネートを107.6g、触媒を4.7gとし、327.5g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を215.1℃に設定したこと、および系内に窒素を50mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0035】
<実施例3-B>
原料液の組成をブチルカーバメート78.5gに対して、n-ブタノールを125.0g、ジブチルカーボネートを108.9g、触媒を4.7gとし、317.1g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を214.4℃に設定したこと、および系内に窒素を10mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0036】
<比較例3>
原料液の組成をブチルカーバメート82.5gに対して、n-ブタノールを128.0g、ジブチルカーボネートを98.2g、触媒を4.7gとし、313.3g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を213.3℃に設定したこと、および系内に窒素を導入しなかったこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0037】
<比較例4-A>
原料液の組成を尿素275.7gに対して、n-ブタノールを680.5g、触媒を18.9gとし、975.1g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を197.6℃に設定したこと、および系内に窒素を50mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0038】
<比較例4-B>
原料液の組成を尿素275.7gに対して、n-ブタノールを680.5g、触媒を18.9gとし、975.1g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を192.4℃に設定したこと、および系内に窒素を導入しなかったこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0039】
<比較例5-A>
原料液の組成を尿素28.4gに対して、n-ブタノールを346.7g、ブチルカーバメートを476.0g、ジブチルカーボネートを17.8g、触媒を18.9gとし、887.8g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を206.2℃に設定したこと、および系内に窒素を50mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0040】
<比較例5-B>
原料液の組成を尿素35.3gに対して、n-ブタノールを375.3g、ブチルカーバメートを461.6g、ジブチルカーボネートを10.8g、触媒を18.9gとし、901.9g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を207.5℃に設定したこと、および系内に窒素を導入しなかったこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0041】
<比較例6-A>
原料液の組成をブチルカーバメート39.9gに対して、n-ブタノールを84.9g、ジブチルカーボネートを198.0g、触媒を4.7gとし、327.5g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を216.2℃に設定したこと、および系内に窒素を50mL/minで導入しつつ背圧弁から排出したこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0042】
<比較例6-B>
原料液の組成をブチルカーバメート43.3gに対して、n-ブタノールを99.6g、ジブチルカーボネートを176.9g、触媒を4.7gとし、324.6g/hの速度で攪拌槽型反応器へ送液したこと、攪拌槽型反応器の温度を215.5℃に設定したこと、および系内に窒素を導入しなかったこと以外は、実施例1-Aと同様にして実験を行った。
【0043】
実施例1~3及び比較例1~6の条件および得られたジブチルカーボネートの収率を以下の表1及び2に示す。
【表1】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、ジアルキルカーボネートを効率よく製造することができ、得られたジアルキルカーボネートはジアリールカーボネート、特にジフェニルカーボネートの原料として有用な化合物である。
【符号の説明】
【0045】
1 攪拌槽型反応器
2 攪拌槽型反応器
3 攪拌槽型反応器
4 攪拌槽型反応器
5 還流冷却器
6 還流冷却器
7 還流冷却器
8 還流冷却器
9 尿素導入管
10 アルコール及び触媒導入管
11 反応液抜き出し管
12 反応液抜き出し管
13 反応液抜き出し管
14 反応液抜き出し管
15 ガス導入弁
16 ガス導入弁
17 ガス導入弁
18 ガス導入弁
19 留出管
20 留出管
21 留出管
22 留出管
23 背圧弁、アンモニア及びガス抜き出し管
24 背圧弁、アンモニア及びガス抜き出し管
25 背圧弁、アンモニア及びガス抜き出し管
26 背圧弁、アンモニア及びガス抜き出し管
27 予備混合槽
図1