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特許7111111立体造形物の製造方法、およびそれに用いる粉末材料
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  • 特許-立体造形物の製造方法、およびそれに用いる粉末材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】立体造形物の製造方法、およびそれに用いる粉末材料
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/165 20170101AFI20220726BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220726BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220726BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20220726BHJP
【FI】
B29C64/165
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/264
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019559593
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044959
(87)【国際公開番号】W WO2019117016
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2017238751
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和也
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094345(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163834(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/053305(WO,A1)
【文献】特開2016-187918(JP,A)
【文献】特表2017-517414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
C08J 3/00 - 3/16
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料を含む薄層の形成と、前記薄層に対する、水系溶媒およびエネルギー吸収剤を含む結合用流体の塗布と、前記薄層へのエネルギー照射と、を含む立体造形物の製造方法に使用される粉末材料であって、
表面張力が45mN/m超、もしくは表面張力が30mN/m未満である熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、
前記樹脂粒子の周囲に配置された、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる有機樹脂を含み、かつ、表面張力が30mN/m~45mN/mである、樹脂粒子の表面積の40%以上を被覆している有機樹脂層と、
を含む造形用粒子を含有する、粉末材料。
【請求項2】
前記造形用粒子において、前記有機樹脂層が、前記樹脂粒子の表面積の40%以上90%以下を被覆している、
請求項1に記載の粉末材料。
【請求項3】
前記有機樹脂のガラス転移温度または融点が、100℃以上230℃以下である、
請求項1または2に記載の粉末材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末材料を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
水系溶媒およびエネルギー吸収剤を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、
前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記造形用粒子中の前記樹脂粒子を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、
を含む、立体造形物の製造方法。
【請求項5】
前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を、複数回繰り返すことで、前記造形物層を積層し、立体造形物を形成する、
請求項4に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項6】
前記流体塗布工程で、前記結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、前記結合用流体の塗布領域と隣接する領域に塗布する、
請求項4または5に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項7】
前記流体塗布工程で、前記結合用流体および前記剥離用流体をインクジェット法で塗布する、
請求項6に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物の製造方法、およびそれに用いる粉末材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の立体造形物を比較的容易に製造できる様々な方法が開発されており、このような手法を利用したラピッドプロトタイピングやラピッドマニュファクチュアリングが注目されている。
【0003】
このような立体造形物の製造方法の一つとして、熱可塑性樹脂を含む粉末材料からなる薄層を形成し、所望の領域の粉末材料のみを焼結もしくは溶融結合(以下、単に「溶融結合」とも称する)させて、立体造形物を得る方法が提案されている。例えば、粉末材料を溶融結合させる領域(以下、「硬化領域」とも称する)と、それ以外の領域(以下、「非硬化領域」とも称する)とで、エネルギーの吸収度合いが異なるように各種処理を行った後、薄層全面にエネルギーを照射する方法が提案されている(特許文献1)。当該方法によれば、エネルギーの照射を一括して行うことができるため、立体造形物を従来の方法より格段に速く形成できる、との利点がある。なお、下記特許文献1には、硬化領域のエネルギーの吸収度合いを非硬化領域のエネルギーの吸収度合いより高める方法として、硬化領域のみにエネルギー吸収剤を塗布することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-533480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上記特許文献1に記載の立体造形物の製造方法において、硬化領域にはエネルギー吸収剤を含む結合用流体を塗布し、必要に応じて非硬化領域にはエネルギー吸収性の低い剥離用流体を塗布することが検討されている(以下、当該方式を「MJF方式」とも称する)。当該MJF方式において、結合用流体と、必要に応じて剥離用流体とを塗布した後、エネルギーを全面に照射すると、硬化領域中のエネルギー吸収剤がエネルギーを吸収し、発熱する。これにより、硬化領域の粉末材料の温度が高まり、粉末材料どうしが溶融結合する。
【0006】
ここで、MJF方式の結合用流体や剥離用流体には、水系溶媒が一般的に用いられており、粉末材料には、従来、ポリアミド12等を含む樹脂粒子が一般的に用いられている。ポリアミド12は、結合用流体や剥離用流体に対する濡れ性が適度であり、MJF方式に好適に用いることができる。一方で近年、立体造形物の製造に、ポリアミド12以外の樹脂を用いることも要求されている。樹脂の中には、水系溶媒に対して十分な濡れ性を有さない樹脂も多い。このような濡れ性の低い樹脂をMJF方式に用いると、結合用流体や剥離流体を塗布した際、結合用流体等が十分に濡れ広がらず、硬化領域内でエネルギー吸収剤に濃度ムラが生じやすくなる。その結果、エネルギーを照射した際に、硬化領域内で温度ムラが発生し、得られる立体造形物の強度が低くなりやすかった。一方で、水系溶媒に対する濡れ性が高すぎる樹脂では、結合用流体等が濡れ広がり過ぎてしまい、寸法精度が低くなりやすかった。つまり、従来の粉末材料をMJF方式に適用とすると、使用可能な樹脂が制限されやすく、所望の樹脂を使用するためには、結合用流体や剥離用流体を樹脂の種類に合わせて変更する必要があった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、水系溶媒に対する濡れ性が良好であり、結合用流体および剥離用流体を塗布して立体造形物を作製する方法に適用可能な粉末材料、およびこれを用いた立体造形物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、粉末材料にある。
[1]粉末材料を含む薄層の形成と、前記薄層に対する、水系溶媒およびエネルギー吸収剤を含む結合用流体の塗布と、前記薄層へのエネルギー照射と、を含む立体造形物の製造方法に使用される粉末材料であって、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、前記樹脂粒子の周囲に配置された、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂を含む有機樹脂層と、を含む造形用粒子を含有する、粉末材料。
【0009】
[2]前記造形用粒子において、前記有機樹脂層が、前記樹脂粒子の表面積の40%以上100%以下を被覆している、[1]に記載の粉末材料。
[3]前記有機樹脂のガラス転移温度または融点が、100℃以上230℃以下である、[1]または[2]のいずれかに記載の粉末材料。
【0010】
本発明の第2は、以下の立体造形物の製造方法にある。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の粉末材料を含む薄層を形成する薄層形成工程と、水系溶媒およびエネルギー吸収剤を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記造形用粒子中の前記樹脂粒子を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含む、立体造形物の製造方法。
【0011】
[5]前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を、複数回繰り返すことで、前記造形物層を積層し、立体造形物を形成する、[4]に記載の立体造形物の製造方法。
[6]前記流体塗布工程で、前記結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、前記結合用流体の塗布領域と隣接する領域に塗布する、[4]または[5]に記載の立体造形物の製造方法。
[7]前記流体塗布工程で、前記結合用流体および前記剥離用流体をインクジェット法で塗布する、[6]に記載の立体造形物の製造方法。
[8]前記エネルギー吸収剤が赤外線吸収剤であり、前記エネルギー照射工程で、赤外光を照射する、[5]~[7]のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粉末材料は、立体造形物の製造時に塗布される結合用流体および剥離用流体に対する濡れ性が良好である。したがって、当該粉末材料によれば、寸法精度が高く、かつ強度の高い立体造形物が得られる。また、当該粉末材料は、水系溶媒に対して濡れ性が高過ぎる樹脂や濡れ性が低過ぎる樹脂等、いずれの樹脂等を含んでいてもよく、多様なユーザ要求に応えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の一実施形態における立体造形装置の構成を概略的に示す側面図である。
図2図2は本発明の一実施形態における立体造形装置の制御系の主要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の粉末材料は、前述のMJF方式に適用される材料である。前述のように、一般的なMJF方法では、結合用流体および剥離用流体として、水系溶媒が用いられる。そのため、水系溶媒に対して濡れ性の低過ぎる樹脂や濡れ性の高過ぎる樹脂を粉末材料に用いることが難しく、このような粉末材料を用いた場合には、得られる立体造形物の寸法精度や強度が低下しやすい、との課題があった。
【0015】
これに対し、本発明の粉末材料に含まれる造形用粒子では、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子の周囲に、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂を含む有機樹脂層が配置されている。当該粉末材料では、硬化領域や剥離用流体を塗布した際、有機樹脂層に沿って結合用流体や剥離用流体が適度に濡れ広がる。したがって、樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂として、水系溶媒に対する濡れ性が低過ぎる樹脂や水系溶媒に対する濡れ性が高過ぎる樹脂を用いることが可能である。またさらに、有機樹脂の表面張力が上記範囲であることから、結合用流体が適度に濡れ広がり、硬化領域のみにエネルギー吸収剤をムラなく含めることができる。その結果、硬化領域において、樹脂粒子を均一に溶融結合させることが可能となる。つまり、本発明の粉末材料を用いることで、樹脂の選択の幅が大きく広がり、さらには強度や造形精度の高い立体造形物が得られる。以下、粉末材料について先に説明し、その後、当該粉末材料を用いた立体造形物の製造方法を説明する。
【0016】
1.粉末材料について
本発明の粉末材料には、少なくとも造形用粒子が含まれる。粉末材料には、必要に応じて各種添加剤や、フローエージェント、充填材等が含まれていてもよい。
【0017】
造形用粒子には、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子と、当該樹脂粒子の周囲に配置された、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂を含む有機樹脂層とが含まれる。造形用粒子の形状は特に制限されず、球状や角柱状等、いずれの形状であってもよいが、粉末材料の流動性を良好にし、かつ寸法精度よく立体造形物を作製するとの観点から、球状であることが好ましい。
【0018】
また、造形用粒子の平均粒子径は特に制限されないが、2μm以上210μm以下であることが好ましく、10μm以上80μm以下であることがより好ましい。造形用粒子の平均粒子径が2μm以上であると、後述の立体造形物の製造方法で作製する造形物層の厚みが十分に厚くなりやすく、効率良く立体造形物を製造することが可能となる。一方、造形用粒子の平均粒子径が210μm以下であると、複雑な形状の立体造形物も作製することが可能となる。
【0019】
造形用粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した体積平均粒子径とする。体積平均粒子径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)により測定することができる。
【0020】
造形用粒子では、有機樹脂層が樹脂粒子の外周を全て被覆していてもよく、一部のみを被覆していてもよい。また、有機樹脂層はシート状であってもよく、また微細な粒子の集合体であってもよい。つまり、シート状の有機樹脂層によって樹脂粒子の表面が被覆されていてもよく、有機樹脂を含む粒子によって樹脂粒子の表面が被覆されていてもよい。ただし、結合用流体や剥離用流体を十分に濡れ広がらせるとの観点から、有機樹脂層はシート状であることがより好ましい。
【0021】
また、結合用流体や剥離用流体を十分との濡れ性を適度な範囲にするとの観点から、有機樹脂層は、樹脂粒子の表面積の40%以上を被覆していることが好ましく、45%以上被覆していることがより好ましい。一方、上限は100%であるが、90%以下であっても十分な効果が得られる。また、有機樹脂層の樹脂粒子に対する被覆面積を100%未満とすることで、造形用粒子を溶融結合させる際に、内部の樹脂粒子由来の熱可塑性樹脂が表面に染み出しやすくなり、造形用粒子どうしが結着しやすくなるという効果が得られる。樹脂粒子の表面積に対する有機樹脂層の被覆割合は、以下のように算出する。まず、多数の造形用粒子の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で撮像し、任意に選択した10個の造形用粒子について、樹脂粒子の表面積と、有機樹脂層の被覆面積とを特定する。そして、各粒子について、有機樹脂層の被覆割合を算出し、これらの平均値を求めることで特定することができる。
【0022】
有機樹脂層の厚みは特に制限されないが、通常、15~500nmであることが好ましく、15~400nmであることがより好ましく、20~300nmであることがさらに好ましい。有機樹脂層の厚みが過度に厚い場合、有機樹脂層によって、樹脂粒子どうしの溶融結合が阻害されることがあるが、500nm以下であれば、樹脂粒子どうしを十分に溶融結合させることが可能となる。また有機樹脂層の厚みが15nm以上であると、樹脂粒子が有機樹脂層によって十分に被覆されやすくなる。有機樹脂層の厚みは、多数の造形用粒子の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で撮像し、任意に選択した10個の造形用粒子の有機樹脂層の厚みの平均値とすることができる。
【0023】
ここで、有機樹脂層には、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂のみが含まれていてもよく、当該有機樹脂以外の材料が含まれていてもよい。ただし、有機樹脂層の表面張力が30mN/m~45mN/m、より好ましくは35~40mN/mとなるように、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂が含まれていることが好ましい。具体的には、有機樹脂層の総量に対して、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂が60質量%以上含まれていることが好ましく、70質量%以上含まれていることがさらに好ましく、80質量%含まれていることがより好ましい。なお、上記表面張力は、クルス社製ペンダントドロップ式界面張力計 DSA25/DSAにより、溶融状態における表面張力を測定し、20℃の表面張力に外挿して求めた値である。
【0024】
上記表面張力を有する有機樹脂の具体例には、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール等が含まれる。これらは、有機樹脂層に一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、上記の中でも特に、ポリアミド12、ポリアミド6が好ましい。
【0025】
また、表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂は、ガラス転移温度または融点が100℃以上230℃以下であることが好ましく、120~230℃であることがより好ましい。表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂のガラス転移温度または融点が過度に低いと、立体造形物を作製する際(例えば予備加熱時等)に、有機樹脂層が軟化したり溶融してしまい、造形用粒子どうしが結着してしまうことがある。つまり、非硬化領域でも造形用粒子どうしが結着してしまい、得られる立体造形物の造形精度が低下しやすくなる。これに対し、有機樹脂のガラス転移温度または融点が100℃以上であれば、立体造形物の作製時に、有機樹脂層が軟化したり溶融したりし難く、寸法精度よく立体造形物を作製することが可能となる。一方、有機樹脂のガラス転移温度または融点が過度に高いと、立体造形物の作製時に、多量のエネルギーを照射する必要が生じるが、ガラス転移温度または融点が230℃以下であれば、硬化領域の造形用粒子どうしを効率よく結着させることが可能となる。
【0026】
上述のように、有機樹脂層には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、有機樹脂以外の成分が含まれていてもよい。有機樹脂以外の成分の例には、公知の添加剤や、公知の体質顔料等が含まれる。
【0027】
一方、造形用粒子に含まれる樹脂粒子は、熱可塑性樹脂を含む粒子であればよく、熱可塑性樹脂以外の成分が含まれていてもよい。ただし、熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂粒子の質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の量が40質量%以上であると、得られる立体造形物の強度が高くなる。
【0028】
樹脂粒子の形状は特に制限されず、球状や角柱状等、いずれの形状であってもよいが、粉末材料の流動性を良好にし、かつ寸法精度よく立体造形物を作製するとの観点から、球状であることが好ましい。平均粒子径は、1μm以上200μm以下であることが好ましく、2μm以上150μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましく、5μm以上70μm以下であることがさらに好ましく、10μm以上60μm以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が1μm以上であると、造形用粒子の平均粒子径が適度な範囲となり、粉末材料に十分な流動性を付与することが可能となる。また、上記平均粒子径が1μm以上であると、樹脂粒子の作製が容易となり、粉末材料の製造コストが高くならないとの利点もある。一方、上記平均粒子径が200μm以下であると、造形用粒子の平均粒子径を所望の範囲に収めることができ、高精細な立体造形物を製造することが可能となる。
【0029】
ここで、樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂は、エネルギー照射によって発熱したエネルギー吸収剤によって暖められ、溶融可能な樹脂であれば特に制限されない。熱可塑性樹脂の種類は、立体造形物の用途等に応じて適宜選択される。造形用粒子には、熱可塑性樹脂が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂が、水系溶媒との濡れ性が適度な樹脂である場合には、上記有機樹脂層が配置されていなくとも、結合用流体や剥離用流体の濡れ性を良好にすることができる。そこで、本発明の効果を十分に得るとの観点では、樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂が、水系溶媒に対する濡れ性が低過ぎるもしくは高過ぎる材料であることが好ましく、具体的には表面張力が45mN/m超、もしくは表面張力が30mN/N未満である樹脂であることが好ましい。
【0030】
また、熱可塑性樹脂の溶融温度が高過ぎると、立体造形物を作製する際、熱可塑性樹脂を溶融させるために必要なエネルギー量が多くなる。そこで、熱可塑性樹脂の溶融温度は、300℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。一方、得られる立体造形物の耐熱性等の観点から、熱可塑性樹脂の溶融温度は100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。溶融温度は、熱可塑性樹脂の種類等によって調整することができる。
【0031】
このような熱可塑性樹脂の例には、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリサルホン、ポリアクリロニトリル、ポリ2-エチルヘキシルメタクリレート等が含まれる。
【0032】
また、上述のように、樹脂粒子には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂以外の成分が含まれていてもよい。熱可塑性樹脂以外の成分の例には、公知の添加剤や、公知の体質顔料等が含まれる。例えば無機材料が含まれていてもよい。無機材料の形状は特に制限されず、例えば球状、多角柱状、鱗片状等とすることができる。またその平均粒子径は、0.01~50μm程度とすることができる。無機材料の平均粒子径は、体積平均粒子径であり、樹脂粒子中の熱可塑性樹脂や、上記有機樹脂層を溶媒等によって除去した後、上記レーザ回折式粒度分布測定装置等にて測定することで特定できる。
【0033】
無機材料を構成する材料は、特に制限されず、その例には、酸化アルミニウムや酸化マグネシウム、タルク等の金属酸化物;炭化ケイ素、窒化ホウ素や窒化アルミニウム等の半金属または金属の炭化物または窒化物等が含まれる。造形用粒子には、無機材料が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0034】
また、粉末材料には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記造形用粒子以外の成分が含まれていてもよく、例えば各種添加剤が含まれていてもよい。各種添加剤の例には、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物、展着剤、粘着剤等が含まれる。粉末材料には、これらが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0035】
さらに、粉末材料には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、充填材が含まれていてもよい。充填材の例には、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、金属粉、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等の無機充填材;多糖類のナノファイバー;各種ポリマー等が含まれる。粉末材料には、これらが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0036】
また、粉末材料には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、フローエージェントが含まれていてもよい。フローエージェントは、摩擦係数が小さく、自己潤滑性を有する材料であればよい。このようなフローエージェントの例には、二酸化ケイ素および窒化ホウ素が含まれる。これらのフローエージェントは、一種のみ含まれていてもよく、双方が含まれていてもよい。フローエージェントの量は、粉末材料の流動性が向上し、かつ粉末材料の溶融結合が十分に生じる範囲で適宜設定することができ、たとえば、粉末材料の全質量に対して、0質量%より多く2質量%未満とすることができる。
【0037】
上記粉末材料の調製方法は特に制限されず、例えば以下の方法とすることができる。まず、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子を準備する。樹脂粒子は、熱可塑性樹脂を調製し、これを粉砕することにより作製してもよい。また、市販品を用いてもよい。さらに、樹脂粒子の平均粒子径を揃えるため、必要に応じて機械的粉砕や分級等を行ってもよい。また、樹脂粒子に無機材料を含める場合には、熱可塑性樹脂と無機粒子とを加熱混合した後、これを所望の大きさになるまで粉砕することで調製することができる。
【0038】
当該樹脂粒子の周囲に、有機樹脂層を形成する。有機樹脂層の形成方法は、公知の方法とすることができ、例えば樹脂粒子に上記有機樹脂を溶解させた塗布液を塗布する湿式コート法や、樹脂粒子と、有機樹脂からなる粒子等とを撹拌混合して機械的衝撃により結合させる乾式コート法、ならびにこれらを組み合わせた方法が含まれる。湿式コート法を採用する場合、樹脂粒子の表面に上記塗布液をスプレー塗布してもよく、樹脂粒子を上記塗布液の中に浸漬してもよい。湿式コート法によれば、有機樹脂層をシート状に形成することが可能となる。一方で、乾式コート法によれば、有機樹脂層を粒子状の有機樹脂の集合体とすることができる。
【0039】
2.立体造形物の製造方法
次に、上記粉末材料を用いた立体造形物の製造方法について説明する。当該立体造形物の製造方法では、(1)上記粉末材料を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)エネルギー吸収剤および水系溶媒を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、(3)前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記造形用粒子中の前記熱可塑性樹脂を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を少なくとも行う。上記流体塗布工程で、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、結合用流体の塗布領域と隣接する領域に塗布してもよい。
【0040】
前述のように、上記粉末材料は、結合用流体や剥離用流体に含まれる水系溶媒に対して適度な濡れ性を有する。したがって、流体塗布工程において、結合用流体や剥離用流体を所望の領域にのみ、均一に濡れ広がらせることができる。その結果、エネルギー照射工程におけるエネルギー照射によって、結合用流体を塗布した領域のみ、効率よくかつ均一に硬化させることができ、寸法精度および強度の高い立体造形物が得られる。以下、当該立体造形物の製造方法について、詳しく説明する。
【0041】
(1)薄層形成工程
薄層形成工程では、上述の粉末材料を主に含む薄層を形成する。薄層の形成方法は、所望の厚みの層を形成可能であれば特に制限されない。例えば、本工程は、立体造形装置の粉末供給部から供給された粉末材料を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める工程とすることができる。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよく、すでに敷き詰められている粉末材料またはすでに形成されている造形物層の上に接するように形成してもよい。
【0042】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、新たな造形物層を形成するためのエネルギー照射(後述のエネルギー照射工程におけるエネルギー照射)によって、既に作製した造形物層が溶融することを防ぐことができる。また、薄層の厚さが0.01mm以上であると、粉末材料を均一に敷き詰めやすくなる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、後述のエネルギー照射工程において、エネルギー(例えば赤外光)を薄層の下部まで照射することが可能となる。これにより、硬化領域(結合用流体を塗布する領域)の熱可塑性樹脂を、厚み方向の全体にわたって溶融させることが可能となる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.20mm以下であることがより好ましい。
【0043】
薄層の形成後、もしくは薄層を形成する前に、必要に応じて予備加熱を行ってもよい。予備加熱を行うことで、後述のエネルギー照射工程で照射するエネルギー量を少なくすることが可能となる。またさらに、短時間で効率良く造形物層を形成することが可能となる。予備加熱温度は、薄層が含む熱可塑性樹脂(樹脂粒子)が溶融する温度より低い温度であり、さらに後述の流体塗布工程で塗布する結合用流体や剥離用流体が含む水系溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂の融点、ならびに結合用流体および剥離用流体が含む水系溶媒の沸点のうち、一番低い温度をT(℃)としたとき、(T-50)℃以上(T-5)℃以下であることが好ましく、(T-30)℃以上(T-5)℃以下であることがより好ましい。またこのとき、加熱時間は1~60秒とすることが好ましく、3~20秒とすることがより好ましい。加熱温度および加熱時間を上記範囲とすることで、エネルギー照射工程におけるエネルギー照射量を低減することができる。
【0044】
(2)流体塗布工程
流体塗布工程では、上記薄層形成工程で形成した薄層の特定の領域に、結合用流体を塗布する。また上述のように、結合用流体の塗布領域に隣接する領域に剥離用流体を塗布してもよい。具体的には、造形物層を形成すべき領域(硬化領域)に選択的に結合用流体を塗布し、造形物層を形成しない領域(非硬化領域)には、剥離用流体を塗布してもよい。結合用流体および剥離用流体は、どちらを先に塗布してもよいが、得られる立体造形物の寸法精度の観点から、結合用流体を先に塗布することが好ましい。
【0045】
結合用流体および剥離用流体の塗布方法は特に制限されず、例えばディスペンサーによる塗布や、インクジェット法による塗布、スプレー塗布等とすることができるが、高速で所望の領域に結合用流体および剥離用流体を塗布可能であるとの観点から少なくとも一方を、インクジェット法で塗布することが好ましく、両方をインクジェット法で塗布することがより好ましい。
【0046】
結合用流体および剥離用流体の塗布量は、それぞれ薄層1mm当たり、0.1~50μLであることが好ましく、0.2~40μLであることがより好ましい。結合用流体および剥離用流体の塗布量が当該範囲であると、硬化領域、および非硬化領域の粉末材料に、それぞれ結合用流体および剥離用流体を十分に含浸させることができ、寸法精度の良好な立体造形物を形成することができる。
【0047】
本工程で塗布する結合用流体には、エネルギー吸収剤と、水系溶媒と、が少なくとも含まれる。結合用流体にはさらに、必要に応じて公知の分散剤等が含まれていてもよい。
【0048】
エネルギー吸収剤は、後述するエネルギー照射工程において照射されるエネルギーを吸収し、結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることが可能なものであれば特に制限されない。エネルギー吸収剤の具体例には、カーボンブラック、ITO(スズ酸化インジウム)、ATO(アンチモン酸化スズ)等の赤外線吸収剤;シアニン色素;アルミニウムや亜鉛を中心に持つフタロシアニン色素;各種ナフタロシアニン化合物;平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体;スクアリウム色素;キノン系化合物;ジインモニウム化合物;アゾ化合物等の赤外線吸収色素が含まれる。これらの中でも、汎用性や結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることができるとの観点から、赤外線吸収剤であることが好ましく、カーボンブラックであることがさらに好ましい。
【0049】
エネルギー吸収剤の形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。また、その平均粒子径は0.1~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。エネルギー吸収剤の平均粒子径が過度に大きいと、結合用流体を薄層上に塗布した際、エネルギー吸収剤が造形用粒子の隙間に入り込み難くなる。これに対し、平均粒子径が1.0μm以下であれば、エネルギー吸収剤が、造形用粒子どうしの間に入り込みやすくなる。一方、エネギー吸収剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、後述するエネルギー照射工程で、効率良く造形用粒子(特に樹脂粒子中の熱可塑性樹脂)に熱を伝えることができ、造形用粒子どうしを溶融結合させることが可能となる。
【0050】
結合用流体には、エネルギー吸収剤が0.1~10.0質量%含まれることが好ましく、1.0~5.0質量%含まれることがより好ましい。エネルギー吸収剤の量が0.1質量%以上であると、後述のエネルギー照射工程で、結合用流体が塗布された領域の温度を十分に高めることが可能となる。一方、エネルギー吸収剤の量が10.0質量%以下であると、結合用流体内でエネルギー吸収剤が凝集すること等が少なく、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0051】
一方、水系溶媒はエネルギー吸収剤を分散可能であり、さらに造形用粒子中の成分を溶解し難い水系溶媒であれば特に制限されない。本明細書において、「水系溶媒」とは、水または水と混和する有機溶媒をいう。水と混和する有機溶媒の例には、メタノール、エタノールおよびプロパノール、イソプロピルアルコール、トリエチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル等のニトリルアルコール系溶媒;アセトン等のケトンアルコール系溶媒;1,4-ジオキサンおよびテトラヒドロフラン(THF)等のエーテルアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミドアルコール系溶媒等が含まれる。結合用流体には、これらが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、これらの中でも水およびトリエチレングリコールの混合液であることが特に好ましい。
【0052】
結合用流体には、水系溶媒が90.0~99.9質量%含まれることが好ましく、95.0~99.0質量%含まれることがより好ましい。結合用流体中の水系溶媒量が90.0質量%以上であると、結合用流体の流動性が高くなり、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0053】
結合用流体の粘度は、0.5~50.0mPa・sであることが好ましく、1.0~20.0mPa・sであることがより好ましい。結合用流体の粘度が0.5mPa・s以上であると、結合用流体を薄層に塗布した際の拡散が適度に抑制されやすくなる。一方で、結合用流体の粘度が50.0mPa・s以下であると、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0054】
一方、本工程で塗布する剥離用流体は、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない流体であればよく、例えば水系溶媒を主成分とする流体等とすることができる。剥離用流体には、水系溶媒が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。また、剥離用流体は、水およびトリエチレングリコールの混合液であることが特に好ましい。
【0055】
剥離用流体には、水系溶媒が90質量%以上含まれることが好ましく、95質量%以上含まれることがより好ましい。剥離用流体中の水系溶媒の量が90質量%以上であると、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0056】
また、剥離用流体の粘度は、0.5~50.0mPa・sであることが好ましく、1.0~20.0mPa・sであることがより好ましい。剥離用流体の粘度が0.5mPa・s以上であると、剥離用流体を薄層に塗布した際の拡散が適度に抑制されやすくなる。一方で、剥離用流体の粘度が50.0mPa・s以下であると、剥離用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0057】
(3)エネルギー照射工程
エネルギー照射工程では、上記流体塗布工程後の薄層、すなわち結合用流体および剥離用流体が塗布された薄層に、エネルギーを一括照射する。このとき、結合用流体が塗布された領域では、エネルギー吸収剤がエネルギーを吸収し、当該領域の温度が部分的に上昇する。そして、当該領域の樹脂粒子中の熱可塑性樹脂が溶融し、造形物層が形成される。
【0058】
本工程で照射するエネルギーの種類は、結合用流体が含むエネルギー吸収剤の種類に応じて適宜選択される。当該エネルギーの具体例には、赤外光、白色光等が含まれるが特に、剥離用流体を塗布した領域において、薄層の温度が上昇し難いとの観点から赤外光であることが好ましく、波長780~3000nmの光であることがより好ましく、波長800~2500nmの光であることがより好ましい。
【0059】
また、本工程でエネルギーを照射する時間は、粉末材料が含む樹脂粒子(熱可塑性樹脂)の種類に応じて適宜選択されるが、通常、5~60秒であることが好ましく、10~30秒であることがより好ましい。エネルギー照射時間を5秒以上とすることで、十分に熱可塑性樹脂を溶融させて、これらを結合させることが可能となる。一方で、60秒以下とすることで、効率よく立体造形物を製造することが可能となる。
【0060】
3.立体造形装置
上記立体造形物の製造方法に使用可能な立体造形装置について説明する。立体造形装置は、公知の立体造形装置と同様の構成とすることができる。また、以下では、エネルギーとして赤外光を照射する場合を例に説明するが、エネルギーは赤外光に限定されない。
【0061】
立体造形装置200は、図1の概略側面図に示すように、開口内に位置する造形ステージ210、粉末材料からなる薄層を形成するための薄層形成部220、薄層を予備加熱するための予備加熱部230、薄層に結合用流体や剥離用流体を塗布するための流体塗布部300、薄層に赤外光を照射するための赤外光照射部240、鉛直方向の位置を可変に造形ステージ210を支持するステージ支持部250、および上記各部を支持するベース290を備える。
【0062】
一方、立体造形装置200の制御系の主要部を図2に示す。図2に示すように、立体造形装置200は、薄層形成部220、予備加熱部230、流体塗布部300、赤外光照射部240、およびステージ支持部250を制御して、造形物の形成および積層を行う制御部260、各種情報を表示するための表示部270、ユーザーからの指示を受け付けるためのポインティングデバイス等を含む操作部275、制御部260の実行する制御プログラムを含む各種の情報を記憶する記憶部280、ならびに外部機器との間で立体造形データ等の各種情報を送受信するためのインターフェース等を含むデータ入力部285を備えてもよい。また、立体造形装置200は、造形ステージ210上に形成された薄層の表面温度を測定する温度測定器235を備えてもよい。また立体造形装置200には、立体造形用のデータを生成するためのコンピュータ装置310が接続されてもよい。
【0063】
造形ステージ210は、昇降可能に制御され、当該造形ステージ210上で、薄層形成部220による薄層の形成、予備加熱部230による薄層の予備加熱、流体塗布部300による結合用流体や剥離用流体の塗布、および赤外光照射部240による赤外光の照射が行われる。そして、これらによって形成された造形物が積層されて、立体造形物が形成される。
【0064】
薄層形成部220は、粉末材料を収納する粉末材料収納部221aと、粉末材料収納部221aの底部に設けられ開口内を昇降する供給ピストン221bとを備える粉末供給部221、および粉末供給部221から供給された粉末材料を造形ステージ210上に平らに敷き詰めて、粉末材料の薄層を形成するリコータ222aを備えた構成とすることができる。当該装置では、粉末材料収納部221aの開口部の上面が、造形ステージ210を昇降させる(立体造形物を形成するための)開口部の上面と、ほぼ同一平面上に配置される。
【0065】
なお、粉末供給部221は、造形ステージ210に対して鉛直方向上方に設けられた粉末材料収納部(不図示)と、当該粉末材料収納部に収納された粉末材料を、所望の量ずつ吐出するためのノズル(不図示)と、を備える構成としてもよい。この場合、ノズルから造形ステージ210上に、均一に粉末材料を吐出することで、薄層を形成することが可能となる。
【0066】
予備加熱部230は、薄層の表面のうち、造形物層を形成すべき領域を加熱し、その温度を維持できるものであればよい。当該装置では、予備加熱部230が、造形ステージ210上に形成された薄層の表面を加熱可能な第1のヒータ231と、造形ステージ上に供給される前の粉末材料を加熱する第2のヒータ232とを備えるが、これらはいずれか一方のみであってもよい。また、予備加熱部230は、上記造形物層を形成すべき領域を選択的に加熱する構成であってもよい。また、装置内の全体を予め加熱しておいて、上記薄層の表面を所定の温度に調温する構成であってもよい。
【0067】
温度測定器235は、薄層の表面温度、特に造形物層を形成すべき領域の表面温度を非接触で測定できるものであればよく、たとえば、赤外線センサまたは光高温計とすることができる。
【0068】
流体塗布部300は、結合用流体塗布部301および剥離用流体塗布部302を備える。なお、剥離用流体を塗布しない場合には、剥離用流体塗布部302はなくてもよい。結合用流体塗布部301および剥離用流体塗布部302は、それぞれ結合用流体または剥離用流体を貯留するための貯留部(不図示)と、これに接続されたインクジェットノズル(不図示)とを備えるものとすることができる。
【0069】
赤外光照射部240は、赤外ランプを含む構成とすることができる。赤外ランプは所望のタイミングで赤外光を照射可能な光源であればよい。
【0070】
ステージ支持部250は、造形ステージ210の鉛直方向の位置を可変に支持するものであればよい。すなわち、造形ステージ210は、ステージ支持部250によって鉛直方向に精密に移動可能に構成されている。ステージ支持部250としては、種々の構成を採用できるが、例えば、造形ステージ210を保持する保持部材と、この保持部材を鉛直方向に案内するガイド部材と、ガイド部材に設けられたねじ孔に係合するボールねじ等で構成することができる。
【0071】
制御部260は、中央処理装置等のハードウェアプロセッサを含んでおり、立体造形物の造形動作中、立体造形装置200全体の動作を制御する。
【0072】
また、制御部260は、たとえばデータ入力部285がコンピュータ装置310から取得した立体造形データを、造形物層の積層方向について薄く切った複数のスライスデータに変換するよう構成されてもよい。スライスデータは、立体造形物を造形するための各造形物層の造形データである。スライスデータの厚み、すなわち造形物層の厚みは、造形物層の一層分の厚さに応じた距離(積層ピッチ)と一致する。
【0073】
表示部270は、たとえば液晶ディスプレイ、モニタとすることができる。
【0074】
操作部275は、たとえばキーボードやマウスなどのポインティングデバイスを含むものとすることができ、テンキー、実行キー、スタートキー等の各種操作キーを備えてもよい。
【0075】
記憶部280は、たとえばROM、RAM、磁気ディスク、HDD、SSD等の各種の記憶媒体を含むものとすることができる。
【0076】
立体造形装置200は、制御部260の制御を受けて、装置内を減圧する、減圧ポンプなどの減圧部(不図示)、または、制御部260の制御を受けて、不活性ガスを装置内に供給する、不活性ガス供給部(不図示)を備えていてもよい。
【0077】
ここで、当該立体造形装置200を用いた立体造形方法について、具体的に説明する。制御部260は、データ入力部285がコンピュータ装置310から取得した立体造形データを、造形物層の積層方向について薄く切った複数のスライスデータに変換する。その後、制御部260は、立体造形装置200における以下の動作の制御を行う。
【0078】
粉末供給部221は、制御部260から出力された供給情報に従って、モーターおよび駆動機構(いずれも不図示)を駆動し、供給ピストンを鉛直方向上方(図1の左側の矢印方向)に移動させ、前記造形ステージと水平方向同一平面上に、粉末材料を押し出す。
【0079】
その後、リコータ駆動部222は、制御部260から出力された薄層形成情報に従って水平方向(図中矢印方向)にリコータ222aを移動させて、粉末材料を造形ステージ210に運搬し、かつ、薄層の厚さが造形物層の1層分の厚さとなるように粉末材料を押圧する。
【0080】
予備加熱部230は、制御部260から出力された温度情報に従って形成された薄層の表面または装置内の全体を加熱する。予備加熱部230は、薄層が形成された後に加熱を開始してもよいし、薄層が形成される前から形成されるべき薄層の表面に該当する箇所または装置内の加熱を行っていてもよい。
【0081】
その後、流体塗布部300が、制御部260から出力された流体塗布情報に従って、各スライスデータにおける立体造形物を構成する領域の薄層上に結合用流体塗布部301から結合用流体を塗布する。一方、立体造形物を構成しない領域の薄層には、必要に応じて剥離用流体塗布部302から剥離用流体を塗布する。
【0082】
その後、赤外光照射部240が、制御部260から出力された赤外光照射情報に従って、薄層全体に赤外光を照射する。赤外光の照射によって結合用流体が塗布された領域の温度が部分的に大きく上昇し、粉末材料に含まれる熱可塑性樹脂が溶融する。これにより、造形物層が形成される。
【0083】
その後、ステージ支持部250は、制御部260から出力された位置制御情報に従って、モーターおよび駆動機構(いずれも不図示)を駆動し、造形ステージ210を、積層ピッチだけ鉛直方向下方(図中矢印方向)に移動する。
【0084】
表示部270は、必要に応じて、制御部260の制御を受けて、ユーザーに認識させるべき各種の情報やメッセージを表示する。操作部275は、ユーザーによる各種入力操作を受け付けて、その入力操作に応じた操作信号を制御部260に出力する。たとえば、形成される仮想の立体造形物を表示部270に表示して所望の形状が形成されるか否かを確認し、所望の形状が形成されない場合は、操作部275から修正を加えてもよい。
【0085】
制御部260は、必要に応じて、記憶部280へのデータの格納または記憶部280からのデータの引き出しを行う。
【0086】
これらの動作を繰り返すことで、造形物層が積層され、立体造形物が製造される。
【実施例
【0087】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0088】
1.原料の準備
以下の表1に示す材料を準備した。なお、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(シンパティック(SYMPATEC)社製、ヘロス(HELOS))で測定した平均粒子径(D50)が表2に記載の値になるよう、必要に応じて機械的粉砕法で樹脂微粒子を粉砕した。また、樹脂の表面張力は、クルス社製ペンダントドロップ式界面張力計 DSA25/DSAにより、溶融状態における表面張力を測定し、20℃の表面張力に外挿して求めた値である。
【0089】
【表1】
【0090】
2.粉末材料の調製
(参考例1、および比較例1、2)
上述のPA12、PP、またはPBTをそのまま粉末材料として用いた。
【0091】
(比較例3)
PP粒子900gを転動流動コーティング装置(株式会社パウレック製 MP-10)に投入し、給気温度50℃、層内静圧1.8kPa、排気静圧2.1kPa、ローター回転数400rpmの条件にて流動状態とした。その後、別途用意した100gのPEHMAをテトラヒドロフラン(THF)1000質量部に溶解させた溶液を、4g/minの速度でスプレーノズルより層内に投入し、スプレーノズルより溶液を噴霧することで、PP粒子(樹脂粒子)の周囲にPEHMA層(有機樹脂層)を有する粉末材料を得た。なお、このとき、樹脂粒子の表面積に対して、99%の領域を有機樹脂層が覆っていた。当該有機樹脂層の被覆割合は、多数の造形用粒子の断面を透過電子顕微鏡(TEM)で撮像し、任意に選択した10個の造形用粒子について、樹脂粒子の表面積と、有機樹脂層の被覆面積とを特定した。そして、各粒子について、有機樹脂層の被覆割合を算出し、これらの平均値を求めることで特定した。
【0092】
(比較例4および実施例1~3)
PEHMAを表2に示す樹脂に変更し、添加量を表2に示す値に合わせて変更した以外は、比較例3と同様の操作を行うことにより、粉末材料を得た。
【0093】
(実施例4~6)
PP粒子の代わりに、PBT粒子を用い、PEHMAを表2に示す樹脂に変更し、添加量を表2に示す値に合わせて変更した以外は、比較例3と同様の操作を行うことにより、粉末材料を得た。
【0094】
3.立体造形物の作製
上記参考例1、実施例1~6、および比較例1~4で作製した粉末材料を、ホットプレート上に設置した造形ステージ上に敷き詰めて厚さ0.1mmの薄層を形成し、160℃に予備加熱を行った。この薄層に、ISO527-2-1BAの試験片形状(最大長さ:75mm、最大幅:10mm)に結合用流体をインクジェット法にて塗布した。結合用流体は、トリエチレングリコール15質量部と、赤外光吸収剤(カーボンブラック(キャボット社製Mogul-L))5質量部、水80質量部とを含むものを用いた。結合用流体の塗布量は、1mm当たり、30μLとした。次いで、当該結合用流体を塗布した以外の領域に剥離用流体をインクジェット法にて塗布した。剥離用流体は、トリエチレングリコール15質量部と、水85質量部とを含むものを用いた。また、剥離用流体の塗布量は、1mm当たり、30μLとした。その後、薄層に赤外ランプから赤外光を照射して、結合用流体を塗布した領域の表面温度が220℃になるまで加熱した。これにより、結合用流体を塗布した領域の粉末材料が溶融結合し、造形物層が作製された。そして、当該工程を10回繰り返し、造形物層が10層積層された立体造形物を製造した。
【0095】
4.評価
各立体造形物について、精度および強度を以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0096】
(立体造形物における精度の評価)
各立体造形物について、デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製、スーパキャリパCD67-S PS/PM、「スーパキャリパ」は同社の登録商標)で長さ方向の寸法を測定した。製造しようとした寸法(最大長さ75mm)と、作製した立体造形物の寸法との差を平均して、造形精度のずれとした。このとき、評価は以下の基準で行った。
◎:基準長75mmに対して誤差±0.05mm未満
〇:基準長75mmに対して誤差±0.05mm以上~±0.15mm未満
△:基準長75mmに対して誤差±0.15mm以上~±0.3mm未満
×:基準長75mmに対して誤差±0.3mm以上
【0097】
(立体造形物における強度評価)
上記方法で作製した立体造形物、および同様の形状に作製した射出成形品について、インスロン社製万能試験機model-5582を用い、引張速度1mm/min、掴み具距離60mm、試験温度23℃の条件にて引張強度を測定した。射出成形品の強度を基準として、得られた立体造形物の強度を以下の基準で評価した。
◎:射出成形品の引張強度に対して90%以上
○:射出成形品の引張強度に対して80%以上90%未満
×:射出成形品の引張強度に対して80%未満
【0098】
【表2】
【0099】
上記表2に示されるように、樹脂粒子のみからなる粉末材料では、強度や寸法精度が十分に高まらなかった(比較例1、および2)。樹脂粒子の表面張力が低過ぎる場合、強度や寸法精度が低かった(比較例1)。この場合、結合用流体が十分に濡れ広がらず、エネルギー吸収剤に濃度ムラが生じたと考えられる。その結果、粉末材料の溶融状態が不均一になり、強度が低くなったと考えられる。またさらに、エネルギー吸収剤に濃度ムラが生じたことで、結合力の弱い箇所が生じ、これが寸法安定性に影響を与えたと考えられる。
【0100】
一方、樹脂粒子を構成する樹脂の表面張力が高すぎる場合にも、強度や寸法精度が低かった(比較例2)。結合用流体を塗布した際に濡れ広がりすぎてしまい、非硬化領域にも、エネルギー吸収剤が広がってしまったと考えられる。またこの場合、非硬化領域にもエネルギー吸収剤が広がったことで、硬化領域におけるエネルギー吸収剤の量が不十分となり、硬化領域の樹脂粒子どうしの溶融結合が不十分となり、強度が低くなったと考えられる。
【0101】
これに対し、樹脂粒子の周囲に表面張力が30mN/m~45mN/mである有機樹脂を含む有機樹脂層が配置されていると、樹脂粒子の種類に関わらず、得られた立体造形物の強度が高く、その精度も良好であった(実施例1~6)。上記有機樹脂を含む有機樹脂層が配置されている場合、結合用流体の濡れ広がりが、主に有機樹脂層の濡れ性に依存する。そして、上記有機樹脂層が配置されている場合、所望の領域にのみ均一に結合用流体を濡れ広がらせることができ、ひいては当該領域にエネルギー吸収剤を均一に分散させることができる。したがって、エネルギーを照射した際に、樹脂粒子の溶融結合状態に偏りが少なく、立体造形物の強度が高まったり、造形精度が高まったと考えられる。
【0102】
なお、樹脂粒子の周囲に有機樹脂層が配置されている場合であっても、その表面張力が高すぎたり低すぎたりすると(比較例3および4)、得られる立体造形物の寸法精度や強度が十分に高まらなかった。なお、樹脂粒子がポリアミド12である場合には、ポリアミド12自体の結合用流体や剥離用流体に対する濡れ性が良好であることから、有機樹脂層を形成しなくても、良好な結果が得られた(参考例1)。
【0103】
本出願は、2017年12月13日出願の特願2017-238751号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の粉末材料は、水系溶媒に対する濡れ性が高く、結合用流体および剥離用流体を塗布して立体造形物を作製する方法に適用可能である。したがって、本発明は、立体造形法のさらなる普及に寄与するものと思われる。
【符号の説明】
【0105】
200 立体造形装置
210 造形ステージ
220 薄層形成部
221 粉末供給部
222 リコータ駆動部
222a リコータ
230 予備加熱部
231 第1のヒータ
232 第2のヒータ
235 温度測定器
240 赤外光照射部
250 ステージ支持部
260 制御部
270 表示部
275 操作部
280 記憶部
285 データ入力部
290 ベース
300 流体塗布部
301 結合用流体塗布部
302 剥離用流体塗布部
310 コンピュータ装置

図1
図2