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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】濾過フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20220726BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20220726BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20220726BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220726BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B01D39/20 A
C12M3/06
C12M1/26
G03F7/20 501
C22C5/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020565677
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050159
(87)【国際公開番号】W WO2020145096
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2019000490
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】萬壽 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝志
(72)【発明者】
【氏名】横田 秀輔
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527481(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162810(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/012315(WO,A1)
【文献】特開昭60-106993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
C12M 3/06
C12M 1/26
G03F 7/20
C22C 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と、
前記表層より内部側に形成される母材と、
前記表層と前記母材との間に形成される中間層と、
を備え、
前記表層は、Pdを主成分とし、
前記母材は、PdとNiとの成分比率が所定の割合であるPdNi合金を主成分とし、
前記中間層は、前記表層側から前記母材側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とし、
前記表層、前記中間層、前記母材の順に、Pdに対するNiの割合が大きくなっていく、濾過フィルタ。
【請求項2】
前記中間層におけるPdに対するNiの割合は、前記表層側から前記母材側に向かって増加している、請求項1に記載の濾過フィルタ。
【請求項3】
前記中間層の厚さは、前記表層の厚さより大きい、請求項1又は2に記載の濾過フィルタ。
【請求項4】
前記中間層は、前記濾過フィルタの表面からの深さ10nmより大きく35nm以下の領域に形成される、請求項3に記載の濾過フィルタ。
【請求項5】
前記母材におけるPdとNiとの成分比率は80:20であり、
前記中間層におけるPdとNiとの成分比率は100:0以上80:20以下の範囲で変化する、請求項1~4のいずれか一項に記載の濾過フィルタ。
【請求項6】
前記母材におけるPdとNiとの成分比率は75:25以上85:15以下であり、
前記中間層におけるPdとNiとの成分比率は100:0以上75:25以下の範囲で変化する、請求項1~4のいずれか一項に記載の濾過フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
濾過フィルタとして、例えば、特許文献1に記載の生体物質捕獲用のフィルタが知られている。特許文献1に記載のフィルタは、金以外の金属で作製された生体物質捕獲用のフィルタの表面に金めっきが施されており、金めっきが無電解金めっきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-88932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のフィルタでは、腐食耐性を向上させるという点で未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、腐食耐性を向上させることができる濾過フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の濾過フィルタは、
表層と、
前記表層より内部側に形成される母材と、
前記表層と前記母材との間に形成される中間層と、
を備え、
前記表層は、Pdを主成分とし、
前記母材は、PdNi合金を主成分とし、
前記中間層は、前記表層側から前記母材側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、腐食耐性を向上させることができる濾過フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの一例の一部の概略斜視図である。
図2図1の濾過フィルタの一部を厚み方向から見た概略図である。
図3】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの構成の一例の一部を示す模式図である。
図4A】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図4B】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図4C】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図4D】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図4E】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図4F】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図4G】本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタの製造工程の一例を示す図である。
図5】実施例1のフィルタ基体部の深さ方向に対するPdとNiの成分比率を示す分析データである。
図6】実施例1のフィルタ基体部の表層の成分分析結果を示す表である。
図7】実施例2のフィルタ基体部の表層の成分分析結果を示す表である。
図8】実施例3におけるNiの溶出濃度の分析結果を示す図である。
図9】実施例3におけるPdの溶出濃度の分析結果を示す図である。
図10】実施例4におけるNiの溶出濃度の分析結果を示す図である。
図11】実施例4におけるPdの溶出濃度の分析結果を示す図である。
図12】実施例5におけるPd濃度比に対するめっき膜のPd濃度比との関係の一例を示す図である。
図13】実施例5における各組成比におけるPdNiめっき膜の表層のNi成分の分析結果を示す図である。
図14】実施例6におけるNiの溶出濃度の分析結果を示す図である。
図15】実施例7における濾過フィルタの表層のNi成分の分析結果を示す図である。
図16A】実施例8におけるサンプルA1のEDXマッピングを示す図である。
図16B】実施例8におけるサンプルA2のEDXマッピングを示す図である。
図17】比較例1の濾過フィルタの構成の一例の一部を示す模式図である。
図18】本発明に係る実施の形態2のメッシュの一例の概略部分断面図である。
図19A】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19B】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19C】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19D】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19E】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19F】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19G】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19H】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19I】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19J】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
図19K】本発明に係る実施の形態2のメッシュの製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明に至った経緯)
濾過フィルタにおいて、生体物質を捕獲するための濾過フィルタが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような濾過フィルタにおいては、めっきなどを行うことによって卑金属で形成される母材の表面を貴金属でコーティングし、卑金属の母材の表面に貴金属の表層を形成している。これにより、濾過フィルタが生理食塩水などの電解質溶液に接触したときに、母材が溶解することを抑制している。
【0010】
しかしながら、このような濾過フィルタにおいては、母材をコーティングしている表層に欠陥が生じる場合がある。例えば、母材の表面に不純物が付着している場合、あるいは母材表面の表面粗さが大きい場合に当該箇所にコーティング材料が付着せず、母材表面を露出させ得る欠陥が発生することがある。この場合、電解質溶液が表層の欠陥を通じて母材に接触してしまい、欠陥から母材が溶出するという問題がある。
【0011】
また、貴金属で母材をコーティングする場合、貴金属の表層が卑金属の母材の表面に積層されるように形成される。このため、貴金属の表層と卑金属の母材との間には、連続して繋がった界面が形成される。
【0012】
本発明者らは、表層の欠陥を通じて濾過フィルタの内部に電解質溶液が流入した場合、表層と母材とが電解質溶液を介して接触することによって表層と母材との界面に局部電池が形成され、母材が腐食されるという課題を新たに見出した。
【0013】
より詳細に説明すると、卑金属の母材を貴金属でコーティングした濾過フィルタを、電解質溶液に接触させる場合、表層の欠陥から濾過フィルタ内部に電解質溶液が流入し、表層と母材との界面に電解質溶液が接触することがある。これにより、貴金属の表層と、卑金属の母材と、表層と母材の界面に接触した電解質溶液とで局部電池が形成される。その結果、卑金属の母材表面でアノード反応が生じ、母材が腐食される。また、連続して繋がった界面では、表層の欠陥から流入してきた電解質溶液と接触しやすく、腐食が生じやすい。更に、連続して繋がった界面においては、母材の一部で腐食が生じた場合、腐食が母材全体に広がりやすい。
【0014】
これらの問題から、濾過フィルタの腐食耐性を向上させることが困難である。そこで、本発明者らは、Pdを主成分とする表層と、PdNi合金を主成分とする母材との間に、PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする中間層を設けた濾過フィルタを見出し、以下の発明に至った。
【0015】
本発明の一態様の濾過フィルタは、
表層と、
前記表層より内部側に形成される母材と、
前記表層と前記母材との間に形成される中間層と、
を備え、
前記表層は、Pdを主成分とし、
前記母材は、PdNi合金を主成分とし、
前記中間層は、前記表層側から前記母材側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。
【0016】
このような構成により、腐食耐性を向上させることができる。
【0017】
前記中間層におけるPdに対するNiの割合は、前記濾過フィルタの深さ方向に向かって増加していてもよい。
【0018】
このような構成により、腐食耐性を更に向上させることができる。
【0019】
前記中間層の厚さは、前記表層の厚さより大きくてもよい。
【0020】
このような構成により、腐食耐性を更に向上させることができる。
【0021】
前記中間層は、前記濾過フィルタの表面からの深さ10nmより大きく35nm以下の領域に形成されていてもよい。
【0022】
このような構成により、腐食耐性を更に向上させることができる。
【0023】
前記母材におけるPdとNiとの成分比率は80:20であり、
前記中間層におけるPdとNiとの成分比率は100:0以上80:20以下の範囲で変化してもよい。
【0024】
このような構成により、腐食耐性を更に向上させることができる。
【0025】
前記母材におけるPdとNiとの成分比率は75:25以上85:15以下であり、
前記中間層におけるPdとNiとの成分比率は100:0以上75:25以下の範囲で変化してもよい。
【0026】
このような構成により、腐食耐性を更に向上させることができる。
【0027】
以下、本発明に係る実施の形態1について、添付の図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0028】
(実施の形態1)
[全体構成]
図1は、本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタ10の一例の一部の概略斜視図である。図2は、図1の濾過フィルタ10の一部を厚み方向から見た概略図である。図中のX、Y、Z方向は、それぞれ濾過フィルタ10の縦方向、横方向、厚み方向を示している。なお、図1及び2は、濾過フィルタ10の一部を拡大して示している。
【0029】
図1及び図2に示すように、濾過フィルタ10は、複数の貫通孔11を有するフィルタ基体部12を備える。濾過フィルタ10は、液体に含まれる濾過対象物が捕捉される第1主面PS1と、第1主面PS1に対向する第2主面PS2とを有する板状構造体である。
【0030】
本明細書において、「濾過対象物」とは、液体に含まれる対象物のうち濾過されるべき対象物を意味している。例えば、濾過対象物は、液体に含まれる生物由来物質であってもよい。「生物由来物質」とは、細胞(真核生物)、細菌(真性細菌)、ウィルス等の生物に由来する物質を意味する。細胞(真核生物)としては、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ES細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、単核球細胞、単細胞、細胞塊、浮遊性細胞、接着性細胞、神経細胞、白血球、再生医療用細胞、自己細胞、がん細胞、血中循環がん細胞(CTC)、HL-60、HELA、菌類を含む。細菌(真性細菌)としては、例えば、大腸菌、結核菌を含む。「液体」とは、例えば、電解質溶液、細胞懸濁液、細胞培養培地、などである。
【0031】
複数の貫通孔11は、フィルタ基体部12において、濾過フィルタ10の第1主面PS1及び第2主面PS2上に周期的に配置されている。具体的には、複数の貫通孔11は、フィルタ基体部12においてマトリクス状に等間隔で設けられている。
【0032】
実施の形態1では、貫通孔11は、濾過フィルタ10の第1主面PS1側、即ちZ方向から見て、正方形の形状を有する。なお、貫通孔11は、濾過フィルタ10の厚み方向(Z方向)から見た形状が正方形に限定されず、例えば長方形、多角形、円形、又は楕円などの形状であってもよい。
【0033】
実施の形態1では、濾過フィルタ10の第1主面PS1に対して垂直な面に投影した貫通孔11の形状(断面形状)は、長方形である。具体的には、濾過フィルタ10の縦方向(X方向)及び横方向(Y方向の)における貫通孔11の一辺の長さは、濾過フィルタ10の厚み方向(Z方向)における貫通孔11の深さよりも長い。なお、貫通孔11の断面形状は、長方形に限定されず、例えば、平行四辺形又は台形等のテーパー形状であってもよいし、対称形状であってもよいし、非対称形状であってもよい。
【0034】
実施の形態1では、複数の貫通孔11は、濾過フィルタ10の第1主面PS1側(Z方向)から見て正方形の各辺と平行な2つの配列方向、即ち図1中のX方向とY方向に等しい間隔で設けられている。このように、複数の貫通孔11を正方格子配列で設けることによって、開口率を高めることが可能であり、濾過フィルタ10に対する液体の通過抵抗を低減することができる。このような構成により、濾過の時間を短くし、濾過対象物へのストレスを低減することができる。
【0035】
なお、複数の貫通孔11の配列は、正方格子配列に限定されず、例えば、準周期配列、又は周期配列であってもよい。周期配列の例としては、方形配列であれば、2つの配列方向の間隔が等しくない長方形配列でもよく、三角格子配列又は正三角格子配列などであってもよい。なお、貫通孔11は、フィルタ基体部12に複数設けられていればよく、配列は限定されない。
【0036】
複数の貫通孔11の間隔bは、濾過対象物である細胞の種類(大きさ、形態、性質、弾性)又は量に応じて適宜設計されるものである。ここで、貫通孔11の間隔bとは、図2に示すように、貫通孔11を濾過フィルタ10の第1主面PS1側から見て、任意の貫通孔11の中心と隣接する貫通孔11の中心との距離を意味する。周期配列の構造体の場合、貫通孔11の間隔bは、例えば、貫通孔11の一辺dの1倍より大きく10倍以下であり、好ましくは貫通孔11の一辺dの3倍以下である。あるいは、例えば、濾過フィルタ10の開口率は、10%以上であり、好ましくは開口率は、25%以上である。このような構成により、濾過フィルタ10に対する液体の通過抵抗を低減することができる。そのため、処理時間を短くすることができ、細胞へのストレスを低減することができる。なお、開口率とは、(貫通孔11が占める面積)/(貫通孔11が空いていないと仮定したときの第1主面PS1の投影面積)で計算される。
【0037】
濾過フィルタ10の厚みは、貫通孔11の大きさ(一辺d)の0.1倍より大きく100倍以下が好ましい。より好ましくは、濾過フィルタ10の厚みは、貫通孔11の大きさ(一辺d)の0.5倍より大きく10倍以下である。このような構成により、液体に対する濾過フィルタ10の抵抗を低減することができ、濾過の時間を短くすることができる。その結果、濾過対象物へのストレスを低減することができる。
【0038】
濾過フィルタ10において、濾過対象物を含む液体が接触する第1主面PS1は、表面粗さが小さいことが好ましい。ここで、表面粗さとは、第1主面PS1の任意の5箇所において触針式段差計で測定された最大値と最小値の差の平均値を意味する。実施の形態1では、表面粗さは、濾過対象物の大きさより小さいことが好ましく、濾過対象物の大きさの半分より小さいことがより好ましい。言い換えると、濾過フィルタ10の第1主面PS1上の複数の貫通孔11の開口が同一平面(XY平面)上に形成されている。また、貫通孔11が形成されていない部分であるフィルタ基体部12は、繋がっており、一体に形成されている。このような構成により、濾過フィルタ10の表面(第1主面PS1)への濾過対象物の付着が低減され、液体の抵抗を低減することができる。
【0039】
貫通孔11は、第1主面PS1側の開口と第2主面PS2側の開口とが連続した壁面を通じて連通している。具体的には、貫通孔11は、第1主面PS1側の開口が第2主面PS2側の開口に投影可能に設けられている。即ち、濾過フィルタ10を第1主面PS1側から見た場合に、貫通孔11は、第1主面PS1側の開口が第2主面PS2側の開口と重なるように設けられている。実施の形態1において、貫通孔11は、その内壁が第1主面PS1及び第2主面PS2に対して垂直となるように設けられている。
【0040】
図3は、本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタ10の構成の一例の一部を示す模式図である。図3は、フィルタ基体部12の構成の一例の一部について例示している。図3に示すように、フィルタ基体部12は、表層21と、表層21より内部側に形成される母材22と、表層21と母材22との間に形成される中間層23と、を備える。表層21は、Pdを主成分とする。母材22は、PdNi合金を主成分とする。中間層23は、表層21側から母材22側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。
【0041】
表層21において「Pdを主成分とする」とは、表層21に占めるPdの原子数の割合が90%より多いことを意味する。母材22において「PdNi合金を主成分とする」とは、母材22に占めるPdの原子数の割合が70%以上であることを意味する。中間層23において「PdNi合金を主成分とする」とは、中間層23に占めるPdの原子数の割合が50%以上であることを意味する。
【0042】
「PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金」とは、濾過フィルタ10の深さ方向D1に向かって、Pdの成分量及びNiの成分量が段階的に又は連続的に変化するように構成されているPdNi合金を意味する。例えば、PdとNiとの成分比率が変化していることを分析する方法としては、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次元イオン質量分析法)が用いられる。SIMSを用いて濾過フィルタ10の表面から深さ方向D1に所定のピッチで成分分析を行うことによって、PdとNiの成分比率を確認することができる。
【0043】
表層21は、Pd以外の成分を含んでもよい。表層21は、例えば、Au、Pt、Fe、Cu、Ti,C、およびこれらの酸化物などを含んでもよい。母材22及び中間層23は、PdNi以外の成分を含んでもよい。母材22及び中間層23は、例えば、Au、Pt、Fe、Cu、Ti,Co、Mo、C、およびこれらの酸化物などを含んでもよい。
【0044】
表層21は、濾過フィルタ10の表面の層である。表層21は、中間層23を介して母材22を覆っている。表層21は、Pdを主成分とし、Niを含んでいない。即ち、表層21において、PdとNiの成分比率は100:0である。
【0045】
母材22は、濾過フィルタ10の主要材料であり、中間層23を介して表層21に覆われている。母材22は、PdとNiとの成分比率が一定であるPdNi合金を主成分とする。母材22の厚みは、表層21及び中間層23よりも大きい。母材22におけるPdとNiとの成分比率は75:25以上85:15以下である。実施の形態1において、母材22を形成するPdNi合金のPdとNiとの成分比率は80:20である。
【0046】
中間層23は、表層21と母材22との間に形成される層である。中間層23は、PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。中間層23において、PdとNiとの成分比率は、濾過フィルタ10の深さ方向D1に向かって変化している。具体的には、中間層23において、PdNi合金のPdに対するNiの割合は、表層21から母材22に向かって増加している。中間層23におけるPdとNiとの成分比率は100:0以上75:25以下の範囲で変化する。実施の形態1において、中間層23を形成するPdとNiとの成分比率は、濾過フィルタ10の深さ方向D1に向かって100:0から80:20まで変化する。
【0047】
また、中間層23においては、Niが分散している。このため、中間層23においては、PdとNiとの界面が連続して繋がって形成されず、分散して形成されている。
【0048】
また、中間層23の厚みは、表層21の厚みより大きい。これにより、PdとNiとの界面が濾過フィルタ10の厚み方向(Z方向)に分散されやすくなる。その結果、PdとNiとの界面における腐食を抑制することができる。
【0049】
[製造方法の一例]
濾過フィルタ10の製造方法の一例について図4A~4Gを用いて説明する。図4A~4Gは、本発明に係る実施の形態1の濾過フィルタ10の製造工程の一例を示す。
【0050】
図4Aに示すように、シリコンなどの基板31を準備する。基板31は、例えば、表面洗浄されていてもよい。
【0051】
図4Bに示すように、基板31上に厚さ500nmのCu膜32を形成する。例えば、Cu膜32は、スパッタ成膜装置によりスパッタリングすることによって形成される。あるいは、Cu膜32は、蒸着装置により蒸着することによって形成されてもよい。このとき、基板31とCu膜32との接着性を向上させるために、基板31とCu膜32との間に厚さ50nmのTi膜を形成してもよい。
【0052】
図4Cに示すように、Cu膜32上にレジストを塗布し、乾燥させることで厚さ2μmのレジスト膜33を形成する。例えば、Cu膜32上にスピンコーターを用いて感光性ポジ型液体レジスト(住友化学株式会社製:Pfi-3A)を塗布する。なお、スピンコーターの条件は、例えば、1140rpm、30secである。次に、ホットプレートを用いてレジストを加熱乾燥して、厚さ2.0μmのレジスト膜33を形成する。なお、ホットプレートの条件は、例えば、加熱温度90℃、加熱時間90秒である。
【0053】
図4Dに示すように、レジスト膜33を露光および現像処理し、フィルタ基体部12に相当する箇所のレジスト膜33を除去する。例えば、露光機にはi線ステッパー(Canon製Pfi-37A)を使用する。現像はパドル現像装置を使用して行われる。現像液はTMAH(Tetramethylammonium hydroxide)を使用する。露光および現像処理した後、水洗及び乾燥処理を行う。
【0054】
図4Eに示すように、電解めっき装置を用いて、PdNiめっき浴を行うことによって電解めっきを行う。これにより、レジスト膜33を除去した部分にPdNiめっき膜34を形成する。なお、電解めっきの条件は、例えば、電流密度は1A/dm 、電気量は4AM、めっき液のpHは7.5、めっき厚みは1.6μmである。
【0055】
図4Fに示すように、高圧スプレー処理が可能なレジスト剥離装置を用い、剥離液NMP(N-methyl-2-pyrrolidone)でレジスト膜33を剥離する。その後、PdNiめっき膜34をIPA(Isopropyl alcohol)洗浄及び水洗処理し、乾燥させる。
【0056】
図4Gに示すように、エッチング液兼PdNiめっき膜34の表層Ni溶解除去液として酢酸過水(酢酸:過酸化水素:水=5:5:90、室温)を調し、スターラーを攪拌させながら48時間浸漬処理してCu膜32をエッチング除去する。これにより、基板31からPdNiめっき膜34を剥離すると共に、PdNiめっき膜34の表層のNiを溶解することによって、フィルタ基体部12を作製する。
【0057】
PdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬処理することによって、PdNiめっき膜34の表面から内部に向かってNiを徐々に溶解することができる。PdNiめっき膜34の表面付近においてはPdNiめっき膜34のNiが酢酸過水に接触しやすいため、Niが溶解しやすい。一方、PdNiめっき膜34の内部に向かうほど、PdNiめっき膜34のNiが酢酸過水に接触しにくくなり、Niが溶解しにくくなる。即ち、PdNiめっき膜34の表面から内部に向かって、Niの溶解量が徐々に少なくなる。
【0058】
このように、フィルタ基体部12の表面付近では、酢酸過水によってNiが溶解され、Pdを主成分とする表層21が形成される。また、フィルタ基体部12の表層21から深さ方向D1に向かって、酢酸過水によるNiの溶解量が徐々に少なくなり、PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする中間層23が形成される。そして、酢酸過水によってNiが溶解しなかったPdNiめっき膜34が母材22となる。
【0059】
このようにして、Pdを主成分とする表層21と、PdNi合金を主成分とする母材22と、表層21と母材22との間に形成され、PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする中間層23とを備える濾過フィルタ10を作製することができる。
【0060】
[実施例1]
実施例1について説明する。実施例1においては、上述した製造方法で製造したフィルタ基体部12の一部を測定試料として用い、フィルタ基体部12の深さ方向D1に対するPdとNiの成分比率を分析した。なお、実施例1においては、PdとNiとの成分比率が80:20のPdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬処理することによって、フィルタ基体部12を作製した。
【0061】
分析には、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次元イオン質量分析法)を用いた。分析条件を以下に示す。
【0062】
(分析条件)
測定装置:PHI ADEPT1010(四重極型二次イオン質量分析装置) アルバック・ファイ株式会社製
一次イオン種 : Cs
一次加速電圧 : 5.0kV
検出領域 : 75μm×75μm
分析元素 : Pd、Ni
【0063】
分析においては、一次イオンをフィルタ基体部12の外面に照射し、測定装置によって最初の金属情報が検出された時点を表面とし、深さ0nmとした。したがって、実施例1では、深さ0nmの面をフィルタ基体部12の表面と定義する。
【0064】
図5は、実施例1のフィルタ基体部12の深さ方向D1に対するPdとNiの成分比率を示す分析データである。図5に示すように、実施例1において、表層21は、フィルタ基体部12の表面からの深さ0nm以上10nm以下の領域に形成されている。即ち、表層21の厚さは、10nmである。表層21においては、Pdの成分が100%であり、Niの成分が0%である。即ち、表層21においては、PdとNiとの成分比率は100:0となっている。
【0065】
中間層23は、フィルタ基体部12の表面からの深さ10nmより大きく30nm以下の領域に形成されている。より好ましくは、中間層23は、濾過フィルタ10の表面からの深さ20nm以上30nm以下の領域に形成される。即ち、中間層23の厚さは、10nm以上20nm以下である。中間層23においては、Pdの成分が100%から80%に減少し、Niの成分が0%から20%に増大している。即ち、中間層23においては、PdとNiとの成分比率が100:0以上80:20以下の範囲で変化している。
【0066】
なお、実施例1では、中間層23は、フィルタ基体部12の表面からの深さ10nmより大きく30nm以下の領域に形成されている例について説明したが、中間層23の形成される領域は実施例1に限定されない。中間層23は、少なくとも濾過フィルタ10の表面からの深さ20nm以上30nm以下の領域に形成されていればよい。例えば、中間層23は、フィルタ基体部12の表面からの深さ10nmより大きく40nm以下の領域に形成されていてもよい。あるいは、中間層23は、フィルタ基体部12の表面からの深さ10nmより大きく35nm以下の領域に形成されていてもよい。
【0067】
このように、中間層23におけるPdNi合金のPdに対するNiの割合は、濾過フィルタ10の深さ方向D1に向かって増加している。即ち、中間層23におけるPdNi合金のPdに対するNiの割合は、表層21側から母材22側に向かって増加している。
【0068】
母材22は、フィルタ基体部12の表面からの深さ30nmより大きい領域に形成されている。母材22においては、Pdの成分が80%であり、Niの成分が20%である。母材22においては、PdとNiとの成分比率は80:20で一定となっている。
【0069】
次に、実施例1において、フィルタ基体部12の表面の成分分析を行った。なお、分析は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)によって行った。分析条件として、酢酸過水に浸漬する前(図4F参照)のPdNiめっき膜34の表面と、酢酸過水に浸漬した後(図4G参照)のフィルタ基体部12の表面と、を分析した。
【0070】
図6は、実施例1のフィルタ基体部12の表面の成分分析結果を示す表である。図6に示すように、実施例1では、酢酸過水に浸漬する前のPdNiめっき膜34の表面において、Niの成分が7%であり、Pdの成分が93%である。
【0071】
実施例1では、PdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬してフィルタ基体部12を形成すると、フィルタ基体部12の表面において、Niの成分が0%となり、Pdの成分が100%となっている。
【0072】
実施例1の分析結果からわかるように、PdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬処理することによって、PdNiめっき膜34の表層のNiを除去することができる。これにより、Pdを主成分とする表層21を有するフィルタ基体部12を作製することができた。
【0073】
[実施例2]
実施例2として、実施例1とはPdとNiの成分比率が異なる条件で、フィルタ基体部12の成分分析を行った。実施例2では、PdとNiの成分比率が50:50のPdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬処理することによって、フィルタ基体部12を作製した。なお、実施例2の分析方法及び分析条件は、実施例1と同様である。
【0074】
図7は、実施例2のフィルタ基体部12の表面の成分分析結果を示す表である。図7に示すように、実施例2では、酢酸過水に浸漬する前のPdNiめっき膜34の表面において、Niの成分が11%であり、Pdの成分が89%である。
【0075】
実施例2においても、PdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬してフィルタ基体部12を形成すると、フィルタ基体部12の表面において、Niの成分が0%となり、Pdの成分が100%となっている。
【0076】
実施例2の分析結果においても、PdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬処理することによって、PdNiめっき膜34の表層のNiを除去し、Pdを主成分とする表層21を有するフィルタ基体部12を作製することができた。
【0077】
[実施例3]
実施例3について説明する。実施例3においては、上述した製造方法においてPdNiめっき浴用のめっき液のpH値を変化させて濾過フィルタ10を製造した。なお、めっき液のpH値は、7.2、7.5、7.9とした。実施例3においては、製造した濾過フィルタ10に対して、溶出試験を行った。溶出試験は、濾過フィルタ10の表面積1cmの部分をPBS10mlに浸漬し、37℃に保った状態で、インキュベータ内で1週間保管した。そして、ICP-MS(アジレント・テクノロジー社製)を用いてPd及びNiの溶出濃度を分析した。なお、ICP-MSのPd及びNiの検出下限値は、0.005μg/mlである。
【0078】
図8は、実施例3におけるNiの溶出濃度の分析結果を示す図である。図9は、実施例3におけるPdの溶出濃度の分析結果を示す図である。図8及び図9に示すように、Pdの溶出濃度及びNiの溶出濃度は、ICP-MSのPd及びNiの検出下限値より小さかった。このことから、実施例3においては、Pd及びNiが溶出していないことがわかる。
【0079】
好ましくは、めっき液のpH値は、7.0以上8.5以下である。より好ましくは、めっき液のpH値は、7.2以上7.9以下である。
【0080】
[実施例4]
実施例4について説明する。実施例4においては、上述した製造方法においてPdNiめっき浴を行う際の電流密度を変化させて濾過フィルタ10を製造した。なお、電流密度は、2.9[A/dm]以上14.5[A/dm]以下とした。実施例4においては、製造した濾過フィルタ10に対して、溶出試験を行った。溶出試験は、濾過フィルタ10の表面積1cmの部分をPBS10mlに浸漬し、37℃に保った状態で、インキュベータ内で1週間保管した。そして、実施例3と同様に、ICP-MS(アジレント・テクノロジー社製)を用いてPd及びNiの溶出濃度を分析した。
【0081】
図10は、実施例4におけるNiの溶出濃度の分析結果を示す図である。図11は、実施例4におけるPdの溶出濃度の分析結果を示す図である。図10及び図11に示すように、Pdの溶出濃度及びNiの溶出濃度は、ICP-MSのPd及びNiの検出下限値より小さかった。このことから、実施例4においては、Pd及びNiが溶出していないことがわかる。
【0082】
好ましくは、電流密度は、0.5[A/dm]以上30[A/dm]以下である。より好ましくは、電流密度は、2.9[A/dm]以上14.5[A/dm]以下である。
【0083】
[実施例5]
実施例5について説明する。実施例5においては、上述した製造方法においてPdNiめっき浴中のPdとNiの濃度比を変化させてPdNiめっき膜34を形成した。実施例5において、Pd濃度比は、52%以上80%以下で変化させた。Pd濃度比は、Pd/(Pd+Ni)の式で算出される。また、Ni濃度比は、Ni/(Pd+Ni)の式で算出される。実施例5においては、めっき浴中にPd濃度比を変化させることによるPdNiめっき膜34の組成に与える影響を調べるため、Pd濃度比を変化させて形成したPdNiめっき膜34のPd濃度比を分析した。
【0084】
図12は、実施例5におけるPd濃度比に対するめっき膜34のPd濃度比との関係の一例を示す図である。図12に示すように、PdNiめっき膜34を形成する際に、めっき浴中のPdとNiの濃度比を制御することによって、PdNiめっき膜34の組成比を変化させることができている。
【0085】
実施例5においては、図12に示すPd濃度比で形成したPdNiめっき34のそれぞれについて、XPSを用いて表層の成分分析を行った。図13は、実施例5における各組成比におけるPdNiめっき膜34の表層のNi成分の分析結果を示す図である。なお、図13に示すNDは、XPSの検出下限値以下であることを示す。
【0086】
図13に示すように、Pd:Niの組成比が、52:48、58:42、66:34、68:32、及び80:20であるとき、PdNiめっき膜34の表層のNi比率はND以下であった。このことから、実施例5においては、PdNiめっき膜34の表層にNiが検出されていないことがわかる。
【0087】
[実施例6]
実施例6について説明する。実施例6においては、上述した製造方法においてPdNiめっき膜34の表面粗さRaを変化させて濾過フィルタ10を製造した。なお、表面粗さRaは、PdNiめっき浴を行う際のめっき液のpH値、電流密度、基板素地、膜厚条件を調することによって、変化させた。実施例6においては、表面粗さRaは、0.02、0.94及び1.98μmとした。実施例6においては、製造した濾過フィルタ10に対して、溶出試験を行った。溶出試験は、濾過フィルタ10の表面積1cmの部分をPBS10mlに浸漬し、37℃に保った状態で、インキュベータ内で1週間保管した。そして、実施例3及び4と同様に、ICP-MS(アジレント・テクノロジー社製)を用いてNiの溶出濃度を分析した。
【0088】
図14は、実施例6におけるNiの溶出濃度の分析結果を示す図である。図14に示すように、Niの溶出濃度は、ICP-MSのNiの検出下限値より小さかった。このことから、実施例6においては、Niが溶出していないことがわかる。
【0089】
好ましくは、表面粗さRaは、2.5μm以下である。より好ましくは、表面粗さRaは、1.98μm以下である。
【0090】
PdNiめっき膜34は酢酸過水に浸漬することで表層のNiが溶けて消失し、結果的に表層21がPdリッチとなる。この状態のPdNiめっき膜34を使用して溶出試験を行うと、Niの溶出濃度は検出下限値(0.01μg/ml)以下となる。表面粗さRaが2.5μm以下の場合、酢酸過水の浸漬でPdNiめっき膜34の表面に十分な酢酸過水による液交換が行われるので、表層21においてNiは完全に消失しPdリッチとなる。も表面粗さRaが2.5μmより大きい場合、表層21の微細凹凸部の一部に酢酸過水が十分に行き渡らない箇所、即ち液の交換が生じ難い箇所が生じる。当該箇所は表層21のNiが消失しにくく、Pdリッチになりにくいことが想定される。この状態のPdNiめっき膜34に溶出試験を施すと、表層21に一部残った状態のNiが溶出することで、Ni濃度の上昇が生じたと考えられる。
【0091】
[実施例7]
実施例7について説明する。実施例7においては、上述した製造方法においてPdNiめっき膜34を酢酸過水に浸漬する時間を変化させて濾過フィルタ10を製造した。実施例7におけるPdNiめっき膜34におけるPd:Niの組成比は、9:1である。実施例7において、浸漬時間は、室温にて0秒、10秒、30秒、1分、5分、30分、1時間、2時間とした。なお、実施例7においては、酢酸過水は、酢酸5%:過酸化水素5%:純水90%である。
【0092】
実施例7においては、各浸漬時間において製造した濾過フィルタ10の表層の成分をXPSによって分析した。図15は、実施例7における濾過フィルタ10の表層のNi成分の分析結果を示す図である。図15に示すように、浸漬時間が1分以上である場合に、濾過フィルタ10の表層のNi成分を0%にすることができる。
【0093】
[実施例8]
実施例8について説明する。実施例8においては、上記製造方法により製造した濾過フィルタ10のサンプルA1及びサンプルA2の組成を調べた。実施例8では、TEM観察及びEDXマッピングを行った。なお、TEM観察は、FE-TEM(日本電子株式会社:JEM-F200)を用いて行った。TEMの測定条件は、加速電圧:200kV、集束レンズ絞り:#2、前処理:Ptコーティングとした。EDXマッピングは、Noran system 7(和研薬株式会社)を用いて行った。また、EDXの測定条件は、スポット径:φ1.0nm、時定数:Rate1、積算回数:100回とした。
【0094】
濾過フィルタ10のサンプルA1は、電流密度2.9[A/dm]で作製した。サンプルA2は、電流密度14.5[A/dm]で作製した。また、サンプルA1及びサンプルA2における濾過フィルタ10の製造では、酢酸過水(酢酸5%:過酸化水素5%:純水90%)によるPdNiめっき膜の浸漬時間はいずれも2時間とした。
【0095】
図16Aは、実施例8におけるサンプルA1のEDXマッピングを示す図である。図16Aにおいて、M1部分はサンプルA1の表層21の部分を示し、M2部分はサンプルA1の母材部分を示す。図16Aに示すサンプルA1の中間層23は、表面から32nm付近の領域に形成されている。また、図16Aに示す母材22の部分であるM2部分は、表面から106nm付近の領域である。
【0096】
図16Bは、実施例8におけるサンプルA2のEDXマッピングを示す図である。図16Bにおいて、M3部分はサンプルA2の表層21の部分を示し、M4部分はサンプルA2の母材22の部分を示す。図16Bに示すサンプルA2の中間層23は、表面から22.5nm付近の領域に形成されている。また、図16Bに示す母材22の部分であるM4部分は、表面から97nmであった。
【0097】
図16Aに示すM1部分においてEDX定量分析を行ったところ、Pd:98.7%、Ni:0.6%、O:0.7%であった。また、図16Aに示すM2部分においてEDX定量分析を行ったところ、Pd:81.6%、Ni:18.4%、O:0%であった。なお、1%未満の値は、ノイズを含んでいる。
【0098】
図16Bに示すM3部分においてEDX定量分析を行ったところ、Pd:98.9%、Ni:1.1%、O:0%であった。また、図16Bに示すM4部分においてEDX定量分析を行ったところ、Pd:76.6%、Ni:23.4%、O:0%であった。なお、1%未満の値は、ノイズを含んでいる。
【0099】
図16A及び図16Bに示すように、実施例8のサンプルA1及びサンプルA2のいずれの場合においても、表層部分のNiが消失していることが確認できた。即ち、電流密度2.9[A/dm]及び電流密度14.5[A/dm]で作製した濾過フィルタ10のいずれの場合においても、表層部分のNiが消失していることが確認できた。なお、サンプルA1のM2部分(母材部分)とサンプルA2のM4部分(母材部分)において、PdとNiとの組成比が異なる値になっているのは、電流密度の違いによるためと考えられる。
【0100】
[効果]
実施の形態1に係る濾過フィルタ10によれば、以下の効果を奏することができる。
【0101】
濾過フィルタ10は、表層21と、表層21より内部側に形成される母材22と、表層21と母材22との間に形成される中間層23と、を備える。表層21は、Pdを主成分とし、母材22は、PdNi合金を主成分とし、中間層23は、表層21側から母材22側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。このような構成により、濾過フィルタ10の腐食耐性を向上させることができる。
【0102】
ここで、濾過フィルタ10の構成との対比を行うために、比較例1の濾過フィルタの構成について説明する。比較例1の濾過フィルタは、めっきを行うことによって卑金属で形成される母材122の表面を貴金属でコーティングし、卑金属の母材122の表面に貴金属の表層121を形成している。また、比較例1では、表層121はPdを主成分とし、母材122はNiを主成分としている。
【0103】
図17は、比較例1の濾過フィルタ110の構成の一例の一部を示す模式図である。図17に示すように、比較例1の濾過フィルタ110では、卑金属であるNiを主成分とする母材122の上に、貴金属であるPdを主成分とする表層121が形成されている。このため、表層121と母材122との間に連続した界面が形成されている。また、表層121には、めっきをする際に、母材122の表面に付着した不純物及び/又は表面粗さに起因して欠陥150が発生している。
【0104】
このため、比較例1の濾過フィルタ110では、電解質溶液等の液体が表層121の欠陥150を通じて母材122に接触しやすくなっている。これにより、母材122が欠陥150から溶出することを抑制することが難しくなっている。
【0105】
また、表層121と、母材122と、表層121と母材122の界面とに接触した電解質溶液とで局部電池が形成されやすく、卑金属(Ni)の母材122の表面でアノード反応が生じ、母材122が腐食される可能性がある。更に、表層121と母材122との間の界面が連続して繋がっているため、母材122が腐食されると母材122全体にわたって腐食が進行しやすい。
【0106】
また、表層121が傷つけられて剥がれた場合、母材122が露出しやすく、電解質溶液に接触した場合に母材が溶出しやすい。
【0107】
一方、実施の形態1の濾過フィルタ10では、図3に示すように、表層21と母材22との間に中間層23を形成している。中間層23では、表層21側から母材22側に向かってPdとNiとの成分比率が変化している。このため、濾過フィルタ10の中間層23では、PdとNiとの界面が分散して形成されている。これにより、濾過フィルタ10を電解質溶液などの液体に接触させたとき、表層21の欠陥からNiが溶出することを抑制することができる。
【0108】
また、表層21の欠陥を通じて濾過フィルタ10の内部に電解質溶液が流れ込んだ場合であっても、PdとNiとが電解質溶液を介して接触しにくい。このため、PdとNiとの界面で局部電池が形成されにくく、Niが腐食されることを抑制することができる。更に、濾過フィルタ10において、表層21の欠陥から電解質溶液が流入し、PdとNiとが電解質溶液を介して接触してNiが腐食されたとしても、PdとNiの界面とが分散しているため、腐食が母材22全体に拡がりにくい。
【0109】
また、表層21が傷つけられて剥がれたとしても、中間層23が露出するだけであるため、母材22が露出することを抑制することができる。このため、母材22が溶出することを抑制することができる。このように、濾過フィルタ10では、表層21と母材22との間に中間層23を形成することによって、母材22の溶出を抑制することができる。
【0110】
中間層23におけるPdに対するNiの割合は、濾過フィルタ10の深さ方向D1に向かって増加している。このような構成により、中間層23において、Niの成分の多くを表層21から遠ざけることができ、電解質溶液との接触によるNiの溶出及び腐食を抑制することができる。これにより、濾過フィルタ10の腐食耐性を更に向上させることができる。
【0111】
中間層23の厚さは、表層21の厚さより大きい。このような構成により、Niの成分を濾過フィルタ10の深さ方向D1により分散させることができる。また、母材22を表層21からより遠ざけることができるため、母材22の溶出及び腐食をより抑制することができる。これにより、濾過フィルタ10の腐食耐性を更に向上させることができる。
【0112】
中間層23は、濾過フィルタ10の表面からの深さ10nmより大きく30nm以下の領域に形成される。より好ましくは、中間層23は、濾過フィルタ10の表面からの深さ20nm以上30nm以下の領域に形成される。このような構成により、濾過フィルタ10の腐食耐性を更に向上させることができる。
【0113】
さらに、母材22は中間層23よりも深い位置に形成される。一般に、電解質溶液は深さに応じて侵入し難くなるため、電解質溶液が母材と接触する機会が少なくなる。従って、濾過フィルタ10の腐食耐性を向上させることができる。
【0114】
母材22におけるPdとNiとの成分比率は80:20であり、中間層23におけるPdとNiとの成分比率は100:0以上80:20以下の範囲で変化する。このような構成により、濾過フィルタ10の腐食耐性を更に向上させることができる。
【0115】
なお、実施の形態1では、Pd及びPdNi合金で構成される濾過フィルタ10の例について説明したが、これに限定されない。濾過フィルタ10は、Pd以外の貴金属、及びNi以外の卑金属を含む金属又は合金で構成されていてもよい。
【0116】
中間層23におけるPdに対するNiの割合が濾過フィルタ10の深さ方向D1に向かって増加している例について説明したが、これに限定されない。例えば、中間層23においては、PdNi合金のPdに対するNiの割合が一定である部分及び/又は減少している部分を含んでいてもよい。このような構成であっても、濾過フィルタ10の腐食耐性を向上させることができる。
【0117】
実施の形態1では、中間層23の厚さが表層21の厚さより大きい例について説明したが、これに限定されない。例えば、中間層23の厚さは表層21の厚さより小さくてもよいし、同じであってもよい。このような構成であっても、濾過フィルタ10の腐食耐性を向上させることができる。
【0118】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、実施の形態1の濾過フィルタをメッシュ式ネブライザーのメッシュとして使用している。なお、実施の形態2では、主に実施の形態1と異なる点について説明する。実施の形態2においては、実施の形態1と同一又は同等の構成については同じ符号を付して説明する。また、実施の形態2では、実施の形態1と重複する記載は省略する。
【0119】
実施の形態2においては、メッシュ式ネブライザーのメッシュの腐食耐性を向上させることを目的とする。
【0120】
実施の形態2のメッシュの一例について、図18を用いて説明する。図18は、本発明に係る実施の形態2のメッシュ50の一例の概略部分断面図である。図18に示すように、メッシュ50は、第1基体部12と、第2基体部13と、を備える。なお、実施の形態2で説明する第1貫通孔11及び第1基体部12は、実施の形態1の貫通孔11及びフィルタ基体部12に対応する。
【0121】
第2基体部13は、第1基体部12の第1主面PS1側に設けられている。第2基体部13は、第3主面PS3と、第3主面PS3と対向する第4主面PS4と、を有する板状部材である。第2基体部13の厚みは、第1基体部12の厚みより小さい。
【0122】
第2基体部13は、第1基体部12と一体で形成されている。
【0123】
第2基体部13には、複数の第2貫通孔14が設けられている。複数の第2貫通孔14は、第2基体部13において第3主面PS3及び第4主面PS4上に周期的に設けられている。具体的には、複数の第2貫通孔14は、第2基体部13においてマトリクス状に等間隔で設けられている。
【0124】
例えば、複数の第2貫通孔14は、第3主面PS3側(Z方向)から見て、正方格子配列で設けられている。なお、複数の第2貫通孔14の配列は、正方格子配列に限定されず、例えば、準周期配列、又は周期配列であってもよい。周期配列の例としては、方形配列であれば、2つの配列方向の間隔が等しくない長方形配列でもよく、三角格子配列又は正三角格子配列などであってもよい。あるいは、第2貫通孔14は、第2基体部13に複数設けられていればよく、配列は限定されなくてもよい。
【0125】
実施の形態2では、第2貫通孔14は、第3主面PS3側(Z方向)から見て、正方形の形状を有する。なお、第2貫通孔14は、第3主面PS3側(Z方向)から見た形状が正方形に限定されず、例えば長方形、多角形、円形、又は楕円などの形状であってもよい。
【0126】
実施の形態2では、第2基体部13の第3主面PS3に対して垂直な面に投影した第2貫通孔14の形状(断面形状)は、矩形状である。なお、第2貫通孔14の断面形状は、矩形状に限定されず、例えば、平行四辺形又は台形等のテーパー形状であってもよいし、対称形状であってもよいし、非対称形状であってもよい。
【0127】
第2貫通孔14の大きさは、第1貫通孔11の大きさよりも小さい。第2貫通孔14が正方形状を有する場合、メッシュ50の縦方向(X方向)及び横方向(Y方向の)における第2貫通孔14の一辺の長さは、第1貫通孔11の一辺の長さより小さい。第2貫通孔14が円形状を有する場合、第2貫通孔14の直径は、第1貫通孔11の直径より小さい。
【0128】
複数の第2貫通孔14は、それぞれ、複数の第1貫通孔11と繋がっている。言い換えると、複数の第2貫通孔14は、それぞれ、複数の第1貫通孔11と連通している。
【0129】
実施の形態1の濾過フィルタ10と同様に、メッシュ50は、表層21と、表層21より内部側に形成される母材22と、表層21と母材22との間に形成される中間層23と、を備える。メッシュ50の表層21は、Pdを主成分とする。メッシュ50の母材22は、PdNi合金を主成分とする。メッシュ50の中間層23は、表層21側から母材22側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。
【0130】
[メッシュの製造方法の一例]
メッシュ50の製造方法の一例について図19A~19Kを用いて説明する。図19A~19Kは、本発明に係る実施の形態2のメッシュ50の製造工程の一例を示す。
【0131】
図19Aに示すように、シリコンなどの基板41を準備する。基板41は、例えば、表面洗浄されていてもよい。
【0132】
図19Bに示すように、基板41上に厚さ500nmのCu膜42を形成する。例えば、Cu膜42は、スパッタ成膜装置によりスパッタリングすることによって形成される。あるいは、Cu膜42は、蒸着装置により蒸着することによって形成されてもよい。このとき、基板41とCu膜42との接着性を向上させるために、基板41とCu膜42との間に厚さ50nmのTi膜を形成してもよい。
【0133】
図19Cに示すように、Cu膜42上にレジストを塗布し、乾燥させることで厚さ2μmのレジスト膜43を形成する。例えば、Cu膜42上にスピンコーターを用いて感光性ポジ型液体レジスト(住友化学株式会社製:Pfi-3A)を塗布する。なお、スピンコーターの条件は、例えば、1140rpm、30secである。次に、ホットプレートを用いてレジストを加熱乾燥して、厚さ2.0μmのレジスト膜43を形成する。なお、ホットプレートの条件は、例えば、加熱温度90℃、加熱時間90秒である。
【0134】
図19Dに示すように、レジスト膜43を露光および現像処理し、第2基体部13に相当する箇所のレジスト膜43を除去する。例えば、露光機にはi線ステッパー(Canon製Pfi-37A)を使用する。現像はパドル現像装置を使用して行われる。現像液はTMAH(Tetramethylammonium hydroxide)を使用する。露光および現像処理した後、水洗及び乾燥処理を行う。
【0135】
図19Eに示すように、電解めっき装置を用いて、PdNiめっき浴を行うことによって電解めっきを行う。これにより、レジスト膜43を除去した部分にPdNiめっき膜44を形成する。なお、電解めっきの条件は、例えば、電流密度は1A/dm 、電気量は4AM、めっき液のpHは7.5、めっき厚みは1.6μmである。
【0136】
図19Fに示すように、高圧スプレー処理が可能なレジスト剥離装置を用い、剥離液NMP(N-methyl-2-pyrrolidone)でレジスト膜43を剥離する。その後、PdNiめっき膜44をIPA(Isopropyl alcohol)洗浄及び水洗処理し、乾燥させる。
【0137】
図19Gに示すように、PdNiめっき膜44の上にドライフィルムレジスト45をラミネート処理によって貼り付ける。ドライフィルムレジスト45の厚さは50μmである。ラミネート処理の上下ロール温度は100℃であり、送り速度は0.4m/sである。
【0138】
図19Hに示すように、ドライフィルムレジスト45を露光および現像処理し、第1基体部12に相当する箇所のドライフィルムレジスト45を除去する。例えば、アライナー露光で処理し、スプレー現像で現像する。現像液は炭酸ナトリウム3%溶液である。
【0139】
図19Iに示すように、電解めっき装置を用いて、PdNiめっき浴を行うことによって電解めっきを行う。これにより、ドライフィルムレジスト45を除去した部分にPdNiめっき膜46を形成する。なお、めっき前処理として、5%の塩酸に1分間浸漬し、水洗した。水洗後、電解めっき装置によってPdNi電解めっきを行った。なお、電解めっきの条件は、例えば、電流密度は1A/dm、電気量は4AM、めっき液のpHは7.5、めっき厚みは1.6μmである。
【0140】
図19Jに示すように、レジスト剥離装置を用い、剥離液NMP(N-methyl-2-pyrrolidone)でレジスト膜45を剥離する。
【0141】
図19Kに示すように、エッチング液兼PdNiめっき膜44,46の表層Ni溶解除去液として酢酸過水(酢酸:過酸化水素:水=5:5:90、室温)を調し、スターラーを攪拌させながら48時間浸漬処理してCu膜42をエッチング除去する。これにより、基板41からPdNiめっき膜44,46を剥離すると共に、PdNiめっき膜44,46の表層のNiを溶解することによって、第1基体部12及び第2基体部13を作製する。
【0142】
PdNiめっき膜44,46を酢酸過水に浸漬処理することによって、PdNiめっき膜44,46の表面から内部に向かってNiを徐々に溶解する。PdNiめっき膜44,46の表面付近においてはPdNiめっき膜44,46のNiが酢酸過水に接触しやすいため、Niが溶解しやすい。一方、PdNiめっき膜44,46の内部に向かうほど、PdNiめっき膜44,46のNiが酢酸過水に接触しにくくなり、Niが溶解しにくくなる。即ち、PdNiめっき膜44,46の表面から内部に向かって、Niの溶解量が徐々に少なくなる。
【0143】
このように、第1基体部12及び第2基体部13の表面付近では、酢酸過水によってNiが溶解され、Pdを主成分とする表層21が形成される。また、第1基体部12及び第2基体部13の表層21から深さ方向D1に向かって、酢酸過水によるNiの溶解量が徐々に少なくなり、PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする中間層23が形成される。そして、酢酸過水によってNiが溶解しなかったPdNiめっき膜44,46が母材22となる。
【0144】
このようにして、Pdを主成分とする表層21と、PdNi合金を主成分とする母材22と、表層21と母材22との間に形成され、PdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする中間層23とを備えるメッシュ50を作製することができる。
【0145】
[効果]
実施の形態2に係るメッシュ50によれば、以下の効果を奏することができる。
【0146】
メッシュ50は、表層21と、表層21より内部側に形成される母材22と、表層21と母材22との間に形成される中間層23と、を備える。表層21は、Pdを主成分とし、母材22は、PdNi合金を主成分とし、中間層23は、表層21側から母材22側に向かってPdとNiとの成分比率が変化するPdNi合金を主成分とする。このような構成によりメッシュ50の腐食耐性を向上させることができる。
【0147】
なお、実施の形態2では、メッシュ50が第1基体部12と第2基体部13とを備える例について説明したが、これに限定されない。メッシュ50は、表層21、母材22及び中間層23を有する要素で形成されていればよい。メッシュ50は、第2基体部13を備えていなくてもよい。
【0148】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の濾過フィルタは、液体中の濾過対象物を濾過する用途に有用である。
【符号の説明】
【0150】
10 濾過フィルタ
11 貫通孔(第1貫通孔)
12 フィルタ基体部(第1基体部)
13 第2基体部
14 第2貫通孔
21 表層
22 母材
23 中間層
31 基板
32 Cu膜
33 レジスト膜
34 PdNiめっき膜
41 基板
42 Cu膜
43 レジスト膜
44 PdNiめっき膜
45 ドライフィルムレジスト
46 PdNiめっき膜
50 メッシュ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
図19G
図19H
図19I
図19J
図19K