(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】プロジェクションスクリーン、および、画像表示システム
(51)【国際特許分類】
G03B 21/56 20060101AFI20220726BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
G03B21/56
G03B21/00 D
(21)【出願番号】P 2021085301
(22)【出願日】2021-05-20
(62)【分割の表示】P 2017115133の分割
【原出願日】2017-06-12
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2016116212
(32)【優先日】2016-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】馬場 潤一
(72)【発明者】
【氏名】青木 健二
(72)【発明者】
【氏名】白石 隆司
【審査官】石本 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-110148(JP,A)
【文献】特開2006-145973(JP,A)
【文献】特開平05-313157(JP,A)
【文献】特開2014-122262(JP,A)
【文献】特開2014-174424(JP,A)
【文献】特開2014-178524(JP,A)
【文献】特開2012-220540(JP,A)
【文献】特開2015-206934(JP,A)
【文献】特開2005-181460(JP,A)
【文献】特開2005-173505(JP,A)
【文献】米国特許第5784138(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-1718241(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F1/13-1/1335
1/13363
1/1339-1/1341
1/1347
1/137-1/141
G03B21/00-21/10
21/12-21/30
21/56-21/64
33/00-33/16
H04N5/66-5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明導電層と、
前記一対の透明導電層に挟まれるとともに、表面と裏面とを含む調光層と、を備え
るプロジェクションスクリーンであって、
前記調光層は、複数のドメインを有した三次元の網目状を有するポリマーネットワークと、前記ドメイン内に位置する液晶分子とを含み、前記一対の透明導電層を介して前記調光層に印加される電圧の大きさが変わることによって、光を散乱する第1状態と、光を透過する第2状態との間で変わるとともに、前記第1状態において前記裏面から入射した光を拡散して、前記表面から散乱光を射出し、
前記調光層が前記第1状態であるとき、
前記調光層のヘイズが、95%以上であ
り、
前記プロジェクションスクリーンは、表面と裏面とを含み、
前記プロジェクションスクリーンの厚さ方向において、前記プロジェクションスクリーンの前記表面、前記調光層の前記表面、前記調光層の前記裏面、および、前記プロジェクションスクリーンの前記裏面がこの順に並び、
前記プロジェクションスクリーンの前記表面に直交する鉛直面が視野基準面であり、
観察者が前記プロジェクションスクリーンを視認する方向を含む鉛直面が観察面であり、
前記視野基準面と前記観察面とが形成する角度が視野角であり、
前記観察者が前記視野基準面に対する一方側から前記プロジェクションスクリーンを視認するとき、前記視野角は負の値であり、前記観察者が前記視野基準面に対する他方側から前記プロジェクションスクリーンを視認するとき、前記視野角は正の値であり、
前記プロジェクションスクリーンの前記裏面に直交する水平面が投影基準面であり、
プロジェクターが前記プロジェクションスクリーンの裏面に光を投影する方向を含む平面が投影面であり、
前記投影基準面と前記投影面とが形成する角度が投影角であり、
前記プロジェクションスクリーンの前記表面の輝度において、前記視野角が5°であるときの輝度で規格化された輝度が規格化輝度であり、
前記プロジェクションスクリーンは、前記投影角が0°であるとき、前記視野角における前記規格化輝度の半値角が±22°であり、前記規格化輝度の1/3角が±30.5°であるように構成されている
プロジェクションスクリーン。
【請求項2】
前記ポリマーネットワークのドメイン径における平均値が0.1μm以上3μm以下である
請求項1に記載のプロジェクションスクリーン。
【請求項3】
前記調光層の厚さは、5μm以上50μm以下である
請求項1
または2に記載のプロジェクションスクリーン。
【請求項4】
前記調光層において、前記ドメインの密度が2×10
7個/mm
3以上2×10
12個/mm
3以下である
請求項1から
3のいずれか一項に記載のプロジェクションスクリーン。
【請求項5】
表面と裏面とを含むシート状を有するとともに、調光層を備えるプロジェクションスクリーンと、
前記プロジェクションスクリーンの前記裏面に光を投射するプロジェクターと、
前記調光層に電圧を印加する電圧印加部と、
前記プロジェクターの駆動と前記電圧印加部の駆動とを制御する制御部と、を備える画像表示システムであって、
前記プロジェクションスクリーンは、請求項1から
4のいずれか一項に記載のプロジェクションスクリーンであり、
前記プロジェクションスクリーンの厚さ方向において、前記プロジェクションスクリーンの前記表面、前記調光層の前記表面、前記調光層の前記裏面、および、前記プロジェクションスクリーンの前記裏面がこの順に並び、
前記制御部は、前記電圧印加部に前記調光層を前記第1状態にさせた状態で、前記プロジェクターに前記プロジェクションスクリーンの前記裏面に光を投射させることによって、前記プロジェクションスクリーンに前記プロジェクションスクリーンの前記表面から散乱光を射出させる
画像表示システム。
【請求項6】
前記プロジェクションスクリーンは、一対の配向層をさらに備え、
前記一対の配向層のうち、一方の配向層は、前記調光層の前記表面と前記透明導電層との間に位置するとともに、他方の配向層は、前記調光層の前記裏面と前記透明導電層との間に位置し、
前記電圧印加部は、前記調光層に交流電圧を印加し、
前記制御部は、前記プロジェクターにおけるフレームの周期と、前記電圧印加部における前記交流電圧の周期とが互いに異なるように、前記プロジェクターの駆動と前記電圧印加部の駆動とを制御する
請求項
5に記載の画像表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクションスクリーン、および、プロジェクションスクリーンを備える画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターなどによりスクリーン上に画像を表示するシステムとして、透過型の画像表示システム、および、反射型の画像表示システムが知られている。画像表示システムには、筐体、プロジェクター、および、スクリーンを備え、筐体内にプロジェクターが位置し、かつ、筐体の壁面にスクリーンが位置するプロジェクションテレビ、および、プロジェクターとスクリーンとが個別に移動することが可能な表示システムが含まれる。このうち、プロジェクションテレビで採用されるスクリーンには、レンチキュラーシート、および、フレネルレンズシートなどのレンズシートが知られている。
【0003】
こうしたレンズシートには、樹脂中に、樹脂が有する屈折率とは異なる屈折率を有した微粒子を分散させた光拡散シートが採用されている。光拡散シートは、プロジェクターから投射される光を光拡散シートの1つの面で結像し、かつ、所定の範囲に出射する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
レンズシートを用いたスクリーンに代えて、透過状態、言い換えれば透明の状態と、散乱状態、言い換えれば不透明の状態とを切り替えることが可能なスクリーンを用い、スクリーンが散乱状態であるときに、光を投影させて画像を表示する透過型の画像表示システムも知られている。こうした画像表示システムを用いれば、スクリーンに画像を投影しないときには、スクリーンを透明な状態とすることができる。このようなスクリーンとして、液晶層により透過状態と散乱状態とを切り替えることが可能なスクリーンが知られている。
【0005】
液晶層により透過状態と散乱状態とを切り替えるスクリーンとしては、高分子中に液晶を分散させた高分子分散型液晶(Polymer Dispersed Liquid Crystal:PDLC)から形成された液晶層を有するスクリーンも知られている(例えば、特許文献2参照)。高分子分散型液晶は、孤立した多数の空隙を高分子層のなかに備え、高分子層に分散した各空隙のなかに液晶分子が位置している(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
このスクリーンでは、液晶の屈折率と高分子の屈折率との差を利用して、透過状態と散乱状態とを切り替えている。このスクリーンにおいて、液晶分子を配向させる配向膜を有しないスクリーンの形態がノーマルタイプであり、配向膜を有するスクリーンの形態がリバースタイプである。ノーマルタイプでは、液晶層に電場を印加することによって液晶層が透過状態となり、液晶層に電場を印加しないことにより液晶層が散乱状態となる。これに対して、リバースタイプでは、液晶層に電場を印加しないことにより液晶層が透過状態となり、液晶層に電場を印加することにより液晶層が散乱状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-195422号公報
【文献】特開平10-36317号公報
【文献】特開2013-76956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、スクリーンにおいて、観察者の観察する面が表面であり、表面に直交する鉛直面を基準面に設定し、観察者の視線を含む鉛直面を観察面に設定するとき、基準面と観察面とが形成する角度が視野角であり、例えば、表面の法線方向から観察者がスクリーンを観察しているとき、視野角は0°である。
【0009】
透過型の画像表示システムが備えるスクリーンでは、観察者がスクリーンを観察する位置が変わることによって、観察者の視認することができる画像が変わる。これを抑える上で、スクリーンに対してプロジェクターが位置する側とは反対側において、観察者が画像を視認することができる範囲は広いことが好ましい。上述した液晶を含む層を備えるスクリーンが採用された画像表示システムでも、より広い視野角にて画像を視認しやすくすることが求められている。
【0010】
本発明は、液晶を含む層を備えるプロジェクションスクリーンにおいて、より広い視野角にて画像を視認されやすくすることを可能としたプロジェクションスクリーン、および、画像表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのプロジェクションスクリーンは、一対の透明導電層と、前記一対の透明導電層に挟まれるとともに、表面と裏面とを含む調光層と、を備え、前記調光層は、複数のドメインを有した三次元の網目状を有するポリマーネットワークと、前記ドメイン内に位置する液晶分子とを含み、前記一対の透明導電層を介して前記調光層に印加される電圧の大きさが変わることによって、光を散乱する第1状態と、光を透過する第2状態との間で変わるとともに、前記第1状態において前記裏面から入射した光を拡散して、前記表面から散乱光を射出する。前記調光層が前記第1状態であるとき、前記調光層のヘイズが、95%以上である。
【0012】
上記課題を解決するための画像表示システムは、表面と裏面とを含むシート状を有するとともに、調光層を備えるプロジェクションスクリーンと、前記プロジェクションスクリーンの前記裏面に光を投射するプロジェクターと、前記調光層に電圧を印加する電圧印加部と、前記プロジェクターの駆動と前記電圧印加部の駆動とを制御する制御部と、を備える画像表示システムである。前記プロジェクションスクリーンは、上記プロジェクションスクリーンであり、前記プロジェクションスクリーンの厚さ方向において、前記プロジェクションスクリーンの前記表面、前記調光層の前記表面、前記調光層の前記裏面、および、前記プロジェクションスクリーンの前記裏面がこの順に並び、前記制御部は、前記電圧印加部に前記調光層を前記第1状態にさせた状態で、前記プロジェクターに前記プロジェクションスクリーンの前記裏面に光を投射させることによって、前記プロジェクションスクリーンに前記プロジェクションスクリーンの前記表面から散乱光を射出させる。
【0013】
上記構成によれば、調光層の全体に張り巡らされたポリマーネットワーク内に液晶分子が位置している。そのため、調光層の面内において、ポリマーネットワークによる光の散乱と、液晶分子による光の散乱とにばらつきが生じにくく、また、調光層の表面の全体から散乱光が射出されやすい。このように、調光層の表面から射出される散乱光に偏りが生じにくいため、プロジェクションスクリーンに対する視野角が変わったとしても、観察者に向けて射出される光の光量が小さくなりにくい。結果として、プロジェクションスクリーンによれば、より広い視野角にて画像を視認されやすくすることができる。また、調光層が第1状態であるときのヘイズが95%以上であることによって、プロジェクションスクリーンの視野角が広がりやすくなる。
【0014】
上記プロジェクションスクリーンにおいて、前記ポリマーネットワークのドメイン径における平均値が0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、可視光の波長領域に含まれる光が、波長に関わらずほぼ同程度に散乱されるため、白色を有した光を散乱光として射出することができ、また、ドメイン径が3μmよりも大きい構成と比べて、散乱光の散乱角が小さくなることが抑えられる。
【0016】
上記プロジェクションスクリーンにおいて、前記調光層が前記第1状態であるとき、前記調光層の全光線透過率が、50%以上であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、ドメイン径が0.1μm以上3μm以下である調光層において、全光線透過率が上記の範囲に含まれることによって、プロジェクションスクリーンの視野角が広がりやすくなる。
【0018】
上記プロジェクションスクリーンにおいて、前記調光層の厚さは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、調光層の厚さが5μm以上であることによって、調光層の裏面から調光層に入射した光が、調光層の表面から射出されるまでの間に、調光層の表面内における明度のばらつきが抑えられる程度に散乱される。また、調光層の厚さが50μm以下であることによって、調光層の裏面から表面に向けて調光層を透過する光の光量が小さくなることが抑えられ、ひいては、観察者の視認する画像の明度が低くなることが抑えられる。
【0020】
上記プロジェクションスクリーンにおいて、前記調光層において、前記ドメインの密度が2×107個/mm3以上2×1012個/mm3以下であることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、ドメインの密度が2×107個/mm3以上であることによって、調光層の裏面から調光層に入射した光が調光層のなかで散乱されやすくなり、これにより、調光層の表面内における明度のばらつきが抑えられる。また、ドメインの密度が2×1012個/mm3以下であることによって、ドメインの密度が高すぎるために調光層の裏面から表面に向けて透過する光の光量が小さくなることが抑えられ、ひいては、観察者の視認する画像の明度が低くなることが抑えられる。
【0022】
上記プロジェクションスクリーンにおいて、前記プロジェクションスクリーンは、表面と裏面とを含み、前記プロジェクションスクリーンの厚さ方向において、前記プロジェクションスクリーンの前記表面、前記調光層の前記表面、前記調光層の前記裏面、および、前記プロジェクションスクリーンの前記裏面がこの順に並ぶ。前記プロジェクションスクリーンの前記表面に直交する鉛直面が視野基準面であり、観察者が前記プロジェクションスクリーンを視認する方向を含む鉛直面が観察面であり、前記視野基準面と前記観察面とが形成する角度が視野角であり、前記観察者が前記視野基準面に対する一方側から前記プロジェクションスクリーンを視認するとき、前記視野角は負の値であり、前記観察者が前記視野基準面に対する他方側から前記プロジェクションスクリーンを視認するとき、前記視野角は正の値であり、前記プロジェクションスクリーンの前記裏面に直交する水平面が投影基準面であり、プロジェクターが前記プロジェクションスクリーンの裏面に光を投影する方向を含む平面が投影面であり、前記投影基準面と前記投影面とが形成する角度が投影角であり、前記プロジェクションスクリーンの前記表面の輝度において、前記視野角が5°であるときの輝度で規格化された輝度が規格化輝度である。前記プロジェクションスクリーンは、前記投影角が0°であるとき、前記視野角における前記規格化輝度の半値角が±22°であり、前記規格化輝度の1/3角が±30.5°であるように構成されていることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、半値角および1/3角の絶対値がより小さい構成と比べて、視野角の変化に伴って、プロジェクションスクリーンの表面における輝度が低くなることが抑えられる。
【0024】
上記画像表示システムにおいて、前記プロジェクションスクリーンは、一対の配向層をさらに備え、前記一対の配向層のうち、一方の配向層は、前記表面と前記透明導電層との間に位置するとともに、他方の配向層は、前記裏面と前記透明導電層との間に位置し、前記電圧印加部は、前記調光層に交流電圧を印加し、前記制御部は、前記プロジェクターにおけるフレームの周期と、前記電圧印加部における前記交流電圧の周期とが互いに異なるように、前記プロジェクターの駆動と前記電圧印加部の駆動とを制御することが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、交流電圧の周期とフレームの周期とが互いに異なるため、1つのフレームに対応する光が投影されている間に交流電圧が0Vになる瞬間は、フレームごとに互いに異なるタイミングであることが含まれる。そのため、交流電圧の周期とフレームの周期とが互いに等しい構成と比べて、画像の品位が低くなることが抑えられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、液晶を含む層を備えるプロジェクションスクリーンにおいて、より広い視野角にて画像を視認されやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】プロジェクションスクリーンを具体化した一実施形態におけるプロジェクションスクリーンの第1例における断面構造を示す断面図。
【
図2】プロジェクションスクリーンの第2例における断面構造を示す断面図。
【
図3】画像表示システムを具体化した一実施形態における画像システムの概略構成を示すブロック図。
【
図4】画像表示システムが備える電圧印加部の概略構成を示すブロック図。
【
図5】プロジェクションスクリーンに対する視野角を説明するための斜視図。
【
図6】プロジェクターの投影角度を説明するための斜視図。
【
図7】画像表示システムの駆動方法を説明するためのタイミングチャート。
【
図9】実施例1および比較例1において投影角が-15°であるときのY刺激値を示すグラフ。
【
図10】実施例1および比較例1において投影角が-30°であるときのY刺激値を示すグラフ。
【
図11】実施例1および比較例1において投影角が-45°であるときのY刺激値を示すグラフ。
【
図12】実施例1および比較例1において投影角が-60°であるときのY刺激値を示すグラフ。
【
図13】実施例1および比較例1において投影角が0°であるときの規格化輝度を示すグラフ。
【
図14】実施例1および比較例1において投影角が-15°であるときの規格化輝度を示すグラフ。
【
図15】実施例1および比較例1において投影角が-30°であるときの規格化輝度を示すグラフ。
【
図16】実施例1および比較例1において投影角が-45°であるときの規格化輝度を示すグラフ。
【
図17】実施例1および比較例1において投影角が-60°であるときの規格化輝度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1から
図17を参照して、プロジェクションスクリーンおよび画像表示システムを具体化した一実施形態を説明する。以下では、プロジェクションスクリーンの構成、プロジェクションスクリーンの形成材料、画像表示システムの構成、画像表示システムの駆動方法、プロジェクションスクリーンの作用、および、実施例を順に説明する。
【0029】
[プロジェクションスクリーンの構成]
図1および
図2を参照してプロジェクションスクリーンの構成を説明する。以下では、プロジェクションスクリーンの構成における第1例および第2例を説明する。なお、
図1および
図2では、図示の便宜上、調光層に含まれるポリマーネットワークおよび液晶分子の大きさが誇張されている。
【0030】
[第1例]
図1が示すように、プロジェクションスクリーン10は、一対の透明導電層11と、調光層12とを備えている。調光層12は、一対の透明導電層11に挟まれるとともに、表面12Fと裏面12Rとを含んでいる。調光層12は、ポリマーネットワーク12aと、液晶分子12bとを含み、ポリマーネットワーク12aは、互いに連なる複数のドメイン12cを有した三次元の網目状を有し、液晶分子12bは、ポリマーネットワーク12aのドメイン12c内に位置している。各ドメイン12cは、ポリマーネットワーク12aの網目によって区画される空隙である。調光層12は、ポリマーネットワーク型液晶(PNLC:polymer network liquid crystal)によって形成されている。
【0031】
調光層12の状態は、調光層12に印加される電圧の大きさが変わることによって、光を散乱する第1状態と、光を透過する第2状態との間で変わる。調光層12は、第1状態において裏面12Rから入射した光を散乱して、表面12Fから散乱光を射出する。
【0032】
第1例のプロジェクションスクリーン10では、調光層12がPNLCから形成されているため、調光層12の全体に張り巡らされたポリマーネットワーク12a内に液晶分子12bが位置している。そのため、調光層12の面内において、ポリマーネットワーク12aによる光の散乱と、液晶分子12bによる光の散乱とにばらつきが生じにくく、また、調光層12の表面12Fの全体から散乱光が射出されやすい。このように、調光層12の表面12Fから射出される散乱光に偏りが生じにくいため、プロジェクションスクリーン10に対する視野角が変わったとしても、観察者に向けて射出される光の光量が小さくなりにくい。結果として、プロジェクションスクリーン10によれば、より広い視野角にて画像を視認されやすくすることができる。
【0033】
例えば、調光層12に電圧が印加されていないとき、調光層12の状態は第1状態である。調光層12に電圧が印加されていないときには、複数の液晶分子12bは、各液晶分子12bが位置するドメイン12cのなかで不規則に並んでいる。これにより、表面12Fから裏面12Rに向けて、および、裏面12Rから表面12Fに向けて、調光層12のなかを光が通りにくくなる。結果として、調光層12に電圧が印加されたときと比べて、調光層12におけるヘイズの値が大きくなる。
【0034】
これに対して、調光層12に所定の大きさの電圧が印加されたとき、調光層12の状態は第2状態である。調光層12に電圧が印加されたときには、複数の液晶分子12bにおける少なくとも一部において、液晶分子12bの延びる方向、言い換えれば長手方向が、表面12Fおよび裏面12Rと交差する1つの方向、例えば表面12Fおよび裏面12Rの法線方向に沿うように、液晶分子12bが並ぶ。これにより、表面12Fから裏面12Rに向けて、および、裏面12Rから表面12Fに向けて、調光層12のなかを光が通りやすくなる。結果として、調光層12に電圧が印加されないときと比べて、調光層12におけるヘイズの値が小さくなる。
【0035】
このように、調光層12に電圧が印加されていないときに調光層12のヘイズの値が相対的に大きく、かつ、調光層12に電圧が印加されているときに調光層12のヘイズの値が相対的に小さい調光層12が、ノーマルタイプの調光層12である。
【0036】
なお、調光層12が取り得るヘイズの値は、第1状態に対応する第1の値と、第2状態に対応する第2の値とのみであってもよいし、調光層12は、印加される電圧の大きさに応じて、ヘイズにおける最大値と最小値との間に挟まれる中間値を取り得ることが可能な構成でもよい。また、調光層12が、少なくとも1つの中間値を取り得ることが可能な構成であるときには、この中間値が、調光層12における第1状態に対応するヘイズの値であってもよいし、第2状態に対応するヘイズの値であってもよい。
【0037】
調光層12の表面12F、および、調光層12の裏面12Rにおいて、ポリマーネットワーク12aに含まれる各ドメイン12cが占める領域における最大長が、そのドメイン12cのドメイン径Dである。各ドメイン12cが占める領域における最大長は、そのドメイン12cの重心を通る直線のなかで最大の長さを有する直線の長さである。ドメイン径Dの平均値は例えば0.1μm以上3μm以下であり、好ましくは0.2μm以上2μm以下であり、より好ましくは約1μmである。
【0038】
ドメイン径Dの平均値が0.1μm以上3μm以下であることによって、ドメイン12cの大きさが可視光の波長にほぼ等しいドメイン12cを調光層12が含みやすいため、可視光の波長領域に含まれる光が、波長にかかわらずほぼ同程度に散乱される。そのため、白色を有した光を散乱光として射出することができる。また、ドメイン径Dが3μmよりも大きい構成と比べて、ポリマーネットワーク12aによって散乱された光の散乱角が小さくなることが抑えられる。また、ドメイン径Dの平均値が1μm以下、例えば200nm以上800nm以下であれば、光の進行方向に散乱される光成分が他の方向に散乱される光成分に対して大きくなりすぎないため、調光層12の表面における輝度のばらつきをさらに抑えることができる。
【0039】
なお、調光層12において、ドメイン径Dの最頻値が、0.1μm以上3μm以下の範囲に含まれることが好ましい。また、ドメイン径Dの最小値および最大値の両方が、0.1μm以上3μm以下に含まれることが好ましい。
【0040】
ポリマーネットワーク12aにおいて、単位体積当たりのポリマーネットワーク12aが区画するドメイン12cの個数が、調光層12におけるドメイン12cの密度であるドメイン密度である。ドメイン密度は、2×107個/mm3以上2×1012個/mm3以下であることが好ましい。ポリマーネットワーク12aのドメイン密度は、調光層12の断面構造を走査型電子顕微鏡によって撮像した画像において計数することが可能である。
【0041】
ドメイン密度が2×107個/mm3以上であることによって、調光層12の裏面12Rから調光層12に入射した光が調光層12のなかで多重散乱されやすくなり、これにより、調光層12の表面12Fの面内における輝度のばらつきが抑えられる。ドメイン密度が2×1012個/mm3以下であることによって、ドメイン密度が高すぎるために調光層12の裏面12Rから表面12Fに向けて透過する光の光量が小さくなることが抑えられ、ひいては、観察者の視認する画像の明度が低くなることが抑えられる。
【0042】
PNLCにおいて、液晶分子12bを駆動するための交流電圧の大きさは、ポリマーネットワーク12aの構造における特性に依存している。より詳しくは、液晶分子12bを駆動するための交流電圧の大きさは、ドメイン12cの大きさ、ドメイン12cの形状、すなわちドメイン12cを区画する網目の形状、および、ポリマーネットワーク12aの厚さなどに依存している。また、液晶分子12bを駆動するための交流電圧の大きさは、調光層12において所望とする光の透過と散乱とが実現されるように設定される。
【0043】
交流電圧の実効値が100V以下である範囲において、プロジェクションスクリーン10として十分な光の透過と散乱とを実現する上では、複数のドメイン12cにおいて、大きさが適正かつ均一であることが好ましく、また、ドメイン12cの形状も互いに等しいことが好ましい。
【0044】
この点で、上述したように、ドメイン径Dの平均値は0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。また、ドメイン径Dの平均値が0.1μm以上3μm以下であり、かつ、ドメイン密度が2×107個/mm3以上2×1012個/mm3であれば、ドメイン12c間での大きさのばらつきが抑えられた網目状のポリマーネットワーク12aが、第1状態での光の透過と散乱とを両立させることが可能になる。
【0045】
調光層12の厚さTは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上25μm以下であることがより好ましい。調光層12の厚さTが5μm以上であることによって、調光層12の裏面12Rから調光層12に入射した光が、調光層12の表面12Fから射出されるまでの間に、調光層12の表面12Fの面内における輝度のばらつきが抑えられる程度に散乱される。調光層12の厚さが50μm以下であることによって、調光層12の裏面12Rから表面12Fに向けて調光層12を透過する光の光量が小さくなることが抑えられ、ひいては、観察者の視認する画像の明度が低くなることが抑えられる。
【0046】
調光層12が第1状態であるとき、調光層12の全光線透過率が、50%以上であり、前記調光層のヘイズが、95%以上であることが好ましい。調光層12の全光線透過率は、73%以上であることがより好ましい。ドメイン径Dが0.1μm以上3μm以下である調光層12の全光線透過率およびヘイズがそれぞれ上述の値の範囲に含まれることによって、プロジェクションスクリーン10の視野角が広がりやすくなる。
【0047】
なお、各層の全光線透過率は、JIS K 7361-1(ISO 13468-1)に準拠する方法によって測定することができる。また、各層のヘイズは、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法によって測定することができる。
【0048】
透明導電層11は、光を透過するとともに、調光層12に電圧を印加する。透明導電層11は、調光層12の表面12Fと裏面12Rとに1つずつ位置している。2つの透明導電層11のうち、調光層12の表面12Fに位置する透明導電層11が第1透明導電層11aであり、調光層12の裏面12Rに位置する透明導電層11が第2透明導電層11bである。
【0049】
透明導電層11の全光線透過率は、調光層12が第2状態であるときの調光層12の全光線透過率よりも高いことが好ましい。これにより、プロジェクションスクリーン10の全光線透過率が、調光層12の全光線透過率よりも低くなることが抑えられる。
【0050】
プロジェクションスクリーン10は、さらに一対の透明基材13を備え、一対の透明基材13は、プロジェクションスクリーン10の厚さ方向において、一対の透明導電層11を間に挟んでいる。一対の透明基材13は第1透明基材13aおよび第2透明基材13bから構成され、第1透明基材13aは、第1透明導電層11aのうち、調光層12の表面12Fに接する面とは反対側の面に位置し、第2透明基材13bは、第2透明導電層11bのうち、調光層12の裏面12Rに接する面とは反対側の面に位置している。第1透明基材13aと第1透明導電層11aとが第1導電フィルム14aを構成し、第2透明基材13bと第2透明導電層11bとが第2導電フィルム14bを構成している。一対の透明基材13は光透過性を有し、各透明基材13の形成材料は各種の樹脂であればよい。
【0051】
透明基材13の全光線透過率は、調光層12が第2状態であるときの調光層12の全光線透過率よりも高いことが好ましい。これにより、プロジェクションスクリーン10の全光線透過率が、調光層12の全光線透過率よりも低くなることが抑えられる。透明基材13の厚さは、50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0052】
透明基材13には、可撓性を有した樹脂フィルムを用いることも可能である。透明基材13が可撓性を有することによって、プロジェクションスクリーン10も可撓性を有する。こうしたプロジェクションスクリーン10は、ガラスなどの平坦な部材に積層する以外に、曲面形状を含む部材への適用が可能であり、また、プロジェクションスクリーン10を巻き取った状態で収納することが可能である。このように、可撓性を有するプロジェクションスクリーン10によれば、取扱いの自由度が高まる。
【0053】
第1透明基材13aのなかで、調光層12の表面12Fに接する面とは反対側の面がプロジェクションスクリーン10の表面10Fであり、第2透明基材13bのなかで、調光層12の裏面12Rに接する面とは反対側の面がプロジェクションスクリーン10の裏面10Rである。プロジェクションスクリーン10の厚さ方向において、プロジェクションスクリーン10の表面10F、調光層12の表面12F、調光層12の裏面12R、および、プロジェクションスクリーン10の裏面10Rが、記載の順に並んでいる。
【0054】
[第2例]
図2が示すように、プロジェクションスクリーン20は、一対の透明導電層11、調光層12、および、一対の透明基材13に加えて、一対の配向層21をさらに備えている。一対の配向層21のうち、一方の配向層21は、調光層12の表面12Fと第1透明導電層11aとの間に位置する第1配向層21aであり、他方の配向層21は、調光層12の裏面12Rと第2透明導電層11bとの間に位置する第2配向層21bである。
【0055】
各配向層21は垂直配向膜であり、液晶分子12bの延びる方向が、配向層21が広がる平面の法線方向に沿うように、各液晶分子12bを配向する。そのため、調光層12に電圧が印加されていないとき、調光層12の状態は第2状態である。調光層12に電圧が印加されていないときには、複数の液晶分子12bは、各液晶分子12bが位置するドメイン12cのなかで、各液晶分子12bの延びる方向が、配向層21が広がる平面の法線方向に沿うように、すなわち調光層12の表面12Fおよび裏面12Rの法線方向に沿うように並ぶ。
【0056】
これにより、表面12Fから裏面12Rに向けて、および、裏面12Rから表面12Fに向けて、調光層12のなかを光が通りやすくなる。結果として、調光層12に電圧が印加されたときと比べて、調光層12におけるヘイズの値が小さくなる。
【0057】
これに対して、調光層12に電圧が印加されているとき、調光層12の状態は第1状態である。調光層12に電圧が印加されているときには、複数の液晶分子12bは、各液晶分子12bが位置するドメイン12cのなかで不規則に並んでいる。これにより、表面12Fから裏面12Rに向けて、および、裏面12Rから表面12Fに向けて、調光層12のなかを光が通りにくくなる。結果として、調光層12に電圧が印加されていないときと比べて、調光層12におけるヘイズの値が大きくなる。
【0058】
このように、調光層12に電圧が印加されているときに調光層12のヘイズの値が相対的に大きく、かつ、調光層12に電圧が印加されていないときに調光層12のヘイズの値が相対的に小さい調光層12が、リバースタイプの調光層である。なお、リバースタイプの調光層12は、上述したように、調光層12と、調光層12を挟む一対の配向層21とによって具体化される。
【0059】
第1透明基材13aのなかで、調光層12の表面12Fに接する面とは反対側の面がプロジェクションスクリーン20の表面20Fであり、第2透明基材13bのなかで、調光層12の裏面12Rに接する面とは反対側の面がプロジェクションスクリーン20の裏面20Rである。
【0060】
第2例のプロジェクションスクリーン20においても、第1例のプロジェクションスクリーン10におけるドメイン径Dおよびドメイン密度が適用されることが好ましく、調光層12の厚さT、全光線透過率、および、ヘイズが適用されることが好ましい。
【0061】
なお、上述した特許文献2,3に加えて、特許文献4(特開平6-82748号公報)では、レンズシートを用いたスクリーンに代わり、透過状態と散乱状態との間での切り替えが可能なスクリーンを用い、このスクリーンが散乱状態の場合に、光をスクリーンに投影させて、画像を表示する技術が提案されている。
【0062】
この技術によれば、スクリーンに光を投影していないときに、スクリーンを透明な状態にすることで、スクリーンを使用していないときの空間的な圧迫感を低減することが可能である。このようなスクリーンの例として、液晶層により透過状態と散乱状態との切り替えが可能なスクリーンが提案されている。
【0063】
なお、プロジェクションスクリーンに要求される視野角特性を制御するため、レンズシートを用いたスクリーンにおける光拡散シートの設計では、微粒子の材質、微粒子の形状、粒径、粒径の分布、微粒子と分散樹脂との屈折率の差、および、分散量などが考慮されている。微粒子の粒径は、一般に10μm以下である。
【0064】
視点を変えたときに視認される画像の明度が低下することを抑えることで、視野角を広げるための指標として、半値角言い換えればα角が用いられている。なお、α角には、水平方向での角度であるαH角と、垂直方向での角度であるαV角とが含まれる。光拡散シートは、これら角度のうちでレンズシートの特性によって制御することが難しい角度において拡散特性を補助している。スクリーンが有する面に投影する光の照度を一定とすれば、一般的に、半値角と正面輝度、すなわち視野角が0°であるときの輝度とは、おおよそ反比例する。そのため、半値角を大きくすれば、正面輝度、言い換えればスクリーンの総体的な輝度は低下する。したがって、これらの両方を高次元でバランスさせることは、非常に難しいこととされている。
【0065】
α角の目標値は、プロジェクションスクリーンに表示される画面のサイズ、観察者の位置する範囲、および、投射距離および投影角などのプロジェクターによる投射の条件に応じて適宜設定される。例えば、α角の範囲内を視野角において適切な範囲に設定し、視野角を-45°以上45°以下に設定するときには、α角の目標値は、45°以上である。
【0066】
一般には、αH角を大きくすることよりも、αV角を大きくすることが重要とされている。なお、プロジェクションスクリーンの拡散特性として、半値角だけでなく、1/3角、1/10角、および、1/20角の評価が報告されることもある。1/3角はβ角とも称され、1/10角はγ角とも称され、1/20角はδ角とも称される。
【0067】
特許文献2,3,4に例示される技術は、液晶層に対して電圧を印加した状態と、電圧を印加しない状態とを切り替えることによって液晶層が光を散乱する状態を変化させるため、微粒子を分散した構造を有した光拡散層の代替となる。これらの技術はいずれも、スクリーンが散乱状態の場合に光を投影することと、スクリーンが透過状態の場合に光を投影しないこととの切替えに好適な画像表示システムについての提案ではある。しかしながら、いずれの文献においても、スクリーンにおける視野角特性、および、高精細かつ高解像度の画像を投影することに対する適性については、一切考慮されていない。
【0068】
[プロジェクションスクリーンの形成材料]
プロジェクションスクリーンを構成する各層の形成材料を説明する。
【0069】
[調光層]
上述したように、調光層12は、ポリマーネットワーク12aと、ポリマーネットワーク12aが有するドメイン12cに位置する複数の液晶分子12bとを含んでいる。ポリマーネットワーク12aは、高分子繊維である。ポリマーネットワーク12aを構成する樹脂は、熱硬化性樹脂、および、紫外線硬化性樹脂のいずれかであればよい。
【0070】
また、調光層12において、ポリマーネットワーク12aの形成材料には、極性基を有するモノマー、および、二官能モノマーが含まれることが好ましい。極性基を有するモノマー、および、二官能モノマーは、上述した樹脂とともに、熱が加えられることによって、あるいは、紫外線が照射されることによって、重合することが可能である。極性基を有するモノマーには、ヒドロキシ基、カルボキシ基、および、リン酸基から構成される群から選択される少なくとも1つの極性基を有するモノマーを用いることができる。
【0071】
液晶分子12bには、ネマティック液晶を構成する液晶分子、スメクティック液晶を構成する液晶分子、および、コレステリック液晶を構成する液晶分子のいずれかを用いることができる。
【0072】
ポリマーネットワーク12aを構成する樹脂が紫外線硬化性樹脂であるときには、以下の製造方法によって調光層12を製造することができる。まず、液晶分子12bと光重合性化合物とを含む液晶組成物を、一対の透明導電層11の間に封入する。次いで、封入された液晶組成物に対して、例えば、第1透明導電層11aに対して液晶組成物とは反対側、および、第2透明導電層11bに対して液晶組成物とは反対側から紫外線を照射する。これにより、光重合性化合物が光重合して光重合性化合物が高分子に変化するとともに、光重合および架橋によって無数の微細なドメイン12cを有するポリマーネットワーク12aが形成される。
【0073】
封入された液晶組成物の両側から光を同時に照射する方法であれば、ポリマーネットワーク12aの厚さ方向において、光重合性化合物における重合速度のばらつきを抑えることができる。結果として、透明導電層11の面方向、および、調光層12の厚さ方向のいずれにおいても、ドメイン12cの大きさにおけるばらつき、および、ドメイン12cの形状におけるばらつきを抑えることができる。
【0074】
なお、調光層12の製造方法は、九州ナノテック光学株式会社による特許第4387931号に説明されている。本実施形態の調光層12を製造するときにも、この特許文献に記載された製造方法に準拠した方法を採用することができる。この製造方法は、上述したように、ドメイン12cの大きさおよび形状の制御されたポリマーネットワーク12aを製造する上で有効である。
【0075】
[透明導電層]
各透明導電層11は、光透過性を有する導電膜であればよい。透明導電層11の形成材料には、光透過性を有し、かつ、導電性を有する金属酸化物を用いることができる。金属酸化物には、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ(SnO2)、および、酸化亜鉛(ZnO)などを用いることができる。
【0076】
また、透明導電層11の形成材料には、光透過性を有し、かつ、導電性を有する高分子である導電性ポリマーを用いることができる。導電性ポリマーには、π共役系の導電性高分子と、ポリアニオンとを含むポリマーを用いることが好ましい。こうした導電性ポリマーには、PEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン)を挙げることができる。
【0077】
なお、透明導電層11の形成材料がITOであるときには、調光層12を透過した光が透明導電層11に入射すると、透明導電層11のなかで、透明導電層11が有する結晶構造に依存した光の散乱と反射とが起こる。そのため、調光層12から透明導電層11に入射した光には、後方に散乱する光成分、すなわち調光層12の裏面12Rに向けて散乱する光成分が含まれる。また、調光層12から透明導電層11に入射した光のうちで、前方に散乱する光成分、すなわち透明導電層11に対して調光層12とは反対側に向けて散乱される光成分では、互いに異なる色を有した光の混色によって、光成分の色が白色になる度合が高くなる傾向を有する。
【0078】
これに対して、透明導電層11の形成材料がPEDOT:PSSであるときには、透明導電層11の形成材料がITOであるときに比べて、後方に散乱する光成分が少ないこと、および、前方に散乱する光成分によって、プロジェクションスクリーン10,20に表示される画像においてコントラストが高まることが認められている。
【0079】
なお、コントラストとは、プロジェクションスクリーン10,20に光が投影された状態において、プロジェクションスクリーン10,20のスクリーン面である表面10F,20Fでの暗輝度に対する明輝度の比である。明輝度とは表面10F,20Fにおける輝度の最大値であり、暗輝度とは表面10F,20Fにおける輝度の最小値である。
【0080】
また、プロジェクションスクリーン10,20の表面10F,20Fにおけるコントラストを高めるためには、表面10F,20Fにおける明輝度を高くすることだけでなく、表面10F,20Fにおける暗輝度を低くすることもプロジェクションスクリーン10,20の構成として採用されている。表面10F,20Fにおける暗輝度を低くするためには、表面10F,20Fにおける色の明度を低くしてもよいし、プロジェクションスクリーン10,20において散乱された光が白色以外の所定の色を有するように、プロジェクションスクリーン10,20が構成されてもよい。
【0081】
[透明基材]
透明基材13には、光透過性を有する樹脂製のフィルムを用いることができる。樹脂製のフィルムの形成材料には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、および、ポリカーボネートなどを用いることができる。
【0082】
[配向層]
配向層21の形成材料には、例えば、熱の照射によって硬化する樹脂、または、紫外線および電子線などの電離放射線の照射によって硬化する樹脂を用いることができる。こうした樹脂には、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、および、電子線硬化性樹脂を挙げることができるが、これらの中でも紫外線硬化性樹脂が配向層の形成材料として好ましい。
【0083】
紫外線硬化性樹脂として、例えば、アクリロイル基を有する重合性のオリゴマーまたはモノマーと、ビニル基を有する重合性のオリゴマーまたはモノマーとの少なくとも1つと、光重合開始剤とを含む樹脂を挙げることができる。なお、紫外線硬化性樹脂は、光重合開始剤以外の添加剤を含んでもよい。
【0084】
アクリロイル基を有する重合性のオリゴマーまたはモノマーには、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、および、メラミンアクリレートなどを挙げることができる。ビニル基を有する重合性のオリゴマーまたはモノマーには、アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、および、スチレンなどを挙げることができる。
【0085】
配向層21は、透明導電層11に接する面とは反対側の面に、微細な凹凸を有してもよい。配向層21が有する微細な凹凸によって、配向層21に位置する液晶分子12bを所定の方向に配向させることができる。
【0086】
なお、特許文献2,3,4の各々において採用される液晶は、以下の通りである。特許文献2,3では、上述したPDLCが採用され、PDLCは、視野角に対する依存性、すなわち、プロジェクションスクリーンを視認する方向や視認する角度によって、スクリーンに表示される画像のコントラストや色が異なる性質が大きいとされている。
【0087】
また、特許文献4では、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂に、ネマティック液晶、マイクロビーズ、硬化剤、および、光重合開始剤を混合することによって調製した混合物が採用されている。熱硬化性樹脂はエポキシ系樹脂などであり、光硬化性樹脂は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、および、エン・チオール系樹脂などである。また、同文献では、カプセル化した液晶を、上述の樹脂や、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル系やウレタン系などのエマルジョン樹脂などに分散させた混合物が採用されている。
【0088】
[画像表示システムの構成]
図3から
図6を参照して画像表示システムの構成を説明する。
図3が示すように、画像表示システム30は、プロジェクションスクリーン10,20、プロジェクター31、電圧印加部32、および、制御部33を備えている。プロジェクションスクリーン10,20は、表面10F,20Fと裏面10R,20Rとを含むシート状を有するとともに、調光層12を備えている。プロジェクター31は、プロジェクションスクリーン10,20の裏面10R,20Rに光Lを投射する。電圧印加部32は、調光層12に交流電圧を印加する。
【0089】
制御部33は、プロジェクター31の駆動と、電圧印加部32の駆動とを制御する。制御部33は、電圧印加部32に調光層12を第1状態にさせた状態で、プロジェクター31にプロジェクションスクリーン10,20の裏面10R,20Rに光Lを投射させることによって、プロジェクションスクリーン10,20にプロジェクションスクリーン10,20の表面10F,20Fから散乱光を射出させる。
【0090】
プロジェクションスクリーン10,20はリア投影型のスクリーンであり、プロジェクションスクリーン10,20に対してプロジェクター31とは反対側が、プロジェクションスクリーン10,20の観察側である。プロジェクションスクリーン10,20の観察者OBは、プロジェクションスクリーン10,20の表面10F,20Fから射出される散乱光を観察する。
【0091】
制御部33は、プロジェクター31および電圧印加部32に電気的に接続している。プロジェクター31および電圧印加部32の各々の駆動を制御するための制御信号を生成し、所定のタイミングにて、プロジェクター31および電圧印加部32の各々に生成した制御信号を出力する。
【0092】
プロジェクター31は、制御部33が出力した制御信号を入力することによって、プロジェクションスクリーン10,20に向けた光Lの投射を開始したり終了したりする。プロジェクター31は、単位時間当たりに所定のフレーム数だけプロジェクションスクリーン10,20に向けて光Lを投射する。プロジェクター31のフレーム数は、例えば30fps(frame per second)以上1000fps以下である。
【0093】
電圧印加部32は、制御部33が出力した制御信号を入力することによって、調光層12に対する交流電圧の印加を開始したり終了したりする。電圧印加部32が印加する交流電圧の周波数は、例えば50Hz以上200Hz以下であり、交流電圧の周波数には、フレームの周波数とは異なる周波数が設定されている。電圧印加部32が印加する交流電圧は、例えば0.1V以上100V以下である。
【0094】
ノーマルタイプの調光層12を含むプロジェクションスクリーン10を画像表示システム30が備えるときには、制御部33は、電圧印加部32に調光層12への電圧の印加を行わせない状態で、プロジェクター31にプロジェクションスクリーン10の裏面10Rに向けて光を投射させる。これにより、第1状態である調光層12に光が入射するため、プロジェクションスクリーン10の表面10Fに散乱光による画像が表示される。
【0095】
これに対して、リバースタイプの調光層12を含むプロジェクションスクリーン20を画像表示システム30が備えるときには、制御部33は、電圧印加部32に調光層12への電圧の印加を行わせることによって、調光層12の状態を第2状態から第1状態に変える。その後、制御部33は、プロジェクター31にプロジェクションスクリーン20の裏面20Rに向けて光を投射させる。これにより、第1状態である調光層12に光が入射するため、プロジェクションスクリーン20の表面20Fに散乱光による画像が表示される。
【0096】
なお、
図4は、電圧印加部32の一例を示すブロック図である。
図4が示すように、電圧印加部32は、スイッチ41、変調部42、および、交流電源43を備えている。交流電源43は、上述したように、調光層12を挟む一対の透明導電層11に、例えば50Hz以上200Hz以下の所定の周波数で交流電圧を印加する。スイッチ41がオンの状態であるときに、交流電源43の出力する交流電圧が透明導電層11に印加され、スイッチ41がオフの状態であるときに、交流電源43の出力する交流電圧が透明導電層11に印加されない。
【0097】
制御部33は、電圧印加部32のなかでスイッチ41および変調部42に電気的に接続することによって、電圧印加部32の駆動を制御する。
【0098】
図5が示すように、プロジェクションスクリーン10,20の表面10F,20Fに直交する鉛直面が視野基準面BLsである。観察者OBがプロジェクションスクリーン10,20を視認する方向を含む鉛直面が観察面Pobである。視野基準面BLsと観察面Pobとが形成する角度が視野角θvaである。観察者OBが視野基準面BLsに対する一方側からプロジェクションスクリーン10,20を視認するとき、視野角θvaは負の値であり、観察者OBが視野基準面BLsに対する他方側からプロジェクションスクリーン10,20を視認するとき、視野角θvaは正の値である。プロジェクションスクリーン10,20の表面10F,20Fにおいて、視野角θvaが5°であるときの輝度で規格化された輝度が規格化輝度である。各鉛直面は、鉛直方向VDに沿って延びる平面である。
【0099】
図6が示すように、プロジェクションスクリーン10,20の裏面10R,20Rに直交する水平面が投影基準面BLpである。プロジェクター31がプロジェクションスクリーン10,20の裏面10R,20Rに光を投影する方向を含む平面が投影面Pproである。投影基準面BLpと投影面Pproとが形成する角度が投影角θproである。投影基準面BLpよりも鉛直方向VDの上側から光を投射するときの投影角θproは正の値であり、投影基準面BLpよりも鉛直方向VDの下側から光を投射するときの投影角θproは負の値である。
【0100】
[画像表示システムの駆動方法]
図7を参照して画像表示システム30の駆動方法を説明する。
上述したように、第1例のプロジェクションスクリーン10に光を投影するときには、電圧印加部32が交流電圧を調光層12に印加しない一方で、第2例のプロジェクションスクリーン20に光を投影するときには、電圧印加部32が交流電圧を調光層12に印加する。
【0101】
画像表示システム30において、制御部33は、プロジェクター31におけるフレームの周期と、電圧印加部32における交流電圧の周期とが互いに異なるように、プロジェクター31の駆動と電圧印加部32の駆動とを制御している。
【0102】
ここで、
図7が示すように、電圧印加部32は調光層12に交流電圧を印加するため、電圧印加部32が調光層12に印加する交流電圧の瞬間値には0Vが含まれる。すなわち、電圧印加部32が調光層12に交流電圧を印加している期間内には、電圧印加部32が調光層12に電圧を印加していない瞬間が含まれる。電圧印加部32が印加する交流電圧の瞬間値が0であるときには、調光層12の状態が第2状態である。そのため、プロジェクター31がプロジェクションスクリーン20に投射した光は、プロジェクションスクリーン20にてほとんど散乱されることなく、プロジェクションスクリーン20を透過することによって、プロジェクションスクリーン20の表面20Fから射出される。
【0103】
それゆえに、プロジェクションスクリーン20の観察側には、プロジェクター31がプロジェクションスクリーン20に向けて投射した光の光軸に対して直交する平面にて占める面積とほぼ同じ面積を有した光しか射出されない。これにより、プロジェクションスクリーン20の表面20Fにおける一部のみが輝度の高められた状態になる。
【0104】
上述したように、交流電圧の周波数、すなわち交流電圧の周期である電圧周期C1は200Hz以下であることから、交流電圧の瞬間値が0Vである瞬間は、最も頻度が高い場合に2.5ミリ秒に1回の頻度で生じる。プロジェクター31のフレーム数、すなわちフレームの周期であるフレーム周期C2は、30fps以上1000fps以下であることから、フレームは、最も頻度が高い場合に1ミリ秒に1回の頻度でプロジェクションスクリーン20に投影される。
【0105】
電圧周期C1とフレーム周期C2とが互いに等しいときには、1つのフレームに対応する光が投影されている間に、フレームごとに互いに等しいタイミングで交流電圧が0Vである瞬間が生じる。そのため、フレームごとに等しいタイミングでプロジェクションスクリーン20の表面20Fに観察者OBに視認させるべき画像とは色味や鮮やかさが異なる画像が投影される場合がある。これに対して、電圧周期C1とフレーム周期C2とが互いに異なるときには、1つのフレームに対応する光が投影されている間に交流電圧が0Vになる瞬間は、フレームごとに互いに異なるタイミングであることが含まれる。そのため、電圧周期C1とフレーム周期C2とが互いに等しい構成と比べて画像の品位が低くなることが抑えられる。
【0106】
なお、画像表示システム30が第1例のプロジェクションスクリーン10を備える構成であっても、調光層12を第1状態とするために交流電圧を印加するときには、上述した構成と同様、電圧周期C1とフレーム周期C2とを互いに異ならせることが好ましく、これにより、上述した構成と同等の効果を得ることができる。
【0107】
[プロジェクションスクリーンの作用]
図8を参照してプロジェクションスクリーン10の作用を説明する。
図8は、第1例のプロジェクションスクリーン10における光学特性の一例を示すグラフである。
図8では、第1例のプロジェクションスクリーン10における光学特性が実線で示される一方で、参考例のプロジェクションスクリーンであって、従来の調光層であるPDLCから形成された調光層を備えるプロジェクションスクリーンにおける光学特性が一点鎖線で示されている。また、
図8に示されるグラフにおいて、縦軸は、各プロジェクションスクリーンの表面における透過光の強さであり、視野角θvaが0°であるときの透過光の強さによって規格化された相対的な透過光の強度である。
【0108】
図8が示すように、第1例のプロジェクションスクリーン10では、半値角、言い換えればα角が±45°である。α角の範囲内、言い換えれば、正面からプロジェクションスクリーンを視認したときの輝度の1/2以上をスクリーンの輝度として許容される範囲に設定すると、第1例のプロジェクションスクリーン10では、90°が視野角θvaにおいて適切な範囲であると言える。
【0109】
これに対して、参考例のプロジェクションスクリーンでは、半値角が±20°であり、40°が視野角θvaにおいて適切な範囲であると言える。参考例のプロジェクションスクリーンは、視野角θvaが0°であるときの輝度が、第1例のプロジェクションスクリーン10と同程度であっても、プロジェクションスクリーンに対して観察者OBの視点が移動することに伴う輝度の低下が、第1例のプロジェクションスクリーン10よりも顕著である。
【0110】
[実施例]
図9から
図17を参照して実施例を説明する。
実施例1のプロジェクションスクリーンとして、調光層、一対の透明導電層、および、一対の透明基材が以下の構成であるプロジェクションスクリーンを準備した。調光層はPNLCによって形成され、厚さが20μmであり、ドメイン径の平均値が1μmであり、ドメイン密度が1.0×10
9個/mm
3であった。一対の透明導電層はそれぞれITOから形成され、厚さが50nmであった。一対の透明基材はそれぞれPETから形成され、厚さが50μmであった。
【0111】
比較例1のプロジェクションスクリーンとして、調光層、一対の透明導電層、および、一対の透明基材が以下の構成であるプロジェクションスクリーンを準備した。調光層はPDLCによって形成され、厚さが20μmであった。一対の透明導電層はそれぞれITOから形成され、厚さが50nmであった。一対の透明基材はそれぞれPETから形成され、厚さが188μmであった。
【0112】
実施例1のプロジェクションスクリーンおよび比較例1のプロジェクションスクリーンの各々について、全光線透過率およびヘイズを測定した。なお、各試験例において、調光層に対して交流電圧が印加されていない状態を第1状態とし、調光層に対して交流電圧が印加され、かつ、調光層の全光線透過率が最も高い状態を第2状態とし、各状態での全光線透過率およびヘイズを測定した。
【0113】
全光線透過率およびヘイズの測定には、ヘイズメーター(NDH-7000SP、日本電色工業(株)製)を用いた。なお、全光線透過率は、JIS K 7361-1(ISO 13468-1)に準拠する方法によって測定し、ヘイズは、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法によって測定した。また、全光線透過率およびヘイズを測定するときの光源の投影角θproを0°に設定し、視野角θvaを0°に設定した。
【0114】
また、実施例1のプロジェクションスクリーンおよび比較例1のプロジェクションスクリーンの各々について、Y刺激値を測定した。Y刺激値の測定には、散乱分布測定システム(IS-SA、Radiant Vision Systems社製)を用い、光源として白色LED(PFBR-150SW、シーシーエス(株)製)を用いた。なお、Y刺激値は、JIS Z 8722に準拠する方法によって測定した。また、Y刺激値を測定するときの光源の投影角を-60°以上0°以下に設定し、視野角θvaを-80°以上80°以下に設定した。
【0115】
[測定結果]
[全光線透過率およびヘイズ]
実施例1のプロジェクションスクリーンにおいて、第1状態での全光線透過率が73%であり、ヘイズが98%であることが認められ、第2状態での全光線透過率が83%であり、ヘイズが12%であることが認められた。比較例1のプロジェクションスクリーンにおいて、第1状態での全光線透過率が78%であり、ヘイズが94%であることが認められ、第2状態での全光線透過率が79%であり、ヘイズが11%であることが認められた。
【0116】
[Y刺激値]
[測定値]
Y刺激値の測定結果は、
図9から
図12に示す通りであった。
図9が示すように、投影角θproが-15°であるとき、視野角θvaが-20°以上20°以下の範囲では、比較例1のY刺激値が、実施例1のY刺激値以上であることが認められた。一方で、視野角θvaが-80°以上-20°未満、かつ、20°よりも大きく80°以下の範囲では、実施例1のY刺激値が、比較例1のY刺激値よりも大きいことが認められた。
【0117】
これに対して、
図10が示すように、投影角θproが-30°であるとき、視野角θvaが-80°以上80°以下の範囲において、実施例1のY刺激値が、比較例1のY刺激値よりも大きいことが認められた。
【0118】
また、
図11が示すように、投影角θproが-45°であるとき、さらには、
図12が示すように、投影角θproが-60°であるときにも、視野角θvaが-80°以上80°以下の範囲において、実施例1のY刺激値が、比較例1のY刺激値よりも大きいことが認められた。
【0119】
このように、実施例1のプロジェクションスクリーンによれば、投影角θproが-60°以上-30°以下の範囲であるときに、視野角θvaの大きさに関わらず、比較例1のプロジェクションスクリーンよりもプロジェクションスクリーンの表面における輝度が高いことが認められた。
【0120】
なお、画像表示システムでは、投影角θproの絶対値が大きくなるほど、プロジェクションスクリーンの裏面とプロジェクターとの間の距離を短くすることができる。そのため、投影角θproの絶対値が大きいプロジェクターを有する画像表示システムは、投影角θproの絶対値がより小さい構成と比べて、画像表示システムが占める空間の大きさが小さくできる点で好ましい。上述したように、実施例1のプロジェクションスクリーンによれば、投影角θproが-60°以上-30°以下の範囲において、比較例1のプロジェクションスクリーンに比べて表面における輝度が高まる。そのため、実施例1のプロジェクションスクリーンによれば、裏面とプロジェクターとの間の距離を短くしつつ、表面の輝度を高めることができる。
【0121】
[規格化輝度]
規格化輝度の測定結果は、
図13から
図17に示す通りであった。
上述したように、プロジェクションスクリーンの表面の輝度において、視野角θvaが5°であるときの輝度で規格化された輝度が規格化輝度である。なお、本実施例では、表面の輝度として、Y刺激値を用いた。
【0122】
図13が示すように、投影角θproが0°であるとき、視野角θvaが-80°以上80°以下の範囲において、実施例1の規格化輝度が、比較例1の規格化輝度よりも大きいことが認められた。
【0123】
また、
図14が示すように投影角θproが-15°であるとき、
図15が示すように投影角θproが-30°であるとき、
図16が示すように投影角θproが-45°であるときのいずれにおいても、視野角θvaが-80°以上80°以下の範囲において、実施例1の規格化輝度が、比較例1の規格化輝度よりも大きいことが認められた。
【0124】
これに対して、
図17が示すように、投影角θproが-60°であるとき、視野角θvaが-50°以上50°以下の範囲では、実施例1の規格化輝度が、比較例1の規格化輝度以上であることが認められた。一方で、視野角θvaが-80°以上-50°未満、および、視野角θvaが50°より大きく80°以下の範囲では、比較例1の規格化輝度が、実施例1の規格化輝度よりも大きいことが認められた。
【0125】
このように、実施例1のプロジェクションスクリーンによれば、比較例1のプロジェクションスクリーンに比べて、視野角θvaの変化に伴って、プロジェクションスクリーンの表面における輝度が変化することが抑えられることが認められた。
【0126】
[半値角および1/3角]
投影角θproが0°であるときの規格化輝度における半値角および1/3角は、
図13に示す通りであった。
図13が示すように、実施例1のプロジェクションスクリーンにおいて、半値角が±22°であること、および、1/3角が±30.5°であることが認められた。言い換えれば、視野角θvaにおいて、表面の輝度が規格化輝度の1/2以上である範囲が、-22°以上22°以下の範囲であり、表面の輝度が規格化輝度の1/3以上である範囲が、-30.5°以上30.5°以下であることが認められた。
【0127】
これに対して、比較例1のプロジェクションスクリーンにおいて、半値角が±11°であること、および、1/3角が±14.5°であることが認められた。言い換えれば、視野角θvaにおいて、表面の輝度が規格化輝度の1/2以上である範囲が、-11°以上11°以下の範囲であり、表面の輝度が規格化輝度の1/3以上である範囲が、-14.5°以上14.5°以下の範囲であることが認められた。
【0128】
また、実施例1のプロジェクションスクリーンにおいて、視野角が正の範囲および負の範囲の各々において、半値角と1/3角との差が8.5°であり、比較例1のプロジェクションスクリーンにおいて、視野角が正の範囲および負の範囲の各々において、半値角と1/3角との差が3.5°であることが認められた。
【0129】
このように、実施例1のプロジェクションスクリーンによれば、比較例1のプロジェクションスクリーンに比べて、視野角θvaの変化に伴って、プロジェクションスクリーンの表面における輝度が低くなることが抑えられることが認められた。
【0130】
以上説明したように、プロジェクションスクリーンおよび画像表示システムの一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)調光層12の全体に張り巡らされたポリマーネットワーク12a内に液晶分子12bが位置している。そのため、調光層12の面内において、ポリマーネットワーク12aによる光の散乱と、液晶分子12bによる光の散乱とにばらつきが生じにくく、また、調光層12の表面12Fの全体から散乱光が射出されやすい。このように、調光層12の表面12Fから射出される散乱光に偏りが生じにくいため、プロジェクションスクリーン10,20に対する視野角θvaが変わったとしても、観察者OBに向けて射出される光の光量が小さくなりにくい。結果として、プロジェクションスクリーン10,20によれば、より広い視野角θvaにて画像を視認されやすくすることができる。
【0131】
(2)可視光の波長領域に含まれる光が、波長に関わらずほぼ同程度に散乱されるため、白色を有した光を散乱光として射出することができ、また、ドメイン径Dが3μmよりも大きい構成と比べて、散乱光の散乱角が小さくなることが抑えられる。
【0132】
(3)ドメイン径Dが0.1μm以上3μm以下である調光層12において、全光線透過率およびヘイズがそれぞれ上記の範囲に含まれることによって、プロジェクションスクリーン10,20の視野角θvaが広がりやすくなる。
【0133】
(4)調光層12の厚さTが5μm以上であることによって、調光層12の裏面12Rから調光層12に入射した光が、調光層12の表面12Fから射出されるまでの間に、調光層12の表面12F内における明度のばらつきが抑えられる程度に散乱される。また、調光層12の厚さTが50μm以下であることによって、調光層12の裏面12Rから表面12Fに向けて調光層12を透過する光の光量が小さくなることが抑えられ、ひいては、観察者OBの視認する画像の明度が低くなることが抑えられる。
【0134】
(5)ドメイン12cの密度が2×107個/mm3以上であることによって、調光層12の裏面12Rから調光層12に入射した光が調光層12のなかで散乱されやすくなり、これにより、調光層12の表面12F内における輝度のばらつきが抑えられる。また、ドメイン12cの密度が2×1012個/mm3以下であることによって、ドメイン12cの密度が高すぎるために調光層12の裏面12Rから表面12Fに向けて透過する光の光量が小さくなることが抑えられ、ひいては、観察者OBの視認する画像の明度が低くなることが抑えられる。
【0135】
(6)半値角および1/3角の絶対値がより小さい構成と比べて、視野角の変化に伴って、プロジェクションスクリーン10,20の表面10F,20Fにおける輝度が低くなることが抑えられる。
【0136】
(7)電圧周期C1とフレーム周期C2とが互いに異なるため、1つのフレームに対応する光が投影されている間に交流電圧が0Vになる瞬間は、フレームごとに互いに異なるタイミングであることが含まれる。そのため、電圧周期C1とフレーム周期C2とが互いに等しい構成と比べて画像の品位が低くなることが抑えられる。
【0137】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・電圧印加部32が印加する交流電圧の周波数、および、プロジェクター31におけるフレーム数の少なくとも一方が変更可能な値であってもよい。言い換えれば、画像表示システム30は、交流電圧の周波数を変更するための構成、および、フレーム数を変更するための構成との少なくとも一方を有してもよい。こうした構成であっても、交流電圧の周波数と、フレームの周波数とが互いに異なる値であれば、上述した(7)と同等の効果を得ることはできる。
【0138】
・プロジェクションスクリーン10,20の裏面10R,20Rに、屈折率を調整するための層や、反射防止層を形成してもよい。これにより、プロジェクター31からプロジェクションスクリーン10,20に投射された光の反射、すなわち後方への散乱を抑えることができる。ひいては、プロジェクションスクリーン10,20に投射された光を有効に利用すること、および、ゴースト像のない画像を観察者に視認させることができる。
【0139】
・プロジェクションスクリーン10,20が備える各層の屈折率の差、および、各層の表面の状態などを各層の界面における不要な反射を抑えるように適宜変更してもよい。
【0140】
・調光層12は、所定の色を有する色素であって、調光層12に印加された交流電圧の大きさに応じた液晶分子12bの運動を妨げない色素を含んでもよい。こうした構成によれば、調光層12は、所定の色を有することができる。
【0141】
・プロジェクションスクリーン10,20は、反射型のスクリーンとして用いることも可能である。この場合には、プロジェクションスクリーン10,20に対してプロジェクター31が位置する側が、プロジェクションスクリーン10,20の観察側である。反射型のスクリーンでは、プロジェクションスクリーンにおいて、プロジェクターが位置する側とは反対側の面に、プロジェクションスクリーンに入射した光の反射率を高めるための処理を施すことが必要である。例えば、プロジェクターが位置する側とは反対側の面に反射層を形成することが好ましい。
【0142】
[PNLCの利点]
なお、PNLCから形成された調光層を有するプロジェクションスクリーンには、以下に記載のような利点が挙げられる。
プロジェクションスクリーンは、光を拡散する特性が固定された光拡散シートに比べて、電気的に透過状態と散乱状態とを切替えることが可能であり、また、ヘイズの値も多値の間で切替えることが可能である。そのため、プロジェクションスクリーンの視野角特性の変更を可能にすること、プロジェクションスクリーンの散乱性を、外部環境の照度、光の輝度、および、画質に応じた散乱性に瞬時に変更することが可能であり、これにより、好適な状態で、観察者が画像を視認することができる。また、プロジェクションスクリーンによれば、他の液晶から形成される調光層を有した構成と比べて、透過状態と散乱状態との切替えに必要な駆動電圧を低くすることが可能でもある。
【0143】
PNLCは、ポリマーネットワークを有するために、ドメイン径やドメインが配置される方向が制御されたポリマーネットワークに応じて、プロジェクターの投射した光が効率的に前方に散乱させる。これにより、プロジェクターの投射した光の損失やゴースト像の原因となる後方に散乱される光成分が抑制され、観察者によって視認される画像の明度を高めることができる。
【0144】
PNLCでは、PNLCの形成過程において、液晶分子とポリマーネットワークとを相分離するときに、未反応な成分がほとんど生じず、ポリマーネットワークと液晶分子とが高い純度で明確に分かれる。また、PNLCを形成するときには、透明導電層のラビングによってプレチルト角を配向させる処理を行なうことなく、理想的な配向状態を実現することが可能であり、液晶分子はポリマーネットワークによって分割されたドメインごとにほぼ一様に配向する。
【0145】
PNLCのドメイン径は約1μmであることが好ましく、これにより、波長による選択的な散乱であるレイリー散乱が生じず、少なくとも可視光領域波長であって、400nm以上780nm以下の範囲を含む広い波長域における散乱が効率的に生じる。なお、光拡散シートに含まれる微粒子の直径は、おおよそ2μm以上10μm以下であり、PDLCにおいて分散したドロップレットの直径は、おおよそ数μmである。
【0146】
以下の理由から、PNLCは、高分子分散型カプセル(NCAP:Nematic curvilinear aligned Phase)やPDLCに比べて、プロジェクションスクリーンとしての好適な光学特性を奏する上で最適な構造であると言える。すなわち、PNLCでは、ドメイン径、および、網目状の構造が、PNLCのなかにおいて光学的に均一であるため、ドメイン径がばらつきを有するために、PNLCの面内において散乱が均一に起こらない、および、液晶層の密度がばらつきを有するために、PNLCの面内において散乱が均一に起こらないということが抑えられる。
【0147】
NCAPやPDLCでは、これらから射出される光成分に、液晶層内におけるカプセルやドロップレットの界面での反射成分が多く含まれる。こうしたカプセルやドロップレットは、PNLCが含むポリマーネットワークに比べて、液晶層から前方に散乱される光成分の強度に影響を及ぼすため、液晶層の面内において光成分の強度にばらつきが生じやすい。
【0148】
[プロジェクションスクリーンの適用対象]
・プロジェクションスクリーン10,20は、液晶表示装置(LCD)、および、DMD(Digital Micro-mirror Device)(テキサス・インスツルメンツ社の登録商標)などの各種光学エンジンを備えるプロジェクターからの画像を投影するプロジェクションテレビに適用することができる。プロジェクションスクリーン10,20は、透過型のプロジェクションテレビと、反射型のプロジェクションテレビとの両方に適用することができる。なお、透過型は、投影型、背面投射型、および、リア型などとも称され、反射型はフロント型などとも称される。
【0149】
・プロジェクションスクリーン10,20は、フルHD(1920×1080)、4K(3840×2160)、8K(7680×4320)、または、これら以上の多数の画素を有する高精細かつ高解像度のプロジェクター31を備える画像表示システム30に適用されることが好適である。
【0150】
・プロジェクションスクリーン10,20は、カーテン、ブラインド、および、障子などの機能を有する間仕切りとして兼用することも可能である。プロジェクションスクリーン10,20によれば、プロジェクションスクリーン10,20の使用される状態を以下のように変更することができる。
【0151】
(A)調光層12が第2状態であることによって、プロジェクションスクリーン10,20を介してプロジェクションスクリーン10,20によって間仕切りされた空間の内部を視認することが可能な状態にすること
(B)調光層12が第1状態であることによって、プロジェクションスクリーン10,20によって間仕切りされた空間を外部から隠蔽すること
(C)調光層12が第1状態であるときに、プロジェクター31から光を投影して画像を表示させること
【0152】
そのため、こうしたプロジェクションスクリーン10,20を例えばショーウィンドウに適用することによって、ショーウィンドウのアイキャッチ効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0153】
10,20…プロジェクションスクリーン、10F,12F,20F…表面、10R,12R,20R…裏面、11…透明導電層、11a…第1透明導電層、11b…第2透明導電層、12…調光層、12a…ポリマーネットワーク、12b…液晶分子、12c…ドメイン、13…透明基材、13a…第1透明基材、13b…第2透明基材、14a…第1導電フィルム、14b…第2導電フィルム、21…配向層、21a…第1配向層、21b…第2配向層、30…画像表示システム、31…プロジェクター、32…電圧印加部、33…制御部、41…スイッチ、42…変調部、43…交流電源、BLp…投影基準面、BLs…視野基準面、Pob…観察面、Ppro…投影面、θpro…投影角、θva…視野角。