(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220726BHJP
H03H 7/09 20060101ALI20220726BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 T
H03H7/09 A
H02J3/38 110
(21)【出願番号】P 2021538600
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030996
(87)【国際公開番号】W WO2021024394
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 宏禎
(72)【発明者】
【氏名】木下 雅博
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103414327(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108306332(CN,A)
【文献】特開2014-54120(JP,A)
【文献】特開2009-177978(JP,A)
【文献】特開2001-69762(JP,A)
【文献】特開2006-6002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/493
H03H 7/09
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力変換装置が並列に接続された電力変換システムであって、
前記複数の電力変換装置それぞれが、
直流を交流に変換する電力変換回路と、
前記電力変換回路の出力側に接続された交流フィルタ回路と、
を備え、
前記交流フィルタ回路は、第一端が前記電力変換回路の出力側に接続され第二端が電力系統に接続される第一フィルタリアクトルと、交流フィルタコンデンサと第二フィルタリアクトルと抵抗とが直列接続された直列回路と、からなり、前記直列回路の一端が前記第一フィルタリアクトルの前記第二端に接続することで構築されたLCローパスフィルタである電力変換システム。
【請求項2】
前記第二フィルタリアクトルと前記交流フィルタコンデンサとからなるLC直列回路の共振周波数は、前記電力変換回路におけるキャリア周波数と等しい請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記抵抗は、複数の抵抗部品を並列接続することで構築された請求項1または2に記載の電力変換システム。
【請求項4】
前記抵抗は、板状抵抗体または無誘導抵抗器である請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記複数の電力変換装置が前記電力系統に対して並列合流点を介して並列接続し、
連系リアクトルまたは連系トランスを介在することなく前記交流フィルタ回路と前記並列合流点とが接続された請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項6】
前記交流フィルタ回路は、低周波部分と、高周波部分と、前記低周波部分と前記高周波部分との間の中間部分と、を含むゲイン特性を備え、
前記ゲイン特性は、前記低周波部分と前記中間部分との間に極大値を備え、且つ前記中間部分と前記高周波部分との間に極小値を備える請求項1に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電力変換システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、日本特開2014-183601号公報に記載されているように、複数の電力変換装置が並列に接続された電力変換システムが知られている。当該公報の例えば
図2を参照すると、複数の電力変換装置それぞれが、電力変換回路と、電力変換回路の出力側に接続された交流フィルタ回路とを備えている。交流フィルタ回路は、交流フィルタリアクトルと交流フィルタコンデンサとを含んでいる。
【0003】
公知のLCローパスフィルタは、L型とT型とΠ(パイ)型とを含む様々な回路型式を持っている。この点に関し、上記公報の段落0017には、高周波電圧成分除去用の交流フィルタが、T型フィルタであってもよいことが明記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交流フィルタ回路は、基本波電流を通過させる通過性能とリプル電流等の高周波成分を濾過するための減衰性能との両方の性能を要求される。理想的にはこれらの性能をなるべく小型の回路部品で実現したいという要求がある。その一方で、複数の電力変換装置が並列に接続された電力変換システムでは、更に考慮に入れるべき事項がある。複数の電力変換装置が並列接続されている場合、一つの電力変換装置と他の電力変換装置との間で、交流フィルタ回路要素の共振に起因する電流が発生しうる。以下、この共振に起因する電流を「共振電流」とも称す。
【0006】
本出願にかかる電力変換システムは、
複数の電力変換装置が並列に接続された電力変換システムであって、
前記複数の電力変換装置それぞれが、
直流を交流に変換する電力変換回路と、
前記電力変換回路の出力側に接続された交流フィルタ回路と、
を備え、
前記交流フィルタ回路は、第一端が前記電力変換回路の出力側に接続され第二端が電力系統に接続される第一フィルタリアクトルと、交流フィルタコンデンサと第二フィルタリアクトルと抵抗とが直列接続された直列回路と、からなり、前記直列回路の一端が前記第一フィルタリアクトルの前記第二端に接続することで構築されたLCローパスフィルタである。
【0007】
本出願は、交流フィルタ回路の小型化と共振電流の抑制とを両立することができる電力変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願にかかる電力変換システムは、
複数の電力変換装置が並列に接続された電力変換システムであって、
前記複数の電力変換装置それぞれが、
直流を交流に変換する電力変換回路と、
前記電力変換回路の出力側に接続された交流フィルタ回路と、
を備え、
前記交流フィルタ回路は、第一フィルタリアクトルと交流フィルタコンデンサとがL型に接続されたLCローパスフィルタであり、
前記交流フィルタ回路は、前記交流フィルタコンデンサに直列接続された第二フィルタリアクトルと、前記交流フィルタコンデンサおよび前記第二フィルタリアクトルとともに直列回路を構築する抵抗と、をさらに含む。
【発明の効果】
【0009】
本出願にかかる電力変換システムによれば、L型LCローパスフィルタの交流フィルタコンデンサに第二フィルタリアクトルが直列接続される。第二フィルタリアクトルには基本波電流が流れないので、小型のリアクトルであっても要求性能を満たすことができる。従って、交流フィルタ回路の要求性能を満たしつつその構成部品を小型化することができる。さらに、交流フィルタ回路に設けられた抵抗がダンピング要素として作用する。これにより、交流フィルタ回路の小型化と共振電流の抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態にかかる電力変換システムのシステム構成図である。
【
図2】実施の形態にかかる電力変換システムの交流フィルタ回路を説明するための図である。
【
図3】実施の形態にかかる電力変換システムの交流フィルタ回路が有する周波数特性を説明するためのグラフである。
【
図4】比較例にかかる電力変換システムのシステム構成図である。
【
図5】比較例にかかる交流フィルタ回路が有する周波数特性を説明するためのグラフである。
【
図6】比較例にかかる交流フィルタ回路が有する周波数特性を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施の形態にかかる電力変換システム1のシステム構成図である。
図1に示すように、電力変換システム1は、複数の電力変換装置4が並列に接続された系統連系システムである。複数の電力変換装置4それぞれの出力側は、並列合流点Pを介して合流している。並列合流点Pと電力系統2との間には上位変圧器3が設けられている。
【0012】
複数の電力変換装置4それぞれが、直流を交流に変換する電力変換回路4aと、電力変換回路4aの出力側に接続された交流フィルタ回路4bとを備えている。実施の形態にかかる電力変換回路4aは、一例として電圧制御型三相インバータ回路である。
【0013】
複数の電力変換装置4それぞれの入力側には、分散電源5が設けられている。分散電源5は、直流電源である。電力変換装置4は、分散電源5からの直流電力を交流電力に変換し、その交流電力を電力系統2の側へと出力する。
【0014】
分散電源5としては、下記の各種電源を適宜に用いることができる。例えば、分散電源5は、発電設備であってもよく、電池設備であってもよい。例えば、電池設備は、充電および放電を制御可能な二次電池(つまり蓄電池)を含む蓄電池設備であってもよい。例えば、電池設備は、電気化学反応により燃料の化学エネルギーから電力を発生させる燃料電池設備であってもよい。例えば、発電設備は、いわゆる再生可能エネルギー発電設備であってもよい。再生可能エネルギー発電設備は、太陽光発電設備であってもよい。あるいは、再生可能エネルギー発電設備は、風力発電機とこの風力発電機の出力を直流電力に変換するコンバータ装置とを含む風力発電設備であってもよい。
【0015】
電力変換システム1に含まれる複数の分散電源5は、互いに同種の電源であってもよい。あるいは、複数の分散電源5は、互いに異種の電源であってもよい。つまり、一部の分散電源5が上述した各種の電源のうち第一種類の電源であり、残りの分散電源5が上述した各種の電源のうち第二種類の電源であってもよい。
【0016】
交流フィルタ回路4bは、第一フィルタリアクトルL1と交流フィルタキャパシタC1と第二フィルタリアクトルL2と抵抗Rとを備えている。交流フィルタ回路4bは、第一フィルタリアクトルL1と交流フィルタキャパシタC1とがL型に接続されたLCローパスフィルタである。第二フィルタリアクトルL2は、交流フィルタキャパシタC1に直列接続されている。抵抗Rは、交流フィルタキャパシタC1および第二フィルタリアクトルL2とともに直列回路を構築している。
【0017】
具体的には、第一フィルタリアクトルL1の一端が電力変換回路4aの出力側に接続されている。第一フィルタリアクトルL1の他端が、抵抗Rの一端に接続されている。第二フィルタリアクトルL2の一端は、抵抗Rの他端に接続されている。第二フィルタリアクトルL2の他端は、交流フィルタキャパシタC1の一端に接続されている。抵抗Rと第二フィルタリアクトルL2と交流フィルタキャパシタC1とがこの順に直列接続されることで、RLC直列回路が構成されている。
【0018】
実施の形態では、並列合流点Pと交流フィルタ回路4bとの間に、連系リアクトルあるいは連系変圧器などが設けられていない。実施の形態では抵抗Rはダンピング抵抗Rとして機能するので、連系リアクトルなどのダンピング要素部品が省略されてもよいからである。その結果、部品点数を削減することができる。
【0019】
実施の形態のように複数の電力変換装置4が並列に接続された電力変換システム1は、個々の電力変換装置4を小容量または中容量に抑えつつ大電力を取り扱うことができる利点がある。小容量または中容量の電力変換装置4を並列接続する個数が増えたとしても、大容量の電力変換装置4を一つまたは少数配置する場合よりもコストメリット等が得られる場合がある。
【0020】
図1には、電力変換システム1を流れる電流として、基本波電流I
1とリプル電流I
2と共振電流I
3とが図示されている。基本波電流I
1は、電力変換回路4aから出力される交流の主電流である。リプル電流I
2は、電力変換回路4aのスイッチングに伴って発生する高周波電流である。複数の電力変換装置が並列接続されている場合、一つの電力変換装置と他の電力変換装置との間で、交流フィルタ回路要素の共振に起因する電流が発生しうる。この共振に起因する電流を、便宜上、共振電流I
3と記載している。
【0021】
図2は、実施の形態にかかる電力変換システム1の交流フィルタ回路4bを説明するための図である。
図2は、三相交流システムにおける交流フィルタ回路4bの構成を説明するための図である。実施の形態では電力変換回路4aが三相インバータ回路なので、UVW三相結線のそれぞれに交流フィルタ回路4bが設けられている。しかしながら、変形例として電力変換回路4aが単相あるいは二相インバータ回路などである場合には、
図2の三相結線が一相分または二相分に削減される。この場合には、削減された結線の数に応じて交流フィルタ回路4bも省略すればよい。
【0022】
上記電力変換システム1によれば、L型LCローパスフィルタの交流フィルタキャパシタC1に第二フィルタリアクトルL2が直列接続される。第二フィルタリアクトルL2には基本波電流I1が流れないので、小型のリアクトルであっても要求性能を満たすことができる。従って、リプル電流I2をフィルタリングする要求性能を十分に確保しつつ、交流フィルタ回路4bを構築するためのインダクタンス部品およびキャパシタンス部品を小型化することができる。その一方で、交流フィルタ回路4bに設けられた抵抗Rがダンピング要素として作用するので、L型LCローパスフィルタであっても、複数の電力変換装置4の間の共振電流I3を抑制することができる。従って、交流フィルタ回路4bの小型化と共振電流I3の抑制とを両立することができる。小型の回路部品を用いることで、コストも節減される。
【0023】
図3は、実施の形態にかかる電力変換システム1の交流フィルタ回路4bが有する周波数特性を説明するためのグラフである。
図3の周波数特性グラフには、交流フィルタ回路4bのゲイン特性A1が図示されている。ゲイン特性A1は、低周波側部分pa1と、極大値pa2と、中間部分pa3と、極小値pa4と、変曲点pa5と、高周波側部分pa6と、を含んでいる。
【0024】
低周波側部分pa1は、低周波側に設けられ周波数の増大に応じて緩やかにゲインが低下する部分である。極大値pa2は、低周波側部分pa1よりも高周波側に存在しグラフ上方に尖った部分である。中間部分pa3は、極大値pa2の高周波側において周波数増大に応じて急峻にゲインが立ち下がる部分である。極小値pa4は、中間部分pa3の下端である。変曲点pa5は、極小値pa4から急峻に立ち上がってその変化率が正から負に変わる点である。高周波側部分pa6は、変曲点pa5よりも高周波側において周波数増大に応じて緩やかにゲインが低下する部分である。
【0025】
図3には、極大値pa2に対応する第一周波数f1と、極小値pa4に対応する第二周波数f2とが記載されている。第二周波数f2は、第二フィルタリアクトルL
2と交流フィルタキャパシタC
1とからなるLC直列回路の共振周波数foで決まる。共振周波数foは、第二フィルタリアクトルL
2のインダクタンス値と交流フィルタキャパシタC
1のキャパシタンス値とに基づいて決まる。
【0026】
共振周波数foは、電力変換回路4aにおけるキャリア周波数fcと等しいことが好ましい。キャリア周波数fcは、電力変換回路4aのスイッチング制御パラメータに応じて決まる周波数である。共振周波数foとキャリア周波数fcとを一致させることで、低インダクタンスおよび低キャパシタンスの部品を用いたL型のLCローパスフィルタにおいて、T型のLCローパス交流フィルタ回路と同等のゲインを確保することができる。
【0027】
実施の形態の効果について
図4~
図6の比較例を参照しつつ説明する。
図4は、比較例にかかる電力変換システム1のシステム構成図である。
図5および
図6は、比較例にかかる交流フィルタ回路40bが有する周波数特性を説明するためのグラフである。
図5および
図6には交流フィルタ回路40bのゲイン特性B1が図示されており、その極大値pb1も図示されている。
【0028】
図4に示す比較例では、交流フィルタ回路40bがT型LCローパスフィルタである。T型LCローパスフィルタは、言い換えるとリアクトルとキャパシタとがLCLの順に接続されたLCLローパスフィルタでもある。
【0029】
比較例にかかる交流フィルタ回路40bは、下記のような欠点を有する。第一フィルタリアクトルL11は、電力変換回路4aの基本波電流I1および電力変換回路4aのスイッチングに伴うリプル電流I2が通過する。このため、第一フィルタリアクトルL11の体積は大型となる。
【0030】
第二フィルタリアクトルL12には、電力変換回路4aの基本波電流I1のみが通過する。第二フィルタリアクトルL12の鉄芯の体積は第一フィルタリアクトルL11の鉄心の体積より小さいものの、第二フィルタリアクトルL12の巻線は第一フィルタリアクトルL11の巻線に相当する断面積が必要である。
【0031】
交流フィルタキャパシタC0は電力変換回路4aのスイッチングに伴うリプル電流I2分を吸収する。このため、キャパシタンス値としては電力変換装置4の容量ベースで数%は必要である。さらに、制御の観点からは、電力変換回路4aの交流出力端で交流フィルタキャパシタ容量分を補償する必要があるので、余分な無効電力を出力することになる欠点もある。
【0032】
これに対し、実施の形態にかかる交流フィルタ回路4bでは、共振周波数foが電力変換回路4aのキャリア周波数fcに相当する値となるように、第二フィルタリアクトルL2および交流フィルタキャパシタC1が選定されている。
【0033】
図3の実施の形態のグラフと
図5の比較例グラフとを比較すると、同じキャリア周波数fcにおいてゲインが同じ値(つまりマイナス35dB)となっており、同等のフィルタ性能が得られる。
図5の比較例グラフにかかる周波数特性を実現するためには、実施の形態の交流フィルタ回路
4bを構成する部品のインダクタンス値およびキャパシタンス値と比較して、交流フィルタ回路40bを構成する部品のインダクタンス値およびキャパシタンス値を大きくする必要がある。
【0034】
具体的には、
図5の特性を実現する比較例の第一フィルタリアクトルL
11のインダクタンス値は、実施の形態の第一フィルタリアクトルL
1よりも、1.33倍程度大きい。さらに、
図5の特性を実現する比較例の交流フィルタキャパシタC
0のキャパシタンス値は、実施の形態の交流フィルタキャパシタC
1よりも、6倍程度大きい。その結果、比較例にかかる交流フィルタ回路40bでは、実施の形態にかかる交流フィルタ回路
4bと比較して、構成部品が大型になるという問題がある。
【0035】
この点、実施の形態によれば、交流フィルタ回路4bのインダクタンス値およびキャパシタンス値を比較例に比べて小さくしても、同等のフィルタ性能(つまりマイナス35dB)を得ることができる。すなわち、実施の形態によれば、第一フィルタリアクトルL1のインダクタンス値を、第一フィルタリアクトルL11の約1.33分の1に低減することができる。
【0036】
また、比較例の第二フィルタリアクトルL12が無い代わりに、実施の形態では共振用リアクトルとして第二フィルタリアクトルL2が必要である。しかしながら、第二フィルタリアクトルL2を通過する電流はリプル電流I2のみである。リプル電流I2は基本波電流I1に比べて十分に小さいので、第二フィルタリアクトルL2の体積は小型ですむという利点がある。
【0037】
また、実施の形態によれば、交流フィルタキャパシタC1のキャパシタンス値を、交流フィルタキャパシタC0の約6分の1に低減することもできる。従って、交流フィルタキャパシタC1として小型キャパシタを用いることができる。上記のように小型回路部品を用いることで用品体積の低減によるコスト節減効果が期待されるとともに、回路部品の個数を削減できることによるコスト節減効果も期待される。
【0038】
以上説明したように、L型LCローパスフィルタに第二フィルタリアクトルL2を加えた交流フィルタ回路4bの構成によれば、T型LCローパスフィルタである比較例の交流フィルタ回路40bと比べて、低インダクタンス部品および低キャパシタンス部品を用いて同等のフィルタ性能を作り出すことができる。
【0039】
ただし、実施の形態にかかる交流フィルタ回路4bは、比較例のT型LCローパスフィルタに含まれている後段の第二フィルタリアクトルL12を有さない。その結果、比較例の交流フィルタ回路40bのように、後段の第二フィルタリアクトルL12をダンピング要素として作用させることはできない。しかしながら、実施の形態では、交流フィルタ回路4bに追加した抵抗Rがダンピング要素として働くことで、複数の電力変換装置4の出力側を流れる共振電流I3を抑制することができる。
【0040】
ダンピング要素としての抵抗Rは、並列間を行き来する共振電流I3の低減用なので、大型の抵抗部品を用いなくともよい。従って、交流フィルタ回路4bの小型化と共振電流I3の抑制とを両立することができる。また、制御としては、交流フィルタキャパシタC1の容量を低減できるので、補償用無効電力も低減できるという利点がある。
【0041】
なお、
図6は、比較例に関する第二の周波数特性グラフである。
図6は、第一フィルタリアクトルL
11と第一フィルタリアクトルL
1とを同じインダクタンス値とし、交流フィルタキャパシタC
0と交流フィルタキャパシタC
1とを同じキャパシタンス値とした場合の周波数特性を示している。
図6の比較例グラフと
図3の実施の形態のグラフとを比較すると、
図6の比較例グラフではキャリア周波数fcにおけるゲインがマイナス5dB付近なので、
図3の実施の形態のグラフよりもフィルタ性能が劣化している。
【0042】
実施の形態の変形例について説明する。キャリア周波数fcと共振周波数foとが完全に一致しない変形例が提供されてもよい。
図3と
図5とを用いて説明したように、実施の形態によれば、第一フィルタリアクトルL
1のインダクタンス値を比較例の1.33分の1に低減することができ、交流フィルタキャパシタC
1のキャパシタンス値を比較例の6分の1に低減することができる。インダクタンス値とキャパシタンス値の少なくとも一方について削減効果が得られる範囲であれば、キャリア周波数fcと共振周波数foとの間にずれがあってもよい。キャリア周波数fcのある程度近傍に共振周波数foが位置していればよい。
【0043】
第二フィルタリアクトルL2のインダクタンス値と交流フィルタキャパシタC1のキャパシタンス値とを調節することで、周波数軸上におけるキャリア周波数fcと共振周波数foとのずれを調節できる。
【0044】
抵抗Rについても様々な変形が可能である。抵抗Rには、公知の様々な抵抗部品を用いることができる。抵抗Rは、大電流を流すことのできる大電流用抵抗であってもよいが、必要以上に大型の抵抗を設けることは好ましくない。一例として基本波電流I1の大きさに比べてリプル電流I2の大きさが10分の1以下である場合には、抵抗Rは基本波電流I1の10分の1以下の電流を流すことに耐えうる程度の耐電流仕様を持てばよい。抵抗Rは、リプル電流I2を流すときの発熱が抑制されるように構築されることが好ましい。例えば、電流に対する発熱量が抑制された構造を持つように抵抗Rが構築されても良い。抵抗Rが、放熱手段あるいは冷却手段が設置された抵抗部品であってもよい。
【0045】
抵抗Rは、
図2に例示したように複数の抵抗部品を並列接続することで構築されてもよい。ただし、変形例として、一つの抵抗部品のみで抵抗Rが構築されてもよい。あるいは、複数の抵抗部品が直列接続または直並列接続されることで抵抗Rが構築されてもよい。
【0046】
抵抗Rは、無誘導抵抗器であってもよい。無誘導抵抗器とは、寄生インダクタンスが大幅に抑制された抵抗器である。無誘導抵抗器は、「無誘導巻き」と呼ばれる巻き方で構成されている。「無誘導巻き」は、二本の抵抗線を巻方向が逆になるように巻いた構造である。巻き数が同じで、流れる電流も同じであれば、発生する磁界は大きさが同じで向きが逆となる。その結果、磁界を打ち消し合うことでインダクタンスを低減することができる。
【0047】
無誘導抵抗器の一例として、例えば日本特開2010-109256号公報などに記載されている公知の抵抗が用いられてもよい。無誘導抵抗器は、通電時に誘導成分が出ない(インダクタンスをもたない)ように構成されている。この種の無誘導抵抗器としては、巻き線型のものと、固体型のものがある。巻き線型の無誘導抵抗器は、「一つの巻き線の巻き方」と「隣接する巻き線の巻き方」とを互い違いにすることで、上記一つの巻き線と隣接する巻き線で生じる磁場(磁束)が互いに打ち消されるように通電するように構築されてもよい。巻き線型の無誘導抵抗器は、「一区間の巻き線の巻き方」と「隣接する区間の巻き線の巻き方」とを互い違いにすることで、一区間の巻き線と隣接する区間の巻き線で生じる磁場(磁束)が互いに打ち消されるように通電するように構築されてもよい。このような巻き方により、誘導成分を低減させて、実際上のインダクタンスを極めて小さくすることができる。また、固体型の無誘導抵抗器は、抵抗体とするカーボン皮膜や金属膜等の固体自体の形状を、円筒や幅広の薄型とするように構築される。これにより誘導成分を低減することができる。
【0048】
無誘導抵抗器の他の例として、日本特開2001-143915号公報などに記載されている公知の抵抗を用いてもよい。無誘導型抵抗器は、抵抗巻線を折り返し巻きにしたものか、絶縁物平板上に抵抗被膜をジグザグになるように形成したものであってもよい。一方、固定抵抗器として、巻線型、炭素被膜型、金属被膜型、ソリッド型、およびチップ型等が実用化されている。一般の抵抗器と比べて、十分インダクタンス分が小さい物であれば無誘導型抵抗器と呼ばれ使用されているので、一般にコイル状の電路を形成しないソリッド型およびチップ型は無誘導型抵抗器として取り扱われてもよい。
【0049】
無誘導抵抗器のさらに他の例として、実公平6-32642号公報などに記載されている公知の抵抗を用いてもよい。丸棒形の無誘導抵抗器としては、金属抵抗およびセラミック抵抗などが用いられてもよい。また平形の無誘導抵抗器としては、金属薄膜抵抗およびエアトンペリー巻抵抗などが用いられても良い。
【0050】
抵抗Rは、板状抵抗体であってもよい。板状抵抗体としては、日本特開2010-287842号公報などに記載されている公知の板状抵抗体が用いられてもよい。両端に電極部を設けた板状抵抗部を有する抵抗体と、この抵抗体を絶縁する絶縁板及び、放熱板を積層してなる大電力無誘導抵抗器が用いられてもよい。絶縁板は、抵抗体の抵抗部の両表に積層される一対のセラミック基板であってもよい。
【0051】
上記に限られず、多種多様な大電流用抵抗器を、抵抗Rとして用いてもよい。
【0052】
例えば、日本特開2017-162948号公報などに記載されている公知の抵抗を用いてもよい。電源回路および電力変換回路等の高電圧・大電流分野では、セメント抵抗器またはホーロー抵抗器が用いられてもよい。セメント抵抗器は、巻線型または酸化金属被膜の抵抗ユニットをセラミック製のケースに入れ、シリコン系の樹脂(セメント)で封止したものであってもよい。ホーロー抵抗器は、あるいは磁器からなるボビンに抵抗線を巻いてホーローで被覆したものであってもよい。
【0053】
例えば、日本特開2002-175901号公報などに記載されている公知の抵抗を用いてもよい。インバータまたはIGBT素子等が実装されたパワーモジュール等の電力変換機では、数A~400A程度までの大電流を精度よく検出するため0.1mΩ~100mΩ程度の高精度の電気用抵抗器が用いられる。電力変換機は大電流のため抵抗器で発生する電力も大きく、放熱が必要である。この放熱の手段として、抵抗用合金板と放熱用金属板とを樹脂絶縁層を介して複数積層した構造の抵抗器が用いられてもよい。抵抗用合金には電流を精度よく検出するために抵抗率の大きい、銅・マンガン系合金、銅・マンガン・ニッケル系合金、または銅・ニッケル系合金が用いられてもよい。そのような銅・マンガン・ニッケル系合金としては、たとえばマンガニンでもよい。また、銅・ニッケル系合金としては、コンスタンタン等の他に、少量のMn、Fe、Siを含有するものであってもよい。
【0054】
抵抗Rの抵抗値は例えば10mΩ以下であってもよい。抵抗Rの抵抗値は、例えば、1mΩ~20mΩであってもよく、1mΩ~15mΩであってもよく、1mΩ~10mΩであってもよい。あるいは、抵抗Rの抵抗値は、5mΩ~20mΩであってもよく、10mΩ~20mΩであってもよく、15mΩ~20mΩであってもよい。あるいは、抵抗Rの抵抗値は、5mΩ~15mΩであってもよく、5mΩ~10mΩであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 電力変換システム、2 電力系統、3 上位変圧器、4 電力変換装置、4a 電力変換回路、4b 交流フィルタ回路、5 分散電源、40b 交流フィルタ回路、A1 ゲイン特性、C0、C1 交流フィルタキャパシタ、fc キャリア周波数、fo 共振周波数、I1 基本波電流、I2 リプル電流、I3 共振電流、L1、L11 第一フィルタリアクトル、L12、L2 第二フィルタリアクトル、P 並列合流点、R 抵抗(ダンピング抵抗)