(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】有機性排水処理装置および有機性排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20060101AFI20220726BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220726BHJP
C02F 3/10 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C02F3/28 A
C02F3/28 B
C02F1/44 F
C02F3/10 Z
(21)【出願番号】P 2017148696
(22)【出願日】2017-07-31
【審査請求日】2020-07-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2017年3月9日に、第51回日本水環境学会年会において配布された講演集にて掲載 (2)2017年3月15日に、第51回日本水環境学会年会において発表 (3)平成29年(2017年)7月3日に、第54回下水道研究発表会において配布された講演集にて掲載 (4)平成29年(2017年)7月3日に、第54回下水道研究発表会のウェブサイト([URL]http://www.gesuikyou.jp/presenter2017/pdf/54program_20170703.pdf)に掲載
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176752
【氏名又は名称】三菱化工機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 玉友
(72)【発明者】
【氏名】花岡 平
(72)【発明者】
【氏名】小林 茂樹
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-154114(JP,A)
【文献】特開2007-044579(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0091125(KR,A)
【文献】国際公開第2014/017466(WO,A1)
【文献】特開昭63-190700(JP,A)
【文献】特開平08-117786(JP,A)
【文献】特開2010-207700(JP,A)
【文献】特開2006-007220(JP,A)
【文献】特開2017-077509(JP,A)
【文献】特開2010-221191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
C02F 3/02- 3/10
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊物質、有機物および窒素成分を含む有機性排水を嫌気条件下でメタン発酵するとともに
精密ろ過膜または限外ろ過膜を用いて膜ろ過を行って膜ろ過水を得る第1処理手段と、
前記膜ろ過水に含まれている窒素成分を
一槽式アナモックス槽で嫌気性アンモニア酸化反応
を行い、脱窒
する第2処理手段と、
を有することを特徴とする有機性排水処理装置であって、
前記第2処理手段における処理をアナモックス細菌、アンモニア酸化細菌および脱窒細菌によって行うことを特徴とする有機性排水処理装置。
【請求項2】
前記第1処理手段は、発生した二酸化炭素を除去する第3処理手段を有することを特徴とする請求項
1に記載の有機性排水処理装置。
【請求項3】
前記第1処理手段が膜分離メタン発酵槽で
あることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の有機性排水処理装置。
【請求項4】
前記膜分離メタン発酵槽が、懸濁性嫌気性菌を保持するメタン発酵槽、または嫌気性グラニュール汚泥を保持するメタン発酵槽であることを特徴とする請求項
3に記載の有機性排水処理装置。
【請求項5】
前記一槽式アナモックス槽が両端が開口した中空筒からなる担体を含み、前記担体の外側には前記アンモニア酸化細菌が保持され、前記担体の内側には前記アナモックス細菌が保持されていることを特徴とする請求項
3または請求項
4に記載の有機性排水処理装置。
【請求項6】
前記担体が、内径3~30mm、長さ3~30mmであり、両端が開口した中空筒からなる担体であることを特徴とする請求項
5に記載の有機性排水処理装置。
【請求項7】
前記担体を投入した一槽式アナモックス槽は、空気吹き込みおよび機械攪拌のうちの少なくとも一方の手段で槽内液を攪拌し、前記槽内液の溶存酸素濃度0.5mg/L以下に制御することを特徴とする請求項
5または請求項
6に記載の有機性排水処理装置。
【請求項8】
浮遊物質、有機物および窒素成分を含む有機性排水を嫌気条件下でメタン発酵するとともに
精密ろ過膜または限外ろ過膜を用いて膜ろ過を行って膜ろ過水を得る第1処理工程と、
前記膜ろ過水に含まれている窒素成分を
一槽式アナモックス槽で嫌気性アンモニア酸化反応
を行い、脱窒
する第2処理工程と、
を含むことを特徴とする有機性排水処理方法であって、
前記第2処理工程における処理をアナモックス細菌、アンモニア酸化細菌および脱窒細菌によって行うことを特徴とする有機性排水処理方法。
【請求項9】
前記第1処理工程は、発生した二酸化炭素を除去する第3処理工程を含むことを特徴とする請求項
8に記載の有機性排水処理方法。
【請求項10】
前記第1処理工程を膜分離メタン発酵槽で
行うことを特徴とする請求項
8または請求項9に記載の有機性排水処理方法。
【請求項11】
前記膜分離メタン発酵槽が、懸濁性嫌気性菌を保持するメタン発酵槽、または嫌気性グラニュール汚泥を保持するメタン発酵槽であることを特徴とする請求項1
0に記載の有機性排水処理方法。
【請求項12】
前記一槽式アナモックス槽が両端が開口した中空筒からなる担体を含み、前記担体の外側には前記アンモニア酸化細菌が保持され、前記担体の内側には前記アナモックス細菌が保持されていることを特徴とする請求項1
0または請求項1
1に記載の有機性排水処理方法。
【請求項13】
前記担体が、内径3~30mm、長さ3~30mmであり、両端が開口した中空筒からなる担体であることを特徴とする請求項1
2に記載の有機性排水処理方法。
【請求項14】
前記担体を投入した一槽式アナモックス槽は、空気吹き込みおよび機械攪拌のうちの少なくとも一方の手段で槽内液を攪拌し、前記槽内液の溶存酸素濃度0.5mg/L以下に制御することを特徴とする請求項1
2または請求項1
3に記載の有機性排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、産業排水、下水、またはこれらのうちの少なくとも1つを用いて混合した排水などの有機物および窒素成分を含んだ有機性排水を高度に処理する有機性排水処理装置および有機性排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生活排水、産業排水、下水、またはこれらのうちの少なくとも1つを用いて混合した排水などの有機物および窒素成分を含んだ有機性排水(以下、これらを総称して単に「有機性排水」と呼称する)は、活性汚泥法に代表される好気性微生物を用いる方式で処理されることが多い。非特許文献1に記載されているように、活性汚泥法は、微生物を水中に浮遊させた状態で用いる方法である。活性汚泥は、有機性排水に空気を吹き込み、攪拌することにより、有機性排水中の有機物を利用して種々の微生物が繁殖し、凝集性のあるフロックを形成したものである。活性汚泥には、細菌類、原生動物、後生動物などの微生物のほかに、非生物性の無機物や有機物が含まれている。
【0003】
活性汚泥法による下水処理(有機性排水処理)は実用化されてから約百年が経過しており、標準活性汚泥法や循環式硝化脱窒法などの様々な手法が開発されている。
図6は、活性汚泥法の一つであり、有機性排水中の窒素成分を除去する能力に長けた循環式硝化脱窒法に係る有機性排水処理施設の概要を示す説明図である。
【0004】
図6に示すように、循環式硝化脱窒法に係る有機性排水処理施設は、沈砂池601と、最初沈殿池602と、無酸素槽(脱窒槽)603と、好気槽(硝化槽)604と、最終沈殿池605とを有するとともに、発生する汚泥の消化処理を行う場合は、濃縮設備606と、消化設備607と、脱水設備608を有している。
【0005】
沈砂池601は、有機性排水(下水)中の土砂などを沈殿させて除くための池である。最初沈殿池602は、有機性排水中に浮遊している有機物を主体とする比重の大きいSSを沈殿分離して取り除くための設備である。無酸素槽603では攪拌のみを行い、好気槽604では曝気を行う。そして、無酸素槽603は、最初沈殿池602から脱窒反応に必要な有機物を供給し、有機性排水中の硝酸性窒素を脱窒細菌の働きで脱窒させて窒素ガスに変換する。また、好気槽604は、有機性排水中の有機性窒素やアンモニア性窒素をアンモニア酸化細菌の働きで亜硝酸性窒素に変換し、亜硝酸性窒素を亜硝酸酸化細菌の働きで硝酸性窒素に変換する。そして、好気槽604で処理された硝酸性窒素を含む有機性排水は、無酸素槽603に循環されることによって、前記したように、硝酸性窒素を脱窒細菌の働きで脱窒させて窒素ガスに変換され、有機性排水中から空気中に除去することができる。最終沈殿池605は活性汚泥を沈殿させ、上澄みのきれいな水(処理水)を排出する設備である。濃縮設備606では、最終沈殿池605で沈殿させて回収した余剰活性汚泥と、最初沈殿池602から回収した初沈汚泥(生汚泥)とを沈降分離等させることによって濃縮する。消化設備607では、濃縮した活性汚泥等をメタン生成古細菌の働きで消化するとともにメタンを生成し、これを回収する。脱水設備608では、メタン生成後の消化汚泥等を遠心分離機等で脱水する。そして、脱水された消化汚泥(脱水汚泥)は外部に搬送される。脱水で得られた脱水ろ液には高濃度の窒素成分やBOD成分が含まれていることがあるため、再度、脱窒を行うことを目的として沈砂池601に返送する場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】社団法人日本下水道協会著、「下水道施設計画・設計指針と解説 2009年版 後編」、社団法人日本下水道協会出版、2009年10月発行、p.12~p.20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の活性汚泥法、例えば、前記した循環式硝化脱窒法には、好気槽604で大量の空気と動力を用いて曝気を行う必要があり、多大なエネルギーを必要とするという問題があった。
また、無酸素槽603で脱窒を行う脱窒細菌は、脱窒反応の電子供与体として有機物を必要とするとともに、有機物を利用して増殖する従属栄養細菌である。そのため、脱窒細菌を用いて脱窒を行うと、必然的に大量の余剰活性汚泥が発生してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、エネルギー消費量および余剰活性汚泥の発生量を少なくできる有機性排水処理装置および有機性排水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決した本発明に係る有機性排水処理装置は、有機物および窒素成分を含む有機性排水を嫌気条件下でメタン発酵するとともに膜ろ過を行って膜ろ過水を得る第1処理手段と、前記膜ろ過水に含まれている窒素成分を嫌気性アンモニア酸化反応により脱窒する第2処理手段と、を有する。
【0010】
前記課題を解決した本発明に係る有機性排水処理方法は、有機物および窒素成分を含む有機性排水を嫌気条件下でメタン発酵するとともに膜ろ過を行って膜ろ過水を得る第1処理工程と、前記膜ろ過水に含まれている窒素成分を嫌気性アンモニア酸化反応により脱窒する第2処理工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る有機性排水処理装置および有機性排水処理方法は、エネルギー消費量および余剰活性汚泥の発生量を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る有機性排水処理装置の概要を示す説明図である。
【
図2】本実施形態に係る有機性排水処理装置の具体的な構成を示す概略構成図である。
【
図4】本実施形態に係る有機性排水方法の内容を説明するフロー図である。
【
図5】循環式活性汚泥法の一つである循環式硝化脱窒法に係る有機性排水処理施設に、実施例3に係る有機性排水処理装置を設けた様子を示す説明図である。
【
図6】循環式硝化脱窒法に係る有機性排水処理施設の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明に係る有機性排水処理装置および有機性排水処理方法の一実施形態について詳細に説明する。
[有機性排水処理装置]
図1は、本実施形態に係る有機性排水処理装置1の概要を説明する説明図である。
図2は、本実施形態に係る有機性排水処理装置1の構成を説明する概略構成図である。
本実施形態に係る有機性排水処理装置1は、生活排水、産業排水、下水、またはこれらのうちの少なくとも1つを用いて混合した排水などの有機物および窒素成分を含む有機性排水を高度に処理する装置である。
図1に示すように、本実施形態に係る有機性排水処理装置1は、第1処理手段20と、第2処理手段30とを有する。
【0014】
ここで、生活排水とは、炊事、洗濯、入浴などの一般的な人間の生活に伴って生じ、排出される水をいう。生活排水には、し尿や雨水が含まれていることもある。
産業排水とは、農林漁業(第一次産業)、鉱工業(第二次産業)からの排水をいう。
下水とは、生活排水が主体で、これに産業排水や場合によって雨水などが加わったものをいう。
なお、本明細書においては、埋立処分場からの浸出水も有機性排水として扱うことができる。
有機物は、有機化合物とも呼ばれており、炭素原子間の共有結合を基本として構成される化合物をいう。
窒素成分としては、遊離アンモニア(NH3)、アンモニウムイオン(NH4
+)、アンモニア性窒素(NH4-N)、亜硝酸性窒素(NO2-N)、硝酸性窒素(NO3-N)が挙げられる。アンモニア性窒素とは、アンモニアの形になっている窒素をいい、亜硝酸性窒素とは、亜硝酸の形になっている窒素をいい、硝酸性窒素とは、硝酸の形になっている窒素をいう。
高度に処理するとは、前記した有機物を除去することに加えて、前記した窒素成分を除去(脱窒)することをいう。
本実施形態に係る有機性排水処理装置1では後記する手段を有しているため、有機性排水中の有機物の濃度の高低や窒素成分の濃度の高低に関わらず処理できる。
【0015】
(流量調整槽10)
有機性排水処理装置1は、第1処理手段20の前段に第1処理手段20への有機性排水の流入量を調整する流量調整槽10を設けることができる。なお、流量調整槽10は必要に応じて設けることができるものであり、設けなくてもよい。
図2に示すように、流量調整槽10から第1処理手段20への有機性排水の流入量の調整は、例えば、流量調整槽10と第1処理手段20の間に設けられた流量調整槽ポンプP2の出力を調整することで行うことができる。流量調整槽10への有機性排水の流入は、有機性排水処理場施設との間に設けられたポンプP1で行うことができる。流量調整槽10は有機性排水を攪拌する攪拌機11を備えていてもよい。また、本実施形態においては、流量調整槽10の前段に有機性排水中の土砂などを沈殿させて除く沈砂池(図示せず)を設けることができる。
【0016】
(第1処理手段20)
第1処理手段20では、前記した有機性排水を嫌気条件下でメタン発酵するとともに膜ろ過を行って膜ろ過水を得る。つまり、第1処理手段20によって、有機性排水中に含まれている有機物の大部分を分解することができ、メタンを生成することができる。メタン発酵とは、様々な微生物による有機物の分解反応と、メタン生成古細菌が最終的にメタンを生成する反応との総称である。なお、第1処理手段20で生成されたメタンはバイオガスとして回収され、電気や熱の生成に用いられる。また、膜ろ過を行うので、膜ろ過水に浮遊物質が含まれることもない。有機物や浮遊物質は、第2処理手段30において活性汚泥の発生源となる。つまり、第2処理手段30に脱窒細菌が含まれている場合に活性汚泥が発生し易くなる。そのため、この第1処理手段20で有機物や浮遊物質をなるべく多く分解したり除去したりするのが好ましい。
【0017】
メタンの生成は、メタン生成古細菌(メタン生成アーキア)による働きで行われる。メタン生成古細菌とは、嫌気条件でメタンを生成する微生物群の総称であり、その全ては古細菌に分類される。メタン生成古細菌は、嫌気条件下、複数種の微生物によって有機物が完全に分解されて生成した水素、二酸化炭素、ギ酸、酢酸、メチルアミン類などを基質としてメタンを生成する。メタンの生成プロセスについて複数提案されているが、天然において多量のメタンが生成する可能性があるプロセスとして、次の2つが挙げられている。
CH3COO-+H++OH- → CH4+CO2+OH-
CO2+8H++8e- → CH4+2H2O
【0018】
本実施形態では、水素資化性メタン生成古細菌や酢酸資化性メタン生成古細菌などを用いることができる。本実施形態で用いることのできるメタン生成古細菌としては、例えば、Methanobacterium属、Methanobrevibacter属、Methanosphaera属、Methanothermus属、Methanococcus属、Methanolacinia属、Methanomicrobium属、Methanogenium属、Methanospirillum属、Methanoculleus属、Methanoplanus属、Methanosarcina属、Methanolobus属、Methanococcoides属、Methanothrix(Methanosaeta)属、Methanoregula属、Methanolinea属、Methanohalophilus属、Methanohalobium属、Methanocorpusculum属などが挙げられる。なお、本実施形態においてはこれらに限定されることなく、メタンを生成できる細菌であればどのようなものも用いることができる。メタン生成古細菌および前記した有機物を分解する様々な微生物は、既存の消化タンクなどから容易に得ることができる。
【0019】
第1処理手段20としては、膜ろ過を行う膜モジュール22を備えた膜分離メタン発酵槽20aを用いることが好ましい。このようにすると、有機性排水処理装置1は従来の活性汚泥法に係る装置と比較してコンパクト化でき、建設費用を低コスト化できる。また、活性汚泥法のように大量の酸素(空気)で曝気する必要がないので、エネルギー消費量を少なくでき、ランニングコストを低くできる。
膜分離メタン発酵槽は、懸濁性嫌気性菌(メタン生成古細菌を含む)を保持するメタン発酵槽、または嫌気性グラニュール汚泥を保持するメタン発酵槽とすることができる。なお、懸濁性嫌気性菌とは、グラニュール(粒状)を形成しない嫌気性菌を意味している。
【0020】
前者のメタン発酵槽内における嫌気性菌の保持は、例えば、単に有機性排水中に嫌気性菌を懸濁させておくことや、ポリエチレングリコール(PEG)系のプレポリマーを用いて所定の大きさに作製したゲル担体に嫌気性菌を付着固定化させておくことなどで行うことができる。付着固定化すると、膜ろ過において膜へのファウリングを生じ難くすることができる。
【0021】
また、後者のメタン発酵槽における嫌気性グラニュール汚泥とは、嫌気性菌の自己凝集(aggregation)と造粒(granulation)する性質を利用して形成された粒状化汚泥をいう。嫌気性グラニュール汚泥に含まれるグラニュールとは、一般的に粒径が0.2mm以上の大きさで形成されたものをいうが、本実施形態ではこれに限定されるものではなく、粒径が0.2mm未満のものであっても造粒体を形成していればグラニュールとして扱うことができる。嫌気性グラニュール汚泥とした場合も、膜ろ過において膜へのファウリングを生じ難くすることができる。
【0022】
嫌気条件は、外部から空気が流入しない密閉構造の槽を用いて処理を行うことで作り出すことができる。嫌気条件とするため、必要に応じて槽の気相(ヘッドスペース)に二酸化炭素(CO2)や窒素(N2)ガスなどを導入してもよい。ここで導入するCO2やN2ガスは、有機性排水処理装置1で生成したものを用いることができる。
【0023】
膜ろ過は、精密ろ過(Microfiltration;MF)膜、限外ろ過(Ultrafiltration;UF)膜、ナノろ過(Nanofiltration;NF)膜、逆浸透(Reverse Osmosis;RO)膜のうちの少なくとも一つを用いて行うことができる。このようにすると、所定の大きさの有機物は透過できないので、後述する第2処理手段30における活性汚泥の発生量を少なくすることができる。本実施形態では、前記した中でも、MF膜またはUF膜を用いるのが好ましい。MF膜やUF膜を用いてろ過すると、固形の有機物だけでなく、メタン生成古細菌などの微生物を含まない有機性排水(膜ろ過水)を後述する第2処理手段30に供給することができる。つまり、MF膜やUF膜を用いることによって、有機性排水処理装置1は、第1処理手段20からのメタン生成古細菌の流失を防ぎ、第1処理手段20内におけるメタン生成古細菌の生細胞数を高く維持できる。本実施形態では、孔径が1μm以下のMF膜を用いるのがより好ましい。このようにすると、NF膜やRO膜を用いる場合と比較して、ろ過に使用する膜ろ過ポンプP4の動力を抑えることができる。
【0024】
膜ろ過に用いる膜は、塩素化ビニル樹脂(CPVC)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などで形成されたものを用いることができる。膜ろ過に用いる膜の形態は、平膜、管状膜、中空糸膜(内径が5mm以下、好ましくは3mm以下の管状膜)のいずれも採用することができる。
【0025】
以上に説明した第1処理手段20として用いられる膜分離メタン発酵槽としては、例えば、クロスフロー型嫌気性膜バイオリアクター(Membrane Bioreactor;MBR)、浸漬型嫌気性MBR(槽別置型)や浸漬型嫌気性MBR(一体型)などを用いることができる。なお、
図2には、浸漬型嫌気性MBR(一体型)21を例示している。
【0026】
クロスフロー型嫌気性MBRは、メタン発酵させるメタン発酵槽と、汚泥を膜で分離する膜分離装置とを独立して設置し、膜分離装置の膜モジュール内部に高い圧力を加えて汚泥を流して膜ろ過を行う。
浸漬型嫌気性MBR(槽別置型)と浸漬型嫌気性MBR(一体型)21は、膜ろ過ポンプP4で吸引することによって膜分離、すなわち膜ろ過を行う。浸漬型嫌気性MBR(槽別置型)は、メタン発酵槽と膜分離装置とを独立して設置したものであり、浸漬型嫌気性MBR(一体型)21は、メタン発酵槽内に膜分離装置を設置したものである。
【0027】
本実施形態では、前記したいずれの膜分離メタン発酵槽も採用可能であるが、
図2に示すように、浸漬型嫌気性MBR(一体型)21を採用するのが好ましい。浸漬型嫌気性MBR(一体型)21を採用すると、槽内に膜モジュール22を収めるので、設置面積が減り、装置をよりコンパクト化できる。また、浸漬型嫌気性MBR(一体型)21を採用すると、ポンプ(流量調整槽ポンプP2や膜ろ過ポンプP4)の設置数を少なくすることができる。そのため、有機性排水処理装置1は、建設費用やランニングコストを低コスト化でき、さらに省エネルギー化できる。なお、浸漬型嫌気性MBR(槽別置型)を採用した場合、浸漬型嫌気性MBR(一体型)21と比較すると、膜の洗浄が容易になる。
【0028】
第1処理手段20は、
図2に示すように、第1処理手段20で発生したCO
2を除去する第3処理手段25を有しているのが好ましい。例えば、生活排水などの有機物および窒素成分の濃度の低い有機性排水がメタン発酵してCO
2が生じると有機性排水のpHが下がってしまうおそれがあるが、前記した第3処理手段25を有し、常時または適時作動させてCO
2を除去することにより、そのようなおそれを防ぐことができる。つまり、第3処理手段25でCO
2を除去するので、有機性排水のpHを下がり難くすることができる。そのため、得られる膜ろ過水のpHを後段の第2処理手段30で行うアナモックス反応に好適な7~8.5の範囲に調整するのが容易となる。なお、有機物の濃度が高く、窒素成分(NH
4-N)の濃度が低い有機性排水もあるが、そのような有機性排水においても同様の効果を得ることができる。
【0029】
第3処理手段25としては、例えば、
図2に示すように、第3処理手段25のヘッドスペースの気体を循環させることにより、膜へのファウリングを防止する膜洗浄ブロワB1と接続され、内部に水27を収容した所定の大きさの容器26を用い、この水27にCO
2を吸収させて除去するCO
2除去装置が挙げられる。
【0030】
大型装置の場合には、例えば、棚段式連続吸収塔を用いて、メタン発酵で発生したバイオガスを上向流で流す一方、水を下向流で散水させて気液接触させ、バイオガス中のCO2を水に吸収させて除去する装置を採用することができる。また、CO2除去剤として、粒状消石灰を用いる充填塔タイプの装置を採用することができる。
【0031】
また、第3処理手段25としては、例えば、CO2を装置外に排出することによって除去する排出機構(図示せず)なども挙げられる。このような排出機構としては、例えば、CO2選択透過膜(促進輸送膜)などが挙げられる。CO2選択透過膜は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリアミドアミン(PAMAM)などを用いて作製したデンドリマー膜(中心から規則的に分枝した構造を持つ樹状高分子膜)を挙げることができる。また、このようなCO2選択透過膜を用いる場合、吸引ポンプを用いて槽内からのCO2の輸送を促してもよい。
なお、第3処理手段25は前記したものに限定されず、CO2を除去できればどのようなものも用いることができる。
【0032】
第1処理手段20には、メタン生成古細菌の活性を維持することを目的として、カルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト、カリウム、ナトリウム、亜鉛、セレン、タングステン、モリブデン、銅、マンガン、アルミニウムなどの無機塩(金属)を添加する装置(図示せず)を設けることができる。また、第1処理手段20には、水温を調節するための加熱装置(図示せず)を設けることができる。当該加熱装置は、第1処理手段20で得られたメタンガスを燃焼させて得られた熱や電気を利用することができる。第1処理手段20には、pH計、溶存炭酸ガス計、温度計などのセンサSr1を設けることができる。なお、センサSr1は、計測対象ごとに個別に設けられるものであるが、
図2では図示の関係で1つのみ図示している。
【0033】
(第2処理手段30)
第2処理手段30では、第1処理手段20で得られた膜ろ過水に含まれている窒素成分を嫌気性アンモニア酸化(anaerobic ammonium oxidation;Anammox、アナモックス)反応により脱窒する。アナモックス反応は、嫌気条件下でアナモックス細菌がNH4-NとNO2-Nとを基質としてN2を生成する反応であり、次のような反応式1が示されている。
【0034】
〔反応式1〕
1.0NH4
++1.32NO2
-+0.066HCO3
-+0.13H+ →
1.02N2+0.26NO3
-+0.066CH2O0.5N0.15+2.03H2O
【0035】
アナモックス細菌は、Bacteria界Planctomycetes門Brocadiales目に帰属される細菌を用いることができる。アナモックス細菌は現在のところ純粋培養がなされていないため、系統分類には全て“Candidatus”が付けられている。本実施形態で用いることのできるアナモックス細菌として、具体的には、Candidatus Brocadia、Candidatus Kuenenia、Candidatus Jettenia、Candidatus Anammoxoglobus、Candidatus Scalindua、Candidatus Anammoximicrobiumなどが挙げられる。なお、本実施形態においては分類名や学名に限定されることなく、アナモックス反応ができる細菌であればどのようなものも用いることができる。アナモックス細菌は、既存の廃水処理装置から採取した活性汚泥や余剰活性汚泥を種汚泥とし、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素を含む培地または下水などの有機性排水で長期間培養することによって得ることができる。また、アナモックス細菌は、下記組成のアナモックス培地で前記した種汚泥を培養することで得ることもできる。
【0036】
〔アナモックス培地の組成〕
・NaNO2:0~300mg/L
・NH4Clまたは(NH4)2SO4:0~300mg/L
・KH2PO4:54mg/L
・KHCO3:125mg/L
・Micro Fe/EDTA♯1:1mL/L
(♯1の組成:FeSO4・7H2O 9g、EDTA・2Na 5g)
【0037】
前記反応式1に示すように、アナモックス反応を行う膜ろ過水に含まれているNH
4-NとNO
2-Nとは、モル比が約1:1~1:1.5であるのが好ましく、約1:1.32であるのがより好ましい。しかしながら、原水である有機性排水や膜ろ過水の状態にもよるが、膜ろ過水のNH
4-Nの含有量は高い一方で、NO
2-Nの含有量は低い場合が多く、モル比が前記したものにならないことが多い。そのため、膜ろ過水に含まれているNH
4-Nの一部を硝化細菌(アンモニア酸化細菌)で酸化させ、NO
2-Nを生成するのが好ましい。これは、膜ろ過水中のNH
4-Nの一部をNO
2-Nに変換するので、「部分亜硝酸化」などと呼ばれている。すなわち、本実施形態では“嫌気性”アンモニア酸化反応(アナモックス反応)を行うものであるが、膜ろ過水について酸素を全く含まない状態とする必要はない。本実施形態では、膜ろ過水に含まれているNH
4-Nの一部をアンモニア酸化細菌がNO
2-Nに変換するのに必要な程度の酸素を含ませておくことができる。つまり、前記した“嫌気性”とは、第2処理手段30を完全に嫌気条件とすることを意味するものではなく、単にアナモックス反応が行われる条件が(すなわち、アナモックス反応が行われる限られた一部の範囲が)嫌気条件であればよいことを示すものである。従って、第2処理手段30中の膜ろ過水に部分亜硝酸化を行うのに十分な酸素が含まれていない場合、
図2に示すように、ブロワB2を使用して曝気を行うことができる。第2処理手段30中の膜ろ過水の酸素濃度は、溶存酸素計DOSで測定することができる。
【0038】
部分亜硝酸化は原理上、NH4-Nの約半分をNO2-Nに変換するだけでよいので、従来の活性汚泥法におけるNH4-Nの全量をNO2-Nに硝化する反応と比較して、接触させる空気量を約半分にできる。従って、本実施形態においては、NH4-NをNO2-Nに硝化するのに曝気動力を用いる場合は、従来の活性汚泥法と比較して、必要な曝気動力を半分に削減できる。そのため、このような場合における電気量などのエネルギー消費量も約半分に低減できる。
【0039】
アンモニア酸化細菌としては、例えば、Nitrosomonas属、Nitrosococcus属、Nitrosospira属、Nitrosolobus属、Nitrosovibrio属などに属する細菌を用いることができるが、これらに限定されない。
【0040】
NO
2-Nの生成は、アナモックス反応を行う槽と同じ槽で行ってもよいし、別の槽で行ってもよい。なお、NO
2-Nの生成とアナモックス反応を同じ槽で行うものを一槽式アナモックス槽といい、別の槽で行うものを二槽式アナモックス槽という。
本実施形態においては、
図2に示すように、一槽式アナモックス槽31を用いるのが好ましい。一槽式アナモックス槽31を用いると二槽式アナモックス槽(図示せず)の場合と比較して省スペース化や建設費用の低コスト化を図ることができる。
なお、二槽式アナモックス槽を用いると、アナモックス細菌とアンモニア酸化細菌とを別個の槽で管理できることから、各細菌の管理や反応の制御が容易である。また、二槽式アナモックス槽を用いると、アンモニア酸化細菌で生成したNO
2-Nを含む膜ろ過水のNO
2
-濃度と流量を調節してアナモックス反応を行う槽に導入することができるので、NH
4-NとNO
2-Nとのモル比を前記したものとし易い。
【0041】
前記した反応式1に示したように、アナモックス反応ではNO3-Nが少量生成される。そのため、第2処理手段30には、生成したNO3-Nを還元してN2にする脱窒細菌が含まれているのが好ましい。このようにすると、最終的にアナモックス細菌と脱窒細菌とにより、有機性排水に含まれていたNH4
+やNH4-Nの大部分を環境に害のないN2に変換できる。
【0042】
脱窒細菌としては、例えば、Pseudomonas denitrificans、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas stutzeri、Pseudomonas mendocina、Comamonas testosteroni、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes faecalisなどを用いることができるが、これらに限定されない。脱窒細菌による処理は、第2処理手段30とは別の手段(槽)で行ってもよい。
【0043】
なお、アンモニア酸化細菌と脱窒細菌は、既存の廃水処理装置から採取した活性汚泥や余剰活性汚泥から容易に得ることができる。
アナモックス細菌およびアンモニア酸化細菌は増殖に有機物を利用しない独立栄養細菌であるので、膜ろ過水に溶解性の有機物が含まれていたとしても大量に増殖することはない。そのため、本実施形態では、アナモックス細菌およびアンモニア酸化細菌に由来する活性汚泥の生成量を低減できる。
一方、脱窒細菌は有機物を電子供与体にしてNO3-NをN2に変換するが、有機物を利用して増殖する従属栄養細菌である。そのため、本実施形態では、脱窒細菌に由来する活性汚泥は生成されるものの、前述した第1処理手段20で既に有機物の大部分がメタンに分解されており、膜ろ過水に残存している有機物の濃度は低くなっている。従って、本実施形態では、従来の活性汚泥法と比較すると脱窒細菌が増殖してなる活性汚泥の生成量を低減できる。また、本実施形態においては、第2処理手段30において、脱窒細菌をはじめとする従属栄養細菌の増殖が抑えられることから、アナモックス細菌の優占化を図ることができる。そのため、アナモックス細菌の高濃度化と、効率的なアナモックス反応とを行うことができる。なお、本実施形態においては、脱窒細菌によるNO3
-からN2への変換を十分に行わせるため、メタノール以外の有機物を添加することができる。
【0044】
一槽式アナモックス槽31は、内径3~30mm、長さ3~30mmであり、両端が開口した中空筒からなる担体32を含むことが好ましい。
図3の斜視図は、この担体32を示している。担体32を含んでいると、担体32の外側32aにはアンモニア酸化細菌が保持されるので、一槽式アナモックス槽31に通気した空気などに由来する溶存酸素が消費される。そのため、担体32の内側32bは嫌気条件となり易い。従って、担体32の内側32bはアナモックス細菌が増殖し易く、保持も行い易いものとなる。また、担体32の内側32bはアナモックス細菌による嫌気性アンモニア酸化反応を好適に行うことができる。本実施形態においては、より好適なアナモックス細菌の増殖・保持とアナモックス細菌による嫌気性アンモニア酸化反応とを行わせる観点から、中空筒の担体32の内径は5~15mmとするのが好ましく、長さは5~15mmとするのが好ましい。中空筒は円柱状が好ましいが、三角柱状、四角柱状など任意の形状とすることができる。担体32は、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂などの任意の樹脂で形成することができる。なお、担体32の外径は特に限定されない。担体32の投与量は、アナモックス槽31の容積に対して容積比で、例えば、10~20%とすることができ、好ましくは15%とすることができるが、これに限定されない。
【0045】
また、担体32を投入した一槽式アナモックス槽31は、空気吹き込みおよび機械攪拌のうちの少なくとも一方の手段で膜ろ過水が供給された槽内液を攪拌し、槽内液の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に制御することが好ましい。このようにすると、担体32の外側に保持させたアンモニア酸化細菌に対しては必要最小限度から適度な濃度でO2を供給することができ、部分亜硝酸化を行わせることができる。また、前記したように、本実施形態においては、担体32の表面に保持されたアンモニア酸化細菌によってO2が消費される。従って、本実施形態では、担体32の内側32bに保持させたアナモックス細菌に対しては嫌気条件を保つことができ、アナモックス反応を行わせることができる。つまり、溶存酸素濃度を前記したように制御すると、アナモックス細菌によるアナモックス反応に重大な影響を与えることなく、アンモニア酸化細菌による部分亜硝酸化を行うことができる。なお、槽内液の溶存酸素濃度は前記した効果をより確実に得るため、0.3mg/L以下に制御することがより好ましい。
【0046】
第2処理手段30には、アナモックス細菌、アンモニア酸化細菌、脱窒細菌などの活性を維持することを目的として、カルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト、カリウム、ナトリウム、亜鉛、セレン、タングステン、モリブデン、銅、マンガン、アルミニウムなどの無機塩(金属)を添加する装置(図示せず)を設けることができる。また、第2処理手段30には、水温を調節するための加熱装置(図示せず)を設けることができる。当該加熱装置は、第1処理手段20で得られたメタンガスを燃焼させて得られた熱や電気を利用することができる。第2処理手段30には、pH計、溶存酸素計DOS、アンモニアセンサ、硝酸センサ、温度計などのセンサSr2を設けることができる。なお、センサSr2は、計測対象ごとに個別に設けられるものであるが、
図2では図示の関係で1つのみ図示している。
【0047】
第2処理手段30は、槽内の処理の後段に、余剰活性汚泥を沈殿させる沈殿ゾーン33が設けられていてもよい。なお、この沈殿ゾーン33は任意に設けることができるものであり、設けていなくてもよい。沈殿ゾーン33は、担体32を透過させない程度の開き目を有する金属フェンスなどで槽内を区切ることによって設けることができる。この沈殿ゾーン33を設けた場合は、後記する沈殿池50を省略することができる。
【0048】
(有機性排水処理装置1におけるその他の設備)
本実施形態に係る有機性排水処理装置1は、
図1および
図2に示すように、第1処理手段20から回収した汚泥を脱水する脱水設備40を備えていてもよい。脱水設備40としては、例えば、遠心分離機、ベルトプレス脱水機、スクリュープレス脱水機などを用いることができる。脱水設備40で脱水された脱水汚泥は搬出され、焼却したり、最終処分場で埋立てに使われたりするなど適宜処理される。
図2に示すように第1処理手段20から脱水設備40への汚泥の搬送はこれらの間に設けられたポンプP3で行うことができる。
【0049】
また、
図2に示すように、第1処理手段20と第2処理手段30との間に嫌気処理水槽23が設けられていてもよい。この場合、嫌気処理水槽23は、第1処理手段20との間に膜ろ過水を移送させる膜ろ過ポンプP4が設けているのが好ましく、第2処理手段30との間に膜ろ過水を移送させるポンプP5が設けられているのが好ましい。このようにして嫌気処理水槽23を設けると、嫌気処理水槽23に膜ろ過水を一時的に貯留するとともに、第2処理手段30に流入させる膜ろ過水の流入量を任意に調節できる。
【0050】
図2に示すように、第2処理手段30の後段には、第2処理手段30で処理した処理水中の汚泥を沈降分離させ、沈殿させた汚泥と、上澄みのきれいな水(処理水)とに分離して、当該きれいな水(処理水)を排出する沈殿池50が設けられていてもよい。なお、この沈殿池50は処理水を貯留する機能も有している。
【0051】
また、第1処理手段20から生じたバイオガス(メタン)を外部に排出するガス管に、当該ガス管の開口部からの空気の流入を防止するための水封器61を設けることができる。さらに、前記ガス管には、バイオガスの生成量を計測するためのガスメータ62を設けることができる。また、前記ガス管には、バイオガスに含まれている硫化水素を除去するための脱硫塔63を設けることができる。水封器61、ガスメータ62および脱硫塔63は市販されているものを用いることができる。
【0052】
本実施形態に係る有機性排水処理装置1は、流量調整槽10や脱水設備40などを有している場合であっても、第1処理手段20および第2処理手段30を有しているので、従来の活性汚泥法(例えば、循環式硝化脱窒法)による設備(
図6参照)と比較して設備設置面積、コストなどを低減することができる。
【0053】
以上に説明した本実施形態に係る有機性排水処理装置1は、前述したように、第1処理手段20で有機物をメタン発酵するとともに、膜ろ過を行って膜ろ過水を得ることができる。有機物はメタン発酵によって分解されメタンとCO2になるので、膜ろ過水に含まれる有機物の濃度を低くできる。なお、膜ろ過水に含まれる有機物はほぼ全てが溶解性のものである。また、膜ろ過によってろ過されるので、浮遊物質については全く含まれていない状態になる。従って、後段の第2処理手段30では当該膜ろ過水による余剰活性汚泥の発生量を低減できる。その一方で、第1処理手段20で処理した膜ろ過水にはNH4-Nが多く含まれることが多いが、第2処理手段30でNH4-Nを部分亜硝酸化し、NH4-Nの約半分をNO2-Nに変換することができる。そして、第2処理手段30ではアナモックス細菌により、NH4-NとNO2-NとからN2を生成できる。有機性排水処理装置1は、部分亜硝酸化で使用する空気量を従来の活性汚泥法におけるNH4-Nの全量をNO2-Nに硝化する反応と比較して約半分にできる。そのため、本実施形態においては、NH4-NをNO2-Nに硝化するのに必要な曝気動力および電気量等を約半分に低減できる。従って、有機性排水処理装置1は、エネルギー消費量を少なくできる。また、前記したように、第1処理手段20で処理した膜ろ過水には有機物や浮遊物質が殆ど含まれていないので、第2処理手段30で従属栄養細菌である脱窒細菌がこれらをもとに増殖し難く、余剰活性汚泥の発生量を低減できる。
【0054】
[有機性排水処理方法]
次に、本実施形態に係る有機性排水処理方法について説明する。
本実施形態に係る有機性排水処理方法は、生活排水、産業排水、下水、またはこれらのうちの少なくとも1つを用いて混合した排水などの有機物および窒素成分を含む有機性排水を高度に処理する方法である。本実施形態に係る有機性排水処理方法は、前述した本実施形態に係る有機性排水処理装置1で好適に実施することができるので、有機性排水処理装置1を例にして以下の説明を行う。従って、本実施形態に係る有機性排水処理方法と本実施形態に係る有機性排水処理装置1とで共通する構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0055】
図4は、本実施形態に係る有機性排水処理方法の内容を説明するフロー図である。
図4に示すように、本実施形態に係る有機性排水処理方法は、第1処理工程S1と、第2処理工程S2とを含み、これらの工程についてはこの順で行う。
【0056】
(第1処理工程S1)
第1処理工程S1は、前記した有機性排水を嫌気条件下でメタン発酵するとともに膜ろ過を行って膜ろ過水を得る工程である。この第1処理工程S1は、有機性排水処理装置1における第1処理手段20で行うことができる。従って、第1処理工程S1で処理された膜ろ過水には、有機物の濃度が低くなり、浮遊物質も含まれていない。そのため、後段の第2処理工程S2では当該膜ろ過水による余剰活性汚泥の発生量を低減できる。
【0057】
第1処理工程S1は膜分離メタン発酵槽20aで行うのが好ましい。このようにすると、本実施形態では、従来の活性汚泥法と比較して第1処理工程S1で用いる装置をコンパクト化でき、建設費用を低コスト化できる。また、活性汚泥法のように大量の酸素(空気)で曝気する必要がないので、ランニングコストを低コスト化できる。膜分離メタン発酵槽20aは、懸濁性嫌気性菌(メタン生成古細菌を含む)を保持するメタン発酵槽、または嫌気性グラニュール汚泥を保持するメタン発酵槽とすることができる。
【0058】
なお、この第1処理工程S1は、発生したCO2を除去する第3処理工程S3を含むのが好ましい。この第3処理工程S3は、有機性排水処理装置1における第3処理手段25で行うことができる。従って、第3処理工程S3を行ってCO2を除去するので、第1処理工程S1(メタン発酵)におけるpHが6.5以下に低下することを避け、また、膜ろ過水のpHを下がり難くすることができる。そのため、得られる膜ろ過水のpHを後段の第2処理工程S2で行うアナモックス反応に好適な7~8.5の範囲に調整することが容易となる。
【0059】
(第2処理工程S2)
第2処理工程S2は、膜ろ過水に含まれている窒素成分を嫌気性アンモニア酸化反応(アナモックス反応)により脱窒する工程である。この第2処理工程S2は、有機性排水処理装置1における第2処理手段30で行うことができる。このとき、必要に応じて膜ろ過水に含まれているNH4-Nの一部をアンモニア酸化細菌で酸化させ、NO2-Nを生成することができる。本実施形態においては、NH4-Nの約半分をNO2-Nに変換するだけでよいので、従来の活性汚泥法におけるNH4-Nの全量をNO2-Nに硝化する反応と比較して、接触させる空気量を約半分にできる。従って、前記したように、本実施形態においては、NH4-NをNO2-Nに硝化するのに必要な曝気動力および電気量等を約半分に低減できる。
【0060】
第2処理工程S2は、一槽式アナモックス槽31で行うのが好ましい。一槽式アナモックス槽31を用いると二槽式アナモックス槽と比較して省スペース化や建設費用の低コスト化を図ることができる。
また、一槽式アナモックス槽31が、内径3~30mm、長さ3~30mmであり、両端が開口した中空筒からなる担体32を含むことが好ましい。このようにすると、担体32の外側にはアンモニア酸化細菌が保持されるので、一槽式アナモックス槽31に通気した空気などに由来する溶存酸素が消費される。そのため、担体32の内側は嫌気条件となり易い。従って、担体32の内側32bはアナモックス細菌が増殖し易く、保持も行い易いものとなる。また、担体32の内側32bはアナモックス細菌による嫌気性アンモニア酸化反応を好適に行うことができる。
【0061】
さらに、担体32を投入した一槽式アナモックス槽31は、空気吹き込みおよび機械攪拌のうちの少なくとも一方の手段で膜ろ過水が供給された槽内液を攪拌し、槽内液の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に制御することが好ましい。このようにすると、担体32の外側に保持させたアンモニア酸化細菌に対しては必要最小限度から適度な濃度でO2を供給することができ、部分亜硝酸化を行わせることができる。なお、前記したように担体32の表面に保持されたアンモニア酸化細菌によってO2が消費されるので、担体32の内側32bに保持させたアナモックス細菌に対しては嫌気条件を保つことができ、アナモックス反応を行わせることができる。なお、槽内液の溶存酸素濃度は前記した効果をより確実に得るため、0.3mg/L以下に制御することがより好ましい。
【0062】
以上に説明した本実施形態に係る有機性排水処理方法は、前述したように、第1処理工程S1で有機物をメタン発酵するとともに、膜ろ過を行って膜ろ過水を得ることができる。有機物はメタン発酵によって分解されメタンとCO2になるので、膜ろ過水に含まれる有機物の濃度を低くできる。なお、膜ろ過によってろ過されるので、浮遊物質については全く含まれていない状態になる。従って、後段の第2処理工程S2では当該膜ろ過水による余剰活性汚泥の発生量を低減できる。その一方で、第1処理工程S1で処理した膜ろ過水にはNH4-Nが多く含まれることが多いが、第2処理工程S2でNH4-Nを部分亜硝酸化し、NH4-Nの約半分をNO2-Nに変換することができる。そして、第2処理工程S2ではアナモックス細菌により、NH4-NとNO2-NとからN2を生成する。本実施形態に係る有機性排水処理方法は、部分亜硝酸化で使用する空気量を従来の活性汚泥法におけるNH4-Nの全量をNO2-Nに硝化する反応と比較して約半分にできる。従って、本実施形態においては、NH4-NをNO2-Nに硝化するのに必要な曝気動力および電気量等を約半分に低減できる。つまり、本実施形態に係る有機性排水処理方法によれば、エネルギー消費量を少なくできる。また、前記したように、第1処理工程S1で処理した膜ろ過水には有機物や浮遊物質が殆ど含まれていないので、第2処理工程S2で従属栄養細菌である脱窒細菌がこれらをもとに増殖し難く、余剰活性汚泥の発生量を少なくできる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを対比して、本発明の効果について具体的に説明する。
【0064】
〔実施例1〕
図2に示す構成の有機性排水処理装置1を用いて下水を処理した。
図2に示すように、この有機性排水処理装置1は、第1処理手段20として膜分離メタン発酵槽を用い、第2処理手段30として一槽式アナモックス槽31(以下、単に「アナモックス槽31」という)を用いた。なお、膜分離メタン発酵槽として具体的には、浸漬型嫌気性MBR(一体型)21(以下、単に「嫌気性MBR21」という)を用いた。嫌気性MBR21の前段には、下水を移送するためのポンプP1を介して流量調整槽10が設けられている。流量調整槽10では、沈砂池(図示せず)から過剰量の下水を汲み上げて常時オーバーフローさせることによって、常に新鮮な下水を嫌気性MBR21に供給できるようにした。
流量調整槽10から嫌気性MBR21に供給される有機性排水の水質は下記のとおりである。ここで、SSは浮遊物質の量を表し、COD
crは二クロム酸カリウムによる酸素要求量を表し、BODは生物化学的酸素要求量を表し、T-Nは全窒素量を表し、T-Pは全リン量を表す。
【0065】
<下水の水質>
・pH:7.1~7.8(平均7.4)
・SS:150~310mg/L(平均200mg/L)
・CODcr:310~510mg/L(平均400mg/L)
・BOD:110~250mg/L(平均165mg/L)
・T-N:25~50mg/L(平均35mg/L)
・T-P:2.0~6.5mg/L(平均4.0mg/L)
【0066】
嫌気性MBR21には、発生したCO2を除去するため、第3処理手段25として所定の大きさの容器に水を入れたCO2除去装置を設けた。このCO2除去装置は、嫌気性MBR21の膜を洗浄する膜洗浄ブロワB1と接続されており、膜洗浄ブロワB1の送気力によって嫌気性MBR21と膜洗浄ブロワB1とCO2除去装置とを気体が循環できるようになっている。CO2除去装置は、嫌気性MBR21内の下水や汚泥のpHが6.5以下になると作動してCO2を除去するようにした。
【0067】
また、嫌気性MBR21とアナモックス槽31との間に、膜ろ過水を移送させる膜ろ過ポンプP4を介して嫌気処理水槽23を設けた。この嫌気処理水槽23で膜ろ過水を一時的に貯留し、ポンプP5を用いてアナモックス槽31への膜ろ過水の流入量を調節した。
なお、嫌気性MBR21およびアナモックス槽31は、25℃の温水をジャケットに通液し、25℃でそれぞれ処理を行った。
【0068】
嫌気性MBR21には、種汚泥として、下水汚泥を嫌気性消化している既存の嫌気性消化槽の消化汚泥をMLSS(活性汚泥浮遊物質)濃度が5000mg/Lとなるように投入した。そして、嫌気性MBR21に供給する下水の供給量を段階的に増加させた。
アナモックス槽31には、事前に単一窒素原としてNH4-N濃度で250mgN/L(なお、Nは窒素の含有量であることを示している)を含む人工排水を供給した。このようにすることで、ポリプロピレン樹脂製の担体32(内径約5mm、長さ約5mmの中空円筒)の外側の表面に好気性アンモニア酸化細菌を、内側の表面にアナモックス細菌をそれぞれ付着させ、増殖させた。
【0069】
このようにして得られた担体32をアナモックス槽31の容積に対して容積比で15%投入して、嫌気性MBR21で処理した膜ろ過水の供給量を段階的に増加させた。
【0070】
嫌気性MBR21は有効液容量が20Lであり、膜表面積が0.07m2/枚であるPVDF製の中空糸膜エレメント(膜モジュール22)が2枚、槽内液に浸漬した状態で保持されている。槽内液は、膜ろ過ポンプP4で吸引されて中空糸膜エレメントによりろ過される。なお、中空糸膜エレメントは、下方から嫌気性MBR21の気体が曝気されるようになっている。これにより、汚泥が中空糸膜エレメントの膜表面に付着するのを防止した。
【0071】
アナモックス槽31は有効液容量が6.7Lであり、溶存酸素濃度が0.3ppm以下になるように空気曝気を行った。
【0072】
下水処理量は20L/日からスタートし、嫌気性MBR21におけるBOD除去率(嫌気性MBR21でろ過した膜ろ過水のBOD濃度)と、アナモックス槽31で処理した処理水のBOD濃度と、T-N濃度と、NH4-N濃度とを測定し、確認しながら段階的に下水処理量を増加させた。
【0073】
最終的な処理条件は、下水処理量80L/日、嫌気性MBR滞留時間6時間およびアナモックス槽滞留時間2時間(装置全体の滞留時間8時間)、処理水温25℃となった。
その結果、嫌気性MBR21でろ過した膜ろ過水の水質と、アナモックス槽31で処理した処理水の水質とは以下のようになった。なお、水質は、SS、BOD、T-N、NH4-Nを測定した。
【0074】
【0075】
前記した最終的な処理条件で処理した嫌気性MBR21内の汚泥濃度(MLSS)は8000~10000mg/Lであった。また、嫌気性MBR21から発生するバイオガス量は6.08L/日(6.08L/80L-下水より、76L/m3-下水)で、バイオガス中のCH4濃度は60%であった。すなわち、嫌気性MBR21から発生するCH4ガス量は3.65L/日(3.65L/80L-下水より、45.6L/m3-下水)であった。なお、CO2除去装置を作動させたときはバイオガス中のCH4濃度は80%以上になった。
【0076】
従来の下水処理法である循環式硝化脱窒法では、滞留時間14~18時間の大きな反応槽で処理することによって処理水のBODを<10mg/L、T-Nを<10mg/Lで処理していた。
これに対し、実施例1では滞留時間8時間(従来法の約半分)の大きさの反応槽で、従来法よりも優れた水質の処理水(処理水のBODが<5mg/L、T-Nが<10mg/L)を得ることができた。
【0077】
また、従来法では、発生した汚泥を回収して汚泥処理用の嫌気性消化槽を設けることによってはじめてバイオガスを得ることができたが、実施例1では汚泥処理用の嫌気性消化槽を設けなくてもバイオガスを得ることができることを確認した。
【0078】
さらに、従来法では、同じ処理量の有機性排水を処理した場合に、多くの余剰活性汚泥が発生していたが(11400~12000mg/80L-下水)、実施例1では余剰活性汚泥の発生量が少ないことが確認された(4800mg/80L-下水)。
【0079】
嫌気性MBR21と一槽式アナモックス槽31内に存在する細菌について、それぞれの槽内汚泥をサンプリングして、これらの汚泥からDNAを抽出し、16S rDNAの解析を行って調査した。
嫌気性MBR21内には、メタン生成古細菌として、Methanosaeta属、Methanoregula属、Metahnobacterium属、Methanospirillum属、Methanolinea属が検出され、細菌としては、Firmicutes、Bacteroidetes、Proteobacteria、Chloroflexi、Synergistetes、Actinobacteria、Candidate division TM-7、Acidobacteria、Verrucomicrobia、Chlorobi、Planctomycetesが検出された。
一槽式アナモックス槽31内には、アナモックス細菌として、Candidatus Kuenenia、Candidatus Brocadiaが検出され、アンモニア酸化細菌として、Nitrosomonas属、Nitrobacter属、Nitrospira属が検出された。
【0080】
〔実施例2〕
食品廃棄物の懸濁液を
図2に示す構成の有機性排水処理装置1で処理した。
実施例2においては、流量調整槽10(有効液容量:1m
3)、嫌気性MBR21(有効液容量:6m
3、MLSS:6000~8000mg/L)、アナモックス槽31(有効液容量:1m
3)、沈殿池50(有効液容量:約100L)とした。
なお、実施例2における嫌気性MBR21には、槽内液を攪拌するための攪拌翼と、これを回転させるためのモータとを設けたが(いずれも図示せず)、CO
2除去装置は設けなかった。
また、流量調整槽10から沈殿池50までの処理工程は、液温度30℃にほぼ保たれた。加温が必要なときは、前記した各槽内に設置した熱交換器に50℃の温水を流した。
【0081】
実施例2では、食品廃棄物をディスポーザーで破砕して得た懸濁液を流量調整槽10に1m3/日投入した。すなわち、実施例2では、原料を貯留する槽(原料貯槽)として流量調整槽10を用いた。流量調整槽10内で食品廃棄物は滞留時間1日の間に酸発酵が進行した。
流量調整槽10における食品廃棄物の懸濁液の性状は下記のとおりである。ここで、BOD、T-N、T-Pは前記と同様であり、TSはtotal solids(蒸発残留物)を表し、VSはvolatile solids(強熱減量)を表す。なお、VSは、蒸発残留物を600±25℃、30~40分間強熱灰化したとき揮散する物質をいい、主に有機物質量の目安となる。
【0082】
<食品廃棄物の懸濁液の性状>
・pH:3.8~4.5(平均4.0)
・TS:18000~22000mg/L(平均20000mg/L)
・VS:16200~19800mg/L(平均18000mg/L)
・BOD:11700~14300mg/L(平均13000mg/L)
・T-N:600~800mg/L(平均700mg/L)
・T-P:69~85mg/L(平均77mg/L)
【0083】
酸発酵が進んだ食品廃棄物スラリーは、流量調整槽10から嫌気性MBR21に供給され、当該嫌気性MBR21で滞留時間5日間の間メタン発酵を行った。なお、嫌気性MBR21の槽内の汚泥濃度は10000~15000mg/Lとなるように汚泥を引き抜いて維持した。
【0084】
嫌気性MBR21の中には、膜面積が2.5m2である中空糸膜エレメントが浸漬されている。メタン発酵させた食品廃棄物の懸濁液を当該中空糸膜エレメントでろ過して得られた膜ろ過水をアナモックス槽31に供給した。
嫌気性MBR21からは、メタン濃度約62%、CO2濃度約38%のバイオガスが12.5m3N/日発生した。
実施例2における膜ろ過水の水質は下記のとおりである。ここで、TS、VS、BOD、T-N、NH4-N、T-Pは前記と同様である。
【0085】
<膜ろ過水の水質>
・pH:7.3~7.7(平均7.5)
・TS:5100~6300mg/L(平均5700mg/L)
・VS:3200~4000mg/L(平均3600mg/L)
・BOD:550~750mg/L(平均650mg/L)
・T-N:600~700mg/L(平均650mg/L)
・NH4-N:400~500mg/L(平均450mg/L)
・T-P:60~80mg/L(平均70mg/L)
【0086】
アナモックス槽31には、内径約10mm、長さ約10mmのポリプロピレン製の担体32がアナモックス槽31の容積に対して容積比で15%投入した。そして、アナモックス槽31は、DOが0.3ppm(0.3mg/L)以下となるよう曝気空気量を制御した。
【0087】
アナモックス槽31は、滞留時間1日で処理したところ、担体32の外側の表面に茶褐色の好気性アンモニア酸化細菌などが繁殖し、担体32の内側の表面に赤褐色のアナモックス細菌が増殖して、供給された膜ろ過水中に残存するBOD成分(各種有機物)および窒素成分を処理できた。
【0088】
アナモックス槽31には、後段の沈殿池50の越流水を膜ろ過水の供給量と同じ供給量で返送した。
沈殿池50としては、直径35cm、直胴部高さ1m、容量約100Lの容器を使用し、沈殿池50に流入する汚泥を沈降分離した。
沈殿池50の越流水(実施例2に係る有機性排水処理装置1によって処理された処理水)の水質は下記のとおりである。ここで、SS、BOD、T-N、T-Pは前記と同様である。
【0089】
<沈殿池50の越流水の水質>
・pH:7.1~7.3(平均7.2)
・SS:10~20mg/L(平均15mg/L)
・BOD:10~20mg/L(平均15mg/L)
・T-N:130~170mg/L(平均150mg/L)
・T-P:55~65mg/L(平均60mg/L)
【0090】
なお、越流水(処理水)のT-Pは、必要に応じて所要量のポリ塩化アルミニウム(PAC)を沈殿池50に投入することで、20mg/L以下まで低減できることを確認した。
【0091】
〔実施例3〕
図5は、実施例3に係る有機性排水処理装置1を活性汚泥法の一つである循環式硝化脱窒法に係る有機性排水(下水)処理施設に設けた様子を示す説明図である。
図6は、前述したように、循環式硝化脱窒法に係る有機性排水(下水)処理施設の概要を示す説明図であり、ここでは比較例1として参照した。
【0092】
図6に示すように、比較例1は、最初沈殿池602で回収した生汚泥と、最終沈殿池605で回収した余剰活性汚泥とを濃縮設備606で、例えば、固形物濃度3~4%に濃縮する。そして、前述したように、濃縮した生汚泥および余剰活性汚泥を消化設備607に投入して中温(35~38℃)または高温(52~56℃)で嫌気性細菌によって汚泥中の有機物を分解して消化ガス(メタンガス)に転換し、汚泥を減容化している。減容化された余剰活性汚泥等はその後、脱水設備608で脱水される。脱水で得られた脱水ろ液には高濃度の窒素成分やBOD成分が含まれていることがあるため、再度、脱窒を行うことを目的として沈砂池601に返送する場合がある。この場合、脱水ろ液が供給された下水の窒素濃度が高くなるため、好気槽604で曝気空気量を増やす必要があり、多大な電力が必要である。
【0093】
そこで、
図5に示すように、脱水ろ液に含まれる窒素成分やBOD成分を除去して水処理への負荷を低減するため、脱水設備608から沈砂池601に返送する経路に嫌気性MBR21とアナモックス槽31とを有する有機性排水処理装置1を設けて実施例3とし、試験を行ったものである。実施例3に係る嫌気性MBR21およびアナモックス槽31は、30℃の温水をジャケットに通液し、30℃でそれぞれ処理を行った。なお、試験で用いた脱水ろ液の水質は下記のとおりである。ここで、BOD、T-N、NH
4-N、T-Pは前記と同様である。
【0094】
<脱水ろ液の水質>
・pH:7.5~8.5(平均8.0)
・BOD:100~300mg/L(平均200mg/L)
・T-N:700~1000mg/L(平均800mg/L)
・NH4-N:630~900mg/L(平均730mg/L)
・T-P:50~90mg/L(平均70mg/L)
【0095】
実施例3に係る嫌気性MBR21の有効液容量は40Lであり、MLSS:6000~8000mg/L、滞留時間:8時間で処理した。実施例3に係る嫌気性MBR21のバイオガス発生量は9L/日(メタン濃度65%)であった。嫌気性MBR21には、膜面積0.07m2、膜細孔径0.05μmの精密ろ過膜(MF)エレメントを6枚装着した。この嫌気性MBR21は、嫌気性MBR21のヘッドスペースのガスを循環させてMFエレメントの下部からバブリングし、膜のファウリングや目詰まりを防止した。嫌気性MBR21によって処理された膜ろ過水の水質は下記のとおりである。ここで、BOD、T-N、NH4-N、T-Pは前記と同様である。
【0096】
<膜ろ過水の水質>
・pH:7.3~7.7(平均7.5)
・BOD:10~30mg/L(平均20mg/L)
・T-N:650~850mg/L(平均760mg/L)
・NH4-N:600~800mg/L(平均700mg/L)
・T-P:50~70mg/L(平均60mg/L)
【0097】
得られた膜ろ過水をアナモックス槽31に供給して処理を行った。アナモックス槽31の有効液容量は60Lであり、滞留時間:12時間で処理した。アナモックス槽31には、内径5mm、長さ5mmのポリプロピレン製の担体32(
図6において図示せず)をアナモックス槽31の容積に対して容積比で15%投入した。なお、この担体32は、合成アンモニア排水(アンモニア濃度600mg/L)でアナモックス細菌と好気性アンモニア酸化細菌を付着させて増殖させたものである。
【0098】
実施例3に係る有機性排水処理装置1への脱水ろ液の供給量は、40L/日から徐々に増加させ、最終的に120L/日で安定運転を行った。
なお、アナモックス槽31は、溶存酸素濃度が0.3ppm以下になるように曝気空気量を制御して処理を行った。
アナモックス槽31からの流出水(処理水)は、沈殿池50でSS分を沈降分離し、得られた越流水を沈砂池601に供給するようにした。このようにして得られた越流水の水質は下記のとおりである。ここで、BOD、T-N、NH4-N、T-Pは前記と同様である。
【0099】
<越流水の水質>
・pH:7.1~7.5(平均7.3)
・BOD:5~10mg/L(平均7mg/L)
・T-N:150~250mg/L(平均200mg/L)
・NH4-N:100~200mg/L(平均150mg/L)
・T-P:40~60mg/L(平均50mg/L)
【0100】
以上に説明したように、脱水ろ液を実施例3に係る有機性排水処理装置1で処理することで、BOD成分および窒素成分を効率的に除去でき、水処理への負荷を大幅に低減できることが確認できた。
【0101】
〔実施例4〕
次に、従来法の循環式硝化脱窒法に係る有機性排水(下水)処理施設(比較例2)におけるエネルギー消費量と、本発明に係る有機性排水処理装置1(実施例4)におけるエネルギー消費量とを比較した。なお、実施例4におけるエネルギー消費量は、比較例2に係る装置と同程度の処理量で下水を処理する場合(下記参照)を想定して試算したものである。
【0102】
<想定した処理量>
・下水処理量:10000m3/日
<想定した処理性能>
・BOD:200mg/L → 20mg/L
・SS:200mg/L → 20mg/L
・T-N:33mg/L → 10mg/L
【0103】
比較例2に係る装置の構成は、
図6に示すように、沈砂池601と、最初沈殿池602と、無酸素槽(脱窒槽)603と、好気槽(硝化槽)604と、最終沈殿池605とを有するとともに、濃縮設備606と、消化設備607と、脱水設備608とを有する。沈砂池601、最初沈殿池602、無酸素槽603、好気槽604および最終沈殿池605が水処理を行うものであり、濃縮設備606、消化設備607および脱水設備608が汚泥処理を行うものである。比較例2のエネルギー消費量を表2に示す。
【0104】
【0105】
実施例4に係る装置の構成は、流量調整槽10と、嫌気性MBR21と、アナモックス槽31と、沈殿池50とを有するとともに、脱水設備40を有する。流量調整槽10、嫌気性MBR21、アナモックス槽31および沈殿池50が水処理を行うものであり、脱水設備40が汚泥処理を行うものである。実施例4のエネルギー消費量を表3に示す。
【0106】
【0107】
表2に示すように、比較例2に係る装置は、全体で4150.51kWh/日の電力量が必要であり、単位消費電力は0.415kWh/m3であった。
これに対し、表3に示すように、実施例4に係る装置は、全体で2773.56kWh/日の電力量が必要であり、単位消費電力は0.277kWh/m3であった。
つまり、実施例4に係る装置のエネルギー消費量は、比較例2に係る装置のエネルギー消費量の約67%であると算出された。従って、本発明に係る有機性排水(下水)処理装置および有機性排水(下水)処理方法は、従来法と比較してエネルギー消費量を少なくできることが確認された。
【符号の説明】
【0108】
1 有機性排水処理装置
10 流量調整槽
20 第1処理手段
25 第3処理手段
30 第2処理手段
31 一槽式アナモックス槽(アナモックス槽)
32 担体
40 脱水設備
S1 第1処理工程
S2 第2処理工程
S3 第3処理工程