(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】剥離シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220726BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20220726BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20220726BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20220726BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 104
B32B27/42
B32B7/06
C09J7/40
(21)【出願番号】P 2018060467
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100195888
【氏名又は名称】竹原 裕一
(72)【発明者】
【氏名】黒川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 優季
【審査官】磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-131977(JP,A)
【文献】特開昭54-011943(JP,A)
【文献】国際公開第2012/153776(WO,A1)
【文献】特開2011-110878(JP,A)
【文献】特開2018-027642(JP,A)
【文献】特開2014-054811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び剥離層を有する剥離シートであって、
前記剥離層が、架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)とを含む剥離剤組成物から形成された層であり、
前記架橋性官能基はメラミン化合物(B)と反応する官能基であり、
前記架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)が、臭素価10g/100g以下の水素添加物であり、
前記架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)は、該ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含む、剥離シート。
【請求項2】
前記架橋性官能基が、水酸基である、請求項1に記載の剥離シート。
【請求項3】
温度70℃の高温環境下に7日間曝露した後の前記剥離シートの剥離力を加熱後剥離力Yとし、前記高温環境下への曝露なしの状態における前記剥離シートの剥離力を初期剥離力Xとしたときに、{(加熱後剥離力Y-初期剥離力X)/初期剥離力X}×100で表される変化率が、±30%以内である、請求項1
又は2記載の剥離シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、剥離シートは、例えば、紙、プラスチックフィルム、又はポリエチレンラミネート紙などの基材と、基材上に設けられた剥離層とを有する。剥離層は、反応性化合物を含む剥離剤組成物を基材上に塗布して硬化させることにより形成される。
剥離シートは、例えば、粘着シート等が有する粘着剤層の保護用シート、樹脂シート作製用工程フィルム、セラミックグリーンシート成膜用工程フィルム、及び合成皮革製造用工程フィルム等として幅広く用いられている。
【0003】
剥離層を形成するための剥離剤組成物としては、シリコーン樹脂、シロキサン、又はシリコーンオイル等のシリコーン化合物を含むシリコーン系剥離剤組成物が広く用いられている。
しかし、シリコーン化合物は、剥離層との接触面、例えば、粘着シートの粘着剤層表面に移行することがある。また、移行後、徐々に気化することもある。
そのため、シリコーン系剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シートを電子材料用途で用いると、シリコーン化合物が電子部品に移行し、電子部品の腐食や誤作動の原因となることがある。
【0004】
そこで、シリコーン系剥離剤組成物を用いることなく、剥離層を形成する検討が行われている。
非シリコーン系剥離剤組成物から形成された剥離層を用いた場合、剥離層に積層される対象物との剥離力は、シリコーン系剥離剤組成物から形成された剥離層と比べて、通常、高くなる。しかし、積層される対象物の保持性(脱落耐性)が優先される場合には剥離力が高い方が好ましいため、非シリコーン系剥離剤組成物が選択されることが多い。
そのような非シリコーン系剥離剤組成物としては、例えば、特許文献1には、ポリオレフィン、1分子中にイソシアネート基を3個以上有するイソシアネート、及びポリオレフィンポリオールを少なくとも含有する剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シートについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シリコーン系剥離剤組成物以外の剥離剤組成物で形成した剥離層は、剥離力の経時変化が大きく、経時により剥離力が大きく上昇しやすい。特に、剥離層の剥離力が高めに設定される場合、経時変化が大きくなりやすく、剥離力が高めに安定した剥離層は稀である。
【0007】
そこで、本発明は、剥離力の経時変化が小さく、特に、初期の剥離力が高めに設定された処方であっても高温保管で剥離力の安定した剥離層を有する剥離シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のポリブタジエンとメラミン化合物とを含む剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シートが、上記の課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]に関する。
[1] 基材及び剥離層を有する剥離シートであって、前記剥離層が、架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)とを含む剥離剤組成物から形成された層であり、前記架橋性官能基はメラミン化合物(B)と反応する官能基であり、架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)は、該ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含む、剥離シート。
[2] 前記架橋性官能基が、水酸基である、上記[1]に記載の剥離シート。
[3] 架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)が、臭素価10g/100g以下の水素添加物である、上記[1]又は[2]に記載の剥離シート。
[4] 温度70℃の高温環境下に7日間曝露した後の前記剥離シートの剥離力を加熱後剥離力Yとし、前記高温環境下への曝露なしの状態における前記剥離シートの剥離力を初期剥離力Xとしたときに、{(加熱後剥離力Y-初期剥離力X)/初期剥離力X}×100で表される変化率が、±30%以内である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の剥離シート。
[5] 粘着剤層から剥離する際の剥離力が2500mN/20mm以上である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の剥離シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥離力の経時変化が小さく、特に、初期の剥離力が高めに設定された処方であっても高温保管で剥離力の安定した剥離層を有する剥離シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様の剥離シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
また、本明細書において、「有効成分」とは、剥離剤組成物に含まれる成分のうち、希釈溶媒を除いた成分を指す。
【0013】
[剥離シートの構成]
本発明の剥離シートは、基材と、該基材上に設けた剥離層とを有する。
図1は、本発明の一態様の剥離シートを示す概略断面図である。剥離シート1は、基材10と該基材10上に設けられた剥離層11とを有する。剥離層11は、特定のポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)とを含む剥離剤組成物から形成された架橋物である。
なお、基材10と剥離層11との間には、図示しない易接着層、帯電防止層等の他の層が設けられていてもよい。
以下、本発明の剥離シートを構成する剥離層と基材とについて説明する。
【0014】
<剥離層>
本発明の剥離シートが有する剥離層は、特定のポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)とを含む剥離剤組成物から形成することができる。
以下、剥離層の形成材料である剥離剤組成物について説明する。
なお、以降の記載において、「剥離剤組成物中の有効成分の全量に対する各成分の含有量」は、「当該剥離剤組成物から形成された剥離層中の各成分の含有量」とみなすこともできる。
【0015】
(剥離剤組成物)
剥離剤組成物は、特定のポリブタジエン(A)、すなわち、架橋性官能基を有し、ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で、1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)と、メラミン化合物(B)とを含む。
なお、以降の説明では、「架橋性官能基を有し、ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)」を「ポリブタジエン(A)」と略記することもある。
【0016】
本発明者らは、シリコーン系剥離剤組成物以外の剥離剤組成物について、当該剥離剤組成物から形成した剥離層の剥離力の経時変化を小さくすることができ、しかも皮膜強度を十分に確保するための処方について種々検討を行った。その結果、架橋性官能基を有し、ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との組み合わせが、有効な処方であることを見出した。
また、架橋剤として、メラミン化合物に代えて、イソシアネート化合物を用いた場合、架橋性官能基を有し、ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)を用いても皮膜強度を確保することができないこともわかった。
これらの結果を踏まえ、本発明者らは、架橋性官能基を有し、ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)とを含む剥離剤組成物から形成された剥離剤層を有する剥離シートが、上記問題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0017】
なお、本発明の一態様において、剥離剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分(A)及び(B)以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0018】
以下、剥離剤組成物に含まれる各成分について説明する。
【0019】
(ポリブタジエン(A))
本発明では、ポリブタジエン(A)として、架橋性官能基を有し、ポリブタジエンの全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエンを用いる。
本明細書において、「架橋性官能基」とは、架橋剤としてのメラミン化合物(B)と反応する官能基を意味する。
【0020】
ポリブタジエン(A)が有する架橋性官能基は、メラミン化合物(B)との関係で選択される。
ポリブタジエン(A)が有する架橋性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、チオール基、及びビニル基等が挙げられる。
これらの中でも、メラミン化合物(B)との反応性をより良好なものとする観点から、架橋性官能基は、水酸基であることが好ましい。
また、ポリブタジエン(A)は、架橋性官能基を少なくとも1つ有していればよいが、架橋性官能基を2つ以上有することが好ましい。ポリブタジエン(A)が架橋性官能基を2つ以上有する場合、これらの官能基は互いに同一であっても異なっていてもよいが、互いに同一であることが好ましい。
【0021】
ポリブタジエン(A)が有する架橋性官能基の位置は、架橋性官能基がメラミン化合物(B)と反応し得る位置であれば、特に限定されない。
ここで、本発明の一態様において、架橋点間の距離を長くして、剥離性により優れた剥離層を形成する観点から、ポリブタジエン(A)のポリマー骨格を構成する分子鎖の少なくとも一方の末端に架橋性官能基を有することが好ましく、ポリブタジエン(A)のポリマー骨格を構成する分子鎖の両末端に架橋性官能基を有することがより好ましく、ポリブタジエン(A)のポリマー骨格を構成する主鎖の両末端のみに架橋性官能基を有することが更に好ましい。
【0022】
また、ポリブタジエン(A)は、該ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含む。
ポリブタジエンは、1,4-シス体、1,4-トランス体、及び1,2-ビニル体をユニットとするポリマーである。各ユニットの含有比率が異なるポリブタジエンは各種市販されている。また、各ユニットの含有比率が異なるポリブタジエンは、定法により合成することもできる。
本発明では、ポリブタジエン(A)の全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)を剥離剤組成物に使用することで、初期の剥離力が高い値を示しながら剥離力の経時変化が小さい剥離層を有する剥離シートを得ることができる。1,2-ビニル体の含有比率が50モル%未満であり、1、4-シス体及び1、4-トランス体の一方又は双方の含有比率が高いポリブタジエンを剥離剤組成物に使用して形成した剥離層は、初期の剥離力が低くなると共に、剥離力の経時変化が大きくなる。
ポリブタジエン(A)における1、2-ビニル体の含有比率は、好ましくは60モル%以上であり、ポリブタジエン(A)の合成をより容易とする観点から、より好ましくは70~90モル%、更に好ましくは80~90モル%である。
【0023】
ポリブタジエン(A)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,000~30,000、より好ましくは1,000~20,000、更に好ましくは1,000~10,000、より更に好ましくは1,000~5,000である。
【0024】
また、ポリブタジエン(A)は、水素添加物であってもよい。ポリブタジエン(A)の水素添加の程度は、部分水添であってもよいし、完全水添であってもよいが、剥離層の剥離力の化学的安定性を向上させる観点からは、ビニル基の残存率が低い部分水添物であることが好ましく、完全水添物であることがより好ましい。
かかる観点から、ポリブタジエン(A)は、臭素価が低いことが好ましい。臭素価が低い程、ポリブタジエン(A)中のビニル基の残存率が低く、酸化等の化学変化を受けにくいことから剥離層の剥離力の経時安定性を良好なものとし易い。
具体的には、ポリブタジエン(A)の水素添加物の臭素価は、好ましくは100g/100g以下、より好ましくは20g/100g以下、更に好ましくは10g/100g以下、より更に好ましくは8g/100g以下である。
なお、臭素価は、JIS K 2605に準拠して測定した値である。
なお、ポリブタジエン(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、本発明の一態様において、ポリブタジエン(A)は、水素添加物と非水素添加物の混合物であってもよい。
【0025】
(メラミン化合物(B))
メラミン化合物(B)はポリブタジエン(A)の架橋剤として使用され、ポリブタジエン(A)が有する架橋性官能基と架橋反応が可能な化合物であれば特に限定されない。
剥離剤組成物がメラミン化合物(B)を含むことによって、当該剥離剤組成物によって形成される剥離層の皮膜強度を向上させることができる。なお、このような効果は、メラミン化合物に代えて、イソシアネート化合物等を用いた場合には得られない。
【0026】
メラミン化合物(B)は、好ましくは、メチロール化メラミン樹脂、イミノメチロール化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、エチル化メラミン樹脂、プロピル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ヘキシル化メラミン樹脂、及びオクチル化メラミン樹脂からなる群より選ばれる1種以上である。
これらの中でもメチロール化メラミン樹脂、イミノメチロール化メラミン樹脂、及びメチル化メラミン樹脂からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、メチル化メラミン樹脂が更に好ましい
【0027】
(ポリブタジエン(A)及びメラミン化合物(B)の含有量及び含有比率)
本発明の一態様において、剥離剤組成物中におけるポリブタジエン(A)及びメラミン化合物(B)の合計含有量は、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
【0028】
本発明の一態様において、剥離層の経時安定性をより向上させる観点から、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との含有比率(A/B)は、質量比で、好ましくは5/95~95/5であり、より好ましくは10/90~90/10である。
ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との更に好ましい含有比率(A/B)の範囲は、積層される対象物との剥離力として求められる値によって異なる。例えば、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との組み合わせにより得られる剥離層の剥離力の範囲内でより高い剥離力が求められる場合には、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との更に好ましい含有比率(A/B)は、質量比で、5/95~30/70であり、より更に好ましくは10/90~20/80である。逆に、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との組み合わせにより得られる剥離層の剥離力の範囲内で低い剥離力が求められる場合には、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との更に好ましい含有比率(A/B)は、質量比で、70/30~95/5であり、より更に好ましくは80/20~90/10である。
【0029】
(酸触媒)
本発明の一態様において、剥離剤組成物は、さらに酸触媒を含んでいてもよい。酸触媒を用いることで、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)との架橋反応性を向上させて、剥離層の剥離力の経時安定性をより向上させやすいものとできる。
酸触媒としては、特に制限はないが、例えばp-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、及びアルキルリン酸エステル等の有機系の酸触媒が好適である。
上記酸触媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸触媒の使用量は、ポリブタジエン(A)とメラミン化合物(B)の合計量100質量部に対し、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.5~10質量部、さらに好ましくは1~5質量部である。
【0030】
(その他の添加剤)
本発明の一態様において、剥離剤組成物は、必要に応じて、上述の成分(A)及び(B)、並びに酸触媒以外の添加剤を含んでいてもよい。
このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機または有機フィラー、帯電防止剤、界面活性剤、光開始剤、光安定剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0031】
(シリコーン化合物)
本発明の一態様において、剥離剤組成物は、シリコーン化合物を実質的に含有しないことが好ましい。
シリコーン化合物を含む剥離剤組成物から形成された剥離層を有する剥離シートを電子材料用途で用いると、シリコーン化合物が電子部品に移行し、電子部品の腐食や誤作動の原因となることがあるからである。
本発明の一態様において、剥離剤組成物中のシリコーン化合物の含有量としては、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは5.0質量%未満、より好ましくは2.0質量%未満、更に好ましくは1.0質量%未満、より更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満である。
【0032】
(イソシアネート化合物)
本発明では、剥離剤組成物にメラミン化合物(B)が配合されていれば、他の架橋剤を併用してもよいしは併用しなくてもよいが、本発明の一態様においては、剥離剤組成物は、イソシアネート化合物を実質的に含有しないことが好ましい。イソシアネート化合物は、ポリブタジエン(A)の官能基が水酸基の場合、メラミン化合物(B)と反応して架橋体を形成することが予想されるが、反応条件等に制約され剥離剤層として十分な皮膜を形成できない。また、未反応のイソシアネート化合物が剥離剤層に残留すると、積層する対象物との相関作用が生じ、経時で剥離力が上昇するおそれがある。
本発明の一態様において、剥離剤組成物中のイソシアネート化合物の含有量としては、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.0質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、より更に好ましくは0.001質量%未満である。
【0033】
(非反応性ポリオレフィン)
本発明の一態様において、剥離剤組成物は、非反応性ポリオレフィンを実質的に含有しないことが好ましい。
本明細書において、「非反応性ポリオレフィン」は、架橋性官能基を有しないポリオレフィンの非水素添加物又は架橋性官能基を有しないポリオレフィンの水素添加物を意味する。
剥離剤組成物が非反応性ポリオレフィンを含むことにより、剥離剤組成物中において架橋する成分が相対的に少なくなり、剥離層の皮膜強度が低下し得る。また、耐溶剤性も低下し得る。非反応性ポリオレフィンがブリードアウトし、経時変化や工程内汚染、キャストした樹脂への移行が発生する。
本発明の一態様において、剥離剤組成物中の非反応性ポリオレフィンの含有量としては、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは5.0質量%未満、より好ましくは2.0質量%未満、更に好ましくは1.0質量%未満、より更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満である。
【0034】
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル)
本発明の一態様において、剥離剤組成物は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを実質的に含有しないことが好ましい。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を意味する。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルが架橋性官能基を有しない場合、剥離剤組成物中において架橋する成分が相対的に少なくなり、剥離層の皮膜強度が低下し得る。
ポリ(メタ)アクリル酸エステルが架橋性官能基を有する場合、架橋性官能基を有するポリオレフィンの水素添加物(A)とメラミン化合物(B)との架橋反応物の剥離剤組成物中における割合が相対的に低下し、剥離層の剥離力の経時安定性が低下する恐れがある。また、剥離層の皮膜強度も低下する恐れがある。
本発明の一態様において、剥離剤組成物中の架橋性官能基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルの含有量としては、剥離剤組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは5.0質量%未満、より好ましくは2.0質量%未満、更に好ましくは1.0質量%未満、より更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満である。
【0035】
(希釈溶媒)
本発明の一態様において、基材への塗布性を向上させる観点から、剥離剤組成物は、上述した各種有効成分に希釈溶媒を加えて、溶液の形態としてもよい。
希釈溶媒は、上述の成分(A)及び(B)の溶解性が良好である有機溶剤の中から選択される。
このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘプタン、オクタン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、希釈溶媒として使用する有機溶剤は、上述の成分(A)及び(B)の合成時に使用された有機溶剤をそのまま用いてもよいし、剥離剤組成物を均一に塗布できるように、上述の成分(A)及び(B)の合成時に使用された有機溶剤及び/又はそれ以外の1種以上の有機溶剤を加えてもよい。
【0036】
希釈溶媒の量は、剥離剤組成物が塗布時に適度な粘度を有する量となるように適宜選定すればよい。
具体的には、剥離剤組成物の溶液に含まれる有効成分(固形分)濃度は、好ましくは0.1~15質量%、より好ましくは0.2~10質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%の範囲となるように調製される。
【0037】
<剥離層の厚さ>
剥離層の厚さは、特に制限はないが、通常25~1000nmであればよく、好ましくは50~500nmである。剥離層の厚みが25nm以上であれば、塗布量のバラつきによる剥離力のバラつきを抑制することができる。また、剥離層の厚みが1000nm以下であれば、剥離剤組成物の塗布膜の硬化性を良好にすることができる。
剥離層の厚さは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0038】
<基材>
本発明の剥離シートに用いる基材としては、例えば、上質紙、クレーコート紙、キャストコート紙、クラフト紙等の紙類、これらの紙類にポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、合成紙等の紙材シート、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;アセテート樹脂;ポリスチレン樹脂;塩化ビニル樹脂等の合成樹脂のシート等が挙げられる。
基材は、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
基材の厚さは、特に制限はないが、通常10~300μmであればよく、好ましくは20~200μmである。基材の厚さが10~300μmであれば、例えば、剥離シートを用いた粘着シート等に、印刷、裁断、貼付等の加工を施すのに適したコシや強度を与えることができる。
【0039】
また、基材として合成樹脂を用いる場合、基材の剥離層を設ける表面には、基材と剥離層との密着性を向上させるために、所望により酸化法や凹凸化法等の方法により表面処理を施すことができる。
酸化法としては、例えば、コロナ放電表面処理、クロム酸表面処理(湿式)、火炎表面処理、熱風表面処理、オゾン・紫外線照射表面処理等が挙げられる。また、凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選定されるが、一般には、コロナ放電表面処理法が効果及び操作性の観点から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0040】
本発明の剥離シートは、剥離層側の面にエンボス加工等を施して、剥離シートの表面に凹凸を形成してもよい。
また、本発明の剥離シートは、基材と剥離層との間に、易接着層、帯電防止層等の他の層が設けられていてもよい。剥離シートが易接着層を備えることにより、剥離シートからの剥離層の脱落を効果的に防止することができる。
【0041】
易接着層は、通常、基材における剥離層側の面上に易接着コート剤を塗布して形成される。易接着コート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート含有樹脂およびこれらの共重合体、および天然ゴムや合成ゴムを主成分とするコート剤等が挙げられる。
これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、異なる2種を組み合わせて使用してもよい。なお、基材表面に対する易接着コート剤の塗布性、および基材と易接着層との密着性を向上させるため、基材における易接着コート剤を塗布する面に対して、化学処理、放電処理等の表面処理を行ってもよい。
【0042】
易接着層の厚さは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、当該厚さは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。当該厚さが50nm以上であることで、易接着層の効果を良好に得ることができる。また、当該厚さが5μm以下であることで、易接着層の基材とは反対側の面の滑り性が良好なものとなり、易接着層上に剥離剤組成物を塗布する作業性が良好になる。
【0043】
[剥離シートの物性]
<剥離力の経時変化>
本発明の一態様の剥離シートは、加熱前後での剥離力の変化率が、好ましくは±30%以内、より好ましくは±25%以内、更に好ましくは±20%以内である。
加熱前後での剥離力の変化率は、以下の方法により測定することができる。
温度70℃の高温環境下に7日間曝露した後の剥離シートの剥離力を加熱後剥離力Yする。
当該高温環境下への曝露なしの状態における剥離シートの剥離力を初期剥離力Xとする。
そして、測定された加熱後剥離力Yと初期剥離力Xから、以下の式を用いて加熱前後での剥離力の変化率を計算することができる。
加熱前後での剥離力の変化率={(加熱後剥離力Y-初期剥離力X)/初期剥離力X}×100
なお、初期剥離力Xは、温度70℃の高温環境下への曝露は勿論のこと、他の高温環境下への曝露も行われていない、作製後室温下で保管された剥離シートを用いて測定される。
また、初期剥離力X及び加熱後剥離力Yは、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。また、本発明において剥離力の変化率が±Z%以内とは、変化率が(‐Z)%以上(+Z)%以下であることを意味する。
【0044】
<剥離力>
一般に剥離シートの剥離力の好ましい値は、適用される用途や積層する対象物の種類によってさまざまであり、剥離時の剥離操作がスムーズになるよう低い剥離力が好ましい場合があったり、剥離操作するまでの対象物の保持性を向上させるために高い剥離力が好ましい場合があったりする。
本発明の剥離シートは、初期の剥離力の設定が高い場合に使用されることが好ましい。
本発明の一態様において、剥離シートが示す剥離層の剥離力は、好ましくは2500mN/20mm以上、より好ましくは3000mN/20mm以上、更に好ましくは3500mN/20mm以上である。なお、当該剥離シートの剥離力の上限値は、通常、6000mN/20mmが好ましい。
なお、剥離シートの剥離力は、積層される対象物によって異なるため、その評価方法としては、後述する実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0045】
[剥離シートの用途]
本発明の剥離シートは、粘着シート等の各種粘着体の保護シートとして使用可能であり、例えば、基材と、基材の一面に設けられる粘着剤層とを備える粘着シートの粘着剤層側の面に貼付して使用される。また、各種樹脂シート、セラミックグリーンシート、合成皮革、各種複合材料等を作製するときの工程フィルムとしても使用可能である。工程フィルムとして使用する場合には、剥離シートの剥離層側の面に樹脂、セラミックスラリー等を流延、塗布等して形成した各種のシート材料を剥離シートから剥離する工程にて使用する。また、本発明の剥離シートは、剥離層が非シリコーン系剥離剤組成物により形成されていることから、電子機器用として用いることが特に好ましい。例えば、リレー、各種スイッチ、コネクタ、モーター、ハードディスク等の電子部品の製造工程において、電子部品の組立て時の仮止めや部品の内容表示等の粘着シート用の剥離シートとして好適に用いることができる。
【0046】
[剥離シートの製造方法]
本発明の剥離シートは、例えば、基材の少なくとも一方の面上に、剥離剤組成物を塗布し、加熱処理し、ポリブタジエン(A)及びメラミン化合物(B)を架橋させて剥離層としての架橋体を形成することにより製造することができる。
剥離剤組成物は、上述したように、希釈溶媒により希釈された溶液の形態であってもよい。
【0047】
加熱処理温度は、100~170℃が好ましく、130~160℃がより好ましい。また、加熱処理時間は、特に制限ないが、30秒~5分間が好ましい。
【0048】
剥離剤組成物の塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ゲートロールコート法、ダイコート法等が挙げられる。
【0049】
剥離剤組成物の塗布厚さは、得られる剥離層の厚みが、上述の範囲となるように調整される。
【実施例】
【0050】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
以下の実施例及び比較例における物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0052】
[剥離層の厚さ]
剥離層の厚さは、分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社製、商品名:分光エリプソメトリー 2000U)を用いて測定した。
【0053】
[実施例及び比較例]
実施例1~9及び比較例1~4の剥離シートを、以下の手順で作製した。
【0054】
<実施例1>
ポリブタジエン(A)として、ポリブタジエン(A1)(日本曹達株式会社製、商品名:GI-2000、臭素価:8g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:2,000)を用いた。
ポリブタジエン(A1)は、主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンの水素添加物であり、1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)が、モル比で、0/15/85である。
架橋剤として、メラミン化合物であるヘキサメトキシメチルメラミン(日本サイテックインダストリーズ社製、製品名:サイメル303(商品名)、固形分濃度:100質量%)を用いた。
酸触媒として、p-トルエンスルホン酸を用いた。
【0055】
ポリブタジエン(A1)90質量部に対し、架橋剤を10質量部、及びp-トルエンスルホン酸を2.0質量部添加して、剥離剤組成物を得た。なお、ここでいう「質量部」は、有効成分(固形分)換算での質量部を意味しており、以下、特にことわりのない限り、同様の意味である。
p-トルエンスルホン酸は、メタノールとイソプロピルアルコールとの混合溶媒(質量比41.2:9.4)を用いて固形分濃度50質量%に希釈した溶液として添加した。
得られた剥離剤組成物は、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒(質量比6:4)を用いて固形分濃度を2.5質量%に希釈し、溶液の形態として、剥離剤組成物の塗布液とした。
【0056】
得られた剥離剤組成物の塗布液を、マイヤーバーを用いて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ケミカル社製、製品名:ダイアホイルT-100)の片面に塗布し、塗膜を形成した。
次いで、当該塗膜を、150℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ150nmの剥離層を形成し、剥離シートを得た。
【0057】
<実施例2>
ポリブタジエン(A1)と架橋剤との配合比率を変更し、ポリブタジエン(A1)50質量部に対して、架橋剤を50質量部添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
【0058】
<実施例3>
ポリブタジエン(A1)と架橋剤との配合比率を変更し、ポリブタジエン(A1)10質量部に対し、架橋剤を90質量部添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
【0059】
<実施例4>
ポリブタジエン(A1)に代えて、ポリブタジエン(A2)(日本曹達株式会社製、商品名:GI-1000、臭素価:7g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:1,500)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A2)は、ポリブタジエン(A1)と同様、主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンの水素添加物であり、1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)が、モル比で、0/15/85である。ただし、ポリブタジエン(A1)とは、数平均分子量と臭素価とが異なる。
【0060】
<実施例5>
ポリブタジエン(A1)に代えて、ポリブタジエン(A3)(日本曹達株式会社製、商品名:GI-3000、臭素価:13g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:3,100)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A3)は、ポリブタジエン(A1)及び(A2)と同様、主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンの水素添加物であり、1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)が、モル比で、0/15/85である。ただし、ポリブタジエン(A1)及び(A2)とは、数平均分子量と臭素価とが異なる。
【0061】
<実施例6>
ポリブタジエン(A1)に代えて、ポリブタジエン(A4)(日本曹達株式会社製、商品名:G-1000、臭素価:400g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:1,400)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A4)は、ポリブタジエン(A1)~(A3)と同様、主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンであり、1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)が、モル比で、0/15/85である。ただし、ポリブタジエン(A1)~(A3)とは水添されていない点で異なる。また、数平均分子量と臭素価とが異なる。
【0062】
<実施例7>
ポリブタジエン(A)に加えて、ポリブタジエン(A)とは異なるポリブタジエン(A’)を配合し、各成分の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A)は、ポリブタジエン(A1)とした。
ポリブタジエン(A’)は、ポリブタジエン(A4)とした。
各成分の配合比は、以下のとおりとした。
ポリブタジエン(A1)45質量部に対し、ポリブタジエン(A4)を45質量部、メラミン化合物を10質量部、p-トルエンスルホン酸を2.0質量部とした。
【0063】
<実施例8>
ポリブタジエン(A1)とポリブタジエン(A4)と架橋剤との配合比率を変更し、ポリブタジエン(A1)10質量部に対し、ポリブタジエン(A4)を10質量部、メラミン化合物を80質量部としたこと以外は、実施例7と同様の方法で剥離シートを得た。
【0064】
<実施例9>
ポリブタジエン(A4)に代えて、ポリブタジエン(A5)(出光興産株式会社製、商品名:Poly bd R-45HT、臭素価:398g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:2,800)を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A5)は、ポリブタジエン(A4)と同様、主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンであり、水添されていない。ただし、1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)、数平均分子量、及び臭素価とが異なる。
ポリブタジエン(A5)の1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)は、モル比で、20/60/20である。
【0065】
<比較例1>
ポリブタジエン(A1)に代えて、ポリブタジエン(A5)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
【0066】
<比較例2>
ポリブタジエン(A1)に代えて、ポリブタジエン(A6)(エボニック社製、商品名:Polyvest 110、臭素価:400g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:1,000)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A6)は、水酸基を有しておらず、また、水添もされていないポリブタジエンである。
また、ポリブタジエン(A6)の1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)は、モル比で、75/24/1である。
【0067】
<比較例3>
ポリブタジエン(A1)に代えて、ポリブタジエン(A7)(エボニック社製、商品名:Polyvest HT、臭素価:400g/100g、固形分濃度:100質量%、数平均分子量:2,900)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを得た。
ポリブタジエン(A7)は、ポリブタジエン(A4)及び(A5)と同様、主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンであり、水添されていない。ただし、1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)、数平均分子量、及び臭素価とが異なる。
ポリブタジエン(A7)の1,4-シス体と、1,4-トランス体と、1,2-ビニル体との構成比(シス/トランス/1,2-ビニル)は、モル比で、20/58/22である。
【0068】
<比較例4>
架橋剤として、メラミン化合物に代えて、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、商品名:コロネートL、固形分濃度:75質量%、希釈溶媒:酢酸エチル)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で剥離シートを作製した。
【0069】
実施例1~9及び比較例1~4の剥離シートについて、以下の測定及び評価を実施した。
【0070】
[剥離力の測定]
実施例1~9及び比較例1~4の剥離シートの剥離層上に、幅20mmの粘着テープ(日東電工株式会社製、品番:No.31B)を、5kgローラーを用いて貼付して剥離力測定用のサンプルを作製した。
貼付30分後に、得られたサンプルを万能引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名:オートグラフAGS-20NX)に固定し、JIS K6854:1999に準拠して、180°方向に引張速度0.3m/分の速度で剥離層から粘着テープを剥離させることにより剥離シートの剥離力(mN/20mm)を測定した。
実施例1~9及び比較例1~4の剥離シートに対する剥離力の測定は、温度70℃の高温環境下に7日間曝露する前後で実施した。
そして、前記高温環境下に7日間曝露した後の剥離シートの剥離力を加熱後剥離力Yとし、高温環境下への曝露なしの状態における剥離シートの剥離力を初期剥離力Xとし、以下の式を用いて加熱前後の剥離力の変化率を求めた。
加熱前後の剥離力の変化率={(加熱後剥離力Y-初期剥離力X)/初期剥離力X}×100
【0071】
[耐溶剤性の評価]
実施例1~9及び比較例1~4の剥離シートの剥離層上に、メチルエチルケトンを含浸させた不織布(旭化成株式会社製、商品名:ベムコットン)を置き、上方から100g荷重をかけて5回払拭した。目視で剥離層表面を観察し、剥離層表面に変化がない場合を○、剥離層表面が傷などで白化した場合を×として評価した。
【0072】
結果を表1に示す。
表1中、組成欄に記載された「Bd-H」はポリブタジエンの水添物であることを意味し、「Bd」はポリブタジエンの未水添物であることを意味する。
また、表1中、官能基欄に記載された「OH」は主鎖の両末端にのみ水酸基を有するポリブタジエンであることを意味し、「なし」は水酸基を有しないポリブタジエンであることを意味する。
【0073】
【0074】
表1より、以下のことがわかる。
架橋性官能基を有し、ポリブタジエンの全構成単位基準で1,2-ビニル体を50モル%以上含むポリブタジエン(A)とメラミン化合物とを含む剥離剤組成物から形成した剥離層を有する実施例1~9の剥離シートは、加熱前後で剥離力の変化が極めて小さく、加熱前後での剥離力の変化率は±30%以内に収まることがわかる。また、実施例1~9の剥離シートの剥離層は、耐溶剤性にも優れていることがわかる。
さらに、実施例1~9の剥離シートは、剥離力が加熱前後のいずれにおいても2500mN/20mm以上であり、初期の剥離力が高い値であっても高温での経時安定性に優れていることがわかる。
これに対し、1、2-ビニル体の含有比率がポリブタジエンの全構成単位基準で50モル%未満のポリブタジエンを用いた比較例1~3の剥離シートは、加熱前後で剥離力の変化が極めて大きくなり、加熱後には剥離力が大幅に上昇することがわかる。
また、架橋性官能基を有するポリブタジエン(A)に代えて、架橋性官能基を有しないポリブタジエンを用いた比較例2、及び、メラミン化合物に代えて、イソシアネート化合物を用いた比較例4の剥離シートの剥離層は、実施例1~9の剥離シートの剥離層と比較して耐溶剤性が不足し、剥離力の評価が不能となるほどに皮膜強度が劣ることがわかる。
【符号の説明】
【0075】
1 剥離シート
10 基材
11 剥離層