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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】溶剤系道路用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220726BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220726BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018213314
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020079361
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000101477
【氏名又は名称】アトミクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏行
(72)【発明者】
【氏名】舘野 英雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 博巳
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035341(JP,A)
【文献】特開昭62-230867(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1000538(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0065989(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
E01C 7/00-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発成分として有機溶剤を含有するビヒクルと、前記ビヒクル中に分散された顔料と、固形分比率が0.001質量%以上2.2質量%以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記セルロースナノファイバーは、疎水性処理が施されていることを特徴とする溶剤系道路用塗料。
【請求項2】
全固形成分中における顔料及びセルロースナノファイバーの合計量の割合である顔料容積濃度が、40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶剤系道路用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤系道路用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を適切に車両の運転手や歩行者に与えるために、各種の区画線、道路標示、カラーリング(以下、「道路用塗料」という。)が、塗料を用いて路面に施されている。
【0003】
共用道路における路面標示の施工は道路交通を規制して行われるが、交通規制時間を短縮するために、道路用塗料には、塗料を塗布してから乾燥するまでの時間が短いことが要求される。そのため、これまで揮発速度の速いケトン系、エステル系、芳香族系、脂肪族系の有機溶剤を用いた溶剤系道路用塗料が使用されてきた。しかし、これら揮発性の有機溶剤は、塗布後大気中に揮散することから、環境汚染のひとつとなっており、高性能で長寿命な、より環境汚染の少ない溶剤系道路用塗料が求められている。
【0004】
一般的に、道路用塗料は、施工時の交通規制時間を短縮するために、乾燥時間を短くする必要がある。乾燥性の向上を図るためには、塗料中に含まれる水または有機溶剤の含有量を少なくする必要があることから、塗膜中の顔料濃度を高く設計している。しかし、塗膜中の顔料濃度が高くなると、乾燥時間の短縮、機械的強度の向上やコスト削減等の観点では有利であるが、反面、塗膜の可撓性、柔軟性が低下するため、塗膜の耐クラック性等の耐久性の低下が懸念される。
【0005】
塗膜の可撓性や柔軟性を改善する目的で、塗膜に含まれる樹脂のガラス転移温度を低くする方法や、フタル酸エステルや高沸点溶剤等の可塑剤を添加する方法がある。これらの方法は、塗膜に可撓性や柔軟性を付与することができるが、同時に塗膜の機械的強度や乾燥時間を低下させるなどの課題がある。
【0006】
溶剤系道路用塗料については、例えば、特許文献1や特許文献2に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-224726号公報
【文献】特開平10-7938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術については、香料を添加することで、反応性モノマー成分に起因する臭気を改善するものである。
また、特許文献2に記載の技術については、加熱溶融型道路用塗料の加熱溶融時に発生する悪臭を抑え、芳香臭が発散されるものである。
以上のように、いずれの技術についても、塗膜の耐久性の向上を目的としたものではなく、塗膜の耐久性に関しては依然として改善が望まれている。
【0009】
したがって、本発明は、耐久性に優れた塗膜の形成が可能な溶剤系道路用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様である溶剤系道路用塗料は、揮発成分として有機溶剤を含有するビヒクルと、前記ビヒクル中に分散された顔料と、固形分比率が0.001質量%以上2.2質量%以下のセルロースナノファイバーと、を含み、
前記セルロースナノファイバーは、疎水性処理が施されていることを特徴とする。
【0011】
上記の態様においては、全固形成分中における顔料及びセルロースナノファイバーの合計量の割合である顔料容積濃度を40%以上としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様である溶剤系道路用塗料は、固形分比率が、0.001質量%以上2.2質量%以下のセルロースナノファイバーを含む。このような構成により、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る溶剤系道路用塗料について説明する。
【0014】
本実施形態に係る溶剤系道路用塗料は、揮発成分として有機溶剤を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、固形分比率が0.001質量%以上2.2質量%以下のセルロースナノファイバーと、を含む。
【0015】
本実施形態の溶剤系路面標示用塗料は、車両の運転者及び歩行者に道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を路面に表示するために用いられるものである。溶剤系路面標示用塗料の具体例としては、JIS K 5665 1種B及びJIS K 5665 2種Bなどが挙げられる。
【0016】
なお、本実施形態において「路面」とは、車両通行のための道路舗装面、飛行機の滑走路面、工場内の通行路、自転車道、歩道等の舗装路面、及び、屋内外の駐車場等の舗装面等を意味する。また本実施形態において「舗装」とは、アスファルト舗装、コンクリート舗装及び敷石舗装等を意味する。さらに、本実施形態において「路面標示」とは、特に限定されるものではないが、路面に各種の情報の表示を目的として塗装により形成されるマーク等であり、例えば、区画線、横断歩道、はみ出し禁止、各種交通規制表示等を線、文字、記号及び模様等で表した交通標示や路面をカラーリングし視覚により注意喚起するもの等を挙げることができる。
【0017】
セルロースナノファイバーは、軽くて強い微細なセルロース繊維であり、大きな比表面積を有しレオロジー特性を付与することが可能であること、線熱膨張係数がガラス繊維並みに小さいこと、及び、弾性率がガラス繊維より高いこと等の優れた特性を有している。また、セルロースナノファイバーは、広葉樹、針葉樹及び竹等の様々な植物原料から製造することが可能であることから、環境負荷が小さく、リサイクル性に優れた材料である。さらに、森林資源の豊富な日本にとって新たな産業になると期待されており、各分野で研究が盛んに実施されている。
【0018】
本実施形態の溶剤系路面標示用塗料に含まれるセルロースナノファイバーは、パルプ等の植物繊維(セルロース)をナノ(1×10-9m)オーダーにまで細かく解きほぐした(解繊した)ものである。セルロースを解繊する方法としては、セルロースの水懸濁液等を高圧ホモジナイザーやビーズミル等を用いて機械的に解繊する方法等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態におけるセルロースナノファイバーは、たとえばイオン性置換基および非イオン性置換基のうちの少なくとも一種を有する。分散媒中における繊維の分散性を向上させる観点からは、繊維状セルロースがイオン性置換基を有することがより好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。また、非イオン性置換基としては、たとえばアルキル基およびアシル基などを含むことができる。本実施形態においては、イオン性置換基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。なお、繊維状セルロースには、イオン性置換基を導入する処理が行われていなくてもよい。
【0020】
イオン性置換基としてのアニオン性基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある。)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある。)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある。)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0021】
リン酸基またはリン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基であり、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸に由来する置換基として一般化される。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リン酸基に由来する置換基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。また、リン酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リン酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
【0022】
【化1】
【0023】
上記式(1)中、a、b,mおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,αおよびα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αおよびα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0024】
有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、または芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、または水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0025】
セルロースナノファイバーとしては、疎水性処理を施してもよい。疎水性処理とは、前記イオン性置換基に加え、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基をエーテル結合や、エステル結合によってセルロースに化学結合させる処理や、前記イオン性置換基の対イオンの一部または全部を飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基を含む有機オニウムイオンとする処理であり、当該処理を施すことにより、有機溶剤に対する分散性を向上させることができる。
【0026】
セルロースナノファイバーは、顔料とともにビヒクル中に分散されて含まれている。溶剤系道路用塗料に含まれるセルロースナノファイバーの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であることが一般的である。また、溶剤系道路用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率は、0.001質量%以上2.2質量%以下である。セルロースナノファイバーを上記の固形分比率で添加すると、本実施形態の溶剤系道路用塗料を用いて形成された塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜を耐久性に優れたものとすることができる。なお、「塗膜」とは、塗装された溶剤系道路用塗料からビヒクルに含まれる揮発成分が揮発して乾燥したもの、つまり、溶剤系道路用塗料中の固形成分が固まったものである。
【0027】
上記のような観点から、溶剤系道路用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率は、0.001質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上1.6質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以上1.1質量%以下であることがさらに好ましい。また、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、2nm以上400nm以下であることがより好ましく、2nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの数平均繊維径が大きくなると、単位質量当たりのセルロースナノファイバーの数が減少して、セルロースナノファイバーによるネットワーク構造が形成しにくくなり、充分な補強効果が得られないため、上記範囲が好ましい。また、セルロースナノファイバーの長さは、100nm以上100μm以下であることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態の溶剤系道路用塗料における顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、塗料の乾燥性および塗膜の耐久性を向上させるため、顔料容積濃度(PVC)が40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。また、あまりに顔料の含有量が多すぎると、環境温度の変化や経時における塗膜のクラックの原因となるため、顔料容積濃度(PVC)の上限としては、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態の顔料容積濃度(PVC)は、ビヒクルに含まれる樹脂、顔料、添加剤及びセルロースナノファイバー等の固形成分の合計に対する、樹脂及び添加剤以外の固形成分、つまり、顔料及びセルロースナノファイバーの合計の割合を意味する。
【0029】
本実施形態の溶剤系道路用塗料を製造する際には、セルロースナノファイバーを添加する目的で、セルロースナノファイバー添加剤を用いてもよい。当該セルロースナノファイバー添加剤の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロースナノファイバーを有機溶剤等に分散させて液状としたものや、ペースト状、ゲル状及び固形状等任意の形状のセルロースナノファイバー添加剤を使用することができる。例えば、セルロースナノファイバーの含有量が1質量%以上10質量%以下となるように調整された有機溶剤分散液をセルロースナノファイバー添加剤として用いることができる。
【0030】
しかし、セルロースナノファイバー添加剤におけるセルロースナノファイバーの濃度は特に限定されるものではなく、セルロースナノファイバーの含有量が1質量%未満であってもよく、また、10質量%超過であってもよく、さらにより高濃度のものを用いてもよい。なお、セルロースナノファイバー添加剤の溶剤系道路用塗料への添加量は、溶剤系道路用塗料における塗膜中のセルロースナノファイバーの固形分比率が所望の濃度となるように適宜調整される。
【0031】
ビヒクルは、樹脂と、揮発成分として有機溶剤と、を含むが、必要に応じて単独又は2種類以上の有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、溶剤系道路用塗料の塗膜の粘着性、路面であるアスファルト舗装等を溶解して意匠性、視認性を阻害するものでなければ特に限定されるものではない。溶剤系道路用塗料中に含まれる有機溶剤の含有可能量は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0032】
また、ビヒクルに含まれる樹脂としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル、スチレン等のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分、例えば、アクリル樹脂を挙げることができる。また、樹脂は、カルボキシル基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、炭素-炭素二重結合等の反応性官能基を分子内に導入した重合体であってもよい。
ビヒクルの含有量は、所望とする塗料粘度や塗膜物性等により適宜調整され、特に限定されるものではない。
【0033】
顔料としては、塗料に一般的に使用されている顔料を挙げることができ、溶剤系路面標示用塗料の安定性を阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、二酸化チタン、黄鉛や酸化鉄等の無機顔料、アゾ顔料やフタロシアニン顔料等の有機顔料等の各種着色顔料、及び、炭酸カルシウム、タルク、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料を挙げることができる。
【0034】
また、溶剤系道路用塗料には、塗装作業性、着色、塗料物性及び塗膜物性等を向上させる目的で、各種添加剤を適宜選択し、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。添加剤としては、例えば、塗料に一般的に使用されている分散剤、湿潤剤、沈降防止剤、消泡剤、増粘剤等を挙げることができる。
【0035】
添加剤の含有量は、上記目的を達成する範囲で添加するものであり、特に限定されるものではない。
【0036】
次に、本実施形態の溶剤系道路用塗料の製造方法について説明する。
例えば、まず、基本となる溶剤系路面標示用塗料ハードラインC-2000(アトミクス株式会社製)100質量部に対してリン酸化セルロースナノファイバー疎水性粉末(王子ホールディングス株式会社製、繊維径が2nm~20nmのセルロースナノファイバー)8.8質量部を添加し、ディゾルバーを用いて2000rpm以上3000rpm以下で10分以上60分以下攪拌し、溶剤系道路用塗料におけるセルロースナノファイバーの固形分比率が10質量%であるセルロースナノファイバー分散ベース塗料とする。次に、溶剤系道路用塗料における塗膜中のセルロースナノファイバーの固形分比率が0.001質量%以上2.5質量%以下となるように、更に基本となる溶剤系路面標示用塗料ハードラインC-2000(アトミクス株式会社製)を添加して、ディゾルバーを用いて500rpm以上3000rpm以下で5分以上60分以下攪拌する。これによりセルロースナノファイバーが均一に分散された溶剤系道路用塗料が得られる。
【0037】
溶剤系道路用塗料を高速で一定時間攪拌して調製することにより、セルロースナノファイバーの固形分比率が低い範囲においても、塗膜に可撓性を付与することができ、塗膜の耐クラック性を向上させることができ、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。また、可撓性が付与されることにより、耐チッピング磨耗性も向上する。なお、各種添加剤を添加する場合には、基本となる溶剤系路面標示用塗料の作製時、セルロースナノファイバー分散ベース塗料作製時、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.001質量%以上2.2質量%以下となるよう調整時のいずれのタイミングで添加してもよい。
【0038】
本実施形態の溶剤系道路用塗料は、上述のように、揮発成分として有機溶剤を含有するビヒクルと、ビヒクル中に分散された顔料と、固形分比率が、0.001質量%以上2.2質量%以下のセルロースナノファイバーを含む。このような構成により、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。また、可撓性が付与されることにより、耐チッピング磨耗性も向上する。
【0039】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の溶剤系路面標示用塗料の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例
【0040】
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0041】
<セルロースナノファイバー分散ベース塗料の調製>
表1に示す配合でセルロースナノファイバー分散ベース塗料を調製した。
基本塗料(アトミクス株式会社製のハードラインC-2000、顔料分53.0質量%、樹脂固形分18.0質量%、補助剤分1.0質量%、固形分:72.0質量%)100質量部に対して、疎水性処理が施されたリン酸化セルロースナノファイバー粉末(王子ホールディングス株式会社製、セルロースナノファイバーの固形分比率:91.3質量%、繊維径2nm~20nm)8.8質量部を添加して、ディゾルバーを用いて3000rpmで60分攪拌し、塗膜中のセルロースナノファイバーの固形分比率が10.0質量%となるように調整し、セルロースナノファイバー分散ベース塗料を調製した。
【0042】
【表1】
【0043】
(注1)アトミクス株式会社製:溶剤系路面標示用塗料(顔料分53.0質量%、樹脂固形分18.0質量%、補助剤分1.0質量%、固形分:72.0質量%)
(注2)王子ホールディングス株式会社製:疎水性処理が施されたリン酸化セルロースナノファイバー粉末、固形分91.3質量%
【0044】
(実施例1)
基本塗料(ハードラインC-2000)99.99部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料0.01部を添加して、ディゾルバーを用いて500rpm以上800rpm以下で5分以上60分以下攪拌し、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.001質量%となるように調整し、実施例1の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0045】
(実施例2)
基本塗料(ハードラインC-2000)99.95部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料0.05部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.005質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、実施例2の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0046】
(実施例3)
基本塗料(ハードラインC-2000)99.90部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料0.10部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.01質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、実施例3の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0047】
(実施例4)
基本塗料(ハードラインC-2000)99.50部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料0.50部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.05質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、実施例4の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0048】
(実施例5)
基本塗料(ハードラインC-2000)99.00部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料1.00部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が0.1質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、実施例5の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0049】
(実施例6)
基本塗料(ハードラインC-2000)90.04部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料9.96部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が1.0質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、実施例6の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0050】
(実施例7)
基本塗料(ハードラインC-2000)85.06部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料14.94部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が1.5質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系路面標示用塗料と同様にして、実施例7の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0051】
(実施例8)
基本塗料(ハードラインC-2000)80.08部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料19.92部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.0質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系路面標示用塗料と同様にして、実施例8の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0052】
(実施例9)
基本塗料(ハードラインC-2000)79.08部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料20.92部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.1質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系路面標示用塗料と同様にして、実施例9の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0053】
(実施例10)
基本塗料(ハードラインC-2000)78.08部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料21.92部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.2質量%となるように調整したこと以外は上記実施例1の溶剤系路面標示用塗料と同様にして、実施例10の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0054】
(比較例1)
基本塗料(ハードラインC-2000)を比較例1とした。
【0055】
(比較例2)
基本塗料(ハードラインC-2000)77.09部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料22.91部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.3質量%となるように調整した以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、比較例2の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0056】
(比較例3)
基本塗料(ハードラインC-2000)76.09部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料23.91部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.4質量%となるように調整した以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、比較例3の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0057】
(比較例4)
基本塗料(ハードラインC-2000)75.10部に対して、セルロースナノファイバー分散ベース塗料24.90部を添加して、セルロースナノファイバーの固形分比率が2.5質量%となるように調整した以外は上記実施例1の溶剤系道路用塗料と同様にして、比較例4の溶剤系道路用塗料を調製した。
【0058】
なお、実施例1から10及び比較例1から4の溶剤系道路用塗料における組成、塗膜中のセルロースナノファイバーの固形分比率、顔料容積濃度及び塗料粘度を表2に示した。
【0059】
【表2】
【0060】
表中の「塗料粘度(KU/25℃)」は、JIS5600-2-2 5.ストーマー粘度計法を用いて測定した値である。
【0061】
<各種試験>
得られた実施例1から10及び比較例1から4の溶剤系道路用塗料について、その性能を確認するべく、以下に示す各種試験を行った。
【0062】
1.外観試験
170mm×150mmの大きさのアスファルトフェルトの片面に、乾燥塗膜が200±40μmとなるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の溶剤系道路用塗料をそれぞれ塗布し、24時間後の塗膜外観の状態を確認した。結果を表5に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:塗膜の外観が正常であるもの。
△:若干異常が認められるもの。
×:異常が認められるもの。
【0063】
2.塗装作業性試験
450mm×900mmの大きさのアスファルトフェルトを床に貼りつけ、粘着テープを用いて周囲を枠状に囲い、幅150mm、長さ750mmの大きさが表出するように養生した。そこに、実施例及び比較例の溶剤系道路用塗料をそれぞれ、株式会社インダストリーコーワ製のスモールローラーで塗布し、作業性を確認した。結果を表5に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:塗装作業性が良好であるもの。
△:やや塗装作業性に劣るもの。
×:塗装作業に困難を感じるもの。
【0064】
3.耐屈曲性試験
大きさ70mm×150mm、厚さ0.3mmのブリキ板に、乾燥膜厚が100±20μmとなるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の溶剤系道路用塗料をそれぞれ塗布し、23℃の雰囲気下で18時間養生後、105℃に設定した乾燥器内で5時間加熱し、その後、さらに23℃の雰囲気下で24時間養生した。なお、105℃で加熱したのは、有機溶剤が残存していると可塑剤として作用するため、塗膜中の残存有機溶剤を除去するのが目的である。
【0065】
このようにして得られた試験片を用いて、23℃、湿度50%の環境下でマンドレル屈曲試験(ISO 1519 (JIS K 5600))を実施した。マンドレル棒の径は10mm、折り曲げ角度は45度で実施した。結果を表5に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:塗膜にクラックが発生しない若しくは微かにクラックが認められるもの。
△:クラックが認められるもの。
×:大きなクラックが認められるもの。
【0066】
4.耐クラック性試験
アスファルトブロックは、JIS K 2207に規定する針入度60~80のストレートアスファルトと、JIS Z 8801-1に規定するふるい網で表3に示す条件に適合するようにふるい分けした骨材と、を表4に示す割合で配合した後、金属製型枠に充填し、ローラーコンパクタを用いて、140℃~160℃で、線圧29.4kN/mで作製した、かさ密度(20℃)2.3~2.6、寸法300mm×300mm×50mmのものを用いた。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
得られたアスファルトブロックの片面に、乾燥膜厚が200±40mmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の溶剤系道路用塗料をそれぞれ塗布し、塗面を上向きにして乾燥した。23℃の雰囲気下で24時間養生後に50℃に設定した乾燥器内で3日間乾燥し、さらに23℃の雰囲気下で24時間養生した後、塗膜状態を確認した。アスファルトブロックを型枠に入れずにフリーな状態で50℃で養生したのは、夏季の路面を想定し、アスファルトブロックが軟化する条件で試験を行うためである。結果を表5に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:塗膜にクラックが見られないもの。
△:わずかにクラックが見られるもの。
×:クラックが見られるもの。
【0070】
5.耐汚染性試験
70mm×150mmの大きさのブリキ板の片面に、乾燥膜厚が100±20μmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の溶剤系道路用塗料をそれぞれ塗布し、試験板を作製した。23℃の雰囲気下で1日養生後に、30mm×30mmの大きさが表出するように塗膜上に養生テープでマスキングを行い、そこに汚染物質として泥水1mlを塗り広げた。23℃の雰囲気下で2時間放置して水を蒸発させ、その後清水で洗浄した。洗浄後、塗膜の汚染状況を目視で確認した。この際に用いた汚染物質の泥水は、園芸用赤玉土を乳鉢で粉砕した後、目開き100メッシュの篩で通過したものを、濃度が10質量%になるように清水で希釈して作製した。結果を表5に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:塗膜に汚れが付着しない若しくは微かに付着するもの。
△:汚れが付着するが塗膜の色が白と認識できるもの。
×:汚染物質が付着し除去不能なもの。
【0071】
6.塗膜の粘着性試験
70mm×150mmの大きさのブリキ板の片面に、乾燥膜厚が100±20μmになるようにフィルムアプリケータB形を用いて実施例及び比較例の溶剤系道路用塗料をそれぞれ塗布し、試験板を作製した。23℃の雰囲気下で1日養生後に、指で塗膜に触れ塗膜の粘着状態を確認した。結果を表5に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
○:塗膜の粘着性が認められないもの。
△:微かに粘着性が認められるもの。
×:粘着性が認められるもの。
【0072】
【表5】
【0073】
本発明の溶剤系道路用塗料を用いると、塗膜に可撓性が付与されて、塗膜の耐クラック性が向上する。よって、塗膜の耐久性を優れたものとすることができる。さらに、可撓性が付与されることにより、車両走行時に受ける衝撃に対する耐性、いわゆる耐チッピング磨耗性の向上も期待できる。また、アスファルト舗装は、夏季において高温となり軟化しやすく、特に舗装厚さが小さい舗装や転圧荷重が小さい部分補修舗装に関してはさらに軟化しやすくなる。そこで、本発明の溶剤系道路用塗料を用いると、アスファルト舗装が軟化することによって生じる塗膜のクラックの発生を抑制することができる。さらに、塗膜の耐久性を優れたものとできることから、経済的効果も期待できる。