(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】缶型金属空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20220726BHJP
H01M 6/32 20060101ALI20220726BHJP
H01M 6/50 20060101ALI20220726BHJP
H01M 50/609 20210101ALN20220726BHJP
【FI】
H01M12/06 J
H01M12/06 A
H01M6/32 A
H01M12/06 D
H01M6/50
H01M50/609
H01M12/06 Z
H01M12/06 G
(21)【出願番号】P 2022083987
(22)【出願日】2022-05-23
【審査請求日】2022-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514147491
【氏名又は名称】ineova株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135965
【氏名又は名称】高橋 要泰
(74)【代理人】
【識別番号】100100169
【氏名又は名称】大塩 剛
(72)【発明者】
【氏名】猪口 正幸
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-186884(JP,A)
【文献】米国特許第6636751(US,B1)
【文献】米国特許第5304431(US,A)
【文献】国際公開第2018/206542(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/24- 6/52
H01M10/52-16/00
H01M50/60-50/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を負極に空気極を正極に用いた金属空気電池であって、
前記金属空気電池の全体又は少なくとも化学的反応部を密封する缶容器を備え、
使用時に、前記缶容器の一部を開封し電解液を注入して発電を開始する、缶型金属空気電池。
【請求項2】
請求項1に記載の缶型金属空気電池において、
前記缶容器内は、真空状態又は不活性ガスが充填された状態にある、缶型金属空気電池。
【請求項3】
金属を負極に空気極を正極に用いた金属空気電池であって、
前記金属空気電池の全体又は少なくとも化学的反応部を密封する缶容器と、
前記缶容器の内部空間に充填された電解質とを備え、
使用時に、前記缶容器の一部を開封して内部へ溶媒を注入し電解液を生成して発電を開始する、缶型金属空気電池。
【請求項4】
請求項3に記載の缶型金属空気電池において、
前記缶容器内は、真空状態又は不活性ガスが充填された状態にある、缶型金属空気電池。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の缶型金属空気電池において、
前記負極は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、及び鉄からなる群から選択された金属又はそれらを含む合金を使用している、缶型金属空気電池。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の缶型金属空気電池において、
前記負極に金属の押出材又は引出材を使用している、缶型金属空気電池。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の缶型金属空気電池において、
前記金属空気電池内部の電解液が、自然対流又は強制対流により缶容器内の反応部を循環する構造である、缶型金属空気電池。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の缶型金属空気電池において、更に、
ファンモータ、温度センサ及びこれらを制御する制御回路を備え、
前記金属空気電池内部の電解液が、前記ファンモータにより強制冷却される、缶型金属空気電池。
【請求項9】
請求項8に記載の缶型金属空気電池において、
前記制御回路は、前記温度センサからの検出温度に基づき、フィードバック制御により前記ファンモータの回転数を制御して前記化学的反応部の温度を適切な範囲に維持して反応熱による熱暴走を抑えている、缶型金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶型金属空気電池に関する。更に具体的には、本発明は、携帯型防災用として使用される缶型金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池として代表的なアルミニウム空気電池は、負極にアルミニウム、正極に空気極を使用することから、他の種類の電池に比較して理論エネルギー密度が高いという特長がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-015025「アルミニウム空気電池」(公開日2012.1.19)出願人:住友化学株式会社
【文献】特開2014-194897「セパレータ、二次電池及びセパレータの製造方法」(公開日2014.10.9)出願人:日立造船株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、金属空気電池を対象とするが、特に断らない限り、以下の説明では金属空気電池として代表的なアルミニウム空気電池を例にとって説明する。
【0005】
大きな電力を取り出せるアルミニウム空気電池は、実際に作成すると、自己放電や発熱の問題があり、容易に実用化できなかった。自己放電や発熱の問題に関しては、幾つかの解決策が提案されており、特許文献1に開示する発明もその1つである。
【0006】
空気電池の形状を円筒形にすることに関しては、例えば、特許文献2に類似の形状が提案されている。特許文献2では、亜鉛のデンドライト抑制を目的としている。ここで開示された亜鉛を、アルミニウムへ置き換えることができれば、円筒形のアルミニウム空気電池が実現される。
【0007】
アルミニウム空気電池を防災用電池として使用するためには、長期間保存に耐えることが必要である。更に、防災用電池としては、エネルギー密度が高くて大きな電力を供給でき、使い易く且つ安全に使用でき、低コストであることが望ましい。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みて、エネルギー密度の高い金属空気電池を利用した携帯型防災用電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑みて、本発明に係る缶型アルミニウム空気電池は、その一面において、前記金属空気電池の全体又は少なくとも化学的反応部を密封する缶容器を備え、使用時に、前記缶容器の一部を開封し電解液を注入して発電を開始する。
【0010】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、前記缶容器内は、真空状態又は不活性ガスが充填された状態にある。
【0011】
更に、本発明に係る缶型アルミニウム空気電池は、その一面において、金属を負極に空気極を正極に用いた金属空気電池であって、前記金属空気電池の全体又は少なくとも化学的反応部を密封する缶容器と、前記缶容器の内部空間に充填された電解質とを備え、使用時に、前記缶容器の一部を開封して内部へ溶媒を注入し電解液を生成して発電を開始する。
【0012】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、前記缶容器内は、真空状態又は不活性ガスが充填された状態にある。
【0013】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、前記負極は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、及び鉄からなる群から選択された金属又はそれらを含む合金を使用している。
【0014】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、前記負極に金属の押出材又は引出材を使用している。
【0015】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、前記金属空気電池内部の電解液が、自然対流又は強制対流により缶容器内の反応部を循環する構造である。
【0016】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、更に、ファンモータ、温度センサ及びこれらを制御する制御回路を備え、前記金属空気電池内部の電解液が、前記ファンモータにより強制冷却される。
【0017】
更に、上記缶型アルミニウム空気電池では、好ましくは、前記制御回路は、前記温度センサからの検出温度に基づき、フィードバック制御により前記ファンモータの回転数を制御して前記化学的反応部の温度を適切な範囲に維持して反応熱による熱暴走を抑えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エネルギー密度の高い金属空気電池を缶容器へ詰め込んだ携帯型防災用電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る缶型アルミニウム空気電池の反応部を説明する図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す缶型アルミニウム空気電池の全体の構造を説明する図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る缶型アルミニウム空気電池の電子回路基板のブロック図を示す。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る缶型アルミニウム空気電池における出力電圧vs出力電力の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る缶型金属空気電池の実施形態(缶型アルミニウム空気電池)に関し、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図面において、同じ要素に対しては同じ参照符号を付して、重複した説明を省略する。
【0021】
[本実施形態の缶型アルミニウム空気電池の概要]
本実施形態の缶型アルミニウム空気電池は、保管時には、電池全体又は少なくとも電池の反応部を、化学的反応が生じない状態で機械的強度の高い缶容器に詰め込んでいる。使用時に初めて化学的反応を開始させ、最適な状態に維持するように制御しながら電気を取り出している。
【0022】
[第1実施形態]
(構成)
図1は、本実施形態に係る缶型アルミニウム空気電池10の反応部を示す。
図2は、缶型アルミニウム空気電池10の全体構造を示す。
図1に示すように、アルミニウム空気電池10の化学的反応部は、円筒状負極2、円筒状正極(空気極)4、電解液6、及びそれらを封止する封止枠8で構成される。
【0023】
円筒状負極2は、アルミニウム製であり、その内周面には防錆塗装2aが塗布されている。封止枠8には、ガス抜きフィルム12、給水口14、及び冷却パイプ16が取付けられる。
【0024】
それら全体が、円筒缶18の内部に収納され、円筒缶18の天井及び底には、天蓋22、底蓋24が夫々取り付けられている。円筒缶18及び蓋22,24は、例えば、スチール、アルミニウム、ステンレス等の金属製である。本出願書類では、この構造を「缶型電池」と呼ぶことにする。各々の蓋22,24は、円筒缶18を密封状態に維持できる構造であると共に、その全部又は一部を、容易に外せる構造となっている。例えば、全部の取り外し構造は、プルトップ式の天蓋又は底蓋の取り外しで実現し、一部の取り外し構造は、開放部を覆うアルミニウムシールを剥がすことで実現する。
【0025】
使用前は、密封状態の缶容器内を、
(1)真空に保持、
(2)不活性ガス(好ましくは窒素ガス)を充填、
(3)電池の電解液の溶質のみを充填、又は、
(4) 電池の電解液の溶質のみを充填し、且つ上記(1)又は(2)を併用する、
等の方法で化学的反応が生じない状態に維持している。これらの方法により、内部に収納された電池素材が酸化・劣化等することを防止して、長期の保管を可能にする。
【0026】
不活性ガスの充填は、予め、不活性ガスである窒素ガスで充填しておくことが好ましいが、大気中で密封しても、実質的には缶内の酸素等の活性ガスは電極材と反応してしまうため、缶内は残留する窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで充填された状態になる。
【0027】
更に、上記(1)~(4)では、好ましくは、鉄を主材とした脱酸素剤やTi、Zr、Al等の合金からなるゲッター材(ガス吸着材)を缶内に封じ込めておき、リークしてくる不要なガスを吸着させることで、長期間維持することもできる。
【0028】
電池使用時には、上記(1)及び(2)では、缶容器の一部を開放して電解液を注入し、上記(3)及び(4)では電解液の溶媒(水)を注入して缶容器内部で電解液を生成する。これにより、使用時に電池は初めて発電を開始する。
【0029】
図1には、天蓋22、底蓋24を外した時の空気極4へ供給する空気の流れ26、電解液6を冷却するための空気の流れ28、及び電解液6の対流の流れ32が、夫々破線で示されている。
【0030】
この缶型電池の反応部の構造は、基本的には、封止枠8、円形の天板8a、及び円形の底板8bによって、円筒状アルミニウム負極2と円筒状正極(空気極)4とを上下から挟むことにより実現できる。
【0031】
封止枠8と円形の天板8a及び底板8bは、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂を使用することができる。
【0032】
円筒状アルミニウムである円筒状負極2は、大量生産されているアルミニウムパイプを使用することで、材料コストを削減できる。
【0033】
冷却パイプ16は、量産されているステンレスチューブやアルミニウムパイプを使用することができ、放熱性と強度を高めることが可能である。アルミニウムパイプの場合、電解液で腐食しないように防錆塗料等で保護する必要がある。
【0034】
円筒缶18及び蓋22,24は、大量生産されている製缶を使用して、材料コストを低減することができる。
【0035】
(動作)
図1のように、缶型電池10では、円形の天板8a及び底板8bに平行な断面で見ると、円筒状のアルミニウムの負極2が円形内の内側に、空気極の正極4が負極2より外側に配置されている。負極2と正極4の間に電解液6が満たされると、発電が開始される。構造的に、負極2と正極4の間に隙間が開く様にする事により、負極2と正極4が短絡することがないため、セパレータを省略することができる。
【0036】
電解液6は、上記(1)又は(2)では使用時に注入し、上記(3)又は(4)では電池内部に充填されている電解質に水を注ぎこむことで作成される。電解質として、主に苛性ソーダや苛性カリが使用される。缶型電池内の電解液6は、発電を開始すると反応熱により温められ、冷却パイプ16により冷やされることにより、図のように対流32を生じる。この対流32により、正極4と負極2の間には、常に新しい電解液6が供給される。
【0037】
このように正極および負極が配置され、8~20wt%電解質濃度の電解液が満たされた電極では、50mA~100mA/cm2の電流を発生する。また、電極が缶の外側に配置される構造であるため、正極および負極の表面積を大きくとることができ、大きな出力を連続して発生することができる。正極4及び負極2には、引出電極15が夫々設置されており、発電が開始すると引出電極15を通じて電気を取り出すことができる。
【0038】
ガス抜きフィルム12は、電解液6は通さず、反応により発生したガス(主に水素ガス)のみを外部へ放出する。ガス抜きフィルム12には、多孔質のポリエチレンシートや多孔質のテフロン(登録商標)シート等を使用することができる。ガス抜きフィルム12を使用することにより、給水した後は給水口14を塞ぐことで、電池を密閉することができる。電池を密閉構造にすることで、転倒時の液漏れを防止することができる。アルミニウム空気電池の外周を機械的強度の高い缶容器で覆うことにより、誤って落下したり踏みつけたりしたような時でも、電池から電解液6が漏れ出ないようにすることができる。
【0039】
[第2実施形態]
(構成)
図2は、缶型アルミニウム空気電池10の全体構造を示す。
図2に示すように、缶型電池10の反応部を支持台34に乗せることにより、缶型電池の引出電極15を支持台34上の電子回路基板36の給電端子(+),(-)に簡単に接続できる。
【0040】
電解液6の温度は、電解液6中に取り付けた温度センサ38により検出する。接続する端子数を減らすため、温度センサ38の1端子は、負極電極2と接続し、電子回路基板36の温度検出端子(T)と接続する。温度センサ38としては、例えば、熱電対やサーミスタ等を使用する。
【0041】
支持台34には、ファンモータ42が設置されている。ファンモータ42を回転させることで、冷却パイプ16の中に空気を送り込み強制的に電解液6を冷却することができる。一般的に、ファンモータ42は、ファンモータ42に印加する電圧によりファンの回転数を変えることができるので、ファンモータ42の給電電圧を高くすることで冷却効果を高めることが可能である。更に、ファンモータ42の回転数を外部からのPWM信号により制御するファンモータ42も市販されている。本例では、PWM制御機能付きのファンモータ42を使用している。
【0042】
図3は、電子回路基板36のブロック図を示す。発電セルの出力電圧は高々1.7Vと低いため、小電力昇圧回路によりMPU44やその他のデバイスを駆動するために+3.3Vに昇圧される。全体の制御は、MPU44により実施される。MPU44には、入力電圧Vin、電解液6の温度Vt、出力電圧Vout、及び出力電流Ioutが入力され、MPU44内部のADC(A/Dコンバータ)によりデジタルデータに夫々変換される。
【0043】
MPU44はこれらのデータを読み込み、PWM信号であるPWM_BOOST、PWM_FANを出力する。PWM_BOOSTは、ゲートドライバを介してNMOS FETのゲートを制御する。
【0044】
MPU44は、出力電流Iout、出力電圧Vout、ファンモータ42の回転数等を制御することが可能である。ファンモータ42は、パルス幅を変えること(PWM)により、前記のように冷却する空気の風量を調整し、電解液6の温度を制御する。
【0045】
(動作)
缶型電池10には、単セルのアルミニウム空気電池が搭載されているが、その開放起電力は1.5~1.7V程度である。電子回路基板36に搭載された昇圧回路により、給電端子から出力される起電力を、必要な電圧へ変換する。昇圧回路は、
図3に示すコイルL、NMOS FET、ダイオードD及び平滑コンデンサCで構成される。
【0046】
一般的に、出力電圧Voutは、所定の固定値で使用されることが多い。例えば、USB端子へ供給するためには、5.0Vへ昇圧される。
【0047】
MPU44は入力されたVout,Ioutに基づきPWM_BOOSTを出力し、その信号でゲートドライバを通してNMOS FETのゲートを駆動することにより、VinをVoutに昇圧する。
【0048】
図4に、本実施形態に係る缶型アルミニウム空気電池10の入力電圧Vin[V]対出力電力P(=Voutx Iout)[W]の実験特性を示す。図のように、出力電力は、Vinが0.7~0.8Vでピーク値となる釣り鐘型の特性を示す。Vin=0、1.4V(開放電圧)では略0となる。従って、Vinが凡そ0.8V以下とならないように出力を制限しさえすれば、一般電池と同様に、出力電力が小さい場合はVin≒1.5V(開放電圧)となり、出力電力が大きい場合は、Vin≒0.8Vとなるように、電池が反応する。
【0049】
MPU44は、
図4の特性の範囲において、PWM_BOOST信号の幅を制御することにより、Poutを制御することが可能である。或いは、Voutを一定となるように制御することも可能である。
【0050】
発電に伴い反応熱が発生する。この反応熱により発電が促進されるが、発電に寄与しない副反応も促進されて反応熱が大きくなる。このとき、反応熱がある一定温度を超えると、反応熱により反応が促進されるという熱暴走現象が発現し、温度が急激に上昇して電解液6が沸騰するような状態になることがある。
【0051】
実験によると電解液6が50℃を超えると、電解液6が変質し発電が阻害されることがあった。この場合、手指等が缶型アルミニウム空気電池10に接触すると、火傷のおそれがあるため、電解液6が50℃を超えないように制御することが望ましい。制御回路では、温度センサ38により温度を計測し、フィードバック制御によりファンモータ42の回転数を制御し、電解液6の温度が50℃を超えないように調節している。
【0052】
[本実施形態の利点・効果]
(1)本実施形態に係る缶型アルミニウム空気電池は、保管時には、電池全体又は少なくとも電池の化学的反応部を反応が生じない状態で缶容器に詰め込んでいる。使用時には、反応を開始させて、反応が最適な状態で継続するように制御を行いながら電気を取り出している。
【0053】
即ち、使用前は、密封状態の缶容器内を、
(1)真空に保持、
(2)不活性ガス(好ましくは窒素ガス)を充填、
(3)電池の電解液の溶質のみを充填、又は、
(4)電池の電解液の溶質のみを充填し、且つ上記(1)又は(2)を併用する、
等の方法で化学的反応が生じない状態に維持している。
【0054】
電池使用時には、上記(1)及び(2)では、缶容器の一部を開放して電解液を注入し、上記(3)及び(4)では電解液の溶媒(水)を注入して缶容器内部で電解液を生成する。
【0055】
この特徴は、保管時には、電池内部の化学的反応の発生を抑制して長期保存に耐えるようにしている。使用時に、初めて、化学的反応を開始し発電を開始する構成にある。本実施形態によれば、このような構成を採択することにより、以下のような効果を奏する。
【0056】
(2)エネルギー密度の高いアルミニウム空気電池を利用した携帯型防災用電池を実現することが出来る。
(3)保管中は、アルミニウム空気電池の全体又は化学的反応部は、密封された缶容器に詰め込まれているので、携帯するに便利である。更に、電池が外部からの衝撃に強く、完全な状態で保管することができる。
(4)缶容器は、一般的な缶詰の形状・寸法とすることが出来る。このため、取扱いが容易である。複数の缶容器を重ねることにより、複数個の電池をコンパクトに収納することができる。
(5)アルミニウム電極材に、大量生産されているアルミニウムの丸パイプや角パイプを使用することができ、低コスト化が図れる。
(6)従来の空気電池に存在した正極と負極間のセパレータを削減でき、少ない部品数で実現できるため、低コスト化が図れる。
【0057】
[変形例・その他]
以上、本発明に係る缶型金属空気電池の実施形態を缶型アルミニウム空気電池を例にとって説明したが、これら実施形態は、本発明の例示であって、本発明を何等限定するものではないことを承知されたい。
【0058】
(1)金属製以外の缶容器の採用
気密性や機械的強度をある程度犠牲にして、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等の樹脂の射出成型により安価に製造してもよい。また、これらの缶に高い気密機能や防錆機能を付与するため、缶の内外部を亜鉛やアルミニウム等の金属でメッキしたり蒸着したり、PETやPGA等のガスバリア性の高い樹脂でコーティングしたりしてもよい。
【0059】
更に、射出成型時に、予め電極部品を配置しておき、樹脂を射出して一体成型する方式を採用することにより、底板8bと円筒状正極4、円筒状負極2等を組立てるコストを低減することができる。
【0060】
(2)負極金属としてアルミニウム以外の金属の採用
例えば、本実施形態では負極金属にアルミニウムを使用しているが、電解液と反応しイオン化する金属であれば任意の金属(マグネシウム、亜鉛、カルシウム、鉄等或いはこれら合金)を使用することができる。例えば、負極金属にマグネシウムを用いた場合は、電解液に塩化ナトリウムや水酸化カリウム水溶液を使用することができる。負極金属に亜鉛を用いた場合は、電解液に水酸化カリウム水溶液を使用できる。負極金属に鉄を用いた場合は、電解液にアルカリ系水溶液を使用できる。
【0061】
しかし、一般的には、これらの金属は理論エネルギー密度が低いため、大きな電気容量を得るためには、アルミニウムと比較して不利である。アルミニウムは、理論体積エネルギー密度が最も高いだけでなく、安全性が高く、安価であり、地球上の資源量が多く遍在している点でも利点がある。
【0062】
(3)防災用以外の用途
また、本発明は防災用としているが、防災用に限定するものではない。例えば、遭難信号用の電池やレジャー用の電池等、一般的な電池としても使用することができる。
【0063】
(4)電解質の溶媒
また、本例では、電解液の溶媒として水を例にとって説明したが、溶媒は汚水や海水でもよく、電解液としては水系だけでなくイオン液体を使用してもよい。更には、注水だけでなく、真空状態に保持している場合は開封時に吸水するようにしてもよい。この機能は、ライフジャケットが着水時膨らむように、電池を着水時に自動的に起動するような場合に有効である。
【0064】
(5)電池形状
更には、本発明は、上部から見た形状を丸型で説明しているが、四角形などの任意所望の形状であってもよい。同様に、負極電極は、円筒状でなくても、板状、棒状などでも構わない。負極電極を肉厚とし肉厚部を中空にすることにより、空冷パイプと兼ねても良い。このような複雑な形状であっても、金属の押出や引出方式で製造すれば、低コストで製造することができる。正極表面積は小さくなるが、正極を内側に設置し送風パイプ兼用として使用しても良い。
【0065】
(6)電解液の冷却
電解液6の対流は、自然対流としているが、プロペラ等による強制対流を採用してもよい。冷却手段としてファンモータ42による強制冷却を採用しているが、冷却パイプ16のサイズを大きくしたり襞をつけたりして放熱効率を上げることにより、ファンモータ42を削除することもできる。また、缶の外側を冷却する構造とすることにより、冷却パイプを削減することもできる。ファンモータ42の強制冷却により、缶型アルミニウム空気電池を発電効率の良い温度に保つように制御し、発電時間を長くすることも可能である。
【0066】
(7)その他
当業者が容易になし得る実施形態に関する追加・削除・変更・改良は、本発明の範囲内である。本発明の技術的範囲は、添付の特許請求の範囲の記載によって定められる。
【符号の説明】
【0067】
10:缶型アルミニウム空気電池、 2:円筒状負極,負極、 2a:防錆塗装、 4:正極,円筒状正極,空気極、 6:電解液、 8:封止枠、 8a:天板、 10:缶型アルミニウム空気電池,アルミニウム空気電池,空気電池、 12:ガス抜きフィルム、 14:吸水口、 15:引出電極、 16:冷却パイプ、 22:天蓋、 18:円筒缶、 24:底蓋、 28:空気の流れ、 32:対流の流れ、 34:支持台、 36:電子回路基板、 38:温度線センサ、 42:ファンモータ、 44:MPU、
【要約】
【課題】本発明は、エネルギー密度の高い金属空気電池を缶容器へ詰め込んだ携帯型防災用電池を実現することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係る金属空気電池は、金属を負極に空気極を正極に用いた金属空気電池であって、前記金属空気電池の全体又は少なくとも化学的反応部を密封する缶容器を備え、使用時に、前記缶容器の一部を開封し電解液を注入して発電を開始する。或いは、前記缶容器の内部空間は、予め電解質が充填され、使用時に、前記缶容器の一部を開封して内部へ溶媒を注入し電解液を生成して発電を開始する。これらの場合、前記缶容器内は、真空状態又は不活性ガスで充填された状態であってもよい。
【選択図】
図2