(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】高分解能レーザ走査顕微鏡を使用する方法及び高分解能レーザ走査顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20220726BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017011647
(22)【出願日】2017-01-25
【審査請求日】2020-01-10
(32)【優先日】2016-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516307622
【氏名又は名称】アッベリオー インストラメンツ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Abberior Instruments GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン,ハルケ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス,レウス
(72)【発明者】
【氏名】ラルス,カストラプ
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/067643(WO,A1)
【文献】特開2007-178661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0069379(US,A1)
【文献】特表2015-531072(JP,A)
【文献】特開2004-239660(JP,A)
【文献】特開2003-344306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズコネクタ及びビーム整形素子(7)を有する高分解能レーザ走査顕微鏡(1)を使用する方法であって、前記ビーム整形素子(7)は、少なくともその偏光に関して、蛍光抑止光のビーム(3)を整形するように構成され、該ビーム(3)は、前記対物レンズコネクタに接続された対物レンズ(4,14,24)の後方開口部の中に導かれ、その結果として、前記対物レンズ(4,14,24)の焦点(8)において前記蛍光抑止光の強度最大値によって範囲が定められる、前記蛍光抑止光の強度最小値を形成し、前記対物レンズ(4,14,24)及び前記ビーム整形素子(7)を含む複数の光学素子(4,5,7,11,12,14,24)は、前記対物レンズ(4,14,24)の前記焦点(8)に至るまでの、蛍光抑止光の前記ビーム(3)のビーム経路に配置され、
前記方法は、
蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に配置された前記光学素子(4,5,11,12,14,24)の少なくとも1つを除去するステップ、又は交換するステップ、又は変更するステップ、又は付加するステップと、
前記少なくとも1つの光学素子(4,5,7,11,12,14,24)を除去するステップ、又は交換するステップ、又は変更するステップ、又は付加するステップによって引き起こされる、蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に配置された前記複数の光学素子(4,5,7,11,12,14,24)の偏光変動性特性の変動を、前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることによって補償するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記光学素子(4,5,7,11,12,14,24)を交換するステップは、前記対物レンズコネクタに接続された前記対物レンズ(4)を別の対物レンズ(14,24)と交換すること、及び偏光変動性材料で作られたサンプル基板(11)を偏光変動性材料の別のサンプル基板(11)と交換することの少なくとも1つを含み、且つ、
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、前記ビーム整形素子(7)を、前記他の対物レンズ(14,24)又は前記他のサンプル基板(11)にそれぞれ適合させることを含み、その結果、前記対物レンズ(4,14,24)又は前記サンプル基板(11)によってそれぞれ引き起こされる、蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に配置された前記複数の光学素子(4,5,7,11,12,14,24)の前記偏光変動性特性の前記変動が補償される、 請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、前記ビーム整形素子(7)によって、付加的な偏光回転を発生させることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、前記ビーム整形素子(7)を、除去された、又は交換された、又は変更された、又は付加された光学素子(4,5,7,11,12,14,24)の識別子によって予め決められた調節に設定することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、前記除去された、又は交換された、又は変更された、又は付加された光学素子(4,5,7,11,12,14,24)の識別子を読み込むことを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、前記除去された、又は交換された、又は変更された、又は付加された光学素子(4,5,7,11,12,14,24)の識別子によって予め決められた前記調節を、前記識別子を使用して、データベース(17)から読み込むことを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、
蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に、少なくとも1つの更なるビーム整形素子(7)を配置するステップ、
蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路から、前記ビーム整形素子(7)の少なくとも1つを除去するステップ、
蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に配置された前記ビーム整形素子(7)の少なくとも1つを交換するステップ、および、
蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に配置された前記ビーム整形素子(7)の少なくとも1つを再調節するステップ、
から選択された少なくとも1つのステップを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ビーム整形素
子(7)の少なくとも1つを再調節するステップは、
前記ビーム整形素子(7)の2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つを回転させるステップ、
前記ビーム整形素子(7)の2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つを傾斜させるステップ、及び、
前記ビーム整形素子(7)の2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つの位相遅れを調節するステップ、
から選択された少なくとも1つのステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、
蛍光抑止光の前記強度最小値から発せられる蛍光の強度を最大化すること、及び、
前記蛍光抑止光の前記強度最小値における前記蛍光抑止光の残留強度を最小化すること、
から選択された少なくとも1つの目標を追求しながら、前記ビーム整形素子(7)の調節を変化させることを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光学素子(4,5,7,11,12,14,24)を交換するステップは、前記対物レンズコネクタに接続された前記対物レンズ(4)を、別の対物レンズ(14,24)で置き換えることを含み、且つ前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることは、蛍光抑止光の前記ビーム(3)の波面の形状を、前記他の対物レンズ(14,24)の前記後方開口部に適合させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記波面を整形することを適合させるステップは、少なくとも1つの空間光変調器又は適応型ミラーを設定することを適合させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
高分解能レーザ走査顕微鏡(1)であって、
対物レンズコネクタと、
蛍光抑止光のビーム(3)を少なくともその偏光に関して整形するように構成されたビーム整形素子(7)であって、該ビーム(3)は、前記対物レンズコネクタに接続された対物レンズ(4,14,24)の後方開口部の中に導かれ、その結果として、前記対物レンズ(4,14,24)の焦点(8)において、前記蛍光抑止光の強度最大値によって範囲が定められる、前記蛍光抑止光の強度最小値を形成する、ビーム整形素子(7)と、を備え、
前記対物レンズ(4,14,24)及び前記ビーム整形素子(7)を含む複数の光学素子(4,5,11,12,14,24)は、前記対物レンズ(4,14,24)の前記焦点(8)に至るまでの、蛍光抑止光の前記ビーム(3)のビーム経路に配置され、
前記レーザ走査顕微鏡(1)は、適合デバイス(13)を更に備え、
前記適合デバイス(13)は、前記ビーム整形素子(7)に動作的に接続されると共に、蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記ビーム経路に配置された前記複数の光学素子(4,5,11,12,14,24)の偏光変動性特性の変動を補償するように構成され、前記ビーム整形素子(7)を前記変動に適合させることによって、前記変動は、前記光学素子(4,5,7,11,12,14,24)の少なくとも1つを除去すること、又は交換すること、又は変更すること、又は付加することに伴って生じる、高分解能レーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項13】
除去された、又は交換された、又は変更された、又は付加された光学素子(4,5,11,12,14,24)の識別子に対する読み込みデバイス及び入力デバイス(18)の少なくとも1つを更に備える、請求項12に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項14】
前記読み込みデバイスは、前記対物レンズコネクタに位置する、請求項
13に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項15】
前記適合デバイス(13)は、前記ビーム整形素子(7)を、前記識別子によって予め決められた調節に合わせて設定するように構成される、請求項
13又は14に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項16】
請求項12から14のいずれか一項に記載のレーザ走査顕微鏡(1)であって、
前記ビーム整形素子(7)は、少なくとも2つの複屈折性光学素子を含み、前記2つの複屈折光学素子の少なくとも1つは、次に挙げる、
・前記適合デバイス(13)によって、少なくとも1つの軸の周りに回転される、又は傾斜されるように構成された複屈折性光学素子、
・前記適合デバイス(13)によって、2つの直交する空間軸の周りに回転される、又は傾斜されるように構成された複屈折性光学素子、
・前記適合デバイス(13)によって、電気的に回転される、又は傾斜されるように構成された複屈折性光学素子、及び、
・前記適合デバイス(13)のモータによって、回転される、又は傾斜されるように構成された複屈折性光学素子、
から選択される、レーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項17】
前記ビーム整形素子(7)は、少なくとも2つの複屈折性光学素子を含み、前記2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つは、
前記適合デバイス(13)によって、自身の位相遅れに関して調節されるように構成された複屈折性光学素子、
前記適合デバイス(13)によって、自身の位相遅れに関して電気的に調節されるように構成された複屈折性光学素子、
から選択される、請求項12から16のいずれか一項に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項18】
前記複屈折性光学素子は、
波長板、λ/2板及びλ/4板、
液晶デバイス(LCD)及び液晶ポリマ(LCP)、及び、
電気光学(EO)素子、
の1つから選択される、請求項16又は17に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項19】
前記ビーム整形素子(7)は、電解を印加することにより、前記適合デバイス(13)によって活性化される、光学活性体を含む、請求項12から18のいずれか一項に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【請求項20】
前記ビーム整形素子(7)は、少なくとも1つのビーム波面整形素子(7)を含み、該ビーム波面整形素子(7)は、蛍光抑止光の前記ビーム(3)の波面を形成するように構成されると共に、空間光変調器及び適応型ミラーから選択され、前記適合デバイス(13)は、前記少なくとも1つのビーム波面整形素子(7)を動作させるように構成され、その結果として、蛍光抑止光の前記ビーム(3)の前記波面の形状を、前記対物レンズコネクタに現在接続されている前記対物レンズ(4,14,24)の前記後方開口部に適合させる、請求項12から19のいずれか一項に記載のレーザ走査顕微鏡(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズコネクタ及びビーム整形素子を備える高分解能レーザ走査顕微鏡を使用する方法に関する。更に、本発明は、対物コネクタ及びビーム整形素子を備える高分解能レーザ走査顕微鏡に関する。本方法及びレーザ走査顕微鏡においては、ビーム整形素子は、対物レンズコネクタに接続された対物レンズの後方開口部の中に導かれる蛍光抑止光のビームを、少なくともその偏光に関して整形し、その結果として、対物レンズの焦点において、蛍光抑止光の強度最大値によって範囲が定められる蛍光抑止光の強度最小値を形成する。
【背景技術】
【0002】
蛍光抑止光のビームによって、空間的に高い分解能が達成される高分解能レーザ走査顕微鏡においては、サンプルから発せられる蛍光の存在が示されるそれぞれの測定エリアのサイズは、蛍光励起の集束ビームの回折限界のスポット未満に減少し、ここで蛍光励起の集束ビームにおいては、前記スポットは、強度最大値によって範囲が定められた強度最小値を有する蛍光抑止光の強度分布と重ね合わされる。もし強度最大値の範囲内にある蛍光抑止光の強度が非常に高く、蛍光抑止を飽和まで至らせ、その一方で、強度最小値の範囲内にある蛍光抑止光の強度が非常に小さく、蛍光抑止光が蛍光の発光を抑止しない場合、存在が示される蛍光は、強度最大値のエリアを起源とするものだけである。もし強度最小値が、干渉によって形成される蛍光抑止光の強度分布のゼロ点である場合、蛍光が依然として発せられる強度最小値のエリアの寸法は、強度最大値における蛍光抑止光の強度を増加させることによって、回折障壁のはるか下方まで減少されるかもしれない。ここで、強度最小値が、蛍光抑止光の強度が実際にゼロまで低下する真のゼロ点であることは全く重要でない。強度最小値における蛍光抑止光の任意の残留強度は、しかしながら、蛍光抑止光の強度最小値から発せられる蛍光の強度を減少させる。更に、強度最小値における蛍光抑止光の残留強度は、蛍光抑止光の強度を増加させることによって、強度最小値のエリアを減少させる可能性の範囲を定める。この増加はまた、強度最小値における蛍光抑止光の残留強度を増加させ、その結果、蛍光抑止光の強度最小値から発せられる蛍光の強度は、ゼロにまでも低下するかもしれない。そのような場合、強度最小値においてサンプルを測定することに対して、蛍光の存在を示すことは可能ではない。従って、強度最小値における蛍光抑止光の残留強度を可能な限り小さく保つことは非常に意義があり、且つ理想的な場合、この強度はゼロである。
【0003】
それぞれの対物レンズの光軸の周り全てに延在する蛍光抑止光のリング形状の強度分布を形成する目的のために(これはまた、ドーナツ状として指定される)、蛍光抑止光のビームの波面を、いわゆる位相クロックによって、螺旋形状の方法において変調することが知られている。位相クロックの下流では、光軸の周りの0から2πまでの、位相面のそれぞれの部分の角度位置は、0からλまでの相対的な位相に対応する。ここで、λは、蛍光抑止光の波長である。もしこのような方法で整形された位相面を有する蛍光抑止光のビームの蛍光抑止光が円偏光とされる場合(特に、円偏光の方向が位相変動の方向に適合される場合)、且つ、もし蛍光抑止光が、その後、対物レンズの後方開口部の中に導かれる場合、蛍光抑止光の強度のゼロ点は、蛍光抑止光の集束ビームの焦点に形成される。
【0004】
もし蛍光抑止光のビームが、対物レンズの後方開口部における光軸の周りで回転する直線偏光を有する場合、蛍光抑止光のビームの焦点において光軸の周りに延在する蛍光抑止光のリング形状の強度分布が結果として生じる。そのような直線偏光は、セグメント化された複屈折性波長板を用いることによって達成してもよいが、このセグメント化された複屈折性波長板においては、波長板の個々のセグメントは、光軸の周りでパイ状セグメントのように配置され、且つ蛍光抑止光の直線偏光に備えるが、この直線偏光は、それぞれのセグメントの主延長部分の半径方向に直交する。既に4つの等しくサイズ取りされたセグメントによって、蛍光抑止光の本質的にリング形状の強度分布が、蛍光抑止光のビームの焦点において達成される。
【0005】
蛍光抑止光の強度最大値によって、光軸の方向における蛍光抑止光の強度最小値の範囲を更に定める目的のために、蛍光抑止光の更なるビームを使用することが知られているが、ここで更なるビームは、蛍光抑止光のリング形状の強度分布を形成し、且つ上で説明された蛍光抑止光のビームと重ね合わされる。蛍光抑止光の更なるビームの波面は、光軸の周りの円と、円の周りを通るリングに細分化され、且つリングと円の間に、λ/2の位相ステップが提供される。ここでλは、再び、蛍光抑止光の波長である。円及びリングの両方において蛍光抑止光の合計の強度が同じであることによって、蛍光抑止光の強度のゼロ点が、蛍光抑止光のビームの焦点において達成され、ゼロ点は、光軸の方向において、蛍光抑止光の2つの強度最大値によって範囲が定められる。円及びリングにおいて蛍光抑止光のこの等しい強度を得るために、対物レンズの後方開口部に対する精密な適合が要求されるが、その理由は、対物レンズの後方開口部を通過する蛍光抑止光のそれらの部分だけが、ゼロ点を形成することに関与するからである。同時に、蛍光抑止光の強度最大値近傍によって、光軸の方向における蛍光抑止光の強度のゼロ点の範囲を狭く定めるために、対物レンズの後方開口部の全てを利用することは意義がある。
【0006】
発明者らは、次のことに気付いた。即ち、最適に調節されたビーム整形素子を有する状態でさえも、高分解能レーザ走査顕微鏡は、その場合にのみ、対物レンズの焦点において蛍光抑止光の強度最小値を提供し、ある一定の対物レンズが使用される場合、該強度最小値は、望ましいゼロ点を有するか、又は望ましいゼロ点に近づく、ということに気付いた。発明者らは、次のことを見出した。即ち、ゼロに近い蛍光抑止光の残留強度を有する強度最小値は、「DIC(差動干渉コントラスト)顕微鏡観察に適する」ように指定された対物レンズを使用する場合に、より頻繁に達成される、ということを見出した。「http://www.olympus-ims.com/en/microscope/terms/feature12/」によれば、これらの対物レンズは、低減されたレンズゆがみによって特徴付けられる。「http://www.olympus-lifescience.com/en/objectives/」によれば、DIC顕微鏡観察に特に適した対物レンズUPLFN-Pの内部応力は、絶対的な最小値まで低減されている。
【0007】
更に、発明者らは次のことに気付いた。即ち、もしある材料で作られたサンプル基板が、対物レンズと対物レンズの焦点との間に配置される場合、強度最大値によって範囲が定められた強度最小値における蛍光抑止光の残留強度は増加し、且つ強度最小値のエリアから発せられる蛍光の強度は、高分解能レーザ走査顕微鏡においては、それに応じて減少する、ということに気付いた。幾つかのサンプル基板は、強度最小値のエリアから発せられる蛍光の存在がもはや示されない程度にまで、蛍光抑止光の残留強度を増加させる。
【0008】
特許文献1は、光ビームを形成するための装置及び方法を開示しており、そこでは、光ビームは、集束される場合、ゼロ強度の中心点を有するドーナツ形状パターンのイメージを作り出すであろう。均一な分布又はガウス分布を有するビームが、ビーム軸の反対側に対で配置された複数の透明な平板に導かれる。各対に対して、平板は、厚みにおいて互いに異なる組成を有し、且つ透過光が、少なくとも3つの異なる波長に対して、半波長の位相差を有するように、平板は選ばれる。対の1つの、2つの平板を接続する仮想的な線に対する垂線の上に中心を有する付加的な平板は、ある1つの組成及び厚さを有し、その結果、付加的な平板を透過する光は、少なくとも1つの波長において、前記一対の平板の、平板の1つを透過する光に関して、1/4波長の位相差を有する。この付加的な平板は、入射する直線偏光を円偏光に変換する。この円偏光の、且つ平行とされたビームは、複数の透明な平板を通過するが、これらの平板は、そのビームをゼロ強度軸ビームに変換し、このゼロ強度軸ビームは、その後、対物レンズによって集束されて、対物レンズの焦点においてドーナツ形状のパターンとなる。
【0009】
特許文献2は、レーザ画像顕微鏡観察における分解能を改善するための方法及びシステムを開示している。サンプルのポジ像を得るための、ビームの中心で最大強度の強度分布を有する第1励起ビームと、ビームの中心で最小強度の強度分布を有すると共に、中心の周りで最大強度の周辺領域を画定し、これによりサンプルのネガ像を得る第2励起ビームとによって、サンプルは連続的に走査される。最後に、サンプルの高分解能画像を得るために、ポジ像からネガ像が差し引かれる。第1及び第2の励起ビームを形成するためのモード変換器は、複屈折性波長板アセンブリ、電気光学デバイス、液晶デバイスおよび偏光制御器を含む、異なる光学構成要素又は光学構成要素の組み合わせを含んでもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2008/098144号
【文献】国際公開第2013/067643号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
蛍光抑止光のビームのための対物レンズコネクタ及びビーム整形素子を備える高分解能レーザ走査顕微鏡を使用する方法、及び対応する高分解能レーザ走査顕微鏡の必要性は依然として存在する。この高分解能レーザ走査顕微鏡においては、対物レンズを交換した後でさえも、又は、対物レンズの焦点に至るまでの、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される他の任意の光学素子を、除去、又は交換、又は変更、又は追加した後でさえも、強度最大値によって範囲が定めされる、対物レンズの焦点での強度最小値における蛍光抑止光の残留強度は、依然として、実質的にゼロにまで低下する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、対物レンズコネクタ及びビーム整形素子を有する高分解能レーザ走査顕微鏡を使用する方法に関する。ビーム整形素子は、対物レンズコネクタに接続された対物レンズの後方開口部の中に導かれる蛍光抑止光のビームを、少なくともその偏光に関して、整形するように構成される。このビーム整形の目的は、対物レンズの焦点において、蛍光抑止光の強度最大値によって範囲が定められる蛍光抑止光の強度最小値を形成することである。対物レンズ及びビーム整形素子を含む複数の光学素子は、対物レンズの焦点に至るまでの、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される。本方法は、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置された光学素子の少なくとも1つを、除去する、又は交換する、又は変更する、又は追加するステップを含み、且つ、少なくとも1つの光学素子を除去する、又は交換する、又は変更する、又は追加するステップによって引き起こされる、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置された複数の光学素子の偏光変動性特性の変動を、該変動にビーム整形素子を適合させることによって補償するステップを含む。
【0013】
更に、本発明は、対物レンズコネクタ及び、蛍光抑止光のビームを少なくともその偏光に関して整形するように構成されたビーム整形素子を備える高分解能レーザ走査顕微鏡に関し、ここで蛍光抑止光のビームは、対物レンズコネクタに接続された対物レンズの後方開口部の中に導かれ、その結果として、対物レンズの焦点において、蛍光抑止光の強度最大値により範囲が定められる蛍光抑止光の強度最小値を形成する。対物レンズ及びビーム整形素子を含む複数の光学素子は、対物レンズの焦点に至るまでの、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される。レーザ走査顕微鏡は適合デバイスを更に備え、この適合デバイスは、ビーム整形素子に動作的に接続され、且つ蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される複数の光学素子の偏光変動性特性の変動を補償するように構成されるが、該変動は、少なくとも1つの光学素子を除去する、又は交換する、又は変更する、又は追加することに伴って生じる。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、次の図面及び詳細な説明を調査するに当たり、当業者にとって明らかとなるであろう。そのような全ての付加的な特徴及び利点は、請求項によって定義されるように、本発明の範囲内で本明細書に含まれることが意図されている。
【0015】
本発明は、次の図面を参照することで、より良く理解することが可能である。図面における構成要素は、必ずしもスケール、強調の通りでななく、その代わりに、本発明の原理を明瞭に示すに当たって配置されたものである。図面では、同様な参照符号は、幾つかの図を通して、対応する部分を指す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】蛍光抑止光のビームのための対物レンズチェンジャ及び光源を備える本発明のレーザ走査顕微鏡の実施形態を示す図である。
【
図2】
図1による、本発明のレーザ走査顕微鏡の実施形態の変形例を示す図である。
【
図3】蛍光抑止光のビームのための対物レンズチェンジャ及び2つの光源を備える本発明のレーザ走査顕微鏡の実施形態を示す。
【
図4】
図3による、本発明のレーザ走査顕微鏡の実施形態の変形例を示す図である。
【
図5】
図4による、本発明のレーザ走査顕微鏡の実施形態の変形例を示す図であり、この変形例は、付加的な検出器を備える。
【
図6】
図4による、本発明のレーザ走査顕微鏡の実施形態の変形例を示す図であり、この変形例は、任意選択的なダイクロイックミラーを備える。
【
図7】本発明のレーザ走査顕微鏡の適合デバイスの、4つの可能な実施形態の1つを示す図である。
【
図8】本発明のレーザ走査顕微鏡の適合デバイスの、4つの可能な実施形態の1つを示す図である。
【
図9】本発明のレーザ走査顕微鏡の適合デバイスの、4つの可能な実施形態の1つを示す図である。
【
図10】本発明のレーザ走査顕微鏡の適合デバイスの、4つの可能な実施形態の1つを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による方法は、対物レンズコネクタ及びビーム整形素子を備える高分解能レーザ走査顕微鏡を使用することから始まり、ここで該ビーム整形素子は、対物レンズコネクタに接続される対物レンズの後方開口部に導かれる蛍光抑止光のビームを、少なくともその偏光に関して整形し、その結果として、対物レンズの焦点において、強度最大値によって範囲が定められる強度最小値を形成する。対物レンズ及びビーム整形素子を含む複数の光学素子は、対物レンズの焦点に至るまでの、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される。この高分解能レーザ走査顕微鏡の使用において、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置された光学素子の少なくとも1つは、除去される、又は交換される、又は変更される、又は付加される。本発明による方法は、対物レンズの焦点に至るまでの、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される複数の光学素子、又は全体的な光学素子の偏光変動性特性の変動を、ビーム整形素子を適合させることで補償することによって特徴付けられる。ここで該偏光変動性特性の変動は、少なくとも1つの光学素子を除去する、又は交換する、又は変更する、又は付加することによって引き起こされる。
【0018】
本発明による方法は、次の発見に基づいている。その発見とは、異なる光学素子(これらの光学素子は、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置され、且つこれらの光学素子を、蛍光抑止光のビームが通過するか、又はこれらの光学素子によって、ビームが対物レンズの焦点に至るまでの途中で反射される)が、光学素子の偏光変動性特性によって、蛍光抑止光のビームの偏光を変更するが、ここでそうなるのは、対物レンズの焦点における蛍光抑止光の、実質的にゼロの残留強度を有する強度最小値を形成するための前提条件が満たされないためであり、しかしこれらの前提条件は、この目的のために提供されるビーム整形素子を調節することによって満たされる、というものである。例えば、製造業者によって「偏光を維持する」ものとして指定される対物レンズでさえも、そのような偏光変動性特性を有する。
【0019】
更に、本発明による方法は、次の発見に基づいている。その発見とは、蛍光抑止光のビームのこれらの偏光変動は、それぞれのレーザ走査顕微鏡のビーム整形素子によって、比較的容易に補償される可能性がある、というものである。これらのビーム整形素子の設計に依存して、ビーム整形素子の既に存在する調節選択肢は十分であるかもしれないし、又はこれらの調節選択肢を使用可能にすることは十分である。しかしながら、しばしば、新しい調節選択肢を創出することが適切である。そのような新しい調節選択肢さえも、しかしながら、任意の高度に前向きの努力又は財政的な努力を要求するものではない。
【0020】
特別な実施形態において、本発明による方法は、レーザ走査顕微鏡の対物レンズコネクタに接続された対物レンズを、別の対物レンズと交換することに適用される。この実施形態では、ビーム整形素子は他の対物レンズに適合され、その結果、交換後に、対物レンズコネクタに以前に接続された対物レンズによる蛍光抑止光のビームの偏光変化(特に偏光回転)とは異なる、新しい対物レンズによる蛍光抑止光のビームの変動性偏光変化又は偏光回転を、ビーム整形素子は前もって補償する。しばしば、ビーム整形素子による付加的な偏光回転の提供(これは、他の対物レンズによる蛍光抑止光のビームの偏光回転を無効にする)は、この目的に対して十分である。
【0021】
本発明による方法を対物レンズの交換に適用する場合、蛍光抑止光のビームを少なくとも偏光に関して整形するビーム整形素子を有する高分解能レーザ走査顕微鏡に対して、今までは不適切であると見なされてきた対物レンズを使用することさえも可能である。本発明による方法を対物レンズの交換に適用することは、レーザ走査顕微鏡をそれぞれの対物レンズに敏速に適合させることへの準備となる。この適合それ自体が、即ち、任意の調節が無いことが、高分解能顕微鏡観察のための新しい対物レンズを有するレーザ走査顕微鏡を使用するのに十分なことかもしれない。
【0022】
更なる特別の実施形態において、本発明による方法は、対物レンズと対物レンズの焦点との間に配置される異なるサンプル基板との結合において、高分解能レーザ走査顕微鏡を使用することに適用される。ここで、ビーム整形素子は、偏光変動性材料から作られたサンプル基板に適合され、その結果、それらのビーム整形素子は、偏光変動に対して、特にそれぞれの基板を用いることによる蛍光抑止光のビームの偏光回転に対して、前もって補償する。更にこの目的のためには、ビーム形成素子による付加的な偏光回転の調節(これは、それぞれのサンプル基板による蛍光抑止光のビームの偏光回転を無効にする)は、しばしば十分である。
【0023】
対物レンズの交換、又は異なるサンプル基板の間の変化の他に、本発明による方法はまた、対物レンズの焦点に至るまでの、蛍光抑止光のビームのビーム経路から、又は該ビーム経路において、又は該ビーム経路の中に、他の光学素子を除去する、交換する、又は変更する、又は付加する場合に、適用してもよい。蛍光抑止光のビームのビーム経路から、又は該ビーム経路において、又は該ビーム経路の中に、ダイクロイックミラーを除去する、交換する、又は付加すること(これは、補償無しでは、蛍光抑止光のビームの偏光に著しく影響を及ぼし、且つ、従って、ダイクロイックミラーの偏光変動性特性のために、対物レンズの焦点における強度最小値の品質に著しく影響を及ぼす)は、この態様に属す。
【0024】
蛍光抑止光のビームの偏光を変化させるために、ビーム経路に特に提供される光学素子を除去する、又は交換する、又は変更する、又は付加することによって、蛍光抑止光のビームの偏光の変動を補償することは、あまり重要ではない、又は本発明の態様でさえないかもしれない。高分解能レーザ走査顕微鏡を使用する場合、しかしながら、蛍光抑止光のビームのビーム経路から、又は該ビーム経路において、又は該ビーム経路の中に、偏光変化のために特に提供される光学素子を除去する、又は交換する、又は付加することは、通常起こることではない。偏光変動に対して特に提供される光学素子は、例えば、波長板である。
【0025】
更に、蛍光抑止光のビームのビーム経路における光学素子の純粋な微調節又は再調節から生じる、蛍光抑止光のビームの偏光の変動を補償することは、あまり重要ではない、又は本発明の態様でさえないかもしれない。代わりに、蛍光抑止光のビームのビーム経路において光学素子を変更するステップは、交換又は付加の間に起こる光学素子の基本調節を特に意味し、この基本調節はまた、交換又は付加の一部分と見なしてもよい。
【0026】
ビーム整形素子を、対物レンズ、サンプル基板、又は蛍光抑止光のビームのビーム経路において偏光変動性特性を有する任意の光学素子に適合させる場合、ビーム整形素子は、それぞれの光学素子の識別子によって予め決められた調節に合わせてもよい。このことは、もし除去される、又は交換される、又は付加される光学素子が既知である場合、原則として、それぞれの光学素子に対して、レーザ走査顕微鏡の微調節又は再調節は必要ないことを意味する。代わりに、ビーム整形素子を、光学素子の識別子によって予め決められた調節に合わせることは、本質的に十分なことである。
【0027】
それぞれの光学素子の識別子は、光学素子を除去する時、又は交換する時、又は変更する時、又は付加する時に読み込んでもよく、且つ除去された、又は交換された、又は変更された、又は付加された光学素子の識別子によって予め決められた調節は、識別子を用いてデータベースから読み込んでもよい。このデータベースは、レーザ走査顕微鏡において、又はレーザ走査顕微鏡に接続されたコンピュータにおいて提供してもよい。代わりに、データベースは、外部的に提供してもよい。この場合、データベースは、例えば、インターネットを介してアクセスしてもよい。識別子は、光学素子から直接読み込んでもよく、又は光学素子に直接接続されたユニットから、若しくは光学素子に別な方法で結合されたユニットから読み込んでもよい。例えば、識別子は、対物レンズチェンジャにおけるそれぞれの対物レンズの場所又は位置であってもよく、又は識別子は、レーザ走査顕微鏡におけるこの場所又は位置に対して格納してもよい。
【0028】
一般に、ビーム整形素子の最適な調節は、しかしながら、ビーム整形素子の調節を意図的に変化させることによって見つけてもよい。従って、光学素子を除去した後、又は交換した後、又は変更した後、又は付加した後の適合においては、ビーム整形素子の調節は、強度最小値のエリアに対して存在が示された蛍光の強度を最大化する目標を持って変化させてもよく、且つ/又は強度最小値のエリアに対して存在が示された蛍光抑止光の残留強度を最小化する目標を持って変化させてもよい。このアプローチは、次の事実に基づいている。その事実とは、もし蛍光抑止光の低い残留強度を有する強度最小値が形成される場合にのみ、強度最小値のエリアからの蛍光のかなりの量が達成され、且つこの量が高ければ高いほど、強度最小値は望ましいゼロ点に近づく、というものである。そのように意図的にビーム整形素子の調節を変化させることは、例えば、いわゆるファジー論理による完全に自働的な方法で成し遂げてもよい。
【0029】
ビーム整形素子を、それぞれの対物レンズ、それぞれのサンプル基板、又は、偏光変動性特性若しくは偏光変更性特性を有する他の光学素子に適合させることは、次に示す手段である、
・蛍光抑止光のビームのビーム経路に、少なくとも1つの更なるビーム整形素子を配置すること、
・蛍光抑止光のビームのビーム経路から、少なくとも1つのビーム整形素子を除去すること、
・蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置されたビーム整形素子の少なくとも1つを交換すること、
・蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置されたビーム整形素子の少なくとも1つを再調節すること、
の1つ以上を含んでもよい。
【0030】
ビーム整形素子の少なくとも1つを再調節することは、ビーム整形素子の2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つを回転させること、及び/又はビーム整形素子の2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つを傾斜させること、及び/又はビーム整形素子の2つの複屈折性光学素子の少なくとも1つの位相遅れを調節することを含んでもよい。従って、例えば、ビーム整形素子の出力側のλ/4板(これは、蛍光抑止光のビームを円偏光とするのに役立つ)は、回転させてもよく、且つ/又は傾斜させてもよい。
【0031】
別の特別な実施形態において、λ/2板が、ビーム整形素子の出力側のλ/4板の前に配置され、ここでλ/2板は、出力側のλ/4板に関して、ある回転位置を有する。ここで、λ/4板もまた、蛍光抑止光のビームを円偏光とするのに役立つ。ある回転位置において、上流のλ/2板は、λ/4板による蛍光抑止光の完全な円偏光を妨げるかもしれない。にもかかわらず、下流の対物レンズによる偏光回転によって、例えば、対物レンズの焦点において、蛍光抑止光のビームの完全な円偏光がもたらされるかもしれない。従って、λ/4板の上流に配置されたλ/2板の回転位置は、それぞれの光学素子に適合させてもよく、ここでそれぞれの光学素子は、それぞれの光学素子による偏光の変動を補償するために、蛍光抑止光のビームのビーム経路から除去される、又は該ビーム経路に付加される、又は該ビーム経路の中で交換される。特に、λ/2板は、もう一つのλ/2板によって置き換えてもよく、ここでもう一つのλ/2板とは、例えば、λ/4板の上流に配置された回転ディスクよって適切な回転位置を有すると共に、光学素子の各々の可能な組み合わせに対して、別のλ/2板を携えるものである。
【0032】
ビーム整形素子の出力側のλ/4板に関して上流のλ/2板を回転することに加えて、出力側のλ/4板もまた回転してもよい。そういうわけで、偏光変動性特性を有するそれぞれの光学素子に左右されるビーム整形素子の調節は、2つの回転角度の両方を設定することを含む。
【0033】
更に、出力側の電気光学デバイス、又はビーム整形素子の出力側のλ/4板の上流に配置される電気光学デバイスを、望ましい偏光回転を提供するために動作させてもよい。
【0034】
もし本発明による方法において、対物レンズが交換される場合、ビーム整形素子を用いて達成される波面の形状は、付加的に適合させてもよい。特に、波面の形状は、それぞれの対物レンズの後方開口部に適合させてもよい。ビーム整形素子を用いることによって、蛍光抑止光のビームの波面の形状を、それぞれの対物レンズの後方開口部に適合させることもまた、それ自体が発明であり、この発明は、対物レンズによる偏光変動又は偏光回転を補償することとは別に使用してもよい。
【0035】
最も効率的なやり方として、蛍光抑止光のビームの波面の形状は、少なくとも1つの空間光変調器又は適応型ミラーを異なるように動作させることによって、それぞれの対物レンズに適合される。適応型ミラーは、複数のマイクロミラーを有してもよく、該マイクロミラーは、2つの横方向において並んで配置され、且つ長手方向又は深さ方向において別々に制御可能である。
【0036】
本発明による高分解能レーザ走査顕微鏡は、対物レンズコネクタ及びビーム整形素子を備え、ここで該ビーム整形素子は、対物レンズコネクタに接続された対物レンズの後方開口部の中に導かれる蛍光抑止光のビームを整形するように構成される。ビーム整形素子は、蛍光抑止光のビームを、少なくともその偏光に関して整形し、その結果として、対物レンズの焦点における強度最大値によって範囲が定められる強度最小値を形成する。対物レンズ及びビーム整形素子を含む複数の光学素子は、対物レンズの焦点までの、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置される。更に、本発明による高分解能レーザ走査顕微鏡は、動作的にビーム整形素子に接続された適合デバイスを備える。適合デバイスは、蛍光抑止光のビームに配置された光学素子の少なくとも1つを除去する、又は交換する、又は変更する、又は付加する場合に、蛍光抑止光のビームのビーム経路に配置された複数の光学素子、又は全体的な光学素子の偏光変動性特性の変動を補償するように構成される。ここで、偏光変動性特性の変動は、それぞれの少なくとも1つの光学素子の除去、又は交換、又は変更、又は付加によって引き起こされるものである。
【0037】
除去される、又は交換される、又は変更される、又は付加される光学素子の識別子に対する読み込みデバイス及び/又は入力デバイスは、本発明によるレーザ走査顕微鏡において提供してもよい。特に、読み込みデバイスは、レーザ走査顕微鏡の対物レンズコネクタにおいて提供してもよく、且つ、例えば、現在の設定を監視するか、又は異なる位置において複数の対物レンズを保持する、レーザ走査顕微鏡の対物レンズチェンジャの能動位置を監視してもよい。どの対物レンズが、対物レンズチェンジャのどの位置にあるかを、レーザ走査顕微鏡に格納してもよい。加えて、適合デバイスをそれぞれの対物レンズに対してそれぞれ調節することは、レーザ走査顕微鏡に格納してもよく、又は外部のデータベースから読み込んでもよい。各場合において、適合デバイスは、それぞれの除去される、又は交換される、又は変更される、又は付加される光学素子(これらは、蛍光抑止光の偏光回転を引き起こす)の識別子によって予め決められたビーム整形素子の調節を履行するように構成してもよい。
【0038】
本発明によるレーザ走査顕微鏡の適合デバイスは、少なくとも2つの複屈折性光学素子を含んでもよく、該複屈折性光学素子の少なくとも1つは、適合デバイスによって、その位相遅れに関して回転可能、又は傾斜可能、又は調節可能である。複屈折性光学素子は、波長板、λ/2板及びλ/4板、液晶デバイス(LCD)及び液晶ポリマ(LCP)、及び電気光学(EO)素子から選択してもよい。
【0039】
複屈折性光学素子の少なくとも1つは、適合デバイスによって、少なくとも2つの空間軸の周りに回転可能、又は傾斜可能であってもよい。空間軸は、好ましくは、直交しており、少なくともそれらの軸は、平行ではない。
【0040】
複屈折性光学素子の少なくとも1つは、適合デバイスによって電気的に、又はモータによって、その位相遅れに関して回転可能、又は傾斜可能、又は調節可能であってもよく、そこでは、例えば、ビーム整形素子の波長板を回転させる、又は傾斜させるための電気光学デバイス又はサーボモータが提供される。
【0041】
一実施形態において、ビーム整形素子は光学活性体を含んでもよく、この光学活性体は、例えば電界を印加することで、適合デバイスによって活性化してもよい。
【0042】
更に、ビーム整形素子は、蛍光抑止光の波面を整形するための、少なくとも1つの空間光変調器又は適応型ミラーを含んでもよく、ここで空間光変調器又は適応型ミラーは、それぞれの対物レンズの後方開口部に、波面の形状を適合させるために、適合デバイスによって動作されるが、これは、空間光変調器又は適応型ミラーを異なるように動作させることによって行われる。
【0043】
さて、図面をより詳細に参照すると、
図1で概略的に描かれたレーザ走査顕微鏡1は、サンプル2を検査すること又は測定することに役立ち、ここでサンプル2は、光強度分布がある状態で走査される。光強度分布は、蛍光抑止光のビーム3を含む。しばしば、光強度分布は、励起光のビームを付加的に含み、この励起光のビームは、蛍光抑止光のビーム3と一緒に、対物レンズ4によってサンプル2に収束される。本発明は、特に、蛍光抑止光のビーム3に関し、このビーム3の経路だけが、ここに描かれている。蛍光抑止光のビーム3は、光源19によって提供され、且つダイクロイックミラー5によって、レーザ走査顕微鏡1の主ビーム経路6に結合される。ビーム整形素子7は、蛍光抑止光のビーム3の偏光を少なくとも調節し、それによって、対物レンズ4の焦点8における蛍光抑止光の強度分布は、可能な限り低い蛍光抑止光の残留強度を有し、且つ強度最大値によって囲まれる強度最小値を備える。この強度最小値の状態で、サンプル2は走査される。この目的のために、対物レンズ4の焦点8は、走査板9によって移動されるが、ここで走査板9は、蛍光抑止光のビーム3を並進的に移動させる。焦点8において蛍光抑止光の最小残留強度を有する強度最小値を形成するための理想的条件は、例えば、以下の条件が満たされる場合に存在するべきである。即ち、もしビーム整形素子7が、光軸10の周りで蛍光抑止光のビーム3の波面の螺旋形状の進路を提供し、且つ蛍光抑止光のビーム3を円偏光とするならば、という条件が満たされる場合に、該理想的条件が存在する。後者の目的のために、ビーム整形素子は、対物レンズ4の前に配置されたλ/4板を含んでもよい。しかしながら、これらの条件が満たされる場合でさえも、焦点8において蛍光抑止光の低い残留強度を有する望ましい強度最小値は、しばしば達成されない。本発明の発明者らの発見によれば、これは、次の事実による。その事実とは、対物レンズ4、サンプル2の前に配置された任意のサンプル基板、又は蛍光抑止光のビーム3のビーム経路に配置された他の任意の光学素子12は、偏光変動性特性を有する可能性があり、そして実際に有することが予想されるが、この偏光変動性特性は、焦点8における蛍光抑止光のビームの望ましい偏光を妨げる、というものである。結果として起こる偏光変動は、適合デバイス13によって訂正されるが、ここで適合デバイス13は、ビーム整形素子7に接続され、且つビーム整形素子7によって、蛍光抑止光のビーム3の偏光に対して作用するが、それによって、例えば、対物レンズ4、サンプル基板11、又は蛍光抑止光のビーム3のビーム経路に配置された他の任意の光学素子12によって引き起こされるような、蛍光抑止光のビーム3の偏光の任意の不必要な変動が補償される。例えば、もし幾つかの異なる対物レンズ4、14、24、又は異なるサンプル基板11が使用される場合、蛍光抑止光のビーム3の偏光の実際に望ましくない変動は、実際に使用される対物レンズ4、14、若しくは24、又はサンプル基板11に依存する。これに対応して、適合デバイス13は、異なる対物レンズ4、14、24、及びサンプル基板11に関して、ビーム整形素子7を異なるように調節しなければならない。この目的のために、制御デバイス15が提供される。制御デバイス15は、レーザ走査顕微鏡1の対物レンズコネクタとして役立つ対物レンズチェンジャ16の設定を監視する。特に、制御デバイス15は、どの対物レンズ4、14、24が実際に使用されるかを監視する。実際に使用される対物レンズ4、14、24に依存して、制御デバイス15は適合デバイス13を設定する。制御デバイス15は、データベース17から、適合デバイス13の適切な設定を要求してもよい。データベース17は、ローカルに提供してもよく、又はデータベース17は、インターネットを介してアクセス可能であってもよい。異なるサンプル基板11を使用する場合、それぞれのサンプル基板11の識別子は、例えば、入力デバイス18を介して制御デバイス15に入力しなければならず、その結果として、制御デバイス15は、それぞれのサンプル基板11によって引き起こされる偏光の変動をビーム整形素子7によって補償するための、適合デバイス13の適切な設定を提供してもよい。
【0044】
図1によるレーザ走査顕微鏡1の実施形態において、全てのビーム整形素子7は、光源19の観点から、走査板9の上流又は前に配置されるのに対して、
図2によるレーザ走査顕微鏡1において、例えばλ/4板のようなビーム整形素子7の幾つかは、走査板9の後又は下流に配置される。
【0045】
図3によるレーザ走査顕微鏡1の実施形態において、
図2のように、ビーム整形素子7の幾つかは、走査板9と対物レンズ4との間に配置される。
図3によれば、蛍光抑止光のビーム3の更なる構成要素を提供するために、更なる光源19が提供される。更なるダイクロイックミラー5及び更なる適合デバイス13と一緒に、更なる光源19が、更なる調節可能な照明ユニット20を形成する。照明ユニット20の1つは、蛍光抑止光のビーム3の構成要素を提供してもよく、該蛍光抑止光は、光軸10のz方向における強度によって焦点8における強度最小値の範囲を定めるが、これに対して、他の照明ユニット20は、蛍光抑止光のビーム3の構成要素を提供するが、ここで該蛍光抑止光は、光軸10に直交するx方向及びy方向における強度最大値によって、焦点8における強度最小値の範囲を定める。代わりに、照明ユニット20の1つは、1つの波長を有する蛍光抑止光のビーム3の構成要素を提供してもよく、これに対して、他の照明ユニット20は、別の波長を有する蛍光抑止光のビーム3の別の構成要素を提供する。2つの構成要素の2つの波長は、例えば、サンプル2内の2つの異なる蛍光物質に適合してもよく、ここで2つの異なる蛍光物質は、蛍光抑止光に対して、異なる吸収を有する。照明ユニット20は共に、蛍光抑止光のビーム3のそれぞれの構成要素に対して、別々の適合デバイス13を有するという事実によって、2つの構成要素の偏光は、いずれの場合も、焦点8において蛍光抑止光の低い残留強度を有する望ましい強度最小値を達成するために、制御ユニット15によって互いに独立に最適化してもよい。
【0046】
図4によるレーザ走査顕微鏡1の実施形態において、ビーム整形素子7は、両方の照明ユニット20上に分散され、それによって、各照明ユニット20は、蛍光抑止光のビーム3のそれぞれの構成要素に対して、自身のビーム整形素子7を有する。それぞれの適合デバイス13によって、蛍光抑止光のビーム3のそれぞれの構成要素の偏光は、それぞれの対物レンズ4、14、24及びそれぞれのサンプル基板11に適合するように調節され、それによって、蛍光抑止光の低い残留強度を有する望ましい強度最小値が、それぞれの対物レンズの焦点8において形成される。
【0047】
図4に加えて、
図5は、焦点8に関して共焦点的に配置され、且つサンプル2から発せられる蛍光22を検出する検出器21を示す。蛍光22は、レーザ走査顕微鏡1の主ビーム経路6の範囲外で結合され、主ビーム経路6を介して、蛍光励起光23はサンプル2に導かれる。検出器21の信号は、適合デバイス13を微調節するために使用されるが、そこでは適合デバイス13の設定は、他の点では一定のパラメータとした状態で、蛍光22の強度が最大化されるまで変化される。このことは、焦点8における蛍光抑止光の残留強度が最小化されることを意味する。
【0048】
図6は、
図4による配置において、更なる光学素子12としての任意選択的なダイクロイックミラー25が、例えば、サンプル2から検出器に向かう蛍光22の、ある一定の構成要素を結合から外すために、蛍光抑止光のビーム3のビーム経路における様々な点でいかに配置されるかを示す。制御デバイス15によって適合デバイス13を設定することで、焦点8における蛍光抑止光のビーム3の偏光に対するダイクロイックミラー25の効果が補償される。蛍光抑止光のビーム3の偏光に対するダイクロイックミラー25の効果、及び、従ってまたそれらの効果の補償は、ダイクロイックミラー25それ自体、及びダイクロイックミラーが光軸10に対して向けられる角度の両方に依存する。
【0049】
図7は、
図1から
図6による本発明のレーザ走査顕微鏡1において、ビーム整形素子7に接続される適合デバイス13の更なる実施形態を示す。ここで、λ/4板の前、又はλ/4板の上流に配置される出力側λ/4板26及びλ/2板28は、それぞれ別々のサーボモータ27及び29によって、光軸10の周りに回転される。ビーム整形素子7を通過する蛍光抑止光のビーム3の偏光は、サーボモータ27及び29によって適合させることが可能であり、その結果、蛍光抑止光のビーム3は、レーザ走査顕微鏡1の対物レンズ4、14、又は24の下流を通過した後、焦点において望ましい円偏光を有するが、このことは、蛍光抑止光の低い残留強度を有する強度最小値を形成するための前提条件である。
図7による適合デバイス13の実施形態において、λ/4板26に対するサーボモータ27は、単に選択肢であり、即ち、λ/4板26はまた、固定された回転位置又は方位を有してもよい。
【0050】
よって、
図8による適合デバイス13の実施形態において、λ/4板26は、回転において固定され、且つサーボモータ29によって、実際に使用される対物レンズ、4、14、又は24に依存して、固定された方位を有するλ/2板28は、別の固定された方位を有する別のλ/2板30と交換されるか、又はどのλ/2板とも交換されない。
【0051】
図9に示された適合デバイス13の実施形態においては、λ/4板26だけが提供される。このλ/4板は、ここでは描かれていないサーボモータによって、光軸10の周りに回転され、且つ光軸10に直交する2つの傾斜軸31の周りで傾斜される。このように、対物レンズ4、14、又は24の焦点における、蛍光抑止光のビーム3の望ましい偏光を、設定することも可能である。
【0052】
図10に示される適合デバイス18の実施形態は、電気光学デバイス33を含み、ここで電気光学デバイス33は、蛍光抑止光のビーム3のビーム経路に配置された、異なる偏光変動性特性を有する異なる光学素子による偏光回転を補償するために、蛍光抑止光のビーム3の、光軸10の周りの偏光回転に対して動作させることが可能である。任意選択的に、適合デバイス13は、蛍光抑止光のビーム3を円偏光とするための、λ/4板26を付加的に備える。しかしながら、例えば、もし蛍光抑止光のビーム3が、偏光方向のある一定の分布を有する、セグメント化された複屈折性位相板によって直線偏光とされる場合には、蛍光抑止光のビーム3の偏光だけに起因する、対物レンズ4、14、又は24の焦点8において強度最大値によって範囲が定められる強度最小値を形成するために、λ/4板26が提供されることはない。
【0053】
本発明の範囲及び原理から実質的に外れることなく、本発明の好ましい実施形態に対して、多くの変形例及び変更例が創成されるかもしれない。全てのそのような変更例及び変形例は、次の請求項によって定義されるような本発明の範囲内で、本明細書に含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 レーザ走査顕微鏡
2 サンプル
3 蛍光抑止光のビーム
4 対物レンズ
5 ミラー
6 主ビーム経路
7 ビーム整形素子
8 焦点
9 走査板
10 光軸
11 サンプル基板
12 光学素子
13 適合デバイス
14 対物レンズ
15 制御デバイス
16 対物レンズチェンジャ
17 データベース
18 入力デバイス
19 光源
20 照明ユニット
21 検出器
22 蛍光
23 蛍光励起光
24 対物レンズ
25 ミラー
26 λ/4板
27 サーボモータ
28 λ/2板
29 サーボモータ
30 λ/2板
31 傾斜軸
32 傾斜軸
33 電気光学(EO)デバイス