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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】反応性基含有コンドロイチン硫酸誘導体
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20220726BHJP
   C12P 19/26 20060101ALI20220726BHJP
   C07H 15/10 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
C12P19/26
C07H15/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017183343
(22)【出願日】2017-09-25
(65)【公開番号】P2019059803
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真範
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-150464(JP,A)
【文献】特開2010-209048(JP,A)
【文献】特開2002-212197(JP,A)
【文献】Chem Biol Drug Des, 2017, Vol.89, pp.319-326(2016年9月公表)
【文献】J Biochem, 1991, Vol.109, pp.514-519
【文献】Proc Jpn Acad Ser B, 2012, Vol.88, pp.327-344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/08
C07H 15/10
C12P 19/26
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2):
【化1】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Yはエチニル基、ビニル基、アジド基、エポキシ基、アルデヒド基、オキシルアミノ基、チオール基、イソシアネート基、又はイソチオシアネートを示す。]
で表される化合物を含む繊維芽細胞を培養する工程を含む、
一般式(3):
【化2】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Xは分子量10000以上のコンドロイチン硫酸鎖を示す。Yはエチニル基、ビニル基、アジド基、エポキシ基、アルデヒド基、オキシルアミノ基、チオール基、イソシアネート基、又はイソチオシアネートを示す。]
で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
前記Yがエチニル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記nが0又は1~4の整数である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Rが水素原子である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記コンドロイチン硫酸鎖が哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記コンドロイチン硫酸鎖がヒト型コンドロイチン硫酸鎖である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性基含有コンドロイチン硫酸誘導体、その製造方法、その利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチン硫酸は神経細胞伸長作用、軟骨細胞分化作用等の様々な生理活性を持つことが知られている。このため、コンドロイチン硫酸は、再生医療、医薬化合物の高機能化、関節疾患の治療等の多分野において、その応用利用が望まれている。
【0003】
ただ、コンドロイチン硫酸は、高分子であるが故に、有機化学的人工合成は不可能である。したがって、通常は、生体成分からアルカリ処理等で切り出して抽出することにより得ている。この場合、得られたコンドロイチン硫酸を他の物質へ付加することは一般的に困難である。
【0004】
非特許文献1には、サケ由来プロテオグリカン(コンドロイチン硫酸含有)とプロパルギルアルコールとをエンド-β-キシロシダーゼの存在下で反応させることにより、プロパルギル基が導入されたサケ由来コンドロイチン硫酸誘導体が得られたことが報告されている。また、該コンドロイチン硫酸誘導体を、プロパルギル基を利用して、他の物質に付加させたことも報告されている。しかしながら、この技術で使用されている酵素は、抽出と精製が困難であり、特に精製に煩雑な工程を要し、必要量を得ることが難しい。また、この技術の原料(コンドロイチン硫酸含有プロテオグリカン)を必要量得るには、サケ等の魚類を原料とする必要があるので、この方法では、哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖を有するものを得ることは困難である。
【0005】
非特許文献2には、キシロース-セリン構造に長鎖アルキル基が付加されてなる化合物を細胞に導入することにより、細胞内で、該化合物を起点としてグリコサミノグリカン鎖が伸長してなるグリコサミノグリカン誘導体が生成されたことが報告されている。しかしながら、得られたグリコサミノグリカン誘導体におけるグリコサミノグリカン鎖の分子量は非常に低い(概ね分子量1000以下)。また、この技術で得られたグリコサミノグリカン誘導体は、他の物質への付加を簡便に行えるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tetrahedron Letters 47 (2006) 7455-7458.
【文献】Carbohydrate Research 361 (2012) 33-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、他の物質への付加をより簡便且つ効率的に行うことができ、且つコンドロイチン硫酸鎖の分子量がより大きな哺乳類型コンドロイチン硫酸誘導体を、より簡便且つ効率的に製造することができる方法、及び該哺乳類型コンドロイチン硫酸誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、一般式(2)で表される反応性基含有キシロース誘導体を含む細胞を培養することにより、上記課題を解決できることを見出した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 一般式(2):
【0010】
【化1】
【0011】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物を含む細胞を培養する工程を含む、
一般式(3):
【0012】
【化2】
【0013】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Xはコンドロイチン硫酸鎖を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物の製造方法。
【0014】
項2. 前記Yがエチニル基、ビニル基、アジド基、エポキシ基、アルデヒド基、オキシルアミノ基、チオール基、イソシアネート基、又はイソチオシアネートである、項1に記載の製造方法。
【0015】
項3. 前記Yがエチニル基である、項1又は2に記載の製造方法。
【0016】
項4. 前記nが0又は1~4の整数である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
項5. 前記Rが水素原子である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
項6. 前記細胞が繊維芽細胞である、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
項7. 前記コンドロイチン硫酸鎖の分子量が1000以上である、項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
項8. 前記コンドロイチン硫酸鎖が哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖である、項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
項9. 前記コンドロイチン硫酸鎖がヒト型コンドロイチン硫酸鎖である、項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
項10. 一般式(3):
【0023】
【化3】
【0024】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Xは哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物。
【0025】
項11. 一般式(2):
【0026】
【化4】
【0027】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物。
【0028】
項12. キシロース供与体と、一般式(1):
【0029】
【化5】
【0030】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物とをキシラナーゼの存在下で反応させる工程を含む、
一般式(2):
【0031】
【化6】
【0032】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物の製造方法。
【0033】
項13. 一般式(5):
【0034】
【化7】
【0035】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは修飾対象物質由来の基を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Xは哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖を示す。Zは架橋連結部を示す。]
で表される化合物。
【0036】
項14. 前記Zが1,2,3-トリアゾール環である、項13に記載の化合物
【0037】
項15. 一般式(3):
【0038】
【化8】
【0039】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Xは哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖を示す。Yは反応性基1を示す。]
で表される化合物と、一般式(4):
【0040】
【化9】
【0041】
[式中:Rは修飾対象物質由来の基を示す。Yは反応性基2を示す。]
で表される化合物とを反応させる工程を含む、
一般式(5):
【0042】
【化10】
【0043】
[式中:nは0又は1~10の整数を示す。Rは修飾対象物質由来の基を示す。Rは同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。Xは哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖を示す。Zは架橋連結部を示す。]
で表される化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、他の物質への付加をより簡便且つ効率的に行うことができ、且つコンドロイチン硫酸鎖の分子量がより大きな哺乳類型コンドロイチン硫酸誘導体を、より簡便且つ効率的に製造することができる方法、及び該哺乳類型コンドロイチン硫酸誘導体を提供することができる。
【0045】
さらに、本発明によれば、該製造方法の原料及びその製造方法、並びに哺乳類型コンドロイチン硫酸誘導体の利用態様として、哺乳類型コンドロイチン硫酸で修飾された物質及びその製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】実施例3で得られたクロマトグラムを示す。
図2】実施例4で得られたクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0048】
1.反応性基含有コンドロイチン硫酸誘導体
本発明は、その一態様において、一般式(3):
【0049】
【化11】
【0050】
で表される化合物、及びその製造方法に関する。以下に、これらについて説明する。
【0051】
nは0又は1~10の整数を示す。
【0052】
nは、好ましくは0又は1~6の整数であり、より好ましくは0又は1~4の整数であり、さらに好ましくは1~3の整数であり、よりさらに好ましくは1又は2であり、よりさらに好ましくは1である。
【0053】
は同一又は異なって、水素原子又はアシル基を示す。
【0054】
アシル基としては、特に制限されないが、例えばアセチル基、グリコリル基、レブリノイル基、クロロアセチル基、ブロモアセチル基、トリクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、トロック基等を挙げることができる。これらの中でもアセチル基、又はグリコリル基が好ましく挙げられ、アセチル基がより好ましく挙げられる。
【0055】
は、好ましくは水素原子、アセチル基、又はグリコリル基であり、より好ましくは水素原子又はアセチル基であり、さらに好ましくは水素原子である。
【0056】
Xはコンドロイチン硫酸鎖を示す。
【0057】
コンドロイチン硫酸鎖としては、特に制限されず、例えばグルクロン酸、イズロン酸、及びそれらの水酸基が硫酸化されてなる硫酸化ウロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の糖Pと、アセチルガラクトサミンの水酸基が硫酸化されてなる硫酸化アミノ糖からなる群より選択される少なくとも1種の糖Qとの繰り返し構造を含む鎖が挙げられる。コンドロイチン硫酸鎖は、通常はリンカー構造を含む。典型的には、コンドロイチン硫酸鎖としては、W-L-(式中:Wは糖Pと糖Qとの繰り返し構造を含む構造を示す。Lはリンカー構造を示す。)で表される基が挙げられる。Wは、例えば糖Pと糖Qとの繰り返し構造を主鎖として含み、分岐鎖を有していてもよい。Lは、通常は、グルクロン酸、ガラクトース、ガラクトースがこの順で連結した構造である。
【0058】
コンドロイチン硫酸鎖の構造、特に糖Pと糖Qとの繰り返し構造を含む構造は、それを生成する生物種によって異なる型を示す。コンドロイチン硫酸鎖の型は、好ましくは哺乳類型であり、より好ましくはヒト型、サル型、マウス型、ラット型等であり、さらに好ましくはヒト型である。
【0059】
コンドロイチン硫酸鎖の分子量は、特に制限されないが、例えば1000以上、好ましくは2000以上、より好ましくは5000以上、さらに好ましくは10000以上である。上限は、例えば100000、50000である。
【0060】
は反応性基1を示す。
【0061】
反応性基1は、他の基(後述の反応性基2(Y))と反応することにより、後述の架橋連結部(Z)を形成可能な基である限り特に制限されない。反応性基1としては、例えば、エチニル基、ビニル基、アジド基、エポキシ基、アルデヒド基、オキシルアミノ基、チオール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基等が挙げられる。
【0062】
は、好ましくはエチニル基である。
【0063】
一般式(3)で表される化合物は、一般式(2):
【0064】
【化12】
【0065】
で表される化合物を含む細胞を培養する工程(工程2)を含む方法によって、製造することができる。
【0066】
一般式(2)中、n、R、及びYは前記に同じである。
【0067】
工程2で使用される細胞は、コンドロイチン硫酸鎖を生成する細胞である限り、特に制限されない。細胞の由来生物としては、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒト、サル、マウス、ラット等、さらに好ましくはヒトが挙げられる。これらの生物の細胞を用いることにより、哺乳類型コンドロイチン硫酸鎖を有する一般式(3)で表される化合物を簡便且つ効率的に製造することができる。細胞の種類としては、例えば繊維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、受精卵、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられ、好ましくは繊維芽細胞が挙げられ、中でもより好ましくは皮膚繊維芽細胞が挙げられる。繊維芽細胞を用いることにより、より効率的に一般式(3)で表される化合物を製造することができると考えられる。
【0068】
工程2において一般式(2)で表される化合物を含む細胞は、細胞の培養培地中に一般式(2)で表される化合物を添加することにより得ることができる。添加する際の培地中終濃度は、例えば0.1~10ミリモル/L、好ましくは0.5~5ミリモル/L、より好ましくは1~3ミリモル/Lであることができる。また、一般式(2)で表される化合物を添加する際の細胞の密度は、高い方が好ましく、例えば培養容器における最大密度を100%(コンフルエント状態)とした場合、例えば60~100%、好ましくは80~100%、より好ましくは90~100%である。
【0069】
工程2における培養期間は、特に制限されないが、例えば1~10日間、好ましくは3~7日間である。
【0070】
工程2の培養後、一般式(3)で表される化合物の回収手段は特に制限されないが、簡便には、培地から回収することができる。培地は、さらに精製工程に供してもよい。精製手段としては、アルコール沈殿処理、酵素によるタンパク質分解処理(酵素処理)、タンパク質の沈殿処理等が挙げられる。
【0071】
アルコール沈殿処理は、公知の方法に従って行うことができる。典型的には、工程2の培養後の培地を、必要に応じて濃縮処理して、その1~5倍量(好ましくは2~4倍量)のアルコールと混合した後、一定時間放置することにより沈殿を形成させ、その後、遠心分離して得られたペレットを回収することにより行われる。
【0072】
アルコールは、コンドロイチン硫酸を沈殿させることができる限り特に限定されない。アルコールとしては、例えばエタノール、イソプロパノール等が挙げられ、これらの中でも毒性がより低いという観点からはエタノールが好ましく挙げられる。アルコールは1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0073】
アルコールには、塩が含まれていることが好ましい。塩としては、特に限定されず、アルコール沈殿に用いられる通常の塩、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。塩は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。アルコール中の塩の濃度は、特に限定されず、アルコール沈殿において採用される通常の塩濃度、例えば塩化ナトリウムの場合はアルコールに対する飽和濃度であることができる。
【0074】
沈殿を形成させるために放置する際の温度は、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されない。温度は、例えば-80℃~室温程度、好ましくは0~10℃程度であることができる。
【0075】
沈殿を形成させるために放置する時間は、プロテオグリカンを沈殿させることができる限り特に限定されず、温度に応じて適宜設定される。時間は、温度が0~10℃である場合であれば、例えば8~48時間、好ましくは16~32時間であることができる。
【0076】
酵素処理は、培地中のタンパク質成分を分解できる酵素による処理であれば特に制限されない。使用する酵素としては、例えば公知のタンパク質分解酵素、具体的にはアクチナーゼ、キモトリプシン、スブチリシン、ペプシン、カテプシン、HIVプロテアーゼ、サーモリシン、パパイン、カスパーゼ、コラゲナーゼ等が挙げられる。
【0077】
タンパク質の沈殿処理は、タンパク質(ペプチド含む)の変性及び沈殿を行うことができる処理である限り特に制限されない。典型的には、TCA(トリクロロ酢酸)沈殿処理、硫安沈殿処理、アセトン沈殿処理、TCA/アセトン沈殿処理、有機溶媒(フェノール、クロロホルム、これらの混合溶媒等)抽出処理等が挙げられる。
【0078】
2.反応性基含有コンドロイチン硫酸誘導体の原料
限定的な解釈を望むものではないが、一般式(2)で表される化合物は、脂溶性の程度が適切であり、且つ細胞内でのコンドロイチン硫酸鎖の伸長に与える悪影響が少ない構造であるが故に、これを用いることにより、細胞内に効率的に取り込ませることができ、且つコンドロイチン硫酸鎖を効率的に伸長させることができると考えられる。
【0079】
よって、本発明は、その一態様において、一般式(2):
【0080】
【化13】
【0081】
で表される化合物、及びその製造方法に関する。
【0082】
一般式(2)中、n、R、及びYは前記に同じである。
【0083】
一般式(2)で表される化合物は、様々な方法によって製造することができるが、好適には、キシロース供与体と、一般式(1):
【0084】
【化14】
【0085】
で表される化合物とをキシラナーゼの存在下で反応させる工程(工程1)を含む方法によって、製造することができる。
【0086】
一般式(1)中、n、及びYは前記に同じである。
【0087】
工程1で使用されるキシロース供与体は、キシロース又はキシラナーゼによる酵素分解作用によりキシロースを遊離可能なキシロース含有多糖若しくはキシロース誘導体である限り、特に制限されない。キシロース含有多糖としては、例えばキシロオリゴ糖等が挙げられる。キシロース誘導体としては、例えばPNP-キシロース等が挙げられる。キシロース供与体としては、好ましくはキシロオリゴ糖が挙げられる。
【0088】
工程1で使用されるキシラナーゼとしては、EC番号EC 3.2.1.8に分類される酵素であり、その限りにおいて特に限定されない。キシラナーゼとしては、種々の生物由来のものを使用することができる。例えば、トリコデルマ属生物(好ましくはTrichoderma longibrachiatum(ressei))、アスペルギルス属生物(好ましくはAspergillus niger)等の糸状菌等に由来するキシラナーゼが挙げられる。これらの中でも、一般式(2)で表される化合物をより効率的に製造できるという観点から、好ましくはトリコデルマ属生物由来、より好ましくはTrichoderma longibrachiatum(ressei)由来のキシラナーゼが挙げられる。キシラナーゼとしては1種単独を用いてもよいし、2種以上の組み合わせを用いてもよい。
【0089】
キシラナーゼは、担体に固定化されたキシラナーゼであってもよい。キシラナーゼを担体に固定化する方法は、公知の方法を採用することができる。担体は、キシラナーゼを固定化できる限りにおいて特に限定されず、例えばキシラナーゼに含まれるアミノ基とアミド結合できるカルボキシル基を有する担体が挙げられる。具体例としては、カルボキシル基をN‐ヒドロキシスクシンイミド(NHS)でエステル化したセファロース(担体)の活性化エステル基と、キシラナーゼのアミノ基とをアミド結合させることにより、担体にキシラナーゼを固定化することができる。また、他の具体例としては、担体を臭化シアンで活性化して、キシラナーゼのアミノ基とアミド結合させる固定化方法等が挙げられる。
【0090】
工程1の反応は、適当な溶媒中で行う。溶媒としては、キシロース供与体及び一般式(1)で表される化合物を溶解させることができ、且つキシラナーゼが失活しない溶媒であれば特に限定されない。このような溶媒としては、例えば、水、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等が挙げられ、好ましくは酢酸緩衝液が挙げられる。
【0091】
工程1の反応温度は、キシラナーゼが失活しない温度であれば特に限定されず、キシラナーゼの反応至適温度に従って適宜選択される。例えば、30℃~60℃、好ましくは40~60℃、より好ましくは45~55℃であることができる。
【0092】
工程1の反応時間は、キシラナーゼの酵素活性が十分に発揮できる限り特に限定されない。例えば、1~100時間、好ましくは12~48時間、より好ましくは18~30時間であることができる。
【0093】
工程1の反応pHは、キシラナーゼの酵素活性が十分に発揮される限り特に限定されない。例えば、pH3~10、好ましくはpH4~6であることができる。
【0094】
工程1の反応における、キシロース供与体及び一般式(1)で表される化合物のモル比は、キシラナーゼによる酵素反応が起こる限り特に限定されないが、例えば、キシロース供与体1モルに対して、一般式(1)で表される化合物が、例えば1~50モル、好ましくは10~20モルであることができる。
【0095】
工程1の反応後、反応によって得られた一般式(2)で表される化合物を含む溶液を、さらに精製工程に供してもよい。精製手段は、公知の方法(分液、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶等)を採用できる。
【0096】
3.反応性基含有コンドロイチン硫酸誘導体の利用態様
反応性基含有コンドロイチン硫酸誘導体(一般式(3)で表される化合物)は、エチニル基、ビニル基、アジド基、エポキシ基、アルデヒド基、オキシルアミノ基等の反応性基を有する。エチニル基は、アジド基と1,3‐双極子付加環化反応することにより、1,2,3‐トリアゾール環を形成することが知られている。ビニル基は、チオール基と反応して結合を形成する。エポキシ基はアミノ基やチオール基と反応し結合を形成する。アルデヒド基はアミノ基と反応し、シッフ塩基を形成し、それを還元すると結合を形成する。オキシルアミノ基はケトン基、アルデヒド基と反応し、オキシムを形成する。アジド基は、エチニル基と1,3‐双極子付加環化反応することにより、1,2,3‐トリアゾール環を形成することが知られている。反応性基のこれら性質を利用すれば、一般式(3)で表される化合物と、該反応性基と反応する基(例えば、アジド基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基、ケトン基、アルデヒド基)を有する物質とを容易に連結させることができ、これによりコンドロイチン硫酸鎖で修飾された多種多様な物質を提供することができる。
【0097】
よって、本発明は、その一態様において、一般式(5):
【0098】
【化15】
【0099】
で表される化合物、及びその製造方法に関する。以下に、これについて説明する。
【0100】
一般式(5)中、n、R、及びXは前記に同じである。
【0101】
は修飾対象物質由来の基を示す。Rは、例えば修飾対象物質から1又は複数の原子又は原子団が除かれてなる基である。
【0102】
修飾対象物質としては、有機物質、無機物質を問わず採用することができる。
【0103】
修飾対象物質としては、例えば生体内外における再生医療用足場材料となり得る物質、具体的には細胞外マトリックス成分(例えばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、マトリゲル等)、ゼラチン、フィブリン、フィブロイン、セリシン、綿、セルロース、メチルセルロース、寒天、アガロース、アルギン酸塩、キチン、キトサン、生体分解性高分子(例えばポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、生体非分解性高分子(例えばポリスチレン、ポリウレタン、ナイロン等)、酸化物系セラミックス(例えばアルミナ、ジルコニア等)、リン酸カルシウム系セラミックス(例えばハイドロキシアパタイト等)、チタン、ステンレス鋼等、さらにはこれらの複合物質等が挙げられる。これらをコンドロイチン硫酸鎖で修飾することにより、コンドロイチン硫酸鎖の生理活性(神経細胞伸長作用、軟骨細胞分化作用等)を付与することができる。得られた足場材料を用いることにより、細胞の成長、分化、増殖等、さらには組織の修復等をより促進することができる。
【0104】
その他にも、修飾対象物質としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタンジエンスチレン樹脂、スチレンアクリロニトリルコポリマー、アクリル樹脂、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、若しくはポリアミドイミド等のプラスチックそのもの、これらのプラスチックを加工した材料等のプラスチック材料が挙げられる。上記プラスチックを加工した材料としては、例えばプラスチック製細胞培養容器、医療用チューブ等が挙げられる。
【0105】
その他にも、修飾対象物質としては、繊維材料、例えば、綿、毛、絹、麻、ビスコース繊維、銅アンモニア繊維、アセテート繊維、プロミックス繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニリデン系合成繊維、ポリ塩化ビニル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリアクリロニトリル系合成繊維、ポリエチレン系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリクラール系合成繊維、炭素繊維、若しくは羽毛等の繊維そのもの、又はこれらの繊維を加工した材料が挙げられる。上記繊維を加工した材料としては、例えば衣類、寝具、バンドエイド、マスク、包帯、又は介護用品等が挙げられる。衣類としては、特に限定されないが、肌に直接触れ得るものが好ましく挙げられる。このような衣類としては、例えば帽子、肌着、手袋、靴下、ストッキング、マフラー、ストール、下着、又はオムツ(赤ちゃん用、介護用)等が挙げられる。寝具としては、特に限定されないが、肌に直接触れ得るものが好ましく挙げられる。このような寝具としては、例えば、シーツ、布団カバー、又は枕カバーなどが挙げられる。
【0106】
その他にも、修飾対象物質としては、医薬化合物が挙げられる。医薬化合物をコンドロイチン硫酸鎖で修飾することにより、医薬化合物の安定性を向上させ得る。
【0107】
Zは架橋連結部を示す。架橋連結部は、後述の反応性基2(Y)と反応することにより形成される連結部であり、反応性基1と反応性基2の種類によって異なる構造の部位である。
【0108】
Zとしては、好ましくは1,2,3-トリアゾール環が挙げられる。
【0109】
一般式(5)で表される化合物は、例えば一般式(3):
【0110】
【化16】
【0111】
で表される化合物と、一般式(4):
【0112】
【化17】
【0113】
で表される化合物とを反応させる工程(工程3)を含む方法によって、製造することができる。
【0114】
一般式(3)中、n、R、X、及びYは前記に同じである。
【0115】
一般式(4)中、Rは前記に同じである。
【0116】
は反応性基2を示す。反応性基2は、他の基(上述の反応性基1(Y))と反応することにより、上述の架橋連結部(Z)を形成可能な基である限り特に制限されない。反応性基2としては、例えばアジド基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基、ケトン基、アルデヒド基、エチニル基等が挙げられる。
【0117】
としては、好ましくはアジド基である。
【0118】
工程3の反応は、反応性基1と反応性基2の種類に応じて、適切な条件で行われる。以下に、反応性基1がエチニル基であり、反応性基2がアジド基である場合の反応について詳述する。
【0119】
工程3の反応は、1,3‐双極子付加反応である。反応は溶媒存在下でも非存在下でも行うことができるが、溶媒存在下で行う場合、溶媒は、反応に悪影響を与えない限り特に限定されない。例えば、蒸留水、メタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルフォキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等を使用することができる。好ましくは適当な触媒の存在下で反応を行うことが好ましい。触媒としては、例えば銅(I)触媒が挙げられる。銅(I)触媒を使用する場合は、例えば、硫酸銅などの2価の銅と、還元剤(例えばヒドロキノン、アスコルビン酸ナトリウム)を系内に導入し、一価の銅を反応させる方法が挙げられる。
【0120】
工程3の反応温度は、溶媒の沸点以下であれば特に限定されないが、例えば15~80℃、好ましくは25~50℃、より好ましくは32~42℃であることができる。
【0121】
工程3の反応時間は、特に限定されないが、例えば、1~100時間、好ましくは24~60時間であることができる。
【0122】
工程3の反応における、一般式(3)で表される化合物と、一般式(4)で表される化合物とのモル比は、特に限定されないが、例えば、一般式(3)で表される化合物1モルに対して、一般式(4)で表される化合物1モル~5モル、好ましくは1モル~3モルであることができる。
【0123】
工程3の反応後、反応によって得られた、一般式(5)で表される化合物を含む溶液を、さらに精製工程に供してもよい。精製手段は、公知の方法(分液、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶等)を採用できる。
【実施例
【0124】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0125】
実施例1.プロパルギル基含有キシロース誘導体の合成
キシロオリゴ糖(10 wt %, 1.5 mL, 約0.53 mmol)を、酢酸ナトリウムバッファー(pH= 5.0, 50 mM, 1 mL)、キシラナーゼ(スミチームX(新日本化学工業株式会社、Trichoderma longibrachiatum(ressei)由来))5 mg(25 U)、及びプロパルギルアルコール 0.5mLを含む反応液に加え、50℃にて24時間インキュベートした。反応終了後、減圧濃縮をして得られたシラップをフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(Fuji Silysia 300 mesh, l = 17 cm)に供し、溶出液(CHCl3:MeOH=10 : 1 )にてβ―プロパルギルキシロース(12 mg, 0.59 mmol)を得た。
1H-NMR (D2O)
4.54 (d, 1 H, J = 7.6 Hz), 4.36 (t, 1 H), 3.82 (d, 1 H,), 3.62 (dd, 1 H), 3.42-3.26 (m), 3.18 (t, 1 H), 2.81 (br-d)。
【0126】
実施例2.アルキニル基含有ヒト型コンドロイチン硫酸誘導体の合成
正常ヒト皮膚繊維芽細胞(KURABO社製、P-7:継代7回目)をコンフェルトになるまでシャーレ上で培養した。それぞれのシャーレ(14枚)の培地に、ジメチルスルフォキシドに溶解したβ―プロパルギルキシロースを、培地中終濃度が2 mmol/Lになるよう投与した。投与後、CO2インキュベーター(37 ℃)で5日間培養した後、培地を回収して凍結乾燥した。得られた残渣を蒸留水(10 mL)に溶解し、そこへ3倍量の食塩飽和エタノール(30 mL)を加えて、4℃にて24時間、静置した。次いで遠心分離(15000 r. p. m., 15分間, 4 ℃)し、上澄を廃棄して沈殿物を回収した。沈殿物を塩化カルシウム(50 m M)含有100 m M-TrisHCl緩衝液. pH = 8.0(15 mL)に溶解させ、そこへアクチナーゼ(5 mg)を加えて、37℃にて3日反応させた。次いで0 ℃にてトリクロロ酢酸(500 mg)を加えて反応を停止した。反応液を遠心分離(15000 r. p. m., 15分間, 4 ℃)し、上清を回収した。その上清に3倍量の食塩飽和エタノール(45 mL)を加えてエタノール沈殿を行い、アルキニル基含有ヒト型コンドロイチン硫酸を得た。
【0127】
実施例3.ヒト型コンドロイチン硫酸修飾型蛍光物質の合成
合成したアルキニル基含有ヒト型コンドロイチン硫酸(500μg)を超純水(500μL)にて溶解した。得られた溶液の内の50 μLに、Azido - Alexa Fluor(登録商標) 488溶液(1 mg / 400μL DMSO溶液, 10μL)、硫酸銅(10 mM, 30μL)、及びアスコルビン酸ナトリウム(10 mM, 30μL)を加え、窒素雰囲気下37℃にて2日間撹拌した。得られた反応液を逆相カラムカートリッジ(Allteck C18)に供し、H2O、MeOH / H2O = 1 / 1の順に溶出し、H2O画分にて目的化合物であるヒト型コンドロイチン硫酸修飾型蛍光物質を得た。
【0128】
得られたシラップを超純水(300μL)にて再溶解し、その溶液を、HPLC分析を行った。HPLC分析条件は、流速0.5 mL / min、溶離液0.2 M - NaCl、カラム温度40℃、カラムはTOSOH製TSKgel G5000PWXLであり、検出は蛍光検出器 (励起波長501 nm、蛍光波長525 nm)にて行った。クロマトグラムを図1に示す。その結果、分子量は約2万2千であると算出された。なお、分子量は、プルランスタンダード(shodex社製、P-82)を用いて算出した。
【0129】
実施例4.コンドロイチン硫酸の確認
実施例3で得られたヒト型コンドロイチン硫酸修飾型蛍光物質を超純水(500μL)にて溶解した。得られた溶液の内の50 μLに、0.4M Tris-HCl緩衝液 pH = 8.0, 60μL と0.4M酢酸ナトリウム60μLを添加し、さらにコンドロイチナーゼABC 5μL(2.5 mU / mL)を加え37℃にて24時間反応させた。反応液を100℃にて3分間加熱し、反応を停止した。その反応液を遠心分離(15000 r. p. m., 15分間, 4 ℃)し、上清を回収し、実施例3と同様にしてHPLC分析を行った。クロマトグラムを図2に示す。図1との比較より、コンドロイチナーゼABCの消化により、リテンションタイムが遅くなり、低分子化していることが確認された。このことから、実施例2で得られたものが確かにコンドロイチン硫酸であることが確認できた。
図1
図2