(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ガラス繊維紡糸用ノズルプレート、当該ガラス繊維紡糸用ノズルプレートを有するガラス溶融炉、及び当該ガラス溶融炉を用いたガラス繊維紡糸方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/08 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
C03B37/08
(21)【出願番号】P 2018065985
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】305040569
【氏名又は名称】ユニチカグラスファイバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】崎谷 一貴
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 崇治
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-215729(JP,A)
【文献】特開平10-032008(JP,A)
【文献】特開平04-260635(JP,A)
【文献】特開平05-279072(JP,A)
【文献】米国特許第04348217(US,A)
【文献】特開昭57-205327(JP,A)
【文献】中国実用新案第2685362(CN,Y)
【文献】特公昭48-003857(JP,B1)
【文献】特開2002-128538(JP,A)
【文献】飯島和夫,ガラス繊維を織る, 編む, 組む,繊維機械学会誌,1994年,47巻, 第11号,pp.473-477
【文献】安井至, 他,製銑・製鋼スラグからのガラス繊維の製造技術の開発,生産研究,1981年,33巻,6号,pp.26-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00-37/16
D01D 1/00-13/02
D01F 9/08-9/32
C03C 1/00-14/00
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維紡糸用ノズルプレートであって、
溶融ガラスを受ける板状部と、
前記板状部を貫通する貫通孔を内部に有して前記板状部から突出し、前記板状部が受けた溶融ガラスを吐出させるノズルと、
を備え、
前記ノズルのノズル内径d1が0.9mm以上1.0mm以下であり、
前記ノズル内径d1に対する、前記ノズルのノズル外径d2の比(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.85以上2.20以下である、ガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項2】
前記ノズル内径d1が0.9mm以上0.95mm以下である、請求項1に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項3】
前記ノズル内径d1に対する前記ノズル外径d2の比(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.9以上2.1以下である、請求項1又は2に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項4】
前記貫通孔の少なくとも一部には、上下方向に沿って直線状に延びる直線部が形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記板状部に連通する上端に、前記直線部に向かって幅が狭まるテーパが形成されたテーパ部を有する、請求項4に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項6】
前記上下方向において、前記直線部の長さI5に対する前記テーパ部の長さI4の比(テーパ部の長さI4/直線部の長さI5)が0.035~0.060である、請求項5に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項7】
ノズル外径d2とノズル内径d1との差に対する、前記板状部からのノズル突出長さI1との比(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))が、4.5以上5.5以下であり、
前記板状部の厚みI3に対する、前記板状部の上面から前記ノズルの先端までの長さI2との比(板状部の上面からノズルの先端までの長さI2/板状部の厚みI3)が、4.0以上5.5以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項8】
前記ノズルは、繊維径が3.0μm以上5.0μm以下のガラス繊維を吐出させる、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス繊維紡糸用ノズルプレート。
【請求項9】
ガラス材料が投入される投入口と、
前記投入口に連続し、投入されたガラス材料を溶融して溶融ガラスを生成する溶融部と、
前記溶融部の下部に設けられ、前記溶融ガラスを吐出する請求項1~8のいずれか1項に記載のノズルプレートと、
前記溶融部及び前記ノズルプレートを加熱する加熱手段と、
を備える、ガラス溶融炉。
【請求項10】
請求項9に記載のガラス溶融炉を用い、繊維径が1.0μm以上6.0μm未満のガラス繊維を紡糸するガラス繊維紡糸方法であって、
前記ノズルプレートに設けられた前記ノズルからのガラス繊維の紡糸速度が、2500m/min以上3200m/min以下である紡糸速度条件と、
前記加熱手段により加熱された前記ノズルのノズル温度が、1260℃以上1300℃以下であるノズル温度条件と、
前記加熱手段により加熱された前記ガラス溶融炉におけるガラスの溶融温度が、1530℃以上1580℃以下である溶融温度条件と、
の少なくとも一の条件に基づいたガラス繊維紡糸方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維紡糸用ノズルプレート、当該ガラス繊維紡糸用ノズルプレートを有するガラス溶融炉、及び当該ガラス溶融炉用いたガラス繊維紡糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ノズル内径が0.9mm以上1.3mm以下のノズルを有する、ガラス繊維紡糸用ノズルプレートが開示されている。特許文献1によると、このようなノズル内径とすることで、溶融ガラスの温度変動に対してもガラス量を十分に安定して供給でき、繊維径が4~8μm程度のガラス繊維を安定して紡糸できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ノズル内径が0.9mm以上1.3mm以下の範囲内において、繊維径が4~8μmの範囲のガラス繊維を製造できるか否かについては明確な開示がない。例えば、特許文献1の実施例1~3によると、それぞれノズル内径が1.2mm、1.1mm、1.0mmであるノズルプレートのみが用いられている。そして、このようなノズル内径のノズルプレートを用いた場合に、実施例1~3では、いずれも6μmのガラス繊維を製造できたことが開示されている。
【0005】
近年、プリント配線基板等に用いられる補強材としては、約6.0μm未満の細いガラス繊維が要望されている。そして、本発明者は、当該細いガラス繊維は、これより太いガラス繊維に比して、より毛羽が生じやすく、また、毛羽によるプリント配線基板等の品質に与える影響も大きいものとなることを知得した。また、本発明者は、当該細いガラス繊維は、これより太いガラス繊維に比して、紡糸糸切れがしやすくなり、生産性が劣りやすいものとなることを知得した。
そこで、本発明は、約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維を、毛羽の発生を低減させ、かつ、生産性良く製造可能なガラス繊維紡糸用ノズルプレート、当該ガラス繊維紡糸用ノズルプレートを有するガラス溶融炉、及び当該ガラス溶融炉を用いたガラス繊維紡糸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの特徴構成は、
溶融ガラスを受ける板状部と、
前記板状部を貫通する貫通孔を内部に有して前記板状部から突出し、前記板状部が受けた溶融ガラスを吐出させるノズルと、
を備え、
前記ノズルのノズル内径d1が0.9mm以上1.0mm以下であり、
前記ノズル内径d1に対する、前記ノズルのノズル外径d2の比(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.85以上2.20以下である点にある。
【0007】
本特徴構成によれば、ノズル内径d1が0.9mm以上1.0mm以下であるため、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維を、毛羽の発生を低減させて、かつ、生産性良く得ることができる。
【0008】
ノズル内径d1が1.0mmを超える場合、ノズル内径d1が相対的に大きく、ノズルからの溶融ガラスの吐出量が多く、繊維径が太くなってしまう。そのため、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を得るためには、ノズルに供給するガラスの溶融温度(ノズル温度)を低くする必要がある。これにより溶融ガラスの粘性を高め、ノズルからの溶融ガラスの吐出量を抑える。しかし、ガラスの溶融温度及びノズル温度を低くして相対的に細い繊維径のガラス繊維を得ようとすると、ノズルから吐出されたガラス繊維の紡糸張力が大きくなってしまい、その結果、ガラス繊維が破断等しやすくなり、ガラス繊維として、毛羽の発生を低減させることが困難となる。
一方、ノズル内径d1が0.9mm未満の場合には、ノズル内径d1が相対的に小さく、ノズルからの溶融ガラスの吐出量が少ない。そのため、所望の繊維径のガラス繊維を得るためには、ノズルからの溶融ガラスの吐出量を確保するためにノズルに供給する溶融ガラスの溶融温度(ノズル温度)を高くする必要がある。これにより、溶融ガラスの粘性を小さくし、ノズルからの溶融ガラスの吐出量を増加させる。しかし、ガラスの溶融温度が高いため、ガラス原料を過剰に高温で溶融することにより発生するリボイル泡が発生しやすくなる。よって、溶融ガラス内にリボイル泡が入り込んで吐出されたガラス繊維が破断等しやすくなり、ガラス繊維として、毛羽の発生を低減させて、かつ、生産性良く製造することが困難となる。
【0009】
また、本特徴構成によれば、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.85以上2.20以下であるので、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維をより生産性良く得ることができる。
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が大きいことは、ノズル外径d2とノズル内径d1との差であるノズル肉厚が大きいことを意味する。
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)を1.85以上2.20以下とすることにより、ノズルからノズルプレート面への溶融ガラス濡れの発生をより抑制し、ノズル自体の強度を高めてノズルプレートの寿命を延ばしつつ、ノズルの発熱性をより向上させることにより溶融ガラスの溶融温度とノズル温度との差をより小さくすることができる。これによりガラス原料を過剰に高温で溶融することにより発生するリボイル泡の発生をより低減させ、約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維をより生産性よく得ることができ、より品質の良い所望の繊維径のガラス繊維を得ることができる。
【0010】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
前記ノズル内径d1が0.9mm以上0.95mm以下である点にある。
【0011】
本特徴構成によれば、ノズル内径d1が0.9mm以上0.95mm以下とさらに調整されるため、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維をより生産性良く得ることができる。
【0012】
前述の通り、ノズル内径d1が1.0mmを超える場合、ノズル温度を低くする必要がある。そうすると、ノズルから吐出されたガラス繊維の紡糸張力が大きくなってしまい、ガラス繊維が破断するなどのダメージを受けてしまう。ノズル内径d1の上限を1.0mmよりもさらに小さい0.95mm以下とすることで、ガラスの溶融温度を低下させる程度をより小さくすることができ、溶融ガラスの粘性が高くなり過ぎるのをより抑制できる。ひいては、紡糸張力をより小さくすることができ、ガラス繊維が破断するなどのダメージを受けてしまうのをより抑制し、より品質の良い所望の繊維径のガラス繊維を得ることができる。
【0017】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
前記ノズル内径d1に対する前記ノズル外径d2の比(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.9以上2.1以下である点にある。
【0018】
本特徴構成によれば、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.9以上2.1以下とさらに調整されるため、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維をより一層生産性よく得ることができる。
【0019】
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が2.1以下の場合、2.20以下の場合よりも小さいため、ノズルからノズルプレート面への溶融ガラス濡れの発生がより一層抑制される。
【0020】
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.9以上の場合、1.85以上の場合よりも大きいため、ノズル自体の強度をより高めてノズルプレートの寿命をより延ばしつつ、ノズルの発熱性をより一層向上させることにより溶融ガラスの溶融温度とノズル温度との差をより一層小さくすることができる。よって、リボイル泡の発生によってガラス繊維が破断等するのをより一層抑制し、より一層品質の良いガラス繊維を製造できる。
【0021】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
前記貫通孔の少なくとも一部には、上下方向に沿って直線状に延びる直線部が形成されている点にある。
【0022】
本特徴構成によれば、貫通孔の少なくとも一部が上下方向に沿って直線状に延びるように形成されているため、溶融ガラスとノズルの内表面との接触抵抗をより小さくできる。よって、溶融ガラスは、接触抵抗の小さい状態で自重によりノズルの下方に向かうため、接触抵抗が大きい場合に比べて溶融ガラスへの負担をより小さくできる。結果として、溶融ガラスが下方に向かって冷却される際に破断するなどのダメージをより小さくできる。
【0023】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
前記貫通孔は、前記板状部に連通する上端に、前記直線部に向かって幅が狭まるテーパが形成されたテーパ部を有する点にある。
【0024】
本特徴構成によれば、ノズルの貫通孔の上端には、テーパ部が形成されており、テーパ部は、直線部に向かって幅が狭まるように形成されている。よって、板状部が受けた溶融ガラスは、テーパ部を経てノズルの直線部に導入され易い。
【0025】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
前記上下方向において、前記直線部の長さI5に対する前記テーパ部の長さI4の比(テーパ部の長さI4/直線部の長さI5)が0.035~0.060である点にある。
【0026】
本特徴構成によれば、(テーパ部の長さI4/直線部の長さI5)が0.035~0.060であり、テーパ部の長さI4が直線部の長さI5に比べて短い。よって、板状部に受けられた溶融ガラスは、テーパ部を経ることで直線部に効率よく導入されつつ、相対的に長い直線部を通流することで通流の際の溶融ガラスの接触抵抗を小さくできる。よって、溶融ガラスが下方に向かって冷却される際に破断するなどのダメージをより一層小さくできる。
【0027】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
ノズル外径d2とノズル内径d1との差に対する、前記板状部からのノズル突出長さとの比(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))が、4.5以上5.5以下であり、
前記板状部の厚みI3に対する、前記板状部の上面から前記ノズルの先端までの長さI2との比(板状部の上面からノズルの先端までの長さI2/板状部の厚みI3)が、4.0以上5.5以下である点にある。
【0028】
本特徴構成によれば、(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))、及び、(板状部の上面からノズルの先端までの長さI2/板状部の厚みI3)を、所定の範囲に設定することで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維をより安定して得ることができる。
【0029】
(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))を4.5以上5.5以下としつつ、(板状部の上面からノズルの先端までの長さI2/板状部の厚みI3)を4.0以上5.5以下とすることにより、ノズルでの冷却能をより適切なものとすることができ、リボイル泡の発生の抑制と、紡糸張力の最適化をより一層両立しやすくすることができる。
【0030】
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートの更なる特徴構成は、
前記ノズルは、繊維径が3.0μm以上5.0μm以下のガラス繊維を吐出させる点にある。
【0031】
本特徴構成によれば、ノズル内径d1が0.9mm以上1.0mm以下であるため、ノズルに供給される溶融ガラスの溶融温度が適切に調整され、ノズルは繊維径が3.0μm以上5.0μm以下のガラス繊維を吐出できる。
【0032】
例えば、ノズル内径d1が1.0mmを超える場合においては、溶融温度及びノズル温度を低くする必要があるため、紡糸張力が大きくなってしまうことによるガラス繊維の破断等が生じやすくなる。一方、ノズル内径d1が0.9mm未満の場合においては、溶融温度及びノズル温度を高くする必要があるため、リボイル泡の発生によりガラス繊維の破断等が生じやすくなる。結果として、ノズル内径d1が1.0mmを超えるか、及び、ノズル内径d1が0.9mm未満の少なくともいずれかの場合には、繊維径が3.0μm以上5.0μm以下のガラス繊維を毛羽の発生を低減させて、かつ、生産性良く製造することが非常に困難となる。
【0033】
本発明に係るガラス溶融炉の特徴構成は、
ガラス材料が投入される投入口と、
前記投入口に連続し、投入されたガラス材料を溶融して溶融ガラスを生成する溶融部と、
前記溶融部の下部に設けられ、前記溶融ガラスを吐出する上記ノズルプレートと、
前記溶融部及び前記ノズルプレートを加熱する加熱手段と、
を備える点にある。
【0034】
本特徴構成によれば、ノズル内径d1が0.9mm以上1.0mm以下であるノズルプレートをガラス溶融炉に採用することで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維を毛羽の発生を低減させて、かつ、生産性良く得ることができる。
【0035】
本発明に係るガラス繊維紡糸方法の特徴構成は、
上記に記載のガラス溶融炉を用い、繊維径が1.0μm以上6.0μm未満のガラス繊維を紡糸するガラス繊維紡糸方法であって、
前記ノズルプレートに設けられた前記ノズルからのガラス繊維の紡糸速度が、2500m/min以上3200m/min以下である紡糸速度条件と、
前記加熱手段により加熱された前記ノズルのノズル温度が、1260℃以上1300℃以下であるノズル温度条件と、
前記加熱手段により加熱された前記ガラス溶融炉におけるガラスの溶融温度が、1530℃以上1580℃以下である溶融温度条件と、
の少なくとも一の条件に基づいた点にある。
【0036】
本特徴構成によれば、紡糸速度条件、ノズル温度条件及び溶融温度条件の少なくともいずれかを採用してガラス繊維を紡糸することで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維をより生産性よく製造できる。また、毛羽の発生をより抑制でき、引張強度及びタフネスが向上したガラス繊維を製造できる。
【0037】
紡糸速度を2500m/min以上3200m/min以下とすることにより、随伴流による吐出されたガラス繊維への冷却効果をより高め、かつ、溶融ガラスの溶融温度及びノズル温度を適切な範囲として紡糸張力を適切な範囲としやすくなり、毛羽の発生をより抑制でき、引張強度及びタフネスが向上したガラス繊維を製造しやすくなる。
【0038】
また、ガラス繊維径は、主として、ノズル内径d1と、上記紡糸速度と、ノズル温度で調整される。従って、ノズル内径d1を0.9mm以上1.0mm以下としつつ、上記紡糸速度とした場合に、ノズル温度を1260℃以上1300℃以下とすることで、特に繊維径が約3.0以上約5.0μm以下という相対的に細い繊維径のガラス繊維を製造しやすくなる。
【0039】
また、ガラスの溶融温度が1530℃以上1580℃以下である溶融温度条件とすることにより、リボイル泡の発生の抑制をしつつ、溶融ガラスの粘度を適切なものとして、リボイル泡及びガラス材料に元々含まれる微小な気泡を溶融部上方のガラス液面から抜きやすくなる。該微小な気泡は、特に繊維径が約3.0以上約5.0μm以下という相対的に細い繊維径のガラス繊維においては、紡糸糸切れに与える影響が相対的により大きくなる。従って、上記ガラス溶融温度とすることで、特に繊維径が約3.0以上約5.0μm以下という相対的に細い繊維径のガラス繊維を、毛羽の発生をより低減させて、かつ、より生産性良く製造しやすくなる。このような溶融温度に調整する手段としては、例えば、ガラス溶融炉を、後述する第1部材50及び/または第2部材60を備えるものとすれば、当該部材の発熱による温度調整機能と、当該部材による溶融ガラスの滞留時間をより長くする機能とにより、当該微小な気泡をより一層抜きやすくなるのでより好ましい。さらに、前述した、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が1.85以上2.20以下という構成を組み合わせることで、当該微小な気泡をより抜きやすくすることと、ノズルの発熱性をより向上させることにより溶融ガラスの溶融温度とノズル温度との差をより小さくしてリボイル泡の発生を抑制することとを、より一層両立しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガラス繊維束製造装置の斜視図。
【
図4】第1部材の模式図であり、(a)は第1部材を上面視した平面図、(b)は第1部材の側面図。
【
図5】第2部材の模式図であり、(a)は第2部材を上面視した平面図、(b)は第2部材の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
〔実施形態〕
本発明に係るガラス繊維紡糸用ノズルプレートを有するガラス繊維束製造装置の実施形態について、図面を参照して説明する。まずはガラス繊維束製造装置の全体構成について
図1~
図3を用いて説明する。
【0043】
(1)ガラス繊維束製造装置の全体構成
図1、
図2に示すように、ガラス繊維束製造装置300は、ガラス材料を溶融するガラス溶融炉100と、溶融ガラスを紡糸してガラス繊維を製造する紡糸装置200とを備えている。なお、
図1、
図2では、ガラス溶融炉100内を視認可能なように、側壁の一部を省略している。
【0044】
ガラス溶融炉100はガラス繊維束製造装置300内の上部に配置されており、投入されたガラス材料を溶融する。紡糸装置200は、ガラス溶融炉100内の下部に配置されており、ガラス溶融炉100で溶融され、後述のノズルプレート30のノズル40から溶融ガラスを吐出させてガラス繊維を紡糸する。また、本実施形態では、紡糸装置200は、複数本のフィラメントであるガラス繊維を1つの束として引き揃えてガラス繊維束を製造する。
【0045】
以下に、ガラス溶融炉100及び紡糸装置200の各部の構成について説明する。以下では、
図1等に示す方向、つまり上、下、前、後、右、左にしたがって説明を行う。これらの方向にしたがって、説明を行うが、但し、この向きによって、本発明が限定されるものではない。
【0046】
(1-1)ガラス溶融炉100
図1、
図2に示すように、ガラス溶融炉100は、ガラス材料が投入される投入口10と、投入されたガラス材料を溶融する領域である溶融部20と、溶融された溶融ガラスを吐出する複数のノズル40が形成されたノズルプレート30とを備えている。
【0047】
(a)投入口10
ガラス溶融炉100の上部には、ガラス材料を投入するための投入口10が設けられている。投入口10は、上下方向に貫通する筒体により形成されており、溶融部20の上端部に連結されている。また、投入口10は、上面視において例えば溶融部20よりも小さく形成されており、これによって、投入口10による溶融部20の開口を小さくすることができ、溶融部20内の温度の低下を抑制できる。
【0048】
(b)溶融部20
溶融部20は、投入口10から投入されたガラス材料を溶融する筐体を備えている。この筐体は、
図3に示すように、左右方向に対向する1組の側壁101a、101bと、前後方向に対向する101c、101dと、上部壁102とが組み合わされ、下部にノズルプレート30が配置されることで、内部空間を有する概ね直方体状に形成されている。そして、この溶融部20は、後述する耐火材料で形成されている。また、
図1、
図2に示すように溶融部20の内部空間には、上から下方に並ぶ、後述の第1部材50及び第2部材60が配置されており、内部空間は、これら第1及び第2部材50、60により、上から順に第1領域21、第2領域23及び第3領域25に仕切られている。また、この溶融部20には、ガラス材料を溶融するための加熱手段70が設けられている。以下、溶融部20を構成する部材について、詳細に説明する。
【0049】
(b-1)加熱手段70
図1~
図3に示すように、溶融部20の右側及び左側の側壁101a、101bそれぞれには、加熱手段70a、70bが設けられている。加熱手段70a、70bそれぞれは電極の端子を含み、図示しない電源から電圧が印加される。これにより、ガラス溶融炉100には、加熱手段70a、70b間の方向、つまり左右方向に沿った電流が流れ、溶融部20が加熱される。加熱手段70は、溶融部20に電圧を印加して溶融部20内のガラス材料の溶融温度を調整し、例えばガラス材料の粘度が400ポイズ以下となるように加熱する。また、加熱手段70は、筐体の内部に加え、ノズルプレート30を加熱することで、ノズル40のノズル温度を調整し、ノズル40から吐出されるガラス繊維の紡糸速度及び繊維の太さ等を調整するように構成されている。
【0050】
また、加熱手段70は、ノズル40のノズル温度と、溶融部20の溶融温度とをそれぞれ個別に制御可能である。これにより、ノズル40からの溶融ガラスの吐出状態を多様に制御可能である。ただし、溶融部20で溶融された溶融ガラスは、最終的にノズル40から吐出されてガラス繊維に製造されるため、吐出時のノズル温度を調整することが重要である。よって、加熱手段70を用いて、ノズル温度を基準に溶融温度を調整し、ノズル40から溶融ガラスを吐出して所望のガラス繊維を製造するのが好ましい。
【0051】
(b-2)第1部材50
図1、
図2に示すように、第1部材50は、第1領域21と第2領域23との間に配置されている。
図4に示すように、第1部材50は、直方体状の溶融部20の形状に対応して、長方形状の板状に形成されている。より詳細に説明すると、第1部材50は、板状面が左右方向に沿うように、溶融部20の側壁101a~101dに、例えば溶接等により取り付けられている。この第1部材50は、
図1、
図2、
図4に示すように、側面視において、V字状に形成されている。すなわち、左右方向の中央部51から右端部52a及び左端部52bにいくにしたがって上方に向かうように傾斜しており、右端部52a及び左端部52bは、左右の側壁101a、101bに連結されている。そして、右端部52aには、前後方向に並ぶ開口53a(開口53a1及び開口53a2)が形成され、左端部52bにも、前後方向に並ぶ開口53b(開口53b1及び開口53b2)が形成されている。
【0052】
第1部材50は、後述するように、中央部51から右端部52a及び左端部52bに向かう傾斜によって、第1領域21内の溶融ガラス内の固形ガラスを完全に溶解させる。よって、第1部材50において、左右方向を基準とし、中央部51を中心とした左右の傾斜角度θa、θbは、溶融ガラス内の固形ガラスを十分に堰止められる程度に調整されている。言い換えれば、傾斜角度θa、θbは、第1領域21内bの溶融ガラスが、中央部51から端部52a、52bの開口53a、53bに向かって徐々に流れ、滞留することで固形ガラスを十分に溶解させる時間を確保できる程度に調整されている。溶融ガラスの粘度はガラス材料の種類及び温度等によって異なるため、例えばガラス材料の種類等によって傾斜角度θa、θbを異ならせるのが好ましい。
【0053】
同様に、中央部51から、各開口53a、53bの中央部51側の端辺までの距離La、Lbもまた、溶融ガラスを滞留させて固形ガラスを十分に溶解させることができるように調整されている。なお、開口53a、53bそれぞれから第2領域23に対して、固形ガラスが完全に消失した溶融ガラスを供給するために、距離La、Lbは概ね同一であり、傾斜角度θa、θbも概ね同一であるのが好ましい。
【0054】
(b-3)第2部材60
図1、
図2に示すように、第2部材60は、第2領域23と第3領域25との間に配置されている。
図5に示すように、第2部材60は、直方体状の溶融部20の形状に対応して、長方形状の板状に形成されている。第2部材60は、板状面が左右方向に沿うように、例えば溶接等により溶融部20の側壁101a~101dに取り付けられている。この第2部材60は、
図1、
図2、
図5に示すように、側面視において、左右方向の中央部61から右端部62a及び左端部62bに向かうほど、上方に傾斜している。言い換えれば、第2部材60の中央部61は、右端部62a及び左端部62bよりも下部のノズルプレート30に近い。
【0055】
そして、第2部材60には、その平面を上下方向に貫通する複数の長方形状の開口63が形成されている。開口63は、互い違いに位置するように形成されている。つまり、例えば、開口63aと開口63bとは、前後方向及び左右方向の位置がずれるように形成されている。
【0056】
第2部材60は、右端部62a及び左端部62bから中央部61に向かう傾斜によって、第2領域23内の溶融ガラスを概ね均一に混ざり合わせる。よって、第2部材60において、左右方向を基準として、中央部61を中心とした左右の傾斜角度θc、θdは、第2領域23内の溶融ガラスが、右端部62a及び左端部62bから中央部61向かって流れるにつれて、概ね均一に混ざり合うことができる程度に調整されている。溶融ガラスの粘度はガラス材料の種類及び温度等によって異なるため、例えばガラス材料の種類及び温度等によって傾斜角度θc、θdを異ならせるのが好ましい。
【0057】
また、溶融ガラスが概ね均一に混ざり合い、開口63から流れ出ることができるように、中央部61から、右端部62a及び左端部62bまでの距離Lc、Ldは概ね同一であり、傾斜角度θc、θdも概ね同一であるのが好ましい。
【0058】
(c)ノズルプレート30
図1、
図2に示すように、溶融部20の第3領域25の底部には、ノズルプレート30が設けられている。
図6、
図7に示すように、ノズルプレート30は、直方体状の溶融部20の形状に対応して、長方形状の板状に形成され所定の厚みI3を有する板状部31と、板状部31から下方に突出する複数のノズル40とを有している。板状部31は、板状面が左右方向に沿うように、例えば溶接等により溶融部20の側壁101a~101dに取り付けられており、溶融部20の底壁を構成している。
【0059】
ノズル40は、
図7に示すように、板状部31の下面から下方に突出するように形成された円筒状の突出部42を有している。そして、ノズル40は、板状部31の上面から突出部42の下端に亘って貫通する円柱状の貫通孔41を内部に有している。貫通孔41は、板状部31の上端に形成されたテーパ部41aと、テーパ部41aから連続する直線部41bとから形成されている。直線部41bは、上下方向に沿って直線状に延びるように形成されている。本実施形態では、板状部31の板状面は水平方向に沿っており、直線部41bの延びる方向は、この板状部31の板状面の水平方向に対して概ね垂直である。一方、テーパ部41aは、板状部31に連通する上端に、直線部41bに向かって幅が狭まるように傾斜して形成されている。
【0060】
貫通孔41の少なくとも一部が上下方向に沿って直線状に延びる直線部41bにより形成されている。つまり、直線部41bでは、ノズル内径d1は一定である。そのため、溶融ガラスとノズル40の内表面との接触抵抗を小さくできる。よって、溶融ガラスは、接触抵抗の小さい状態で自重によりノズル40の下方に向かうため、接触抵抗が大きい場合に比べて溶融ガラスへの負担を小さくできる。結果として、溶融ガラスが下方に向かって冷却される際に破断するなどのダメージを小さくできる。さらには、溶融ガラスが受ける接触抵抗が小さく負担がより小さいため、品質において優れるガラス繊維が製造されるため、引張強度の向上及びタフネスの向上の少なくともいずれかを達しやすくなる。
【0061】
また、ノズル40の貫通孔41の上端には、テーパ部41aが形成されているため、板状部31が受けた溶融ガラスは、テーパ部41aを経てノズル40の直線部41bに導入され易い。
【0062】
また、突出部42は、板状部31の上面から突出部42の下端に向かうほど、外周の径が小さくなるように構成されている。外周の径の傾斜度は、例えば5°である。第3領域25の溶融ガラスは板状部31によって受け止められ、ノズル40の貫通孔41から吐出される。
【0063】
このようなノズルプレート30に形成されるノズル40の個数は、例えばノズルプレート30が約35mm×約400mm程度である場合には約50~250個である。
【0064】
なお、本実施形態では、ノズル40から溶融ガラスが吐出される、あるいは、ノズル40からガラス繊維が吐出されると表現しており、これらの表現はいずれも同じ意味を有する。ノズル40からは、冷却されつつある溶融ガラス及び冷却されたガラス繊維の少なくともいずれかが吐出される。つまり、ノズル40からは、ノズル40から冷却されつつある溶融ガラスが吐出される状態と、冷却されたガラス繊維が吐出される状態と、溶融ガラスとガラス繊維とが混合した状態とのいずれかの状態で吐出される。
【0065】
次に、ノズル40についてさらに説明する。
本実施形態では、ノズル40から所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を製造するために、ノズル40のノズル内径d1等を調整した。
【0066】
発明者らは、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を得る方法として、ノズル40からのガラス繊維の紡糸速度の調整及びノズル内径d1等の調整を考えた。
そして、紡糸速度が速くなるように調整し、ノズルから吐出するガラス繊維を速く引っ張り、繊維径を細くする実験を試みた。紡糸速度を調整する方法としては、後述の紡糸装置200の巻取りローラ211の回転速度を速くする方法等がある。しかし、紡糸速度を速くするほど、例えば、ガラス繊維には大きな引張張力(紡糸張力)が加わり、ガラス繊維と紡糸装置200等との接触抵抗も大きくなり、ガラス繊維が破断してしまった。結果として、所望の繊維径のガラス繊維を所望の長さで得ることができなかった。また、紡糸速度を速くした上で、ノズル40に供給する溶融ガラスの温度を高くして粘性を低下させて紡糸を試みた。しかし、所望の繊維径のガラス繊維を所望の長さで得ることができなかった。
そこで、発明者らはノズル内径d1を調整して所望のガラス繊維を得ることを試みた。その結果、所望の繊維径のガラス繊維を所望の長さで得ることができた。
【0067】
(c-1)ノズル内径d1
発明者らは、鋭意工夫の上で、紡糸速度等の調整ではなくノズル内径d1を調整することで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を得ることができることを見出した。さらに、発明者らは、特に、ノズル内径d1を約0.9mm以上約1.0mm以下とすることで、所望の繊維径のガラス繊維を毛羽の発生を低減させて、かつ、生産性良く所望の長さで得ることができることを見出した。
【0068】
ノズル内径d1が約1.0mmを超える場合、ノズル内径d1が相対的に大きく、ノズル40からの溶融ガラスの吐出量が多く、繊維径が太くなってしまう。そのため、所望の繊維径のガラス繊維を得るためには、ノズル40に供給する溶融ガラスの溶融温度(ノズル温度)を低くするため、溶融部20での溶融温度を低く調整する必要がある。これは、ガラスの溶融温度が高いと溶融ガラスの粘性が低下し、ノズル40からの溶融ガラスの吐出量が多くなり、ガラス繊維の繊維径が相対的に大きくなりすぎてしまうからである。
【0069】
よって、ガラスの溶融温度及びノズル温度を低くすることで溶融ガラスの粘性を高め、ノズルからの溶融ガラスの吐出量を抑える。しかし、この場合、相対的に細い繊維径のガラス繊維を得ようとすると、ノズル40から吐出されたガラス繊維の紡糸張力が大きくなってしまう。すなわち、ノズル温度を低くしてガラス繊維を得ようとする場合、ノズル40から吐出された溶融ガラスの粘度が高くなり、紡糸装置200により当該溶融ガラスに引張力をかけてノズル内径d1から所望の繊維径に変形させるのにより多くの引張力が必要となり、結果吐出されたガラス繊維にかかる紡糸張力が大きくなる。そして、紡糸張力が増加した状態で、吐出されたガラス繊維が、紡糸装置200等と接触すると、該ガラス繊維が破断するなどのダメージを受けてしまう。
【0070】
なお、本実施形態では、溶融温度とは、例えば、特に溶融部20の第1領域21での溶融ガラスの温度を言うものとする。また、ノズル温度とは、例えば、ノズル40の外表面の温度及びノズル内の溶融ガラスの温度等をいうものとする。
【0071】
一方、ノズル内径d1が約0.9mm未満の場合には、ノズル内径d1が相対的に小さく、ノズル40からの溶融ガラスの吐出量が少ない。そのため、所望の繊維径のガラス繊維を得るためには、ノズル40に供給する溶融ガラスの溶融温度(ノズル温度)を高くするため、溶融部20での溶融温度を高く調整する必要がある。これは、溶融ガラスの溶融温度が低いと溶融ガラスの粘性が高くなり、ノズル40からの溶融ガラスの吐出量が少なくなりすぎるためである。
【0072】
よって、ガラスの溶融温度を高くすることで溶融ガラスの粘性を小さくし、ノズル40からの溶融ガラスの吐出量を増加させる。しかし、この場合、ガラスの溶融温度が高いため、ガラス原料を過剰に高温で溶融することにより発生するリボイル泡が発生しやすくなる。
【0073】
以上の点などを考慮し、発明者らは、鋭意工夫を行い、種々のノズル内径d1のノズル40を用いて実験した結果、ノズル内径d1を約0.9mm以上約1.0mm以下とすることで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を、毛羽の発生を低減させ、かつ、生産性良く所望の長さで得ることができた。
【0074】
さらに、発明者らは、ノズル内径d1を約0.9mm以上約1.0mm以下とすることで、引張強度の向上及びタフネスの向上の少なくともいずれかを達することができることも見出した。
【0075】
本実施形態では、前述の通り、約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を得ることができる。このような繊維径のガラス繊維は、繊維径が細い故に溶融ガラスを吐出するノズル40のノズル内径d1の大きさ等の影響を大きく受ける。また、ガラス繊維の表面に毛羽が発生すると、繊維径の細さゆえに、ガラス繊維は毛羽の影響を大きく受ける。このような繊維径のガラス繊維は、例えばプリント配線基板の補強材等の各種用途に用いることができるが、小さい引張強度及び小さいタフネス等のガラス繊維は各種用途に用いるには品質に劣る。
【0076】
しかし、本実施形態のガラス繊維は、前述の通り、ノズル内径d1を約0.9mm以上約1.0mm以下とすることで、引張強度の向上及びタフネスの向上の少なくともいずれかを達することができる。従来、ガラス繊維の技術常識において、引張強度の向上という課題に対しては、主にガラス原料組成や集束剤の脱油の検討がなされてきた。また、タフネスについては、ガラス繊維の技術常識において、検討すらなされていない。一方、本発明は、上記ガラス繊維の品質に関する課題に対し、ノズル内径d1の検討等、ガラス繊維紡糸用ノズルプレート、該ノズルプレートを備えるガラス溶融炉、及び該ガラス溶融炉を用いるガラス繊維紡糸方法により、解決を図る、従来技術とは全く異なるアプローチが採用されるものである。
【0077】
また、ノズル内径d1は、約0.9mm以上約0.95mm以下であるのがさらに好ましい。ノズル内径d1が約0.9mm以上約0.95mm以下とさらに調整されるため、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維を生産性よく得ることができる。
【0078】
前述の通り、ノズル内径d1が約1.0mmを超える場合、ノズル温度を低くする必要がある。そうすると、ノズル40からの吐出されたガラス繊維の紡糸張力が大きくなってしまい、ガラス繊維が破断などのダメージを受けてしまう。ノズル内径d1の上限を約1.0mmよりもさらに小さい約0.95mm以下とすることで、ガラスの溶融温度を低下させる程度をより小さくすることができ、溶融ガラスの粘性が高くなり過ぎるのをより抑制できる。ひいては、紡糸張力をより小さくすることができ、ガラス繊維が破断するなどのダメージを受けてしまうのをより抑制し、より品質の良い所望の繊維径のガラス繊維を得ることができる。
【0079】
(c-2)ノズル40の厚み
ノズル40において、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)を約1.85以上約2.20以下とすることで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維をより生産性よく得ることができる。
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が大きいことは、ノズル外径d2とノズル内径d1との差であるノズル肉厚が大きいことを意味する。
【0080】
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)を約1.85以上約上2.20以下とすることにより、ノズルからノズルプレート面への溶融ガラス濡れの発生をより抑制し、ノズル自体の強度を高めてノズルプレート30の寿命を延ばしつつ、ノズル40の発熱性をより向上させることにより溶融ガラスの溶融温度とノズル温度との差をより小さくすることができる。これによりガラス原料を過剰に高温で溶融することにより発生するリボイル泡の発生をより低減させ、約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維をより生産性よく得ることができ、より品質の良い所望の繊維径のガラス繊維を得ることができる。
【0081】
また、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が約1.9以上約2.1以下であるのがさらに好ましい。(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が約1.9以上約2.1以下とさらに調整されるため、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維をより一層生産性よく得ることができる。
なお、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)は、ノズル40の先端での比であるのが好ましい。
【0082】
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が約2.1以下の場合、約2.20以下の場合よりも小さいため、ノズルからノズルプレート面への溶融ガラス濡れの発生をより一層抑制される。
【0083】
(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が約1.9以上の場合、約1.85以上の場合の場合よりも大きいため、ノズル自体の強度をより高めてノズルプレート30の寿命をより延ばしつつ、ノズル40の発熱性をより一層向上させることにより溶融ガラスの溶融温度とノズル温度との差をより一層小さくすることができる。
【0084】
(c-3)テーパ部41aの長さ/直線部41bの長さ
ノズル40において、(テーパ部41aの長さI4/直線部41bの長さI5)が約0.035~約0.060であると好ましい。この場合、テーパ部41aの長さI4が直線部41bの長さI5に比べて短い。よって、板状部31に受けられた溶融ガラスは、テーパ部41aを経ることで直線部41bに効率よく導入されつつ、相対的に長い直線部41bを通流することで、通流の際の溶融ガラスとノズル40の内表面との接触抵抗を小さくできる。よって、溶融ガラスが下方に向かって冷却される際に破断するなどのダメージをより一層小さくできる。また、溶融ガラスが受ける接触抵抗が小さく負担が小さいため、品質において優れるガラス繊維が製造されるため、引張強度の向上及びタフネスの向上の少なくともいずれかを達しやすくなる。
【0085】
なお、(テーパ部41aの長さ/直線部41bの長さ)が0.060を超える場合にはテーパ部41aの長さが相対的に大きくなり、直線部41bに導入されるまでの溶融ガラスとノズル40の内表面との接触抵抗が大きくなってしまう。
一方、(テーパ部41aの長さ/直線部41bの長さ)が0.035未満の場合にはテーパ部41aの長さが相対的に短くなり、板状部31の溶融ガラスを直線部41bに効率よく導入しにくくなる。
【0086】
テーパ部41aの長さ及び直線部41bの長さを含めたノズル40全体の長さは、例えば、約4.5mm以上約9.5mm以下が好ましい。さらには、約5.5mm以上約7.5mm以下が好ましい。これにより、ノズル40の冷却能をより適切なものとすることができ、リボイル泡の発生の抑制と、紡糸張力の最適化をより一層両立しやすくすることができる。
【0087】
(c-4)ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1)、板状部31の上面からノズル40の先端までの長さI2/板状部31の厚みI3
(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))を約4.5以上約5.5以下とし、及び、(板状部31の上面からノズル40の先端までの長さI2/板状部31の厚みI3)を約4.0以上約5.5以下に設定することで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維を安定して得ることができる。
【0088】
(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))を約4.5以上約5.5以下としつつ、(板状部31の上面からノズル40の先端までの長さI2/板状部31の厚みI3)を約4.0以上約5.5以下とすることにより、ノズル30での冷却能をより適切なものとすることができ、リボイル泡の発生の抑制と、紡糸張力の最適化をより一層両立しやすくすることができる。
【0089】
なお、(ノズル突出長さI1/(ノズル外径d2-ノズル内径d1))、及び、(板状部31の厚みI3/板状部31の上面からノズル40の先端までの長さI2)の少なくともいずれかを、所定の範囲に設定してもよい。
【0090】
(c-5)紡糸速度、ノズル温度、溶融温度
ノズル40から吐出されるガラス繊維の紡糸速度条件が、約2500m/min以上約3200m/min以下であるのが好ましい。紡糸速度を調整する方法としては、紡糸装置200の巻取りローラ211の回転速度を速くしたり遅くしたりする方法等がある。
また、ノズル40のノズル温度条件が、約1260℃以上約1300℃以下であるのが好ましい。
また、溶融部20におけるガラスの溶融温度条件が、約1530℃以上約1580℃以下であるのが好ましい。
【0091】
紡糸速度条件、ノズル温度条件及び溶融温度条件の少なくともいずれかを採用してガラス繊維を紡糸することで、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満の繊維径のガラス繊維、特に、相対的に細い約3.0μm~約5.0μmの繊維径のガラス繊維をより生産性よく製造することができる。また、毛羽の発生をより抑制でき、また、引張強度及びタフネスが向上したガラス繊維を製造できる。
【0092】
紡糸速度を約2500m/min以上約3200m/min以下とすることにより、随伴流による吐出されたガラス繊維への冷却効果をより高め、かつ、溶融ガラスの溶融温度及びノズル温度を適切な範囲として紡糸張力を適切な範囲としやすくなり、毛羽の発生をより抑制でき、引張強度及びタフネスが向上したガラス繊維を製造しやすくなる。毛羽の発生をより抑制することと、引張強度及びタフネスが向上することをより一層並立させるという観点から、紡糸速度は約2800m/min以上約3200m/min以下とすることが好ましく、約2900m/min以上約3100m/min以下がより好ましい。
【0093】
また、ガラス繊維径は、主として、ノズル内径d1と、上記紡糸速度と、ノズル温度で調整される。従って、ノズル内径d1を約0.9mm以上約1.0mm以下としつつ、上記紡糸速度とした場合に、ノズル温度を約1260℃以上約1300℃以下とすることで、特に繊維径が約3.0以上約5.0μm以下という相対的に細い繊維径のガラス繊維を毛羽の発生をより低減させ、かつ、より生産性良く製造しやすくなる。
【0094】
また、ガラスの溶融温度が約1530℃以上約1580℃以下である溶融温度条件とすることにより、リボイル泡の発生の抑制をしつつ、溶融ガラスの粘度を適切なものとして、リボイル泡及びガラス材料に元々含まれる微小な気泡を溶融部上方のガラス液面から抜きやすくなる。該微小な気泡は、特に繊維径が約3.0以上約5.0μm以下という相対的に細い繊維径のガラス繊維においては、紡糸糸切れに与える影響が相対的により大きくなる。従って、上記ガラス溶融温度とすることで、特に繊維径が約3.0以上約5.0μm以下という相対的に細い繊維径のガラス繊維を毛羽の発生をより低減させ、かつ、より生産性良く製造しやすくなる。このような溶融温度に調整する手段としては、例えば、ガラス溶融炉100を、前述の第1部材50及び/または第2部材60を備えるものとすれば、当該部材の発熱による温度調整機能と、当該部材による溶融ガラスの滞留時間をより長くする機能とにより、当該微小な気泡をより一層抜きやすくなるのでより好ましい。さらに、前述した、(ノズル外径d2/ノズル内径d1)が約1.85以上約上2.20以下という構成を組み合わせることで、当該微小な気泡をより抜きやすくすることと、ノズル40の発熱性をより向上させることにより溶融ガラスの溶融温度とノズル温度との差をより小さくしてリボイル泡の発生を抑制することとを、より一層両立しやすくなる。
【0095】
(2)紡糸装置200
次にノズル40から溶融ガラスを吐出させてガラス繊維を紡糸する紡糸装置200について説明する。紡糸装置200は、ノズル40から吐出したガラス繊維に集束剤を塗布する集束剤トレイ201と、ガラス繊維を所定数のガラス繊維束に束ねる集束機構202と、ガラス繊維を綾振りする綾振り機構206と、ガラス繊維束を巻き取る巻取りローラ211とを備えている。
【0096】
集束剤トレイ201には、集束剤トレイ201に供給される集束剤と、該集束剤をピックアップし、該ピックアップされた集束剤にガラス繊維が接触することでガラス繊維に集束剤を付与するアプリケーター(図示しない。)が備えられる。なお、集束トレイ201等に代えて、スプレー噴射等により、ガラス繊維に集束剤を付与することもできる。
【0097】
集束機構202は、モータ等によって回転駆動される水平な集束軸203と、集束軸203に固定された複数の集束ローラ205とを有する。本実施形態では、例えば、3つの集束ローラ205が集束軸203に固定されている。よって、ノズル40の貫通孔41から吐出された複数のガラス繊維は、集束軸203の回転とともに、3つの集束ローラ205それぞれによって3つの繊維束に分けられる。なお、集束ローラ205で3つの繊維束となる前に、各ガラス繊維は、集束剤が入った集束剤トレイ201に導入され、集束剤が塗布される。
【0098】
綾振り機構206は、モータ等によって回転駆動される水平な綾振り軸207と、3つの集束ローラ205それぞれに対応した綾振り部材209とを有する。3つの集束ローラ205で集束された各繊維束は、綾振り軸207の回転駆動により綾振り部材209により綾振りされ、巻取りローラ211に均等に巻き取られる。
巻取りローラ211は、所定の回転軸を中心として回転しており、回転速さ及び回転駆動力等が調整される。これにより、ノズル40から吐出する溶融ガラスの紡糸張力(引張張力)及び紡糸速度が調整されて繊維束が巻き取られる。
【0099】
(3)ガラス繊維の製造方法
次に、ガラス溶融炉100にガラス材料が投入されてから、ノズル40からガラス繊維が吐出され、紡糸装置200で巻き取られるまでの流れについて説明する。
まず、ガラス溶融炉100の溶融部20の第1領域21には、投入口10から次々とガラス材料が投入され、ガラス材料が溶融される。そのため、第1領域21は、ガラス材料、溶融途中のガラス材料及び溶融ガラスにより満たされている。溶融部20には、加熱手段70(70a、70b)により電圧が印加されており、溶融部20の第1領域21は、ガラス材料を溶融するために、ガラス材料の軟化点以上の温度、好ましくはノズル温度以上の温度、より好ましくはノズル温度以上の温度であって、かつ、ガラス材料の粘性を400ポイズ以下とする温度、さらに好ましくはノズル温度以上の温度であって、ガラス材料の粘性を100ポイズ以下とする温度が挙げられ、例えば、1500℃以上1650℃以下、好ましくは1530℃以上1580℃以下に加熱されている。なお、本発明において、溶融温度とは、ガラス溶融炉20内における溶融ガラスが最も高くなる温度である。
【0100】
第1領域21で溶融された溶融ガラスは、第1領域21の下部の、
図4に示す第1部材50と接触して受け止められる。そして、溶融ガラスは、例えば、溶融ガラスの自重に逆らいながら、第1部材50の上り傾斜に沿って中央部51から開口53a、53b側に徐々に流れていく。この流れていく過程で、溶融ガラス内の固形ガラスが完全に溶解される。そして、固形ガラスが溶解された溶融ガラスが、各開口53a、53bを介して第2領域23に供給される。
【0101】
第1領域21から溶融ガラスが次々と供給されることで、第2領域23は溶融ガラスで満たされている。第2領域23に供給された溶融ガラスは、第2部材60の傾斜に沿って、両端部62a、62bから中央部61側に流れていく。溶融ガラスは、第2部材60上を伝わって流れる過程で混ざり合いながら、所定間隔に配置された複数の開口63から第3領域25に流れ出る。これにより、概ね均質な溶融ガラスが、概ね均一に第3領域25に流れ出て、第3領域25を満たしている。
【0102】
前述の通り、第2部材60は、中央部61から右端部62a及び左端部62bに向かって上方に傾斜しており、これにより、ノズルプレート30全体の温度を概ね均一に保つことができる。つまり、ノズルプレート30の左右方向の中央部は、ノズルプレート30の左右方向の両端部よりも加熱手段70から離れており、電圧降下の影響により、両端部よりも温度が低くなりやすい。第2部材60の中央部61は、右端部62a及び左端部62bよりも下に位置しており、ノズルプレート30に近い。よって、第2部材60の中央部61の熱がノズルプレート30の中央部に伝わりやすく、ノズルプレート30の中央部の温度低下を補償することができる。
【0103】
次に、溶融ガラスは、第3領域25の下部のノズルプレート30に供給される。ノズルプレート30の温度は、加熱手段70により調整され、ガラス材料等によって異なるが、例えば、1200℃以上1350℃以下が挙げられ、好ましくは1260℃以上1300℃以下が挙げられる。
【0104】
また、前述の通り、溶融ガラスは、第1部材50において溶融ガラス内の固形成分が十分に少なくなってノズルプレート30に供給される。よって、固形成分の少ない溶融ガラスをノズル40から吐出でき、ガラス製品の引張強度の低下等を抑制できる。さらに、第2部材60の傾斜によってノズルプレート30全体の温度が概ね均一であるため、ノズル40から概ね均一なガラス繊維を吐出できる。
【0105】
(4)耐火材料
ガラス材料を溶融するため、少なくともガラス溶融炉100のうち溶融部20は、耐火材料で形成されている。耐火材料としては、例えば、白金元素単体からなる金属;ロジウム元素単体からなる金属;パラジウム元素単体からなる金属;金元素単体からなる金属;白金元素を含む金属化合物;ロジウム元素を含む金属化合物;パラジウム元素を含む金属化合物;金元素を含む金属化合物;白金元素、ロジウム元素、パラジウム元素及び金元素からなる群より選ばれる2種以上からなる合金;並びに耐火煉瓦からなる群から選択される少なくとも1つが含まれる。また、耐火材料としては、その他、モリブデン、黒鉛、酸化スズ、セラミック、アルミナ、酸化クロム、マグネシア、ジルコン、ジルコニア、酸化イットリウムからなる群から選択される少なくとも1つが含まれる。また、耐火材料としては、上記に記載した材料の組み合わせも含まれ、例えば、複数の材料による合金を耐火材料として用いてもよい。また、複数の耐火材料を各層として組み合わせてもよく、例えば、耐火煉瓦を外壁とする炉において、その内壁に白金又は白金-ロジウム合金等の板材や被膜が形成されてもよい。
【0106】
また、耐火材料により形成されるのは溶融部20に限らない。例えば、ノズルプレート30、第1部材50、第2部材60及び冷却手段80の少なくともいずれかが耐火材料により形成されてもよい。
【0107】
(5)ガラス材料
ガラス溶融炉100に投入されるガラス材料には、粉末等のガラス原料(ガラス材料を構成するガラス組成物の成分、例えばSiO2、Al2O3、MgO等の各酸化物等、を含む。)、及び固形ガラス等が含まれる。また、固形ガラスは、粉末等のガラス原料を溶融して、例えば棒状、球状、フレーク状、鱗片状等の所定の形状に成形したガラスである。また、ガラス製品がガラス繊維であって、所謂ダイレクトメルト方式により生産され、ガラス溶融炉100をブッシングに適用する場合は、ガラス溶融炉100に投入されるガラス材料として、流動可能な溶融状態の溶融ガラスとすることもできる。
【0108】
上記ガラス材料を構成するガラス組成物としては、公知のガラス組成物が使用でき、例えば、Eガラス、Tガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Lガラス、Cガラス、ARガラス等が挙げられる。特に、引張強度を向上させるという効果をより一層顕著なものとする観点から、元々高強度ガラスではなく、繊維径が3.0以上5.0μm以下という相対的に細い繊維径としたときに強力向上がより求められる、Eガラス、NEガラス、及び質量%で表示して、45≦SiO2≦60、20≦B2O3≦30、10≦Al2O3≦20を含むガラス組成物からなる群より選ばれる1種以上のガラス組成物が好ましく挙げられ、Eガラスが特に好ましく挙げられる。
【0109】
(6)ガラス繊維及びガラスヤーン
本発明のガラスヤーンは、Eガラス組成物から構成されるガラス繊維からなるガラスヤーンであって、
前記ガラス繊維の繊維径が3.0μm以上5.0μm以下であり、
前記ガラスヤーンの引張強度(N/tex)が0.80N/tex以上であり、
前記ガラスヤーンのタフネス(MJ/m3)が33MJ/m3以上である。
【0110】
前述のように、本発明のガラス繊維紡糸用ノズルプレート、該ノズルプレートを備えるガラス溶融炉、又は該ガラス溶融炉を用いるガラス繊維紡糸方法により、毛羽の発生を抑制しつつ、引張強度の向上及びタフネスの向上の少なくともいずれかを達することができることも見出され、これらにより、初めて、上記ガラスヤーンを得ることが可能となる。
【0111】
上記ガラスヤーンのガラス繊維本数(フィラメント本数)としては、特に制限されないが、例えば、20~60本が挙げられ、30~60本が好ましく挙げられ、40~60本がより好ましく挙げられる。ガラスヤーンの番手(tex)としては、特に制限されないが、例えば、1~5texが挙げられ、1~3texが好ましく挙げられる。
【0112】
ガラス繊維の繊維径は、3.0μm以上5.0μm以下であり、3.0μm以上4.2μm以下が好ましい。
【0113】
上記ガラスヤーンの引張強度(N/tex)は、0.80N/tex以上であり、0.85N/tex以上が好ましい。該引張強度の上限値は特に制限されないが、例えば、1.00N/tex以下が挙げられる。なお、本発明において、引張強度は、JIS R 3420:2013 7.4.3に準じ、測定には島津製作所社製のオートグラフ(AGS-100S)を用い、半径13mmの円形クランプを用い、試験速度を250mm/分、つかみ間隔を250mmとして測定される引張強さ(N)を、得られたガラスヤーンの番手(tex)で除することにより求める。
【0114】
上記ガラスヤーンのタフネス(MJ/m3)は、33MJ/m3以上であり、35MJ/m3以上であることが好ましく、37.0MJ/m3以上であることがより好ましい。また、タフネスの上限値は特に制限されないが、例えば、45MJ/m3以下が挙げられ、40MJ/m3以下が挙げられる。なお、本発明において、タフネスは、前記ガラスヤーンの引張強度の測定により得られたS-Sカーブの面積から求める。具体的に、100ms間隔にてプロットしたS-Sカーブの立ち上がり点及び破断点(最大引張強さの点)の範囲において、隣り合う2点のプロットの引張強さの値(N)をそれぞれ上底及び下底、伸び(mm)を高さとし台形の面積を求め、範囲内全ての面積を加算しタフネス((MJ/m3)とする。
【0115】
本発明のガラスヤーンの撚り数は、特に制限されないが、0~1.5回/25mmが挙げられ、0~1.0回/25mmが好ましく挙げられる。
【0116】
(6)実施例及び比較例
(6-1)実施例
実施例1
ガラス材料としてはEガラスを用いた。ノズル突出長さI1=5mm、ノズル内径d1=0.95mmであり、ノズル外径d2/ノズル内径d1=2.00、ノズル数=200個のノズルプレート(35mm×400mm)を用いた。紡糸速度3000m/minにて約4.0μmの50本のフィラメント(各ノズル40から吐出される1本のガラス繊維)を集束しガラスストランドを巻き取り、該ガラスストランドを巻き返して撚糸し、撚り数を0.5Zとしたガラスヤーンを製造した。製造されたガラスヤーンについて、毛羽、引張強度、タフネスを測定した。
【0117】
毛羽測定方法は次の通りである。紡糸・撚糸終了後のガラスヤーンをEnka Technica社製の毛羽測定器にセットし、100m/minの速度で糸を解舒しながら約50gの張力をかけ、1.5mm以上の毛羽をカウントする。なお、測定は、上記ガラスヤーンを連続して1万m(10km)測定し、当該毛羽カウント数を10で除することにより、1000m(1km)当たりの毛羽カウント数として評価した。毛羽は、25個/km以下を合格とした。
引張強度(N/tex)の測定方法は次の通りである。JIS R 3420:2013 7.4.3に準じ、測定には島津製作所社製のオートグラフ(AGS-100S)を用い、半径13mmの円形クランプを用い、試験速度を250mm/分、つかみ間隔を250mmとして測定される引張強さ(N)を、得られたガラスヤーンの番手(tex)で除することにより求めた。
タフネス(MJ/m3)は、前記ガラスヤーンの引張強度の測定により得られたS-Sカーブの面積から求めた。具体的に、100ms間隔にてプロットしたS-Sカーブの立ち上がり点及び破断点(最大引張強さの点)の範囲において、隣り合う2点のプロットの引張強さの値(N)をそれぞれ上底及び下底、伸び(mm)を高さとし台形の面積を求め、範囲内全ての面積を加算しタフネス((MJ/m3)とした。
生産性は、連続して1週間紡糸運転し、当該期間の1時間あたりの紡糸糸切れ回数で評価した。1時間あたりの紡糸糸切れ回数が0.2回/hr以下を合格とした。
リボイル泡の発生の評価は、紡糸の際にガラス原料投入口から目視により評価した。
【0118】
実施例2
ノズル内径d1=0.90mm、ノズル外径d2/ノズル内径d1=2.11とした以外は、実施例1と同様にガラス繊維を製造し、毛羽、引張強度、タフネスを測定した。
【0119】
実施例3
ノズル内径d1=0.90mm、ノズル外径d2/ノズル内径d1=2.11とし、紡糸速度2500m/minとした以外は、実施例1と同様にガラス繊維を製造し、毛羽、引張強度、タフネスを測定した。
【0120】
(6-2)比較例
比較例1
ノズル内径d1=1.05mm、ノズル外径d2/ノズル内径d1=1.81とした以外は、実施例1と同様にガラス繊維を製造し、毛羽、引張強度、タフネスを測定した。
【0121】
比較例2
ノズル内径d1=0.85mm、ノズル外径d2/ノズル内径d1=2.23とした以外は、実施例1と同様にガラス繊維を製造し、毛羽、引張強度、タフネスを測定した。
【0122】
実施例1~3、比較例1及び2で製造されたガラス繊維について、ノズル40でのノズル温度(℃)、溶融部20での溶融温度(℃)、毛羽(個/km)、引張強度(N/tex)、タフネス(MJ/m3)、紡糸糸切れ回数(回/hr)及びリボイル泡の発生の有無の結果を以下の表1に示す。
【0123】
【0124】
実施例1~3では、ガラス繊維紡糸用ノズルプレート30であって、溶融ガラスを受ける板状部31と、前記板状部31を貫通する貫通孔41を内部に有して前記板状部31から突出し、前記板状部31が受けた溶融ガラスを吐出させるノズル40と、を備え、前記ノズル40のノズル内径d1が0.9mm以上1.0mm以下である、ガラス繊維紡糸用ノズルプレート30を用いたことから、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維を、毛羽の発生を低減させて、かつ、生産性良く得ることができた。また、実施例1~3では、ノズル40でのノズル温度が1265℃~1290℃に調整され、溶融部20での溶融温度が1540℃~1570℃に調整された。この場合、毛羽が22.5個/km以下であり毛羽の発生が抑制されている。また、引張強度が0.82N/tex以上であり引張強度にも優れている。また、タフネスも34.1MJ/m3以上であり優れている。さらに、リボイル泡の発生もほとんど確認できなかった。
【0125】
一方、比較例1では、ノズル内径d1が1.0mmを超えるものであったことから、毛羽が38.0個/kmであり毛羽の発生が多く、実施例1の約170%の毛羽数であった。引張強度及びタフネスについては、実施例1の約90%程度にとどまった。
比較例2では、ノズル内径d1が約0.9mm未満であったことから、リボイル泡発生が強く認められ、当該リボイル泡に起因して、所望の約1.0μm以上約6.0μm未満のガラス繊維を毛羽の発生を低減させ、かつ、生産性良く製造することが困難であった。
【0126】
〔他の実施形態〕
なお、上述の実施形態(他の実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0127】
(1)上記実施形態では、ノズル40の貫通孔41は、上下方向に対して傾斜するテーパ部41aを有している。しかし、貫通孔41から所望の繊維径のガラス繊維を吐出できればよく、テーパ部41aは必ずしも設けられている必要はない。
また、上記実施形態では、貫通孔41は上下方向に延びる直線部41bを有している。しかし、貫通孔41から所望の繊維径のガラス繊維を吐出できればよく、直線部41bは上下方向に対して傾斜を有していてもよい。例えば、直線部41bは、下方から上方に向かう傾斜方向が上下方向に対して、例えば約5~10°程度であってもよい。
【0128】
(2)上記実施形態では、ガラス溶融炉100及び紡糸装置200を備えるガラス繊維束製造装置300について説明した。しかし、本発明は、ノズルプレート30を備えるガラス溶融炉100のみについても適用可能である。
【0129】
(3)上記実施形態では、貫通孔41のほぼ全てが直線部41bにより形成されている。しかし、所望の繊維径のガラス繊維を吐出できればよく、直線部41bは貫通孔41の少なくとも一部であってもよい。
【0130】
(4)上記実施形態では、第2部材60が設けられているが、第2部材60は省略されてもよい。同様に、第1部材50は省略可能である。また、第1部材50及び第2部材60の形状、開口の位置等は、ガラス材料を溶解して溶融ガラスにできればよく、上記実施形態に限定されない。
【0131】
(5)上記実施形態では、投入口10は、ガラス溶融炉100の一番上に設けられている。しかし、溶融部20の側壁に投入口10が設けられていてもよい。また、溶融部20に直接にガラス材料を投入する場合には、投入口10は設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0132】
30 :ノズルプレート
31 :板状部
40 :ノズル
41 :貫通孔
70 :加熱手段
100 :ガラス溶融炉
200 :紡糸装置
300 :ガラス繊維束製造装置