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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】磁界検出コイルおよびEMIアンテナ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
G01R33/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018110238
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019211422
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 文緒
(72)【発明者】
【氏名】佐野 宏靖
(72)【発明者】
【氏名】大森 学
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐一
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-96417(JP,A)
【文献】特開2010-25859(JP,A)
【文献】特開2013-160549(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136589(WO,A1)
【文献】特開2013-235010(JP,A)
【文献】特開昭60-138710(JP,A)
【文献】米国特許第4914383(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G01R 15/18
G01R 29/08
G11B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心孔を有するリング状の磁性材料からなり、前記リング状の径方向に延設されたスリットを有する基材と、
前記基材に巻回された第1コイルおよび第2コイルと、
を備え
前記第1コイルおよび前記第2コイルが、前記基材のポロイダル方向において相互に逆巻きとなるように巻回されて、前記スリットを中心として前記基材に対称配置され、
前記基材の前記中心孔を有する面が測定対象の表面と対向するように設置されて、前記測定対象に生じる磁界を検出する、
ことを特徴とする磁界検出コイル。
【請求項2】
前記スリットは、
前記リング状の径方向に沿って同じスリット幅で形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁界検出コイル。
【請求項3】
前記スリットは、
前記基材のリング状中心から外周に向かって扇状に広がるように形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁界検出コイル。
【請求項4】
前記スリットは、スリット幅が広い程前記磁界の感度特性が良好になる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁界検出コイル。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁界検出コイルと、
前記磁界検出コイルの前記第1コイルに流れる電流と前記第2コイルに流れる電流とをそれぞれ電圧増幅する差動増幅回路と、
前記差動増幅回路から出力された前記第1コイルに流れる電流を示す信号と前記第2コイルに流れる電流を示す信号との差分を求める減算回路と、
を備え、
前記差動増幅回路および前記減算回路により前記第1コイルと前記第2コイルとを差動コイルとして動作させて、検出された前記磁界によって生じる、前記第1コイルに流れる電流および前記第2コイルに流れる電流から前記測定対象に流れるノイズ電流を求める
ことを特徴とするEMIアンテナ。
【請求項6】
前記第1コイルの共振周波数の共振ピークを低下させる第1ダンプ抵抗と、
前記第2コイルの共振周波数の共振ピークを低下させる第2ダンプ抵抗と、
を備える、
ことを特徴とする請求項5記載のEMIアンテナ。
【請求項7】
前記磁界検出コイルと、
前記差動増幅回路と、
前記減算回路と、
を一体形成して備えたことを特徴とする請求項5または6に記載のEMIアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器が発生する不要な電磁波(平面波)が、ケーブルおよび伝送線路から放射されることによって生じるEMI現象を捕捉する磁界検出コイル、および、この磁界検出コイルを用いたEMIアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズに関する問題は、電子機器の動作速度(処理速度)を高速化することに伴って多様化しており、例えば、EMCサイトを使用する短い時間の中でノイズ源を特定することや、ノイズ対策の効果を確認することが難しい場合が増えている。そのため、例えばEMCサイトを使用する前に、電子機器に磁界プローブを近接させて漏洩電磁波を検知し、漏洩電磁波の対策を講じるための簡易測定が行われている。
ノイズ源の特定には、例えば、セミリジットケーブルを円状に一巻回したシールデッドループアンテナ(以下、SLAと記載する)が多く使用されている。
【0003】
SLAは、ケーブルや配線パターンなどに流れるノイズ電流によって誘起される磁界を検出することに適しており、構造が簡単で使い易いという特徴がある。
その反面、10[MHz]以下の周波数帯では、感度特性が著しく低下するという欠点がある。
また、最大磁界を検出する場合には、SLAのループ面とケーブル等のノイズ源を平行に配置する必要ある。そのため、一様性に欠けるノイズ電流に起因した最大磁界を捕捉することが難しく、測定値等の再現性が低くなるという欠点がある。
そこで、次のような技術が提案されている。
【0004】
例えば、多層基板の絶縁層内に枠状の細長い電極パターンを配置することにより、1回巻のループコイルを形成させ、この多層基板と信号処理回路とを同軸ケーブルによって接続した磁化プローブがある(例えば、特許文献1参照)。
この磁化プローブは、配線パターンやケーブルなどに生じるノイズ電流の検出を、当該ノイズ電流によって誘起される磁界検出によって行うように構成されており、構造が簡単で使い易いことが特徴である。インピーダンスが50[Ω]となるように構成すると、2~3[GHz]付近の周波数帯域において検出感度が高くなる。
【0005】
また、被測定ケーブルに流れる電流を検出する電流プローブには、ループコイル、伝送線路、パッド部を金属箔によって形成し、これらを絶縁シートに貼り合わせたものがある(例えば、特許文献2参照)。
この電流プローブは、上記のように、ループコイル、伝送線路、パッド部を絶縁シートに張付けたものを例えば2個用意し、被測定ケーブルを中心にして対称配置して、被測定ケーブルの周囲に同心円状に発生する磁界を測定する。このように配置することにより、各ループコイルに発生する電圧が重畳し、即ち、互いに強め合った電圧を、当該電流プローブからスペクトルアナライザー等の測定装置へ出力することができる。
【0006】
また、絶縁性ウエハの上に、アルミニウム薄膜のパターンニングを施して長方形形状の各ループ状部分を形成させた磁気検出プローブがある(例えば、特許文献3参照)。
この磁気検出プローブは、2つのループ状部分を単一面上に並べて形成し、各ループ状部分に、それぞれ差動回路が接続されている。また、この差動回路には、当該差動回路の出力信号を増幅する増幅回路が接続されている。
【0007】
また、円柱状の支持用冶具に巻回された一対の個別コイルを備え、各個別コイルに差動増幅器を接続した漏洩磁束検出装置がある(例えば、特許文献4参照)。
この装置は、逆相に巻回された個別コイルに発生した電圧を、それぞれ差動増幅器へ入力してノイズ成分と漏洩磁束成分とを分離し、ノイズ成分を示す電圧を取得することができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-169793号公報
【文献】特開2000-266784号公報
【文献】特開平9-166653号公報
【文献】特開平7-159378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のSLAは、10[MHz]以下の低周波帯では、著しく感度特性が低下するという問題点がある。また、最大磁界を検出するためには、SLAのループ面とケーブル等のノイズ源とを平行に配置する必要があり、一様性に欠けるノイズ電流に起因した最大磁界を検出することは困難であり、検出結果の再現性も低いという問題点がある。
特許文献2の電流プローブは、不特定で多様な周波数のノイズ検知には不向きであり、特に低周波帯域を検知することができないという問題点がある。
特許文献3の磁気検出プローブは、低周波帯において感度特性が低く、また、高周波帯において増幅誤差が生じる要因を回路構成に含んでいるため、広帯域の測定には向いていないという問題点がある。
【0010】
特許文献4の漏洩磁束検出装置は、個別コイルには各々自己共振周波数が存在するため、所定の周波数、もしくは、この周波数周辺において感度特性が大きく変化する。このように感度特性が大きく変化することから広帯域の磁界測定には向いていないという問題点がある。
上記のように、従来の磁界を検出するためのプローブや装置などは、構造的に、ケーブルや伝送線路など様々なものに対応させてノイズ源を特定することが難しく、また、検出結果に再現性を確保することも困難であった。
【0011】
本発明は、シールド材を施さずに外来ノイズの影響を低減し、被測定対象に流れるノイズ電流、即ち、ノイズ電流に起因する磁界成分のみを、広帯域にわたり再現性よく検出することができる磁界検出コイルおよびEMIアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る磁界検出コイルは、リング状の磁性材料からなり、前記リング状の径方向に延設されたスリットを有する基材と、前記スリットを中心として対称配置された第1コイルおよび第2コイルと、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、前記基材は、フェライト材からなり、前記第1コイルおよび前記第2コイルは、所定径の銅線を用いて相互に逆巻となるように前記基材のポロイダル方向に複数回巻回されており、前記基材のリング中心から該各コイル両端間に生じる挟み角度が同一となるように対称配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、前記基材は、フェライト材からなり、前記第1コイルおよび前記第2コイルは、相互に逆巻となって各々インダクタンスが1[μH]以上となるように、所定径の銅線を前記基材のポロイダル方向に複数回巻回させており、前記基材のリング中心から該各コイル両端間に生じる挟み角度が同一となり、前記リング中心から対称配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、前記基材のスリットは、測定対象に対応した検出空間分解能および感度特性が得られる間隔を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係るEMIアンテナは、上記のように構成された磁界検出コイルと、前記磁界検出コイルの前記第1コイルに流れる電流と前記第2コイルに流れる電流とをそれぞれ電圧増幅する差動増幅回路と、前記差動増幅回路から出力された前記第1コイルに流れる電流を示す信号と前記第2コイルに流れる電流を示す信号との差分を求める減算回路と、を備え、前記差動増幅回路および前記減算回路により前記第1コイルと前記第2コイルとを差動コイルとして動作させて測定対象からノイズ電流を検出することを特徴とする。
【0017】
また、前記磁界検出コイルのリング状基材に巻回された前記第1コイルおよび前記第2コイルが前記測定対象に対向配置されるように前記磁界検出コイルを設置したことを特徴とする。
【0018】
また、前記第1コイルの共振周波数の共振ピークを低下させる第1ダンプ抵抗と、前記第2コイルの共振周波数の共振ピークを低下させる第2ダンプ抵抗と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、前記磁界検出コイルと、前記差動増幅回路と、前記減算回路と、を一体形成して備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、広帯域の周波数成分からなるノイズ電流を一挙に検出し、再現性の良い測定結果を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例によるEMIアンテナの概観を示す斜視図である。
図2図1の検出コイルの構成を示す斜視図である。
図3図2の検出コイルに関する他の構成例を示す斜視図である。
図4図1の回路ユニットに設けられる回路構成を示す説明図である。
図5図1のEMIアンテナを用いてノイズ電流を検出するときの概略態様を示す説明図である。
図6図5の測定状態における検出コイルの向きを示す説明図である。
図7】検出コイルの感度特性に関する実験結果を示す説明図である。
図8】アンテナAの感度特性に関する実験結果を示す説明図である。
図9】アンテナCの感度特性に関する実験結果を示す説明図である。
図10】従来の差動型磁界プローブの概略構成を示す説明図である。
図11】従来の差動型磁界プローブの評価結果を示す説明図である。
図12】従来のシールデッドループアンテナの評価結果を示す説明図である。
図13】本発明によるEMIアンテナの特徴と従来品の特徴の比較結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
(実施例)
図1は、本発明の実施例によるEMIアンテナの概観を示す斜視図である。図示したEMIアンテナ1は、被測定対象の導電体21に近接させる検出コイル12と、検出コイル12から出力される電流信号の増幅処理等を行う回路ユニット11とを備えている。
ここで例示するEMIアンテナ1は、例えば略長筒状または略長柱状の筐体等に検出コイル12と回路ユニット11等を収納固定し、一体形成されている。
【0023】
ここで、EMIアンテナ1に設置された検出コイル12は、後述するように2つのコイル33,34を単一の基材30に備えており、2つのコイル33,34がどちらも測定対象21に対向配置することができるように、略長筒状または略長柱状のEMIアンテナの長手方向に対して垂直に設置されている。
【0024】
図2は、図1の検出コイル12の構成を示す斜視図である。図示した検出コイル12は、例えば、インピーダンス周波数特性を有する磁性材料のフェライト材を、リング状に形成した基材30、基材30のポロイダル方向へ複数回巻回したコイル33およびコイル34によって構成されている。
【0025】
なお、ここで各図に示す各基材は、例えば、略円柱状に形成されたもので、円状面の中心部分に中心孔31を設けてリング状に形成したものである。
基材30は、中心孔31からリング状外周へ向かって延設されたスリット32が設けられている。
このスリット32は、均一の空隙幅を有するように形成されている。
検出コイル12のコイル33とコイル34は、各々所定径の銅線を複数回巻回して構成されたもので、基材30のリング中心から対称配置され、また、スリット32を間に挟むように(スリット32を中心として)対称配置されている。
【0026】
図3は、図2の検出コイル12に関する他の構成例である検出コイル12aを示す斜視図である。検出コイル12aは、基材30と同様なフェライト材をリング状に形成した基材30aを備え、また、検出コイル12に備えたものと同様なコイル33およびコイル34を、基材30aのポロイダル方向に複数回巻回して構成されている。
基材30aは、中心孔31aからリング状外周へ向かって延設されたスリット32aが設けられている。
【0027】
スリット32aは、基材30aのリング中心からリング外周へ向かって扇状に広がるように形成されており、扇状の中心角が例えば90度の空隙として設けられている。換言すると、スリット32aの両壁面が、リング中心から例えば90度の広がり角度となるように形成されている。なお、スリット32aの広がり角度は90度に限定されない。
検出コイル12aのコイル33とコイル34は、各々所定径の銅線を複数回巻回して構成されたもので、基材32aのリング中心から対称配置され、また、スリット32aを間に挟むように(スリット32aを中心として)対称配置されている。
なお、検出コイル12aは、前述の検出コイル12と同様に、2つのコイル33,34がどちらも測定対象21と対向配置されるように、EMIアンテナ1の長手方向に対して垂直に設置される。
【0028】
検出コイル12は、コイル33とコイル34が相互に逆巻(右回りの巻回と左回りの巻回)となるように、また、基材30において同軸上(基材30の中心軸上)に配置されるように、当該コイル33およびコイル34を備えている。
検出コイル12aにおいても、コイル33とコイル34が相互に逆巻となるように、また、基材30aにおいて同軸上(基材30aの中心軸上)に配置されるように、当該コイル33およびコイル34を備えている。
検出コイル12および検出コイル12aのコイル33,34は、各基材のリング中心における中心角度が同様となる位置範囲に巻回設置されている。換言すると、コイル33とコイル34は、各コイルの両端とリング中心との間に生じる挟み角度が同一となるように配置されている。
【0029】
これらコイル33とコイル34は、例えば、細い銅線を上記のように巻回させ、各々1[μH]以上のインダクタンスを有するように構成されている。
また、検出コイル12のスリット32、検出コイル32aのスリット32aは、各々の基材に巻回されたコイル33,34の周波数特性、感度特性等に応じたスリット幅(間隙)を有して形成されている。換言すると、スリット32,32aは、回路ユニット11もしくはEMIアンテナ1の出力信号に、測定対象に対応させた検出空間分解能および感度特性が得られるスリット幅(間隙)を備えて、各々リング状基材30,30aに形成されている。
【0030】
図4は、図1の回路ユニット11に設けられる回路構成を示す説明図である。ここでは、検出コイル12を回路ユニット11に接続したEMIアンテナ1を例示して説明する。
検出コイル12は、個別に巻回されたコイル33とコイル34とを備えており、コイル33の巻線両端間にはダンプ抵抗51が接続され、コイル34の巻線両端間にはダンプ抵抗52が接続されている。
ダンプ抵抗51は、コイル33の自己共振周波数の共振ピークを低下させるもので、例えば50[Ω]の抵抗値を有し、ダンプ抵抗52は、コイル34の自己共振周波数の共振ピークを低下させるもので、例えば50[Ω]の抵抗値を有する。
【0031】
コイル33の巻線両端は、差動増幅回路53の第1の入力端へ接続され、コイル34の巻線両端は、差動増幅回路53の第2の入力端へ接続されている。
詳しくは、コイル33の巻線両端は、図示を省略した差動増幅回路53を構成する第1の電流帰還型オペアンプの入力端に接続され、コイル34の巻線両端は、図示を省略した差動増幅回路53を構成する第2の電流帰還型オペアンプの入力端に接続されている。
即ち、コイル33とコイル34は、差動コイルとして動作するように各回路等と接続されている。
【0032】
上記の第1の電流帰還型オペアンプは、コイル33に流れる電流を入力し、当該電流信号、即ちコイル33の検出信号を電圧増幅するように回路構成されている。また、第2の電流帰還型オペアンプは、コイル34に流れる電流を入力し、当該電流信号、即ちコイル34の検出信号を電圧増幅するように回路構成されている。これらの増幅された信号は、差動増幅回路53の2つの出力端から各々出力される。差動増幅回路53の2つの出力端は、減算回路54の各入力端に各々接続されている。
減算回路54は、例えば、電流帰還形オペアンプを用いた差動増幅回路を備えており、差動増幅回路53の2つの出力信号を入力してこれらの差分を求める減算処理を行い、当該減算結果を示す信号を電圧増幅して外部へ出力するように構成されている。
【0033】
差動増幅回路53ならびに減算回路54は、それぞれ広帯域の高周波信号を安定した動作で増幅することができるように構成されたもので、差動増幅回路53および減算回路54によって、広帯域増幅回路が構成される。
差動増幅回路53および減算回路54は、前述のようにコイル33とコイル34を差動コイルとして動作させ、基材のスリットを挟んで配置した差動コイルによってノイズ電流を検出し、当該検出したノイズ電流を示す信号を、回路ユニット11もしくはEMIアンテナ1に外部接続された測定装置60において、処理可能なレベルまで増幅するように構成されている。
【0034】
減算回路54の出力端は、例えば、回路ユニット11の出力端子へ接続されている。この回路ユニット11の出力端子は、所定のケーブル等を接続するように構成されている。即ち、回路ユニット11の出力端子は、所定ケーブルを用いて、例えば、スペクトラムアナライザ等の測定装置と接続するように構成されている。
また、回路ユニット11は、電源装置等と接続して電源電力の供給を受ける接続ケーブルまたは接続端子等(図示省略)が設けられている。
EMIアンテナ1は、例えば、検出コイル12あるいは検出コイル12aと、回路ユニット11とを、所定の筐体等に収納固定することによって一体形成して構成してもよい。
【0035】
次に動作について説明する。
以下の説明で例示する検出コイル12は、例えば、基材30の外径が約6.3[mm]、内径(中心孔径)が約2.8[mm]、厚みが約3.5[mm]、スリット幅が約0.7[mm]の大きさに形成されたものである。また、この検出コイル12のコイル33,34は、径が0.16[mm]の銅線を用いて、各々25ターン巻回したものである。
なお、後の説明で例示する検出コイル12aも、スリットを除き、同一あるいは相当する部分は、上記の検出コイル12と同様に構成されている。
【0036】
(検出コイルに関する実験)
例えば、導電体の一端に高周波信号等を出力するジェネレータ等を接続し、この導電体の他端に50[Ω]の第1ダンプ抵抗の一端を接続する。なお、第1ダンプ抵抗の他端は接地させている。また、被験対象の例えば検出コイル12のコイル33両端にスペクトラムアナライザ等の測定装置を接続し、コイル34の両端に50[Ω]の第2ダンプ抵抗を接続し、このような接続状態で検出コイル12等の感度特性を測定した。
【0037】
図7は、検出コイルの感度特性に関する実験結果を示す説明図である。ここで、周波数特性を評価する検出コイル12をコイルAとする。また、スリット32を設けていない評価対象をコイルBとする。コイルBは、概ねコイルAと同様に構成されたもので、スリット32の有無のみがコイルAと異なる。
100[kHz]におけるインダクタンス(L値)は、コイルAが14[μH]、コイルBが21[μH]となり、リング状基材にスリットのないコイルBがコイルAを上回っている。
【0038】
図7の実験結果は、コイルAまたはコイルBを、上記のように、測定装置や各ダンプ抵抗と接続し、ジェネレータ等から各周波数の信号を測定対象へ出力したとき、測定装置で測定された各電圧を示している。
この実験結果は、1[MHz]以下の周波数において、コイルAは、コイルBと比較して約5[dB]感度が高くなっている。
このような周波数帯域において磁界成分を検出する場合、理論的には大きなL値を有するコイルが有利であるが、L値による作用効果以上に、基材に設けたスリットが磁界検出感度を向上させることが分かる。
【0039】
(EMIアンテナに関する実験)
図5は、図1のEMIアンテナを用いてノイズ電流を検出するときの概略態様を示す説明図である。この図は、回路ユニット11に例えば検出コイル12を設置してEMIアンテナ1とし、基板20に設けられている測定対象21にEMIアンテナ1を近付けて(載置して)、測定対象21に流れるノイズ電流を測定する状態を示している。
略長形状の回路ユニット11の先端には、当該略長形状の長手方向に対して、リング状の径方向が直交するようにコイル12が設置固定されている。
【0040】
回路ユニット11には、電源電力を供給する電源装置61が接続されている。
また、回路ユニット11には、当該回路ユニット11の出力信号を所定の様式で画面表示し、また、例えば、回路ユニット11の出力信号を所定のデータ形式に変換して外部へ出力する機能などを備えた、前述のスペクトラムアナライザ等の測定装置60が接続されている。
測定対象21には、高周波信号もしくはノイズ電流を発生するジェネレータ62が接続されている。
【0041】
なお、図5のダンプ抵抗51,52は、前述の図4に示したように、コイル33,34に対してそれぞれ並列接続され、また、差動増幅回路53の各入力端に接続されている。
また、測定対象21は、例えば、高周波信号等の電流が流れる導電体などであり、図5に示したものは、測定結果の評価を明確なものとするため、直線状に形成され、均一な太さ、厚さ等を有している。
【0042】
図6は、図5の測定状態における検出コイル12または検出コイル12aの向きを示す説明図である。図6(a)は、検出コイル12を回路ユニット11へ設置して測定を行う場合の状態を示し、図6(b)は、検出コイル12aを回路ユニット11へ設置して測定を行う場合の状態を示している。
図6(a),(b)は、それぞれの最上段に基板20、測定対象21および検出コイル12(または検出コイル12a)を側方視したものを示し、その下側には、基板20、測定対象21、検出コイル12(または検出コイル12a)を上方視し、測定対象21に対する検出コイル12(または検出コイル12a)の向きを様々に変化させたものを示している。
【0043】
ここでは、前述のように検出コイル12をコイルAとする。また、検出コイル12aをコイルCとする。また、回路ユニット11にコイルAを接続したEMIアンテナ1をアンテナAとし、回路ユニット11にコイルCを接続したEMIアンテナ1をアンテナCとして説明する。
【0044】
図8は、アンテナAの感度特性に関する実験結果を示す説明図である。また、図9は、アンテナCの感度特性に関する実験結果を示す説明図である。
図8の実験結果は、コイルAを、図5に示したように回路ユニット11に設置し、また、これにダンプ抵抗52,53を接続してアンテナAを構成させ、このアンテナAと測定装置60および電源装置61を接続し、測定対象21にジェネレータ62を接続した状態において、ジェネレータ62から各周波数の信号を測定対象21へ出力し、このとき測定装置60で測定された各電圧を示している。
なお、上記の測定は、図6(a)に示したように、直線状の測定対象21の中心軸上にコイルAのリング中心を載置し、この中心点を回転中心として当該コイルAを回転させ、各回転角度(スリット32と測定対象21との間に生じる挟み角度)を有する状態で行っている。
【0045】
図9の実験結果は、コイルCを、図5に示したように回路ユニット11に設置し、また、これにダンプ抵抗52,53を接続してアンテナCを構成させ、上記のアンテナAと同様にして測定された各電圧を示している。
なお、上記の測定は、図6(b)に示したように、直線状の測定対象21の中心軸上にコイルBの円状中心点を載置し、この中心点を原点としてコイルBを回転させ、各回転角度(スリット32aの中心位置と測定対象21との間に生じる挟み角度)を有する状態で行っている。
【0046】
図8および図9に示した結果から、スリット32またはスリット32aの範囲内に測定対象21が包含されている状態であれば、ノイズ電流の感度特性は維持されることが分かる。
アンテナAは、上記の回転角度(スリット32が測定対象21からずれる大きさ)が感度特性に影響を与えているが、図8に示した周波数帯域内の感度特性は安定していることが分かる。
アンテナCは、回転なしの状態に比べて、左右45°回転させた状態でも大幅な感度特性の劣化が見られない。また、アンテナAと比較すると低周波帯の感度が良好になっている。これらのことから、測定対象21に対する位置ずれに強く(位置ずれによる影響が抑制され)、低周波帯において高感度な測定が必要な場合には、リング状基材にカット部分(スリット)を設けることが有効であると分かる。換言すると、リング状基材に適当なスリットを設けることにより、測定に関する自由度を高めることが可能になる。
【0047】
上記の対照実験として、例えば差動型磁界プローブ(従来品A)およびシールデッドループアンテナ(従来品B)の評価試験を行った。
図10は、従来の差動型磁界プローブ(従来品A)の概略構成を示す説明図である。
図11は、従来の差動型磁界プローブ(従来品A)の評価結果を示す説明図である。ここで例示する従来品Aは、低周波帯用ユニットと高周波帯用ユニットがあり、測定帯域に応じて使い分けるように構成されている。図11(a)は、低周波帯用ユニットの評価結果を示し、図11(b)は、高周波帯用ユニットの評価結果を示している。
【0048】
ここで例示する従来品Aは、図10に示す長方形型の差動型検出コイル101を有し、良好な感度特性を得るため、低周波帯用ユニットは、プローブ本体100の先端部分に備える差動型検出コイル101を複数巻きとして構成し、高周波帯用ユニットは、プローブ本体100の先端部分に備える差動型検出コイル101を単一巻きとして構成している。
従来品Aは、2つのユニットを用意しなければならず、アンテナAならびにアンテナCに比べて、この帯域内の信号(ノイズ電流)を全て検出するためには多くの手間が必要になる。また、ユニットを取り換えて検出することが必要であるため、ノイズ電流の存在を一度に察知することが難しい(ノイズ発生源の特定が困難になる)ことが分かる。また、構造的に、測定対象に対する位置ずれにより感度が変化することが避けられない。
【0049】
図12は、従来のシールデッドループアンテナ(従来品B)の評価結果を示す説明図である。ここで例示する従来品Bは、セミリジッドケーブルを円形に1ターン巻いてループを構成させ、このループの先端を測定対象へ接触させるように構成されている。
従来品Bは、測定分解能がループ径に依存する。この分解能を高めるためにはループ径を小さく構成することが必要になるが、このように構成すると感度特性が劣化するという特徴がある。
【0050】
図13は、本発明によるEMIアンテナ(開発品)の特徴と従来品A,Bの特徴の比較結果を示す説明図である。
従来品Aは、低周波帯用ユニットは高周波帯の感度が低下し、高周波帯用ユニットは低周波帯の感度が低下する。そのため、いずれのユニットも評価を行った周波数帯全体における感度特性の偏差は、本発明によるアンテナAならびにアンテナC(開発品)に比べて大きくなる。
従来品Bは、前述のように測定分解能と感度特性を共に良好にすることが困難であり、図13に示したように、本発明による開発品は、測定帯域幅の広さ、感度特性の帯域内偏差について、従来品Bよりも良好なものとなる。
【0051】
以上のように本実施例によれば、例えば、基材30にフェライト材を使用して各コイル33,34の巻数を最小限に抑えることにより、当該コイルの共振を抑制することができ、ノイズ電流検出に必要な広帯域の感度特性などを得ることが可能になる。
例えば、リング状の基材30にスリット32を設けることにより、基材30周辺の磁界を当該基材30へ引き寄せることが可能になる。スリットを設けていない基材を用いた検出コイルと比較した場合、低周波帯の感度特性が向上することが分かる。
また、例えば、基材30に設けるスリット32の幅を適当な大きさに設定することにより、測定分解能(検出空間分解能)、感度特性を向上させることができ、また、測定対象21に対する検出コイル12の位置ずれによって生じる測定分解能(検出空間分解能)、感度特性等の変化を抑制することができる。
【0052】
また、各コイル33,34に並列接続したダンプ抵抗51,52によって、当該各コイルの共振ピークを抑え、また、差動増幅回路52、減算回路54を構成する電流帰還形オペアンプを用いて信号増幅等を行うようにしたので、広帯域にわたる外来ノイズの影響を抑制して測定対象のノイズ検出を行うことができ、優れたS/N比の広帯域EMIアンテナを提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0053】
1 EMIアンテナ
11 回路ユニット
12,12a 検出コイル
20 基板
21 測定対象
30,30a 基材
31,31a 中心孔
32,32a スリット
33,34 コイル
51,52 ダンプ抵抗
53 差動増幅回路
54 減算回路
60 測定装置
61 電源装置
62 ジェネレータ
100プローブ本体
101差動型検出コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図13