IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メディカルフォトニクス株式会社の特許一覧

特許7111357散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置
<図1>
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図1
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図2
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図3
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図4
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図5
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図6
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図7
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図8A
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図8B
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図9
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図10
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図11
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図12
  • 特許-散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】散乱体計測装置、散乱体計測方法および脂質計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20220726BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A61B5/026 120
G01N21/49 Z
A61B5/026 ZDM
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018568488
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004512
(87)【国際公開番号】W WO2018151022
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2017024692
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515045662
【氏名又は名称】メディカルフォトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100126147
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 成年
(72)【発明者】
【氏名】飯永 一也
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-125144(JP,A)
【文献】特開2007-105331(JP,A)
【文献】特開2016-007503(JP,A)
【文献】特開2015-226754(JP,A)
【文献】特開2006-102171(JP,A)
【文献】特開2016-123689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/026
G01N 21/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外から生体内に向けて、生体の所定の部位に所定の光強度で位相を揃えた光を照射する照射部と、
前記生体から放出される2次元状の光強度分布を検出する光強度検出部と、
前記光強度分布の時間変化に基づいて血流量を算出し、前記血流量に基づいて生体内の散乱体濃度を算出する制御部と、
を有することを特徴とする散乱体計測装置。
【請求項2】
前記位相を揃えた光は、レーザー光であることを特徴とする請求項1に記載の散乱体計測装置。
【請求項3】
前記照射部は、前記位相を揃えた光を拡散するための光学手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の散乱体計測装置。
【請求項4】
前記制御部は、血流量から散乱係数を算出した後、散乱体濃度を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の散乱体計測装置。
【請求項5】
前記散乱体は、毛細血管中の脂質であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の散乱体計測装置。
【請求項6】
前記照射部と前記光強度検出部は、鏡または自己投影装置に備わる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の散乱体計測装置。
【請求項7】
前記照射部と前記光強度検出部は、箱状体の底部に備わる、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の散乱体計測装置。
【請求項8】
生体外から生体内に向けて、生体の所定の部位に所定の光強度で位相を揃えた光を照射する照射工程と、
前記生体から放出される2次元状の光強度分布を検出する光強度検出工程と、
前記光強度分布の時間変化に基づいて血流量を算出する血流量算出工程と、
前記血流量に基づいて生体内の散乱体濃度を算出する散乱体濃度算出工程と、
を有することを特徴とする散乱体計測方法。
【請求項9】
前記位相を揃えた光は、レーザー光であることを特徴とする請求項8に記載の散乱体計測方法。
【請求項10】
前記照射工程では、前記位相を揃えた光を拡散することを特徴とする請求項8または9に記載の散乱体計測方法。
【請求項11】
前記散乱体濃度算出工程は、血流量から散乱係数を算出した後、散乱体濃度を算出することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の散乱体計測方法。
【請求項12】
前記散乱体は、毛細血管中の脂質であることを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の散乱体計測方法。
【請求項13】
生体外から生体内に向けて、生体の所定の部位に所定の光強度で位相を揃えた光を照射する照射部と、前記生体から放出される2次元状の光強度分布を検出する光強度検出部と、前記光強度検出部により検出された光強度分布を送信する通信部とを有するユーザー装置に、通信可能に接続される散乱体計測装置であって、
前記ユーザー装置から送信された前記光強度分布の時間変化に基づいて血流量を算出し、前記血流量に基づいて生体内の散乱体濃度を算出する制御部、を有することを特徴とする散乱体計測装置。
【請求項14】
前記位相を揃えた光は、レーザー光であることを特徴とする請求項13に記載の散乱体計測装置。
【請求項15】
前記制御部は、血流量から散乱係数を算出した後、散乱体濃度を算出することを特徴とする請求項13または14に記載の散乱体計測装置。
【請求項16】
前記散乱体は、毛細血管中の脂質であることを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の散乱体計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱体計測装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食後高脂血症は、動脈硬化のリスクファクターとして注目されている。非空腹時の中性脂肪濃度が高くなると、冠動脈疾患のイベント発症リスクが高くなることが報告されている。
【0003】
食後高脂血症の診断は、食後6~8時間の血中の脂質濃度変化を観測する必要がある。つまり、食後の高脂血状態を計測するためには、被験者を6~8時間拘束し、複数回の採血が必要である。そのため、食後高脂血症の診断は臨床研究の域を出ず、食後高脂血症の診断を臨床現場で実施することは、現実的ではなかった。
【0004】
このような課題を解決する手法が、特許文献1に開示されている。特許文献1の手法によれば、非侵襲脂質計測により、採血を無くすことができる。これにより医療機関のみならず家庭でも血中脂質を計測できるようになる。即時的なデータ取得を可能とすることで、時間的に連続した血中脂質を計測することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/087825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すような非侵襲の脂質計測手法は、動脈、毛細血管、静脈等の血管の区別なく計測を行う。
【0007】
一方で、血液は、「動脈から毛細血管へ」、及び、「毛細血管から静脈へ」の順で流れており、特に脂質は、動脈や毛細血管でも代謝されることが知られている。つまり、それぞれの血管中の血液状態を知ることができれば、代謝をより詳細に検討することができる。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、散乱体情報を検出することを可能とする装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の散乱体計測装置は、生体外から生体内に向けて、生体の所定の部位に所定の光強度で位相を揃えた光を照射する照射部と、生体から放出される光強度分布を検出する光強度検出部と、光強度分布の時間変化に基づいて血流量を算出し、血流量に基づいて生体内の散乱体濃度を算出する制御部とを有する。
【0010】
また、本発明の散乱体計測方法は、生体外から生体内に向けて、生体の所定の部位に所定の光強度で位相を揃えた光を照射する照射工程と、生体から放出される光強度分布を検出する光強度検出工程と、光強度分布の時間変化に基づいて血流量を算出する血流量算出工程と、血流量に基づいて生体内の散乱体濃度を算出する散乱体濃度算出工程とを有する。
【0011】
また、本発明の散乱体計測装置は、生体外から生体内に向けて、生体の所定の部位に所定の光強度で位相を揃えた光を照射する照射部と、生体から放出される光強度分布を検出する光強度検出部と、光強度検出部により検出された光強度分布を送信する通信部とを有するユーザー装置に、通信可能に接続される脂質計測装置であって、ユーザー装置から送信された光強度分布の時間変化に基づいて血流量を算出し、血流量に基づいて生体内の散乱体濃度を算出する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の散乱体計測装置及び方法によれば、散乱体情報を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の散乱体計測装置の構成を示す図である。
図2】血中脂質による光の散乱を示す図である。
図3】実施形態の散乱体計測装置のブロック図である。
図4】実施形態の散乱体計測方法のフローチャートである。
図5】実施形態の散乱体計測システムの構成を示す図である。
図6】実施形態の散乱体計測装置のブロック図である。
図7】光の干渉による濃淡を示す図である。
図8A】血中のTGを変化させた場合の計測結果を示す図である。
図8B】流量と脂肪負荷後のTGを直接比較したものである。
図9】粒子径と流量との関係を示す図である。
図10】光の光路差を示す図である。
図11】光の干渉を示す図である。
図12】実施形態の散乱体計測装置の他の構成を示す図である。
図13】実施形態の散乱体計測装置の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態である散乱体計測装置及びその作動方法について、図を参照して詳細に説明をする。また、実施形態では、散乱体の例として、血中脂質を検出する場合について主に説明するが、これに限られず、血中の散乱体一般についても適用可能である。
【0015】
図1は、実施形態の散乱体計測装置の構成を示す図である。
【0016】
図1に示すように、実施形態の散乱体計測装置100は、生体の外から生体内に向けて生体の所定の部位に位相を揃えた光を照射する照射部101と、生体から放出される光を受光して、光干渉による、生体内に含まれる散乱体からの、2次元状の光強度分布を検出する光強度検出部102と、光強度検出部102により検出された2次元状の光強度分布の時間変化に基づき血流量を算出し、血流量に基づき散乱体濃度を算出する制御部103とを有する。
【0017】
図1に示すように、照射部101は、生体の所定の部位の生体外から生体内に向けて、所定の照射位置に位相を揃えた光を照射するための光源を有する。実施形態では、位相を揃えた光はレーザー光である。照射部101は、広角レンズを有する。照射部101は、広角レンズを用い、レーザー光を直径20cm~30cmに拡散する。なお、拡散させる直径はこれに限られない。また、本実施形態ではレーザー光を広角レンズにより拡散させているが、これに限られず、レーザー光を走査して生体の所定の部位の領域に照射してもよい。照射部101は、近赤外光を用い、皮膚表面を全体的に照射することで、毛細血管中の血液の脂質情報を検出するものである。
【0018】
なお、実施形態では位相を揃えた光として、レーザー光を用いるが、光源は、光の位相が揃っていればよい。例えば、位相を揃えた光源として、LEDなどにピンホールやレンズ、トンネル状の筒を使用しても良い。
【0019】
実施形態の照射部101は、照射する光の波長を調整することができる。照射部101は、波長範囲を血漿の無機物によって光が吸収される波長範囲以外に調整できる。照射部101は、血液の細胞成分によって光が吸収される波長範囲以外に調整できる。ここで、血液の細胞成分とは、血中の赤血球、白血球及び血小板である。血漿の無機物とは、血中の水及び電解質である。
【0020】
照射部101が照射する光の波長範囲は、血漿の無機物により光を吸収する波長範囲を考慮して約1400nm以下、及び、約1500nm~約1860nmとするのが好ましい。さらに、照射部101が照射する光の波長範囲は、血液の細胞成分によって光が吸収される波長範囲を考慮して約580nm~約1400nm、及び、約1500nm~約1860nmとするのがより好ましい。
【0021】
照射部101に用いられる波長範囲を上記範囲とすることにより、後述する光強度検出部102により検出される光において、血漿の無機物による光の吸収の影響、及び、血液の細胞成分により光の吸収の影響を抑制する。これにより、物質を特定するほどの吸収は存在せず、吸収による光エネルギー損失は無視できるほど小さくなる。そのため、血中の光は血中の脂質による散乱によって遠くまで伝搬し、体外へ放出される。
【0022】
実施形態の照射部101は、光の連続的な照射や光のパルス状の照射等の光を照射する時間長さを任意に調整することができる。照射部101は、照射する光の強度または光の位相を任意に変調することができる。
【0023】
照射部101は、波長が固定された光源を用いてもよい。照射部101は、波長が異なる複数の光源あるいは複数の波長の光を混合したものであってもよい。
【0024】
光強度検出部102は、生体から生体外に放出される光を受光して、その2次元状の光強度分布を検出する。
【0025】
図2は、血中脂質による光の散乱を示す図である。図2に示すように、照射部101から、生体D表面の照射位置に照射された光(図中のB)は、リポ蛋白等の脂質が存在する深さに達したのち、生体D内の血液中の脂質(図中のA)によって反射する。さらに、照射された光は血中の脂質による光の散乱を経て、後方散乱光(図中のC)が生体から放出される。光強度検出部102は後方散乱光Cの光強度を検出する。
【0026】
なお、図2では、照射部101の先端から生体Dの表面までの距離は30cmである。しかしながら、距離はこれに限られるものではない。
【0027】
計測対象であるリポ蛋白は、アポ蛋白等に覆われた球状構造をしている。リポ蛋白は血中において固体のような状態で存在する。リポ蛋白は、光を反射する性質を有する。特に、粒子径や比重の大きいカイロミクロン(CM)やVLDL等は中性脂肪(TG)を多く含み、光をより散乱させ易い特性を有する。よって、光強度検出部102により検出される光強度には、リポ蛋白による光の散乱の影響が含まれる。
【0028】
光強度検出部102は、CCDやCMOS等の受光素子であってもよい。また、光強度検出部102は、受光素子をアレイ状に配置したものでもよく、同心円状に配置してもよい。受光素子数を少なくする場合には、受光素子を照射位置Eを中心に十字状、V字状に配置してもよい。
【0029】
照射部101に用いられるレーザー光は、直進性が高い性質を有していることから、生体などに光を照射した場合、光路長の違いから干渉を生じて光強度分布が生じる。これにより、光強度検出部102が検出した画像では光の濃淡がまだら模様となって観測される。
【0030】
例えば、図10のように照射部101からは同じ周波数の光が出てくる(図11のE)が、光強度検出部102の受光面では、血液中の脂質までの光路および散乱体から受光面までの距離の違いから、光は図11のFのように干渉し、光強度検出部102が取得した画像には、図7に示すような濃淡が表れる。この光の濃淡は、被検体の時間変化に伴い、受光強度濃淡も変化する。光強度検出部102は、この受光強度の濃淡を2次元で捉える。
【0031】
なお、本手法により、光干渉を観察できるのは、皮下1mm程度までとされており、得られる血液情報は、毛細血管の情報となる。また、計測部位によっては浅い静脈情報を含む場合も考えられる。二次元画像解析から、取り除いてもよく、また選別して計測してもよい。
【0032】
次に、散乱体計測装置100の制御系の構成について説明する。図3は、実施形態の散乱体計測装置100のブロック図である。
【0033】
システムバス109を介して、CPU(Central Processing Unit)104、ROM(Read Only Memory)105、RAM(Random Access Memory)106、記憶部107、外部I/F(Interface)108、照射部101、及び、光強度検出部102が接続される。CPU104とROM105とRAM106とで制御部(コントローラー)103を構成する。
【0034】
ROM105は、CPU104により実行されるプログラムや閾値を予め記憶する。
【0035】
RAM106は、CPU104が実行するプログラムを展開するエリアと、プログラムによるデータ処理の作業領域となるワークエリアなどの様々なメモリエリア等を有する。
【0036】
記憶部107は、予め用意された、血流量と生体内の散乱体濃度との関係を示すデータを記憶する。記憶部107は、HDD(Hard Disk Drive)や、フラッシュメモリや、SSD(Solid State Drive)等の、不揮発性に記憶する内部メモリーでよい。
【0037】
外部I/F108は、例えばクライアント端末(PC)などの外部装置と通信するためのインターフェースである。外部I/F108は、外部装置とデータ通信を行うインターフェースであれば良く、たとえば、外部装置にローカルに接続する機器(USBメモリ等)であっても良いし、ネットワークを介して通信するためのネットワークインターフェイスであっても良い。
【0038】
制御部103は、光強度検出部102により検出された2次元状の光強度分布の時間変化に基づき、血流量を算出する。
【0039】
光強度検出部102にCCDを用いて計測する場合、各ピクセル毎にデータを取得することになる。レーザースペックルは、散乱体が動かなければ、干渉により生じるまだら模様(スペックルパターン)は動かない。言い換えると、散乱体に動きがあると、スペックルパターンが動くことになる。このスペックルパターンは、散乱体の量と動きの早さの積で表される。
【0040】
例えば、人体の皮膚を計測した場合、短時間で動く散乱体は血液のみなので、血流を計測していることとなる。ただし、計測部を動かすと、スペックルパターンにも影響を与えるため、計測する際は、被検体を静置する必要がある。
【0041】
制御部103は、光強度検出部102が取得した画像を2値化し、画像内の各ピクセルの値の10秒間の光強度および標準偏差から血流量を算出する。
【0042】
制御部104は、算出された血流量に基づいて、血中の散乱体濃度を算出する。
【0043】
図8は、被験者に脂肪負荷し、血中のTGを変化させた場合の計測結果を示す図である。図8Aは、血流量の時間変化と脂肪負荷後のTGの時間変化を示したものである。図8Aに示すように、TGの増減に伴い、動きが逆相関していることがわかる。図8Bは、血流量と脂肪負荷後のTGを直接比較したものである。図7Bに示すように、相関係数0.7739と、良好な相関があることがわかる。
【0044】
また、脂質代謝の計測について検証するため、脂肪負荷後の採血した血液を、血清分離後、DLS(Dynamic light scattering)にて、血清の粒子径を計測した。そして、食後の脂質粒子のサイズに注目するため、空腹時の粒子径を差し引くことで、脂質による粒子変動とした。図9に前述の結果と、流量を記載した。
【0045】
その結果、図中aの区間のように、脂質の大型粒子出現後流量は減少し、大型粒子消失とともに流量は空腹時へとほぼ回復した。
【0046】
食後に出現する大型脂質粒子であるCM(カイロミクロン:粒子径80~1000nm)は、毛細血管表面に存在するLPLに係留され、CM中のTGを組織内に移行させると言われている。図8で計測されている脂質粒子は、その粒子径からCMである判断できる。つまり、流量の低下はCMが毛細血管中で係留されたことによる血流の阻害があったためと推察される。そのためCMが代謝されたのちは、血流が回復したと考えられる。また、300min近傍に注目すると血流回復とCM消失にタイムラグがあるようにみえるが、CMの粒子径は80nm以上であり、300minでは、CM血中に存在していることがわかる。以上のことから、毛細血管中の脂質を計測することが可能である。また、静脈血の結果と比較することで、より詳細に脂質代謝を観測することができる。
【0047】
また、LPLの活性はインスリン濃度と関係があり、CMの代謝速度等から、インスリン抵抗性などを調べることができる。
【0048】
また、CMの代謝時間はCM-R(カイロミクロンレムナント)などの異常脂質の存在を示す指標として使用することも可能である。
【0049】
脂質増加に伴う血流の阻害は、計測原理からも確認できる。まず、血流量は次の関係式で表される。
血流量=体積(濃度)×速度
【0050】
散乱体が増加した場合、前式より血流量は増加することになる。しかしながら、計測結果から脂質濃度増加に伴い、血流量は低下していることからも、相対的に流速が低下していることがわかる。
【0051】
また、制御部103は、血流量から散乱係数を算出した後、脂質濃度(散乱体濃度)を算出してもよい。また、臨床現場において、濃度と濁度とは同義で使われることがあり、本発明における濃度には濁度が含まれる。よって、散乱体濃度算出部104は、その算出結果として、濃度のみならず単位量当たりの粒子数やホルマジン濁度あるいは散乱係数とすることができる。
【0052】
次に、実施形態の散乱体計測方法について説明する。図4は、実施形態の散乱体計測方法のフローチャートである。
【0053】
照射工程(S101)では、照射部101が生体の照射位置に対して位相を揃えた光(例えば、レーザー光)を照射する。
【0054】
光強度検出工程(S102)では、光強度検出部102が、生体から放出される光を受光して、光干渉による生体内に含まれる散乱体からの2次元状の光強度分布を検出する。光強度検出工程で検出された光強度分布は、血流量算出工程へと送られる。
【0055】
血流量算出工程(S103)では、制御部103が、光強度分布の時間変化に基づき、血流量を算出する。算出した血流量は、散乱体濃度算出工程へと送られる。
【0056】
散乱体濃度算出工程(S104)では、制御部103が、血流量に基づいて、血中の散乱体濃度を算出する。散乱体濃度算出工程では、血流量から散乱係数を算出した後、脂質濃度(散乱体濃度)を算出してもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の散乱体計測装置及び方法によれば、生体から放出される光強度分布の時間変化を取得することで、散乱体濃度の算出が可能となる。
【0058】
次に、本発明の他の実施形態の散乱体計測装置について説明をする。なお、本発明の他の実施形態の散乱体計測装置の構成は、上記実施形態の散乱体計測装置の構成と共通する部分もあるため、相違する部分を主に説明する。
【0059】
上記実施形態では、照射部101と光強度検出部102と制御部とを一体として構成した例を示したが、これに限られず、照射部101と光強度検出部102をユーザー装置として構成し、制御部をユーザー装置に接続したサーバー装置に設けたシステムとしてもよい。
【0060】
図5は、実施形態の散乱体計測システムの構成を示すブロック図である。
【0061】
システムは、散乱体計測装置200と、アクセスポイント300と、ユーザー装置400とを有する。
【0062】
散乱体計測装置200は、ユーザー装置400から送信された光強度に基づいて所定の処理を行い、散乱体濃度を算出するための装置であり、具体的には、パーソナルコンピュータや、装置の台数や送受信するデータ量によってはサーバー装置が適宜用いられる。
【0063】
ユーザー装置400は、ユーザーが所持する装置であり、単独の装置である場合もあり、スマートフォン、携帯電話、腕時計等に搭載される場合もある。また、照射部401、光強度検出部402、通信部404として、スマートフォンや携帯電話に備わるカメラや照明、通信機能等、を使用してもよい。
【0064】
ユーザー装置400は、位相を揃えた光(例えば、レーザー光)を照射する照射部401と光強度検出部402と通信部404とを有する。通信部404は、光強度検出部401で検出された光強度を送信する。照射部401と光強度検出部402の機能・動作については上述した。
【0065】
散乱体計測装置200は、通信部204と制御部203とを有する。通信部204は、通信部404から送信された光強度をアクセスポイント300を介して受信し、制御部203へ送信する。
【0066】
次に、散乱体計測装置200の制御系の構成について説明する。図6は実施形態の散乱体計測装置200のブロック図である。システムバス209を介して、CPU(Central Processing Unit)204、ROM(Read Only Memory)205、RAM(Random Access
Memory)206、記憶部207、及び、通信部(外部I/F(Interface))208が接続される。CPU204とROM205とRAM206とで制御部(コントローラー)203を構成する。
【0067】
ROM205は、CPU204により実行されるプログラムや閾値を予め記憶する。
【0068】
RAM206は、CPU204が実行するプログラムを展開するエリアと、プログラムによるデータ処理の作業領域となるワークエリアなどの様々なメモリエリア等を有する。
【0069】
記憶部207は、予め用意された、静的パラメータ及び動的パラメータの適切な数値範囲のデータを記憶する。記憶部207は、HDD(Hard Disk Drive)や、フラッシュメモリや、SSD(Solid State Drive)等の、不揮発性に記憶する内部メモリーでよい。
【0070】
通信部(外部I/F)208は、例えばクライアント端末(PC)などの外部装置と通信するためのインターフェースである。外部I/F208は、外部装置とデータ通信を行うインターフェースであれば良く、たとえば、外部装置にローカルに接続する機器(USBメモリ等)であっても良いし、ネットワークを介して通信するためのネットワークインターフェイスであっても良い。制御部203の機能・動作については上述した。
【0071】
なお、実施形態では、ユーザー装置400から散乱体計測装置200へ、アクセスポイント300を介して光強度を送信したが、これに限られず、ユーザー装置400と散乱体計測装置200とが、アクセスポイントを介さずに直接接続し、有線通信や無線通信等の手段により光強度を送信してもよい。
【0072】
図12のように、鏡に照射部と光強度検出部を設け、鏡の後ろなどから被験者に対し、照射部(図中の光照射部)からレーザー光を照射し、鏡の後ろなどに光強度検出部(図中の受光部)を設置することで、洗顔時に計測するなど日常生活において計測の負担を軽減させて計測するなどしてもよい。さらには、自身の投影ができればよく、手のひらサイズの鏡やスマートフォンやタブレット(総称として自己投影装置)に組み込んでもよい。
【0073】
図13のように、凹断面の箱状体の底部に、照射部(図中の光照射部)と光強度検出部(図中の受光部)を設置し、箱状体の上に手をかざすなどして計測しても良い。
【符号の説明】
【0074】
100 散乱体計測装置
101 照射部
102 光強度検出部
103 血流量算出部
104 散乱体濃度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13