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特許7111364複層防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】複層防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20220726BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220726BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20220726BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220726BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220726BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20220726BHJP
   C09D 133/10 20060101ALI20220726BHJP
   B05D 7/24 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
C09D5/00 D
C09D5/16
C09D7/61
C09D7/63
C09D133/04
C09D133/10
B05D7/24 302P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019096218
(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公開番号】P2020189447
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-01-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-24
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227342
【氏名又は名称】日東化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】安井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松木 崇
(72)【発明者】
【氏名】和久 英典
(72)【発明者】
【氏名】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 基道
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】井上 茂夫
【審判官】大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003137(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221642(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/022431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D5/00,B05D7/24,B32B27/18,C09D5/00,C09D5/16,C09D133/04,C09D133/10,C09D7/61,C09D7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層塗膜と、その上に形成された上層塗膜を有する複層防汚塗膜であって、
前記上層塗膜は、共重合体Aを含み、
前記下層塗膜は、共重合体Bを含み、
前記上層塗膜及び下層塗膜は、それぞれ、防汚薬剤を含み、
前記共重合体Aは、単量体(a)と単量体(c)を含み、且つ単量体(b)を含んでもよい第1単量体混合物の共重合体であり、
前記共重合体Bは、前記単量体(a)と単量体(b)の少なくとも一方を含む第2単量体混合物の共重合体であり、
前記単量体(a)~(c)は、それぞれ、一般式(1)~(3)で表され、
前記共重合体Aは、第1単量体混合物を100質量%とすると、前記単量体(a)の含有量が10~45質量%であり、前記単量体(b)の含有量が0~15質量%であり、前記単量体(c)の含有量が20~50質量%であり、前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計含有量が10~45質量%であり、
前記共重合体Bは、前記共重合体A以外の共重合体であり、且つ第2単量体混合物を100質量%とすると、前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計含有量が46~65質量%である、複層防汚塗膜(但し、第1単量体混合物がメタクリル酸を含む場合を除く。)
【化1】
(式中、R~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基である。)
【化2】
(式中、R~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基である。)
【化3】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、アルキル基またはアリール基であり、nは1~25である。)
【請求項2】
請求項1に記載の複層防汚塗膜を表面に有する塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)や漁網類、漁網付属具等の漁業具や発電所導水管等の水中構造物に付着することにより、それら船舶等の機能が害される、外観が損なわれる等の問題がある。
【0003】
このような問題を防ぐために、船舶等に防汚塗料組成物を塗布して防汚塗膜を形成し、防汚塗膜から防汚薬剤を徐放させることによって、長期間に渡って防汚性能を発揮させる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-17203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような、加水分解による塗膜更新性塗膜は、一般的に浸水初期の塗膜更新性が悪いと言われている。特に艤装期間は、船舶が静置した状態であるため、塗膜更新性は非常に劣る。そのため、浸水初期において、スライム等の付着が容易に起こり、その後フジツボやセルプラ等の付着が続いて引き起こされ、燃費の低下、外観が損なわれる等の問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、耐衝撃性に優れ、かつ浸水初期の防汚性及び長期防汚性の両方に優れた複層防汚塗膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、下層塗膜と、その上に形成された上層塗膜を有する複層防汚塗膜であって、前記上層塗膜は、共重合体Aを含み、前記下層塗膜は、共重合体Bを含み、前記上層塗膜及び下層塗膜は、それぞれ、防汚薬剤を含み、前記共重合体Aは、単量体(a)と単量体(c)を含み、且つ単量体(b)を含んでもよい第1単量体混合物の共重合体であり、前記共重合体Bは、前記単量体(a)と単量体(b)の少なくとも一方を含む第2単量体混合物の共重合体であり、前記単量体(a)~(c)は、それぞれ、一般式(1)~(3)で表され、前記共重合体Aは、第1単量体混合物を100質量%とすると、前記単量体(a)の含有量が10~45質量%であり、前記単量体(b)の含有量が0~15質量%であり、前記単量体(c)の含有量が20~50質量%であり、前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計含有量が10~45質量%であり、前記共重合体Bは、前記共重合体A以外の共重合体であり、且つ第2単量体混合物を100質量%とすると、前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計含有量が46~65質量%である、複層防汚塗膜が提供される。
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記構成の複層防汚塗膜が上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に到った。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0010】
1.複層防汚塗膜
本発明の一実施形態の複層防汚塗膜は、下層塗膜と、その上に形成された上層塗膜を有する。下層塗膜と上層塗膜は、どちらも加水分解型防汚塗膜である。
【0011】
1-1.上層塗膜
上層塗膜は、共重合体Aと、防汚薬剤を含む。上層塗膜は、上層塗膜に含まれる成分を溶媒に溶解又は分散させることによって得られる防汚塗料組成物を用いて形成することができる。
【0012】
<共重合体A>
共重合体Aは、第1単量体混合物の共重合体である。第1単量体混合物は、単量体(a)と単量体(c)を含み、且つ単量体(b)を含んでもよく、単量体(a)~(c)以外の単量体を含んでもよい。
【0013】
共重合体Aは、第1単量体混合物を100質量%とすると、前記単量体(a)の含有量が10~45質量%であり、前記単量体(b)の含有量が0~15質量%であり、前記単量体(c)の含有量が20~50質量%であり、前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計含有量が10~45質量%である。
【0014】
単量体(a)の含有量は、具体的には例えば、10、15、20、25、30、35、40、45質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。単量体(b)の含有量は、具体的には例えば、0、5、10、15質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。単量体(c)の含有量は、具体的には例えば、20、25、30、35、40、45、50質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。単量体(a)と単量体(b)の合計含有量は、具体的には例えば、10、15、20、25、30、35、40、45質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0015】
単量体(a)は、一般式(1)で表されるメタクリル酸トリオルガノシリル単量体である。
【化1】
(式中、R~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基である。)
【0016】
~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す。炭素数3~8の分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、1-メチルペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、テキシル基、シクロヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルブチル基、2-エチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロヘキシルメチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。R~Rとして好ましいものは、イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、及び2-エチルヘキシル基である。特に好ましいものは、イソプロピル基である。
【0017】
単量体(a)としては、例えば、メタクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸トリイソブチルシリル、メタクリル酸トリs-ブチルシリル、メタクリル酸トリイソペンチルシリル、メタクリル酸トリフェニルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルフェニルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルイソブチルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルs-ブチルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルイソペンチルシリル、メタクリル酸イソプロピルジイソブチルシリル、メタクリル酸イソプロピルジs-ブチルシリル、メタクリル酸t-ブチルジイソプチルシリル、メタクリル酸t-ブチルジイソペンチルシリル、メタクリル酸t-ブチルジフェニルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルテキシルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルシクロヘキシルシリル、メタクリル酸トリシクロヘキシルシリル、メタクリル酸トリ1,1-ジメチルペンチルシリル、メタクリル酸トリ2,2-ジメチルプロピルシリル、メタクリル酸トリシクロヘキシルメチルシリル、メタクリル酸ジイソプロピルシクロヘキシルメチルシリル、メタクリル酸トリ2-エチルヘキシルシリル、メタクリル酸トリ2-プロピルペンチルシリル等が挙げられる。好ましくは、メタクリル酸トリイソプロピルシリル、メタクリル酸トリs-ブチルシリル、メタクリル酸t-ブチルジフェニルシリル、メタクリル酸トリ2-エチルヘキシルシリル等が挙げられる。これらの単量体(a)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
単量体(b)は、一般式(2)で表されるアクリル酸トリオルガノシリル単量体である。
【化2】
(式中、R~Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3~8の分岐アルキル基又はフェニル基である。)
【0019】
一般式(2)のR~Rの説明は、一般式(1)のR~Rの説明と同じである。
【0020】
単量体(b)としては、単量体(a)として例示した化合物の名称の「メタクリル酸」を「アクリル酸」としたものが挙げられる。
【0021】
単量体(c)は、一般式(3)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体である。単量体(c)は、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有するとともに、アルコキシまたはアリーロキシポリエチレングリコール基を有するものである。
【化3】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、アルキル基またはアリール基であり、nは1~25である。)
【0022】
ポリエチレングリコールの重合度(n)は1~25であり、好ましくは1~5であり、具体的には例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどの炭素数が12以下の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロヘキシルや置換シクロヘキシルなどの環状アルキル基等が挙げられる。
【0024】
アリール基としては、アリール基や置換アリールなどが挙げられる。置換アリール基としては、ハロゲン、炭素数18程度までのアルキル基、アシル基、ニトロ基またはアミノ基などで置換されたアリ―ル基などがある。
【0025】
単量体(c)としては、分子内に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものとして、メトキシエチル(メタ)アクリレ―ト、エトキシエチル(メタ)アクリレ―ト、プロピオキシエチル(メタ)アクリレ―ト、ブトキシエチル(メタ)アクリレ―ト、ヘキサオキシエチル(メタ)アクリレ―ト、メトキシジエチレングリコ―ル(メタ)アクリレ―ト、メトキシトリエチレングリコ―ル(メタ)アクリレ―ト、エトキシジエチレングリコ―ル(メタ)アクリレ―ト、エトキシトリエチレングリコ―ル(メタ)アクリレ―トなどが挙げられる。
【0026】
単量体(a)~(c)以外の単量体としては、単量体(a)~(c)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体が挙げられる。このような単量体としては、一般式(3)以外の(メタ)アクリル酸エステル、ビニル化合物、芳香族化合物、二塩基酸のジアルキルエステル化合物等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル、又はメタアクリル酸エステルを意味する。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、及び(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。
【0028】
ビニル化合物としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルブチレート、ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン等の官能基を有するビニル化合物が挙げられる。
【0029】
芳香族化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0030】
二塩基酸のジアルキルエステル化合物としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル等が挙げられる。
【0031】
<共重合体Aの合成>
共重合体Aは、第1単量体混合物を共重合することにより得ることができる。前記共重合は、例えば、重合開始剤の存在下で行われる。
【0032】
共重合体Aの重量平均分子量は、5000~300000であることが望ましい。分子量が5000未満であれば、防汚塗料の塗膜が脆弱となり、剥離やクラックを起こし易く、また、300000を超えると、共重合体溶液の粘度が上昇し、取扱いが困難となるからである。
【0033】
前記重合反応において使用される重合開始剤としては、例えば、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2′-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、ジメチル-2,2′-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルパーオクトエート、tert-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエ-ト、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート等の過酸化物が挙げられる。これら重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。重合開始剤としては、特に、AIBN、tert-ブチルパーオクトエート、及び、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエ-トが好ましい。
重合開始剤の使用量を適宜設定することにより、共重合体Aの分子量を調整することができる。
【0034】
重合方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。この中でも特に、簡便に、且つ、精度良く、共重合体Aを得ることができる点で、溶液重合が好ましい。
【0035】
前記重合反応においては、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。この中でも特に、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレンがより好ましい。これら溶媒については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常70~140℃であり、好ましくは80~130℃である。重合反応における反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよく、通常4~8時間程度である。
重合反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0037】
<防汚薬剤>
防汚薬剤としては、例えば無機薬剤及び有機薬剤が挙げられる。
【0038】
無機薬剤としては、例えば、亜酸化銅、チオシアン酸銅(一般名:ロダン銅)、銅粉等が挙げられる。この中でも特に、亜酸化銅とロダン銅が好ましく、亜酸化銅はグリセリン、ショ糖、ステアリン酸、ラウリン酸、リシチン、鉱物油などで表面処理されているものが、貯蔵時の長期安定性の点でより好ましい。
【0039】
有機薬剤としては、例えば、2-メルカプトピリジン-N-オキシド銅(一般名:カッパーピリチオン)、2-メルカプトピリジン-N-オキシド亜鉛(一般名:ジンクピリチオン)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート(一般名:ジネブ)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン(一般名:シーナイン211)、3,4-ジクロロフェニル-N-N-ジメチルウレア(一般名:ジウロン)、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン(一般名:イルガロール1051)、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(一般名:Econea28)、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(一般名:メデトミジン)等が挙げられる。
これらの防汚薬剤は1種又は2種以上併用して使用できる。
【0040】
本発明の組成物中における防汚薬剤の含有量は特に制限されないが、固形分換算で、通常0.1~60質量%であり、好ましくは1~50質量%である。防汚薬剤の含有量は、具体的には例えば、0.1、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0041】
<その他の添加剤>
さらに本発明の上層塗膜には、必要に応じて溶出調整剤、可塑剤、顔料、染料、消泡剤、充填剤、脱水剤、揺変剤等を含有させることができる。
【0042】
溶出調整剤としては、例えば、ロジン、ロジン誘導体、ナフテン酸、シクロアルケニルカルボン酸、ビシクロアルケニルカルボン酸、バーサチック酸、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、及びこれらの金属塩等の、モノカルボン酸及びその塩、又は前記脂環式炭化水素樹脂が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
【0043】
前記ロジン誘導体としては、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン化ロジン、ホルミル化ロジン、重合ロジン等を例示できる。前記脂環式炭化水素樹脂としては、市販品として、例えば、クイントン1500、1525L、1700(商品名、日本ゼオン社製)等が挙げられる。
【0044】
可塑剤としては、例えば、燐酸エステテル類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エポキシ化大豆油、アルキルビニルエーテル重合体、ポリアルキレングリコール類、t-ノニルペンタスルフィド、ワセリン、ポリブテン、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、シリコーンオイル、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
【0045】
充填剤としては、無機質充填剤及び/又は有機質充填剤が挙げられる。無機質充填剤としては例えば、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、コロイド炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、酸化チタン、焼成カオリン、アミノシランで表面処理した焼成カオリン、けいそう土、水酸化アルミニウム、微粒状アルミナ、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ベンガラ、酸化鉄、煙霧状金属酸化物、石英粉末、タルク、ゼオライト、ベントナイト、ガラス繊維、炭素繊維、微粉マイカ、溶融シリカ粉末、シリカ微粉末、煙霧状シリカ、沈降性シリカ、湿式シリカ、乾式シリカあるいはこれらをメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクラメチルシクロテトラシロキサン等の有機ケイ素化合物で表面処理した疎水性フュームドシリカ、フタロシアニンブルー、カーボンブラック等が挙げられる。有機質充填剤としては例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリルシリコーンなどの合成樹脂粉末等が挙げられる。
【0046】
脱水剤としては、例えば、合成ゼオライト系吸着剤、オルソエステル類、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシリケート類やイソシアネート類、カルボジイミド類、カルボジイミダゾール類等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
<防汚塗料組成物の製造方法>
上層塗膜用の防汚塗料組成物は、例えば、共重合体A、防汚薬剤及び他の添加剤等を含有する混合液を、分散機を用いて混合分散することにより製造できる。
前記混合液としては、共重合体及び防汚薬剤等の各種材料を溶媒に溶解または分散させたものであることが好ましい。
前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、市販のホモミキサー、サンドミル、ビーズミル等を使用することができる。また、撹拌機を備えた容器に混合分散用のガラスビーズ等を加えたものを用い、前記混合液を混合分散してもよい。
【0048】
1-2.下層塗膜
上層塗膜は、共重合体Bと、防汚薬剤を含む。下層塗膜は、下層塗膜に含まれる成分を溶媒に溶解又は分散させることによって得られる防汚塗料組成物を用いて形成することができる。
【0049】
<共重合体B>
共重合体Bは、第2単量体混合物の共重合体である。第2単量体混合物は、単量体(a)と単量体(b)の少なくとも一方を含む。第2単量体混合物は、単量体(a)と(b)のうちの一方のみを含んでもよく、両方を含んでもよい。第2単量体混合物は、単量体(c)を含んでもよく、単量体(a)~(c)以外の単量体を含んでもよい。単量体(a)~(c)及びその他の単量体の説明は、共重合体Aと同じである。
【0050】
共重合体Bは、共重合体A以外の共重合体であり、且つ第2単量体混合物を100質量%とすると、単量体(a)と単量体(b)の合計含有量が46~65質量%である。この合計含有量は、具体的には例えば、46、50、55、60、65質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。単量体(a)の含有量は、例えば、0~65質量%であり、具体的には例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。単量体(b)の含有量は、例えば、0~65質量%であり、具体的には例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。単量体(c)の含有量は、例えば0~54質量%であり、具体的には例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、54質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0051】
単量体(a)~(c)の説明は、共重合体Aと同じである。
【0052】
<共重合体Bの合成>
共重合体Bは、第2単量体混合物を共重合することにより得ることができる。共重合体Bの物性や製造方法の説明は、共重合体Aと同じである。
【0053】
<防汚薬剤>
防汚薬剤の説明は、上層塗膜と同じである。上層塗膜と下層塗膜の防汚薬剤は、同じであっても異なっていてもよい。
【0054】
<その他の添加剤>
さらに本発明の下層塗膜には、必要に応じて溶出調整剤、可塑剤、顔料、染料、消泡剤、充填剤、脱水剤、揺変剤等を含有させることができる。これらの説明は、上層塗膜と同じである。
【0055】
<防汚塗料組成物の製造方法>
下層塗膜用の防汚塗料組成物は、例えば、共重合体B、防汚薬剤及び他の添加剤等を含有する混合液を、分散機を用いて混合分散することにより製造できる。その他の説明は、上層塗膜と同じである。
【0056】
2.複層防汚塗膜の形成方法
本発明の複層防汚塗膜は、下層塗膜の上に、上層塗膜を形成することにより得られる。
下層塗膜及び上層塗膜は、それぞれ、上記防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、塗膜の厚み等に応じて適宜設定すればよい。
【0057】
下層塗膜の厚さは、被塗膜形成物の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常50~500μm、好ましくは100~200μmである。上層塗膜の厚さは、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよく、通常50~500μm、好ましくは100~200μmである。
【0058】
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具または水中構造物等の表面に施された防汚塗膜であって、一定期間海水中で使用された後の旧塗膜が挙げられる。
【実施例
【0059】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
各製造例、実施例及び比較例中の%は重量%を示す。粘度は、25℃での測定値であり、B形粘度計により求めた値である。重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求めた値(ポリスチレン換算値)である。GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・ 東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム・・・ TSKgel SuperHZM-M 2本
流量・・・ 0.35 mL/min
検出器・・・ RI
カラム恒温槽温度・・・ 40℃
溶離液・・・ THF
加熱残分は、JIS K 5601-1-2:1999(ISO 3251:1993)「塗料成分試験方法-加熱残分」に準拠して測定した値である。
また、表中の各成分の配合量の単位はgである。
【0060】
1.共重合体溶液の製造例
<製造例1(共重合体溶液A1の製造)>
温度計、還流冷却器、撹拌機及び滴下ロートを備えたフラスコに、キシレン260gを仕込み、窒素雰囲気下、85±5℃で攪拌しながら、メタクリル酸トリイソプロピルシリル215g、メタクリル酸メチル135g、アクリル酸2-メトキシエチル150g、及び重合開始剤である1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート3gの混合液を2時間かけて滴下した。その後同温度で1時間攪拌を行った後、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.5gを1時間毎に5回添加して重合反応を完結した後、加熱残分が50%になるようにキシレンを添加し溶解させることにより、共重合体溶液A1を得た。得られた共重合体溶液の粘度は320mPa・s(25℃)、加熱残分は50.7%、Mwは45,000であった。
【0061】
<製造例2~14(共重合体溶液A2~A6、B1~B3、C1~C5の製造)>
表1に示す単量体の混合物を用いて、製造例1と同様の操作で重合を行い、共重合体溶液A2~A6、B1~B3、C1~C5を得た。得られた各共重合体溶液の加熱残分、粘度、及び重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
2.塗料組成物の製造例
表2に示す成分を当該表に示す割合(質量%)で配合し、直径1.5~2.5mmのガラスビーズと混合分散することにより塗料組成物X1~X8、Y1~Y3、Z1~Z5を製造した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0066】
<溶出調整剤>
ロジン溶液:中国産ガムロジン(WW)の固形分50%キシレン溶液
ロジン亜鉛塩溶液:商品名「Bremazit 3050」(Kraemer社製)の固形分50%キシレン溶液
水添ロジン溶液:商品名「ハイペールCH」(荒川化学工業(株)製)の固形分50%キシレン溶液
【0067】
<可塑剤>
塩素化パラフィン:商品名「Paraffin Chlorinated (Cl:40%)」(和光純薬工業(株)製)
E-2000H:エポキシ化大豆油:商品名「サンソサイザー E-2000H」(新日本理化(株)製)
DINCH:1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル:商品名「HEXAMOLL(登録商標) DINCH(登録商標)」(BASF社製)
TOTM:トリメリット酸トリ2-エチルヘキシル:商品名「Tris(2-ethylhexyl) Trimellitate」(東京化成(株)製)
【0068】
<防汚薬剤>
亜酸化銅:商品名「NC-301」(日進ケムコ(株)製)
銅ピリチオン:商品名「カッパーオマジン」(アーチケミカル(株)製)
エコニア:商品名「Econea 028」...2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(ヤンセンPMP製)
メデトミジン:商品名「4-(1-(2,3-Dimethylphenyl)ethyl)-1H-imidazole」(和光純薬工業(株) 製)
【0069】
<無機質充填剤>
タルク:商品名「クラウンタルク3S」(松村産業(株)製)
酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛2」(正同化学(株)製)
ベンガラ:商品名「TODA COLOR EP-13D」(戸田ピグメント(株)製)
酸化チタン:商品名「FR-41」(古河機械金属(株)製)
【0070】
<脱水剤>
テトラエトキシシラン:商品名「Tetraethyl Orthosilicate」(東京化成(株)製)
【0071】
<揺変剤>
脂肪族アマイド系揺変剤:商品名「ディスパロンA603-20X」(楠本化成(株)製)
【0072】
<有機溶剤>
キシレン:(試薬、東京化成工業社製)、エチルベンゼン含有
【0073】
3.試験
表2に示す塗料組成物X1~X8、Y1~Y3、Z1~Z5を、表3に示す組み合わせで用いることによって、下層塗膜及び上層塗膜を形成した。これによって、実施例・比較例の複層防汚塗膜を得た。得られた複層防汚塗膜について、以下に示すように、耐衝撃性試験及び防汚試験を行った。その結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
<<試験例1(耐衝撃性試験)>>
水槽の中央に直径515mm及び高さ440mmの回転ドラムを取付け、これをモーターで回転できるようにした。また、海水の温度を一定に保つための冷却装置、及び海水のpHを一定に保つためのpH自動コントローラーを取付けた。試験板を下記の方法に従って作製した。
【0076】
まず、鋼板(75×150×1mm)上に、防錆塗料(ビニル系A/C)を乾燥後の厚みが約50μmとなるよう塗布し乾燥させることにより防錆塗膜を形成した。その後、前記防錆塗膜の上に下層塗膜用の塗料組成物を乾燥後の厚みが約150μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を室温で24時間乾燥させ、その後上層塗膜用の塗料組成物を乾燥後の厚みが150μmとなるように塗布した。得られた複層塗膜を40℃で3日間乾燥させることにより、厚みが約300μmの乾燥複層塗膜を有する試験板を作製した。
【0077】
作製した試験板を上記回転装置の回転ドラムに海水と接触するように固定して、20ノットの速度で回転ドラムを回転させた。その間、海水の温度を25℃、pHを8.0~8.2に保ち、一週間毎に海水を入れ換えた。ロータリー試験開始から36ヶ月後の試験板を水洗乾燥後、耐衝撃性試験を行った。JIS K5600-5-3:1999「塗料一般試験方法-塗膜の機械的性質-耐おもり落下性」に準じて落球式の条件を用いて測定を行った。
結果は、おもりの先端の衝撃による塗膜の状態を以下の基準で判断した。
◎:塗膜の割れ、剥がれがない
〇:軽度の割れ、剥がれが観測される
△:中度の割れ、剥がれが観測される
×:重度の割れ、剥がれが観測される
【0078】
<<試験例2(防汚試験)>>
硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう下層塗膜用の塗料組成物を塗布した。得られた塗布物を室温で24時間乾燥させ、その上に、乾燥塗膜として厚みが約100μmとなるように上層塗膜用の塗料組成物を塗布した。得られた複層塗布物を室温(25℃)で3日間乾燥させることにより、厚みが約200μmの乾燥複層塗膜を有する試験板を作製した。この試験板を三重県尾鷲市の海面下1.5mに浸漬して付着物による試験板の汚損を24ヶ月観察した。
【0079】
評価は、塗膜表面の状態を目視観察することにより行い、以下の基準で判断した。
◎:貝類や藻類などの汚損生物の付着がなく、かつ、スライムも殆ど付着していないレベル
○:貝類や藻類などの汚損生物の付着がなく、かつ、スライムが薄く(塗膜面が見える程度)付着して
いるものの刷毛で軽く拭いて取れるレベル
△:貝類や藻類などの汚損生物の付着はないが、スライムが薄く(塗膜面が見える程度)付着しており
刷毛で強く拭いて取れないレベル
×:貝類や藻類などの汚損生物の付着はないが、スライムが塗膜面が見えない程度に厚く付着して
おり刷毛で強く拭いても取れないレベル
××:貝類や藻類などの汚損生物が付着しているレベル
【0080】
4.考察
上記結果より、全ての実施例の複層防汚塗膜は、耐衝撃性及び防汚性が非常に優れていた。一方、全ての比較例の複層防汚塗膜は、耐衝撃性又は防汚性の何れかが良好でなかった。
【0081】
比較例1では、下層塗膜中のシリルエステル含有量が低く、後半の塗膜更新がやや低下するとともにスケルトン層が生成し、塗膜が脆弱であった。
比較例2では、上層塗膜の疎水性が高く、初期の塗膜溶解が小さいため、初期の防汚性が悪かった。
比較例3は、上層塗膜中の共重合体を構成する単量体(c)成分が少ないため、初期の塗膜溶解が小さく、初期の防汚性が悪かった。
比較例4は、上層がアクリル酸トリイソプロピルシリルの共重合体からなる塗膜であり、後半にクラックが起こることで防汚性が悪化し、塗膜強度も落ちた。
比較例5は、上層塗膜中のシリルエステル含有量が低く、初期から適正な塗膜更新が得られず、防汚性が劣るとともに塗膜も脆弱であった。
比較例6は、単量体(a)~(c)の何れも含まない共重合体からなる塗膜であり初期防汚性および塗膜強度が劣っていた。
比較例7は、下層塗膜中のシリルエステル含有量が高すぎることにより、後半の塗膜更新が遅く、防汚性が一気に悪化した。