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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20220726BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20220726BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20220726BHJP
   A61K 6/16 20200101ALI20220726BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/831
A61K6/17
A61K6/16
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019513633
(86)(22)【出願日】2018-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2018015734
(87)【国際公開番号】W WO2018194031
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017082024
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067594(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125470(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/158742(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/014031(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/042911(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/176877(WO,A1)
【文献】特開2014-189503(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069274(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043595(WO,A1)
【文献】日本歯技, 2011, No.503, pp.5-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラー(B)、平均一次粒子径が150nm~350nmの範囲内にある球状フィラーであって、前記球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径を有する球状フィラー(C)、及び重合開始剤(D)を混合することを含む歯科用硬化性組成物の製造方法であって、
前記球状フィラー(B)及び前記球状フィラー(C)を構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、
前記重合性単量体(A)、前記球状フィラー(B)、及び前記球状フィラー(C)が、下記式(1)及び(2):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、前記重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、前記球状フィラー(B)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nF (2)
(式(2)中、nPは、前記重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、前記球状フィラー(C)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満足する歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記重合性単量体(A)100質量部に対し、前記球状フィラー(B)及び前記球状フィラー(C)を合計で100質量部~1500質量部混合する請求項1に記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記重合性単量体(A)100質量部に対し、前記球状フィラー(B)を50質量部以上混合し、且つ、前記球状フィラー(C)を50質量部以上混合する請求項2に記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記球状フィラー(C)の平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記重合性単量体(A)が複数種の(メタ)アクリル化合物を含み、該重合性単量体(A)の25℃における屈折率が1.38~1.55の範囲内にある請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項6】
前記球状フィラー(B)が球状のシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子であり、その25℃における屈折率が1.45~1.58の範囲内にある請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項7】
前記歯科用硬化性組成物が歯科用充填修復材料である請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物の製造方法。
【請求項8】
重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラー(B)、平均一次粒子径が150nm~350nmの範囲内にある球状フィラーであって、前記球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径を有する球状フィラー(C)、及び重合開始剤(D)とを含有し、
前記球状フィラー(B)及び前記球状フィラー(C)を構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、
前記重合性単量体(A)、前記球状フィラー(B)、及び前記球状フィラー(C)が、下記式(1)及び(2):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、前記重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、前記球状フィラー(B)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nF (2)
(式(2)中、nPは、前記重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、前記球状フィラー(C)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満足する歯科用硬化性組成物。
【請求項9】
前記重合性単量体(A)100質量部に対し、前記球状フィラー(B)及び前記球状フィラー(C)を合計で100質量部~1500質量部含有する請求項8に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項10】
前記重合性単量体(A)100質量部に対し、前記球状フィラー(B)を50質量部以上含有し、且つ、前記球状フィラー(C)を50質量部以上含有する請求項9に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項11】
前記球状フィラー(C)の平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある請求項8~10のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項12】
前記重合性単量体(A)として複数種の(メタ)アクリル化合物を含み、該重合性単量体(A)の25℃における屈折率が1.38~1.55の範囲内にある請求項8~11のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項13】
前記球状フィラー(B)が球状のシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子であり、その25℃における屈折率が1.45~1.58の範囲内にある請求項8~12のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物からなる歯科用充填修復材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用硬化性組成物及びその製造方法に関する。詳しくは、染料、顔料等を使用することなく外観色調を制御でき、簡便性及び審美性に優れる歯科用硬化性組成物及び該組成物からなる歯科用充填修復材料、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用硬化性組成物、特に歯科用充填修復材料は、天然歯牙色と同等の色調を付与することができ、操作が容易であることから、齲蝕、破折等により損傷をうけた歯牙の修復をするための材料として急速に普及し、近年においては、機械的強度の向上及び歯牙との接着力の向上により、前歯部の修復のみならず、高い咬合圧が加わる臼歯部に対しても使用されている。
【0003】
近年、歯科用充填修復材料の分野では、咬合の回復だけではなく、自然な歯に見えるような審美的な修復への要求が高まりつつあり、単なる同等の色調だけではなく、歯牙の各所の透明性及び色調を再現できる修復材料が求められている。
【0004】
天然歯は、象牙質及びエナメル質からなり、各部位で色調(色相、彩度、明度)が異なる。例えば、切端部は象牙質層が薄くほとんどエナメル質となるため透明性が高い。逆に、歯頚部は象牙質層が厚いため不透明であり、切端部と比較して明度(色の濃淡)及び彩度(色の鮮やかさ)が高い。すなわち、天然歯は、象牙質層が厚い歯頸部から象牙質層の薄い切端部の方向に彩度及び明度が低下している。このように、歯牙は部位によって色調が異なるため、歯牙の修復において高い審美性を得るには、色調が各々異なる複数種の硬化性ペーストを用意し、この中から、実際の修復歯牙及びその隣接歯牙(以下、「修復歯牙の周辺」ともいう。)と色調が最も良く適合したものを選定して使うことが大切になる(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
こうした色調の選定は、歯科医師が、用意された硬化性ペーストの各硬化体サンプルが集められたシェードガイド(色見本)を用い、それぞれの色調と、口腔内を覗き込んで確認される修復歯牙周辺の色調とを見比べて、最も近いと感じられるものを選ぶことにより行われる。
【0006】
また、修復歯牙の損傷が軽く、窩洞が浅い場合でなければ、上記色調の適合を、単一種の硬化性ペーストの充填で実現することは困難になる。すなわち、窩洞が深い(例えば、4級窩洞)と、歯牙の色調は、単に歯面部(エナメル質部分)の色調だけでなく、透けて見える深層部(象牙質部分)までの色調も融合してグラデーションに富む状態で観取される。このため、一定の深さごとに充填する硬化性ペーストの色調を変え、積層充填することにより、この微妙な色調を再現している。通常は、最深部から、象牙質部分の色調を再現した象牙質修復用の硬化性ペーストの複数種を用いて積層し(通常は、層ごとに硬化させながら積層していく)、最後の表層部に、エナメル質修復用の硬化性ペーストを積層することにより実施されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0007】
このように、歯牙の色調には個人差及び部位差があるため、これらを考慮して色調を厳格にコントロールして用意することは、硬化性ペースト数が膨大になり実質不可能なのが実情である。
【0008】
さらに、従来から、硬化性ペーストの色調調整には、顔料、染料等が用いられており、色調の異なる顔料、染料等の配合割合を変更して種々の色調を準備していた。しかし、このような顔料及び染料による着色は経年劣化によって退色又は変色する傾向にある。歯科用充填修復材料においては、修復直後は高い色調適合性を示すが、修復後から時間が経過するに従って変色し、修復部位の外観が天然歯と適合しないといった現象が多々生じていた。
【0009】
これに対し、顔料、染料等を用いずに着色する技術として光の干渉を利用するものが、内装建材及び記録物の分野で知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。光の干渉を利用した発色は、顔料、染料等を用いた場合に見られる退色又は変色現象がないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-276492号公報
【文献】特開2001-239661号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】松村英雄、田上順次監修,「接着YEARBOOK 2006」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2006年8月,p.129-137
【文献】宮崎真至著,「コンポジットレジン修復のサイエンス&テクニック」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2010年1月,p.48-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
光の干渉による着色光(以下、単に「干渉光」ともいう。)を利用した硬化性組成物による修復は、顔料等の着色物質を用いた場合に見られる退色又は変色現象がないという利点がある。しかし、該修復には、個体差又は修復箇所により濃淡がある天然歯牙の色調に適合させるため、複数種の硬化性組成物を用意する必要があるという課題がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、色調の異なる複種類の硬化性組成物を用意する必要がなく、窩洞の修復作業性が良好であるとともに、形成される硬化物の外観が天然歯牙と調和する修復が可能であり、且つ、天然歯牙との調和が継続する歯科用硬化性組成物、該組成物を用いた歯科用充填修復材料、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を続けてきた。その結果、特定の粒子径及び粒度分布を有する球状フィラーを2種類配合し、さらに該球状フィラーの屈折率を重合性単量体の重合体より大きいものとすることで、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の歯科用硬化性組成物の製造方法は、重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラー(B)、平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にある球状フィラーであって、球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径を有する球状フィラー(C)、及び重合開始剤(D)を混合することを含む歯科用硬化性組成物の製造方法であって、
球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)を構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、
重合性単量体(A)、球状フィラー(B)、及び球状フィラー(C)が、下記式(1)及び(2):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(B)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nF (2)
(式(2)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(C)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満足するものである。
【0016】
歯科用硬化性組成物は、歯科用充填修復材料であってもよい。この場合、本発明の歯科用硬化性組成物の製造方法によれば、歯科用充填修復材料を製造することができる。
【0017】
また、本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラー(B)、平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にある球状フィラーであって、球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径を有する球状フィラー(C)、及び重合開始剤(D)とを含有し、
球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)を構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、
重合性単量体(A)、球状フィラー(B)、及び球状フィラー(C)が、下記式(1)及び(2):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(B)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nF (2)
(式(2)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(C)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満足するものである。
【0018】
また、本発明の歯科用充填修復材料は、本発明の歯科用硬化性組成物からなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の歯科用硬化性組成物は、固体差又は修復箇所により異なる天然歯牙の色調に応じた発色を示すため、色調の異なる複数種の硬化性組成物を用意することなく、硬化物の外観が天然歯牙の色調と適合する修復を簡便に行うことが可能である。また、本発明の歯科用硬化性組成物は、干渉光を利用しているため退色及び変色がなく、形成される硬化物の天然歯牙との調和が継続する修復が可能である。加えて、含有する2種類の球状フィラーの配合比を変えることで、光の干渉による着色光を調整した歯科用硬化性組成物とすることが可能であり、より幅広い色調の天然歯に調和する修復が可能である。このように、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科用充填修復材料として好適に使用できる。また、本発明の歯科用硬化性組成物の製造方法によれば、歯科用充填修復材料として好適な歯科用硬化性組成物を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[歯科用硬化性組成物及び歯科用充填修復材料]
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体(A)、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラー(B)、平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にある球状フィラーであって、球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径を有する球状フィラー(C)、及び重合開始剤(D)を含有してなる。
【0021】
本発明の最大の特徴は、窩洞の修復作業性の簡便性と、優れた審美性及び幅広い色調の天然歯牙との調和の継続とを達成するために、粒度分布が狭い球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)を用いること、並びに重合性単量体(A)、球状フィラー(B)、及び球状フィラー(C)について、屈折率の関係が下記式(1)及び(2):
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(B)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nF (2)
(式(2)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(C)の25℃における屈折率を表す。)
で示される条件(X1)を満足するように選択する点である。
【0022】
上記の条件を全て満たすことにより、染料、顔料等を用いなくても光の干渉による着色光が明瞭に確認でき、天然歯に近い修復が可能な色調適合性の良好な歯科用硬化性組成物、特に歯科用充填修復材料として有用な歯科用硬化性組成物を得ることができる。
【0023】
球状フィラー(B)は、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にあり、これを構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在している。球状フィラー(C)は、平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にあり、これを構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在している。なお、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の粒径と光の干渉現象との関係は、ブラッグ回折条件に従うと考えられる。
【0024】
天然歯牙の色調には個人差があり、修復する部位によっても色調が異なるが、本発明の光の干渉現象を利用した歯科用硬化性組成物は様々に色調に対応できる。具体的には、下地となる歯牙の色度(色相及び彩度)が高い場合には、照射光等の外光が高色度の背景によって吸収され、光の干渉現象を利用した歯科用硬化性組成物から生じる着色光(干渉光)以外の光が抑制されるため、着色光が観察できる。一方、下地となる歯牙の色度が低い場合には、照射光等の外光が低色度の背景で散乱反射し、光の干渉現象を利用した歯科用硬化性組成物から生じる着色光(干渉光)よりも強いため、着色光が打ち消されて弱くなる。
【0025】
したがって、色度の高い天然歯牙に対しては強い着色光が生じ、色度の低い天然歯牙に対しては弱い着色光が生じるため、1種のペーストで幅広い色調適合性を示すことができる。このように、1種のペーストで色度の高低によらず天然歯牙と色調が適合する技術は、顔料等の着色物質の配合により調製されるペーストでは達成は困難である。
【0026】
本発明の歯科用硬化性組成物は、干渉現象によって球状フィラー(B)の平均一次粒子径及び球状フィラー(C)の平均一次粒子径に応じた着色光が発生することを特徴としているが、該着色光が発生するか否かは、色差計を用いて黒背景下及び白背景下の双方の条件で分光反射率特性を測定することにより確認される。黒背景(マンセル表色系による明度が1の下地)下では、上述した条件を満たす場合、着色光に応じた特有の可視スペクトルが明瞭に確認されるが、白背景(マンセル表色系による明度が9.5の下地)下では、可視スペクトル(380nm~780nm)の実質的な全範囲に亘り、実質的に均一な反射率を示し、特有の反射可視スペクトルは確認されず、実質的に無色である。これは、黒背景下においては、外光(例えば、C光源、D65光源等)が吸収又は遮光されて干渉による着色光が強調され、白背景下においては、外光の散乱反射光が強いため干渉による着色光が観察され難くなるためと考えられる。
【0027】
本発明の効果を発現させる上では、重合性単量体(A)、球状フィラー(B)、及び球状フィラー(C)について、屈折率の関係が下記式(1)及び(2)で示される条件(X1)を満足するものとする点が重要である。
nP<nF (1)
nP<nF (2)
【0028】
式(1)に示すように、本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率nPと、球状フィラー(B)の25℃における屈折率nFとの関係がnP<nFにある。また、式(2)に示すように、重合性単量体(A)の重合体の25℃における屈折率nPと、球状フィラー(C)の25℃における屈折率nFとの関係がnP<nFにある。球状フィラー(B)の屈折率nF及び球状フィラー(C)の屈折率nFが高く、重合性単量体(A)の重合体の屈折率nPが低い場合、歯科用硬化性組成物の硬化体においてブラッグ回折条件に従った干渉光が強く発現するが、逆の場合、短波長の光が干渉され易くなり、得られる着色光は短波長化して青みを帯びたものとなり、色調適合性が不良となり易い。
【0029】
本発明の効果を発現させる上では、球状フィラー(B)の平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にあることが重要である。一般に天然歯牙は黄色味又は赤味を帯びた乳白色である。平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラーを用いた場合、得られる着色光は黄色~赤色であり、本成分を配合することで歯牙に調和する修復が可能である。
【0030】
また、本発明の効果を発現させる上では、球状フィラー(C)の平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にあり、且つ、球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径であることが重要である。上記粒子径の範囲内であれば、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)のそれぞれの粒子径に依存した光の干渉による着色光が互いに打ち消されることなく発現する。また、両球状フィラーの配合比を変えることで、着色光の調整が可能となる。
【0031】
以下、本発明の歯科用硬化性組成物の各成分について説明する。
【0032】
<重合性単量体(A)>
重合性単量体(A)としては、公知のものが特に制限なく使用できる。歯科用途として見た場合、重合速度の観点から、ラジカル重合性又はカチオン重合性の単量体が好ましい。特に好ましいラジカル重合性単量体は(メタ)アクリル化合物である。(メタ)アクリル化合物としては、以下に例示する(メタ)アクリレート類が挙げられる。また、特に好ましいカチオン重合性単量体としては、エポキシ類及びオキセタン類が挙げられる。
【0033】
一般に、好適に使用される(メタ)アクリル化合物として、(メタ)アクリレート類を例示すれば、下記(I)~(III)に示されるものが挙げられる。
【0034】
(I)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、
2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、
2(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等
及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート又はこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクトなど。
【0035】
(ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、
ジエチレングリコールジメタクリレート、
トリエチレングリコールジメタクリレート、
テトラエチレングリコールジメタクリレート、
ネオペンチルグリコールジメタクリレート、
1,3-ブタンジオールジメタクリレート、
1,4-ブタンジオールジメタクリレート、
1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート等
及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート又はこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト、例えば、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン;
1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エチルなど。
【0036】
(II)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、
トリメチロールエタントリメタクリレート、
ペンタエリスリトールトリメタクリレート、
トリメチロールメタントリメタクリレート等
及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレートなど。
【0037】
(III)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、
ペンタエリスリトールテトラアクリレート;
ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクトなど。
【0038】
これらの多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用してもよい。
【0039】
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体や、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外の重合性単量体を用いてもよい。
【0040】
本発明において、重合性単量体(A)としては、硬化体の物性(機械的特性及び歯質に対する接着性)調整のため、一般に、複数種の重合性単量体が使用されるが、この際、重合性単量体(A)の25℃における屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが望ましい。すなわち、屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、重合性単量体(A)から得られる重合体の屈折率nPを、おおよそ1.40~1.57の範囲に設定でき、条件(X1)を満足するようにすることが容易である。なお、重合性単量体(A)として複数種の重合性単量体を用いる場合、複数種の重合性単量体を混合した混合物の屈折率が上記範囲に入っていればよく、個々の重合性単量体は必ずしも上記範囲に入っていなくてもよい。
【0041】
なお、重合性単量体又は重合性単量体の硬化体の屈折率は、25℃にてアッベ屈折率計を用いて求めることができる。
【0042】
<球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)>
歯科用硬化性組成物には、無機粉体、有機粉体等の種々の充填材が含有されているが、本発明の歯科用硬化性組成物には、干渉による着色光を発現させる目的で、平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラー(B)、及び平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にある球状フィラー(C)が配合される。本発明の歯科用硬化性組成物において特徴的なことは、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)が球状であり、且つ、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)を構成する個々の粒子の数のうち90%以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在し、粒子径分布が狭い点である。干渉による着色光は、構成する粒子が規則的に集積されたときに生じる。したがって、本発明を構成する、球状であり且つ粒子径分布が狭い球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)は、干渉による着色光が生じる。一方、粉砕等によって製造される不定形粒子の場合、粒子径分布が広く、形状も不均一であるため、規則的に集積されず、着色光は生じない。
【0043】
球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)は、それぞれを構成する個々の粒子の90%(個数)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在することが重要である。つまり、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)は、それぞれ独立した複数の一次粒子から構成されており、該複数の一次粒子の平均粒子径の前後の5%の範囲に、全体の一次粒子の数のうち90%の数の一次粒子が存在している。この割合は、91%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
【0044】
光の回折及び干渉による着色光の発現は、ブラッグ条件に則って回折及び干渉が起こり、特定波長の光が強調されることによるものであり、上記粒子径の粒子を配合すると、その粒子径に従ってその歯科用硬化性組成物の硬化体には、着色光が発現するようになる。また、本発明においては、平均一次粒子径の異なる球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)が使用され、それぞれの粒子径に依存する光の回折及び干渉による着色光が発現し、それぞれの着色光が混合して硬化体としての着色が発現する。
【0045】
本発明の効果を発現させる上では、球状フィラー(B)の平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にあることが重要である。一般に天然歯牙は黄色味又は赤味を帯びた乳白色である。平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内にある球状フィラーを用いた場合、得られる着色光は黄色~赤色であり、本成分を配合することで歯牙に調和する修復が可能である。
【0046】
また、本発明の効果を発現させる上では、球状フィラー(C)の平均一次粒子径が100nm~500nmの範囲内にあり、且つ、球状フィラー(B)とは異なる平均一次粒子径であることが重要である。この場合、球状フィラー(C)に基づく着色光は青色~黄色~赤色系となる。上記粒子径の範囲内であれば、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)のそれぞれの粒子径に依存した光の干渉による着色光が互いに打ち消されることなく発現する。また、両球状フィラーの配合比を変えることで、着色光の調整が可能となる。
【0047】
なお、着色光の調整を容易にする観点から、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の平均一次粒子径の差は、40nm以上であることが好ましい。
【0048】
干渉による着色光の発現効果を一層に高める観点から、球状フィラー(C)の平均一次粒子径は120nm~400nmが好適であり、200nm~350nmがより好適であり、230nm~300nmがさらに好適であり、230nm~290nmが特に好適である。平均一次粒子径が100nmよりも小さい球状フィラーを用いた場合、球状フィラーに由来する可視光の干渉現象が生じ難い。一方、平均一次粒子径が500nmよりも大きい球状フィラーを用いた場合、該球状フィラー由来の光の干渉現象の発現は期待できるが、球状フィラー(B)に由来する干渉光が生じ難くなる。また、本発明の歯科用硬化性組成物を歯科用充填修復材料として用いる場合には、球状フィラーの沈降、研磨性及び耐摩耗性の低下等の問題が生じるため好ましくない。
【0049】
本発明の歯科用硬化性組成物は、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の粒径に応じて様々な着色光を発現する。平均一次粒子径が230nm~260nmの範囲内の球状フィラーを用いた場合、得られる着色光は黄色系であり、平均一次粒子径が260nm~350nmの範囲内の球状フィラーを用いた場合、得られる着色光は赤色系である。すなわち、球状フィラー(B)として平均一次粒子径が230nm~260nmの範囲内の球状フィラーを用い、球状フィラー(C)として平均一次粒子径が260nm~350nmの範囲内の球状フィラーを用いた場合には、黄色系の着色光と赤色系の着色光との両者が発現し、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるB系(赤黄色)及びA系(赤茶色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。また、両者の配合比を変えることで、着色光の調整が可能である。平均一次粒子径が150nm~230nmの範囲内の球状フィラーを用いた場合、得られる着色光は青色系である。球状フィラー(B)として平均一次粒子径が230nm~290nmの範囲内の球状フィラーを用い、球状フィラー(C)として平均一次粒子径が150nm~230nmの範囲内の球状フィラーを用いた場合には、球状フィラー(B)由来の黄色~赤色系の着色光に加え、球状フィラー(C)由来の青色の着色光が発現し、エナメル質の切端部分への調和性及びシェードガイド「VITAPAN Classical」におけるC系(灰色)の範疇にある歯牙への調和性を付与することができる。
【0050】
本発明において、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡により粉体の写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの一次粒子径(最大径)を求め、下記算出式より算出するものとする。
【0051】
【数1】
【0052】
ここで、球状フィラーの球状とは、略球状であればよく、必ずしも完全な真球である必要はない。走査型電子顕微鏡で粒子の写真を撮り、その単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであればよい。
【0053】
上述したように、干渉による着色光は、下記式(1)及び(2)で示される条件(X1)を満たす場合に天然歯牙と色調適合性よく発現する。
【0054】
nP<nF (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(B)の25℃における屈折率を表す。)
nP<nF (2)
(式(2)中、nPは、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率を表し、nFは、球状フィラー(C)の25℃における屈折率を表す。)
【0055】
すなわち、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の屈折率(nF、nF)は、重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の屈折率nPより高い状態にあるということである。重合性単量体(A)を重合して得られる重合体の屈折率nPとの屈折率差は、0.001以上であるのが好ましく、0.002以上であるのがより好ましく、0.005以上であるのがさらに好ましい。屈折率については、硬化体の透明性が高い場合により鮮明に発現することから、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の屈折率と重合性単量体(A)の重合体の屈折率との屈折率差は0.1以下、より好ましくは0.05以下であって、透明性をできるだけ損なわないものを選定して用いるのが好ましい。
【0056】
球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)は、歯科分野において、歯科用硬化性組成物の同成分として使用されるようなものが制限なく使用できるが、具体的には、非晶質シリカ、シリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア等)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ジルコニア、チタニア、ランタノイド、コロイダルシリカなどの無機粉体が挙げられる。さらに、有機粉体や有機無機複合粉体も使用できる。
【0057】
このうちフィラーの屈折率を調整が容易であることから、シリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子が好ましい。
【0058】
本発明においてシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子とは、シリカとチタン族(周期律表第4族元素)酸化物との複合酸化物であり、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等が挙げられる。このうち、フィラーの屈折率の調整が可能であるほか、高いX線不透過性も付与できることから、シリカ・ジルコニアが好ましい。その複合比は特に制限されないが、十分なX線不透過性を付与すること、及び屈折率を後述する好適な範囲にする観点から、シリカの含有量が70モル%~95モル%であり、チタン族酸化物の含有量が5モル%~30モル%であるものが好ましい。シリカ・ジルコニアの場合、このように各複合比を変化させることにより、その屈折率を自在に変化させることができる。
【0059】
なお、これらシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子には、少量であれば、シリカ及びチタン族酸化物以外の金属酸化物の複合も許容される。具体的には、酸化ナトリウム、酸化リチウム等のアルカリ金属酸化物を10モル%以内で含有させてもよい。
【0060】
シリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されないが、本発明の特定の球状フィラーを得るためには、例えば、加水分解可能な有機ケイ素化合物と加水分解可能な有機チタン族金属化合物とを含んだ混合溶液を、アルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法が好適に採用される。
【0061】
これらのシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。シランカップリング剤による表面処理により、重合性単量体(A)の硬化体部分との界面強度に優れたものになる。代表的なシランカップリング剤としては、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。これらシランカップリング剤の表面処理量に特に制限はなく、得られる歯科用硬化性組成物の機械的物性等を予め実験で確認したうえで最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、粒子100質量部に対して0.1質量部~15質量部の範囲である。
【0062】
球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)は、重合性単量体(A)等と混合し、重合させて製造される有機無機複合フィラーとして配合してもよい。このとき、球状フィラー(B)と球状フィラー(C)とは、別々の有機無機複合フィラーとして配合してもよく、球状フィラー(B)と球状フィラー(C)とを混合して製造した有機無機複合フィラーとして配合してもよい。
【0063】
有機無機複合フィラーの製造方法は特に制限されず、例えば、球状フィラー(B)及び/又は球状フィラー(C)、重合性単量体、及び重合開始剤の各成分の所定量を混合し、加熱、光照射等の方法で重合させた後、粉砕する一般的な製造方法を採用することができる。あるいは、国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載された製造方法を採用することもできる。この製造方法では、球状無機フィラー(b2)が凝集してなる無機凝集粒子を、重合性単量体、重合開始剤、及び有機溶媒を含む重合性単量体溶媒に浸漬した後、有機溶媒を除去し、重合性単量体を加熱、光照射等の方法で重合硬化させる。国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載された製造方法によれば、無機一次粒子が凝集した無機凝集粒子の各無機一次粒子の表面を覆うとともに、各無機一次粒子を相互に結合する有機樹脂相を有し、各無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂相の間に凝集間隙が形成されている有機無機複合フィラーが得られる。
【0064】
本発明における球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の合計の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して、100質量部~1500質量部であることが好ましい。球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)は、それぞれを50質量部以上配合することにより、干渉による着色光が良好に発現するようになり好ましい。また、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)として、重合性単量体(A)の重合体との屈折率差が0.1を上回るものを用いる場合において、硬化体の透明性が低下して、着色光の発現効果も十分に発現しなくなる虞がある。これらを勘案すると、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の合計の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して、150質量部~1500質量部であることがより好ましい。
【0065】
球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)のうち、屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物の屈折率は、シリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となる。重合性単量体(A)の屈折率を上述した範囲(1.38~1.55)の範囲に設定しておくことにより、上述した条件(X1)を満足するように、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)を容易に選択することができるわけである。すなわち、適当な量のシリカ分を含むシリカ・チタン族酸化物系複合酸化物(例えば、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア等)を使用すればよい。
【0066】
<重合開始剤(D)>
重合開始剤は、本組成を重合硬化させる目的で配合させるが、公知の如何なる重合開始剤であっても特に制限されることなく用いられる。
【0067】
中でも、口腔内で硬化させる場合が多い歯科の直接充填修復用途では、光重合開始剤又は化学重合開始剤組成が好ましく、混合操作の必要が無く簡便な点から、光重合開始剤がより好ましい。
【0068】
光重合に用いる重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;ベンゾフェノン、4,4'-ジメチルベンゾフェノン、4-メタクリロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノン等のα-ジケトン類;2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物;ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイド等のビスアシルホスフィンオキサイド類;などが使用できる。
【0069】
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミン等の第3級アミン類;ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸等の含イオウ化合物;などが挙げられる。
【0070】
さらに、光重合開始剤及び還元剤に加えて光酸発生剤を加えて用いる例がしばしば見られる。このような光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ハロメチル置換-S-トリアジン誘導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。
【0071】
本発明において、シリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子による色調の変化は、重合開始剤に還元剤としてアミン類が含有されていた場合に顕著に生じるため、本発明では斯様にアミン類を成分に含む重合開始剤を用いるのが特に効果的である。
【0072】
これらの重合開始剤は、単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体(A)100質量部に対して、通常0.01質量部~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1質量部~5質量部の割合で使用される。
【0073】
<その他の添加剤>
本発明の歯科用硬化性組成物には、その効果を阻害しない範囲で、上記(A)~(D)成分のほか、公知の他の添加剤を配合することができる。具体的には、重合禁止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。また、粘度調整等を目的として、光の波長より十分に小さく色調や透明性に影響を与え難い粒径のフィラーを配合することもできる。
【0074】
本発明では上述したとおり、顔料等の着色物質を用いなくても、天然歯牙との色調適合性が良好な修復が単一のペースト(歯科用硬化性組成物)で可能になる。したがって、時間とともに変色する虞のある顔料は配合しない態様が好ましい。ただし、本発明においては、顔料の配合自体を否定するものではなく、球状フィラーの干渉による着色光の妨げにならない程度の顔料は配合しても構わない。具体的には、重合性単量体100質量部に対して0.0005質量部~0.5質量部程度、好ましくは0.001質量部~0.3質量部程度の顔料であれば配合しても構わない。
【0075】
本発明の歯科用硬化性組成物は、上記のような光硬化性コンポジットレジンに代表される歯科用充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、その他の用途にも好適に使用できる。その用途としては、例えば、歯科用セメント、支台築造用の修復材料等が挙げられる。
【0076】
[歯科用硬化性組成物及び歯科用充填修復材料の製造方法]
本発明の歯科用硬化性組成物及び歯科用充填修復材料は、重合性単量体(A)、球状フィラー(B)、球状フィラー(C)、重合開始剤(D)、及び必要に応じて他の添加剤を混合することにより製造することができる。各成分の好適な例やその配合量は上述したとおりであるため、詳細な説明を省略する。
【0077】
各成分の混合順序は特に制限されない。一例としては、重合性単量体(A)及び重合開始剤(D)を混合して重合性単量体組成物を調製した後、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)に対して重合性単量体組成物を徐々に加えて混練し、均一な硬化性ペーストとする方法が挙げられる。得られた硬化性ペーストは、減圧下で脱泡して気泡を除去することが好ましい。
【実施例
【0078】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0079】
本発明における各種物性測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0080】
(1)球状フィラーの平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)及び一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により平均一次粒子径を算出した。
【0081】
【数2】
【0082】
(2)球状フィラーの平均粒子径粒子の存在割合
上記(1)で得られた平均一次粒子径から前後5%を超えた粒子数を計測し、写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)で除し、得られた値を1から引いて100倍して、平均一次粒子径の前後5%の範囲に存在する粒子の割合を算出し、平均粒子径粒子の存在割合とした。
【0083】
(3)均斉度
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した値の平均を均斉度とした。
【0084】
(4)屈折率の測定
<重合性単量体(A)の屈折率>
用いた重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0085】
<重合性単量体(A)の重合体の屈折率nP>
用いた重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)の重合体の屈折率は、窩洞内での重合条件とほぼ同じ条件で重合した重合体を、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0086】
すなわち、0.2質量%のカンファーキノン、0.3質量%のN,N-ジメチルp-安息香酸エチル、及び0.15質量%のヒドロキノンモノメチルエーテルを混合した均一な重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)を、7mmφ×0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。その後、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(サイブロン社製、「Demetron LC」)を用いて30秒間光照射し硬化させた後、型から取り出して、重合性単量体の重合体を作製した。アッベ屈折率計((株)アタゴ製)に重合体をセットする際に、重合体と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下し、屈折率を測定した。
【0087】
<球状フィラー及び不定形フィラーの屈折率>
用いた球状フィラー及び不定形フィラーの屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて液浸法によって測定した。
【0088】
すなわち、25℃の恒温室において、100mLのサンプル瓶中、球状フィラー又はその表面処理物1gを無水トルエン50mL中に分散させた。この分散液をスターラーで撹拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を球状フィラー及び不定形フィラーの屈折率とした。
【0089】
(5)目視による着色光の評価
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に載せ、目視にて着色光の色調を確認した。
【0090】
(6)着色光の波長
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒における反射率の極大点を着色光の波長とした。
【0091】
(7)色調適合性の評価
右下1番の切端部欠損窩洞(幅2mm、高さ1mm)を再現した歯牙修復用模型歯、及び右下6番のI級窩洞(直径4mm、深さ2mm)を再現した歯牙修復用模型歯を用いて、欠損部に歯科用硬化性組成物のペーストを充填して硬化及び研磨し、色調適合性を目視にて確認した。なお、歯牙修復用模型歯としては、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるA系(赤茶色)の範疇の中にあって、高色相且つ高彩度の高色度模型歯(A4相当)及び低色相且つ低彩度の低色度模型歯(A1相当)、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるB系(赤黄色)の範疇の中にあって、高色相且つ高彩度の高色度模型歯(B4相当)及び低色相且つ低彩度の低色度模型歯(B1相当)、並びにシェードガイド「VITAPAN Classical」におけるC系(灰色)の範疇の中にあって、高色相且つ高彩度の高色度模型歯(C4相当)及び低色相且つ低彩度の低色度模型歯(C1相当)を用いた。
-評価基準-
A:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と良く適合している。
B:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と類似している。
C:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と類似しているが適合性は良好でない。
D:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と適合していない。
【0092】
(8)色調経時変化
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、水中下37℃にて4カ月間保管し、保管後の色調を、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて測定し、保管前後の色調の差をCIELabにおけるΔEで表した。
【0093】
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L1-L2
Δa=a1-a2
Δb=b1-b2
なお、L1:保管後の硬化体の明度指数、a1,b1:保管後の硬化体の色質指数、L2:保管前の硬化体の明度指数、a2,b2:保管前の硬化体の色質指数、ΔE:色調変化量である。
【0094】
実施例及び比較例で用いた重合性単量体、重合開始剤等は以下のとおりである。
【0095】
[重合性単量体]
・1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン(以下、「UDMA」と略す。)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、「3G」と略す。)
・2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン(以下、「bis-GMA」と略す。)
【0096】
[重合開始剤]
・カンファーキノン(以下、「CQ」と略す。)
・N,N-ジメチルp-安息香酸エチル(以下、「DMBE」と略す。)
【0097】
[重合禁止剤]
・ヒドロキノンモノメチルエーテル(以下、「HQME」と略す。)
【0098】
[着色剤]
・二酸化チタン(白顔料)
・ピグメントイエロー(黄顔料)
・ピグメントレッド(赤顔料)
・ピグメントブルー(青顔料)
【0099】
[重合性単量体の混合物の調製]
表1に示すような重合性単量体を混合し、重合性単量体M1、M2を調製した。表1中の括弧内の数値は、各重合性単量体の質量比を表す。
【0100】
【表1】
【0101】
[球状フィラー及び不定形フィラーの製造]
球状フィラーは、特開昭58-110414号公報、特開昭58-156524号公報等に記載の方法で製造した。すなわち、加水分解可能な有機ケイ素化合物(テトラエチルシリケート等)と加水分解可能な有機チタン族金属化合物(テトラブチルジルコネート、テトラブチルチタネート等)とを含んだ混合溶液を、アンモニア水を導入したアンモニア性アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等)溶液中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法を用いて製造した。
【0102】
不定形フィラーは、特開平2-132102号公報、特開平3-197311号公報等に記載の方法で製造した。すなわち、アルコキシシラン化合物を有機溶剤に溶解し、これに水を添加して部分加水分解した後、さらに複合化する他の金属のアルコキサイド及びアルカリ金属化合物を添加して加水分解してゲル状物を生成させ、次いで該ゲル状物を乾燥後、必要に応じて粉砕し、焼成して製造した。
【0103】
実施例及び比較例で用いた球状フィラー及び不定形フィラーを表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
[実施例1~9]
100gの重合性単量体M1又はM2に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に表3に示した各球状フィラーを計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練して均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し歯科用硬化性組成物を製造した。得られた歯科用硬化性組成物について、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表3及び表4に示す。表3中の括弧内の数値は、各成分の配合量(単位:質量部)を表す。
【0106】
[比較例1~5]
100gの重合性単量体M1に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に表3に示した各フィラーを計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練して均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し歯科用硬化性組成物を製造した。得られた歯科用硬化性組成物について、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表3及び表4に示す。
【0107】
[比較例6]
100gの重合性単量体M2に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に表3に示した球状フィラーを計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、さらに二酸化チタン(白顔料)を0.050g、ピグメントイエロー(黄顔料)を0.001g、ピグメントレッド(赤顔料)を0.0005g、ピグメントブルー(青顔料)を0.0002g加えて暗所にて十分に混練して均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し歯科用複合修復材料を製造した。目視評価で高色度模型歯のA系統に適合する色調であった。続いて、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表3及び表4に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
実施例1~9の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満たしていると、歯科用硬化性組成物は黒背景下で光の干渉による着色光を示し、色調適合性が良好であり、得られる硬化体の色調経時変化が小さいことが分かる。
【0111】
また、実施例1~3の結果から理解されるように、球状フィラー(B)及び球状フィラー(C)の配合比を変えることで、黒背景下において球状フィラーの配合比に対応した着色光の分光反射率を示すことが分かる。
【0112】
実施例4~6の結果から理解されるように、球状フィラー(B)として平均一次粒子径230nmのフィラーを用い、球状フィラー(C)として平均一次粒子径178nmのフィラーを用いた場合、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるB系(赤黄色)、C系(灰色)、及び切端部への適合性が得られることが分かる。また、球状フィラー(C)の配合量が増加する程、C系及び切端部への適合性が向上することが分かる。
【0113】
比較例1、2の結果から理解されるように、球状フィラー(C)を用いなかった場合、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるA系(赤茶色)及びB系(赤黄色)のいずれか一方に対しては良好な色調適合性を示すが、良好な色調適合性を示す色調範囲は実施例1~9よりも狭いことが分かる。
【0114】
比較例3~5の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満足していないと、歯科用硬化性組成物は黒背景化で着色光を示さず(比較例3:球状フィラーの平均一次粒子径が80nm、比較例4:フィラーの形状が不定形)、着色光が弱く(比較例5:球状フィラーの平均粒子径粒子の存在量が87%)、色調適合性に劣っていることが分かる。
【0115】
比較例6の結果から理解されるように、顔料を添加して色調を調整(高色度模型歯のA系統に適合する色調(A4相当))した歯科用硬化性組成物は、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定したところ、背景色黒、背景色白ともに添加した顔料に応じた分光反射特性を示すことが観察された。高色度模型歯のA系統に適合する色調(A4相当)への色調適合性は良好であったが、他の模型歯への色調適合性は低いものであった。さらに、色調経時変化の大きいものとなった。
【0116】
2017年4月18日に出願された日本出願2017-082024の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。