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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】学習記憶能力増強組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20220726BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220726BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220726BHJP
   A61K 36/88 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A61K31/05
A23L33/10
A23L33/105
A61K36/88
A61P25/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019549308
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2018038604
(87)【国際公開番号】W WO2019078233
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-02-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2017202933
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300067479
【氏名又は名称】株式会社佐藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 寿之
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】森井 隆信
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093834(JP,A)
【文献】特開2015-074757(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102188414(CN,A)
【文献】特開2006-063038(JP,A)
【文献】特開2006-290784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/05
A61K36/00
A61P25/28
A23L33/10
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
CAPLUS/REGISTRY(STN)
BIOSIS/CAPLUS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたデヒドロエフソールを有効成分として含有する学習記憶能力増強組成物。
【請求項2】
デヒドロエフソールを含むイ草抽出物(但し、50℃以下の抽出溶媒で抽出したイ草抽出物を除く)を学習記憶能力増強効果を奏する量含有する学習記憶能力増強組成物。
【請求項3】
学習記憶能力低下抑制用又は学習記憶能力改善用である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
経口組成物である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
食品組成物又は医薬品組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
デヒドロエフソールを配合する工程を含む、請求項1に記載の学習記憶能力増強組成物の製造方法。
【請求項7】
デヒドロエフソールを含むイ草抽出物(但し、50℃以下の抽出溶媒で抽出したイ草抽出物を除く)を配合する工程を含む、請求項2に記載の学習記憶能力増強組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習記憶能力増強組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
脳機能の維持、向上、改善は、若年層から老年層まで幅広い世代で求められている。学習記憶能力の維持、向上、改善は、受験、資格試験等に備えて勉強するときだけではなく、日々の仕事や生活を行う上でも重要である。また、老年層では記憶力の低下、認知機能の低下は生活の質に関わるため、特に重要である。年代を問わず、学習記憶能力の低下を予防し、及び/又は、これを維持、向上、改善させることが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Singhuber J, Baburin L, Khom S et al. : GABAA receptor modulators from the Chinese herbal drug junci medulla-the pith of juncus effuses. Planta med 78: 455-458 (2012)
【文献】Wang YG, Wang YL, Zhai HF et al. : Phenanthrens from juncus effusus with anxiolytic and sedative activities. Nat Prod Res. 26: 1234-1239 (2012)
【文献】Liao YJ, Zhai HF, Zhang B et al. : Anxiolytic and sedative effects of dehydroeffusol from juncus effusus in mice. Planta med. 77: 416-420 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、学習記憶能力を増強する新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、デヒドロエフソールが学習記憶能力を増強する可能性を見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
デヒドロエフソールを含有する学習記憶能力増強組成物。
項2.
学習記憶能力低下抑制用又は学習記憶能力改善用である、項1に記載の組成物。
項3.
経口組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
食品組成物又は医薬品組成物である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
デヒドロエフソールを配合する工程を含む、学習記憶能力増強組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、学習記憶能力の向上、維持、改善、低下抑制(特に低下予防)等のために有用である学習記憶能力増強組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】イ草全草50%エタノール水溶液抽出液又はイ草芯50%エタノール水溶液抽出液をHPLC解析して得たクロマトグラムを示す。
図2】Y字型迷路試験に使用したY字型迷路の概略、及び自発的交替行動率(%)の算出例を示す。
図3】エフソール及びデヒドロエフソールの学習記憶能力増強効果をY字型迷路試験により検討し、算出した自発的交替行動率(%)を示す。
図4】デヒドロエフソールの学習記憶能力増強効果をY字型迷路試験により検討し、算出した自発的交替行動率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0010】
本発明に包含される学習記憶能力増強組成物(以下、「本発明の学習記憶能力増強組成物」ということがある)はデヒドロエフソールを含有する。デヒドロエフソールは、以下の構造式で表される化合物である。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明に用いるデヒドロエフソールは、合成品であっても、自然界に存在するものを抽出及び精製したものであってもよい。公知の方法又は公知の方法より容易に想到できる方法により合成して得ることができる。自然界から得る場合には、例えばデヒドロエフソールはイ草(灯心草)に存在していることが知られており、イ草から抽出(及び必要に応じて精製)して得ることができる。より詳細には、例えばイ草から水、エタノール、又はこれらの混合液により抽出を行って得ることができる。当該抽出液としては、特に40~60%エタノール水溶液が好ましく、特に50%エタノール水溶液が好ましい。また、必要に応じてさらに得られた抽出液をさらに分画及び/又は精製してもよい。分画は、例えば液液分配抽出により行うことが出来る。当該分配は、例えば水と酢酸エチルを用いて行うことができる。また、精製は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。また、抽出に供するイ草の部分も特に制限はされず、例えばイ草の全草を抽出に供してもよいし、イ草の芯を抽出に供してもよい。イ草の芯には、多くのデヒドロエフソールが存在しているため、イ草の芯を用いることが特に好ましい。
【0013】
本発明において、学習記憶能力増強には、学習記憶能力の向上、維持、改善、低下抑制(特に低下予防)等が包含される。また、記憶増強の対象としては、特に制限はされず、若年層から老年層まで広く対象となりえる。下に詳述するように、たとえば加齢や病気等により認知機能の低下した対象若しくは認知機能の低下が懸念される対象に対しても、本発明の学習記憶能力増強組成物は有用である。なお、本発明の学習記憶能力増強組成物は、制限はされないが、特に短期記憶障害に効果的である。
【0014】
例えば、学習記憶能力が低下した対象者の、学習記憶能力のさらなる低下の抑制、あるいは学習記憶能力の維持又は改善のために、本発明の学習記憶能力増強組成物を好ましく用いることができる。学習記憶能力の低下の原因としては、特に制限されず、例えば加齢や病気が挙げられる。病気としては、学習記憶能力の低下の原因となり得る病気であれば特に制限されないが、例えば認知症、アルツハイマー病等が挙げられる。特に、加齢や病気により、認知機能が低下した対象者における、学習記憶能力のさらなる低下の抑制、あるいは学習記憶能力の維持又は改善のために、本発明の学習記憶能力増強組成物を好ましく用いることができる。制限はされないが、認知機能が低下した対象者の記憶力、注意力、判断力、空間認識力等のさらなる低下の抑制、あるいは維持又は改善のためにも、本発明の学習記憶能力増強組成物を用いることができる。
【0015】
また例えば、学習記憶能力の低下が懸念される対象者の学習記憶能力の低下抑制、維持、又は向上のために本発明の学習記憶能力増強組成物を好ましく用いることができる。学習記憶能力の低下の懸念の原因としては、前述と同様、例えば加齢及び病気等が挙げられる。学習記憶能力の低下が懸念される対象者としては、例えば、中年又は初老(例えば40~60歳程度)の対象者や、初期又は軽症の病気を患った対象者等が挙げられる。ここでの病気としては、例えば認知症、アルツハイマー病等が挙げられる。特に、加齢や病気により、認知機能の低下が懸念される対象者における、学習記憶能力のさらなる低下の抑制、あるいは学習記憶能力の維持又は改善のために、本発明の学習記憶能力増強組成物を好ましく用いることができる。制限はされないが、認知機能の低下が懸念される対象者の記憶力、注意力、判断力、空間認識力等の維持又は改善のためにも、本発明の学習記憶能力増強組成物を用いることができる。
【0016】
健常者も、学習記憶能力の維持、向上、低下抑制のために本発明の学習記憶能力増強組成物を好ましく用いることができる。下述するように、本発明の学習記憶能力増強組成物は食品組成物として用いることもでき、その場合には例えば記憶の悩みや思い出し等をサポートするためにも好ましく用いることができる。
【0017】
なお、本発明の学習記憶能力増強組成物は、ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物にも用いることができる。特にペット及び家畜として飼育される哺乳動物が好ましい。具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が例示できる。
【0018】
本発明の学習記憶能力増強組成物は、例えば、医薬分野及び食品分野で好ましく用いられる。当該組成物は、以下に詳述するように、デヒドロエフソールのみからなるものでもよいし、デヒドロエフソール及び他の成分(各種基剤、担体、添加剤等)を含む組成物であってもよい。また、生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)そのものも当該組成物に含まれる。つまり、デヒドロエフソール含有生体抽出物(及び必要に応じてさらに他の成分が配合されたもの)も本発明のデヒドロエフソールを含有する学習記憶能力増強組成物に含まれる。なお、組成物とは通常複数の成分からなる物であるため、本発明の学習記憶能力増強組成物がデヒドロエフソールのみからなる場合、組成物と表記することは適当ではないかもしれないが、本明細書ではデヒドロエフソールのみからなる場合であっても組成物と表記する。(すなわち、当該学習記憶能力増強組成物の表記は、学習記憶能力増強剤との表記と同義である。)
【0019】
本発明の学習記憶能力増強組成物を医薬分野(医薬品及び医薬部外品を含む)にて用いる場合、当該組成物(以下「本発明に係る医薬組成物」と記載することがある)は、デヒドロエフソールのみからなるものでもよいし、他の成分を配合した組成物でもよい。例えば、本発明に係る医薬組成物においては、有効成分であるデヒドロエフソールに、必要に応じて薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、粘稠化剤等)等を配合することができる。このような基材、担体、添加剤等は、例えば医薬品添加物辞典2016(株式会社薬事日報社)等に具体的に記載されており、例えばこれに記載されるものを用いることができる。また製剤形態も特に制限されず、常法により有効成分及びその他の成分を混合し、例えば錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアブル剤、ソフト錠剤等の製剤に調製することができる。例えば、錠剤の製造は打錠法により行い得る。混合した原料をそのまま打錠する直接打錠法、混合した原料を顆粒にしてから打錠する顆粒打錠法、のいずれも用い得る。また例えば、カプセル剤の場合はソフトカプセル及びハードカプセルのいずれであってもよい。
【0020】
本発明に係る医薬組成物におけるデヒドロエフソールの配合量は、学習記憶能力増強効果が発揮される限り特に制限されず、対象者に応じて適宜設定できる。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0021】
本発明に係る医薬組成物の投与時期は特に限定されず、例えば製剤形態、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度等を考慮して適宜投与時期を選択することが可能である。なお、投与形態は特に制限されないが、経口投与及び経血管投与(経静脈投与、経動脈投与)が好ましく、経口投与がより好ましい。
【0022】
本発明に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度、その他の条件等に応じて適宜選択され得る。特に含まれるデヒドロエフソール量を基準として、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。特に制限はされないが、例えば、成人一日あたりに投与されるデヒドロエフソール量は、1~50mg程度が好ましく、5~30mg程度、6~24mg程度、10~24mg程度、又は12~24mg程度がより好ましい。なお、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて投与することができる。非ヒト哺乳動物の場合も、当該人の場合を参考として適宜投与量を設定できる。
【0023】
本発明の学習記憶能力増強組成物を食品組成物(例えば飲食品や食品添加物)として用いる場合、当該組成物(以下「本発明に係る食品組成物」と記載することがある)は、デヒドロエフソール、及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤、その他飲食品として利用され得る成分・材料等が適宜配合されたものである。例えば、デヒドロエフソールを含む、学習記憶能力増強用の加工食品、飲料、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、又は病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等の食品組成物が例示できる。特に制限はされないが、当該食品組成物に配合されるデヒドロエフソールが生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)である場合は、例えば当該抽出物が配合された加工食品、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品、サプリメント、病者用食品等であってもよい。また、デヒドロエフソールを例えば粉末状にする等して、飲料類(ジュース等)、菓子類、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものであってもよい。なお、本発明に係る食品組成物は、近い将来に学習記憶能力低下を生じることが予測される場合に、予防的に用いることもできる。また、病院食とは病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは被介護者用の食事である。本発明に係る食品組成物は、特に入院、自宅療養等されている患者、あるいは介護を受けられている患者であって学習記憶能力低下を感じている対象者用の病院食、病人食又は介護食として好ましく用いることができる。
【0024】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、本発明に係る食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態に調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましい。ただし、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の、本発明に係る食品組成物は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0025】
本発明に係る食品組成物におけるデヒドロエフソールの配合量は、学習記憶能力増強効果が発揮され得る限り特に制限されない。、好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0026】
本発明に係る食品組成物は、学習記憶能力増強のために好ましく用いることができる。また、摂取量、摂取対象等は、例えば上述した本発明に係る医薬組成物と同様であることが好ましい。
【0027】
本発明は、デヒドロエフソールを配合する工程を含む、学習記憶能力増強組成物の製造方法、並びに、デヒドロエフソール(好ましくは上述のデヒドロエフソールを含有する学習記憶能力増強組成物)を投与することにより、学習記憶能力を増強する方法、も包含する。これらの方法における各種条件は、上述したとおりである。
【0028】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例
【0029】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
アルツハイマー病モデルであるβアミロイド脳室内投与マウスを用いて学習記憶障害に対する被験物質(具体的にはエフソール又はデヒドロエフソール)の効果を、Y字型迷路試験を用いて検討した。Y字型迷路試験は学習記憶障害(特に短期記憶障害)を検討するために一般的に用いられる試験である。なお、被験物質として用いたエフソール及びデヒドロエフソールの構造式を次に示す。
【0030】
【化2】
【0031】
当該検討は、具体的には、次のようにして行った。マウスは、Slc:ddY雄性マウスを日本エスエルシー株式会社から購入して用いた。購入後、5日間の検疫期間、その後3日間の馴化期間を設けた。被験物質は1日1回、14日間反復経口投与し、投与6日にβアミロイド(2mM水溶液3μL)を脳室内に単回投与し、投与12日の被験物質投与 1時間後にY字型迷路試験を行った。
【0032】
群構成は、コントロールとして、注射用水を脳室内投与し媒体(0.5%CMC-Na)を経口投与する偽手術群、βアミロイドを脳室内投与し媒体(0.5%CMC-Na)を経口投与する媒体対照群を設け、エフソール10mg/kg群及びデヒドロエフソール10mg/kg群を、それぞれ1群10例(n=10)で設定した。群分けは、コンピュータプログラム(IBUKI、株式会社日本バイオリサーチセンター)を用いて、体重を層別に分けたのち、無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ等しくなるように行った。注射用水又はβアミロイドの脳室内投与はペントバルビタールナトリウムにより麻酔を施して行った。なお、0.5%CMC-Naはカルボキシメチルセルロースナトリウムを0.5w/v%水溶液(注射用水で調製)である。また、被験物質は、それぞれ0.5%CMC-Naに懸濁させて用いた。経口投与は、ゾンデを用いて強制投与により行った。
【0033】
なお、エフソール及びデヒドロエフソールは、いずれも、イ草(全草又は芯)の50%エタノール水溶液抽出液を、さらに精製して得たものを用いた。図1に、イ草全草50%エタノール水溶液抽出液又はイ草芯50%エタノール水溶液抽出液をHPLC解析して得たクロマトグラムを示す。イ草芯についての抽出、分画及び精製について次に詳説する。市販の灯心草(イグサ科イグサの茎の髄を乾燥したもの)5kgを20倍量の50%含水エタノール中で80℃加熱下、2時間還流抽出を2回行いろ過した。ろ液を減圧下濃縮し、濃縮液に1.3リットルの蒸留水を加えて懸濁させ、1.3リットルの酢酸エチルを加えて分液ロートで液液分配抽出を行った。これを3回繰り返し、水層と酢酸エチル層に分けた。酢酸エチルは減圧下溶媒留去し乾燥して酢酸エチルエキス26.2gを得た。この酢酸エチルエキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(510ミリリットル)でAからMの13個のフラクションに分画した(溶出液:2%メタノール含有クロロホルム~40%メタノール含有クロロホルム)。フラクションFおよびGを分取HPLCで精製し、化合物1(0.218グラム)、化合物2(1.725グラム)を得た。化合物1および2はNMRスペクトルを測定しそれぞれエフソールおよびデヒドロエフソールと同定した。
【0034】
Y字型迷路試験(自発的交替行動試験)には、1本のアームの長さが 39.5cm、床の幅が 4.5cm、壁の高さが 12cmで、3アームがそれぞれ 120度に分岐しているプラスチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム)を用いた(図2)。
【0035】
測定前に、装置の床面の照度が 10~40Lux(実測値:13.1~16.9 Lux)になるように調節した。マウスをY字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させた。マウスが測定時間内に移動したアームの順番を記録し、アームに移動した回数を数え、総エントリー数とした。次に、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。さらに下記の式を用いて自発的交替行動率を算出した。
【0036】
自発的交替行動率(%)=[自発的交替行動数/(総エントリー数-2)]× 100
つまり、Y字型迷路の各アームをA、B、Cとし、例えばマウスがACBABACBABの順で移動した場合は、自発的交替行動数はACB、CBA、BAC、ACB、CBAの5となり、これを総エントリー数10から2を引いた8で割った値に100を掛けた数値62.5が自発的交替行動率となる(図2)。
【0037】
自発的交替行動率(%)=[5/(10 -2)]× 100 = 62.5%
【0038】
各群の自発的交替行動率(%)を図3に示す。1群は偽手術群を、2群は媒体対照群を、3群はエフソール10mg/kg群を、4群はデヒドロエフソール10mg/kg群を、それぞれ示す。統計処理としては、2群間比較検定はF検定による等分散性の検定を行い、等分散の場合は Studentのt検定、不等分散の場合は Aspin-Welch検定を行った。媒体対照群は偽手術群と比較して、自発的交替行動率(%)が有意に低下し、学習記憶障害が認められた。エフソール10mg/kg群は、媒体対照群と比較して、自発的交替行動率にほとんど差は認められなかったが、デヒドロエフソール10mg/kg群は自発的交替行動率の上昇傾向(p=0.052)が認められ、学習記憶障害の改善が認められた。
【0039】
そこで、さらにデヒドロエフソールの学習記憶障害改善能を検討するため、1群のマウス数を12(n=12)とし、さらに、デヒドロエフソール投与量を変化させ、10mg/kg群に加え、5mg/kg群、及び15mg/kg群についても検討した。上記と同様のスケジュール及び方法によりY字型迷路試験を行い、各群について自発的交替行動率(%)を算出した。結果を図4に示す。1群は偽手術群を、2群は媒体対照群を、3群はデヒドロエフソール5mg/kg群を、4群はデヒドロエフソール10mg/kg群を、5群はデヒドロエフソール15mg/kg群を、それぞれ示す。統計処理としては、1群と2群の2群間比較検定、2群と3~5群の多重比較検定を行った。2群間比較検定はF検定による等分散性の検定を行い、等分散であったためStudentのt検定を行った。また、多重比較検定はBartlett検定による等分散性の検定を行い、等分散であったためDunnett検定を行った。媒体対照群は偽手術群と比較して、自発的交替行動率(%)が有意に低下し、学習記憶障害が認められた。デヒドロエフソール5mg/kg群は、媒体対照群と比較して、自発的交替行動率に有意差は認められなかったものの、学習記憶障害改善傾向が認められた。デヒドロエフソール10mg/kg群及び15mg/kg群は自発的交替行動率の有意な上昇が認められ、学習記憶障害の顕著な改善が認められた。また、以上の通り、デヒドロエフソールは用量依存的にβアミロイド脳室内投与マウスの学習記憶障害に対して改善効果を示すことが明らかとなった。
【0040】
以上の結果から、デヒドロエフソールは学習記憶能力増強のために有用であることがわかった。
図1
図2
図3
図4