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  • 特許-スパッタ装置及びこれを用いた成膜方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】スパッタ装置及びこれを用いた成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220726BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C23C14/34 M
C23C14/34 J
C23C14/50 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020065581
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161506
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大胡 嘉規
(72)【発明者】
【氏名】宮内 充祐
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴昭
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-013217(JP,A)
【文献】特開2016-169401(JP,A)
【文献】特開2004-250784(JP,A)
【文献】特開2017-120781(JP,A)
【文献】特開2006-022389(JP,A)
【文献】特開2004-332003(JP,A)
【文献】特開2012-216765(JP,A)
【文献】特開2017-119898(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102002668(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に膜を形成する成膜チャンバと、
前記成膜チャンバ内を減圧雰囲気にする減圧装置と、
前記成膜チャンバ内にて回転可能に設けられ、一方の主面において前記基板を自転可能に保持する基板保持部を有する円盤状の基板ホルダと、
前記基板ホルダを回転させる駆動装置と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの外周領域に対応する空間に形成され、スパッタ電極が設けられた成膜プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの中心領域に対応する空間に形成され、複数のプラズマ発生装置が設けられた反応プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内に放電ガス及び反応ガスを導入するガス導入装置と、を備えるスパッタ装置。
【請求項2】
基板に膜を形成する成膜チャンバと、
前記成膜チャンバ内を減圧雰囲気にする減圧装置と、
前記成膜チャンバ内にて回転可能に設けられ、一方の主面において前記基板を自転可能に保持する基板保持部を有する円盤状の基板ホルダと、
前記基板ホルダを回転させる駆動装置と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの外周領域に対応する空間に形成され、スパッタ電極が設けられた成膜プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの中心領域に対応する空間に形成され、プラズマ発生装置が設けられた反応プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内に放電ガス及び反応ガスを導入するガス導入装置と、
前記基板ホルダの回転にともない、前記基板保持部を、前記基板ホルダに対して自転させるとともに前記成膜チャンバに対して公転させる遊星歯車機構と、を備えるスパッタ装置。
【請求項3】
前記反応プロセス領域は、前記基板ホルダの中心の直上に対応する中央部空間と、当該中央部空間の周囲の周囲空間とを含み、
前記プラズマ発生装置は、前記中央部空間及び/又は前記周囲空間に設けられている請求項1又は2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記プラズマ発生装置は、前記反応プロセス領域に複数設けられている請求項2に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記基板ホルダの回転にともない、前記基板保持部を、前記基板ホルダに対して自転させるとともに前記成膜チャンバに対して公転させる遊星歯車機構を有する請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記ガス導入装置は、放電ガスを独立して前記成膜チャンバ内に導入する第1ガス導入部と、反応ガスを独立して前記成膜チャンバに導入する第2ガス導入部を含み、
前記第1ガス導入部は、前記反応プロセス領域に比べて相対的に前記成膜プロセス領域に近い位置に設けられ、
前記第2ガス導入部は、前記反応プロセス領域に比べて相対的に前記成膜プロセス領域から遠い位置に設けられている請求項1~のいずれか一項に記載のスパッタ装置。
【請求項7】
前記基板、前記成膜プロセス領域及び前記反応プロセス領域は、前記基板ホルダの一方の主面側に設けられ、
前記減圧装置は、前記基板ホルダの他方の主面側の空間に対面する成膜チャンバの壁面に吸引部を有する請求項1~のいずれか一項に記載のスパッタ装置。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のスパッタ装置を用い、
前記基板保持部に保持された基板に対し、前記基板ホルダの回転にともない前記基板保持部が自転しながら、前記成膜プロセス領域において金属モード又は遷移モードによる成膜処理を行い、前記反応プロセス領域においてプラズマ処理を行う成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板などの表面に成膜するためのスパッタ装置及びこれを用いた成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空チャンバの成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対し、スパッタすることで基板に中間薄膜を形成し、中間薄膜を反応プロセス領域においてプラズマ処理することで最終薄膜を形成する薄膜形成装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-102436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の薄膜形成装置では、スパッタ手段を有する成膜プロセス領域と、プラズマ発生手段を有する反応プロセス領域とを、円盤状の基板ホルダの円周上に設けているので、成膜プロセス領域を増設しようとしてもそのスペースが狭いという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、成膜プロセス領域の設定スペースが広いスパッタ装置及びこれを用いた成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板に膜を形成する成膜チャンバと、
前記成膜チャンバ内を減圧雰囲気にする減圧装置と、
前記成膜チャンバ内にて回転可能に設けられ、一方の主面において前記基板を自転可能に保持する基板保持部を有する円盤状の基板ホルダと、
前記基板ホルダを回転させる駆動装置と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの外周領域に対応する空間に形成され、スパッタ電極が設けられた成膜プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの中心領域に対応する空間に形成され、複数のプラズマ発生装置が設けられた反応プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内に放電ガス及び反応ガスを導入するガス導入装置と、を備えたスパッタ装置によって上記課題を解決する。
【0007】
また本発明は、基板に膜を形成する成膜チャンバと、
前記成膜チャンバ内を減圧雰囲気にする減圧装置と、
前記成膜チャンバ内にて回転可能に設けられ、一方の主面において前記基板を自転可能に保持する基板保持部を有する円盤状の基板ホルダと、
前記基板ホルダを回転させる駆動装置と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの外周領域に対応する空間に形成され、スパッタ電極が設けられた成膜プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内の、前記基板ホルダの中心領域に対応する空間に形成され、プラズマ発生装置が設けられた反応プロセス領域と、
前記成膜チャンバ内に放電ガス及び反応ガスを導入するガス導入装置と、
前記基板ホルダの回転にともない、前記基板保持部を、前記基板ホルダに対して自転させるとともに前記成膜チャンバに対して公転させる遊星歯車機構と、を備えるスパッタ装置によって上記課題を解決する。
【0008】
上記発明において、前記反応プロセス領域は、前記基板ホルダの中心の直上に対応する中央部空間と、当該中央部空間の周囲の周囲空間とを含み、
前記プラズマ発生装置は、前記中央部空間及び/又は前記周囲空間に設けられていることが好ましい。
【0009】
上記発明において、前記基板ホルダの回転にともない、前記基板保持部を、前記基板ホルダに対して自転させるとともに前記成膜チャンバに対して公転させる遊星歯車機構を有することが好ましい。
【0010】
上記発明において、前記ガス導入装置は、放電ガスを独立して前記成膜チャンバ内に導入する第1導入部と、反応ガスを独立して前記成膜チャンバに導入する第2導入部を含み、
前記第1ガス導入部は、前記反応プロセス領域に比べて相対的に前記成膜プロセス領域に近い位置に設けられ、前記第2ガス導入部は、前記反応プロセス領域に比べて相対的に前記成膜プロセス領域から遠い位置に設けられていることが好ましい。
【0011】
上記発明において、前記基板、前記成膜プロセス領域及び前記反応プロセス領域は、前記基板ホルダの一方の主面側に設けられ、
前記減圧装置は、前記基板ホルダの他方の主面側の空間に対面する成膜チャンバの壁面に吸引部を有することが好ましい。
【0012】
本発明は、上記スパッタ装置を用い、
前記基板保持部に保持された基板に対し、前記基板ホルダの回転にともない前記基板保持部が自転しながら、前記成膜プロセス領域において金属モード又は遷移モードによる成膜処理を行い、前記反応プロセス領域においてプラズマ処理を行う成膜方法によっても、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラズマ発生装置が設けられた反応プロセス領域が、成膜チャンバ内の基板ホルダの中心領域に対応する空間に形成されているので、成膜チャンバ内の、基板ホルダの外周領域に対応する空間を成膜プロセス領域として設定することができる。これにより、成膜プロセス領域の設定スペースが広いスパッタ装置及びこれを用いた成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るスパッタ装置を含む成膜装置の一実施の形態を示す平面図である。
図2】本発明に係るスパッタ装置の一実施の形態を示す断面図である。
図3A図2のスパッタ装置の基板ホルダの一例を示す平面図である。
図3B図2のスパッタ装置の基板ホルダの他例を示す平面図である。
図4】所定の反応性スパッタ条件において、反応ガス流量に対する成膜速度の特性プロファイルの代表例を示すグラフである。
図5】本発明に係るスパッタ装置を含む成膜装置の他の実施の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るスパッタ装置を利用した成膜装置の一実施の形態を示す平面図である。図1に示す成膜装置2は、たとえばシリコンウェーハの表面に誘電体膜を形成する成膜装置であって、2つのスパッタ装置1,1と、成膜されるシリコンウェーハなどの基板Sのハンドリングロボット21が設置された移載チャンバ22と、成膜前の基板Sを移載チャンバ22に搬入する搬入チャンバ23と、成膜後の基板Sを移載チャンバ22から搬出する搬出チャンバ24と、を備える。
【0016】
2つのスパッタ装置1,1と移載チャンバ22との間には、それぞれゲートバルブ25a,25bが設けられ、搬入チャンバ23と移載チャンバ22との間及び搬出チャンバ24と移載チャンバ22との間には、それぞれゲートバルブ26a,26bが設けられている。これらのゲートバルブ25a,25bにより、スパッタ装置1,1の成膜チャンバ11,11と移載チャンバ22との気密性が保たれ、ゲートバルブ26a,26bにより、移載チャンバ22と搬入チャンバ23との気密性及び移載チャンバ22と搬出チャンバ24との気密性が保たれる。また、搬入チャンバ23の入口及び搬出チャンバ24の出口には、それぞれゲートバルブ27a,27bが設けられ、これにより成膜装置2が設けられたクリーンルームと搬入チャンバ23及び搬出チャンバ24との気密性が保たれる。
【0017】
そして、成膜前の基板Sは、搬入チャンバ23のゲートバルブ26aを閉じ、ゲートバルブ27aを開いた状態で、搬入チャンバ23に搬入されたのち、搬入チャンバ23のゲートバルブ27aを閉じ、ゲートバルブ26aを開き、この状態でハンドリングロボット21により基板Sを移載チャンバ22に搬入する。次いで、搬入チャンバ23のゲートバルブ26aを閉じ、一方のスパッタ装置1のゲートバルブ25aを開き、ハンドリングロボット21により基板Sをスパッタ装置1の基板ホルダ12の所定位置に載せたのち、ゲートバルブ25aを閉じ、成膜処理を実行する。
【0018】
成膜処理を終えたら、スパッタ装置1のゲートバルブ25aを開き、成膜処理を終了した基板Sをハンドリングロボット21により成膜チャンバ11から移載チャンバ22へ搬出し、搬出チャンバ24のゲートバルブ27bを閉じた状態でゲートバルブ26bを開き、成膜処理を終了した基板Sを搬出チャンバ24に搬入する。最後に、搬出チャンバ24のゲートバルブ26bを閉じたのち、ゲートバルブ27bを開き、成膜処理を終了した基板Sを成膜装置2から搬出する。なお、図1に示す成膜装置2は、本発明に係るスパッタ装置1の使用例であって、本発明を限定するものではない。
【0019】
次に、本発明に係るスパッタ装置1の一実施の形態を説明する。図2は、本発明の実施形態に係るスパッタ装置1を示す断面図であり、図1のII-II線に沿う断面図に相当する。本実施形態のスパッタ装置1は、たとえば、目的とする膜厚よりも薄い膜をスパッタで形成したのち、プラズマ処理することを繰り返すことで目的とする膜厚の膜を基板に形成することに利用することができる。そのため、本実施形態のスパッタ装置1は、基板Sに膜を形成する成膜チャンバ11と、成膜チャンバ11の内部空間を減圧雰囲気にする減圧装置19と、成膜チャンバ11の内部において回転可能に設けられ、一方の主面において基板Sを自転可能に保持する基板保持部14を有する円盤状の基板ホルダ12と、基板ホルダ12を回転させる駆動装置13と、成膜チャンバ11の内部空間のうち、基板ホルダ12の外周領域に対応する空間に形成され、スパッタ電極16が設けられた成膜プロセス領域R1と、成膜チャンバ11の内部空間のうち、基板ホルダ12の中心領域に対応する空間に形成され、プラズマ発生装置17が設けられた反応プロセス領域R2と、成膜チャンバ11の内部空間に放電ガス及び反応ガスを導入するガス導入装置18と、を備える。
【0020】
成膜チャンバ11は、実質的に密閉空間を形成する中空筐体からなり、たとえば図1に示すように平面視において正五角形とされている。成膜チャンバ11の5つの側壁面の一つに、図1に示すようにゲートバルブ25a又は25bが設けられ、ここから基板S(基板ホルダ12又は基板保持部14と共にでもよい)の搬入及び搬出が行われる。また、成膜チャンバ11の底壁面には、ターボ分子ポンプなどの減圧装置19の吸引部191が複数形成され、成膜チャンバ11の内部空間の気体を底壁面に向かって吸引することで、成膜チャンバ11を減圧雰囲気に維持する。
【0021】
成膜チャンバ11の内部空間には、成膜される基板Sを保持するための基板ホルダ12が設けられている。本実施形態の基板ホルダ12は、円形・平板状に形成され、駆動装置13の回転軸131に固定され、支持されている。駆動装置13は、たとえば電動モータからなり、成膜チャンバ11に対して固定されている。この駆動装置13を作動させることにより、基板ホルダ12は、回転軸131を中心にして、所定方向に所定速度(たとえば10~200rpm)で回転する。本実施形態では、基板の直径が10~600mmであるのに対し、基板ホルダ12の直径がたとえば400~2600mmである。
【0022】
本実施形態の基板ホルダ12には、その円周上に回転中心を有する複数の基板保持部14が、それぞれ回転可能に設けられ、それぞれの基板保持部14の上面に、成膜対象たる基板Sが載置される。すなわち、基板保持部14は、図2に示すように、その軸部141が、軸受151を介して基板ホルダ12に回転自在に支持されている。
【0023】
図3Aは、本実施形態のスパッタ装置1の基板ホルダ12の一例を示す平面図、図3Bは、本実施形態のスパッタ装置1の基板ホルダ12の他例を示す平面図である。図3A及び図3Bに示す実施形態では、基板ホルダ12に対し、同じ円周上に回転中心を有する4つの基板保持部14が、円周方向に等配位の位置に設けられている。そして、図3Aに示す実施形態では、1つの基板保持部14に複数枚の基板S(同図に示す例では3枚の基板S)が、回転中心に対して等配位置に載置される。これに対し、図3Bに示す実施形態では、1つの基板保持部14に1枚の基板Sが、回転中心に載置される。本発明のスパッタ装置1は、図3A及び図3Bに示す何れの基板保持部14を採用してもよい。また成膜時に基板Sを加熱する必要がある場合に対応して、基板保持部14に基板Sを加熱する加熱器を設けてもよい。
【0024】
本実施形態のスパッタ装置1は、基板ホルダ12の回転にともない、基板保持部14のそれぞれを基板ホルダ12に対して自転させるとともに、基板保持部14を成膜チャンバ11に対して公転させる遊星歯車機構15を有する。本実施形態の遊星歯車機構15は、図2に示すように、基板保持部14の軸部141に固定された環状の磁気歯車152と、駆動装置13の回転軸131を囲む位置において成膜チャンバ11に固定され、磁気歯車152に対面する環状の磁気歯車153と、を備える。そして、駆動装置13により回転軸131が回転すると、これに伴い基板ホルダ12と基板保持部14とが、回転軸131を中心に回転する。すなわち、基板保持部14は、回転軸131の廻りに公転する。このとき、磁気歯車153は回転しないので、基板保持部14の軸部141に固定された磁気歯車152は、この磁気歯車153の磁気面に、対面しながら移動する。これにより、磁気歯車152が軸部141を中心に回転するので、基板保持部14は、基板ホルダ12に対して自転することになる。
【0025】
本実施形態のスパッタ装置1では、成膜チャンバ11の内部空間のうち、基板ホルダ12の外周領域に、複数のスパッタ電極16が設けられ、ここに成膜プロセス領域R1が形成される。また、同じく成膜チャンバ11の内部空間のうち、基板ホルダ12の中心領域に、プラズマ発生装置17が設けられ、ここに反応プロセス領域R2が形成される。成膜チャンバ11の内部空間に形成される中心領域(すなわち、反応プロセス領域R2)は、成膜チャンバ11の天井面と基板ホルダ12の上面との間であって、基板ホルダ12の回転中心線を含む円筒形状の領域をいい、基板ホルダ12の回転中心線の直上に対応する中央部空間と、当該中央部空間の周囲の周囲空間とが含まれる空間をいう。本実施形態のプラズマ発生装置17は、図1及び2を参照して後述するように、中心領域(反応プロセス領域R2)の全域にわたって一つ設けられている。
【0026】
本実施形態のスパッタ電極16は、図1の平面図に示すように、たとえば正五角形の5つの辺のうち4つの辺に相当する位置に設けられている。つまり、ゲートバルブ25a,25bが設けられた辺以外の4つの辺に相当する位置に4つのスパッタ電極16が設けられている。なお、スパッタ電極16の数量は本発明を限定するものではないが、スパッタ電極16を多数設けたい場合には、本発明の効果がより発揮される。
【0027】
本実施形態のスパッタ電極16は、一対のマグネトロンスパッタ電極と、トランスを介して接続された交流電源とを含み、マグネトロンスパッタ電極の先端には、成膜材料となるターゲットTが装着される。スパッタ電極16は、ターゲットTの表面が、基板ホルダ12の外周領域に対面するような姿勢で成膜チャンバ11に固定され、成膜時には、交流電源により1k~100kHzの交番電界がターゲットTに印加される。
【0028】
本実施形態のプラズマ発生装置17は、図1及び図2に示すように、基板ホルダ12の回転中心線上又はこれから400mm以内の範囲の成膜チャンバ11の天井壁に設置されている。本実施形態のプラズマ発生装置17は、特に限定されず、容量結合プラズマ(CCP)、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECRP)、ヘリコン波プラズマ(HP)、表面波プラズマ(SWP)などの放電方式のいずれかを採用したプラズマ発生装置を用いることができる。プラズマ発生装置17で使用する周波数は、たとえば0.1~100MHz、2.45GHzである。
【0029】
上述したとおり、図1及び図2に示す実施形態のスパッタ装置1のプラズマ発生装置17は、中心領域(反応プロセス領域R2)の全体にわたって一つ設けられている。これにより、より小さい成膜チャンバ11の内部に、より多くのスパッタ電極16を配置することができるが、基板保持部14の直径によっては、中心領域に配置したプラズマ発生装置17と基板Sの回転軌道が離れる場合がある。そのような場合は、図5の中央上に示すスパッタ装置1のように、プラズマ発生装置17の直下に基板Sの回転軌道が来るように、中心領域内において、複数(ここでは2つ)のプラズマ発生装置17を設けてもよいし、中心領域内において、回転軸131からオフセットした位置に設けてもよい。また、図5の右下に示すスパッタ装置1のように、1つのプラズマ発生装置17であっても、基板Sの回転軌道に合せて、中心領域内において回転軸131からオフセットした位置に設けてもよい。
【0030】
図1及び図2に戻り、本実施形態のガス導入装置18は、放電ガス(スパッタ処理においてターゲットに衝突する電子を放出するガス)を貯留するガスボンベ181aと、反応ガスを貯留するガスボンベ181bとを備える。放電ガスとしては特に限定されないが、たとえばアルゴンガスなどの不活性ガスが用いられる。また反応ガスとしては、目的とする膜種に応じたガスが選択され、たとえば酸化膜である場合は酸素ガス、窒化膜である場合には窒素ガスが用いられる。
【0031】
本実施形態のガス導入装置18は、ガスボンベ181aに貯留された放電ガスを成膜チャンバ11の内部に導入する複数の第1ガス導入部183aを含み、それぞれの第1ガス導入部183aからのガス流量は、マスフローコントローラ182aにより独立して制御される。同様に、本実施形態のガス導入装置18は、ガスボンベ181bに貯留された反応ガスを成膜チャンバ11の内部に導入する複数の第2ガス導入部183bを含み、それぞれの第2ガス導入部183bからのガス流量は、マスフローコントローラ182bにより独立して制御される。
【0032】
ここで、放電ガスを導入する第1ガス導入部183aは、反応プロセス領域R2に比べて相対的に成膜プロセス領域R1に近い位置に設けられ、反応ガスを導入する第2ガス導入部183bは、反応プロセス領域R2に比べて相対的に成膜プロセス領域R1から遠い位置に設けられている。すなわち、図2に示すように、第1ガス導入部183aと第2ガス導入部183bは、プラズマ発生装置17の周囲に設けられているが、第2ガス導入部183bがプラズマ発生装置17の廻りに近接して設けられ、第1ガス導入部183aは、その廻りに設けられている。
【0033】
以上のように構成された本実施形態のスパッタ装置1では、図2に示すプラズマ発生装置17と基板ホルダ12の上面との間であって基板ホルダ12の回転中心線を含む円筒形状の中心領域である反応プロセス領域R2と、当該円筒形状の反応プロセス領域R2の外周空間であって、スパッタ電極16と基板ホルダ12の上面との間に、同じく円筒状の外周領域である成膜プロセス領域R1が、見かけ上、形成される。これら中心領域の反応プロセス領域R2と外周領域の成膜プロセス領域R1との間には明確な境界面はないが、基板ホルダ12の上面にて自転する基板保持部14に載置された基板Sは、成膜チャンバ11内で自転と公転を繰り返す間に、規則的な周期で成膜プロセス領域R1と反応プロセス領域R2とを通過することになる。
【0034】
そして、成膜時には、マスフローコントローラ182aで流量が調整された放電ガスが、ガスボンベ181aから成膜チャンバ11内に導かれるとともに、マスフローコントローラ182bで流量が調整された反応ガスが、ガスボンベ181bから成膜チャンバ11内に導かれ、成膜プロセス領域R1でスパッタを行うための雰囲気が調整される。そして、スパッタ電極16において、交流電源からマグネトロンスパッタ電極に周波数1~100KHzの交流電圧を印加することにより、ターゲットTに対してスパッタを行う。このスパッタにより、ターゲットTから膜原料物質が基板Sへ向けて供給され、基板Sの表面に金属膜又は不完全金属化合物からなる中間薄膜が形成される。
【0035】
図4は、所定の反応性スパッタ条件において、酸素ガスや窒素ガスその他の所定種の反応ガスの流量に対する成膜速度(単位時間当たりの堆積量)の特性プロファイルを示すグラフである。反応ガス流量が相対的に少量である範囲は金属モードと称され、反応ガス流量が相対的に多量である範囲は反応モード(反応ガスとして酸素を用いた場合は酸化モードともいう。)と称され、これらの間は遷移モードと称される領域がある。反応ガス流量に対する成膜速度は、反応ガス流量が0から遷移モードに達するまで高い成膜速度を有し、遷移モードの範囲近傍において急激に減少変化し、その後は低い成膜速度となる。ターゲットの金属種によってプロファイルの傾きに多少の相違はあるが、概略の傾向は金属スパッタに共通する。すなわち、反応モードでは成膜速度が遅く、金属モードでは成膜速度が速い。上述した成膜プロセス領域R1では、放電ガスの流量と反応ガスの流量とを調整することで、金属モード又は遷移モードの範囲において成膜処理を行う。
【0036】
一方、成膜チャンバ11内の中心領域の反応プロセス領域R2では、マスフローコントローラ182aで流量が調整された放電ガスが、ガスボンベ181aから成膜チャンバ11内に導かれるとともに、マスフローコントローラ182bで流量が調整された反応ガスが、ガスボンベ181bから成膜チャンバ11内に導かれ、反応プロセス領域R2でプラズマ処理を行うための雰囲気が調整されている。また、プラズマ発生装置17により、反応プロセス領域R2に反応ガスのプラズマが発生している。プラズマ発生装置17から供給されるイオン種及びラジカル種は、ある程度の緩和時間を有し、プラズマが集中しているプラズマ発生装置17から、たとえば100~200mm程度の一定の距離があっても、基板Sにイオン種やラジカル種を供給することができる。そして、成膜プロセス領域R1を通過することで中間薄膜が形成された基板Sが、この反応プロセス領域R2を通過することで、反応ガスのプラズマによるプラズマ処理が施され、中間薄膜が所定の組成の薄膜に変換する。このようにして、基板Sが、成膜プロセス領域R1と反応プロセス領域R2とを周期的に通過することで最終的に所望の薄膜が形成されることになる。
【0037】
以上のとおり、本実施形態のスパッタ装置1及びこれを用いた成膜方法によれば、プラズマ発生装置17が設けられた反応プロセス領域R1が、成膜チャンバ11内の基板ホルダ12の中心領域に対応する空間に形成されているので、成膜チャンバ11内の、基板ホルダ12の外周領域に対応する空間を成膜プロセス領域R2として設定することができる。これにより、成膜プロセス領域R2の設定スペースが広いスパッタ装置1及びこれを用いた成膜方法を提供することができる。
【0038】
また本実施形態のスパッタ装置1及びこれを用いた成膜方法によれば、基板ホルダ12の回転にともない、基板保持部14を基板ホルダ12に対して自転させるとともに成膜チャンバ11に対して公転させる遊星歯車機構15を有するので、基板保持部14が自転しない場合に比べて、基板Sが成膜プロセス領域R1と反応プロセス領域R2とを交互に通過する頻度が高くなる。その結果、反応性スパッタにより生成した薄膜をより効率的にプラズマ処理することができる。
【0039】
また本実施形態のスパッタ装置1及びこれを用いた成膜方法によれば、放電ガスを導く第1ガス導入部183aは、反応プロセス領域R2に比べて相対的に成膜プロセス領域R1に近い位置に設けられ、反応ガスを導く第2ガス導入部183bは、反応プロセス領域R2に比べて相対的に成膜プロセス領域R1から遠い位置に設けられているので、ターゲットTが反応ガスと反応して酸化や窒化されるのを抑制することができる。これにより、ターゲットTの非エロージョン部に誘電体膜が形成されるのを抑制でき、アーキング現象を低減することができる。
【0040】
また本実施形態のスパッタ装置1及びこれを用いた成膜方法によれば、減圧装置19の吸引部191は、成膜チャンバ11の底壁面に設けられているので、成膜チャンバ11内の気体の流れが制御され、プラズマ発生装置17から供給される中性ガス、イオン、ラジカル及び電子を効率よく基板Sに導くことができる。
【0041】
なお、上述した実施形態は本発明を限定するものではなく、適宜の範囲で改変することができる。たとえば、図2に示すように、基板ホルダ12の上面に、フローティング電位とされる絶縁シールド121を設け、成膜される基板ホルダ12と基板保持部14を含む部品を、スパッタ電極16及びプラズマ発生装置17に対して、電気的にフローティング状態にすることがより好ましい。
【0042】
また、成膜時に、プラズマ発生装置17からの熱量が大きい場合には、基板Sの周辺部品を冷却する冷媒を循環させるように構成してもよい。
【0043】
また、図2に示した成膜方法は、カソードを基板Sの上に配置して成膜する、いわゆるデポダウン方式であるが、本発明はデポアップの方式をとることも可能であり、上述した実施形態は、本発明の成膜方向と基板移載方法を限定するものではない。
【0044】
また、図2に示した遊星回転の駆動を行うための磁気歯車152、153は、従来公知の平歯車、はすば歯車、ねじ歯車、かさ歯車を用いてもよく、上述した実施形態は、本発明の装置機構を限定するものではない。
【符号の説明】
【0045】
1…スパッタ装置
11…成膜チャンバ
12…基板ホルダ
121…絶縁シールド
13…駆動装置
131…回転軸
14…基板保持部
141…軸部
15…遊星歯車機構
151…軸受
152,153…磁気歯車
16…スパッタ電極
17…プラズマ発生装置
18…ガス導入装置
181a,181b…ガスボンベ
182a,182b…マスフローコントローラ
183a…第1ガス導入部
183b…第2ガス導入部
19…減圧装置
191…吸引部
S…基板
T…ターゲット
R1…成膜プロセス領域
R2…反応プロセス領域
2…成膜装置
21…ハンドリングロボット
22…移載チャンバ
23…搬入チャンバ
24…搬出チャンバ
25a,25b,26a,26b,27a,27b…ゲートバルブ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5