(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】無電解めっき装置
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20220726BHJP
C23C 18/16 20060101ALI20220726BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C23C18/31 E
C23C18/16 B
H01L21/288 E
(21)【出願番号】P 2020216621
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2022-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505220929
【氏名又は名称】アスカコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】古澤 孝幸
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-162093(JP,A)
【文献】特開平05-106055(JP,A)
【文献】特開2019-206729(JP,A)
【文献】特開昭52-133038(JP,A)
【文献】特開昭48-073335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/31
C23C 18/16
H01L 21/288
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液が充填されためっき槽と、
前記めっき槽からオーバーフローしためっき液を貯留するリザーブ槽と、
複数の半導体ウェハのめっき面が当接しないように、一定間隔で複数の半導体ウェハを立設して保持する保持手段と、
前記リザーブ槽のめっき液を前記めっき槽へ供給する供給路と、
前記リザーブ槽のめっき液を、前記供給路を介して前記めっき槽へ供給する循環ポンプと、
前記
供給路におけるめっき液の流速を計測する流量計と、
前記リザーブ槽からのめっき液を、前記めっき槽に噴出する複数の噴出口が上部に一定間隔で形成されためっき液供給パイプと、
を備えた無電解めっき装置において、
前記保持手段は、
前面板及び後面板の左右上端側面を連結した左右把持部と、前記前面板及び後面板の同一水平面の左右側面の略中央部を連結した側面保持部と、前記前面板及び後面板の左右下端側面を連結した下部保持部とにより左右両側面を形成し、
複数の半導体ウェハの左右両側部を前記側面保持部に一定間隔で形成された複数の保持溝で保持し、複数の半導体ウェハの左右両側部の下部を前記下部保持部に一定間隔で形成された複数の保持溝で保持することで、複数の半導体ウェハのめっき面を対向させて一定間隔で垂直に保持した状態で運搬可能としたウェハキャリアであり、
前記保持手段で保持する複数の半導体ウェハを立設する一定間隔と、前記めっき液供給パイプの上部に形成される複数の噴出口の一定間隔とは同間隔であり、
前記めっき槽の最下部に設置された前記めっき液供給パイプの上部に
は、前記保持手段を位置決めして載置するための位置決め部を有する載置板が設置されており、前記保持手段の前記下部保持部の長手方向の両端下部の両下端を、前記載置板の前記位置決め部に嵌合して載置することで、前記保持手段に保持された複数の半導体ウェハの一定間隔間に、当該めっき液供給パイプの上部に形成された複数の噴出口が位置するように
前記保持手段を設置可能としたことを特徴とする無電解めっき装置。
【請求項2】
前記めっき液供給パイプは、
めっき液を上方に噴出する前記噴出口の角度を、めっき液供給パイプの中心軸を回動軸として所定範囲で調整可能とし、半導体ウェハのめっき面の中央部から遠い前記めっき液供給パイプの前記噴出口の角度を、めっき面の中央部に向けて角度をつけたことを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき装置。
【請求項3】
前記噴出口は、下方に拡開した円錐状に形成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無電解めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハのめっき面に均一で高品質の金属めっきを形成することができる無電解めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高性能化に伴い、電気導電性を高めるために半導体ウェハの金属(例えば、ニッケル等)によるめっき被膜の更なる均一性質及び高品質が求められている。
【0003】
無電解めっき被膜の形成においては、めっきをする金属イオンが溶解しためっき液と半導体ウェハ表面の金属(例えば、アルミニウム)との化学反応により、めっき皮膜を形成するので、半導体ウェハのめっき面を流れるめっき液の流れ特性がめっき被膜の形成に大きく影響することは周知である。
【0004】
このため、めっき液を充填しためっき槽を大型化して、このめっき槽に半導体ウェハを浸漬して、めっき液の特徴的な流れの影響を小さくして、半導体ウェハのめっき面を流れるめっき液の流れの均質性を図ることが行われている。しかしながら、めっき槽を大型化するとめっき液が大量に必要となるばかりか装置が巨大化し設備コストもかかる。
【0005】
めっき液は、めっき処理を繰り返すにつれて、反応副生成物や被メッキ物から溶出する金属イオン等の副生成物がめっき液中に蓄積されてめっき被膜の品質が劣化するため定期的に交換して使用済みのめっき液は破棄される。破棄されるめっき液には多量の不純物(リン等)が混入しているため、COD(化学的酸素要求量であり、水中の有機物を酸化剤で酸化した際に消費される酸素の量。湖沼、海域の有機 汚濁を測る代表的な指標)の値が大きくなり、環境負荷の要因となる虞がある。
【0006】
このため、設備コストを抑え環境負荷にも考慮しつつ、半導体ウェハの被めっき面に対して膜厚および膜質均一性の優れためっき膜を形成するために、半導体ウェハを反応溶液に浸漬させて半導体ウェハにめっき膜を形成する反応槽と、反応槽の内部に延設され、かつ、反応溶液を噴出する複数の噴出孔が延設方向に沿って設けられた供給管と、供給管の一端側において反応槽に隣接して設けられ、かつ、反応槽からオーバーフローした反応溶液を溜めるリザーブ槽とを備え、複数の噴出孔におけるリザーブ槽からの距離が遠い部分の開口率は、リザーブ槽からの距離が近い部分の開口率より少なくとも部分的に大きくした半導体装置の製造装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている半導体装置の製造装置は、複数の噴出孔におけるリザーブ槽からの距離が遠い部分の開口率をリザーブ槽からの距離が近い部分の開口率より少なくとも部分的に大きくしただけのものである。これでは、キャリアに複数枚垂直に保持された半導体ウェハ間を下部から上部にかけて垂直に通過する反応溶液(めっき液)の流れを完全に均一にすることはできない。
【0009】
このため、無電解めっきの工程でめっき液中に発生する水素等の気泡が半導体ウェハのめっき面に付着して滞留することを完全に防ぐことができず、半導体ウェハの被めっき面の膜厚にムラが生じ、均一性や高品質な膜厚を形成することは困難である。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みで、めっき液が充填されためっき槽を大型化することなく、コスト削減や環境負荷を配慮しつつ、半導体ウェハのめっき面に均一かつ高品質な膜厚の金属めっき(ニッケル)を形成することができる無電解めっき装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、めっき液が充填されためっき槽と、前記めっき槽からオーバーフローしためっき液を貯留するリザーブ槽と、複数の半導体ウェハのめっき面が当接しないように、一定間隔で複数の半導体ウェハを立設して保持する保持手段と、前記リザーブ槽のめっき液を前記めっき槽へ供給する供給路と、前記リザーブ槽のめっき液を、前記供給路を介して前記めっき槽へ供給する循環ポンプと、前記供給路におけるめっき液の流速を計測する流量計と、前記リザーブ槽からのめっき液を、前記めっき槽に噴出する複数の噴出口が上部に一定間隔で形成されためっき液供給パイプと、を備えた無電解めっき装置において、前記保持手段は、前面板及び後面板の左右上端側面を連結した左右把持部と、前記前面板及び後面板の同一水平面の左右側面の略中央部を連結した側面保持部と、前記前面板及び後面板の左右下端側面を連結した下部保持部とにより左右両側面を形成し、複数の半導体ウェハの左右両側部を前記側面保持部に一定間隔で形成された複数の保持溝で保持し、複数の半導体ウェハの左右両側部の下部を前記下部保持部に一定間隔で形成された複数の保持溝で保持することで、複数の半導体ウェハのめっき面を対向させて一定間隔で垂直に保持した状態で運搬可能としたウェハキャリアであり、前記保持手段で保持する複数の半導体ウェハを立設する一定間隔と、前記めっき液供給パイプの上部に形成される複数の噴出口の一定間隔とは同間隔であり、前記めっき槽の最下部に設置された前記めっき液供給パイプの上部には、前記保持手段を位置決めして載置するための位置決め部を有する載置板が設置されており、前記保持手段の前記下部保持部の長手方向の両端下部の両下端を、前記載置板の前記位置決め部に嵌合して載置することで、前記保持手段に保持された複数の半導体ウェハの一定間隔間に、当該めっき液供給パイプの上部に形成された複数の噴出口が位置するように前記保持手段を設置可能としたことを特徴とする無電解めっき装置とした。
【0013】
また、前記めっき液供給パイプは、めっき液を上方に噴出する前記噴出口の角度を、めっき液供給パイプの中心軸を回動軸として所定範囲で調整可能とし、半導体ウェハのめっき面の中央部から遠い前記めっき液供給パイプの前記噴出口の角度を、めっき面の中央部に向けて角度をつけたことを特徴とする。
【0014】
また、前記噴出口は、下方に拡開した円錐状に形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保持手段により複数の半導体ウェハのめっき面が当接しないようにめっき面を対面状態で一定間隔を空けて立設して保持しつつ、めっき槽に浸漬された保持手段の下部に配設されためっき液供給パイプの上部に一定間隔で形成された複数の噴出口から、保持手段に保持された複数の半導体ウェハの一定間隔間に、めっき液を上方に噴出する。このため、複数の半導体ウェハの一定間隔間に下方から上方に流通するめっき液の流れを確実に形成する。すなわち、半導体ウェハのめっき面間を下方から上方に流通するめっき液の流れを限りなく均一にすることができ、無電解めっきの工程でめっき液中に発生する水素等の気泡が半導体ウェハのめっき面に付着して滞留することを可及的に低く抑えることができる。これにより、半導体ウェハの被めっき面の膜厚のムラを防ぎ、膜質均一性を達成することができる。すなわち、めっき液が充填されためっき槽を必要最小限の大きさで、コスト削減や環境負荷を配慮しつつ、半導体ウェハのめっき面に均一かつ高品質な所定厚みの金属めっきを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の無電解めっき装置の構成を説明する正面図である。
【
図2】本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの構成を説明する平面図である。
【
図3】従来の無電解めっき装置のめっき液の流れを説明する模式図である。
【
図4】本実施形態の無電解めっき装置のめっき液の流れを説明する模式図である。
【
図5】本実施形態の無電解めっき装置のめっき槽の構成を説明する斜視図である。
【
図6】本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの上部に設置された保持手段の載置板を説明する斜視図である。
【
図7】本実施形態の無電解めっき装置の半導体ウェハの保持手段であるウェハキャリアの構成を説明する斜視図である。
【
図8】本実施形態の無電解めっき装置の半導体ウェハの保持手段の変形例の構成を説明する斜視図である。
【
図9】本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの噴出口の角度調整を説明する断面図である。
【
図10】本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの噴出口の形状を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、めっき液が充填されためっき槽と、前記めっき槽からオーバーフローしためっき液を貯留するリザーブ槽と、複数の半導体ウェハのめっき面が当接しないように、一定間隔で複数の半導体ウェハを立設して保持する保持手段と、前記リザーブ槽のめっき液を前記めっき槽へ供給する供給路と、前記リザーブ槽のめっき液を、前記供給路を介して前記めっき槽へ供給する循環ポンプと、前記供給路におけるめっき液の流速を計測する流量計と、前記リザーブ槽からのめっき液を、前記めっき槽に噴出する複数の噴出口が上部に一定間隔で形成されためっき液供給パイプと、を備えた無電解めっき装置において、前記保持手段は、前面板及び後面板の左右上端側面を連結した左右把持部と、前記前面板及び後面板の同一水平面の左右側面の略中央部を連結した側面保持部と、前記前面板及び後面板の左右下端側面を連結した下部保持部とにより左右両側面を形成し、複数の半導体ウェハの左右両側部を前記側面保持部に一定間隔で形成された複数の保持溝で保持し、複数の半導体ウェハの左右両側部の下部を前記下部保持部に一定間隔で形成された複数の保持溝で保持することで、複数の半導体ウェハのめっき面を対向させて一定間隔で垂直に保持した状態で運搬可能としたウェハキャリアであり、前記保持手段で保持する複数の半導体ウェハを立設する一定間隔と、前記めっき液供給パイプの上部に形成される複数の噴出口の一定間隔とは同間隔であり、前記めっき槽の最下部に設置された前記めっき液供給パイプの上部には、前記保持手段を位置決めして載置するための位置決め部を有する載置板が設置されており、前記保持手段の前記下部保持部の長手方向の両端下部の両下端を、前記載置板の前記位置決め部に嵌合して載置することで、前記保持手段に保持された複数の半導体ウェハの一定間隔間に、当該めっき液供給パイプの上部に形成された複数の噴出口が位置するように前記保持手段を設置可能としたことを特徴とする無電解めっき装置に関するものである。
【0018】
以下、本発明の無電解めっき装置の実施形態を、
図1~10を参照して説明する。
図1は、本実施形態の無電解めっき装置の構成を説明する正面図である。
図2は、本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの構成を説明する平面図である。
図3は、従来の無電解めっき装置のめっき液の流れを説明する模式図である。
図4は、本実施形態の無電解めっき装置のめっき液の流れを説明する模式図である。
図5は、本実施形態の無電解めっき装置のめっき槽の構成を説明する斜視図である。
図6は、本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの上部に設置された保持手段の載置板を説明する斜視図である。
図7は、本実施形態の無電解めっき装置の半導体ウェハの保持手段であるウェハキャリアの構成を説明する斜視図である。
図8は、本実施形態の無電解めっき装置の半導体ウェハの保持手段の変形例の構成を説明する斜視図である。
図9は、本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの噴出口の角度調整を説明する断面図である。
図10は、本実施形態の無電解めっき装置のめっき液供給パイプの噴出口の形状を説明する断面図である。
【0019】
ここで、本実施形態で使用される半導体ウェハは、前工程として、めっき面にアルミニウムウ合金が、真空蒸着法またはスパッタ法などにより、例えば、5μm程度の厚みで形成されている。そして、ジンケート処理により、Al(アルミニウム)合金表面にAlの酸化膜を除去しつつ亜鉛(Zn)の被膜を形成する。その後、硝酸に浸漬し亜鉛被膜を除去した後、再度ジンケート処理を実施し、Al(アルミニウム)合金表面に亜鉛被膜を形成する。このように、2回のジンケート処理(ダブルジンケート処理)を実施することで、Al(アルミニウム)合金表面に緻密な亜鉛被膜が形成される。
【0020】
そして、半導体ウェハのめっき面にニッケル(Ni)による無電解めっきを行う。つまり、亜鉛で被覆されたAl合金皮膜で形成された半導体ウェハのめっき面を、ニッケル(硫酸ニッケル)を含むめっき液に浸漬すると、亜鉛の方がニッケルよりも標準酸化還元電位が卑であるため、最初はAl合金表面にニッケルを析出する。続いて表面がニッケルで被覆されると、めっき液中に含まれる還元剤の作用にニッケルが還元析出して所定の厚みのニッケル被膜が形成される。以下の、無電解めっき装置では、上記特性を用いて半導体ウェハのめっき面に均一で高品質なニッケル被膜を形成する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の無電解めっき装置10は、金属(例えば、鉄、アルミ等)製のラック(棚)の筐体12に、無電解めっき装置10を構成する各種装置が設置されて構成されている。各種装置としては、筐体12の内部には、リザーブ槽11aのめっき液をめっき槽11へ供給する供給管15が配設されている。供給管15はリザーブ槽11aの下部からめっき槽11の下部に連通連結されている。つまり、供給管15の始端はリザーブ槽11aの下部に連通連結されており、供給管15の終端はめっき槽11の下部(正確には、めっき槽11の下部に配設されためっき液供給パイプ20の下部略中央部)に連通連結されている。供給管15には、循環ポンプ13、流量計14、フィルタ16、ヒータ17が付設されている。
【0022】
循環ポンプ13は、供給管15を介してリザーブ槽11aに貯留されためっき液を、めっき槽11の下部に配設されためっき液供給パイプ20を経由して、めっき槽11内に所定の流量及び圧力で供給する。流量計14は、供給管15を流通するめっき液の流量を測定し、所定圧力、所定流量のめっき液がめっき槽11に供給されるように、循環ポンプ13の出力を制御する。フィルタ16は、供給管15を介してめっき槽11に供給されるめっき液から不純物(反応副生成物やごみ等)を除去する。ヒータ17は、供給管15を介してめっき槽11に供給されるめっき液を所定温度(例えば、60℃)まで加熱する。このように、供給管15を介してリザーブ槽11aからめっき槽11に供給されるめっき液を、所定圧力及び所定流量で安定して供給するとともに、めっき液から不純物の除去し所定温度まで加熱して供給することで、めっき槽11に浸漬された半導体ウェハ40のめっき面に均一で高品質なニッケル被膜を形成することができる。
【0023】
めっき槽11は、筐体12の上部に載置されている。めっき槽11は、例えば、ガラス等により箱型に形成された上部を開口した水槽が好適に用いられる。めっき槽11にはめっき液Wが充填されている。本実施形態のめっき液Wの基本組成は、硫酸ニッケル(NiSO4)、還元剤としての次亜リン酸ナトリウム(2NaH2PO2)、錯化剤等を加えて構成される。
【0024】
図5に示すように、めっき槽11の短手方向の一辺にはリザーブ槽11aが配設されている。めっき槽11には、上部開口部の四辺上端を囲繞するように、樋状のめっき液の回収路11bが設けられている。回収路11bは、めっき槽11の四辺上部からオーバーフローしためっき液Wを回収して、リザーブ槽11aに貯留するために、リザーブ槽11aに向かって傾斜が設けられている。
【0025】
めっき槽11の四辺上端には、一定間隔で複数のV字状の切り込み部11cが形成されている。切り込み部11cは、めっき槽11の四辺上端から回収路11bへオーバーフローするめっき液Wの流路を形成している。めっき槽11の四辺上端に一定間隔に形成された切り込み部11c間の中央下部には、複数の排出口11dが等間隔で穿設されている。この排出口11d、めっき槽11の上部のめっき液Wに含まれる不純物(ごみ等)をめっき液W毎回収路11bに排出する排出路を形成するためのものである。そして、
図5中矢印で示すように、めっき槽11からオーバーフローしためっき液Wは、切り込み部11cや排出口11dから回収路11bに流出して、回収路11bを流下してリザーブ槽11aに貯留される。
【0026】
図1に示すように、めっき槽11には、本実施形態の複数の半導体ウェハ40の保持手段である2個のウェハキャリア30が、複数(図中は13枚)の薄板の円盤状に形成された半導体ウェハ40のめっき面(円盤状の薄板の表裏面)を対面状態で一定間隔(例えば、4.75mm)を空けて保持した状態でめっき液Wに浸漬されている。ウェハキャリア30は、複数の円盤状の半導体ウェハ40を略垂直に保持した状態で運搬可能とした専用治具である。
【0027】
図7(a)に示すように、ウェハキャリア30は、正面視で略H状に形成された板体により前面板31a及び後面板31bを構成し、前面板31a及び後面板31bの左右上端側面を連結した左右把持部32、32と、前面板31a及び後面板31bの同一水平面の左右側面の略中央部を連結した側面保持部33、33と、前面板31a及び後面板31bの左右下端側面を連結した下部保持部34、34とにより左右両側面を形成し、内部に複数の半導体ウェハ40を収納可能な空間を形成している。
【0028】
左右把持部32、32は、前面板31a及び後面板31bの左右上端側面から左右外側に突出した平板であり、ウェハキャリア30を運搬するための持ち手として機能する。側面保持部33、33は、複数の半導体ウェハ40の左右両側部を保持するための複数の保持溝33aが一定間隔(例えば、4.75mm間隔の等ピッチ)でウェハキャリア30の内側に水平に突出して形成されている。下部保持部34、34の上部には、複数の半導体ウェハ40の下部を、めっき面を対向させて略垂直に保持するための複数の保持溝34aが一定間隔(例えば、4.75mm間隔の等ピッチ)で垂直に突出して形成されている。そして、左右の側面保持部33に形成された複数の保持溝33a、33aと、左右の下部保持部34、34に形成された複数の保持溝34a、34aは、平面視でウェハキャリア30の短手方向にそれぞれ同一水平線上に重なるように形成されている。
【0029】
上記構成のウェハキャリア30は、
図7(b)に示すように、複数の円盤状の半導体ウェハ40の両側部を側面保持部33、33で保持し、半導体ウェハ40の下部を下部保持部34、34で保持することで、複数の半導体ウェハ40のめっき面を対向させた状態で略等間隔に垂直に保持可能としている。上述してきたように、本実施形態におけるウェハキャリア30は、複数の半導体ウェハ40を確実に保持しつつ、めっき槽11における半導体ウェハ40のめっき面におけるめっき液Wの下方から上方への流通に干渉しないように、ウェハキャリア30と半導体ウェハ40との接触面積を可及的に小さくしている。
【0030】
図1に示すように、めっき槽11に浸漬されたウェハキャリア30の下部には、リザーブ槽11aからのめっき液Wを、めっき槽11に供給する複数の噴出口21が一定間隔で上部に形成されためっき液供給パイプ20が配設されている。このめっき液供給パイプ20の略中央下部には、供給管15の終端が連通連結されている。この構成により、リザーブ槽11aに貯留されためっき液Wは、リザーブ槽11aの下部に連通連結された供給管15の始端から、循環ポンプ13により、めっき液供給パイプ20の下端部略中央に連通連結された供給管15の終端からめっき液供給パイプ20に供給され、そして、一定間隔でめっき液供給パイプ20上部に形成された複数の噴出口21からめっき槽11内に供給される。そして、上述したように、めっき槽11の上部からオーバーフローしためっき液Wは、回収路11bで回収されてリザーブ槽11aに貯留される。すなわち、無電解めっき装置10においては、めっき槽11とリザーブ槽11aとの間で、めっき液Wが循環する構成としている。
【0031】
図2に示すように、めっき槽11の内部にめっき液を供給するめっき液供給パイプ20は、めっき槽11の箱型状の長手方向に対して平行に設けられた4本の供給ノズル22と、供給ノズル22の中央部及び両端部にめっき槽11の短手方向に連通連結された3本の短管23とにより構成されている。この供給ノズル22及び短管23としては、めっき液と反応しない材質(ステンレス鋼や塩化ビニール等)の管が好適に用いられる。なお、めっき液供給パイプ20の4本の供給ノズル22は、めっき液供給パイプ20の長手方向に対して所定間隔を空けて最低2本を一対として設けられていればよく、以下、供給ノズル22の数は、4本、6本のように、めっき槽11や半導体ウェハ40の大きさに応じて適宜変更可能である。
【0032】
4本の供給ノズル22の上部には、複数(図中は1本の供給ノズル22につき28個)の噴出口21が一定間隔で設けられている。そして、めっき液供給パイプ20の中央の短管23の下端略中央には、供給管15の終端15cが連通連結されている。供給管15の終端15cからめっき液供給パイプ20に供給されためっき液Wは、複数の噴出口21から上部に配設された複数のウェハキャリア30間に向けて上部に噴出する。また、複数の噴出口21の間隔は一定間隔(図中PT1、ウェハキャリア30に保持される半導体ウェハ40の一定間隔と同間隔である4.75mm)で設けられている。このとき、詳細は後述するが、噴出口21から上部のウェハキャリア30に向けて上部に噴出するめっき液Wは、ウェハキャリア30により保持された半導体ウェハ40の垂直方向に対向するめっき面の一定間隔間に上方に噴出される。
【0033】
図6に示すように、めっき液供給パイプ20の上部には、保持手段であるウェハキャリア30を載置するための複数の載置板24が設置されている。この載置板24は、供給ノズル22と直交するめっき槽11の短手方向に連通連結された両端の短管23と、中央の短管23との上部に合計3枚設置されている。載置板24は耐熱性、耐薬品性等に優れたフッ素樹脂を素材として矩形板状に形成されている。両端の短管23上部に設置された載置板24の上部には、それぞれウェハキャリア30の下部保持部34(
図7参照)の長手方向の両下端34b、34bを位置決めして載置するための位置決め部24aが2箇所形成されている。中央の短管23上部に設置された載置板24の上部には、それぞれウェハキャリア30の下部保持部34の長手方向の両下端34b、34bを位置決めして載置するための位置決め部24aが4箇所形成されている。
【0034】
そして、
図7(b)に示すように、ウェハキャリア30の下部保持部34の両下端34b、34bを、載置板24の上部に形成された位置決め部24aに嵌合して載置するだけで、めっき液供給パイプ20の上部に配設されたウェハキャリア30で保持された半導体ウェハ40のめっき面の一定間隔間に、同じく一定間隔で設けられた複数の噴出口21が位置する構成としている。つまり、2個のウェハキャリア30の左右把持部32を把持して、めっき槽11のめっき液Wに浸漬させてウェハキャリア30の下部保持部34の両下端34b、34bを、載置板24の上部に形成された位置決め部24aに嵌合して載置するだけで、簡単にウェハキャリア30で保持された半導体ウェハ40のめっき面の一定間隔間に、複数の噴出口21から上方にめっき液Wを噴出することができる。
【0035】
以下、
図3及び
図4を参照して、めっき槽11に浸漬したウェハキャリア30にめっき面を対向して略垂直に保持された半導体ウェハ40におけるめっき液の流れを説明する。
【0036】
図3に示すように、従来の装置においては、めっき液供給パイプ20の上部に設けられた噴出口21は、必ずしもウェハキャリア30にめっき面を対向して保持された二枚の半導体ウェハ40の間を上部に流通するとは限らなかった。つまり、二枚の半導体ウェハ40の間の一定間隔PT1と、めっき液供給パイプ20の上部に設けられた噴出口21の所定間隔PT2とが異なっていた。
【0037】
このため、二枚の半導体ウェハ40の間を上部にめっき液が流通する場合は上部へめっき液がスムーズに流通(図中上矢印)するが、それ以外の場合は、二枚の半導体ウェハ40の上部へのめっき液の早い流れに吸い出されて、隣接する二枚の半導体ウェハ40の間において下部に流通(図中下矢印)する場合があった。
【0038】
また、二枚の半導体ウェハ40の間の流れが異なる場合は、めっき槽11に浸漬したウェハキャリア30に保持された半導体ウェハ40の下部に渦流が生じ、その上部においては、上方と下方に流れの異なる層流が形成され、さらに、半導体ウェハ40の上部においては、乱流又は停滞流が生じていた。
【0039】
上述したように、無電解めっきの工程においては、めっき液中の化学反応により水素の気泡が発生する。この水素の気泡は、半導体ウェハ40の上部に生じた停滞流により、半導体ウェハ40のめっき面に付着して滞留したままとなる。これにより、水素の気泡が付着しためっき面では、めっき液中に含まれる還元剤の作用にニッケルが還元析出する化学反応が発生せず、結果としてニッケル被膜にムラが発生し、膜質均一性や高品質を達成することができない。
【0040】
これに対して、
図4に示すように、本実施形態の無電解めっき装置10では、複数の半導体ウェハ40の間の一定間隔PT1と、めっき液供給パイプ20の上部に設けられた複数の噴出口21の一定間隔PT1を全く同じ間隔にしている。これにより、複数の半導体ウェハ40を保持したウェハキャリア30を、めっき液供給パイプ20の長手方向に一定距離ずらしてめっき液供給パイプ20の上部に載置するだけで、ウェハキャリア30にめっき面を対向して保持された複数の半導体ウェハ40の間をめっき液Wが下部から上部に流通するようにしている。
【0041】
すなわち、
図7(b)に示すように、本実施形態においては、ウェハキャリア30の下部保持部34の両下端34b、34bを、載置板24の上部に形成された位置決め部24aに嵌合して載置するだけで、同じ間隔の半導体ウェハ40の間の一定間隔PT1と、めっき液供給パイプ20の上部に設けられた噴出口21の一定間隔PT1の位置が一定距離ずれて設置されることになる。これにより、めっき液供給パイプ20の上部に配設されたウェハキャリア30で保持された半導体ウェハ40のめっき面の一定間隔PT1間に、めっき液Wを下方から上方に流通させることができる。
【0042】
このように、めっき槽11のめっき液Wに浸漬したウェハキャリア30に保持された複数の半導体ウェハ40のめっき面において、下方から上方へ均一にめっき液を流通させることができるので、半導体ウェハ40のめっき面に、渦流、層流、乱流又は停滞流が生じることを可及的に低く抑えることができる。
【0043】
これにより、めっき液中の化学反応により水素の気泡が発生した場合でも。水素の気泡を上方に流し、半導体ウェハ40のめっき面に付着して滞留したままとなることを防ぐことができる。これにより、めっき面に形成されるニッケル被膜にムラが生じることを防止して、膜質均一性や高品質なめっき被膜を形成することができる。
【0044】
ここで、本実施形態における半導体ウェハ40の保持手段の変形例を、
図8を参照して説明する。上述した実施形態では、複数の半導体ウェハ40をウェハキャリア30により、めっき面を対向させて略垂直に保持する構成を説明してきたが、保持手段として必ずしもウェハキャリア30を必要とするものではない。
【0045】
すなわち、
図8(a)に示すように、めっき液供給パイプ20の上部に、2個の載置板24を、供給ノズル22と直交するめっき槽11の短手方向に連通連結された両端の短管23の上部に2箇所設置する。そして、両端の載置板24間に、めっき液供給パイプ20の長手方向と平行に、変形例の保持手段としての2個のウェハ載置部50、50を懸架する。このウェハ載置部50、50は、半導体ウェハ40の下部両側部を均等に保持する構成としている。
【0046】
2個のウェハ載置部50、50の上部には、複数の半導体ウェハ40を、めっき面を対向させて略垂直に保持するための複数の保持溝50aが一定間隔(例えば、4.75mm間隔の等ピッチ)で設けられている。左右のウェハ載置部50、50に形成された複数の保持溝50a、50aは、平面視でめっき液供給パイプ20の短手方向にそれぞれ同一水平線上に重なるように形成されている。この保持溝50aの一定間隔は、供給ノズル22の上部に設けられた複数の噴出口21の一定間隔PT1(
図2参照)と同間隔である。そして、ウェハ載置部50、50は、複数の保持溝50aの一定間隔と供給ノズル22の上部の複数の噴出口21の一定間隔PT1とが重ならないように供給ノズル22の長手方向に位置をずらした状態で配設されている。
【0047】
そして、
図8(b)に示すように、2個のウェハ載置部50、50の上部に形成された保持溝50aにより、複数の半導体ウェハ40のめっき面を対向させて略垂直に保持する。このように、ウェハキャリア30を用いずに、複数の半導体ウェハ40を下部両側部の2点でウェハ載置部50、50により一定間隔で略垂直に保持することにより、めっき槽11における半導体ウェハ40のめっき面を下方から上方に流通するめっき液Wの流通を妨げる恐れが可及的に低減することになる。これにより、半導体ウェハ40のめっき面に、さらに均一かつ高品質な所定厚みの金属めっきを形成することができる。
【0048】
なお、
図8に示す保持手段の変形例においては、上述したウェハキャリア30の下部保持部34の両下端34b、34bを位置決めして載置する位置決め部24aは載置板24の上部には形成されておらず、表面がフラットな矩形板状の載置板24を用いている。
【0049】
ここで、めっき液供給パイプ20の4本の供給ノズル22は、上部に位置する複数の半導体ウェハ40のめっき面にめっき液Wを上方に噴出する噴出口21の角度を、めっき液供給パイプの中心軸を回動軸として所定範囲で調整可能としている。すなわち、
図9(a)に示すように、供給ノズル22の中心軸22aを回動軸として所定角度θ(例えば、左右に2~4度)で回動自在としている。これにより、
図9(b)に示すように、半導体ウェハ40の下部に配設されためっき液供給パイプ20の4本の供給ノズル22の噴出口21の角度を、半導体ウェハ40のめっき面40aの略中央部に向けて変位させることができる。
【0050】
つまり、円盤状に形成された半導体ウェハ40のめっき面40aは円形である。このため、めっき面40aの中央に近い方がめっきを要する面積が大きい。単に噴出口21から鉛直上方にめっき液Wを噴出すると、円形のめっき面40aの中心から外側のめっき要する面積の小さいめっき面40aにも同量のめっき液Wが下方から上方に向けて流れることになる。そこで、
図9(b)に示すように、めっき面40aの中央から遠い供給ノズル22の噴出口21の角度を、円形のめっき面40aの中央に向けて角度をつける。これにより、供給ノズル22の噴出口21からのめっき液Wを、半導体ウェハ40の略中央部のめっき面40aに、集中して効率よく下方から上方へ流通(図中は点線の矢印)させることができるので、均一で高品質のめっき被膜をめっき面40aに形成することができる。
【0051】
また、供給ノズル22に形成されためっき液Wを上部に噴出する複数の噴出口21は、下方に拡開した円錐状に形成することもできる。すなわち、
図10(a)に示すように、噴出口21を側面視で下方に拡開した円錐状に形成する。
図10(b)に示すように、従来の円柱状に形成された噴出口21では、略中心部ではめっき液Wは上方に吐出されていたが、平行に形成された噴出口21の側壁21aの近傍では、側壁21aとの摩擦により吐出される圧力が低下する(図中の点線矢印)場合がある。そこで、複数の噴出口21を下方に拡開した円錐状に形成することで、
図10(a)に示すように、噴出口21の略中心部以外でも、吐出される圧力が落ちずに(図中の点線矢印)、略均一に下方から上方へめっき液を吐出することができる。これにより、噴出口21から上方へ吐出されるめっき液の吐出圧力を略均一とすることができ、均一で高品質のめっき被膜の形成への一助となる。
【0052】
上述してきたように、本実施形態の無電解めっき装置10によれば、半導体ウェハ40間を下方から上方に通過するめっき液の流れを限りなく均一にすることができ、無電解めっきの工程でめっき液W中に発生する水素等の気泡が半導体ウェハ40のめっき面に付着して滞留することを可及的に低く抑えることができる。これにより、半導体ウェハ40のめっき面の膜厚にムラが生じることを防ぎ、膜質均一性や高品質なめっき被膜を形成することができる。すなわち、めっき液が充填されためっき槽11を必要最小限の大きさで、コスト削減や環境負荷を配慮しつつ、半導体ウェハ40のめっき面に均一かつ高品質な所定厚みのニッケルめっきを形成することができる。
【0053】
以上、上述した実施形態を通して本発明を説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、上述した各効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
10 無電解めっき装置
11 めっき槽
11a リザーブ槽
12 筐体
13 循環ポンプ
14 水量計
15 供給路
16 フィルタ
17 ヒータ
20 めっき液供給パイプ
21 噴出口
22 供給ノズル
23 短管
30 ウェハキャリア
40 半導体ウェハ