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特許7111390癌細胞の遊走及び浸潤抑制を介した癌転移抑制剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】癌細胞の遊走及び浸潤抑制を介した癌転移抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/14 20060101AFI20220726BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220726BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220726BHJP
【FI】
C07D211/14 CSP
A61K31/445
A61P35/04
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P35/02
A23L33/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020561625
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 KR2019005277
(87)【国際公開番号】W WO2019212261
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】10-2018-0051936
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】321006936
【氏名又は名称】ブイエスファーマテック
【氏名又は名称原語表記】VSpharmtech
【住所又は居所原語表記】(Sangyeok-dong,Kyungpook National University) 306ho, Business Incubation Center, 80, Daehak-ro, Buk-gu, Daegu, 41566 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ビョン-モグ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ドン チョ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,イェ ジン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユ ジン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー,サンク
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544815(JP,A)
【文献】特開2016-094389(JP,A)
【文献】国際公開第1990/013539(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 211/14
A61K 31/445
A61P 35/04
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 45/00
A61P 35/02
A23L 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンプロペリン誘導体化合物として、下記化学式1の構造を有する化合物又はその薬学
的に許容される塩。
【化1】
【請求項2】
活性成分として請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する、癌転移を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項3】
癌が、大腸癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、乳癌、子宮頸癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、肺癌、前立腺癌、胆嚢癌、胆管癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、血液癌、膀胱癌、腎臓癌、卵巣癌、黒色腫、結腸癌、骨癌、皮膚癌、頭部癌、子宮癌、直腸癌、脳腫瘍、肛門癌、麻痺癌、子宮内膜癌、膣癌、粘液癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、副腎癌、軟部肉腫、尿道癌、陰茎癌、腎臓癌、腎臓細胞肉腫、腎臓骨盤癌、CNS(中枢神経系)腫瘍、中枢神経原発リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹グリオーマ及び下垂体腺腫からなる群より選択される任意の一つである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
薬学的に許容される担体、賦形剤又は賦形剤をさらに含む、請求項2に記載の癌転移を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項5】
抗癌剤をさらに含む、請求項2に記載の癌転移を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
前記抗癌剤が、DNAアルキル化剤、抗癌抗生物質及び植物アルカロイドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の癌転移を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項7】
前記抗癌剤が、メクロエタミン、クロラムブシル、フェニルアラニン、マスタード、シクロホスファミド、イホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ストレプトゾトシン、ブスルファン、チオテパ、シスプラチン、カルボプラチン、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、マイトマイシン、C-ブレオマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、テニポシド、トポテカン及びイリドテカンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の癌転移を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物又はその食品学的に許容される塩を有効成分として含有する、癌転移を予防又は改善するための健康機能性食品。
【請求項9】
活性成分として請求項1の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を被験者に投与することを含む、癌転移を予防又は治療するための方法(人間の医療行為は除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンプロペリン誘導体化合物に関し、より詳細には、癌転移を予防又は治療するための医薬組成物及び癌転移を予防又は改善するための健康機能性食品であって、該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む医薬組成物、並びに該医薬組成物を被験者に投与することを含む、癌転移を予防又は治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカがん協会が発表したデータによれば、2008年の全世界の死亡の17%(760万)は癌によるものであり、癌による死亡数は2015年には900万人、2030年には1140万人に急増すると予測されている。韓国でも、癌は依然として第1位の死因であり、2016年の死亡数は280,827人であり、関連統計開始以来過去最高となっている。十大死因のうち第1位は癌であり、10万人あたりの癌による死者数は153人で、毎年増加傾向にある。その結果、社会的コストは膨大であり、毒性の低い、より効果的な抗癌剤の開発の必要性が徐々に増加している。また、最近では、癌の社会的コストが膨大であることから、低コストで治療可能な薬剤の開発が求められている。
【0003】
生命を脅かす癌の最大の原因は癌細胞の転移である。現在、癌治療の一般的な方法として外科手術があるが、癌細胞は原発巣以外にも多くの部位に転移しているため、手術による完全な回復が期待できるのは早期の段階に限られる。
【0004】
一方、癌転移は癌の発生と同様に、癌細胞の遊走及び浸潤に関与する様々な遺伝子及び因子の組合せで行われている(非特許文献1)。
【0005】
癌細胞の遊走は癌転移において重要な役割を果たす。例えば、癌細胞が最初の原発性癌部位で細胞間質基質(ECM)を通過した後、血管に移動したり、二次転移組織で血管外に移動したりすると、血管内皮細胞が新たな血管から移動する際に癌転移が関与する。遊走細胞の極性は、細胞遊走誘導物質によって活性化されるシグナル受容体によって誘導される。さらに、細胞の前面にある細胞膜はアクチンの重合を経て前方に膨張し、細胞はインテグリンによって細胞間基質に付着する。このとき、アクチンポリマーに結合したミオシンによりアクチンポリマー間に強い収縮力が形成され、細胞全体に強い収縮力が付与される。したがって、細胞移動の方向は、細胞の前部と後部との間の密着性の差によって決まり、細胞が移動する(非特許文献2)。よって、細胞遊走阻害剤は癌細胞の遊走を阻害して、転移のさらなる広がりを防止し、また、癌細胞のアポトーシスを誘導する抗癌剤を、遊走を阻害しながら投与することができるので、癌患者の寿命を延ばす現実的なアプローチ方法として考えられる。
【0006】
これらの研究動向に沿って、既存の抗癌剤や癌細胞の増殖を標的とした癌転移抑制剤とは異なる、癌細胞の遊走を抑制する物質を用いた癌転移抑制剤の開発が、「ミグラスタティクス」(非特許文献3)と呼ばれる新しい代替法として主張されている。
【0007】
癌細胞の遊走には多数の因子が関与している。なかでも、糸状仮足と呼ばれる突起が形成され、これは細胞骨格の周り又は細胞の周りに葉状仮足と呼ばれる線維組織から伸びている。これらの突起は、正常な健常細胞が組織内を移動するのを助ける。しかし、悪性腫瘍では、正常な健常細胞の機能が破壊的に過剰となることが多く、その結果、葉状仮足や糸状仮足が過剰に製造される。この現象を阻害することで、基本的に癌細胞の遊走を阻止する(非特許文献4)。
【0008】
一方、本発明者らは去痰剤としてベンプロペリンを用いた薬剤が癌細胞の遊走を遮断し、血管新生の進行を阻害して癌転移を効果的に阻害することを新たに発明した(特許文献1、特許文献2等)。
【0009】
しかしながら、マイクロモルレベルで癌細胞の遊走を阻害するため、活性の高い癌転移阻害剤の開発の必要性に応じて、ナノモルレベルで癌細胞の遊走を阻害する薬剤の開発が求められている。
【0010】
このような背景から、本発明者らは癌細胞の遊走及び浸潤を抑制することにより、癌転移をより効果的に予防又は抑制することができる手法の開発に多くの努力を払い、その結果、新規化合物を開発し、癌細胞の遊走及び浸潤をナノモルレベルで抑制する優れた効果を有することを確認し、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国登録特許第10-1323728号公報
【文献】米国特許第8716288号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】Marina Bacac and Ivan Stamenkovic, Annual Review of Pathology:Mechanism of Disease, 3, 221-247, 2008
【文献】Peter Friedl et al., Nature Cancer Review, 2003, 3: 362
【文献】Aneta Gandalovicova et al., Migrastatics-Anti-metastatic and and Anti-invasion Drugs: Promises and Challenges, Trends in Cancer 3, 391, 2017
【文献】Stephane R. Gross, Actin binding proteins, Cell Adhesion & Migration 7, 199-213, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ベンプロペリン誘導体化合物、以下の化学式1で表される化合物、又はその薬学的に許容される塩を提供することである。
【0014】
【化1】
【0015】
本発明の別の目的は、化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、癌転移を予防又は治療するための薬学的組成物を提供することである。
【0016】
また、本発明の他の目的は、化学式1の化合物又はその構造的に許容される塩を有効成分として含む、癌転移を予防又は改善するための機能性健康食品を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む薬学的組成物を被験者に投与することを含む、癌転移を予防又は治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
具体的に、本発明について説明する。なお、本発明に開示されている各記載及び実施の形態は、他の記載及び実施の形態にも適用することができる。すなわち、本発明に開示されている種々の構成要素の組合せの全てが本発明の範囲に属する。また、以下に示す具体的記載は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0019】
本発明の目的を達成するために、本発明は、ベンプロペリン誘導体化合物として、以下の化学式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0020】
【化2】
【0021】
本発明の化合物は2つの立体中心又はキラル中心を有し、これらは、以下のように単一の分子内に存在する。
【0022】
【化3】
【0023】
したがって、別段の指示がない場合であっても、化学式1の化合物は化合物から誘導され得る(R,R)型、(R,S)型、(S,R)型及び(S,S)型等の全ての立体異性体を含むが、これらに限定されない。また、(R,R)型と(S,S)型、(R,S)型と(S,R)型等のエナンチオマーと、(R,R)型と(R,S)型、(S,R)型と(S,S)型等のジアステレオマーとを1:1の割合で混合したラセミ混合物も本発明の範囲に含まれる。さらに、一方の立体中心に関して(R)型又は(S)型のいずれか、(R)型及び(S)型が他方の立体中心に関して混合されている化合物、並びに(R)型及び(S)型が混合された混合物、すなわち(R,R)型、(R,S)型、(S,R)型、及び(S,S)型が2つの立体中心に関してランダムに混合された混合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0024】
これらの異性体は、以下の化学式で表すことができる。
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
【化7】
【0029】
化学式において、立体中心に位置する結合のうち、通常の実線で示される結合は、全ての可能な立体結合が存在する混合物の形を意味する。
【0030】
化学式の右側に記載された数字は、合成された異性体の同定を容易にするために任意に付与された識別番号である。また、各立体中心に形成された全ての立体構造、例えば(R,R)型、(R,S)型、(S,R)型、(S,S)型がランダムに混合された混合物をCG-618と呼ぶ。上記化学式に定義された結合によれば、CG-618は上記化学式1と同じようにマークされ得るが、混乱を防ぐために別個にマークされない。
【0031】
本発明の別の態様は、1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル 4-メチルベンゼンスルホネートを2-メチルピペリジンと反応させることを含む、化学式1の化合物又はその薬学的に許容される塩の調製法を提供する。
【0032】
本発明の調製法に用いられる各試薬は、市販の化合物を購入して使用してもよく、公知の方法に従って調製された化合物を調製して使用してもよい。
【0033】
例えば、本発明の調製方法では1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル4-メチルベンゼンスルホネートが1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールを4-メチルベンゼン-1-スルホニルクロリドと反応させることによって調製することができるが、これに限定されない。
【0034】
さらに、1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オールは2-ベンジルフェノールをプロピレンオキサイドと反応させることによって調製することができるが、これに限定されない。
【0035】
このとき、使用される化合物のうち、2-メチルピペリジン、プロピレンオキサイド、又はその両方を、純粋な(R)形若しくは(S)形、又はそれらのラセミ体を選択することによって使用して、化学式1の化合物の種々の立体異性体、ジアステレオマー及び/又はラセミ体を選択的に合成することができる。
【0036】
本発明の具体的な実施形態において、化学式1で表される化合物はプロピレンオキサイド及び2-ベンジルフェノールから合成される。プロピレンオキサイドとして(R)-(+)-プロピレンオキサイド、(S)-(-)-プロピレンオキサイド及びそれらのラセミ混合物のいずれか、そして2-メチルピペリジンとして(R)-2-メチルピペリジン、(S)-2-メチルピペリジン及びそれらのラセミ混合物のいずれかを反応物として組み合わせて使用することにより、全部で9種類の構造異性体、ジアステレオマー又はラセミ混合物を合成する。
【0037】
例えば、実施例1では(R)-(+)-プロピレンオキサイド及び(R)-2-メチルピペリジンを用いて、CG-609と呼ばれるR,R型化合物を合成し、実施例9ではラセミ混合物として提供されるプロピレンオキサイド及び2-メチルピペリジンを用いて、R,R-型、R-S型、S型、及びS-S型を均一に混合して、CG-618と呼ばれるランダムラセミ混合物を得た。
【0038】
例えば、1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル 4-メチルベンゼンスルホネートを2-メチルピペリジンと反応させる工程では、1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル4-メチルベンゼンスルホネートを4~8モル当量の2-メチルピペリジンに溶解し、100~150℃で2~10時間還流した。
【0039】
反応後、さらに室温15~35℃で6~24時間撹拌し、反応混合物を希釈した後、希釈した混合物を減圧濃縮し、塩基を加えてpHを上昇させた後の反応液を抽出し、乾燥、濾過、濃縮、及び/又は精製する工程を追加して行ってもよいが、これらに限定されない。追加の工程は、当技術分野で使用される一般的な方法を使用することによって実行することができるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明は、化学式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の形で提供することができる。この場合、薬学的に許容される塩は、投与される化合物の生物学的活性及び特性を損なわない製剤を意味する。
【0041】
本発明において、「薬学的に許容される塩」という用語は比較的無毒性であり、塩によって引き起こされる副作用が化学式1によって表される化合物の有益な効果を劣化させない患者に無害な効果を有する濃度の化合物の任意の有機又は無機付加塩を指す。
【0042】
薬学的に許容される塩としては例えば、薬学的に許容されるアニオンを含有する遊離酸によって形成される非毒性の酸付加塩をも含まれる。酸付加塩は一般的な方法によって、例えば、化学式1で表される化合物、その立体異性体、又はそれらの混合物を多量の酸水溶液に溶解し、水混和性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、又はアセトニトリルを用いて塩を沈殿させることによって調製される。あるいは、酸付加塩が化学式1で表される化合物、それらの立体異性体、又はそれらの混合物、及び酸又はアルコール(例えば、グリコールモノメチルエーテル)を水中で加熱し、次いで、混合物を蒸発及び染色するか、又は沈殿した塩を吸引濾過することによって調製することができる。遊離酸としては例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等の無機酸からなる酸付加塩、酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸等の有機炭酸、メタンスルホン酸、エタノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。薬学的に許容されるカルボン酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等からなる金属塩又はアルカリ土類金属塩、リジン、アルギニン、グアニジン等のアミノ酸塩、ジクロヘキシルアミン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリン、トリエチルアミン等の有機塩を含んでいてもよい。
【0043】
さらに、薬学的に許容される塩は、塩基を用いて調製された薬学的に許容される金属塩を含有していてもよい。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は多量のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物溶液に溶解し、不溶の化合物塩を濾過した後、濾液を留去し、乾燥することによって得ることができる。この場合、金属塩は特に、ナトリウム、カリウム又はカルシウム塩を調製するのが薬学的に適するが、これらに限定されない。また、これに対応する銀塩はアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を適した銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させることによって得ることができる。
【0044】
薬学的に許容される塩は、上記の塩に加えて、化学式1で表される化合物のすべての有機又は無機付加塩、及びそれらの立体異性体又はそれらの混合物を含むことができる。
【0045】
本発明のさらに別の態様は、化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、癌転移を予防又は治療するための薬学的組成物を提供する。
【0046】
化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩は、上記の通りである。
【0047】
本発明の実施形態において、キラル化合物の代表例に相当するCG-609が、代表的な癌細胞である結腸癌細胞、膵癌細胞、メラノーマ細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、及び胃癌細胞の遊走を効果的に阻害することが確認された(図3)。CG-609は結腸癌細胞、膵癌細胞、肺癌細胞、皮膚癌細胞の移動をナノモルレベルで50%以上抑制し、前立腺癌細胞、胃癌細胞の移動を数マイクロモルの濃度で50%以上抑制する活性を有することが確認された(図4A及び4B)。
【0048】
さらに、CG-608は結腸癌細胞及び膵癌細胞の遊走をナノモルレベルで50%以上抑制する活性を有し、数マイクロモル濃度で胃癌細胞及び前立腺癌細胞の遊走を50%以上抑制する活性を有することが確認された(図5)。
【0049】
また、CG-618は結腸癌細胞、膵癌細胞、肺癌細胞の移動をナノモルレベルで50%以上抑制し、皮膚癌細胞、前立腺癌細胞の移動を数マイクロモルの濃度で50%以上抑制する活性を有することが確認された(図6A及び6B)。特に、CG-618は既知のベンプロペリン系薬剤の3分の1の低い濃度でも有効な癌細胞遊走阻止活性を有することが示され、今後の産業化において、より優れた癌転移抑制薬が生産コストの低い中で開発される可能性が示唆された結果である。
【0050】
本発明の別の実施形態では、CG-609及びCG-618が正常細胞の遊走及び増殖に影響を及ぼさないことが確認され、毒性の低い癌転移抑制薬の開発の可能性が直接的に検証された(図2)。
【0051】
さらに、本発明の別の実施形態において、CG-609及びCG-618が癌細胞の増殖に影響を及ぼさず、低濃度で癌細胞の浸潤を非常に強く阻害することが確認された(図8)。また、CG-618は細胞レベルで癌細胞遊走に重要な過程の一つである、葉状仮足や糸状仮足と称される突起を形成するプロセスを阻害し、また正常細胞には影響を及ぼさないことが確認された(図9)。また、リアルタイム細胞遊走イメージング及び分析装置を用いて、CG-618が単一細胞の遊走に及ぼす影響を確認した結果、CG-618は癌細胞の遊走を強く阻害するが、正常細胞の遊走を増加させることが確認された(図7)。さらに、リアルタイム細胞遊走イメージング及び分析装置であるHoloMonitor M4(位相ホログラフィックイメージング)を用いて、単一細胞の遊走に対する薬物の効果を確認した結果、CG-618で処理した細胞の遊走は有意に減少するが、正常細胞の遊走は増加することが確認された(図7)。
【0052】
さらに、本発明の別の実施形態では、ヒト由来結腸癌発光細胞株(HCT-116ルシフェラーゼ)における癌転移有効性を評価するための動物モデルにおいて、CG-609が5mg/kg又は10mg/kgの経口投与により癌転移を非常に強く阻害することが確認された(図10A及び10B)。したがって、本発明の医薬組成物は、癌転移動物モデルにおいて、癌細胞の遊走又は浸潤を阻害するだけでなく、癌転移を効果的に阻害することによって、種々の癌転移を予防又は治療するために使用することができる。
【0053】
また、本発明の具体的な実施形態において、比較例の化合物としての化学式1の化合物は対照化合物として用いた既知物質であるベンプロペリンと類似の化学構造を有しており、ピペリジン環にヘテロ元素である酸素を導入した誘導体であるGC-605S、ピペリジン環を5員環又は6員環に縮小又は拡大した誘導体であるGC-606S及びGC-607S、及びピペリジン環上にメチル置換基の位置を変更した誘導体であるGC-611及びGC-612を合成し、結腸癌細胞DLD-1の遊走に対するIC50値を算出し、比較した。その結果、これらの化合物は、対照群であるベンプロペリンと比較して同等又はそれ以下の癌細胞遊走阻害作用を示すことが確認された。類似の化学構造であっても、これらの化合物が示す癌治療効果は互いに全く異なる可能性があることが示唆された。
【0054】
本発明の「癌」という語は、正常な細胞分裂、分化、アポトーシスの調節機能に支障が生じ、細胞が異常に過剰に増殖して周囲の組織や臓器に侵入して癌組織を形成し、存在する組織が破壊又は改変された条件をいう。癌は、発生部位に存在する原発性癌と、発生部位から体内の他臓器に拡散する転移癌に分けられる。
【0055】
癌は例えば、大腸癌、膵臓癌、胃癌、乳癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、肺癌、胆嚢癌、非ホジキンリンパ腫、血液癌、膀胱癌、メラノーマ、結腸癌、皮膚癌、頭部癌、直腸癌、脳腫瘍、対麻痺癌、子宮内膜癌、粘液癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、腎細胞癌、腎盂癌、CNS(中枢神経系)腫瘍、脊髄腫瘍、脳幹グリオーマ、又は下垂体腺腫を指すことができるが、これらに限定されるものではない。黒色腫は皮膚、眼、粘膜、中枢神経系などに発生することがある。
【0056】
癌細胞の遊走は血液循環やリンパ循環を介して癌細胞が広がることで起こり、通常は血液循環を介して別の臓器に癌細胞を移入し、新たな腫瘍を形成する。
【0057】
癌細胞の浸潤とは、癌が最初に発生した部位の周囲の組織を貫通することによって癌細胞が増殖し、癌細胞が直接近傍の組織に移動して浸透することを意味する。
【0058】
本発明に用いられる「予防」という語は、本発明の化学式1の化合物又はその薬学的に許容される塩を被検体に投与することにより、癌細胞の出現、増殖、増殖、遊走、浸潤を阻害又は遅延させる全ての作用を意味することができる。
【0059】
本発明に使用される「治療」という語は、癌を有することが疑われる被験体に組成物を投与することによって癌の症状を改善又は利益を得るすべての作用を意味し得る。
【0060】
本発明の医薬組成物はさらに、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は賦形剤を含んでもよい。
【0061】
本発明で使用される「薬学的に許容される担体」という語は、生物を刺激することなく注射される化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は賦形剤を指し得る。本発明に使用可能な担体の種類は、特に限定されず、当技術分野で一般に使用され、薬学的に許容される任意の担体に使用することができる。担体の非限定的な例は、生理食塩水、滅菌水、リンゲル溶液、緩衝生理食塩水溶液、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、及びエタノールが含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、酸化防止剤、緩衝液、及び/又は殺菌剤などの他の一般的な添加剤を添加し、必要に応じて使用することができる。医薬組成物は、単位用量形態で製剤化されてもよく、又は複数用量容器に注射されるように製剤化されてもよい。例えば、医薬組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁液、内用液剤、エマルジョン、シロップ、滅菌水溶液、非水性溶媒、懸濁液、エマルジョン、凍結乾燥製剤及び坐剤からなる群から選択される任意の製剤を有してもよく、種々の経口又は非経口製剤であってもよい。組成物を処方する場合、処方物は、一般に使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、及び界面活性剤などの賦形剤又は賦形剤を使用することによって調製され得る。経口投与用の固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤剤、顆粒剤、カプセル剤等が含まれ、固形製剤は少なくとも1種の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、ショ糖又はラクトース、ゼラチン等を少なくとも1種の化合物と混合することによって調製することができる。さらに、ステアリン酸マグネシウム及びタルクのような潤滑剤を、単純な賦形剤に加えて使用することもできる。経口投与用液状製剤は懸濁液、内用液剤、乳剤、シロップ剤等に該当し、簡便な賦形剤として一般的に用いられている水及び流動パラフィンの他、各種賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味料、芳香剤、保存剤等を挙げることができる。非経口投与のための製剤は、滅菌水溶液、非水溶液、懸濁液、エマルジョン、及び凍結乾燥剤、並びに坐剤を含む。非水溶液及び懸濁液としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の野菜類オイル、オレイン酸エチル等の注射可能なエステル等を用いることができる。坐剤の基材としては、ウィテプソール、マクロゴール、ツイーン61、カカオバター、ラウリン、グリセロゼラチン等を用いることができる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、単剤として使用することができる。さらに、医薬組成物は、少なくとも1種の抗癌剤をさらに含むことによって、複合剤として調製し、使用することができる。抗癌剤はDNAアルキル化剤、抗癌性抗生物質及び植物アルカロイドからなる群から選択される少なくとも1つであってもよいが、これらに限定されない。例えば、抗癌剤は、メクロエタミン、クロラムブシル、フェニルアラニン、マスタード、シクロホスファミド、イホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ストレプトゾトシン、ブスルファン、チオテパ、シスプラチン、カルボプラチン、ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、マイトマイシン、C-ブレオマイシン;ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、テニポシド、トポテカン、及びイリテカンからなる群より少なくとも1つ選択することができる。
【0063】
本発明のさらに別の態様は、化学式1の構造を有する化合物、その立体異性体、その混合物、又はその位置学的に許容される塩を有効成分として含む、癌転移を予防又は改善するための健康機能性食品を提供する。
【0064】
化学式1の構造を有する化合物は、上記の通りである。
【0065】
本発明における「健康機能性食品」とは、人体に有益な機能性を有する原料又は成分を用いて、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液体及び丸剤の形で製造加工された食品をいう。ここで、機能性とは、人体の構造及び機能に対する栄養素の調節、又は生理的作用などの健康用途に有用な効果の獲得をいう。本発明の健康機能性食品は当技術分野で一般的に使用されている方法によって調製することができ、当技術分野で一般的に添加される原料及び成分を添加することによって調製することができる。また、食品は一般的な薬物とは異なり、原料として使用することができ、薬物の長期使用による副作用がなく、携帯性に優れているという利点がある。
【0066】
有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康、治療)に応じて適宜決定すればよい。通常、本発明の化合物は、食品の調製において、原料組成物の1~10wt%、好ましくは5~10wt%の量で添加される。ただし、健康衛生又は健康管理を目的とした長期摂取の場合には、上記範囲未満で使用することができる。
【0067】
本発明の健康機能性食品は、癌転移の予防又は向上のために使用することができる。
【0068】
本発明のさらに別の態様は、化学式1の構造を有する化合物、その立体異性体、その混合物、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む薬学的組成物を被験者に投与することを含む、癌転移を予防又は治療するための方法を提供する。
【0069】
医薬組成物は、化学式1の構造を有する化合物、その立体異性体、その混合物、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、癌を予防又は治療するための医薬組成物を指す。
【0070】
本発明において使用される「被験者」という語は、癌を有するか、又は癌を発症する可能性がある、ヒトを除く、又はヒトを含む、すべての動物を指すことができる。これらの動物はウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、アンテロープ、イヌ及びネコのような哺乳動物であって、ヒトと同様の症状の治療を必要とするが、これに限定されない。
【0071】
本発明の予防又は治療法は、具体的には癌を発症したか、又は癌を発症する危険性がある被験者に有効投与量で該組成物を投与することを含み得る。
【0072】
「有効投与量」は薬学的に有効な投与量であり、医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で疾患を処置するのに十分な量を指し、有効投与量レベルは、被験者の種類、重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、及び放出速度、処置期間、並びに同時に使用される薬物、並びに医学分野で周知の他の要素を含む要素に従って決定され得る。例えば、0.01~100mg/kg、好ましくは0.5~10mg/kg、より好ましくは1~5mg/kgの用量を1日1回~数回投与してもよい。本発明の組成物は、個々の治療薬として投与されてもよく、又は他の治療薬と組合せて投与されてもよく、関連技術において治療薬と連続的に又は同時に投与されてもよい。さらに、本発明の配合物は、単独で、又は多剤式で投与することができる。
【0073】
全ての要素を考慮することにより、副作用のない最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、その量は当業者によって容易に決定され得る。
本発明の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾患の重症度、薬物形成、並びに投与経路及び期間に応じて変化する。投与は、1日1回、又は1日に数回行うことができる。さらに、投与量は、特定の組成物とともに又は同時に使用される薬物、及び医学の分野で周知の類似の因子を含む、種々の因子に従って異なるように適用されることも好ましい。組成物はラット、家畜、及びヒトなどの各種哺乳動物に各種経路によって投与することができ、投与方法は限定されることなく、当技術分野における任意の一般的な方法を含むが、経口投与が好ましい。
【0074】
本発明に使用される「投与」は任意の適当な方法によって患者に本発明の医薬組成物を導入することを意味し、本発明の組成物は、標的組織に到達し得る種々の経路を通して経口又は非経口で投与することができる。本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されず、当技術分野で一般的に使用される方法に従うことができる。投与方法の非限定的な例として、組成物は、経口又は非経口のいずれかで投与することができる。本発明の医薬組成物は、所望の投与法に応じて、種々の製剤で調製することができる。
【0075】
本発明組成物の投与頻度は特に限定されないが、1日1回又は1日数回、投与量を分割して投与することができる。
【0076】
本発明の実施態様において、CG-608、CG-609及びCG-618は、代表的な癌細胞株である結腸癌細胞、膵癌細胞、皮膚癌細胞及び肺癌細胞の遊走を阻害する活性を有することが確認された。特に、CG-608、CG-609、CG-618は、薬物の構造核であるベンプロペリンよりも10倍以上低い濃度であっても、癌転移を抑制する効果的な活性を有することが確認された(図4A、4B、図5図6A図6B及び図8)。さらに、本発明の別の実施形態では、CG-609が動物実験(図10A及び10b)において、ベンプロペリン(50mg/kg)よりも10分の1の投与量(5mg/kg)でさえ、癌転移を50%以上阻害することが確認された。したがって、本本発明の医薬組成物はヒトを含む動物において、癌細胞の遊走や浸潤を阻害するだけでなく、癌転移を阻害することにより、様々な癌を予防又は治療するのに有用である。
【0077】
本発明の用語、すなわち、CG-608、CG-609、CG-618、癌、予防又は改善は、上記に記載されている。
【0078】
本発明のさらに別の態様は、抗癌治療剤の調製における化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0079】
本発明のさらに別の態様は、癌の転移を予防又は治療するための薬剤の調製における、化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0080】
本発明のさらに別の態様は、化学式1の構造を有する化合物又はその薬学的に許容される塩の、癌の治療のための使用を提供する。
【発明の効果】
【0081】
本発明の新規化合物又はその薬学的に許容される塩は種々の癌細胞の遊走及び浸潤を阻害する優れた効果を有し、特に、当技術分野で公知のベンプロペリンと比較して癌転移を阻害する優れた効果を有するため、癌転移を予防又は治療するための医薬組成物として、及びそれを用いた癌転移の予防又は治療法として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】CG-609のH-NMRスペクトルを示す図である。
図2】正常細胞MCF-10Aの移動及び増殖に対するCG-609及びCG-618の効果を示す図である。
図3】結腸癌細胞株DLD-1、膵臓癌株AsPc-1、CFPAC-1、Panc-1及びMiapaca-2、皮膚癌細胞株A375-P、肺癌細胞株HCC-827、A549及びNCI-H460、前立腺癌細胞株DU145、胃癌細胞株NuGC-3並びに卵巣癌細胞株SKOV-3に関してCG-609の癌細胞遊走阻害活性の測定を示す概略図である。
図4A】結腸癌細胞株DLD-1、AsPc-1の膵臓癌株、及び皮膚癌細胞株A375-Pに対するCG-609の各濃度についての癌細胞移動阻害活性の測定を示す図である。
図4B】肺癌細胞株HCC827、前立腺癌細胞株DU145、及び胃癌細胞株NuGC-3に対するCG-609の各濃度についての癌細胞移動阻害活性の測定を示す図である。
図5】結腸癌細胞株DLD-1、AsPc-1の膵癌株、前立腺癌細胞株DU145、及び胃癌細胞株NuGC-3に対するCG-608の各濃度に対する癌細胞遊走阻害活性の測定を示す図である。
図6A】結腸癌細胞系DLD-1、AsPc-1の膵臓癌系、及び肺癌細胞系HCC827に関して、各濃度のCG-618についての癌細胞移動阻害活性の測定を例示する概略図である。
図6B】皮膚癌細胞株A375-p及び前立腺癌細胞株DU145に対するCG--618の各濃度についての癌細胞移動阻害活性の測定を示す図である。
図7】結腸癌細胞株DLD-1及び正常細胞株MCF-10Aの移動に対するCG-618の効果を示す図である。
図8】結腸癌細胞系DLD-1及びAsPc-1の膵臓癌系に対するCG-609及びCG-618の濃度依存性癌細胞浸潤及び増殖阻害作用を示す図である。
図9】CG-618が結腸癌細胞系DLD-1、AsPc-1の膵臓癌系、及び皮膚癌細胞系A375-pの葉状仮足の形成を阻害するが、正常細胞系MCF-10Aには影響を及ぼさないことを示す図である。
図10A】生きた動物イメージングシステムにおける結腸癌肝転移移植モデルにおける経口投与(用量5mg/kg及び10mg/kg)による癌転移抑制活性を確認した結果を図示した図である。
図10B】生きた動物イメージングシステムにおける結腸癌肝転移移植モデルにおける経口投与(用量5mg/kg及び10mg/kg)による癌転移抑制活性を確認した結果を図示した図である。
図11】対照化合物であるベンプロペリン、及び実施例1~3、5の化合物の構造式におけるDLD-1の遊走のIC50値及びそれらの化合物を示す図である。
図12】比較例1~5の化合物の構造式における結腸癌細胞株DLD-1の遊走のIC50値とそれらの化合物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0083】
以下、実施例により、本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。以下の実施例は本発明を説明するためにのみ提供され、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0084】
実施例1:CG-609の合成
キラル化合物の代表例として、下記反応式1と同様の方法により化合物CG-609を合成した:
【0085】
【化8】
【0086】
(1)化合物1[(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オール]の合成
炭酸カリウム(1.2g、8.68mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、0.85M、5mL)に加え、撹拌した。5分後、2-ベンジルフェノール(400mg、2.17mmol)を室温で添加した。30分後、の(R)-(+)-プロピレンオキサイド(0.9mL、13.91mmol)を、シリンジで迅速に添加した。その後、120℃に加熱し、17時間撹拌した。混合物を室温まで冷却した後、水を加えて反応を完了し、次いで酢酸エチル及び水で3回抽出した。その後、有機層を水で3回洗浄後、再び塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、次いで減圧濃縮した。濃縮物をカラムクロマトグラフィー(EA:Hex=1:9)で精製して、化合物1[(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-オール、970mg、92.4%、明黄色オイル]を得た。化合物1のH-NMR解析結果は以下の通りである。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3)δ 7.30-7.15(m, 7H), 6.94(td, J = 7.2, 1.2 Hz, 1H), 6.81(d, J = 8.7 Hz, 1H), 4.06-4.03(m, 1H), 4.00(d, J = 5.4 Hz, 2H), 3.89(dd, J = 9.3, 3.0 Hz, 1H), 3.66(dd, J = 9.3, 7.8 Hz, 1H), 1.78(d, J = 3.6 Hz, 1H), 1.18(d, J = 6.0 Hz, 3H);
13C-NMR (75 MHz, CDCl3)δ 156.34, 141.22, 131.00, 129.18, 128.45, 128.26, 127.77, 126.01, 120.81, 111.20, 78.08, 66.10, 37.10, 18.36.
【0087】
(2)化合物2[(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル4-メチルベンゼンスルホネート]の合成
化合物1(400mg,1.73mmol)を塩化メチレン(MC、0.25M、7mL)に溶解した。その後、トリエチルアミン(TEA)0.59mL(4.21mmol)、p-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(106mg、0.87mmol)、及びp-トルエンスルホニルクロリド(TsCl)(410mg、2.25mmol)を連続的に添加し、次いで室温で16時間撹拌した。その後、水を加えて反応を完了させ、塩化メチレン(MC)及び水で3回抽出した。その後、MC層を水で2回洗浄した後、再び塩水で洗浄した。MC層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、次いで減圧下で濃縮した。濃縮物をカラムクロマトグラフィー(EA:Hex=1:9)で精製し、化合物2[(R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル 4-メチルベンゼンスルホン酸、505mg、73.5%、褐色オイル]を得た。化合物2のH-NMR解析結果は以下の通りである。
[α]25 D+78.7°(c 1, EtOH);
1H-NMR (300 MHz)δ 7.78(d, 2H, J = 8.1 Hz), 7.27-7.11(m, 8H), 7.03(dd, J = 7.2, 1.2 Hz, 1H), 6.88(t, J = 7.2 Hz, 1H), 6.70(d, 1H, J = 8.7 Hz), 4.87(m, 1H), 4.01(dd, 1H, J = 10.5, 5.4 Hz), 3.89(dd, 1H, J = 10.5, 5.4 Hz), 3.80(s, 2H), 2.37(s, 3H), 1.34(d, 3H, J = 6.9 Hz);
13C-NMR (75 MHz)δ 155.6, 144.7, 140.7, 134.0, 130.5, 129.9, 129.7, 128.9, 128.2, 127.7, 127.3, 125.8, 121.1, 111.1, 76.9, 69.7, 35.7, 21.5, 17.8.
【0088】
(3)CG-609の合成
化合物2(435mg、1.09mmol)を(R)-2-メチルピペリジン(0.65mL、6.59mmol)に溶解し、次いで120℃で5時間還流した。その後、室温で12時間撹拌した。撹拌した反応混合物をメタノールで希釈し、減圧下で濃縮した(大量のピペリジンを除去した)。次いで、1M水酸化ナトリウム(NaOH、43mL)を添加して塩基性条件とし、次いでエーテル及び水を用いて3回抽出した。次に、エーテル層を塩水で洗浄した。エーテル層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、次いで減圧濃縮した。濃縮物をカラムクロマトグラフィー(EA:Hex=1:1)で精製して、CG-609((S)-1-((R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン、201mg、55.2%、褐色油)を得た。CG-609のH-NMR解析結果は以下の通りである。
[α]25 D- 121.8°(c1, EtOH);
1H-NMR (300 MHz)δ 7.26-7.13(m, 7H), 7.05(m, 2H), 4.05(dd, 1H, J = 9.5, 5.0 Hz), 4.98(s, 2H), 3.78(dd, 1H, J = 9.0, 5.5 Hz), 3.51(m, 1H), 2.97(m, 1H), 2.64(m, 1H), 2.18(m, 1H), 1.15(m, 3H), 1.42(m, 1H), 1.23(m, 2H), 1.17(d, 3H, J = 7.0 Hz), 1.07(d, 3H, J = 5.5 Hz);
13C-NMR (75 MHz)δ 156.7, 140.9, 130.5, 129.3, 128.7, 128.1, 127.3, 125.7, 120.3, 110.8, 67.5, 54.7, 51.7, 45.5, 36.1, 35.7, 26.7, 24.5, 19.9, 16.7.
上記で合成したCG-609のH-NMRデータを図1に示す。
【0089】
実施例2:CG-608の合成
(R)-2-メチルピペリジンの代わりに2-メチルピペリジンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-608(1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン)を得た。
【0090】
実施例3:CG-610の合成
(R)-2-メチルピペリジンの代わりに(S)-2-メチルピペリジンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-610((S)-1-((S)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン)を得た。
【0091】
実施例4:CG-617の合成
(R)-(+)-プロピレンオキサイドの代わりに(S)-(-)-プロピレンオキサイド、(R)-2-メチルピペリジンの代わりに2-メチルピペリジンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-617(1-((R)-1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン)を得た。
【0092】
実施例5:CG-618の合成
CG-618:以下の反応式2と同様にして、1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジンを合成した。
【0093】
【化9】
【0094】
CG-618 その鏡像異性体の代わりにプロピレンオキサイドと2-メチルピペリジンの両方のラセミ体を反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、(1-(1-(2-ベンジルフェノキシ)プロパン-2-イル)-2-メチルピペリジン)を得た。
【0095】
比較例1 CG-605Sの合成
2-メチルピペリジンの代わりにモルホリンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-605Sを得た。CG-605SのH-NMR解析結果は以下のとおりである。
1H-NMR (300 MHz)δ 7.27-7.08(m, 7H), 6.88(m, 2H), 4.05(dd, 1H, J = 9.5, 5.1 Hz), 4.98(s, 2H), 3.88(dd, 1H, J = 9.0, 5.5 Hz), 3.66(t, 4H, J = 4.5 Hz), 2.92(m, 1H), 2.58(m, 4H), 1.12(d, 3H, J = 7.2 Hz).
【0096】
比較例2 CG-606Sの合成
2-メチルピペリジンの代わりにピロリジンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-606Sを得た。CG-606SのH-NMR解析結果は以下のとおりである。
1H-NMR (500 MHz)δ 7.27-7.08(m, 7H), 6.88(m, 2H), 4.13(dd, 1H, J = 9.5, 5.0 Hz), 4.01(s, 2H), 3.82(dd, 1H, J = 9.0, 7.0 Hz), 2.75(m, 1H), 2.67(m, 4H), 1.78(m, 4H), 1.22(d, 3H, J = 6.5 Hz).
【0097】
比較例3 CG-607Sの合成
2-メチルピペリジンの代わりにヘキサメチレンイミンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-607Sを得た。CG-607SのH-NMR解析結果は以下のとおりである。
1H-NMR (500 MHz)δ 7.28-7.08(m, 7H), 6.88(m, 2H), 4.05(dd, 1H, J = 9.0, 5.0 Hz), 4.01(s, 2H), 3.80(dd, 1H, J = 9.0, 7.0 Hz), 3.13(m, 1H), 2.71(m, 4H), 1.59(m, 8H), 1.11(d, 3H, J = 7.0 Hz).
【0098】
比較例4 CG-611の合成
2-メチルピペリジンの代わりに3-メチルピペリジンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-611を得た。CG-611のH-NMR解析結果は以下の通りである。
1H-NMR (500 MHz)δ 7.28-7.15(m, 6H), 7.09(m, 1H), 6.88(m, 2H), 4.08(m, 1H), 4.01(s, 2H), 3.87(m, 1H), 3.01(m, 1H), 2.78(m, 2H), 2.22(m, 1H), 1.62(m, 4H), 1.12(dd, 3H, J = 2.0, 7.0 Hz), 0.086(dd, 3H, J = 5.5, 7.0 Hz).
【0099】
比較例5 CG-612の合成
2-メチルピペリジンの代わりに3-メチルピペリジンを反応材料として用いて、CG-609の合成方法と同様の方法で、CG-612を得た。CG-612のH-NMR解析結果は以下の通りである。
1H-NMR (500 MHz)δ 7.29-7.17(m, 6H), 7.11(m, 1H), 6.88(m, 2H), 4.05(dd, 1H, J = 9.5, 5.0 Hz), 4.02(s, 2H), 3.87(dd, 1H, J = 9.0, 6.5 Hz), 3.01(m, 1H), 2.85(m, 2H), 2.31(m, 2H), 1.63(m, 2H), 1.31(m, 1H), 1.23(m, 2H), 1.14(d, 3H, J = 7.0 Hz), 0.94(d, 3H, J = 6.5).
【0100】
実験例1 細胞毒性解析
実施例1~9で調製したCG-608~CG-610及びCG-613~CG-618の細胞毒性を確認するために、ヒト結腸癌細胞株DLD-1細胞(ATCC-CCL-221)、膵癌細胞株AsPc-1細胞(ATCC-CRL-1682)、及び正常細胞MCF10A(ATCC-CRL-10317)を、37℃及び5%COを維持しながら、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むRPMI培地中で培養した後、0.05%トリプシン-EDTAを用いて細胞を分離した。血球計算器で計算した4×103細胞を、10%FBS含有培地を含む96ウェルプレートのそれぞれのウェルに接種し、5%COを含む37℃インキュベーター中で培養した。24時間後、各ウェルの培地を、対照群(0.1%DMSO)及び実施例1で調製したCG-609、又は1mM、5mM及び10mMの濃度で代表的なベンプロペリン誘導体として実施例9で調製したCG-618を含む新しい培地に交換した。その後37℃、5%COの培養器で48時間培養した。その後、WST-1(ロシュ)10mLを各ウェルに添加し、2時間培養した後、ELISAリーダー(Bio-Rad)を用いて450nmで吸光度を測定した。その結果、図2に示すように、CG-609及びCG-618は、正常細胞MCF10Aにおいても細胞毒性を示さなかった。
【0101】
実験例2 癌細胞遊走阻止活性の分析
実施例1、2又は9で調製したCG-608、CG-609又はCG-618の癌細胞移動阻害活性を分析するために、結腸癌細胞株DLD-1(ATCC-CCL-221)、膵癌細胞株AsPc-1(ATCC-CCL-1682)、CFPAC-1(ATCC-CCL-1918)、Panc-1(ATCC-CCL-1469)、Miapaca-2(ATCC-CCL-1420)、皮膚癌細胞株(A375-CCL-3224)、肺癌細胞株HCC-827(ATCC-CCL-2868)、A549(ATCC-CCL-185)、及びNCI-H460(ATCC-CCL-177)、前立腺癌細胞株DU145(ATCC-HTB-81)、胃癌細胞株NuGC-3(JCRB0822)、及び卵巣癌細胞株SKOV-3(ATCC-HTB-77)。まず、FBSを含まないRPMI培地中で血球計算器を用いてDLD-1細胞の数を測定した。その後、トランスウェルを24ウェルプレート上に置き、8×104細胞/200mLの細胞を添加した。ウェルプレート上のトランスウェルを有する空の空間に、CG-608、CG-609、又はCG-618を含む10%FBSを含むRPMI培地500mlを加え、37℃のCOインキュベーターで16時間培養した。培養後、500mLのクリスタルバイオレット(5mg/mLの20%MeOH)を24ウェルプレートの各ウェルに添加し、トランスウェルを室温で30分間染色した。染色したトランスウェルをPBSで洗浄し、遊走していない細胞を綿棒で拭き取った。調製した試料を、デジタルカメラ(TE300、ニコン、日本)を搭載した倒立顕微鏡で撮影し、遊走した細胞数をカウントした。細胞遊走を阻害する程度は、対照群(DMSO)と比較して、サンプル処理した群について式1によって計算した。
【0102】
【数1】
【0103】
式1において、「試料で処理された遊走細胞の数」は実施例1のCG-608又はCG-618を処理することによって測定された遊走細胞の数を指し、「対照試料の遊走細胞の数」は、化合物の代わりに1%ジメチルスルホキシド(DMSO)のみを処理することによって測定された遊走細胞の数を指す。その結果、図3に示すように、CG-609(1mM)を処理することにより、膵癌細胞株AsPc-1、皮膚癌細胞A375-P及び肺癌細胞HCC-827である結腸癌細胞DLD-1の遊走が50%以上阻害され、CG-609を処理することにより、膵癌細胞CFPAC-1、肺癌細胞A549、前立腺癌細胞DU-145及び胃癌細胞NuGC-3の遊走が50%以上阻害されることが確認された。さらに、癌細胞遊走に対する化合物の濃度依存性を確認し、その結果を表1、図4図5図6にまとめた。
【0104】
【表1】
【0105】
一方、図2に見られるように、CG-609及びCG-618は、正常細胞MCF10Aの細胞遊走及び増殖を阻害しないことが示された。さらに、図4Aに示すように、韓国特許公報第10-2016-0105744号では、ベンプロペリン誘導体化合物を最大2mMの濃度で処理して、同じ条件下で癌細胞の遊走を50%以上抑制する必要があり、一方、CG-609は50nMの濃度で処理してもDLD-1細胞の遊走を50%以上抑制し、これは有意に低いことが分かる。したがって、CG-609は、関連技術において公知のベンプロペリン誘導体化合物よりも20倍以上強い癌細胞遊走阻害活性を有することが分かる。
【0106】
実験例3 癌細胞浸潤抑制活性の分析
実施例1又は9で調製したCG-609又はCG-618の癌細胞浸潤阻害活性を解析するために、トランスウェルを用いた細胞浸潤阻害活性を、結腸癌細胞株DLD-1細胞又は膵臓癌細胞株AsPc-1細胞を標的として測定した。FBSを含まないRPMI培地を用いてマトリゲルを5分の1に希釈し、次いで200mLを各トランスウェルに入れた。細胞をCOインキュベーター中で2時間コーティングした。DLD-1細胞の数を、FBSを含まないRPMI培地中で血球計算器を用いて測定した。その後、コーティングされたトランスウェルを24ウェルプレート上に置き、8×104細胞/200mLの細胞を添加した。ウェルプレート上のトランスウェルの空の空間に、(S)-(-)-ベンプロペリンを含む10%FBSを含むRPMI培地500mLを添加し、COインキュベーター中37℃で16時間培養した。培養後、500mLのクリスタルバイオレット(5mg/mLの20%MeOH)を24ウェルプレートの各ウェルに添加し、トランスウェルを室温で30分間染色した。染色したトランスウェルをPBSで洗浄し、遊走していない細胞を綿棒で拭き取った。調製した試料を、デジタルカメラ(TE300、ニコン、日本)を搭載した倒立顕微鏡で撮影し、遊走細胞数をカウントした。対照群(DMSO)と比較して、サンプルで処理した群について、細胞遊走を阻害する程度を計算した。その結果、図8に示すように、結腸癌細胞DLD-1において、CG-609(100nM)及びCG-618(500nM)が、それぞれ、DMSO処理対照試料と比較して50%以上の細胞浸潤を阻害するように処理されたことが確認された。ベンプロペリン5mMで処理した場合のみ、細胞侵入を50%抑制した結果を比較すると、CG-609とCG-618は、極めて低濃度でも細胞侵入を強く抑制したことがわかる。以上のように、CG-609及びCG-618は癌細胞の浸潤並びに癌細胞の遊走を効果的に抑制することが確認された。CG-609及びCG-618又はその医薬的に許容される塩を含有する組成物は、種々の癌転移の予防又は治療に有用に使用することができることが示唆される。
【0107】
実験例4 リアルタイム細胞移動画像及び分析
単一細胞の遊走に対する薬物の効果を、HoloMonitor M4(位相ホログラフィックイメージング)、リアルタイム細胞遊走画像及び分析装置を用いて確認した。全ての実験は細胞が長時間生存している間の細胞移動を分析するために、37℃の細胞インキュベーター内で行った。細胞イメージング中に長時間発生した水蒸気がイメージングを妨害するのを防ぐために、実験は、m-スライド顕微鏡チャンバー(Ibidi)中で細胞を分裂させることによって行った。単一細胞の移動を分析するために、分析される細胞(2.5×105細胞/mL)を0.2mLだけm-スライド顕微鏡チャンバーに分割し、12時間以上培養した。細胞を元の形状に十分に付着させた後、薬物で処理し、分析すべき位置を特定し、細胞遊走をリアルタイムで測定した。細胞遊走を5分間隔で24時間測定し、1基あたり25細胞の遊走を分析した。HoloMonitor追跡ソフトウェアを用いて、測定された時間の間に細胞によって移動した総距離、出発点から到着点までの直線距離、移動速度、及び方向を定量的に分析し、単一細胞の移動をWind-Roseプロット(図7)で可視化した。
【0108】
実験例5 共焦点顕微鏡を用いたラメリポジウム形成抑制活性の測定
ヒト結腸癌細胞株DLD-1、ヒト膵癌細胞株AsPc-1、ヒト黒色腫細胞株A375P、及び正常細胞MCF10Aを、それぞれ35mm高mディッシュプレート(ibid GmbH)上で1×10細胞濃度まで培養した。板に付着した細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、次いでDMSO又はDMSOに溶解したCG-618で6時間処理した。板から細胞培養培地を除去した後、板をPBSで2回洗浄し、PBSに溶解した4%パラホルムアルデヒドで室温で10分間処理して細胞を固定化した。プレートをPBSで1回洗浄し、次いで0.2%Triton X-100で室温で10分間処理して、細胞透過性を高めた。プレートをPBSで洗浄し、PBSに溶解した1%BSAで室温で1時間処理して、非特異的結合をブロックした。フィラメントアクチン(F-アクチン)の細胞内分布を調べるために、F-アクチンと特異的に結合したAlexa Fluor 488と結合したファロイジンを室温で15分間処理した。プレートをPBSで3回洗浄し、次いで、PBSに溶解した2mg/mLの4’,6’-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPAI)で室温で2分間処理して核を染色した。プレートをPBSで3回洗浄し、1mLのPBSで満たした。染色された細胞の画像は、共焦点顕微鏡(LSM510META、カール・ツァイス・ビジョン)を用いて得られた(図9に示す)。得られた画像を解析プログラム(LSMバージョン3.2ソフトウェア)で解析した。
【0109】
実験例6 ラット経口投与における急性毒性試験
6週齢の特異的病原体フリー(SPF)SDベースのラットを1基あたり2分割し、次いで実施例1、2又は9で調製したCG-608、CG-609又はCG-618を注射用蒸留水に溶解し、1000mg/kgの用量で1回ラットに経口投与した。被験物質投与後、動物の死亡率、臨床症状、体重変化を観察した後、血液学的検査及び血液生化学的検査を行い、剖検後、肉眼で腹部及び胸部臓器の異常を観察した。その結果、被験物質を投与した全例で特別な臨床症状や死亡動物は認められず、体重変化、血液学的・血液生化学的検査、剖検所見等に毒性変化は認められなかった。したがって、CG-608、CG-609及びCG-618は物質のラットにおいても1000mg/kgまで毒性変化を示さなかったことから、経口投与の最低用量(LD50)は1000mg/kg以上の安全性を有すると判断された。
【0110】
実験例7 ヌードマウスを用いた肝転移モデルにおけるCG-609の癌転移抑制活性の検証
この実験では、ヒト由来結腸癌細胞株(HCT-116ルシフェラーゼ)を脾臓に移植し、次いで脾臓を取り出し、4日後に縫合した。結腸癌肝転移インプラントモデルにおいて、生きた動物画像システムを用いてCG-609の経口投与による癌転移抑制活性を検証した。動物として、Koatech(平沢市、京畿道)から供給されたAthymic-NCr NCr-nu SPF 5週齢ヌードマウスを使用した。癌細胞を2×106細胞/mLに調整し、シリンジ(31Gニードル、1/2cc)を用いて、マウス1匹当たり30μL濃度、細胞培養液を脾臓に直接的に注入した。薬物CG-609を、0.5% Tween80を使用して5mg/kg又は10mg/kgの濃度に溶解し、次いで、週に5回のスケジュールで合計10mL/kgの量で20回マウスに経口投与した。HCT-116ルシフェラーゼ細胞を移植し、癌細胞を移植した翌日から薬剤投与を開始し、実験終了25日目まで計7回画像化した。画像化の間、50μLの細胞を、ルシフェリン15mg/mLの濃度で動物の腹部の各側に腹腔内投与し、次いで、光学画像化システム(IVIS-スペクトルCT、PerkinElmer)を使用して写真撮影した。試験の最終日に、マウスを画像化し、次いで染色し、主要な器官(肝臓、腎臓、及び結腸)を抽出して画像化し、次いで画像シグナルの程度を測定した。全ての測定項目の値を、t試験統計的方法を用いて溶媒対照と薬物投与群とを比較することによって統計的有意性について試験した(図10A及び10B)。癌転移抑制活性を表2にまとめた。
【0111】
【表2】
【0112】
以上のように、CG-609は動物モデルにおいて、癌細胞の遊走・浸潤を抑制し、効果的に癌転移を抑制することが確認された。CG-609又はその薬学的に許容される塩を含有する組成物は、種々の癌転移を予防又は処置するために有用に使用され得ることが示唆される。
【0113】
上述の本発明は、その技術的思想又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の具体的な形態で実施されてもよいことが当業者には理解されるだろう。したがって、上述の実施形態はあらゆる意味で例示的であることを意図しており、限定的ではないことを理解されたい。本発明の範囲は詳細な説明ではなく、以下に記載される特許請求の範囲によって表され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその等価物から導かれるすべての改変又は修正された形態は本発明の範囲内にあると解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12