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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】無電解銅めっき液
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/40 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
C23C18/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021572906
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2021032487
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020187294
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】塚原 義人
(72)【発明者】
【氏名】中田 優希
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-234343(JP,A)
【文献】特開平06-306622(JP,A)
【文献】特開昭53-142328(JP,A)
【文献】特表2010-538166(JP,A)
【文献】特表2016-517914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性領域で用いる還元型の無電解銅めっき液であって、
銅イオン供給源となる銅塩、銅イオンをキレート化するための錯化剤、還元剤、界面活性剤、窒素を含有する芳香族化合物を含有し、
当該銅イオンをキレート化するための錯化剤は、ホスホン酸系キレート剤であり、
当該還元剤は、アミンボラン又はその誘導体であり、
且つ、析出安定剤としてのテルル化合物をテルルとして0.1mg/L~100mg/Lの濃度範囲で含有し、
溶液pHが6~8.5であることを特徴とする無電解銅めっき液。
【請求項2】
前記析出安定剤としてのテルル化合物は、テルル酸及びその塩、亜テルル酸及びその塩、二酸化テルル、三酸化テルル、塩化テルル、ジメチルテルルからなる群から選択される一種以上である請求項1に記載の無電解銅めっき液。
【請求項3】
前記ホスホン酸系キレート剤は、前記無電解銅めっき液中の銅のモル数に対して0.1~10倍の濃度範囲で用いた請求項1又は請求項2に記載の無電解銅めっき液。
【請求項4】
前記還元剤は、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、tert-ブチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、トリメチルアミンボランからなる群から選択される一種以上である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の無電解銅めっき液。
【請求項5】
前記界面活性剤は、アニオン界面活性剤を0.01mg/L~1500mg/Lの濃度範囲で用いた請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の無電解銅めっき液。
【請求項6】
前記窒素を含有する芳香族化合物は、0.01mg/L~1000mg/Lの濃度範囲で用いた請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の無電解銅めっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、無電解銅めっき液に関する。特に、中性領域で用いる還元型の無電解銅めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から無電解銅めっき液に、銅イオンの還元剤としてホルムアルデヒドを使用するものが採用されてきた。ところが、ホルムアルデヒドは刺激臭が作業環境を悪化させ、人体への悪影響を生じさせていた。さらに、ホルムアルデヒドを用いる無電解銅めっき液は、強アルカリ性であり、特に被めっき対象物がアルミニウム又はアルミニウム合金等の場合には使用が困難であった。
【0003】
そこで、還元剤としてホルムアルデヒドに替えてボラン化合物を使用することが検討されてきたが、還元力が過剰であるため、めっき槽の壁面等に金属が還元析出したり、時間の経過とともに金属成分が沈殿してめっき液の安定性が低くなるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1に開示されているような無電解銅めっき液が提唱されてきた。この特許文献1には、「水溶性銅塩と、還元剤としてアミノボラン又はその置換誘導体とを含み、ホルムアルデヒドを含有しないpH4~9の無電解銅めっき浴であって、錯化剤としてのポリアミノポリホスホン酸と、アニオン界面活性剤と、アンチモン化合物と、含窒素芳香族化合物とを含有することを特徴とする無電解銅めっき浴。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-234343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の無電解銅めっき浴は、以下に述べるような問題点が指摘されていた。第一の問題点は、特許文献1に開示の無電解銅めっき浴は、使用後にめっき槽内に長時間放置すると槽底、攪拌治具等に銅が析出する傾向があり、めっき液としての溶液安定性に欠ける傾向が高い。第二の問題点は、特許文献1に開示の無電解銅めっき浴を用いて形成した無電解銅めっき被膜は、外観が不均一になりやすい傾向がある。第三の問題点は、特許文献1に開示の無電解銅めっき浴を用いてアルミニウム材上にめっきしたときに、アルミニウム自体の損傷は起こらなくとも、銅めっき被膜に膨れが生じ、ピットの発生も起こりやすい傾向が見られる。
【0007】
市場において、以上のような問題点が指摘されてきたが、特許文献1に開示の無電解銅めっき浴を使用するにあたっては、適正な組成の管理範囲が狭く、溶液安定性に欠けるため、めっきの操業安定性を得るのが困難となっているのではないかと考えられる。
【0008】
よって、本件出願では、上述のような問題の発生しない、溶液安定性に優れて組成管理の容易な無電解銅めっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本件出願にかかる発明者等は、鋭意研究の結果、以下のホルムアルデヒドフリーの無電解銅めっき液を採用することに想到した。以下、本件出願にかかる無電解銅めっき液の発明概要に関して述べる。
【0010】
本件出願にかかる無電解銅めっき液は、中性領域で用いる還元型の無電解銅めっき液であって、銅イオン供給源となる銅塩、銅イオンをキレート化するための錯化剤、還元剤、界面活性剤、窒素を含有する芳香族化合物を含有し、当該銅イオンをキレート化するための錯化剤はホスホン酸系キレート剤であり、当該還元剤はアミンボラン又はその誘導体であり、且つ、析出安定剤としてのテルル化合物をテルルとして0.1mg/L~100mg/Lの濃度範囲で含有し、溶液pHが6~8.5であることを特徴とする。
【0011】
本件出願にかかる無電解銅めっき液において、析出安定剤としてのテルル化合物は、テルル酸及びその塩、亜テルル酸及びその塩、二酸化テルル、三酸化テルル、塩化テルル、ジメチルテルルからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0012】
本件出願にかかる無電解銅めっき液において、ホスホン酸系キレート剤、当該無電解銅めっき液中の銅のモル数に対して0.1~10倍の濃度範囲で用いることが好ましい。
【0013】
本件出願にかかる無電解銅めっき液において、還元剤は、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、tert-ブチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、トリメチルアミンボランからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0014】
本件出願にかかる無電解銅めっき液において、界面活性剤は、アニオン界面活性剤を0.01mg/L~1500mg/Lの濃度範囲で用いることが好ましい。
【0015】
本件出願にかかる無電解銅めっき液において、窒素を含有する芳香族化合物は、0.01mg/L~1000mg/Lの濃度範囲で用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本件出願にかかる無電解銅めっき液は、無電解銅めっき液の析出安定剤としてテルル化合物を含有することで、ホルムアルデヒドを含まずに中性領域で用いるものでありながらも、めっき液としての溶液安定性が飛躍的に向上する。その結果、めっき操業中のめっき液組成の変動も少なく、多少の組成変動があっても、安定した銅めっき被膜の形成が可能となり、銅めっき被膜の膜厚均一性及び均一な外観品質を得ることができるようになった。そして、めっき操業後に、無電解銅めっき液をめっき槽内に放置しても無用な銅の析出が起こらずめっき液としての劣化が少なく、溶液の長寿命化が可能になった。更に、本件出願にかかる中性領域の無電解銅めっき液を採用することで、アルミニウム材にめっきしたときに、アルミニウム自体の損傷は起こらず、めっき被膜における膨れ、ピット等のめっき欠陥も効率よく解消できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件出願にかかる無電解銅めっき液の形態、及びこれを用いた無電解銅めっき方法について説明する。
【0018】
A.無電解銅めっき液の形態
本件出願にかかる無電解銅めっき液は、中性領域で用いる還元型の無電解銅めっき液である。そして、この無電解銅めっき液は、析出安定剤としてテルル化合物を構成成分として含有し、溶液pHが6~9であることを特徴している。以下、この無電解銅めっき液の溶液pHについて説明し、その後構成成分ごとに説明する。
【0019】
溶液pH: 溶液pHは、6.0~9.0であることが好ましい。溶液pHが6.0未満の場合、酸性領域となるため、以下に述べる還元剤等の構成成分の効果の低下が起こりやすく、無電解銅めっき液の長寿命化が困難となるため好ましくない。一方、溶液pHが9.0より大きくなると、アルカリ性領域となり、被めっき対象物であるアルミニウム材、セラミック材等の表面の損傷が起こる可能性が高くなり好ましくない。ここで、より好ましくは、さらに中性に近いpH6.5~8.5となれば、より確実に被めっき対象物の損傷を防止できる。
【0020】
本件出願にかかる無電解銅めっき液の溶液pHが調整を要する場合のpH調整剤には、酸側に調整するためには塩酸や硫酸等、アルカリ側に調整するためには、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いればよい。
【0021】
析出安定剤: 本件出願にかかる無電解銅めっき液において、析出安定剤としてのテルル化合物を用いる。このテルル化合物としては、例えば、テルル酸及びその塩、亜テルル酸及びその塩、二酸化テルル、三酸化テルル、塩化テルル、ジメチルテルル等のいずれか一種以上が挙げられる。これらテルル化合物を用いることで、従来解決できていなかった諸問題を全て解決できるようになった。すなわち、無電解銅めっき液に析出安定剤としてのテルル化合物を用いることで、溶液安定性が飛躍的に向上し、めっき液としての管理が容易となる。同時に銅めっき被膜を形成するときの析出状態も安定し、良好な銅めっき被膜の形成が可能になる。
【0022】
この析出安定剤としてのテルル化合物は、無電解銅めっき液中に、テルルとして0.1mg/L~100mg/Lの濃度範囲で含ませることが好ましい。テルル化合物の含有量がテルルとしての濃度で0.1mg/L未満の場合、無電解銅めっき液の溶液安定性を改善することができず、めっき液としての長寿命化が達成できず、組成変動によるめっき液特性が変動するため、無電解銅めっき液としての長時間の使用も困難となり好ましくない。一方、テルル化合物の含有量がテルルとしての濃度で100mg/Lを超える場合、銅の析出が顕著に低下する現象がみられるため、迅速な銅めっき被膜の形成が困難となるため好ましくない。よって、銅の析出速度の安定性を確実に確保するとの観点から、テルル化合物の含有量はテルルとしての濃度で0.3mg/L~70mg/Lの濃度範囲とすることがより好ましい。そして、テルル化合物の添加効果と、銅めっき被膜の形成速度のばらつきを最小限にするためには、テルル化合物は、テルルとして0.5mg/L~50mg/Lの濃度範囲で含ませることが最も好ましい。
【0023】
銅イオン供給源: 本件出願にかかる無電解銅めっき液において、銅イオン供給源となる銅塩を用いる。この銅塩としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅、グルコン酸銅等に代表される水溶性の銅塩及びその水和物のいずれか一種以上が挙げられる。このように、本件出願の銅塩は、二種以上を同時に併用することも可能であり、銅イオン量が以下の範囲になる限り、二種以上の銅塩の混合割合に特段の限定はない。原料コスト及び排水負荷等の条件を考慮すると、最も広範囲に利用できるのは硫酸銅(硫酸銅・5水和物)又は、硫酸銅と塩酸銅との併用であることが好ましい。
【0024】
本件出願にかかる無電解銅めっき液において、銅塩の含有量は銅としての濃度で、0.01mol/L~1mol/Lの濃度範囲とすることが好ましい。本件出願にかかる無電解銅めっき液の銅塩の含有量が銅としての濃度で0.01mol/L未満の場合には、銅の析出速度が著しく低下し、操業に要する時間が長くなり、工業上必要とする生産性を得られなくなるため好ましくない。一方、この銅塩の含有量が銅としての濃度で1mol/Lを超えても、銅の析出速度は向上せず、むしろ形成した銅めっき被膜の外観不良が増加する傾向になり好ましくない。したがって、形成する銅めっき被膜の外観品質を確実に確保するという観点からは、銅塩の含有量は銅としての濃度で0.02mol/L~0.5mol/Lの濃度範囲とすることが好ましい。
【0025】
錯化剤: 本件出願にかかる無電解銅めっき液は、中性領域で用いるものであり、錯化剤としてホスホン酸系キレート剤を用いることが好ましい。このホスホン酸系キレート剤は、中性領域において銅イオンの錯体を形成しやすいためである。このホスホン酸系キレート剤の中には、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレンジアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ビス(ヘキサメチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、グリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)及びその塩等が含まれ、これらの一種又は二種以上を同時に用いることも可能である。
【0026】
この錯化剤の含有量は、銅イオンをキレート化するものであるから、無電解銅めっき液中の銅含有量によって添加量が定まるものである。本件出願にかかる無電解銅めっき液は、この錯化剤としてのホスホン酸系キレート剤を、当該無電解銅めっき液中の銅のモル数に対して0.1~10倍の濃度範囲で用いることが好ましい。ホスホン酸系キレート剤濃度が当該銅のモル数に対して0.1倍未満の場合、銅イオンを十分に錯化することができず、無電解銅めっき液としての溶液安定性が確保できなくなるため好ましくない。一方、ホスホン酸系キレート剤濃度が当該銅のモル数に対して10倍を超える場合、銅イオンの錯体化に必要な量を超えるため、資源の無駄遣いとなると同時に、銅めっき被膜の外観品質を低下させる要因となるため好ましくない。
【0027】
還元剤: 銅イオンの還元剤としては種々のものを用いることができる。しかし、本件出願にかかる無電解銅めっき液の場合、中性領域で用いるものであるから、中性領域で使用可能な還元剤として、アミンボラン又はその誘導体を用いることが、溶液安定性を確保するために好ましい。より具体的には、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、tert-ブチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等のいずれか一種以上を用いることができる。この還元剤の濃度は、特に限定されないが、0.01mol/L~0.5mol/Lの範囲とすることが妥当である。還元剤の濃度が0.01mol/L未満の場合、銅の析出速度が遅くなるため好ましくない。一方、還元剤の濃度が0.5mol/Lを超えても、銅の析出速度が増加することもなく、単なる資源の無駄遣いとなるため好ましくない。
【0028】
界面活性剤: 本件出願にかかる無電解銅めっき液において、溶液安定性を向上させ、形成するめっき被膜の膜厚均一性及び外観品質の向上を目的として、界面活性剤を用いることが好ましい。特に、中性領域で用いる無電解銅めっき液の場合、アニオン界面活性剤を使用することが好ましい。
【0029】
このアニオン界面活性剤とは、市場で「アニオン界面活性剤」、「アニオン系界面活性剤」と称する全てのものが使用可能である。例えば、アルキルカルボン酸系界面活性剤、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩等のナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムやポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等のポリオキシアルキレンエーテル硫酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のいずれか一種以上が挙げられ、特段の限定は要さない。
【0030】
この界面活性剤の濃度は、特に限定は要さないが、0.01mg/L~1500mg/Lの範囲とすることが妥当である。界面活性剤の濃度が0.01mg/L未満の場合、無電解銅めっき液の溶液安定性が向上せず、めっき液としての長寿命化が困難となり、得られる銅めっき被膜の外観品質も低下する傾向にあり好ましくない。一方、界面活性剤の濃度が1500mg/Lを超える場合でも、特段の問題はないが、溶液安定性が更に向上することも、外観品質が向上するわけでもなく、むしろめっき操業時の浴管理が煩雑となるため好ましくない。
【0031】
窒素を含有する芳香族化合物: 本件出願にかかる無電解銅めっき液において、窒素を含有する芳香族化合物(所謂、窒素を含有する複素環式の芳香族化合物)は、無電解銅めっきにおける銅の析出を安定化させるために用いる。この窒素を含有する芳香族化合物としては、イミダゾール又はその置換誘導体、ピラゾール又はその置換誘導体、オキサゾール又はその置換誘導体、チアゾール又はその置換誘導体、ピラジン又はその置換誘導体、ピリダジン又はその置換誘導体、トリアジン又はその置換誘導体、ベンゾチアゾール又はその置換誘導体、ピリジン、2,2’-ジピリジル、4,4’-ジピリジル、ニコチン酸、ニコチンアミド、ピコリン類、ルチジン類等のピリジン類又はその置換誘導体、キノリン、ヒドロキシキノリン等のキノリン類又はその置換誘導体、アクリジン、3,6-ジメチルアミノアクリジン、プロフラビン、アクリジン酸、キノリン-1,2-ジカルボン酸等のアクリジン類又はその置換誘導体、ピリミジン、ウラシル、ウリジン、チミン、2-チオウラシル、6-メチル-2-チオウラシル、6-プロピル-2-チオウラシル等のピリミジン類又はその置換誘導体、1,10-フェナントロリン、ネオクプロイン、バソフェナントロリン等のフェナントロリン類又はその置換誘導体、プリン、アミノプリン、アデニン、アデノシン、グアニン、ヒダントイン、キサンチン、ヒポキサンチン、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、アミノフィリン等のプリン類又はその置換誘導体等のいずれか一種以上が挙げられる。
【0032】
そして、本件出願にかかる無電解銅めっき液の含有する、窒素を含有する芳香族化合物の濃度は、0.01mg/L~1000mg/Lとすることが好ましい。窒素を含有する芳香族化合物の濃度が0.01mg/L未満の場合、銅の析出安定剤としての効果を発揮することができず、形成した銅めっき被膜の外観も損なわれるため好ましくない。一方、窒素を含有する芳香族化合物の濃度が1000mg/Lを超えると、無電解銅めっき液の溶液安定性が過剰になり、銅の析出速度の低下やめっきの未析出が発生するため好ましくない。
【0033】
B.無電解銅めっき方法
無電解銅めっき方法に関しては、上述の無電解銅めっき液を使用して、従来から知られた無電解めっき方法及び条件を適用すればよい。したがって、ここで詳細に無電解銅めっき方法を説明する必要はないと考え、実施例の中に無電解めっき方法及び条件を記載する。
【0034】
以上に、本件出願にかかる無電解銅めっき液に関して説明したが、以下に本件出願の実施例及び比較例を示し、本件出願をより詳細に説明する。なお、本件出願はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
実施例1では、銅イオン供給源となる銅塩、銅イオンをキレート化するための錯化剤、還元剤、界面活性剤、窒素を含有する芳香族化合物を含有し、且つ、析出安定剤としてのテルル化合物を含有し、溶液pHが7.7、液温が60℃である無電解銅めっき液を用いて無電解銅めっきを行った後における、めっき液としての溶液安定性の良否を確認した。ここで、めっき液としての溶液安定性の評価は、無電解銅めっき液を加熱してその液温を一定に保ちながらめっき処理を行い、その後当該無電解銅めっき液を12時間放置した後において、被処理物以外への析出が確認できない場合を「○」、当該析出がわずかに確認できた場合を「△」、当該析出が顕著に確認できた場合又はめっき中にめっき液の分解が発生した場合を「×」として示す。この確認を行った結果を後述の表3に示す。
【0036】
実施例1では、被めっき物であるアルミニウム回路付き基板(以下、単に基板と称する。)に対し、以下の表1に示す条件(表中上からの順)で前処理を実施した後、無電解銅めっき液中に120分間浸漬して無電解銅めっきを行い、アルミニウム回路パターン表面に銅めっき被膜を形成した。
【0037】
【表1】
【0038】
なお、実施例1では、以下に示す組成を有する無電解銅めっき液を調整した。
(無電解銅めっき液組成)
銅塩(硫酸銅五水和物): 0.06mol/L(銅として4g/Lの濃度)
錯化剤(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)): 0.08mol/L
還元剤(ジメチルアミンボラン): 0.09mol/L
界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム): 20mg/L
窒素を含有する芳香族化合物(1,10-フェナントロリン): 4mg/L
析出安定剤(テルル酸ナトリウム): 1mg/L(テルルとしての濃度)
【0039】
また、実施例1では、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき外観、基板上のアルミニウム回路パターン(以下、単にパターンとも称する。)表面に銅めっき被膜を形成した後のめっき被膜のパターン外析出の有無及びパターン未析出の有無について確認を行った。なお、上述の「パターン未析出の有無」とは、アルミニウム回路パターン表面上において、銅めっき皮膜の未析出部分が生じたか否かを示すものである。ここで、無電解銅めっき被膜の析出速度は、蛍光X線膜厚計での測定により求めた。また、めっき外観は、目視にて評価(均一なめっき外観のものを「○」、ムラのあるめっき外観のものを「×」とする。)を行った。これら確認を行った結果も表3に併せて示す。
【実施例2】
【0040】
実施例2では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例2では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「2mg/L」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例2で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例3】
【0041】
実施例3では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例3では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「10mg/L」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例3で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例4】
【0042】
実施例4では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例4では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「20mg/L」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例4で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例5】
【0043】
実施例5では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例5では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「50mg/L」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例5で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例6】
【0044】
実施例6では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例6では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「5mg/L」に変更すると共に、溶液pHを「6.5」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例6で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例7】
【0045】
実施例7では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例7では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「5mg/L」に変更すると共に、溶液pHを「7.0」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例7で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例8】
【0046】
実施例8では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例8では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「5mg/L」に変更すると共に、溶液pHを「8.0」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例8で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【実施例9】
【0047】
実施例9では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、実施例9では、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「5mg/L」に変更すると共に、溶液pHを「8.5」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、実施例9で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【比較例1】
【0048】
比較例1では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、比較例1では、実施例1~9との対比を行うため、無電解銅めっき液組成における析出安定剤としてテルル酸ナトリウムに替えて「酸化アンチモン」を使用し、その含有量をアンチモンとしての濃度で4mg/Lとする共に、還元剤の濃度を0.14mol/Lとした以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、比較例1で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【比較例2】
【0049】
比較例2では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、比較例2では、実施例1~9との対比を行うため、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「0mg/L(即ち、テルル酸ナトリウム非含有)」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、比較例2で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【比較例3】
【0050】
比較例3では、実施例1と同様に、めっき液の溶液安定性、無電解銅めっき被膜の析出速度、めっき被膜のパターン外析出の有無、及びパターン未析出の有無について確認を行った。この確認を行った結果を表3に示す。なお、比較例3では、実施例1~9との対比を行うため、無電解銅めっき液組成における析出安定剤であるテルル酸ナトリウムの含有量をテルルとしての濃度で「200mg/L」に変更した以外、実施例1と同じ条件で無電解銅めっきを行った。よって、比較例3で無電解銅めっきを行う際の条件説明は省略する。
【0051】
ここで、理解を容易にするため、実施例及び比較例で用いた無電解銅めっき液の組成を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
また、実施例及び比較例として行った上述の試験における確認結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
(結果及び評価)
表3に示す確認結果より、実施例1~9は、「めっき外観」、「パターン外析出」、「パターン未析出」、「溶液安定性」の全てにおいて良好な結果が得られた。一方、比較例1のように、無電解銅めっき液に析出安定剤としてテルルではなくアンチモンを含有する場合には、溶液安定性の低下が見受けられた。さらに、比較例1においては、基板上のアルミニウム回路パターン表面に十分にめっき被膜を形成させることができず、めっき外観も均一ではなかった。また、比較例2のように、析出安定剤におけるテルルの濃度が0.5mg/L未満の場合には、めっき外観の悪化及び溶液安定性の低下が見受けられた。さらに、比較例2においては、パターンからのはみだしが確認された。そして、比較例3のように、析出安定剤におけるテルルの濃度が100mg/Lを超える場合には、めっきがほとんど析出せず、基板上のアルミニウム回路パターン表面にめっき被膜を形成させることができなかった。
【0056】
以上のことから、本件出願の条件である「銅イオン供給源となる銅塩、銅イオンをキレート化するための錯化剤、還元剤、界面活性剤、窒素を含有する芳香族化合物を含有し、且つ、析出安定剤としてのテルル化合物を含有し、溶液pHが6~9であること」を満たすことで、ホルムアルデヒドを含まずに中性領域で用いる還元型の無電解銅めっき液であるにもかかわらず、めっき操業中のめっき液組成の変動も少なく、安定した銅めっき被膜の形成が可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本件出願にかかる無電解銅めっき液は、中性領域で使用し、被めっき対象物に対し損傷を与えない。よって、アルミニウム材、セラミック材等の無電解銅めっき液で損傷を受けやすい被めっき対象物に対し使用可能な無電解銅めっき液となる。しかも、無電解銅めっき液として、長寿命であり溶液安定性に優れているため、無電解銅めっきとしてのランニングコストも削減可能である。
【要約】
中性領域で用いるものでありながらも、溶液安定性が優れて組成管理の容易な無電解銅めっき液を提供することを目的とする。この目的を達成するため、中性領域で用いる還元型の無電解銅めっき液であって、銅イオン供給源となる銅塩、銅イオンをキレート化するための錯化剤、還元剤、界面活性剤、窒素を含有する芳香族化合物を含有し、且つ、析出安定剤としてのテルル化合物を含有し、溶液pHが6~9であることを特徴とする無電解銅めっき液を採用する。