(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】電気集塵機用の放電極及びそれを用いた電気集塵機
(51)【国際特許分類】
B03C 3/41 20060101AFI20220726BHJP
B03C 3/04 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B03C3/41 A
B03C3/04
B03C3/41 H
(21)【出願番号】P 2018069202
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅美
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 和幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 茂
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-091782(JP,U)
【文献】実開昭58-058842(JP,U)
【文献】実開昭64-005652(JP,U)
【文献】特開2006-007150(JP,A)
【文献】特開2017-119250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気集塵機用の放電極であって、
略矩形形状の放電極枠と、
該放電極枠内に互いに平行に張設されている複数の放電線と、を備えてなり、
前記放電極枠は、外枠部と、該外枠部の対面する一組の側辺を連接して、前記放電線に直交する方向に沿って設置されている連結用梁部と、を有し、
前記連結用梁部には、複数の連結金具が、該連結用梁部に直交する方向にのみ
に沿って、
該連結用梁部の上下何れの方向に向けても摺動可能な態様で接合されていて、
前記放電線は、前記連結用梁部に直交する方向に沿って、複数の導線が、前記連結金具を介して連結されて構成されている、放電極。
【請求項2】
前記導線の長さが1800mm以下であって、3本以上の該導線が、2個以上の前記連結金具を介して連結されて、前記放電線を構成している、請求項1に記載の放電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放電極を備える、乾式の電気集塵機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式の電気集塵機に設置される電気集塵機用の放電極、及び、当該放電極を用いた乾式の電気集塵機に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の煤塵や粉塵を除去するためのガス処理装置として、乾式の電気集塵機が知られている(特許文献1参照)。この乾式の電気集塵機は、交互に配置された放電極と集塵極との間に高電圧を印加することにより両極間に荷電帯を形成し、排ガス中のダストを集塵極に吸着させて捕集するものである。
【0003】
この乾式の電気集塵機の放電極は、通常、複数の放電線の両端を、これを支持する外枠部の内側に張設することにより構成される(特許文献2参照)。このような構造の放電極においては、隣接する放電線同士の接触による短絡を避けるために、各放電線の位置を十分に安定させる必要がある。そのために、個々の放電線には一定以上の張力がかけられている。
【0004】
ここで、例えば、全長が7.2m程度の長尺の放電線を支持するような大型の放電極を構成する場合、放電線全体に適切な張力をかけて、各放電線の位置の安定性を保つことは困難となる。また、このような長尺の放電線の位置の安定性を十分に高めるために、一定以上の強い張力をかけると、過剰な張力による放電線の切断の危険が高まる。
【0005】
このような問題を回避するために、外枠部の両側辺間に放電線と直交する方向に梁を設置し、この梁の部分で比較的短い導線を連結することによって、全体として長尺となる放電線を構成することが行われている。一例としては、1.8m程度の4本の放電線を連結して、全長が7.2m程度に及ぶ放電線を構成する例を挙げることができる。
【0006】
このように比較的短く分割された各放電線の両端は上記の中間の梁の部分でも適切な位置に支持されるため、過剰な張力をかけることなく放電線の位置を安定させることができる。
【0007】
しかしながら、上記のような、複数の放電線を連結してなる構成の放電極において、分割設置されている個々の放電線全てに均等な張力をかける調整は煩雑且つ困難であり、又、分割されているより多数の放電線のうちの1本のみに、何等かの理由で一時的に強い張力がかかった場合に、当該放電線が切断してしまいやすいという問題が、新たに認識されるに至っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-246348号公報
【文献】特開2017-217588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、複数の放電線が中間の梁の部分で連結されていることにより各放電線の水平位置の安定性が保たれている構造の放電極において、この放電線の水平位置の安定性を維持したまま、これらの放電線の切断のリスクを小さくすることができる、電気集塵機用の放電極とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、放電線を張設する外枠部の中間部に設けた梁部に、放電線の向きと平行な方向にのみ摺動可能に連結金具を接合し、この連結金具によって複数の導線が連結された放電線を構成することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 電気集塵機用の放電極であって、略矩形形状の放電極枠と、該放電極枠内に互いに平行に張設されている複数の放電線と、を備えてなり、前記放電極枠は、外枠部と、該外枠部の対面する一組の側辺を連接して、前記放電線に直交する方向に沿って設置されている連結用梁部と、を有し、前記連結用梁部には、複数の連結金具が、該連結用梁部に直交する方向にのみ摺動可能な態様で接合されていて、前記放電線は、前記連結用梁部に直交する方向に沿って、複数の導線が、前記連結金具を介して連結されて構成されている、放電極。
【0012】
(1)の発明によれば、各々の放電線の水平位置の安定性は十分に維持しながら、放電線の一部のみに一時的に強い張力がかかった場合であっても、放電線の切断のリスクを十分に抑制することができる放電極を得ることができる。
【0013】
(2) 前記導線の長さが1800mm以下であって、3本以上の該導線が、2個以上の前記中間連結金具を介して連結されて、前記放電線を構成している、(1)に記載の放電極。
【0014】
(2)の発明によれば、例えば、放電線の総長さが5000mmを超えることとなるような、大型の放電極であって、特に放電線の水平位置の安定性と切断のリスクの抑制の両立が難しい放電極において、(1)の発明の有利な効果を享受して、安全性と耐久性に優れる放電極を得ることができる。
【0015】
(3) (1)又は(2)に記載の放電極を備える、乾式の電気集塵機。
【0016】
(3)の発明によれば、(1)又は(2)の発明の有利な効果を享受して、安全性と耐久性に優れる電気集塵機を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の放電線が中間の梁の部分で連結されていることにより各放電線の水平位置の安定性が保たれている構造の放電極において、この放電線の水平位置の安定性を維持したまま、これらの放電線の切断のリスクを小さくすることができる、電気集塵機用の放電極とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の放電極を備える電気集塵機の斜視図であり、内部構成を含む全体構成の説明に供するためにその一部を透視図としたものである。
【
図2】本発明の放電極の正面図である(但し、放電線の一部のみを示し、他の放電線の図示は省略している)
【
図3】本発明の放電極の放電線を構成する導線同士の連結部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、乾式の電気集塵機において適用される本発明の放電極、及び、この放電極を備える乾式の電気集塵機について、適宜、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<電気集塵機>
本発明の放電極の設置を想定する電気集塵機は、電気集塵によって排ガスからダストを除去する集塵装置である。電気集塵とは静電気力を応用した集塵方式であり、放電極に高電圧が印加され集塵極との間に電界を形成すると共に、コロナ放電により放電極の周囲のガスを電離してイオンを供給する。この状態で、放電極と集塵極の間に煙霧体粒子であるダストを含むガスを流すと、ガス中に含まれるダストはイオンによって帯電する。帯電したダストは集塵極に付着しこれらが捕集される。本発明の放電極は、このような乾式の電気集塵機に特段の限定なく汎用的に用いることができる。但し、本発明の放電極は、放電線の総長さが5m以上となる大型の電気集塵機に、特に好ましく用いることができる。
【0021】
[全体構造]
図1は、本発明の放電極1を用いてなる乾式の電気集塵機10の全体構造を示す斜視図である。この電気集塵機10は、放電極1と集塵極2とが交互に配置されている複数の箱状の集塵室を備える。放電極1を設置する電気集塵機のサイズは特段限定されないが、好ましい一例として、ダストを含有する排ガスG1を導入する排ガス入口部4から、ダストが除去された排ガスG2を排出する排ガス出口部5に向けて並置される3室の集塵室において、各室毎に概ね、巾5m、高さ8m程度の放電極1が10枚ずつ程度配置されている集塵機を例示することができる。なお、これらの各極に印加する電圧は、通常50kV以上70kV以下程度であり、各極に流れる電流は、通常、100mA以上200mA以下程度である。
【0022】
図1に示すように、通常、電気集塵機の排ガス入口部4は、電気集塵機10の本体内部に向けて急激に開かれた形状とされている。一方、排ガス出口部5は電気集塵機10の本体内部から外部に向けて急激に絞られた形状とされている。これは、電気集塵機10においては、通常、集塵室内を通過する排ガスの流速は排ガス入口部4の煙道内における流速よりも低速であることが好ましいからである。集塵室内を通過する排ガスの速度を適切に抑制することにより、集塵極2へのダストの付着を促進することができる。また、この排ガス速度の抑制により、集塵室下方のホッパー6へ落下させるべきダストが、電気集塵機10から排出されるダスト除去済の排ガスG2中へ散逸することを防止することもできる。
【0023】
電気集塵機10には、
図1に示すように、一般的に、排ガス入口部4の側の集塵室の入口端近傍に、格子状のスリットを有する整流板3Aが配置される。この整流板3Aの整流効果により、排ガスの偏流及び渦流を抑制することができる。また、電気集塵機10においては、排ガス出口部5でも、排ガスの偏流や渦流が発生しやすく、それが集塵室内のガス流へ影響をおよぼすことがある。これを防止するためには、排ガス出口部5の側の集塵室の出口端近傍に整流板3Bを配置することが有効である。
【0024】
集塵極2に捕集されたダストは、ハンマー等の槌打装置(図示せず)により、間欠的に叩き落される。槌打装置は、集塵極2に機械的衝撃を与えることができる手段であれば特定の手段に限定されないが、回転式のハンマー等を好ましい例として挙げることができる。また、この槌打装置は、所定の時間間隔で自動的に作動する制御手段を更に備える自動槌打装置であることがより好ましい。
【0025】
整流板から叩き落とされたダストは、電気集塵機10の下部に設けられるホッパー6に集められる。集められたダストは、その後、ロータリーバルブやフローコンベア等で切出して掻き出すことにより、電気集塵機10の外部に排出される。
【0026】
[放電極]
本発明の電気集塵機用の放電極1は、
図2に示す通り、略矩形形状の放電極枠11と、放電極枠11内に、複数の放電線14が、互いに平行に張設されて構成されている。そして、各々の放電線14は、連結用梁部13において放電線の向きと平行な方向にのみ摺動可能な態様で接合されている連結金具15によって連結されている複数の導線14A、14B、14C、14Dによって構成されていることを特徴とする。
【0027】
放電極枠11は、ステンレス製の鋼材等で構成され、外枠部12と、外枠部12の対面する一組の側辺を連接して、放電線14に直交する方向に沿って設置されている連結用梁部13(13A、13B、13C)を有する。連結用梁部13の左右の両端部は、外枠部12の対向する一組の側辺にそれぞれ固定されている。固定手段としては強固な固定が可能で、なお且つ、補修時には格子板の部分交換が容易なボルト締めが好ましい。
【0028】
また、それぞれの連結用梁部13には、放電線14の本数に対応する数の連結金具15(15A、15B、15C)が、放電線の張設位置に合わせて、連結用梁部13に直交する方向(
図3におけるa方向又はa’方向
)にのみ摺動可能な態様で接合されている。
【0029】
連結金具15は、その両端に放電線14を構成する各導線14A、14B、14C、14Dを安定して繋ぐことが可能な形状金具であれば特定の形状のものに限定されないが、
図3に示すように軸部152の両端にフック形状の連結部151を有する金属部材を好ましく用いることができる。また、連結金具15(15A、15B、15C)の軸部152の中央寄りの部分で、連結用梁部13と接触することが想定される部分については、絶縁カバー153で絶縁被覆されていることが望ましい。
【0030】
連結用梁部13と連結金具15との接合態様については、例えば連結用梁部13をアングル材で形成し、アングル材の水平面に連結金具15の軸部152が適度に摺動可能な大きさの貫通孔である連結金具支持孔131を形成して、この貫通孔に連結金具15の軸部152を通すことによって形成することができる。
【0031】
但し、上記の接合態様について、更には、連結金具15を連結用梁部13に直交する方向(
図3におけるa方向又はa’方向)にのみ摺動させ、それ以外の方向への動きを抑制する構造を追加することがより好ましい。そのような構造の具体例としては、例えば、アングル材の水平面上に断面山型の鋼材を追加して一の連結金具支持孔131の直上に第2の連結金具支持孔131を設けるか、或いは、アングル材を断面コの字型の鋼材にする等して、放電線14の向きに沿って直列配置される2つの連結金具支持孔131を設け、連結金具15の軸部152を、このように形成された直列する2つの連結金具支持孔を通す構造とすることによって、連結金具15を連結用梁部13に直交する方向(
図3におけるa方向又はa’方向)にのみ摺動させ、他の方向への位置変動をより確実に抑止する構造とする例を挙げることができる。
【0032】
放電線14は、導線14A、14B、14C、14Dが連結金具15を介して連結されて、外枠部の上下を結ぶ一連の導線として張設されている。これらの導線14A、14B、14C、14Dは、従来、乾式集塵機の放電極において放電線を構成する導線として用いられている各種の導線部材を用いることができる。例えば、ステンレス製の導線を芯線とし、その芯線に鉛の被覆が施されてなる鉛被覆通電線を好ましい導線の一例として挙げることができる。芯線を構成するステンレスとしては、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系等のステンレスを使用することができる。例えば、SUS403、SUS410、SUS430、SUS405、SUS409、SUS303、SUS304等を適宜選択することができる。
【0033】
放電極1においては、放電線14を構成する各々の導線14A、14B、14C、14Dを連結する各々の連結金具15A、15B、15Cは、上述の通り、放電線14の向きと平行な方向以外の方向への変動は抑止されている。よって、各々の放電線14の水平位置は高い安定性で保持される。
【0034】
一方、何等かの事情で、鉛直方向に沿って張設されている複数の放電線14のいずれかの部分において通常よりも大きな張力がかかった場合、連結金具15が応力を緩和する程度に鉛直方向には摺動するため、放電極1においては、そのような場合における放電線の切断のリスクも有意に低減されている。
【0035】
また、電気集塵機10の稼働中には、上述の集塵極2への槌打と同様の態様で、放電極1にもダスト除去を目的とした槌打が適宜行われる。この槌打の衝撃によって放電線14の突発的な位置変位が引き起こされ、放電線14が集塵極2に接触してしまうリスクが生じる場合がある。本発明の放電極枠11のように、放電線を1本の長い導線ではく、例えば1800mm以下程度の複数の導線(14A、14B、14C、14D)を連結した構成とすることにより、上記の放電線の変位幅を抑制して、放電線14と集塵極2との接触のリスクを十分に下げることができる。なお、張り替え作業の負担等を考慮すると、一連の放電線を構成するために連結される導線の数は3~4本程度が適当である。
因みに、導線(14A、14B、14C、14D)は、材料入手の容易性の観点からも1800mm以下であることが好ましいが、このような制約の下でも、本発明によれば、安全性及び耐久性に優れる放電極を、従来よりも制約の少ない設計条件の下でより自在に様々なサイズで製造することができる。
【0036】
<排ガスからの集塵方法>
本発明の放電極1を備える乾式の電気集塵機10は、一例として、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る酸化亜鉛焼鉱の製造プロセスにおいて好ましく用いることができる。
【0037】
上記製造プロセスにおいては、先ず還元焙焼工程において鉄鋼ダストを還元焙焼用のロータリーキルン(RRK)によって還元焙焼する処理が行われる。この工程では、RRK炉内で鉄鋼ダスト由来の原材料は還元焙焼されて、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。同工程に続く湿式工程においては、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛に含有されるフッ素等の不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理が行われる。
【0038】
引き続き行われる乾燥加熱工程において、上記の湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱用のロータリーキルン(DRK)に投入して焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する乾式処理を行う。ここで、上述したRRKからの排出ガスから粗酸化亜鉛を捕捉する集塵機として、本発明の電気集塵機10を好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 放電極
11 放電極枠
12 外枠部
13(13A、13B、13C) 連結用梁部
131 連結金具支持孔
14 放電線
14A、14B、14C、14D 導線
15 連結金具
151 連結部
152 軸部
153 絶縁カバー
2 集塵極
3A、3B 整流板
4 排ガス入口部
5 排ガス出口部
6 ホッパー
10 電気集塵機
G1 ダストを含有する排ガス
G2 ダストが除去された排ガス