(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】短繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01D 5/096 20060101AFI20220726BHJP
D01D 5/26 20060101ALI20220726BHJP
D06H 7/02 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
D01D5/096 Z
D01D5/26
D06H7/02
(21)【出願番号】P 2017251221
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伴 紀孝
(72)【発明者】
【氏名】今井 泰
(72)【発明者】
【氏名】野見山 千緒
(72)【発明者】
【氏名】塙 翔平
(72)【発明者】
【氏名】勝田 健
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-346312(JP,A)
【文献】登録実用新案第3103190(JP,U)
【文献】米国特許第04577537(US,A)
【文献】特開平09-105055(JP,A)
【文献】特開平01-292181(JP,A)
【文献】特開2001-288659(JP,A)
【文献】特開2012-207359(JP,A)
【文献】特開2017-155353(JP,A)
【文献】実開平06-079749(JP,U)
【文献】特開2001-040523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00-13/02
D06H 7/00-7/24
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維の製造方法であって、前記短繊維の表面に液体を付与するプロセスを有し、前記プロセスが、断面視で円弧形をなす湾曲部からなり、前記湾曲部の一部に開孔領域を設け、前記開孔領域に、
パンチングプレート形状、穴の開いたワイヤーを巻回した線材巻き、ワイヤーの織り編みによって形成されたメッシュ状のものから選択された複数の開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、前記開孔領域に、繊維トウを、抱き角20°より大きく、180°より小さくなるように接触、走行させながら、前記開孔部から液体を0.2m/秒以上の流速で吐出させ、前記繊維トウに液体を付与するプロセスを含むことを特徴とする、短繊維の製造方法。
【請求項2】
前記繊維トウのカット速度が200~4,000m/分である、請求項1に記載の短繊維の製造方法。
【請求項3】
前記繊維トウの接触時間が0.001~0.05秒である、請求項1または2に記載の短繊維の製造方法。
【請求項4】
前記湾曲部の開孔率が10%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の液体が、水、および/またはアルキレングリコール誘導体を含む油剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の液体が、水および/またはポリエーテル・ポリエステル系共重合体か らなる油剤エマルジョンである、請求項1~5のいずれか1項記載の短繊維の製造方法。
【請求項7】
前記液体を付与した後、繊維トウをニップローラーで把持する工程を含む、請求項1~ 6のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項8】
短繊維がポリエステル系樹脂からなる請求項1~7のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項9】
紡糸後の未延伸マルチフィラメントの1本、または複数本を収束させた繊維トウを、収缶することなく連続して延伸を施す工程を含み、前記記載の開孔部から液体を吐出させ、 前記繊維トウに付与した工程を経た後、さらに連続してカッターもしくは高速カッターで カットする工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項10】
前記カットが、複数のカッター刃を有し、各カッター刃の間隔がカッター刃の切断面か ら背面まで同一である短繊維用カッターによってカットする方法である請求項1~9のいずれか1項に記載の短繊維の製造方法。
【請求項11】
前記液体付与装置の断面視で円弧状をなす湾曲部が下向きで、トウの上側を接触させて 液体を付与する請求項1~10に記載の短繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産性かつ品質の優れた短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂からなる短繊維の製造方法としては、紡糸で得た未延伸糸を多数本集めてサブトウとなし、次いで該サブトウを多数集めてトウとなし、このトウを延伸熱処理し、必要により機械捲縮を付与した後、適当な長さに切断する工程から構成されることが一般的である。
【0003】
そして、通常は未延伸糸サブトウの段階にて、一旦、多数のローラー群で誘導しながらトウ缶内に振り落し、収缶する工程を採用することが一般的である。
【0004】
特に紡糸速度が速い場合には、仕上げ油剤の付与や繊維の捲縮工程、切断工程の加工速度を抑えるために、一旦収缶して工程速度を低下させる方法が一般に採用されている。
【0005】
例えば、特許文献1では直接紡糸延伸法により延伸トウを製造し、捲縮付与を行う生産性の高い合成短繊維の製造法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、延伸トウの走行速度が130~6,000m/分であって、熱処理直後に仕上げ油剤を合成繊維トウに噴霧で付与し、該合成繊維トウに捲縮を付与することを特徴とする合成繊維トウの製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、抄紙用の短繊維においては、抄紙工程での水中分散性を向上させるために、繊維に親水性油剤を付与することに加えて、高い水分保持率とすることが有効であることが知られている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示された高速走行での技術では、上記特許文献3に記載の水中分散性の性能を維持するに必要な、水、油剤等の高い付着率を付与することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-088607号公報
【文献】特開2002-155422号公報
【文献】特開2002-339287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記背景のもとになされたものであり、短繊維の製造方法であって、高い生産性であり、かつ高品質な短繊維の製造方法を提供することにある。さらに詳しくは、高い生産性にも関わらず、繊維表面へ液体を多く付与でき、抄紙工程での水中分散性の良好な短繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、短繊維の製造方法であって、前記短繊維の表面に液体を付与するプロセスを有し、前記プロセスが、断面視で円弧形をなす湾曲部からなり、前記湾曲部の一部に開孔領域を設け、前記開孔領域に、パンチングプレート形状、穴の開いたワイヤーを巻回した線材巻き、ワイヤーの織り編みによって形成されたメッシュ状のものから選択された複数の開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、前記開孔領域に、繊維トウを、抱き角20°より大きく、180°より小さくなるように接触、走行させながら、前記開孔部から液体を0.2m/秒以上の流速で吐出させ、前記繊維トウに液体を付与するプロセスを含むことを特徴とする、短繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い生産性でありながら、高品質、すなわち油剤等の液体を十分に付与し、抄紙工程での水中分散性に優れた短繊維の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】湾曲部に繊維トウの下側を沿わせる際の糸道、抱き角αを示す概略図 (湾曲部を上向き、反重力方向にしたパターン)
【
図3】紡糸、延伸、液体付与、カットを連続したプロセスの概略図(一例)
【
図4】湾曲部に繊維トウの上側を沿わせる際の糸道、抱き角αを示す概略図 (湾曲部を下向き、重力方向にしたパターン)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の短繊維を構成するポリマーとしては、紡糸口金から吐出して繊維が成形される合成樹脂であれば足りるが、具体的にはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル系、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系、ポリアミド6やポリアミド66等の脂肪族ポリアミド系、ポリパラフェニレンテレフタラミドやポリメタフェニレンイソフタラミドなどの芳香族ポリアミド系、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリアクリロニトリル系やビニロン、ポリフェニレンスルフィド等、使用目的に応じて任意のポリマーを選択することが可能である。
【0016】
中でも抄紙用や、乾式不織布用に適した機械物性、熱安定性等の物性を確保するためには、ポリエステル系ポリマーであることが好ましい。
【0017】
より具体的に好適に用いられるポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレートといった芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステル、ポリアルキレンシクロヘキサンジカルボキシレート等の脂環族カルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステル、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート等の芳香族カルボン酸と脂環族ジオールのポリエステル、ポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート等の脂肪族カルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステル、ポリ乳酸やポリヒドロキシ安息香酸等のポリヒドロキシカルボン酸等が例示される。
【0018】
また、目的に応じて、酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、α、β―(4-カルボキシフェノキシ)エタン、4、4-ジカルボキシフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらのエステル類、ジオール成分としてジエチレングリコール、1、3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリアルキレングリコール等を、1成分以上共重合させてもよく、さらにペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸等の3個以上のカルボン酸成分または水酸基をもつ成分を共重合して分岐をもたせてもよい。また、上記に例示されるような組成の異なるポリエステルの混合物も含まれる。
【0019】
さらに、これらのポリエステルには、公知の添加剤、例えば、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、抗菌剤、消臭剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等を含んでもよい。
【0020】
また、原料ポリエステルの固有粘度としては、0.32~0.70dL/g、好ましくは、0.42~0.68dL/gの範囲とすることが望ましい。
【0021】
そして、本発明の短繊維の製造方法では、上記のような繊維成形性ポリマーを溶融するか、または溶解した紡糸液を、複数の吐出孔を有する紡糸口金から吐出し、凝固させて紡糸し、未延伸のマルチフィラメントとする。
【0022】
紡糸速度は、好ましくは100~2,500m/分の範囲であり、より好ましくは200~2,300m/分、さらに好ましくは400~2,000m/分であり、もっとも好ましくは600~1,800m/分の範囲の紡糸である。
【0023】
具体的には、ポリエステル等の繊維成形性の合成樹脂からなるペレットを常法で乾燥し、スクリュー式押出機を装備した溶融紡糸装置にて溶融し、口金から吐出させて未延伸繊維のサブトウを得て引き取る方法である。
【0024】
本発明の製造方法では、このように紡糸された未延伸マルチフィラメントは、1本、または複数本を収束させてトウとする。
【0025】
例えば、一つの紡糸口金からは、好ましくは1,000~50,000dtex、より好ましくは2,000~20,000dtexの未延伸マルチフィラメントを吐出することである。
【0026】
前記未延伸マルチフィラメントの繊度は、1,000dtexより小さいと、高い生産能力を得るためには多数の口金を使用する必要があり、工業的には不利となる。また、総繊度が50,000dtexより大きすぎると、ポリアルキレングリコール誘導体を含む油剤を、繊維表面に十分かつ均一に付与することが困難な傾向にある。
【0027】
そして、前記未延伸マルチフィラメントは、好ましくは2~40本、より好ましくは3~30本を収束する。前記収束後のトウの総繊度は、好ましくは2,000~100,000dtex、より好ましくは3,000~50,000dtexのトウとする。
【0028】
また、本発明で得られる短繊維を構成する単糸繊度は、0.001~100dtexであり、好ましくは0.1~30dtexである。
【0029】
特に本発明の製造方法にて得られる短繊維を抄紙用として用いる場合、前記のような単糸繊度であることで、より効率的な製造が可能となる。
【0030】
単糸繊度が0.001dtexより細すぎる場合には、紡糸時の曳糸性が低下する傾向にあり、単糸繊度が100dtexより太すぎる場合には、紡糸後の冷却が困難となる傾向にある。
【0031】
本発明の短繊維は、断面形状に特に制限は無く、丸断面以外に楕円断面、3~8葉断面等の多葉断面、3~8角の多角形断面など異型断面であってもよい。また、中実繊維に限られず、中空繊維であってもよい。
【0032】
また、本発明の短繊維は複合繊維であってもよい。複合繊維の形態としては、芯鞘型、偏心芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型、セグメントパイ型等が例示される。
【0033】
本発明の製造方法では、未延伸マルチフィラメントを1本又は複数本束ねてトウとした後、未延伸のまま、油剤付与、カットを行なってもよい。また、延伸、熱処理した後、油剤付与、カットを行なってもよい。特に熱処理によって液体が分解劣化したり、失活するため、予め油剤を付与することが難しく、熱処理後に液体を付与することが必要となる場合、つまりトウをカットするプロセスに極力近いプロセスで液体を付与することがより有効である。
【0034】
延伸を施す場合、未延伸マルチフィラメントを1本、または複数本を収束させてトウとし、続く延伸プロセスでは、延伸用ローラーの表面温度が120℃以下であり、好ましくは100℃以下で延伸する。延伸用ローラーの下限は常温以上(15℃~)が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
【0035】
延伸用ローラーの表面温度が120℃より高い温度では、繊維同士が膠着や延伸時に繊維の溶断が発生する。一方、延伸温度が低い場合は、充分な倍率、均一な延伸ができない場合がある。
【0036】
延伸は、速度の異なる複数の加熱ローラー間で実施する。一対のローラーに2~10ターン巻き付け、速度を変化させた複数のネルソン型ローラー間で、2~10段階の範囲のいずれかで延伸をする。
【0037】
延伸プロセスの延伸倍率としては、各ロール対間で1倍より大きく5.5倍未満であることが好ましく、多段階で延伸した場合、全体で1.5~5.5倍の倍率であることが好ましい。
【0038】
さらには延伸を実施した後、熱処理を施すことが必要である。熱処理温度は、好ましくは140℃以上240℃以下、より好ましくは160℃以上220℃以下の温度で熱処理を施す。
【0039】
このような熱処理を行うことにより、最終的に得られる繊維の熱収縮率を適度に抑制することが可能となる。
【0040】
ただし、前記の熱処理温度が高すぎると、繊維同士が膠着しやすい傾向にあり、特に抄紙用に用いる場合には、水中での分散性が不十分となる傾向にある。
熱処理は、延伸と同様に、一対のローラーに2~10ターン巻き付けることで行う。
【0041】
熱処理をした後の延伸繊維トウは、カットする前に冷却を施すことが好ましい。繊維トウの温度が高いままカットすると、繊維末端が融着したり、繊維側面が圧着されたりすることで、水中に分散させた際に未分散繊維が発生する。
【0042】
冷却する手段は特に限定されないが、表面温度が100℃以下のローラー上に巻き付ける繊維トウに、水や水系エマルジョンを付与する。または熱処理後、カッターに導入する前に空冷するための距離を確保する等の手段が考えられる。
【0043】
未延伸、または延伸を施した繊維トウは、捲縮が付与されていても、付与されていなくてもいずれでもよい。
【0044】
捲縮を付与する場合は、押し込み捲縮装置等の公知の装置を使用することができる。捲縮を付与しない場合でも、ニップローラー等で把持をしてもよい。
【0045】
そして、本発明の製造方法では、未延伸、または延伸マルチフィラメントからなる繊維トウに対して、液体を付与する。
【0046】
前記液体は、繊維トウに所望の機能を付与するものであれば特に限定されないが、水、有機溶媒、親水性油剤、非親水性油剤、油剤を水に分散させた油剤エマルジョン等を例示することができる。これら液体は、混合しても差し支えない。
【0047】
油剤としては、ポリエーテル・ポリエステル共重合体が好ましい。より具体的には、テレフタル酸および/またはイソフタル酸、低級アルキレングリコール並びにポリアルキレングリコールおよび/またはそのモノエーテルからなるものであることが好ましい。水のみを付与する場合は、予め油剤が繊維表面に付着しているほうが好ましい。
【0048】
前記で用いられる低級アルキレングリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0049】
また、前記で用いられるポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が600~6,000のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコールが例示できる。
【0050】
さらに、前記ポリアルキレングリコールのモノエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノフェニルエーテル等があげられる。
【0051】
なお、好ましく用いられるポリエーテル・ポリエステル共重合体は、テレフタレート単位とイソフタレート単位のモル比が95:5~40:60の範囲内が水中分散性の点から好ましい。また、アルカリ金属塩スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を少量共重合していてもよい。
【0052】
このような成分からなるポリアルキレングリコール誘導体の平均分子量は、使用するポリアルキレングリコールの分子量にもよるが、好ましくは1,000~20,000、より好ましくは3,000~15,000である。平均分子量が低すぎると、水中分散性の向上効果が十分でなく、一方、平均分子量が高すぎると、重合体の乳化分散が難しくなる。
【0053】
また、このようなポリアルキレングリコール誘導体は、通常水分散液として繊維表面に付着させるが、このようなポリアルキレングリコール誘導体は、比較的容易に水中へ分散させることができる。なお、前記水分散液の安定性をより向上させるために、界面活性剤や有機溶媒を少量添加してもよく、また油剤等の各種処理剤を混合使用しても何ら差しつかえない。
【0054】
次に、走行する繊維トウに対して液体を付与する方法について説明する。
繊維トウが接触する部位は、断面視で円弧形をなす湾曲部からなる。前記湾曲部の一部に開孔領域を設け、前記開孔領域に開孔部(液体吐出孔)を有する液体付与装置を用い、前記開孔領域に、繊維トウを、抱き角20°より大きく、180°より小さくなるように接触、走行させながら、前記開孔部から液体を吐出させ、前記繊維トウに付与する。
【0055】
前記の円弧状をなす湾曲部は、
図1、
図2、そして
図4に例示するように、湾曲部の頂点(
図1-g)が上向き(
図2)、つまり反重力方向のパターン(湾曲部をトウの下側に接触させる)、または、湾曲部の頂点が下向き(
図4)、つまり重力方向のパターン(湾曲部をトウの上側に接触させる)のいずれの向きでも差支えない。
【0056】
湾曲部の頂点が上向きでも本発明の効果は発揮される。そして、湾曲部の頂点を下向きにした場合には、液体の付与率が高くなる傾向にあり、トウが高速になるほど液体付与の効果が顕著となる。
【0057】
前記湾曲部は、湾曲部の頂点(
図1-g)の接線に対して、本発明の効果に影響しない範囲内で傾きが生じながらトウに接触されても差し支えない。つまり、トウの走行方向が、湾曲部の接線に対して、液体付与に影響が生じない範囲で傾き(ブレ)が生じても差し支えない。
【0058】
図1、
図2(湾曲部が上向きのパターン)で具体的に説明すると、
複数の開孔部(
図1-b)を有する湾曲部(
図1-a)からなり、開孔部から液体を吐出させた液体付与装置(
図1)を使用して行う。湾曲部(
図1―a)は、断面視で円弧形をなす曲面からなり、前記曲面に沿って所定の抱き角(
図2―α)となるように、抱き角調整部(
図2―e)にて繊維トウを調整、固定し、繊維トウを開孔領域(
図1-c)に面状に接触させることによって行う。このとき、開孔部(
図1-b)から液体を吐出することで、繊維トウ内部まで液体を浸透させることができる。
【0059】
一般的に、繊維トウに液体を付与する方法としては、液浴中に繊維トウを浸漬する方法、オイリングローラーで付与する方法、シャワーやスプレーで付与する方法等が挙げられる。
【0060】
繊維トウを液浴中に浸漬する方法は、繊維トウが高速走行する条件下においては、液体の飛散が著しく、適用することが困難である。
【0061】
また、オイリングローラーのように、ローラー下部に設置された液浴から、回転するローラーの表面に液体をピックアップした後、繊維に接触させて付与する方法では、ローラー表面に形成される液膜の量が制限される。特に、繊維トウが太く、かつ走行速度が速い場合には、十分な液体を付与することができない。
【0062】
さらに、スプレーやシャワーで付与する方法は、繊維トウの走行速度が速い場合には、液体の付与量に限界がある上、液体が繊維トウの表層部のみに付着するため、繊維トウをニップローラーで把持する等の手段により表層部の液体を繊維トウ内部に浸透させる等の付加的工程が必要となる。
【0063】
さらに、スプレーで液体を噴霧する場合は、粘度の高い液体を付与することができなかったり、使用時間が長くなると噴霧孔が閉塞したりする等の問題がある。
【0064】
本発明の短繊維の製造方法における液体の付与方法は、繊維トウの高速走行においても、充分に液体を付与することができるため、前記の一般的な液体付与方法の課題を解決することができ、抄紙工程での水中分散性の良好な短繊維を得ることが可能となる。
【0065】
開孔部(
図1-b)の形状・形成方法は、プレス打ち抜きによるパンチングプレート形
状、穴の開いたワイヤーを巻回した線材巻きによるもの、ワイヤーの織り編みによって形
成されたメッシュ状のもの
から選択される。特に、穴の開いたワイヤーを巻回した線材巻きによるものが好ましい。
【0066】
開孔部(
図1-b)の孔形状は特に限定されず、円形、楕円形、半円形、三角形、四角形、多角形、線状スリット等を適宜選択することができ、開孔部は複数の孔で形成される。
【0067】
湾曲部(
図1-a)の素材も油剤エマルジョンによる腐食や摩耗に耐える素材を適宜選択すればよく、アルマイト処理を施したアルミ材、ステンレス材(SUS-304、SUS-316等)を例示することができる。吐出した液体により湾曲部表面に液膜が均一に形成されるように、湾曲部を構成する素材に対して、処理を施してもよい。また、接触した際の開孔領域(
図1-c)に繊維が取られることを防止するため、梨地加工等の摩擦低減処理を施してもよい。
【0068】
円弧形の曲率半径(
図2-f)は、繊維トウの走行速度にもよるが、好ましくは30~300mm、より好ましくは50~200mmとする。30mmより小さいと、抱き角(
図2-α)を大きくしても、十分な接触時間を得ることができない。300mmより大きいと、繊維トウの接触面積に対して、開孔領域の面積が大きくなり過ぎるため、効率が低下し、ランニングコストが高くなる。
【0069】
開孔率は、開孔部の総面積を、開孔領域の面積で除して100を乗じた値と定義すると、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下とする。10%より大きくすると、吐出圧力を確保できなくなるとともに、付着斑が発生しやすくなる。
【0070】
開孔率の下限は、0.01%が好ましく、0.03%がより好ましく、0.05%がさらに好ましい。開孔率が0.01%より小さくなると、液体が均一に付着され難くなる。
【0071】
また、液体付与装置(
図1)は、断面視で円弧状をなす湾曲状とすることで、繊維トウと面状に接触させ、接触時間を確保することができるとともに、繊維トウが、湾曲部に所定の抱き角で押し付けられることで、幅方向に薄く広げられ、同時に開孔部から供給される液体が繊維トウ内部に浸透しやすくなる。円弧形の湾曲部に繊維トウを接触させる際の
抱き角は、20°より大きく180°より小さく、好ましくは30°より大きく160°より小さく、より好ましくは30°より大きく150°より小さく、さらに好ましくは50°より大きく150°以下、最も好ましくは50°より大きく130°より小さくする。
【0072】
20°より小さいと、繊維トウが幅方向に十分広がらず、液体を繊維トウ内部に浸透させることができない上、接触時間が不足するため、十分な液体付着率が得られない。180°以上とすると、接触時に繊維が取られて単糸切れが発生しやすくなり、水中に分散させた際に絡みが発生する。
【0073】
以上、
図1、
図2の事例で述べたが、
図4、つまり湾曲部を下向きにしたパターンにおいても、同様の傾向が言える。
【0074】
加えて、開孔部から吐出される流速は0.2m/秒以上であることが、高速で走行するトウ内部の単糸に均一に浸透させるのに必要である。液体吐出流速が0.2m/秒未満であると、液体(油剤エマルジョン溶液)が単糸が密に詰まった繊維トウ内部まで浸透しにくくなり、短繊維の水中分散が不均一となりがちである。好ましい流速の範囲は0.3~5.0m/秒、更に好ましくは0.7~3.0m/秒である。
【0075】
また、繊維トウが液体付与装置の湾曲部に接触させる際の接触時間(秒)は、0.001~0.05秒、好ましくは0.002~0.01秒である。0.001秒より短いと十分な油剤付与量を得ることが難しく、0.05秒より長いと、付着量が過大となり、液体の飛散が大きくなる。
【0076】
本発明では、液体を付与した後、繊維トウが保持する液体を部分的に脱落させ、繊維トウに付着する液体の量を調整するプロセスを含むことが好ましい。調整する手段は特に限定されないが、1対のローラーで一定の把持圧力で繊維トウを把持するニップローラーを例示することができる。ニップローラーで把持する圧力を調整することで、液体の繊維トウに対する付着率をコントロールすることができる。
【0077】
短繊維水分率、油剤付着率は、高い方が好ましい。
短繊維水分率は、短繊維重量を基準に3~40%とすることが好ましく、5~35%がより好ましい。
油剤付着率は、短繊維重量を基準に0.05~1.0%とすることが好ましく、0.1~0.8%がより好ましい。
この範囲とすることで、油剤等の機能性の液体を繊維トウ内部まで浸透させることができる。
【0078】
短繊維を抄紙用に使用する場合は、水、または油剤エマルジョンを付与した後の繊維を、乾燥せずにそのまま梱包することが好ましい。そうすることでカットした後に繊維が飛散することを抑止することができ、かつ梱包時の嵩を低減することができる。
また、抄紙する際の水の繊維間への浸透を促進し、水中分散性が向上する。
【0079】
短繊維水分率が、短繊維重量を基準に40%を超えると短繊維の実質量が減り、輸送効率が悪くなる。また、油剤付着率が、短繊維重量を基準に1.0%を超えるとコスト高、油剤脱落の可能性がある。
【0080】
本願発明の製造方法では、液体を付与した繊維トウを、カッターに供給して、所定の繊維長にカットする。
【0081】
カッターに供給する際には、弛みなどによる過長繊維が発生することを防ぐため、トウテンションをコントロールすることが好ましい。トウテンションをコントロールするには、ダンサーローラーやロードセルによるオートコントロール、高速ワインダーに用いるバランサーなどの公知の技術が適用できる。
【0082】
また、本発明の製造方法の、短繊維のカット長としては、無捲縮短繊維の場合は、1~35mmであるが、抄紙用として使用する場合には、その繊維長は好ましくは1~30mm、より好ましくは1~20mm、特に好ましくは2~10mmの範囲である。
【0083】
繊維長が35mmより長くなると、繊維同士の絡み合いが起こりやすくなる問題が発生しやすい。また、抄紙時に繊維の水中分散性が悪化する傾向にある。
【0084】
一方、繊維長が1mmより短すぎる場合には、カッター刃の間隔が小さくなるために、刃間によって形成されるスペースでの製造時の切断抵抗が大きくなるため、繊維が伸ばされたり、単繊維同士が絡み易くなり、品質の低下につながる傾向にある。
【0085】
例えば、繊維間膠着が発生し、安定した切断が難しくなる傾向にある。また、得られる繊維中に繊維塊が多くなる傾向にあり、特に抄紙用途に用いる場合などには、水中への分散性が悪くなる傾向にある。
【0086】
紡績用、または乾式不織布用等として用いられる捲縮を付与した捲縮短繊維の場合は、繊維長が好ましくは30~150mm、より好ましくは40~80mmとする必要がある。
【0087】
30mmより短いと繊維の絡合性が低下し、カードに掛かり難くなり、好ましくない。150mmより長いとネップを形成し、紡績糸や不織布の品位を損なうため好ましくない。
【0088】
本発明の短繊維を得るためには、カットが、複数のカッター刃を有し、各カッター刃の間隔がカッター刃の切断面から背面まで同一、またはそれ以上の間隔である短繊維用カッターによってカットする方法であることが好ましい。
【0089】
なお、通常のロータリーカッターは、複数のカッター刃を有するものの、カッター刃の間隔はカッター刃の切断面から背面までだんだんと間隔が狭くなっている。カッター刃を配置したロータリー外側に向いて刃が配置されており、繊維トウはそのロータリーの外側に巻き付け、切断された繊維はそのロータリーの中心部から排出される機構となっているためである。この装置では、生産性の面では、紡糸速度以上の加工速度を確保することは非常に困難であり、生産性の向上は期待できない。
【0090】
例えば、実用新案登録3103190号公報に記載されているような汎用的なロータリーカッターは、トウ(長繊維束)を短繊維にカットする業界においては最も一般的に使用されているものであるが、その特徴は、ローターに放射状に、切断面がローターの外側に向けて取り付けられたカッター刃に連続してトウを巻き付けて、さらに、トウの側方外側からプレスローラーで圧縮してトウを切断し、放射状に配置されたカッター刃の間からローター中心方向に向かってカットされた短繊維が排出されていく機構である。この方式では、カッター刃間で形成される扇型の空間において、切断後の排出に向けて刃間距離が徐々に狭くなり、カット繊維の排出抵抗が大きくなるために、ローター回転数、すなわちカッター速度(=繊維トウ速度)を上げると、排出不良のためにカッター刃が折れるなどの不具合が発生する。通常このロータリーカッターの限界速度は300m/分以下で使用することが一般的である。
【0091】
本発明の短繊維の製造方法では、前記のように、各カッター刃の間隔がカッター刃の切断面から背面まで同一、またはそれ以上の間隔である短繊維用カッターを用いることが可能である(以降、高速カッターと呼ぶことがある)。
【0092】
具体的には、例えばUS4,577,537号公報やUS4,528,880号公報に記載の機構をもった短繊維用カッターを用いることが好ましい。
【0093】
前記の高速カッターであれば、通常のロータリーカッターのように排出抵抗の上昇がなく、300m/分を超えるような速度であっても、トウをカットすることが容易となる。
【0094】
その機構は、カッター刃を放射状に配列するが、切断側が上方に向くようにし、その上方に配置される回転するローターにトウを巻きつけながら、さらに上方に設置した、トウを押し切りするための傾斜リングで徐々に押し切りする方式である。カッター刃の切断面から背面(カット繊維排出側)まで刃間距離は一定であるため、排出抵抗の上昇を抑えることが可能となり、3,000m/分以上の高速でトウをカットした場合であっても、刃折れの発生を防止することができる。市販品としては、Oerlikon Neumag社のNMC-Hシリーズなどが好ましく活用できる。
【0095】
本発明の短繊維の製造方法は、紡糸、液体付与、カットを連続したプロセスで実施する製造方法である。紡糸からカットの間で延伸工程があってもなくても差し支えない。(
図3参照)
延伸をした場合は物性面において好ましく、主体繊維として有用であり、延伸をしない場合は、未延伸バインダー繊維として有用である。
【0096】
そして、本発明の前記主体繊維と前記未延伸バインダーを用いて、湿式不織布を製造することも可能である。
【0097】
本発明は、紡糸後の未延伸マルチフィラメントの1本、または複数本を収束させた繊維トウを、収缶することなく連続して必要により延伸を施し、連続して油剤等の機能剤を付与し、さらに連続してカッターもしくは高速カッターでカットするプロセスで実施する短繊維の製造方法である。
【0098】
このようなプロセスでは、高速で走行し、かつ、繊度の大きい繊維トウに対して、均一に油剤エマルジョンを付与することが必要になるが、前記の液体付与装置(
図1)によって、それが可能となる。
【0099】
通常、短繊維を製造する際には、一旦トウ缶に収缶するなどして保管したり、クリンプ(捲縮)工程にてその製造速度を低下させるなどしてから、低速度のカット工程に供されることが多い。
【0100】
連続して加工することにより、工程を短くすることが可能となり、途中のガイド類やローラー類などにおける糸導の傷などによる単糸切れや、単糸またはサブトウ単位での収束不良が発生することによる過長繊維(繊維長が設定より長い)などの発生を減少させることが可能となる。
【0101】
従来の製造方法では、トウの収缶時に繊維トウが屈曲したり(ギアリール)、あるいは屈曲しなくても単糸のサバケやループが生じる(エジェクター)ことがあった。
【0102】
また、収缶する際に、トウ(原糸)がもつれたり、ひきつったり、単糸バラケ(サバケ)が発生することがあった。さらには、歩留まり面からは、トウと引取りローラーとのスリップやタイマー誤差などによって、後工程投入時に、缶の底に原糸が残りやすいという問題があった。
【0103】
前記の連続した製造方法では、このような欠点を低減することが可能となり、得られた短繊維は、単糸長さが均一となる。
【0104】
ところで、本発明の製造方法は、連続して切断加工するが、そのカット工程での繊維トウのカット速度は、好ましくは200~4,000m/分、より好ましくは400~3,500m/分、さらに好ましくは600~3,000m/分、特に好ましくは、900~2700m/分の範囲である。200m/分より小さくても本発明の効果は発揮されるが、生産性が低下する。
【0105】
本発明の製造方法にて得られた短繊維は、油剤エマルジョン等の液体が繊維に均一に付与された短繊維であって、機能性成分が繊維に均一に付与されており、無捲縮短繊維の場合は、水中分散性に優れ、特に抄紙用に適した短繊維となる。
【0106】
捲縮短繊維の場合は、機能性の成分が繊維に均一に付与されて斑が小さくなり、品質に優れたものである。そして本発明の製造方法では、このような短繊維を効率的に製造することが可能となるのである。
【0107】
さらに、この短繊維は、湿式不織布、乾式不織布等に加工することで、各種の生活資材、産業資材に好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0108】
以下に、本発明の構成及び効果を具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明は、これら実施例になんら限定を受けるものではない。なお、実施例中の各値は、以下の方法に従って求めた。
【0109】
(1)固有粘度([η])
ポリマーを一定量計量し、35℃のo-クロロフェノールに0.012g/mlの濃度に溶解してから、常法に従って求めた。
【0110】
(2)単糸繊度
50mmにカットしたサンプルを用い、TEXTECHNO社製のFAVIMAT+機を用いて測定した。
【0111】
(3)短繊維水分率
水、または油剤エマルジョンが付与された約100gの短繊維を、120℃の熱風循環式の乾燥機中で絶乾になるまで乾燥し、乾燥前の試料の重量W0と乾燥後の試料の重量W1から、次式によって求めた。
短繊維水分率(%)=[(W0-W1)/W1]×100
短繊維水分率は高い方が好ましい。前記水分率が高いほど、より安定した水中分散性が期待できる。
【0112】
(4)油剤付着率
油剤水系エマルジョン濃度に前記(3)の水分率を乗じた計算値として質量%として示した。
短繊維水分率と同様に、油剤付着率は高いほうが好ましい。油剤付着率が高いほどより安定した水中分散性が期待できる。
【0113】
(5)総繊度
総繊度は、以下の計算式から算出した。
総繊度(dtex)={1錘当たり吐出量(g/分)×紡糸錘数(錘)×10,000}/{紡糸速度(m/分)×総延伸倍率(倍)}
【0114】
(6)水中分散性
1000mLのメスシリンダーに500mLの水道水を入れ、この中に正味0.1gの短繊維を投入する。繊維がメスシリンダーの底に達したならば、メスシリンダーの開口部に蓋をし、上下を両手で持ち、メスシリンダーを1回反転させて繊維を分散させ、次の基準で水中分散性の良否を判定する。
○: 未分散の繊維束がなく、単繊維1本1本が水中にきれいに広がっている状態
△: 未分散の繊維束は殆どない。単繊維同士の絡みが若干認められるが許容範囲
×: 未分散の繊維束が数本以上あり、単繊維同士の絡みも多い状態。
【0115】
[実施例1]
固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレート(PET)チップを、170℃、4時間乾燥した後、287℃で溶融し、孔径0.28mm、孔数が1701の紡糸口金を通して、700g/分で吐出し、ネルソン型ローラー対1で634m/分の速度で引取り、未延伸マルチフィラメント(サブトウ)を得た。このサブトウ4錘分を収束させて44,164dtexとし、収缶することなく連続して、このサブトウを50℃、周速641m/分のネルソン型ローラー対2に6ターン巻き付けて予熱した後、表面温度88℃、周速1,923m/分のネルソン型ローラー対3に6ターンさせて第1段目の延伸をした。次に、表面温度120℃、周速2,500m/分のネルソン型ローラー対4に6ターンさせて第2段目の延伸をした後、表面温度220℃、周速2,500m/分のネルソン型ローラー対5に6ターンさせて熱処理を行って、次いで、表面温度80℃、周速度2,500m/分のネルソン型ローラー対6に6ターンさせ、総繊度11,200dtexの延伸繊維トウを得た(総延伸倍率3.94倍)。
【0116】
得られた繊維トウを連続して、
図1、2に示す、上向きの半円弧形の曲率半径(
図2-f)が61mmからなる湾曲部aにおいて、幅100mm(
図1-d)、長さ126mm(液体吐出面積126cm
2)、開孔率0.5%の複数の開孔(
図1-b)を有する開孔領域(
図1-c)(ステンレス線材巻き)からなる液体付与装置を用い、テレフタル酸80モル%とイソフタル酸20モル%からなる酸成分と、平均分子量3,000のポリエチレングリコール70重量%とエチレングリコール30重量%からなるジオール成分の構成で得た、平均分子量約12,000のポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液(エマルジョン濃度2重量%)であるエマルジョン油剤を、液体付与装置から液体吐出量5.0kg/分(液体吐出流速1.3m/秒)で吐出した円弧形の曲面に抱き角75度(接触長80mm)となるようにトウの下側を接触させて、油剤を付与した後、高速カッター(Oerlikon Neumag製 NMC-H290)で、カット長5mmでカットした。この時の繊維トウのカット速度は、2,500m/分であった。ここで使用した高速カッターは、カッター刃の切断側が上方に向くように、そして各カッター刃は放射状に配列したものであった。そして、カッター刃の切断側のさらに上方に配置される回転するローターに、延伸マルチフィラメントから構成されるトウを巻きつけ、さらに上方に設置した傾斜リングにより、徐々に押し切りし、トウを切断して短繊維化するものであった。またカッター刃の切断面から背面(カット繊維排出側)まで刃間距離は一定であり、カット中でも、繊維の排出抵抗の上昇はなく、刃折れも発生しなかった。高速カット速度にもかかわらず、水中分散性は良好であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。
【0117】
[実施例2]
液体付与装置の抱き角を150度(接触長160mm、接触時間0.004秒)とする以外は、実施例1と同等とし、短繊維を得た。水中分散性は良好であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。
【0118】
[実施例3]
液体付与装置の液体吐出面積を126cm2(100mm幅×126mm長)から290cm2(100mm幅×290mm長)に変更した以外は、実施例2と同等とし、短繊維を得た。この時の液体吐出流速は0.6m/分と減少した。条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。短繊維水分率、油剤付着率ともに低めではあるが、水中分散性は良好であった。
【0119】
[比較例1]
繊維トウの抱き角を10°、接触時間0.0003秒、接触長を11mmとする以外は、実施例1と同等とし、繊維を得た。短繊維水分率、油剤付着率(以降、短繊維水分率および/または油剤付着率のことを液体付与率と呼ぶことがある)が低く、水中分散性が不充分であった。工程条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。
【0120】
[実施例4]
繊維トウの抱き角を40°、接触時間0.001秒、接触長を43mmとする以外は、実施例1と同等とし、短繊維を得た。本発明の抱き角が低い領域ではあるが、水中分散性は良好であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。
【0121】
[比較例2]
繊維トウの抱き角を180°、接触時間0.005秒、接触長を192mmとする以外は、実施例1と同等とし、繊維を得た。工程条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。液体付与装置で発生したと推定される単糸切れにより単繊維同士の絡み(欠点)が多数確認された。
【0122】
[実施例5]
液体付与装置の液体吐出面積を126cm2(100mm幅×126mm長)から290cm2(100mm幅×290mm長)に変更し、かつ、液体付与装置から液体吐出量を1.5kg/分(液体吐出流速0.2m/秒)とした以外は、実施例1と同等とし、短繊維を得た。液体吐出流速が低い領域ではあるが、水中分散性は許容の範囲であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。
【0123】
[比較例3]
液体吐出量を0.6kg/分(液体吐出流速0.07m/秒)とした以外は、実施例5と同等とした。液体付与率が低く、水中分散性が不充分であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表1に示した。
【0124】
[実施例6]
固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレート(PET)チップを、170℃、4時間乾燥した後、287℃で溶融し、孔径0.28mm、孔数が1701の紡糸口金を通して、700g/分で吐出し、ネルソン型ローラー対1で1350m/分の速度で未延伸糸を引き取る以降、このサブトウ4錘分を収束させ、収缶することなく連続して、このサブトウを50℃、周速1362m/分のネルソン型ローラー対2に6ターン巻き付けて予熱した後、表面温度88℃、周速3,037m/分のネルソン型ローラー対3に6ターンさせて第1段目の延伸をした。次に、表面温度120℃、周速3,500m/分のネルソン型ローラー対4に6ターンさせて第2段目の延伸をした後、表面温度220℃、周速3,500m/分のネルソン型ローラー対5に6ターンさせて巻き付けて熱処理を行って、次いで、表面温度80℃、周速度3,500m/分のネルソン型ローラー対6に6ターンさせ、総延伸倍率2.57倍で延伸、及び、熱処理を実施し、総繊度8,000dtexの延伸繊維トウを得た。
【0125】
得られた繊維トウを連続して、実施例3で使用した液体付与装置(液体吐出面積290cm2、)を用い、油剤付与装置の抱き角150度(接触長160mm)、液体吐出流速が1.3m/秒になるように液体吐出量を11.0kg/分として、請求項1と同一の油剤エマルジョンを付与した後、高速カッター(Oerlikon Neumag製 NMC-H 290)で、カット長5mmでカットした。この時の繊維トウのカット速度は、3,500m/分であった。高速カット速度にもかかわらず、水中分散性は良好であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0126】
[実施例7]
ネルソン型ローラー対1~対6を、ローラー表面温度が常温(20~40℃)の状態で各ローラー間をそれぞれ1.01倍として、総延伸倍率を1.05倍とし、カッター前速度を660m/分に変更した以外は、実施例4と同様の条件とした。短繊維水分率、油剤付着率ともに高めであるが、水中分散性は良好であった。工程条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0127】
[比較例4]
実施例1と同じ繊維トウ、エマルジョン油剤を用い、直径145mmのゴムローラーからなるオイリングローラーを用いて、オイリングを行った。繊維トウのオイリングローラーへの接触角度を水平面から30°とし、抱き角は100°とした。ローラーの回転方向は、繊維トウの走行方向と同じ(順方向)とし、ローラー回転数を39回転/分に設定した。カット速度が高速のため、液体付与率が低く、水中分散性が不充分であった。工程条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0128】
[実施例8]
図1、4に示す、下向きの半円弧形の曲率半径(
図4-f)が61mmからなる湾曲部aにおいて、幅100mm(
図1-d)、長さ126mm(液体吐出面積126cm
2)、開孔率0.5%の複数の開孔(
図1-b)を有する開孔領域(
図1-c)(ステンレス線材巻き)からなる液体付与装置(以降、下向き円弧形液体付与装置と呼ぶことがある。)に変更した以外は、実施例1と同等とし、短繊維を得た。実施例1と同様に水中分散性は良好であった。但し、液体付与率は、実施例1に比べ高めであった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0129】
[実施例9]
液体付与装置を下向き円弧形液体付与装置に変更した以外は、実施例4と同等とし、短繊維を得た。実施例4と同様に水中分散性は良好であった。但し、液体付与率は、実施例4に比べ高めであった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0130】
[実施例10]
液体付与装置を下向き円弧形液体付与装置に変更した以外は、実施例7と同等とし、短繊維を得た。実施例7と同様に水中分散性は良好であった。但し、液体付与率は、実施例7に比べ高めであった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0131】
[実施例11]
液体付与装置を下向き円弧形液体付与装置に変更し、液体吐出量を5.0kg/分から11.0kg/分(液体吐出流速は0.6m/秒から1.3m/秒に上がる)とした以外は、実施例3と同等とし、短繊維を得た。実施例3と比べ水中分散性は良好であった。そして、液体付与率は、実施例3に比べ高めであった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0132】
[比較例5]
液体付与装置を下向き円弧形液体付与装置に変更した以外は、比較例1と同等とし、短繊維を得た。比較例1と同様に、液体付与率が低く、水中分散性が不充分であった。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0133】
[比較例6]
液体付与装置を下向き円弧形液体付与装置に変更した以外は、比較例2と同等とし、短繊維を得た。比較例2と同様に、液体付与装置で発生したと推定される単糸切れにより単繊維同士の絡み(欠点)が多数確認された。条件及び得られた短繊維の評価結果を表2に示した。
【0134】
【0135】
【符号の説明】
【0136】
a.湾曲部
b.開孔部
c.開孔領域
d.幅
e.抱き角調整部
f.円弧形の曲率半径
g.湾曲部の頂点
α.抱き角
A.紡糸工程
B.収束
C.延伸、オーバーフィード等の工程
D.液体塗布工程
E.カット工程