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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/15 20160101AFI20220726BHJP
   H02P 21/14 20160101ALI20220726BHJP
【FI】
H02P6/15
H02P21/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018009826
(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2019129600
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 康平
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0154524(US,A1)
【文献】特開2012-075236(JP,A)
【文献】特開2006-020397(JP,A)
【文献】特開平05-211796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
H02K29/00-29/14
H02K21/00-21/48
H02P4/00;25/08-25/098;29/00-31/00
H02P21/00-25/03;25/04;25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相ブラシレスモータを正弦波駆動する制御装置であって、
前記三相ブラシレスモータに印加される外部印加電圧を取得する外部印加電圧取得部と、
前記三相ブラシレスモータの回転速度を算出する回転速度算出部と、
前記外部印加電圧と前記回転速度と電圧進角とが相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分であるIdが一定であることを条件にして互いに対応づけられた電圧進角マップが記憶される記憶部と、
前記外部印加電圧取得部が取得した前記外部印加電圧と、前記回転速度算出部が算出した前記回転速度と、を変数とし、当該外部印加電圧と当該回転速度との組み合わせに基づいて、前記記憶部に記憶される前記電圧進角マップから前記電圧進角を取得する電圧進角算出部と
前記三相ブラシレスモータの目標回転速度と前記回転速度算出部が算出した前記回転速度との偏差に基づく電圧振幅と、前記三相ブラシレスモータの回転角度と、前記電圧進角算出部が取得した前記電圧進角と、に基づいて、前記三相ブラシレスモータの各相の電圧指令信号を生成する電圧指令生成部と、
前記電圧指令生成部が生成した前記電圧指令信号に基づいて、インバータ駆動信号を生成すると共に、前記インバータ駆動信号により、交流電力を前記三相ブラシレスモータに供給するインバータを制御するインバータ制御信号生成部と、
を備え
前記電圧進角マップには、式(A)に前記外部印加電圧と前記回転速度とを代入して得られる前記電圧進角が前記外部印加電圧と前記回転速度との組み合わせごとに保持され、かつ式(A)に前記外部印加電圧と前記回転速度とを代入しても前記電圧進角が得られない解無しとなる条件の前記外部印加電圧と前記回転速度との組み合わせについては、前記電圧進角が一律0°として保持され、
式(A)において、αは前記電圧進角としての電圧位相、Idは前記相電流の磁束成分、Rは前記三相ブラシレスモータの巻線相抵抗、Lqは前記三相ブラシレスモータの巻線相インダクタンス、ωは前記三相ブラシレスモータの回転速度、ψは前記三相ブラシレスモータの誘起電圧定数、Vdは前記外部印加電圧をd軸において表した値、Vqは前記外部印加電圧をq軸において表した値、VdqはVd及びVqの大きさであり、
式(A)は
【数1】
であり、
前記電圧進角マップにおいて前記電圧進角が一律0°として保持された前記外部印加電圧と前記回転速度との組み合わせとなる逆負荷状態では、前記正弦波駆動とは異なる制御を行う
制御装置。
【請求項2】
前記記憶部には複数の前記電圧進角マップが記憶され、
前記電圧進角算出部は、前記三相ブラシレスモータの動作状態を決める入力値に応じて、前記記憶部に記憶される複数の前記電圧進角マップの中から前記電圧進角マップを選択し、選択した前記電圧進角マップに基づいて前記電圧進角を取得する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記入力値とは、前記回転速度又は前記三相ブラシレスモータの要求トルクである
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記正弦波駆動とは異なる制御は、端子間ショートブレーキ動作である
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三相ブラシレスモータを正弦波駆動する場合、U、V、W各相の電流値を電流センサによって読取り、電流センサの読み取り値に対して三相二相変換を行われることがある。三相二相変換から最適な進角値を算出され、駆動波形である正弦波の位相が決定される。三相二相変換を用いて進角値を算出する方法においては、電流センサが三相分必要である。また、三相二相変換は多くの計算量を要するため、高価なMCU(Micro Controller Unit)を備えることが必要となる。
【0003】
電流センサを用いることなくインバータを制御する制御装置が開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載されるような従来技術によると、インバータ電流検出器によって検出されたインバータに流れる電流の値をサンプリングする。特許文献1に記載されるような従来技術によると、サンプリングされた電流値に基づいて、モータに流れる交流電流を再現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-48868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来技術によると、再現された交流電流値に対して三相二相変換を行うため、三相二相変換の計算に依然として計算量を要してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、三相ブラシレスモータを正弦波駆動する制御装置であって、前記三相ブラシレスモータに印加される外部印加電圧を取得する外部印加電圧取得部と、前記三相ブラシレスモータの回転速度を算出する回転速度算出部と、前記外部印加電圧と前記回転速度と電圧進角とが相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分であるIdが一定であることを条件にして互いに対応づけられた電圧進角マップが記憶される記憶部と、前記外部印加電圧取得部が取得した前記外部印加電圧と、前記回転速度算出部が算出した前記回転速度と、を変数とし、当該外部印加電圧と当該回転速度との組み合わせに基づいて、前記記憶部に記憶される前記電圧進角マップから前記電圧進角を取得する電圧進角算出部と、前記三相ブラシレスモータの目標回転速度と前記回転速度算出部が算出した前記回転速度との偏差に基づく電圧振幅と、前記三相ブラシレスモータの回転角度と、前記電圧進角算出部が取得した前記電圧進角と、に基づいて、前記三相ブラシレスモータの各相の電圧指令信号を生成する電圧指令生成部と、前記電圧指令生成部が生成した前記電圧指令信号に基づいて、インバータ駆動信号を生成すると共に、前記インバータ駆動信号により、交流電力を前記三相ブラシレスモータに供給するインバータを制御するインバータ制御信号生成部と、を備え、前記電圧進角マップには、式(18)に前記外部印加電圧と前記回転速度とを代入して得られる前記電圧進角が前記外部印加電圧と前記回転速度との組み合わせごとに保持され、かつ式(18)に前記外部印加電圧と前記回転速度とを代入しても前記電圧進角が得られない解無しとなる条件の前記外部印加電圧と前記回転速度との組み合わせについては、前記電圧進角が一律0°として保持され、式(18)において、αは前記電圧進角としての電圧位相、Idは前記相電流の磁束成分、Rは前記三相ブラシレスモータの巻線相抵抗、Lqは前記三相ブラシレスモータの巻線相インダクタンス、ωは前記三相ブラシレスモータの回転速度、ψは前記三相ブラシレスモータの誘起電圧定数、Vdは前記外部印加電圧をd軸において表した値、Vqは前記外部印加電圧をq軸において表した値、VdqはVd及びVqの大きさであり、前記電圧進角マップにおいて前記電圧進角が一律0°として保持された前記外部印加電圧と前記回転速度との組み合わせとなる逆負荷状態では、前記正弦波駆動とは異なる制御を行う制御装置である。
【0007】
本発明の一実施形態は、上述の制御装置において、前記記憶部には複数の前記電圧進角マップが記憶され、前記電圧進角算出部は、前記三相ブラシレスモータの動作状態を決める入力値に応じて、前記記憶部に記憶される複数の前記電圧進角マップの中から前記電圧進角マップを選択し、選択した前記電圧進角マップに基づいて前記電圧進角を取得する。
【0008】
本発明の一実施形態は、上述の制御装置において、前記入力値とは、前記回転速度又は前記三相ブラシレスモータの要求トルクである。
【0009】
本発明の一実施形態は、上述の制御装置において、前記正弦波駆動とは異なる制御は、端子間ショートブレーキ動作である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ない計算量において正弦波駆動を行うことができる制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のモータ制御装置の一例を示す図である。
図2】本実施形態のインバータ制御装置の構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態の電圧進角マップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態のモータ制御装置Mの構成の一例を示す図である。モータ制御装置Mは、バッテリ1と、インバータ2と、インバータ制御装置3と、ブラシレスモータ4と、位置センサ5-1~5-3とを備える。
バッテリ1は、モータ制御装置Mに対して電力を供給する。バッテリ1は、例えば、ニッケルカドミウム電池やリチウムイオン電池などの二次電池である。なお、バッテリ1は、二次電池に限られず、乾電池などの一次電池であってもよい。また、バッテリ1の代わりに直流電源が設けられてもよい。
【0013】
インバータ2は、バッテリ1から供給される電力をブラシレスモータ4に供給することにより、ブラシレスモータ4に備えられるロータを回転させる。インバータ2は、インバータ制御装置3からインバータ駆動信号DSを取得する。インバータ2は、取得したインバータ駆動信号DSに基づいて、交流電力をブラシレスモータ4に供給する。
ブラシレスモータ4は、ロータと駆動コイルとを備えている。このブラシレスモータ4とは、例えば三相ブラシレスモータである。ブラシレスモータ4は、駆動コイルに供給される電流によって生じる磁力と、ロータが備える永久磁石の磁力とによる吸引力又は反発力により、ロータを回転させる。
位置センサ5-1~5-3は、ブラシレスモータ4の回転軸を中心とする円周上に120度毎に備えられる。位置センサ5-1~5-3は、例えばホール素子などの磁気センサを備えており、ロータの回転位置(例えば、電気角)を検出する。位置センサ5-1~5-3は、ブラシレスモータ4の回転位置を検出し、検出した回転位置を示す回転位置情報を各々生成する。位置センサ5-1~5-3は、3つの回転位置情報の組である回転位置信号PSを生成し、生成した回転位置信号PSをインバータ制御装置3に供給する。
【0014】
インバータ制御装置3は、インバータ駆動信号DSをインバータ2に供給することによりインバータ2を制御する。
インバータ制御装置3は、位置センサ5-1~5-3から回転位置信号PSを取得する。インバータ制御装置3は、インバータ制御装置3は、インバータ2に備えられた不図示の電圧計から外部印加電圧EVを取得する。ここで外部印加電圧EVとは、バッテリ1がインバータ2に供給する直流電圧の大きさ(例えば、電圧値)である。インバータ制御装置3は、不図示の操作部から目標回転速度TRを取得する。ここで目標回転速度TRとは、モータ制御装置Mがブラシレスモータ4を単位時間に何回転させるように制御するか示す値である。インバータ制御装置3は、回転位置信号PSと、外部印加電圧EVと、目標回転速度TRとに基づいてインバータ駆動信号DSを生成する。インバータ駆動信号DSとは、パルス幅制御であってもよいし、パルス数制御であってもよい。
【0015】
[正弦波駆動への遷移]
モータ制御装置Mでは、上述したようにブラシレスモータ4の回転位置の検出のためにホールセンサである位置センサ5-1~5-3を使用している。モータ制御装置Mでは、ブラシレスモータ4の回転位置の検出のためにホールセンサを使用しているため、ブラシレスモータ4が停止している状態において正確な回転位置を検出することは難しい。モータ制御装置Mでは、ブラシレスモータ4が停止している状態からの起動には、いわゆる120度通電駆動によりブラシレスモータ4を動作させる。モータ制御装置Mでは、位置センサ5-1~5-3が生成する回転位置信号PSから回転位置の予測が可能である状態になってから正弦波駆動へと遷移する。
【0016】
モータ制御装置Mが120度通電駆動から正弦波駆動へと遷移する条件は、所定の遷移条件に従う。所定の遷移条件とは、例えば、ブラシレスモータ4が、電気角にして7周期以上、一定方向へ連続して回転し、かつブラシレスモータ4の回転速度が150rpm以上となることである。モータ制御装置Mでは、所定の遷移条件が満たされた場合、所定の遷移条件が満たされてから回転位置信号PSが更新されると正弦波駆動へと遷移する。
【0017】
[インバータ制御装置3の構成]
図2は、本実施形態のインバータ制御装置3の構成の一例を示す図である。インバータ制御装置3は、回転速度制御部30と、外部印加電圧取得部31と、回転速度算出部32と、位置算出部33と、記憶部34と、電圧進角算出部35と、電圧指令生成部36と、インバータ制御信号生成部37とを備える。
回転速度制御部30は、不図示の上位装置から目標回転速度TRを取得する。回転速度制御部30は、回転速度算出部32からブラシレスモータ4の回転速度を取得する。回転速度制御部30は、目標回転速度TRと取得した回転速度とを比較し、目標回転速度TRと取得した回転速度との偏差に基づいて、電圧振幅を生成する。回転速度制御部30は、生成した電圧振幅を電圧指令生成部36に供給する。
外部印加電圧取得部31は、インバータ2に備えられた不図示の電圧計から外部印加電圧EVを取得する。つまり、外部印加電圧取得部31は、ブラシレスモータ4に印加される外部印加電圧EVを取得する。外部印加電圧取得部31は、取得した外部印加電圧EVを電圧進角算出部35に供給する。
【0018】
回転速度算出部32は回転位置信号PSを取得する。回転速度算出部32は、回転位置信号PSが示す3つの回転位置情報に基づいてブラシレスモータ4の回転速度を算出する。回転速度算出部32は、算出したブラシレスモータ4の回転速度を電圧進角算出部35及び位置算出部33に供給する。
位置算出部33は回転位置信号PSを取得する。位置算出部33は、取得した回転位置信号PSと、回転速度算出部32から取得したブラシレスモータ4の回転速度とに基づいてブラシレスモータ4の回転位置を算出する。位置算出部33は、算出したブラシレスモータ4の回転角度を電圧指令生成部36に供給する。
記憶部34には、電圧進角マップ340が記憶される。ここで電圧進角マップ340とは、外部印加電圧EVとブラシレスモータ4の回転速度と電圧進角とが、相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分であるIdが一定であることを条件にして互いに対応づけられたマップである。電圧進角マップ340には、ブラシレスモータ4の動作状態に応じた電圧進角の値が保持されている。
【0019】
電圧進角算出部35は、記憶部34から電圧進角マップ340を取得する。電圧進角算出部35は、外部印加電圧取得部31から外部印加電圧EVを取得する。電圧進角算出部35は、回転速度算出部32からブラシレスモータ4の回転速度を取得する。電圧進角算出部35は、外部印加電圧取得部31が算出した外部印加電圧EVと、回転速度算出部32が算出した回転速度と、電圧進角マップ340と、に基づいて電圧進角を算出する。電圧進角算出部35は、算出した電圧進角を電圧指令生成部36に供給する。
【0020】
電圧指令生成部36は、回転速度制御部30から電圧振幅を取得する。電圧指令生成部36は、位置算出部33からブラシレスモータ4の回転角度を取得する。電圧指令生成部36は、電圧進角算出部35から電圧進角を取得する。電圧指令生成部36は、取得した電圧振幅と、取得した回転角度と、取得した電圧進角とを用いて、式(1)に基づいてブラシレスモータ4のU相の電圧指令信号Vuを生成する。
【0021】
【数1】
【0022】
ここでVaは電圧振幅を表す。θは回転角度を表す。αは電圧進角を表す。
電圧指令生成部36は、式(1)により表される電圧指令信号Vuに対して120度の位相差を与えることにより、ブラシレスモータ4のV相の電圧指令信号Vvを生成する。電圧指令生成部36は、式(1)により表される電圧指令信号Vuに対して240度の位相差を与えることにより、ブラシレスモータ4のW相の電圧指令信号Vwを生成する。電圧指令生成部36は、生成した電圧指令信号Vu、電圧指令信号Vv及び電圧指令信号Vwをインバータ制御信号生成部37に供給する。
インバータ制御信号生成部37は、電圧指令生成部36から電圧指令信号Vu、電圧指令信号Vv及び電圧指令信号Vwを取得する。インバータ制御信号生成部37は、取得した電圧指令信号Vu、電圧指令信号Vv及び電圧指令信号Vwに基づいて、インバータ駆動信号DSを生成する。インバータ制御信号生成部37は、生成したインバータ駆動信号DSをインバータ2に供給し、インバータ2を制御する。
式(1)においては、電圧指令信号Vuの位相が、電圧進角だけ進んでいるため、インバータ制御装置3では、ブラシレスモータ4のコイルの巻線に流れる相電流の位相と、この巻線に発生する誘起電圧の位相とを一致させることができ、ブラシレスモータ4の効率を向上させることができる。
【0023】
三相ブラシレスモータの正弦波駆動においては、正弦波を出力する際の電圧の位相及び電圧進角が算出される。従来、電圧の位相及び電圧進角の算出には、三相二相変換を利用したベクトル制御が行われる。ところが、三相二相変換の演算には大きな演算能力を要するため、高性能なマイコンを使用することが求められ、コストが増加してしまう。本実施形態に係るインバータ制御装置3では、三相二相変換を行わず、三相二相変換の代わりに、電圧進角マップ340からブラシレスモータ4の動作状態に応じて電圧進角の値を取得する。
ここで、電圧進角マップ340の作成方法を説明する。
【0024】
[電圧進角マップの作成]
電圧進角マップ340の作成において、ブラシレスモータ4の動作状態を決める変数は、回転速度と外部印加電圧EVであるとする。定常状態の仮定の下、ブラシレスモータ4の電圧方程式から電圧進角を求める。ただし、相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分である相電流Idの値はある定数であるとする。
ブラシレスモータ4の電圧方程式を、三相二相変換におけるd軸及びq軸において表すと、式(2)、式(3)となる。以下、値を三相二相変換におけるd軸及びq軸において表すことを、dq軸において表すなどと呼ぶ場合がある。
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
ここで、電圧Vd及び電圧Vqは各々、外部印加電圧EVをdq軸において表した値である。電圧Vd及び電圧Vqの単位はボルトである。相電流Id及び相電流Iqは各々、相電流をdq軸において表した値である。つまり、相電流Idは、相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分である。相電流Iqは、相電流の磁束成分とトルク成分とのうちトルク成分である。相電流Id及び相電流Iqの単位はアンペアである。相インダクタンスLd及び相インダクタンスLqは各々、ブラシレスモータ4の巻線相インダクタンスをdq軸において表した値である。相インダクタンスLd及び相インダクタンスLqの単位はヘンリーである。抵抗Rは、ブラシレスモータ4の巻線相抵抗である。抵抗Rの単位はオームである。誘起電圧定数ψはブラシレスモータ4の誘起電圧定数である。誘起電圧定数ψの単位はボルト秒である。回転速度ωはブラシレスモータ4の回転速度である。回転速度ωの単位はラジアン毎秒である。
式(2)及び式(3)において、定常状態を仮定すると、相電流の時間に関する微分値はゼロとすることができる。この定常状態の仮定の下、式(2)及び式(3)を連立し
相電流Id及び相電流Iqについて解くと、下記の式(4)及び式(5)を得る。
【0028】
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
ここで、電圧Vd及び電圧Vqを、大きさVdqと電圧位相αとを用いて表すと、式(6)及び式(7)を得る。
【0031】
【数6】
【0032】
【数7】
【0033】
式(6)及び式(7)を式(4)及び式(5)に代入すると、式(8)及び式(9)を得る。
【0034】
【数8】
【0035】
【数9】
【0036】
式(8)及び式(9)においては、相電流Id及び相電流Iqが、抵抗R、相インダクタンスLd、相インダクタンスLq、誘起電圧定数ψ、電圧Vd及び電圧Vqの大きさVdqと電圧位相α、及び回転速度ωにより表される。
ここで、式(8)を変形して式(10)を得る。
【0037】
【数10】
【0038】
式(10)の両辺を共通の因子を用いて割ることにより式(11)を得る。
【0039】
【数11】
【0040】
ここで下記の式(12)、式(13)、式(14)及び式(15)を満たす位相βを導入する。
【0041】
【数12】
【0042】
【数13】
【0043】
【数14】
【0044】
【数15】
【0045】
この位相βを用いて三角合成を行うと、式(11)は式(16)のように1つの三角関数を用いて表すことができる。
【0046】
【数16】
【0047】
式(16)を三角関数の位相について解くと式(17)を得る。
【0048】
【数17】
【0049】
式(17)を電圧位相αについて解くと式(18)を得る。
【0050】
【数18】
【0051】
式(18)に相電流Id、抵抗R、相インダクタンスLd、相インダクタンスLq、誘起電圧定数ψ、電圧Vd及び電圧Vqの大きさVdq及び回転速度ωを代入することにより電圧位相αを求めることができる。したがって、電圧進角算出部35は、電圧位相αを、2次元のマップ、つまり電圧進角マップ340に基づいて、電圧進角として算出することが可能である。
【0052】
モータ制御装置Mでは、予め作成された電圧進角マップ340が記憶部34に記憶されている。モータ制御装置Mでは、外部印加電圧EVと、回転速度と、電圧進角マップ340とに基づいて電圧進角が算出される。ここで、外部印加電圧EVは、外部印加電圧取得部31により取得される。また、回転速度は、回転速度算出部32により回転位置信号PSに基づいて算出される。したがって、モータ制御装置Mでは、ブラシレスモータ4の相電流を検出する電流センサを設けずに、ブラシレスモータ4の正弦波駆動が可能である。ただし、誤動作の検出を目的として、モータ制御装置Mには、ブラシレスモータ4の相電流を検出する電流センサを設けてもよい。
モータ制御装置Mでは、ベクトル制御における三相二相変換が不要であるため、モータ制御装置Mをマイコンにより実現した場合に演算量が、三相二相変換のための演算を行う場合に比べて少なくて済む。
【0053】
ここで、電圧進角マップ340の作成に用いられる抵抗R、相インダクタンスLd、相インダクタンスLq及び誘起電圧定数ψをモータ定数と呼ぶ。
【0054】
[電圧進角マップ]
図3は、本実施形態の電圧進角マップ340の一例を示す図である。電圧進角マップ340では、出力電圧と回転速度の組み合わせについて、図3のモータ定数に対して式(18)用いた電圧位相αの値が保持されている。ただし、図3において電圧位相αの値は弧度法における値が表記してある。また、選択可能な進角値はサインテーブルの分解能である1°刻みとなるため、図3においては、式(18)を用いた電圧位相αの計算結果を四捨五入し整数に丸めたものが表記してある。
【0055】
出力電圧と回転速度の関係によっては、式(18)を用いて電圧位相αを算出する場合に、解無しとなる条件が存在する。例えば低出力高回転速度においては、式(18)の逆余弦関数の項が発散し、解無しとなる条件が存在する。これは物理的には逆負荷状態に相当し、出力電圧が低いためブラシレスモータ4の誘起電圧によって流れ出してくる電流を、相電流Idの値が定数となる条件を満たすように制御することが不可能になることを意味する。逆負荷状態では、端子間ショートブレーキ動作など正弦波駆動とは異なる制御を行うため、図3に示す電圧進角マップ340では、解無しとなる個所について一律0°としている。
【0056】
図3に示す電圧進角マップ340は、相電流Idの値が定数の場合のマップの一例であり、弱め界磁状態に対応するマップである。なお、電圧進角マップ340は、相電流Idの値が特にゼロの場合について作成されてもよい。
【0057】
電圧進角マップ340では、一例として合計1845通りの出力電圧と回転速度との組み合わせについて電圧位相αが保持されるが、記憶部34の容量に応じて出力電圧と回転速度との組合せの数を変更してもよい。
また、電圧進角算出部35は、出力電圧と回転速度とに応じて、電圧進角マップ340から得られる電圧位相αの値を線形補間した値を、電圧進角の値として算出してもよい。
【0058】
[まとめ]
以上に説明したように、本実施形態に係る制御装置(モータ制御装置M)は、外部印加電圧取得部31と、回転速度算出部32と、記憶部34と電圧進角算出部35とを備える。
外部印加電圧取得部31は、ブラシレスモータ4に印加される外部印加電圧EVを取得する。
回転速度算出部32は、ブラシレスモータ4の回転速度を算出する。
記憶部34には、外部印加電圧EVと回転速度と電圧進角とが相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分であるIdが一定であることを条件にして互いに対応づけられた電圧進角マップ340が記憶される。
電圧進角算出部35は、外部印加電圧取得部31が取得した外部印加電圧EVと、回転速度算出部32が算出する回転速度と、記憶部34に記憶される電圧進角マップ340と、に基づいて電圧進角を算出する。
この構成により、本実施形態に係る制御装置(モータ制御装置M)は、ベクトル制御において三相二相変換の演算を行う代わりに電圧進角マップ340に基づいて電圧進角を算出できる。このため、正弦波駆動を行うため計算量を三相二相変換の演算を行う場合に比べて少なくすることができる。
【0059】
[複数の電圧進角マップの切り替え]
上記の実施形態においては、記憶部34には1つの電圧進角マップ340が記憶される場合について説明したが、記憶部34には複数の電圧進角マップが記憶されてよい。記憶部34に複数の電圧進角マップが記憶される場合、電圧進角算出部35は、ブラシレスモータ4の動作状態を決める入力値に応じて、記憶部34に記憶される複数の電圧進角マップの中から電圧進角マップを選択し、選択した電圧進角マップに基づいて電圧進角を算出する。ここで、ブラシレスモータ4の動作状態を決める入力値とは、例えば目標回転速度TR、要求トルクなどである。
電圧進角算出部35が目標回転速度TRに応じて複数の電圧進角マップの中から電圧進角マップを選択する場合、回転速度の範囲毎の複数の電圧進角マップが記憶部34に記憶されている。電圧進角算出部35は、不図示の上位装置から取得する目標回転速度TRに応じて、複数の電圧進角マップの中から電圧進角を算出するための電圧進角マップを取得する。
電圧進角算出部35が要求トルクに応じて複数の電圧進角マップの中から電圧進角マップを選択する場合、要求トルク毎の複数の電圧進角マップが記憶部34に記憶されている。相電流は三相二相変換において磁束成分とトルク成分とに分解されるため、要求トルク毎の複数の電圧進角マップとは、相電流の磁束成分毎に作成された複数の電圧進角マップである。この複数の電圧進角マップは、相電流の磁束成分とトルク成分とのうち磁束成分であるIdの値毎に作成される。電圧進角算出部35は、不図示の上位装置から取得する要求トルクに応じて、複数の電圧進角マップの中から電圧進角を算出するための電圧進角マップを取得する。
【0060】
この構成により、本実施形態に係るモータ制御装置Mは、ブラシレスモータ4の動作状態に応じ選択された電圧進角マップに基づいて電圧進角を算出できる。このため、1つの電圧進角マップに基づいて電圧進角を算出する場合に比べより適切な電圧進角を算出することができる。
また、本実施形態に係るモータ制御装置Mは、ブラシレスモータ4の回転速度に応じて、記憶部34に記憶される複数の電圧進角マップの中から電圧進角マップを選択する。このため、算出された回転速度が、1つの電圧進角マップの回転速度の範囲外である場合でも、算出された回転速度を回転速度の範囲にもつ電圧進角マップを選択し、電圧進角を算出することができる。
また、本実施形態に係るモータ制御装置Mは、ブラシレスモータ4の要求トルクに応じて、記憶部34に記憶される複数の電圧進角マップの中から電圧進角マップを選択する。このため、特定の要求トルクの値に応じて作成された電圧進角マップのみを用いる場合に比べより適切な電圧進角を算出することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0062】
なお、上述の各装置は内部にコンピュータを有している。そして、上述した各装置の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0063】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
M…モータ制御装置、1…バッテリ、2…インバータ、3…インバータ制御装置、4…ブラシレスモータ、5-1…位置センサ、5-2…位置センサ、5-3…位置センサ、EV…外部印加電圧、DS…インバータ駆動信号、TR…目標回転速度、PS…回転位置信号、30…回転速度制御部、31…外部印加電圧取得部、32…回転速度算出部、33…位置算出部、34…記憶部、35…電圧進角算出部、36…電圧指令生成部、37…インバータ制御信号生成部、340…電圧進角マップ
図1
図2
図3