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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】アクティブフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20220726BHJP
   H02M 1/15 20060101ALI20220726BHJP
   H03H 11/12 20060101ALI20220726BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220726BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H02J1/00 309U
H02M1/15
H03H11/12 Z
H02J7/00 P
H02J7/00 A
H01F1/34 140
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018047593
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2018157747
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】10 2017 105 839.7
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504103641
【氏名又は名称】シャフナー・エーエムファウ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ・アマドゥッキ
【審査官】原 嘉彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051085(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0078133(KR,A)
【文献】特開2005-191266(JP,A)
【文献】特開2000-201044(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0292401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00
H02M 1/15
H03H 11/12
H02J 7/00
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電力導体(11)と第2の電力導体(12)とアクティブ回路とを備える直流回路網用のEMIフィルタであって、前記アクティブ回路が、
前記第1の電力導体(11)と前記第2の電力導体(12)とにおけるノイズを感知するための感知部(23)と、
前記感知部(23)において感知された前記ノイズに基づいてキャンセルノイズを生成するための利得部(24)と、
前記利得部から前記第1の電力導体(11)又は前記第2の電力導体(12)に前記キャンセルノイズを注入するための注入部(25)とを備え
前記感知部(23)は、前記第1の電力導体(11)と前記第2の電力導体(12)と前記アクティブ回路の補助導体(27)とを誘導結合するコア(14)を有する変流器から成り、前記補助導体(27)が、前記利得部(24)に接続されていて、
前記補助導体(27)は、前記コア(14)の周りに3本未満又は2本未満の巻線を有するEMIフィルタ。
【請求項2】
前記注入部(25)は、前記キャンセルノイズを前記第1の電力導体(11)に注入するように構成された第1の結合キャパシタンス(13)を備え、この第1の結合キャパシタンス(13)は、異なるキャパシタンス値を有する複数の並列キャパシタを備える請求項1に記載のEMIフィルタ。
【請求項3】
前記注入部(25)は、前記キャンセルノイズを前記第2の電力導体(12)に注入するように構成された第2の結合キャパシタンス(13)を備え、この第2の結合キャパシタンス(13)は、異なるキャパシタンス値を有する複数の並列キャパシタを備える請求項2に記載のEMIフィルタ。
【請求項4】
前記利得部(24)は、前記キャンセルノイズを出力するための出力ポイントを備え、前記第1の結合キャパシタンスの第1の端子が、前記第1の電力導体(11)に接続されていて、第2の端子が、前記利得部(24)の前記出力ポイントに接続されていて、前記第2の結合キャパシタンス(13)の第1の端子が、前記第2の電力導体(12)に接続されていて、第2の端子が、前記利得部(24)の前記出力ポイントに接続されている請求項3に記載のEMIフィルタ。
【請求項5】
前記コア(14)の材料が、150kHzと30MHzとの間で一定の透磁率を有する請求項1~4のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項6】
前記コアの前記材料は、MgZnを含む請求項に記載のEMIフィルタ。
【請求項7】
前記感知部(23)は、測定されたノイズ電流をノイズ電圧に変換するために、前記変流器に対して並列の負荷抵抗(28)を備える請求項のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項8】
前記第1の電力導体(11)は、第1のバスバーであり、前記第2の電力導体(12)は、第2のバスバーであり、前記コア(14)は、前記第1のバスバーと前記第2のバスバーとを包囲するリングコアである請求項のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項9】
プリント回路基板(15)が、少なくとも前記リングコア(14)の開口部内の前記第1のバスバーと前記第2のバスバーの間に配置されている請求項に記載のEMIフィルタ。
【請求項10】
プリント回路基板(15)が、前記利得部(24)と前記注入部(25)とを備え、前記第1の電力導体(11)は、第1のバスバーであり、前記第2の電力導体(12)は、第2のバスバーであり、前記第1のバスバー及び/又は前記第2のバスバーが、前記注入部(25)と電気接続するために前記プリント回路基板(15)上に直接に接続されている請求項のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項11】
プリント回路基板が、前記利得部(24)と前記注入部(25)とを備え、前記コア(14)は、リングコアであり、前記プリント回路基板(15)が、2つの凹部と前記2つの凹部間の突起(15.1)とを備え、前記突起(15.1)が、前記リングコアによって形成された開口部を通って延在するように、前記リングコアが、前記2つの凹部内に収容されている請求項10のいずれか一つに記載のEMIフィルタ。
【請求項12】
前記第1の電力導体(11)と前記第2の電力導体(12)とに注入されたキャンセルノイズ電流が、前記接地接続を通って前記アクティブ回路に戻り流れ得るように、前記アクティブ回路が接地接続されている請求項1~11のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項13】
前記アクティブ回路の前記キャンセルノイズが、150kHz~30MHzの間の帯域幅のノイズを低減するように構成されている請求項1~12のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項14】
前記感知部(23)は、前記第1の電力導体(11)と前記第2の電力導体(12)とにおけるノイズ電流を感知するための変流器を備え、前記利得部(24)は、前記感知部(23)において感知された前記ノイズ電流に基づいてキャンセルノイズを生成するように構成されていて、前記注入部(25)は、結合キャパシタンス(13)を用いて前記利得部からの前記キャンセルノイズを前記第1の電力導体(11)と前記第2の電力導体(12)とに注入するように構成されていて、感知部(23)と前記注入部(25)とが、フィードバック方向に配置されている請求項1~13のいずれか1項に記載のEMIフィルタ。
【請求項15】
電動車両のための電力システムにおいて、
バッテリーと、
前記バッテリーを充電するために外部電力を受け取るための充電インターフェースと、 前記バッテリーと前記充電インターフェースを接続する回路網であって、この回路網の少なくとも一部分が直流回路網である当該回路網と、
前記直流回路網内の前記バッテリーと前記充電インターフェースの間の、請求項1~14のいずれか1項に記載のEMIフィルタ(22)とを備える電力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブフィルタに関し、詳細には直流回路網及び/又は電気自動車向けのアクティブフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は様々なパワーエレクトロニクス変換段を装備している。電気自動車の推進区画の限られた空間に、そのような多くの制御信号及び電力信号が共存することは、電磁障害(EMI)の生成及び伝搬に関する深刻な脅威を意味する。駆動系において、いくつかのフィルタリング段とともにシールドケーブルを使用することが標準的な慣例になっている。しかしながら、最近の十年間においてパワーエレクトロニクス変換器は大幅な発展を遂げたとしても、受動部品はそうとは言えない。主な問題点の一つは、EMIをフィルタリングするために今日広く使用されている磁性部品、インダクタ、及びコモンモード・チョークにあり、これらはかさばり、大量生産に適さない場合もある。実際、電気自動車の駆動系の電流が高レベルであるために、大きい断面積のケーブル又はバスバーを使用する必要性が高まり、それらを磁気コアに巻きつけるときに問題になることが理解され得る。他の技術的問題は、性能要件、飽和電流及びキュリー温度である。
【0003】
特許文献1は、EMIに対してフィードフォワード・アクティブフィルタを使用することを示唆している。しかしながら、この文献には、電気自動車の駆動系に発生する大電流に対してそのようなアクティブフィルタをどのように実現するのかということが開示されていない。加えて、このアクティブフィルタが、150kHz~30MHzの間というEMIフィルタの広いフィルタリング帯域幅をどのように実現するのかということも開示されていない。詳細には、高周波の場合、アクティブ回路における遅延が既に非常に小さいと、電力ラインのノイズがキャンセルノイズによってキャンセルされず、増加してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6898092号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目的は、現況技術の問題を克服するEMIフィルタを見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、電気自動車の回路網においてアクティブEMIフィルタを使用することによって達成される。
【0007】
アクティブEMIフィルタは、パッシブEMIフィルタと比べて、サイズ及び重さが電流の増加と比例しないという利点がある。
【0008】
この目的は、第1の電力導体、第2の電力導体、及びアクティブ回路を有するアクティブフィルタによってさらに達成され、アクティブ回路は、第1の電力導体及び/又は第2の電力導体におけるノイズを感知するための感知部と、感知部において感知されたノイズをキャンセルノイズに変換するための利得部と、利得部からのキャンセルノイズを第1の電力導体及び/又は第2の電力導体に注入するための注入部とを備える。
【0009】
本発明のさらなる実施形態を以下で説明する。
【0010】
一実施形態では、注入部は、第1の電力導体及び第2の電力導体にキャンセルノイズを注入するように構成された結合キャパシタンスを備える。好ましくは、結合キャパシタンスは、別々のキャパシタンス値を有する複数の並列キャパシタを備える。これには、結合キャパシタンスの帯域幅特性を拡大し、したがって注入部の帯域幅特性を拡大するという利点がある。
【0011】
一実施形態では、感知部は、第1の電力導体及び/又は第2の電力導体におけるノイズ電流を感知するための変流器を備え、注入部は、第1の電力導体及び第2の電力導体にキャンセルノイズ電流を注入するための結合キャパシタンスを備え、感知部及び注入部はフィードバック構成に構成されている。アクティブフィルタの帯域幅及び性能は、主としてEMIノイズを生成する回路網及びデバイスの電気的パラメータに依拠する。説明されるトポロジ及びフィードバック構成は、電気自動車の用途向けの最善の解決策であることが見いだされており、温度及び経年劣化などの環境の変化に対して、より安定しており、影響されにくい。
【0012】
一実施形態では、感知部が変流器を備え、変流器のコアが、感知回路の第1の電力導体と、第2の電力導体と、補助導体とを誘導結合し、補助導体は利得部に接続されている。
【0013】
一実施形態では、コア材料は、150kHz~30MHzの間、好ましくは150kHz~100MHzの間で一定である透磁率を有する。ほとんどの用途で、最大の透磁率を得るためにナノ結晶のコア材料が使用されるが、それらの材料は上記の周波数範囲にわたって一定でなく、この用途には適していない。
【0014】
一実施形態では、コア材料はMgZnを含む。この材料は、そのような広い帯域幅を得るのに最適であることが判明している。
【0015】
一実施形態では、補助導体は、測定されたノイズ電流をノイズ電圧に変換するために、変流器に対して並列の負荷抵抗又はトランスインピーダンス増幅器を備える。
【0016】
一実施形態では、補助導体がコアのまわりに備える巻線は3つ未満であり、好ましくは2つ未満である。好ましい実施形態では、補助導体がコアのまわりに備える巻線は、1つ又は半分である。これには、変流器がアクティブ回路に導入する寄生インダクタンス及び寄生キャパシタンスが小さくなって、アクティブ回路がもたらす移相が低減されるという利点がある。
【0017】
一実施形態では、補助導体の巻線は、(固体の銅の)ワイヤ又はPCBパターンによって作製され得る。
【0018】
一実施形態では、第1の導体及び第2の導体の各々が、コアに対して巻線の半分を有し、言い換えれば、これらの導体はコアに巻きつけられずにコアを通る。これには、大電流のための大きい断面積を有する導体又はバスバーをコアに巻きつける必要がないという利点がある。これによってフィルタの構成が簡単になる。
【0019】
一実施形態では、第1の導体は第1のバスバーであり、第2の導体は第2のバスバーであり、コアは、第1のバスバー及び第2のバスバーを囲むリングコアである。これには、大電流のための大きい断面積を有するバスバーをコアに巻きつける必要がないという利点がある。これによってフィルタの構成が簡単になる。好ましくは、少なくともリングコアの開口部において、第1のバスバーと第2のバスバーの間にプリント回路基板が配置される。このように、2つの導体は、近接しているにもかかわらず互いから電気的に絶縁され得る。
【0020】
一実施形態では、プリント回路基板(PCB)はアクティブ回路を備え、第1のバスバー及び/又は第2のバスバーは、注入部と接続するために、PCBに対して直接接続される。これには、電流が小さいアクティブ回路がPCB上に実施され得、バスバーはPCBに直接接続され得るという利点がある。これによってフィルタが固定され、フィルタの製造が簡単になる。
【0021】
一実施形態では、第1のバスバー及び第2のバスバーは、直接はんだ付け、ねじ留めによってPCBに接続され、或いは、smt挿入物がバスバー及びPCBに対してはんだ付けされ、且つ/又はねじ留めされる。
【0022】
一実施形態では、変流器は、(直流)電流補償される。これには、2つの電力導体に流れる直流電流からの磁束が対向方向に配置されて互いにキャンセルし合うという利点がある。したがって、コア材料が飽和するリスクがない。
【0023】
一実施形態では、電力導体に流れるEMI電流による磁束が互いに足し合わされ、したがって変流器の感知機能を実現する。
【0024】
一実施形態では、プリント回路基板はアクティブ回路を備え、コアはリングコアであり、PCBは2つの凹部と、2つの凹部の間の突起とを備え、リングコアによって形成された開口部を通って突起が延在するように、リングコアが2つの凹部に受けられる。この機構により、コア及びアクティブフィルタの頑健な機構が可能になる。加えて、PCB上に補助導体の巻線を実現することできる。
【0025】
一実施形態では、アクティブ回路は、フィルタが取り付けられているシステムの同一の接地に接続されており、したがって、第1の電力導体及び第2の電力導体に注入されたキャンセルノイズ電流が、前記接地接続を通ってアクティブ回路に戻ることができる。
【0026】
一実施形態では、接地接続は、アクティブフィルタの特有且つ必須の特徴である。
【0027】
一実施形態では、利得部は演算増幅器を備える。演算増幅器は、広帯域性能及び熱的安定性のために使用されてきた。
【0028】
一実施形態では、EMIフィルタは、少なくとも150kHz~30MHzの帯域幅を有する。
【0029】
一実施形態では、EMIフィルタは直流回路網用である。
【0030】
説明された実施形態は組み合わされ得る。
【0031】
このアクティブフィルタについては、自動車又は車両の用途に関して説明してきたが、特に太陽電池パネルのエネルギー用途などの何らかの直流用途といった他の用途向けに適用することも可能である。このアクティブフィルタについては、EMIのフィルタリングに関して説明してきたが、他の周波数にも適用され得る。
【0032】
例として与えられ、図によって示される一実施形態の説明の助けにより、本発明が一層よく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】アクティブフィルタの動作原理を示す図である。
図2】アクティブフィルタの一実施形態の概略図である。
図3】アクティブフィルタの4つの可能なトポロジの概略図である。
図4】アクティブフィルタの一実施形態の回路図の一実施形態を示す図である。
図5】様々なキャパシタの周波数に関するインピーダンスを示す図である。
図6】アクティブフィルタの機械的構成の一実施形態の、実装状態における3次元図である。
図7図4の機械的構成の実施形態の分解状態における3次元図である。
図8図4の機械的構成の実施形態の第1の側面図である。
図9図4の機械的構成の実施形態の第2の側面図である。
図10図4の機械的構成の実施形態の第3の側面図である。
図11】電動車両の電力システムにおけるアクティブEMIフィルタの適用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本アクティブフィルタの動作原理を示す。直流回路網21は、直流のメイン電流を伝導するための第1の電力導体11及び第2の電力導体12を有する。第1の電力導体11及び第2の電力導体12を介して回路網に接続されたデバイス20は、ノイズ、詳細にはEMIを生成する。回路網21における第1の電力導体11及び第2の電力導体12のノイズは、実線の矢印で示されるように流れ、接地接続を通じてデバイス20に戻る。ここで、デバイス20からのノイズをキャンセルするために、デバイス20と回路網21の間に、キャンセルノイズを生成して第1の電力導体11及び第2の電力導体12にキャンセルノイズを注入するアクティブフィルタ22が取り付けられる。結果として、アクティブフィルタ22と回路網21の間で、キャンセルノイズによってノイズがキャンセルされる。キャンセルノイズは、アクティブフィルタ22から回路網21へ流れ、次いで接地接続を通じてアクティブフィルタ22へ戻る。
【0035】
直流回路網21は、好ましくは50Aを上回る電流向けに、好ましくは75Aを上回る電流向けに、より好ましくは100Aを上回る電流向けに構成される。好ましくは、直流回路網21の電圧は2Vを上回る。好ましくは、直流回路網21の公称電圧は800V未満である。好ましくは、公称電圧は12Vである。
【0036】
アクティブフィルタ22は、そのような直流回路網21向けに構成されている。アクティブフィルタ22は好ましくはEMIフィルタである。アクティブフィルタ22は、好ましくは、少なくとも150kHz~10MHzの間のフィルタリング帯域幅を有し、好ましくは少なくとも150kHz~30MHzの間のフィルタリング帯域幅を有する。周波数範囲における帯域幅を有するフィルタとは、第1の導体11及び第2の導体12におけるこの周波数範囲のすべてのノイズ周波数を、0dBを超える減衰で低減するフィルタを意味する。好ましくは、このフィルタは、第1の導体11及び第2の導体12におけるこの周波数範囲のすべてのノイズ周波数を、10dBを超える減衰で低減する。アクティブフィルタ22の入力は、フィルタの、ノイズが到来する側にあり、すなわち図1ではデバイス20の側にある。アクティブフィルタ22の出力は、フィルタの、ノイズが流れ出る側にあり、すなわち図1では回路網21の側にある。アクティブフィルタ22は、好ましくはコモンモードノイズをフィルタリングするように構成されている。
【0037】
図2はアクティブフィルタ22の概略図を示す。アクティブフィルタ22は、第1の電力導体11、第2の電力導体12、感知部23、利得部24、及び注入部25を備える。
【0038】
アクティブフィルタ22の第1の電力導体11及び第2の電力導体12は、デバイス20と回路網21の間でメイン電流を伝導するように構成されている。第1の電力導体11及び第2の電力導体12は、前述の電流及び/又は電圧向けに構成されている。好ましくは、第1の電力導体11及び第2の電力導体12は、少なくとも10平方ミリメートルの断面積を有する。好ましくは、第1の電力導体11及び第2の電力導体12はバスバーである。好ましくは、第1の電力導体11及び第2の電力導体12は、第1の電力導体11及び第2の電力導体12をデバイス20及び回路網21と接続するために、フィルタの2つの側又は1つの側に端子を有する。しかしながら、アクティブフィルタを、デバイス20、他のデバイス、又は回路網21に組み込むことも可能である。
【0039】
感知部23は、第1の電力導体11及び第2の電力導体12におけるノイズを感知するように構成されている。感知部23がノイズを感知する第1の電力導体11及び/又は第2の電力導体12のポイントは、以下で感知ポイントと称される。利得部24は、感知されたノイズに基づいてキャンセルノイズを生成するように構成されている。注入部25は、キャンセルノイズによってノイズがキャンセルされるように(又は少なくとも低減されるように)、第1の電力導体11及び/又は第2の電力導体12にキャンセルノイズを注入するように構成されている。注入部25がキャンセルノイズを注入する第1の電力導体11及び/又は第2の電力導体12のポイントは、以下で注入ポイントと称される。
【0040】
アクティブフィルタを提供するには多くの設計選択肢がある。
【0041】
第1に、アクティブフィルタ22はフィードバック方向又はフィードフォワード方向に配置され得る。フィードバック方向は、注入ポイントが、ノイズの方向において感知ポイントの前に、すなわち上流に配置されることを意味する。言い換えれば、フィードバック方向は、アクティブフィルタ22の入力と感知ポイントの間に注入ポイントが配置されることを意味する。フィードフォワード方向は、注入ポイントが、ノイズの方向において感知ポイントの後に、すなわち下流に配置されることを意味する。言い換えれば、フィードフォワード方向は、アクティブフィルタ22の出力と感知ポイントの間に注入ポイントが配置されることを意味する。
【0042】
第2に、図3に示されるように、アクティブフィルタ22に関して4つのトポロジがある。トポロジ(a)は、ノイズ電流を測定してキャンセルノイズ電圧を注入する。トポロジ(b)は、ノイズ電流を測定してキャンセルノイズ電流を注入する。トポロジ(c)は、ノイズ電圧を測定してキャンセルノイズ電流を注入する。トポロジ(d)は、ノイズ電圧を測定してキャンセルノイズ電圧を注入する。図3における4つのトポロジはすべてフィードバック方向で示されている。トポロジ(b)及び(d)はフィードフォワード方向にも配置され得る。従来、システムのパラメータ、詳細にはノイズデバイス20及び回路網21のインピーダンスは、アクティブフィルタ設計の選択に関して考慮に入れられなかった。しかしながら、アクティブフィルタ22の帯域幅において、それら6つのトポロジの各々の性能は、フィルタの帯域幅及びパラメータばかりでなく、ノイズ源Z図1ではデバイス20)及び負荷Z図1では回路網21)のインピーダンス分布にも依拠するものであることが見いだされた。結果的に、各フィルタ設計の選択は、用途に大きく依拠する。好ましくは少なくとも150kHz~10MHzの間、さらに好ましくは少なくとも150kHz~30MHzの間の広い帯域幅を有するEMIフィルタ用のフィードバック方向のトポロジーb)が、車両の直流回路網用に特に高性能であることが見いだされた。しかしながら、説明された他の5つのアクティブフィルタ設計のうち1つを使用することも可能である。
【0043】
図4は、アクティブフィルタ22の回路の一実施形態を示す。感知部23、利得部24、及び注入部25の好ましい実施形態が説明される。感知部23、利得部24、及び注入部25の回路の以下の開示は、それらの組合せにおいて特に有利であるが、他の部の他の実現とも組み合わされ得る。
【0044】
一実施形態では、感知部23は、第1の電力導体11及び第2の電力導体12におけるノイズ電流を測定するように構成されている。好ましくは、感知部23は、第1の電力導体11及び第2の電力導体12における、アクティブフィルタ22の電流の周波数帯幅のノイズ電流を測定するための変流器を備える。変流器は、第1の電力導体11と第2の電力導体12を誘導結合するためのコア14を備え、第1の電力導体11及び第2の電力導体12のノイズ電流を誘起する補助導体を伴う。好ましくは、コア14は、コア14において対向方向に流れる同じ大きさの電流が互いにキャンセルし合う磁界を生成する(直流電流が補償される)ように、第1の電力導体11と第2の電力導体12を結合する。第1の電力導体11及び第2の電力導体12において同じ向きに流れる(アクティブフィルタ22の周波数帯幅の)コモンモード電流が、補助巻線に誘起される。そのため、変流器は、好ましくは電流補償されたコモンモード変流器である。アクティブフィルタ22の帯域幅のボトルネックの1つが、コア材料(並びに変流器の主巻線及び補助巻線の数)であることが見いだされた。主として使用されているナノ結晶のコア材料の透磁率は高いものであり得るが、透磁率は広い周波数帯幅にわたって変化する。アクティブフィルタ22の帯域幅において実質的に一定である透磁率を有するコア材料は、透磁率が大幅に低いものの、アクティブフィルタ22の性能をかなり改善することが示された。そのようなコア材料の一例にはMgZnフェライトがある。30MHzまでの高周波をフィルタリングすることを考えると、感知部23、利得部24、及び注入部25によって生成される小さな遅延のために、キャンセルノイズを注入すると、ノイズをキャンセルするのではなく増幅することがある。したがって、感知部23、利得部24、及び注入部25によって生成される遅延はできる限り小さく保つ必要があり、好ましくは4ナノ秒未満である。これを達成するためのさらなる方策は、補助導体27におけるコア14のまわりの巻線の数を、3つ未満、好ましくは2つ未満、好ましくは1つ以下にすることである。これによって寄生インダクタンス及び寄生キャパシタンスが小さくなり、したがって、変流器によってもたらされる遅延が小さくなる。好ましくは、コア14のまわりの補助導体27の巻取方向によって、誘導電流又は感知電流が、第1の電力導体11及び第2の電力導体12のノイズ電流に対して反対になり(-1を掛けられ)、利得部24は、感知ノイズを反転させることなく(-1を掛けることなく)感知ノイズを増幅するだけでよい。感知ノイズは、OpAmp段によっても効果的に反転され得る。好ましくは、感知部23は、利得部24に感知ノイズ電圧を与えるように、感知ノイズ電流を感知ノイズ電圧へ伝達するための負荷抵抗28又はトランスインピーダンス増幅器を備える。負荷抵抗28は変流器の補助巻線に対して並列に接続されている。他の回路機構が可能であるが、変流器の補助巻線に対して並列の負荷抵抗の機構が特に高性能であると判明した。好ましくは、負荷抵抗28の片側及び/又は補助導体27の巻線の片側は、接地に接続されている。
【0045】
利得部24は、感知されたノイズに基づいてキャンセルノイズを生成するように構成されている。好ましくは、利得部24は、感知部23において感知されたノイズを増幅するように構成されている。好ましくは、利得部24は、感知部23から、たとえば負荷抵抗28にわたるノイズ電圧といったノイズ電圧を受け取る。利得部24は、好ましくは演算増幅器36を備える。演算増幅器の2つの入力は、好ましくは感知部24からのノイズ電圧に接続される。好ましくは、演算増幅器36の第1の入力(好ましくは非反転入力)は、負荷抵抗28及び/又は補助導体27の巻線の感知部23の第1の端子と接続される。好ましくは、演算増幅器の第2の入力(好ましくは反転入力)は、(抵抗29を通じて)接地及び/又は負荷抵抗28及び/又は補助導体27の巻線の感知部23の第2の端子と接続される。好ましくは、演算増幅器36は閉ループ・フィードバック制御を用いて動作され、すなわち、第2の端子は、抵抗30を通じて演算増幅器36の出力と接続されている。利得部24はさらなる増幅段を備えることができる。好ましくは、演算増幅器36の出力は、抵抗38を通じて第2の演算増幅器37の第1の(好ましくは非反転)入力に供給される。第2の演算増幅器37の第2の(好ましくは反転)入力は、(抵抗33を通じて)第2の演算増幅器37の出力に接続されている。第2の演算増幅器37の第1の入力は、好ましくは(抵抗32を通じて)接地に接続されている。第1の演算増幅器36又は第2の演算増幅器37の出力は、(抵抗34を通じて)注入部25の入力に接続されている。説明された回路は、利得部24が実現され得る様子の一例に過ぎない。しかしながら、本実施形態は本フィルタの帯域幅において特に高性能の利得部24を示すものである。利得部24に適切な他のOpAmp構成には、「2つのOpAmpの計装用増幅器」及び「3つのOpAmpの計装用増幅器」がある。
【0046】
一実施形態では、注入部25は、キャンセルノイズ電流によってノイズ電流がキャンセルされるように(又は少なくとも低減されるように)、利得部24からのキャンセルノイズ電流を第1の電力導体11及び第2の電力導体12に注入するように構成されている。好ましくは、第1の電力導体11及び第2の電力導体12にキャンセルノイズを注入するために結合キャパシタンス13が使用される。好ましくは、キャンセルノイズは、第1の結合キャパシタンス13を通じて第1の電力導体1に注入され、第2の結合キャパシタンス13を通じて第2の電力導体12に注入される。アクティブフィルタ22の性能にとって結合キャパシタンス13の帯域幅が重要であることが発見された。理想的なキャパシタのインピーダンスは、周波数が高くなるほど減少する。しかしながら、実際のキャパシタの寄生インダクタンスのために、キャパシタのインピーダンスは、キャパシタンスと寄生インダクタンスの直列共振周波数の後に再び増加し始める。図5は、様々なキャパシタの周波数に対するインピーダンス特性を示す。好ましい実施形態では、それぞれの結合キャパシタンス13が、別々のキャパシタンス値を有する複数の並列キャパシタを備える。結果的に、各周波数のキャンセルノイズは、常に、この周波数に対して最低のインピーダンスを呈するキャパシタを有する経路を選択することができる(並列キャパシタの総合インピーダンスは、各周波数に対して最も小さいインピーダンスによって支配される)。結合キャパシタンス13の並列キャパシタ各々は、一方の側が、利得部24の出力に接続されており、他方の側が、アクティブフィルタ22の入力と感知部23との間の注入ポイント又は第1の電力導体11若しくは第2の電力導体12に接続されている。
【0047】
アクティブフィルタ22の好ましい実施形態を用いると、100kHzで60dB、1MHzで40dB、及び10MHzで20dBのアクティブ・ノイズ減衰が達成された。このアクティブフィルタ22は、そのような広い帯域幅にわたって非常に高性能である最初のアクティブフィルタである。アクティブフィルタ22は、感知部、利得部、及び注入部の各々に対して、その帯域幅性能が最適化された最初のアクティブフィルタでもある。
【0048】
このアクティブフィルタ22の好ましい用途は、たとえば電気式のモータバイク、自動車、及びトラックといった電気自動車にある。詳細には、バッテリー40と充電インターフェース41の間に第1の電力導体11及び第2の電力導体12を有する直流回路網は、図11に示されるように、EMIをキャンセルするためのそのようなEMIアクティブフィルタ22を備えることができる。充電インターフェース41は、大抵の場合、外部網からの電力(大抵の場合交流)を直流に変換するための電力コンバータを備える。そのような電力コンバータは大抵の場合EMIの放射源である。また、バッテリー管理はEMIの別の放射源である。詳細には、そのようなEMIアクティブフィルタ22に対して、バッテリー40の入力及び/又は出力、並びに/或いは充電インターフェース41の入力及び/又は出力、並びに/或いは電力コンバータのような可能なさらなる部品の入力及び/又は出力が、それぞれ接続され得る。
【0049】
図6図8図9、及び図10は、説明されたアクティブフィルタ2の好ましい構造設計を説明するものである。図6はフィルタ22の3次元図を示し、図8図9、及び図10は、フィルタ22の3つの側面図を示す。利得部24及び注入部25は、好ましくはPCB15内に実現される。コア14は、第1の電力導体11及び第2の電力導体12のまわりにフィードスルー配置で配置されている。コア14は、好ましくはリングコア、好ましくは空気間隙のない閉リングコアであり、第1の電力導体11及び第2の電力導体12はリングコア14の開口部を通って導かれる(巻線なしで、又は巻線の半分を有するとも称される)。リングコア14は円環形状に限定されない。また、楕円、正方形、長方形のような、リングの他の断面形状も可能である。好ましくは、第1の電力導体11及び第2の電力導体12はバスバーである。好ましくは、バスバーは、PCB15の注入部25に対して導電的に接続するなどして、PCBに直接接続される。バスバーは、はんだ付け、ねじ留め、又はPCB挿入物によって、PCBに接続され得る。好ましくは、2つのバスバー11と12を互いから絶縁するために、それらの間にPCB15が配置される。したがって、PCB15は、利得部24及び注入部25の回路を担持するばかりでなく、いくつかのさらなる機能を有する。PCB15は、バスバー11、12を機械的に保持し、バスバー11、12と注入部25の間を電気的に接続し、且つ/又はバスバー11と12を互いから絶縁する。図8に示されるように、バスバー11と12は、異なる領域において異なる距離を有するように形成され、又は蛇行する。コア14の領域並びに/或いはバスバー11、12とPCB15の間の機械的接続及び電気接続の領域において、バスバー11と12の間の距離は、終端においてより長くなっており、バスバー11、12の終端にはアクティブフィルタ22の入力端子及び出力端子が設けられる。好ましくは、バスバー11、12は、2つの平坦面と2つの小面を伴う矩形断面を有する。バスバー11、12は、平坦面がPCB15上に配置されている。PCB15は、リングコア14を受けるための2つの凹部をさらに備える。図7は、その開口部を通して2つのバスバー11、12を導くリングコア14が、2つの凹部に挿入され得る様子を示すものである。PCB15の2つの凹部の間に形成された突起15.1が、2つのバスバー11と12の間のコア14の開口部を通って導かれる。したがって、2つのバスバー11と12は近接して配置されているが、PCB15の突起15.1によって互いから絶縁される。突起15.1により、補助導体27の巻線が、PCB15(図示せず)上の導体としてさらに実現され得る。この場合、補助導体27は、ブリッジ又はワイヤによって、突起15.1から凹部を超えてPCB15の残りに接続される。しかしながら、補助導体27の巻線をワイヤで実現することも可能である。PCB15及びコア14は、アクティブフィルタ22がさらに備えるハウジング(図示せず)によって、2つのバスバー11、12の4つの終端のみがフィルタのハウジングから突出するように覆われている。
【符号の説明】
【0050】
11 第1の電力導体
12 第2の電力導体
13 結合キャパシタンス
14 コア
15 PCB
15.1 突起
20 デバイス
21 回路網
22 アクティブフィルタ
23 感知部
24 利得部、キャンセル部
25 注入部
27 補助導体
28 負荷抵抗
29 抵抗
30 抵抗
32 抵抗
33 抵抗
34 抵抗
35 抵抗
36 演算増幅器
37 第2の演算増幅器
38 抵抗
40 バッテリー
41 充電インターフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11