(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】遮熱性布帛および繊維製品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20220726BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20220726BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20220726BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20220726BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220726BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20220726BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20220726BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20220726BHJP
A45B 17/00 20060101ALI20220726BHJP
A47H 23/08 20060101ALI20220726BHJP
E04F 10/02 20060101ALI20220726BHJP
E04H 15/54 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B32B27/12
D03D1/00 Z
D04B1/16
D04B21/16
B32B27/18 Z
A41D31/02 A
A41D31/00 503G
A41D31/00 504D
A41D31/00 502B
A41D31/00 502A
A41D13/00 115
A41D13/00 102
A45B17/00 A
A47H23/08
E04F10/02
E04H15/54
(21)【出願番号】P 2018075458
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-140770(JP,A)
【文献】特開2012-040842(JP,A)
【文献】特開2017-133155(JP,A)
【文献】国際公開第2004/009357(WO,A1)
【文献】特開2010-247522(JP,A)
【文献】特開2015-200039(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185440(WO,A1)
【文献】特開2011-132631(JP,A)
【文献】特開2012-001826(JP,A)
【文献】特開2007-002364(JP,A)
【文献】特開2007-092236(JP,A)
【文献】特開2010-007201(JP,A)
【文献】特開2007-001079(JP,A)
【文献】特開2010-163729(JP,A)
【文献】特開2009-024270(JP,A)
【文献】国際公開第2006/033540(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/003170(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102785442(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103720326(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0262704(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A41D 13/00 - 13/12
A41D 20/00
A45B 1/00 - 27/02
A47H 1/00 - 99/00
B32B 1/00 - 43/00
C09J 1/00 - 5/10
C09J 9/00 - 201/10
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
E04F 10/00 - 10/10
E04H 15/00 - 15/64
A41D 31/00 - 31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10~1000nmでありかつフィラメント数が2000本以上のフィラメント糸Aと、単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含む布帛であり、該布帛の表裏少なくとも一方の面に接着剤層と樹脂層を積層してなる遮熱性布帛であり、
前記接着剤層に酸化チタンからなる遮熱剤が
少なくとも10g/m
2
含まれており、
前記フィラメント糸Aがポリエステルからなり、
前記フィラメント糸Bがポリエステルからなり、
前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとの重量比が(前者:後者)15:85~80:20の範囲内であり、
遮熱性布帛が織物組織を有し、
前記樹脂層がウレタンフィルムからなり、
遮熱性布帛の厚さが0.05~0.2mmの範囲内であり、
遮熱性布帛の目付けが30~200g/m
2であり、
遮熱性布帛において、波長0.78~2μmの近赤外線の平均反射率が70%以上であり、遮光率が99.9%以上であり、かつ耐水圧が200kPa以上であることを特徴とする遮熱性布帛。
【請求項2】
請求項1に記載の遮熱性布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、カーテン、テント、傘、帽子、日よけシート、および日よけネットの群より選ばれるいずれかの繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れた遮熱性布帛および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夏場の炎天下などにおいて、太陽光を遮蔽するために、日傘、カーテン、日よけシートなどの繊維製品が使用されている。そして、かかる繊維製品用の遮熱性布帛としては、酸化チタンなどの艶消し剤を含有する繊維を用いたものや、織編物表面に光反射性の金属膜を形成したもの、さらにはナノファイバーと称される超極細繊維を使用したものなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。
しかしながら、遮光性、耐水性、および取扱い性の点でまだ十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-117935号公報
【文献】特開2006-174978号公報
【文献】特開2011-132631号公報
【文献】特開2012-1826号公報
【文献】国際公開第2014/185440号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れた遮熱性布帛および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、超極細繊維を用いた布帛に樹脂層を積層させると、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れた遮熱性布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10~1000nmでありかつフィラメント数が2000本以上のフィラメント糸Aと、単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含む布帛であり、該布帛の表裏少なくとも一方の面に接着剤層と樹脂層を積層してなる遮熱性布帛であり、前記接着剤層に酸化チタンからなる遮熱剤が少なくとも10g/m
2
含まれており、前記フィラメント糸Aがポリエステルからなり、前記フィラメント糸Bがポリエステルからなり、前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとの重量比が(前者:後者)15:85~80:20の範囲内であり、前記遮熱性布帛が織物組織を有し、前記樹脂層がウレタンフィルムからなり、前記遮熱性布帛の厚さが0.05~0.2mmの範囲内であり、前記遮熱性布帛の目付けが30~200g/m2であり、前記遮熱性布帛において、波長0.78~2μmの近赤外線の平均反射率が70%以上であり、遮光率が99.9%以上であり、かつ耐水圧が200kPa以上であることを特徴とする遮熱性布帛。」が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、前記の遮熱性布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、カーテン、テント、傘、帽子、日よけシート、および日よけネットの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れた遮熱性布帛および繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】遮熱性布帛の断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10~1000nm(好ましくは100~900nm、特に好ましくは550~900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001~0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、近赤外線に対して優れた遮熱効果や遮光性が得られず好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0011】
前記接着剤層において、接着剤層に遮熱剤が含まれていることが好ましい。特に、遮熱性布帛目付けに対し、30重量%以下の割合で含まれていることが好ましい。0.1重量%以上30重量%以下の割合で含まれていることが特に好ましい。遮熱剤の量が30重量%を超える場合は、樹脂層との接着が不十分になり、樹脂層の剥離が発生するおそがある。
【0012】
前記接着剤層に含まれる遮熱剤は、特に制限はないが、汎用性の面から酸化チタンを用いることが好ましい。
【0013】
前記フィラメント糸Aにおいて、近赤外線に対して優れた遮熱効果を得る上でフィラメント数が2000本以上(より好ましくは5000~30000本)であることが肝要である。かかるフィラメント数が2000本未満の場合、近赤外線に対して優れた遮熱効果や耐光性が得られないおそれがある。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5~150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント糸)でもよいし、短繊維でもよい。なかでも、織編物の組織間空隙を小さくして近赤外線に対して優れた遮熱効果が得る上で、紡績糸のように繊維が凝集しているよりも長繊維(マルチフィラメント糸)のように嵩高であるほうが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0015】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、繊維強度や染色堅牢性などの点でポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。艶消し剤(酸化チタン)はポリエステル中に含まれていてもさしつかえないが、艶消し剤がポリエステル中に含まれていなくても近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られるので、フィラメントAを容易に製造する上で、艶消し剤(酸化チタン)の含有量はポリエステル重量対比2.5%以下とすることが好ましい。
【0016】
次に、フィラメント糸Bは、単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸である。かかるフィラメント糸Bにおいて、艶消し剤がフィラメント糸を形成するポリマー重量対比1.5重量%以上(より好ましくは2.0重量%以上、特に好ましくは2.0~4.0重量%)含まれていると、近赤外線に対して優れた遮熱効果が得られ好ましい。
【0017】
フィラメント糸Bの単繊維径の好ましい範囲は1~20μmである。フィラメント糸Bにおいて、フィラメント数および総繊度としては、フィラメント数10~200本、総繊度10~350dtexの範囲内であることが好ましい。
【0018】
かかるフィラメント糸Bを形成するポリマーとしては、前記フィラメント糸Aと同様のポリエステル系ポリマーが好ましい。
【0019】
本発明の遮熱性布帛物において、布帛に含まれる前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとの重量比としては、(前者:後者)15:85~80:20の範囲内であることが好ましい。なお、本発明の遮熱性布帛は、前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bだけで構成されることが最も好ましいが、織編物重量に対して50重量%以下であれば他の繊維が含まれていてもよい。
【0020】
前記フィラメント糸Aとフィラメント糸Bとは、複合糸として布帛に含まれていてもよいし、両者が引き揃えられて含まれていてもよいし、両者が交編または交織されていてもよい。特に、近赤外線に対して優れた遮熱効果を得る上で両者が交編または交織されていることが好ましい。
【0021】
本発明の遮熱性布帛において、布帛の組織は特に限定されず、例えば、織物組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、経二重織、緯二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。編物の場合は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。また、製編織方法も通常の織編機(例えば、通常のウオータージェットルーム、エアージェットルーム、丸編機など)を用いた通常の方法でよい。
【0022】
軽量化と取扱い性を考えた場合、二重織物ではなく平織、斜文織、朱子織等の三原組織で単組織であることが好ましい。
【0023】
特に遮熱性布帛が、下記式に定義するカバーファクターCFが1200以上(より好ましくは1400~5000)の織物であると、特に優れた遮熱効果が得られ好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0024】
かかる布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、その径が10~1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007-2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100~1500)が好ましく用いられる。
【0025】
ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングルコールを3~10重量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0026】
一方、島成分ポリマーは、最終的にフィラメントAを形成するポリマーであり、前記のようなポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0027】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10~1000nmの範囲とする必要がある。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60~5:95の範囲が好ましく、特に30:70~10:90の範囲が好ましい。
【0028】
かかる海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型複合繊維(マルチフィラメント)は、冷却風によって固化され、好ましくは400~6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維(フィラメント糸A用マルチフィラメント)において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5~10.0dtex、フィラメント数5~75本、総繊度30~170dtex(好ましくは30~100dtex)の範囲内であることが好ましい。ここで、最終的に得られるフィラメントAのフィラメント数を2000本以上とする上で、前記島成分の島数と、海島型複合繊維のフィラメント数との積が2000以上であることが肝要である。
【0029】
また、単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bを用意する。
次いで、前記海島型複合繊維(フィラメント糸A用マルチフィラメント)とフィラメント糸Bとを用いて、さらに必要に応じて他の繊維(弾性繊維やポリエステル繊維など)をも用いて前記のような布帛を製編織する。
【0030】
次いで、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去し、海島型複合繊維を単繊維径が10~1000nmのフィラメント糸Aとすることにより、単繊維径が10~1000nmでありかつフィラメント数が2000本以上のフィラメント糸Aと、単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含む織編物を得る。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3~4%のNaOH水溶液を使用し55~65℃の温度で処理するとよい。
【0031】
また、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工、バッフィング加工またはブラシ処理加工を付加適用してもよい。
【0032】
本発明の遮熱性布帛は、かかる布帛の表裏少なくとも一方の面(両面でもよいが、軽量
性の点で片面のみであることが好ましい。)に樹脂層と接着剤層を積層してなるものである。
【0033】
前記樹脂層を形成する樹脂の種類としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂など公知のバインダー樹脂でよい。また、樹脂の基布に対する付着量は、樹脂固形分基準で基布に対して0.01~40g/m2(より好ましくは5~30g/m2)の範囲内であることが好ましい。
【0034】
樹脂層を積層する方法としては、前記の布帛に、上記樹脂からなるフィルムと接着剤層を貼り合わせるか、または上記樹脂と接着剤を含む配合組成物を付与するとよい。
【0035】
その接着剤層に用いる配合組成物は水系、溶剤系のいずれで構成してもよいが、加工工程の作業環境上水系の方が好ましい。溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアド、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが例示される。この配合組成物には、エポキシ系などの架橋剤を併用してもよい。さらに、布帛本体に対する付着性を向上させる等の目的で適当な添加剤をさらに配合してもよい。
【0036】
布帛への配合組成物の付与手段としては、グラビヤコーテイング法、スクリーンプリント法などの、公知の付与手段を用いることができる。
【0037】
ここで、前記配合組成物を織物に付与する前および/または後に、織物にカレンダー加工および/または撥水加工を施すと、組織間空隙が小さくなるため遮光性がさらに向上し好ましい。撥水加工としては、例えば、特許第3133227号公報や特公平4-5786号公報に記載された方法が好適である。すなわち、撥水剤として市販のふっ素系撥水剤(例えば、旭硝子(株)製、アサヒガードLS-317)を使用し、必要に応じてメラミン樹脂、触媒を混合して撥水剤の濃度が3~15重量%程度の加工剤とし、ピックアップ率50~90%程度で、該加工剤を用いて布帛の表面を処理する方法である。加工剤で織物の表面を処理する方法としては、パッド法、スプレー法などが例示され、なかでも、加工剤を布帛内部まで浸透させる上でパッド法が最も好ましい。なお、前記ピックアップ率とは、加工剤の織物(加工剤付与前)重量に対する重量割合(%)である。また、カレンダー加工の条件としては、温度130℃以上(より好ましくは140~195℃)、線圧200~20000N/cmの範囲内であることが好ましい。
【0038】
かくして得られた遮熱性布帛において、厚さは0.05~0.2mmの範囲内であることが好ましい。該厚さが0.05mmよりも小さいと、近赤外線に対して優れた遮熱効果や遮光性が得られないおそれがある。逆に該厚さが0.2mmより大きいと軽量性と取扱い性が低下するおそれがある。
【0039】
また、遮熱性布帛の目付けとしては、30~200g/m2であるの範囲内であることが好ましい。該目付けが30g/m2よりも小さいと、近赤外線に対して優れた遮熱効果や遮光性が得られないおそれがある。逆に該厚さが200g/m2よりも大きいと軽量性が低下するおそれがある。
【0040】
かかる遮熱性布帛は単繊維径が10~1000nmでありかつフィラメント数が2000本以上のフィラメント糸Aと、単繊維径が1000nmよりも大きいフィラメント糸Bとを含む布帛であり、該布帛の表裏少なくとも一方の面に樹脂層を積層しているので、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れる。
【0041】
その際、波長0.78~2μmの近赤外線の平均反射率が70%以上であることが好ましい。また、遮光率が99.9%以上であることが好ましい。また、耐水圧が200kPa以上であることが好ましい。
【0042】
次に、本発明の繊維製品は、前記の遮熱性布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウェア、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、一般衣料、カーテン、テント、傘地(日傘、雨傘、日傘と雨傘の兼用など)、帽子、日よけシート、および日よけネットの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の遮熱性布帛を用いているので、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットした。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度-溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒-1の時の溶融粘度を見た。
(2)溶解速度
海・島成分の各々0.3φ-0.6L×24Hの口金にて1000~2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30~60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から減量速度を算出した。
(3)単繊維径
織編物を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
(4)布帛の厚さ
JIS L1096 8.5に従って測定した。
(5)布帛の目付
JIS L1096 6.4.2に従って測定した。
(6)近赤外線の反射率
島津製作所製「UV3100S MPC-3100」で、波長780nm~2μmの範囲の近赤外線に対する平均反射率を測定した。
(7)織物のカバーファクターCF
下記式により織物のカバーファクターCFを求めた。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
(8)耐水圧
JIS L1092 7.1 B法に従って耐水圧(kPa)を測定した。
(9)遮光率
JIS L1055 A法により測定した。
(10)取扱い性
布帛を裁断・縫製し、折り畳み日傘を作製。折り畳みを行っている際の操作性を判断した。
【0044】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有なし)、海成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸糸を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
【0045】
得られた未延伸糸を、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットし、海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用マルチフィラメント)として巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0046】
一方、フィラメント糸Bとして、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント33
dtex/36fil(帝人フロンティア(株)製)を用意した。
【0047】
次いで、経糸用として前記フィラメント糸Bを無撚にて整経し、一方で、緯糸用として、前記海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用マルチフィラメントを用い、通常のレピア織機を使用して、織密度を経275本/2.54cm、緯127本/2.54cmにて
図2に示す斜文織組織にて製織し、織物を得た。
【0048】
そして、該織物を温度55℃の2.5%水酸化ナトリウム水溶液にて上記海島型複合繊維の海成分のみを溶解した。その後、温度120℃、キープ時間20分にて通常のリラックス、温度130℃、キープ時間45分にて通常の染色加工を施した。さらに、温度180℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した。
【0049】
さらに、厚さ10μm(目付け16g/m2)のウレタンフイルム(市販品)を接着剤で織物の片面に貼り合わせた。その際、接着剤の中に遮熱剤として酸化チタンを10g/m2配合した。
【0050】
得られた織物において、目付けは118g/m2であり、厚さは0.15mであった。また、該織物に含有されるフィラメント糸Aの重量は20g/m2、フィラメント糸Aの単繊維径は700nmであり、フィラメント数は8360本であった。また、該織物に含有されるフィラメント糸Bの重量は65g/m2、フィラメント糸Bの単繊維径は9μmであった。また、該織物において、近赤外線の平均反射率は73%であった。また、遮
光率が99.9%、耐水圧が350kPaであった。
【0051】
次いで、該織物を用いて傘を得て使用したところ、近赤外線に対して優れた遮熱性を有し、かつ太陽光に対して優れた遮光性、かつ、雨に対しても優れた耐水性を有するものであった。また、操作性がよく取扱い性に優れるものであった。また、晴雨兼用傘として用いることができた。
【0052】
[実施例2]
接着剤の中には遮熱剤を配合していないことを除き、実施例1と同じ操作を繰り返した。
【0053】
得られた織物において、目付けは115g/m2であり、厚さは0.14mmであった。該織物に含有されるフィラメント糸Aの重量は20g/m2、また、フィラメント糸Aの単繊維径は700nmであり、フィラメント数は8360本であった。また、該織物に含有されるフィラメント糸Bの重量は65g/m2、フィラメント糸Bの単繊維径は9μmであった。また、該織物において、近赤外線の平均反射率は68%であった。また、遮光率が99.9%、耐水圧が356kPaであった。
【0054】
次いで、該織物を用いて傘を得て使用したところ、操作性がよく取扱い性に優れたが、近赤外線に対して遮熱性が低下し、日傘としては十分ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、近赤外線に対して優れた遮熱性を有するだけでなく、遮光性、耐水性、および取扱い性にも優れた遮熱性布帛および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。