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特許7111509パイル編地の編成方法、シンカー、及び横編機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】パイル編地の編成方法、シンカー、及び横編機
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/02 20060101AFI20220726BHJP
   D04B 15/06 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
D04B1/02
D04B15/06 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018105555
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019210559
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】池中 政光
(72)【発明者】
【氏名】船木 信男
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-118648(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0150243(US,A1)
【文献】米国特許第06840065(US,B1)
【文献】特開2013-167036(JP,A)
【文献】実開昭58-131907(JP,U)
【文献】登録実用新案第3037207(JP,U)
【文献】特開2010-156085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の編針を有する針床と、複数のシンカーを有するシンカー床とを備える横編機を用いてパイル編地を編成する際、
先行給糸口から前記編針に向う地糸と、後行給糸口から前記編針に向うパイル糸と、を前記シンカーによって仕分けすることで、前記地糸で構成されるベースループと前記パイル糸で構成されるパイルループとを前記シンカーの異なる位置に形成した後、前記地糸と前記パイル糸とが仕分けされた状態のまま前記編針でニットを行うパイル編成を実施するパイル編地の編成方法において、
前記パイル編地の所定のコースを編成する際、前記パイル編成に加えて、前記パイル編成と同様に前記地糸と前記パイル糸とを一旦仕分けした後、前記地糸と前記パイル糸との仕分けを解消した状態でニットを行うパイル解消編成を実施するパイル編地の編成方法。
【請求項2】
編針が複数並べられた針床と、先行給糸口から前記編針に給糸される地糸と後行給糸口から前記編針に給糸されるパイル糸とを仕分けするシンカーが複数並べられたシンカー床と、を備え
前記シンカーは、前記シンカー床のシンカー溝に進退自在に取り付けられ、前記シンカー溝の底面に摺接する摺接面と、前記地糸を係止させる地糸係止面を有する地糸用掛爪と、前記パイル糸を係止させるパイル係止面を有するパイル用掛爪とを備える横編機において、
複数の前記シンカーのうちの一部が変形シンカーであり、
前記変形シンカーの前記パイル係止面は、その先端に向うに従って前記摺接面に平行な仮想線に対して前記摺接面側に下がるように傾斜しており、その傾斜角度は15°以上35°以下である、横編機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル編地のコース方向にパイルループがある箇所と無い箇所を形成できるパイル編地の編成方法、及びそのパイル編地の編成方法に好適なシンカーと横編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の編針が並べられた針床と、複数のシンカーが並べられたシンカー床とを備える横編機を用いたパイル編成により、パイルループを有するパイル編地を編成することが行われている。例えば、特許文献1には、パイル編成によってパイルループを有する手袋を編成する方法と、パイル編成を実施するための横編機が開示されている。
【0003】
横編機を用いたパイル編成では、先行給糸口からパイル編地のベースとなる地糸を、後行給糸口からパイルループを形成するパイル糸を給糸させる。この地糸とパイル糸とを、編針に備わる編糸係止用鉤で分離し、シンカーのパイル用掛爪によって仕分けする。この仕分けの結果、シンカーの地糸用掛爪の上端縁面である地糸係止面に、地糸で構成されるシンカーループであるベースループが形成され、シンカーのパイル用掛爪の上端縁面であるパイル係止面に、パイル糸で構成されるシンカーループであるパイルループが形成される。そして、地糸とパイル糸とが仕分けされた状態のまま、編針によるニットを行うことで、ベースループよりも大きなパイルループが形成される。この場合、パイルループは、手袋の内側に突出するように形成される。ここで、シンカーループとは、編針によって形成される隣接するニットループの間を繋ぐ編糸で構成されるループである。
【0004】
上述したように、パイル編成を行うシンカーは、地糸とパイル糸とを仕分ける機能と、編針によるニットが終了するまでの間、地糸とパイル糸とが仕分けされた状態を維持する機能と、を持つ。前者の機能は、シンカーのパイル用掛爪が担っており、後者の機能は、パイル係止面が担っている。ここで、シンカーは、シンカー床のシンカー溝に取り付けられており、ニットループの編成時にシンカーループを押えるため、シンカー溝の延伸方向に沿って進退する。そのシンカーが多少進退した程度で容易にパイル係止面からパイルループが脱落してしまっては、地糸とパイル糸とが仕分けされた状態を維持することが難しい。そこで、パイル係止面は、シンカーの進退方向にほぼ平行になっている。シンカーを単独で見た場合、シンカーをシンカー溝に配置したときにシンカー溝の底面に摺接する摺接面が、シンカーの進退方向に平行となっている。この摺接面を基準にすれば、パイル係止面は、摺接面にほぼ平行となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭61-20668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1のパイル編地の編成方法では、パイル編地のウエール方向に、パイルループがあるコースと無いコースとを混在させたパイル編地を編成することはできる。パイルループが無いコースを編成するには、地糸とパイル糸とが仕分けされないように各糸を給糸するヤーンフィーダーを揃えて走行させるなどすれば良い。しかし、特許文献1の編成方法では、同一コースにパイルループがある部分と無い部分とを混在させることができない。
【0007】
そこで、本発明の目的の一つは、同一コースにパイルループがある部分と無い部分とを混在させるパイル編地の編成方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記パイル編地の編成方法に好適なシンカーと横編機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパイル編地の編成方法は、
複数の編針を有する針床と、複数のシンカーを有するシンカー床とを備える横編機を用いてパイル編地を編成する際、
先行給糸口から前記編針に向う地糸と、後行給糸口から前記編針に向うパイル糸と、を前記シンカーによって仕分けすることで、前記地糸で構成されるベースループと前記パイル糸で構成されるパイルループとを前記シンカーの異なる位置に形成した後、前記地糸と前記パイル糸とが仕分けされた状態のまま前記編針でニットを行うパイル編成を実施するパイル編地の編成方法において、
前記パイル編地の所定のコースを編成する際、前記パイル編成に加えて、前記パイル編成と同様に前記地糸と前記パイル糸とを一旦仕分けした後、前記地糸と前記パイル糸との仕分けを解消した状態でニットを行うパイル解消編成を実施する。
【0009】
本発明のシンカーは、
横編機に備わるシンカー床のシンカー溝に進退自在に取り付けられ、パイル編成に用いる地糸とパイル糸とを仕分けるシンカーであって、前記シンカー溝の底面に摺接する摺接面と、前記地糸を係止させる地糸係止面を有する地糸用掛爪と、前記パイル糸を係止させるパイル係止面を有するパイル用掛爪とを備えるシンカーにおいて、
前記パイル係止面は、その先端に向うに従って前記摺接面に平行な仮想線に対して前記摺接面側に下がるように傾斜しており、その傾斜角度は15°以上35°以下である。
【0010】
本発明の横編機は、
編針が複数並べられた針床と、先行給糸口から前記編針に給糸される地糸と後行給糸口から前記編針に給糸されるパイル糸とを仕分けするシンカーが複数並べられたシンカー床と、を備える横編機において、
複数の前記シンカーのうちの一部が、本発明のシンカーである。
【発明の効果】
【0011】
上記パイル編地の編成方法におけるパイル解消編成では、地糸とパイル糸とを仕分けして一旦パイルループを形成した後、地糸とパイル糸とが仕分けされた状態を解消している。地糸とパイル糸とが仕分けされていない状態で編糸によるニットを行うと、パイルループが編針に引っ張られると共に、そのパイルループが係止されるシンカーの両サイドにある別のシンカーの進出によってパイルループの編糸が吸収される。その結果、パイルループが、ベースループとほぼ同じ大きさにまで小さくなる。ベースループとほぼ同じ大きさのパイルループは、本来求められる機能を有しておらず、単なるシンカーループに過ぎない。このようなパイル解消編成を、編地部を1コース編成する際に行うことで、同一コースにパイルループがある部分と無い部分とを混在させることができる。
【0012】
ここで、同一コースにパイルループがある部分と無い部分とを混在させるために、パイル編成を繰り返す途中で、地糸とパイル糸とを仕分けせずにパイルループを形成しない編成を行うことが考えられる。しかし、一旦、地糸とパイル糸との仕分けを解消して地糸とパイル糸を一体化してしまうと、再び地糸とパイル糸とを分離することが難しく、パイル編地の目面が大きく乱れたり、パイル編地の編成が行えなくなったりする。これに対して、本発明におけるパイル解消編成のように、一旦パイルループを形成する手間をかけることで、仕分けを解消したシンカーに隣接する別のシンカーにおいて、地糸とパイル糸とが仕分けされた状態を維持できる。その結果、パイル解消編成を行った後の編成(パイル編成でもパイル解消編成でも良い)を安定させることができ、編地部の目面が乱れることを抑制できる。
【0013】
本発明のシンカーを用いた本発明の横編機によれば、パイル解消編成を容易に実施することができる。本発明のシンカーのパイル係止面がその先端に向うに従って下がるように傾斜しているため、一旦形成したパイルループがパイル係止面から脱落して地糸係止面に移動し易いからである。地糸係止面にはもともとベースループが係止されているので、地糸係止面にパイルループが脱落すると、地糸とパイルループとが仕分けられていない状態になる。この状態で編針によるニットが行われると、パイルループが編針に引っ張られて小さくなり、ベースループとほぼ同じ大きさになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る横編機の歯口近傍の概略構成図である。
図2図1の横編機におけるパイル編成時の一本の編糸の軌跡と、その編針に対応する一本のシンカーの軌跡を示す説明図である。
図3】パイル解消編成に用いられる変形シンカーの概略構成図である。
図4】変形シンカーにおける地糸とパイル糸の係止状態を示す説明図である。
図5】標準パイル編成に用いられるノーマルシンカーの概略構成図である。
図6】ノーマルシンカーにおける地糸とパイル糸の係止状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のパイル編地の編成方法、シンカー、及び横編機の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
<実施形態1>
本実施形態では、最初に横編機の概略構成を説明し、次いでその横編機を用いたパイル編地の編成方法を説明する。
【0017】
≪横編機≫
図1に示す横編機1は、対向する一対の針床2と、各針床2に対応するシンカー床4と、複数のヤーンフィーダー8,9と、を備える。針床2には、紙面奥行き方向(針床2の長さ方向)に並ぶ複数の針溝20が形成されており、各針溝20に一つの編針3が配置されている。編針3は、ニードル本体30の先端にフック31を備え、そのフック31はラッチ32によって開閉される。ラッチ32の根本には、特許文献1に記載の編針と同様に編糸係止用鉤(図示せず)が設けられている。編針3は、針溝20の延伸方向(矢印参照)に沿って進退自在に構成されている。一方、シンカー床4には、紙面奥行き方向(針床2の長さ方向)に複数のシンカー溝40が形成されており、各シンカー溝40に一つのシンカー5が配置されている。シンカー5は、シンカー溝40の延伸方向(矢印参照)に沿って進退自在に構成されており、本例ではその進退方向は編針3の進退方向に直交している。編針3とシンカー5は、針床2の長さ方向に往復するキャリッジ(図示せず)に搭載されるカムシステムによって動かされる。
【0018】
本例の横編機1では、上記シンカー5として、後述するパイル編地の編成方法で詳しく説明するように、形状の異なる二つのシンカー5(図5のノーマルシンカー5Aと図3の変形シンカー5B)を使用している。ノーマルシンカー5Aは、従来のパイル編成を実施し、パイル編地にパイルループがある箇所を形成するためのものである。一方、変形シンカー5Bは、今までに無いパイル解消編成を実施し、パイル編地にパイルループが無い箇所を形成するためのものである。そのため、シンカー床4の長さ方向に並ぶ複数のノーマルシンカー5Aの一部を変形シンカー5Bに置換することで、パイル編地の同一コースにシンカーループがある箇所と無い箇所とを混在させることができる。ここで、ノーマルシンカー5Aは連続して幾つ並べても構わないが、変形シンカー5Bが連続する数は3つ以下とすることが好ましい。
【0019】
後述するパイル編地の編成方法の説明では、図1の紙面奥側にヤーンフィーダー8,9を移動させ、紙面右側の編針3とシンカー5とを用いてパイル編成とパイル解消編成を行う例を説明する。この場合、紙面奥側にあるヤーンフィーダー8に備わる給糸口が、パイル編地のベースとなる地糸8Yを給糸する先行給糸口であり、手前側にあるヤーンフィーダー9に備わる給糸口が、パイル編地に形成されるパイルループとなるパイル糸9Yを給糸する後行給糸口である。また、図示するシンカー5は、編針3よりも紙面奥側でヤーンフィーダー9よりも手前側に配置されている。ここで、本例とは異なり、先行給糸口と後行給糸口とが設けられた一つのヤーンフィーダーを利用することもできる。
【0020】
≪パイル編地の編成方法≫
パイル編地の編成方法では、シンカー床4に図5のノーマルシンカー5Aと図3の変形シンカー5Bとを並べた横編機1を用いることで、パイル編地を1コース編成する際、パイル編成とパイル解消編成とを実施する。
【0021】
[パイル編成]
パイル編成は、従来から行われている編成である。パイル編成を簡単に説明すると、シンカー5によって地糸8Yとパイル糸9Yとを仕分けした状態で、編針3によるニットを行う編成である。
【0022】
図2は、パイル編成時の一本の編針3と、その編針3に対応するシンカー5の進出状態を、紙面左側から時系列順に並べて示す図である。図2では、パイル編成と後述するパイル解消編成とで、地糸8Yとパイル糸9Yとの係止状態に顕著な相違が生じる編成のタイミングを、丸で囲ったアルファベットA,B,C,Dで示す。なお、図2では、編針3とシンカー5の対応関係を分かり易くするために編針3とシンカー5が共に紙面上下方向に進退するように描かれているが、図1を参照して説明したように、実際の編針3の進退方向とシンカー5の進退方向とは直交している。
【0023】
パイル編成時の編針3とシンカー5の動きは、従来のパイル編成とほぼ同様である。図2を参照して簡単に説明すると、編針3は、歯口に向って進出した後、歯口から離れる方向に後退する。編針3が後退する際、編針3のフック31に地糸8Yとパイル糸9Yとを引っ掛け、針床2側に引き込む(図1を併せて参照)。図2のタイミングAの少し前から編針3の後退度合いが大きくなっているのは、ニットループの大きさを決定する度決めが行われているからである。一方、シンカー5は、編針3が後退し始めた後に、歯口に向って進出し(指示線で示されるシンカー5を参照)、図1の地糸8Yとパイル糸9Yとを押える。その後、シンカー5が一旦後退してから再度進出することで、地糸8Yとパイル糸9Yとが仕分けされる。更に、タイミングA以降にシンカー5が後退することで、シンカー5から地糸8Yとパイル糸9Yが外れる。
【0024】
本例のパイル編成には、図5に示すノーマルシンカー5A(シンカー5)を使用する。このノーマルシンカー5Aは、編針3とほぼ同じ厚さの平板状で、従来のシンカーと同様に基部50と腕部51と作用部52とで構成される。基部50は、シンカー溝40(図1)内に収納される部分である。ノーマルシンカー5Aの厚み方向に沿った基部50の下端縁面は、シンカー溝40の底部に摺接する摺接面50sであり、ノーマルシンカー5Aの進退方向に平行になっている。腕部51は、基部50の先端側(図1の歯口側)からシンカー溝40から突出する方向に延び、更に屈曲して歯口に向って延びる部分である。作用部52は、腕部51の先端側に位置し、図1の地糸8Yやパイル糸9Yに作用する部分である。作用部52のうち、腕部51の上縁よりも上側の部分は、他の部分よりも薄くなった薄肉部57となっている。
【0025】
作用部52には、地糸用掛爪53とパイル用掛爪55とが設けられている。地糸用掛爪53とパイル用掛爪55は共に、ノーマルシンカー5Aの進退方向に向って延びる突起である。地糸用掛爪53は、パイル用掛爪55よりもノーマルシンカー5Aの先端側(即ち歯口側)にあり、主としてパイル編成を行う間、地糸8Yを保持する機能を持つ。一方、パイル用掛爪55は、薄肉部57の位置に設けられ、後述するように地糸8Yとパイル糸9Yとを仕分けする機能を持つ。
【0026】
地糸用掛爪53の上端縁面である地糸係止面53sは主として地糸8Yが係止される部分であって、ノーマルシンカー5Aの進退方向にほぼ平行となっている。また、パイル用掛爪55の上端縁面であるパイル係止面55sは主としてパイル糸9Yが係止される部分であって、上記進退方向とほぼ平行になっている。既に説明したように、摺接面50sは上記進退方向に平行となっており、この摺接面50sを基準にすれば、地糸係止面53sもパイル係止面55sも、摺接面50sにほぼ平行となっている。本例では、両係止面53s,55sは共に、その先端に向うに従って下側(摺接面50s側)にわずかに下がる傾斜面となっている。摺接面50sに平行な仮想線(二点鎖線参照)に対する両係止面53s,55sの傾斜角度は5°以下である。つまり、『摺接面50sにほぼ平行』とは、『摺接面50sに対する傾斜角度が5°以下(0°を含む)』のことである。
【0027】
ノーマルシンカー5Aにおける地糸8Yとパイル糸9Yの係止状態を図6に示す。図6の(A)~(D)は、図2のタイミングA~Dに対応している。図6(A)に示すように、タイミングAにおけるノーマルシンカー5Aでは、既に地糸8Yとパイル糸9Yとが仕分けされている。具体的には、地糸8Yで構成されるベースループ80が地糸係止面53sに形成され、パイル糸9Yで構成されるパイルループ90がパイル係止面55sに形成された状態になっている。
【0028】
図2のタイミングBでは、編針3がタイミングAのときよりも後退し、編針3の旧ニットループがノックオーバーされ、新たなニットループが形成されるニットが行われる。その際、地糸8Yとパイル糸9Yとが編針3に強く引っ張られるが、図6(B)に示すように、地糸8Yとパイル糸9Yとが仕分けされた状態が維持され、パイルループ90がベースループ80よりも大きな状態になっている。上記状態が維持されるのは、地糸係止面53sとパイル係止面55sとが、ノーマルシンカー5Aの進退方向にほぼ平行になっており、係止面53s(55s)から糸8Y(9Y)が脱落し難いからである。
【0029】
図2のタイミングC,Dにかけてシンカー5が更に後退することで、図6(C),(D)に示すように、パイルループ90がパイル係止面55sから脱落すると共に、ベースループ80が地糸係止面53sから脱落する。図6(D)の段階で、パイルループ90は地糸用掛爪53の位置にあるが、地糸係止面53sに確りと係止されているわけではないので、図示しない後工程で地糸用掛爪53から簡単に外れる。ここで、図2のタイミングCでは、タイミングBのときよりも編針3が少しだけ進出している。これは、地糸8Yとパイル糸9Yの張力を緩め、シンカー5が更に後退する際、パイルループ90やベースループ80がそれぞれの係止面55s,53sから脱落し易くするために行っている。
【0030】
[パイル解消編成]
パイル解消編成は、従来には無い新規な編成である。パイル解消編成を図1に基づいて簡単に説明すると、シンカー5によって地糸8Yとパイル糸9Yとを仕分けして一旦パイルループを形成した後、地糸8Yとパイル糸9Yとが仕分けられた状態を解消してから編針3によるニットを行う編成である。
【0031】
パイル解消編成を行う際の編針3とシンカー5の動きは、図2を参照して説明したパイル編成におけるそれと同一である。つまり、編針3やシンカー5を駆動させるカムシステムに変更を加える必要はない。
【0032】
パイル解消編成には、図3に示す変形シンカー5B(シンカー5)を用いる。変形シンカー5Bと、図5に示すノーマルシンカー5Aとの相違点は、パイル係止面55sの傾斜角度である。変形シンカー5Bのパイル係止面55sの傾斜角度は15°以上35°以下となっている。傾斜角度は、地糸8Yとパイル糸9Yの種類や編成条件に応じて適宜選択することができる。傾斜角度が35°超であると、地糸8Yとパイル糸9Yとを仕分けし難くなる恐れがある。
【0033】
変形シンカー5Bにおける地糸8Yとパイル糸9Yの係止状態を図4に示す。図4の(A)~(D)は、図2のタイミングA~Dに一致している。図4(A)には、タイミングAの変形シンカー5Bにおけるベースループ80とパイルループ90の係止状態が示されている。この図では、ベースループ80が地糸係止面53sに形成され、パイルループ90がパイル係止面55sに形成された状態が示されている。しかし、パイル係止面55sが傾斜しているため、実際にはパイルループ90はパイル係止面55sから脱落しかかっているか、もしくは既に脱落している場合もある。
【0034】
図2のタイミングBでは、編針3がタイミングAのときよりも後退し、編針3の旧ニットループがノックオーバーされ、新たなニットループが形成される。タイミングBは、編針が最下端まで引き込まれて新たなニットループの大きさが決まる度決めが終了するタイミングであり、本例ではこのタイミングをもってニットが完了すると見做す。図4(B)に示すように、ニットが完了する前に、パイル係止面55sの傾斜によって既にパイルループ90がパイル係止面55sから脱落しており、地糸8Yとパイル糸9Yとの仕分けが解消された状態になっている。パイル係止面55sの傾斜角度が15°未満であると、湿度や温度、パイル糸9Yの張力のちょっとした変化によって、地糸8Yとパイル糸9Yとの仕分けを解消することができない恐れがある。そのため、当該傾斜角度を15°以上とすることには大きな意味がある。
【0035】
地糸8Yとパイル糸9Yとが仕分けられていない状態、即ちベースループ80とパイルループ90が共に地糸係止面53sに係止された状態で編針3によるニットが行われると、パイルループ90が編針3に引っ張られる。更に、そのパイルループ90が係止されるシンカー5の両サイドにある別のシンカー5の進出によってパイルループ90の編糸が吸収されて小さくなり、パイルループ90がベースループ80とほぼ同じ大きさになる。そのため、図2のタイミングC,Dにかけてシンカー5が更に後退すると、図4(C),(D)に示すように、ベースループ80とパイルループ90とが重なった状態で変形シンカー5Bの地糸係止面53sから脱落する。ベースループ80とほぼ同じ大きさのパイルループ90は、本来求められる機能を有しておらず、単なるシンカーループに過ぎない。
【0036】
≪効果≫
以上説明したパイル編成とパイル解消編成を、パイル編地を1コース編成する際に行うことで、同一コースにパイルループ90がある部分と無い部分とを混在させることができる。
【0037】
≪比較例≫
ここで、同一コースにパイルループがある部分と無い部分とを混在させる編成方法として、実施形態1で示した編成方法の他に、次の二つの編成方法を試してみた。
(1)変形シンカー5Bをシンカー床4から抜いてパイル編地を編成した。
(2)変形シンカー5Bを、パイル用掛爪55が無いシンカーに置換してパイル編地を編成した。
しかし、いずれの編成方法であっても、パイル編地の目面が大きく乱れることが分かった。上記(1),(2)の編成方法は、パイルループが無い部分を形成するために、地糸8Yとパイル糸9Yとを仕分けしない編成方法である。パイル編成を繰り返す途中で、地糸8Yとパイル糸9Yとの仕分けを止めると、地糸8Yとパイル糸9Yとが一体化してしまい、再び地糸8Yとパイル糸9Yとを分離することが難しくなるからであると推察される。
【符号の説明】
【0038】
1 横編機
2 針床 20 針溝
3 編針 30 ニードル本体 31 フック 32 ラッチ
4 シンカー床 40 シンカー溝
5 シンカー
5A ノーマルシンカー 5B 変形シンカー
50 基部 50s 摺接面
51 腕部 52 作用部
53 地糸用掛爪 53s 地糸係止面
55 パイル用掛爪 55s パイル係止面
57 薄肉部
8,9 ヤーンフィーダー
8Y 地糸 80 ベースループ 9Y パイル糸 90 パイルループ
図1
図2
図3
図4
図5
図6