(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-25
(45)【発行日】2022-08-02
(54)【発明の名称】インクセット及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220726BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220726BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20220726BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220726BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220726BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220726BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220726BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220726BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220726BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 123
C09D11/40
C09D201/00
C09D5/00 D
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B05D7/24 301M
B05D1/26 Z
B05D7/24 303A
B05D3/00 D
B05D1/36 Z
B05D5/06 101D
(21)【出願番号】P 2018115577
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017240528
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】曽原 佑介
(72)【発明者】
【氏名】濱中 政爾
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-050412(JP,A)
【文献】特開2010-046945(JP,A)
【文献】特開2006-206725(JP,A)
【文献】特開2017-024365(JP,A)
【文献】特開平08-281933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットを備えたインクジェットプリンタによって印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、
前記水系着色インクが、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの4種のインクを含み、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂がカチオン性ポリマーを含み、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程と、
第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を前記コーティング液上に着弾させることにより印刷層を形成させる工程とを含み、
前記第1のインクは、
シアンインクであり、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低
く、
前記水系コーティング液の25℃における表面張力は、前記第1のインクの25℃における表面張力よりも低いことを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記印刷層の形成後に乾燥を行う工程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記乾燥が70~130℃で行われることを特徴とする請求項2に記載の印刷方法。
【請求項4】
水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットを備えたインクジェットプリンタによって印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、
前記水系着色インクが、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの4種のインクを含み、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂がカチオン性ポリマーを含み、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程と、
第1のインク及び第2のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を前記コーティング液上に着弾させることにより第1の印刷層を形成させる工程と、
前記第1の印刷層の形成後に一次乾燥を行う工程と、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を、一次乾燥を行った第1の印刷層上に着弾させる工程と、
第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を、前記第1の印刷層上のコーティング液上に着弾させることにより第2の印刷層を形成させる工程とを含み、
前記第1のインクは、
シアンインクであり、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低
く、
前記水系コーティング液の25℃における表面張力は、前記第1のインクの25℃における表面張力よりも低いことを特徴とする印刷方法。
【請求項5】
前記第2の印刷層の形成後に二次乾燥を行う工程を更に含むことを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。
【請求項6】
前記一次乾燥が25~45℃で行われることを特徴とする請求項4又は5に記載の印刷方法。
【請求項7】
前記二次乾燥が70~130℃で行われることを特徴とする請求項5に記載の印刷方法。
【請求項8】
前記コーティング液滴を基材上に着弾させる工程において、基材の温度が30~45℃であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項9】
前記第1のインクは、前記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の質量割合が最も低いことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項10】
前記第4のインクは、前記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の吸油量が最も高いことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項11】
前記第3のインクがマゼンタイン
クであることを特徴とする請求項1~
10のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項12】
前記第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクは、それぞれがシアンインク、イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクであることを特徴とする請求項1~
11のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項13】
前記水系着色インクは、25℃における表面張力が20~50mN/mであることを特徴とする、請求項1~
12のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項14】
前記水系コーティング液が、水を50質量%~90質量%、水溶性溶剤を5質量%~35質量%、樹脂を0.005質量%~2質量%の範囲内で含むことを特徴とする、請求項1~
13のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項15】
前記基材が非吸収性基材または難吸収性基材であることを特徴とする、請求項1~
14のいずれかに記載の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法に関し、特には、印刷層の滲みの発生を抑えることが可能な印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる印刷に用いるインクとしては、様々なインクが開発されているが、環境負荷を低減する観点から、水系インクが広く使用されている。しかしながら、水系インクは溶媒として水を含むため、印刷の際に滲みを発生させる傾向がある。印刷により形成される印刷層の滲みを改善する方法としては、例えば、着色インクを凝集させる作用を有する処理液を併用する手法が知られている。このような処理液と着色インクを組み合わせた水系インクセットは、2液反応型水系インクセットとも称される。
【0003】
特開平6-57192号公報(特許文献1)は、複数の着色インクからなるインクセットであって、アニオン染料を含むブラックインクと、カチオン染料を含むイエローインクとを含むインクセットを記載しており、これら染料の使用により、カラーとブラックとの間のブリードが軽減されることを記載しているが、更に、多価沈殿剤をイエローインクに配合することでブリードを軽減できることも記載している。特許文献1では、このイエローインクが処理液としても作用していると認められる。
【0004】
特開2009-190379号公報(特許文献2)は、架橋した水溶性ポリマーで被覆された顔料(水分散性顔料)を含む着色インクと、該着色インクの凝集を促進する凝集促進剤を含む無色インクとを含むインクセットを記載しており、これにより、液安定性、吐出性が良好となり、また、インク付与後の被記録媒体のカール及び画像変形が抑制され得ると記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-57192号公報
【文献】特開2009-190379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下、本発明の目的は、従来技術とは異なる手法で、印刷層の滲みの発生を抑えることが可能な印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、複数種の水系着色インクと水系コーティング液とを併用する印刷方法において、基材上に着弾させた水系コーティング液に最初に付着させるインクを、水系着色インクの中で最も低い表面張力を有するインクとすることで、印刷層の滲みの発生を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明者は、更に検討を進めたところ、4種の水系着色インクを順番にプリントヘッドから吐出させて印刷を行う場合に、2種のインクを順に吐出させて印刷した後で且つ残りの2種のインクを順に吐出させて印刷を行う前に、一次乾燥とその後の水系コーティング液による印刷とを行うことで、より高精細な印刷層を形成できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の第1の印刷方法は、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットを備えたインクジェットプリンタによって印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、
前記水系着色インクが、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの4種のインクを含み、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂がカチオン性ポリマーを含み、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程と、
第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク液滴を前記コーティング液上に着弾させることにより印刷層を形成させる工程とを含み、
前記第1のインクは、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いことを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の印刷方法の好適例においては、前記印刷層の形成後に乾燥を行う工程を更に含む。
【0011】
本発明の第1の印刷方法の他の好適例においては、前記乾燥が70~130℃で行われる。
【0012】
また、本発明の第2の印刷方法は、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットを備えたインクジェットプリンタによって印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、
前記水系着色インクが、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの4種のインクを含み、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂がカチオン性ポリマーを含み、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程と、
第1のインク及び第2のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を前記コーティング液上に着弾させることにより第1の印刷層を形成させる工程と、
前記第1の印刷層の形成後に一次乾燥を行う工程と、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を、一次乾燥を行った第1の印刷層上に着弾させる工程と、
第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を、前記第1の印刷層上のコーティング液上に着弾させることにより第2の印刷層を形成させる工程とを含み、
前記第1のインクは、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いことを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の印刷方法の好適例においては、前記第2の印刷層の形成後に二次乾燥を行う工程を更に含む。
【0014】
本発明の第2の印刷方法の他の好適例においては、前記一次乾燥が25~45℃で行われる。
【0015】
本発明の第2の印刷方法の他の好適例においては、前記二次乾燥が70~130℃で行われる。
【0016】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例においては、前記コーティング液滴を基材上に着弾させる工程において、基材の温度が30~45℃である。
【0017】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記第1のインクは、前記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の質量割合が最も低い。
【0018】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記第4のインクは、前記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の吸油量が最も高い。
【0019】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記第1のインクがマゼンタインク又はシアンインクである。
【0020】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記第3のインクがマゼンタインク又はシアンインクである。
【0021】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクは、それぞれがシアンインク、イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクである。
【0022】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクは、それぞれがマゼンタインク、イエローインク、シアンインク及びブラックインクである。
【0023】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記水系着色インクは、25℃における表面張力が20~50mN/mである。
【0024】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例において、前記水系コーティング液の25℃における表面張力は、前記第1のインクの25℃における表面張力よりも低い。
【0025】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例においては、前記水系コーティング液が、水を50質量%~90質量%、水溶性溶剤を5質量%~35質量%、樹脂を0.005質量%~2質量%の範囲内で含む。
【0026】
本発明の第1及び第2の印刷方法の他の好適例においては、前記基材が非吸収性基材または難吸収性基材である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、印刷層の滲みの発生を抑えることが可能な印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の印刷方法を詳細に説明する。本発明の印刷方法の一実施態様は、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットを備えたインクジェットプリンタによって印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、前記水系着色インクが、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの4種のインクを含み、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂がカチオン性ポリマーを含み、前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程と、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク液滴を前記コーティング液上に着弾させることにより印刷層を形成させる工程とを含み、前記第1のインクは、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いことを特徴とする。なお、かかる特徴を備える印刷方法を「本発明の第1の印刷方法」ともいう。
【0029】
また、本発明の印刷方法の他の実施態様は、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットを備えたインクジェットプリンタによって印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、前記水系着色インクが、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの4種のインクを含み、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂がカチオン性ポリマーを含み、前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程と、第1のインク及び第2のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を前記コーティング液上に着弾させることにより第1の印刷層を形成させる工程と、前記第1の印刷層の形成後に一次乾燥を行う工程と、前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を、一次乾燥を行った第1の印刷層上に着弾させる工程と、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、インク滴を、前記第1の印刷層上のコーティング液上に着弾させることにより第2の印刷層を形成させる工程とを含み、前記第1のインクは、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いことを特徴とする。なお、かかる特徴を備える印刷方法を「本発明の第2の印刷方法」ともいう。この「本発明の第2の印刷方法」を用いることにより「本発明の第1の印刷方法」よりも鮮明な画像を作製することが可能となる。
【0030】
本発明の印刷方法に用いるインクセットは、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットである。ここで、水系着色インクは、異なる色を発する4種類以上の水系着色インクからなり、少なくとも第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクを含む。
【0031】
本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいて、水系着色インクは、それぞれのインクが独立して、水、顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含むインクであり、インクジェットインクであることが好ましい。なお、インクジェットインクとは、インクジェットプリンタ用のインク組成物である。また、本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいて、水系コーティング液は、基材を被覆し、着色インクを凝集させるための液であり、水、水溶性溶剤及び樹脂を含むものであり、インクジェットプリンタに使用可能なコーティング液であることが好ましい。なお、本発明においては、着色剤を0.1質量%を超える量で含む組成物を「インク」とし、着色剤を含まない又は着色剤を0.1質量%以下含む組成物を単に「液」として表現している。
【0032】
本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいて、水系コーティング液は、pHが7.1~10.0の範囲内にあることが好ましい。カチオン性ポリマーを含む水系コーティング液は一般的に酸性のものが多いため、腐食を発生させる恐れがあり、また、腐食防止剤やその他中和剤等の添加によりコーティング液を中性や塩基性にすることも考えられるが、この場合、コーティング液に期待される凝集効果が十分に発揮されず、滲みを発生させる恐れもある。このような塩基性領域に水系コーティング液のpHを設定することで、プリンタ等の印刷機器の金属部分(特にプリントヘッド)における腐食の発生を抑えることができる。水系コーティング液の樹脂としてカチオン性ポリマー、好ましくは第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを用いると、水系コーティング液のpHが塩基性領域であっても、所望の凝集効果を発揮することができる。
一方、水系着色インクは、選択される顔料の種類等に応じてpHが変わるものの、同様の理由から、塩基性であることが好ましく、pHが7.01~10.0の範囲内にあることが好ましい。
なお、pHの調整には、pH調整剤を使用できるが、アミン化合物の使用が好ましく、沸点が70~270℃であるアミン化合物の使用が更に好ましい。アミン化合物は、水系コーティング液や水系着色インク中のpHを適切に調整し、更には樹脂の凝集を防ぐ効果もある。またアミン化合物をインク又はコーティング液に配合することで、より一層腐食を起こり難くすることが可能である。更に、アミン化合物の沸点が70~270℃の範囲であれば、蒸発し難く、アミン化合物が水系着色インク又は水系コーティング液中に長期にわたって留まることになり、水系着色インク又は水系コーティング液の吐出安定性が長期に亘って優れ、更に印刷層の光沢が高くなる傾向もある。沸点70~270℃のアミン化合物の具体例としては、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等が挙げられる。これらアミン化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記水系着色インク及び水系コーティング液中において、アミン化合物の含有量は、それぞれ独立して、0.1~2.0質量%が好ましい。
【0033】
上記水系コーティング液に用いる樹脂は、カチオン性ポリマー、好ましくはカチオンを有する水溶性ポリマー、特に好ましくは第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを含む。上記第四級アンモニウムカチオン(カチオン化された窒素原子)を有する水溶性ポリマーは、pHが塩基性領域にある水系コーティング液中に存在していても、着色インクを凝集する能力を発揮することができる。但し、上記水溶性ポリマーは、着色インクを凝集させる能力が高いため、着色インクの凝集の発生が著しく早く起こり、印刷層の光沢が低下する問題があるため、後述する自己分散性顔料との組み合わせが重要になる。これにより、印刷層の滲みの発生を抑えつつ、印刷機器の腐食の発生も抑えて、光沢を低下させずに付着性が良好な印刷層を形成させることができる。
なお、本発明において、水溶性ポリマーとは、水、又は水溶性の有機溶剤を50質量%未満含む水溶液に対して溶解するポリマーを意味する。
【0034】
上記カチオンを有する水溶性ポリマーは、重量平均分子量が1,000~50,000であることが好ましく、2,500~45,000であることがより好ましく、5,000~40,000であることが更に好ましい。上記カチオンを有するポリマーの重量平均分子量が1,000以上であると、着色インクを凝集させる力が高くなり、滲みが発生しにくくなる。一方、上記カチオンを有する水溶性ポリマーの重量平均分子量が50,000以下であると、着色インク凝集の速度が抑えられ、光沢の高い印刷物が得られる。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値であり、標準物質にはポリスチレンが使用され、移動相にはテトラヒドロフランが使用される。
【0035】
上記カチオン性ポリマーは、カチオン度の異なる2種類以上のカチオン性ポリマーであることが好ましい。カチオン度が異なる複数のカチオン性ポリマーを用いることで、ドット径の大きさ、滲みの調整が容易となる。
具体的に、上記カチオン性ポリマーは、pH7.1でのカチオン度が5.5~7.5meq/gであるカチオン性ポリマーと、pH7.1でのカチオン度が2.0~5.0meq/gであるカチオン性ポリマーとを含むことが好ましく、pH7.1でのカチオン度が6.0~7.0meq/gである水溶性ポリマーと、pH7.1でのカチオン度が2.5~4.5meq/gである水溶性ポリマーとを含むことが更に好ましい。2種類のカチオン樹脂の割合は、カチオン度が高いポリマー:カチオン度が低いポリマーの質量比が1:1~20:1の範囲内であることが好ましく、7:3~10:1の範囲内であることがより好ましい。
なお、本明細書において、カチオン度は、ポリビニル硫酸カリウム試薬を用いたコロイド滴定により求めることができる。詳しい手順は以下のとおりである。
コニカルビーカーに脱イオン水90mLを取り、試料(乾燥品換算)の500ppm水溶液を10mL加えてアミン水溶液でpH7.1とし、約1分間攪拌する。次にトルイジンブルー指示薬を2~3滴加え、N/400ポリビニル硫酸カリウム試薬(N/400PVSK)で滴定する。滴定速度は2mL/分とし、検水が青から赤紫色に変色して10秒間以上保持する時点を終点とする。カチオン度(meq/g)の計算式は次のとおりである。
カチオン度=(N/400PVSK滴定量)×(N/400PVSKの力価)/2
【0036】
上記カチオンを有する水溶性ポリマーは、主鎖にカチオンを有することが好ましい。このような構造を有する水溶性ポリマーを用いると、水系着色インクが水系コーティング液に着弾した際に、水系着色インクの界面のみが瞬時に凝集し、水系着色インク同士が混合することなく着弾した位置で定着するため、滲みが無く、かつ、光沢の高い印刷層を形成することができる。
【0037】
上記カチオンを有する水溶性ポリマーは市販品を使用することができる。なかでも、第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーが好ましいが、塩基性でも安定に存在できる観点から、例えば、DK6810、DK6851、DK6864、WS4030、WS4027、WS4052、CA6018(以上星光PMC社製)、ハーサイズCP-300、CP-800(以上ハリマ化成社製)、PAS-H-1L、PAS-H-5L、PAS-2401、PAS-A-1(以上ニットボーメディカル社製)、カチオマスターPDT-2、PD-7、PD-30(以上四日市合成社製)という名で市販されているエピクロロヒドリンとアルキルアミンの反応物、ポリアミン樹脂、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂等が挙げられる。なお、上記カチオンを有する水溶性ポリマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記水系コーティング液中に含まれる樹脂に占める上記カチオンを有する水溶性ポリマーの割合は、50質量%以上であることが好ましいが、特に、凝集作用を適切に制御する点から、上記水系コーティング液中に含まれる樹脂に占める上記第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの割合が50質量%以上であることが好ましい。
【0039】
なお、上記水系コーティング液に使用できる他の樹脂としては、上記カチオン性ポリマー以外の、インク業界において通常使用されている樹脂を用いることができる。例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記水系着色インクに用いる樹脂は、特に限定されるものではなく、インク業界において通常使用されている樹脂を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記水系着色インクに用いる樹脂は、自己分散性樹脂を含むことができる。自己分散性樹脂とは、界面活性剤や乳化剤を使用しなくても、インク中で分散状態を保つことができる樹脂であり、通常、スルホン酸又はその塩やカルボン酸又はその塩等の親水性基を末端又は側鎖に有するポリマーや、ポリカーボネート基、ポリエステル基、ポリエーテル基等の親水性基を主鎖に有するポリマー等が好適に使用される。この自己分散性樹脂の親水性基が自己分散性顔料の親水性基と互いに反発することで分散状態が保たれた状態となり、結果として保存安定性に優れるインクを調製することができる。これら自己分散性樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、自己分散性樹脂は、市販品を使用してもよい。
【0042】
上記自己分散性樹脂は、耐擦過性、耐水性等の印刷層の性能を向上させる観点から、自己分散性ウレタン樹脂を含むことが好ましく、更に各種基材への高い付着性を付与する観点から、ポリエステル基又はポリエーテル基含有自己分散性ウレタン樹脂を含むことが更に好ましい。自己分散性樹脂中における自己分散性ウレタン樹脂の割合は、30~100質量%であることが好ましい。
【0043】
上記自己分散性ウレタン樹脂は、重量平均分子量が100,000~1,000,000であることが好ましく、150,000~750,000であることがより好ましく、200,000~500,000であることが更に好ましい。上記自己分散性ウレタン樹脂の重量平均分子量が上記特定した範囲内にあれば、耐擦過性をより向上でき、強固な印刷層を形成することができる。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値であり、標準物質にはポリスチレンが使用され、移動相にはテトラヒドロフランが使用される。
【0044】
上記自己分散性ウレタン樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、任意に鎖伸長剤とを反応させて得ることができる。
【0045】
ポリエステルポリオールとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリジエチレンアジペート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリヘキサメチレンイソフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサク2シネート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ-ε-カプロラクタムジオール及びポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)等を挙げることができる。ポリオール成分としてポリエステルポリオールを用いることで、ポリエステル基含有自己分散性ウレタン樹脂を得ることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、特に制限はなく、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール及びポリオキシエチレン・プロピレングリコール等を挙げることができる。ポリオール成分としてポリエーテルポリオールを用いることで、ポリエーテル基含有自己分散性ウレタン樹脂を得ることができる。
ポリカーボネートポリオールは、特に制限はなく、例えば、1,6-ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール、1,4-ブタンジオールポリカーボネートポリオール及びポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール等を挙げることができる。ポリオール成分としてポリカーボネートポリオールを用いることで、ポリカーボネート基含有自己分散性ウレタン樹脂を得ることができる。
ポリオール成分としては、アクリルポリオール等を用いてもよい。
これらのポリオール成分は、1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
ポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びノルボルナンジイソシアネート等からなるポリイソシアネート化合物が挙げられる。これらのポリイソシアネート成分中、好ましくは、キシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)又はノルボルナンジイソシアネートである。これらのポリイソシアネート成分は、1種を単独で使用することもでき、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
鎖伸長剤としては、例えば、低分子量の多価アルコール及び低分子量のポリアミンを挙げることができる。低分子量の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールブタン酸及びジメチロールプロピオン酸等のジメチロールアルカン酸類等が挙げられる。低分子量のポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノシクロヘキシルメタン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びイミノビスプロピルアミン等が挙げられる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
上記自己分散性樹脂は、インク中で分散しており、粒子の形態にある。ここで、上記自己分散性樹脂は、50体積%粒子径(D50)が10nm~90nmであることが好ましく、20nm~70nmであることがより好ましく、30nm~60nmであることが更に好ましい。上記特定した範囲内の50体積%粒子径であれば、自己分散性樹脂の分散状態が良く保存安定性に優れるインクを調製できる。本発明において、50体積%粒子径(D50)は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばSALD-7000:株式会社島津製作所社製)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。そして、本発明における粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0049】
上記自己分散性樹脂は、その酸価が5.0~60.0であることが好ましい。上記特定した範囲内の酸価であれば、分散性を向上させることができる。本明細書において、樹脂の酸価とは、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を意味する。
【0050】
本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいては、水系着色インクに含まれる自己分散性樹脂の酸価と、水系コーティング液に含まれるカチオン性ポリマーのカチオン度を調整することで、水系着色インクのドット径を大きくし、かつ、滲みが発生しない、光沢に優れた印刷層を形成させることができる。ここで、上記自己分散性樹脂の酸価(A)とカチオン性ポリマーのpH7.1でのカチオン度(meq/g)(B)の比(A:B)は、10:1~1:1の範囲内であることが好ましく、6:1~1.5:1の範囲内であることがより好ましく、3:1~2:1の範囲内であることが更に好ましい。
【0051】
上記水系着色インク中に含まれる樹脂に占める上記自己分散性樹脂の割合は、50質量%以上であることが好ましい。
【0052】
上記水系着色インク中において、樹脂の含有量は、1~10質量%であることが好ましい。また、上記水系コーティング液中において、樹脂の含有量は、0.005~2質量%であることが好ましく、0.01~1.5質量%であることが更に好ましい。水系コーティング液中の樹脂の含有量が少なすぎる場合には水系着色インクとの反応が不十分になるが、本発明においては、表面張力の最も低い水系着色インクを第1のインクとすることから、樹脂の含有量を少なくすることが可能になる。また、本発明の第2の印刷方法では、水系コーティング液を2度に分けて吐出することから、より樹脂の含有量を少なくすることが可能になる。水系コーティング液中の樹脂の含有量が多い場合には、印刷の際に印刷スジを生じやすくなる。
【0053】
上記水系着色インクは、特に限定されず、インク業界において着色剤として通常使用されている有機顔料、無機顔料等の顔料を用いることができるが、自己分散性顔料を含むことが好ましい。自己分散性顔料とは、顔料分散剤を使用しなくても、インク中で分散状態を保つことができる顔料であり、通常、親水性に優れた官能基を表面に付与することで得られる。本発明者は、上述のカチオン性ポリマー、特には第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーと自己分散性顔料の組み合わせであれば、凝集の発生が早すぎることで印刷層の表面に凹凸が形成されることを防ぐことができ、それにより印刷層の光沢の低下を防ぐことができることを見出した。
【0054】
本発明において、上記自己分散性顔料としては、カルボキシルイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン等のアニオンが表面に直接結合している顔料が好ましい。このようなアニオン型の自己分散性顔料を用いることにより分散剤を添加せずに顔料をインク中で安定に分散させることができ、より鮮明な画像を印刷することができる。これらアニオン型の自己分散性顔料は市販品を好適に使用できる。
【0055】
上記顔料としては、例えば、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、31、42、53、55、74、83、86、93、109、110、117、120、122、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、166、168、180、181、184、185、213;ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71;ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、101、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、244、254;ピグメントバイオレット19、23、29、30、32、37、40、50;ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、27、28、29、30、60、64、80;ピグメントグリーン7、36;ピグメントブラウン23、25、26;及びピグメントブラック1、7、26、27、28、ピグメントホワイト6等が挙げられる。なお、これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
シアンインクに使用できる顔料としては、例えば、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、27、28、29、30、60、64、80等が挙げられ、
マゼンタインクに使用できる顔料としては、例えば、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、101、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、244、254等が挙げられ、
イエローインクに使用できる顔料としては、例えば、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、31、42、53、55、74、83、86、93、109、110、117、120、122、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、166、168、180、181、184、185、213等が挙げられ、
ブラックインクに使用できる顔料としては、例えば、ピグメントブラック1、7、26、27、28等が挙げられる。
その他、ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71;ピグメントバイオレット19、23、29、30、32、37、40、50;ピグメントグリーン7、36;ピグメントブラウン23、25、26;ピグメントホワイト6等の顔料も、上記基本色インクに用いることができるとともに、オレンジインク、バイオレットインク、グリーンインク、レッドインク等の特殊色インクとして用いることもできる。
【0056】
上記水系着色インク中において、顔料の含有量は、使用する顔料の種類等により任意に決定できるが、水系着色インク中0.5~10質量%であることが好ましい。
【0057】
上記水系着色インク及び水系コーティング液に用いる水溶性溶剤は、特に限定されるものではなく、インク業界において通常使用されている水溶性溶剤を用いることができる。なお、上記水系着色インク及び水系コーティング液中において、上記水溶性溶剤の含有量は、それぞれ独立して、60質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。上記水溶性溶剤の含有量の下限は特に制限されないものの、通常、5質量%以上であることが好ましい。
【0058】
上記水溶性溶剤は、インク及びコーティング液の吐出安定性、濡れ性及び保存安定性をより良好にする観点から、グリコールエーテル、三~五員環のラクトン化合物、アミド化合物及びアルカンジオールよりなる群から選択される少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0059】
グリコールエーテルの具体例としては、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールペンチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、エチレングリコールシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールペンチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールシクロヘキシルエーテル、ジエチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールペンチルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルエーテル、トリエチレングリコールシクロヘキシルエーテル、トリエチレングリコールフェニルエーテル、トリエチレングリコールベンジルエーテル及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル類、並びにプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールペンチルエーテル、プロピレングリコールヘキシルエーテル、プロピレングリコールシクロヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールペンチルエーテル、ジプロピレングリコールヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールシクロヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールペンチルエーテル、トリプロピレングリコールヘキシルエーテル及びトリプロピレングリコールシクロヘキシルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0060】
三~五員環のラクトン化合物は、-C(=O)-O-を一部に含むラクトン環を有する化合物のうち、環を構成する原子数が3である三員環、原子数が4である四員環又は原子数が5である五員環の化合物である。具体例としては、α-アセトラクトン、β-プロピオンラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンが好ましい。
【0061】
アミド化合物は、非環状のアミド化合物が好ましく、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、スルファニルアミド、トルエンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-2-エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-オクトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ペントキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘキソキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ヘプトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-オクトキシプロピオンアミド等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-メトキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-β-ブトキシプロピオンアミドが好ましい。
【0062】
アルカンジオールは、2つの水素原子が2つの水酸基で置換されているアルカン化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等が挙げられる。これらの中でも、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオールが好ましい。
【0063】
上記水系着色インク及び水系コーティング液は、当然ながら水が含まれており、使用される水としては、イオン交換水や蒸留水等の純水、超純水等が挙げられる。また、インクやコーティング液を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。更に、インクジェットプリンタによる印刷条件に合わせてインクやコーティング液を水で希釈することも可能である。上記水系着色インク中において、水の含有量は、例えば20~80質量%の範囲であることが好ましい。また、上記水系コーティング液中において、水の含有量は、20~90質量%の範囲を例示することができるが、50~90質量%の範囲であることが好ましい。
【0064】
上記水系着色インク及び水系コーティング液には、更に必要に応じて、表面調整剤、消泡剤、保湿剤、湿潤分散剤、防腐剤・防かび剤、溶解助剤、酸化防止剤、金属トラップ剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0065】
本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいて、上記水系着色インク及び水系コーティング液は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することにより調製できる。
【0066】
本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいて、上記水系着色インクは、水系コーティング液と接触した際に滲みを発生させず、良好な印刷層を形成させる観点から、その25℃における表面張力が20.0~50.0mN/mであることが好ましく、23.0~45.0mN/mであることがより好ましく、26.0~40.0mN/mであることが更に好ましい。一方、上記水系コーティング液は、基材への濡れ性を向上させる観点から、その25℃における表面張力が18.0~30.0mN/mであることが好ましく、20.0~30.0mN/mであることがより好ましく、19.0~27.5mN/mであることが更に好ましく、20.0~25.0mN/mであることが特に好ましい。なお、コーティング液やインクの表面張力は、プレート法により測定できる。
【0067】
本発明の印刷方法に用いるインクセットにおいて、上記水系コーティング液及び水系着色インクは、その25℃における粘度が、3.0~10.0mPa・sであることが好ましく、4.0~8.5mPa・sであることがより好ましく、5.0~7.0mPa・sであることが更に好ましい。25℃における粘度が上記特定した範囲内にあれば、良好な吐出安定性が得られる。なお、コーティング液やインクの粘度は、B型粘度計を用いて測定できる。
【0068】
本発明の印刷方法に用いるインクセットは、種々のインクジェットプリンタに使用できる。このようなインクジェットプリンタは、プリントヘッドを備えており、該プリントヘッドのノズルから、インクセットを構成するインク及びコーティング液を液滴状で吐出させる。
【0069】
本発明の印刷方法においては、まず、上記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に着弾させる(第1の工程)。上記コーティング液は、カチオン性ポリマーを含むため、着色インクを凝集させる作用を有しており、印刷層の滲みを抑えることができる。
【0070】
本発明の印刷方法においては、コーティング液滴を基材上に着弾させる工程において、基材の温度が30~45℃であることが好ましい。これにより、水系コーティング液が速く乾燥してしまうことを防ぐことができる。なお、基材の温度とは、コーティング液滴が着弾する基材表面の温度である。通常、ここでの基材の温度を維持しつつ、その後に続く工程が行われる。
【0071】
本発明の印刷方法(特には本発明の第1の印刷方法)においては、次に、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、上記第1の工程で基材上に着弾させた水系コーティング液上にインク滴を着弾させることにより印刷層を形成させる(第2の工程)。上記第2の工程において、最初にコーティング液上に吐出させるインクは第1のインクであるため、第1のインクがコーティング液による着色インクの凝集作用の影響を最も強く受ける。
【0072】
本発明の印刷方法によれば、上記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いインクを第1のインクとすることで、コーティング液による着色インクの凝集作用を効果的に発揮することができる。また、インク中に含まれる顔料の質量割合が低いと、表面張力が低くなる傾向があるため、本発明の印刷方法において、上記第1のインクは、上記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の質量割合が最も低いインクとなり得る。なお、本発明の印刷方法において、第1のインクは、前記水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いものであるが、ここで、第2のインクは、25℃における表面張力が第3のインク及び第4のインクよりも低いことが好ましく、第3のインクは、25℃における表面張力が第4のインクよりも低いことが好ましい。
【0073】
上記第2の工程において、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクの中で最後にコーティング液上に吐出させる第4のインクは、コーティング液による着色インクの凝集作用の影響が最も弱いため、顔料吸油量の高いインクであることが好ましい。このため、本発明の印刷方法において、第4のインクは、上記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の吸油量が最も高いことが好ましい。なお、本発明において、吸油量は、JIS K 5101-13-1:2004に規定される「精製あまに油法」に準じて測定される。
【0074】
本発明の第2の印刷方法においても、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、印刷層を形成させることを含むものであるが、本発明の第2の印刷方法は、第1のインク及び第2のインクをこの順番に吐出させて印刷層を形成させた後に、一次乾燥とその後に再度コーティング液による印刷を行う。これにより、その後に吐出させる第3のインク及び第4のインクに対しても凝集作用を効果的に発揮することができ、より高精細な印刷層を形成することができる。
【0075】
具体的に、本発明の第2の印刷方法においては、第1のインク及び第2のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、上記第1の工程で基材上に着弾させたコーティング液上にインク滴を着弾させることにより第1の印刷層を形成させる(第3の工程)。なお、本発明の第2の印刷方法における実施態様は、本発明の印刷方法の説明において記載されているとおりである。具体的に例を挙げれば、本発明の第2の印刷方法において、第1のインクは、水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いものであり、また、第1のインクは、上記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の質量割合が最も低いインクとなり得る。また、本発明の第2の印刷方法において、第4のインクは、上記水系着色インクの中でインク中に含まれる顔料の吸油量が最も高いことが好ましい。
【0076】
本発明の第2の印刷方法においては、上記第3の工程での第1の印刷層の形成後に一次乾燥を行う(第4の工程)。一次乾燥を行うことで第1の印刷層の表面が強固になり、その後に着弾させる水系コーティング液や水系着色インクのドット形状を保持することができる。第4の工程では、第1の印刷層を完全に乾燥させる必要がないため、一次乾燥は25~45℃で行われることが好ましく、30~40℃で行われることが更に好ましい。また、乾燥時間は10秒以内であることが好ましく、1秒以上6秒以内であることが更に好ましい。一次乾燥に用いる乾燥手段は、特に限定されるものではないが、送風機能を備えた乾燥機が好ましい。風(通常、空気を利用)を第1の印刷層に当てて乾燥を行う場合(即ち、送風により第1の印刷層の乾燥を行う場合)、その風量は、1.0m3/min以上であることが好ましく、1.5~5.0m3/minであることが更に好ましい。
【0077】
本発明の第2の印刷方法においては、上記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、上記第4の工程において一次乾燥を行った第1の印刷層上にコーティング液滴を着弾させる(第5の工程)。これにより、その後に吐出させる第3のインク及び第4のインクに対しても凝集作用を効果的に発揮することができ、より高精細な印刷層を形成することができる。なお、第5の工程においては、第1の印刷層を備える基材をインクジェットプリンタへ巻き戻してから、水系コーティング液の2度目の吐出を行うことができる。
【0078】
本発明の第2の印刷方法においては、第3のインク及び第4のインクをこの順番にプリントヘッドから吐出させて、上記第5の工程において第1の印刷層上に着弾させたコーティング液上にインク滴を着弾させることにより第2の印刷層を形成させる(第6の工程)。
【0079】
本発明の第2の印刷方法においては、更に、上記第6の工程での第2の印刷層の形成後に二次乾燥を行うことが好ましい(第7の工程)。二次乾燥を行うことで印刷層中に含まれる樹脂を基材上に融着させ、強固な膜を形成することができ、結果として、堅牢性に優れる印刷物を提供することが可能である。第7の工程では、印刷層中に含まれる樹脂を基材上に融着させる観点から、二次乾燥は70~130℃で行われることが好ましく、80~110℃で行われることが更に好ましい。また、乾燥時間は2秒以上180秒以内であることが好ましく、5秒以上120秒以内であることが更に好ましい。二次乾燥に用いる乾燥手段は、特に限定されるものではないが、送風機能を備えた乾燥機が好ましい。熱風などの風(通常、空気を利用)を第2の印刷層に当てて乾燥を行う場合(即ち、送風により第2の印刷層の乾燥を行う場合)、その風量は、1.0m3/min以上であることが好ましく、1.5~5.0m3/minであることが更に好ましい。
【0080】
なお、このような二次乾燥工程は、本発明の第1の印刷方法においても適用することが好ましく、この場合、上記第2の工程での印刷層の形成後に、上記二次乾燥と同様の乾燥が行われる。具体的に、本発明の第1の印刷方法においては、更に、上記第2の工程での印刷層の形成後に乾燥を行うことが好ましく(第8の工程)、ここでの乾燥は、70~130℃で行われることが好ましく、80~110℃で行われることが更に好ましい。
【0081】
本発明の印刷方法において、第1のインクは、マゼンタインク又はシアンインクであることが好ましい。マゼンタインク及びシアンインクは、水系着色インクの中で25℃における表面張力が比較的低い傾向にあるため、第1のインクとすることが好ましい。また、本発明の印刷方法においては、第3のインクをマゼンタインク又はシアンインクとしてもよい。本発明の第2の印刷方法において、第3のインクは、上記第5の工程において第1の印刷層上に着弾させたコーティング液上に最初に吐出させるインクであるため、該コーティング液による着色インクの凝集作用の影響を強く受ける。このため、本発明の第2の印刷方法においては、第3のインクがマゼンタインク又はシアンインクであることが好ましい。
【0082】
本発明の印刷方法において、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクは、それぞれがシアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクである場合、シアンインク、イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクである場合、マゼンタインク、イエローインク、シアンインク及びブラックインクである場合などを例示することができるが、本発明の第1の印刷方法においては、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクのそれぞれがシアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクであることが好ましく、また、本発明の第2の印刷方法においては、第1のインク、第2のインク、第3のインク及び第4のインクのそれぞれがシアンインク、イエローインク、マゼンタインク及びブラックインクである場合やマゼンタインク、イエローインク、シアンインク及びブラックインクである場合が好ましい。シアンインクは水系着色インクの中で25℃における表面張力が最も低いインクとして調製することが比較的容易であり、また、ブラックインクは水系着色インクの中で吸油量が最も高い顔料を用いて調製することが比較的容易である。
【0083】
本発明の印刷方法において、水系コーティング液は、水系着色インクよりも濡れ性に優れることが好ましい。このため、本発明の印刷方法において、水系コーティング液の25℃における表面張力は、第1のインクの25℃における表面張力よりも低いことが好ましい。
【0084】
本発明の印刷方法において、基材は、特に限定されるものではないが、例えば、鉄鋼、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、錫めっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属基材や、ガラス、セラミック等の無機系基材、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等のプラスチック基材のような、インクやコーティング液に対する吸収性のない基材(非吸収性基材)や、コート紙、アート紙、キャスト紙、微塗工紙等のような、表面コートによってインクやコーティング液を吸収し難い基材(難吸収性基材)への印刷にも適している。特に本発明の第2の印刷方法は、コーティング液の吐出を2回に分けて行い、かつ、一次乾燥を行う印刷方法であることから、コーティング液が基材に浸透しにくい非吸収性基材、難吸収性基材を用いた場合にはコーティング液と第1~第4のインクの接触が容易になり、より画像定着性と印刷品質に優れた印刷物を得ることが可能になる。なお、他の基材としては、例えば、上質紙、合成紙、インクジェット用紙等の紙基材、木材、石膏、珪酸カルシウム、コンクリート、セメント、モルタル、スレート等の無機系基材等が挙げられる。なお、基材は、印刷層との付着性を向上させるため、プライマー処理やコロナ処理等の一般的な表面処理が施されていてもよい。
【0085】
本発明の印刷方法においては、コーティング液の乾燥を待たずに(即ち、コーティング液の乾燥を行わずに)水系着色インクのインク滴を該コーティング液中に着弾させることができる。このため、本発明の印刷方法においては、各層の乾燥工程を行わなくてもよい。但し、本発明の第2の印刷方法においては、上記第3の工程での第1の印刷層の形成後に一次乾燥が行われる。なお、上記印刷方法において、印刷直後(即ち、水や水溶性溶剤が蒸発する前)のコーティング液及び着色インクの総吐出液の厚みは、合計して、1~20μmの範囲内にあることが好ましい。本発明の印刷方法において最終的に形成される印刷層は、インク滴をコーティング液滴上に着弾させた後、硬化・乾燥を経て形成される印刷層を意味する。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
<水系コーティング液>
表1に示す配合処方に従い、樹脂、アミン化合物、水溶性溶剤、表面調整剤及びイオン交換水を公知の方法により混合し、水系コーティング液を調製した。なお、各水系コーティング液のpH、表面張力(25℃)、粘度(25℃)を測定し、得られた結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
上記表1に記載される配合剤は、下記の通りである。
*1 第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの水溶液Aとしては以下を用いた。
カチオマスター PE-30(四日市合成製、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロロヒドリン系ポリマー樹脂、樹脂含有量50質量%、重量平均分子量(Mw):9000、pH7.1でのカチオン度6.5meq/g)
*2 第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの水溶液Bとしては以下を用いた。
DK6851(星光PMC社製、ポリアミン樹脂、樹脂含有量70.0質量%、pH7.1でのカチオン度6.8meq/g)
*3 TSF4446(モメンティブ社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル、該シリコーンオイル含有量100質量%、表面調整剤)
【0090】
<自己分散性顔料を含む水系着色インク>
表2~3に示す配合処方に従い、自己分散性顔料、樹脂、水溶性溶剤、表面調整剤及びイオン交換水を公知の方法により混合し、自己分散性顔料を含む水系着色インクを調製した。なお、各水系着色インクの表面張力(25℃)、粘度(25℃)を測定し、得られた結果を表2~3に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
上記表2~3に記載される配合剤は、下記の通りである。
*4 自己分散性顔料分散液としては、以下を用いた。
・CAB-O―JET 250C
(キャボット社製、シアンの自己分散性顔料水分散液、顔料含有量10質量%)
・CAB-O―JET―465M
(キャボット社製、マゼンタの自己分散性顔料水分散液、顔料含有量15質量%)
・CAB-O―JET 270Y
(キャボット社製、イエローの自己分散性顔料水分散液、顔料含有量10質量%)
・CAB-O―JET 300K
(キャボット社製、ブラックの自己分散性顔料水分散液、顔料含有量15質量%)
*5 樹脂分散液Cとしては以下を用いた。
NEOREZ R-9621(DSM Coating Resins製、ポリエステル基含有自己分散性ウレタン樹脂、粒子径50nm、酸価18、樹脂含有量38質量%)
【0094】
<非自己分散型顔料を含む水系着色インク>
表4~5に示す配合処方に従い、非自己分散型顔料、消泡剤、水溶性溶剤、湿潤分散剤、イオン交換水を公知の方法により分散した水系着色分散液に、樹脂ならびに表面調整剤を加え、非自己分散型顔料を含む水系着色インクを調製した。なお、各水系着色インクの表面張力(25℃)、粘度(25℃)を測定し、得られた結果を表4~5に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
上記表4~5に記載される配合剤は、下記の通りである。
*6 非自己分散型顔料としては、以下を用いた。
・FASTOGEN Blue FA5380(フタロシアニンブルー、DIC社製シアン色顔料)
・シンカシャマゼンタRT(ジクロロキナクリドン、BASF社製マゼンタ色顔料)
・Hostaperm Yellow H5G(キノキサリンジオン、クラリアント社製イエロー色顔料)
・Nerox-1000(カーボンブラック、オリオンエンジニアリドカーボン社製、ブラック色顔料)
*7 消泡剤(SNデフォーマー1312、サンノプコ社製)
*8 湿潤分散剤(ノイゲンEA-157、第一工業製薬社製)
【0098】
<1色目と2色目以降の色間滲み>
武藤工業社製ラミレスPJ-1304NXを用いて、まず、コーティング液滴を吐出し、コーティング液滴を基材である塩化ビニルシート表面に着弾させ、その後、コーティング液を乾燥させずに、該コーティング液上に、1色目のインク、2色目のインク、3色目のインク及び4色目のインクのインク滴をこの順番に着弾させ、画像を印刷した。なお、印刷された画像は、各インクで複数の線を印刷したものであり、1色目のインクにて印刷された線は、その一部において、2色目、3色目及び4色目のインクのそれぞれの印刷された線と交差して重なり合う部分を形成している。その後、キーエンス社製の顕微鏡、VHX-5000の50倍率で、1色目のインクと、2色目以降のインクのそれぞれとの重なった部分を観察し、下記の評価基準で評価した。なお、使用したインクセットの構成と基材温度、評価結果を表6~10に示す。
◎:1色目のインクと2色目以降のインクのそれぞれとの重なった部分のうち3つの重なった部分いずれも滲みが150μm未満
○:1色目のインクと2色目以降のインクのそれぞれと重なった部分のうち1つ以上の重なった部分に150μm以上200μm未満の滲みあり
△:1色目のインクと2色目以降のインクのそれぞれと重なった部分のうち1つ以上の重なった部分に200μm以上300μm未満の滲みあり
×:1色目のインクと2色目以降のインクのそれぞれと重なった部分のうち1つ以上の重なった部分に300μm以上の滲みあり
【0099】
<印刷画像の精細さ(1)>
武藤工業社製ラミレスPJ-1304NXを用いて、まず、コーティング液滴を吐出し、コーティング液滴を基材である塩化ビニルシート表面に着弾させ、その後、コーティング液を乾燥させずに、該コーティング液上に、1色目のインク、2色目のインク、3色目のインク及び4色目のインクのインク滴をこの順番に着弾させ、JIS X9201 2001 N3Aで規定される画像を印刷し、風量2.5m3/minのドライヤーを用いて90℃の熱風を印刷層に当てて2分間の乾燥を行った(ここでの印刷方法は、本発明の第1の印刷方法に対応している)。乾燥後に得られた印刷層の滲みの程度を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。なお、使用したインクセットの構成と基材温度、評価結果を表6~10に示す。
○+:画像に滲みが見られないうえ、4色のドットがそれぞれ独立して存在
○:画像に滲みがみられず
△:色間が滲むが画像全体の滲みは小さい
×:明らかに滲む
-:画像に滲みは見られないが印刷スジが顕著にみられる
【0100】
<印刷画像の精細さ(2)>
武藤工業社製ラミレスPJ-1304NXを用いて、JIS X9201 2001 N3Aで規定される画像の印刷を行った。まず、コーティング液滴を吐出し、コーティング液滴を基材である塩化ビニルシート表面に着弾させ、その後、コーティング液を乾燥させずに、該コーティング液上に、1色目のインク、2色目のインクのインク滴をこの順番に着弾させ、第1の印刷層を形成させた。次いで、風量1.5m3/minのドライヤーを用いて表6~10に示される温度の風を該第1の印刷層に3秒間当てて一次乾燥を行った。次いで、塩化ビニルシートを巻き戻し、コーティング液滴を再度吐出させて、一次乾燥を行った第1の印刷層上に着弾させ、その後、第1の印刷層上に着弾したコーティング液を乾燥させずに、該コーティング液上に、3色目のインク、4色目のインクのインク滴をこの順番に着弾させることで、第2の印刷層を形成させた。印刷後、風量2.5m3/minのドライヤーを用いて表6~10に示される温度の風を印刷層に当てて2分間の二次乾燥を行った(ここでの印刷方法は、本発明の第2の印刷方法に対応している)。最終的に得られた印刷層の滲みの程度を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。なお、使用したインクセットの構成と基材温度、評価結果を表6~10に示す。
○+:画像に滲みが見られないうえ、4色のドットがそれぞれ独立して存在
○:画像に滲みがみられず
△:色間が滲むが画像全体の滲みは小さい
×:明らかに滲む
-:画像に滲みは見られないが印刷スジが顕著にみられる
【0101】
<塩化ビニル基材への擦過性>
武藤工業社製ラミレスPJ-1304NXを用いて、まず、基材である塩化ビニルシートの各表面にコーティング液滴を着弾させ、ベタ印刷を行った。次いで、コーティング液を乾燥させずに、該コーティング液上にシアンインク滴、マゼンタインク滴、イエローインク滴を着弾させ、各インクの印刷濃度80%、合計印刷濃度240%のベタ印刷を行った。その後、風量2.5m3/minのドライヤーを用いて表6~10の二次乾燥温度の欄に示される温度の風を印刷層に当てて2分間の乾燥を行った。乾燥後、印刷部分に綿棒(登録商標、白十字社製)で5往復擦過を行い、その後、目視により下記の評価基準で評価した。なお、使用したインクセットの構成と基材温度、評価結果を表6~10に示す。
○:基材からインクが剥がれない
×:基材からインクが剥れる
-:基材が変形し、評価ができない。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】